(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094793
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法、睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置、及び睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキット
(51)【国際特許分類】
A61B 5/087 20060101AFI20230629BHJP
A61B 5/097 20060101ALI20230629BHJP
A61M 16/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61B5/087
A61B5/097
A61M16/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210303
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隼人
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊貴
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS04
4C038SS09
4C038ST09
4C038SX07
4C038SX09
(57)【要約】
【課題】睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出するための方法の提供。
【解決手段】被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供すること、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定すること、及び前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較することを含む、睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供すること、
前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定すること、及び
前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較することを含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法。
【請求項2】
前記測定が、前記被験者の呼気流量に基づいて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報の測定であって、前記経時変化に関する情報が、陰圧吸引提供時から、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、規定の呼気流量に回復するまでの時間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記規定の呼気流量に回復するまでの時間が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量の45%~85%まで回復する時間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記規定の呼気流量に回復するまでの時間が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量の65%~75%まで回復する時間である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報の測定であって、前記経時変化に関する情報が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復するときの回復速度である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報の測定であって、前記上気道の断面積に関する情報が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復した後のピーク呼気流量である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
さらに、被験者の口元圧力を測定することを含む、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記口元圧力の測定が、(i)前記陰圧吸引の提供後、前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することと同時に、(ii)前記陰圧吸引の提供後且つ前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は前記上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することの前に、又は(iii)前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することの後且つ前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較することの前になされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記口元圧力が、陰圧吸引の提供の開始から、0ミリ秒~200ミリ秒間で測定される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記睡眠時無呼吸症候群が、閉塞性睡眠時無呼吸症候群である、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記陰圧吸引の提供における陰圧の値が、-2.5キロパスカル~-0.5キロパスカルである、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供する陰圧提供部、
前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定する測定部、及び
前記測定部の測定結果の値と、予め定められた基準値とを比較する比較部を含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置、及び
被験者インターフェイスを含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法、睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置、及び睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に無呼吸と低呼吸とを繰り返す疾患のことであり、睡眠時に上気道が狭窄することにより発生し、首喉まわりの脂肪沈着や扁桃肥大の他、筋弛緩によって舌根部や軟口蓋が咽頭に落ち込み、気道が閉塞することにより生じる。
【0003】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の基本的な病態生理は、睡眠中に出現する上気道(特に、咽頭部)の狭窄・閉塞であり、これが10秒以上持続したときに無呼吸と定義される。ヒトは通常、仰臥位で就寝するが、このとき、重力の影響を受け口蓋垂、舌根部が沈下するため上気道は狭小化する。睡眠状態に入ると上気道を構成している筋群(例えば、オトガイ舌筋などの上気道拡大筋群)が活動性を失い弛緩するため、上気道はさらに狭小化する。一般的に、上気道に形態学的・機能的異常のない健常者では、この程度の上気道の狭小化は呼吸に大きな影響を及ぼさないとされている。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者では、上気道の形態学的あるいは機能的な異常により睡眠中に容易に上気道が狭窄・閉塞し、無呼吸が出現する。
【0004】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療及び診断は、例えば、以下の通りに実施されている。
【0005】
尚、非特許文献1にて報告されている通り、910名を対象とした疫学調査において、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者は、男性3.3%、女性0.5%であり、この結果から推定される全体の患者数は約200万人である。その一方で、非特許文献1では、治療の対象となる閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者の85%以上が未診断であるとも報告されている。
【0006】
従って、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断の啓発・普及が求められている。
【0007】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療は、通常、経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal CPAP:nasal Continuous Positive Airway Pressure)などによって行われている。具体的には、夜間、CPAP療法に用いられる加圧空気発生装置(CPAP装置)から加圧空気をエアチューブ、鼻マスクを介して気道に供給することで気道を開存させることにより、睡眠時の無呼吸の発生を抑制することによりなされる。
【0008】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断は、通常、夜間睡眠時に実施する簡易型睡眠呼吸モニターやポリソムノグラフィーなどによって行われている。具体的には、10秒以上呼吸が停止する場合を無呼吸、換気量が通常の50%以下に低下した状態が10秒以上続く場合を低呼吸と呼び、この無呼吸及び低呼吸の1時間当たりの回数で表される無呼吸低呼吸指数(AHI:apnea hypopnea index)に基づき診断がなされている。
【0009】
一方、近年、呼気と同時に陰圧吸引を提供(負荷)した際の呼気流量から閉塞性睡眠時無呼吸症候群を検出する方法(NEP法:Negative Expiratory Pressure法)が、非特許文献2等で提案されている。具体的には、非特許文献2では、陰圧吸引中の呼気流量におけるピーク呼気流量からの低下割合、即ち、陰圧吸引の提供開始時から約200ミリ秒間の呼気流量を検出し、その低下の程度を評価することによりなされる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Circulation Journal Vol. 74, Suppl. II,2010:963-1051「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」
【非特許文献2】CLINICS 2011;66(4):567-572「Upper airway collapsibility evaluated by a negative expiratory pressure test in severe obstructive sleep apnea」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献2の手法は、精度(感度、特異度、判別能等)の面で問題を有している。その一例を挙げるとすると、非特許文献2の手法では、陰圧吸引を提供(負荷)した際の呼気流量の低下割合に基づくものであるため、偽陽性を引き起こしてしまうという問題を有している。より具体的には、非特許文献2の手法では、陰圧吸引を提供(負荷)したことにより、睡眠時無呼吸症候群の原因である舌(舌根部)や軟口蓋の咽頭への落ち込みによる気道の狭小化が起こらず、舌(舌根部)や軟口蓋の変形による気道の狭小化が発生してしまうことがある。そして、当該変形によって、健常者であるにも拘らず呼気流量の低下が生じてしまうため、陰圧吸引を提供(負荷)した際の呼気流量の低下割合を評価している非特許文献2の手法では、偽陽性を引き起こしてしまうという問題を有している。
【0012】
本発明の課題は、睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出するための方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
[1]
被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供すること、
前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定すること、及び
前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較することを含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法。
[2]
前記測定が、前記被験者の呼気流量に基づいて測定される、[1]に記載の方法。
[3]
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報の測定であって、前記経時変化に関する情報が、陰圧吸引提供時から、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、規定の呼気流量に回復するまでの時間である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記規定の呼気流量に回復するまでの時間が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量の45%~85%まで回復する時間である、[3]に記載の方法。
[5]
前記規定の呼気流量に回復するまでの時間が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量の65%~75%まで回復する時間である、[3]に記載の方法。
[6]
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報の測定であって、前記経時変化に関する情報が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復するときの回復速度である、[1]又は[2]に記載の方法。
[7]
前記測定が、上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報の測定であって、前記上気道の断面積に関する情報が、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復した後のピーク呼気流量である、[1]又は[2]に記載の方法。
[8]
さらに、被験者の口元圧力を測定することを含む、[1]~[7]の何れか一つに記載の方法。
[9]
前記口元圧力の測定が、(i)前記陰圧吸引の提供後、前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することと同時に、(ii)前記陰圧吸引の提供後且つ前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することの前に、又は(iii)前記上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することの後且つ前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較することの前になされる、[8]に記載の方法。
[10]
前記口元圧力が、陰圧吸引の提供中、0ミリ秒~200ミリ秒間で測定される、[8]又は[9]に記載の方法。
[11]
前記睡眠時無呼吸症候群が、閉塞性睡眠時無呼吸症候群である、[1]~[10]の何れか一つに記載の方法。
[12]
前記陰圧吸引の提供における陰圧の値が、-2.5キロパスカル~-0.5キロパスカルである、[1]~[11]の何れか一つに記載の方法。
[13]
被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供する陰圧提供部、
前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定する測定部、及び
前記測定部の測定結果の値と、予め定められた基準値とを比較する比較部を含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置。
[14]
[13]に記載の装置、及び
被験者インターフェイスを含む、
睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】FRT、FRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%を説明するための図である。
【
図2】Vr_angleを説明するための図である。
【
図4】被験者の口元圧力の測定を説明するための図である。
【
図5】被験者の口元圧力の測定を説明するための図である。
【
図6】被験者の口元圧力の測定を説明するための図である。
【
図7】FRTと、口元圧力とを組み合わせた場合の本発明にかかる測定工程及び比較工程を説明するための図である。
【
図8】本発明の補助装置の構成(システム)を示す図である。
【
図9】NEP法の原理について説明するための図である。
【
図10】実施例1において、FRT50%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図11】実施例1において、FRT60%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図12】実施例1において、FRT70%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図13】実施例1において、FRT80%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図14】実施例2において、Vr_angleを用いた場合の結果を示す図である。
【
図15】実施例3において、SEPを用いた場合の結果を示す図である。
【
図16】比較例1において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【
図17】比較例1において、ΔVドットについてのROC-AUC解析の結果を示す図である。
【
図18】実施例5において、特殊な呼気流量パターン有する被験者を説明するための図である。
【
図19】実施例5において、特殊な呼気流量パターン有する被験者を説明するための図である。
【
図20】実施例5において、実験手法を説明するための図(フローチャート)である。
【
図21】実施例6において、FRT50%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図22】実施例6において、FRT60%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図23】実施例6において、FRT70%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図24】実施例6において、FRT80%を用いた場合の結果を示す図である。
【
図25】実施例7において、SEPを用いた場合の結果を示す図である。
【
図26】比較例2において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【
図27】比較例2において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【
図28】比較例2において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【
図29】比較例2において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【
図30】比較例2において、ΔVドットを用いた場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法>
本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助する方法(以下、本発明の補助方法と略記する場合がある)は、被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供すること(以下、本発明にかかる陰圧提供工程と略記する場合がある)、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定すること(以下、本発明にかかる測定工程と略記する場合がある)、及び前記測定の結果の値と、予め定められた基準値とを比較すること(以下、本発明にかかる比較工程と略記する場合がある)を含む。
【0017】
以下、その詳細について説明する。
[本発明にかかる睡眠時無呼吸症候群]
本発明の補助方法における睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に無呼吸と低呼吸とを繰り返す疾患のことであり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群、混合型睡眠時無呼吸症候群等の公知のものが含まれる。本発明の補助方法においては、上記した中でも、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が好ましい。
[本発明にかかる陰圧提供工程]
本発明にかかる陰圧提供工程は、被験者に対して陰圧吸引を提供することによりなされる。
【0018】
本発明にかかる陰圧提供工程における被験者としては、ヒトであれば特に限定はされないが、例えば、睡眠時無呼吸症候群の検査を希望するヒト、睡眠時無呼吸症候群に罹患していることが疑われるヒト等が挙げられる。
【0019】
本発明にかかる陰圧提供工程における陰圧の値としては、通常この分野で行われるものであれば何れでもよいが、通常-2.5キロパスカル~-0.5キロパスカルであり、本発明の補助方法をより精度よく実施できるという観点から、-2.0キロパスカル~-1.0キロパスカルが好ましい。
【0020】
尚、上記陰圧とは、外部の圧力も低い圧力のことを意味しており、本発明においては、例えば、大気圧よりも低い圧力のことを意味する。
【0021】
本発明にかかる陰圧提供工程においては、本発明の補助方法の正確性の観点から、被験者に対して陰圧吸引をおよそ1秒間提供することが好ましい。また、本発明にかかる陰圧提供工程において、被験者に対して陰圧吸引を提供するタイミングとしては、被験者の呼吸が吸気相から呼気相へと切り替わるタイミングが好ましい。かかるタイミングで陰圧吸引を提供することにより、被験者の喉等に余計な力が生じず、被験者に対してより正確に陰圧吸引を提供することができるためである。
【0022】
本発明にかかる陰圧提供工程における陰圧吸引を提供する(被験者の)部位としては、被験者の口腔又は鼻腔が挙げられ、被験者の要望や状態等を考慮して、適宜選択することができる。このように被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供することにより、実質的に、被験者の上気道を陰圧状態にすることができる。
【0023】
本発明にかかる陰圧提供工程において、被験者に対して陰圧吸引を提供する方法としては、通常この分野で行われている方法を適宜採用することができる。ここでは、以下の通り、被験者の口腔に陰圧吸引を提供する場合の具体例を説明する。
【0024】
即ち、先ず、被験者に対してマウスピース等の口腔挿入具(例えば、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピースMOU9029:ミナト医科学株式会社、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピース:アズワン株式会社、シリコンマウスピースHF-M-2:フクダ電子株式会社等)を装着する。次いで、当該口腔挿入具と流量計(例えば、マスフローメーターSFM3000:センシリオン株式会社等)とを接続させ、さらに、当該流量計と流量増幅器(例えば、エア・セーバーTS-440:東浜工業株式会社等)とを接続させる。一方、コンプレッサー(例えば、COMPRESSOR AC0920-A1032-A6-0001:日東工器株式会社等)で生成した高圧空気を減圧弁(例えば、REGULATOR:株式会社日本ピスコ等)により所定の圧に減圧する。そして、減圧弁により得た圧を、上記流量増幅器に流入することにより、陰圧が生成され、且つ被験者に陰圧吸引が提供される。
【0025】
尚、上記具体例では、被験者の口腔に陰圧吸引を提供する具体例を記載したが、被験者の鼻腔に陰圧吸引を提供する場合にも、通常この分野で行われている方法を適宜採用することができる。具体的には、上記具体例におけるマウスピース等の口腔挿入具にかえて鼻マスク(例えば、AirFit N20マスク:レスメド株式会社等)を用いることにより実施することができる。
[本発明にかかる測定工程]
本発明にかかる測定工程は、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することを含むものである。
【0026】
本発明にかかる測定工程における、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報とは、被験者に対する陰圧吸引中、上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)が閉塞した後、上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)がそのまま閉塞している時、或いは上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)が閉塞から開放に向けて開放している時の上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)の開放率(即ち、前記上気道の断面積)の経時的変化に関する情報である。
【0027】
尚、上記開放率については、例えば、被験者に対して陰圧吸引を提供してから約10ミリ秒~15ミリ秒における被験者の上気道の断面積の最大値を100%とした時の値とすることができる。
【0028】
本発明にかかる測定工程における、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報とは、被験者に対する陰圧吸引中、上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)が閉塞した後、上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)が開放した後の上気道(即ち、中咽頭、軟口蓋)の断面積の値に関するものである。
【0029】
本発明にかかる測定における、上記前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報については、陰圧吸引の提供中の被験者の呼気流量に反映されるため、測定の簡便性等の観点から、被験者の呼気流量に基づいて間接的にこれらを測定することが好ましい。
【0030】
以下に、上記の(i)上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び(ii)上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報についてそれぞれ説明する。
(i)上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報
上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報としては、以下の(i’)及び(i’’)が挙げられ、それぞれ以下の通りに説明する。
【0031】
(i’)陰圧吸引提供時から、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、規定の呼気流量に回復するまでの時間
陰圧吸引提供時から、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、規定の呼気流量に回復するまでの時間(以下、FRT:Flow Recovery Timeと略記する場合がある)とは、被験者に陰圧吸引を提供した時から、当該陰圧吸引の提供に起因して、陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、規定の呼気流量(以下、回復目標値と表記する場合がある)に回復するまでに要する時間を意味する。
【0032】
上記回復目標値としては、具体的には、例えば、陰圧吸引提供中(直後)のピーク呼気流量を100%とした場合の50%~90%の呼気流量が挙げられ、より具体的には、陰圧吸引提供中(直後)のピーク呼気流量を100%とした場合の50%の呼気流量(以下、FRT50%と表記する場合がある)、陰圧吸引提供中(直後)のピーク呼気流量を100%とした場合の60%の呼気流量(以下、FRT60%と表記する場合がある)、陰圧吸引提供中(直後)のピーク呼気流量を100%とした場合の70%の呼気流量(以下、FRT70%と表記する場合がある)、陰圧吸引提供中(直後)のピーク呼気流量を100%とした場合の80%の呼気流量(以下、FRT80%と表記する場合がある)が挙げられ、睡眠時無呼吸症候群の有無をより高精度に検出できるという観点から、FRT70%がより好ましい。
【0033】
尚、上記FRT並びに上記FRT50%、FRT60%、FRT70%及びFRT80%については、
図1にもその概要及び詳細を示す。
(i’’)陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復するときの回復速度
陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復するときの回復速度(以下、Vr_angle:Volume Recovery Angleと表記する場合がある)とは、被験者に陰圧吸引を提供した後、陰圧吸引の提供後のピーク呼気流量に対して一度呼気流量が低下した時の呼気流量の最低値から、その後、呼気流量が回復した時の呼気流量の最高値までに到達する時間において、複数の一定時間毎の呼気流量の回復の傾きの値を測定した時の最大値のことを意味する。具体的には、例えば、陰圧吸引の提供を開始した後、例えば、200ミリ秒後に上記最低値Pを記録し、陰圧吸引の提供を開始した後、例えば、400ミリ秒後に上記最高値Qを記録した場合において、当該最低値Pから当該最高値Qまでに要した時間(本例でいうと200ミリ秒)における複数の一定時間毎(例えば、30ミリ秒毎)の呼気流量の回復の傾きを測定した時の最大値を意味する。より具体的には、上記30ミリ秒の区間の最初(200ミリ秒)と最後(230ミリ秒)の呼気流量の差を測定し、上記区間(30ミリ秒)で除することにより、上記傾きを測定し、次いで、当該区間を1ミリ秒毎にずらすことにより複数の傾きを測定し、得られた測定結果の中での最大値のことを意味する。
【0034】
尚、上記Vr_angleについては、
図2において、その概要及び詳細を示す。
(ii)上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報の具体例をそれぞれ説明する。
【0035】
上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報としては、以下の(ii’)が挙げられ、以下の通りに説明する。
【0036】
(ii’)陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復した後のピーク呼気流量
陰圧吸引提供中のピーク呼気流量に対して呼気流量が低下した後、呼気流量が回復した後のピーク呼気流量(以下、SFP(Second Flow Peak)と略記する場合がある)とは、被験者に陰圧吸引を提供した後、陰圧吸引の提供後のピーク呼気流量に対して一度呼気流量が低下した後、再度呼気流量が回復した時の呼気流量のピーク値(即ち、最高値)のことを意味する。
【0037】
尚、上記SFPについては、
図3にもその概要及び詳細を示す。
【0038】
本発明にかかる測定工程において、上記FRT、Vr_angle、及びSFPを測定する手法としては、通常この分野で行われている自体公知の手法によりなされればよく、具体的には、例えば、市販の流量計を利用した方法によりなされればよい。
【0039】
上記流量計を利用した方法とは、被験者にマウスピース等の口腔挿入具(例えば、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピースMOU9029:ミナト医科学株式会社、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピース:アズワン株式会社、シリコンマウスピースHF-M-2:フクダ電子株式会社等)を装着し、当該マウスピースと流量計(例えば、マスフローメーターSFM3000:センシリオン株式会社等)とを接続させる。さらに、当該流量計と流量増幅器(例えば、エア・セーバー TS-440:東浜商事株式会社等)とを接続させ、当該流量増幅器により陰圧吸引を提供した時に、当該流量計により流量、時間等を計測した後、市販のコンピューター等に搭載の表計算ソフト(例えば、Microsoft Office Excel等)により解析することによりなされるものである。
【0040】
本発明にかかる測定工程においては、上述のFRT、Vr_angle及び/又はSFPを測定することに加えて、被験者の口元圧力を測定することを含んでいてもよい。
【0041】
上述のFRT、Vr_angle及び/又はSFPの測定に加えて、口元圧力も測定し、当該FRT、Vr_angle及び/又はSFPと組合せることにより、睡眠時無呼吸症候群の有無をより精度よく検出することが可能となる。具体的には、例えば、FRTのみを測定する場合、
図4に示すように、上気道の閉塞のタイミングが遅いことに起因して、健常者であるにも拘らず、偽陽性と判定される可能性がある。また、
図5に示す通り、そもそも上気道が閉塞していないことに起因してFRTを測定できない可能性があるためである。
【0042】
被験者の口元圧力とは、被験者に陰圧吸引を提供した後、一定時間における口元圧力の最低値を意味する。具体的には、被験者に陰圧吸引を提供した後、20ミリ秒~200ミリ秒における口元圧力の最低値を意味する。
【0043】
尚、本発明の補助方法における口元圧力とは、被験者の口元部分の圧力を意味しており、具体的には、被験者に装着する口腔挿入具の口腔外の部分から後述の圧力計又は流量計までの間の圧力のことを意味する。また、上記口元圧力については、
図6にもその概要及び詳細を示す。
【0044】
本発明にかかる測定工程において、上記口元圧力を測定する手法としては、通常この分野で行われている自体公知の手法によりなされればよく、具体的には、例えば、市販の圧力計を利用した方法によりなされればよい。
【0045】
上記圧力計を利用した方法とは、被験者にマウスピース等の口腔挿入具(例えば、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピースMOU9029:ミナト医科学株式会社、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピース:アズワン株式会社、シリコンマウスピースHF-M-2:フクダ電子株式会社等)を装着し、当該マウスピースと圧力計(例えば、KP15圧力トランスミッタ:長野計器株式会社等)と、要すれば流量計(例えば、マスフローメーターSFM3000:センシリオン株式会社等)とを接続させる。さらに当該圧力計又は流量計に流量増幅器(例えば、エア・セーバー TS-440:東浜商事株式会社等)を接続させ、当該流量増幅器により陰圧吸引を提供した時に、当該圧力計により圧力、時間等を計測した後、市販のコンピューター等に搭載の表計算ソフト(例えば、Microsoft Office Excel等)により解析することによりなされるものである。
【0046】
本発明にかかる測定工程において、被験者の口元圧力も測定する際は、(i)上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報及び口元圧力を同時に測定するパターン、(ii)上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定した後、口元圧力を測定するパターン、(iii)口元圧力を測定した後、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定するパターン等が挙げられ、睡眠時無呼吸症候群の有無をより高精度且つ簡便に検出できるという観点から、上記(i)が好ましい。
[本発明にかかる比較工程]
本発明にかかる比較工程は、本発明にかかる測定工程において測定された結果の値と、予め定められた基準値とを比較することを含むものである。
【0047】
本発明にかかる比較工程における基準値とは、睡眠時無呼吸症候群の診断の補助に用いられる指標のことを意味しており、具体的には、例えば、被験者が陽性又は陰性であるかを切り分ける値であるカットオフ値等であってもよい。
【0048】
尚、当該基準値については、睡眠時無呼吸症候群に罹患している被験者を用いて本発明にかかる測定工程により得られた結果と、睡眠時無呼吸症候群に罹患していない健常な被験者とを用いて本発明にかかる測定工程により得られた結果とを用いて、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析等の統計解析に基づいて得る(決定する)ことができる。また、上記基準値の感度及び/又は特異度は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0049】
本発明にかかる比較工程は、上述の本発明にかかる測定工程において測定した情報によってその具体的内容がそれぞれ異なる。従って、本発明にかかる比較工程の詳細について、上記情報毎に、以下にそれぞれ説明する。
(i)上気道閉塞後の上気道開放率の経時変化に関する情報として、FRTを測定した場合
上気道閉塞後の上気道開放率の経時変化に関する情報として、FRTを選択した場合、本発明にかかる比較工程は、被験者由来のFRTの値と、予め設定した基準値とを比較することによりなされる。
【0050】
即ち、被験者由来のFRTの値と、予め設定した基準値とを比較し、当該FRTの値が、予め設定した基準値以上又は未満であるか否かを決定することによりなされる。
【0051】
そして、このように本発明にかかる比較工程により得られた結果を、睡眠時無呼吸症候群の診断の補助に用いることが可能となる。即ち、被験者由来のFRTの値が、予め設定した基準値以上の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがある、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが高い」等の判断を下すことができ、一方、被験者由来のFRTの値が、予め設定した基準値未満の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがない、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが低い」等の判断を下すことができる。
【0052】
(ii)上気道閉塞後の上気道開放率の経時変化に関する情報として、Vr_angleを測定した場合
上気道閉塞後の上気道開放率の経時変化に関する情報として、Vr_angleを選択した場合、本発明にかかる比較工程は、被験者由来のVr_angleの値と、予め設定した基準値とを比較することによりなされる。
【0053】
即ち、被験者由来のVr_angleの値と、予め設定した基準値とを比較し、当該Vr_angleの値が、予め設定した基準値以上又は未満であるか否かを決定することによりなされる。或いは、第一の基準値と当該第一の基準値よりも高い第二の基準値の2つを設けて、例えば、当該Vr_angleの値が、当該第一の基準値以上且つ当該第二の基準値以下であるか否を決定することによりなされてもよい。
【0054】
そして、このように本発明にかかる比較工程により得られた結果を、睡眠時無呼吸症候群の診断の補助に用いることが可能となる。即ち、被験動物由来のVr_angleの値が、予め設定した基準値以上の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがある、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが高い」等の判断を下すことができ、一方、被験者由来のVr_angleの値が、予め設定した基準値未満の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがない、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが低い」等の判断を下すことができる。
【0055】
また、別の態様として、第一の基準値と、当該第一の基準値よりも高い第二の基準値との2つの基準値を設定した上で、被験者由来のVr_angleの値が、当該第一の基準値以上且つ当該第二の基準値以下の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがある、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが高い」等の判断を下すことができ、一方、被験者由来のVr_angleの値が、当該第一の基準値未満又は当該第二の基準値超の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがない、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが低い」等の判断を下すことができる。
【0056】
(iii)上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報として、SFPを測定した場合
上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報として、SFPを選択した場合、本発明にかかる比較工程は、被験者由来のSFPの値と、予め設定した基準値とを比較することによりなされる。
【0057】
即ち、被験者由来のSFPの値と、予め設定した基準値とを比較し、当該SFPの値が、予め設定した基準値以上又は未満であるか否かを決定することによりなされる。
【0058】
そして、このように本発明にかかる比較工程により得られた結果を、睡眠時無呼吸症候群の診断の補助に用いることが可能となる。即ち、被験者由来のSFPの値が、予め設定した基準値以上の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがない、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが低い」等の判断を下すことができ、一方、被験者由来のSFPの値が、予め設定した基準値未満の場合、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがある、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが高い」等の判断を下すことができる。
【0059】
ここで、本発明にかかる測定工程において、上述の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定することに加えて、被験者の口元圧力も測定した場合における、本発明にかかる比較工程について、以下に説明する。
【0060】
被験者の口元圧力も測定した場合、本発明にかかる比較工程は、先ずは、被験者由来の口元圧力の値と、予め設定した基準値とを比較し、当該口元圧力の値が、予め設定した基準値以下又は超であるか否かを決定することによりなされる。即ち、被験者由来の口元圧力の値が、予め設定した基準値以下の場合、上述の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報に基づく、本発明にかかる比較工程のステップに移行する。一方、被験者由来の口元圧力の値が、予め設定した基準値超の場合、上述の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報(例えば、FRT)の結果を強制的に基準値未満とする。そして、「被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれがない、或いは被験者が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているおそれが低い」等の判断を下すことによりなされる。
【0061】
尚、上述の一連のステップについて、
図7において、その概要及び詳細を示す。
【0062】
このように、上述の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報と、被験者の口元圧力とを組み合わせて測定・比較することにより、睡眠時無呼吸症候群の有無をより精度よく検出することが可能となる。
【0063】
<本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置>
本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するための装置(以下、本発明の補助装置と略記する場合がある)は、被験者の口腔又は鼻腔に対して陰圧吸引を提供する陰圧提供部(以下、本発明にかかる陰圧提供部と略記する場合がある)、前記陰圧吸引の提供中の前記被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定する測定部(以下、本発明にかかる測定部と略記する場合がある)、及び前記測定部の測定結果の値と、予め定められた基準値とを比較する比較部(以下、本発明にかかる比較部と略記する場合がある)を含む。
【0064】
以下、その詳細について説明する。
[本発明にかかる陰圧提供部]
本発明にかかる陰圧提供部は、被験者に対して陰圧吸引を提供し得るように構成されており、具体的には、例えば、流量増幅器(例えば、エア・セーバーTS-440:東浜工業株式会社等)、コンプレッサー(例えば、COMPRESSOR AC0920-A1032-A6-0001:日東工器株式会社等)、減圧弁(例えば、REGULATOR:株式会社日本ピスコ等)、電磁弁(例えば、FAB41-8-5-12C-3:CKD株式会社等)等を含む構成等が挙げられる。
【0065】
尚、本発明にかかる陰圧提供部における被験者や陰圧吸引を提供する方法や条件、各構成の説明については、[本発明にかかる陰圧提供工程]において説明した通りであり、適宜内容を参照することができ、その具体例、好ましい例等についても同様である。
[本発明にかかる測定部]
本発明にかかる測定部は、陰圧吸引の提供中の被験者の上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報を測定し得るように構成されており、具体的には、例えば、市販の流量計(例えば、マスフローメーターSFM3000:センシリオン株式会社等)を含む構成等が挙げられる。
【0066】
尚、本発明にかかる測定部における、上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報及び/又は上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報や具体的な測定方法等については、[本発明にかかる測定工程]において説明した通りであり、適宜内容を参照することができ、その具体例、好ましい例等についても同様である。
【0067】
本発明にかかる測定部においては、上述の被験者の口元圧力を測定し得る構成を含めてもよく、具体的には、例えば、市販の圧力計(例えば、KP15圧力トランスミッタ:長野計器株式会社等)等を含む構成が挙げられる。
【0068】
尚、この場合における口元圧力及びその具体的な測定方法等についても、[本発明にかかる測定工程]において説明した通りであり、適宜内容を参照することができ、その具体例、好ましい例等についても同様である。
[本発明にかかる比較部]
本発明にかかる比較部は、本発明にかかる測定部により測定された結果の値と、予め定められた基準値とを比較し得るように構成されている。具体的には、本発明にかかる測定部により測定された結果の値と、本発明にかかる比較部に格納された予め定められた基準値とを比較し得る表計算ソフト(Microsoft Office Excel)等を搭載したコンピューター等を含む構成が挙げられる。また、当該基準値については、メモリやハードディスクなどの記憶装置等に記憶されていてもよく、測定毎に当該記憶装置から当該基準値を参照するよう構成されていてもよい。
【0069】
尚、本発明にかかる比較部における、具体的な方法等については、[本発明にかかる比較工程]において説明した通りであり、その具体例、好ましい例等についても同様である。
【0070】
本発明の判定装置は、少なくとも本発明にかかる陰圧提供部、測定部及び比較部を有するものであるが、必要に応じて、入力部(以下、本発明にかかる入力部と略記する場合がある)及び/又は出力部(以下、本発明にかかる出力部と略記する場合がある)を有していてもよい。
【0071】
本発明にかかる入力部は、具体的には、例えば、本発明の補助装置を操作する者(例えば、医師、臨床検査技師等の医療従事者及び/又はそれに準ずる者)の操作を受けて、本発明にかかる陰圧提供部、測定部及び/又は比較部へ、当該陰圧提供部、測定部及び/又は判定部を作動させるための信号を送信し得るスイッチ等を含む構成が挙げられる。
【0072】
本発明にかかる出力部は、本発明にかかる測定部及び/又は比較部は、具体的には、例えば、本発明にかかる測定部にて得られる測定結果及び/又は比較部にて得られる比較結果を出力し得るように構成されている。より具体的には、例えば、上記測定結果及び/又は比較結果を表示させるディスプレイや、プリントアウトさせる印刷装置等を含む構成が挙げられる。
【0073】
尚、本発明の補助装置における[睡眠時無呼吸症候群]等については、<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、適宜内容を参照することができ、その具体例、好ましい例等についても同様である。
【0074】
ここで、本発明の補助装置の全体構成(システム)について、
図8に示す。また、本発明の補助装置の動作フローについて、
図8の構成(システム)を例にして説明する。即ち、先ず、本発明にかかる入力部100におけるスイッチ1Aを押下することにより、本発明にかかる陰圧提供部200におけるコンプレッサー2が稼働する。これにより当該コンプレッサー2により圧が生成される。次いで、本発明にかかる入力部100におけるスイッチ1Bを押下することにより、本発明にかかる陰圧提供部200における電磁弁4が稼働する。そして、減圧弁3及び電磁弁4を経由して流量増幅器5により陰圧が生成されると共に、被験者に対して陰圧吸引が提供される。次いで、当該陰圧吸引提供中の被験者の呼気流量及び口元圧力が、本発明にかかる測定部300における流量計6及び圧力計7により測定される。この測定された測定値については、本発明にかかる出力部500におけるディスプレイ10に一旦表示される。その一方、当該測定値については、本発明にかかる比較部400におけるコンピューター9に搭載の表計算ソフトにより、本発明にかかる比較部400における記憶装置11に格納された基準値との比較がなされる。そして、この比較された比較結果について、本発明にかかる出力部500におけるディスプレイ10に表示されると共に、印刷装置11によりプリントアウトされる。
【0075】
尚、
図8に示す構成(システム)及び上記動作フローについては、一例であり、これに限定されるものではない。また、上述の構成については、それぞれの部を一体化させて一つの装置として構成してもよいし、必要に応じてそれぞれの部を個別化させることにより構成してもよい。
【0076】
上述の本発明の補助装置によれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0077】
<本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキット>
本発明の睡眠時無呼吸症候群の診断を補助するためのキット(以下、本発明のキットと略記する場合がある)は、本発明の補助装置及び被験者インターフェイスを含むものである。
【0078】
以下、その詳細について説明する。
【0079】
本発明のキットにおける被験者インターフェイスとは、被験者に装着及び/又は挿入する医療用の器具のことであり、本発明においては、被験者に対して陰圧吸引を提供する際や、被験者の呼気流量や口元圧力を測定する際に、被験者に装着及び/又は挿入するものである。かかる被験者インターフェイスとしては、具体的には、例えば、マウスピース(例えば、電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピース:アズワン株式会社、シリコンマウスピースHF-M-2:フクダ電子株式会社等)の口腔挿入具、鼻マスク(例えば、AirFit N20マスク:レスメド株式会社等)等が挙げられる。
【0080】
本発明のキットは、少なくとも本発明の補助装置及び被験者インターフェイスを含むものであるが、必要に応じて、説明書(以下、本発明にかかる説明書と略記する場合がある)を含んでいてもよい。
【0081】
本発明にかかる説明書は、本発明の補助方法及び/又は装置の原理、操作手順、比較手順等が文章、図面等により実質的に記載されているものであり、取扱い説明書、添付文章、パンフレット(リーフレット)等の形態のものが挙げられる。
【0082】
上述の本発明のキットによれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【実施例0083】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0084】
<実施例1:FRTを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP(Negative Expiratory Pressure)法において、本発明にかかる上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報としてFRTを用いた場合における、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0085】
ここで、実験手法、結果等を説明する前に、NEP法の原理について、
図9を用いて簡単に説明する。上述の背景技術の項や実施形態の項にて記載した通り、NEP法とは、Negative Expiratory Pressure法の略であり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出に用いられる手法のことである。
【0086】
具体的には、日中覚醒時に、被験者が呼気を開始すると同時のタイミングで陰圧吸引を提供し、その後の呼気流量の変化を観察することによりなされる。例えば、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している場合には、
図9のAに示す通り、陰圧吸引を提供した後、一旦呼気流量がピークに達するが、陰圧による気道狭窄や気道閉塞に起因して、呼気流量の大きな低下がみられる。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していない健常者では、
図9のBに示す通り、陰圧吸引を提供した後、一旦呼気流量がピークに達するが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のような気道狭窄や気道閉塞が起こらないため、呼気流量の大幅な低下はみられない。そして、この呼気流量の時間的変化の違いから、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を検出する。
【0087】
<実験手法>
健常者で構成されるA群11名(被験者番号1~11)、及び閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群6名(被験者番号12~17)の計17名の被験者に対して、FRTを用いた場合の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0088】
尚、上記A群は、CPAPを使用しておらず、携帯用睡眠時無呼吸検査装置(SAS-2200:日本光電工業株式会社)を用いた検査においてAHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)<15であった者である。一方、上記B群は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の確定診断を受けており、CPAPを使用している者である。また、上記A群及びB群の被験者については、後述の実施例2、3及び4並びに比較例1においても共通である。
【0089】
本実験の具体的な手法は、以下の通りである。即ち、先ず、仰臥位の被験者にノーズクリップ(電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用ノーズクリップAZZ414:AXEL)とマウスピース(電子スパイロメーター〔オートスパイロ〕用マウスピースMOU9029:ミナト医科学株式会社)とを装着し、当該マウスピースと流量計(マスフローメーターSFM3000:センシリオン株式会社)とを接続させ、流量増幅器(エア・セーバーTS-440:東浜工業株式会社)により陰圧吸引(陰圧の値:-1.5キロパスカル)を提供する。その際、当該流量計により計測した流量、時間並びに圧力計(圧力トランスミッタKP15-17G:長野計器株式会社)によって測定された上記マウスピースと流量計の接続部の口元圧力をデータロガー(midi LOGGER GL900:グラフテック株式会社)を用いて記録した。次いで、当該データロガーに記録された呼気流量記録を、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供後、呼気流量が低下した後に、陰圧吸引直後のピーク値を100%とした際の、50%(FRT50%)、60%(FRT60%)、70%(FRT70%)、80%(FRT80%)まで呼気流量が回復した点の時間を取得した。
【0090】
尚、全被験者に対して、同様の実験を5回実施し、5回の実験において取得した上記流量が回復した点の時間を平均したものをそれぞれFRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%とし、それぞれ
図10、
図11、
図12及び
図13に示した。また、当該
図10~13において、当該FRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%それぞれにおいて、偽陽性・偽陰性の人数を解析し、その合計人数が最も少なかったカットオフ値を最適カットオフ値とし、それぞれ示している(図中、黒太線)。
【0091】
上記FRTは被験者のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋反射の反応時間、舌及び/又は軟口蓋の開存容易性、並びに気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の強さを反映していると推察されるため、FRTの値が大きいということは、オトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋反射の反応時間が長い、舌及び/又は軟口蓋の間損容易性が低い並びに気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の筋力が弱いと推察できる。そのため、カットオフ値以上であれば「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している可能性が高い」と判定される。従って、実験としては、A群に含まれる被験者のFRTの値が小さく、B群に含まれる被験者のFRTの値が大きくなるのが理想である。
【0092】
<検証結果>
FRT50%については、最適カットオフ値:225.0ミリ秒、感度:83.3%、特異度:72.7%であった。
【0093】
また、
図10に示す結果より、FRT50%において最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、7名(被験者番号2、3、5、6、7、8、9)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定された偽陽性の人数は3名(被験者番号1、4、10)であった。閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、5名(被験者番号12、13、14、16、17)を閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。一方、健常であると誤判定された偽陰性の人数は1名(被験者番号15)であった。
【0094】
FRT60%については、最適カットオフ値:242.4ミリ秒、感度:83.3%、特異度:81.8%であった。
【0095】
また、
図11に示す結果より、FRT60%において最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、9名(被験者番号2~9、11)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は2名(被験者番号1、10)であった。閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、5名(被験者番号12、13、14、16、17)を閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。一方、健常であると誤判定された偽陰性の人数は1名(被験者番号15)であった。
【0096】
FRT70%については、最適カットオフ値:261.0ミリ秒、感度:100%、特異度:81.8%であった。
【0097】
また、
図12に示す結果より、FRT70%において最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、9名(被験者番号2~9、11)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は2名(被験者番号1、10)であった。閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、全6名(被験者番号12~17)を睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。
【0098】
FRT80%については、最適カットオフ値:316.2ミリ秒、感度:83.3%、特異度:81.8%であった。
【0099】
また、
図13に示す結果より、FRT80%において最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、9名(被験者番号1~4、6~9、11)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は2名(被験者番号5、10)であった。閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、5名(被験者番号12、13、14、16、17)を閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。一方、健常であると誤判定された偽陰性の人数は1名(被験者番号15)であった。
【0100】
上記の結果より、FRT(FRT50%、FRT60%、FRT70%及びFRT80%)を用いることにより、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出することができることがわかった。その中でも、特に、FRT70%を用いた場合には、感度、特異度共に他のFRTよりも優れており(感度:100%、特異度:81.8%)、より高精度に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を検出することができることがわかった。
【0101】
<実施例2:Vr_angleを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、本発明にかかる上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報としてVr_angleを用いた場合における、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0102】
<実験手法>
実施例1にて記録された呼気流量記録を、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供後、呼気流量が低下した後の最低値を記録した時間から、呼気流量が回復した後の最高値を記録した時間までにおいて、一定区間(区間数30ミリ秒)毎の呼気流量の回復の傾きの最大値を解析した。具体的には、先ず、呼気流量が最低値を記録した時間を計算区間の開始点とし、以下の式によって呼気流量の回復の傾きを計算した。その後、計算区間を1ミリ秒ずつ後方にずらして、計算区間の終了点と呼気流量の最高値を記録した点が一致するまで同様の計算を行い、最終的に、呼気流量の回復の傾きが最も大きかった値を取得した。
<<計算式>>
・呼気流量の回復の傾き=(終了点の呼気流量―開始点の呼気流量)÷区間数
尚、全被験者に対して、同様の実験を5回実施し、5回の実験において取得した呼気流量の回復の傾きが最も大きかった値を平均したものをVr_angleとし、
図14に示した。また、解析したVr_angleにおいて、偽陽性・偽陰性の人数を計算し、その合計人数が最も少なかった第一カットオフ値と第二カットオフ値の組み合わせにおける当該第一カットオフ値及び第二カットオフ値を、それぞれ最適第一カットオフ値及び最適第二カットオフ値として、
図14(図中、黒太線)に示した。
【0103】
Vr_angleについては、上述の通り、カットオフ値を2種設定しており、その値が低い方のカットオフ値を第一カットオフ値、その値が高い方のカットオフ値を第二カットオフ値として設定した。
【0104】
当該第一カットオフ値については、陰圧吸引による上気道の閉塞具合を反映していると推察できるため、第一カットオフ値以上であれば、上気道が閉塞していると推察できる。即ち、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している可能性が高い」と判定される。
【0105】
一方、当該第二カットオフ値については、上気道の閉塞部位の開存容易性及び気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の強さを反映していると推察できるため、第二カットオフ値未満であれば、上気道閉塞部位の開存容易性が低い及び気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の筋力が弱いと推察できる。即ち、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している可能性が高い」と判定される。
【0106】
従って、A群に含まれる被験者のVr_angleの値が第一カットオフ値未満又は第二カットオフ値以上、B群に含まれる被験者のVr_angleの値が第一カットオフ値以上、第二カットオフ値未満となることが理想である。
【0107】
<検証結果>
Vr_angleについては、最適第一カットオフ値:0.398、最適第二カットオフ値:1.388、感度:66.7%、特異度:81.8%であった。
【0108】
また、
図14に示す結果より、Vr_angleにおいて最適第一カットオフ値(図中、黒太線A)、最適第二カットオフ値(図中、黒太線B)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、9名(被験者番号2、4~10)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は2名(被験者番号1、11)であった。睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、4名(被験者番号14~17)を閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。一方、健常であると誤判定された偽陰性の人数は2名(被験者番号12、13)であった。
【0109】
上記の結果より、Vr_angleを用いることにより、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出することができることがわかった。
【0110】
<実施例3:SFPを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、本発明にかかる上気道閉塞後の上気道の断面積に関する情報としてSEPを用いた場合における、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0111】
<実験手法>
実施例1に記載の実験にて、データロガーに記録された呼気流量記録を、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供後、一度呼気流量が低下した後、再度呼気流量が回復した時の呼気流量のピーク値を取得した。
【0112】
尚、全被験者に対して、同様の実験を5回実施し、5回の実験において取得した呼気流量回復後の最高値を平均したものをSFPとし、
図15に示した。また、解析したSFPについて、偽陽性、偽陰性の人数を計算し、その合計人数が最も少なかったカットオフ値を最適カットオフ値とし、
図15に示した(図中、黒太線)。
【0113】
上記SFPは被験者の気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の強さ、及び気道開存後の気道抵抗を反映していると推察できるため、SFPが小さいということは、気道開存時のオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋の筋力が弱い及び気道開存後の気道抵抗が大きいと推察できる。そのため、カットオフ値未満であれば「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している可能性が高い」と判定される。従って、A群に含まれる被験者のSFPの値が大きく、B群に含まれる被験者のSFPの値が小さくなるのが理想である。
【0114】
<検証結果>
SFPについては、最適カットオフ値:77.64、感度:100%、特異度:63.6%であった。
【0115】
また、
図15に示す結果より、SFPにおいて最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常群で構成されるA群では、6名(被験者番号3、4、6~9、11)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は4名(被験者番号1、2、5、10)であった。睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、全6名を睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。
【0116】
上記の結果より、SFPを用いることにより、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出することができることがわかった。
【0117】
<実施例4:FRT及びSFPについてのROC-AUC解析>
実施例1及び2で検証したFRT及びSFPについて、それぞれROC-AUC解析を実施し、その判別能を検証した。
【0118】
<実験手法>
実施例1にて解析したFRT50%、FRT60%、FRT70%及びFRT80%並びに実施例3にて解析したSEPについて、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を描画し、それぞれAUC値を算出した。
【0119】
<検証結果>
上記により算出された各AUC値について、以下の表1に記載する。
【0120】
【0121】
上記の結果より、FRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%及びSEPについて、それぞれ良好なAUCの値を示した。その中でも、特に、FRT70%のAUC値が最も高く、FRT70%を用いた手法が最も判別能が高いことが示唆された。
【0122】
<比較例1:非特許文献2の指標を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、非特許文献2に記載の指標を用いた場合における、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0123】
<実験手法>
実施例1にて記録された呼気流量記録を、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、非特許文献2に記載の指標、即ち、陰圧吸引中の呼気流量におけるピーク呼気流量からの低下割合(以下、ΔVドットと略記する場合がある)を取得した。
【0124】
尚、全被験者に対して、同様の実験を5回実施し、5回の実験において取得した呼気流量におけるピーク呼気流量からの低下割合を平均したものをΔVドットとし、
図16に示した。また、解析したΔVドットについて、偽陽性、偽陰性の人数を計算し、その合計人数が最も少なかったカットオフ値を最適カットオフ値とし、
図16に示した。
【0125】
上記ΔVドットは、陰圧吸引の提供による被験者の上気道の閉塞具合を反映しており、ΔVドットが大きいということは、陰圧吸引の提供による被験者の上気道の閉塞具合が大きいと推察できる。そのため、カットオフ値以上であれば「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している可能性が高い」と判定される。従って、A群に含まれる被験者のΔVドットの値が小さく、B群に含まれる被験者のΔVドットの値が大きくなるのが理想である。
【0126】
さらに、解析したΔVドットについて、ROC-AUC解析も実施した。即ち、ROC曲線を描画し、AUC値を算出することにより、ΔVドットについての判別能を検証した。
【0127】
<検証結果>
ΔVドットについては、最適カットオフ値:77.25%、感度:66.7%、特異度:72.7%であった。
【0128】
図16に示す結果より、ΔVドットにおいて最適カットオフ値(図中、黒太線)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合、健常者から構成されるA群では、8名(被験者番号1~4、6、7、10、11)を健常であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と誤判定された偽陽性の人数は3名(被験者番号5、8、9)であった。睡眠時無呼吸症候群に罹患している患者群で構成されるB群では、5名(被験者番号13~16)を閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると判定することができた。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していないと誤判定された偽陰性の人数は2名(被験者番号12、17)であった。
【0129】
また、ROC-AUC解析の結果、
図17に示す通り、ΔVドットを用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行った場合のAUC値は0.636であった。
【0130】
上記の実施例1~4並びに比較例1の結果より、実施例1~3の種々の指標を用いた方法は、比較例1の方法と比較して、感度及び特異度の面や判別能(AUC値)の面で優れていることがわかった。即ち、実施例1~3の方法によれば、比較例1の方法に比べて、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を精度よく検出することができることがわかった。
【0131】
さらに、
図16における偽陽性と判定されている被験者(被験者番号8)や、
図16における最適カットオフ値付近の値を記録しており、AUCを低下させている原因と推察される被験者(被験者番号7)においては、陰圧吸引を提供した際に、舌及び/又は軟口蓋が咽頭に落ち込むことによる気道の狭小化が起こらずに、舌及び/又は軟口蓋が変形することによる気道の狭小化が起きてしまったことが原因と推察される。即ち、非特許文献2の方法では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していないにも拘らず、舌及び/又は軟口蓋の変形によって上気道が閉塞している被験者を正しく判定することができないこともわかった。
【0132】
<実施例5:口元圧力とFRTの組み合わせによる閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、口元圧力も用い、且つ本発明にかかる上気道閉塞後の上気道の開放率の経時変化に関する情報としてFRTを用いた場合における、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0133】
実験手法及び結果を説明する前に、本実施例5において、口元圧力を用いた実験を行う趣旨について、以下に説明する。即ち、上述のNEP法の説明の通り、健常者に対してNEP法を実施した際の呼気流量の変化は、
図6のBに示すように、陰圧吸引を提供後、一旦呼気流量がピークに達するが、その後の呼気流量の大幅な低下はみられないことが理想である。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している被験者に対してNEP法を実施した際の呼気流量の変化は、
図6のAに示すように、陰圧吸引を提供後、一旦呼気流量がピークに達するが、その直後に呼気流量の大幅な低下が見られることが理想である。
【0134】
しかし、
図18に示すように、本実施例5における被験者Cについては、陰圧吸引を提供(負荷)後、一旦呼気流量がピークに達した後、200ミリ秒程度経過した後に、大幅に呼気流量が低下するような特殊なパターンが見られた。また、
図19に示すように、本実施例における被験者Dについては、陰圧吸引を提供後、一旦呼気流量がピークに達した後、徐々に流量が低下しており、流量が低下しても回復が起こらない特殊なパターンが見られた。
【0135】
ここで、実施例1のFRTを用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出を行う場合、上記被験者Cのような特殊パターンの呼気流量波形では、呼気流量の大幅な低下が起こる時間が遅いため、必然的に呼気流量の回復が起こる時間も遅くなってしまい、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していると誤判定されてしまうと推察できる。また、上記被験者Dのような特殊パターンの呼気流量波形では、呼気流量の回復が起こっていないため、呼気流量が既定値まで回復するまでにかかる時間が長く解析されてしまい、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していると誤判定されてしまうと推察できる。
【0136】
しかしながら、上記被験者C及びDに関しては、陰圧吸引を提供後、呼気流量がピークに達した直後に大幅な呼気流量の低下が見られないため、陰圧吸引による上気道の閉塞は発生していないと推察できる。
【0137】
そこで、実施例1のFRTに加えて、陰圧吸引初期の口元圧力を組み合わせることで、上記被験者C及びDのような特殊なパターンの呼気流量波形であっても、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を正確に検出すべく、本実施例5を実施した。
【0138】
<実験手法>
被験者C及びDの2名(過去~現在において閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していない健常者2名)に対して、実施例1の方法を参照しつつ、以下の通りに実施した。即ち、実施例1においてデータロガーに記録された呼気流量並びに口元圧力のデータを用いて、
図20に示す解析フローチャートに従って解析を実施した。先ず、実施例1に記載にて、データロガーに記録された口元圧力のデータを、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供後、200ミリ秒経過するまでの区間における口元圧力の最低値を取得した。次いで、取得した口元圧力の最低値が、予め設定したカットオフ値(-1.1キロパスカル)以下であるか否かの判定を行った。そして、当該判定において、口元圧力の最低値が、口元圧力のカットオフ値以下であった場合、FRTの解析を行うステップに移行し、データロガーに記録された呼気流量のデータから、陰圧吸引提供後、呼気流量が低下した後に、陰圧吸引直後のピーク値を100%とした際の、70%まで呼気流量が回復した点の時間(FRT70%)を取得した。尚、上記判定において、口元圧力の最低値がカットオフ値超であった場合、FRT70%を強制的にカットオフ値未満である0ミリ秒と設定した。
【0139】
尚、上記被験者C及びDそれぞれについて、実施した3回の実験において解析したFRT70%の平均したものを各被験者のFRT70%とした。
【0140】
<検証結果>
上記被験者Cにおいては、3回の実験のうち、2回で口元圧力の最低値がカットオフ値超であったため、FRT70%が0ミリ秒と設定された。また、3回の実験におけるFRT70%の解析結果の平均値は133.3ミリ秒であり、上記実施例1における最適カットオフ値は261.0ミリ秒であるため、健常者である被験者Cを健常であると正しく判定することができた。
【0141】
また、上記被験者Dにおいては、3回の実験のうち、全てで口元圧力の最低値が圧力カットオフ値超であったため、FRT70%が0ミリ秒と設定された。また、3回の実験におけるFRT70%の解析結果の平均値は0ミリ秒であり、上記実施例1における最適カットオフ値は261.0ミリ秒であるため、健常者である被験者Dを健常であると正しく判定することができた。
【0142】
上記の結果より、実施例5の方法によれば、上記被験者C及びDのような特殊な呼気流量パターンを有する被験者であっても、正確に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無を検出することができることがわかった。
【0143】
<実施例6:種々の陰圧吸引条件下におけるFRTを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、被験者に提供する陰圧吸引の値を変更した場合における、FRTを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0144】
<実験手法>
被験者E、F、G及びHの4名(過去~現在において閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していない健常者4名)に対して、実施例1の方法を参照しつつ、以下の通りに実施した。即ち、被験者に対して-1.0キロパスカル、-1.5キロパスカル及び-2.0キロパスカルの3種類の陰圧吸引をそれぞれ提供した際の被験者E、F、G及びHの呼気流量を測定し、データロガー(midi LOGGER GL900:グラフテック株式会社)を用いて記録した。さらに、データロガーに記録された呼気流量のデータを表計算ソフト、(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供中、呼気流量が低下した後に、陰圧吸引開始直後のピーク値を100%とした際の、50%(FRT50%)、60%(FRT60%)、70%(FRT70%)、80%(FRT80%)まで呼気流量が回復した点の時間を取得した。
【0145】
尚、全被験者に対して、それぞれの強さで陰圧吸引を3回行い、3回の実験において取得した上記流量が回復した点の時間を平均したものをそれぞれFRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%とし、それぞれ
図21、22、23及び24に示した。また、当該FRT50%、FRT60%、FRT70%、FRT80%それぞれにおいて、実施例1における、-1.5キロパスカルの強さで陰圧吸引を提供した際の最適カットオフ値を、
図21~24中にそれぞれ示している(図中、黒太線)。
【0146】
尚、上述の通り、被験者E、F、G及びHの4名は何れも健常者であるので、陰圧吸引中の呼気流量の変化は、
図9のBのようなものになるのが理想である。(即ち、一旦呼気流量がピークに達するが、その後の呼気流量の大幅な低下はみられない。)また、流量が大幅に低下したとしても、素早く流量が回復することによって、FRTの値はカットオフ値以下になることが理想である。
【0147】
<検証結果>
上記実験の結果、被験者E及びFにおいては、本試験で測定したすべての結果において流量の大幅な低下はみられなかった(図示せず)。また、被験者Gにおいては、-1.0キロパスカルでの陰圧吸引を提供した際の結果では流量の大幅な低下はみられなかったものの、上記以外の結果(-1.5キロパスカル及び-2.0キロパスカル)においては流量の大幅な低下がみられた(図示せず)。被験者Hにおいては、本試験で測定したすべての結果において流量の大幅な低下がみられた。また、
図21~24に示す通り、流量の大幅な低下がみられた結果においては、FRTは全て-1.5キロパスカルにおける最適カットオフ値以下であった。よって、健常者であるE、F、G及びHを「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性が低い」と正しく判定することができた。
【0148】
尚、被験者E及びFの結果において、FRTの値がカットオフ値の付近又はカットオフ値を超えているものがあるが、これは上記実施例5における被験者Dと同様に、陰圧吸引による呼気流量の急激な低下がみられず、徐々に呼気流量が低下するために、呼気流量の回復が起こる時間が遅くなっていることが原因であり、実施例5に記載の通り、口元圧力と組み合わせることで、正しく検出することが可能であると推察できる。
【0149】
また、
図21~24に示す通り、同一の被験者(特に被験者G及びHのように、呼気流量が大幅に低下している被験者)であれば、FRTの値に大きな変化はない。即ち、FRTには、上気道の閉塞に対するオトガイ舌筋及び/又はオトガイ舌骨筋反射の反応時間が大きく影響しており、被験者に提供される陰圧吸引の強さが変化しても大きな影響はないと推察できる。
【0150】
従って、被験者に提供する陰圧吸引の強さを変化させたとしても、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性が高い」と判定するカットオフ値は、-1.5キロパスカルの陰圧吸引提供時の最適カットオフ値から大きな変化はないと推察できる。即ち、被験者に提供する陰圧吸引の強さを変化させたとしても、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している被験者を、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性が高い」と判定することができると推察される。
【0151】
上記の結果より、被験者に提供する陰圧吸引の陰圧の値を変化させたとしても、FRTを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出の精度には影響がないことが推察できる。
【0152】
<実施例7:種々の陰圧吸引条件下におけるSFPを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、被験者に提供する陰圧吸引の値を変更した場合における、FRTを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0153】
<実験手法>
実施例6に記載の実験にて、データロガーに記録された呼気流量記録を、表計算ソフト(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、陰圧吸引提供中、一度呼気流量が低下した後、再度呼気流量が回復した時の呼気流量のピーク値を取得した。
【0154】
尚、全被験者に対して、それぞれの強さでの陰圧吸引を3回行い、3回の実験において取得した上記呼気流量回復後の最高値を平均したものをSFPとし、
図25に示した。また、当該SFPにおいて、実施例3における、-1.5キロパスカルの強さで陰圧吸引を行った際の最適カットオフ値を、
図25中に示している(図中、黒太線)。
【0155】
尚、実施例3に記載の通り、被験者E、F、G及びHの4名は何れも健常者であるので、SFPの値はカットオフ値以上となることが理想である。
【0156】
<検証結果>
上記実験の結果、
図25に示す通り、被験者E、G及びHにおいては、全ての結果が最適カットオフ値以上である理想の結果が得られた。
【0157】
また、
図25に示す通り、被験者に提供する陰圧吸引の強さを強くすると、それに従ってSFPも上昇する傾向がみられ、この傾向は全ての被験者で共通であることがわかった。
【0158】
なお、この傾向は、被験者に提供する陰圧吸引の強さを強くすることによって、上気道が開いた状態での、肺と口元との間の圧力勾配が大きくなることが原因であると推察できる。
【0159】
即ち、被験者に提供する陰圧吸引の強さに伴うSFPの変化の傾向は、健常者と閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している被験者とで同様であると推察できる。
【0160】
従って、被験者E及びGに対して、-1.0キロパスカルでの陰圧吸引を提供した際の結果が、-1.5キロパスカルの陰圧吸引提供時の最適カットオフ値付近となっているが、陰圧吸引の強さを弱くした場合は、カットオフ値も低下すると推察できるため、検出の精度には問題ないといえる。
【0161】
上記の結果より、被験者に提供する陰圧吸引の強さを変化させたとしても、SFPを用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出の精度には影響がないことが推察できる。
【0162】
<比較例2:種々の陰圧吸引条件下における非特許文献2の指標を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検出>
NEP法において、被験者に提供する陰圧吸引の値を変更した場合における、非特許文献2に記載の指標を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無の検出可否について検証した。
【0163】
<実験手法>
実施例6と同様の被験者E、F、G及びH対して、実施例1の方法を参照しつつ、以下の通りに実施した。即ち、実施例1において被験者に対して-0.5キロパスカル、-1.0キロパスカル、-1.5キロパスカル、-2.0キロパスカルの4種類の陰圧吸引を提供した際の被験者E、F、G及びHの呼気流量を測定し、データロガー(midi LOGGER GL900:グラフテック株式会社)を用いて記録した。さらに、データロガーに記録された呼気流量のデータを表計算ソフト、(Microsoft Office Excel)を用いて解析し、非特許文献2に記載の指標、即ち、ΔVドットを算出した。
【0164】
尚、全被験者に対して、それぞれの強さでの陰圧吸引を3回行い、被験者E、F、G及びHから測定された呼気流量の時間変化を
図26、27、28、及び29に示す。また、各被験者における、それぞれの陰圧吸引の強さにおいて測定した3回分の呼気流量の時間変化から取得したΔVドットの平均値を
図30に示した。また、比較例1において設定した、陰圧吸引の強さ-1.5キロパスカルにおける最適カットオフ値を
図30に示した(図中、黒太線)。
【0165】
尚、上述のNEP法の説明の通り、被験者E、F、G及びHの4名は何れも健常者であるので、陰圧吸引中の呼気流量の変化は、
図9のBのようなものになり、ΔVドットの値は小さくなるのが理想である。(即ち、一旦呼気流量がピークに達するが、その後の呼気流量の大幅な低下はみられない。)
<検証結果>
上記実験の結果、
図26及び27に示す通り、被験者E、Fにおいては、今回試験を行ったすべての陰圧吸引の強さにおいて、陰圧吸引中の呼気流量の大幅な低下はみられず、理想的な結果が得られた。
【0166】
しかし、
図28に示す通り、被験者Gにおいては、陰圧吸引の強さが-1.5キロパスカル及び-2.0キロパスカルの際に、陰圧吸引中の呼気流量の大幅な低下がみられ、また、
図29に示す通り、被験者Hにおいては、今回試験を行ったすべての陰圧吸引の強さにおいて、陰圧吸引中の呼気流量の大幅な低下がみられ、理想的な結果が得られなかった。
【0167】
また、ΔVドットの陰圧吸引の強さ-1.5キロパスカルにおける最適カットオフ値を用いて各被験者の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性の判定を行った結果、
図30に示す通り、呼気流量の時間変化において大幅な流量の低下がみられた被験者G(陰圧吸引の強さ-1.5キロパスカル、-2.0キロパスカル)及びH(陰圧吸引の強さ-1.0キロパスカル、-1.5キロパスカル、-2.0キロパスカル)は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性がある偽陽性と判定されることになる。
【0168】
さらに、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患している被験者において、被験者に提供する陰圧吸引の強さを弱くすると、上気道に付加される力が弱くなるため、上気道は閉塞しづらくなり、ΔVドットは低下すると推察できる。
【0169】
そのため、-1.5キロパスカルよりも弱い-0.5キロパスカルで陰圧吸引を行った場合、最適カットオフ値も
図30に示したものより低下すると推察でき、被験者Hにおいては、偽陽性と判定される可能性が高い。
【0170】
上記の比較例1で述べているように、被験者G及びHのような、健常者であるにも関わらず流量が0付近まで大幅に低下する被験者においては、陰圧吸引を提供した際に、舌及び/又は軟口蓋が咽頭に落ち込むことによる気道の狭小化が起こらずに、舌及び/又は軟口蓋が変形することによる気道の狭小化が起きてしまったことが推察される。
【0171】
さらに、比較例2の結果より、非特許文献2の方法では、被験者に提供する陰圧吸引の強さに拘らず、舌及び/又は軟口蓋の変形によって上気道が閉塞することによって、健常者を「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性が高い」と誤判定してしまうことがわかった。