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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094650
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】鍛造熱処理品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/06 20060101AFI20230629BHJP
   B21K 1/10 20060101ALI20230629BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B21J1/06 A
B21K1/10
C21D9/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210068
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】391037799
【氏名又は名称】株式会社ゴーシュー
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】瀧戸 一晶
(72)【発明者】
【氏名】田崎 賢児
(72)【発明者】
【氏名】秋田 亨
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 拓也
(72)【発明者】
【氏名】長塚 健吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 建壮
【テーマコード(参考)】
4E087
4K042
【Fターム(参考)】
4E087AA01
4E087BA02
4E087CB02
4E087CB12
4E087HA35
4E087HA82
4K042AA14
4K042BA05
4K042BA14
4K042CA15
4K042DC02
4K042DD06
4K042DE05
(57)【要約】
【課題】省エネルギで、組織の回復と結晶の改善を促進させることで、切削加工に適した組織を得ることができ、かつ、焼き入れ・焼き戻し処理と同等の硬度の鍛造熱処理品を得ることができる鍛造熱処理品の製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)鋼材を550~650℃に加熱する工程と、
(2)前記加熱した鋼材に対して、相当ひずみが0.05~7.00となる鍛造を行い、鍛造成形素材を得る工程と、
(3)前記素材を、成形直後から400℃の間の平均冷却速度を100℃/分以下で冷却する冷却工程とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鋼材を550~650℃に加熱する工程と、
(2)前記加熱した鋼材に対して、相当ひずみが0.05~7.00となる鍛造を行い、鍛造成形素材を得る工程と、
(3)前記素材を、成形直後から400℃の間の平均冷却速度を100℃/分以下で冷却する冷却工程と
を備えることを特徴とする鍛造熱処理品の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程は、放冷又は断熱材で閉じられた容器の中に放置することを特徴とする請求項1に記載の鍛造熱処理品の製造方法。
【請求項3】
前記鋼材は、構造用工具鋼(SC材)、クロム鋼(SCR材)、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM材)のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鍛造熱処理品の製造方法。
【請求項4】
前記鍛造熱処理品は、回転電機に用いられるロータシャフト用素材であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の鍛造熱処理品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の構造部材等に使用される鍛造熱処理品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の構造部材等に使用される鍛造部材は、熱間鍛造の場合、材料を1050~1300℃に加熱して変形抵抗を下げ成形を行うようにしている。
成形後、組織の改善のため、900℃付近まで加熱してオーステナイト組織にした後、冷却速度を調整することにより、変態後の組織を調整し、必要特性を得るようにしている。
【0003】
この熱間鍛造の一例として、例えば、特許文献1には、
(1)所定の成分を有する鋼を加熱温度1050~1300℃に加熱する工程と、
(2)900℃~加熱温度の範囲で圧下率10~90%の鍛造を行い、直ちに20℃/秒以上の冷却速度で焼き入れを行う工程と、
(3)その後、400℃~Ac1点の温度範囲で焼き戻しを行う工程と
を備えた熱間鍛造品の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、この変態を利用した組織調整は、加熱エネルギが必要になり、また、冷却速度を制御するための専用の炉設備が必要になるという問題点を有していた。
【0005】
また、材料を1100~1300℃に加熱して熱間鍛造を実施して中間品を得た後、冷却速度を制御して、組織と強度を得る方法が適用されている。
【0006】
この熱間鍛造の一例として、例えば、特許文献2には、
特定割合のC、Mn、P及びNに加えてさらにV、Ti及びNbのうちの1種を含有するか、特定割合のC、Mn、Cr、V及びBに加えてさらにNi、Cu及びMoのうちの1種以上を含有する鋼片を熱間圧延して、オーステナイト結晶粒度番号が特定範囲に調整された鋼を製造した後、この鋼に加熱温度、昇温速度、加熱保持時間を規制した熱間鍛造を施すことによってフェライト・パーライト主体の組織とする非調質高強度鋼靭性熱間鍛造部品の製造方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、この方法も、材料を高温に加熱するエネルギが必要になるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-212347号公報
【特許文献2】特開平8-120342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の熱間鍛造が有する問題点に鑑み、省エネルギで、組織の回復と結晶の改善を促進させることで、切削加工に適した組織を得ることができ、かつ、焼き入れ・焼き戻し処理と同等の硬度の鍛造熱処理品を得ることができる鍛造熱処理品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の鍛造熱処理品の製造方法は、
(1)鋼材を500~650℃に加熱する工程と、
(2)前記加熱した鋼材に対して、相当ひずみが0.05~7.00となる鍛造を行い、鍛造成形素材を得る工程と、
(3)前記素材を、成形直後から400℃の間の平均冷却速度を100℃/分以下で冷却する冷却工程と
を備えることを特徴とする。
【0011】
この場合において、前記冷却工程は、放熱又は断熱材で閉じられた容器の中に放置することにより実施することができる。
【0012】
また、前記鋼材には、構造用工具鋼(SC材)、クロム鋼(SCR材)、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM材)のいずれかを用いることができる。
【0013】
また、前記鍛造熱処理品として、回転電機に用いられるロータシャフト用素材を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鍛造熱処理品の製造方法によれば、JISで定められた標準規格鋼材を使用して、追加の合金成分を添加することなく、A1変態点723℃以下の温度まで加熱して、成形と結晶粒細分化を終了した後、材料が持っている熱エネルギを利用することにより、省エネルギで、組織の回復と結晶組織の改善を促進させることで、切削加工等の機械加工に適したフェライト・パーライト組織を得ることができ、かつ、焼き入れ・焼き戻し処理と同等の硬度の鍛造熱処理品を得ることができる。
これにより、鍛造部材を、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の鍛造熱処理品の製造方法を適用したロータシャフトの製造工程の一例を示す説明図である。
図2】本発明の鍛造熱処理品の製造方法の温度と時間の関係を示すグラフである。
図3】本発明の鍛造熱処理品(ロータシャフト用素材)の製造方法の説明図である。
図4】(a1)はロータシャフト用素材の縦断面図、(a2)は同平面図、(b1)はロータシャフト(最終製品)の縦断面図、(b2)は同平面図である。
図5】(a)はロータシャフト用素材の変形例の縦断面図、(b)は同平面図である。
図6】本発明の鍛造熱処理品(ロータシャフト用素材の変形例)の製造方法の説明図である。
図7】ロータシャフト用素材の分析位置を示す説明図である。
図8】ロータシャフト用素材の各部位の硬度及びミクロ組織の分析結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の鍛造熱処理品の製造方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1及び図2に、本発明の成形方法を適用した工程の一例として、回転電機に用いられるロータシャフト用素材の製造例を示す。
【0018】
(1)加熱工程
加熱工程では、鋼材として構造用工具鋼(SC材(S45C))からなるビレット(円柱状素材)1を、550~650℃に加熱する。
【0019】
(2)鍛造工程
鍛造工程では、加熱したビレット(円柱状素材)1を、相当ひずみが0.05~7.00となる鍛造を行い、鍛造成形素材である中空シャフト素材(ロータシャフト用素材)3を得る。
ここで、「相当ひずみ」とは、任意の変形状態に対するひずみの大きさを定義する量であって、3次元変形におけるひずみを単軸変形に換算したものである。
本実施例においては、図3に示すように、ビレット(円柱状素材)1を、鍛造型(ロータシャフト用素材3の中心に形成する深穴32a、32b、フランジ部33及びキー溝34に対応した形状に形成した鍛造型)を用いて、鍛造(鍛造時の温度:550~650℃)により、1工程で、中心に穴22a、22bを有するブランク2を経て、全長150~300mm程度で、軸部31(径40~80mm程度)、深穴32a、32b、フランジ部33(径60~100mm程度)及びキー溝34(長さ100~250mm程度(フランジ部からロータコア装着部側の先端に亘る長さ)、幅5~10mm程度、深さ1~10mm程度)を形成したロータシャフト用素材3に成形する。
ここで、鍛造工程は、必ずしも1工程で行う必要はなく、鍛造による相当ひずみが0.05~7.00となるように、複数工程で行うこともできる。
また、キー溝34は、軸部31の180°対称位置に2本形成するようにしたが、1本又は3本以上形成することもできる。
また、キー溝34は、必ずしも鍛造時に成形する必要はなく、図5に示す変形例のように、鍛造工程ではキー溝を成形せずに、後述の機械加工工程で、サイドカッタ、エンドミルカッタ等を用いて切削加工により形成することもできる。
また、ロータシャフト用素材3の形状も、図3に示す形状に限定されず、例えば、図6に示す変形例のような形状とすることもできる。
【0020】
(3)冷却工程
次に、冷却工程で、ロータシャフト用素材3を、成形直後から400℃の間の平均冷却速度を100℃/分以下、好ましくは、90℃/分以下、より好ましくは、80℃/分以下で冷却する。
この冷却工程は、ロータシャフト用素材3を、断熱材で閉じられた容器の中に放置することにより実施するほか、平均冷却速度が上記数値を維持できる場合は、放冷することによっても実施することができる。
【0021】
このように、鋼材を、A1変態点723℃以下の550~650℃の温度まで加熱して、鍛造工程で成形と並行して結晶粒細分化を行う。成形終了と同時に結晶粒細分化も終了する。その後、材料が持っている熱エネルギを利用することにより、省エネルギで、組織の回復と結晶組織の改善を促進させることで、後述の切削加工等の機械加工に適したフェライト・パーライト組織を得ることができ、かつ、焼き入れ・焼き戻し処理と同等の硬度の鍛造熱処理品を得ることができる。
【0022】
(4)中間加工
ロータシャフト用素材3の深穴32b側の軸部31の内周面を機械加工する。
【0023】
(5)冷間スプライン成形
ロータシャフト用素材3の深穴32b側の軸部31の内周面に冷間スプライン成形を行う。
【0024】
(6)機械加工
ロータシャフト用素材3の軸部31の両側の外周面を機械加工(ロータコア装着部及び軸受装着部の仕上げ加工並びにナットが螺合する雄ねじ部の形成)するとともに、深穴32a、32b同士を貫通させ、図4(b)に示す、キー溝44を備えたロータシャフト(最終製品)4を得る。
【0025】
ここで、本発明の鍛造熱処理品の製造方法に使用する鋼材には、JISで定められた標準規格鋼材、例えば、本実施例で用いた構造用工具鋼(SC材)のほか、クロム鋼(SCR材)、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM材)を用いることができる。
【0026】
ここで、製造したロータシャフト用素材3(図6に示す変形例)の図7に示す各部位の分析結果を、表1及び図8に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すロータシャフト用素材3の各部位の硬度及び相当ひずみ及び図8に示すロータシャフト用素材3の各部位の硬度及びミクロ組織の結果から、以下のことが分かった。[実施例]
加熱工程の加熱温度:600℃
・硬度について
A部:組織の変形が大きく全体的に硬度が高め。外径側はより組織が潰れており硬度が高い。変態はしておらず加工硬化の影響が大きい。
B部:外径側はA部同様、加工硬化により硬度が高め。内部は変形が少ない。内径側は組織は変形しているが加工発熱で硬度が低下している。
C部:外径側、内部は変態はしておらず加工硬化により硬度が高め。内径側は微細組織となっている。
D部:Cと同じ
E部:Cと同じ
F部:Cと同じ
・ミクロ組織について
全体:粗いフェライト+パーライト組織を呈している。
A部:内外径に亘って全体的に組織が潰れている。
B部:内外径で組織の変形が大きく、内部は変形が小さい。
C部~F部:内径部はA部及びB部よりもさらに強い変形を受け、組織が細かくなったと推測される。内部と外径部は変形が小さく、鋼材時点の組織から少し変形している。
【0029】
以上、本発明の鍛造熱処理品の製造方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の鍛造熱処理品の製造方法は、省エネルギで、組織の回復と結晶の改善を促進させることで、切削加工に適した組織を得ることができ、かつ、焼き入れ・焼き戻し処理と同等の硬度の鍛造熱処理品を得ることができることから、回転電機に用いられるロータシャフトのほか、自動車用の構造部材等に使用される鍛造熱処理品を製造するために広く用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ビレット(円柱状素材)
2 ブランク
3 ロータシャフト用素材
32a 深穴
32b 深穴
33 フランジ部
34 キー溝
4 ロータシャフト(最終製品)
44 キー溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8