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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094612
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230628BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230628BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230628BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230628BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230628BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08L101/00
C08K7/02
C08J5/04 CEZ
H05K7/20 F
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206602
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021209390
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健
【テーマコード(参考)】
4F071
4F072
4J002
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA84
4F071AD07
4F071AF40
4F071AF44Y
4F071AF58
4F071AH12
4F071BB03
4F071BC01
4F072AA08
4F072AB04
4F072AB17
4F072AB28
4F072AD04
4F072AG02
4F072AK05
4F072AK16
4F072AL11
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB032
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BE031
4J002BG021
4J002CM022
4J002DA016
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA096
4J002DE146
4J002DF016
4J002DK006
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD010
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD130
4J002FD140
4J002GQ00
5E322AB06
5E322EA11
5E322FA04
5F136BC03
5F136BC07
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA23
5F136FA51
5F136FA62
5F136FA63
5F136FA64
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】従来のTIMとヒートスプレッダーに代わる新たな放熱構造を構成することが可能な新規の樹脂シートの提供。
【解決手段】樹脂シート1であって、樹脂シート1は、熱伝導性有機繊維11と、熱可塑性樹脂12と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートであって、
前記樹脂シートは、熱伝導性繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む、樹脂シート。
【請求項2】
前記樹脂シートの面方向における熱伝導率が、10W/m・K以上である、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記熱伝導性繊維が熱伝導性有機繊維である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記熱伝導性有機繊維がクロスを形成している、請求項3に記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の融点が90℃以下である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、前記装着対象物の形状に対して前記樹脂シートの形状を追従させながら貼付するためのものである、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項7】
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの比誘電率が、4以下である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項8】
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの誘電正接が、0.01以下である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
中央処理装置(central processing unit、本明細書においては、「CPU」と略記する)は、コンピューターを構成する代表的なデバイスの1種である。CPUの発熱量は、コンピューターの動作時に飛躍的に多くなる。これに対して、近年は、電子機器の高性能化、小型化及び軽量化に伴って、半導体パッケージの高密度実装化、LSIの高集積化、及び処理の高速化が進み、電子機器において発生する熱への対策が、極めて重要になっている。
【0003】
通常の電子機器においては、回路基板上に配置されたCPUに対して、熱界面材料(Thermal Interface Material、本明細書においては、「TIM」と略記する)を介してヒートスプレッダーが装着され、このヒートスプレッダーがヒートシンクに接触して配置されている。これにより、電子機器においては、CPUで発生した熱が、TIMを介してヒートスプレッダーに伝導され、さらにプレート状のこのヒートスプレッダーによって、その面方向に熱が伝導され、ヒートシンクを介して電子機器の外部に熱が放散される(特許文献1参照)。
【0004】
従来、CPUに対してこのような放熱構造を採用する理由は、以下のとおりである。すなわち、ヒートスプレッダーは、金属又はグラファイト等で構成され、その面方向での熱伝導率が高く、放熱性が高い反面、冷却対象物(CPU)に対する追従性を有さず、冷却対象物(CPU)に対する密着性も不十分であり、さらに絶縁性を有していない。一方で、TIMは、冷却対象物(CPU)に対する追従性と密着性を有し、さらに絶縁性を有している反面、熱伝導率が不十分である。そのため、これら(ヒートスプレッダー及びTIM)を組み合わせて用い、上述の放熱構造を採用することで、これらの欠点を補完している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/139364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような従来の電子機器では、TIMとヒートスプレッダーを必須の構成とする限り、部品点数が多くなり、CPUの放熱構造も嵩張ったものに限定されてしまい、電子機器の構成も限定され、さらなる小型が困難になっている。そして、TIMとヒートスプレッダーに代わるものとしては、絶縁性や追従性が必要であることを考慮すると、樹脂シートを用いることが適切であるが、そのような樹脂シートはこれまで知られていない。
なお、ここまでは、CPUを例に挙げて説明したが、CPUと同様の発熱体を備えた他の機器でも、同様の問題点が生じ得る。
【0007】
本発明は、従来のTIMとヒートスプレッダーに代わる新たな放熱構造を構成することが可能な新規の樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を採用する。
[1] 樹脂シートであって、前記樹脂シートは、熱伝導性繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む、樹脂シート。
[2] 前記樹脂シートの面方向における熱伝導率が、10W/m・K以上である、[1]に記載の樹脂シート。
[3] 前記熱伝導性繊維が熱伝導性有機繊維である、[1]又は[2]に記載の樹脂シート。
[4] 前記熱伝導性有機繊維がクロスを形成している、[3]に記載の樹脂シート。
【0009】
[5] 前記熱可塑性樹脂の融点が90℃以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂シート。
[6] 前記樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、前記装着対象物の形状に対して前記樹脂シートの形状を追従させながら貼付するためのものである、[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂シート。
[7] TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの比誘電率が、4以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂シート。
[8] TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの誘電正接が、0.01以下である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の樹脂シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のTIMとヒートスプレッダーに代わる新たな放熱構造を構成することが可能な新規の樹脂シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の樹脂シートの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態の一例を模式的に示す断面図である。
図3】本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態の他の例を模式的に示す断面図である。
図4】本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図5】本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図6】本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図7】本実施形態の樹脂シートとヒートスプレッダーを併用し、本実施形態の樹脂シートを発熱体に装着した状態の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<樹脂シート>>
本発明の一実施形態に係る樹脂シートは、熱伝導性繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む。
本実施形態の樹脂シートは、前記熱伝導性繊維(例えば、後述する熱伝導性有機繊維、熱伝導性無機繊維等)を含んでおり、熱伝導率が高く、放熱性が高い。また、前記熱可塑性樹脂は、加熱条件下では柔軟である。このような熱可塑性樹脂と熱伝導性繊維を含む本実施形態の樹脂シートは、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有する。また、本実施形態の樹脂シートは、その表層領域が前記熱可塑性樹脂で構成されていることで、絶縁性を有する。このような特性を有する本実施形態の樹脂シートは、CPU(central processing unit、中央処理装置)等の発熱体に対して、その表面を被覆して装着することで、各種電子機器において、新たな放熱構造を構成可能であり、各種電子機器での発熱を抑制できる。また、CPUに限定されず、CPUと同様の発熱体を備えた他の機器でも、放熱構造を構成可能であり、発熱を抑制できる。
【0013】
本実施形態の樹脂シートは、後述するように、その装着対象物に対して加熱しながら貼付することによって、装着対象物に容易に隙間なく密着させることができる。すなわち、本実施形態の樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、装着対象物の形状に対して樹脂シートの形状を追従させながら貼付するためのものとして、好適である。
【0014】
<熱伝導性繊維>
前記熱伝導性繊維は、一定値以上の熱伝導率を有する繊維であれば、特に限定されない。
前記熱伝導性繊維は、1本の熱伝導性繊維で構成された単繊維であってもよいし、複数本の熱伝導性単繊維によって構成された繊維束であってもよい。
【0015】
前記熱伝導性繊維は、例えば、熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維のいずれかであってもよい。
前記熱伝導性無機繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維、窒化アルミニウム繊維等が挙げられ、柔軟性、形状追従性の観点からは、金属繊維が好ましい。
【0016】
熱伝導性繊維(例えば、熱伝導性有機繊維、熱伝導性無機繊維等)の熱伝導率は、20W/m・K以上であることが好ましく、40W/m・K以上であることがより好ましく、60W/m・K以上であることがさらに好ましい。熱伝導性繊維の熱伝導率が前記下限値以上であることで、本実施形態の樹脂シートの熱伝導率を目的とする値に、より容易に調節できる。
熱伝導性繊維の熱伝導率の上限値は、特に限定されない。例えば、熱伝導率が100W/m・K以下である熱伝導性繊維は、入手が容易である。
熱伝導性繊維の熱伝導率は、例えば、20~100W/m・K、40~100W/m・K、及び60~100W/m・Kのいずれかであってもよい。ただし、これらは、熱伝導性繊維の熱伝導率の一例である。
【0017】
熱伝導性繊維の熱伝導率は、例えば、ISO 22007-2に準拠して、ホットディスク法により測定できる。例えば、熱伝導率が既知の樹脂で熱伝導性繊維を包埋したシートを作製し、ホットディスク法熱物性測定装置(例えば、京都電子工業社製の「TPS 2500 S」、「TPS 500 S」等)を用いて、シートの面方向の熱伝導率を測定し、その測定値と、熱伝導性繊維の体積分率から、熱伝導性繊維の熱伝導率を求めることができる。
【0018】
前記樹脂シートが含む前記熱伝導性繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。例えば、前記樹脂シートは、1種又は2種以上の前記熱伝導性有機繊維を含み、前記熱伝導性無機繊維を含んでいなくてもよいし、1種又は2種以上の前記熱伝導性無機繊維を含み、前記熱伝導性有機繊維を含んでいなくてもよいし、1種又は2種以上の前記熱伝導性有機繊維と、1種又は2種以上の前記熱伝導性無機繊維と、をともに含んでいてもよい。
前記樹脂シートが含む前記熱伝導性繊維が2種以上である場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
本明細書においては、熱伝導性繊維を構成する材料の種類が互いに異なる場合に、これら熱伝導性繊維の種類が互いに異なるものとして扱う。
【0019】
本発明の一実施形態に係る樹脂シートの一例としては、熱伝導性有機繊維と、熱可塑性樹脂と、を含み、前記樹脂シートの面方向における熱伝導率が、10W/m・K以上である樹脂シートが挙げられる。
本実施形態の樹脂シートは、前記熱伝導性有機繊維を含んでおり、熱伝導率が高く、放熱性が高い。また、前記熱可塑性樹脂は、加熱条件下では柔軟である。このような熱可塑性樹脂と熱伝導性有機繊維を含む本実施形態の樹脂シートは、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有する。また、本実施形態の樹脂シートは、その表層領域が前記熱可塑性樹脂で構成されていることで、絶縁性を有する。このような特性を有する本実施形態の樹脂シートは、CPU(central processing unit、中央処理装置)等の発熱体に対して、その表面を被覆して装着することで、各種電子機器において、新たな放熱構造を構成可能であり、各種電子機器での発熱を抑制できる。また、CPUに限定されず、CPUと同様の発熱体を備えた他の機器でも、放熱構造を構成可能であり、発熱を抑制できる。
【0020】
[熱伝導性有機繊維]
前記熱伝導性有機繊維は、有機材料からなる繊維であり、熱伝導性を有する。
前記熱伝導性有機繊維を構成する前記有機材料は、樹脂成分である。
好ましい前記有機材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)が挙げられ、延伸処理されたポリエチレンが挙げられる。このようなポリエチレンの市販品としては、例えば、超高分子量ポリエチレンを、その分子長方向において高度に配向させた繊維である、東洋紡社製「イザナス(登録商標)」が挙げられる。
好ましい前記有機材料としては、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)(「PBO」とも称される)も挙げられ、その市販品としては、例えば、東洋紡社製「ザイロン(登録商標)」が挙げられる。
これらの有機材料で構成された熱伝導性有機繊維は、複数本の繊維が同一方向に配向し易い特性を有しており、高強度であるとともに、その繊維長方向において熱伝導性に優れる(熱伝導率が高い)という特性も有し、特に好適である。
【0021】
熱伝導性有機繊維は、それ自体が絶縁性であることが好ましい。熱伝導性有機繊維自体が絶縁性であることにより、前記樹脂シートを絶縁性とすることが、より容易となる。例えば、上述のポリエチレン及びポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)は、いずれも絶縁性である。
【0022】
前記熱伝導性有機繊維は、クロス(織物)を形成していることが好ましい。本実施形態においては、例えば、繊維長が短い熱伝導性有機繊維によって形成された不織布を用いてもよいが、熱伝導性有機繊維のクロスを用いることで、前記樹脂シートにおいて、熱伝導性有機繊維の分散性及び充填性、並びに面方向における放熱性がより良好となる。さらに、熱伝導性有機繊維のクロスを有する前記樹脂シートは、強度、靭性及び屈曲性が高く、かつ、熱伝導性有機繊維間の間隔が変化することによって、装着対象物に対する追従性がより高い。さらに、このような樹脂シートは、その加熱時において、前記熱可塑性樹脂の溶出を抑制するより高い効果を有する。さらに、このような樹脂シートは、これを備えた電子機器等の各種機器を修理するときなど、必要なときに、その装着対象物を破損させることなく装着対象物から剥離し易い。
【0023】
前記熱伝導性有機繊維が形成しているクロスの織り方は、特に限定されず、平織り等、公知の織り方であってよい。
前記クロスは、熱伝導性有機繊維が束ねられ、拡繊され、前記熱可塑性樹脂で固められてテープ状となったものが、平織り等の公知の織り方で織られた拡繊織物であってもよい。
【0024】
前記熱伝導性有機繊維のクロスの目付(単位あたりの質量)は、特に限定されないが、10~200g/mであることが好ましく、15~180g/mであることがより好ましく、20~150g/mであることがさらに好ましい。前記目付が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。前記目付が前記上限値以下であることで、前記クロスへ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなり、かつ、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。前記熱伝導性有機繊維のクロスに限らず、クロスの目付は、例えば、JIS L 1096 A法により測定できる。
【0025】
前記熱伝導性有機繊維のクロスの厚さは、特に限定されないが、20~300μmであることが好ましく、30~280μmであることがより好ましく、40~250μmであることがさらに好ましい。前記厚さが前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。前記厚さが前記上限値以下であることで、前記クロスへ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなり、かつ、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。クロスの厚さは、例えば、JIS L 1096 A法(一定圧力:23.5MPa)により測定できる。
【0026】
前記樹脂シートが含む前記熱伝導性有機繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。本明細書においては、熱伝導性有機繊維を構成する前記有機材料の種類が互いに異なる場合に、これら熱伝導性有機繊維の種類が互いに異なるものとして扱う。
【0027】
前記熱伝導性有機繊維のクロスを形成している熱伝導性有機繊維を構成している有機材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0028】
前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスは、1層のみであってもよいし、2層以上の複数層であってもよい。前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスが、複数層である場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0029】
本明細書においては、前記熱伝導性有機繊維のクロスの場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0030】
前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスが2層以上である場合、その層数は、目的に応じて任意に選択できる。例えば、前記樹脂シートが含む前記クロスの層数は、2~40であることが好ましく、2~30、及び2~20のいずれかであってもよいし、10~40、及び15~40のいずれかであってもよいし、10~30であってもよい。ただし、これらは、前記層数の一例である。
【0031】
前記熱伝導性有機繊維がクロスを形成していない場合には、前記樹脂シートが含む少なくとも一部の、好ましくはすべての、前記熱伝導性有機繊維の繊維長方向を、同一又は略同一として配向させてもよいし、すべての前記熱伝導性有機繊維の繊維長方向を配向させなくてもよい。
なお、本明細書においては、熱伝導性有機繊維の場合に限らず、繊維長方向が略同一であるとは、繊維長方向が意図的に同一となるように調節されたと認識できる程度に、繊維の繊維長方向が配向していることを意味する。
【0032】
前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合は、10~80体積%であることが好ましく、例えば、20~70体積%、及び40~60体積%のいずれかであってもよいし、10~55体積%、及び10~30体積%のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。前記割合が前記上限値以下であることで、前記熱伝導性有機繊維(例えばクロス)へ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなり、かつ、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
【0033】
[熱伝導性無機繊維]
(金属繊維)
前記金属繊維(熱伝導性金属繊維)は、金属からなる繊維であり、熱伝導性を有する。
前記金属繊維を構成する金属は、単体金属及び合金のいずれであってもよい。
熱伝導率がより高く、柔軟性がより高い点では、好ましい前記金属としては、例えば、銅、アルミニウム等が挙げられる。すなわち、好ましい前記金属繊維としては、例えば、銅繊維、アルミニウム繊維等が挙げられる。銅繊維、アルミニウム繊維等を用いることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなり、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
特に、銅の熱伝導率は、他の金属の熱伝導率よりも高い傾向にあるため、銅繊維を含む前記樹脂シートは、その熱伝導率がより高い点で好ましい。また、銅繊維を含む前記樹脂シートは、電磁波シールド性が必要な場合に(電磁波シールド性シートとして)好適である。
一方、アルミニウムの比重は、他の金属の比重よりも小さい傾向にあるため、アルミニウム繊維を含む前記樹脂シートは、より軽量である点で好ましい。
【0034】
前記金属繊維の繊維径(繊維の太さ)は、特に限定されないが、50μm以上であることが好ましい。金属繊維の繊維径が前記下限値以上であることで、金属繊維の強度がより高くなるとともに、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。
一方、金属繊維の繊維径は、100μm以下であることが好ましい。金属繊維の繊維径が前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
【0035】
前記金属繊維は、メッシュ(網目)を形成していてもよい。金属繊維のメッシュを含む前記樹脂シートは、強度、靭性及び屈曲性が高く、かつ、装着対象物に対する追従性がより高い。さらに、このような樹脂シートは、その加熱時において、前記熱可塑性樹脂の溶出を抑制するより高い効果を有する。
【0036】
前記金属繊維が形成しているメッシュの織り方は、特に限定されず、平織り等、公知の織り方であってよい。
【0037】
前記金属繊維のメッシュのサイズ、すなわち、1インチ(2.54cm)の距離に存在する網目の数は、特に限定されないが、100~200メッシュであることが好ましい。金属繊維のメッシュのサイズが前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。金属繊維のメッシュのサイズが前記上限値以下であることで、前記メッシュへ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなり、かつ、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
【0038】
前記金属繊維のメッシュの厚さは、特に限定されないが、50~200μmであることが好ましく、60~150μmであることがより好ましい。前記厚さが前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの熱伝導率がより高くなる。前記厚さが前記上限値以下であることで、前記メッシュへ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなり、かつ、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。メッシュの厚さは、例えば、マイクロメータを用いて測定できる。
【0039】
前記樹脂シートが含む前記金属繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。本明細書においては、金属繊維を構成する金属の種類が互いに異なる場合に、これら金属繊維の種類が互いに異なるものとして扱う。
【0040】
前記金属繊維のメッシュを形成している金属繊維を構成している金属は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0041】
前記樹脂シートが含む、前記金属繊維のメッシュは、1層のみであってもよいし、2層以上の複数層であってもよい。前記樹脂シートが含む、前記金属繊維のメッシュが、複数層である場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0042】
前記樹脂シートが含む、前記金属繊維のメッシュが2層以上である場合、その層数は、目的に応じて任意に選択でき、例えば、前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスの層数と、同様であってよい。
【0043】
前記樹脂シートが含む前記金属繊維は、銅繊維又はアルミニウム繊維であることが好ましく、前記銅繊維又はアルミニウム繊維はメッシュを形成していることが好ましい。
【0044】
前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記金属繊維の体積の割合は、例えば、前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合と、同様であってよい。前記金属繊維の体積の割合を規定した場合に得られる効果は、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合を規定した場合に得られる効果と、同様である。
【0045】
(炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維、窒化アルミニウム繊維)
前記樹脂シートは、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維からなる群より選択される1種又は2種以上を含んでいてもよい。前記樹脂シートが、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維からなる群より選択される2種以上を含む場合には、これら2種以上の繊維の組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0046】
前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維は、公知のものであってよい。
【0047】
前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維の繊維径(繊維の太さ)は、上記の金属繊維の繊維径と同様であってよい。
【0048】
前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維は、メッシュ(網目)を形成していてもよい。これら繊維のメッシュを含む前記樹脂シートは、強度、靭性及び屈曲性が高く、かつ、装着対象物に対する追従性がより高い。さらに、このような樹脂シートは、その加熱時において、前記熱可塑性樹脂の溶出を抑制するより高い効果を有する。
【0049】
前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維が形成しているメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さは、例えば、上記の金属繊維が形成しているメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さと同様であってよい。これら繊維が形成しているメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さを規定した場合に得られる効果は、上記の金属繊維が形成しているメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さを規定した場合に得られる効果と、同様である。
【0050】
前記樹脂シートが含む、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維のメッシュは、1層のみであってもよいし、2層以上の複数層であってもよい。前記樹脂シートが含む、前記炭素繊維のメッシュが、複数層である場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0051】
前記樹脂シートが含む、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維のメッシュが2層以上である場合、その層数は、目的に応じて任意に選択でき、例えば、前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスの層数と、同様であってよい。
【0052】
前記熱伝導性無機繊維がメッシュを形成していない場合には、前記樹脂シートが含む少なくとも一部の、好ましくはすべての、前記熱伝導性無機繊維の繊維長方向を、同一又は略同一として配向させてもよいし、すべての前記熱伝導性無機繊維の繊維長方向を配向させなくてもよい。
【0053】
前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維の合計体積の割合は、例えば、前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合と、同様であってよい。前記合計体積の割合を規定した場合に得られる効果は、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合を規定した場合に得られる効果と、同様である。
【0054】
[熱伝導性複合シート]
前記樹脂シートが前記熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維をともに含む場合には、これら熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維は、複合化して織られ、クロス又はメッシュを形成していてもよい。本明細書においては、このような複合化されたクロス又はメッシュを「複合シート」と称することがある。前記複合シートは、熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維をともに有する。
【0055】
本明細書においては、前記複合シートのうち、熱伝導性有機繊維の本数が熱伝導性無機繊維の本数に対して同等以上であるものを、クロスと称する。これとは反対に、前記複合シートのうち、熱伝導性無機繊維の本数が熱伝導性有機繊維の本数に対して同等以上であるものを、メッシュと称する。
【0056】
前記複合シートとして、より具体的には、例えば、前記熱伝導性有機繊維と、前記金属繊維と、が複合化した複合シート;前記熱伝導性有機繊維と、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維からなる群より選択される1種又は2種以上と、が複合化した複合シート;前記金属繊維と、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維からなる群より選択される1種又は2種以上と、が複合化した複合シート;前記熱伝導性有機繊維と、前記金属繊維と、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維からなる群より選択される1種又は2種以上と、が複合化した複合シートが挙げられる。
【0057】
前記複合シートを形成している、前記熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維、より具体的には、前記熱伝導性有機繊維、金属繊維、炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0058】
前記複合シートのクロスの織り方、クロスの目付、及びクロスの厚さは、例えば、上記の熱伝導性有機繊維が形成しているクロスの織り方、クロスの目付、及びクロスの厚さと同様であってよい。
前記複合シートのメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さは、例えば、上記の金属繊維が形成しているメッシュの織り方、メッシュのサイズ、及びメッシュの厚さと同様であってよい。
前記複合シートのクロス又はメッシュの上記の各項目を規定した場合に得られる効果は、上記の熱伝導性有機繊維又は金属繊維の上記の各項目を規定した場合に得られる効果と、同様である。
【0059】
前記樹脂シートが含む、前記複合シートのクロス又はメッシュは、1層のみであってもよいし、2層以上の複数層であってもよい。前記樹脂シートが含む、前記複合シートのクロス又はメッシュが、複数層である場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0060】
前記樹脂シートが含む、前記複合シートのクロス又はメッシュが2層以上である場合、その層数は、目的に応じて任意に選択でき、例えば、前記樹脂シートが含む、前記熱伝導性有機繊維のクロスの層数と、同様であってよい。
【0061】
前記複合シートがクロス及びメッシュを形成していない場合には、前記樹脂シートが含む少なくとも一部の、好ましくはすべての、前記熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維の繊維長方向を、同一又は略同一として配向させてもよいし、すべての熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維の繊維長方向を配向させなくてもよい。
【0062】
前記複合シートにおいて、前記複合シートの体積に対する、前記熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維の合計体積の割合は、例えば、前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの体積に対する、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合と、同様であってよい。前記熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維の合計体積の割合を規定した場合に得られる効果は、前記熱伝導性有機繊維の体積の割合を規定した場合に得られる効果と、同様である。
【0063】
[好ましい熱伝導性繊維の例]
前記熱伝導性繊維は、前記熱伝導性有機繊維又は金属繊維であることが好ましく、前記熱伝導性有機繊維であることがより好ましい。前記熱伝導性繊維のうち、前記炭素繊維、酸化アルミニウム繊維、窒化ホウ素繊維及び窒化アルミニウム繊維は、その取り扱い時又は加工時に、粉体が生成し易すく、それに対する対策を講じない場合には、作業者の健康に支障をきたす恐れがある。また、それに対する対策を講じる場合には、前記樹脂シートの製造コストが上昇する可能性がある。また、これら繊維の中でも、特に炭素繊維の粉体は、導電性を有しており、前記樹脂シートの装着対象物中の回路に、炭素繊維の粉体が付着すると、回路が短絡(ショート)する可能性がある。これに対して、前記熱伝導性有機繊維及び金属繊維は、その取り扱い時又は加工時に、粉体が生成し難い。そのため、前記熱伝導性有機繊維又は金属繊維を用いた場合には、上記の不具合を容易に回避できる。
【0064】
<熱可塑性樹脂>
前記樹脂シートは、前記熱可塑性樹脂を含んでいることにより、シート状の形状を保持でき、また、その装着対象物に対する追従性及び密着性を有する。
【0065】
前記熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、前記樹脂シートをその装着対象物に対して加熱プレスすることにより装着するときの加熱温度よりも低い融点を有することが好ましい。このような樹脂シートを、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度で、その装着対象物に対して加熱プレスすることにより、樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
【0066】
前記熱可塑性樹脂の融点は、90℃以下であることが好ましく、例えば、80℃以下、及び70℃以下のいずれかであってもよい。前記上限値以下の融点の熱可塑性樹脂を用いることにより、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性を高くすることが、より容易となる。さらに、前記上限値以下の融点の熱可塑性樹脂を用いることにより、前記熱伝導性繊維(例えば、熱伝導性有機繊維、熱伝導性無機繊維等)の空隙部に、熱可塑性樹脂をより高密度で充填でき、前記樹脂シートの強度がより高くなる。さらに、熱可塑性樹脂と、後述する熱伝導性フィラーを併用する場合には、熱伝導性フィラーを、前記熱伝導性繊維の空隙部をはじめとして、前記樹脂シートの内部(特に前記樹脂シートの厚さ方向の領域)に、より均一に分散せることができ、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる。
前記熱可塑性樹脂の融点の下限値は、特に限定されない。例えば、融点が35℃以上の熱可塑性樹脂は、より容易に入手又は製造できる。
前記熱可塑性樹脂の融点は、例えば、35~90℃、35~80℃、及び35~70℃のいずれかであってもよい。ただし、これらは、熱可塑性樹脂の融点の一例である。
【0067】
熱伝導性繊維の空隙部とは、熱伝導性繊維同士の間の隙間であり、例えば、隣接する2本の熱伝導性繊維同士の間の隙間、2枚の熱伝導性繊維のクロス同士、メッシュ同士、又はクロス及びメッシュの間の隙間が該当する。熱伝導性繊維が、複数本の熱伝導性単繊維によって構成された繊維束である場合には、これら複数本の熱伝導性単繊維同士の間の隙間も、熱伝導性繊維の空隙部に該当する。
【0068】
熱可塑性樹脂は、その温度の上昇時に、融点付近で固体から液体へ相変化する。熱可塑性樹脂は、この固体から液体への相変化時に吸熱するため、熱可塑性樹脂を用いることで、発熱体の急激な温度上昇を抑制できる。一方、熱可塑性樹脂は、その液体から固体への相変化時に発熱するため、熱可塑性樹脂を用いることで、発熱体の急激な温度低下(冷却)を抑制できる。このような温度変化に対する機能を、蓄熱潜熱機能と呼ぶ。例えば、CPUの発熱は、その処理スピード等に応じて時間的に変化する。CPUは、その処理スピードが速いと急激に発熱する場合があり、蓄熱潜熱機能が適用されると、その動的な熱変化が緩和される。電子機器においては、CPUを保護するために、CPUが80℃程度の温度になると、自動的にCPUの処理スピードを落とすことで、発熱を抑える機能が付与されていることがある(この機能をサーマルスロットリングという)。このような電子機器においては、前記熱可塑性樹脂の融点は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。前記樹脂組成物が2種以上の前記熱可塑性樹脂を含む場合など、前記樹脂組成物中の前記熱可塑性樹脂が二以上の融点を示す場合には、少なくとも一の融点が、上記の範囲であることが好ましい。これらの温度帯に熱可塑性樹脂の融点が存在すると、蓄熱潜熱機能によって、サーマルスロットリングによるCPUの処理スピードの低下が抑制され、電子機器の使用時の快適性が向上する。
【0069】
前記熱可塑性樹脂のメルトフローレート(本明細書においては、「MFR」と称することがある)は、1~40g/10minであることが好ましく、例えば、5~40g/10min、及び10~40g/10minのいずれかであってもよい。熱可塑性樹脂のMFRが前記下限値以上であることで、前記熱伝導性繊維(例えばクロス又はメッシュ)へ熱可塑性樹脂がより含浸し易くなる。熱可塑性樹脂のMFRが前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの形状をより安定して保持できる。
本明細書においては、特に断りのない限り、MFRとは、JIS K 6922-1に準拠して測定した値を意味する。
【0070】
好ましい前記熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリル樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリエチレン、エチレン- 不飽和カルボン酸エステル共重合体等が挙げられる。これら樹脂は、その加熱時に吸熱作用を示すため、これら樹脂を含む前記樹脂シートは、より高い放熱性を有する。
なお、前記熱可塑性樹脂はシリコーンではないことが好ましい。シリコーンは、その分解によって、シロキサン結合を有する分解物を生成し得るが、この分解物は、回路基板の特性を損ねる可能性がある。
【0071】
前記アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸からなる群より選択される1種又は2種以上から誘導された構成単位を有する樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸と、のいずれにも該当しない他のモノマーから誘導された構成を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0072】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。(メタ)アクリル酸と類似の用語についても同様である。
【0073】
前記アクリル樹脂は、これが有する構成単位の数を比較したとき、(メタ)アクリル酸エステルから誘導された構成単位の数が最も多い樹脂であることが好ましい。
【0074】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体において、構成単位の全量(質量部)に対する、酢酸ビニルから誘導された構成単位の量(質量部)の割合(本明細書においては、「酢酸ビニル含有量」と称することがある)は、10~40質量%であることが好ましく、例えば、20~40質量%、及び30~40質量%のいずれかであってもよい。前記割合(酢酸ビニル含有量)が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。前記割合が前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの製造時の作業性がより高くなる。
【0075】
前記樹脂シートが含む前記熱可塑性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0076】
前記樹脂シートを、その装着対象物に対して、より安定して貼付できる点では、前記熱可塑性樹脂は、適切な粘着性を有するエチレン-酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0077】
前記樹脂シート、及び後述する樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂の含有量(質量部)は、前記熱伝導性繊維の含有量(質量部)に対して、0.1~5質量倍であることが好ましく、0.1~3.5質量倍であることがより好ましく、例えば、0.1~0.9質量倍、0.2~0.8質量倍、及び0.3~0.6質量倍のいずれかであってもよいし、0.6~3.5質量倍、及び1.5~3.5質量倍のいずれかであってもよい。前記熱可塑性樹脂の含有量が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの、その装着対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。前記熱可塑性樹脂の含有量が前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる。
【0078】
<フィラー>
前記樹脂シートは、さらに、フィラーを含んでいることが好ましい。樹脂シートは、フィラーを含んでいることにより、その難燃性が高くなり、より好ましい特性を有する。
前記フィラーは、熱伝導性フィラーであることが好ましい。樹脂シートは、熱伝導性フィラーを含んでいることにより、その難燃性が高くなるのに加え、その面方向だけでなく、厚さ方向における熱伝導率も高くなり、その放熱性がより高くなる。
【0079】
本明細書において、「熱伝導性フィラー」とは、特に断りのない限り、「熱伝導率が5W/m・K以上のフィラー」を意味する。
フィラーの熱伝導率は、例えば、フィラーの焼結体を作製し、レーザーフラッシュ法若しくはホットディスク法等の、公知の熱伝導率測定装置を用いて測定する方法、又は熱物性顕微鏡等を用いて測定する方法により、測定できる。
すなわち、放熱性がより高くなる点では、前記樹脂シートは、さらに、熱伝導率が5W/m・K以上のフィラーを含んでいることが好ましい。
【0080】
前記樹脂シートの放熱性がより高くなる点では、前記フィラー(熱伝導性フィラー)の熱伝導率は、例えば、7W/m・K以上、10W/m・K以上、25W/m・K以上、40W/m・K以上、及び50W/m・K以上のいずれかであってもよい。
フィラー(熱伝導性フィラー)の熱伝導率の上限値は、特に限定されない。例えば、熱伝導率が400W/m・K以下であるフィラー(熱伝導性フィラー)は、より容易に入手できる。
フィラー(熱伝導性フィラー)の熱伝導率は、例えば、5~400W/m・K、7~400W/m・K、10~400W/m・K、25~400W/m・K、40~400W/m・K、及び50~400W/m・Kのいずれかであってもよい。ただし、これらは、フィラーの熱伝導率の一例である。
【0081】
前記熱伝導性フィラーの材質としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;炭化ケイ素等の炭化物;石英(二酸化ケイ素);銀、銅、金、スズ、鉄、アルミニウム、マグネシウム等の単体金属;合金等が挙げられる。
【0082】
熱伝導性であるか否かによらず、前記フィラーの形状は、特に限定されない。フィラーの形状として、具体的には、例えば、粒子状(球状)、板状、繊維状、針状、鱗片状、ウィスカー状、チューブ状、コイル状等が挙げられる。
【0083】
例えば、前記樹脂シートの面方向又は厚さ方向において、フィラーの占める面積の割合がより高くなることにより、また、フィラー同士が接触し易く、かつその接触面の面積がより広くなることにより、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる点では、フィラーの形状は板状であること(フィラーは板状フィラーであること)が好ましい。
さらに、前記樹脂シートが板状フィラーを含む場合、樹脂シート中で板状フィラーは、その面方向が、樹脂シートの面方向と同じ方向、又は樹脂シートの面方向に近い方向に配向し易い。そのため特に、樹脂シートの、その面方向における熱伝導率がより高くなり、その面方向における放熱性がより高くなる。
【0084】
前記板状フィラーのアスペクト比([板状フィラーの粒子径]/[板状フィラーの厚さ])は、10~50であることが好ましく、例えば、10~30、及び30~50のいずれかであってもよい。板状フィラーのアスペクト比がこのような範囲であることで、樹脂シートが板状フィラーを含んでいることにより得られる効果が、より高くなる。
【0085】
前記板状フィラーの粒子径としては、例えば、板状フィラーの外周上の異なる二点を結ぶ線分の長さの最大値を採用できる。
前記板状フィラーの厚さとしては、例えば、板状フィラーの主面間の距離の最大値を採用できる。
前記板状フィラーのアスペクト比としては、例えば、無作為に選択した50個の板状フィラーのアスペクト比の平均値を採用できる。
【0086】
前記板状フィラーの平均粒子径は、5μm以上であることが好ましく、例えば、6.5μm以上、及び8μm以上のいずれかであってもよい。板状フィラーの平均粒子径が前記下限値以上であることで、板状フィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
板状フィラーの平均粒子径の上限値は、特に限定されない。例えば、平均粒子径が15μm以下である板状フィラーは、より容易に入手できる。
一実施形態において、板状フィラーの平均粒子径は、例えば、5~15μm、6.5~15μm、及び8~15μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは板状フィラーの平均粒子径の一例である。
【0087】
本明細書においては、板状フィラーの場合に限らず、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折式粒度分布測定法によって、粒子の粒度分布を体積基準で測定したときの、粒子の50%累積時の粒子径(D50)を意味する。
【0088】
例えば、前記樹脂シートの放熱性が高いのに加え、樹脂シートの加熱時の流動性がより良好で、樹脂シートの適用対象物に対する追従性がより高くなり、樹脂シートで発熱体を覆うときに、樹脂シートで容易に発熱体を覆うことができる点では、板状フィラーの材質は、窒化ホウ素又は酸化アルミニウムであることが好ましい。
例えば、板状フィラーの比重が小さいことによって、前記樹脂シートを容易に軽量化できる点と、板状フィラーの比誘電率が低く、誘電正接が小さいことによって、前記樹脂シートの装着対象物中の回路において、電気信号のノイズの発生を抑制する効果が高い点では、板状フィラーの材質は、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0089】
前記樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、板状フィラーの含有量(体積部)の割合([樹脂シートの板状フィラーの含有量(体積部)]/[樹脂シートの体積(体積部)]×100)は、10体積%以上であることが好ましく、例えば、13.5体積%以上、17体積%以上、及び20体積%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、板状フィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
前記樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、板状フィラーの含有量(体積部)の割合は、35体積%以下であることが好ましく、例えば、30体積%以下であってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、前記連結フィラー等の、板状フィラー以外のフィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
一実施形態において、前記割合は、例えば、10~35体積%、13.5~35体積%、17~35体積%、及び20~35体積%のいずれかであってもよいし、10~30体積%、13.5~30体積%、17~30体積%、及び20~30体積%のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0090】
前記フィラーの形状によらず、平均粒子径が2μm以下であるフィラーは、好ましいフィラーの1種である。本明細書においては、このような平均粒子径が2μm以下であるフィラーを、特に「連結フィラー」と称することがある。
前記樹脂シートは、フィラーとして、板状フィラー及び連結フィラーを含むことが好ましい。
【0091】
前記樹脂シートは、前記連結フィラーを含んでいることにより、その放熱性がより高くなる。樹脂シート中で連結フィラーは、樹脂シートの面方向及び厚さ方向の両方において、幅広く分布可能であり、さらに、連結フィラーのサイズは小さい。そのため、連結フィラーは、樹脂シートの面方向及び厚さ方向のいずれにおいても、板状フィラーとの接触を維持することで、それ自体を介して板状フィラー同士を連結している。その結果、樹脂シートの面方向及び厚さ方向のいずれにおいても、熱伝導率がより高くなり、放熱性がより高くなる。特に、前記樹脂シートは、連結フィラーを含んでいることにより、その厚さ方向における熱伝導率がより高くなり、放熱性がより高くなる。
【0092】
前記連結フィラーの平均粒子径は、2μm以下である。これにより、板状フィラー同士が連結フィラーによって、十分に連結される。
この様な効果がより高くなる点では、連結フィラーの平均粒子径は、1.5μm以下であることが好ましく、例えば、1.2μm以下、及び0.9μm以下のいずれかであってもよい。
連結フィラーの平均粒子径の下限値は、特に限定されない。例えば、平均粒子径が0.5μm以上である連結フィラーは、より容易に入手でき、かつ、このような連結フィラーを用いることで、樹脂シートの放熱性をより容易に向上させることができる。
一実施形態において、連結フィラーの平均粒子径は、例えば、0.5~2μm、0.5~1.5μm、0.5~1.2μm、及び0.5~0.9μm以下のいずれかであってもよい。ただし、これらは連結フィラーの平均粒子径の一例である。
【0093】
連結フィラーの形状は、上記のとおり、特に限定されないが、平面を有する形状であることが好ましく、板状であることがより好ましい。連結フィラーが平面を有すること、特に板状であることで、連結フィラーと板状フィラーとの接触面積がより大きくなる。上述のとおり、板状フィラーは、その面方向が、樹脂シートの面方向と同じ方向、又は樹脂シートの面方向に近い方向に配向し易いため、連結フィラーが平面を有していても、連結フィラーの全体の形状が板状から外れていくほど、連結フィラーと板状フィラーとの接触面積が小さくなる傾向にある。ただし、連結フィラーの平均粒子径が2μm以下であることで、連結フィラーと板状フィラーとの十分な接触は維持される。
【0094】
なお、本明細書においては、連結フィラーであることが特定されていないフィラーは、すべて連結フィラー以外のフィラーであるものとする。例えば、「板状フィラー」のように、フィラーがその形状を付して命名されており、かつ連結フィラーであることが特定されていない場合には、そのフィラーは、連結フィラーではない。
【0095】
連結フィラーは、非凝集物である(凝集物ではない)ことが好ましい。樹脂シートの、凝集物である連結フィラーの含有量が少ないほど、樹脂シートの加熱時の流動性が向上し、樹脂シートの適用対象物に対する追従性が高くなり、例えば、前記樹脂シートで発熱体を覆うときには、樹脂シートで容易に発熱体を覆うことができる。
【0096】
連結フィラーの材質は、例えば、連結フィラーの難燃性がより高い点では、水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0097】
連結フィラーは、その表面が表面処理剤で処理されていてもよいし、処理されていなくてもよい。表面処理された連結フィラーを用いることで、例えば、連結フィラーと、熱可塑性樹脂等の樹脂と、の親和性が良好となり、前記樹脂シートの流動性が向上することで、前記樹脂シートの、その適用対象物に対する追従性及び密着性が、より高くなる。
連結フィラーにおける表面処理としては、例えば、脂肪酸又は有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)による表面処理が挙げられる。
【0098】
前記樹脂シートにおいて、板状フィラーの含有量に対する、連結フィラーの含有量の割合([樹脂シートの連結フィラーの含有量(体積部)]/[樹脂シートの板状フィラーの含有量(体積部)]×100)は、50体積%以上であることが好ましく、例えば、59体積%以上、65体積%以上、及び70体積%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、連結フィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
前記樹脂シートにおいて、板状フィラーの含有量に対する、連結フィラーの含有量の割合は、100体積%以下であることが好ましく、例えば、90体積%以下であってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、前記板状フィラー等の、連結フィラー以外のフィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
一実施形態において、前記割合は、50~100体積%であることが好ましく、例えば、59~100体積%、65~100体積%、及び70~100体積%のいずれかであってもよいし、50~90体積%、59~90体積%、65~90体積%、及び70~90体積%のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0099】
前記樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、連結フィラーの含有量(体積部)の割合([樹脂シートの連結フィラーの含有量(体積部)]/[樹脂シートの体積(体積部)]×100)は、上述の板状フィラーの含有量に対する、連結フィラーの含有量の割合、を満たす数値範囲であることが好ましく、例えば、5体積%以上であることが好ましく、8体積%以上、11体積%以上、及び14体積%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、連結フィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
前記樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、連結フィラーの含有量(体積部)の割合は、35体積%以下であることが好ましく、例えば、27体積%以下であってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、前記板状フィラー等の、連結フィラー以外のフィラーを用いていることにより得られる効果が、より高くなる。
一実施形態において、前記割合は、例えば、5~35体積%、8~35体積%、11~35体積%、及び14~35体積%のいずれかであってもよいし、5~27体積%、8~27体積%、11~27体積%、及び14~27体積%のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0100】
上記のとおり、前記フィラーが難燃性を有する樹脂シートは、好ましい樹脂シートの一例であるが、フィラーの中でも水酸化マグネシウムは、難燃剤としても優れる。そのため、前記樹脂シートの放熱性が高いだけでなく、難燃性も高い点では、前記樹脂シートは、フィラー(熱伝導性フィラー)として、水酸化マグネシウムフィラーを含むことが好ましく、連結フィラーとして、水酸化マグネシウムフィラーを含むことがより好ましい。
【0101】
上記のとおり、前記樹脂シートの放熱性が高いだけでなく、樹脂シートの加熱時の流動性がより良好で、樹脂シートの適用対象物に対する追従性がより高くなる点では、前記樹脂シートは、フィラー(熱伝導性フィラー)として、窒化ホウ素フィラー又は酸化アルミニウムフィラーを含むことが好ましく、板状フィラーとして、窒化ホウ素フィラー又は酸化アルミニウムフィラーを含むことがより好ましい。
【0102】
前記樹脂シートが含むフィラーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、前記樹脂シートが連結フィラーを含まない場合には、前記樹脂シートが含むフィラー(連結フィラー以外のフィラー)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
例えば、前記樹脂シートが板状フィラー及び連結フィラーを含む場合には、前記樹脂シートが含む板状フィラー及び連結フィラーは、いずれも、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0103】
前記樹脂シートがフィラーを含む場合、前記樹脂シート、及び後述する樹脂組成物において、フィラーの含有量(質量部)は、前記熱可塑性樹脂の含有量(質量部)に対して、0.3~5質量倍であることが好ましく、例えば、0.3~4質量倍、及び0.3~1.4質量倍のいずれかであってもよいし、1.1~3質量倍、及び1.9~3質量倍のいずれかであってもよいし、1.1~2.2質量倍であってもよい。フィラーの含有量が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートがフィラーを含んでいることにより得られる効果(例えば、樹脂シートの難燃性が高くなる効果、樹脂シートの放熱性が高くなる効果)が、より高くなる。フィラーの含有量が前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの柔軟性がより高くなる。
本明細書において、前記樹脂シートが2種以上のフィラーを含む場合には、前記樹脂シート及び樹脂組成物における、フィラーの含有量(質量部)とは、すべて(2種以上)のフィラーの合計含有量(質量部)を意味する。
【0104】
<他の成分>
前記樹脂シートは、本発明の効果を損なわない範囲内において、前記熱伝導性繊維と、前記熱可塑性樹脂と、前記フィラーと、のいずれにも該当しない、他の成分を含んでいてもよい。
前記他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
【0105】
前記樹脂シートが含む前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0106】
前記他の成分としては、例えば、当該分野で公知の架橋剤、カップリング剤、難燃剤、添加剤が挙げられる。
【0107】
[架橋剤]
前記架橋剤としては、例えば、前記熱可塑性樹脂を架橋可能なものが挙げられる。
架橋剤は、公知のものであってよい。
架橋剤として、より具体的には、例えば、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルパーオキシベンズエート、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
架橋剤を用いる場合、前記樹脂シートにおいて、架橋剤の含有量は、前記熱可塑性樹脂の含有量100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましい。
【0108】
[カップリング剤]
前記カップリング剤は、公知のものであってよい。
カップリング剤としては、例えば、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エトキシシクロヘキシル)エチル-トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の、シランカップリング剤が挙げられる。
これらの中でも、前記カップリング剤は、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン又はN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランであることが好ましい。
カップリング剤を用いる場合、前記樹脂シートにおいて、カップリング剤の含有量は、前記熱可塑性樹脂の含有量100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましい。
【0109】
[難燃剤]
前記難燃剤は、難燃性を有する前記フィラーに該当しない難燃剤であり、公知のものであってよい。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物(構成原子としてアンチモンを有する化合物);クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物(構成原子としリンを有する化合物);メラミン系化合物(メラミン骨格を有する化合物)、グアニジン系化合物等の窒素含有化合物;塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が挙げられる。
難燃剤を用いる場合、前記樹脂シートにおいて、難燃剤の含有量は、前記熱可塑性樹脂の含有量100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましい。
【0110】
[添加剤]
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、減粘剤、増粘剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
【0111】
前記樹脂シートにおいて、前記樹脂シートの総質量(質量部)に対する、前記熱伝導性繊維と、前記熱可塑性樹脂と、前記フィラーと、の合計含有量(質量部)の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、例えば、95質量%以上、97質量%以上、及び99質量%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの放熱性、追従性、密着性及び絶縁性が、バランスよく、より高くなる。一方、前記割合は100質量%以下である。
前記割合は、通常、後述する樹脂組成物における、常温で気化しない成分の総含有量(質量部)に対する、前記熱伝導性繊維と、前記熱可塑性樹脂と、前記フィラーと、の合計含有量(質量部)の割合、と同じである。
前記樹脂シートが前記フィラーを含まない場合には、前記樹脂シートの前記フィラーの含有量は0質量部である。
【0112】
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0113】
前記樹脂シートの厚さは、100μm以上であることが好ましく、例えば、300μm以上、及び500μm以上のいずれかであってもよい。樹脂シートの厚さが前記下限値以上であることで、樹脂シートの放熱性がより高くなる。
一方、前記樹脂シートの厚さは、4500μm以下であることが好ましく、例えば、3500μm以下、2000μm以下、1500μm以下、及び1000μm以下のいずれかであってもよい。樹脂シートの厚さが前記上限値以下であることで、樹脂シートの追従性がより高くなる。
一実施形態において、前記樹脂シートの厚さは、例えば、100~4500μm、100~3500μm、100~2000μm、300~1500μm、500~3500μm、及び500~1000μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、樹脂シートの厚さの一例である。
【0114】
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率は、5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましい。本実施形態の樹脂シートに限らず、樹脂シートの、その面方向における熱伝導率とは、より具体的には、樹脂シートの一方の面又は他方の面に対して平行な方向における、樹脂シートの熱伝導率である。
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率は、20W/m・K以上であってもよい。前記樹脂シートの前記熱伝導率が前記下限値以上であることで、前記樹脂シートの放熱性が高くなっている。
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率の上限値は、特に限定されない。例えば、前記熱伝導率が100W/m・K以下である樹脂シートは、より容易に製造できる。
一実施形態において、前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率は、例えば、5~100W/m・K、10~100W/m・K、及び20~100W/m・Kのいずれかであってもよい。
【0115】
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率が高いと、樹脂シートの面方向に熱が伝わり、樹脂シートでの局所的な温度上昇が抑制されるとともに、樹脂シートの広い面積で緩やかに温度が上昇する。これにより、樹脂シートから空気中への熱の放射(輻射)面積が大きくなり、放射(輻射)による放熱効果が大きくなる。また、同様に、樹脂シートの面積が広いことによって、多くの熱可塑性樹脂に熱が伝わり、蓄熱潜熱機能による温度上昇抑制効果も大きくなる。さらに、回路基板等に熱が伝導され、それによる放熱効果も大きくなる。
【0116】
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率は、例えば、ISO 22007-2に準拠して、ホットディスク法により測定できる。例えば、京都電子工業社製のホットディスク法熱物性測定装置(例えば、「TPS 2500 S」、「TPS 500 S」等)を用いて、前記熱伝導率を測定できる。
【0117】
なお、前記樹脂シートの厚さが厚い場合など、熱伝導率の測定データにおいて良好な直線性を確保できず、全特性時間などのパラメータが推奨の範囲に入らない場合には、上記の測定方法では、前記樹脂シートの熱伝導率を測定できない。その場合には、測定対象の樹脂シートと同じ組成で、厚さが薄い試験片を作製し、この試験片での熱伝導率の測定値を、目的とする樹脂シートの熱伝導率として採用してもよい。前記試験片は、厚さを薄くする点を除けば、目的とする樹脂シートと同じ方法で作製できる。例えば、実施例で後述するように、P(Pは2以上の整数である)枚の後述する原料シートと、P(Pは2以上の整数である)枚の熱伝導性繊維のクロス又はメッシュと、を積層し、加熱プレスすることによって、樹脂シートを製造した場合には、P/P枚(Pは1以外の、P及びPの公約数である)の原料シートと、P/P(Pは前記と同じである)枚の熱伝導性繊維のクロス又はメッシュと、を積層し、加熱プレスすることによって作製したものを前記試験片として用いることができる。
前記試験片の厚さは、熱伝導率の測定データにおいて良好な直線性を確保でき、全特性時間などのパラメータが推奨の範囲に入る程度であればよく、特に限定されず、例えば、100~300μmであってもよい。
【0118】
前記樹脂シートの、その面方向における熱伝導率は、例えば、前記熱伝導性繊維の種類と、その樹脂シートでの含有量;前記熱伝導性フィラーの種類と、その樹脂シートでの含有量;前記樹脂シートの厚さ等を調節することにより、調節できる。
【0119】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。なお、以降の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0120】
図1は、本実施形態の樹脂シートの一例を模式的に示す断面図である。
ここに示す樹脂シート1は、熱伝導性有機繊維11と、熱可塑性樹脂12と、を含み、さらに、フィラー13を含んでいる。樹脂シート1の、その面方向D(矢印Dで示す方向)における熱伝導率は、5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、20W/m・K以上であってもよい。
【0121】
熱伝導性有機繊維11は、クロス110を形成しており、このクロス110は平織りである。すなわち、1層のクロス110においては、複数本の熱伝導性有機繊維11の繊維長方向が、互いに直交する2方向において、同一又は略同一となっている。このような構成のクロス110を採用することで、樹脂シート1のこの繊維長方向における熱伝導性(熱伝導率)が、より高くなっている。
ただし、本実施形態においては、クロスの織り方は平織りに限定されない。
【0122】
さらに、樹脂シート1においては、複数層の熱伝導性有機繊維11のクロス110が、樹脂シート1(換言するとクロス110)の厚さ方向において積層されている。そして、これら複数層のクロス110同士の間では、熱伝導性有機繊維11の繊維長方向が、互いに直交する2方向において、同一又は略同一となっている。このような複数層のクロス110の配置形態を採用することで、樹脂シート1のこれら繊維長方向における熱伝導性(熱伝導率)が、より一層高くなっている。
ただし、本実施形態においては、複数層のクロスの配置形態は、これに限定されない。
【0123】
樹脂シート1においては、熱伝導性有機繊維11の空隙部に、熱可塑性樹脂12が充填されている。熱伝導性有機繊維11の空隙部には、熱可塑性樹脂12が充填されていない領域が存在してもよいが、このような領域が少ない方が、樹脂シート1の、その装着対象物に対する追従性及び密着性が高くなる点で、有利である。
【0124】
さらに、樹脂シート1においては、熱伝導性有機繊維11の空隙部に、フィラー13も充填されている。フィラー13は、樹脂シート1の面方向Dの全域に渡って存在し、さらに、樹脂シート1の厚さ方向D(矢印Dで示す方向)の全域に渡って存在している。さらに、樹脂シート1の面方向Dと厚さ方向Dの両方で、隣接するフィラー13同士が互いに接触している。このように、樹脂シート1中でフィラー13が高密度で万遍なく充填され、フィラー13が熱伝導性である場合には、樹脂シート1の面方向Dと厚さ方向Dの両方で、樹脂シート1の熱伝導性(熱伝導率)が、さらに高くなる。そして、フィラー13の形状が板状であると、このような効果が得られ易い。さらに、フィラー13が板状フィラー及び連結フィラーであると、このような効果がより得られ易い。
ただし、本実施形態においては、フィラー13の分布状態は、これに限定されない。
【0125】
ここまでは、図1を参照して、本実施形態の樹脂シートとして、熱伝導性繊維が熱伝導性有機繊維であり、熱伝導性有機繊維がクロスを形成している場合の樹脂シートを例に挙げて説明した。これに対して、熱伝導性繊維が熱伝導性無機繊維であり、熱伝導性無機繊維がメッシュを形成している場合の樹脂シートの一例としては、図1において、熱伝導性有機繊維11が熱伝導性無機繊維となった樹脂シート1が挙げられる。このとき、熱伝導性無機繊維は、金属繊維及び炭素繊維のいずれか一方であってもよいし、両方であってもよい。熱伝導性繊維が熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維であり、熱伝導性繊維がクロス又はメッシュ(複合シート)を形成している場合の樹脂シートの一例としては、図1において、熱伝導性有機繊維11が熱伝導性有機繊維及び熱伝導性無機繊維となった樹脂シート1が挙げられる。このとき、熱伝導性無機繊維は、金属繊維及び炭素繊維のいずれか一方であってもよいし、両方であってもよい。
【0126】
<樹脂シートの物性>
[比誘電率]
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの比誘電率は、4以下であることが好ましく、例えば、3.5以下であってもよい。周波数10GHzでの比誘電率が前記上限値以下である前記樹脂シートは、その絶縁性が高く、例えば、前記樹脂シートの装着対象物中の回路において、電気信号のノイズの発生を抑制する効果が高い点で、回路基板上の発熱体を被覆して装着するものとして、特に好適である。
周波数10GHzでの前記比誘電率の下限値は、特に限定されない。例えば、周波数10GHzでの前記比誘電率が1以上である前記樹脂シートは、より容易に製造できる。
一実施形態において、周波数10GHzでの前記比誘電率は、例えば、1~4、及び1~3.5のいずれかであってもよい。ただし、これらは、周波数10GHzでの前記比誘電率の一例である。
周波数10GHzでの前記比誘電率は、常温下(例えば、23℃の温度条件下)での測定値であることが好ましい。
【0127】
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数1GHzでの前記樹脂シートの比誘電率は、4以下であることが好ましく、例えば、3.6以下であってもよい。周波数1GHzでの比誘電率が前記上限値以下である前記樹脂シートは、その絶縁性が高く、例えば、前記樹脂シートの装着対象物中の回路において、電気信号のノイズの発生を抑制する効果が高い点で、回路基板上の発熱体を被覆して装着するものとして、特に好適である。
周波数1GHzでの前記比誘電率の下限値は、特に限定されない。例えば、周波数1GHzでの前記比誘電率が1以上である前記樹脂シートは、より容易に製造できる。
一実施形態において、周波数1GHzでの前記比誘電率は、例えば、1~4、及び1~3.6のいずれかであってもよい。ただし、これらは、周波数1GHzでの前記比誘電率の一例である。
周波数1GHzでの前記比誘電率は、常温下(例えば、23℃の温度条件下)での測定値であることが好ましい。
【0128】
前記樹脂シートの比誘電率は、周波数によらず、樹脂シートの含有成分の種類と含有量、及び熱伝導性繊維の種類と含有量を調節することで、調節できる。
【0129】
[誘電正接]
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数10GHzでの前記樹脂シートの誘電正接は、0.01以下であることが好ましく、例えば、0.007以下であってもよい。周波数10GHzでの誘電正接がこのような範囲である前記樹脂シートは、周波数10GHzでの比誘電率が前記上限値以下である場合と、同様の効果を奏する。
周波数10GHzでの前記誘電正接の下限値は、特に限定されない。例えば、周波数10GHzでの前記誘電正接が0.001以上である前記樹脂シートは、より容易に製造できる。
一実施形態において、周波数10GHzでの前記誘電正接は、例えば、0.001~0.01、及び0.001~0.007のいずれかであってもよい。ただし、これらは、周波数10GHzでの前記誘電正接の一例である。
周波数10GHzでの前記誘電正接は、常温下(例えば、23℃の温度条件下)での測定値であることが好ましい。
【0130】
TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して測定された、周波数1GHzでの前記樹脂シートの誘電正接は、0.01以下であることが好ましく、例えば、0.008以下であってもよい。周波数1GHzでの誘電正接がこのような範囲である前記樹脂シートは、周波数1GHzでの比誘電率が前記上限値以下である場合と、同様の効果を奏する。
周波数1GHzでの前記誘電正接の下限値は、特に限定されない。例えば、周波数1GHzでの前記誘電正接が0.001以上である前記樹脂シートは、より容易に製造できる。
一実施形態において、周波数1GHzでの前記誘電正接は、例えば、0.001~0.01、及び0.001~0.008のいずれかであってもよい。ただし、これらは、周波数1GHzでの前記誘電正接の一例である。
周波数1GHzでの前記誘電正接は、常温下(例えば、23℃の温度条件下)での測定値であることが好ましい。
【0131】
前記樹脂シートの誘電正接は、周波数によらず、樹脂シートの含有成分の種類と含有量、及び熱伝導性繊維の種類と含有量を調節することで、調節できる。
【0132】
前記樹脂シートにおいては、周波数10GHzでの比誘電率と、周波数1GHzでの比誘電率が、ともに上記の数値範囲内であることが好ましい。
前記樹脂シートにおいては、周波数10GHzでの誘電正接と、周波数1GHzでの誘電正接が、ともに上記の数値範囲内であることが好ましい。
前記樹脂シートにおいては、周波数10GHzでの比誘電率と、周波数1GHzでの比誘電率と、周波数10GHzでの誘電正接と、周波数1GHzでの誘電正接が、すべて上記の数値範囲内であることが好ましい。
【0133】
[密度]
前記樹脂シートの密度は、2kg/m以下であることが好ましい。このような樹脂シートを装着して構成された各種電子機器は、発熱が抑制されるのに加え、軽量であるため、例えば、携帯型の電子機器を構成するために用いるのに好適である。
前記樹脂シートの密度の下限値は、特に限定されない。例えば、密度が1kg/m以上である前記樹脂シートは、より容易に実現できる。
一実施形態において、前記樹脂シートの密度は、例えば、1~1.7kg/mであってもよい。ただし、これらは、前記樹脂シートの密度の一例である。
前記樹脂シートの密度は、例えば、樹脂シートの含有成分の種類と含有量、及び熱伝導性繊維の種類と含有量を調節することで、調節できる。
【0134】
前記樹脂シートの密度は、公知の方法で測定でき、例えば、JIS K 7112:1999、又はJIS K 0061:2022(密度勾配管法)に準拠して測定できる。
【0135】
前記樹脂シートは、電子線照射されたものであってもよい。その場合、前記樹脂シートは、吸収線量20~300kGyの条件で電子線照射されたものであることが好ましい。電子線照射の加速電圧は、100~300kVであることが好ましい。
前記樹脂シートを電子線照射することにより、樹脂シートが一部架橋され、樹脂シートの耐熱性及びリペア性が向上する。
【0136】
<<樹脂組成物及びその製造方法>>
前記樹脂シートは、例えば、前記熱可塑性樹脂と、必要に応じて前記フィラーと、必要に応じて前記他の成分と、を含む樹脂組成物、並びに、前記熱伝導性繊維を用いることで、製造できる。
【0137】
前記樹脂組成物は、上述の各成分以外に、溶媒を含有していてもよい。溶媒を含有する前記樹脂組成物は、その取り扱い性が向上することがある。
本明細書においては、特に断りのない限り、溶液中で溶質を溶解させることが可能な成分だけなく、分散液中で分散媒となる成分も、「溶媒」と称する。
【0138】
溶媒は、有機溶媒であることが好ましく、前記樹脂組成物の加熱時に気化によって除去可能な有機溶媒であることがより好ましい。
【0139】
前記樹脂組成物の溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
【0140】
前記樹脂組成物は、前記樹脂シートが目的とする成分(構成材料)を、目的とする含有量で含むように、含有成分の種類と含有量を調節して、製造すればよい。例えば、前記樹脂組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、前記樹脂シート中の、前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0141】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂と、必要に応じて前記フィラーと、必要に応じて前記他の成分と、必要に応じて前記溶媒と、を配合することで製造できる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節できる。
【0142】
<<樹脂シートの製造方法>>
前記樹脂シートは、例えば、前記樹脂組成物で前記熱伝導性繊維(例えば、熱伝導性有機繊維、熱伝導性無機繊維等)を被覆し、シート状に成形することで、製造できる。そして、前記樹脂シートは、前記樹脂組成物の成形体であるシート(本明細書においては、「原料シート」と称することがある)で前記熱伝導性繊維を被覆し、シート状に成形することで、製造することが好ましい。
【0143】
特に、2枚の前記原料シート間に前記熱伝導性繊維を配置し、この状態でこれらの積層物を、その厚さ方向においてプレスしてシート状に成形することにより、熱伝導性繊維の空隙部に、前記原料シート(換言すると前記樹脂組成物)中の熱可塑性樹脂をより高密度で充填でき、より均一性の高い前記樹脂シートが得られる。この方法によれば、例えば、前記原料シート(前記樹脂組成物)が熱伝導性フィラーを含んでいる場合には、この熱伝導性フィラーを熱伝導性繊維の空隙部により高密度で充填でき、前記樹脂シートの面方向における熱伝導性だけでなく、前記樹脂シートの厚さ方向における熱伝導性も高くなり、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる。
2枚の前記原料シート間には、前記熱伝導性繊維だけでなく、1枚又は2枚以上の前記原料シートを配置してもよい。
【0144】
あるいは、前記原料シートと前記熱伝導性繊維を積層し、一方の最表層が原料シートであり、他方の最表層が熱伝導性繊維である積層物を作製し、この積層物を上記と同じ方法で、その厚さ方向においてプレスしてシート状に成形することでも、上記と同様の前記樹脂シートが得られる。
【0145】
前記樹脂組成物で被覆する前記熱伝導性繊維は、クロス及びメッシュのいずれかであってもよいし、クロス及びメッシュのいずれでなくてもよい。例えば、2枚の前記原料シート間にクロス若しくはメッシュを配置する場合、又は前記原料シートと、クロス若しくはメッシュと、を積層し、一方の最表層を原料シートとし、他方の最表層をクロス又はメッシュとする場合には、1層のみのクロス又はメッシュを配置してもよいし、2層以上のクロス又はメッシュを配置してもよい。
【0146】
前記樹脂組成物(例えば原料シート)で前記熱伝導性繊維を被覆し、シート状に成形するとき、前記樹脂組成物を加熱することが好ましい。
このときの前記樹脂組成物の加熱温度は、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度であることが好ましく、例えば、前記熱可塑性樹脂の融点より15℃以上高い温度、及び、前記熱可塑性樹脂の融点より30℃以上高い温度のいずれかであってもよい。前記加熱温度が前記下限値以上であることにより、流動した状態の熱可塑性樹脂で熱伝導性繊維を被覆できるため、熱伝導性繊維の空隙部に、前記熱可塑性樹脂をより高密度で充填でき、より均一性の高い前記樹脂シートが得られる。この方法によれば、例えば、前記樹脂組成物が熱伝導性フィラーを含んでいる場合には、この熱伝導性フィラーを熱伝導性繊維の空隙部により高密度で充填でき、前記樹脂シートの面方向における熱伝導性だけでなく、前記樹脂シートの厚さ方向における熱伝導性も高くなり、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる。
前記加熱温度の上限値は、特に限定されない。例えば、前記加熱温度が、前記熱可塑性樹脂の融点より50℃高い温度に対して同等以下であれば、過剰な加熱が避けられる。
前記樹脂組成物が2種以上の前記熱可塑性樹脂を含む場合など、前記樹脂組成物中の前記熱可塑性樹脂が2以上の融点を示す場合には、最も高い融点に対して、前記樹脂組成物の加熱温度を上記のように設定することが好ましい。
【0147】
2枚の前記原料シート間に前記熱伝導性繊維を配置するか、又は前記原料シートと前記熱伝導性繊維を積層し、一方の最表層を原料シートとし、他方の最表層を熱伝導性繊維として、この状態でこれらの積層物を、その厚さ方向において加圧する場合には、熱伝導性繊維がクロス又はメッシュであるか否かによらず、加圧時の圧力は、3MPa以上であることが好ましく、例えば、9MPa以上、及び13MPa以上のいずれかであってもよい。前記圧力が前記下限値以上であることにより、上述の加熱温度が前記下限値以上である場合と同様の効果(より均一性の高い前記樹脂シートが得られる、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる)が得られる。
前記圧力の上限値は、特に限定されない。例えば、前記圧力が20MPa以下であれば、過剰な加圧が避けられる。
【0148】
上述の加圧時の時間(加圧時間)は、加圧の効果が十分に得られる限り、特に限定されず、上述の加圧時の圧力に応じて任意に設定できるが、3分以上であることが好ましい。
加圧時の時間(加圧時間)の上限値は、特に限定されない。例えば、加圧時の時間が20分以下であれば、過剰な加圧が避けられる。
【0149】
前記樹脂組成物で前記熱伝導性繊維を被覆し、シート状に成形するときは、前記積層物の加圧の有無によらず、成形は減圧下で行うことが好ましく、例えば、0.02MPa以下等の真空条件下で行うことがより好ましい。このように減圧下で成形することにより、上述の加熱温度が前記下限値以上である場合と同様の効果(より均一性の高い前記樹脂シートが得られる、前記樹脂シートの放熱性がより高くなる)が得られる。
【0150】
上述のように、2枚の前記原料シート間に前記熱伝導性繊維を配置し、この状態でこれらの積層物を、その厚さ方向においてプレスしてシート状に成形する場合には、前記原料シートと、前記熱伝導性繊維と、を交互に繰り返し積層し、両方の最表層を前記原料シートとした積層物を、その厚さ方向においてプレスしてもよい。そして、前記原料シートと前記熱伝導性繊維を積層し、一方の最表層を原料シートとし、他方の最表層を熱伝導性繊維とし、この状態でこれらの積層物を、その厚さ方向においてプレスしてシート状に成形する場合にも、前記原料シートと、前記熱伝導性繊維と、を交互に繰り返し積層し、得られた積層物を、その厚さ方向においてプレスしてもよい。このような方法により、前記熱伝導性繊維の含有量が多い前記樹脂シートを容易に製造でき、前記熱伝導性繊維がクロス又はメッシュである場合には、このクロス又はメッシュの層数が多い前記樹脂シートを容易に製造できる。
【0151】
<<樹脂シートの使用方法>>
前記樹脂シートは、CPU等の発熱体に対して、その表面を被覆して装着することで、各種電子機器において、新たな放熱構造を構成し、各種電子機器での発熱を抑制する。
【0152】
前記樹脂シートを、その装着対象物に装着(貼付)するときに、前記樹脂シートに加える圧力は、特に限定されない。前記樹脂シートの装着対象物、例えば、回路面上の部品等の破損を抑制するためには、前記圧力は、低いほど好ましく、0.3MPa以下であることが好ましく、例えば、0.1MPa以下、0.05MPa以下、0.02MPa以下、及び0.01MPa以下のいずれかであってもよい。前記樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、装着対象物の形状に対して前記樹脂シートの形状を追従させながら貼付可能であるため、このような小さい圧力でも十分に、装着対象物に隙間なく密着させることが可能である。
一方、前記樹脂シートに加える圧力は、0.001MPa以上であることが好ましい。前記圧力が前記下限値以上であることで、より容易に、前記樹脂シートを、その装着対象物に貼付し、密着させることができる。
【0153】
前記樹脂シートを、その装着対象物に装着(貼付)するときに、前記樹脂シートを加熱する温度は、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂の融点より30℃以上高い温度であることがより好ましい。一方、前記樹脂シートを加熱する温度は、100℃以下であることが好ましい。前記樹脂シートの加熱温度が前記下限値以上であることで、より容易に、前記樹脂シートを、その装着対象物に貼付し、密着させることができる。前記樹脂シートの加熱温度が前記上限値以下であることで、前記樹脂シートの形状がより安定して維持される。
【0154】
図2は、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、図1に示す樹脂シート1を用いた場合について、示している。
なお、図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図2においては、樹脂シート1の含有物の表示は、省略している。図3以降の図においても同様に、樹脂シートの含有物の表示は、省略している。
【0155】
回路基板9の一方の面9aには、接続部6を介して、CPU等の発熱体7が設けられている。回路基板9は、公知のものであり、基材91と、基材91の一方の面上に設けられた金属層92と、を備えて構成されている。回路基板9の一方の面9aは、金属層92の一方の面(基材91側とは反対側の面)92aと同じである。金属層92の面方向(例えば、前記一方の面92aの方向)における一部の端部は、放熱性の筐体8に接触している。
【0156】
樹脂シート1は、発熱体7と接続部6の、回路基板9の一方の面9a上で露出している全領域を被覆して、装着されており、回路基板9の一方の面9aの一部の領域も被覆している。より具体的には、樹脂シート1は、発熱体7の接続部6との接触面以外の面の全面と、接続部6の側面6cと、回路基板9の一方の面9aのうち、発熱体7と接続部6の近傍領域と、を一体に被覆して、装着されている。ここで、発熱体7の接続部6との接触面以外の全面とは、より具体的には、発熱体7の上面7aと側面7cである。樹脂シート1は、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有しており、樹脂シート1と発熱体7との間、樹脂シート1と接続部6との間、並びに樹脂シート1と回路基板9(換言すると金属層92)との間、においては、隙間の発生が抑制されている。
【0157】
発熱体7で生じた熱は、樹脂シート1の面方向Dに沿って伝導され、大気中に放熱される。樹脂シート1の面方向Dにおける熱伝導率(熱伝導性)が高いため、このときの放熱性が高い。さらに、樹脂シート1は、金属層92にも接触しており、樹脂シート1の面方向Dに沿って伝導された熱は、金属層92にも伝導され、さらに放熱性の筐体8に伝導されて、最終的には大気中に放熱される。このような、回路基板9中の金属層92を介した放熱は、従来の放熱構造では全く見られなかったものである。その理由は、従来の放熱構造を構成するヒートスプレッダーは、導電性を有するため、回路基板中の金属層に接触させることはできないためである。樹脂シート1は、それ自体が絶縁性を有するため、回路基板9中の金属層92に接触可能であり、このような金属層92を介した放熱が可能となっており、この点でも放熱性が高い。樹脂シート1のうち、発熱体7の側面7cと、接続部6の側面6cと、に沿った領域の面方向は、樹脂シート1がこれらの側面に沿って折り曲げられていることから、上述の面方向Dであり、したがって、この領域では、発熱体7の厚さ方向に沿って熱が伝導されるが、熱伝導率(熱伝導性)が高いため、筐体8からの放熱性も高い。さらに、発熱体7で生じた熱は、接続部6を介して金属層92に伝導され、この経路でも筐体8から大気中に放熱される。
このように、樹脂シート1を用いた場合には、樹脂シート1の面方向Dにおける熱伝導率が高いことに加え、樹脂シート1が絶縁性で、発熱体7等の装着対象物に対する高い追従性と密着性を有することにより、放熱を行う経路を従来よりも多く確保することが可能となっており、従来の放熱構造よりも顕著に放熱性の高い放熱構造を構成可能である。
【0158】
図3は、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態の他の例を模式的に示す断面図である。ここでも、図1に示す樹脂シート1を用いた場合について、示している。
回路基板9の一方の面9aには、第1接続部61を介して、CPU等の第1発熱体71が設けられ、第2接続部62を介して、CPU等の第2発熱体72が設けられ、第3接続部63を介して、CPU等の第3発熱体73が設けられている。図3においては、回路基板9の一方の面9a上に、1個ではなく、3個の発熱体が設けられている点が、図2とは相違している。そして、第1発熱体71と、第2発熱体72と、第3発熱体73とは、いずれも、大きさと形状が互いに相違しており、図2の場合よりも、回路基板9の一方の面9a上での発熱体の配置されている領域での凹凸度が、大きくなっている。
図3においても、図2における発熱体7の場合と同様の態様で、第1発熱体71と、第2発熱体72と、第3発熱体73とは、1枚の樹脂シート1によって一体に装着されており、これら発熱体で生じた熱は、図2の場合と同様に、高い放熱性で放熱される。
【0159】
図2及び図3に示す樹脂シートの使用の態様は、本実施形態の樹脂シートの使用の態様の一例であり、本実施形態の樹脂シートの使用方法は、これらに限定されない。
例えば、図2及び図3においては、発熱体の接続部との接触面以外の面(すなわち露出面)の全面が、樹脂シートで被覆されている場合を示しているが、発熱体の露出面の一部が樹脂シートで被覆されていなくてもよい。
例えば、図2においては発熱体が1個であり、図3においては発熱体が3個であるが、樹脂シートの装着対象物である発熱体の数は、これらに限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、図3においては、3個の発熱体が1枚の樹脂シートで一体に被覆されているが、2枚以上の複数枚の樹脂シートで被覆されていてもよい。
例えば、図2及び図3においては、回路基板上で発熱体が突出している形状を、樹脂シートの形状が反映しており、樹脂シートの発熱体側とは反対側の面(露出面)は、凸状となっている。しかし、発熱体に装着されている樹脂シートの、その発熱体側とは反対側の面は、凸状となっていなくてもよく、例えば、平坦であっても(前記面が平面であっても)よい。
【0160】
図4は、このような前記樹脂シートの状態を示す断面図であり、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図4に示す樹脂シート21は、その厚さが、図2に示す樹脂シート1の厚さよりも厚くなっており、その点以外は、樹脂シート1と同じであってよい。
樹脂シート21の装着の態様は、樹脂シート21の厚さが厚い点以外は、樹脂シート1の装着の態様と同じである。
【0161】
図4において、樹脂シート21の厚さが厚いことにより、樹脂シート21の形状は、回路基板9上で発熱体7が突出している形状を反映せず、樹脂シート21の、その発熱体7側とは反対側の面(一方の面)21aは、平坦になっている。
そして、樹脂シート21は、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有しており、樹脂シート21と発熱体7との間、樹脂シート21と接続部6との間、並びに樹脂シート21と回路基板9(換言すると金属層92)との間、においては、隙間の発生が抑制されている。
例えば、樹脂シート21のうち、発熱体7の側面7cと、接続部6の側面6cと、に沿った領域の面方向は、樹脂シート21がこれらの側面に歪められていることから、上述の面方向Dであり、したがって、この領域では、発熱体7の厚さ方向に沿って熱が伝導されるが、熱伝導率(熱伝導性)が高い。
【0162】
図4において、樹脂シート21の厚さが厚いことにより、発熱体7を被覆している樹脂シート21の体積は、図2において、発熱体7を被覆している樹脂シート1の体積よりも大きくなっている。そのため、発熱体7で生じた熱の、樹脂シート21における放熱の経路は、樹脂シート1における放熱の経路よりも多くなっており、樹脂シート21を装着することで、樹脂シート1を装着した場合よりも、発熱体7で生じた熱の放熱性が高くなっている。
【0163】
さらに、図2に示すように、厚さが薄い樹脂シート1を、発熱体7等の装着対象物に密着させるためには、装着対象物の形状及び大きさを考慮した型を用いて、樹脂シート1を発熱体7等に押し付ける必要があるなど、樹脂シート1の装着方法が限定される。
これに対して、図4に示すように、厚さが厚い樹脂シート21を、発熱体7等の装着対象物に密着させるためには、型を用いるなどの特定の方法を採用しなくても、単に樹脂シート21を発熱体7等に押し付けるだけでよく、樹脂シート21の装着方法は、簡便かつ汎用性が高くなる。例えば、回路基板9に対して最終的に筐体を被せる場合には、この筐体の内面に樹脂シート21を貼り付けておき、樹脂シート21を発熱体7等に接触させつつ筐体を回路基板9に被せることによって、同時に樹脂シート21を発熱体7等に装着することができ、樹脂シート21を装着するためだけの工程を省略でき、効率的に目的とする電子機器を製造できる。この場合には、樹脂シート21の装着対象物、例えば、発熱体7、の厚さよりも、樹脂シート21の厚さが厚いことが好ましく、発熱体7と接続部6の合計の厚さよりも、樹脂シート21の厚さが厚いことがより好ましい。
【0164】
図5は、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図5に示す樹脂シート22は、その厚さが、図2に示す樹脂シート1の厚さよりも厚く、さらに、図4に示す樹脂シート21の厚さよりも厚くなっており、その点以外は、樹脂シート1と同じであってよい。
樹脂シート22の装着の態様は、樹脂シート22の厚さが厚い点と、樹脂シート22の大きさが大きい点、以外は、樹脂シート21の装着の態様と同じである。
【0165】
図5においても、樹脂シート22の厚さが厚いことにより、樹脂シート22の形状は、回路基板9上で発熱体7が突出している形状を反映せず、樹脂シート22の、その発熱体7側とは反対側の面(一方の面)22aは、平坦になっている。
そして、樹脂シート22は、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有しており、樹脂シート22と発熱体7との間、樹脂シート22と接続部6との間、並びに樹脂シート22と回路基板9(換言すると金属層92)との間、においては、隙間の発生が抑制されている。
【0166】
図5において、樹脂シート22の厚さが厚いことにより、発熱体7を被覆している樹脂シート22の体積は、図2において、発熱体7を被覆している樹脂シート1の体積よりも大きく、さらに、図4において、発熱体7を被覆している樹脂シート21の体積よりも大きくなっている。そのため、発熱体7で生じた熱の、樹脂シート22における放熱の経路は、樹脂シート1における放熱の経路よりも多く、さらに、樹脂シート21における放熱の経路よりも多くなっており、樹脂シート22を装着することで、樹脂シート1及び樹脂シート21を装着した場合よりも、発熱体7で生じた熱の放熱性が高くなっている。
【0167】
特に、樹脂シート22と金属層92との接触面が、樹脂シート21と金属層92との接触面よりも広く、さらに、樹脂シート22の端部22cが筐体8とも接触していることにより、樹脂シート22は樹脂シート21よりも放熱性が顕著に高い。
なお、樹脂シート22の端部22cは、筐体8と接触していなくてもよい。
【0168】
図6は、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
図6に示す樹脂シート23は、その厚さが、図2に示す樹脂シート1の厚さよりも厚く、その一方で、図4に示す樹脂シート21の厚さよりも薄くなっており、その点以外は、樹脂シート1と同じであってよい。
【0169】
図6において、発熱体7の露出面、より具体的には側面7cの一部が、樹脂シート23で被覆されていない。さらに、それに伴い、樹脂シート23の発熱体7側の面(他方の面)23bと、回路基板9の一方の面9aと、は離間しており、樹脂シート23と回路基板9(換言すると金属層92)は接触していない。そして、樹脂シート23と、接続部6の側面6cと、も離間しており、樹脂シート23と接続部6も接触していない。
樹脂シート23の装着の態様は、これらの点以外は、樹脂シート21の装着の態様と同じである。
ただし、樹脂シート23は、その装着対象物に対して、高い追従性と密着性を有しており、発熱体7の露出面のうち、樹脂シート23で被覆されている領域と、樹脂シート23と、の間においては、隙間の発生が抑制されている。
【0170】
図6においても、樹脂シート23の形状は、回路基板9上で発熱体7が突出している形状を反映せず、樹脂シート23の、その発熱体7側とは反対側の面(一方の面)23aは、平坦になっている。
【0171】
図6において、樹脂シート23の厚さが厚いことにより、発熱体7を被覆している樹脂シート23の体積は、図2において、発熱体7を被覆している樹脂シート1の体積よりも大きくなっている。そのため、発熱体7で生じた熱の、樹脂シート23における放熱の経路は、樹脂シート1における放熱の経路よりも多くなっており、樹脂シート23を装着することで、樹脂シート1を装着した場合よりも、発熱体7で生じた熱の放熱性が高くなっている。
【0172】
なお、金属層92は、通常、その表面が絶縁層で被覆されている。金属層92として、一例を挙げると、薄い絶縁層であるソルダレジスト層の下に銅箔が存在し、この銅箔が回路を形成し、さらにこの銅箔の下に絶縁層を介して、放熱を目的とした銅箔又はアルミニウム箔等の金属層が存在しているものが挙げられる。このような金属層92においては、その面方向Dに沿って熱が伝導され、放熱される。金属層92においては、さらに放熱性を高めるために、絶縁層に熱伝導率の高い材料を含有させたり、基材91としてアルミニウム等の金属又は高熱伝導セラミック等の高熱伝導性材料で構成されたものを用いることもある。また、絶縁層で被覆された金属層や、高熱伝導性材料で構成された基材に対する、樹脂シートからの熱の伝導性を高めるために、ビア等を介して、樹脂シートと、これら金属層や基材と、を接続してもよい。
【0173】
ここまでの説明で明らかなように、本実施形態の樹脂シートを用いることにより、従来のTIMとヒートスプレッダーに代わる新たな放熱構造を構成することが可能である。このような放熱構造により、発熱体を備えた電子機器等の各種機器において、十分に発熱を抑制できる。
一方で、本実施形態の樹脂シートを用いる場合には、必ずしも、従来のヒートスプレッダーの併用が妨げられる訳ではない。本実施形態の樹脂シートを用いた放熱構造に加え、従来のヒートスプレッダーを備え、発熱体を備えた各種機器においては、顕著に発熱を抑制することも可能である。
【0174】
図7は、前記樹脂シートとヒートスプレッダーを併用し、前記樹脂シートを発熱体に装着した状態の一例を模式的に示す断面図である。
樹脂シート22の装着の態様は、図5に示す樹脂シート22の装着の態様と同じである。ただし、図7においては、図5の場合よりも、樹脂シート22の体積が小さくてもよい。
図7において、樹脂シート22の、その発熱体7側とは反対側の面22aは、平坦であり、前記面22aにはシート状のヒートスプレッダー5が設けられている。
さらに、ヒートスプレッダー5の、その樹脂シート22側とは反対側の面5aには、熱伝導性粘着層4を介して、放熱性の筐体8が設けられている。
熱伝導性粘着層4は、公知のものであってもよいし、本実施形態の樹脂シート(例えば、樹脂シート22と組成が同じである樹脂シート)であってもよい。
ヒートスプレッダー5は、公知ものであってよく、例えば、金属製又はグラファイト製シート;銅製又はアルミニウム製等の金属製メッシュ;ヒートパイプ;ベーパーチャンバー等が挙げられる。
【0175】
このように、樹脂シート22とヒートスプレッダー5を併用した場合には、発熱体7で生じた熱は、樹脂シート22の、その面方向Dに沿って伝導される。このとき、樹脂シート22の面方向Dにおける熱伝導率(熱伝導性)が高いため、熱は速やかに伝導される。さらに、樹脂シート22は、金属層92にも接触しており、樹脂シート22の、その面方向Dに沿って伝導された熱は、金属層92にも伝導される。このとき、樹脂シート22のうち、発熱体7の側面7cと、接続部6の側面6cと、に沿った領域の面方向は、樹脂シート22がこれらの側面によって歪められていることから、上述の面方向Dである。したがって、この領域では、発熱体7の厚さ方向に沿って熱が伝導されるが、熱伝導率(熱伝導性)が高いため、熱は速やかに伝導される。さらに、樹脂シート22は、ヒートスプレッダー5にも接触しており、樹脂シート22の、その面方向Dに沿って伝導された熱は、ヒートスプレッダー5にも伝導される。さらに、ヒートスプレッダー5は、熱伝導性粘着層4を介して、放熱性の筐体8にも接触しており、ヒートスプレッダー5において、樹脂シート22の面方向Dに沿って伝導された熱は、筐体8にも伝導される。そして、伝導された熱は、筐体8から大気中に放熱される。熱伝導性粘着層4が本実施形態の樹脂シートである場合には、ヒートスプレッダー5から筐体8に、熱は速やかに伝導される。
なお、このような状態では、発熱体7とヒートスプレッダー5との間の距離を短くすることで、ヒートスプレッダー5を介した放熱を、より速やかに行うことができる。
通常、ヒートスプレッダー5の熱伝導性は樹脂シート22の熱伝導性よりも高いため、樹脂シート22とヒートスプレッダー5を併用することで、より放熱性に優れた放熱構造を構成可能である。
【実施例0176】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0177】
実施例及び比較例で用いた原料及び材料を以下に示す。
[熱伝導性有機繊維]
熱伝導性有機繊維クロス(1):超高分子量ポリエチレンの繊維(東洋紡社製「イザナス(登録商標)SK60 1320dtx」)を用いて、平織で織られた単層クロス(品番DD0072、厚さ約60μm、目付31.8g/m)。
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂(1):エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・ダウ ポリケミカル社製「エバフレックス(登録商標)EV150」、融点61℃、MFR30g/10min、酢酸ビニル含有量33質量%)
[フィラー]
フィラー(1):酸化マグネシウムフィラー(協和化学工業社製「パイロキスマ(登録商標)5301、平均粒子径3.0μmの粒子状フィラー、熱伝導率45~60W/m・K)
フィラー(2):水酸化マグネシウムフィラー(協和化学工業社製「KISUMA(登録商標)8」、平均粒子径1.38μmの連結フィラー、熱伝導率8W/m・K)
フィラー(3):窒化ホウ素フィラー(トクヤマ社製「K03」、平均粒子径9μmの板状フィラー、密度2.3g/cm、熱伝導率60W/m・K、アスペクト比30)
【0178】
[実施例1]
<<樹脂シートの製造>>
<原料シートの製造>
熱可塑性樹脂(1)(1質量部)と、フィラー(1)(2質量部)とを、2軸押出機を用いて溶融混練することにより、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
さらに、得られた前記樹脂組成物を押出成形することにより、単層構造の原料シート(厚さ約100μm)を作製した。このような原料シートを合計で4枚作製した。
【0179】
<樹脂シートの製造>
1枚の原料シートと、4枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)の積層物と、を交互に繰り返し積層することで、4枚の原料シートと、12枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)と、の積層物であって、その最表層がいずれも原料シートであり、2枚の原料シートの間に4枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)が配置されている、合計で16層の積層シートを作製した。
【0180】
次いで、前記積層シートの一方の最表層(原料シート)の露出面に、アルミニウム箔からなる枠(厚さ80μmのアルミニウム箔を9枚積層して得られた、厚さ720μmの枠)を介して、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの離型処理面を重ね合わせ、前記積層シートの他方の最表層(原料シート)の露出面に、上記と同じ離型処理されたPET製フィルムの離型処理面を重ね合わせた。これにより、前記PET製フィルム、枠、積層シート及びPET製フィルムがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された積層物を得た。前記積層物を、その前記PET製フィルム等の積層方向を上下方向とし、その前記枠に隣接した前記PET製フィルムを最下層として配置し、圧力0.02MPa以下の真空条件下で、前記積層物を一対の熱板で挟み込んだ。そして、前記積層物を、100℃で加熱しながら、15MPaの圧力で5分間、加熱プレスした。
【0181】
以上により、12枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)が、これらの厚さ方向において積層されるとともに、その空隙部に熱可塑性樹脂(1)とフィラー(1)の混合物(換言すると前記樹脂組成物。以下同様。)が充填され、その周囲が熱可塑性樹脂(1)とフィラー(1)の混合物によって被覆されて構成された樹脂シート(厚さ720μm)を得た。
この樹脂シートの熱可塑性樹脂(1)の含有量(質量部)は、この樹脂シートの熱伝導性有機繊維クロス(1)の含有量(質量部)に対して、0.58質量倍であった。
この樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積に対する、熱伝導性有機繊維(超高分子量ポリエチレンの繊維)の体積の割合は、53体積%であった。
【0182】
<<樹脂シートの評価>>
<樹脂シートの面方向における熱伝導率の測定>
上記で得られた樹脂シートについて、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業社製「TPS 500 S」)を用いて、その面方向における熱伝導率を測定したところ、12W/m・Kであった。このとき、断熱材の間に2枚の樹脂シート挟み、さらにこれら樹脂シートの間に、直径7mmのセンサを挿入して、樹脂シートの熱伝導率を測定した。
【0183】
<樹脂シートの比誘電率及び誘電正接の測定>
常温下で、上記で得られた樹脂シートから、所定の大きさの試験片を切り出し、この試験片について、TM0m0モード空洞共振器摂動法に準拠して比誘電率を測定したところ、周波数10GHzでは3.1であり、周波数1GHzでは3.3であり、いずれも4未満であった。誘電正接は、周波数10GHzでは0.003であり、周波数1GHzでは0.006であり、いずれも0.01以下であった。
【0184】
<樹脂シートの密度の測定>
JIS K 7112:1999に準拠して、上記で得られた樹脂シートの密度を測定したところ、1.4kg/mであった。
【0185】
<樹脂シートの追従性及び密着性の確認>
回路基板の回路面上にセラミックヒーター(坂口電熱社製マイクロセラミックヒーター「MC1010」、600℃対応、大きさ10mm×10mm、厚さ1.8mm、40V、40W/cm)を設置し、回路基板の回路面とは反対側の裏面のうち、前記セラミックヒーターの真下に相当する部位に、細線型の熱電対を設置した。
上記で得られた樹脂シートから、大きさが50mm×40mmの試験片を切り出した。前記回路面上のセラミックヒーターの全面を覆うように、上記で得られた樹脂シートの試験片を回路面上に重ね合わせ、シリコンゴムシートを用いて100℃で軽く加圧することにより、図2に示すように、セラミックヒーターの全面と、回路面のうち、セラミックヒーターの近傍領域と、に前記試験片を貼り合わせた。その結果、前記試験片をセラミックヒーターと回路面に隙間なく密着させることができ、前記試験片が追従性及び密着性に優れることを確認できた。本実施例の樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、前記装着対象物の形状に対して前記樹脂シートの形状を追従させながら貼付するためのものとして好適であった。
【0186】
<発熱体に対する放熱性の確認>
上記の試験片の追従性及び密着性の確認後、引き続き、セラミックヒーターを、10Vの電圧をかけ、約2.5W(常温時)の電力で発熱させた。そして、約20分後に、発熱温度が安定したことを確認してから、前記熱電対により、回路基板の温度を測定したところ、63.5℃であった。回路基板の回路面の上部に設置したサーモグラフにより、回路面を観察したところ、温度が63℃を超える領域が、セラミックヒーターの配置箇所の一部にスポット状に確認されただけであった。
【0187】
[比較例1]
実施例1の場合と同様に、回路基板の回路面上にセラミックヒーターを設置し、回路基板の回路面とは反対側の裏面のうち、前記セラミックヒーターの真下に相当する部位に、熱電対を設置した。
次いで、実施例1の場合と同じ方法で、セラミックヒーターを、10Vの電圧をかけ、約2.5W(常温時)の電力で発熱させ、前記熱電対により、回路基板の温度を測定したところ、76.8℃であった。回路基板の回路面の上部に設置したサーモグラフにより、回路面を観察したところ、温度が65℃を超える領域が、セラミックヒーターの配置箇所の比較的広い範囲で確認された。
【0188】
実施例1と比較例1との比較から、実施例1の樹脂シートは、発熱体の放熱性に優れており、各種電子機器において新たな放熱構造を構成するのに好適であることを確認できた。
【0189】
[実施例2]
<<樹脂シートの製造>>
<原料シートの製造>
熱可塑性樹脂(1)(10質量部)と、フィラー(2)(9質量部)と、フィラー(3)(12質量部)とを、2軸押出機を用いて溶融混練することにより、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
さらに、得られた前記樹脂組成物を、圧力0.02MPa以下の真空条件下で、120℃で加熱しながら、15MPaの圧力で5分間、加熱プレスすることにより、単層構造の原料シート(厚さ約200μm)を作製した。このような原料シートを合計で12枚作製した。
【0190】
<樹脂シートの製造>
1枚の原料シートと、1枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)と、を交互に繰り返し積層することで、12枚の原料シートと、12枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)と、の積層物であって、その一方の最表層が原料シートであり、他方の最表層が熱伝導性有機繊維クロス(1)である、合計で24層の積層シートを作製した。
【0191】
次いで、前記積層シートの一方の最表層(原料シート)の露出面に、ステンレス鋼(SUS)製の枠(厚さ2.5mm)を介して、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの離型処理面を重ね合わせ、前記積層シートの他方の最表層(熱伝導性有機繊維クロス(1))の露出面に、上記と同じ離型処理されたPET製フィルムの離型処理面を重ね合わせた。これにより、前記PET製フィルム、枠、積層シート及びPET製フィルムがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された積層物を得た。前記積層物を、その前記PET製フィルム等の積層方向を上下方向とし、その前記枠に隣接した前記PET製フィルムを最下層として配置し、圧力0.02MPa以下の真空条件下で、前記積層物を一対の熱板で挟み込んだ。そして、前記積層物を、100℃で加熱しながら、15MPaの圧力で5分間、加熱プレスした。
【0192】
以上により、12枚の熱伝導性有機繊維クロス(1)が、これらの厚さ方向において積層されるとともに、その空隙部に、熱可塑性樹脂(1)と、フィラー(2)と、フィラー(3)との混合物(換言すると前記樹脂組成物。以下同様。)が充填され、その周囲が、熱可塑性樹脂(1)と、フィラー(2)と、フィラー(3)との混合物によって被覆されて構成された樹脂シート(厚さ約2500μm)を得た。
【0193】
この樹脂シートの熱可塑性樹脂(1)の含有量(質量部)は、この樹脂シートの熱伝導性有機繊維クロス(1)の含有量(質量部)に対して、3質量倍であった。
この樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積に対する、熱伝導性有機繊維(超高分子量ポリエチレンの繊維)の体積の割合は、15体積%であった。
この樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、フィラー(2)(連結フィラー)の含有量(体積部)の割合は、17体積%であった。
この樹脂シートにおいて、樹脂シートの体積(体積部)に対する、フィラー(3)(板状フィラー)の含有量(体積部)の割合は、23体積%であった。
したがって、この樹脂シートにおいて、板状フィラーの含有量に対する、連結フィラーの含有量の割合は、74体積%であった。
【0194】
<<樹脂シートの評価>>
<樹脂シートの面方向における熱伝導率の測定>
上記で得られた樹脂シートについて、実施例1の場合と同じ方法で、その面方向における熱伝導率を測定したところ、8W/m・Kであった。
【0195】
<樹脂シートの比誘電率及び誘電正接の測定>
上記で得られた樹脂シートについて、実施例1の場合と同じ方法で、比誘電率を測定したところ、周波数10GHzでは3.3であり、周波数1GHzでは3.6であり、いずれも4未満であった。誘電正接は、周波数10GHzでは0.004であり、周波数1GHzでは0.007であり、いずれも0.01以下であった。
【0196】
<樹脂シートの密度の測定>
実施例1の場合と同じ方法で、上記で得られた樹脂シートの密度を測定したところ、1.54kg/mであった。
【0197】
<樹脂シートの追従性及び密着性の確認>
上記で得られた樹脂シートから、実施例1の場合と同様に、大きさが50mm×40mmの試験片を切り出し、この試験片を用いて、実施例1の場合と同じ方法で、樹脂シート(試験片)の追従性及び密着性を確認した。その結果、実施例1の場合と同様に、前記試験片をセラミックヒーターと回路面に隙間なく密着させることができ、前記試験片が追従性及び密着性に優れることを確認できた。本実施例の樹脂シートは、その装着対象物に対して加熱しながら貼付するときに、前記装着対象物の形状に対して前記樹脂シートの形状を追従させながら貼付するためのものとして好適であった。
【0198】
<発熱体に対する放熱性の確認>
上記の試験片の追従性及び密着性の確認後、引き続き、実施例1の場合と同じ方法で、セラミックヒーターを、10Vの電圧をかけ、約2.5W(常温時)の電力で発熱させ、約20分後に、発熱温度が安定したことを確認してから、前記熱電対により、回路基板の温度を測定したところ、53.0℃であった。回路基板の回路面の上部に設置したサーモグラフにより、回路面を観察したところ、温度が58℃を超える領域が、セラミックヒーターの配置箇所の一部にスポット状に確認されただけであり、温度が63℃を超える領域は、認められなかった。
【0199】
実施例1と実施例2との比較から、実施例2の樹脂シートは、実施例1の樹脂シートよりも、さらに発熱体の放熱性に優れていた。実施例2の樹脂シートは、各種電子機器において新たな放熱構造を構成するのに、より好適であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明は、CPUを備えた電子機器において、従来のTIMとヒートスプレッダーに代わる新たな放熱構造を構成するのに利用可能であり、CPUに限定されず、CPUと同様の発熱体を備えた他の機器でも、放熱構造を構成するのに利用可能である。
【符号の説明】
【0201】
1,21,22,23・・・樹脂シート
21a,22a,23a・・・樹脂シートの一方の面
23b・・・樹脂シートの他方の面
11・・・熱伝導性有機繊維
12・・・熱可塑性樹脂
13・・・フィラー
110・・・熱伝導性有機繊維のクロス
・・・樹脂シートの面方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7