(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094840
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】温熱・風環境情報生成装置、温熱・風環境情報生成方法、経路検索装置、および経路検索方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20230629BHJP
G01W 1/17 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G06Q10/04
G01W1/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210378
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 充俊
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】局地的な領域ごとの温熱・風環境の予測情報をリアルタイムで把握することが可能な、温熱・風環境情報生成装置、温熱・風環境情報生成方法、経路検索装置、および経路検索方法を提供する。
【解決手段】温熱・風環境情報生成装置21は、表面温度情報算出部214と温熱・風環境予測部216aとを備える。表面温度情報算出部214は、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報として、対象領域内の建築物の外壁面および地表面の温度を材質ごとに算出した情報を取得する。温熱・風環境予測部216aは、表面温度情報算出部214で取得した情報に基づいて熱流体解析処理を実行することで、対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報として、前記対象領域内の建築物の外壁面および地表面の温度を材質ごとに算出した情報を取得する表面温度情報取得部と、
前記表面温度情報取得部で取得した情報に基づいて熱流体解析処理を実行することで、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報を生成する温熱・風環境予測部と
を備えた、温熱・風環境情報生成装置。
【請求項2】
前記対象領域内の表面の材質ごとの熱量情報として、日射量、反射量、大気放射量、地球放射量、顕熱輸送量、潜熱輸送量、および地中伝熱量を算出する熱量情報算出部をさらに備え、
前記表面温度情報取得部は、前記熱量情報算出部で算出した情報に基づいて、前記対象領域内の材質ごとの表面温度情報を算出し、前記対象領域内の位置ごとの表面の材質を判断し、判断した位置ごとの材質の情報と、算出した材質ごとの表面温度の情報とに基づいて、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報を算出する、請求項1に記載の温熱・風環境情報生成装置。
【請求項3】
前記対象領域内の日陰領域の部分を示す日陰情報を取得する日陰情報取得部をさらに備え、
前記熱量情報算出部は、前記日陰情報取得部で取得した日陰情報を用いて前記対象領域内の熱量情報を算出する、請求項2に記載の温熱・風環境情報生成装置。
【請求項4】
前記日陰情報取得部は、前記対象領域の3Dモデル内の各建築物の天井面を、該当日時の太陽光線ベクトルに沿って地面上を平行移動させて生成した日陰情報を取得する、請求項3に記載の温熱・風環境情報生成装置。
【請求項5】
前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報の分布を可視化した情報を生成する可視化情報生成部をさらに備える、請求項1~4いずれか1項に記載の温熱・風環境情報生成装置。
【請求項6】
対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報として、前記対象領域内の建築物の外壁面および地表面の温度を材質ごとに算出した情報を取得し、
取得した情報に基づいて熱流体解析処理を実行することで、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報を生成する、温熱・風環境情報生成方法。
【請求項7】
前記請求項1~5いずれか1項に記載の温熱・風環境情報生成装置に通信可能に接続され、
経路検索条件として、出発位置および目的位置の情報と、優先する温熱・風環境を指定する情報とを取得する検索条件情報取得部と、
前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の温熱・風環境の予測情報を用いて、前記検索条件情報取得部で取得した前記出発位置から前記目的位置までの経路のうち、前記指定された温熱・風環境に対応する経路を優先して、前記経路検索条件に対する検索結果を生成する経路検索部と、を備えた経路検索装置。
【請求項8】
前記請求項1~5いずれか1項に記載の温熱・風環境情報生成装置に通信可能に接続された経路検索装置が、
経路検索条件として、出発位置および目的位置の情報と、優先する温熱・風環境を指定する情報とを取得し、
前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の温熱・風環境の予測情報を用いて、取得した前記出発位置から前記目的位置までの経路のうち、前記指定された温熱・風環境に対応する経路を優先して、前記経路検索条件に対する検索結果を生成する、経路検索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温熱・風環境情報生成装置、温熱・風環境情報生成方法、経路検索装置、および経路検索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガス放出による地球全体の気温上昇や、地表を被覆する物体の人工物化、都市部における排熱の増加、および都市部の建造物の高密度化に起因したヒートアイランド化現象により、都市部の気温は過去数十年を通して増加の一途をたどっている。この、都市部の気温上昇に伴う猛暑や熱帯夜の影響で熱中症発症者数は増加しており、2020年には国内での熱中症による救急搬送者数64,869人、死者数112人(いずれも、6月~9月)となっている。このように、熱中症は社会問題の一種として認識されており、様々な対策が検討されている。
【0003】
熱中症対策を行うために、都市部の屋外の地表面の温熱環境を解析する技術がある(例えば、特許文献1または特許文献2)。この技術を用いることにより、簡易な操作で、所定の時点における地表面の材質ごとの表面温度を算出し、熱中症対策のための情報として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-40095号公報
【特許文献2】特開2003-99697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)の促進やデジタルツイン技術の向上に伴い、現実の空間から収集したデータに基づいて様々なシミュレーションを行い、その結果を各種分野の業務や事業変革へ適用する取り組みが進んでいる。この現実の空間から収集するデータの中には気象データも含まれ、収集した気象データを用いて熱流体シミュレーションを行うことで、地表面のみならず人間が移動する屋外空間内の詳細な温熱・風環境情報を取得してさらに精度の良い熱中症対策を行うことができる。その際、熱中症対策のための熱流体シミュレーションを行うには、人間が徒歩等により移動する距離、例えば数メートルから数十メートル単位の局地的な領域に関する温熱・風環境情報をリアルタイムで把握することが望まれる。
【0006】
温熱・風環境情報を取得する方法の1つとして、観測技術がある。近年では、気温や風速等の複数項目の温熱・風環境情報を計測可能な小型気象計も開発されており、これを複数箇所に設置して気温や風速の実測値を取得することができる。しかし、このような気象計を数メートルから数十メートル間隔で都市部の広範囲に設置することは困難であり現実的でない。
【0007】
また、温熱・風環境情報を取得する他の方法として、天気予報解析技術がある。この技術は、計算機(コンピュータ)を用いて地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測するものである。具体的には,地球大気や海洋・陸地を細かい格子状のエリアに分割し、世界中から送られてくる観測データに基づきある時刻の風や気温などの状況を入力し、物理法則に基づいた方程式を計算することでエリアごとの将来の温熱・風環境を予測する技術である。しかし、本技術で用いる格子の間隔は細かくても数キロメートル間隔であり、熱中症対策に用いるような局地的な温熱・風環境情報の取得は困難である。
【0008】
また、格子間隔を細かくし、局地的な領域ごとの空気の流れや気温を物理法則に基づき計算して予測する数値熱流体解析(CFD)も研究されているが、所定時刻の所定範囲に関する解析を実施するのに数日から数週間かかることも珍しくない。また、高速解析を実現するには富岳のようなスーパーコンピュータが必要不可欠であり、実用性に乏しいという問題があった。
【0009】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、局地的な領域ごとの温熱・風環境の予測情報をリアルタイムで把握することが可能な、温熱・風環境情報生成装置、温熱・風環境情報生成方法、経路検索装置、および経路検索方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る温熱・風環境情報生成装置は、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報として、前記対象領域内の建築物の外壁面および地表面の温度を材質ごとに算出した情報を取得する表面温度情報取得部と、前記表面温度情報取得部で取得した情報に基づいて熱流体解析処理を実行することで、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報を生成する温熱・風環境予測部とを備える。
【0011】
前記温熱・風環境情報生成装置は、前記対象領域内の表面の材質ごとの熱量情報として、日射量、反射量、大気放射量、地球放射量、顕熱輸送量、潜熱輸送量、および地中伝熱量を算出する熱量情報算出部をさらに備え、前記表面温度情報取得部は、前記熱量情報算出部で算出した情報に基づいて、前記対象領域内の材質ごとの表面温度情報を算出し、前記対象領域内の位置ごとの表面の材質を判断し、判断した位置ごとの材質の情報と、算出した材質ごとの表面温度の情報とに基づいて、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報を算出してもよい。
【0012】
前記温熱・風環境情報生成装置は、前記対象領域内の日陰領域の部分を示す日陰情報を取得する日陰情報取得部をさらに備え、前記熱量情報算出部、前記日陰情報取得部で取得した日陰情報を用いて前記対象領域内の熱量情報を算出してもよい。
【0013】
前記日陰情報取得部は、前記対象領域の3Dモデル内の各建築物の天井面を、該当日時の太陽光線ベクトルに沿って地面上を平行移動させて生成した日陰情報を取得してもよい。
【0014】
前記温熱・風環境情報生成装置は、前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報の分布を可視化した情報を生成する可視化情報生成部をさらに備えてもよい。
【0015】
また本開示に係る温熱・風環境情報生成方法は、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報として、前記対象領域内の建築物の外壁面および地表面の温度を材質ごとに算出した情報を取得し、取得した情報に基づいて熱流体解析処理を実行することで、前記対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境の予測情報を生成する。
【0016】
また本開示に係る経路検索装置は、前記温熱・風環境情報生成装置のいずれかに通信可能に接続され、経路検索条件として、出発位置および目的位置の情報と、優先する温熱・風環境を指定する情報とを取得する検索条件情報取得部と、前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の温熱・風環境の予測情報を用いて、前記検索条件情報取得部で取得した前記出発位置から前記目的位置までの経路のうち、前記指定された温熱・風環境に対応する経路を優先して、前記経路検索条件に対する検索結果を生成する経路検索部と、を備える。
【0017】
また本開示に係る経路検索方法は、前記温熱・風環境情報生成装置のいずれかに通信可能に接続された経路検索装置が、経路検索条件として、出発位置および目的位置の情報と、優先する温熱・風環境を指定する情報とを取得し、前記温熱・風環境予測部で生成した前記対象領域内の温熱・風環境の予測情報を用いて、取得した前記出発位置から前記目的位置までの経路のうち、前記指定された温熱・風環境に対応する経路を優先して、前記経路検索条件に対する検索結果を生成する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の温熱・風環境情報生成装置、温熱・風環境情報生成方法、経路検索装置、および経路検索方法によれば、局地的な領域ごとの温熱・風環境の予測情報をリアルタイムで把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置を用いたPCの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】(a)は、第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が温熱・風環境情報の生成対象とする領域を示す図であり、(b)は、当該領域の3D都市モデルの一例である。
【
図4】(a)は、第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が温熱・風環境情報の生成対象とする領域の所定日の気温データの変化を示すグラフであり、(b)は、当該領域の所定日の日射量の変化を示すグラフであり、(c)は、当該領域の所定日の地面の材質ごとの表面温度変化を示すグラフである。
【
図5】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が生成した、所定領域内の2次元の地図情報上に地上空間の温度範囲ごとの領域を色の濃淡で示した空間温度分布情報である。
【
図6】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が生成した、所定領域内の2次元の地図情報上に地上空間の風速範囲ごとの領域を色の濃淡で示した空間風速分布情報である。
【
図7】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に地上空間の空気の流れを線で示した流線分布情報である。
【
図8】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に地上空間の高温領域を淡い色で示した高温領域分布情報である。
【
図9】第1実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置が生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に地上空間の低温領域を濃い色で示した低温領域分布情報である。
【
図10】第2実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置を用いたPCの構成を示すブロック図である。
【
図11】第2実施形態に係る温熱・風環境情報生成装置の動作を示すフローチャートである。
【
図12】第2実施形態に係る経路検索装置が対象領域の温度分布情報に基づいて生成した経路検索結果情報の一例を示す図である。
【
図13】(a)は、第2実施形態に係る経路検索装置が算出した、ルート(1)の出発位置からの距離ごとの気温を示すグラフであり、(b)は、ルート(2)の出発位置からの距離ごとの気温を示すグラフであり、(c)は、ルート(3)の出発位置からの距離ごとの気温を示すグラフである。
【
図14】第2実施形態に係る経路検索装置が対象領域の風速分布情報に基づいて生成した経路検索結果情報の一例を示す図である。
【
図15】(a)は、第2実施形態に係る経路検索装置が算出した、ルート(1)の出発位置からの距離ごとの風速を示すグラフであり、(b)は、ルート(2)の出発位置からの距離ごとの風速を示すグラフであり、(c)は、ルート(3)の出発位置からの距離ごとの風速を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〈第1実施形態〉
本実施形態では、PC(パーソナルコンピュータ)に搭載された温熱・風環境情報生成装置が、都市部の屋外の所定領域に関する所定日時の温熱・風環境情報を生成する場合について説明する。
〈第1実施形態による温熱・風環境情報生成装置を搭載したPCの構成〉
第1実施形態による温熱・風環境情報生成装置を搭載したPCの構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態によるPC1Aは、入力部10と、CPU20Aと、出力部30とを備える。
【0021】
入力部10は、利用者により指定された、温熱・風環境情報の生成対象とする領域(以下、「対象領域」と記載する)の位置情報、および温熱・風環境情報の生成対象とする日時(以下、「対象日時」と記載する)の情報を入力する。
【0022】
CPU20Aは、温熱・風環境情報生成装置21としての機能を有し、地上物体情報取得部211と、日陰情報取得部としての日陰情報算出部212と、熱量情報算出部213と、表面温度情報取得部としての表面温度情報算出部214と、解析条件設定部215と、GPU216とを有する。
【0023】
地上物体情報取得部211は、入力部10から入力された情報に基づいて、対象領域内の地上物体情報、具体的には、対象領域内にある物体の種別である建築物、道路、池等の水辺、公園等の緑地等の情報、および物体の位置、形状、大きさ、材質の情報を取得する。物体の材質の情報とは例えば、建築物はコンクリート、道路はアスファルト、池等の水辺は水、公園等の緑地は植物(樹木)、等の情報である。
【0024】
日陰情報算出部212は、入力部10から入力された情報に基づいて、対象領域内の日陰領域の位置、形状、および大きさを示す日陰情報を算出する。
【0025】
熱量情報算出部213は、対象領域内の対象日時の熱量情報として、対象領域内の対象日時の表面の材質ごとの日射量、反射量、大気放射量、地球放射量、顕熱輸送量、潜熱輸送量、および地中伝熱量を算出する。対象領域内の表面の材質とは例えば、コンクリート、アスファルト、水、または植物などである。
【0026】
日射量は、太陽から地面に届く熱量である。この日射量には太陽放射が大気中に散乱される熱量も含まれているため,日影領域においても日射量が「0」となることなない。反射量は、日射が地面に届いた際に反射する熱量である。大気放射量は、大気から地面へ放射伝熱により輸送される熱量である。地球放射量は、地表面から宇宙空間へ放射伝熱にて輸送される熱量である。顕熱輸送量は、地面から大気中へ移動する熱量である。潜熱輸送量は、水分が蒸発する際に必要な熱量である。地中伝熱量は、地中に移動する熱量である。
【0027】
表面温度情報算出部214は、熱量情報算出部213で算出した各種熱量情報に基づいて熱収支のつり合い状態を解析して、対象領域内の対象日時における材質ごとの表面温度を算出する。また表面温度情報算出部214は、地上物体情報取得部211で取得した情報に基づいて対象領域内の位置ごとの物体およびその表面の材質を判断する。さらに表面温度情報算出部214は、判断した位置ごとの材質の情報と、算出した材質ごとの表面温度の情報とに基づいて、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報を算出する。
【0028】
解析条件設定部215は、対象領域の温熱・風環境を熱流体解析により解析するための条件として、対象領域に流入する風の風向、風速、および温度の情報と、表面温度情報算出部214で取得した、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度とを設定する。
【0029】
GPU216は、温熱・風環境予測部216aと、可視化情報生成部216bとを有する。温熱・風環境予測部216aは、解析条件設定部215で設定された条件に基づいて熱流体解析処理を実行することで、対象領域の対象日時における大気の流れおよび気温を解析して、位置ごとの温熱・風環境を予測する。
【0030】
可視化情報生成部216bは、温熱・風環境予測部216aで解析された対象領域に関する位置ごとの温熱・風環境の予測情報に基づいて、利用者が視認可能な画像情報または動画情報で構成された可視化情報を生成する。
【0031】
出力部30は、表示デバイスで構成され、可視化情報生成部216bで生成された可視化情報を表示する。
【0032】
〈第1実施形態による温熱・風環境情報生成装置の動作〉
次に、本実施形態による温熱・風環境情報生成装置21が温熱・風環境情報を生成する際の動作の一例について、
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
まず、利用者が入力部10から温熱・風環境情報を生成する対象領域の位置情報および対象日時情報を入力する。利用者は、例えば出力部30に表示された地図情報上で領域を指定することで、対象領域の位置情報を入力する。
【0034】
利用者により対象領域の位置情報および対象日時情報が入力されると(S1の「YES」)、温熱・風環境情報生成装置21の地上物体情報取得部211が、入力された対象領域内の地上物体情報を取得する(S2)。地上物体情報取得部211が取得する地上物体情報は、例えば対象領域内にある建築物、道路、池等の水辺、緑地等の物体の種別の情報、および物体の位置、形状、大きさ、材質の情報である。
【0035】
地上物体情報取得部211が対象領域の物体の位置、形状、および大きさの情報を取得する方法としては、例えば、現地での計測により取得する方法や、航空測量から3次元情報をモデル化して取得する方法などがある。また地上物体情報取得部211は、国土交通省のG空間情報センター(Project PLATEAU)が公開している3D都市モデルを用いて、対象領域の建築物の形状および大きさの情報を取得してもよい。
【0036】
また地上物体情報取得部211が取得する対象領域の物体の材質の情報は、例えば予め地図情報内に入力された情報を用いる。物体の材質の情報とは例えば、建築物はコンクリート、道路はアスファルト、池等の水辺は水、公園等の緑地は植物(樹木)、等の情報である。
【0037】
次に、日陰情報算出部212が、対象領域内の対象日時の日陰領域の位置、形状、および大きさを示す日陰情報を算出する(S3)。日陰情報算出部212が実行する日陰情報の算出処理について説明する。日陰情報算出部212は、まず入力部10から入力された情報に基づいて対象領域の緯度・経度情報を取得し、取得した情報に基づいて対象領域における対象日時の太陽高度および太陽方向を算出する。次に日陰情報算出部212は、算出した情報から太陽光線が降り注ぐ方向を示す太陽光線ベクトルを算出する。
【0038】
次に日陰情報算出部212は、地上物体情報取得部211で取得した対象領域の地上物体情報を用いて、対象領域内の建築物の天井面を、算出した太陽光線ベクトルに沿って地表面上を平行移動させる。そして日陰情報算出部212は、当該建築物の天井面の移動領域を、対象領域内の日陰領域の位置、形状、および大きさを示す日陰情報として算出する。
【0039】
例えば、
図3(a)に太線で示す領域を対象領域とし、日陰情報算出部212が当該対象領域内の対象日時の日陰情報を算出する場合について説明する。当該対象領域の3D都市モデルを、
図3(b)に示す。日陰情報算出部212は、
図3(b)の3D都市モデル内の各建築物の天井面それぞれを、算出した太陽光線ベクトルに沿って地表面上を平行移動させ、その移動領域を日陰情報として算出する。例えば、
図3(b)内の太線で示す建築物の天井面Eを、矢印で示す太陽光線ベクトルに沿って地表面上を点線で示す領域Fに移動させ、天井面Eから点線領域Fまでの移動領域Gを、当該建築物の日陰領域として認識する。同様にして、
図3(b)内のすべての建築物について日陰領域を認識し、各日陰領域の位置、形状、および大きさを日陰情報として算出する。
【0040】
所定領域内の日陰情報の位置、形状、および大きさを算出する方法としては、他にもコンピュータグラフィックで多用されているシャドウマップやレイトレーシングなどの技術を用いる方法がある。しかし、これらの方法では繰り返し計算等を伴うため、算出に長時間を要する場合がある。これに対し、上述したように対象領域内の建築物の天井面を太陽光線ベクトルに沿って地表面上を平行移動させるようにする方法を用いることで、簡易的な演算負荷により短時間で日陰情報の位置、形状、および大きさを生成することができる。
【0041】
次に、熱量情報算出部213が気象庁等から提供される気象予測情報等に基づいて、対象領域内の対象日時の熱量情報として、対象領域内の表面の材質ごとおよび日射の有無ごとの日射量S↓、反射量S↑、大気放射量L↓、地球放射量σTs4、顕熱輸送量H、潜熱輸送量IE、および地中伝熱量Gの7つのパラメータを算出する(S4)。その際、熱量情報算出部213は、対象領域内の表面の材質情報、具体的には、材質ごとの放射率、反射率、蒸発効率、熱伝導率、密度、比熱等の情報を考慮して、上述したパラメータを算出する。
【0042】
これらのパラメータは、下記式(1)で示す熱収支式の関係を有する。
日射量S↓-反射量S↑+大気放射量L↓
=地球放射量σTs4+顕熱輸送量H+潜熱輸送量lE+地中伝熱量G (1)
【0043】
表面温度情報算出部214は、上記式(1)に、熱量情報算出部213が算出した材質ごとの各種熱量情報を代入し、また、既知の顕熱と潜熱のバルク式を代入することで、対象領域内の物体の材質ごとの表面温度Tsを算出する(S5)。その際、表面温度情報算出部214は、日陰情報算出部212で日陰であると認識された領域は日射量が大幅に減少するため、日陰の領域の表面温度を日向の領域よりも低く算出する。また、表面温度情報算出部214は、水面や緑地は潜熱輸送量が多いと判断して演算を行うことで、水面や緑地の表面温度をコンクリートやアスファルトの領域よりも低く算出する。
【0044】
表面温度情報算出部214は、気象予測情報および表面の材質情報を考慮した熱量情報を用いることにより、高い精度で対象領域内の材質ごとの表面温度を算出することができる。例えば、熱量情報の1つである日射量は、対象領域に位置、対象日時、日陰の有無、または天候(快晴、曇り、雨等)によって大きく変化する。また、表面の材質のうちアスファルトは水分を含まないため蒸発により奪われる熱量がなく表面温度が上昇しやすいが、緑地は草木が水分を含むため蒸発により奪われる熱量があり地表面温度が低下しやすい。このように様々な日射環境や材質の違いを考慮することで、表面温度情報算出部214は材質ごとの精度の高い表面温度を算出することができる。
【0045】
一例として、対象領域の対象日に関して気象庁から提供される気温データ変化が
図4(a)で示す値であり、算出される日射量変化が
図4(b)で示す値である場合に、表面温度情報算出部214が算出した材質ごとの表面温度変化を、
図4(c)に示す。
図4(c)中の太実線T1が日向のアスファルトの表面温度変化を示し、細かい点線T2が日陰のアスファルトの表面温度変化を示し、細実線T3が日向の緑地の表面温度変化を示し、粗い点線T4が日向の水辺の表面温度変化を示す。
図4(c)に示すように、表面温度は1日を通して、日向のアスファルトが最も高く、水辺が最も低くなっている。また、日中は日陰のアスファルトよりも緑地が高く、日没後は緑地よりも日陰のアスファルトが高くなっている。
【0046】
次に表面温度情報算出部214は、地上物体情報取得部211で取得した情報に基づいて対象領域内の位置ごとの物体の種別を判断し、さらにその表面の材質を判断する。そして表面温度情報算出部214は、判断した位置ごとの材質の情報、および算出した材質ごとの表面温度の情報に基づいて、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度の情報を算出する。
【0047】
ここで、表面温度情報算出部214は、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度を算出する際に、建築物の外壁面の温度を、該当する材質、例えばコンクリートについて算出した地表面の温度と同じ温度として算出する。つまり、表面温度情報算出部214は、対象領域の表面を2次元的に認識し、日射角度および日射量を同一にして、対象領域内の対象日時における材質ごとの表面温度を算出する。実際には、太陽光線ベクトルに対する地表面の角度と建築物の外壁面の角度とは異なるため、これらに対する日射量も異なるが角度変化による表面温度の違いよりも材質や日陰の有無の変化による地表面温度の違いのほうが大きいと考えられ、表面温度を同値として算出することで、後述する熱流体解析処理における演算負荷を低減させることができる。
【0048】
次に、解析条件設定部215が、対象領域の対象日時における大気の流れおよび気温を熱流体解析により解析するための条件を設定する(S6)。解析条件設定部215は、まず対象領域に流入する風の風向、風速、および温度を設定する。これらの値は、既存の気象観測装置(例えば、明星電気社製の「POTEKA」(登録商標))によって得られた値の時間平均値を使用しても良いし、気象予測情報の解析結果を用いても良い。本実施形態では、熱流体解析処理における演算負荷を低減させるために、対象領域に流入する風は、一方向、一定流速、一定気温とする。
【0049】
次に、解析条件設定部215は、表面温度情報算出部214で取得した、対象領域内の対象日時における位置ごとの表面温度を設定する。ここでは、熱流体解析処理における演算負荷を低減させるために、上述したように太陽光線ベクトルに対する表面の角度の違いは無視して、同一の材質に対しては同値を設定する。
【0050】
次に、温熱・風環境予測部216aは、解析条件設定部215で設定された条件に基づき、一般的な熱流体解析(CFD;Computational Fluid Dynamics)手法により対象領域の対象日時の大気の流れおよび気温を解析して、温熱・風環境を予測する(S7)。具体的には、温熱・風環境予測部216aは、対象領域の直方体形状の地上空間を3次元的に格子状に分割した立方体形状または直方体形状の各空間の大気の流れおよび気温を算出することで、対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境を予測する。
【0051】
ここで、解析処理の高速化を図るためには、温熱・風環境予測部216aは、熱流体解析処理として一般的なナビエストークス方程式を用いた手法よりも、ボルツマン方程式を用いた格子ボルツマン手法を採用した方が好適であると考えられる。格子ボルツマン法は、演算の並列化に優れた手法であり、並列演算処理能力の高いGPUとの相性が良い。温熱・風環境予測部216aは、GPU216にて熱流体解析を実行するソフトウェアとして例えば、ANSYS(登録商標)社のDiscovery Liveソフトウェアを使用することができる。
【0052】
一般的に、熱流体解析を行う際に伝熱解析と連成させ、以前の伝熱解析結果による対象領域内の表面温度を考慮して熱流体解析を行い、熱流体解析結果を考慮して次の伝熱解析を行うことを繰り返す場合がある。しかし本実施形態においては、温熱・風環境予測部216aは、熱流体解析処理を行う際に以前の伝熱解析結果を考慮した連成解析を行わず、対象領域の対象日時に関して入力された情報のみに基づいて解析処理を行って対象温熱・風環境を予測する。このように処理を行うことで、温熱・風環境予測部216aは、熱流体解析処理における演算負荷を低減させることができる。
【0053】
これにより温熱・風環境予測部216aは、東京駅周辺の2.3km×2.8km程度の領域内を数メートル~数十メートル四方に分割した各空間の熱流体解析を30分程度で実行することができる。つまり、上述したように動作する温熱・風環境予測部216aを構成することで、高価なスーパーコンピュータを用いなくても、GPU216を搭載した汎用のPC1Aを用いて短時間で対象領域内の対象日時における位置ごとの温熱・風環境を解析することができる。
【0054】
また温熱・風環境予測部216aは、所定のタイミングで、予測した温熱・風環境の情報を気象庁等から提供される気象予測情報と比較し、所定値以上の差があったときには、予測した温熱・風環境の情報を気象予測情報に合わせるように調整してもよい。例えば、対象領域内のある地点の所定日時に関する解析結果で得られた気温よりも当該地点に関する所定日時の気象予測情報の気温が5℃低い場合には、温熱・風環境予測部216aは、対象領域全体の解析結果の気温を5℃下げる。また、対象領域内のある地点の所定日時に関する解析結果で得られた風速よりも当該地点に関する所定日時の気象予測情報の風速が5m/s低い場合には、温熱・風環境予測部216aは、対象領域全体の解析結果の風速を5m/s下げる。このように調整を行うことで、解析結果が実際の温熱・風環境と乖離することを回避することができる。
【0055】
この温熱・風環境予測部216aが解析した、対象領域内の位置ごとの温熱・風環境の情報は、例えば気象観測装置の設置場所を特定する際に用いることができる。例えば、熱中症対策のために気象観測装置を設置する場合には、高温になる時間が長い場所を設置対象場所として特定する。
【0056】
また、対象領域内の位置ごとの温熱・風環境の情報は、太陽光パネルや風力発電設備の設置場所を特定する際に用いることができる。例えば、日射量の多い場所を太陽光パネルの設置場所として特定し、また、風速の高い場所を風力発電設備の設置場所として特定する。
【0057】
また、対象領域内の位置ごとの温熱・風環境の情報は、ドローンによる橋梁点検を行う際の気象条件判断に用いることができる。ドローンの走行には風速等の気象条件が大きく影響するため、点検対象位置の風速が所定値以上のときには作業を避けるようにすることで、効率よく点検を行うことができる。
【0058】
また、対象領域内の位置ごとの温熱・風環境の情報は、アスファルトから緑地への変更による効果を検討する際に用いることができる。具体的には、現在アスファルトが覆われている領域を緑地化した場合の該当領域の気温の変化量を算出することで、緑地化の効果の有無を検討することができる。
【0059】
次に、可視化情報生成部216bが、温熱・風環境予測部216aで解析された対象領域に関する温熱・風環境の予測情報に基づいて、利用者が視認可能な画像情報または動画情報で構成された可視化情報を生成する。
【0060】
可視化情報としては、例えば、対象領域の地表面温度分布情報、地上空間の空気の流れを示す流線分布情報、地上空間の温度範囲ごとの領域を色分けして示す空間温度分布情報、地上空間の風速範囲ごとの領域を色分けして示す空間風速分布情報、地面に平行な地上の所定高さの平面における温度分布情報、または、地面に平行な地上の所定高さの平面における風速分布情報等がある。
【0061】
可視化情報生成部216bで生成された可視化情報は、出力部30に表示される(S8)。出力部30に表示された可視化情報の一例を、
図5~9に示す。
図5は、可視化情報生成部216bが生成した、所定領域内の2次元の地図情報上に地上空間の温度範囲ごとの領域を色の濃淡で示した空間温度分布情報である。
図6は、可視化情報生成部216bが生成した、所定領域内の2次元の地図情報上に地上空間の風速範囲ごとの領域を色の濃淡で示した空間風速分布情報である。
図7は、可視化情報生成部216bが生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に、矢印方向に風が流入したときの地上空間の空気の流れを線で示した流線分布情報である。
図8は、可視化情報生成部216bが生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に地上空間の高温領域を淡い色で示した高温領域分布情報である。
図9は、可視化情報生成部216bが生成した、所定領域内の3次元の地図情報上に地上空間の低温領域を濃い色で示した低温領域分布情報である。
【0062】
これらの可視化情報のうち、対象領域の地表面温度分布情報または地上の所定高さにおける温度分布情報は、熱中症予防のために提供する熱中症ハザードマップに用いることができる。その際、可視化情報生成部216bは、対象領域内で特に気温が高い領域に対して注意を促す情報を出力してもよい。また、これらの対象領域の地表面温度分布情報または地上の所定高さにおける温度分布情報を、冬場のホットスポット提供情報に用いてもよい。
【0063】
以上の第1実施形態によれば、人間が徒歩で移動するような局地的な領域ごとの所定日時の温熱・風環境の予測情報をリアルタイムで精度良く把握して、利用者が認識しやすい状態で提示することができる。都市部には建築物が多く、日向・日陰の日射状態が時々刻々と変化し、日向と日陰とで空間の温熱・風環境が大きく変わるため、本実施形態で説明したように日陰情報を用いて局地的な温熱・風環境を予測することで、利便性の高い情報を提示することができる。
【0064】
本実施形態では、温熱・風環境情報生成装置21が温熱・風環境の予測情報を生成する処理において、なるべく予測精度を保ちつつ処理負荷を下げて、リアルタイム性の高い演算処理を行う。具体的には、温熱・風環境情報生成装置21は温熱・風環境予測の処理負荷を下げるために、対象領域内の日陰情報を生成する際に、当該領域の3D都市モデル内の各建築物の天井面を該当日時の太陽光線ベクトルに沿って地面上を平行移動させて生成する。また、本実施形態による温熱・風環境情報生成装置21は、対象領域内の対象日時における材質ごとの表面温度を算出する際に、建築物の外壁面の温度を、該当する材質について算出した地表面の温度と同じ温度として算出する。また、本実施形態による温熱・風環境情報生成装置21は、対象領域の大気の流れおよび気温を熱流体解析により解析する際に、対象領域に流入する風は、一方向、一定流速、一定気温として解析処理を行う。また、本実施形態による温熱・風環境情報生成装置21は、GPUを搭載したPCで構成し、格子ボルツマン手法を用いて熱流体解析処理を実行する。また、本実施形態による温熱・風環境情報生成装置21は、以前の伝熱解析結果を考慮した連成解析を行わず、対象領域の対象日時に関して入力された情報のみに基づいて解析処理を行うことで、対象温熱・風環境を予測する。このように動作する温熱・風環境情報生成装置21を構成することで、なるべく解析精度を低下させないようにしつつ、局地的な領域ごとの所定日時の温熱・風環境の予測情報を短時間で効率良く算出することができる。
【0065】
《第2実施形態》
本実施形態では、利用者が指定した情報に基づいて都市部の経路検索を行う際に、第1実施形態で説明したように温熱・風環境情報生成装置で生成された該当領域の温熱・風環境情報を利用して経路検索処理を実行する経路検索装置について説明する。
【0066】
〈第2実施形態による経路検索装置を搭載したPCの構成〉
第2実施形態による経路検索装置を搭載したPC1Bの構成について、
図10を参照して説明する。本実施形態によるPC1Bは、CPU20Bが経路検索装置22を備える他は、第1実施形態で説明したPC1Aの構成と同様であるため、PC1Aと同一機能を有する部分に関する詳細な説明は省略する。
【0067】
本実施形態において入力部10は、利用者により指定された経路検索条件として、出発位置および目的位置の情報と、優先する温熱・風環境を指定する情報とを入力する。
【0068】
経路検索装置22は温熱・風環境情報生成装置21に通信可能に接続され、検索条件情報取得部221と、温熱・風環境情報取得部222と、経路検索部223と、検索結果情報生成部224とを有する。
【0069】
検索条件情報取得部221は、入力部10から入力された経路検索条件の情報を取得する。温熱・風環境情報取得部222は、入力部10から入力された経路検索条件に従って温熱・風環境情報生成装置21の温熱・風環境予測部216aで解析された対象領域の対象日時に関する大気の流れおよび気温の情報を取得する。
【0070】
経路検索部223は、温熱・風環境情報取得部222で取得した対象領域内の温熱・風環境の予測情報を用いて、検索条件情報取得部221で取得した出発位置から目的位置までの経路検索条件に対する経路検索を実行する。その際、経路検索部223は、当該出発位置から目的位置までの経路のうち、指定された温熱・風環境に対応する経路を優先して経路検索を実行する。
【0071】
検索結果情報生成部224は、経路検索部223による経路検索結果に基づいて、利用者が視認可能な画像情報または動画情報で構成された検索結果情報を生成する。
【0072】
〈第2実施形態による経路検索装置の動作〉
次に、本実施形態による経路検索装置22が経路検索処理を行う際の動作の一例について、
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0073】
まず、利用者が入力部10から出発位置および目的位置の情報と、経路検索条件として、優先する温熱・風環境を指定する情報とを入力する(S11の「YES」)。ここでは、利用者が出発位置の情報として
図12の地図上の点Pで示す位置の情報を入力し、目的位置の情報として点Qで示す位置の情報を入力し、優先する温熱・風環境として「暑いエリアを避ける」を指定した場合について説明する。
【0074】
経路検索装置22の検索条件情報取得部221は、入力部10から入力された情報を取得する。また検索条件情報取得部221は、検索条件情報取得部221で取得した情報に基づいて、温熱・風環境情報生成装置21に出発位置(点P)および目的位置(点Q)を含む領域の温熱・風環境解析を指示する(S12)。
【0075】
温熱・風環境情報生成装置21は、経路検索装置22から出発位置(点P)および目的位置(点Q)を含む領域の温熱・風環境解析の指示を受けると、当該点Pおよび点Qを含む領域Rを対象領域として温熱・風環境情報を生成する。温熱・風環境情報生成装置21が対象領域の温熱・風環境情報を生成する処理は、第1実施形態で説明した処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0076】
温熱・風環境情報取得部222は、温熱・風環境情報生成装置21の温熱・風環境予測部216aによる解析処理で予測された、対象領域の温熱・風環境の情報を取得する(S13)。ここでは、対象領域の温熱・風環境の情報として、地面に平行な地上1.5mの平面における温度分布の情報を取得する。
図12内の領域B-1、B-2、B-3、およびB-4はコンクリートの建築物であり、領域H-1、H-2、H-3、およびH-4は、取得した温度分布情報内の気温が所定値よりも高い領域であり、領域C-1、C-2、C-3、およびC-4は、気温が所定値よりも低い領域である。
【0077】
次に、経路検索部223が、点Pから点Qまでの経路検索処理を実行する(S14)。この経路検索処理では、経路検索部223はまず、点Pから点Qに到達する経路をすべて抽出する。ここでは経路検索部223は、
図12に示すようにルート(1)、ルート(2)、およびルート(3)の3つのルートを抽出する。ここでは、ルート(1)、ルート(2)、およびルート(3)のいずれにおいても、点Pから点Qまでの距離は600mである。
【0078】
次に経路検索部223は、温熱・風環境情報取得部222で取得した情報に基づいて、地面に平行な地上1.5mの平面における点Pから点Qまでの各ルート内の複数地点の気温を取得する。
図13(a)は、ルート(1)の点Pからの距離ごとの気温を示し、
図13(b)は、ルート(2)の点Pからの距離ごとの気温を示し、
図13(c)は、ルート(3)の点Pからの距離ごとの気温を示す。また、経路検索部223は、取得した各ルート内の複数地点の気温の情報に基づいて、各ルート内の平均気温を算出する。
【0079】
次に経路検索部223は、検索条件情報取得部221で取得した経路検索条件である優先する温熱・風環境「暑いエリアを避ける」に従って、3つのルート(1)~(3)の中から、算出した平均気温が最も低いルートとしてルート(2)を特定する。そして検索結果情報生成部224は、ルート(2)を最も高い優先度で示した、画像情報または動画情報で構成された検索結果情報を生成する。検索結果情報生成部224で生成された検索結果情報は、出力部30に出力される(S15)。
【0080】
また、経路検索装置22が経路検索処理を行う際の動作の他の例として、利用者が検索条件として出発位置(点P)の情報、目的位置(点Q)の情報、および優先する温熱・風環境として「風が強いエリアを避ける」を指定した場合について説明する。
【0081】
利用者がこれらの検索条件の情報を入力すると、経路検索装置22の検索条件情報取得部221が入力された情報を取得する(S11の「YES」)。検索条件情報取得部221は、取得した情報に基づいて温熱・風環境情報生成装置21に、出発位置(点P)および目的位置(点Q)を含む領域の温熱・風環境解析を指示する(S12)。
【0082】
そして、温熱・風環境情報生成装置21で予測された対象領域の温熱・風環境の情報を温熱・風環境情報取得部222が取得する(S13)。ここでは、対象領域の温熱・風環境の情報として、地面に平行な地上1.5mの平面の風速分布の情報を取得する。
図14内の領域W-1、W-2、およびW-3は、取得した風速分布情報内の風速が所定値よりも高い領域である。
【0083】
次に、経路検索部223が、点Pから点Qnに到達するルート(1)、ルート(2)、およびルート(3)の3つのルートを抽出し、地面に平行な地上1.5mの平面における点Pから点Qまでの各ルート内の複数地点の風速を取得する。
図15(a)は、ルート(1)の点Pからの距離ごとの風速を示し、
図15(b)は、ルート(2)の点Pからの距離ごとの風速を示し、
図15(c)は、ルート(3)の点Pからの距離ごとの風速を示す。
【0084】
次に経路検索部223は、検索条件情報取得部221で取得した経路検索条件である優先する温熱・風環境「風が強いエリアを避ける」に従って、3つのルート(1)~(3)の中から、最高風速値が最も低いルート(2)を特定する。そして検索結果情報生成部224は、ルート(2)を最も高い優先度で示した、画像情報または動画情報で構成された検索結果情報を生成する。検索結果情報生成部224で生成された検索結果情報は、出力部30に出力される(S15)。
【0085】
以上の第2実施形態によれば、第1実施形態で説明した温熱・風環境情報生成装置21で生成した情報を用いて、利用者の指定する温熱・風環境の条件に応じた精度のよい経路検索を行うことができる。
【0086】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0087】
本開示は、例えば持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0088】
1A、1B PC
10 入力部
20A、20B CPU
21 温熱・風環境情報生成装置
22 経路検索装置
30 出力部
211 地上物体情報取得部
212 日陰情報算出部
213 熱量情報算出部
214 表面温度情報算出部
215 解析条件設定部
216 GPU
216a 温熱・風環境予測部
216b 可視化情報生成部
221 検索条件情報取得部
222 温熱・風環境情報取得部
223 経路検索部
224 検索結果情報生成部