(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094881
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】培養上清を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230629BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C12N5/071
C12P21/02 A
C12P21/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210450
(22)【出願日】2021-12-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510035912
【氏名又は名称】株式会社日本バイオセラピー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照沼 裕
(72)【発明者】
【氏名】照沼 篤
(72)【発明者】
【氏名】清水 善久
(72)【発明者】
【氏名】芦葉 恵介
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG02
4B064CA10
4B064CC01
4B064CC03
4B064CC15
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BB19
4B065BB32
4B065BC16
4B065BD39
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】培養上清中の生物活性物質含有量を簡便に向上させることができる新たな方法を提供することを課題とする。
【解決手段】培養上清を生産する方法であって、凍結した細胞を解凍する、解凍工程、前記細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程、前記第一培養工程後に得られる培養上清を除去する、除去工程、前記除去工程後の前記細胞をさらに第二の培地で培養する、第二培養工程、及び前記第二培養工程後に得られる培養上清を回収する、回収工程を含み、前記第一の培地が、基本培地又は無血清培地であり、かつ前記第二の培地が、タンパク質を含まない、前記方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養上清を生産する方法であって、
凍結した細胞を解凍する、解凍工程、
前記細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程、
前記第一培養工程後に得られる培養上清を除去する、除去工程、
前記除去工程後の前記細胞をさらに第二の培地で培養する、第二培養工程、及び
前記第二培養工程後に得られる培養上清を回収する、回収工程
を含み、
前記第一の培地が、基本培地又は無血清培地であり、かつ
前記第二の培地が、タンパク質を含まない、前記方法。
【請求項2】
前記第一の培地が、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基本培地が、EMEM培地、DMEM培地、IMDM培地、GMEM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記無血清培地が、MesenCult、StemPro MSC、BMN211、StemMACS、MSC NutriStem XF、Xuri NSC、PRIME-XV、StemXVivo、Human Mesenchymal-XF Expansion Medium、stemgro、STK2、PLTMax、ProculAD、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium XF、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2、MesenGro、StemFit、CiMS-BM、MSC-Brew GMP Medium、StemXVivo Serum-Free Human MSC Expansion Media、MSC-T4、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一培養工程を12時間~120時間行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記解凍工程後、前記第一培養工程の前に、血清又は血漿含有培地で前記細胞を培養して増殖させる増殖工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記増殖工程を1回以上繰り返す繰り返し工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記除去工程後、前記第二培養工程前に前記細胞を洗浄する洗浄工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第二の培地が基本培地である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記解凍工程の前に、
前培養培地で細胞を培養する、前培養工程、
前記前培養工程後の前記前培養培地を凍結保存液と置換する、置換工程、及び
前記置換工程後の前記細胞を凍結する、凍結工程
を含み、
前記前培養培地が、血清又は血漿含有培地、無血清培地、又は基本培地である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記前培養培地が、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記血清が、動物由来であるか、又は人工血清である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記動物由来の血清が、ウシ胎児血清、ウシ新生児血清、ウシ血清、及びウマ血清からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が間葉系幹細胞である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第一培養工程を12時間~48時間行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法により生産される培養上清を含む、組成物。
【請求項17】
培養上清においてサイトカイン及び/又はエクソソームの含有量を増加させる方法であって、
凍結した細胞を解凍する、解凍工程、
前記細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程、
前記第一培養工程後に得られる培養上清を除去する、除去工程、
前記除去工程後の前記細胞をさらに第二の培地で培養する、第二培養工程、及び
前記第二培養工程後に得られるサイトカイン及び/又はエクソソームを含む培養上清を回収する、回収工程
を含み、
前記第一の培地が、基本培地又は無血清培地であり、かつ
前記第二の培地が、タンパク質を含まない、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養上清を生産する方法、並びに培養上清においてサイトカイン及び/又はエクソソームの含有量を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞の培養上清には、サイトカインやエクソソーム等の生物活性物質が含まれており、損傷治癒や免疫抑制効果等の治療効果を有することが知られている。培養上清の治療効果を高めるために、培養上清中の生物活性物質含量を増大させる技術が重要である。
【0003】
培養上清において生物活性物質の含有量を向上させる方法としては、細胞を薬物やホルモン等で刺激する方法が最も簡便であると考えられる。しかしながら、この方法では薬物やホルモン等が培養上清中に残留し得るため、回収した培養上清を生体に直接適用することはできない。それ故、有害成分を除去する追加の工程が必要となってしまうため、この方法は必ずしも簡便とは言い難い。
【0004】
特許文献1は、ウシ胎児血清等の血清成分を添加した培地で継代培養を行った後、非ヒトタンパク質不含培地で細胞を培養する前培養工程を行うことによって、培養上清を生産する本培養への血清成分の混入を防ぐ方法を開示している。特許文献1には、培養上清中の生物活性物質含有量をさらに向上させるための方法や、薬物やホルモン等に依らずこれを達成する方法は開示されていない。
【0005】
したがって、培養上清中の生物活性物質含有量を簡便に向上させ得る技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、培養上清中の生物活性物質含有量を簡便に向上させる新たな方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生物活性物質を含む培養上清を生産する従来の方法では、生育に適した条件下で継代培養された、増殖状態のよい細胞を用いることが一般的に有利であると考えられてきた。それ故、保存していた凍結細胞を解凍して培養上清を生産する場合、少なくとも数代の継代を行った後に培養上清を生産することが技術常識となっていた。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、凍結した細胞を解凍して培養上清を生産する際に、生物活性物質含有量が向上し得る条件について検討した。その結果、従来の技術常識に反して解凍後の継代数が少ない細胞から、生物活性物質含有量が向上した培養上清が得られるという驚くべき効果を見出した。本発明の方法では薬物やホルモン等による刺激が必要ないため、培養上清の安全性が担保される点も極めて有利である。本発明は、上記研究成果に基づくものであって、以下を提供する。
【0010】
(1)培養上清を生産する方法であって、
凍結した細胞を解凍する、解凍工程、
前記細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程、
前記第一培養工程後に得られる培養上清を除去する、除去工程、
前記除去工程後の前記細胞をさらに第二の培地で培養する、第二培養工程、及び
前記第二培養工程後に得られる培養上清を回収する、回収工程
を含み、
前記第一の培地が、基本培地又は無血清培地であり、かつ
前記第二の培地が、タンパク質を含まない、前記方法。
(2)前記第一の培地が、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質を含む、(1)に記載の方法。
(3)前記基本培地が、EMEM培地、DMEM培地、IMDM培地、GMEM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記無血清培地が、MesenCult、StemPro MSC、BMN211、StemMACS、MSC NutriStem XF、Xuri NSC、PRIME-XV、StemXVivo、Human Mesenchymal-XF Expansion Medium、stemgro、STK2、PLTMax、ProculAD、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium XF、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2、MesenGro、StemFit、CiMS-BM、MSC-Brew GMP Medium、StemXVivo Serum-Free Human MSC Expansion Media、MSC-T4、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、(1)又は(2)に記載の方法。
(5)前記第一培養工程を12時間~120時間行う、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記解凍工程後、前記第一培養工程の前に、血清又は血漿含有培地で前記細胞を培養して増殖させる増殖工程をさらに含む、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記増殖工程を1回以上繰り返す繰り返し工程を含む、(6)に記載の方法。
(8)前記除去工程後、前記第二培養工程前に前記細胞を洗浄する洗浄工程をさらに含む、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記第二の培地が基本培地である、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記解凍工程の前に、
前培養培地で細胞を培養する、前培養工程、
前記前培養工程後の前記前培養培地を凍結保存液と置換する、置換工程、及び
前記置換工程後の前記細胞を凍結する、凍結工程
を含み、
前記前培養培地が、血清又は血漿含有培地、無血清培地、又は基本培地である、(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)前記前培養培地が、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質を含む、(10)に記載の方法。
(12)前記血清が、動物由来であるか、又は人工血清である、(10)又は(11)に記載の方法。
(13)前記動物由来の血清が、ウシ胎児血清、ウシ新生児血清、ウシ血清、及びウマ血清からなる群から選択される、(12)に記載の方法。
(14)前記細胞が間葉系幹細胞である、(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記第一培養工程を12時間~48時間行う、(14)に記載の方法。
(16)(1)~(15)のいずれかに記載の方法により生産される培養上清を含む、組成物。
(17)培養上清においてサイトカイン及び/又はエクソソームの含有量を増加させる方法であって、
凍結した細胞を解凍する、解凍工程、
前記細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程、
前記第一培養工程後に得られる培養上清を除去する、除去工程、
前記除去工程後の前記細胞をさらに第二の培地で培養する、第二培養工程、及び
前記第二培養工程後に得られるサイトカイン及び/又はエクソソームを含む培養上清を回収する、回収工程
を含み、
前記第一の培地が、基本培地又は無血清培地であり、かつ
前記第二の培地が、タンパク質を含まない、前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、培養上清中の生物活性物質含有量を簡便に向上させる新たな方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の培養上清生産方法の一実施形態における各工程を示す図である。本実施形態は、解凍工程(S0101)、第一培養工程(S0106)、除去工程(S0107)、第二培養工程(S0110)、及び回収工程(S0111)を必須工程として含み、増殖工程(S0103)、繰り返し工程(S0105)及び洗浄工程(S0109)を選択工程として含む。
【
図2】本発明の培養上清生産方法の一実施形態における各工程を示す図である。本実施形態は、前培養工程(S0201)、置換工程(S0202)、凍結工程(S0203)、解凍工程(S0204)、第一培養工程(S0209)、除去工程(S0210)、第二培養工程(S0213)、及び回収工程(S0214)を必須工程として含み、増殖工程(S0206)、繰り返し工程(S0208)、及び洗浄工程(S0212)を選択工程として含む。
【
図3】実施例1において培養上清を生産した各方法の概要を示す図である。方法A~Cは凍結及び解凍を含む方法である。対照1は凍結及び解凍を含まない方法である。
【
図4】実施例1において方法A~C、並びに凍結及び解凍を含まない方法(対照1)の各方法により生産した細胞上清において生物活性物質(HGF、VEGF、プログラニュリン、及びエクソソーム)の含有量を測定した結果を示す図である。
【
図5】実施例2において培養上清を生産した各方法の概要を示す図である。方法D~Fは凍結及び解凍を含む方法である。対照2は凍結及び解凍を含まない方法である。
【
図6】実施例2において方法D~F、並びに凍結及び解凍を含まない方法(対照2)の各方法により生産した細胞上清において生物活性物質(HGF)の含有量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<培養上清を生産する方法>
一態様において、本発明は培養上清を生産する方法に関する。本発明の培養上清の生産方法は、解凍工程、第一培養工程、除去工程、第二培養工程、及び回収工程を必須工程として含む。また、選択工程として、増殖工程、繰り返し工程、洗浄工程、及び精製工程等の他の工程を含むことができる。本態様の方法の一実施形態は
図1に図示される。本態様の方法は、さらなる選択工程として、解凍工程の前に、前培養工程、置換工程、及び凍結工程を含む(
図2)。本発明の方法を構成する各工程について、以下詳細に説明する。
【0014】
(前培養工程)
本態様の方法は、前培養培地で細胞を培養する前培養工程を選択工程として含む。本明細書において「前培養培地」とは、前培養工程で細胞を培養するために用いる培地をいう。前培養培地は、血清若しくは血漿含有培地、基本培地、又は無血清培地である。
【0015】
本態様の方法において、血清又は血漿含有培地に含まれる血清又は血漿は、動物由来であるか、又は人工血清であってもよい。動物は後述する動物の例のいずれであってもよく、例えばヒトやヒト以外の動物(例えば、ウシ又はウマ等の哺乳動物)が挙げられる。ヒト由来の血清又は血漿として、ヒト血清、ヒト血漿、多血小板血漿(PRP、Platelet rich plasma)、及びヒトAB血清(ヒトAB型由来の血清)が例示される。また、ヒト以外の動物に由来する血清又は血漿の例として、ウシ胎児血清、ウシ新生児血清、ウシ血清、及びウマ血清が挙げられる。
【0016】
本明細書において「人工血清」とは、血清を代替し得るが、動物由来又は異種動物由来の成分を含まない培地添加剤をいう。人工血清は、培地に添加して細胞を培養する場合に、動物由来の血清と同等又はそれ以上の増殖性能を示し得る。人工血清の具体例として、Artificial Serum (Xeno-free)(細胞科学研究所、#87-081)、Artificial Serum (Animal-free)(細胞科学研究所、#87-082)、及びStemSure血清代替品(富士フイルム和光純薬(株)、#191-18375)が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「基本培地」とは、細胞が生存するために必要な成分、例えば無機塩類、必須アミノ酸、及びビタミン類、並びに緩衝剤等を含んだ溶液を意味する。基本培地の例として、限定するものではないが、EMEM培地(αMEM培地とも記載される)、DMEM培地、IMDM培地、GMEM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
本明細書において、「無血清培地」とは、細胞の生存や増殖に必要な成分を含むが、無調整又は未精製の血清を含まない培地をいう。無血清培地に含まれ得る生存や増殖に必要な成分として、ホルモンや増殖因子の他、血清アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール等が挙げられる。また、無血清培地は、精製された血液由来成分や動物組織由来成分であれば含むことができる。無血清培地の例として、限定するものではないが、MesenCult、StemPro MSC、BMN211、StemMACS、MSC NutriStem XF、Xuri NSC、PRIME-XV、StemXVivo、Human Mesenchymal-XF Expansion Medium、stemgro、STK2、PLTMax、ProculAD、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium XF、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2、MesenGro、StemFit、MSC-T4、CiMS-BM、MSC-Brew GMP Medium、StemXVivo Serum-Free Human MSC Expansion Media、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。なお、上述の人工血清を含む培地は血清含有培地に包含されるものとする。
【0019】
一実施形態において、前培養培地はタンパク質を含む。前培養培地がタンパク質を含むことにより、本工程において細胞の増殖、接着、及び分化誘導(又は未分化維持)等を促進することができる。タンパク質は、限定するものではないが、例えば細胞増殖因子、接着分子、及び分化誘導因子(又は分化抑制因子)であってもよい。タンパク質の具体例としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、骨形成因子(BMP)、フィブロネクチン、及びビトロネクチン等が挙げられる。 前培養培地に含まれ得るタンパク質は、ヒトに由来するタンパク質(本明細書において「ヒトタンパク質」という)、又は非ヒト生物に由来するタンパク質(本明細書において「非ヒトタンパク質」という)のいずれであってもよい。ヒトタンパク質は、ヒトから単離されてもよいし、ヒトに由来するタンパク質の組換え体を、哺乳動物、昆虫、酵母、及び大腸菌等の遺伝子組換え体に発現させて得てもよい。同様に、非ヒトタンパク質は、その非ヒトタンパク質が由来する生物種から単離されてもよいし、その生物種に由来するタンパク質の組換え体を、哺乳動物、昆虫、酵母、及び大腸菌等の遺伝子組換え体に発現させて得てもよい。非ヒトタンパク質の例としては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコ、及びサル等の哺乳動物、アフリカツメガエル等の両生類、ニワトリ及びダチョウ等の鳥類、昆虫類、線虫、酵母、大腸菌、及び植物からなる群より選択される生物、好ましくは非ヒト哺乳動物のタンパク質が挙げられる。
【0020】
別の実施形態において、前培養培地はタンパク質を含まない。
本発明の方法において、用いられる細胞の由来となる生物種は限定されず、例えばラット、マウス、モルモット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、及びヒト等の哺乳動物、好ましくはヒトである。また、用いられる具体的な細胞種も特定されず、例えば、ES細胞、iPS細胞、体性幹細胞、間葉系幹細胞(例えば歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、臍帯由来幹細胞、臍帯血由来幹細胞、絨毛膜絨毛由来幹細胞、絨毛膜板由来幹細胞、脱落膜由来幹細胞、羊膜由来幹細胞、又は骨髄由来幹細胞)、線維芽細胞、皮膚細胞、肝細胞、膵細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞、生殖細胞、及び血液細胞等であってよい。細胞は初代培養細胞又は細胞株であってよく、また遺伝子組換えを行った細胞であっても、行っていない細胞であってもよい。これらの細胞の形状や構造は限定せず、例えば平面状に結合したシート形状や球状に多層化した凝集体であってもよい。
【0021】
前培養工程の培養条件は限定されず、例えば、培養温度は約30℃~約40℃、CO2濃度は約2%~約10%であってよく、接着培養であっても懸濁培養であってもよい。
【0022】
また、前培養工程の時間は、特に限定しない。例えば、前培養工程は、数時間~数日行ってもよいし、拡大培養又は継代培養を経て数日~数週間又は数か月行ってもよい。なお、本明細書において、「継代」とは、細胞集団から一部を取り出して新しい培地に移し、細胞の増殖を維持する過程を意味する。
【0023】
(置換工程)
本態様の方法は、前培養工程後の前培養培地を凍結保存液と置換する置換工程を選択工程として含む。置換工程は、前培養培地を除去して凍結保存液を細胞に添加する工程である。前培養培地の除去は、デカンテーション及びアスピレーション等の通常の方法で行うことができる。
【0024】
本明細書において、「凍結保存液」とは、細胞に対して凍結保護作用を示す任意の凍結保護剤を含む液体をいう。凍結保護剤の例として、限定するものではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、カルボキシル化ポリリジン、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、及びマンニトール、並びにその任意の組み合わせが挙げられる。凍結保存液に含まれる凍結保護剤の濃度は、凍結保護剤の種類によって当業者が容易に決定できる。例えば0.1%~20%(v/v)、1%~15%(v/v)、又は2%~10%(v/v)であってもよい。
【0025】
また、前培養培地の除去と凍結保存液の添加の間に細胞を洗浄液で洗浄してもよい。洗浄液には、必要に応じて糖等の添加物を加えたバッファーや生理食塩水、及び/又は凍結保存液等を使用することができる。洗浄の回数は、例えば1回、2回、3回、又は4回とすることができる。
【0026】
本工程において前培養培地を凍結保存液と置換することによって、後述の凍結工程及び解凍工程後の細胞の生存率や増殖能の低下を防ぐことができる。
【0027】
(凍結工程)
本態様の方法は、置換工程後の細胞を凍結する凍結工程を選択工程として含む。
本工程において細胞を凍結する方法は限定せず、細胞を含む凍結保存液をクライオチューブ等の凍結保存用容器等に入れて、凍結保存液が凍結し得る温度以下に冷却すればよい。冷却手段は、限定しないが、例えば、ディープフリーザー等のフリーザーや、液体窒素等の低温の媒体を用いることができる。冷却温度は、凍結保存液の凍結温度以下であればよい。具体的な冷却温度は、緩慢凍結法やガラス化凍結法等の凍結方法によって適宜選択することができる。本明細書において「緩慢凍結法」とは、細胞内に凍結保護剤を浸透させた後、温度を徐々に低下させることにより細胞を凍結させる方法をいう。緩慢凍結法での冷却温度は、例えば、0℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、又は-80℃以下であってもよい。本明細書において「ガラス化凍結法」とは、ガラス化を用いて細胞を凍結させる方法をいう。「ガラス化」とは、冷却速度や圧力等の冷却時の条件によって液体が結晶化せず固体となる現象であり、水も条件によってはガラス化することが知られている。ガラス化凍結法は、緩慢凍結法による効率的な保存が難しい場合に多く用いられている。ガラス化凍結法での冷却温度は、例えば-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-200℃以下である。冷却速度は、凍結解凍後の細胞生存率を大きく損なわない範囲であれば、限定せず、緩慢凍結法やガラス化凍結法等の凍結方法によって適宜選択することができる。緩慢凍結法であれば、例えば-1℃/分~-0.1℃/分、-0.8℃/分~-0.2℃/分、又は-0.6℃/分~-0.3℃/分、好ましくは-0.5℃/分~-0.4℃/分であってもよい。このような冷却速度は、クライオチューブ等の凍結保存用容器等をさらなる凍結処理容器に収容して、ディープフリーザーや液体窒素での冷却に供すれば達成することができる。ガラス化凍結法であれば、-5℃/分~-250℃/分、-10℃/分~-240℃/分、-15℃/分~-220℃/分、-20℃/分~-200℃/分、-50℃/分~-180℃/分、-100℃/分~-160℃/分、又は-120℃/分~-150℃/分であってもよく、液体窒素等を用いた急速冷凍が好ましく使用される。凍結工程後の細胞は、後述の解凍工程まで凍結状態で維持することができる。
【0028】
(解凍工程)
本態様の方法は、凍結した細胞を解凍する解凍工程を必須工程として含む。
本工程において細胞を解凍する方法は限定せず、任意の解凍方法により行うことができる。具体的には、凍結した細胞を解凍可能な温度以上の温度に供することによって細胞を解凍することができる。そのような温度の例としては、2℃~60℃、4℃~50℃、10℃~45℃、20℃~42℃、30℃~40℃、35℃~38℃、又は36℃~37℃が挙げられ、例えば約37℃であってもよい。また、解凍時間は、細胞の生存率や増殖能を低下させないものであれば限定せず、4分以内、3分以内、2分以内、又は1分以内であり、好ましくは30秒以内又は20秒以内であり得る。
【0029】
凍結した細胞を解凍可能な温度以上の温度に供する手段は限定せず、クライオチューブ等に入れた状態でウォーターバス、インキュベーター、又は恒温器で温める方法や、クライオチューブ等をヒトの手で温める方法、凍結した細胞を予め目的の温度にした培養液等の液体中に浸漬する方法が例示される。
【0030】
解凍後の細胞は、後述の増殖工程又は第一培養工程で培養に用いる培地に添加することができるが、必要に応じて細胞を洗浄してもよい。洗浄液には、必要に応じて糖等の添加物を加えたバッファーや生理食塩水、及び/又は後述の増殖工程又は第一培養工程で培養に用いる培地等を使用することができる。
【0031】
(増殖工程)
本態様の方法は、細胞を血清若しくは血漿含有培地で培養して増殖させる増殖工程を選択工程として含む。
【0032】
増殖工程の培養条件は限定されず、例えば、培養温度は約30℃~約40℃、CO2濃度は約2%~約10%であってよく、接着培養であっても懸濁培養であってもよい。
【0033】
また、増殖の時間は、特に限定しない。例えば、増殖工程は、数時間~数日、1日~4日、2日~3日、又は2日行ってもよい。
【0034】
本工程では、増殖後に培養上清をデカンテーション及びアスピレーション等の通常の方法で除去することができる。
【0035】
(繰り返し工程)
本態様の方法は、上述の増殖工程を1回以上繰り返す繰り返し工程を選択工程として含む。
【0036】
繰り返し工程において、増殖工程を繰り返す回数は1回以上であり、例えば、2回以上、3回以上、4回以上、若しくは5回以上、及び/又は5回以下、4回以下、3回以下、若しくは2回以下であり、好ましくは1~3回、1~2回、又は1回あってもよい。
【0037】
本工程と本工程に含まれない増殖工程とを合わせた培養時間は、4時間以上、8時間以上、又は24時間以上であってよく、及び/又は120時間以下、96時間以下、72時間以下、60時間以下、54時間以下、又は48時間以下、好ましくは8時間~96時間又は24時間~72時間であってよい。
【0038】
(第一培養工程)
本態様の方法は、細胞を第一の培地で培養する、第一培養工程を必須工程として含む。本明細書において「第一の培地」とは、第一培養工程で細胞を培養するために用いる培地をいう。第一の培地は、基本培地又は無血清培地である。
【0039】
一実施形態において、第一の培地はタンパク質を含む。第一の培地に含まれるタンパク質により、本工程において細胞の増殖、接着、及び細胞機能誘導(分化誘導若しくは未分化維持、細胞老化抑制、又は特定遺伝子発現の誘導等を含む)等を促進することができる。第一の培地が含むことができるタンパク質は、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質のいずれであってもよく、そのさらなる例は、上述の前培養工程の説明に準じるものとする。それ故、ここでの詳細な説明は省略する。
【0040】
別の実施形態において、第一の培地はタンパク質を含まない。
第一培養工程の培養条件は限定されず、例えば、培養温度は約30℃~約40℃、CO2濃度は約2%~約10%であってよく、接着培養であっても懸濁培養であってもよい。また、第一培養工程の時間は、特に限定しない。例えば、第一培養工程は、数時間~数週間、数か月、又は数日行ってもよい。第一培養工程のより具体的な培養時間は、30分以上、1時間以上、1時間30分以上、2時間以上、4時間以上、8時間以上、又は24時間以上であってよく、及び/又は120時間以下、96時間以下、72時間以下、60時間以下、54時間以下、又は48時間以下であってよい。例えば、第一培養工程の時間は、12時間~120時間、又は約48時間とすることができる。細胞が間葉系幹細胞である場合、第一培養工程の好ましい培養時間は12時間~48時間である。
【0041】
(除去工程)
本態様の方法は、第一培養工程後に得られる培養上清を除去する除去工程を必須工程として含む。
【0042】
培養上清の除去はデカンテーション及びアスピレーション等の通常の方法で行うことができる。ここで、第一の培地の成分(例えば、ヒトタンパク質又は非ヒトタンパク質等)が第二培養工程で用いる第二の培地に混入しないように、第一培養工程の培養上清を完全に除去することが好ましい。
【0043】
(洗浄工程)
本態様の方法は、除去工程後、第二培養工程前に細胞を洗浄する洗浄工程を選択工程として含む。洗浄工程において用いる洗浄液は、細胞の生存性に過度な影響を与えない限り限定されず、例えばバッファー、生理食塩水、又は後述する第二の培地や、これらの溶液に糖等の添加物を加えたものであってよい。洗浄の回数は、例えば1回以上であり、例えば1回、2回、3回、又は4回とすることができる。
【0044】
(第二培養工程)
本態様の方法は、除去工程後の細胞をさらに第二の培地で培養する第二培養工程を必須工程として含む。本明細書において「第二の培地」とは、第二培養工程で細胞を培養するために用いる培地をいう。第二の培地は、タンパク質を含まない培地(以下、「タンパク質不含培地」という)である。
【0045】
本明細書において、「タンパク質不含培地」とは、タンパク質を含まない、又は実質的に含まない培地を意味する。タンパク質不含培地の例として、タンパク質を含まない無血清培地、及びタンパク質を含まない基本培地が挙げられる。
【0046】
第二培養工程の培養条件は限定されず、例えば、培養温度は約30℃~約40℃、CO2濃度は約2%~約10%であってよく、接着培養であっても懸濁培養であってもよい。
【0047】
第二培養工程の時間は、後述する回収工程後に得られる目的の産物に応じて適宜選択することができる。第二培養工程は、例えば12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、又は42時間以上であってよく、また120時間以下、96時間以下、72時間以下、60時間以下、又は54時間以下であってよい。例えば、第二培養工程の時間は、12時間~120時間、24時間~72時間、42時間~54時間又は約48時間とすることができる。
【0048】
本明細書において、「目的の産物」とは、本発明の方法によって第二培養工程後に得られる培養上清に含まれる産物を指し、治療用タンパク質、ホルモン等の低分子、エクソソーム、ウイルス、又はこれらの組み合わせが挙げられる。治療用タンパク質は、限定するものではないが、例えば酵素、ペプチドホルモン等のホルモン、血液凝固因子、サイトカイン、増殖因子、又は抗体若しくは抗体断片の他、プログラニュリンやセマフォリン等が例示される。増殖因子の例としては、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDGF)、胎盤成長因子(PLGF)、骨形成因子(BMP)等が挙げられる。
【0049】
(回収工程)
本態様の方法は、第二培養工程後に得られる培養上清を回収する回収工程を必須工程として含む。回収方法は特に限定しない。回収された培養上清は、遠心分離及び/又は膜ろ過等により、細胞や細胞に由来するデブリを除去してもよい。
【0050】
(精製工程)
本態様の方法は、回収工程後に得られた培養上清から、目的の産物をさらに精製する工程を選択工程として含む。例えば、目的の産物がタンパク質であれば、常法により、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、また、目的の産物がエクソソームであれば、超遠心分離、免疫沈降、限外濾過、高分子沈殿法、フィールドフローフラクショネーション法、及び遠心フィールドフローフラクショネーション法等により精製することができる。
【0051】
(効果)
本態様の方法によれば、高濃度の生物活性物質を含む培養上清を生産することができる。本態様の方法では、細胞を薬物やホルモン等で刺激することなく高濃度の生物活性物質を含む培養上清を生産することができるため、培養上清を治療用途に用いる場合等に安全性を簡便に担保することができることも利点である。それ故、ヒトに対して適用した場合に、アレルギー反応等の副作用を生ずるリスクが低く、例えばヒトにおいて医療用途、化粧品用途、健康食品用途の少なくとも一つ以上に用いることができる。
【0052】
<培養上清>
一態様において、本発明は、本明細書に記載される方法により生産される培養上清に関する。本発明の培養上清は、培養を行う細胞の種類や培養条件に応じて、様々な物質を含み得る。例えば、培養上清は、遺伝子組換えを行っていない細胞が分泌する天然のタンパク質、及び/又はエクソソームを含んでもよいし、遺伝子組換えを行った細胞が分泌する組換えタンパク質、及び/又はエクソソームを含んでもよい。培養上清に含まれるタンパク質の例として、治療用タンパク質、例えば酵素、ホルモン、血液凝固因子、サイトカイン、増殖因子、抗体等、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
本発明の培養上清は、そのまま用いてもよいし、凍結乾燥等によって、必要に応じて製剤化を行って用いてもよい。製剤化は、医薬的に許容される担体や添加物を用いて、常法に従って行うことができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国を参照されたい)。例えば、本発明の培養上清を含む組成物、並びに本発明の培養上清及び医薬的に許容される担体や添加物を含む組成物(例えば医薬組成物)も提供される。
【0054】
医薬的に許容される担体及び添加物の例としては、限定されるものではないが、水、医薬的に許容される有機溶剤、例えばポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、及びキサンタンガム等の増粘剤;ワセリン及びパラフィン等の脂質;マンニトール、ソルビトール、ラクトース等の糖アルコール、及び糖類;Tween 80及びTween 20等の界面活性剤等が挙げられ、添加物は単独で又は適宜組み合わせて用いられる。
【0055】
本態様の培養上清によれば、本態様の培養上清を被験体に投与する工程を含む、疾患を治療する方法、被験体の損傷を治癒する方法、及び被験体において免疫を抑制する方法が提供される。疾患の例として、肝炎、肝硬変、神経再生、脊髄損傷、変形性関節症、慢性疼痛、脳梗塞、アルツハイマー型認知症、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、低酸素性虚血性脳症、末梢神経障害、糖尿病、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、虚血性心疾患、心不全、間質性肺炎、骨欠損、顎骨壊死、歯周病、アレルギー性皮膚炎、脱毛症、末梢動脈疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、膠原病、慢性腎不全、腹圧性尿失禁、うつ病、慢性頭痛、不眠症、眼精疲労、褥瘡、重度熱傷、腹圧性尿失禁、骨粗しょう症、難治性骨折、更年期障害、浮腫、及びギランバレー症候群が挙げられる。
【0056】
また、本態様の培養上清によれば、疾患の治療において使用するための培養上清、損傷治癒において使用するための培養上清、及び免疫抑制における使用のための培養上清が提供される。
【0057】
疾患の治療、損傷治癒、又は免疫抑制のための医薬の製造における、本態様の培養上清の使用もまた提供される。
【0058】
<サイトカイン及び/又はエクソソームの含有量を増加させる方法>
一態様において、本発明は、培養上清においてサイトカイン、及び/又はエクソソームの含有量を増加させる方法に関する。本態様の方法は、解凍工程、第一培養工程、除去工程、第二培養工程、及び回収工程を必須工程として含む。また、選択工程として、増殖工程、繰り返し工程、洗浄工程、及び精製工程等の他の工程を含んでもよい。さらなる選択工程として、解凍工程の前に、前培養工程、置換工程、及び凍結工程を含んでもよい。本発明の方法を構成する各工程のうち、回収工程以外の工程は、上述の培養上清を生産する方法に準じるものとする。それ故、これらの工程についての説明は省略し、ここでは本態様の方法における回収工程についてのみ以下説明する。
【0059】
(回収工程)
本態様の方法において、回収工程は、第二培養工程後に得られるサイトカイン、及び/又はエクソソームを含む培養上清を回収する工程である。
【0060】
本工程で回収したサイトカイン、及び/又はエクソソームを含む培養上清は、遠心分離及び/又は膜ろ過等により、細胞や細胞に由来するデブリを除去してもよい。また、培養上清中のサイトカイン、及び/又はエクソソームを常法により精製することもできる。例えば、サイトカインをゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により生成することができる。また、エクソソームを超遠心分離、免疫沈降、限外濾過、高分子沈殿法、フィールドフローフラクショネーション法、遠心フィールドフローフラクショネーション法等により精製することができる。
【0061】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0062】
<実施例1:解凍した細胞を用いた培養上清の生産>
(目的)
解凍後の細胞を用いて培養上清を生産する際に生物活性物質の含有量が向上し得る条件について検討する。
【0063】
(方法)
本実施例では、凍結及び解凍を含む方法(方法A~C)、及び凍結及び解凍を含まない方法(対照1)の各方法により培養上清を生産した。各々の方法に含まれる各工程を以下で説明し、その概要を
図3に図示する。
【0064】
方法A:方法Aは、後述する(1)前培養、(2)細胞の凍結、(3)細胞の解凍、(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養の(4-1)方法A、(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む(
図3、「方法A」)。
【0065】
方法B:方法Bは、後述する(1)前培養、(2)細胞の凍結、(3)細胞の解凍、(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養の(4-2)方法B、(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む(
図3、「方法B」)。
【0066】
方法C:方法Cは、後述する(1)前培養、(2)細胞の凍結、(3)細胞の解凍、(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養の(4-3)方法C、(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む(
図3、「方法C」)。
【0067】
凍結及び解凍を含まない方法(対照1):対照として行った方法には、後述する(2)細胞の凍結、及び(3)細胞の解凍が含まれない。この方法(対照1)は、後述する(1)前培養の後に無血清培地で培養を行い、次いで(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む(
図3、「対照1」)。
【0068】
以下、各工程について説明する。
(1)前培養
皮下脂肪由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSC)を血清含有培地で培養した。血清含有培地として、FBSを添加したPRIME-XV MSC Expansion XSFM(Irvine Scientific、#91149-1L)を使用した。
【0069】
培養用容器内での間葉系幹細胞の細胞密度が80%程度に達した後に、細胞を金属イオン不含リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffer Saline(-):PBS(-))で洗浄した。次いで細胞剥離液であるアクターゼ(Innovative Cell Technologies、#AT104-500)により細胞を培養用容器から剥離した。培地を加えて細胞を遠心チューブに移した。
【0070】
低速遠心操作(1,200rpm、5分)により細胞を上記の溶液から分離し、上澄み液を廃棄した。PBS(-)により細胞を再浮遊させることで洗浄した。細胞浮遊液を一部分取し、細胞数を計測した。低速遠心操作により、再び細胞を分離した。
【0071】
(2)細胞の凍結
細胞密度が1~3×106細胞/mLとなるようにバンバンカー(GCリンフォテック、#CS-02-001)を加えて、1.5mLのクライオチューブに1mL分注した。
【0072】
分注したクライオチューブを4℃で予冷しておいたBICELL(登録商標)(日本フリーザー)製の凍結容器に入れ、同容器を-80℃の冷凍庫に3時間以上静置し、-0.5℃/分~-0.4℃/分の冷却速度で細胞を凍結した。凍結された細胞は、解凍するまで-80℃又は液体窒素を用いた保存タンクで保存した。
【0073】
(3)細胞の解凍
上記(1)で凍結保存した細胞を37℃で素早く解凍した。解凍された1mLの細胞を遠心チューブに移し、10倍量のDulbecco Minimum Essential Media(DMEM)をゆっくり加えた。
【0074】
低速遠心操作により、細胞を上記溶液から分離した。PBS(-)を加え、細胞を浮遊させた。細胞浮遊液を一部分取し、細胞数を計測した。
低速遠心操作により、細胞を分離した。
【0075】
(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養
上記(3)で分離した細胞を培養した。培養方法は方法A、方法B、及び方法Cで異なり、以下の(4-1)~(4-3)の各々で具体的に説明する。
【0076】
(4-1)方法A
上記(3)で分離した細胞を無血清培地に再懸濁した。無血清培地として、FBS無添加のPRIME-XV MSC Expansion XSFMを用いた。次いで、同じ無血清培地を入れた培養容器に、約2.7×104細胞/cm2となるように細胞を播種した。
【0077】
培養開始から48時間後、培養用容器内での細胞密度が95%程度に達した時点で培地を除去した。
【0078】
(4-2)方法B
上記(3)で分離した細胞を血清含有培地に再懸濁した。血清含有培地として、FBSを添加したPRIME-XV MSC Expansion XSFMを用いた。同じ血清含有培地を入れた培養容器に、約0.8~1.3×104細胞/cm2となるように細胞を播種した。
【0079】
培養開始から約48時間後、培養用容器内での細胞密度が80%程度に達した時点で細胞をPBS(-)で洗浄した。次いで、アクターゼにより細胞を培養用容器から剥離し、培地を加えて細胞を遠心チューブに移した。
【0080】
低速遠心操作により細胞を上記溶液から分離し、上澄み液を廃棄した。PBS(-)により細胞を再浮遊させることで洗浄した。細胞浮遊液を一部分取し、細胞数を計測した。低速遠心操作により、再び細胞を分離した。
【0081】
次いで、分離した細胞を無血清培地に再懸濁した。無血清培地として、FBS無添加のPRIME-XV MSC Expansion XSFMを用いた。1.3×104細胞/cm2となるように、同じ無血清培地を入れた培養容器に細胞を播種した。
【0082】
培養開始から48時間後、培養用容器内での細胞密度が95%程度に達した時点で培地を除去した。
【0083】
(4-3)方法C
上記(3)で分離した細胞を血清含有培地に再懸濁した。血清含有培地として、FBSを添加したPRIME-XV MSC Expansion XSFMを用いた。同じ血清含有培地を入れた培養容器に、約0.8~1.3×104細胞/cm2となるように細胞を播種した。
【0084】
培養開始から約48時間後、培養用容器内での細胞密度が80%程度に達した時点で細胞をPBS(-)で洗浄した。次いで、アクターゼにより細胞を培養用容器から剥離し、培地を加えて細胞を遠心チューブに移した。
【0085】
低速遠心操作により細胞を上記溶液から分離し、上澄み液を廃棄した。PBS(-)により細胞を再浮遊させることで洗浄した。細胞浮遊液を一部分取し、細胞数を計測した。低速遠心操作により、細胞を再分離した。
【0086】
次いで、再分離した細胞を血清含有培地に再懸濁し、上と同様の方法により、血清含有培地での約48時間培養から再分離までを繰り返した。
【0087】
その後、細胞を無血清培地に再懸濁した。無血清培地として、FBS無添加のPRIME-XV MSC Expansion XSFMを用いた。1.3×104細胞/cm2となるように、同じ無血清培地を入れた培養容器に細胞を播種した。
【0088】
培養開始から48時間後、培養用容器内での細胞密度が95%程度に達した時点で培地を除去した。
【0089】
(5)基本培地での培養
培養液を除去したフラスコ内の細胞を、段階的に増やした液量(10mL、20mL、30mL、及び40mL)のPBS(-)により計4回洗浄した。基本培地をそれぞれのフラスコに加え、48時間培養した。なお、基本培地としてFBSを含まないDMEM培地を使用した。
【0090】
(6)培養上清の回収と生物活性物質含有量の評価
基本培地で48時間培養した後、培養液を回収して高速遠心操作によりデブリを除去し、培養上清を得た。一部の培養上清を用いて、HGF、VEGF、プログラニュリン含量を、サンドウィッチELISA法により定量した。HGFはQuantikine ELISA Human HGF Immunoassay(R&D Systems、#DHG00B)、VEGFはQuantikine ELISA Human VEGF Immunoassay(R&D Systems、#DVE00)、プログラニュリンはProgranulin (human) ELISA kit(AdipoGen Life Science、#AG-45A-0018YEK-KI01)を用いて測定した。また、エクソソーム含有量については、CD63-Capture ヒトエクソソームELISAキット(富士フイルム和光純薬、#290-83601)を用いて測定した。測定方法については、キットに付属の説明書に従って実施した。簡潔に説明すると、キットに従って、必要量の培養上清を96ウェルプレートの各ウェルに添加した。所定のインキュベーション時間の後、培養上清を添加したウェルを付属の洗浄液により4回洗浄した。各キット付属の検出抗体を添加してさらにインキュベーションした後に、ウェルを洗浄した。洗浄後の各ウェルにTMB基質を添加して発色反応を10分又は30分行い、反応停止液により発色反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0091】
(結果)
方法A~C、及び対照1の各方法により生産した培養上清において生物活性物質の含有量を測定した結果を
図4に示す。
【0092】
図4に示す結果から、凍結及び解凍を含まない対照1と比較して、凍結及び解凍を含む方法A~Cでは、培養上清中の生物活性物質の含有量が多いことが示された。また、方法A~Cを比較した結果、解凍後の継代数が少ないほど培養上清中の生物活性物質の含有量が多いことが示された。特に、方法B及びC並びに対照1の各方法と比較して、方法Aによって生産した培養上清において生物活性物質の含有量が大幅に増加した。具体的にはHGF、VEGF、プログラニュリン、及びエクソソームのいずれの含有量も、方法Aによって生産した細胞上清で最大となった。
【0093】
本実施例の結果から、凍結解凍を行った細胞の培養上清には高濃度の生物活性物質が含まれることが示された。この効果は、解凍後少なくとも数代の継代を行った後の細胞を使用して培養上清を生産することが好ましいとする当該技術分野の技術常識に反する驚くべき結果である。
【0094】
<実施例2:解凍後の培養条件>
(目的)
解凍後の細胞を培養する条件をさらに検討する。具体的には、解凍後の細胞を培養する培地の種類、及び継代の有無による、培養上清中の生物活性物質含有量に対する影響を検討する。
【0095】
(方法)
凍結及び解凍を含む方法(方法D~F)、及び凍結及び解凍を含まない方法(対照2)の各方法により培養上清を生産した。各々の方法に含まれる各工程を以下で説明し、その概要を
図5に示す。
【0096】
方法D:方法Dは、実施例1に記載の、(1)前培養、(2)細胞の凍結、(3)細胞の解凍、(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養の(4-2)方法B、(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む。但し、(4-2)方法Bにおいて、血清含有培地及び無血清培地での培養時間はそれぞれ2日間とする(
図5、「方法D」)。
【0097】
方法E:方法Eは、実施例1に記載の、(1)前培養、(2)細胞の凍結、(3)細胞の解凍、(4)無血清培地及び/又は血清含有培地での培養の(4-1)方法A、(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む。但し、(4-1)方法Aにおいて、無血清培地での培養時間は4日間とした(
図5、「方法E」)。
【0098】
方法F:方法Fは、方法Eにおいて無血清培地での培養に代えて血清含有培地での培養を行う方法である(
図5、「方法F」)。血清含有培地は、FBSを添加したPRIME-XV MSC Expansion XSFMを使用し、培養時間は4日間とした。
【0099】
凍結及び解凍を含まない方法(対照2):対照として行った方法は、実施例1に記載の(2)細胞の凍結及び(3)細胞の解凍を含まない。この方法(対照2)は、(1)前培養の後に無血清培地で培養を行い、次いで(5)基本培地での培養、及び(6)培養上清の回収の各工程を含む。但し、(1)前培養の培養期間は2日間とし、無血清培地での培養期間は2日間とした(
図3、「対照2」)。
【0100】
(結果)
方法D~F、及び対照2の各方法により生産した培養上清において生物活性物質の含有量を測定した結果を
図6に示す。
【0101】
図6に示す結果から、方法Fと比較して、方法D及びEによって生産した細胞上清においてHGFの含有量が大幅に増加することが判明した。よって、解凍後の培養が無血清培地での培養を含むことにより、生物活性物質含量が顕著に増大する効果が示された。
【0102】
また、
図6に示す結果において、方法Dと方法Eの結果を比較すると、解凍後の培養を同じ期間行う場合には、無血清培地での培養の前に血清含有培地での培養を行う方が生物活性物質含量を増大し得ることも示された。