(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094888
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】ジャンクションバリアショットキーダイオード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20230629BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230629BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20230629BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
H01L29/86 301F
H01L29/91 K
H01L29/86 301D
H01L29/91 F
H01L29/86 301M
H01L29/91 D
H01L29/86 301P
H01L29/48 D
H01L29/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210457
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高塚 章夫
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA03
4M104AA07
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB06
4M104BB07
4M104BB09
4M104BB13
4M104BB14
4M104BB16
4M104BB18
4M104CC03
4M104DD35
4M104FF01
4M104FF02
4M104FF06
4M104FF27
4M104GG02
4M104GG03
4M104GG18
(57)【要約】
【課題】サージ耐性に優れ、スイッチング動作時のエネルギー損失が抑えられた、トレンチ構造を備えたジャンクションバリアショットキーダイオード及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、複数のトレンチ111を有するn型半導体層11と、複数のトレンチ111の内面に接して設けられたp型半導体膜12と、n型半導体層11の第1の面113上に、n型半導体層11のメサ形状部112と接触して設けられ、その一部が複数のトレンチ111内においてp型半導体膜12に覆われるアノード電極13と、n型半導体層11の第2の面114上に直接又は他の層を介して設けられたカソード電極14と、を備えた、ジャンクションバリアショットキーダイオード1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面に開口する複数のトレンチを有する、n型半導体からなるn型半導体層と、
前記複数のトレンチの内面に接して設けられた、p型半導体からなるp型半導体膜と、
前記n型半導体層の前記第1の面上に、前記n型半導体層の前記複数のトレンチの間のメサ形状部と接触して設けられ、その一部が前記複数のトレンチ内において前記p型半導体膜に覆われるアノード電極と、
前記n型半導体層の前記第1の面の反対側の第2の面上に直接又は他の層を介して設けられたカソード電極と、
を備え、
前記p型半導体の電子親和力χpと仕事関数φp、及び前記n型半導体の電子親和力χnと仕事関数φnが、χn-χp>φp-φnの式で表される条件を満たす、
ジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項2】
前記n型半導体層と前記p型半導体膜が異なる半導体からなる、
請求項1に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項3】
前記n型半導体層が酸化ガリウム系半導体からなる、
請求項2に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項4】
前記p型半導体が、Cu2O、NiO、Ag2O、多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSi、SnO、又はCuOを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項5】
n型半導体からなるn型半導体層の第1の面に複数のトレンチを形成する工程と、
前記複数のトレンチの内面に接するp型半導体からなるp型半導体膜を形成する工程と、
前記n型半導体層の前記第1の面上に、その一部が前記複数のトレンチ内において前記p型半導体膜に覆われるアノード電極を形成する工程と、
前記n型半導体層の前記第1の面の反対側の第2の面上に直接又は他の層を介してカソード電極を形成する工程と、
を含み、
前記p型半導体の電子親和力χpと仕事関数φp、及び前記n型半導体の電子親和力χnと仕事関数φnが、χn-χp>φp-φnの式で表される条件を満たす、
ジャンクションバリアショットキーダイオードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャンクションバリアショットキーダイオード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、n型半導体基板上に形成された、n型半導体基板と反対側の面に開口するトレンチを有するn型半導体層と、n型半導体層のトレンチ内に埋め込まれたp型半導体層と、n型半導体層上にp型半導体層と接触するように形成されたアノード電極と、n型半導体基板のn型半導体層と反対側の面上に形成されたカソード電極と、を備えるトレンチ型ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のトレンチ型JBSダイオードによれば、アノード電極とカソード電極との間に逆方向の電圧が印加されたときにはショットキー障壁により電流は流れず、このとき、p型半導体層から空乏層が広がり、隣接するp型半導体層間のチャネルが閉じるため、リーク電流が効果的に抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のトレンチ型JBSダイオードによれば、p型半導体層がトレンチ内の全領域に埋め込まれているため、p型半導体層の電気抵抗が大きい。このため、サージ電流が発生した際の発熱が大きく、p型半導体層周辺の接続部分が損傷しやすくなるおそれがある。すなわち、サージ耐性が低くなる原因となる場合がある。また、p型半導体層の電気抵抗が大きいと、pn接合付近の空乏領域の形成、消滅のための充放電に必要な電化の移動の妨げになるため、スイッチング動作時のエネルギー損失が大きくなる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、サージ耐性に優れ、スイッチング動作時のエネルギー損失が抑えられた、トレンチ構造を備えたジャンクションバリアショットキーダイオード及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[4]のジャンクションバリアショットキーダイオード、及び下記[5]のジャンクションバリアショットキーダイオードの製造方法を提供する。
【0008】
[1]第1の面に開口する複数のトレンチを有する、n型半導体からなるn型半導体層と、前記複数のトレンチの内面に接して設けられた、p型半導体からなるp型半導体膜と、前記n型半導体層の前記第1の面上に、前記n型半導体層の前記複数のトレンチの間のメサ形状部と接触して設けられ、その一部が前記複数のトレンチ内において前記p型半導体膜に覆われるアノード電極と、前記n型半導体層の前記第1の面の反対側の第2の面上に直接又は他の層を介して設けられたカソード電極と、を備え、前記p型半導体の電子親和力χpと仕事関数φp、及び前記n型半導体の電子親和力χnと仕事関数φnが、χn-χp>φp-φnの式で表される条件を満たす、ジャンクションバリアショットキーダイオード。
[2]前記n型半導体層と前記p型半導体膜が異なる半導体からなる、上記[1]に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
[3]前記n型半導体層が酸化ガリウム系半導体からなる、上記[2]に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
[4]前記p型半導体が、Cu2O、NiO、Ag2O、多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSi、SnO、又はCuOを含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
[5]n型半導体からなるn型半導体層の第1の面に複数のトレンチを形成する工程と、前記複数のトレンチの内面に接するp型半導体からなるp型半導体膜を形成する工程と、前記n型半導体層の前記第1の面上に、その一部が前記複数のトレンチ内において前記p型半導体膜に覆われるアノード電極を形成する工程と、前記n型半導体層の前記第1の面の反対側の第2の面上に直接又は他の層を介してカソード電極を形成する工程と、を含み、前記p型半導体の電子親和力χpと仕事関数φp、及び前記n型半導体の電子親和力χnと仕事関数φnが、χn-χp>φp-φnの式で表される条件を満たす、ジャンクションバリアショットキーダイオードの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サージ耐性に優れ、スイッチング動作時のエネルギー損失が抑えられた、トレンチ構造を備えたジャンクションバリアショットキーダイオード及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードの垂直断面図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、p型半導体膜の変形例を示すJBSダイオードの垂直断面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、p型半導体膜の他の変形例を示すJBSダイオードの垂直断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、本実施の形態に係るJBSダイオードの製造工程を説明するための垂直断面図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、本実施の形態に係るJBSダイオードの製造工程を説明するための垂直断面図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、本実施の形態に係るJBSダイオードの製造工程を説明するための垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(JBSダイオードの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオード1の垂直断面図である。JBSダイオード1は、トレンチ構造を有する縦型のJBSダイオードである。
【0012】
JBSダイオード1は、第1の面113に開口する複数のトレンチ111を有するn型半導体層11と、n型半導体層11のトレンチ111の内面に接して設けられたp型半導体膜12と、n型半導体層11の第1の面113上に、n型半導体層11の複数のトレンチ111の間のメサ形状部112と接触して設けられ、その一部分132が複数のトレンチ内においてp型半導体膜12に覆われるアノード電極13と、n型半導体層11の第1の面113の反対側の第2の面114上に直接又は他の層を介して設けられたカソード電極14と、を備える。
【0013】
典型的には、JBSダイオード1は、
図1に示されるように、n型半導体層11のエピタキシャル成長の下地としてのn型半導体基板10を備え、n型半導体層11の第2の面114がn型半導体基板10と接触する。この場合、カソード電極14はn型半導体基板10のn型半導体層11と反対側の面上に設けられる。すなわち、カソード電極14は、n型半導体層11の第2の面114上にn型半導体基板10を介して設けられる。
【0014】
n型半導体層11とアノード電極13とは、ショットキー接合を形成し、JBSダイオード1は、このショットキー接合の整流性を利用している。JBSダイオード1においては、アノード電極13とカソード電極14との間に順方向の電圧(アノード電極13側が正電位)を印加することにより、n型半導体層11から見たアノード電極13とn型半導体層11との界面のポテンシャル障壁が低下し、アノード電極13からカソード電極14へ電流が流れる。
【0015】
一方、アノード電極13とカソード電極14との間に逆方向の電圧(アノード電極13側が負電位)を印加したときは、ショットキー障壁により、電流は流れない。このとき、トレンチ111内のp型半導体膜12から空乏層が広がり、隣接するトレンチ111間のメサ形状部112においてチャネルが閉じるため、リーク電流が効果的に抑制される。
【0016】
本実施の形態に係るJBSダイオード1は、トレンチ型JBS構造を有するため、n型半導体層11の抵抗を増加することなく、高い耐圧を得ることができる。すなわち、JBSダイオード1は、高耐圧かつ低損失のショットキーバリアダイオードである。
【0017】
n型半導体基板10は、ドナーとしてのSi、SnなどのIV族元素を含むn型の酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。n型半導体基板10のドナー濃度は、例えば、1.0×1016cm-3以上かつ1.0×1022cm-3以下であり、好ましくは1.0×1018cm-3以上かつ1.0×1022cm-3以下である。n型半導体基板10の厚さは、例えば、5μm以上かつ650μm以下である。
【0018】
ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga2O3、又は、Al、Inの一方若しくは両方が添加されたGa2O3であり、(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。Ga2O3にAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。なお、上記の酸化ガリウム系半導体の単結晶は、典型的には、β型の結晶構造を有する。例えば、酸化ガリウム系半導体の典型例であるGa2O3のバンドギャップエネルギーは4.5~4.9eVであり、絶縁破壊電界強度は、約8.0MV/cmである。
【0019】
n型半導体層11は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型の酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。n型半導体層11のドナー濃度は、n型半導体基板10のドナー濃度よりも低い。n型半導体層11は、例えば、n型半導体基板10上にエピタキシャル成長したエピタキシャル層である。
【0020】
なお、n型半導体基板10とn型半導体層11との間に、高濃度のドナーを含む高ドナー濃度層を形成してもよい。この高ドナー濃度層は、例えば、n型半導体基板10上にn型半導体層11をエピタキシャル成長させる場合に用いられる。n型半導体層11の成長初期は、ドーパントの取り込み量が不安定であったり、n型半導体基板10からのアクセプター不純物の拡散があったりするため、n型半導体基板10上にn型半導体層11を直接成長させると、n型半導体層11のn型半導体基板10との界面に近い領域が高抵抗化する場合がある。このような問題を避けるため、高ドナー濃度層が用いられる。高ドナー濃度層のドナー濃度は、例えば、n型半導体層11のドナー濃度よりも高く設定され、より好ましくは、n型半導体層11のドナー濃度の10倍以上に設定される。
【0021】
n型半導体層11のドナー濃度が増加するほど、JBSダイオード1の各部の電界強度が増加する。n型半導体層11のドナー濃度は、例えば、2×1014cm-3以上かつ4×1017cm-3以下である。そして、JBSダイオード1が400V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が4×1017cm-3以下であることが好ましく、8×1015cm-3以上かつ4×1017cm-3以下であることがより好ましい。
【0022】
また、JBSダイオード1が600V以上の耐圧を得るためには、2×1017cm-3以下であることが好ましく、4×1015cm-3以上かつ2×1017cm-3以下であることがより好ましい。JBSダイオード1が1200V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が1×1017cm-3以下であることが好ましく、2×1015cm-3以上かつ1×1017cm-3以下であることがより好ましい。
【0023】
JBSダイオード1が2200V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が8×1016cm-3以下であることが好ましく、1.6×1015cm-3以上かつ8×1016cm-3以下であることがより好ましい。JBSダイオード1が3300V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が5×1016cm-3以下であることが好ましく、1×1015cm-3以上かつ5×1016cm-3以下であることがより好ましい。
【0024】
JBSダイオード1が5000V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が3×1016cm-3以下であることが好ましく、6×1014cm-3以上かつ3×1016cm-3以下であることがより好ましい。JBSダイオード1が10000V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11のドナー濃度が1×1016cm-3以下であることが好ましく、2×1014cm-3以上かつ1×1016cm-3以下であることがより好ましい。
【0025】
設計耐圧に等しい逆方向電圧をJBSダイオード1に加えたときに各部に発生する電界が絶縁破壊電界より小さくなるようにn型半導体層11の厚さTが設計されているとき、トレンチ111の深さDが深いほど、逆方向電圧を加えたときのアノード電極13と第1の面113のショットキー界面の電界を低減することができる。一方で、トレンチ111の深さDが深すぎると、JBSダイオード1のアノード電極13とカソード電極14の間の電気抵抗が増大する。このため、トレンチ111の深さDは、0.5μm以上かつ5μm以下であることが好ましい。
【0026】
n型半導体層11の厚さTは、例えば、第1の面113から計測されるトレンチ111の深さDに0.5~110μmを加算した値を有する。そして、JBSダイオード1が400V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに0.6~9μmを加算した値を有することが好ましく、0.6~6μmを加算した値を有することがより好ましい。
【0027】
また、JBSダイオード1が600V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに0.8~11μmを加算した値を有することが好ましく、0.8~7μmを加算した値を有することがより好ましい。JBSダイオード1が1200V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに1.5~20μmを加算した値を有することが好ましく、1.5~12μmを加算した値を有することがより好ましい。
【0028】
JBSダイオード1が2200V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに4~40μmを加算した値を有することが好ましく、4~25μmを加算した値を有することがより好ましい。JBSダイオード1が3300V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに5~50μmを加算した値を有することが好ましく、5~30μmを加算した値を有することがより好ましい。
【0029】
JBSダイオード1が5000V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに7~90μmを加算した値を有することが好ましく、7~55μmを加算した値を有することがより好ましい。JBSダイオード1が10000V以上の耐圧を得るためには、n型半導体層11の厚さTは、トレンチ111の深さDに12~180μmを加算した値を有することが好ましく、12~110μmを加算した値を有することがより好ましい。
【0030】
トレンチ111の幅Wtは、狭いほど導通損失を低減できるが、狭いほど製造難度が上がり、それに起因して製造歩留まりが低下するため、0.3μm以上かつ5μm以下であることが好ましい。
【0031】
n型半導体層11の隣接するトレンチ111の間のメサ形状部112の幅Wmが低減するほど、メサ形状部112中のアノード電極13直下の電界強度及びn型半導体層11とp型半導体膜12の接合部の電界強度が低減する。これらの電界強度を効果的に低減するためには、メサ形状部112の幅Wmが5μm以下であることが好ましい。一方、メサ形状部112の幅Wmが小さいほどトレンチ111の製造難度が上がるため、メサ形状部112の幅Wmが0.25μm以上であることが好ましい。
【0032】
アノード電極13は、トレンチ111の外側の部分131と、トレンチ111の内側の部分132を含む。アノード電極13は、アノード電極13のn型半導体層11と接触する部分がn型半導体層11とショットキー接合を形成する材料からなる。すなわち、アノード電極13が単層構造を有する場合はその全体がn型半導体層11とショットキー接合を形成する材料からなり、多層構造を有する場合は少なくともn型半導体層11と接触する層がn型半導体層11とショットキー接合を形成する材料からなる。
【0033】
アノード電極13のn型半導体層11と接触する部分の材料としては、例えば、酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層11とショットキー接合を形成するPt、Ni、Au、Cu、Mo、W、Fe、Pd、又はCrを用いることができる。
【0034】
例えば、n型半導体層11がGa2O3からなる場合、アノード電極13の材料にPt又はNiを用いると、JBSダイオード1の立ち上がり電圧は0.7以上かつ1.2V以下となり、アノード電極13の材料にMoを用いると、JBSダイオード1の立ち上がり電圧は0.3以上かつ0.8V以下となる。
【0035】
JBSダイオード1においては、メサ形状部112にポテンシャル障壁が形成されるため、立ち上がり電圧はメサ形状部112の幅Wmに依存し、幅Wmが小さくなるほど大きくなる。
【0036】
JBSダイオード1中の電界強度は、上述のように、隣接する2つのトレンチ111の間のメサ形状部112の幅Wm、トレンチ111の深さD等の影響を受けるが、トレンチ111の平面パターンにはほとんど影響を受けない。このため、n型半導体層11のトレンチ111の平面パターンは特に限定されない。また、トレンチ111の平面パターンがメサ形状部112を形成する平面パターン(例えば網目状パターン)であれば、複数のトレンチ111は連続した1つのトレンチに含まれるものであってもよい。
【0037】
カソード電極14は、JBSダイオード1がn型半導体基板10を備える場合には、n型半導体基板10とオーミック接触する。カソード電極14は、Tiなどの金属からなる。カソード電極14は、異なる金属膜を積層した多層構造、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Ni/Au、又はTi/Al/Ni/Auを有してもよい。カソード電極14とn型半導体基板10を確実にオーミック接触させるため、カソード電極14のn型半導体基板10と接触する層がTiからなることが好ましい。なお、JBSダイオード1がn型半導体基板10を備えず、カソード電極14がn型半導体層11に直接接続される場合は、n型半導体層11とオーミック接触する。
【0038】
p型半導体膜12は、JBSダイオード1のサージ耐性を向上させるために用いられる。p型半導体膜12は、スパッタ法、CVD法などによる堆積により成膜される堆積膜であり、トレンチ111の内面にイオン注入法による不純物注入を行うことによりn型半導体層11の一部として形成される領域ではない。
【0039】
通常、pnダイオードはショットキーダイオードよりもオン電圧(順方向の立ち上がり電圧)が大きい。このため、JBSダイオード1がオンになる電圧でpnダイオード部分(p型半導体膜12とn型半導体層11のpn接合部)がオンしないような設計にすることができる。例えば、JBSダイオード1のオン電圧を1V程度、pnダイオード部分のオン電圧を2V程度とすることができる。
【0040】
これによって、JBSダイオード1の通常動作においてはpnダイオード部分がオンしないため、ショットキーダイオード本来の高速動作が可能になる。一方、突入電流発生時はJBSダイオード1の電圧が上昇し、pnダイオード部分がオンする電圧に達し、p型半導体膜12からn型半導体層11へ電流が注入される。
【0041】
そのとき、ドリフト層の抵抗が減少し、突入電流という大電流がJBSダイオード1を流れるが、電圧の上昇は抑えられるため、温度上昇が抑えられ、突入電流によるJBSダイオード1の損傷を防ぐことができる。
【0042】
p型半導体膜12は膜状であるため、上記の特許文献1に記載のトレンチ型JBSダイオードに含まれるp型半導体層のような、トレンチ内の全領域に埋め込まれたp型半導体層と比較して、電気抵抗が小さい。このため、サージ電流が発生した際の発熱が小さく、p型半導体膜周辺の接続部分の損傷を抑えることができる。また、p型半導体膜12の電気抵抗が小さいため、JBSダイオード1のスイッチング動作時のエネルギー損失を抑えることができる。
【0043】
p型半導体膜12は、n型半導体層11との間にポテンシャル障壁を形成させるため、下記の式1で表される条件を満たす材料からなる。式1のχpとφpはそれぞれp型半導体膜12の材料であるp型半導体の電子親和力と仕事関数であり、χnとφnはそれぞれn型半導体層11の材料であるn型半導体の電子親和力と仕事関数である。なお、上記の仕事関数は、真空順位から見たフェルミ準位のエネルギーである。例えば、n型半導体層11の典型的な材料であるGa2O3のχnはおよそ4.0eVであり、φnはn型半導体層11のキャリア濃度によって変動するが、キャリア濃度1×1014cm-3~1×1019cm-3の範囲ではおよそ、4.3~4.0eVである。
【0044】
【0045】
p型半導体膜12の材料として用いることのできる、上記の式1で表される条件を満たすことのできる材料は、例えば、Cu2O、NiO、Ag2O、多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSi、SnO、CuO、などのp型半導体である。また、Cu2O、NiO、Ag2O、多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSi、SnO、CuOなどのp型半導体をp型半導体膜12がp型になる程度の濃度で含む混合物をp型半導体膜12の材料に用いることもできる。
【0046】
すなわち、p型半導体膜12の材料であるp型半導体は、例えば、Cu2O、NiO、Ag2O、多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSi、SnO、又はCuOを含む。Cu2O、NiO、SnOはドーパントを添加しなくてもp型の導電性を示すが、Li、窒素(N)などのアクセプター不純物を含んでもよい。多結晶Si、単結晶Si、アモルファスSiは、B、Alなどのアクセプター不純物を含むことが好ましい。
【0047】
p型半導体膜12のキャリア濃度は、JBSダイオード1に逆方向電圧を印加したときにp型半導体膜12内にn型半導体層11との界面より発生する空乏層の厚さが増してアノード電極13に達しないようにするため、n型半導体層11のキャリア濃度よりも高いことが好ましい。
【0048】
また、p型半導体膜12の厚さdは、所望のJBSダイオード1の耐圧を得るため、下記の式2で表される条件を満たすことが好ましい。式2のVBRは所望の耐圧(設計耐圧)、NDはn型半導体層11のキャリア濃度、NAはp型半導体膜12のキャリア濃度、εnはn型半導体層11の誘電率、qは電気素量である。
【0049】
【0050】
例えば、酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層11のキャリア濃度が1×1016cm-3、p型半導体膜12のキャリア濃度が1×1019cm-3であるとき、p型半導体膜12の厚さが200nm以上であれば、JBSダイオード1の耐圧を1200V以上とすることができる。
【0051】
図2(a)、(b)は、p型半導体膜の変形例を示すJBSダイオード1の垂直断面図である。JBSダイオード1において、p型半導体膜12の上端の高さは第1の面113の高さと一致している必要はない。すなわち、
図2(a)に示されるように、p型半導体膜12の上端が第1の面113よりも高くてもよく、
図2(b)に示されるように、p型半導体膜12の上端が第1の面113よりも低くてもよい。
【0052】
図3(a)、(b)は、p型半導体膜の他の変形例を示すJBSダイオード1の垂直断面図である。
図3(a)に示されるように、p型半導体膜12は、トレンチ111の内面に接するp型半導体膜121と、その内側に積層されたp型半導体膜122から構成されてもよい。p型半導体膜122の不純物濃度は、p型半導体膜121の不純物濃度よりも高い。
図3(a)に示される構造におけるp型半導体膜121のキャリア濃度は上記の(式2)で決まるキャリア濃度の制約よりも低く設定できるため、JBSダイオード1に逆方向電圧を印加した場合、p型半導体膜121及びn型半導体層11のトレンチコーナ部分(トレンチ111の底部の縁の湾曲部に近い部分)にかかる電界を、
図1の構造に比べ小さくすることができる。
【0053】
また、p型半導体膜122は、
図3(b)に示されるように、アノード電極13のトレンチ111の内側の部分132の底部周辺のみを覆う形状を有してもよい。この場合も、
図3(a)に示される構造におけるp型半導体膜121のキャリア濃度は上記の(式2)で決まるキャリア濃度の制約よりも低く設定できるため、JBSダイオード1に逆方向電圧を印加した場合、p型半導体膜121及びn型半導体層11のトレンチコーナ部分にかかる電界を、
図1の構造に比べより小さくすることができる。
【0054】
(JBSダイオードの製造方法)
以下に、JBSダイオード1の製造方法の一例を示す。
【0055】
図4(a)~(c)、
図5(a)~(c)、
図6(a)、(b)は、本実施の形態に係るJBSダイオード1の製造工程を説明するための垂直断面図である。まず、
図4(a)に示されるように、n型半導体基板10上に、HVPE法、CVD法、MBE法などによりドナー濃度を制御された酸化ガリウム系半導体の単結晶をエピタキシャル成長させ、n型半導体層11を形成する。
【0056】
次に、
図4(b)に示されるように、フォトリソグラフィとドライエッチングなどにより、n型半導体層11の第1の面113に複数のトレンチ111を形成する。トレンチ111の形成に用いられるドライエッチングの好ましい条件は、例えば、エッチングガスがBCl
3(30sccm)、圧力が1.0Pa、アンテナ出力が160W、バイアス出力が17W、時間が90分である。
【0057】
次に、
図4(c)に示されるように、スパッタ法、CVD法などにより、n型半導体層11の第1の面113側の全面にp型半導体を堆積させ、p型半導体膜12を形成する。この時点では、p型半導体膜12はトレンチ111の内面及び第1の面113を覆う。
【0058】
例えば、p型半導体膜12の材料としてCu2Oを用いる場合は、非特許文献“Appl. Phys. Lett. 111, 093501 (2017),Fabrication and characterization of sputtered Fabrication and characterization of sputtered Cu2O :N/c-Si heterojunction diode”に記載の方法を用いることができる。また、p型半導体膜12の材料としてNiOを用いる場合は、非特許文献“Appl. Phys. Lett. 117, 022104 (2020),A 1.86-kV double-layered NiO/β-Ga2O3-vertical pn heterojunction diode”に記載の方法を用いることができる。また、p型半導体膜12の材料として多結晶Si、アモルファスSi、単結晶Siを用いる場合は、それぞれ公知の成膜方法を用いることができる。
【0059】
次に、
図5(a)に示されるように、スピンコート法などによりp型半導体膜12の全面に、少なくともトレンチ111内の空隙が埋まる高さまでフォトレジスト20を堆積させる。このとき、フォトレジスト20の表面の凹凸の高低差が、p型半導体膜12の凹凸の高低差よりも小さくなるようにする。
【0060】
次に、
図5(b)に示されるように、フォトレジスト20をエッチバックして、第1の面113上のp型半導体膜12を露出させる。フォトレジスト20のエッチングには、例えば、酸素プラズマなどを利用したプラズマアッシャー装置を用いる。
【0061】
次に、
図5(c)に示されるように、p型半導体膜12をエッチングして、n型半導体層11の第1の面113を露出させる。例えば、p型半導体膜12がCu
2Oからなる場合は、p型半導体膜12のエッチングに、緩衝フッ酸液、希フッ酸、希釈王水、希硫酸などの酸性溶液を用いるウエットエッチング法や、ドライエッチング法を用いることができ、上記のウエットエッチング法とドライエッチング法を併用してもよい。
【0062】
次に、
図6(a)に示されるように、フォトレジスト20を除去する。フォトレジスト20の除去には、例えば、NMP、アセトンなどの有機系薬剤を用いる。
【0063】
次に、
図6(b)に示されるように、n型半導体層11の第1の面113上に、その一部分132が複数のトレンチ111内においてp型半導体膜12に覆われるようにアノード電極13を形成し、n型半導体基板10の底面にカソード電極14を形成する。アノード電極13とカソード電極14の形成には、例えば、電子ビーム蒸着法を用いる。
【0064】
p型半導体膜12はトレンチ111の内面を覆う膜であるため、トレンチ111をp型半導体で充填する場合と比較して、材料の堆積に要する時間が短く、また、トレンチ111の外側に形成された部分の除去に要する時間も短い。
【0065】
また、上記の方法では、p型半導体膜12のトレンチ111の外側に形成された部分を、フォトレジスト20を用いたレジストエッチバック法により除去しているが、CMPなどの研磨処理により除去してもよい。
【0066】
(変形例)
n型半導体層11は、酸化ガリウム系半導体以外の材料からなるものであってもよい。この場合も、そのn型半導体層11の材料の電子親和力χnと仕事関数φnと、p型半導体膜12の材料の電子親和力χpと仕事関数φpが上記の式1で表される条件を満たす。
【0067】
上述のように、p型半導体膜12は堆積膜であり、イオン注入によりn型半導体層11の一部として形成されるものではないため、n型半導体層11が酸化ガリウム系半導体のようなp型化が困難な材料からなる場合であっても、n型半導体層11と異なる材料(母材)を用いて形成することができる。
【0068】
n型半導体層11の絶縁破壊電界強度が大きいと、オン抵抗の増加を抑えつつ耐圧を大きくとることができる。このため、例えば、n型半導体層11は、絶縁破壊電界強度が1MV/cm以上、又はバンドギャップエネルギーが1以上の材料からなることが好ましい。
【0069】
n型半導体層11の材料として、酸化ガリウム系半導体の他、例えば、絶縁破壊電界強度が2.5MV/cm、バンドギャップエネルギーが3.3eVであるSiC、絶縁破壊電界強度が3.3MV/cm、バンドギャップエネルギーが3.4eVであるGaN、絶縁破壊電界強度が1.2~12MV/cm、バンドギャップエネルギーが0.6~6.2eVであるAlxInyGa1-x-yN、又は絶縁破壊電界強度が約8.0MV/cm、バンドギャップエネルギーが5.5eVであるダイヤモンドを用いることができる。
【0070】
また、n型半導体基板10も、酸化ガリウム系半導体以外の材料からなるものであってよい。n型半導体基板10の材料として、n型半導体層11と同様の材料を用いることができる。
【0071】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、サージ耐性に優れ、スイッチング動作時のエネルギー損失が抑えられた、トレンチ構造を備えたJBSダイオード1及びその製造方法を提供することができる。JBSダイオード1はサージ耐性が高く、立ち上がり電圧が低いので、例えば、ACDCコンバータなどの電力変換回路に好適に用いることができる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0073】
1…ジャンクションバリアショットキーダイオード、 10…n型半導体基板、 11…n型半導体層、 111…トレンチ、 112…メサ形状部、 113…第1の面、 114…第2の面、 12…p型半導体膜、 13…アノード電極、 14…カソード電極