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  • 特開-パルスアーク溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094737
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20230629BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/23 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210217
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】恵良 哲生
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CB01
4E001DE01
4E001DE03
4E001DE04
4E082BA01
4E082BA02
4E082BA04
4E082DA01
4E082EA06
4E082EC13
4E082EF02
4E082EF16
4E082JA03
(57)【要約】
【課題】母材の材質がアルミニウム材であり、溶接継手部に大きなギャップを有する薄板に対して、高品質な溶接を行うこと。
【解決手段】溶接ワイヤを送給Fwし、アルミニウム材を溶接するパルスアーク溶接方法において、電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とを繰り返す交流パルスアーク溶接を行う期間(時刻t2~t3)と、電極マイナス極性でピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを繰り返す直流パルスアーク溶接を行う期間(時刻t3~t4)とを交互に切り換えて溶接する。全溶接期間に占める交流パルスアーク溶接を行う期間の時間比率が、30%以上70%以下の範囲である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、アルミニウム材を溶接するパルスアーク溶接方法において、
電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とを繰り返す交流パルスアーク溶接を行う期間と、電極マイナス極性でピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを繰り返す直流パルスアーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接方法。
【請求項2】
全溶接期間に占める前記交流パルスアーク溶接を行う期間の時間比率が、30%以上70%以下の範囲である、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接方法。
【請求項3】
前記交流パルスアーク溶接が前記電極マイナス極性期間であるときに、前記直流パルスアーク溶接の前記ベース期間に切り換える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接方法。
【請求項4】
前記直流パルスアーク溶接が前記ベース期間であるときに、前記交流パルスアーク溶接の前記電極マイナス極性期間に切り換える、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給し、アルミニウム材を溶接するパルスアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
母材への入熱を小さくして薄板を高品質に溶接するために特許文献1、2等の発明が慣用されている。
特許文献1に係る交流パルスアーク溶接方法では、溶接ワイヤを送給し、電極プラス極性期間中のピーク電流及びベース電流の通電と、電極マイナス極性期間中の電極マイナス極性電流の通電とを1周期として繰り返すことによって溶接が行われる。この交流パルスアーク溶接では、電極マイナス極性期間を調整することによって、1周期に占める電極マイナス極性期間の時間比率である電極マイナス極性比率を変化させて、母材への入熱を制御することができる。このために、低入熱溶接が可能となり、高品質な薄板溶接を行うことができる。
【0003】
特許文献2に係る溶接方法では、溶接ワイヤを送給し、パルスアーク溶接を行う期間と直流パルスアーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接が行われる。この溶接方法では、パルスアーク溶接の期間と直流パルスアーク溶接の期間との比率を調整することによって、母材への入熱制御を行うことができる。このために、低入熱溶接が可能となり、高品質な薄板溶接を行うことができる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2018/079345号公報
【特許文献2】特開2021-53649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄板溶接において、溶接継手部にギャップがある場合には、溶け込み部を小さくし、余盛り部を大きくした希釈率の小さなビード形状を形成する必要がある。しかし、特許文献1、2等の従来技術の溶接方法では、母材がアルミニウム材であるときに、大きなギャップを有する薄板を高品質に溶接することは困難であった。
【0006】
そこで、本発明では、母材の材質がアルミニウム材であり、溶接継手部に大きなギャップを有する薄板に対して、高品質な溶接を行うことができるパルスアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、アルミニウム材を溶接するパルスアーク溶接方法において、
電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とを繰り返す交流パルスアーク溶接を行う期間と、電極マイナス極性でピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを繰り返す直流パルスアーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
全溶接期間に占める前記交流パルスアーク溶接を行う期間の時間比率が、30%以上70%以下の範囲である、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記交流パルスアーク溶接が前記電極マイナス極性期間であるときに、前記直流パルスアーク溶接の前記ベース期間に切り換える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接方法である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記直流パルスアーク溶接が前記ベース期間であるときに、前記交流パルスアーク溶接の前記電極マイナス極性期間に切り換える、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、母材の材質がアルミニウム材であり、溶接継手部に大きなギャップを有する薄板に対して、高品質な溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接方法を示す図1における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図において、極性切換時の高電圧印加回路については省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によりインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。2次整流器D2a~D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。
【0016】
電極プラス極性トランジスタPTRは後述する電極プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極プラス極性EPになる。電極マイナス極性トランジスタNTRは後述する電極マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極マイナス極性ENになる。
【0017】
リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑する。
【0018】
溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。母材2の材質はアルミニウム材である。溶接トーチ4の先端から噴出されるシールドガスは100%アルゴンガスである。
【0019】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均化回路VAVは、この電圧検出信号Vdの絶対値を平均化して、電圧平均値信号Vavを出力する。電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vrと上記の電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0020】
電極プラス極性ピーク期間設定回路TPRは、予め定めた電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprを出力する。電極プラス極性ベース期間設定回路TBRは、予め定めた電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを出力する。
【0021】
電極マイナス極性期間設定回路TNRは、予め定めた電極マイナス極性期間設定信号Tnrを出力する。
【0022】
タイマ回路TMは、後述する溶接法切換信号Sm、上記の電極マイナス極性期間設定信号Tnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr及び上記の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tmを出力する。
1)溶接法切換信号Sm=1に変化したとき、又は、電極プラス極性ベース期間Tbが終了したときは、電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって設定される電極マイナス極性期間Tnとなり、タイマ信号Tm=1を出力する。
2)続けて、電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprによって設定される電極プラス極性ピーク期間Tpとなり、タイマ信号Tm=2を出力する。
3)続けて、電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrによって設定される電極プラス極性ベース期間Tbとなり、タイマ信号Tm=3を出力する。
4)溶接法切換信号Sm=1の期間中は上記の1)~3)を繰り返す。
【0023】
電極プラス極性ピーク電流設定回路IPRは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、電圧平均値信号Vavの値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにフィードバック制御して、電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを出力する。この回路によって、アーク長が適正値になるように電極プラス極性ピーク電流Ipがフィードバック制御される。
【0024】
電極プラス極性ベース電流設定回路IBRは、予め定めた電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0025】
電極マイナス極性電流設定回路INRは、予め定めた電極マイナス極性電流設定信号Inrを出力する。
【0026】
切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電極プラス極性ピーク電流設定信号Ipr、上記の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibr及び上記の電極マイナス極性電流設定信号Inrを入力として、以下の処理を行い、電流設定信号Irを出力する。
1)タイマ信号Tm=1のときは、電極マイナス極性電流設定信号Inrを電流設定信号Irとして出力する。
2)タイマ信号Tm=2のときは、電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。
3)タイマ信号Tm=3のときは、電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0027】
直流パルスアーク溶接電流設定回路ISRは、後述する溶接法切換信号Smを入力として、溶接法切換信号Sm=2(直流パルスアーク溶接期間Ts)に変化した時点から予め定めたベース期間中の予め定めたベース電流設定値と、予め定めたピーク期間中の予め定めたピーク電流設定値とを交互に繰り返して、直流パルスアーク溶接電流設定信号Isrを出力する。
【0028】
交流パルスアーク溶接期間設定回路TARは、予め定めた交流パルスアーク溶接期間設定信号Tarを出力する。
【0029】
直流パルスアーク溶接期間設定回路TSRは、予め定めた直流パルスアーク溶接期間設定信号Tsrを出力する。
【0030】
溶接法切換回路SMは、上記の交流パルスアーク溶接期間設定信号Tar、上記の直流パルスアーク溶接期間設定信号Tsr、上記のタイマ信号Tm及び上記の直流パルスアーク溶接電流設定信号Isrを入力として、以下の処理を行い、溶接法切換信号Smを出力する。
1)溶接法切換信号Sm=1に変化した時点から交流パルスアーク溶接期間設定信号Tarによって設定される期間が経過し、かつ、タイマ信号Tm=1(電極マイナス極性期間Tn)のときは、溶接法切換信号Sm=2を出力する。
2)溶接法切換信号Sm=2に変化した時点から電極マイナス極性直流パルスアーク溶接期間設定信号Tsrによって設定された期間が経過し、かつ、直流パルスアーク溶接電流設定信号Isrの値が予め定めたベース電流設定値のときは、溶接法切換信号Sm=1を出力する。
3)上記の1)及び2)を繰り返す。
【0031】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0032】
電流制御設定回路ICRは、上記の電流設定信号Ir、上記の直流パルスアーク溶接電流設定信号Isr及び上記の溶接法切換信号Smを入力として、溶接法切換信号Sm=1(交流パルスアーク溶接期間Ta)のときは、電流設定信号Irとなり、溶接法切換信号Sm=2(直流パルスアーク溶接期間Ts)のときは直流パルスアーク溶接電流設定信号Isrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0033】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icrと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0034】
駆動回路DVは、上記の溶接法切換信号Sm及び上記のタイマ信号Tmを入力として、以下の処理を行い、駆動信号Dvを出力する。駆動信号Dvは、電極マイナス極性駆動信号Nd及び電極プラス極性駆動信号Pdから形成されている。
1)溶接法切換信号Sm=2又はタイマ信号Tm=1のときは、電極マイナス極性駆動信号Ndを出力する。
2)溶接法切換信号Sm=1であり、タイマ信号Tm=2又は3のとき電極プラス極性駆動信号Pdを出力する。
したがって、直流パルスアーク溶接期間Tsのときは電極マイナス極性ENとなる。交流パルスアーク溶接期間Ta中の、電極マイナス極性期間Tnのときは電極マイナス極性ENとなり、電極プラス極性ピーク期間Tp及び電極プラス極性ベース期間Tbのときは電極プラス極性EPとなる。
【0035】
交流パルスアーク溶接送給速度設定回路FARは、予め定めた交流パルスアーク溶接送給速度設定信号Farを出力する。
【0036】
直流パルスアーク溶接送給速度設定回路FSRは、予め定めた直流パルスアーク溶接送給速度設定信号Fsrを出力する。
【0037】
送給速度設定回路FRは、上記の溶接法切換信号Sm、上記の交流パルスアーク溶接送給速度設定信号Far及び上記の直流パルスアーク溶接送給速度設定信号Fsrを入力として、溶接法切換信号Sm=1のときは交流パルスアーク溶接送給速度設定信号Farを送給速度設定信号Frとして出力し、溶接法切換信号Sm=2のときは直流パルスアーク溶接送給速度設定信号Fsrを送給速度設定信号Frとして出力する。
【0038】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、この値に対応した送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記のワイヤ送給モータWMに出力する。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接法切換信号Smの時間変化を示し、同図(B)はタイマ信号Tmの時間変化を示し、同図(C)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(F)は駆動信号Dvの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0040】
同図(A)に示す溶接法切換信号Smは、Sm=1のときは交流パルスアーク溶接期間Taとなり、Sm=2のときは電極マイナス極性直流パルスアーク溶接期間Tsとなる。同図(B)に示すタイマ信号Tmは、Tm=1のときは電極マイナス極性期間Tnとなり、Tm=2のときは電極プラス極性ピーク期間Tpとなり、Tm=3のときは電極プラス極性ベース期間Tbとなる。同図(D)に示す溶接電流Iwは、正の値が溶接ワイヤから母材側へと通電する電極プラス極性EPであることを示し、負の値が母材から溶接ワイヤ側へと通電する電極マイナス極性ENであることを示す。同図(E)に示す溶接電圧Vwは、正の値が溶接ワイヤがプラスとなり母材がマイナスとなる電極プラス極性EPであることを示し、負の値が母材がプラスとなり溶接ワイヤがマイナスとなる電極マイナス極性ENであることを示す。溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの値の大小を記載するときは、電極極性に関わりなくその絶対値を示している。同図(F)に示す駆動信号Dvは、Highレベルのときに図1の電極マイナス極性駆動信号Ndが出力されて電極マイナス極性ENとなっていることを示しており、Lowレベルのときに図1の電極プラス極性駆動信号Pdが出力されて電極プラス極性EPになっていることを示している。極性切換時のアーク切れを防止するために、溶接ワイヤと母材との間に短時間数百Vの再点弧電圧が印加されるが、図示は省略している。
【0041】
同図(A)に示すように、溶接法切換信号Smは、時刻t2以前の期間はSm=2(直流パルスアーク溶接期間Ts)となり、時刻t2~t3の期間中は1(交流パルスアーク溶接期間Ta)となり、時刻t3~t4の期間中は2(直流パルスアーク溶接期間Ts)となり、時刻t4以降の期間は1(交流パルスアーク溶接期間Ta)となる。
【0042】
(1)時刻t2以前の電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接期間Tsの動作
この期間中は、同図(A)に示すように、溶接法切換信号Sm=2となり、電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接期間Tsとなる。同図(F)に示すように、駆動信号DvはHighレベルとなり電極マイナス極性ENとなる。したがって、同図(D)に示す溶接電流Iw及び同図(E)に示す溶接電圧Vwは負の値となっている。 時刻t1~t11の期間が予め定めたピーク期間となり、時刻t11~t2の期間が予め定めたベース期間となっている。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは図1の直流パルスアーク溶接電流設定信号Isrによって設定され、ピーク期間中は予め定めたピーク電流値となり、ベース期間中は予め定めたベース電流値となる。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に比例した値となり、ピーク期間中はピーク電圧値となり、ベース期間中はベース電圧値となる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、図1の直流パルスアーク溶接送給速度設定信号Fsrによって設定された値となる。ここでは、直流パルスアーク溶接期間Ts中はアーク長制御を行わない場合について記載したが、後述するように、交流パルスアーク溶接期間Taと同様のアーク長制御を行っても良い。
【0043】
(2)時刻t2~t3の交流パルスアーク溶接期間Taの動作
時刻t2において、溶接法切換信号Sm=2に変化した時点から図1の直流パルスアーク溶接期間設定信号Tsrによって設定された期間が経過し、かつ、溶接電流Iwがベース電流値(ベース期間)であるので、溶接法切換信号Sm=1に切り換わり交流パルスアーク溶接期間Taが開始する。したがって、溶接法切換信号Sm=2に変化した時点から図1の直流パルスアーク溶接期間設定信号Tsrによって設定された期間が経過したときにピーク期間であったときは、ベース期間となるまで遅延させて交流パルスアーク溶接期間Taに移行させることになる。交流パルスアーク溶接期間Taは、必ず電極マイナス極性期間Tnから開始される。このために、同図(B)に示すように、タイマ信号Tmは、時刻t2~t21の期間中は1(電極マイナス極性期間Tn)となり、時刻t21~t22の期間中は2(電極プラス極性ピーク期間Tp)となり、時刻t22~t23の期間中は3(電極プラス極性ベース期間Tb)となる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは図1の交流パルスアーク溶接送給速度設定信号Farによって設定される値へと変化する。
(21)時刻t2~t21の電極マイナス極性期間Tn中は、同図(F)に示すように、駆動信号DvはHighレベルとなり、電極マイナス極性ENとなる。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは負の値に予め定めた電極マイナス極性電流となり、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に比例した負の値のアーク電圧値となる。電極マイナス極性期間を、電極マイナス極性ベース電流を通電する電極マイナス極性ベース期間と電極マイナス極性ピーク電流を通電する電極マイナス極性ピーク期間から形成するようにしても良い。
(22)時刻t21~t22の電極プラス極性ピーク期間Tp中は、同図(F)に示すように、駆動信号DvはLowレベルとなり、電極プラス極性EPへと極性が反転する。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは正の値のフィードバック制御される電極プラス極性ピーク電流となり、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に比例した正の値のアーク電圧値となる。電極プラス極性ピーク電流の値は、溶接電圧Vwの平均値が図1の電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにフィードバック制御される。これにより、アーク長が適正値になるように制御される。電極プラス極性ピーク期間Tpは、立上り期間、最大値期間及び立下り期間から形成される。アーク長制御の方式としては、上記の電極プラス極性ピーク電流変調方式以外に、周期変調方式、電極プラス極性ピーク期間変調方式等がある。
(23)時刻t22~t23の電極プラス極性ベース期間Tb中は、同図(F)に示すように、駆動信号DvはLowレベルとなり、電極プラス極性EPを維持する。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは正の値の予め定めた電極プラス極性ベース電流となり、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に比例した正の値のアーク電圧値となる。
同図では、時刻t2~t3の期間中には2周期分の波形を表示している。
【0044】
(3)時刻t3~t4の電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接期間Tsの動作
時刻t3において、溶接法切換信号Smが時刻t1にSm=1に変化した時点から図1の交流パルスアーク溶接期間設定信号Tarによって設定された期間が経過し、かつ、タイマ信号Tm=1(電極マイナス極性期間Tn)であるので、溶接法切換信号Sm=2に切り換わり電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接期間Tsが開始する。したがって、溶接法切換信号Sm=1に変化した時点から図1の交流パルスアーク溶接期間設定信号Tarによって設定された期間が経過したときに電極マイナス極性期間Tn以外の期間であったときは、電極マイナス極性期間Tnとなるまで遅延させて電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接期間Tsに移行させることになる。この期間は、必ずベース期間から開始される。この期間中は、同図(F)に示すように、駆動信号DvはHighレベルとなり、電極マイナス極性ENとなる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、図1の直流パルスアーク溶接送給速度設定信号Fsrによって設定される値へと変化する。
(31)時刻t3~t31のベース期間中は、同図(D)に示すように、溶接電流Iwは負の値のベース電流値となり、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは負の値のベース電圧値となる。
(32)時刻t31~t32のピーク期間中は、同図(D)に示すように、溶接電流Iwは負の値のピーク電流値となり、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは負の値のピーク電圧値となる。
(33)時刻t32~t33の期間は、再びベース期間となり、上記の動作を繰り返す。時刻t33からは再びピーク期間となる。同図では、時刻t3~t4の期間中には2周期分の波形を表示している。
【0045】
時刻t4において、時刻t2の動作に戻り、上記の動作を繰り返す。交流パルスアーク溶接期間Ta及び電極マイナス極性直流パルスアーク溶接期間Tsは、それぞれ1周期が10ms程度である。各期間は、少なくとも1周期を含んでおり、1~50周期程度の範囲である。
【0046】
上記の各パラメータの数値例を以下に示す。
母材=アルミニウム材、シールドガス=100%アルゴンガス
(1)交流パルスアーク溶接のパラメータ
送給速度=10m/min(150A)、溶接電圧=18V、電極マイナス極性比率=20%
電極マイナス極性期間=1.5ms、電極マイナス極性電流=150A
電極プラス極性ピーク期間=3.0ms(立上り期間=1.0ms+最大値期間=1.0ms+立下り期間=1.0ms)、電極プラス極性ピーク電流(フィードバック値)=約350A
電極プラス極性ベース期間=4.0ms、電極プラス極性ベース電流=50A
(2)電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接のパラメータ
送給速度=12m/min(125A)、溶接電圧=14V
ピーク期間=2ms、ベース期間=2ms
ピーク電流=150A、ベース電流=100A
【0047】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、溶接ワイヤを送給し、アルミニウム材を溶接するパルスアーク溶接方法において、電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とを繰り返す交流パルスアーク溶接を行う期間と、電極マイナス極性でピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを繰り返す直流パルスアーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接する。溶接継手部に大きなギャップを有する薄板に対して低入熱高溶着溶接を行うためには、溶接ワイヤを送給して電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接を行うのが最も有効である。しかし、母材の材質がアルミニウム材であるときは、電極マイナス極性直流パルスアーク溶接では酸化被膜を除去するクリーニング作用が働かないために、溶接不良となる。これを解決するために、交流パルスアーク溶接を行う期間を付加している。交流パルスアーク溶接を付加することによって、電極プラス極性ピーク期間及び電極プラス極性ベース期間においてクリーニング作用が働くので、酸化被膜を除去して良好な溶接を行うことができる。さらには、交流パルスアーク溶接は電極マイナス極性期間を有するので、低入熱高溶着溶接となる。この結果、本実施の形態では、母材の材質がアルミニウム材であり、溶接継手部に大きなギャップを有する薄板に対して、高品質な溶接を行うことができる。
【0048】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、全溶接期間に占める交流パルスアーク溶接を行う期間の時間比率が、30%以上70%以下の範囲である。上記の時間比率が30%未満になると、十分なクリーニング作用を働かせることができずに、溶接不良となる。時間比率が70%を超えると、電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接による低入熱高溶着効果が低下するので、適用範囲が狭くなる。
【0049】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、交流パルスアーク溶接が電極マイナス極性期間であるときに、直流パルスアーク溶接のベース期間に切り換える。交流パルスアーク溶接の電極マイナス極性期間から電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接のベース期間への移行は、両者ともに同一極性であり、かつ、両電流値の差が小さいので、移行状態が円滑になり、溶接状態が安定化する。
【0050】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電極マイナス極性直流パルスアーク溶接がベース期間であるときに、交流パルスアーク溶接の電極マイナス極性期間に切り換える。電極マイナス極性の直流パルスアーク溶接のベース期間から交流パルスアーク溶接の電極マイナス極性期間への移行は、両者ともに同一極性であり、かつ、両電流値の差が小さいので、移行状態が円滑になり、溶接状態が安定化する。
【符号の説明】
【0051】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
D2a~D2d 2次整流器
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EN 電極マイナス極性
EP 電極プラス極性
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FAR 交流パルスアーク溶接送給速度設定回路
Far 交流パルスアーク溶接送給速度設定信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
FSR 直流パルスアーク溶接送給速度設定回路
Fsr 直流パルスアーク溶接送給速度設定信号
Fw 送給速度
IBR 電極プラス極性ベース電流設定回路
Ibr 電極プラス極性ベース電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
INR 電極マイナス極性電流設定回路
Inr 電極マイナス極性電流設定信号
INT インバータトランス
INV インバータ回路
Ip 電極プラス極性ピーク電流
IPR 電極プラス極性ピーク電流設定回路
Ipr 電極プラス極性ピーク電流設定信号
Ir 電流設定信号
ISR 直流パルスアーク溶接電流設定回路
Isr 直流パルスアーク溶接電流設定信号
Iw 溶接電流
Nd 電極マイナス極性駆動信号
NTR 電極マイナス極性トランジスタ
Pd 電極プラス極性駆動信号
PTR 電極プラス極性トランジスタ
SM 溶接法切換回路
Sm 溶接法切換信号
SW 切換回路
Ta 交流パルスアーク溶接期間
TAR 交流パルスアーク溶接期間設定回路
Tar 交流パルスアーク溶接期間設定信号
Tb 電極プラス極性ベース期間
TBR 電極プラス極性ベース期間設定回路
Tbr 電極プラス極性ベース期間設定信号
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
Tn 電極マイナス極性期間
TNR 電極マイナス極性期間設定回路
Tnr 電極マイナス極性期間設定信号
Tp 電極プラス極性ピーク期間
TPR 電極プラス極性ピーク期間設定回路
Tpr 電極プラス極性ピーク期間設定信号
Ts 直流パルスアーク溶接期間
TSR 直流パルスアーク溶接期間設定回路
Tsr 直流パルスアーク溶接期間設定信号
VAV 電圧平均化回路
Vav 電圧平均値信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM ワイヤ送給モータ
図1
図2