(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094455
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】土壌養分の検出方法、土壌養分の検出装置および土壌養分センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209956
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川口 岳芳
(72)【発明者】
【氏名】上藤 満宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 悠太
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA14
2G060AD01
2G060AF08
2G060AG03
2G060HC01
2G060HC02
2G060HC15
(57)【要約】
【課題】簡便かつ正確な土壌養分の検出方法等を実現する。
【解決手段】土壌養分の検出方法であって、ポーラスカップ(12)を備えた容器(11)内の液体(14)のEC値である液体EC値を取得するEC取得工程と、容器(11)内の圧力を取得する圧力取得工程と、大気圧と前記圧力との差が大きいほど、液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行って、容器(11)が埋設された土壌の養分状態の指標となる補正EC値を取得する補正工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラスカップを備えた容器内の液体のEC値である液体EC値を取得するEC取得工程と、
前記容器内の圧力を取得する圧力取得工程と、
大気圧と前記圧力との差が大きいほど、前記液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行って、前記容器が埋設された土壌の養分状態の指標となる補正EC値を取得する補正工程と、を有することを特徴とする、土壌養分の検出方法。
【請求項2】
前記EC取得工程では、前記液体EC値を経時的に取得し、
前記液体EC値の、単位時間あたりの変化量が所定の値以下となる定常状態が所定の時間以上経過したか否かを判定する定常判定工程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記液体の温度を取得する温度取得工程をさらに有し、
前記補正工程では、前記第1補正に加えて、前記温度が高いほど前記液体EC値を小さい値に補正する第2補正を行って、前記補正EC値を取得することを特徴とする、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
ポーラスカップを備えた容器内の液体のEC値である液体EC値を取得するEC取得部と、
前記容器内の圧力を取得する圧力取得部と、
大気圧と前記圧力との差が大きいほど、前記液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行って、前記容器が埋設された土壌の養分状態の指標となる補正EC値を取得する補正部と、を有することを特徴とする、土壌養分の検出装置。
【請求項5】
ポーラスカップを有し、液体を内包可能な容器と、
前記液体のEC値である液体EC値を検知するEC検知部と、
前記容器内の圧力を検知する圧力検知部と、を備えることを特徴とする、土壌養分センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌養分の検出方法、土壌養分の検出装置および土壌養分センサに関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に含まれる肥料等の養分濃度は、植物の生育に大きく影響する。土壌養分の状態を適正に管理することは植物の収量増大に繋がることから、土壌養分の状態を正確に把握するための土壌養分の検出方法が求められている。
【0003】
従来、土壌養分の状態の検出方法としては、土壌に含まれる液体の電気伝導度(Electrical Conductivity;以下、EC)を用いた方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ポーラスカップに、水と共に保持される電極を具備する土壌ECセンサと、基準培養液を当該土壌ECセンサの近傍に注入する前後のECを比較して、塩類集積を判定する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、電気伝導度は温度によって変化することから、電気伝導度測定箇所の温度が測定可能な温度センサの出力を用いて、電気伝導度測定の補正を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-191654号公報
【特許文献2】特開2009-25185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、基準培養液の注入およびその前後のEC値の測定および比較が必要となる。そのため、結果を得るまでに要する時間および労力が大きい。また、ECの測定値(EC値)は測定時の温度等により変動するが、特許文献1にはEC値の補正について開示しておらず、正確性に課題がある。
【0007】
この点、特許文献2に記載の方法は、電気伝導度を温度センサの出力を用いて補正する。しかしながら、当該方法は、蒸気ボイラ内のボイラ水のような、極めて高温となる液体の電気伝導度の測定に用いる方法である。また、特許文献2には、温度以外の要因による電気伝導度の補正については、何ら開示されていない。
【0008】
本発明の一態様は、簡便かつ正確性の高い土壌養分の検出方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土壌養分の検出方法は、ポーラスカップを備えた容器内の液体のEC値である液体EC値を取得するEC取得工程と、前記容器内の圧力を取得する圧力取得工程と、大気圧と前記圧力との差が大きいほど、前記液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行って、前記容器が埋設された土壌の養分状態の指標となる補正EC値を取得する補正工程と、を有する。
【0010】
前記の構成によれば、ポーラスカップを介した浸透圧による液体の移動および拡散作用により、容器内の液体は、土壌に含まれる液体に対して濃度が平衡状態となる。したがい、容器内の液体の液体EC値を取得することで、土壌のEC値を取得できる。
【0011】
また、圧力取得工程にて取得する容器内の圧力は、ポーラスカップを通して土壌が容器内の液体をどの程度吸引しているかを示す指標、すなわち土壌の乾燥状態を示す指標といえる。そして、EC取得工程にて取得する液体EC値は、土壌の乾燥状態に影響される。
【0012】
そのため、EC取得工程で取得した液体EC値を、圧力取得工程で取得した圧力を用いて補正することで、補正後の補正EC値は土壌の乾燥状態を考慮した値となるため、土壌養分の正確な指標として用いることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る土壌養分の検出方法は、前記EC取得工程では、前記液体EC値を経時的に取得し、前記液体EC値の、単位時間あたりの変化量が所定の値以下となる定常状態が所定の時間以上経過したか否かを判定する定常判定工程をさらに有していてもよい。
【0014】
前記の構成によれば、取得した液体EC値の変化が定常状態であるか否か、および、定常状態が安定して継続しているか否かを判定できる。そのため、取得した液体EC値が、変化量が少ない期間に取得した安定した値なのか、それ以外の期間に取得した不安定な値なのかを正確に判定できる。
【0015】
本発明の一態様に係る土壌養分の検出方法は、前記液体の温度を取得する温度取得工程をさらに有し、前記補正工程では、前記第1補正に加えて、前記温度が高いほど前記液体EC値を小さい値に補正する第2補正を行って、前記補正EC値を取得してもよい。
【0016】
前記の構成によれば、液体EC値を液体の温度によって補正できる。EC取得工程にて取得する液体EC値は、土壌の乾燥状態に加え、取得時の液体の温度にも影響される。
【0017】
そのため、EC取得工程で取得した液体EC値を、温度取得工程で取得した液体の温度により補正することで、補正後の補正EC値は、液体EC値取得時の温度を考慮した値となるため、土壌養分のより正確な指標として用いることができる。
【0018】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土壌養分の検出装置は、ポーラスカップを備えた容器内の液体のEC値である液体EC値を取得するEC取得部と、前記容器内の圧力を取得する圧力取得部と、大気圧と前記圧力との差が大きいほど、前記液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行って、前記容器が埋設された土壌の養分状態の指標となる補正EC値を取得する補正部と、を有する。
【0019】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土壌養分センサは、ポーラスカップを有し、液体を内包可能な容器と、前記液体のEC値である液体EC値を検知するEC検知部と、前記容器内の圧力を検知する圧力検知部と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、簡便かつ正確性の高い土壌養分の検出方法等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る検出システムの要部構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る検出システムの機能ブロック構成を示すブロック図である。
【
図3】土壌の乾燥状態および土壌が含む液肥の希釈倍率と、土壌水分の電気伝導度との関係を示す図である。
【
図4】液肥の温度および液肥の設定ECと、液肥の電気伝導度との関係を示す図である。
【
図5】一実施形態に係る検出方法の一例を示すフロー図である。
【
図6】一実施形態に係る土壌養分センサの内圧と液体EC値との関係を示す図である。
【
図7】前記土壌養分センサの液体EC値と液温との関係を示す図である。
【
図8】前記土壌養分センサを浸漬する液肥の温度および種類を変化させた場合の、液体EC値の経時的な変化および10分間あたりの変化量を示す図である。
【
図9】前記土壌養分センサの内圧を変化させた場合の、内圧および液体EC値の経時的な変化を示す図である。
【
図10】前記土壌養分センサを埋設する土壌の乾燥状態を変化させた場合の、内圧の経時的な変化および1分間あたりの変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において「A~B」とは、特に指定しない限りA以上B以下であることを示している。
【0023】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る土壌養分の検出システム1は、土壌養分センサ10と、検出装置20とを備えている。検出システム1は、例えば、土壌養分センサ10が取得した、土壌に含まれる水分(以下、「土壌水分」)の電気伝導度(以下、「EC値」)を、土壌の乾燥状態および温度に基づき補正することで、土壌養分の状態を検出するシステムである。
【0024】
〔土壌養分センサ〕
図1に示すように、土壌養分センサ10は、容器11と、EC検知部15と、圧力検知部16と、温度検知部17と、を備えている。
【0025】
容器11は、筒状の部材であり、一端にポーラスカップ12を有している。また、他端は栓13により密閉されている。また、容器11は液体14を内包可能に構成されており、土壌養分センサ10の使用時において、容器11には液体14が内包される。容器11は、少なくとも容器11を満たす量の液体14を内包することが好ましい。
【0026】
容器11の形状は、ポーラスカップ12が土壌に挿入容易となることから筒状であることが好ましいが、これに限定されない。栓13は、容器11の気密性を維持するもので、例えばゴム栓またはシリコン栓であってよいが、これに限定されない。容器11の、ポーラスカップ12以外の管体部分の材料は、重量および耐久性の観点から合成樹脂製であることが好ましいが、これに限定されない。容器11の前記管体部分は、内包する液体14の残量の確認容易化の観点からは透明な部材により構成されてもよいが、これに限られない。
【0027】
ポーラスカップ12は、透水性を有する部材である。土壌養分センサ10は、土壌に埋設して使用される。「土壌に埋設」とは、例えば、容器11の少なくとも一部であって、ポーラスカップ12を含む部分が土壌に差し込まれた状態である。容器11内の液体14は、ポーラスカップ12を介した浸透圧による液体の移動および拡散作用により、土壌水分に対して濃度が平衡状態となる。このような平衡状態において、容器11内の液体14のEC値である液体EC値は、土壌水分のEC値を示すため、土壌養分センサ10は、液体EC値を取得することで、土壌水分のEC値を取得できる。
【0028】
ポーラスカップ12の材料としては、例えば多孔性の焼結材料が挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
液体14は、水であってもよく、水を溶媒とする液肥等であってもよい。ここでの水としては、例えば、純水、水道水、環境水、蒸留水およびイオン交換水が挙げられるが、これに限定されない。土壌水分のEC値が推測できる場合、液体14は、土壌水分のEC値と同程度のEC値を有する液肥であることが、液体14のEC値である液体EC値を早期に平衡状態とする観点から好ましい。
【0030】
EC検知部15は、液体EC値を検知する部材である。EC検知部15は、例えば、液体14に浸漬された状態で、2つの電極間で電流を流し液体EC値を測定する電極対が挙げられるが、これに限定されない。EC検知部15は、例えば、変圧器(トランス)により電磁誘導電流を検出するものであってもよい。
【0031】
圧力検知部16は、容器11内の圧力(以下、「内圧」)を検知する部材である。容器11は、栓13により密閉されている。そのため、容器11が有するポーラスカップ12から液体14が染み出すほど、内圧は、大気圧よりも低くなっていく。土壌養分センサ10が埋設される土壌が乾燥しているほど、浸透圧によりポーラスカップ12から液体14が土壌側に染み出しやすくなるため、内圧が下がる、つまり負圧となりやすい。すなわち、内圧は、土壌養分センサ10を埋設する土壌の乾燥状態の指標となる。
【0032】
圧力検知部16は、内圧を検知できる限りにおいて、特に限定されない。例えば、圧力検知部16は、内圧について、大気圧を基準としたゲージ圧として測定する部材であることが好ましい。また、圧力検知部16は、検知した圧力に基づいて算出可能な、土壌水分吸引圧を示す指標を出力するものであってもよい。土壌水分吸引圧を示す指標としては、例えば、pF値、土壌水分ポテンシャル(Soil water potential)および土壌水分吸水圧(Soil moisture suction)が挙げられる。このように、圧力検知部16の検知値に基づいて算出した土壌水分吸引圧を示す各指標もまた、「内圧」の一例として挙げられる。
【0033】
温度検知部17は、液体14の温度(以下、「液温」)を検知する部材である。温度検知部17は、液体14の温度を検知できる限りにおいて特に限定されない。なお、土壌養分センサ10は、温度検知部17を備えていなくてもよい。
【0034】
本実施形態の検出システム1において、土壌養分センサ10が検知する液体EC値、内圧および液温は、後述する検出装置20により取得されてよい。以下、検出装置20の構成について説明する。
【0035】
〔土壌養分の検出装置の概要〕
(土壌の乾燥状態による補正)
土壌養分の検出装置20は、土壌養分センサ10のEC検知部15が検知した液体EC値を、圧力検知部16が検知した内圧を用いて補正する。
【0036】
従来の、土壌水分のEC値に基づく土壌養分の検出方法では、土壌養分の状態には変動がないと推測されるにも関わらず、土壌水分のEC値は変動し得ることが知られていた。これについて、本発明者らは鋭意検討の結果、土壌水分のEC値は、土壌の乾燥状態に大きく影響されることを見出した。
【0037】
図3に、土壌の乾燥状態が土壌水分のEC値に与える影響の検討結果を示す。ここでは、液肥用の肥料である養液土耕2号(OATアグリオ株式会社)について複数の希釈倍率を設定し、各処理区で灌水チューブにより灌液した。土壌水分のEC値が測定できる従来の水分センサ(WD-3-WET-5Y、株式会社A・R・P)を、処理区ごとに灌水チューブの直下または灌水チューブの15cm下方の位置に各々埋設し、それぞれ湿潤条件または乾燥条件とした。
【0038】
処理区ごとに、湿潤条件および乾燥条件それぞれにおける土壌水分のEC値を、前記水分センサの出力電圧(V)により検知した。当該出力電圧は、土壌水分のEC値と相関することから、土壌水分のEC値を間接的に示すものである。
【0039】
図3に示すように、液肥の希釈倍率と、出力電圧との間には、一定の傾向は見られなかった。また、出力電圧は、土壌の乾燥状態に大きく影響されていた。すなわち、EC検知部を直接土壌中に埋設した状態で得られる土壌水分のEC値は、土壌の乾燥状態に大きく影響され、正確な土壌水分のEC値が検知できないことが示された。
【0040】
(温度による補正)
また、検出装置20は、液体EC値を、温度検知部17が検知した液温を用いてさらに補正することが好ましい。特許文献2に示されるように、EC値は測定時の温度に影響されるためである。
【0041】
図4に、測定時の温度がEC値に与える影響の検討結果を示す。養液土耕2号について、25℃でのEC値(dS/m)を基準に4段階の希釈倍率を設定した(設定EC)。これらの試験液を、恒温器内にて6段階の温度に調整して以下の測定を実施した。電気伝導度センサ(アナログTDSセンサ、Gravity社)を内蔵した、ポーラスカップを有する容器を備えるテンションメーター(圧力センサ部:DP101-ZA、パナソニック株式会社)を用いて、検知装置の出力電圧(V)を検知した。
【0042】
図4に示すように、何れの設定ECの試験液でも、出力電圧は温度に大きく影響されていた。具体的には、いずれの希釈倍率の試験液でも、温度が高いほど高い出力電圧を示した。このように、EC値は、常温範囲内においても、測定時の温度に大きく影響されることが示された。
【0043】
以上のように、検知した液体EC値を土壌の乾燥状態および温度により補正する構成によれば、土壌養分の状態を正確に把握できる。これにより、適切なタイミングで適正な量の肥料を与える等の管理が容易となる。このような本発明の一実施形態によれば、植物の収量増大に資することで、持続可能な開発目標(SDGs)の、例えば目標2「飢餓をゼロに」および目標15「陸の豊かさを守ろう」等の達成に貢献できる。
【0044】
〔検出装置〕
図1および
図2に示すように、検出装置20は、土壌養分センサ10とデータを送受信可能に構成されている。土壌養分センサ10と検出装置20とは、有線および/または無線により接続されていてよい。無線により接続されている場合、土壌養分センサ10および検出装置20はいずれも、無線通信装置(不図示)を備えていてよい。
【0045】
検出装置20は、制御装置21と、記憶装置30と、入力装置31と、表示装置32とを備えている。記憶装置30は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の、検出装置20に関する各種データを記憶する部材である。入力装置31は、キーボードまたはマウス等の、検出装置20への入力を受け付ける部材である。表示装置32は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ等の表示画面を備える部材である。入力装置31および表示装置32は、互いの機能を兼ね備えたタッチパネルとして構成されていてよい。検出システム1のユーザは、例えば、入力装置31により、後述する第1補正等において用いる設定値等を入力してよい。
【0046】
制御装置21は、検出装置20の各部を統括して制御する部材である。制御装置21は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであってよい。制御装置21は複数であってもよく、この場合、複数の制御装置21が各部の機能を分担して、または協調的に実現してもよい。
【0047】
制御装置21は、データ取得部22と、演算部26と、データ出力部29とを含む。データ取得部22は、土壌養分センサ10が検知した各種データを取得する。データ取得部22は、EC取得部23と、圧力取得部24と、温度取得部25とを含む。
【0048】
EC取得部23は、EC検知部15が検知した液体EC値を取得する。圧力取得部24は、圧力検知部16が検知した内圧を取得する。温度取得部25は、温度検知部17が検知した液温を取得する。EC取得部23、圧力取得部24および温度取得部25は、各種データを経時的に取得することが好ましい。
【0049】
演算部26は、データ取得部22が取得した各種データを用いて演算処理を実行する。演算部26は、補正部27と、定常判定部28とを含む。
【0050】
(第1補正)
補正部27は、EC取得部23が取得した液体EC値を、圧力取得部24が取得した内圧を用いて補正する第1補正を行い、補正EC値を取得する。具体的には、補正部27は、大気圧と内圧との差(以下、「圧力差」)が大きいほど、液体EC値を大きい値に補正する第1補正を行い、補正EC値を取得する。補正EC値は、土壌の乾燥状態によるEC値の変動を考慮した上での、土壌水分のEC値を反映した値となっており、土壌養分センサ10が埋設された土壌の養分状態の指標となる。
【0051】
補正部27が実行する第1補正の具体的な例としては、以下の方法が挙げられる。まず、圧力差の基準値である所定の圧力基準値を設定する。そして、圧力差が圧力基準値よりも大きい場合には液体EC値を加算補正する。
【0052】
「圧力基準値」は、例えば、土壌が平均的な乾燥状態である場合の圧力差の値であってよい。このような構成によれば、補正部27は、取得した液体EC値に過剰な補正を加えることなく、土壌の乾燥状態を反映した補正EC値を取得できる。「土壌の平均的な乾燥状態」は、土壌養分センサ10を埋設する土壌によって異なると考えられるため、圧力基準値は、当該土壌に応じて適宜設定してよい。このような圧力基準値として、例えば、圃場要水量に対応する圧力以上であって、毛管連絡切断点に対応する圧力以下の圧力であることが好ましく、初期しおれ点に対応する圧力以下の圧力であることがより好ましい。圃場要水量に対応する圧力とは、pF値で示せば1.5~2.0であってよい。毛管連絡切断点に対応する圧力とは、pF値で示せば2.7であってよい。また、初期しおれ点に対応する圧力とは、pF値で示せば3.8であってよい(引用文献:土壌診断の方法と活用、藤原俊六郎ら、1996年、農文協)。また、圧力基準値は、前記に限られず、例えば、0(大気圧と内圧とが同一の条件)としてもよく、検出システム1のユーザにより任意の値が設定されてもよい。
【0053】
第1補正における、液体EC値に対する補正値は特に限定されないが、例えば、下記式(1)の通り補正してよい;
第1補正後の補正EC値(dS/m)=液体EC値(dS/m)+(圧力差(KPa)-圧力基準値(KPa))×第1補正係数 (1)
ここで、第1補正係数は、0.00001以上0.001以下の値であることが好ましく、0.00005以上0.0005以下の値であることがより好ましい。
【0054】
なお、圧力取得部24が取得する内圧が、土壌水分吸引圧を示す指標である場合、当該指標に応じて液体EC値に対する補正値の算出方法が適宜設定されてよい。また、補正部27は、取得した土壌水分吸引圧を示す指標から圧力差(KPa)を算出した上で、前記式(1)等を用いて補正EC値を取得してもよい。
【0055】
(第2補正)
補正部27は、第1補正に加えて、温度取得部25が取得した液温が高いほど液体EC値を小さい値に補正する第2補正を行うことが好ましい。第2補正後の補正EC値は、土壌水分のEC値を反映し、かつ、液体EC値検知時の液温を考慮した値となっており、容器11が埋設された土壌の養分状態の指標として好ましい。
【0056】
補正部27が実行する第2補正の具体例としては、以下の方法が挙げられる。まず、液温の基準値である基準温度を設定する。そして、液温が基準温度よりも高い場合には液体EC値を減算補正し、液温が基準温度よりも低い場合には液体EC値を加算補正する。
【0057】
「基準温度」は、25℃とするのが好ましい。このような構成によれば、補正部27は、取得した液体EC値に過剰な補正を加えることなく、土壌の乾燥状態に加えて液温の影響も考慮した補正EC値を取得できる。「土壌の平均的な温度」は、土壌養分センサ10を埋設する土壌によって異なると考えられるため、基準温度は、当該土壌に応じて適宜設定してよい。また、基準温度は、前記に限られず、例えば、検出システム1のユーザにより任意の値が設定されてもよい。
【0058】
第2補正における、液温による第1補正後の補正EC値に対する補正値は特に限定されないが、例えば、下記式(2)の通り補正してよい;
第2補正後の補正EC値(dS/m)=第1補正後の補正EC値(dS/m)-(液温(℃)-基準温度(℃))×第2補正係数 (2)
ここで、第2補正係数は、0.01以上0.03以下の値であることが好ましく、0.0125以上0.02以下の値であることがより好ましい。
【0059】
なお、上述の例では、補正部27は、第1補正を行った後に第2補正を行う構成を説明しているが、これに限られない。第2補正を行う場合、補正部27は、液体EC値に第2補正を行った後に、さらに第1補正を行ってもよい。
【0060】
(定常判定)
EC取得部23が経時的に液体EC値を取得する場合、定常判定部28は、液体EC値の、単位時間あたりの変化量が所定の値以下となる定常状態が所定の時間以上経過したか否かを判定することが好ましい。
【0061】
上述の通り、液体EC値は、内圧および液温の影響を受ける。そのため、灌水を行って土壌の乾燥状態が変化した直後、および/または日照状態の変化等により土壌の温度が変化した直後には、内圧および/または液温が変動し、これに応じて液体EC値も変動する。土壌の養分状態を正確に把握するためには、単位時間あたりの液体EC値の変化量が小さい定常状態の期間に検知した液体EC値を用いることが好ましい。
【0062】
液体EC値の「定常状態」は、液体EC値の単位時間あたりの変化量が所定の値以下となる期間を示す。ここで、単位時間は特に限定されないが、より変化の少ない安定した状態の液体EC値を取得するためには、1分以上であってよく、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましい。また、定常状態か否かの判定に時間をかけすぎない観点から、単位時間は、1時間以内であってよく、30分以内であることが好ましく、15分以内であることがより好ましい。
【0063】
定常判定部28は、液体EC値の変化量について、例えば、現時点の液体EC値と、現時点から単位時間さかのぼった時点の液体EC値との差が、所定の値以下であるか否かを判定してよい。定常判定部28は、現時点から単位時間さかのぼった時点の液体EC値について、例えば、記憶装置30から取得してもよい。
【0064】
また、液体EC値の変化量の閾値である「所定の値」は、単位時間に応じて適宜設定してよい。定常判定部28は、例えば、所定の値を0.002dS/m・min-1以下としてもよく、0.001dS/m・min-1以下とすることが好ましい。すなわち、単位時間を10分とする場合には、所定の値は、0.02dS/m以下としてもよく、0.01dS/m以下とすることが好ましい。
【0065】
また、定常判定部28が、液体EC値が定常状態であると判定した直後は、液体EC値の変動が完全には安定していない可能性がある。液体EC値が定常状態と判定された後、定常状態が所定の時間以上継続していれば、液体EC値の変動が安定している可能性がより高いといえる。そのため、定常判定部28は、液体EC値が定常状態であるか否かの定常状態判定とともに、現在の定常状態が所定の時間以上連続しているか否かの定常判定を実行することが好ましい。
【0066】
定常判定における所定の時間は、特に限定されない。所定の時間は、定常状態判定における単位時間よりも長いことが好ましく、例えば、単位時間の2倍以上の時間であってもよく、3倍以上の時間であってもよく、5倍以上の時間であってもよい。また、定常判定部28は、所定の時間を、前回の定常状態が終了した時点から今回の定常状態が開始した時点までの期間と同じ時間としてもよい。定常判定部28は、所定の時間として、検出システム1のユーザが入力装置31から入力した値を用いてもよく、予め記憶装置30に記憶された初期設定値を用いてもよい。
【0067】
定常判定部28は、定常状態が所定の時間以上経過したか否かの定常判定の結果を示す、液体EC値および/または補正EC値と対応させた態様のタグ情報を生成してもよい。当該タグ情報は、定常判定が「是」または「否」である旨を示す限りにおいて、その態様は特に限定されない。
【0068】
例えば、定常判定部28は、液体EC値および/または補正EC値とタグ情報とをまとめた形式のデータを生成してもよい。また、定常判定部28は、液体EC値および/または補正EC値とは独立した形式によりタグ情報を生成してもよい。液体EC値および/または補正EC値と、これらに対応するタグ情報との対応関係は、例えば、液体EC値の検知日時により対応付けられてもよいし、データID等により対応付けられてもよい。
【0069】
また、液体EC値に影響する内圧は、土壌の乾燥状態が変化した直後に変動が生じる。そのため、定常判定部28は、内圧が定常状態であるか否かの判定をさらに実行してもよい。当該判定は、液体EC値が定常状態であるか否かの判定と同様に、内圧の単位時間あたりの変化量が、所定の値以下となっているか否かにより判定してよい。
【0070】
内圧の定常状態判定における単位時間は、特に限定されないが、液体EC値の定常状態判定における単位時間よりも短い時間であってよい。このような単位時間としては、例えば、30秒以上であってよく、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましい。また、当該単位時間は30分以内であってよく、15分以内であることが好ましく、10分以内であることがより好ましい。
【0071】
定常判定部28は、内圧の変化量について、例えば、現時点の内圧と、現時点から単位時間さかのぼった時点の内圧との差が、所定の値以下であるか否かを判定してよい。定常判定部28は、現時点から単位時間さかのぼった時点の内圧について、例えば、記憶装置30から取得してもよい。
【0072】
内圧の変化量の閾値である「所定の値」は、単位時間に応じて適宜設定して良い。定常判定部28は、例えば、当該所定の値を1.0KPa・min-1以下としてもよく、0.6KPa・min-1以下とすることが好ましい。すなわち、単位時間を5分とする場合には、所定の値は、5.0KPa以下としてもよく、3.0KPa以下とすることが好ましい。
【0073】
定常判定部28は、例えば、液体EC値および内圧の両方が定常状態と判定した場合にのみ、液体EC値の定常状態が所定の時間継続したか否かの定常判定を行ってもよい。このような構成によれば、定常判定部28が、液体EC値の定常判定について「是」と判定した場合、当該液体EC値は、変化量が非常に小さい期間に取得した安定した値と考えてよい。そのため、検出システム1のユーザは、信頼性の高い液体EC値を用いて、土壌養分の状態を正確に把握できる。
【0074】
データ出力部29は、制御装置21から各種データを出力する。データ出力部29は、例えば、土壌養分センサ10から取得したデータ、演算部26が取得したデータ等の各種データを、記憶装置30に出力して記憶させてもよい。また、データ出力部29は、当該各種データを画像として表示装置32に出力して表示させてもよい。
【0075】
なお、検出装置20は、最小構成として、EC取得部23と、圧力取得部24と、補正部27とを含むものであればよい。
【0076】
〔土壌養分の検出方法〕
図5を用いて、本実施形態に係る土壌養分の検出方法(以下、「本検出方法」)を説明する。本検出方法は、土壌養分センサ10が検知した液体EC値を、内圧により補正する方法である。また、本検出方法は、液体EC値を液温によりさらに補正することが好ましい。
【0077】
図5に示すように、EC取得部23はまず、現時点においてEC検知部15が検知した液体EC値を取得する(S1、EC取得工程)。また、圧力取得部24は、圧力検知部16が検知した内圧を取得し(圧力取得工程)、温度取得部25は、温度検知部17が検知した液温を取得する(温度取得工程)。「現時点」とは、土壌養分センサ10が最も直近で液体EC値等を検知した時点であってよい。
【0078】
土壌養分センサ10が経時的に液体EC値等を検知している場合、EC取得部23は、EC検知部15が検知した過去の液体EC値を、記憶装置30から取得することが好ましい(S2)。同様に、圧力取得部24は、過去の内圧を取得し、温度取得部25は、過去の液温を取得することが好ましい。ここでいう「過去の液体EC値」とは、現時点から少なくとも、定常判定部28が定常状態であるか否かの判定に用いる単位時間さかのぼった時点(基準時点)までの間に検知された液体EC値を示す。なお、本明細書において、「過去の」と特記せず単に「液体EC値」と記載する場合には、現時点の液体EC値を示す。「過去の内圧」および「過去の液温」についても、同様である。S2が実行される場合、EC取得部23は、S1およびS2のいずれを先に実行してもよい。
【0079】
次に、補正部27は、内圧に基づいて液体EC値を補正した補正EC値を取得する(S3、補正工程)。当該補正の具体的な方法については、上述の「第1補正」の項目にて説明済みであるため、ここでは省略する。
【0080】
また、温度取得部25が液温を取得している場合、補正部27は、第1補正後の補正EC値をさらに液温に基づいて補正した補正EC値を取得することが好ましい(S4)。当該補正の具体的な方法については、上述の「第2補正」の項目にて説明済みであるため、ここでは省略する。S4が実行される場合、補正部27は、S3およびS4のいずれを先に実行してもよい。
【0081】
次に、定常判定部28は、
図5のS5~S10に示す定常判定工程を実行することが好ましい。定常判定部28は、S2において過去の液体EC値等の検知データを取得したか否かを判定する(S5)。過去の検知データを取得していないと判定した場合(S5でno)、定常判定部28は、定常判定を実施不可と判定し、取得した液体EC値および補正EC値に、定常判定が「否」である旨を示すタグ情報を付与する(S9)。
【0082】
なお、S5において、定常判定部28が定常判定を実施不可と判定した場合、S9のタグ付与は実行せず、そのまま
図5に示す一連の処理を終了してもよい。
【0083】
一方、S2において過去の検知データを取得していた場合(S5でyes)、定常判定部28は、基準時点から現時点までの単位時間における液体EC値の変化量が、所定の値以下であるか否かを判定する(S6)。当該変化量が所定の値以下ではないと判定した場合(S6でno)、定常判定部28は、取得した液体EC値および補正EC値に、定常判定が「否」である旨を示すタグ情報を付与する(S9)。
【0084】
液体EC値の前記変化量が所定の値以下であると判定した場合(S6でyes)、定常判定部28は、基準時点から現時点までの単位時間における内圧の変化量が、所定の値以下であるか否かを判定してもよい(S7)。当該変化量が所定の値以下ではないと判定した場合(S7でno)、定常判定部28は、取得した液体EC値および補正EC値に、定常判定が「否」である旨を示すタグ情報を付与する(S9)。
【0085】
内圧の前記変化量が所定の値以下であると判定した場合(S7でyes)、定常判定部28は、液体EC値および内圧がいずれも定常状態であると判定する。
【0086】
次に、定常判定部28は、現在の液体EC値の定常状態が、その開始時点から所定の時間継続しているか否かを判定する(S8)。定常状態が所定の時間継続していないと判定した場合(S8でno)、定常判定部28は、取得した液体EC値および補正EC値に、定常判定が「否」である旨を示すタグ情報を付与する(S9)。定常状態が所定の時間継続していると判定した場合(S8でyes)、定常判定部28は、取得した液体EC値および補正EC値に、定常判定が「是」である旨を示すタグ情報を付与する(S10)。
【0087】
なお、S5~S8の実行順序は上述に限られず、いかなる順序により実行されてもよい。また、データ出力部29は、S9またはS10の補正EC値を表示装置32に出力して表示させてもよい。このとき、データ出力部29は、補正EC値にS9またはS10にて付与されたタグ情報を、併せて表示装置32に出力して表示させてもよい。また、制御装置21は、S9またはS10の実行後、S1に処理を戻してもよい。すなわち、制御装置21は、
図5に示す本検出方法を、繰り返しループして実行してもよい。制御装置21は、本検出方法を繰り返し実行する場合、例えば1分おき等の所定の間隔により繰り返し実行してもよい。
【0088】
このような定常判定工程により、検出システム1のユーザは、各時点の液体EC値が、変化量が少ない期間に取得した安定した値なのか、それ以外の期間に取得した不安定な値なのかを正確に判別できる。そのためユーザは、例えば、検出装置20が取得した補正EC値のうち、定常判定が「是」である旨を示すタグ情報が付与された補正EC値のみを参照することで、土壌養分の状態を正確に把握できる。
【0089】
また、本実施形態に係る検出システム1によれば、土壌養分の状態について、信頼性の高い情報が得られる。これにより、対象となる土壌の近くに人員を配する必要が小さくなるため、例えば、土壌養分の状態について、遠隔も含めたモニタリングが容易となる。また、本実施形態に係る検出システム1において経時的に液体EC値を取得すれば、土壌養分の正確な状態をリアルタイムに検知できるため、土壌中の養分状態の適正化およびその制御を正確に実施可能となる。
【0090】
〔ソフトウェアによる実現例〕
検出装置20(以下、「装置」)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御装置21に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0091】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0092】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前記装置に供給されてもよい。
【0093】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0094】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【実施例0095】
〔実施例1:液体EC値と内圧との関係〕
液体EC値に与える内圧の影響を検討した。検討は、電気伝導度センサ(アナログTDSセンサ、Gravity社)を内蔵した、ポーラスカップを有する筒状の容器を備えるテンションメーター(圧力センサ部:DP101-ZA、パナソニック株式会社)である実施例1センサを用いた。容器は可能な限り密閉した。また、本検討における実施例1センサでは、当該容器がシリンジ型の吸引機器を備えており、当該吸引器具により内圧を調整可能とした。
【0096】
容器内に、液肥(養液土耕2号)を注入した。当該液肥は、25℃でのEC値(設定EC)が、それぞれ0.5dS/m、1.0dS/mおよび2.0dS/mの3条件となるようそれぞれ希釈した。液温を25℃とし、内圧(ゲージ圧)を-70KPaとした。その後、内圧が大気圧に戻るまでの液体ECおよび内圧を経時的に記録した。なお、容器には、電気伝導度センサの挿入部分等に微小な隙間が存在していると考えられ、当該隙間から空気が容器内に入ることで、内圧が徐々に大気圧に戻ったと考えられる。
【0097】
図6に、各条件でそれぞれ3回の反復試行を実施した結果を示す。
図6に示すように、液肥の設定ECが同一条件内でも、容器の内圧と大気圧との差が大きいほど、液体EC値が小さい値として検知された。これは、いずれの設定ECで実験を行った場合でも同様だった。
【0098】
図6に、各条件における経時的な検知値のプロットに加え、その近似直線および近似式(y=ax+b)を示す。当該近似式において、yは液体EC値(dS/m)を、xは内圧(KPa)を示す。また、aは上述の第1補正係数に対応し、0.00008≦a≦0.0004であった。また、bは容器内の液体(液肥)の設定ECによって変動する値である。
【0099】
第1補正係数を0.00008以上0.0004以下とすれば、上述の実験結果に基づいた極めて正確な補正が可能であることが示された。一方、例えば、液体EC値に対する補正をより大きくしたい場合、第1補正係数は0.0004を超える値としてもよい。また、液体EC値に対する補正をより小さくしたい場合、第1補正係数は0.00008未満の値としてもよい。
【0100】
〔実施例2:液体EC値と液温および肥料の種類との関係〕
液体EC値に与える液温および肥料の種類の影響を検討した。検討は、吸引器具を備えない点以外は実施例1センサと同様の構成を有する、実施例2センサを用いた。
【0101】
実施例2センサのポーラスカップを含む部分を、約2Lの液肥(外液)中に浸漬した。当該外液の温度は、恒温器(FMU-1331、NKシステム株式会社)により10℃、20℃、25℃、30℃の4条件にそれぞれ調整した。外液は、養液土耕2号(3要素複合肥料)、硫酸アンモニウム水溶液(硫安)、リン酸肥料水溶液(P)、塩化カリウム水溶液(KCl)、塩化ナトリウム水溶液(NaCl)の5条件とした。外液はいずれも、25℃でのEC値が1.0dS/mとなるよう希釈した。実施例2センサの容器内には、実験開始時に蒸留水を注入した。
【0102】
図7に、各条件における経時的な検知値のプロットに加え、その近似直線および近似式(y=cx+d)を示す。当該近似式において、yは液体EC値(dS/m)を、xは液温(℃)を示す。また、cは上述の第2補正係数に対応し、0.0138≦c≦0.019であった。また、dは外液の種類によって変動する値である。この結果から、外液の種類が異なっても、第2補正係数の適正範囲は大きく変化しないことが示された。
【0103】
なお、第2補正係数を0.0138以上0.019以下とすれば、上述の実験結果に基づいた極めて正確な補正が可能である。一方、例えば、液体EC値に対する補正をより大きくしたい場合、第2補正係数は0.019を超える値としてもよい。また、液体EC値に対する補正をより小さくしたい場合、第2補正係数は0.0138未満の値としてもよい。
【0104】
〔実施例3:液体EC値の定常状態における変化量〕
液温を変化させ、液体EC値の経時的な変化および単位時間あたりの変化量を検討した。検討は、上述の実施例2センサを用いた。実施例2センサを浸漬した液肥(外液)の温度は、恒温器により変化させた。外液の種類は、養液土耕2号、硫酸アンモニウム水溶液(硫安)および塩化ナトリウム水溶液(NaCl)の3条件とし、25℃でのEC値が1.0dS/mとなるように希釈して用いた。
【0105】
経時的に液体EC値を取得しながら、恒温器内の外液の温度を変化させ、かつ、外液の種類についても入れ替えを行った。実施例2センサの容器内には、実験開始時に蒸留水を注入した。
【0106】
図8の上側グラフは、液体EC値を経時的に記録した結果を示し、下側グラフは各検知時点において、それぞれ過去10分間の液体EC値の変化量を算出した結果を示す。
図8に示すグラフの上側に、外液の種類および温度を示す。また、グラフの横軸の値は、検知時点の「時:分」を示す。これは、
図10も同様である。
【0107】
図8に示すように、温度または外液の種類を変化させた直後は、液体EC値の変化量が一時的に大きくなることが示された。また経時的な液体EC値の変化が小さく定常状態といえる状態では、10分間の液体EC値の変化量が0.01dS/m以下となった。
【0108】
以上より、単位時間を10分間とした場合、当該単位時間あたりの液体EC値の変化量は、0.01dS/m以下であれば、液体EC値は定常状態であるといえることが示された。なお、例えば温度変化が大きい時期等では、定常状態と判定するための液体EC値の変化量を、10分間あたり0.01dS/mより大きな値に設定してもよい。
【0109】
〔実施例4:内圧の変化による液体EC値の変化〕
内圧を変化させ、液体EC値の経時的な変化を検討した。検討には、実施例2センサを使用した。実施例2センサの容器内に、25℃でのEC値が1.0dS/mとなるように希釈した養液土耕2号を注入した。ポーラスカップを乾燥布で覆うことで内圧を-30KPaとした後、実施例2センサを各条件の液肥(外液)に浸漬し、液体EC値および内圧の経時的な変化を記録した。外液の、25℃におけるEC値(外EC)は、0.5dS/m、1.0dS/mおよび2.0dS/mの3条件とした。
【0110】
図9に、液体EC値および内圧の経時的な変化を示す。
図9の横軸は、実施例2センサを外液に浸漬した時点を「0分」とした。
図9に示すように液体EC値は、内圧の変化に伴って変化し、内圧の変化が収束した後に遅れて収束して定常状態に達することが示された。そして、浸透圧により容器内の液肥が外液に対して平衡状態に達するまで、緩やかに変化していくと考えられる。
【0111】
以上より、内圧の変化による液体EC値の変化が定常状態に達するまでの時間は、内圧が定常状態に達した時点から300~420秒後であることが示唆された。すなわち、液体EC値の定常/非定常は土壌の乾燥状態の変化に影響を受けるため、液体EC値の定常状態判定において、乾燥状態の変化を考慮する必要性が示唆された。
【0112】
〔実施例5:内圧の定常状態における変化量〕
土壌の乾燥状態の変化に対する、内圧の経時的な変化および単位時間あたりの変化量を検討した。検討は、30℃に設定した恒温器機内において、実施例2センサを用い、実施例2センサの容器内には蒸留水を注入した。実施例2センサのポーラスカップを含む部分を、マサ土とバーク堆肥とを1:1(v/v)で混和した土壌を充填した7号鉢に埋設した。経時的に内圧を取得しながら、ビーカーを用い蒸留水を200~300cc/回を3回灌水した。
【0113】
図10の上側グラフは、内圧を経時的に記録した結果を示し、下側グラフは各検知時点において、それぞれ過去1分間の内圧の変化量を算出した結果を示す。
図10の上側グラフに、灌液を行った時点を矢頭により示している。
図10に示すように、灌液を実施した直後は、内圧の変化量が一時的に大きくなることが示された。また経時的な内圧の変化が小さく定常状態といえる期間は、1分間の内圧の変化量が0.6KPa以下となった。
【0114】
以上より、単位時間を1分間とした場合、当該単位時間あたりの内圧の変化量が0.6KPa以下であれば、内圧は定常状態であるといえることが示された。なお、例えば、灌液頻度が低いため1回の灌液量が多く、灌液による内圧の変化が大きいと考えられる場合には、定常状態と判定するための内圧の変化量を、1分間あたり0.6KPaよりも大きな値に設定してもよい。また、1回の灌液量が少なく、灌液による内圧の変化が小さいと考えられる場合は、定常状態と判定するための内圧の変化量を、1分間あたり0.6KPaよりも十分に小さな値に設定してもよい。
【0115】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態/実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態/実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。