(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094433
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】カーボンブラック及び高電気抵抗性ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20230628BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230628BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230628BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C09C1/48
C08K3/04
C08L21/00
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209908
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直也
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC091
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB241
4J002DA036
4J002FB016
4J002FB026
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD116
4J002FD140
4J002FD150
4J037AA02
4J037CC06
4J037DD07
4J037EE19
4J037FF11
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ゴム配合時に高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立させるカーボンブラック、及びそれを配合して成るゴム組成物の提供をすることである。
【解決手段】
(1)酸化処理を行ったカーボンブラックであって、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbが4~11であることを特徴とするカーボンブラック。
(2)(1)のカーボンブラックであって、窒素吸着比表面積(N2SA)が25~35m2/gであることを特徴とするカーボンブラック。
(3)高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物に用いるためのカーボンブラックであることを特徴とする(1)又は(2)記載のカーボンブラック。
(4)(1)~(3)のいずれかのカーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理を行ったカーボンブラックであって、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbが4~11であることを特徴とするカーボンブラック。
【請求項2】
窒素吸着比表面積(N2SA)が25~35m2/gであることを特徴とする請求項1記載のカーボンブラック。
【請求項3】
高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物に用いるためのカーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は2記載のカーボンブラック。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のカーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物。
【請求項5】
カーボンブラックを酸化処理して、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbを4~11とすることを特徴とする高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物用カーボンブラックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電気抵抗性のカーボンブラック及び当該カーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の為、自動車各メーカーは低燃費化の課題に取り組んでいる。その解決策として、自動車構造材軽量化の為にアルミを用いることが有効とされているが、多様な部材の使用により、電食が発生するといった新たな問題の原因となることも知られている。電食を防止するためには絶縁化、即ち体積固有抵抗値を上げる必要があるが、例えばウェザーストリップやホースといった自動車部品においては、使用されている充填剤であるカーボンブラックの抵抗値を上げることでその対策が試みられている。
【0003】
一般的にカーボンブラックは構造上、π電子の共役に由来する導電性を持つために抵抗値は低い傾向にあるが、種々手法により当該導電性を阻害し、高電気抵抗性を得る試みがなされている。例えば、高電気抵抗性樹脂でカーボンブラック表面を被覆する手法(特許文献1)や、カーボンブラック表面に官能基を導入する手法(特許文献2)などが有るが、何れもカーボンブラックをゴムに配合した際の反応点をつぶす為、配合ゴムの諸物性(反発弾性等)が低下する点が考慮されていない。また、カーボンブラックの形態、粒子硬さ等を規定することで、高電気抵抗性とゴム配合時の物性の両立を試みる手法(特許文献3)も有るが、その規定故に広範なカーボンブラックにおける高電気抵抗性は得られず、汎用性に欠ける。高電気抵抗性は多様な部材に求められており、それらに対応する多様なカーボンブラックに対して適用できる技術が、今なお検討されているのが現状である。例えば、特許文献4では、カーボンブラックの酸化処理前後の全酸性度の比と酸化処理後の全酸性度に対する強酸性度の比を特定の範囲とすることにより、ゴム配合時の高電気抵抗性と補強性(硬さ)の高位な両立を可能とすることが提案されている。一方、防振ゴム等においては、高電気抵抗性と共に高い反発弾性を有する部材が求められており、この要求に対しても適用できる技術が、今なお検討されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-249678号公報
【特許文献2】特許第4464081号公報
【特許文献3】特開2001-49144号公報
【特許文献4】特開2021-134297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はゴム配合時、高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立させるカーボンブラック、及びそれを配合して成るゴム組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、上記課題が次の(1)~(5)の発明によって解決されることを見出した。
(1)酸化処理を行ったカーボンブラックであって、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbが4~11であることを特徴とするカーボンブラック。
(2)(1)のカーボンブラックであって、窒素吸着比表面積(N2SA)が25~32m2/gであることを特徴とするカーボンブラック。
(3)高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物に用いるためのカーボンブラックであることを特徴とする(1)又は(2)のカーボンブラック。
(4)(1)~(3)のいずれかのカーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物。
(5)カーボンブラックを酸化処理して、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbを4~11とすることを特徴とする高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物用カーボンブラックの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴム配合時、高電気抵抗性と反発弾性の高位な両立を可能とするカーボンブラック、及びそれを配合して成る高電気抵抗性ゴム組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
従来技術において、本発明のようにカーボンブラック表面の全酸性度、強酸性度について一定の関係性を規定し、高電気抵抗性とゴム配合時のゴム物性、特に反発弾性を高次に両立させようという試みは、本発明者の知る限り存在しない。加えて本発明は、その最適条件を提示したものであり、全く新規な特性のカーボンブラックであって、従来のカーボンブラックでは達成できない顕著な効果を奏する。
このような新規な特性を有する本発明のカーボンブラックは、例えば一般的な酸化方法である高温雰囲気下で空気と接触・反応させる空気酸化法、常温下で窒素酸化物やオゾン等と反応させる方法、液相酸化法等によって得ることができ、酸化処理の方法は特に制限されないが、元となるカーボンブラックの物性を勘案し、酸化処理条件を調節して、本願規定の任意の範囲とすることが肝要である。
【0009】
<Ta/Tb>
全酸性度はカーボンブラック表面の含酸素官能基量を表し、これにより規定される表面性状はカーボンブラックの電気抵抗性や、ゴムとの相互作用に由来する配合ゴムの反発弾性等に影響を及ぼす。本発明では、酸化処理後の全酸性度(Ta)と酸化処理前の全酸性度(Tb)より算出される比であるTa/Tbが4~11である。Ta/Tbが前記規定値下限よりも小さいと官能基の付与が十分に行われず、電気抵抗の上昇幅が少ない。また前記規定値上限よりも大きいと電気抵抗は上昇するものの、官能基の付与が過剰となって反発弾性の低下現象が生じる。酸化処理前の全酸性度(Tb)に対し、酸化処理後の全酸性度(Ta)への変化の程度を上記範囲にすることにより、電気抵抗を増加させつつも配合したゴムの反発弾性を適度に向上、維持することができる。電気抵抗の上昇幅をより大きくし、反発弾性の低下をより抑制する観点から、Ta/Tbは5.1~11が好ましく5.5~9が好ましい。
【0010】
<N2SA>
窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック単位重量当たりの比表面積(m2/g)である。本発明のカーボンブラックは、Ta/Tbが上記範囲にあれば特に制限されるものでないが、N2SAは25~35m2/gが好ましい。前記規定値下限よりも小さいと比表面積が少なすぎ、十分な官能基付与を行うことが出来ないおそれがあり、前記規定値上限よりも大きいと比表面積が大きすぎ、過剰な官能基付与、及び/又はカーボンブラック自体の分散不良による各物性への悪影響が生じるおそれがある。
【0011】
本発明のカーボンブラックは、高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物に用いるためのカーボンブラック、すなわち高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物用のカーボンブラックとして使用することができる。本発明において、高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物とは、ゴム組成物の体積固有抵抗が1.0×107Ωcm以上であり、高反発弾性とはゴム組成物の反発弾性率が52.5%以上であることをいう。体積固有抵抗はJIS K6271-1:2015に記載の方法で測定することができ、反発弾性率はJIS K6255:2013に記載の方法で測定することができる。本発明のカーボンブラックは、ゴムに配合したときに前記体積固有抵抗と反発弾性率を有するゴム組成物を作製することができる。本発明のカーボンブラックの実施形態として、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)100質量部、オイル80質量部及びカーボンブラック120質量部を配合したゴム組成物を作製したときに、ゴム組成物の体積固有抵抗が2.0×107Ωcm以上、反発弾性率が52.5%以上、好ましくは体積固有抵抗が5.0×107Ωcm以上、反発弾性率が53.0%以上となるカーボンブラックとして規定することができる。
【0012】
本発明のカーボンブラックの製造方法は、カーボンブラックを酸化処理して、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbを4~11とすることを特徴とし、高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物用カーボンブラックを製造することができる。Ta/Tbは5.1~11が好ましく5.5~9がより好ましい。本発明の製造方法によると、ゴム配合時に高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立することができないカーボンブラックを用いて、ゴム配合時に高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立できる本発明のカーボンブラックを製造することができる。また、本発明の改質方法は、カーボンブラックを酸化処理して、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbを4~11とすることを特徴とし、ゴム配合時に高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立することができないカーボンブラックを、ゴム配合時に高電気抵抗性と反発弾性を高位に両立できる本発明の高電気抵抗性及び高反発弾性ゴム組成物用カーボンブラックに改質することができる。酸化処理方法は、特に制限されず、例えば、一般的な酸化方法である高温雰囲気下で空気と接触・反応させる空気酸化法、常温下で窒素酸化物やオゾン等と反応させる方法、液相酸化法等を挙げることができる。酸化処理に用いるカーボンブラックは特に制限されず、一般的なカーボンブラックを使用できるが、窒素吸着比表面積(N2SA)が25~32m2/gであるカーボンブラックが好ましく、全酸性度が0.006~0.048のカーボンブラックが好ましい。
【0013】
本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、本発明のカーボンブラックを配合したゴム組成物である。本発明におけるゴムとしては特に制限されないが、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等を挙げることができ、これらのゴムは単独で用いても任意に組み合わせてブレンドゴムとして用いてもよい。また、本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、一般にゴム組成物に使用される添加剤を含んでもよく、カーボンブラックの配合量は、ゴム特性及び求める特性に応じて適宜選択できる。本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、ゴム及び本発明のカーボンブラック並びに必要に応じて添加剤等の他の成分を一般に用いられる方法により配合、混練りすることにより製造できる。
【実施例0014】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0015】
実施例1~7、比較例1~5
<カーボンブラックの製造>
参照例(OAN:125ml/100g、N2SA:30m2/g)のカーボンブラックに対し、所定の全酸性度が得られるよう酸化処理を行い、実施例及び比較例の各カーボンブラックを製造した。実施例では、酸化処理後の全酸性度が0.07~0.19の範囲のカーボンブラックが得られた。酸化処理は、簡便的にオゾンガスを用いた気相酸化法により行った。得られたカーボンブラックの物理化学特性を表1に示す。
【0016】
【0017】
上記表1に示した各特性は次の方法により測定したものである。
(1)OAN吸収量
JIS K6217-4:2017に記載の方法で測定した。
(2)N2SA
JIS K6217-2:2017に記載の方法で測定した。
(3)全酸性基
カーボンブラック1gを精秤し、1/250規定の水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、還流冷却器をつけたフラスコ中で100℃、2時間煮沸を行なった後、その上澄液25mlを1/500規定の塩酸で滴定した。同時に空試験を並行して行ない、両者の差から全酸性基量(meq/g)を求めた。
【0018】
表1に示した各カーボンブラックを用い、表2に示す配合に従い常法で配合・混練りすることで、各評価用ゴムを作製した。これらの評価結果を表3に示す。
【0019】
【0020】
【0021】
上記表3に示した各特性は、次の方法により測定したものである。
(1)反発弾性率
JIS K6255:2013に記載の方法で測定した。
(2)体積固有抵抗
JIS K6271-1:2015に記載の方法で測定した。
【0022】
表3の評価結果から明らかなように、本発明のカーボンブラックを用いて作製したゴムは、参照例及び比較例のカーボンブラックを用いたゴムと比べて、102~106高い体積固有抵抗を示し、且つ反発弾性率を維持し、一定以上の向上効果がみられることから、ゴムの高電気抵抗性とゴム物性の高位な両立が達成されていることが分かる。
本発明のカーボンブラックは、高い反発弾性率と増加した体積固有抵抗値の両立が求められるゴム組成物に好適に使用することができ、本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、自動車のウェザーストリップや、ゴムホース等の用途に好適に使用できる。