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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094487
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】鉄粒子の製造方法および鉄粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20230628BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230628BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20230628BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20230628BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20230628BHJP
   H01F 1/44 20060101ALI20230628BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B22F9/24 A
B22F1/00 S
B22F1/05
B22F1/102
B22F9/24 C
H01F1/20
H01F1/44 120
B22F1/00 W
C22C38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210007
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】横山 幸司
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA06
4K017BA06
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA02
4K017EJ01
4K017FB07
4K017FB11
4K018BA14
4K018BB04
4K018BC29
4K018BD01
4K018KA42
5E041AA01
5E041BD07
5E041CA10
5E041HB17
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】湿式プロセスにより、磁気ビーズのコア材に適したサイズの球状鉄粒子を安定して合成することができる技術を提供する。
【解決手段】塩基性水溶液中で鉄キレート錯体の鉄を還元剤物質により還元することにより、平均一次粒子径が0.1~2.0μmの鉄粒子を合成する還元工程を含む、鉄粒子の製造方法。前記鉄キレート錯体は、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸から選ばれる1種以上の錯化剤と、鉄塩とを反応させて形成させたものが好適である。特に、前記還元工程においてゲル化した多糖類分子を含む塩基性水溶液中で還元を行うことにより粒子の凝集を抑制することができる。多糖類としてはアミロペクチンを主成分とするものが適用できる。その後、アミラーゼ等の多糖類分解酵素が溶解している溶液中で保持すると粒子表面の多糖類を分解することができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性水溶液中で鉄キレート錯体の鉄を還元剤物質により還元することにより、平均一次粒子径が0.1~2.0μmの鉄粒子を合成する還元工程を含む、鉄粒子の製造方法。
【請求項2】
前記鉄キレート錯体は、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸から選ばれる1種以上の錯化剤と、鉄塩とを反応させる錯体形成工程により生成したものである、請求項1に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤物質として、水素化ホウ素ナトリウムを使用する、請求項1または2に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項4】
前記還元工程における還元を、ゲル化した多糖類分子を含む塩基性水溶液中で行い、多糖類分子に被覆された鉄粒子を合成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項5】
前記多糖類はアミロペクチンを主成分とするものである、請求項4に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項6】
多糖類に被覆された鉄粒子を、多糖類分解酵素が溶解している溶液中で保持することにより、鉄粒子に付着している多糖類を分解する多糖類分解工程を含む、請求項4または5に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項7】
前記多糖類分解酵素としてアミラーゼを使用する、請求項6に記載の鉄粒子の製造方法。
【請求項8】
多糖類、多糖類が多糖類分解酵素によって分解された構造の糖類、および多糖類分解酵素からなる群より選ばれる1種以上の有機物質が表面に付着している鉄粒子。
【請求項9】
平均一次粒子径が0.1~2.0μmである、請求項8に記載の鉄粒子。
【請求項10】
炭素含有量が0.5~8.0質量%、酸素含有量が10.0~30.0質量%である、請求項8または9に記載の鉄粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ビーズの素材に適した鉄粒子の製造方法、および鉄粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
検体溶液中に分散したウイルスを、抗体の種類によって選択的に捕獲し回収することができる材料として、磁気ビーズが知られている。従来の磁気ビーズは、マグネタイトなどの磁性体物質を吸着させたポリマーのコアと、コアの表面を覆うポリマーの被覆層からなる粒子構造を有するものが一般的である。磁気ビーズの粒子表面に抗体などの特定のタンパク質を結合させることにより、液中で、目的とするタンパク質(ウイルスなど)を選択的に捕獲させることができる。その後、磁力によって磁気ビーズを分離すると、目的のタンパク質を容易に回収することができる。
【0003】
磁力による磁気ビーズの分離をより迅速かつ的確に行うためには、飽和磁化の大きい磁気ビーズが必要となる。ポリマーと磁性体物質とで構成されるコアを持つ従来一般的な磁気ビーズは、非磁性成分であるポリマーを多量に含んでいることから、飽和磁化に関して改善の余地がある。すなわち、コアを単一の球状磁性体粒子で構成することができれば、磁気ビーズの飽和磁化を向上させる上で有利となる。また、マグネタイトをはじめとする鉄酸化物の粒子に代えて、強磁性体である鉄粒子を適用することにより、磁気特性の更なる向上が期待される。
【0004】
微細な球状鉄粒子の合成手法として、例えば非特許文献1、特許文献1、2には、還元剤(水素化ホウ素ナトリウム)と界面活性剤(オレイン酸など)を含む水溶液に鉄塩(硫酸第一鉄)の水溶液を添加して粒子径が10~200nm程度の鉄粒子を還元生成させる手法が開示されている。特許文献3、4、5には、錯体であるペンタカルボニル鉄(Fe(CO))を熱分解することにより鉄ナノ粒子を合成する手法が開示されている。
一方、ペンタカルボニル鉄を熱分解するプロセスを利用して粒子径0.5~10μm程度の球状鉄粒子を製造する技術は確立されており、その製品(いわゆるカルボニル鉄粉)は工業用材料として種々の用途で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-104806号公報
【特許文献2】特開平3-265693号公報
【特許文献3】特開2016-30840号公報
【特許文献4】特開2009-62605号公報
【特許文献5】特表2010-512463号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤田豊久、外2名、「水溶液中で還元した鉄粒子径におよぼす界面活性剤の影響」、粉体および粉末冶金、1989年8月、第36巻第6号、p.148-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1や、特許文献1~5に開示される方法では、得られる鉄粒子のサイズがナノメートルオーダーと小さい。そのような小サイズの単一の鉄粒子をコアに持つ磁気ビーズは飽和磁化が小さく、ウイルスなどのタンパク質を捕獲した後に液中で効率的に分離することが難しい。
【0008】
一方、カルボニル鉄粉の市販製品として、粒子サイズがミクロンオーダーの鉄粒子を入手することができる。しかし、個々の鉄粒子の表面に均一性の高いポリマー被覆層を形成するためには、液中分散性が良好である必要がある。カルボニル鉄粉の製品は大気中での保存安定性を確保するために表面処理が施されていることが多く、液中分散性に関しては湿式プロセスで得られた鉄粒子とは異なる挙動を示すと考えられる。所定の液中での分散性を確保するためには種々の検証や工夫が必要となる。
【0009】
また、従来の湿式プロセスによる鉄粒子の合成では、水酸化鉄の生成を防止するために酸性領域で還元反応を進行させるのが一般的である。水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤は酸性水溶液中に添加するとすぐに分解されてしまい、不均一な還元反応となりやすい。そのため、サイズが十分に大きい鉄粒子を湿式プロセスで安定して合成することは必ずしも容易でない。
【0010】
本発明は、湿式プロセスにより、磁気ビーズのコア材に適したサイズの球状鉄粒子を安定して合成することができる技術を提供することを目的とする。特に、人体に害のない物質を用いて鉄粒子を得る手法を開示する。また、人体に害のない物質が表面に付着している液中分散性の良い鉄粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の発明によって達成される。
[1]塩基性水溶液中で鉄キレート錯体の鉄を還元剤物質により還元することにより、平均一次粒子径が0.1~2.0μmの鉄粒子を合成する還元工程を含む、鉄粒子の製造方法。
[2]前記鉄キレート錯体は、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸から選ばれる1種以上の錯化剤と、鉄塩とを反応させる錯体形成工程により生成したものである、上記[1]に記載の鉄粒子の製造方法。
[3]前記還元剤物質として、水素化ホウ素ナトリウムを使用する、上記[1]または[2]に記載の鉄粒子の製造方法。
[4]前記還元工程における還元を、ゲル化した多糖類分子を含む塩基性水溶液中で行い、多糖類分子に被覆された鉄粒子を合成する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の鉄粒子の製造方法。
[5]前記多糖類はアミロペクチンを主成分とするものである、上記[4]に記載の鉄粒子の製造方法。
[6]多糖類に被覆された鉄粒子を、多糖類分解酵素が溶解している溶液中で保持することにより、鉄粒子に付着している多糖類を分解する多糖類分解工程を含む、上記[4]または[5]に記載の鉄粒子の製造方法。
[7]前記多糖類分解酵素としてアミラーゼを使用する、上記[6]に記載の鉄粒子の製造方法。
[8]多糖類、多糖類が多糖類分解酵素によって分解された構造の糖類、および多糖類分解酵素からなる群より選ばれる1種以上の有機物質が表面に付着している鉄粒子。
[9]平均一次粒子径が0.1~2.0μmである、上記[8]に記載の鉄粒子。
[10]炭素含有量が0.5~8.0質量%、酸素含有量が10.0~30.0質量%である、上記[8]または[9]に記載の鉄粒子。
【0012】
本発明に従う還元工程で合成される鉄粒子はほぼ球形である。SEM(走査型電子顕微鏡)により観察される鉄粒子のうち、一次粒子の輪郭の全体が把握される一次粒子についてのアスペクト比は1.3以下である。ここで、アスペクト比は、粒子の画像上の輪郭における長径/短径の比率である。長径は粒子の輪郭線上の任意の2点を結ぶ線分の中で、最も長い線分(この線分を「長軸」と言う。)の長さを意味し、短径は、長径に対して直角方向に測った粒子の輪郭線間の距離が最も長い部分の当該距離を意味する。鉄粒子の表面には多糖類あるいはそれが分解された有機物質などの付着物が存在している場合がある。上記の「輪郭」は、付着物を除く鉄部分の輪郭を意味する。
【0013】
還元工程において、鉄粒子が成長する過程で一次粒子同士が凝集して接触すると、接触した複数の一次粒子が連結した状態で還元析出が進行する場合がある。そのような場合には、一次粒子同士の連結部分に、双方の一次粒子の表面上で共有される境界線(すなわち双方の一次粒子の間の谷線)が形成される。SEM画像上で双方の一次粒子の表面上で共有される境界線(谷線)が生じていることが明らかである場合、その境界線の両側で繋がっている一群の一次粒子で構成される1つの粒子を、本明細書では「結合粒」と呼ぶ。また、前記の境界線を「結合境界」と呼ぶ。SEM画像上で、一次粒子同士の間に双方の一次粒子の表面上で共有される境界線(谷線)が生じているかどうかの判定が難しいような場合は、それら双方の一次粒子同士は結合粒を構成していないとみなす。上記の結合境界は、付着物を除く鉄部分の表面に形成されている境界線を意味する。本明細書において「一次粒子」は、球状の表面を呈する個々の粒子を意味する。結合粒においても、結合境界で隔てられた球状表面を有する個々の粒子部分をそれぞれ一次粒子と呼ぶ。
【0014】
図1に、結合粒を形成している鉄粒子が観察されるSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。B、C、D、Eの各一次粒子の間には、白の矢印で示す部分に結合境界が存在する。BとCの一次粒子の間の結合境界、およびCとDの一次粒子の間の結合境界は、後述する説明の便宜のために黒の実線でトレースしてある。Aの一次粒子と、BまたはCの一次粒子との間には、双方の一次粒子の表面上で共有される境界線(谷線)が生じているかどうかの判定が難しい。また、AとFの一次粒子の間、およびBとFの一次粒子の間についても同様である。したがって、一次粒子B、C、D、Eによって1つの結合粒が形成され、一次粒子A、Fはいずれも結合粒を構成しない単独粒子であるとみなされる。
【0015】
本明細書では、鉄粒子の平均一次粒子径を以下のようにして定める。
(平均一次粒子径の求め方)
鉄粒子のサンプルをSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、以下の(i)(ii)のいずれかに該当する一次粒子を測定対象粒子とする。
(i)結合粒を構成しない一次粒子であって、その粒子の輪郭の全体が把握できる粒子。
(ii)粒子の一部が他の粒子の背後にあるか視野境界の外部にあるために見えない一次粒子、または結合粒を構成している一次粒子であって、当該一次粒子の見えている部分の画像上の輪郭(手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれか含む)によって囲まれる形状の領域について、その領域の輪郭線上の任意の2点を結ぶ線分の中で、最も長い線分を「仮想長軸」と呼ぶとき、その仮想長軸(複数の仮想長軸が設定できる場合はそのいずれか)の両方の端部がともに当該一次粒子の表面輪郭にぶつかり、かつ少なくとも一方の端部が手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれにもぶつからない粒子。ここで、上記の「表面輪郭」とは、当該一次粒子の表面のみによって画定される輪郭の部分(ただし手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれかとの交点を含む)を意味する。
視野中の全ての測定対象粒子について長軸(上記(ii)の場合は仮想長軸)の長さに相当する長径を測定する。ある一次粒子の長径は、その一次粒子(上記(ii)の場合は当該一次粒子の見えている部分の画像上の輪郭によって囲まれる形状の領域)を取り囲む最小円の直径として把握することができる。この長径の測定を、測定対象粒子の総数が50個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行い、全測定対象粒子の長径の相加平均値を平均一次粒子径とする。
【0016】
図1の結合粒の例では、一次粒子Bの見えている部分の画像上の輪郭(黒の実線でトレースしたB、C間の結合境界を含む)によって囲まれる形状の領域についての仮想長軸は白の破線で示した点pと点qを結ぶ線分となる。この仮想長軸は点pおよび点qの両方の端部において結合境界(黒の実線)とぶつかる。そのため、「仮想長軸の少なくとも一方の端部が手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれにもぶつからない」という条件を満たさない。したがって、一次粒子Bは平均一次粒子径を測定するための測定対象粒子から外される。
一方、一次粒子Cの見えている部分の画像上の輪郭(黒の実線でトレースしたB、C間およびC、D間の結合境界を含む)によって囲まれる形状の領域についての仮想長軸は白の破線で示した点rと点sを結ぶ線分となる。この仮想長軸は両方の端部(点rと点s)がともに当該一次粒子Cの表面輪郭にぶつかる。また、一方の端部rで結合境界(黒の実線)とぶつかるが、他方の端部sでは手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれにもぶつからない。そのため、「両方の端部がともに当該一次粒子の表面輪郭にぶつかり、かつ少なくとも一方の端部が手前にある粒子の輪郭、視野境界、結合境界のいずれにもぶつからない」という条件を満たす。したがって、一次粒子Cは平均一次粒子径を測定するための測定対象粒子となり、その長径は仮想長軸である線分rsの長さとして定まる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以下のようなメリットを有する。
・還元反応に供する鉄含有物質として鉄キレート錯体を使用するので、塩基性水溶液中でも水酸化鉄の生成を防止できる。そのため、添加した還元剤がすぐに分解されてしまう現象が防止され、磁気ビーズのコア材に適した所定のサイズまで鉄粒子の成長を十分に進行させることが可能となる。
・鉄キレート錯体を生成させるための錯化剤の種類、濃度によって、還元反応により形成される鉄粒子の一次粒子径を制御することができる。そのため、磁気ビーズの仕様に応じたサイズの鉄粒子を用意することができる。
・人体に害のない多糖類を使用することにより、還元生成した鉄粒子の凝集を抑制することができる。
・人体に害のない多糖類分解酵素で処理することにより、水やエタノールで容易に洗浄除去できる有機物質を表面に有する、液中分散性の良い鉄粒子が実現できる。
・本発明に従う手法で得られた単一の鉄粒子からなるコアを持つ磁気ビーズは、マグネタイトなどの磁性体物質とポリマーとの複合コアを持つ従来の磁気ビーズと比べ、高い飽和磁化を得る上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】結合粒を形成している鉄粒子が観察されるSEM写真。
図2】実施例1の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図3】実施例1の多糖類分解工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図4】実施例2の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図5】実施例2の多糖類分解工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図6】実施例3の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図7】実施例4の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図8】実施例4の多糖類分解工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図9】実施例5の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図10】実施例5の多糖類分解工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図11】実施例6の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図12】実施例7の還元工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
図13】実施例7の多糖類分解工程後の洗浄を終えた鉄粒子のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の鉄粒子の製造方法では、湿式プロセスでの還元反応によって鉄粒子を合成する。具体的には例えば以下の手順を採用することができる。
(多糖類含有液作製工程)→ 錯体形成工程 → 還元工程 →(多糖類分解工程)
括弧内の工程は必要に応じて実施される。
【0020】
[多糖類含有液作製工程]
後述のように、多糖類存在下の水溶液中で鉄粒子を還元析出させると、結合粒の形成を抑制する効果が得られる。多糖類を含有する溶液を使用する場合は、錯体形成工程の前に多糖類の添加操作を行っておくことが好ましい。多糖類は多数の単糖分子がグリコシド結合により重合した物質である。本発明では、いわゆるオリゴ糖と呼ばれるオリゴマー分子よりも、更に多くの単糖分子が重合した構造の多糖類を適用することが好ましい。具体的にはアミロペクチンを主成分とする多糖類が好適である。そのような多糖類の供給源として、片栗粉その他のデンプン含有物質を使用することができる。精製されたアミロペクチンを使用してもよい。この工程では、後述の還元工程において所望の多糖類含有量となるように、多糖類の添加量を調整しておく。これまでの研究によれば、アミロペクチン濃度として、0.007~0.5質量%の多糖類が存在している水溶液中で還元反応を進行させることにより、結合粒の形成抑制効果が大きいことが確認されている。
【0021】
還元反応時の多糖類含有液の作製手順としては、多糖類含有物質(デンプン、精製されたアミロペクチンなど)を水に添加し、60℃以上の適切な温度に加熱して多糖類分子をゲル化させ、その後、常温付近まで冷却させる手法が適用できる。これにより、多糖類分子がゲル状のネットワーク構造を形成して存在すると考えられる水溶媒(水を溶媒成分とする液状媒体)が得られる。
【0022】
[錯体形成工程]
還元反応に供する鉄含有物質として鉄キレート錯体を形成させる。錯化剤としては、例えばイミノ二酢酸(IDA;HN(CHCOH))、ニトリロ三酢酸(NTA;(CHCOH))、クエン酸(CA;C(OH)(CHCOOH)COOH)などを使用することができる。鉄源としては、例えば塩化第一鉄(FeCl)の水和物、硫酸第一鉄(FeSO)などの鉄塩を使用することができる。錯化剤の液中濃度は例えば、使用する鉄に対するモル比で3~10倍の範囲で設定すればよい。錯化剤の種類、および錯化剤の添加量によって還元工程で生成される粒子径を制御することができる。
【0023】
錯化剤と鉄塩の混合手順としては、例えば、水溶媒に錯化剤を溶解させ、pHを8~10に調整した水溶液とし、その水溶液中に鉄塩を添加する方法を採用することができる。多糖類を使用する場合は、錯化剤を溶解させる水溶媒として前述の多糖類含有液作製工程で得られた液を採用すればよい。鉄の酸化を防止するため、水溶媒は予め非酸化性のガスを通気させて脱気しておくことが望ましい。本明細書において、pH値は、JIS Z8802に基づき、測定するpH領域に応じた適切な緩衝液を用いて校正し、温度補償電極を備えたpH計によりガラス電極を用いて測定した値である。錯化剤と鉄塩を反応させる際の液温は例えば20~40℃とすることができる。このようにして、鉄キレート錯体が溶解している水溶液を得ることができる。
【0024】
[還元工程]
本発明では、塩基性水溶液中で、鉄キレート錯体の鉄を還元剤物質により還元することにより、鉄粒子を合成する。鉄キレート錯体は、多座配位子が鉄原子に配位した錯体である。発明者らの研究によれば、還元反応に供する鉄含有物質として鉄キレート錯体を使用することによって、サブミクロンオーダーあるいはそれより大きいサイズの球状鉄粒子を水溶液中での湿式プロセスで合成できることがわかった。還元に供する鉄含有物質として鉄キレート錯体を使用すると、急激な核生成を抑えながら粒子成長を促すことができ、結果的に、従来の湿式プロセスでは安定した合成が難しかった大きいサイズの鉄粒子が合成可能になったものと考えられる。
【0025】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)などを適用することができる。水溶液中で鉄粒子を鉄塩から直接還元析出させる際には、水酸化鉄の生成を防止することが重要である。水酸化鉄の生成は酸性領域で反応を進行させることにより防止できる。しかし、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤は酸性領域では安定に存在できないため、酸性領域でサイズの大きい鉄粒子にまで成長させることは難しい。この点、本発明では還元反応に供する鉄含有物質として錯体を使用するので、塩基性領域においても水酸化鉄の生成を防止できる。そこで、本発明では還元剤が安定に存在しうる塩基性領域で還元反応を進行させることにより、サイズの大きい鉄粒子への成長を促す。還元反応時の液のpHは例えば8~10の範囲とすることが好ましい。鉄キレート錯体と還元剤との反応による鉄粒子の合成は、鉄キレート錯体が溶解している塩基性水溶液と、還元剤が溶解している塩基性水溶液とを混合したのち、例えば20~40℃で30~180分撹拌することにより行うことができる。
【0026】
液中で生成した鉄の一次粒子同士が還元反応進行中に凝集すると、前述のように、一次粒子が連結した状態で成長した「結合粒」が形成されてしまう。結合粒を形成した粗大な粒子を後工程での分級操作によって除去すれば、単一の球状粒子を主体とする鉄粒子を製品として回収することは可能である。しかし、結合粒の生成量が多くなると製品歩留まりが悪くなる。発明者らは研究の結果、ゲル化した多糖類の分子が存在している水溶液中で還元反応を進行させることにより、結合粒の形成を抑制することが可能になることを見出した。多糖類としては、上述したように、例えばアミロペクチンを主成分とする多糖類が好適である。還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、例えばアミロペクチン濃度として、0.007~0.5質量%の範囲とすることが好ましく、0.03~0.2質量%とすることがより好ましい。
【0027】
多糖類分子がゲル状のネットワークを形成して存在している水溶液中で還元反応を進行させると、生成した鉄粒子が多糖類分子のゲル状ネットワークに保護されて、他の鉄粒子との凝集が阻害されるものと考えられ、結果的に結合粒の形成が抑制される。多糖類存在下で合成された鉄粒子の表面には多糖類分子の保護層が形成されており、液中での分散安定性を確保する上でも有効である。例えばエタノール等の有機溶媒中で安定して保存できる。すなわち、多糖類がゲル状のネットワークを形成して存在している水溶液中で還元反応を進行させることは、結合粒の形成抑制に有効であるとともに、得られた鉄粒子の保存安定性の向上にも有効である。
【0028】
合成される鉄粒子の平均一次粒子径は0.1~2.0μmであることが好ましく、0.3~1.0μmであることがより好ましい。粒子径が小さすぎると、単一の鉄粒子を使用した磁気ビーズを形成したときに磁気ビーズとしての磁化量が小さくなり、タンパク質を迅速に分離するうえで不利となる。一方、磁気ビーズが2.0μmを超えるような大きいサイズになると液中で沈降しやすくなり、分散性の点で不利となる。得られる鉄粒子のサイズは、キレート錯体の種類によって例えば平均一次粒子径0.1μm以上の範囲に制御できる他、還元工程で使用する液中に存在する錯化剤の濃度によっても調整可能である。前述の錯体形成工程で得られた反応液を引き続き還元工程での液状媒体として使用する場合は、未反応の錯化剤が液中にある程度残存していると考えられる。錯化剤分子は、合成された粒子の表面を保護する保護剤としても作用すると考えられる。粒子径を大きくするためには、錯化剤の残存が少ない液中で還元析出を行うこと、すなわち前述の錯体形成工程で鉄キレート錯体の化学量論組成に対して過剰な錯化剤の残存量が少なくなるように錯化剤の使用量を調整することが有効である。
【0029】
[多糖類分解工程]
多糖類存在下で合成された鉄粒子の表面には多糖類の被覆層が存在している。この鉄粒子を磁気ビーズとして利用するには、表面の多糖類分子を分解し、洗浄によって容易に除去できる状態とする必要がある。多糖類分子を分解する手法として、ここでは多糖類分解酵素を使用する。塩酸や希硫酸により多糖類分子を加水分解する方法は、鉄粒子の溶解を伴うので採用しない。多糖類に被覆された鉄粒子を回収してエタノール等の溶液で洗浄した後、多糖類分解酵素が溶解している溶液中で保持することにより、鉄粒子表面の多糖類を分解することができる。その溶液としては、鉄の溶解を防止するために弱酸である酢酸の緩衝液を使用することが望ましい。多糖類分解酵素としては、例えばアミラーゼを使用することができる。保持する溶液の温度は、使用する酵素が多糖類の分解に有効に作用する温度とする。アミラーゼの場合、例えば20~40℃とすればよい。
【0030】
分解された多糖類分子の一部は、より分子量の小さい糖類として鉄粒子の表面に吸着した状態で存在する。また、多糖類分解酵素の分子も鉄粒子の表面に吸着することが考えられる。多糖類分解酵素が溶解している液中に保持する処理を終えた鉄粒子を回収し、洗浄した後にも、上記の吸着分子の一部は鉄粒子の表面に付着して残存していると考えられる。洗浄後の鉄粒子として、例えば炭素含有量が0.5~8.0質量%、酸素含有量が10.0~30.0質量%であるものを得ることができる。このような炭素含有量、酸素含有量を呈する鉄粒子では、表面の付着物質が有機保護剤として鉄粒子の保存安定性に有効に機能すると考えられる。炭素含有量は4.0~8.0質量%、酸素含有量は21.0~25.0質量%であることがより好ましい。
【実施例0031】
[実施例1]
(多糖類含有液作製工程)
多糖類として試薬のアミロペクチンを用意した。三角フラスコに精製水200mLを入れ、加熱して沸騰させ、常温付近まで冷却した後、その液中に前記の多糖類0.006gを加えた。この液を加熱して75℃に到達後、その温度で5分間撹拌を行うことにより多糖類分子をゲル化させ、その後、常温付近まで冷却し、ゲル化した多糖類を含む水溶媒を得た。
【0032】
(錯体形成工程)
錯化剤としてイミノ二酢酸(東京化成工業株式会社製、HN(CHCOH)、モル質量=133.1g/mol)を用意した。鉄源物質として塩化第一鉄の水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、FeCl・4HO、モル質量=198.81g/mol)を用意した。多糖類含有液作製工程で得た水溶媒にAr+2.5体積%Hのアルゴン-水素混合ガスを流量100mL/minで通気させることにより1時間のバブリング処理を施した後、上記錯化剤1.5972gを添加した。この液に5mol/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液を15mL添加し、塩酸を添加してpHを10.5とした。その後、上記の鉄源物質0.59643gを添加して、鉄キレート錯体を形成させた。使用した錯化剤/Feモル比は4.0である。
【0033】
(還元工程)
還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、NaBH、モル質量=37.83g/mol)を用意した。精製水50mLに前記還元剤5.7gを溶解させ、pHが9.0である還元剤溶液を得た。錯体形成工程で得た液に塩酸を添加してpHを9.0に調整し、Ar+2.5体積%Hのアルゴン-水素混合ガスを流量100mL/minで通気させることにより1時間のバブリング処理を施した精製水を添加して全液量を250mLに調整した後、その液に前記還元剤溶液を投入し、30℃で2時間撹拌することにより鉄キレート錯体の鉄を還元させ、鉄粒子を合成した。還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.002質量%となる。
【0034】
(洗浄・回収)
還元工程で得られた反応液に対し、Ar+2.5体積%Hのアルゴン-水素混合ガスを流量100mL/minで通気させることにより1時間のバブリング処理を施した精製水を添加したのち上澄みを除去する洗浄操作を3回繰り返して行い、その後さらに、エタノールを添加したのち上澄みを除去する洗浄操作を3回繰り返して行った。この洗浄後の液中に存在する鉄粒子を磁石によって回収した。回収された鉄粒子は多糖類分子(アミロペクチン)に被覆されている。酸化防止のため、回収された粒子をエタノール中に保存した。
図2に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
【0035】
(多糖類分解工程)
多糖類分解酵素としてアミラーゼ(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用意した。また、酢酸緩衝溶液pH=4.8を作製した。上記の多糖類分解酵素を、上記の酢酸緩衝溶液中に液中濃度が0.001質量%となるように添加し、溶解させた。この多糖類分解酵素が溶解している酢酸緩衝溶液に、多糖類分子(アミロペクチン)に被覆された上記の鉄粒子を、鉄の質量換算で0.56g/Lとなるように投入し、35℃で30分保持した。
【0036】
(洗浄・回収)
多糖類分解工程を終えた液酢酸緩衝溶液に対し、Ar+2.5体積%Hのアルゴン-水素混合ガスを流量100mL/minで通気させることにより1時間のバブリング処理を施した精製水を添加したのち上澄みを除去する洗浄操作を3回繰り返して行い、その後さらに、エタノールを添加したのち上澄みを除去する洗浄操作を3回繰り返して行った。この洗浄後の液中に存在する鉄粒子を磁石によって回収した。回収された鉄粒子の表面には、多糖類が多糖類分解酵素によって分解された構造の糖類を含む有機物質が付着している。その有機物質の一部として多糖類分解酵素に由来する成分、および洗浄・保存に用いたエタノールに由来する成分も含まれていると考えられる。酸化防止のため、回収された粒子をエタノール中に保存した。
図3に、多糖類分解工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真下の白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
このようにして得られた洗浄・回収後の鉄粒子について、以下の調査を行った。
【0037】
(炭素および酸素含有量)
炭素・硫黄分析計および酸素・窒素分析計により炭素および酸素含有量を求めた。その結果、炭素含有量は1.9質量%、酸素含有量は17.0質量%であった。これらの元素は主として鉄粒子表面に付着している有機物質と酸化膜を構成するものである。
【0038】
(平均一次粒子径)
SEMによる鉄粒子の観察画像から、前掲の「平均一次粒子径の求め方」に従い、平均一次粒子径を求めた。測定対象粒子の総数が50個以上となるように、無作為に選んだ複数の視野のSEM画像を調べた。その結果、平均一次粒子径は0.79μmであった。
【0039】
(結合率)
平均一次粒子径の測定に用いたSEM画像について、画像中に一次粒子の全体または一部が見えている全ての一次粒子を、結合粒を構成していない粒子と、結合粒を構成している粒子に分類した。その判断は、上述のように、明らかな結合境界が存在するかどうかを基準に行った。下記(1)式により結合率を求めた。
結合率(%)=100×N/(N+N) …(1)
:結合粒を構成していない粒子の個数
:結合粒を構成している粒子の個数
本例で得られた鉄粒子の結合率は73%であった。
【0040】
(結晶子径Dx)
得られた鉄粒子について、X線回折装置を用いてCu-Kα線によるX線回折パターンを測定した。Fe(110)面の回折ピークから、下記(2)式に示すScherrerの式により結晶子径Dx(nm)を求めた。
Dx=K・λ/(β・cosθ) …(2)
ここで、KはScherrer定数で、1.0を採用した。λはCu-Kα線のX線波長0.154nm、βは上記回折ピークの半価幅(deg.)、θはブラッグ角(deg.)である。
本例で得られた鉄粒子の結晶子径Dxは0.41nmであった。
【0041】
[実施例2]
多糖類含有液作製工程において、アミロペクチンの使用量を0.015gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例では、還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.005質量%となる。
図4に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが2μmに相当する。
図5に、多糖類分解工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真下の白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が3.5質量%、酸素含有量が19.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.74μm、結合率が74%、結晶子径Dxが0.41nmであった。
【0042】
[実施例3]
多糖類含有液作製工程において、アミロペクチン使用量を0.03gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例では、還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.010質量%となる。
図6に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が4.0質量%、酸素含有量が22.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.67μm、結合率が40%、結晶子径Dxが0.37nmであった。
【0043】
(磁気特性)
本例では、得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)の磁気特性を、VSM(カンタムデザイン社製、DynaCool)により測定した。測定条件は、最大印加磁場2T、掃引速度0.01T/s、時定数1s、振幅2mm、周波数40kHzである。測定の結果、温度300Kにおいて保磁力は2.71kA/m(34Oe)、飽和磁化σsは59A・m/kg、角形比SQ(残留磁化σr/飽和磁化σs)は0.042であった。
【0044】
[実施例4]
多糖類含有液作製工程において、アミロペクチンの使用量を0.06gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例では、還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.020質量%となる。
図7に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
図8に、多糖類分解工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真下の白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が4.2質量%、酸素含有量が25.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.62μm、結合率が39%、結晶子径Dxが0.37nmであった。
【0045】
[実施例5]
多糖類含有液作製工程において、アミロペクチンの使用量を0.15gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例では、還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.050質量%となる。
図9に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
図10に、多糖類分解工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真下の白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が5.0質量%、酸素含有量が21.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.75μm、結合率が17%、結晶子径Dxが0.41nmであった。
【0046】
[実施例6]
多糖類含有液作製工程において、アミロペクチンの使用量を0.3gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例では、還元反応進行中の液における多糖類の存在量は、アミロペクチン濃度として、0.100質量%となる。
図11に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(多糖類分解工程後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が6.0質量%、酸素含有量が21.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.76μm、結合率が11%、結晶子径Dxが0.42nmであった。また、実施例3と同様の方法で磁気特性を測定したところ、温度300Kにおいて保磁力は3.98kA/m(50Oe)、飽和磁化σsは65A・m/kg、角形比SQ(残留磁化σr/飽和磁化σs)は0.046であった。
【0047】
[実施例7]
多糖類含有液作製工程を省略し、錯体形成工程に供する水溶媒として多糖類を含有しない精製水を適用したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。本例の還元工程後の段階で回収された鉄粒子は表面に多糖類の被覆層を有していないが、実施例1の多糖類分解工程と同様の条件で鉄粒子を多糖類分解酵素が溶解している液中に保持する処理を施した。
図12に、還元工程後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真右下のスケール10目盛りが1μmに相当する。
図13に、多糖類分解酵素による処理後の洗浄を終えて回収された鉄粒子のSEM写真を例示する。写真下の白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
得られた鉄粒子(糖類分解酵素による処理後に洗浄・回収されたもの)は、炭素含有量が1.2質量%、酸素含有量が13.0質量%、SEM観察による平均一次粒子径が0.81μm、結合率が75%、結晶子径Dxが0.39nmであった。鉄粒子の分析で検出された炭素および酸素のほとんどは、洗浄・保存に用いたエタノールに由来する成分であると考えられる。
以上の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
還元反応に供する鉄含有物質として鉄キレート錯体を適用して塩基性環境下で鉄粒子を生成させることにより、サブミクロンオーダーの平均一次粒子径を呈する鉄粒子が合成できた。また、ゲル化した多糖類が適切な濃度で存在する環境下で還元反応を進行させることにより、結合粒の形成を顕著に抑制する効果が得られることが確認された。
【0050】
なお、実施例1~6の多糖類含有液作製工程と同様の方法で得た多糖類含有液、および多糖類無添加の精製水をそれぞれ15mL取り、この液に、酢酸緩衝溶液pH=4.8にアミラーゼを0.001質量%となるように混合した液15mLを添加し、35℃で30分加熱した後、0.05Mヨウ素溶液を20μg添加し、呈色度を吸光度測定により評価したところ、いずれの例でも289nm、348nm、615nm波長の吸光度にほとんど差が見られなかった。すなわち、多糖類の分子はほとんど分解されていることがわかった。この結果から、実施例1~6の多糖質分解工程後に洗浄・回収した鉄粒子の表面に付着している有機物質についても、多糖類の分子はほぼ分解されているものと評価される。
【0051】
次に、合成される鉄粒子の一次粒子径に及ぼす錯化剤の種類、添加量の影響を調べた実験例(実施例8~13)を示す。ここでは、実施例1と概ね同様の方法で、「錯体形成工程→還元工程→洗浄・回収」の手順により鉄粒子を得た。多糖類は使用していない。また、水溶媒や洗浄に用いた精製水は、アルゴン-水素混合ガスによるバブリングを施していないものである。
[実施例8]
錯体形成工程において、錯化剤としてイミノ二酢酸(IDA;HN(CHCOH))、鉄源物質として塩化第一鉄の水和物(FeCl・4HO)を使用し、鉄イオン濃度0.01M、錯化剤/Feモル比=4の条件で鉄キレート錯体を形成させた。還元工程において、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を使用し、pH=9.0にて前記還元剤濃度が0.5Mとなる条件で鉄粒子を合成した。
還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.45μmであった。
【0052】
[実施例9]
錯体形成工程において、錯化剤/Feモル比=10の条件で鉄キレート錯体を形成させたことを除き、実施例8と同様の条件で鉄粒子を合成した。還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.28μmであった。
【0053】
[実施例10]
錯体形成工程において、錯化剤としてニトリロ三酢酸(NTA;(CHCOH))を使用したこと、錯化剤/Feモル比=3の条件で鉄キレート錯体を形成させたことを除き、実施例8と同様の条件で鉄粒子を合成した。還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.38μmであった。
【0054】
[実施例11]
錯体形成工程において、錯化剤/Feモル比=10の条件で鉄キレート錯体を形成させたことを除き、実施例10と同様の条件で鉄粒子を合成した。還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.23μmであった。
【0055】
[実施例12]
錯体形成工程において、錯化剤としてクエン酸(CA;C(OH)(CHCOOH)COOH)を使用したこと、錯化剤/Feモル比=5の条件で鉄キレート錯体を形成させたことを除き、実施例8と同様の条件で鉄粒子を合成した。還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.178μmであった。
【0056】
[実施例13]
錯体形成工程において、錯化剤/Feモル比=10の条件で鉄キレート錯体を形成させたことを除き、実施例12と同様の条件で鉄粒子を合成した。還元工程後の段階で回収された鉄粒子は、SEM観察による平均一次粒子径が0.147μmであった。
実施例8~13の結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13