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特開2023-94755A重油組成物およびA重油組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094755
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】A重油組成物およびA重油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
C10L1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210254
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀澤 侑平
(57)【要約】
【課題】従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を提供する。
【解決手段】中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを含有し、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、特定式を満たす特定の割合で含有することを特徴とするA重油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを含有し、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数1】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように含有することを特徴とするA重油組成物。
【請求項2】
ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下である請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項3】
A重油組成物を製造する方法であって、
中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを、
得られるA重油組成物において、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数2】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように混合する
ことを特徴とするA重油組成物の製造方法。
【請求項4】
得られたA重油組成物における、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下である請求項3に記載のA重油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物およびA重油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油(A重油組成物)は、ハウス加温栽培用暖房機の燃料油や、ビル等の暖房機の燃料油や、漁船の燃料油等として用いられている。
【0003】
一般に、A重油組成物は、常圧蒸留装置より得られる直留灯油又は脱硫処理した灯油、直留軽質軽油または脱硫処理した直留軽質軽油、流動接触分解装置より得られる軽質サイクル油、 直接脱硫装置より得られる直脱軽油等から選択される一種以上の中間留分基材を含有しつつ、さらに、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)等の残渣油等を残炭調整材(残留炭素分付与基材)として含有している。
【0004】
A重油組成物の残留炭素分に関し、JIS K 2205(重油)には4質量%以下とすることが規定されており、また、軽油組成物との製品区分を明確化し、軽油取引税の課税対象になることを避けるために、A重油組成物は、10%残油の残留炭素分を0.2質量%以上含む必要がある。
【0005】
ところで、A重油組成物を燃料とするエンジンや各種の燃焼機器には、燃料系等に目開き5~250μm程度のフィルターが設けられ、燃料油中の異物を除去することにより後段の精密機器を保護しているが、冬季、油温が低下すると高炭素数n-パラフィン(高炭素数直鎖状飽和炭化水素)がワックス結晶として析出し、上記フィルターを閉塞することが知られている。
【0006】
そこで、上記ワックス結晶の析出による燃料フィルターの閉塞を抑制するために、例えば、特許文献1等には、A重油組成物中に低温流動性向上剤(CFI)を添加し、ワックス結晶の成長を阻害して、生成するワックス結晶を微細化することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-292977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、A重油組成物は、生産形態の変化のため、高炭素数直鎖状飽和炭化水素が多く含まれた重質な中間留分基材が使用されなくなり、A重油組成物が軽質化する傾向にある。
【0009】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、上記軽質化したA重油組成物では上述した低温流動性向上剤の添加によるワックス結晶の成長阻害効果が低減してしまい、生成するワックス結晶を微細化し難くなることが判明した。
【0010】
このため、上記軽質化したA重油組成物において、低温での流動性を維持するために、A重油組成物の構成基材としてさらに軽質な基材を使用したり、低温流動性向上剤の添加量を増加させる対応が考えられた。
しかしながら、上記対応においては、A重油の構成基材として通常使用されていない(A重油以外の燃料油基材等として有用な)軽質基材を必要としたり、低温流動性向上剤の使用量の増大を招くために、A重油組成物の製造コストの増大を招き易くなる。
【0011】
このような状況下、本発明は、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、低温流動性向上剤の含有量を増大させたり製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長を容易に抑制し得るA重油組成物を提供するとともに、A重油組成物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを含有し、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を特定の関係を満たすように含有するA重油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを含有し、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数1】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように含有することを特徴とするA重油組成物、
(2)ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下である上記(1)に記載のA重油組成物、
(3)A重油組成物を製造する方法であって、
中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを、
得られるA重油組成物において、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数2】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように混合する
ことを特徴とするA重油組成物の製造方法、
(4)得られたA重油組成物における、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下である上記(3)に記載のA重油組成物の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を提供することができるとともに、A重油組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、各々以下の試験方法及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「直鎖状飽和炭化水素(n-パラフィン)の含有割合」
以下の測定条件により水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)を用いて測定した炭素数毎のn-パラフィンの含有割合。
装置 :アジレント・テクノロジー社製Agilent 6890N
カラム:DB-1 60m×0.32mmID DF:0.25μm
検出器:FID 350℃
オーブン温度:60℃(5min)-6℃/min-340℃(14min)
注入口:オーブントラックモード(オーブン温度+3℃)
キャリアガス:He 152kPa(2.9ml/min)定圧
メイクアップガス:窒素 25ml/min
FID燃焼ガス:H2 30ml/min Air 400ml/min
注入量 :0.5μl オンカラム注入
定量方法 :内標法 (内標 フタル酸ジ-n-ブチル)
試料希釈 :試料0.1g 内標液1ml トルエン4ml
ベースライン:補正有り
・「常圧蒸留性状(留出温度)」
JIS K 2254:1998「石油製品-蒸留試験方法」に規定されている「常圧法蒸留試験方法」に規定されている方法。
・「飽和炭化水素(飽和分)の含有割合」
JPI-5S-49-2007「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「芳香族炭化水素(芳香族分)の含有割合、一環芳香族炭化水素(一環芳香族分)の含有割合、二環芳香族炭化水素(二環芳香族分)の含有割合、三環芳香族炭化水素(三環芳香族分)の含有割合」;
JPI-5S-49-2007「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「オレフィン分の含有割合」
JPI-5S-49-2007「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「レジン分、アスファルテン分の含有割合」
JPI-5S-22-83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析」に規定されている方法。
但し、レジン分については、カラムクロマトグラフィーの代わりに、液体クロマトグラフィーを用いた。液体クロマトグラフィーの運転パラメーターは以下の通りである。
【表1】
・「硫黄分含有割合」
500質量ppm以下の硫黄分:JIS K 2541-6:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」に規定されている方法。
500質量ppmを超える硫黄分:JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線式励起法」に規定されている方法。
・「引火点」
JIS K 2265-3:2007「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に規定されている方法(PM法)。
ただし、後述する直留灯油については、JIS K 2265-1:2007「引火点の求め方-第1部:タグ密閉法」
に規定されている方法(TAG法)。
・「15℃における密度(密度(15℃))」
JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」に規定されている方法。
・「50℃における動粘度(動粘度(50℃))」
JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に規定されている方法。
・「残留炭素分」
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「10%残油の残留炭素分」
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「曇り点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「目詰まり点(CFPP)」
JIS K 2288:2000「石油製品-軽油-目詰まり点試験方法」に規定されている方法。
・「流動点(PP)」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「A重油組成物のワックス析出点並びにワックス析出量」
示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて以下の条件で測定したときに得られる測定チャートにおいて、検出された発熱ピークの補外開始温度をワックス析出点とし、検出された発熱ピークの熱量(J/g)からワックス析出量を求めた。
<測定装置>
示差走査熱量分析装置:(株)リガク製 DSCvesta
試料容器:アルミニウム製、容量50μl(開放型)
雰囲気:窒素 流量50ml/分
温度条件:室温から15℃まで5℃/分で冷却し、次いで、10℃まで3℃/分で冷却し5分間保した持後、3℃/分で-30℃まで冷却。
【0017】
本発明に係るA重油組成物は、
中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを含有し、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数3】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように含有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材は、炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が、0.020質量%以下(0.000~0.020質量%)であるものであり、 0.015質量%以下(0.000~0.015質量%)であることが適当であり、0.012質量%以下(0.000~0.012質量%)であることがより適当であり、0.000質量であることが一層適当である。
【0019】
なお、本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材において、炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素とは、炭素数29以上
60以下の直鎖状飽和炭化水素を意味する。
【0020】
本発明によれば、混合基材として、炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である、従来に比較して軽質な基材を主要な構成基材として含むものであるにも拘わらず、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を提供することができる。
【0021】
本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材は、中間留分基材を含む。
【0022】
本発明に係るA重油組成物において、中間留分基材としては、残炭調整剤と混合したときに炭素数が29以上である直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が上記範囲内にある混合基材を構成し得るものであれば特に制限されず、従来よりA重油組成物の構成基材として使用されてきた軽油基材、例えば、常圧蒸留装置より得られる直留灯油や、脱硫処理した直留灯油、常圧蒸留装置より得られる直留軽質軽油や、脱硫処理した直留軽質軽油、流動接触分解装置より得られる軽質サイクル油、 直接脱硫装置より得られる直脱軽油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0023】
中間留分基材が、二種以上の軽油基材からなるものである場合、得ようとするA重油組成物の物性(例えば、密度、蒸留性状、硫黄分含有量、動粘度等)が所望の特性を示すように、適宜選択し、所望量を混合した上で使用すればよい。
【0024】
本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材は、残炭調整剤を含む。
【0025】
本発明に係るA重油組成物において、残炭調整剤としては、中間留分基材と混合したときに炭素数が29以上である直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が上述した範囲内にある混合基材を構成し得るものであれば特に制限されず、従来よりA重油組成物の構成基材として使用されてきた残炭調整剤、例えば、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直接脱硫残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)等の残渣油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0026】
本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材は、中間留分基材を、98.0~99.9体積%含むものであることが好ましく、98.2~99.9体積%含むものであることがより好ましく、98.4~99.9体積%含むものであることがさらに好ましい。
また、本発明に係るA重油組成物を構成する混合基材は、残炭調整剤を、0.1~2.0体積%含むものであることが好ましく、0.1~1.8体積%含むものであることがより好ましく、0.1~1.6体積%含むものであることがさらに好ましい。
【0027】
本発明に係るA重油組成物は、混合基材を、99.000~99.800質量%含むものであることが好ましく、99.000~99.700質量%含むものであることがより好ましく、99.000~99.600質量%含むものであることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物は、混合基材を上記割合で含むものであることにより、A重油組成物として所望の特性(例えば、密度、蒸留性状、硫黄分含有量、動粘度等)を容易に発揮することができる。
【0028】
本発明に係るA重油組成物は、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材を含有する。
【0029】
本発明に係るA重油組成物において、直鎖状飽和炭化水素付与基材としては、石油精製処理して得られる炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)を含む留分や、試薬等であってもよいし、いわゆるバイオ燃料から得られるノルマルパラフィン系の留分や、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成から得られるノルマルパラフィン系の留分であってもよい。
このような直鎖状飽和炭化水素付与基材として、例えば、木質バイオマスをガス化炉に投入してHとCOを主成分とする合成ガス(Syngass)やCOを電解することにより得られる合成ガスを得た後、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応によって得られる炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を主成分として含む留分を挙げることができる。
【0030】
本発明に係るA重油組成物において、直鎖状飽和炭化水素付与基材は、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、90~100体積%含むものであることが好ましく、93~100体積%含むものであることがより好ましく、96~100体積%含むものであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明に係るA重油組成物は、直鎖状飽和炭化水素付与基材を、0.005~0.110質量%含むものであることが好ましく、0.005~0.100質量%含むものであることがより好ましく、0.005~0.090質量%含むものであることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物が、直鎖状飽和炭化水素付与基材を上記割合で含有するものであることにより、炭素数30~40の各直鎖状飽和炭化水素を、(後述するように)その合計含有量の規定や式(I)を満たすように容易に所望量含有することができる。
【0032】
本発明に係るA重油組成物は、低温流動性向上剤(CFI)を含有する。
本発明に係るA重油組成物において、低温流動性向上剤としては特に制限されず、従来公知のものを挙げることができる。
本発明に係るA重油組成物において、低温流動性向上剤としては、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体等のエチレン-飽和カルボン酸ビニルエステル共重合体、エチレン-エチレン性不飽和エステル共重合体に代表されるポリマー型添加剤や、長鎖ジカルボン酸アミドに代表される油溶性分散剤型添加剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0033】
また、本発明に係るA重油組成物において、低温流動性向上剤の含有量は、50~600質量ppmであることが好ましく、100~600質量ppmであることがより好ましく、150~600質量ppmであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明に係るA重油組成物は、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、後述するように、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を特定の関係を満たすように所望量含有するものであることにより、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制することができる。
【0035】
本発明に係るA重油組成物は、上述した低温流動性向上剤とともに、各種の添加剤が配合されたものであってもよい。
上記添加剤としては、A重油組成物に通常添加されるものであれば特に制限されず、流動点降下剤、スラッジ分散剤、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、防カビ剤、静電気防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
また、本発明に係るA重油組成物は、軽油引取税の観点よりクマリンが配合されたものであってもよい。
【0036】
本発明に係るA重油組成物は、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるものである。
【0037】
本発明に係るA重油組成物中における、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であることにより、低温流動性向上剤を添加することによるワックス結晶の微細化効果を容易に発揮することができる。
【0038】
本発明に係るA重油組成物において、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量は、0.005~0.110質量%であることが好ましく、0.005~0.100質量%であることがより好ましく、0.005~0.090質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明に係るA重油組成物中における、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が上記範囲内にあることにより、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を容易に分散、溶解し、ワックスの析出を抑制しつつ、フィルターの目詰まりを容易に抑制することができる。
【0040】
本発明に係るA重油組成物において、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量は、A重油組成物を構成する直鎖状飽和炭化水素付与基材や混合基材として適切なものを選択した上で、その混合量を調整することにより容易に制御することができる。
【0041】
本発明に係るA重油組成物は、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数4】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように含有するものである。
【0042】
上記式(I)は、本発明に係るA重油組成物中における、炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)と、炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の2倍量と、炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の20倍量との合計が0.110(質量%)以下であることを意味する。
【0043】
本発明に係るA重油組成物中において、炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)と、炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の2倍量と、炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の20倍量との合計は、0.005~0.110(質量%)であることが好ましく、0.010~0.105(質量%)であることがより好ましく、0.050~0.100(質量%)であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明に係るA重油組成物において、炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)と、炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の2倍量と、炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量(質量%)の20倍量との合計が、上記規定を満たすものであることにより、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を好適に溶解させた状態で、曇り点を3℃以上上昇させることなく、低温流動性向上剤(CFI)の添加効果を向上させ、目詰まり点を効果的に低減することができる。
【0045】
上述したように、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含むA重油組成物、すなわち、中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材を含むA重油組成物は、低温流動性向上剤を添加しても、ワックス結晶の成長阻害効果が低減してしまい、生成するワックス結晶を微細化し目詰まり点を向上することが困難であった。
【0046】
一方、本発明者等が検討したところ、上記A重油組成物に炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%~0.100質量%程度となるように添加した場合には、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことを見出すとともに、上記A重油組成物に炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素を0.100質量%程度を超えて添加した場合には、曇り点が3℃以上上昇したり目詰まり点を降下し得ないことを見出した。
また、上記A重油組成物に炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005~0.050質量%程度となるように添加した場合には、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことを見出すとともに、上記A重油組成物に炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素を0.050質量%程度を超えて添加した場合には、曇り点が3℃以上上昇したり目詰まり点を降下し得ないことを見出した。
さらに、上記A重油組成物に炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%程度添加した場合には、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことを見出すとともに、上記A重油組成物に炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素を0.005質量%程度を超えて添加した場合には、これを溶解し得ないことを見出した。
【0047】
本発明のA重油組成物は、上記知見に基づいて完成されたものであり、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が少なくとも0.005(質量%)であること、すなわち炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であることにより、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮し得るものである。
【0048】
また、本発明に係るA重油組成物は、炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素であれば0.100質量%程度まで、炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素であれば合計で0.050質量%程度まで、炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素であれば合計で0.005質量%程度まで含むことにより、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができ、本知見から、上記(I)式を満たす程度まで、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮し得ると考えられた。
【0049】
本発明に係るA重油組成物は、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が、0.0質量%を超え1.9質量%以下であるものが好ましく、0.0~1.7質量%であるものがより好ましく、0.0~1.5質量%以下であるものがさらに好ましい。
【0050】
本発明に係るA重油組成物は、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が上記範囲内にあることにより、ワックス析出点以下に温度が低下してもワックスの析出を継続的に抑制し、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制することができる。
【0051】
本発明に係るA重油組成物は、飽和分の含有割合が、45.0~80.0容量%であることが好ましく、50.0~75.0容量%であることがより好ましく、55.0~70.0容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物は、飽和分の含有割合が上記範囲内にあることにより、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材を容易に溶解、分散し、直鎖状飽和炭化水素付与基材の添加による低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を容易に発揮することができる。
【0052】
本発明に係るA重油組成物は、オレフィン分の含有割合が、0.0~3.0容量%であることが好ましく、0.0~2.0容量%であることがより好ましく、0.0~1.0容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物は、オレフィン分の含有割合が上記範囲内にあることにより、適度な酸化安定性を容易に発揮することができる。
【0053】
本発明に係るA重油組成物は、芳香族分の含有割合が、20~60容量%であることが好ましく、25~55容量%であることがより好ましく、30~50容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物は、芳香族分の含有割合が上記範囲内にあることにより、残炭調整剤を容易に溶解、分散することができる。
【0054】
本発明に係るA重油組成物は、曇り点が、-20~10℃であることが好ましく、-15~8℃であることがより好ましく、-10~5℃であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の曇り点が上記範囲内にあることにより、直鎖状飽和炭化水素付与基材の添加効果を効率的に引き出すことができる。
することができる。
【0055】
本発明に係るA重油組成物は、目詰まり点が、-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-15℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点が-5℃以下であることにより、冬季においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の目詰まり点は、通常は-40℃以上である。
【0056】
本発明に係るA重油組成物は、流動点が、-10.0℃以下であることが好ましく、-15.0℃以下であることがより好ましく、-20.0℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の流動点が-10.0℃以下であることにより、冬季の寒冷地においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の流動点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の流動点は、通常は-60.0℃以上である。
【0057】
本発明に係るA重油組成物は、15℃における密度が、0.810g/cm3~0.890g/cm3であることが好ましく、0.812g/cm3~0.888g/cm3であることがより好ましく、0.814g/cm3~0.886g/cm3であることがさらに好ましい。
A重油組成物の15℃における密度が上記範囲にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0058】
本発明に係るA重油組成物は、50℃における動粘度が、1.5 mm/秒~6.0mm/秒であることが好ましく、1.6mm/秒~5.9mm/秒であることがより好ましく、1.7mm/秒~5.8mm/秒であることがさらに好ましい。
本発明に係わるA重油組成物の50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、燃焼の不均一性及び失火を抑制することが可能となり、A重油組成物を安定して供給することが可能となる。
【0059】
本発明に係るA重油組成物は、硫黄分含有割合が、1.20質量%以下(0.00質量%~1.20質量%)であることが好ましく、1.10質量%以下(0.00質量%~1.10質量%)であることがより好ましく、1.00質量%以下(0.00質量%~1.00質量%)であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の硫黄分含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御して、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0060】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における10.0容量%留出温度が、140.0℃~240.0℃であることが好ましく、150.0℃~230.0℃であることがより好ましく、160.0℃~220.0℃であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における50.0容量%留出温度が、230.0℃~330.0℃であることが好ましく、240.0℃~320.0℃であることがより好ましく、250.0℃~310.0℃であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における90.0容量%留出温度が、300.0℃~390.0℃であることが好ましく、305.0℃~385.0℃であることがより好ましく、310.0℃~380.0℃であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明に係るA重油組成物は、10%残油の残留炭素分が、0.20質量%~1.00質量%であることが好ましく、0.20質量%~0.90質量%であることがより好ましく、0.20質量%~0.80質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の10%残油の残留炭素分が上記範囲にあることにより、税法上の規定を満たしつつ、スラッジの生成を好適に抑制することができる。
【0064】
本発明に係るA重油組成物は、引火点が、60.0℃以上であることが好ましく、70.0℃以上であることがより好ましく、80.0℃以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の引火点が60.0℃以上であることにより、より容易に取り扱うことが可能となる。
【0065】
本発明に係るA重油組成物は、後述する本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0066】
本発明によれば、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を提供することができる。
【0067】
次に、本発明に係るA重油組成物の製造方法について説明する。
本発明に係るA重油組成物の製造方法は、
中間留分基材および残炭調整剤を含む炭素数29以上の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.020質量%以下である混合基材と、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を含む直鎖状飽和炭化水素付与基材と、低温流動性向上剤とを、
得られるA重油組成物において、
炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、
前記炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、下記式(I)
【数5】
(ただし、nC(i)は、炭素数がiである直鎖状飽和炭化水素の含有量(質量%)を意味する。)
を満たすように混合する
ことを特徴とするものである。
【0068】
本発明に係るA重油組成物の製造方法において、中間留分基材、残炭調整剤および混合基材の詳細は上述したとおりであり、また、直鎖状飽和炭化水素付与基材の詳細も上述したとおりである。
本発明に係るA重油組成物の製造方法において、混合基材および直鎖状飽和炭化水素付与基材の好適な混合割合は、各々、上述した本発明に係るA重油組成物中の含有割合に対応し、その詳細は上述したとおりである。
また、本発明に係るA重油組成物の製造方法において、低温流動性向上剤の具体例は上述したとおりであり、その混合割合も上述した本発明に係るA重油組成物中の含有割合に対応し、その詳細は上述したとおりである。
【0069】
本発明に係るA重油組成物の製造方法において、混合基材、直鎖状飽和炭化水素付与基材および低温流動性向上剤は、得られるA重油組成物において、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素を、その合計含有量が特定範囲内にあり、かつ上記式(I)を満たすように混合する。
得られるA重油組成物における、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量や、上記式(I)の詳細も、上述したとおりである。
【0070】
本発明に係るA重油組成物の製造方法においては、上述した混合基材、直鎖状飽和炭化水素付与基材、低温流動性向上剤および必要に応じてその他の各種添加剤とを混合することにより目的とするA重油組成物を調製することができる。
この場合、上記混合基材、直鎖状飽和炭化水素付与基材、低温流動性向上剤および必要に応じて添加されるその他の各種添加剤の混合順序や混合方法は特に制限されない。
【0071】
本発明に係る製造方法において、得られるA重油組成物の組成や物性は、本発明に係るA重油組成物の説明で詳述したとおりである。
本発明に係る製造方法において、得られたA重油組成物における、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下であることが好ましい。
【0072】
本発明に係る製造方法において、得られるA重油組成物における、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が上記範囲内にあることにより、ワックス析出点以下に温度が低下した場合においてもワックスの析出を継続的に抑制し、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制することができる。
【0073】
本発明によれば、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として使用する場合であっても、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を簡便に製造する方法を提供することができる。
【実施例0074】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の代表的な例を示すもので、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
表中の分析値は上記各測定方法に基づいて測定した値である。また、「―」となっている項目は未測定ないし含有しないことを示す。
【0075】
以下の実施例および比較例においては、A重油組成物を構成する中間留分基材および残炭調整剤として以下に記載するものを採用した。各構成基材の物性および組成を表2-1~表2-3に示す。
【0076】
(中間留分基材)
・直留灯油
・直留軽油
・分解軽油
・水素化脱硫軽油
(残炭調整剤)
・常圧蒸留残渣油
【0077】
【表2-1】
【0078】
【表2-2】
【0079】
【表2-3】
【0080】
(混合基材A~混合基材Bの調製)
上記各基材を表3に記載する割合で混合することにより、混合基材A~混合基材Bを得た。
【0081】
【表3】
【0082】
(比較例1)
上記混合基材Aに対し、エチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動点向上剤を200質量ppmの濃度となるように混合することにより、A重油組成物を得た。
得られたA重油組成物の組成および物性を表4-1~表4-3に示す。
【0083】
(実施例1~実施例4、比較例2)
上記混合基材Aに対し、炭素数30の直鎖飽和炭化水素(n-C30)試薬を、各々、0.005質量%(実施例1)、0.010質量%(実施例2)、0.050質量%(実施例3)、0.100質量%(実施例4)、0.500質量%(比較例2)の含有割合となるように混合するとともに、低温流動点向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動点向上剤を、各々200質量ppmの濃度となるように混合することにより、各A重油組成物を得た。
得られた各A重油組成物の組成および物性を表4-1~表4-3に示す。
【0084】
【表4-1】
【0085】
【表4-2】
【0086】
【表4-3】
【0087】
(実施例5~実施例8、比較例3)
上記混合基材Aに対し、炭素数34の直鎖飽和炭化水素(n-C34)試薬を、各々、0.005質量%(実施例5)、0.010質量%(実施例6)、0.050質量%(実施例7)、0.100質量%(実施例8)、0.500質量%(比較例3)の含有割合となるように混合するとともに、低温流動性向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動性向上剤を、各々200質量ppmの濃度となるように混合することにより、各A重油組成物を得た。比較例3においては、室温で直鎖飽和炭化水素が溶け残り、各試験について測定できなかった。
得られた各A重油組成物の組成および物性を表5-1~表5-3に示す。
【0088】
【表5-1】
【0089】
【表5-2】
【0090】
【表5-3】
【0091】
(実施例9~実施例11、比較例4)
上記混合基材Aに対し、炭素数36の直鎖飽和炭化水素(n-C36)試薬を、各々、0.005質量%(実施例9)、0.010質量%(実施例10)、0.050質量%(実施例11)、0.100質量%(比較例4)の含有割合となるように混合するとともに、低温流動性向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動性向上剤を、各々200質量ppmの濃度となるように混合することにより、各A重油組成物を得た。
得られた各A重油組成物の組成および物性を表6―1~表6-3に示す。
【0092】
【表6-1】
【0093】
【表6-2】
【0094】
【表6-3】
【0095】
(実施例12、比較例5~比較例7)
上記混合基材Aに対し、炭素数40の直鎖飽和炭化水素(n-C40)試薬を、各々、0.005質量%(実施例12)、0.010質量%(比較例5)、0.050質量%(比較例6)、0.100質量%(比較例7)の含有割合となるように混合するとともに、低温流動性向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動性向上剤を、各々200質量ppmの濃度となるように混合したところ、実施例12においてはA重油組成物を得ることができたが、比較例5~比較例7においては炭素数40の直鎖飽和炭化水素が溶解せず、目的とするA重油組成物を得ることができなかった。
得られた各A重油組成物の組成および物性を表7-1~表7-3に示す。
【0096】
【表7-1】
【0097】
【表7-2】
【0098】
【表7-3】
【0099】
表4-1~表4-2より、比較例1のA重油組成物と比較した場合、炭素数30の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%~0.100質量%となるように含有させた実施例1~実施例4のA重油組成物は、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことが分かるとともに、上記A重油組成物に炭素数30の直鎖状飽和炭化水素を0.500質量%添加した場合には、曇り点が3℃以上上昇したり目詰まり点を降下し得ないことが分かる(比較例2)。
また、表4-1~表4-2より、実施例1~実施例4においては、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下であることにより、ワックス析出点以下に温度が低下してもワックスの析出を継続的に抑制し得るものであることが分かる。
【0100】
表5-1~表5-2より、比較例1のA重油組成物と比較した場合、炭素数34の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%~0.100質量%となるように含有させた実施例5~実施例8のA重油組成物は、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことが分かるとともに、上記A重油組成物に炭素数34の直鎖状飽和炭化水素を0.500質量%添加した場合には、これを溶解し得ないことが分かる(比較例3)。
また、表5-1~表5-2より、実施例5~実施例8においては、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下であることにより、ワックス析出点以下に温度が低下してもワックスの析出を継続的に抑制し得るものであることが分かる。
【0101】
表6-1~表6-2より、比較例1のA重油組成物と比較した場合、炭素数36の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%~0.050質量%となるように含有させた実施例9~実施例11のA重油組成物は、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことが分かるとともに、上記A重油組成物に炭素数36の直鎖状飽和炭化水素を0.100質量%添加した場合には、曇り点が3℃以上上昇することが分かる(比較例4)。
また、表6-1~表6-2より、実施例9~実施例11においては、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下であることにより、ワックス析出点以下に温度が低下してもワックスの析出を継続的に抑制し得るものであることが分かる。
【0102】
表7-1~表7-2より、比較例1のA重油組成物と比較した場合、炭素数40の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.005質量%となるように含有させた実施例12のA重油組成物は、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことが分かるとともに、上記A重油組成物に炭素数40の直鎖状飽和炭化水素を0.050質量%超添加した場合には、これを溶解し得ないことが分かる(比較例5~比較例7)。
また、表7-1~表7-2より、実施例12においては、ワックス析出点から-6℃低い温度におけるワックス析出量が0.0質量%を超え1.9質量%以下であることにより、ワックス析出点以下に温度が低下してもワックスの析出を継続的に抑制し得るものであることが分かる。
【0103】
これ等の結果から、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が少なくとも0.005(質量%)であることにより、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮し得ることが分かる。
【0104】
また、上記結果から、A重油組成物中に、炭素数30~34の直鎖状飽和炭化水素であれば0.100質量%まで、炭素数35~36の直鎖状飽和炭化水素であれば合計で0.050質量%まで、炭素数37~40の直鎖状飽和炭化水素であれば合計で0.005質量%まで含み得ること、すなわち、上記(I)式を満たすものであることにより、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮できるとみなし得ることが分かる。
【0105】
また、表4-3、表5-3、表6-3、表7-3より、実施例1~実施例12で得られた各A重油組成物は、A重油組成物として求められる各種特性を十分に満たすものであることが分かる。
【0106】
(比較例8)
上記混合基材Bに対し、低温流動点向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動点向上剤を200質量ppmの濃度となるように混合することにより、A重油組成物を得た。
得られたA重油組成物の組成および物性を表8-1~表8-3に示す。
【0107】
(実施例13)
上記混合基材Bに対し、炭素数30の直鎖飽和炭化水素(n-C30)試薬を0.010質量%の含有割となるように混合するとともに、低温流動点向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動点向上剤を200質量ppmの濃度となるように混合することにより、A重油組成物を得た。
得られたA重油組成物の組成および物性を表8-1~表8-3に示す。
【0108】
(実施例14)
上記混合基材Bに対し、炭素数36の直鎖飽和炭化水素(n-C36)試薬を0.010質量%の含有割となるように混合するとともに、低温流動点向上剤であるエチレン酢酸ビニル共重合体系の低温流動点向上剤を200質量ppmの濃度となるように混合することにより、A重油組成物を得た。
得られたA重油組成物の組成および物性を表8-1~表8-3に示す。
なお、表8―1~表8-3においては、比較のために、比較例1、実施例2および実施例6の組成および物性を併記する。
【0109】
【表8-1】
【0110】
【表8-2】
【0111】
【表8-3】
【0112】
表8-1~表8-2より、比較例8のA重油組成物と比較した場合、炭素数30の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.010質量%となるように含有させた実施例13のA重油組成物や、炭素数36の直鎖状飽和炭化水素を合計で0.010質量%となるように含有させた実施例14のA重油組成物は、曇り点を3℃以上上昇させることなく、目詰まり点を降下させることができる(低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮することができる)ことが分かる。
表8-1~表8-2に示すように、混合基材が異なる場合であっても、炭素数30~40の直鎖状飽和炭化水素の合計含有量が0.005質量%以上であるとともに、上記式(I)を満たすものであることにより、低温流動性向上剤によるワックス結晶の成長阻害効果を好適に発揮できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、従来に比較して軽質な中間留分基材を構成基材として含む場合であっても、低温流動性向上剤の使用量を抑制しつつ、製造コストの増大を招くことなく、ワックス結晶の成長によるフィルターの目詰まりを容易に抑制し得るA重油組成物を提供することができるとともに、A重油組成物の製造方法を提供することができる。