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特開2023-94669遮熱用黒色フィラメント、遮熱用黒色フィラメント製造用のマスターバッチ、及び、それらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094669
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】遮熱用黒色フィラメント、遮熱用黒色フィラメント製造用のマスターバッチ、及び、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/04 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
D01F1/04
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210104
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】592059035
【氏名又は名称】日弘ビックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李衆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 巌
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE01
4L035EE07
4L035JJ05
4L035JJ10
(57)【要約】
【課題】カーボンブラック以外の顔料をフィラメントに含有させることで、優れた黒色と遮熱性の両立ができる遮熱用黒色フィラメント、その製造に用いるマスターバッチ、それを用いた遮熱用黒色糸、及び、それらの製造方法を提供すること。
【解決手段】黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメントであって、該黒色顔料が金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物であり、該フィラメントの太さが10デニール以下のものであることを特徴とする遮熱用黒色フィラメント、該フィラメントを製造するためのマスターバッチ、該フィラメントを収束してなる遮熱用黒色糸、及び、それらの製造方法によって課題を解決した。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメントであって、
該黒色顔料が金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物であり、
該フィラメントの太さが10デニール以下のものであることを特徴とする遮熱用黒色フィラメント。
【請求項2】
前記有機ポリマーが合成繊維用の有機ポリマーである請求項1に記載の遮熱用黒色フィラメント。
【請求項3】
前記黒色顔料が、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、及び、ビスマス(Bi)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する金属の複合酸化物である請求項1又は請求項2に記載の遮熱用黒色フィラメント。
【請求項4】
前記黒色顔料が、前記有機ポリマーの内部に、遮熱用黒色フィラメント全体に対して、5質量%以上20質量%以下で包含されてなる請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の遮熱用黒色フィラメント。
【請求項5】
近赤外光の全波長域における平均反射率が10%以上である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の遮熱用黒色フィラメント。
【請求項6】
前記黒色顔料に加えて、色調調節剤が前記有機ポリマーの内部に包含されてなる請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の遮熱用黒色フィラメント。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の遮熱用黒色フィラメントを製造するためのマスターバッチであって、
前記黒色顔料が前記有機ポリマーの内部に、マスターバッチ全体に対して20質量%以上80質量%以下で、分散状態で含有されているものであることを特徴とするマスターバッチ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の遮熱用黒色フィラメントを、5本以上50本以下で、撚って又は纏めてなるものであることを特徴とする遮熱用黒色糸。
【請求項9】
請求項7に記載のマスターバッチの製造方法であって、
前記有機ポリマーを加熱して融解させ、該融解した有機ポリマーの内部に、前記黒色顔料を含有させて混錬して分散状態にすることを特徴とするマスターバッチの製造方法。
【請求項10】
前記有機ポリマーを、体積平均径1000μm以下に粉砕してから混錬機に投入して、前記黒色顔料と共に混錬する請求項9に記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項11】
更に分散助剤として、長鎖脂肪酸アミドを配合して混錬する請求項9又は請求項10に記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11の何れかの請求項に記載のマスターバッチの製造方法を用いることを特徴とする遮熱用黒色フィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱用黒色フィラメントに関するものであり、特に、カーボンブラック顔料以外の黒色顔料が分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメント、該遮熱用黒色フィラメント製造用のマスターバッチ、及び、それらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、黒色の着色にはカーボンブラック顔料が汎用され、カーボンブラック顔料を着色対象物に含有させることによって黒色にしている。
しかしながら、カーボンブラック顔料は、太陽光等に含まれる「近赤外線を含めた赤外線」を吸収する特性を有しており、そのために、日射(太陽光の照射)等により、該着色対象物を昇温させてしまう。すなわち、カーボンブラック顔料を分散させて黒色にした着色対象物は、一般に遮熱性が悪かった。
【0003】
一方、該着色対象物が、フィラメント(長繊維、ロングファイバー)、それを撚ること等で製糸してなるフィラメント糸(フィラメントヤーン);ステープル(短繊維、ステープルファイバー)、それを紡績してなる紡績糸(スパンヤーン、ステープルヤーン);それらを加工してなる織布、不織布等の布;等の場合は、もととなる着色対象物が細いため、着色顔料の分散が難しく、分散性が悪いと着色対象物である繊維が途中で切れてしまうと言う問題点があった。
【0004】
カーボンブラック顔料以外の黒色顔料は、一般に分散性が極めて悪いため、繊維に分散させる黒色顔料は、殆どカーボンブラック顔料に限られていた。
しかしながら、カーボンブラック顔料は、前記したように、近赤外線を吸収し、遮熱性が悪いため、黒色顔料を分散させた黒色の繊維や糸や布で、遮熱性を満足するものはなかった。言い換えれば、黒色顔料を内部に分散させ、黒色性(漆黒性)と遮熱性を両立させた繊維や糸や布は存在しなかった。
【0005】
そこで、優れた遮熱性を有する黒色繊維を問題なく得ようとすれば、「繊維内部への黒色顔料の分散」だけでは不足で(繊維内への分散がし難いので)、それ以外の他の方法を用いるか、他の方法の併用に頼るしかなかった。
該他の方法としては、すなわち既に知られている「遮熱繊維」としては、例えば、微粒子(酸化チタン、特殊セラミックス等)を練り込んだもの、断面形状(十字、扁平、クビレ等の断面形状や芯鞘構造等)を工夫したもの、編み方(高捲縮等)を工夫したもの、特殊セラミックを繊維に固着したもの、近赤外線を反射する膜で繊維を覆ったもの、等がある。
【0006】
特許文献1には、金属酸化物微細粒子及び近赤外線吸収性色素から選ばれた少なくとも1種からなる物質が含有された熱制御性物質層を有する「全体として3%以上の透光率(遮光率の補数)を有する採光性遮熱膜材」が記載されている。
そして、該熱制御性物質として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化インジウム等が挙げられている。
しかしながら、特許文献1発明は、「層」に関する発明であり、繊維中に分散させても該繊維が切れないことを課題・目的とした黒色遮熱顔料については、記載もなければ示唆もない。
【0007】
特許文献2には、赤外線反射層を有する防水シートの記載があり、該赤外線反射層が中空セラミックバルーンを含有することで、近赤外線の波長域における日射反射率を30%以上にできるとされている。
しかしながら、特許文献2発明は、防水シートに係るものであり、対象が繊維でないことに加え、遮熱の手段が顔料分散によるものでもなかった。
【0008】
特許文献3には、赤外線吸収剤が練り込まれ、芯成分と鞘成分の質量比が特定の範囲である芯鞘複合繊維について記載されている。そして、該赤外線吸収剤として、6ホウ化物を用いることが記載されている。
しかしながら、特許文献3発明は、繊維に関する発明ではあるが、芯と鞘からなる複合繊維に関するものであり、繊維の断面形状としては複雑なものであり、コストがかかるものであった。
【0009】
特許文献4には、無機化合物粒子を含有するポリエステル繊維に、塩化ビニル樹脂を含む処理液を付与する遮熱性ポリエステル繊維の製造方法が記載され、該無機化合物粒子として、二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸鉛、酸化鉛、硫化亜鉛、酸化亜鉛、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、アルミナが記載されている。
しかしながら、特許文献4発明のポリエステル繊維は、断面形状を扁平にして、更にクビレ部を2~5個有することで、遮熱性を実現させている。
【0010】
特許文献5には、導電性金属酸化物の微粒子と硫酸バリウム粒子とを特定な比率で含有する採光性遮熱膜材が記載され、該導電性金属酸化物として、アンチモンドープ酸化スズ等が挙げられている。
しかしながら、特許文献5発明は、「膜」に関する発明であり、繊維中に分散させても該繊維が切れないことを課題・目的としたものではなかった。
【0011】
特許文献6には、繊維布帛の少なくとも片面に形成された合成樹脂膜を有する遮熱性繊維布帛が記載され、該合成樹脂膜は、金属粒子及び/又はカーボンブラックを含むとされている。
しかしながら、特許文献6発明も、「膜」に関する発明であり、繊維中に分散させても該繊維が切れないことを課題・目的としたものではなかった。
【0012】
前記した通り、膜や層を遮熱性にした技術は多いが、フィラメントやステープルと言った繊維自体を遮熱性にした技術は多くなく、更には、黒色顔料の分散によって、漆黒性と共に遮熱性をも実現させた「分散性が良いため途中で切れ難い繊維」については知られていなかった。
また、黒色顔料の分散以外の他の方法で遮熱性を出そうとしても、色目の範囲に限界があり、黒色顔料としてカーボンブラックを使用する以外に好適な方法がなく、それでカーボンブラックを使用すれば、良好な遮熱効果は失われてしまっていた。
すなわち、繊維の「優れた黒色」と「優れた遮熱性」の両立については、「繊維の断面形状」や「繊維の複合構造」に依存していない繊維においては、図られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003-251728号公報
【特許文献2】特開2004-360332号公報
【特許文献3】特開2006-161248号公報
【特許文献4】特開2014-101612号公報
【特許文献5】特開2015-101930号公報
【特許文献6】特開2020-059952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、「一般に遮熱性に劣るカーボンブラック」以外の顔料をフィラメント自体に含有させることで、優れた黒色性と遮熱性の両立ができる遮熱用黒色フィラメントを提供することにあり、またその製造に用いるマスターバッチ、それを用いた遮熱用黒色糸、及び、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、10デニール以下のフィラメントであっても、黒色顔料として、金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物を用いれば、カーボンブラックを用いなくても、分散性を良くでき、粗粉によってフィラメントを切断させることがなく、黒色性と遮熱性の両方を満足する遮熱用黒色フィラメントができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
更に、該黒色顔料に加えて、有機顔料等の色調調節剤を含有(併用)させれば、遮熱性を損なうことなく、黒色性を上げられることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメントであって、
該黒色顔料が金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物であり、
該フィラメントの太さが10デニール以下のものであることを特徴とする遮熱用黒色フィラメントを提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記黒色顔料が、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、及び、ビスマス(Bi)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する金属の複合酸化物である前記の遮熱用黒色フィラメントを提供するものである。
【0019】
また、本発明は、近赤外光の全波長域における平均反射率が10%以上である前記の遮熱用黒色フィラメントを提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記の遮熱用黒色フィラメントを製造するためのマスターバッチであって、
前記黒色顔料が前記有機ポリマーの内部に、マスターバッチ全体に対して20質量%以上80質量%以下で、分散状態で含有されているものであることを特徴とするマスターバッチを提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記の遮熱用黒色フィラメントを、5本以上50本以下で、撚って又は纏めてなるものであることを特徴とする遮熱用黒色糸を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記のマスターバッチの製造方法であって、
前記有機ポリマーを加熱して融解させ、該融解した有機ポリマーの内部に、前記黒色顔料を含有させて混錬して分散状態にすることを特徴とするマスターバッチの製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記のマスターバッチの製造方法を用いることを特徴とする遮熱用黒色フィラメントの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、前記問題点と上記課題を解決し、黒色顔料としてカーボンブラックを用いなくても、優れた黒色性(高い漆黒性)のフィラメントを提供することができる。
更に、カーボンブラックを含め全ての炭素質物(ダイヤモンドを除く)は、近赤外線をも吸収するために、遮熱性に劣ると言う欠点を有するが、本発明によれば、カーボンブラックを必須としないので、近赤外線の反射率が高く近赤外線を吸収し難いため遮熱性に優れた遮熱用黒色フィラメントを提供できる。
本発明において、「近赤外線」とは、780nm~2500nmの範囲の波長の光のことを言う。
【0025】
本発明は、フィラメント(長繊維)と言った繊維に係るものである。なお、ステープル(短繊維)は、フィラメント(長繊維)を短く切断すればできるので、ステープル(短繊維)の製造・使用であっても、一旦フィラメント(長繊維)を製造・使用したならば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0026】
分散対象が膜や層であれば、黒色顔料の分散性が多少悪くても、使用に耐え得る(通用する)可能性がある。しかしながら、フィラメント(長繊維)と言った繊維の場合には、分散性が極めて良いことが必須となる。
本発明によれば、金属の酸化物や複合酸化物を、好適に有機ポリマーの内部に分散させられるので(分散しているので)、フィラメントと言った繊維であっても、すなわち分散対象が10デニール以下と言うように細くても、途中で繊維が分断されることがない。
また、分散性を良くできるので(分散性が良いので)、分散性の悪さに起因した、繊維(分散対象)の機械的強度等の物性の低下がない。
【0027】
カーボンブラックは、金属の酸化物や複合酸化物に比べて分散性が良い。そのため、繊維のような細いものに対して、分散性、繊維強度、分断抑制等の点からは好適である。しかし、前記した通り、近赤外線を吸収するために遮熱性に劣る。
本発明によれば、「遮熱性」と「分断抑制(繊維強度)」との両立がなされた遮熱用黒色フィラメントを提供できる。
【0028】
黒さに関しては、カーボンブラックに勝るものはないとされている。本発明によれば、カーボンブラックを用いなくても、優れた黒色性(高い漆黒性)を有する遮熱用黒色フィラメントを提供することができる。
本発明の「ポリエステル繊維等の有機ポリマー繊維」は、カーボンブラックを使用せずとも、黒色繊維でありながら遮熱効果を持たせることができる。
すなわち、本発明によれば、「遮熱性」と「黒色性(漆黒性)」との両立がなされた遮熱用黒色フィラメントを提供できる。
【0029】
近赤外光を反射する「金属の複合酸化物」は知られており、それを用いれば遮熱効果が得られることが予想されたとしても、背景技術で前記した通り、フィラメントの形態で、すなわち、糸や更には糸を編んだり織ったりした布の形態で、黒色の遮熱材料を得ようとする課題自体が殆どなかった。特に10デニール以下のフィラメントにおいては尚更なかった。「金属の複合酸化物」の分散性の悪さによる無意識による諦めに起因している可能性が考えられる。
【0030】
本発明によれば、黒色顔料を有機ポリマーの内部に高濃度で分散させることができる。
具体的には、例えば、「分散させて得られた遮熱用黒色フィラメント」の全体に対して、黒色顔料を5質量%以上20質量%以下で包含させることができる。
そのことによって、「遮熱性」と「黒色性(漆黒性)」との両立が、更に好適に図られる。
【0031】
フィラメント製造に関しては、分散性を担保する(更に良くする)、高濃度にすることで商品としてユーザー側での汎用性を持たせる、製造の効率を上げる、本発明によれば高濃度のマスターバッチが得られる、等のために、マスターバッチ化が好ましい。
本発明の遮熱用黒色フィラメントの原料として、「黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散されたマスターバッチ」を用いる場合には、黒色顔料を有機ポリマーの内部に、更に高濃度で分散性良く分散させることができる。
【0032】
本発明では、黒色顔料が有機ポリマーの内部に、「最終的に得られるマスターバッチ」全体に対して20質量%以上80質量%以下で、分散状態で含有させられるので、こうして得られたマスターバッチは、上記点から更に好ましいものとなる。
ポリエステル繊維等の有機繊維(有機ポリマー)製造用の「本発明の遮熱黒色マスターバッチ」は、カーボンブラックを使用せずとも、黒色繊維でありながら遮熱効果を持たせることができる。
本発明は、「従来はなかった又は到底無理と思われていた前記課題」を解決しようとしたこと自体にも特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】製造例1、2で用いた黒色顔料の可視光領域と近赤外光領域の分光反射率[%]を示すグラフである。
図2】評価例2の結果であって、本発明の遮熱用黒色フィラメント(糸)と、対照としてカーボンブラック含有フィラメント(糸)の可視光領域と近赤外光領域の分光反射率[%]を示すグラフである。
図3】評価例3の結果であって、本発明の遮熱用黒色フィラメント(糸)と、対照としてカーボンブラック含有フィラメント(糸)の経時における温度上昇を示す(遮熱性(蓄熱試験の結果)を示す)グラフである。
図4】製造例2で粗粉をカットした黒色顔料Aの粒径分布である。
図5】製造例7で粗粉をカットし、黒色顔料Aより粒子径を小さくした黒色顔料Bの粒径分布である。
図6】製造例7で製造し、評価例6で評価したシートの近赤外光の分光反射率(スペクトル)の図である。「CB」はカーボンブラックを意味する。
図7】製造例7で製造し、評価例6で評価したシートの遮熱性(蓄熱試験の結果)を示す図である。
図8】製造例8で得たシートの近赤外光の分光反射率(スペクトル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の具体的実施の形態に限定されるものではなく、技術的範囲内であれば任意に変形して実施することができる。
【0035】
[遮熱用黒色フィラメント]
本発明の遮熱用黒色フィラメントは、黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメントであって、該黒色顔料が金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物であり、該フィラメントの太さが10デニール以下のものであることを特徴とする。
【0036】
以下、「本発明の遮熱用黒色フィラメント」を、単に「本発明のフィラメント」と略記することがあり、「金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物」を、単に「金属の複合酸化物等」と略記することがある。
また、「黒色性(漆黒性)」は、フィラメントであっても糸であっても布であっても、目視で、黒色の度合と色味を評価して判断したものとして定義する。フィラメントと糸は、板に緻密に巻き付けて、該板の上から目視で観察して判断したものとして定義する。
【0037】
<黒色顔料>
<<物質、組成、粒径>>
本発明における黒色顔料は、近赤外の波長域における反射率が高く、それらが含有された有機ポリマーに遮熱性を与える「金属の複合酸化物等」であれば、特に限定はないが、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、及び、ビスマス(Bi)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する「金属の複合酸化物等」が、近赤外の波長域における反射率が高い等の点から好ましい。
特に好ましくは、上記点から、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、及び、ビスマス(Bi)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する「金属の複合酸化物等」である。
【0038】
「金属の複合酸化物等」(すなわち、「金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物」)は、金属の複合酸化物であること、更に少なくとも1種の金属、特に少なくとも2種の金属が上記金属であることが、近赤外の波長域(全域)に亘って反射率を高くできるので遮熱性を上げられる、黒色性を調整できる(可視の波長域全域に亘って吸光度を上げられる)、分散性(顔料特性)を上げられる等の点から好ましい。
更に、複合酸化物の金属が全て上記金属であることが、上記理由から特に好ましい。
【0039】
本発明における黒色顔料は、上記群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有すればよいので、該金属元素を、1種でも、2種でも、3種以上でも含有すればよい。好ましくは、2種又は3種の金属の酸化物を含有することである。
また、上記群から選ばれる1種以上の金属を含有する「複合金属酸化物等」であればよいので、本発明の前記効果を奏しさえすれば、上記群に属さない他の金属の酸化物を含有することは排除されない。該「他の金属」としては、例えば、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
黒色顔料の含有量(上限)を一定にして近赤外線の反射率を高めるためには、限定はされないが、該「他の金属」は含有しないことが好ましい。
【0040】
複合酸化物の2種以上の金属が何れも前記した金属(好ましくは上記した特に好ましい金属)であることが、上記理由(前記理由)から更に好ましく、複合酸化物の全ての金属が前記した金属(好ましくは上記した特に好ましい金属)であることが特に好ましい。
具体的には、限定はされないが、マンガン(Mn)とビスマス(Bi)の複合酸化物、鉄(Fe)とコバルト(Co)の複合酸化物等が最も好ましい。
【0041】
「加熱して軟化した有機ポリマーと共に混錬機等で混練する前の黒色顔料」の粒径、すなわち、原料として使用する「混錬前の乾式混合時の黒色顔料」の粒径は、特に限定はないが、レーザー光散乱法で求めた個数平均粒径として、0.10μm以上2.0μm以下が好ましく、0.15μm以上1.0μm以下がより好ましく、0.20μm以上0.7μm以下が特に好ましい。
この範囲の粒径であれば、好適な分散状態のマスターバッチとフィラメントが製造できる。また、同一含有量でも黒色性を高くし易く、フィラメントの途中で切れ難い。
【0042】
黒色顔料の粗粉(凝集したものを含む)は、少ない方が好ましく、粗粉がカットされていたり、粒径分布がシャープであったりすると、フィラメントを製造したときに、該粗粉の個所で切れることがなくなる等の場合があるが、一方で、平均粒径が小さ過ぎたり、粒径分布がシャープ過ぎたりすると、マスターバッチの製造時に、2軸押し出し機等の混錬機の中で、再凝集が起り易くなる場合がある。
該再凝集を抑制するには、例えば、2軸押し出し機のスクリューの回転数や周速を調整して、せん断力を最適化することが好ましい。
【0043】
<<黒色顔料の反射率>>
本発明における黒色顔料は、近赤外領域(780nm~2500nm)の平均反射率が、30%以上が好ましく、36%以上がより好ましく、43%以上が特に好ましい。
また、近赤外線領域(780nm~2500nm)の何れの波長においても、反射率が、6%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。
また、近赤外領域のうちの1200nm~2500nmの何れの波長においても、反射率が、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましく、60%以上が最も好ましい。
【0044】
本発明における黒色顔料の可視光領域(380nm~780nm)の何れの波長においても反射率が、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、4%以下が更に好ましく、3%以下が特に好ましい。
上記上限以下であれば、黒色性(漆黒性)が高まる。また、特に色味が付かず純粋な黒色となる。
上記「黒色顔料の近赤外と可視の反射率」は、顔料を樹脂ビヒクルに均一分散させたシート又はフィルムを分光光度計で測定し、そのようなものとして定義される。
【0045】
<色調調節剤>
フィラメント又は該フィラメントを束ねて糸にすると、官能的な(目視観察による)黒色性が劣る傾向がある。すなわち、半延伸糸(POY)を再延伸して延伸糸(FDY)とし、板等に巻き付けて目視すると、黒色性が劣る傾向にある。また、黒色顔料のみで高い黒色性を出そうとすると、該黒色顔料を高濃度(例えば50質量%)にする必要があり、それが原因でフィラメントや糸が途中で切れてしまう事象が発生する場合がある。
そこで、黒色顔料の粗粉をカットし、更に粒子径を小さくすることが考えられるが、そうすると、黒色の色味が変化してしまう場合がある。フィラメントや糸の形態で黒色性を上げること、すなわち、黒度を上げ、色味を調整する(着色をなくす)ことは、例えば、糸表面の光沢性が低下するので、フィルム(膜)や塊(構造体)の状態で黒色性を上げることに比べ遥かに難しい。
【0046】
このような事象の改良や、又は、更なる黒色性の向上のために、色調調節剤を含有させることが好ましい。黒色性がより向上すると、更に用途が広がる。
本発明の遮熱用黒色フィラメントには、上記黒色顔料に加えて、更に、色調調節剤が有機ポリマーの内部に包含されていることも好ましい。該色調調節剤は、1種でもよいし、2種以上を混合して用いることができる。
該色調調節剤は、黒色性を更に高める、黒色の中でもその色調を更に調整する、等の目的で含有させる。
【0047】
また、金属の酸化物又はその複合酸化物のみで目的とする(色調の)黒色性を出そうとすると、その含有量を多くせざるを得ず、そのためフィラメントや糸の強度が低下する場合があるが、そのような場合であっても、色調調節剤を併用すると、フィラメントや糸の強度の低下が抑えられた状態で黒色性(漆黒性)を向上させることができる。
併用する色調調節剤にたとえ近赤外光の吸収があったとしても、意外にも、総太陽光反射率(TSR)が大きくは低下せず、そのため色調調節剤の併用による遮熱性の低下が見られなかった(実施例参照)。
【0048】
色調調節剤としては、上記黒色顔料すなわち上記複合金属酸化物等に対して、(可視光波長領域における)補色の関係にある色調を有する物質が、上記目的を達成できる点から好ましい。
【0049】
色調調節剤は、具体的には、「カーボンブラック等の炭素質物」や「上記複合金属酸化物等」以外であって、上記物性を有する、「有機若しくは無機」の「染料若しくは顔料」が好ましく、「有機顔料又は無機顔料」がより好ましく、有機顔料が特に好ましい。
顔料であればフィラメント表面に析出することがない。また、有機顔料であれば、種類が多いので色調を調整し易い。
【0050】
該有機顔料としては、特定波長にシャープな吸収を有するブルー、イエロー、グリーンレッド等の何れでもよい。また、可視領域の波長に(ブロードな)吸収を有すること;レッド(R)、グリーン(G)又はブルー(B)以外にも吸収があること;等によって、例えば、赤、黄、緑、青等の色調を与えるものでもよい。
【0051】
具体的には、特に限定はないが、PET等の汎用的なフィラメントの材質への分散性の点から、また遮熱性を落とさずに黒色性を上げる点等から、後記する表7に記載の有機顔料が好ましいものとして挙げられる。
また、以下の有機顔料が好ましいものとして挙げられる。以下、ピグメントナンバー、カラーインデックス(C.I.番号)、CAS.NO.を示す。
P.BL-15:3(銅フタロシアニンブルーβ型) (74160) (CAS.NO 147-14-8)、
P.B-60 (69800)(CAS.NO 81-77-6)、
P.G-7 (74260)(CAS.NO 1328-53-6)、
P.Y-95 (20034)(CAS.NO 5280-80-8)、
P.Y-147 (60645)(CAS.NO 4118―16-5)、
P.R-149 (CAS.NO 4948-15-6)、
また、アニリンブラック、ペリレンブラック等も好ましい。
【0052】
中でも、P.Y-147、P.R-149、P.BL-15:3等が、上記した点、繊維に使用実績がある点、糸切れし難い点等から特に好ましい。
【0053】
色調調節剤、特に有機顔料を併用することによって、単に「黒色」と言っても、用途によって、黒度や色味に関して好みや要望や性能差があるので、それらに適応させることもできる。
また、目視による黒色の度合いを上げることが、黒色顔料単独よりも実現し易い。すなわち、黒色顔料の含有量を減らしても、その分の黒色性劣化を補うことができる。
【0054】
カーボンブラック(CB)を配合して、色調を調整したり、黒色性を向上させたりすると、近赤外光の反射率が低下し、そのため総太陽光反射率(TSR)が低下して遮熱性が低下するが、例えば、製造例8及び評価例7に示した通り、色調調節剤として有機顔料を使用すると、総太陽光反射率(TSR)が、せいぜい2%程度しか低下せず、併用によって意外にも遮熱性が低下しなかった。
【0055】
上記色調調節剤を使用する場合、上記色調調節剤の使用量(有機ポリマーへの分散量)は、特に限定はないが、前記黒色顔料すなわち前記複合金属酸化物等全体に対して、0.2質量%以上45質量%以下が好ましく、1質量%以上40質量%以下がより好ましく、2質量%以上35質量%以下が更に好ましく、4質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
有機顔料等の色調調節剤が多過ぎると、近赤外線が吸収されて遮熱性が悪くなる場合、フィラメントの強度が落ちる場合、材料コストや製造コストが上がる場合、マスターバッチの加工性が低下する場合、黒色顔料の分散性が低下する場合等がある。
【0056】
<有機ポリマー>
本発明の遮熱用黒色フィラメントは、前記黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されてなるものである。
該有機ポリマーとしては、合成繊維用の有機ポリマーとして知られているもの全てが挙げられる。該合成繊維には、天然物に由来した半合成繊維も含まれる。
【0057】
特に限定はされないが、具体的には、例えば、ポリエステル;ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロン、アラミド等のポリアミド;ポリ(メタ)アクリレート(共重合体)等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン(共重合体);酢酸ビニル、ビニルアルコール等の(共)重合体、ビニロン等のビニル系ポリマー;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等の塩素系ポリマー;等が挙げられる。
【0058】
限定はされないが、中でもポリエステルが本発明の前記した効果を得るために好ましく、該ポリエステルのジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、1、4-ブタンジオール、それらの「ジ体」若しくは「トリ体」、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、該ポリエステルのジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0059】
<分散状態で包含>
遮熱用黒色フィラメントは、前記した黒色顔料が有機ポリマーの内部に分散状態で包含されていることが必須である。「有機ポリマーの内部に」であるから、有機ポリマーの表面に、すなわちフィラメントの表面に頭を出している顔料粒子が特異的に多いような態様は除かれる。このような態様は、フィラメントや糸の強度が劣る場合、表面を擦ると汚れる場合、遮熱効果が低い場合、等がある。
また、フィラメント作製後に、その表面に黒色顔料が塗布されたような態様、すなわち、フィラメントの表面が「黒色顔料を多く含む組成物」で覆われている態様も除かれる。
このような態様は、製造コストが嵩む場合、表面を擦ると汚れる場合、塗布物が剥がれることによって遮熱効果が低下する場合等がある。
【0060】
本発明の遮熱用黒色フィラメントの内部に含有されている黒色顔料の体積平均粒径は、得ようとするフィラメントの直径にもよるが、0.10μm以上2.0μm以下が好ましく、0.15μm以上1.0μm以下がより好ましく、0.20μm以上0.7μm以下が特に好ましい。
粒径が小さ過ぎると、分散が難しくなる場合があり、粒径が大き過ぎると、フィラメントが途中で切れる場合、黒色性に劣る場合等がある。
【0061】
本発明は、フィラメントや繊維のように細い分散対象物(具体的には有機ポリマー)であっても、金属の複合酸化物等が、該有機ポリマーの内部に、意外にも良分散が可能であり、フィラメントの切断抑制・分散性と遮熱性との両立がなされることを見出してなされたものである。
本発明は、また、繊維断面を特殊な形状にしなくても、繊維を被覆構造や芯鞘構造にしなくても、黒色性と遮熱性との両立がなされることを見出してなされたものである。
黒色顔料を有機ポリマーの内部に分散状態で包含させる方法については後述する。
【0062】
なお、フィラメント内に内包される黒色顔料の、粒径分布、粗粉の量等の態様は、後記する<マスターバッチの製造方法>に記載する黒色顔料の態様と同様である
【0063】
<黒色顔料の含有量>
本発明の遮熱用黒色フィラメントは、前記黒色顔料が、前記有機ポリマーの内部に、遮熱用黒色フィラメント全体に対して、30質量%以下で包含されてなるものが好ましい。5質量%以上20質量%以下で包含されてなるものがより好ましく、更に好ましくは4質量%以上15質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
【0064】
前記黒色顔料の含有率が多過ぎると、分散できない場合、フィラメントの機械的強度が落ちる場合、フィラメント調製が難しくなる場合、フィラメントを製糸して糸(ヤーン)にし難い場合、ステープルヤーンを紡績し難い場合、得られた糸(ヤーン)を織って布にし難い場合、得られた糸(ヤーン)から不織布を製造し難い場合等がある。
一方、前記黒色顔料の含有率が少な過ぎると、黒色性(漆黒性)に劣る場合、近赤外線を十分に反射できず遮熱性に劣る場合、色調調節剤を(多く)含有させなくてはならない場合等がある。
【0065】
<フィラメントの太さ等の形状>
本発明のフィラメントは、その太さが10デニール以下であることが必須である。太い「フィラメント等の繊維」の場合や、膜、層若しくは塊の場合には、分散性については悪くても問題にならない場合が多い。また、黒色性は容易に上げられる場合が多い。
本発明は、10デニール以下の細さであっても、一般にカーボンブラックより分散性に劣る「金属の複合酸化物等」が良分散され、該「金属の複合酸化物等」の存在部分で「フィラメント等の繊維」が切断することがない。
【0066】
本発明のフィラメントの太さの上限は、10デニール(85μm)以下が必須であるが、6デニール(51μm)以下が好ましく、4デニール(34μm)以下がより好ましく、2デニール(17μm)以下が特に好ましい。
太過ぎると、フィラメントを糸に製糸し難い場合があり、フィラメントを短く切ってステープルにした場合でも紡績し難い場合がある。また、太過ぎる場合は、黒色顔料の分散粒径が大きくても(凝集していても)問題になり難く、分散性が良いことに起因した前記本発明の効果が得られない場合等がある。
【0067】
本発明のフィラメントの太さの下限は、特に限定はないが、1デニール(10μm)以上が好ましく、2デニール(15μm)以上が特に好ましい。
細過ぎると、製造が難しくなる、切れ易くなる、黒色顔料の粗粉の直径がフィラメント径に対して無視できなくなる、製糸又は紡績し難くなる等の場合がある。
【0068】
本発明のフィラメントの断面の形状は、特に限定はないが、窪みがある、星型である、芯鞘構造である、等の特殊な工夫をせずとも、通常の正円・楕円であっても、優れた遮熱性が得られる。フィラメントの断面すなわち有機ポリマーの断面の形状を特殊なものにする場合と比べ、フィラメント等の製造コストの削減が可能となる。
【0069】
本発明のフィラメント(長繊維)は、切断してステープル(短繊維)とすることができ、その場合、該ステープル(短繊維)の長さについては、特に限定はなく、任意の長さにできる(切断可能である)。また、不織布用のスパンボンド、メルトブロ-ン製法も可能である。
【0070】
<遮熱用黒色フィラメントの平均反射率>
本発明のフィラメントは、近赤外領域(780nm~2500nm)の平均反射率を、10%以上にすることができ、15%以上にもすることができ、20%以上にもすることができ、25%以上にもすることができ、30%以上にもすることができる。従って、本発明のフィラメントは、近赤外領域(780nm~2500nm)の平均反射率が、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましく、25%以上が特に好ましく、30%以上が最も好ましい。
【0071】
また、近赤外領域のうちの1200nm~2500nmの何れの波長においても反射率が、30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が特に好ましい。
【0072】
本発明のフィラメントの可視光領域(380nm~780nm)の何れの波長においても反射率が、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましく、15%以下が特に好ましい。
上記上限以下であれば、黒色性(漆黒性)が高く、特に色味が付かず純粋な黒色(漆黒性)が得られる。
上記「遮熱用黒色フィラメントの近赤外と可視の反射率」は、JIS L1013:2010に準拠し、実施例に記載の方法で測定され、そのように測定されたものとして定義される。
【0073】
<マスターバッチ>
本発明は、前記の本発明の遮熱用黒色フィラメントを製造するためのマスターバッチであって、前記黒色顔料が前記有機ポリマーの内部に、マスターバッチ全体に対して20質量%以上80質量%以下で、分散状態で含有されているものであることを特徴とするマスターバッチでもある。
【0074】
遮熱用黒色フィラメントを製造するにあたり、汎用性を持たせるために、黒色顔料等の濃度の高いマスターバッチを調製しておくことが好ましい。すなわち、黒色顔料の濃度が高いマスターバッチの状態で、商品として譲渡又は販売することも好ましい。
マスターバッチを入手した人は、有機ポリマーで希釈してフィラメント製造用の組成物を調製する。
【0075】
本発明によれば、マスターバッチにおいて、有機ポリマー中の黒色顔料の濃度が高くても分散性が良いので(分散性を良くできるので)、該マスターバッチを有機ポリマーで希釈した組成物を用いてフィラメントを製造しても、該フィラメント内でも分散性が保持され、該フィラメントの途中で切断されることがなく、機械的に強いフィラメントができる。
【0076】
本発明のマスターバッチは、黒色顔料が有機ポリマーの内部に、マスターバッチ全体に対して20質量%以上が分散状態で含有されていることが好ましく、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上が分散状態で含有されていることが望ましい。
上記下限以上であれば、マスターバッチとしての汎用性や用途幅が広がり、使用し易くなり、マスターバッチとしての意味・効果・メリットを奏し易くなる。一方、上記上限以下であれば、黒色顔料の分散(安定)性が得られ、マスターバッチの調製が容易となる。
【0077】
<遮熱用黒色糸>
本発明は、前記した本発明の遮熱用黒色フィラメントを、5本以上50本以下で、収束又は撚って若しくは纏めてなるものであることを特徴とする遮熱用黒色糸でもある。本発明は、フィラメント(長繊維、ロングファイバー)を撚って又は纏めてなるフィラメント糸(フィラメントヤーン)でもある。
5本以上50本以下が好ましいが、10本以上40本以下がより好ましく、15本以上30本以下が特に好ましい。
上記範囲であると、フィラメント糸(フィラメントヤーン)が調製し易い、黒色性や遮熱性を上げ易い、強度が好適となる、用途が広くなる、織って布にし易い、等の効果がある。
【0078】
本発明のフィラメントから得られたフィラメント糸(遮熱用黒色糸)、及び、それから得られた布は、黒色の光沢があり、滑らかな質感を有し、近赤外線を好適に反射して遮熱性が高い。
【0079】
本発明のフィラメント(長繊維、ロングファイバー)は、短く切断して、ステープル(短繊維、ステープルファイバー)とし、それを紡績することで紡績糸(スパンヤーン、ステープルヤーン)である遮熱用黒色糸とすることができる。
紡績糸である遮熱用黒色糸は、織って起毛仕上げの布にしたり、また不織布にしたりすることができる。本発明を用いれば、遮熱性の高い起毛仕上げの布や、不織布(スパンボンド)等が好適に得られる。
【0080】
[製造方法]
<マスターバッチの製造方法>
<<押し出し機(混錬機)の投入する際の黒色顔料と有機ポリマー>>
黒色顔料の濃度が高いマスターバッチを調製しておくためや、フィラメント又は糸が途中で切れないようにするために、黒色顔料から、粗粉をカットしておくことが好ましい。
2.0μm以上の粗粉をカットしておくことが好ましく、1.5μm以上の粗粉をカットしておくことがより好ましく、1.0μm以上の粗粉をカットしておくことが特に好ましい。
【0081】
マスターバッチ製造に用いる黒色顔料(混錬機に)の個数平均粒径は、上記効果等を得るために、メジアン径(D50)として、0.2μm以上1.0μm以下が好ましく、0.3μm以上0.8μm以下がより好ましく、0.4μm以上0.5μm以下が特に好ましい。
【0082】
また、マスターバッチ製造で用いられる有機ポリマーは、予め粉砕して粉状にしておいてから、黒色顔料等と共に押し出し機(混錬機)に投入することが、分散性を向上させ、フィラメントの途中切断を回避するために好ましい。
更に、粉砕した粉状の有機ポリマーとペレット状の有機ポリマーの混合物を、黒色顔料等と共に押し出し機(混錬機)に投入することが、上記理由から特に好ましい。
【0083】
<<混錬条件>>
本発明は、「前記したマスターバッチ」の製造方法であって、前記有機ポリマーを加熱して融解させ、該融解した有機ポリマーの内部に、前記黒色顔料を含有させて混錬して分散状態にすることを特徴とするマスターバッチの製造方法でもある。
【0084】
混錬に用いる装置としては、2軸押し出し機(2軸混錬機、ニーダー)、3本ロール、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
中でも、2軸押し出し機が、黒色顔料の分散性が高い、混錬中の温度(変化、勾配)を細かく調整できる、連続混練が可能である、分散の安定及びばらつきがない等のために好ましい。
【0085】
混錬中の温度は、用いる有機ポリマーの軟化点に依存するが、150~280℃が好ましく、165~270℃がより好ましく、180~260℃が特に好ましい。
【0086】
スクリュー径28mmの2軸押し出し機を用いた場合、該スクリューの回転数は、200~1200rpmが好ましく、300~1000rpmがより好ましく、500~750rpmが特に好ましい。
スクリュー径28mm以外の2軸押し出し機を用いた場合は、周速(mm/s)が上記(より、特に)好ましい範囲に入るようにすることが望ましい。
【0087】
黒色顔料の粗粉がカットされ、粒径分布がシャープであれば、それが分散内包されたフィラメントが、該粗粉の個所で切断することがなくなるが、一方で、マスターバッチの製造時に、混錬機の中で黒色顔料の再凝集が起り易くなる場合がある。
該再凝集を抑制するには、上記回転数や上記周速を調整して、有機ポリマー中の黒色顔料にかかるせん断力を最適化する。
【0088】
本発明のマスターバッチの製造方法においては、前記有機ポリマーを、体積平均径1000μm以下に粉砕してから混錬機に投入して、前記黒色顔料と共に混錬することが、黒色顔料が均一に有機ポリマー中に分散するために好ましい。
体積平均径700μm以下に粉砕することがより好ましく、500μm以下が特に好ましい。
【0089】
乾式粉砕して上記体積平均径にする有機ポリマーは、使用する有機ポリマーの一部でも全部でもよい。
以下、粉砕して上記体積平均径にしたものを「粉末状有機ポリマー」と言い、粉砕する前のものを「ペレット状有機ポリマー」と言う。
特に限定はされないが、「粉末状有機ポリマー」は、全有機ポリマーに対して、20~100質量%が好ましく、25~75質量%がより好ましく、30~50質量%が特に好ましい。
【0090】
まず、粉末状有機ポリマーと黒色顔料を乾式混合し、均一に混合させた後、ペレット状有機ポリマーを加え、更に乾式混合し、均一に混合させた後、混錬機に投入することが好ましい。こうすることによって、黒色顔料が好適に有機ポリマー中に分散されたマスターバッチが得られる。
そして、該マスターバッチを用いてフィラメントを製造すれば、黒色顔料が有機ポリマーの内部に優れた分散状態で包含されてなる遮熱用黒色フィラメントが得られる。
【0091】
<<分散助剤の配合>>
本発明のマスターバッチの製造方法においては、更に、分散助剤として、長鎖脂肪酸アミドを配合して混錬することが好ましい。
該長鎖脂肪酸アミドは、上記した「有機ポリマーと黒色顔料の乾式混合」のどの段階で配合してもよいが、粉末状有機ポリマーと黒色顔料の混合時に配合することが、マスターバッチ中の黒色顔料の分散性に効果が出易いので好ましい。
【0092】
長鎖脂肪酸アミドの長鎖脂肪酸は、炭素数8以上24以下の脂肪酸が好ましく、炭素数12以上22以下の脂肪酸がより好ましく、炭素数16以上20以下の脂肪酸が特に好ましい。二重結合の有無はどちらでもよいが、飽和脂肪酸であることが好ましい。
該長鎖脂肪酸アミドは、1価でも2価でもよいが、2価が好ましく、アルキレンビスカルボン酸アミドであることが、マスターバッチ中の黒色顔料の分散性に良効果が出易いので特に好ましい。
中でも、該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が好ましい。
上記分散助剤は、1種で使用又は2種以上を併用することができる。
【0093】
分散助剤として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の長鎖脂肪酸の金属塩を用いると、有機ポリマー(特にポリエステル)が分解する場合がある。
【0094】
<<色調調節剤の配合>>
本発明のマスターバッチの製造方法においては、更に、前記した「有機顔料等の色調調節剤」を配合して混錬することも好ましい。
該色調調節剤を配合する場合は、上記した「有機ポリマーと黒色顔料の乾式混合」のどの段階で配合してもよいが、粉末状有機ポリマーと黒色顔料の混合時に配合することが、マスターバッチ中の色調調節剤の分散性が良くなるために好ましい。
【0095】
すなわち、本発明のマスターバッチの製造方法としては、以下の工程(1)ないし(5)を行うものが特に好ましい。以下の工程(1)ないし(5)の幾つかは、例えば2個以下は行わない製造法も好ましい。
このような工程を経ることで、近赤外領域の反射率の高い黒色顔料を、好適な分散状態で、細い繊維に内包できる。
【0096】
(1)黒色顔料は、混錬機に投入前に粗粉カットをしておく。
(2)有機ポリマーは、混錬機に投入前に、少なくともその一部を乾式粉砕して体積平均径を小さくしたものを黒色顔料と混合する、又は、混合してから全量の有機ポリマーと混合する。
(3)金属の酸化物、又は、金属の複合酸化物である黒色顔料、及び、有機ポリマーを、2軸押し出し機等の混錬機で加熱混錬してマスターバッチを製造する。
(4)特定の分散助剤と共に加熱混錬を行う。
(5)2軸押し出し機を使用する場合、スクリュー回転数(せん断力)を最適値に調整する。
【0097】
<<製造方法の効果>>
本発明においては、優れた分散性によって黒色顔料を高濃度でフィラメント中に内包でき、黒色性と遮熱性が増し、黒色顔料の粗粉や凝集物によって途中でフィラメントが切れることが抑制される。
本発明は、繊維の周囲に遮熱顔料をコートする、繊維断面形状を特殊なものにする等の工夫をしなくても、前記範囲の直径を有するフィラメントであれば(であっても)、意外にも、「カーボンブラック以外の特定の黒色顔料」が、好ましくは上記混練方法と、好ましくは上記分散助剤によって、好適な分散状態を保ったままで細い繊維に内包できることを見出してなされたものである。
【0098】
<遮熱用黒色フィラメントの製造方法>
本発明は、上記したマスターバッチの製造方法を用いることを特徴とする遮熱用黒色フィラメントの製造方法でもある。
フィラメントの製造方法としては、特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
【0099】
また、本発明は、上記の遮熱用黒色フィラメントを、5本以上50本以下で、収束する、具体的には、撚って又は纏める遮熱用黒色糸の製造方法でもある。
【0100】
<用途>
本発明の遮熱用黒色フィラメント;それから得られるステープル(短繊維、ステープルファイバー);それを製糸してなるフィラメント糸(フィラメントヤーン)、それを紡績してなる紡績糸(スパンヤーン、ステープルヤーン)等の遮熱用黒色糸;それから得られる織布、不織布、編布等の布は、遮熱性を必要とするあらゆる用途に用いられる。
直射日光が照射されるが昇温させたくない構造体(の表面材)への適用(構造体自体、そのカバー、それへの貼り付け等)が特に有効である。
【0101】
限定はされないが、具体的には、例えば、自動車、電車、飛行機、船舶等の内装材;家、ビル、タワー、スタジアム等の建材・内装材;道路、柱、看板等の屋外品;日傘、鞄、機器カバー等の所持品;カーテン、絨毯、椅子等の日用品・家庭品;Tシャツ、スーツ、スカート、帽子等の衣類;等が挙げられる。
【実施例0102】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例・製造例に限定されるものではない。
【0103】
製造例1
<遮熱用黒色フィラメント製造に用いるマスターバッチの製造>
<<粗粉カットしていない黒色顔料使用>>
黒色顔料として、図1に示す分光反射率を示す「鉄(Fe)とクロム(Cr)との複合酸化物(Chromium Iron Oxide)」2500g、及び、有機ポリマーとして、IV値0.8±0.02のボトルグレードのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)2500g、及び、分散助剤としてエチレンビスステアリン酸アミド25gとを、高速回転可能な2軸押し出し機を用い、下記する条件で混錬して、遮熱用黒色フィラメントを製造するための「黒色顔料50質量%のマスターバッチ」を製造した。
【0104】
用いた黒色顔料は、レーザー光散乱法で求めた個数平均粒径が0.7μmであった。粒径分布はブロードであったが、粗粉カットをせずに、そのまま用いた。
【0105】
上記PETとしては、大きさ約7mmの「ペレット状PET」1500gと、該ペレット状PETを、ターボディスクミルを用いて乾式粉砕して、体積平均径500μm(粒径分布400~1000μm)とした「粉末状PET」1000gとを混合し、合計2500gを用いた。
すなわち、マスターバッチ全体に対して、ペレット状PETと粉末状PETを、3:2(質量比)で用いた。
【0106】
まず、上記で得られた「粉末状PET」1000gと、上記黒色顔料2500gと、上記エチレンビスステアリン酸アミド25gとを、汎用の混合機を用いて乾式混合した。
完全に混合したら、上記「ペレット状PET」1500gを加え、同様の混合機を用いて乾式混合し、完全に混合させた。
【0107】
使用した黒色顔料と有機ポリマーと分散助剤の各質量を、後記する「粗大粒子をカットした黒色顔料を使用した製造例2」における各質量と合わせて(まとめて)以下の表1に記載する。
【0108】
【表1】
【0109】
得られた混合粉末を、高速回転が可能な2軸押し出し機を用いて、以下の構成・条件の仕様で混錬して、マスターバッチを製造した。
スクリューの回転数(周速)は、以下の4点に振って混錬した。
【0110】
【表2】
【0111】
製造例2
<遮熱用黒色フィラメント製造に用いるマスターバッチの製造>
<<粗粉カットをした黒色顔料使用>>
製造例1において用いた黒色顔料は、個数平均粒径が0.7μmであり、粒径分布はブロードであった。
そこで、製造例1において用いた黒色顔料「酸化鉄と酸化クロムとの複合酸化物」を、渦状流(強制渦型)式の気流式分級室回転型分級機を用いて粗粉をカットした。
【0112】
粗粉カットした黒色顔料は、個数平均粒径は0.7μmのままであったが、製造例1において用いた(粗粉カットしていない)黒色顔料より、粒径分布はシャープになり、特に、1.5μm以上の粗粉が大幅にカットされていた。
粗粉カットした黒色顔料の粒径分布を図4に示す。粗粉カットした黒色顔料のメジアン径(D50)は0.750μmであった。
以下、上記のように粗粉カットした黒色顔料を「黒色顔料A」と略記することがある。
【0113】
上記のように粗粉カットした黒色顔料を用いて、製造例1と同様にしてマスターバッチを製造し、該マスターバッチにおける黒色顔料の分散性を以下のように定量評価した。
結果を製造例1の結果と合わせて、以下の表3に示す。
【0114】
評価例1
<マスターバッチ(の製造方法)の評価>
<<混錬前の乾式混合の評価>>
最初に粉末状PETと黒色顔料と分散助剤を乾式混合して偏析(混合ムラ)をなくしておいたので、そこにペレット状PETを加えて乾式混合してなる混合品は、押し出し機に投入時には、完全に混合がなされていた。すなわち、偏析がなく混合ムラがなかった。
そのため、押し出し機で混錬して得られたマスターバッチにも、偏析がなく黒色顔料が均一に分散されたものが得られた。
スクリューの回転数(周速)は、4点振ったが、何れも偏析がなく均一で、フィラメント製造用のマスターバッチとして優れていた。
【0115】
<<マスターバッチにおける黒色顔料の分散性の評価>>
上記製造例1及び製造例2で得られたマスターバッチにおける黒色顔料の分散性を、LabTech社製のフィルターテスターを用いて濾圧昇圧試験を行うことによって評価した。フィルターメッシュサイズは、すべて10μmとした。
その結果を以下の表3に記す。濾圧昇圧[MPa]は、小さいほど分散性が良い。
【0116】
【表3】
【0117】
顔料分散性は、一般には、せん断力(スクリュー回転数)に比例するが、せん断力(スクリュー回転数)と共に単調に増加するのではなく(スクリューを高速回転させたものが必ずしも良い結果ではなく)、せん断力(スクリュー回転数)に最適値があることが分かった。過度の高速撹拌を与えると、一旦分散した黒色顔料が、再度二次凝集が起きてしまったと考えられる。
【0118】
製造例1の粗粉カットをしていない黒色顔料では、750rpmにおいて分散性が最も良く、それ以上の回転数だと、むしろ悪くなった。
製造例2の粗粉カットをした黒色顔料では、500rpmにおいて分散性が最も良く、それ以上の回転数だと、むしろ悪くなった。製造例2の粗粉カットをした黒色顔料は、粗大粒子がカットされていて、粒径分布がそろっている(シャープである)ため、分散はし易いが凝集もし易いと考えられる。
【0119】
製造例3
<フィラメントの製造>
製造例1の一般の黒色顔料(粗粉カットなし)については、スクリュー回転数750rpmで得られたマスターバッチを使用し、製造例2の黒色顔料A(粗粉カットあり)については、スクリュー回転数500rpmで得られたマスターバッチを使用して、以下でフィラメント(糸)を製造し、製糸試験を実施した。
【0120】
製造例1、2で得られたマスターバッチを用いて、太さ2デニールのマルチフィラメント(フィラメント糸)を、以下に示す試料(1)、(2)、(3)の3種類を製造した。
フィラメント(繊維)の製造は、溶融押出紡糸試験機で行った。
すなわち、マスターバッチ、及び、ナチュラル樹脂である有機ポリマーとして、マスターバッチ製造の際用いたペレット状PETを、溶融押出紡糸試験機に投入して加熱して軟化させ、紡糸ダイより押出し半延伸糸を得た。
該フィラメント糸は、フィラメント(長繊維)36本を集めて(撚って又は纏めて)75D36Fに製糸した。
【0121】
(1)製造例1で「粗粉カットしていない黒色顔料」を用いて製造したマスターバッチを用い、黒色顔料3.0質量部(マスターバッチでは6.0質量部)、及び、マスターバッチ製造に用いたものと同一の有機ポリマー(PET)94質量部でフィラメント糸を製糸した。
(2)製造例1で「粗粉カットしていない黒色顔料」を用いて製造したマスターバッチを用い、黒色顔料6.0質量部(マスターバッチでは12.0質量部)、及び、マスターバッチ製造に用いたものと同一の有機ポリマー(PET)88質量部でフィラメント糸を製糸した。
(3)製造例2で「粗粉カットした黒色顔料」(黒色顔料A)を用いて製造したマスターバッチを用い、黒色顔料(黒色顔料A)10.0質量部(マスターバッチでは20.0質量部)、及び、マスターバッチ製造に用いたものと同一の有機ポリマー(PET)80質量部でフィラメント糸を製糸した。
【0122】
評価例2
<フィラメント糸の評価>
<<切断(糸切れ)の有無と黒色性の目視評価>>
試料(1)では、フィラメントの切断(糸切れ)がなく、色は「ライトグレー」であった。ほぼ黒色ではあり用途によっては使用可能であるが、黒色性は低かった(表4参照)。
試料(2)では、フィラメントの切断(糸切れ)がなく、色は「ライトグレーから黒」であった。黒色ではあり用途によっては使用可能であるが、黒色性はやや低かった(表4参照)。
【0123】
試料(3)では、フィラメントの切断(糸切れ)がなく、色は「黒色」であり、黒色性は高かった(表4参照)。
試料(3)では、上記した通り、黒色顔料の含有量を増大させた。配合量を多くしたので、製糸時の糸切れを懸念し、製造例2で「粗粉カットした黒色顔料」を用いて製造したマスターバッチを使用した。
黒色顔料10.0質量部(マスターバッチで20.0質量部)及びPET80質量部と、黒色顔料が多いのにもかかわらず、糸切れのトラブルもなく、目視で黒色に見える繊維が得られた。
【0124】
粗粉カットした黒色顔料Aは、フィラメント中に多く含有させても、糸切れが起こり難かったので、多く含有させることで、フィラメント及びフィラメント糸の黒色性を上げることができた。
【0125】
表4に製糸における、黒色顔料(鉄とクロムの複合酸化物)と、有機ポリマー(PET)の配合割合、及び、評価結果を示す。
表4中の数値は、配合の質量部を示す。括弧内の数値は、50質量%マスターバッチの配合の質量部を示す。図2図3でも同様である。
【0126】
表4中、カッコ内の質量部に「*」のないもの(試料(1)(2))は、製造例1で「粗粉カットしていない黒色顔料」を用いて製造したマスターバッチを使用したものであり、カッコ内の質量部に「*」のあるもの(試料(3))は、製造例2で「粗粉カットした黒色顔料」(黒色顔料A)を用いて製造したマスターバッチを使用したものである。
【0127】
【表4】
【0128】
製造例1、2のような方法でマスターバッチを製造しなかったマスターバッチでは、黒色顔料の分散性が悪く、フィラメント(糸)としたときに、良好に分散していない黒色顔料や粗粉の黒色顔料が存在する地点で糸切れが起り易かった。
「製造例1、2のような方法」とは、有機ポリマーを予め粉末状にする;有機ポリマーの一部を粉末状にしてペレット状の有機ポリマーと混合する;前記したような押し出し機の条件で混錬する;黒色顔料から粗粉をカットしておく;黒色顔料を過剰に含有させない;等である。
【0129】
評価例3
<フィラメント糸の評価>
<<糸の色調及び分光カーブの測定>>
「JIS L1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」に基き、5cm×5cmの試料板に糸を巻き付け、測定試料とした。巻き付け量は、0.8gとした。
また、同一測定試料で、評価例4で蓄熱試験を実施するため、試料板は亜鉛メッキ鋼板を用いた。
【0130】
対照(比較)として、カーボンブラック30質量%マスターバッチを用い、1.2質量部(該マスターバッチ4.0質量部)、及び、0.4質量部(該マスターバッチ1.3%)含有のフィラメント糸を調製した。
【0131】
分光光度計を用いて色調及び分光カーブを測定した。結果を表5に示す。
反射率は、値が大きいほど色濃度は低くなり、値が小さいほど色濃度は高くなるが、表5中、「K/S」は、値が高いほど色濃度は高くなり、値が低いほど色濃度は低くなる。
表5中、「TSR」は、総太陽光反射率(Total Solar Reflectance)である。
【0132】
表5中の括弧内の数値は、50質量%マスターバッチでの配合の質量部を示す。
カッコ内の質量部に「*」のないもの(試料(1)(2))は、製造例1(粗粉カットなし黒色顔料)のマスターバッチを使用したものであり、カッコ内の質量部に「*」のあるもの(試料(3))は、製造例2(粗粉カットあり黒色顔料)のマスターバッチを使用したものである。
【0133】
また、図2に、遮熱用黒色フィラメント糸(1)(2)(3)と、対照としてカーボンブラック含有フィラメント糸の、可視光領域と近赤外光領域の分光反射率[%]を示す。
【0134】
【表5】
【0135】
表5から分かる通り、試料(1)(2)(3)は、何れも「黒色糸」として優れたものであった。また、TSR(総太陽光反射率)が、カーボンブラックを使用したものより大きく、遮熱性に優れていることが示唆された。
特に、試料(3)は、K/Sが、カーボンブラックを使用したものより大きく、色濃度が特に高かった。
なお、カーボンブラックを使用したものは、色相は良くても、図2及び以下の評価例4の図3に示すように、近赤外線の反射率が低く、遮熱性に劣るものであった。
【0136】
図2から分かる通り、試料(1)(2)(3)は、何れも近赤外線の反射率が高かった。一方、カーボンブラックを使用したものは、何れも近赤外線の反射率が低かった。
これにより、本発明の遮熱用黒色フィラメント及び遮熱用黒色フィラメント糸は、カーボンブラックを使用した黒色フィラメント(糸)より、遮熱性に優れることが示唆された。
【0137】
また、本発明の遮熱用黒色フィラメント及び遮熱用黒色フィラメント糸は、糸切れもなかった。更に、糸切れが起こり難いので、有機ポリマー中に多量に含有させられ、黒色性を上げることができた。
【0138】
評価例4
評価例3と同様の試料板(亜鉛メッキ鋼板に、巻き付け量0.8gで巻き付けた試料)を用いて、遮熱性を評価した(蓄熱試験を行った)。
評価例3で評価した試料(1)(2)(3)のフィラメント糸、及び、対照として評価例3で評価したカーボンブラック含有フィラメント糸を用いて、光照射を継続して20分間行い、蓄熱試験(温度上昇測定)を行った。温度は、試料板の光照射面とは反対側に、温度センサーを貼り付けて測定した。
【0139】
評価は、それぞれ、n=5で行った。20分後の試料温度の「5個の相加平均値」と「標準偏差(SD:standard deviation)」を求めた。
結果を表6と図2に示す。
【0140】
表6中の括弧内の数値は、50質量%マスターバッチでの配合の質量部を示す。
カッコ内の質量部に「*」のないもの(試料(1)(2))は、製造例1(粗粉カットなし黒色顔料)のマスターバッチを使用したものであり、カッコ内の質量部に「*」のあるもの(試料(3))は、製造例2(粗粉カットあり黒色顔料A)のマスターバッチを使用したものである。
【0141】
【表6】
【0142】
表6及び図3から分かる通り、本発明の試料(1)(2)(3)のフィラメント糸は、何れも、カーボンブラックを用いたフィラメント糸より、温度の上昇が抑えられ、遮熱性に優れているものであった。
特に、試料(3)のフィラメント糸は、「対照としたカーボンブラックを含有するフィラメント糸」に比べ、20分後の試料温度が9.4℃も低く(表6、図3参照)、遮熱性が極めて優れているものであった。
【0143】
製造例4
<黒色顔料を変更>
製造例1の黒色顔料「鉄とクロムとの複合酸化物」に代えて、黒色顔料「マンガン(Mn)とビスマス(Bi)との複合酸化物」を用いた以外は、製造例1、2、3と同様にして、マスターバッチ、フィラメント、フィラメント糸を製造し、評価例1ないし4と同様に評価した。
【0144】
製造例5
<黒色顔料を変更>
黒色顔料として、アサヒ化成工業株式会社製、「Black 6340」(chromium Iron Oxide)(CAS No. 12737-27-8)を用いた以外は、製造例1、2、3と同様にして、マスターバッチ、フィラメント、フィラメント糸を製造し、評価例1ないし4と同様に評価した。
【0145】
製造例6
<分散助剤を変更>
製造例1の分散助剤であるエチレンビスステアリン酸アミドに代えて、エチレンビスベヘン酸アミドを用いた以外は、製造例1、2、3と同様にして、マスターバッチ、フィラメント、フィラメント糸を製造し、評価例1ないし4と同様に評価した。
【0146】
評価例5
製造例4、5、6で得られたマスターバッチ、フィラメント、フィラメント糸を、評価例1ないし4と同様に評価したところ、評価例1ないし4とほぼ同様の結果が得られ、カーボンブラック分散品に比べて、何れも蓄熱試験に優れ、遮熱性に優れることが分かった。また、フィラメントの切断や糸切れもなかった。
【0147】
製造例7
<予備評価用のシートの製造>
製造例3の試料(3)、すなわち、製造例2で「粗粉カットした黒色顔料」(黒色顔料A)(図4参照)を用いて製造したマスターバッチを用いて調製したフィラメント糸は、前記した通り、黒色顔料が多いのにもかかわらず、糸切れのトラブルもなく、目視で黒色に見える繊維が得られた。
ただ、半延伸糸(POY)について再延伸を行い、延伸糸(FDY)の作製を行ったところ、糸の強度が若干低く、途中で糸が切れてしまう事象が発生する場合があった。
この事象は、マスターバッチの配合量を減らして黒色顔料の比率を相対的に下げても同様であった。
【0148】
この若干の強度不足の原因は、黒色顔料の粒子径にあると考え、黒色顔料の粒子径をより小さくして検討した。
黒色顔料Aと同様に粗粉をカットし、更に粒子径を、製造例2(すなわち、製造例3の試料(3))の黒色顔料Aより小さくした黒色顔料を調製し、「黒色顔料B」として、その粒径分布を図5に示す。
黒色顔料Bのメジアン径(D50)は0.486μmであった(図5)。なお、前記した通り、黒色顔料Aのメジアン径(D50)は0.750μmであった(図4)。
【0149】
しかし、黒色顔料Bは遮熱顔料Aと比較して色相が赤茶色の方向に移動していたため、及び、更なる黒色性の向上のために色調調節剤を配合した。なお、黒色性がより向上すると、更に用途が広がる。
【0150】
色調調整をするにあたり簡便に作業を進めるため、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドを用いたシートで事前シミュレーション(予備評価)を行った。なお、チタン入りコンパウンドを併用したのは、糸とPVCシートとの発色差を考慮したためである。
【0151】
色調調整した際、遮熱性が低下するか否かの確認のため、様々な色調調節剤を組み合わせて試験を行った。
なお、この予備評価では、分散対象のポリマーがPET等の繊維用ポリマーではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)である;分散対象の形状がフィラメントや糸ではなくシートである;等の点から異なっているが、近赤外光の反射率スペクトルや、TSR(総太陽光反射率)等は、傾向的に同じであることは技術常識であり、また確かめてある。
従って、かかる物性と相関がある遮熱性に関しても、形状が異なり有機ポリマーが異なっても、フィラメントや糸に対しても、シートの評価結果の転用(類推)が可能である。
【0152】
評価例6
<シートでの予備評価(色調、近赤外光の反射率(スペクトル、TSR)>
配合処方を以下の表7に示す。
また、得られたシートを分光光度計で測定し、色調比較をし、TSR値を求めた。結果を以下の表8に示す。
表7中における数値の単位は「質量部」である。
表7と表8において、「遮熱顔料」は「黒色顔料」を意味し、「遮熱A」と「遮熱顔料A」は「黒色顔料A」を意味し、「遮熱顔料B」は「黒色顔料B」を意味し、「CB」はカーボンブラックを意味する。
【0153】
【表7】
【0154】
【表8】
【0155】
表7、表8から分かる通り、色調調節剤を配合しても、総太陽光反射率(TSR)に大きな影響を与えることがないことが分かった。
すなわち、「黒色顔料Aが5%(5質量部)」のTSRが27.20であり、「黒色顔料Aが10%(10質量部)」のTSRが26.67であるのに対して、「黒色顔料Aを8質量部、P.BL-15:3を2.05質量部、P.Y-95を0.51質量部のNO.8」のTSRが25.56であったことから、TSRは高々2%程度しか減少しなかった。
【0156】
また、上記シートの全てについて近赤外光の反射率(スペクトル)を測定したが(図6)、「カーボンブラック(CB)1.2%」は、300~2500nmの全波長において、反射率4%~6%であった(図6参照)。
一方、NO.1~8は、何れも、780nm~2500nmの範囲(「近赤外光」の波長範囲)で、14%~81%であり、特に、1100nm~2200nmの範囲で、40%~81%であった(図6参照)。
【0157】
なお、図6において、「CB」はカーボンブラックを意味する。
【0158】
「カーボンブラック(CB)以外の顔料」を色調調節剤として配合(混色)すれば、TSRが大きくは減少しないことから、また、近赤外光の波長での反射率が低下しないことから、該色調調節剤の配合(混色)が、遮熱性の低下に悪影響を及ぼす可能性は小さいことが分かった。
【0159】
また、No7とNo8のシートの比較から、黒色顔料Aに比べて黒色顔料Bを使用したものは、赤味や黄味の色調を出し易く、TSRも高いことが分かった。
黒色顔料の粒度分布を変化させることや、色調調節剤の配合によって、色調を調整できることが分かった。
【0160】
評価例7
<シートでの予備評価(遮熱性)>
製造例7で調製し、評価例6で色調やTSR等を評価した「CB1.2%」(カーボンブラック1.2質量%)、「遮熱A10%」(黒色顔料A10質量%)、「No.3」、「No.6」及び「No.7」について、遮熱性を評価した。
なお、本予備評価は、ポリ塩化ビニル(PVC)シートでの遮熱性の評価ではあるが、繊維として汎用なPET等のフィラメントや糸での遮熱性の評価と相関があることは明らかである。
【0161】
300nm~2100nmでのTSRは、
「CB1.2%」(カーボンブラックを1.2質量%)が5.18、
「遮熱A10%」(黒色顔料Aを10質量%)が26.67、
「No.3」が、27.33、
「No.6」が、28.64、
「No.7」が、28.67、であった。
【0162】
評価例4と同様にして遮熱性を評価した(蓄熱試験を行った)。
結果を図7に示す。
【0163】
図7から分かる通り、20分間の蓄熱試験において、No.3、6、7は、「遮熱A10%」(黒色顔料Aを10質量%)と同様、温度の上昇が抑えられている(41℃以下)ことが分かった。
一方、「CB1.2%」(カーボンブラックを1.2質量%)は、温度の上昇が抑えられていない(54℃)ことが分かった。
【0164】
製造例8
<色調調節剤を含有するフィラメント製造に向けたシートの製造>
評価例6、7で、カーボンブラック(CB)以外の顔料の混色では(有機顔料の含有では)遮熱性を落とさない場合があることが分かったので、そのような有機顔料であって、かつ、ポリエステル繊維に適した顔料を色調調節剤として用いて以下の評価を行った。
使用した有機顔料は、PET樹脂に分散性を考慮し、P.BL-15:3(74160)とP.Y-147(60645)を使用した。
組成を以下の表9に示す。表9中の数値は「質量部」を示す。
【0165】
【表9】
【0166】
評価例8
<製造例8で得たシートの評価(色調、近赤外光の反射率(スペクトル)、TSR)>
製造例8で得たシートの色調、近赤外光の反射率(スペクトル)、TSRを測定評価した。
色調は以下の表10に示し、近赤外光の反射率(スペクトル)は図8に示す。
【0167】
【表10】
【0168】
表10、図8の結果から、何れも色調、黒色性に優れ、また近赤外光反射率に関して優れたものであった。
従って、色調調節剤として有機顔料の含有によって、フィラメント(糸)の黒色性(黒度と色目(色調))を上げつつ、その遮熱性を維持できることが分かった。
【0169】
製造例9
<延伸糸(FDY)の製造と評価>
黒色顔料と有機顔料の併用に関し、製造例8・評価例8までは、シートでの代替テストであったが、実際に延伸糸(FDY)を製造し、「糸切れ」と「黒色性」と「遮熱性」を評価した。
【0170】
<<マスターバッチの作製>>
前記したシートの組成のうち、色調が良く、TSR値から昇温抑制効果が高いことが予想されたNo.12の組成でマスターバッチを作製した。
作製したマスターバッチである「MB(1)」と「MB(2)」の組成を以下の表11に示す。表11中の数字は、質量部を示す。
【0171】
【表11】
【0172】
表11中、「粉末状PET」は、製造例1に記載のように、ペレット状PETを、ターボディスクミルを用いて乾式粉砕して得られたものである。
表11中の「PBT」は、ポリブチレンテレフタレートである。
MB(1)は、先のFDY作成時にける黒色顔料Aと比較するために、黒色顔料単体で作製したものである。
【0173】
評価例9
ペレット状のポリマーを使用せず、粉末状PETと粉末状PBTのみを使用することで、更に偏析を抑制できた。
また、PBTを組み合わせ、マスターバッチの溶融粘性を下げることで、更に分散性を向上させられた。また、紡糸時に、ナチュラル樹脂にマスターバッチが融け易くなることで、マスターバッチの拡散性を上げ、糸切れを更に抑制できた。
マスターバッチの拡散性が劣ると、糸中に黒色顔料の濃度が多いところができ、延伸性のバラつき等が原因で、該糸が切れてしまう。
【0174】
MB(2)で分散助剤を増量した結果、有機顔料を混合しても、黒色顔料の分散性が悪化しなかった。
ただし、紡糸時の押出溶融の際、活性過多による滑り抑制するために、分散助剤(エチレンビスステアリン酸アミト)の含有量を0.7質量%に抑えた。
【0175】
製造例10
<フィラメント(糸)及び織布の調製>
以下の表12の組成で、前記と同様に、2デニールのマルチフィラメント半延伸糸(POY)を調製し、延伸糸を製造し、該糸を用いて織布を製造した。
ナチュラル樹脂としては、マスターバッチ製造時のPETと同じもの(ペレット状のもの)を用いた。
表12中の値は、質量部である。
【0176】
【表12】
【0177】
評価例10
製造例10で得られたフィラメント、半延伸糸、延伸糸、織布は、優れた色相と黒度を有しており、TSR値から優れた近赤外光の反射率を有しており、昇温抑制効果が高かった。すなわち、フィラメント、半延伸糸、延伸糸、織布としても、優れた黒色性と遮熱性を有していた。
【0178】
フィラメント、半延伸糸、延伸糸、織布の状態にしても、色調調節剤の併用で、遮熱性を保持しながら、黒色性を上げられることが分かった。一般に織布の状態にすると、官能的に黒色性は劣化するが、上記検討では十分な黒色性が得られた。
製造例2(色調調節剤の配合なし)のマスターバッチを使用して得られたフィラメント(糸)に比較して、更なる黒色性(漆黒性)が認められた。
【0179】
また、黒色顔料Bは、粗粉がカットされており、粒径分布が良好であるため分散性が良好で、フィラメントが途中で切れること(糸切れ)がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の「『金属の複合酸化物等』が有機ポリマー内部に分散包含されてなる遮熱用黒色フィラメント」は、近赤外線(780nm~2500nm)の反射率が高く、黒色性(漆黒性)もカーボンブラックに近似しているので、黒色ではあるが、温度の上昇を抑制できる。
従って、温度上昇を抑制したい部材・資材・構造物等の製造分野、応用分野等に対して広く利用されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8