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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094780
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】産業用ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20230629BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20230629BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230629BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20230629BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230629BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
F16L11/08 A
C08L9/02
C08K3/26
C08K3/06
C08K3/36
B32B1/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210286
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517027686
【氏名又は名称】住友理工ホーステックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】野末 絢深
(72)【発明者】
【氏名】仲市 真吾
(72)【発明者】
【氏名】川井 皓一朗
(72)【発明者】
【氏名】小寺 孝典
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA13
3H111BA29
3H111BA34
3H111CB04
3H111CB14
3H111CC08
4F100AA08A
4F100AA25A
4F100AA37A
4F100AB17B
4F100AB18B
4F100AB31B
4F100AH01A
4F100AK27A
4F100AK28A
4F100AK29A
4F100AK73A
4F100AN00A
4F100BA02
4F100CA04A
4F100DA11
4F100DG01B
4F100EJ06A
4F100JK06
4F100YY00A
4J002AC011
4J002AC071
4J002AC081
4J002DA047
4J002DE236
4J002DJ018
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD147
4J002GC00
4J002GF00
4J002GL00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】ホースのワイヤー補強層とゴム層との層間において、ゴム層の物性を損なうことなく、しかも接着剤も使用せずに、高い層間接着性を示すことができる産業用ホースを提供する。
【解決手段】内面ゴム層1および外面ゴム層3の少なくとも一方の層が、下記の(A)~(C)成分を含有し、かつその(B)成分の割合が(A)成分100質量部に対し5~30質量部のジエン系ゴム組成物の加硫物からなるものであり、ワイヤー補強層2が、銅を含有するワイヤーからなる、産業用ホースとする。
(A)ジエン系ゴム。
(B)比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウム。
(C)硫黄。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のゴム層の内周面および外周面の少なくとも一方に、ワイヤー補強層が積層された層構造を有する産業用ホースであって、
前記ワイヤー補強層が、銅を含有するワイヤーからなり、
前記ゴム層が、下記の(A)~(C)を含有し、かつ(B)の割合が(A)100質量部に対し5~30質量部のジエン系ゴム組成物の加硫物からなる、産業用ホース。
(A)ジエン系ゴム。
(B)BET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウム。
(C)硫黄。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム(A)が、アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とするジエン系ゴムである、請求項1記載の産業用ホース。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム(B)が、BET比表面積が5.5m2/g以上の炭酸カルシウムである、請求項1または2記載の産業用ホース。
【請求項4】
前記ワイヤー補強層が、銅-亜鉛系合金メッキされたワイヤーからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の産業用ホース。
【請求項5】
前記ゴム層が、さらに下記の(D)を含有するジエン系ゴム組成物の加硫物からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の産業用ホース。
(D)シリカ。
【請求項6】
前記硫黄(C)が、不溶性硫黄を含む硫黄である、請求項1~5のいずれか一項に記載の産業用ホース。
【請求項7】
少なくとも前記ゴム層の外周面に対し前記ワイヤー補強層が積層された、請求項1~6のいずれか一項に記載の産業用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械(建機),鉱山(マイニング)機械向けの高圧油圧ホースや、自動車用のエンジンオイルホース等の、ワイヤー補強層を備えた各種高圧ホース等に用いられる、産業用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械,鉱山機械等に用いられる高圧油圧ホース等の産業用ホースは、高い内圧に耐えうるよう、通常、ワイヤー補強層が設けられている。
前記高圧油圧ホースの層構成としては、例えば、ゴム層である内層と外層との間にワイヤー補強層を有するものや、その内層と外層との間に、中間ゴム層とワイヤー補強層とを交互に複数積層して、ワイヤー補強層を中間ゴム層内に埋装するようにした層構成のもの等が採用されている。
【0003】
前記ワイヤー補強層を構成する金属ワイヤーには、防錆性を高めるため、通常、メッキが施された金属ワイヤーが用いられる。
また、ホースの耐久性を向上させるためには、前記のような金属ワイヤーを編組してなるワイヤー補強層と、これに接するゴム層とを強固に接着する必要がある。すなわち、ワイヤー補強層とゴム層との接着性が劣ると、ワイヤーが動いたり緩んだりするため、耐久性に悪影響を与えることとなるからである。
【0004】
前記のようにワイヤー補強層とゴム層とを強固に接着するには、通常、接着剤が用いられるが、この手法は製造工程が煩雑になる等の問題がある。
【0005】
接着剤を使用しない(接着剤レス)で前記ワイヤー補強層との接着性(剥離耐久性)を得るには、例えば、前記ワイヤー補強層を、黄銅(銅-亜鉛系合金)メッキがなされたワイヤー等の、銅を含有するワイヤーからなるものとし、前記ゴム層材料としてジエン系ゴム組成物を用い、そのゴム層材料中の加硫剤である硫黄とワイヤー補強層中の銅イオン(Cu)との化学結合によって、ワイヤー補強層との界面付近の部分のゴム層を硫化銅含有層とすることにより、ワイヤー補強層とゴム層の接着性を発現させる手法がある。
しかしながら、前記ゴム層の加硫反応中にワイヤー補強層からの銅イオンがゴム層全体に拡散してしまい、ワイヤー補強層との界面付近の部分のゴム層における銅イオン濃度が低下し、その結果、十分な接着性(剥離耐久性)が得られないという課題がある。
【0006】
そこで、良好な層間接着性を得るため、例えば、前記ゴム層材料中にフェノール樹脂や無水マレイン酸変性ポリマー等を加えたり、シリカ等の無機保水材を加えたり、前記ゴム層材料中の加硫促進剤を改良したりするといった手法が各種検討されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58-72436号公報
【特許文献2】特開2010-254876号公報
【特許文献3】特開2014-152311号公報
【特許文献4】国際公開第2014/175186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献に示されるような既存の手法では、ゴム硬度が上昇しすぎて耐疲労性の低下を招くといった問題や、タック性の上昇により作業性や製品外観に悪影響を及ぼすといった問題等、数多くの問題が生じる。
このことから、既存の手法とは異なる別の手法により、ゴム層の物性を損なうことなく、ワイヤー補強層に対する接着性の向上効果を得ることが望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ホースのワイヤー補強層とゴム層との層間において、ゴム層の物性を損なうことなく、しかも接着剤も使用せずに、高い層間接着性を示すことができる産業用ホースの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、先に述べたような、ワイヤー補強層との界面付近の部分のゴム層を硫化銅含有層とすることにより、ワイヤー補強層とゴム層の接着性を発現させる手法を再検討した。
この手法では、先に述べたように、ゴム層の加硫反応中にワイヤー補強層からの銅イオン(Cu)がゴム層全体に拡散してしまい、ワイヤー補強層との界面付近の部分のゴム層における銅イオン濃度が低下し、その結果、十分な接着性を示す硫化銅含有層を形成することができない問題があった。
そこで、本発明者らは、ゴム層材料中の添加剤により、銅イオンがゴム層全体に拡散してしまうのを抑制し、ワイヤー補強層付近のゴム層内に銅イオンを留めることにより、硫化銅によるワイヤー補強層とゴム層との接着性を高めるようにすることを検討した。
このことを具現化するため本発明者らが各種実験を重ねた結果、意外にも、ゴム層材料中に、BET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウムを特定量加えたところ、前記のような現象が実際に起こり、高い接着性を示す硫化銅含有層が形成されるようになることを突き止めた。また、前記のようにゴム層材料中にBET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウムを特定量加えても、ゴム層の物性を損なうことなく、しかも接着剤を使用せずに、ワイヤー補強層との間で高い層間接着性を示すようになることから、所期の目的が達成できることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を、その要旨とする。
[1] 管状のゴム層の内周面および外周面の少なくとも一方に、ワイヤー補強層が積層された層構造を有する産業用ホースであって、
前記ワイヤー補強層が、銅を含有するワイヤーからなり、
前記ゴム層が、下記の(A)~(C)を含有し、かつ(B)の割合が(A)100質量部に対し5~30質量部のジエン系ゴム組成物の加硫物からなる、産業用ホース。
(A)ジエン系ゴム。
(B)BET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウム。
(C)硫黄。
[2] 前記ジエン系ゴム(A)が、アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とするジエン系ゴムである、[1]に記載の産業用ホース。
[3] 前記炭酸カルシウム(B)が、BET比表面積が5.5m2/g以上の炭酸カルシウムである、[1]または[2]に記載の産業用ホース。
[4] 前記ワイヤー補強層が、銅-亜鉛系合金メッキされたワイヤーからなる、[1]~[3]のいずれかに記載の産業用ホース。
[5] 前記ゴム層が、さらに下記の(D)を含有するジエン系ゴム組成物の加硫物からなる、[1]~[4]のいずれかに記載の産業用ホース。
(D)シリカ。
[6] 前記硫黄(C)が、不溶性硫黄を含む硫黄である、[1]~[5]のいずれかに記載の産業用ホース。
[7] 少なくとも前記ゴム層の外周面に対し前記ワイヤー補強層が積層された、[1]~[6]のいずれかに記載の産業用ホース。
【発明の効果】
【0012】
本発明の産業用ホースは、そのワイヤー補強層とゴム層との層間において、ゴム層の物性を損なうことなく、接着剤も使用せずに、高い層間接着性を示すことができる。また、ワイヤー補強層からゴム層全体に銅イオンが拡散されるのが抑えられるため、それにより、ゴム層の劣化(銅害)を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の産業用ホースの一例を示す模式図である。
図2】ゴムとメッキワイヤーとの接着性評価における、剥離試験を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0015】
本発明の一実施形態である産業用ホース(以下、「本産業用ホース」という)は、先に述べたように、管状のゴム層の内周面および外周面の少なくとも一方に対し、ワイヤー補強層が積層された層構造を有するものであって、前記ワイヤー補強層が、銅を含有するワイヤーからなり、前記ゴム層が、下記の(A)~(C)を含有し、かつその(B)の割合が(A)100質量部に対し5~30質量部のジエン系ゴム組成物の加硫物からなるものである。
(A)ジエン系ゴム。
(B)BET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウム。
(C)硫黄。
【0016】
ここで、図1に示すホースは、内面ゴム層1の外周面に、ワイヤー補強層2が形成され、前記ワイヤー補強層2の外周面に、外面ゴム層3が形成されたものである。そのため、内面ゴム層1の外周面に対しワイヤー補強層2が積層された層構造であるとともに、外面ゴム層3の内周面に対しワイヤー補強層2が積層された層構造であるといえる。
図1に示すホースを本産業用ホースとするには、前記ワイヤー補強層2は、銅を含有するワイヤーとする必要がある。また、図1に示すホースを本産業用ホースとするには、内面ゴム層1および外面ゴム層3の少なくとも一方を、前記特定のジエン系ゴム組成物の加硫物からなる層とする必要がある。
そして、少なくとも内面ゴム層1を、前記特定のジエン系ゴム組成物の加硫物からなる層とすることにより(すなわち、少なくとも前記特定のジエン系ゴム組成物の加硫物からなるゴム層の外周面に対し前記ワイヤー補強層2が積層された層構造とすることにより)、内面ゴム層1が層間剥離により棚落ちしてホース内の流路を狭めさせる等といった問題が解消されるようになるため、好ましい。なお、外面ゴム層3も、前記特定のジエン系ゴム組成物の加硫物からなる層とすることが、層間接着性等の観点からより好ましい。
【0017】
つぎに、前記特定のジエン系ゴム組成物における各成分の詳細について、以下に説明する。
【0018】
《ジエン系ゴム(A)》
前記ジエン系ゴム(A)としては、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、耐油性が求められる場合は、NBRを主成分とするジエン系ゴム(NBRが50質量%以上のジエン系ゴム)が好ましく用いられ、より好ましくはNBRのみが用いられる。なお、耐摩耗性が求められる場合は、SBR、NRが好ましく用いられる。
そして、前記NBRは、ワイヤー補強層2に対する接着性の観点から、アクリロニトリル量(AN量)が10~33質量%のNBRであることが好ましく、より好ましくはAN量が10~28質量%のNBRである。すなわち、AN量が多過ぎると、加硫速度が速くなり、さらにはポリマー間の結合が強くなり硫黄が表面に溶出されにくくなるため、接着性の低下を生じるおそれがあり、AN量が少な過ぎると、初期物性が低くなるおそれがあるからである。
また、前記SBRは、ワイヤー補強層2に対する接着性の観点から、スチレン量が10~25質量%のSBRであることが好ましく、より好ましくはスチレン量が15~25質量%のSBRである。すなわち、スチレン量が多過ぎると、加硫速度が速くなり、さらにはポリマー間の結合が強くなり硫黄が表面に溶出されにくくなるため、接着性の低下を生じるおそれがあり、スチレン量が少な過ぎると、初期物性が低くなるおそれがあるからである。
【0019】
《炭酸カルシウム(B)》
前記炭酸カルシウム(B)としては、本発明の作用効果(銅イオンがゴム層全体に拡散してしまうのを抑制し、ワイヤー補強層2付近のゴム層内に銅イオンを留めることにより、硫化銅によるワイヤー補強層2とゴム層との接着性を高めるといった作用効果)の観点から、先に述べたように、BET比表面積が4.8m2/g以上の炭酸カルシウムが用いられる。同様の観点から、前記炭酸カルシウム(B)のBET比表面積は、5.5m2/g以上であることが好ましく、10m2/g以上であることがより好ましい。なお、前記炭酸カルシウム(B)のBET比表面積の上限は、通常、55m2/g以下であり、好ましくは40m2/g以下、より好ましくは30m2/g以下である。また、このような炭酸カルシウム(B)として、市販のものでは、白艶華CC,シルバーW,白艶華O(いずれも、白石カルシウム社製)等があげられる。
なお、前記炭酸カルシウム(B)のBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0020】
前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対する、前記炭酸カルシウム(B)の含有量は、先に述べた通り5~30質量部の範囲であり、好ましくは5~20質量部の範囲、より好ましくは10~20質量部の範囲である。すなわち、前記炭酸カルシウム(B)の含有量が少なすぎると、先に述べた本発明の作用効果が有利に得られず、前記炭酸カルシウム(B)の含有量が多すぎると、本発明の作用効果が阻害されるとともに、初期物性の低下や耐熱性の低下や加工性の悪化が見られるからである。
【0021】
《硫黄(C)》
前記硫黄(C)としては、先に述べた本発明の作用効果によるワイヤー補強層2との接着効果を有利に得る観点から、不溶性硫黄を含む硫黄が好ましい。
ここで、不溶性硫黄としては、例えば、μ硫黄、π硫黄、ω硫黄等の、ポリマー状の硫黄があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、前記のような不溶性硫黄は、具体的には、サンフェル(三新化学社製)、サンフェルEX(三新化学社製)等があげられる。
そして、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対する、前記不溶性硫黄の含有量は、好ましくは0.2~4.8質量部の範囲であり、より好ましくは0.5~4.5質量部の範囲である。
【0022】
なお、前記のような不溶性硫黄の他、必要に応じ、可溶性硫黄を用いることもできる。このように、不溶性硫黄と可溶性硫黄とを併用することにより、主にワイヤー補強層2との接着性に寄与する硫黄(不溶性硫黄)と、主にゴムの加硫に寄与する硫黄(可溶性硫黄)とが、各々の機能を十分に発揮させることができるようになる。
ここで、前記可溶性硫黄としては、例えば、α硫黄、β硫黄、γ硫黄、λ硫黄等の、環状構造を有する硫黄があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、前記のような可溶性硫黄は、具体的には、サルファックスT-10(鶴見化学工業社製)、金華印微粉硫黄(鶴見化学工業社製)、粉末硫黄S(細井化学工業社製)等があげられる。
そして、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対する、前記可溶性硫黄の含有量は、好ましくは0.2~4.8質量部の範囲であり、より好ましくは0.5~4.5質量部の範囲である。
【0023】
なお、本発明において、不溶性硫黄とは、二硫化炭素に対して90質量%以上不溶性を示す硫黄のことをいい、好ましくは95質量%以上の不溶性を、より好ましくは98質量%以上の不溶性を示すものをいう。また、可溶性硫黄とは、二硫化炭素に対して、99.5質量%以上の可溶性を示す硫黄のことをいい、好ましくは99.9質量%以上の可溶性を、より好ましくは100質量%の可溶性を示すものをいう。
【0024】
そして、これらの硫黄(C)の合計量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、好ましくは1.0~6.0質量部の範囲であり、より好ましくは1.0~5.0質量部の範囲である。すなわち、このような範囲であると、先に述べた本発明の作用効果が有利に得られ、高い層間接着性を示すとともに、ゴム層の加硫等が良好になされるようになるからである。
【0025】
なお、前記特定のジエン系ゴム組成物には、前記(A)~(C)以外に、シリカ(D)、カーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、加硫促進剤、可塑剤、粘着付与剤、老化防止剤、難燃剤、スコーチ防止剤等の任意材料を必要に応じて配合しても差し支えない。
【0026】
前記特定のジエン系ゴム組成物にシリカ(D)を含有させると、ワイヤーとの親和性が向上するようになるため、好ましい。
前記シリカ(D)の含有量は、ワイヤーとの親和性がより向上する観点から、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、5~15質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~10質量部の範囲である。
【0027】
前記カーボンブラックの含有量は、補強性の観点から、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、40~150質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは60~130質量部の範囲である。
【0028】
前記特定のジエン系ゴム組成物は、例えば、前記(A)~(C)成分、および、必要に応じて前記のような各種の任意材料を適宜に配合し、これらをニーダー,ロール,バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0029】
ここで、図1に示す本産業用ホースは、その内面ゴム層1形成用のゴム組成物および外面ゴム層3形成用のゴム組成物の少なくとも一方に前記特定のジエン系ゴム組成物を用い、例えばつぎのようにして作製することができる。
すなわち、まず、押出成形機を用いて、前記内面ゴム層1形成用のゴム組成物をマンドレル上に押出成形する。つぎに、この内面ゴム層1の外周面に、銅を含有するワイヤーを、ブレード状やスパイラル状に編み組みしてワイヤー補強層2を成形する。その後、前記ワイヤー補強層2の外周面に、外面ゴム層3形成用のゴム組成物を押出成形する。このようにして得られた積層体を、最後に、所定の条件(例えば、140~170℃×10~60分間)で加硫(スチーム加硫等)することにより、前記図1に示したような層構造の産業用ホースを作製することができる。
【0030】
前記ワイヤー補強層2に用いられる、銅を含有するワイヤーとしては、銅製のワイヤーの他、鉄やスチールからなるワイヤーに銅メッキや黄銅(銅-亜鉛系合金)メッキがされたもの等が用いられる。なかでも、黄銅メッキされたワイヤーが、柔軟性、強度等の観点から好ましい。
また、前記ワイヤーの直径は、通常、0.15~1.00mmの範囲、好ましくは0.20~0.80mmの範囲のものが用いられる。
【0031】
なお、本産業用ホースは、図1に示したような層構造に限定されるものではなく、例えば、前記特定のジエン系ゴム組成物からなるゴム層とワイヤー補強層2とを交互に多数積層した構造のものや、さらに、これらの層構造に加え、前記特定のジエン系ゴム組成物とは異なる材料からなる最内層や最外層を積層した構造であっても差し支えない。
【0032】
前記のように、前記特定のジエン系ゴム組成物とは異なる材料からなる最内層を設ける場合、その材料としては、耐油性等に優れたゴムが好ましく、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリレートゴム(AEM)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、フッ素ゴム(FKM)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、耐油性、強度、コストの点から、NBRが好ましい。
また、前記最内層形成用のゴム組成物には、NBR等のゴム以外に、補強材(カーボンブラック等)、白色充填材、可塑剤、ステアリン酸、亜鉛華、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0033】
また、前記のように、前記特定のジエン系ゴム組成物とは異なる材料からなる最外層を設ける場合、その材料としては、耐候性に優れたゴムが好ましく、例えば、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム(EPDM)、SBRとEPDMのブレンドゴム、NBRとEPDMのブレンドゴム、NBRと塩化ビニル(PVC)のブレンドゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリレートゴム(AEM)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、耐候性、コスト、耐油性の点から、CRが好ましい。
また、前記最外層形成用のゴム組成物には、CR等のゴム以外に、補強材(カーボンブラック等)、白色充填材、可塑剤、ステアリン酸、亜鉛華、受酸剤(高活性化マグネシウム、ハイドロタルサイト等)、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0034】
本産業用ホースにおいて、ホース内径は、通常、5~85mmの範囲であり、好ましくは6~80mmの範囲である。
【0035】
また、前記内面ゴム層1の厚みは、通常、0.7~4.0mmの範囲であり、好ましくは1.0~3.0mmの範囲である。前記外面ゴム層3の厚みは、通常、0.5~2.5mmの範囲であり、好ましくは0.8~2.0mmの範囲である。
【0036】
本産業用ホースは、建設機械(建機),鉱山(マイニング)機械,産業車両(フォークリフト、無人搬送車等)向けの高圧油圧ホースや、自動車用のエンジンオイルホース等の、ワイヤー補強層を備えた各種オイル輸送用ホース等に用いることができる。
【実施例0037】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0038】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、下記に記載の炭酸カルシウムのBET比表面積は、先に述べた測定方法により測定されたものである。
【0039】
[NBR]
ニポールDN302(AN量:27.5質量%)、日本ゼオン社製
【0040】
[SBR]
#1500(スチレン量:23.5質量%)、住友化学社製
【0041】
[NR]
RSS#3
【0042】
[炭酸カルシウム(i)]
白艶華CC、白石カルシウム社製、BET比表面積:26.0m2/g
【0043】
[炭酸カルシウム(ii)]
シルバーW、白石カルシウム社製、BET比表面積:5.5m2/g
【0044】
[炭酸カルシウム(iii)]
白艶華O、白石カルシウム社製、BET比表面積:55m2/g
【0045】
[炭酸カルシウム(iv)]
ホワイトンP-30、白石カルシウム社製、BET比表面積:3.4m2/g
【0046】
[不溶性硫黄]
サンフェル、三新化学社製
【0047】
[可溶性硫黄]
サルファックスT-10、鶴見化学工業社製
【0048】
[シリカ]
ニップシールVN-3、東ソーシリカ社製
【0049】
〔実施例1~10、比較例1~5〕
後記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、さらに、酸化亜鉛(酸化亜鉛2種、堺化学社製)を5質量部と、ステアリン酸(ルナックS-70V、花王社製)を1質量部と、老化防止剤(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)を2質量部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)を80質量部と、可塑剤を10質量部と、スルフェンアミド系促進剤(サンセラーCZ、三新化学社製)を2質量部とを配合し、これらを、3Lニーダーを用いて混練りして、ゴム組成物を調製した。
なお、NBRをポリマーとするゴム組成物に対しては、前記可塑剤としてエーテルエステル系可塑剤(アデカサイザーRS-107、ADEKA社製)を用い、SBRをポリマーとするゴム組成物に対しては、前記可塑剤としてアロマ系オイル(ダイアナプロセスAC-12、出光昭和シェル社製)を用い、NRをポリマーとするゴム組成物に対しては、前記可塑剤としてパラフィンオイル(ダイアナプロセスNM-280、出光興産社製)を用いた。
つぎに、産業用ホースにおけるゴム層とワイヤー補強層との接着性を評価するため、前記ゴム組成物を用い、以下の基準に従い、ワイヤーとの加硫接着試料を作成し、接着性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0050】
≪接着性≫
前記ゴム組成物を用いて、未加硫状態のゴムシート(100mm×100mm、厚み2mm)を作製し、このゴムシートの上に、1本のメッキワイヤー(線径0.4mm、長さ300mm)を置いた。これを、面圧2MPaで、150℃で60分間プレス加硫することにより、加硫接着試料を作製した(図2参照)。
そして、図2に示す加硫接着試料において、ゴム11と、メッキワイヤー12をチャックし、JIS K 6256のT型剥離試験に準拠して、メッキワイヤー12を矢視X方向に剥離し、メッキワイヤー12表面におけるゴム11の付着率を、目視により測定した。
なお、前記メッキワイヤー12としては、後記の表1および表2に記載の「ワイヤーのメッキ種類」に記載のメッキがなされたワイヤー、すなわち、Cu/Zn(Cu/Zn=65質量%/35質量%の黄銅メッキ)、Cu(銅メッキ)、Ni(ニッケルメッキ)のいずれかのメッキがなされたスチールワイヤーを使用した。
そして、メッキワイヤー12表面のゴム11の付着率に対し、下記の基準に従い評価することにより、接着性の評価を行った。
○:付着率が80%以上
△:付着率が50%以上80%未満
×:付着率が50%未満
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
前記表1および表2の結果から、実施例の加硫接着試料は、メッキワイヤー表面のゴムの付着率が高いことから、ゴムとメッキワイヤーとの接着性に優れることが認められた。
また、図1に示す層構成の産業用ホースにおいて、その内面ゴム層1および外面ゴム層3の少なくとも一方の層の形成材料に、実施例で使用のゴム組成物を用い、かつ、ワイヤー補強層2に使用のワイヤーに、実施例で使用のメッキワイヤーを用いたところ、接着剤レスであっても、実施例で使用のゴム組成物を用いたゴム層とワイヤー補強層との強固な接着がなされ、産業用ホースとして優れた性能を示すものとなった。
【0054】
これに対し、比較例1は、ゴム中の炭酸カルシウムのBET比表面積が本発明の規定を満たさないこと以外は実施例2と同様の条件であるが、所望の接着性が得られない結果となった。比較例2~4は、ゴム中の炭酸カルシウムの含有量が本発明の規定を満たさないこと以外は実施例2と同様の条件であるが、所望の接着性が得られない結果となった。比較例5は、メッキワイヤーとしてニッケルメッキワイヤーを使用している(つまり、銅を含有するワイヤーを用いていない)こと以外は実施例1や実施例2と同様の条件であるが、所望の接着性が得られない結果となった。
このことから、ゴム中の炭酸カルシウムそのものが接着性を付与するものとして機能したのではないことは明らかである。そして、本発明に規定のゴム層材料とワイヤー補強層材料との組み合わせを満たさないと、両層の界面に強い接着性を示す層(硫化銅含有層)が形成されず、所望の接着性が得られないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の産業用ホースは、建設機械(建機),鉱山(マイニング)機械,産業車両(フォークリフト、無人搬送車等)向けの高圧油圧ホースや、自動車用のエンジンオイルホース等の、ワイヤー補強層を備えた各種オイル輸送用ホース等に用いることができる。
図1
図2