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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094736
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】疼痛治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20230629BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230629BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230629BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P29/00
A61P25/04
A61P25/00
C07K7/06 ZNA
C12N15/12
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210216
(22)【出願日】2021-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月1日 Journal of Biological Macromolecules Vol.21 No.2 December 2021(日本生物高分子学会2021年度大会講演要旨集を含む(pp.93-104))
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月18日 日本生物高分子学会2021年度大会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】芦高 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】脇地 航平
(72)【発明者】
【氏名】大野 華奈
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA17
4C084CA59
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA08
4C084ZB11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045CA40
4H045EA21
4H045FA20
(57)【要約】
【課題】疼痛に対する優れた治療薬を提供する。
【解決手段】ノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを有効成分とする、疼痛治療薬による。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬。
【請求項2】
前記有効成分であるヘキサペプチドが、経口投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の疼痛治療薬。
【請求項3】
前記有効成分であるヘキサペプチドが、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを修飾したペプチドであり、前記修飾したペプチドがアミド化ペプチドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の疼痛治療薬。
【請求項4】
前記アミド化ペプチドが、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドのC末端アミノ酸のOH基がNH2基に置換されているアミド化ペプチドである、請求項3に記載の疼痛治療薬。
【請求項5】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1~4のいずれかに記載の疼痛治療薬。
【請求項6】
前記疼痛がアロディニアである、請求項1~4いずれかに記載の疼痛治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、神経の損傷や機能異常によって発生する神経障害性疼痛と組織の損傷や炎症によって発生する侵害受容性疼痛とに分類される。侵害受容性疼痛は非ステロイド性抗炎症薬や麻薬性鎮痛薬が有効である。一方、神経障害性疼痛は、通常であれば痛みを引き起こさない程度の刺激によっても激烈な痛みを誘発する症状(「アロディニア(Allodynia)」とよばれる。)を伴うことが多く、非ステロイド性抗炎症薬や麻薬性鎮痛薬では効かないことが知られている。このため神経障害性疼痛の治療にはCa2+チャネルα2δリガンド(プレガバリン(Pregabalin)、ガバペンチン(Gabapentin))、三環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬等の使用が検討されている。特にCa2+チャネルα2δリガンドは、有効率が30%程度であり、高用量の場合だけでなく常用量においても、傾眠等の副作用を高い頻度で引き起こすことから治療満足度が満たされているとはいえない。
【0003】
ノシスタチン(以下「NST」という場合もある。)はヒトでは30個のアミノ酸、マウスでは41個のアミノ酸、ラットでは35個のアミノ酸、ウシでは17個のアミノ酸で構成される神経ペプチドである。ノシスタチンは生物種間によりアミノ酸配列が異なり、アロディニアを誘発するノシセプチンの前駆体であるプレノシセプチンの配列の部分から構成される。
【0004】
17個、6個等のアミノ酸で構成されるノシスタチンを髄腔内に投与することにより、ノシセプチン又はプロスタグランジンE2(PGE2)によるアロディニア及び痛覚過敏を抑制し、その活性中心がノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドに存在することが本発明者らにより示されている(特許文献1:特開平11-21298号公報、非特許文献1:Nature, 392:286-289, 1998)。非特許文献2には、ノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを合成したとの記載がある(非特許文献2:Iranian Journal of Pharmaceutical Research 15:337-342, 2016)。特許文献2にはノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを構成するアミノ酸の1つが疎水性アミノ酸で置換され、置換アミノ酸以外の構成アミノ酸の1つが同種の他のアミノ酸で置換されてもよいアミノ酸配列をC末端側に有する7~10個のアミノ酸を髄腔内に投与することにより、ノシセプチンによるアロディニアを十分に抑制することが開示されている(特許文献2:特開2001-354696号公報)。しかしながら、いずれの文献においてもノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを経口投与することで疼痛軽減効果を示しているものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-21298号公報
【特許文献2】特開2001-354696号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature,392:286-289,1998
【非特許文献2】Iranian Journal of Pharmaceutical Research,15:337-342,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、疼痛に対する優れた治療薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために研究を重ねた結果、ノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドによれば、疼痛を軽減することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬。
2.前記有効成分であるヘキサペプチドが、経口投与されるように用いられることを特徴とする、前項1に記載の疼痛治療薬。
3.前記有効成分であるヘキサペプチドが、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを修飾したペプチドであり、前記修飾したペプチドがアミド化ペプチドであることを特徴とする、前項1又は2に記載の疼痛治療薬。
4.前記アミド化ペプチドが、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドのC末端アミノ酸のOH基がNH2基に置換されているアミド化ペプチドである、前項3に記載の疼痛治療薬。
5.前記疼痛が神経障害性疼痛である、前項1~4のいずれかに記載の疼痛治療薬。
6.前記疼痛がアロディニアである、前項1~4いずれかに記載の疼痛治療薬。
【発明の効果】
【0010】
ノシスタチンC末端部のヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬によれば疼痛を軽減しうる。本発明の疼痛治療薬はガバペンチンに比べ、疼痛鈍麻領域の疼痛抑制を示す作用が低いため安全性が高い。さらに、本発明の疼痛治療薬は、17個のアミノ酸で構成されるノシスタチンに比べ経口投与で疼痛軽減効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】有痛性糖尿病神経障害モデルマウスを作製し、血糖値の測定とvon Frey 試験による疼痛測定を疼痛閾値によって評価を示す図である(実施例1)。
図2図2Aは有痛性糖尿病神経障害モデルマウスにおけるNST-6P、NST-6P-NH2、又はGabapentinを経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果を示す図である(実施例1)。図2Bは有痛性糖尿病神経障害モデルマウスにおけるNST-6P又はNST-6P-NH2を経口投与した時の各投与量0.005、0.05、0.5、5 mg/kgの疼痛軽減効果を、0-6時間の疼痛閾値の曲線下面積を算出した図である。(実施例2)
図3】有痛性糖尿病神経障害モデルマウスにおけるNST-6P-NH2又はGabapentinを経口投与した時のマウスの活動量を示す図である(実施例3)。
図4】有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスにおける、NST-6P又はNST-17Pを、非経口又は経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果の比較を示す図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬に関する。
【0013】
ヒトのノシスタチンを構成するアミノ酸配列はGenBank ACCESSION:NP_006219に示すアミノ酸配列のうち98-127番目の30個のアミノ酸で特定される(配列番号1)。ノシセプチンによるアロディニアに対する抑制の活性部位は、ヒト、ラット、マウス及びウシで共通しているノシスタチンC末端部のヘキサペプチド部分であり、配列番号1に示すアミノ酸配列で特定される30個のアミノ酸のうち25-30番目のアミノ酸列で特定される(配列番号2)。
MPRVRSLFQEQEEPEPGMEEAGEMEQKQLQ(配列番号1)
EQKQLQ(配列番号2)
【0014】
本発明の「疼痛治療薬」は、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを有効成分として含む。本明細書において、本発明の有効成分である配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドは、疼痛軽減効果や安定性向上等のため自体公知の方法により、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを修飾したペプチドであってもよい。ここで、前記修飾したペプチドとは、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドのうち、1個又は複数個のアミノ酸のアミノ基、カルボキシル基又は側鎖のいずれか1箇所以上が化学結合等によって修飾したペプチドを意味する。前記ヘキサペプチドの修飾は、例えばアミド化、アルキル化、アセチル化、ビオチン化等が挙げられるが、本発明における修飾したペプチドはアミド化ペプチドが好ましい。本明細書においてアミド化ペプチドは、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドのC末端アミノ酸であるグルタミンのOH基が、NH2基に置換されているペプチドである。
【0015】
本発明の有効成分であるヘキサペプチドは、例えば合成により作製することができる。ヘキサペプチドを合成する場合は自体公知の方法によって行うことができ、例えば液相法、固相法によるHBTU、HATU、DCC等の縮合剤を用いた方法等が挙げられる。通常は自動合成機により行うことができる。前記合成方法により得られたヘキサペプチドが保護基を有する場合、該保護基を除去することによってヘキサペプチドを作製することができる。固相法の場合は、該保護基の除去と同時にヘキサペプチドのC末端アミノ酸と樹脂との結合を切断することで作製することができる。
【0016】
前記合成方法により反応すべきでない官能基は保護基により保護される。アミノ基の保護基として、例えばFmoc、Boc等が挙げられ、カルボキシル基の保護基としては例えばアルキルエステル、ベンジルエステル等を形成し得る基が挙げられる。ヘキサペプチドを構成するアミノ酸の側鎖の保護基としては例えばベンジル基、tert-ブチル基等が挙げられる。固相法の場合は、C末端アミノ酸のカルボキシル基はWang樹脂、クロロメチル樹脂、オキシメチル樹脂等の担体に結合している。
【0017】
合成されたヘキサペプチドは例えば逆相カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、又は免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0018】
本発明のヘキサペプチドのアミノ酸配列に対応するポリヌクレオチド(DNA)を製造し、ポリヌクレオチドを用いた遺伝子工学的手法によりヘキサペプチドを製造することもできる。
【0019】
本発明の有効成分であるアミド化ペプチドを作製する方法は、自体公知の方法によることができる。例えばRink-amide樹脂やSieberアミド樹脂等の担体を用いて固相合成する方法等が挙げられる。
【0020】
本明細書における疼痛とは、所謂当業者が述べる疼痛であればよく、例えば痛みの原因により神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛に分類され、疼痛の持続時間により急性疼痛と慢性疼痛の2つに分類される。急性疼痛は組織障害に伴う痛みでその持続期間は限られる。慢性疼痛は組織障害の治癒後にも続き、はっきりとした器質的原因を有さないことが多く、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain: IASP)において、3ヶ月以上持続又は再発する痛みであると定義されている。疼痛として、例えば神経障害性疼痛、糖尿病性神経障害性疼痛、薬物副作用性神経因性疼痛、侵害受容性疼痛、混合性疼痛等が挙げられる。
【0021】
本明細書における神経障害性疼痛とは、体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛と定義され、末梢神経から大脳へ至るまでの侵害情報伝達経路のいずれかに病変や疾患が存在する際に生じる。神経系の病変には、不可逆性の解剖学的変化を伴う病変(損傷等)、及び不可逆性の解剖学的変化を伴わない病変(圧迫等)を含む。本明細書において神経障害性疼痛は、例えば糖尿病性神経障害性疼痛、薬物副作用性神経因性疼痛、がん性神経障害性疼痛、神経切断性神経因性疼痛、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、HIV関連神経障害性疼痛、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、線維筋痛症による痛み、幻肢痛、術後あるいは外傷後の遷延痛、脊髄損傷による痛み、視床痛、多発性硬化症による痛み等が挙げられ、特に糖尿病性神経障害性疼痛が好ましい。
【0022】
本明細書におけるアロディニアとは、所謂当業者が述べるアロディニアであればよく、例えば普通は痛みを感じないような触覚、軽微の圧迫や寒冷等の非侵害刺激に対しても痛みを感じてしまう感覚異常等が挙げられ、異痛症とも言う。アロディニアは異なる種類又は型のアロディニアが存在し、機械的アロディニア、温熱アロディニア、冷覚アロディニア等がある。「アロディニア」は、神経障害性疼痛、糖尿病性神経障害性疼痛、複合性局所疼痛症候群、帯状疱疹後神経痛及び線維筋痛症等の、多くの有痛性症状の臨床的特徴である。
【0023】
本発明の「疼痛治療薬」の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与を行うことができるが、特に経口投与が好ましい。経口投与は口から薬剤を投与することで消化管に吸収され、門脈を経て肝臓に到達し薬物代謝を受けたあと全身に循環する形態である。経口投与に適する製剤の例としては、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤、溶液剤、カプセル剤または懸濁剤等が挙げられ、非経口投与に適する製剤の例としては、例えば、注射剤、点滴剤、吸入剤、噴霧剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等が挙げられる。
【0024】
経口投与の利点は、注射による投与経路に比べ痛みがない、特別な器具を要することがないため容易に投与可能である、用量又は剤型を比較的自由に選択できる、及び自宅等で投与可能である等が挙げられる。しかしながら、経口投与では消化酵素による分解や小腸などの細胞膜透過性が低いため、点滴剤又は経皮吸収剤等に比べ効果の薬効性を示さないことが懸念される。17個のアミノ酸で構成されるノシスタチンは髄腔内投与ではアロディニア抑制効果が認められたことが特許文献1に示されているが、経口投与の効果は確認していなかった。本発明の疼痛治療薬によれば、経口投与であっても疼痛軽減効果の持続性が確保でき、容易に投与できることが期待される。
【0025】
既存薬のCa2+チャネルα2δリガンドであるガバペンチンの主な副作用に傾眠が挙げられる。このため、傾眠等の副作用が少ない安全性の高い疼痛治療薬が望まれている。本発明者らは、本発明の「疼痛治療薬」はガバペンチンに比べ、非糖尿病時の疼痛閾値よりも疼痛閾値が高くなる疼痛鈍麻領域の疼痛抑制を示す作用が低いことを発見した(実施例1)。さらに本発明はガバペンチンに比べ、本発明投与後の活動量が維持されることを発見した(実施例3)。そこで、配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドを有効成分として、本発明の「疼痛治療薬」を完成した。
【0026】
本発明の「疼痛治療薬」の投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、症状、投与回数、投与頻度、投与時期等に応じて適宜設定することができるが、例えば成人に経口投与する場合には、一日の投与量として0.005~50mg/kg、好ましくは0.05~5mg/kgである。
【0027】
経口投与用の液体製剤の製造には、例えば、水、ショ糖、ソルビット、果糖等の糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類;p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤等の製剤用添加物を用いることができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤等の固形製剤の製造には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニット等の賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤;メチルセルロース、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤;脂肪酸エステル等の界面活性剤;グリセリン等の可塑剤を用いることができる。
【0028】
また、必要に応じ本発明の「疼痛治療薬」をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", OsloEd. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の「疼痛治療薬」に適用することができる。
【実施例0029】
以下、実施例により発明を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスにおけるNST-6P、NST-6P-NH2又はGabapentinを経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果の比較
本実施例ではNST-6P、NST-6P-NH2又はCa2+チャネルα2δリガンド(Gabapentin)を有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに経口投与し、糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果を比較した。
NST-6P :配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチド
NST-6P-NH2:配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチドのC末端アミノ酸であるグルタミンのOH基がNH2基に置換されているペプチド
【0031】
マウス(5週齢)にストレプトゾトシン(STZ)を200mg/kg 腹腔内投与しI型糖尿病モデルマウスを作製し、血糖値の測定とvon Frey 試験による疼痛測定を疼痛閾値により評価した。コントロールとして、STZ溶解のクエン酸緩衝液(pH 4.3)を100 μL腹腔内投与した。血糖値はSTZ投与2週間後、マウスの尾静脈より50μLを採取しグルコースパイロットを用いて測定した(図1B)。疼痛測定はSTZ投与1~3週間後にマウスを網の上に置き、ガラス瓶をかぶせ30分以上置き環境に順応させ、マウス後肢足蹠に太さの異なるvon Freyフィラメントを垂直に曲がるまで押しつけ、逃避反応を引き起こすか否かを観察した。逃避行動を示す閾値(g)をup-down法及びfirst response法により求めた(図1C)。閾値(g)は、数値が低いほど痛みに敏感に反応することを示している。血糖値が340mg/dL以上、疼痛閾値が0.7g以下のマウスを有痛性糖尿病性神経障害モデルとした。有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスは、疼痛閾値が低いためアロディニアの発現が認められた。本実施例において、薬剤投与はSTZ投与後3週目に行った(図1A)。
【0032】
0.5%メチルセルロース溶液とNST-6P(投与量 5 mg/kg)、NST-6P-NH2(投与量 5 mg/kg)又はGabapentin(投与量 50 mg/kg)を各々混合した溶液 170 μLを図1Aに従いSTZ投与3週間後の有痛性糖尿病神経障害モデルマウスに経口投与した。NST-6P 5 mg/kg (7匹)、NST-6P-NH25 mg/kg(7匹)、Gabapentin(7匹)、有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに0.5%メチルセルロースのみを投与したvehicle(7匹)を上記記載に従って疼痛閾値を測定した。
【0033】
その結果、NST-6P、NST-6P-NH2、又はGabapentin投与により、疼痛閾値の上昇が見られ、アロディニアが抑制された。Gabapentinは非糖尿病モデルマウスの疼痛閾値より高い値を示し、痛覚鈍麻領域の疼痛抑制症状を呈しているが、NST-6P及びNST-6P-NH2は痛覚鈍麻領域の症状は認められなかった(図2A)。
【0034】
(実施例2)有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスにおける、NST-6P又はNST-6P-NH2を経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果の確認
本実施例では、NST-6P又はNST-6P-NH2を各々有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに経口投与し、糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果を確認した。
【0035】
有痛性糖尿病神経障害モデルマウスの作製は実施例1に従った。0.5%メチルセルロース溶液にNST-6P又はNST-6P-NH2のペプチドの投与量が0.005, 0.05, 0.5, 5 mg/kgとなるように調製した各ペプチド溶液 170 μLを、図1Aに従いSTZ投与3週間後の有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに経口投与した。有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスについてはNST-6P 0.005 mg/kg 11匹、NST-6P 0.05 mg/kg 9匹、NST-6P 0.5 mg/kg 11匹、NST-6P 5 mg/kg 10匹、NST-6P-NH2 0.005 mg/kg 9匹、NST-6P-NH20.05 mg/kg 11匹、NST-6P-NH2 0.5 mg/kg 13匹、NST-6P-NH2 5 mg/kg 12匹であった。
【0036】
0-6時間の疼痛閾値の曲線下面積(図2B)を示すため、各ペプチド投与1, 3, 6, 24時間後にvon Frey 試験による疼痛解析を実施例1に従ってup-down法により疼痛閾値を測定した。また有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに0.5%メチルセルロースのみを経口投与したvehicle(12匹)も実施例1に従って疼痛閾値を測定した。なお、疼痛閾値は、vehicleは3回、NST-6P 0.005~0.5 mg/kgは2回、5 mg/kgは3回、NST-6P-NH2 0.005 mg/kgは4回、0.05 mg/kgは3回、0.5 mg/kgは2回、5 mg/kgは3回の独立した実験より得られたマウスの値を統合して平均値を算出した。
【0037】
NST-6P又はNST-6P-NH2の各ペプチド投与0-6時間の各個体の疼痛閾値の平均値の曲線下面積を示した(図2B)。また濃度依存性曲線により、50%効果濃度(EC50)と95%信頼区間(Confidence Interval, CI)を算出した。(表1)。EC50濃度はNST-6P(0.162 mg/kg)とNST-6P-NH2(0.101mg/kg)で同程度の値を示し、疼痛抑制の効力は同じであった。95%信頼区間(Confidence interval, CI)の最大値は、NST-6Pに比べて、NST-6P-NH2が約1.3倍の大きく、高い効性をもつことを示した。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例3)有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスにおけるNST-6P-NH2又はGabapentinを経口投与した時のマウスの活動量の比較
本実施例ではNST-6P-NH2又はGabapentinを有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに経口投与し、マウスの活動量を比較した。
【0040】
有痛性糖尿病神経障害モデルマウスの作製は実施例1に従った。小動物活動度測定センサー AS-10F(メルクエスト)を用いて、マウスの活動度を測定した。マウスは、測定ケージで20分間馴化した後に25分間測定した。さらに、NST-6P-NH2(5 mg/kg)又はGabapentin(50 mg/kg)を各々混合した溶液 170 μLを経口投与し、1時間の活動度を測定した(図3A)。有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスについてはNST-6P-NH2 3匹、Gabapentin 3匹であった。
【0041】
NST-6P-NH2とGabapentin投与前の0-25分の活動度の曲線下面積(図3B)と投与後の1時間(26-85分)の曲線下面積(図3C)の平均値と各個体の値を示した。Gabapentin投与ではNST-6P-NH2投与に比べ顕著な活動度の低下が見られた。
【0042】
(実施例4)有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスにおける、NST-6P又はNST-17Pを、非経口又は経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果の比較
NST-6P又はNST-17Pを、非経口又は経口投与した時の糖尿病性神経障害性疼痛の軽減効果を比較した。
【0043】
NST-6P :配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるヘキサペプチド
NST-17P :配列番号3に示す17個のアミノ酸配列で特定されるノシスタチン
EQKQLQ(配列番号2)
TEPGLEEVGEIEQKQLQ(配列番号3)
【0044】
有痛性糖尿病神経障害モデルマウスの作製は実施例1に従った。0.5%メチルセルロース溶液にNST-6P又はNST-17Pのペプチドの投与量が0.05, 0.5 mg/kgとなるように調製した各ペプチド溶液 170 μLを、図1Aに従いSTZ投与3週間後の有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに経口投与した。有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスについてはNST-17P 0.05 mg/kg 6匹、NST-17P 0.5 mg/kg 6匹、NST-6P 0.05 mg/kg 8匹、NST-6P 0.5 mg/kg 9匹であった。NST-6P投与1, 3, 6時間後又はNST-17P投与2, 6時間後にvon Frey 試験による疼痛解析を実施例1に従ってfirst response法により疼痛閾値を測定した。また有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに0.5%メチルセルロースのみを経口投与したvehicle(NST-6Pの投与実験ではVehicle 9匹、NST-17Pの投与実験ではVehicle 5匹)も実施例1に従って疼痛閾値を測定した。
【0045】
非経口投与では生理食塩水にNST-6Pでは0.1, 1, 10 pmol、NST-17Pでは1 pmolとなるように調製した各ペプチド溶液5 μL を、図1Aに従いSTZ投与3週間後の有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに髄腔内(i.t.)投与した。有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスはNST-6P 0.1 pmol(5匹)、NST-6P 1 pmol(5匹)、NST-6P 10 mol(6匹)、NST-17P 1 pmol(5匹)であった。経口投与と同様にNST-6P投与0.5, 1.0, 2時間後又はNST-17P投与0.5, 1, 2, 5時間後にvon Frey 試験による疼痛解析を実施例1に従ってfirst response法により疼痛閾値を測定した。また有痛性糖尿病性神経障害モデルマウスに生理食塩水のみを髄腔内投与したvehicle(7匹)も実施例1に従って疼痛閾値を測定した。
【0046】
この結果、NST-17PとNST-6Pはいずれも髄腔内投与により疼痛抑制を示した(図4A,C)。一方、経口投与では、NST-17Pは疼痛を抑制しないが、NST-6Pは抑制効果を示した(図4B,D)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明のノシスタチンのC末端部のヘキサペプチドを有効成分として含む、疼痛治療薬によれば疼痛を軽減しうる。本発明の疼痛治療薬は経口投与が可能であり、患者への負担が軽減化され、産業上の利用可能性に大きく貢献しうる。さらに本発明の疼痛治療薬によれば、他の薬剤で挙げられている痛覚鈍麻領域の疼痛抑制作用や活動度低下が少ないため安全性が高い。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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