(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094642
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換層および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/856 20230101AFI20230629BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20230629BHJP
【FI】
H01L35/24
H01L35/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210058
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 類
(72)【発明者】
【氏名】倉内 啓輔
(57)【要約】
【課題】
高いゼーベック係数と導電性を有する良好な熱電変換特性を示す熱電変換材料を提供すること。
【解決手段】
炭素-炭素二重結合を有する炭素材料(A)の表面の少なくとも一部が、炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物(B)によって修飾された表面修飾炭素材料を含む熱電変換材料によって解決できる。化合物(B)は、1,3-双極子、ディールス・アルダー反応性化合物およびビンゲル反応性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素二重結合を有する炭素材料(A)の表面の少なくとも一部が、前記炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物(B)によって修飾された表面修飾炭素材料を含む熱電変換材料。
【請求項2】
前記化合物(B)が、1,3-双極子、ディールス・アルダー反応性化合物およびビンゲル反応性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記1,3-双極子が、アゾメチンイリドおよびニトリルオキシドからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項2記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記炭素材料(A)が、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1~3いずれか記載の熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の熱電変換材料を含む熱電変換層。
【請求項6】
請求項5記載の熱電変換層と電極とを有し、前記熱電変換層および前記電極が、互いに電気的に接続されている熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、熱電変換層および熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料を用いて熱を電気に変換する熱電変換技術は、自然界における様々な熱に加え、工場・車・家庭から排出される排熱や体温等の微小熱エネルギーを電気として有効活用できるクリーンエネルギーとして注目されている。熱電変換技術に活用される熱電効果は様々存在するが、半導体や金属の組合せにより構成される材料の両端に2つの異なる温度を与えた際、その温度差に応じて材料内に生じた電子勾配により起電力が発生するゼーベック効果を活用したシステムが主流である。
【0003】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、またはp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて用いられる。
【0004】
また、熱電変換素子は、ペルチェ素子に代表されるように、多数の素子を板状、または円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することができるため、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電および人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能等に依存する。
【0005】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数ZTが用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記、無次元熱電性能指数ZTは、下記式(1)により表される。
ZT=((S2・σ)/к)・T 式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S/m)、Tは絶対温度(K)、およびкは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率кは下記式(2)で表される。
к=α・ρ・C 式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、およびCは比熱容量(J/(kg・K))である。
すなわち、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数または導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0006】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)等の無機材料が使用されている。
【0007】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、または有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギーおよび製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに無機材料を含むは剛直であるため、平面ではない形状に加工したり、フレキシブル性を有する熱電変換素子を製造することは困難である。また、一般的に無機材料を含む熱電変換材料は比重が高いため、重量化しやすい点でも課題を有している。
【0008】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、軽量である上に優れた成型性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性に優れている。また、印刷技術等を活用して素子を製造できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0009】
例えば、特許文献1には、有機色素骨格を有する高分子分散剤とカーボンナノチューブ(CNT)とを含有する熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子が開示されている。しかしながら、特許文献1の発明に開示されている熱電変換素子では、十分な熱電変換性能を有していないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】梶川武信著、「熱電変換技術ハンドブック(初版)」、エヌ・ティー・エス出版、19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の発明では、導電率が十分でなく、熱電素子として実用的な値を得ることはできていない。本発明が解決しようとする課題は、高いゼーベック係数と導電性を有する良好な熱電変換特性を示す熱電変換材料を提供することである。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、炭素-炭素二重結合を有する炭素材料(A)の表面の少なくとも一部が、上記炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物(B)によって修飾された表面修飾炭素材料を含む熱電変換材料に関する。
【0014】
また、本発明は、上記化合物(B)が、1,3-双極子、ディールス・アルダー反応性化合物およびビンゲル反応性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記熱電変換材料に関する。
【0015】
また、本発明は、上記1,3-双極子が、アゾメチンイリドおよびニトリルオキシドからなる群から選ばれる少なくとも一種である上記熱電変換材料に関する。
【0016】
また、本発明は、上記炭素材料(A)が、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む上記熱電変換材料に関する。
【0017】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含む熱電変換層に関する。
【0018】
また、本発明は、上記熱電変換層と電極とを有し、上記熱電変換層および上記電極が、互いに電気的に接続されている熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、高いゼーベック係数と導電性を有する良好な熱電変換特性を示す熱電変換材料を提供することができるようになった。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書では、「炭素-炭素二重結合を有する炭素材料(A)」および「炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物(B)」は、それぞれ「炭素材料(A)」および「化合物(B)」と略記することがある。また、本明細書でいう表面修飾とは、炭素材料(A)と化合物(B)とが、化学的に結合されていること、および物理的に吸着されていることの両方を意味するものとして扱うことにする。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<炭素材料(A)>
炭素材料(A)としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)等が挙げられる。ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、カーボンナノチューブを含むことがより好ましく、二層カーボンナノチューブおよび/または単層カーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが特に好ましい。
【0022】
炭素材料(A)としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、OCSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、NC2100(二層カーボンナノチューブ)、NC2150(二層カーボンナノチューブ)、Knano社製の100T、200P等が挙げられる。これらは特に限定されることはない。
上記の炭素材料(A)は、いずれも炭素材料表面に炭素-炭素二重結合を有するため、後述する化合物(B)によって修飾され得る。
【0023】
<化合物(B)>
化合物(B)は、炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物を指す。化合物(B)としては、炭素材料(A)と環化付加反応し得る化合物であれば、特に限定されないが、1,3-双極子、ディールス・アルダー反応性化合物、ビンゲル反応性化合物が好ましい。尚、本明細書における「ディールス・アルダー反応性化合物」とは、ディールス・アルダー(Diels-Alder)型反応である[4+2]環化付加反応における共役ジエンを意味する。また、「ビンゲル反応性化合物」とは、ビンゲル(Bingel)型反応におけるエノラートを意味する。
【0024】
1,3-双極子としては、ニトリルイリド、ニトリルイミン、ニトリルオキシド、アジド、アゾメチンイリド、アゾメチンイミン、ニトロン、カルボニルイリド、カルボニルイミン、カルボニルオキシド、アゾキシド、ニトロ化合物、亜酸化窒素、オゾン等が挙げられる。操作性、反応性の観点からカルボニルイリド、ニトリルイミン、ニトリルオキシド、アゾメチンイリド、アゾメチンイミン、ニトロンが好ましく、ニトリルオキシド、アゾメチンイリドがより好ましい。これらの化合物は単体で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。これらの化合物は、環化反応を阻害しない範囲で、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のカルボニル基、置換もしくは未置換のエーテル基、アリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、アリールチオ基、置換アリール基、複素環基、置換もしくは未置換のアミノ基、ホルミル基、―SO3M(Mは、金属原子)で置換されていてもよい。Mで表される金属原子としては、アルカリ金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。前述の置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換もしくは未置換のエーテル基、置換アルキルチオ基、置換アリール基、置換アミノ基とは、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、アリール基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基で置換された、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、エーテル基、アルキルチオ基、アリール基、アミノ基を示す。熱電性能と分散性の観点から、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のカルボニル基、置換もしくは未置換のエーテル基、置換もしくは未置換のアリール基が好ましい。好ましい態様の一つであるニトリルオキシドとしては、アルコキシ基を有しても良いベンズニトリルオキシド、アルキルニトリルオキシドが好ましい。また、好ましい態様の一つであるアゾメチンイリドとしては、N―アラルキルアゾメチンイリド、N―アルキルカルボニルアゾメチンイリド、N―アラルキルオキシカルボニルアゾメチンイリドが好ましい。
【0025】
1,3-双極子は、安定に存在しないものも多く、その場合は炭素材料(A)との反応に際して1,3-双極子の前駆体から1,3-双極子を生成させて炭素材料(A)と反応させても良い。1,3-双極子の前駆体としては、例えば、以下のものが挙げられる。
アゾメチンイリドの前駆体としては、N位に置換基が導入されたグリシン誘導体、およびN位に置換基が導入されたグリシンエステル誘導体等が挙げられる。N位に置換基が導入されたグリシン、およびN位に置換基が導入されたグリシンエステル誘導体を、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、その他アルデヒド化合物等と反応させることでアゾメチンイリドを生成することができる。N位に置換基が導入されたグリシン誘導体としては、N-トリフェニルメチルグリシン、N-イソバレロイルグリシン、N-アセチルグリシン、N-ラウロイルグリシン、N-エチルグリシン、N-(3-メチルベンゾイル)グリシン、N-ベンジルオキシカルボニルグリシン、ベンゾイルグリシンが挙げられる。N位に置換基が導入されたグリシンエステル誘導体としては、N-ベンジルグリシンエチル、N-ベンジルグリシンメチル、N-(2-ピコリル)グリシンエチル、N-トリフェニルメチルグリシンエチル、N-ラウロイルグリシンエチル等が挙げられる。熱電性能と分散性の観点から、N―アラルキルグリシン、N―アルキルカルボニルグリシン、N―アラルキルオキシカルボニルグリシンが好ましい。N―アラルキルグリシンとしてはN―トリフェニルメチルグリシンが、N―アルキルカルボニルグリシンとしてはN―ラウロイルグリシンが、N―アラルキルオキシカルボニルグリシンとしてはN―ベンジルオキシカルボニルグリシンが好ましい。ニトリルオキシドの前駆体としては、オキシムが挙げられる。オキシムを次亜塩素酸、クロラミン―T、N―クロロスクシンイミド等で酸化することによってニトリルオキシドを生成することができる。オキシムとしては、2,4,6-トリメトキシベンズアルデヒドオキシム、4―メトキシベンズアルデヒドオキシム、ヘキサデカナールオキシム、ブチルアルデヒドオキシム等が挙げられる。熱電性能と分散性の観点から、アルコキシ基を有しても良いベンズアルデヒドオキシム、アルキルオキシムが好ましい。アルコキシ基を有しても良いベンズアルデヒドオキシムとしては4―メトキシベンズアルデヒドオキシムが、アルキルオキシムとしてはヘキサデカナールオキシムが好ましい。
【0026】
ビンゲル反応性化合物としては、エノラートが挙げられる。エノラートは、ビンゲル反応性化合物の前駆体と塩基等とを反応させることにより生成することができる。ビンゲル反応性化合物の前駆体としては、活性メチレン化合物等が挙げられる。活性メチレン化合物としては、β-ケト酸や、ブロモマロン酸エステル化合物、ブロモアセト酢酸エステル化合物等のα位にハロゲンが導入されたβ-ケト酸等が挙げられる。ブロモマロン酸エステル化合物としては、ブロモマロン酸エチル、ブロモマロン酸メチルが好ましい。ブロモアセト酢酸エステル化合物としては、ブロモアセト酢酸メチル、ブロモアセト酢酸エチルが好ましい。また、β-ケト酸としては、マロン酸エチル、マロン酸メチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルが好ましい。β-ケト酸を用いてエノラートを生成するために、ヨウ素等のハロゲンとβ-ケト酸とを反応させても良い。これらの化合物は単体で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0027】
ディールス・アルダー反応性化合物としては、フラン、チオフェン、ピロール、シクロペンタジエン、1,3-ブタジエン、チオフェン-1-オキサイド、チオフェン-1,1-ジオキサイド、シクロペンタ-2,2-ジヒドロピリジン、2Hチオピラン-1,1-ジオキサイド、シクロヘキサ-2,4-ジエノン、マレイミドおよびピラン-2-オン等の化合物が挙げられる。これらの化合物は単体で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。これらの化合物は、環化反応を阻害しない範囲で、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のカルボニル基、置換もしくは未置換のエーテル基、アリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、アリールチオ基、置換アリール基、複素環基、置換もしくは未置換のアミノ基、ホルミル基、―SO3M(Mは、金属原子)で置換されていてもよい。Mで表される金属原子としては、アルカリ金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。前述の置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換もしくは未置換のエーテル基、置換アルキルチオ基、置換アリール基、置換アミノ基とは、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、アリール基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基で置換された、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、エーテル基、アルキルチオ基、アリール基、アミノ基を示す。熱電性能と分散性の観点から、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のカルボニル基、置換もしくは未置換のエーテル基、置換もしくは未置換のアリール基が好ましい。
【0028】
化合物(B)の含有量は、ゼーベック係数、導電率、塗工適性の観点から、炭素材料(A)の全量に対して5~500質量%が好ましく、より好ましくは25~300質量%である。
【0029】
<その他成分>
本発明の熱電変換材料は、その特性を向上させる観点から、必要に応じて、その他成分を含んでよい。例えば、以下に例示するその他成分を含有することによって、塗工性、導
電性および熱電特性のさらなる向上が可能となる。
【0030】
(溶剤)
炭素材料(A)と必要に応じてその他成分とを均一に混合するための溶媒または分散媒として溶剤を使用しても良い。使用できる溶剤としては、特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチル-2-ピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0031】
(樹脂)
本発明の熱電変換材料は、成膜性や膜強度の調整等を目的として、導電性および熱電特性に影響しない範囲で、樹脂を含んでもよい。樹脂は、熱電変換材料の各成分と相溶または均一に分散できるものが好ましい。熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。使用可能な樹脂の具体例として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、およびこれらの共重合樹脂等が挙げられる。特に限定するものではないが、一実施形態において、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、およびアクリルアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0032】
本発明の熱電変換層は、導電性および熱電特性に加えて、耐熱性および可撓性の点でも優れる。熱電変換層は、熱電変換材料と溶剤等とを含む組成物を基材等へ塗布して得られる膜であってもよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換層の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、および材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0033】
熱電変換層の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換層の厚さ方向または面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。一実施形態において、熱電特性の点から、熱電変換層の膜厚は、0.1~300μmの範囲が好ましく、0.2~100μmの範囲が好ましく、0.5~20μmの範囲がさらに好ましい。
【0034】
基材としては、特に制限はないが、不織布、紙、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、およびセルローストリアセテート等の材料からなるプラスチックフィルム、またはガラス等を用いることができる。
【0035】
基材と熱電変換層との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、または易接着処理を行ってもよい。
【0036】
本発明の実施形態である熱電変換素子は、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。代表的に、熱電変換素子のより具体的な構成、およびその製造方法について説明する。
【0037】
熱電変換素子は、熱電変換層と、この熱電変換層と電極的に接続する一対の電極とを有する。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、またはワイヤ等の他の構成部材を介して通電できる状態であることを意味する。
【0038】
電極の材料は、金属、合金、および半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高いこと、熱電変換層を構成する本発明による熱電変換材料との接触抵抗が低いことから、金属および合金が好ましい。具体例として、電極は、金、銀、銅、およびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。電極は、銀を含むことがさらに好ましい。
【0039】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0040】
熱電変換素子の構造の具体例は、熱電変換層と一対の電極との位置関係から、(1)熱電変換層の両端に電極が形成されている構造、(2)熱電変換層が2つの電極で挟持されている構造に大別される。例えば、上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、基材上に熱電変換層を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1および第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換層の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率良く熱電変換を行うことが容易である。
【0041】
上記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に熱電変換層を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換層を挟持する熱電変換素子では、二つの電極間の距離を広くすることは難しい。そのため、2つの電極間に大きな温度差を発生させることは難しいが、熱電変換層の膜厚を大きくすることによって、温度差を大きくすることが可能である。また、このような構造を有する熱電変換素子は、基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱体に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源の広い面積の活用が容易となる点で好ましい。
【0042】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0043】
一実施形態において、本発明の熱電変換素子をその他熱電変換材料から成る熱電変換素子と組み合わせることも有効である。例えば、無機熱電変換材料として、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co2O5系等を挙げることができ、具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo2O4、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、LaFe3CoSb12等を使用することができる。このとき、上記無機熱電変換材料に、不純物を加えて、極性(p型、n型)や導電率を制御して利用しても良い。その他、有機熱電変換材料として、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、フラーレン、およびそれらの誘導体等を使用することができる。これら材料から構成されるその他熱電変化素子を組合せる場合、素子のフレキシブル性を損なわない範囲内で、その他熱電変換素子を作製してもよい。
【0044】
複数の熱電変換素子を接続する場合、1つの基材に集積した状態で接続して利用することもできる。このような実施形態において、本発明による熱電変換素子と、n型としての極性を示す熱電材料から成る熱電変換素子との組合せが好ましく、これらを直列に接続することがより好ましい。本実施形態によれば、熱電変換素子を緻密に集積することが容易となる。
【実施例0045】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、特に断りがない限り、「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。
炭素材料(A1):OCSiAl社製TUBALL(単層カーボンナノチューブ)
炭素材料(A2):Nanocyl社製NC2100(二層カーボンナノチューブ)
炭素材料(A3):XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP-M-5」
【0046】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は、東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。本発明における測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、展開溶媒(溶離液)THF(テトラヒドロフラン)、流量0.6ml/分、カラム温度40℃の条件で行いた。質量平均分子量(Mw)の決定は、標準物質としてポリスチレンを用いた換算で行った。
【0047】
<側鎖に有機色素を導入したポリマーの合成>
(合成例1:色素導入ポリマー1)
国際公開第2015/050113号の段落[0074]を参考にして、質量平均分子量(Mw)が約21,000の下記構造で表される側鎖にペリレン骨格導入したアクリルポリマーである色素導入ポリマー1を得た。
【0048】
【0049】
[表面修飾炭素材料の合成]
(合成例2:表面修飾炭素材料(A1―1))
炭素材料(A1)を1部、パラホルムアルデヒド(東京化成工業社製)を0.86部、化合物(B)の前駆体としてN―トリフェニルメチルグリシン(東京化成工業社製)を0.5部、トルエン(富士フイルム和光純薬社製)100部を、フラスコに加え、撹拌しながら還流し72時間反応させた。反応物を濾過し、トルエン(富士フイルム和光純薬社製)で洗浄、乾燥し、化合物(B)である表1に示された構造を有するアゾメチンイリド(B1)が炭素材料(A1)に化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―1)を得た。
【0050】
(合成例3、4、5、6、:表面修飾炭素材料(A1―2、A1―3、A1―4、A1―5))
N―トリフェニルメチルグリシンを表2に示す配合比(仕込み量)にそれぞれ変更した以外は、合成例2と同様の方法で、アゾメチンイリド(B1)が炭素材料(A1)に化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―2~A1―5)を得た。
【0051】
(合成例7:表面修飾炭素材料(A1―6))
N―トリフェニルメチルグリシンをN―カルボベンゾキシグリシン(富士フイルム和光純薬社製)に変更した以外は、合成例2と同様の方法で、表1に示された構造を有するアゾメチンイリド(B2)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1-6)を得た。
【0052】
(合成例8:表面修飾炭素材料(A1―7))
N―トリフェニルメチルグリシンをN―ラウロイルグリシン(東京化成工業社製)に変更した以外は、合成例2と同様の方法で、表1に示された構造を有するアゾメチンイリド(B3)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1-7)を得た。
【0053】
(合成例9:表面修飾炭素材料(A1―8))
イソシアナト酢酸エチルを5部、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(東京化成工業社製)を6.4部、2-エチルヘキサン酸すず(II)(富士フイルム和光純薬社製
)を0.1部、アセトン(富士フイルム和光純薬社製)を5部をフラスコに加え、窒素下で加熱還流させ、12時間撹拌した後、減圧しアセトンを留去させた。その後塩酸を加え、80℃で6時間撹拌した後、塩酸を留去し乾燥し化合物1を得た。その後、N―トリフェニルメチルグリシンを化合物1に変更した以外は、合成例2と同様の方法で、表1に示された構造を有するアゾメチンイリド(B4)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1-8)を得た。
【0054】
(合成例10:表面修飾炭素材料(A1―9))
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を炭素材料(A1)に変更し、炭素材料(A1)1部に対するヘキサデカナールオキシムの使用量を0.5部に変更した以外は、非特許文献「RSC Adv.,2016,6,64129-64132」記載の方法により、表1に示された構造を有するニトリルオキシド(B5)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―9)を得た。
【0055】
(合成例11:表面修飾炭素材料(A1―10))
ヘキサデカナールオキシムを4―メトキシベンズアルデヒドオキシムに変更した以外は、合成例10と同様の方法で、表1に示された構造を有するニトリルオキシド(B6)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―10)を得た。
【0056】
(合成例12:表面修飾炭素材料(A1―11))
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を炭素材料(A1)に変更し、炭素材料(A1)1部に対するブロモマロン酸ジエチルの使用量を2部に変更した以外は、非特許文献「J.Am.Chem.Soc.,2003,125,29,8722-8723」記載の方法により、表1に示された構造を有するビンゲル反応性化合物(B7)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1-11)を得た。
【0057】
(合成例13:表面修飾炭素材料(A1―12))
ブロモマロン酸ジエチルをブロモマロン酸ジメチル(東京化成工業社製)に変更した以外は、合成例12と同様の方法で、表1に示された構造を有するビンゲル反応性化合物(B8)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―12)を得た。
【0058】
(合成例14:表面修飾炭素材料(A1―13))
ブロモマロン酸ジエチルをマロン酸ジエチル(東京化成工業社製)に変更し、炭素材料(A1)1部に対するヨウ素(富士フイルム和光純薬社製)3部を反応系に加えた以外は、合成例12と同様の方法で、表1に示された構造を有するビンゲル反応性化合物が(B9)化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―13)を得た。
【0059】
(合成例15:表面修飾炭素材料(A1―14))
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を炭素材料(A1)に変更し、フルフリルアルコールを2-(エトキシメチル)フラン(富士フイルム和光純薬社製)に変更し、炭素材料(A1)1部に対する2-(エトキシメチル)フランの使用量を1部に変更した以外は、非特許文献「Carbon,2009,47,13,3041-3049」記載の方法により、ディールス・アルダー反応性化合物(B10)である2-(エトキシメチル)フランが化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―14)を得た。
【0060】
(合成例16:表面修飾炭素材料(A1―15))
2-(エトキシメチル)フランをN―フェニルマレイミド(東京化成工業社製)に変更した以外は、合成例15と同様の方法で、ディールス・アルダー反応性化合物(B11)であるN―フェニルマレイミドが化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―15)を得た。
【0061】
(合成例17:表面修飾炭素材料(A1―16))
2-(エトキシメチル)フランを2―ブチルフラン(東京化成工業社製)に変更した以外は、合成例15と同様の方法で、ディールス・アルダー反応性化合物(B12)である2―ブチルフランが化学的に結合された表面修飾炭素材料(A1―16)を得た。
【0062】
(合成例18:表面修飾炭素材料(A2―1))
炭素材料(A1)を炭素材料(A2)に変更した以外は、合成例2と同様の方法で、アゾメチンイリド(B1)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A2-1)を得た。
【0063】
(合成例19:表面修飾炭素材料(A2―2))
炭素材料(A1)を炭素材料(A2)に変更した以外は、合成例12と同様の方法で、ビンゲル反応性化合物(B7)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A2-2)を得た。
【0064】
(合成例20:表面修飾炭素材料(A2―3))
炭素材料(A1)を炭素材料(A2)に変更した以外は、合成例15と同様の方法で、ディールス・アルダー反応性化合物(B10)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A2-3)を得た。
【0065】
(合成例21:表面修飾炭素材料(A3―1))
炭素材料(A1)を炭素材料(A3)に変更した以外は、合成例7と同様の方法で、アゾメチンイリド(B2)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A3-1)を得た。
【0066】
(合成例22:表面修飾炭素材料(A3―2))
炭素材料(A1)を炭素材料(A3)に変更した以外は、合成例16と同様の方法で、ディールス・アルダー反応性化合物(B11)が化学的に結合された表面修飾炭素材料(A3-2)を得た。
【0067】
[実施例1]
(分散液1)
熱電変換材料として表面修飾炭素材料(A1―1)を0.2部、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬)40部をそれぞれ秤量し混合した。さらにビーズを加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0068】
[実施例2~21]
(分散液2~21)
材料の種類および配合量を表2に示す内容にそれぞれ変更した以外は、分散液1の製造方法と同様にして、熱電変換材料の分散液2~21をそれぞれ得た。
【0069】
[実施例22]
(分散液22)
N―フェニルマレイミド1部、炭素材料(A1)1部、N-メチル-2-ピロリドン40部をそれぞれ秤量し混合した。さらにビーズを加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してビーズを取り除き、ディールス・アルダー反応性化合物(B11)が炭素材料(A1)の表面に物理的に吸着された表面修飾炭素材料(A1―17)を含む熱電変換材料の分散液22を得た。
【0070】
[実施例23、24]
(分散液23、24)
材料の種類および配合量を表2に示す内容にそれぞれ変更した以外は、分散液22の製造方法と同様にして、熱電変換材料の分散液23、24を得た。
【0071】
[比較例1]
(分散液101)
国際公開第2015/050113号の段落[0079]に準じて、色素導入ポリマー1と単層CNT(KH-chemical社製)を含む分散液101を製造した。尚、「単層CNT」とは、単層カーボンナノチューブの意である。
【0072】
<熱電変換材料および熱電変換層の評価>
得られた分散液1~24、101を、シート状基材である厚さ75μmのポリイミドフィルム上にアプリケータを用いてそれぞれ塗布した後、130℃で30分間加熱乾燥して、ポリイミドフィルム基材上に、厚さ2μmの熱電変換層を有する積層体をそれぞれ得た。分散液を基材に塗工した際の塗工適性を以下に示す方法に従って評価した。また、得られた熱電変換層(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下の方法に従って導電性(導電率)、ゼーベック係数を評価した。結果を表2に示す。
【0073】
(導電率(抵抗率))
得られた積層体を2.5cm×5cmの大きさに切り取り、JIS-K7194に準じて、ロレスタGX MCP-T700(三菱化学アナリテック社製)を用いて4探針法で導電率を測定した。比較例1の導電率を1としたときの相対値を表2に示す。
【0074】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を3mm×10mmの大きさに切り取り、アドバンス理工株式会社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μV/K)を測定した。比較例1のゼーベック係数を1としたときの相対値を表2に示す。
【0075】
(塗工適性)
分散液の塗工適性は、グラインドゲージ(溝の深さ50μm)を用いて評価した。
◎:10μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(非常に良好)
〇:10μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子はあるが、20μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(良好)
△:20μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子はあるが、30μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(使用可能)
×:30μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がある(使用不可)
【0076】
<熱電変換素子の製造>
厚さ50μmのポリイミドフィルム上に、実施例1で調製した分散液1を塗布し、厚さ2μm、5mm×30mmの形状を有する熱電変換層を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した。次いで、各熱電変換層がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペーストを用いて、厚さ10μm、5mm×33mmの形状を有する銀回路(電極)を4つ作製し、熱電変換素子をそれぞれ製造した。上記銀ペーストとしては、トーヨーケム株式会社製のREXALPHA RA FS 074を使用した。分散液1の替わりに分散液2~24、101についても同様に熱電変換素子をそれぞれ製造した。各熱電変換素子について起電力を測定したところ、実施例1~24で製造した分散液を用いて製造した熱電変換素子は、いずれも比較例1で製造した分散液を用いて製造した熱電変換素子よりもゼーベック係数が優れていることを確認した。
【0077】
【0078】
【0079】