(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094890
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】ヘッドレスト
(51)【国際特許分類】
B60N 2/80 20180101AFI20230629BHJP
B60N 2/891 20180101ALI20230629BHJP
B60N 2/809 20180101ALI20230629BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20230629BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20230629BHJP
A47C 31/11 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B60N2/80
B60N2/891
B60N2/809
B60N2/58
A47C7/38
A47C31/11 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210464
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石城 光芳
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084DA00
3B084DA04
3B087DC06
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】天板カバー部の折れ皺の発生を抑えることが可能なヘッドレストを提供すること。
【解決手段】ヘッドレスト1は、ヘッドレストパッド11を介してヘッドレストステー20によりシート幅方向に延びる支承フレーム22Aが最も低位置のフレームとなるようにシート後方から支えられる天板カバー部12Aを備えるヘッドレストカバー12を有する。天板カバー部12Aが、支承フレーム22Aよりもシート下方に張り出すように延びる延出部位12Cと、延出部位12Cがヘッドレストパッド11と共に支承フレーム22Aを支点にシート前後方向に曲げられる力を受けた際に支承フレーム22Aに沿って折り曲げられる折曲げ部位12Dとを有する。折曲げ部位12Dに、天板カバー部12Aを構成するカバーピース(C1,C2)がシート幅方向に沿ってインステッチで縫合される縫合部Sが形成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレストであって、
シート幅方向に延びる支承フレームを備えるヘッドレストステーと、
前記ヘッドレストステーに被せられるヘッドレストパッドと、
前記ヘッドレストパッドに被せられ、前記ヘッドレストパッドを介して前記支承フレームが最も低位置のフレームとなるように前記ヘッドレストステーによりシート後方から支えられる天板カバー部を備えるヘッドレストカバーと、を有し、
前記天板カバー部が、前記支承フレームよりもシート下方に張り出すように延びる延出部位と、該延出部位が前記ヘッドレストパッドと共に前記支承フレームを支点にシート前後方向に曲げられる力を受けることにより前記支承フレームに沿って折り曲げられる折曲げ部位と、を有し、
前記折曲げ部位に、前記天板カバー部を構成するカバーピースがシート幅方向に沿ってインステッチで縫合される縫合部が形成されるヘッドレスト。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドレストであって、
前記縫合部が、前記天板カバー部の前記支承フレームよりもシート上方に張り出す本体部位の第1カバーピースと前記延出部位の第2カバーピースとが縫合されて成り、かつ、これらの縫い代が折り返し状に開かれることなく前記ヘッドレストパッドにシート前方から真っ直ぐ突き当たる形に延び出す短尺な形状とされるヘッドレスト。
【請求項3】
請求項2に記載のヘッドレストであって、
前記ヘッドレストパッドが、前記ヘッドレストカバー及び前記ヘッドレストステーと一体発泡成形され、
前記天板カバー部に各前記縫い代をカバー裏側から覆うように貼着されて各前記縫い代に前記ヘッドレストパッドの発泡樹脂原料が含浸するのを防止する貼着フィルムを更に有するヘッドレスト。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のヘッドレストであって、
前記支承フレームが、シート幅方向に丸棒状に延びる構成とされ、
前記縫合部が、前記支承フレームの最もシート前方に突出する突出ラインに沿って前記突出ラインよりも低位置に設けられるヘッドレスト。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のヘッドレストであって、
当該ヘッドレストが、乗員の頭部を側面視逆L字型のクッション構造で支える鞍型構造とされるヘッドレスト。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のヘッドレストであって、
前記ヘッドレストステーが、前記ヘッドレストパッドからシート下方に延び出る一対の脚部及び一対の前記脚部の上端からこれらの間を繋ぐように前記ヘッドレストパッド内をシート前方に平面視U字状に延び出る繋ぎ部を有する丸棒状部材から成るステー本体と、前記繋ぎ部のU字のシート幅方向に延びる架渡部位に接合されて前記架渡部位から前記ヘッドレストパッド内をシート下方に延び出る、前記ステー本体よりも小径の丸棒状部材から成るワイヤと、を有し、
前記支承フレームが、前記ワイヤにより構成されるヘッドレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレストに関する。詳しくは、ヘッドレストステーと、ヘッドレストステーに被せられるヘッドレストパッドと、ヘッドレストパッドに被せられるヘッドレストカバーと、を有するヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リヤシートのシートバックの上部に装着されるヘッドレストが開示されている。このヘッドレストは、シートバックに対する装着位置を下げることにより、シートバックの上部と前部とに沿って覆い被さる形に格納されるL型(鞍型)の構成とされる。上記格納により、ヘッドレストをシートバックに対して、後方視界を広く確保できる状態に格納することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ヘッドレストの前下側に延び出る部分が薄型となる。そのため、使用者がヘッドレストを引き上げる際にこの薄型の部分に下から持ち上げる力を掛けたり、この部分に乗員の頭部の荷重を掛けたりすると、この薄型の部分が前後に折り曲げられて天板カバー部に折れ皺を生じやすい。そこで、本発明は、天板カバー部の折れ皺の発生を抑えることが可能なヘッドレストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する手段として、本発明のヘッドレストは、次の手段をとる。すなわち、ヘッドレストは、シート幅方向に延びる支承フレームを備えるヘッドレストステーと、ヘッドレストステーに被せられるヘッドレストパッドと、ヘッドレストパッドに被せられ、ヘッドレストパッドを介して支承フレームが最も低位置のフレームとなるようにヘッドレストステーによりシート後方から支えられる天板カバー部を備えるヘッドレストカバーと、を有する。天板カバー部が、支承フレームよりもシート下方に張り出すように延びる延出部位と、延出部位がヘッドレストパッドと共に支承フレームを支点にシート前後方向に曲げられる力を受けることにより支承フレームに沿って折り曲げられる折曲げ部位と、を有する。折曲げ部位に、天板カバー部を構成するカバーピースがシート幅方向に沿ってインステッチで縫合される縫合部が形成される。
【0006】
上記構成によれば、天板カバー部の延出部位がヘッドレストパッドと共にシート前後方向に曲げられる力を受けて、折曲げ部位が支承フレームに沿って谷折り状又は山折り状に折り曲げられることがあっても、折曲げ部位に予め形成された溝状の縫合部のみが率先して変形するようになる。したがって、天板カバー部の縫合部以外の箇所に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【0007】
また、本発明のヘッドレストは、更に次のように構成されていても良い。縫合部が、天板カバー部の支承フレームよりもシート上方に張り出す本体部位の第1カバーピースと延出部位の第2カバーピースとが縫合されて成り、かつ、これらの縫い代が折り返し状に開かれることなくヘッドレストパッドにシート前方から真っ直ぐ突き当たる形に延び出す短尺な形状とされる。
【0008】
上記構成によれば、各縫い代が折り返し状に開かれて設けられる構成と比べて、各縫い代のラインが天板カバー部上にハイライト線として浮き上がりにくくなる。したがって、天板カバー部の縫合部以外の箇所に折れ皺が生じることをより適切に抑えることができる。
【0009】
また、本発明のヘッドレストは、更に次のように構成されていても良い。ヘッドレストパッドが、ヘッドレストカバー及びヘッドレストステーと一体発泡成形される。ヘッドレストが、天板カバー部に各縫い代をカバー裏側から覆うように貼着されて各縫い代の間にヘッドレストパッドの発泡樹脂原料が含浸するのを防止する貼着フィルムを更に有する。
【0010】
上記構成によれば、ヘッドレストが一体発泡成形される構成であっても、短尺に形成される各縫い代を、適切にヘッドレストパッドにシート前方から真っ直ぐ突き当たらせるよう延び出させた状態に保持することができる。
【0011】
また、本発明のヘッドレストは、更に次のように構成されていても良い。支承フレームが、シート幅方向に丸棒状に延びる構成とされる。縫合部が、支承フレームの最もシート前方に突出する突出ラインに沿って突出ラインよりも低位置に設けられる。
【0012】
上記構成によれば、天板カバー部の延出部位がシート後方又はシート前方に押圧されて折曲げ部位が支承フレームを支点に折り曲げられた際、縫合部に曲げ応力をより適切に集中させて縫合部を変形させることができる。
【0013】
また、本発明のヘッドレストは、更に次のように構成されていても良い。ヘッドレストが、乗員の頭部を側面視逆L字型のクッション構造で支える鞍型構造とされる。
【0014】
上記構成によれば、鞍型構造のヘッドレストにおいて、その前下側に延び出る薄型な部分がシート前後方向に曲げられても、天板カバー部に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。また、例えば、鞍型構造のヘッドレストをシートバックの上部と前部とに沿わせた形に格納した状態から引き上げる際に、上記薄型な部分に下から持ち上げる力を掛けることで、薄型な部分がシート前方に曲げられることがあっても、天板カバー部に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【0015】
また、本発明のヘッドレストは、更に次のように構成されていても良い。ヘッドレストステーが、丸棒状部材から成るステー本体と、ステー本体よりも小径の丸棒状部材から成るワイヤと、を有する。ステー本体は、ヘッドレストパッドからシート下方に延び出る一対の脚部と、一対の脚部の上端からこれらの間を繋ぐようにヘッドレストパッド内をシート前方に平面視U字状に延び出る繋ぎ部と、を有する。ワイヤは、上記繋ぎ部のU字のシート幅方向に延びる架渡部位に接合されて架渡部位からヘッドレストパッド内をシート下方に延び出る。支承フレームが、ワイヤにより構成される。
【0016】
上記構成によれば、小径のワイヤが通されるようなヘッドレストパッドの薄型な部分に支承フレームが設定されて、天板カバー部の折曲げ部位が折り曲げられやすい構成であっても、天板カバー部の縫合部以外の箇所に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態に係るヘッドレストの概略構成を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
《第1の実施形態》
(ヘッドレスト1の概略構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係るヘッドレスト1の構成について、
図1~
図4を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。また、以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、
図1~
図4のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るヘッドレスト1は、自動車のリヤシートに適用されている。具体的には、ヘッドレスト1は、上記リヤシートのシートバック2の上部に装着されている。ヘッドレスト1は、リヤシートに着座した乗員の頭部をシート後方から弾性的に支持するヘッドレスト本体10と、ヘッドレスト本体10を支持するヘッドレストステー20と、を備える。
【0021】
ヘッドレスト本体10は、発泡ウレタン製のヘッドレストパッド11と、ヘッドレストパッド11を覆う合成皮革製のヘッドレストカバー12と、を有する。なお、ヘッドレストカバー12は、ファブリック製であっても良い。ヘッドレストステー20は、ヘッドレスト本体10からシート下方に延び出る左右一対の脚部21Aを備えたステー本体21を有する。また、ヘッドレストステー20は、ヘッドレストパッド11内でステー本体21の前部に接合されてシート下方に垂下状に延びる正面視略逆台形状に組まれたワイヤ22を有する。
【0022】
ヘッドレスト1は、そのステー本体21の各脚部21Aが、シートバック2の上部に形成された対応する不図示の各差込孔内にシート上方から差し込まれることで、シートバック2の上部に装着されている。詳しくは、ヘッドレスト1は、そのシートバック2に対する装着位置を、各脚部21Aの差し込み深さを変える操作により高さ方向に変更することができるように装着されている。
【0023】
具体的には、ヘッドレスト1は、ヘッドレスト本体10がシートバック2の上部に重ね合わされる位置まで押し下げられる位置(図示位置)と、ヘッドレスト本体10がシートバック2の上部から引き上げられる位置(図示省略)と、の間で、シートバック2に対する装着位置を変更できるようになっている。ヘッドレスト1は、上記引き上げられた位置で、シートバック2の一方の差込孔に設けられた不図示の爪がステー本体21の対応する脚部21Aの溝(不図示)に弾性的に引掛けられることで係止される。
【0024】
また、ヘッドレスト1は、上記係止状態からシートバック2の上部に設けられた不図示のつまみが使用者により横方向から押し込まれるように操作されることで、上記爪との係止状態から解かれる。それにより、ヘッドレスト1が、使用者によるシート上方からの押し込み操作によって、ヘッドレスト本体10をシートバック2の上部に重ね合わせる位置まで押し下げることが可能な状態となる。
【0025】
上記ヘッドレスト1は、ヘッドレスト本体10が、シートバック2の上部に重ね合わされる位置まで押し下げられることで、シートバック2の上部と前部とに沿って重ね合わされる形に格納される側面視逆L字型(鞍型)のクッション構造を備える構成とされる。具体的には、ヘッドレスト本体10は、上記押し下げられた状態において、シートバック2の上部に重ね合わせ状に配置される本体上部10Aと、シートバック2の前部に重ね合わせ状に配置される本体前部10Bと、を有する側面視逆L字型(鞍型)のクッション構造とされる(
図2~
図3参照)。
【0026】
このような構成とされることで、ヘッドレスト本体10は、乗員の頭部を支持する天板部(前面部)の形状を広く確保しつつも、格納時には、シートバック2からのシート上方への張り出しを抑えて、後方視界を広く確保することができる構成とされる。ヘッドレスト本体10は、シートバック2の上部から引き上げられて使用される際には、本体前部10Bがシートバック2より高い位置まで引き上げられた位置で係止される。
【0027】
そのため、ヘッドレスト本体10は、その本体前部10Bの下方に板状に延び出る薄型の部分が、乗員の頭部から荷重を受けた際に、シート後方に押圧されて曲げられやすいという特徴を備える。また、ヘッドレスト本体10は、上記格納位置から引き上げられる際に、使用者が上記本体前部10Bの薄型の部分に下から持ち上げる力を掛けると、シート前方に引張られる力を受けて曲げられやすいという特徴を備える。
【0028】
具体的には、ヘッドレスト本体10の本体前部10Bは、その内部にあるワイヤ22の最も低位置のフレームとなる支承フレーム22Aを支点に、シート後方やシート前方に山折り状又は谷折り状に折り曲げられるように撓む。その際、本体前部10Bの天板部を覆っているヘッドレストカバー12の天板カバー部12Aに折れ皺が生じることがあると、ヘッドレスト本体10の乗員から見えやすい天板カバー部12Aの見栄えが損なわれてしまう。
【0029】
そこで、上記天板カバー部12Aには、上記折れ曲がり時に折れ皺が発生することを抑えるべく、予め、折れ皺が発生しやすい支承フレーム22Aの近傍箇所に、シート幅方向に沿ったインステッチの縫合部Sが形成されている。上記縫合部Sにより、本体前部10Bがシート後方に折れ曲がる時には、縫合部Sが表面の溝を開くように率先して変形するようになる。また、本体前部10Bがシート前方に折れ曲がる時には、縫合部Sが表面の溝を更に閉じるように率先して変形するようになる。その結果、天板カバー部12Aの縫合部S以外の箇所に折れ皺が生じることが適切に抑えられる。以下、ヘッドレスト1の各部の構成について詳しく説明する。
【0030】
(ヘッドレストステー20)
先ず、ヘッドレストステー20の構成について説明する。
図1~
図2に示すように、ステー本体21は、1本の丸棒状の円管部材が曲げ加工されて形成されている。具体的には、ステー本体21は、シート上下方向に真っ直ぐ延びる左右一対の脚部21Aと、各脚部21Aの上端からこれらの間を繋ぐようにシート前方に平面視U字状に延び出る繋ぎ部21Bと、を有する形状とされる。
【0031】
繋ぎ部21Bは、各脚部21Aの上端からシート前方に向かって側面視逆J字状に湾曲してシート下方へと延び出す形状とされる。ステー本体21は、各脚部21Aの上部から繋ぎ部21Bまでの領域が、ヘッドレストパッド11内に埋設され、各脚部21Aの途中から下端までが、ヘッドレストパッド11からシート下方に延び出る構成とされる。
【0032】
ワイヤ22は、ステー本体21よりも小径となる1本の丸棒状の線状部材が曲げ加工されて形成されている。具体的には、ワイヤ22は、その両端が上辺で合わされる正面視略逆台形状を成す形に曲げられている。そして、ワイヤ22は、上記両端の合わされた上辺が、ステー本体21の繋ぎ部21BのU字のシート幅方向に延びる架渡部位21Cの底面に溶接されて、架渡部位21Cから各脚部21Aと平行に垂下する形に設けられている。
【0033】
ステー本体21及びワイヤ22から成るヘッドレストステー20は、左右対称状の形を成すように形成されている。ヘッドレストステー20がステー本体21にそれよりも小径なワイヤ22が組み合わされて構成される理由は次の通りである。すなわち、本実施形態に係るヘッドレスト1は、ヘッドレストパッド11が、ヘッドレストカバー12及びヘッドレストステー20と一体発泡成形されて形成される構成とされる。
【0034】
そして、上記ヘッドレストパッド11の発泡成形により形成されるヘッドレスト本体10の本体前部10Bは、ヘッドレスト1全体の薄型化を図る観点から、その下方に延び出る部分が、ステー本体21より小径なワイヤ22でないと内部に組み込めないほど薄型な先細り形状に形成されている。より詳しくは、ヘッドレスト本体10の本体前部10Bは、その下方に延び出る部分が、ステー本体21より小径なワイヤ22であっても、その下辺を成す支承フレーム22Aを下端近傍まで入り込ませることができず、途中箇所までしか組み込めない構成となっている。
【0035】
具体的には、
図3に示すように、支承フレーム22Aは、ステー本体21の架渡部位21Cと、ヘッドレスト本体10の本体前部10Bの先細り状に延びた先の下端との間のちょうど中間辺りの位置に設定されている。支承フレーム22Aは、正円状の断面形状でシート幅方向に真っ直ぐ延びる形状とされる。
【0036】
(ヘッドレストパッド11)
ヘッドレストパッド11は、前述したように、ヘッドレストカバー12及びヘッドレストステー20と一体発泡成形されて形成されている。具体的には、先ず、発泡成形型内にヘッドレストカバー12を真空引きした状態でセットすると共に、ヘッドレストステー20を発泡成形型内の所定位置に固定した状態にセットする。次いで、発泡成形型内に発泡樹脂原料を流し込んで型締めして発泡成形する。それにより、ヘッドレストパッド11が、ヘッドレストステー20及びヘッドレストカバー12とそれぞれ一体的に接合された状態に発泡成形される。
【0037】
(ヘッドレストカバー12)
ヘッドレストカバー12は、複数枚のカバーピースが袋状に縫い合わされた1枚のカバー構造から成る。各カバーピースは、それぞれ、合成皮革製又はファブリック製の表皮材と、表皮材の裏面に一体的に積層されたスラブウレタン製のカバーパッドと、の2層構造から成る。
【0038】
ヘッドレストカバー12は、ヘッドレスト本体10の乗員の頭部を支持する天板部に覆われる天板カバー部12Aを有する。天板カバー部12Aは、上述した縫合部Sを境にそこからシート上方の領域を成す本体部位12Bと、シート下方の領域を成す延出部位12Cと、で構成される。
【0039】
縫合部Sは、本体部位12Bを構成する第1カバーピースC1の下縁と、延出部位12Cを構成する第2カバーピースC2の上縁と、をシート幅方向に沿ってインステッチで縫合する構成とされる。ここで、第1カバーピースC1及び第2カバーピースC2が、それぞれ本発明の「カバーピース」に相当する。
【0040】
縫合部Sは、天板カバー部12Aのシート幅方向の全域に亘って連続的に形成されている。縫合部Sは、本体前部10Bが支承フレーム22Aを支点にシート後方又はシート前方に折り曲げられる際に、天板カバー部12Aの折り曲げられる部位である折曲げ部位12Dに相当する位置に沿って形成されている。
【0041】
具体的には、
図4に示すように、縫合部Sは、天板カバー部12Aの面内方向に垂直な垂線方向から見た時に、支承フレーム22Aの最もシート前方に突出する突出ラインLよりも低い位置に形成されている。厳密には、縫合部Sは、上記方向から見た時に、支承フレーム22Aの下端とシート高さ方向の配置が重なる位置に設定されている。縫合部Sがこのような位置に設定されていることで、本体前部10Bが支承フレーム22Aを支点にシート後方又はシート前方に折り曲げられる際、縫合部Sに曲げ応力をより適切に集中させて縫合部Sを変形させることができる。
【0042】
縫合部Sは、第1カバーピースC1の下縁と第2カバーピースC2の上縁とを縫合したそれぞれの縫い代S1,S2が、カバー裏側で折り返し状に開かれることなく、ヘッドレストパッド11にシート前方から真っ直ぐ突き当たる形に延び出す短尺な形にカットされている。このような構成とされることで、各縫い代S1,S2が折り返し状に開かれて設けられる構成と比べて、各縫い代S1,S2のラインが天板カバー部12A上にハイライト線として浮き上がりにくくなる。したがって、天板カバー部12Aの縫合部S以外の箇所に折れ皺が生じることをより適切に抑えることができる。
【0043】
また、縫合部Sのカバー裏側には、第1カバーピースC1と第2カバーピースC2とに跨って各縫い代S1,S2をカバー裏側から覆うように貼着された樹脂製の貼着フィルムFが設けられている。この貼着フィルムFは、ヘッドレストパッド11をヘッドレストカバー12と一体に発泡成形する際、発泡樹脂原料が各縫い代S1,S2の間に含浸することを防止する機能をするものである。
【0044】
この貼着フィルムFが設けられることで、ヘッドレストパッド11がヘッドレストカバー12に一体発泡成形される構成であっても、短尺に形成される各縫い代S1,S2を、適切にヘッドレストパッド11にシート前方から真っ直ぐ突き当たらせるよう延び出させた状態に保持することができる。
【0045】
なお、貼着フィルムFは、ヘッドレストパッド11がヘッドレストカバー12と一体発泡成形されず、発泡後にヘッドレストカバー12が被せられるタイプの構成に適用されても良い。そのような場合であっても、貼着フィルムFにより、各縫い代S1,S2をヘッドレストパッド11にシート前方から真っ直ぐ突き当たらせるよう延び出させた状態に保持することができるため、好適である。
【0046】
以上をまとめると、本実施形態に係るヘッドレスト1は、次のような構成となっている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0047】
すなわち、ヘッドレスト(1)は、シート幅方向に延びる支承フレーム(22A)を備えるヘッドレストステー(20)と、ヘッドレストステー(20)に被せられるヘッドレストパッド(11)と、ヘッドレストパッド(11)に被せられ、ヘッドレストパッド(11)を介して支承フレーム(22A)が最も低位置のフレームとなるようにヘッドレストステー(20)によりシート後方から支えられる天板カバー部(12A)を備えるヘッドレストカバー(12)と、を有する。
【0048】
天板カバー部(12A)が、支承フレーム(22A)よりもシート下方に張り出すように延びる延出部位(12C)と、延出部位(12C)がヘッドレストパッド(11)と共に支承フレーム(22A)を支点にシート前後方向に曲げられる力を受けることにより支承フレーム(22A)に沿って折り曲げられる折曲げ部位(12D)と、を有する。折曲げ部位(12D)に、天板カバー部(12A)を構成するカバーピース(C1,C2)がシート幅方向に沿ってインステッチで縫合される縫合部(S)が形成される。
【0049】
上記構成によれば、天板カバー部(12A)の延出部位(12C)がヘッドレストパッド(11)と共にシート前後方向に曲げられる力を受けて、折曲げ部位(12D)が支承フレーム(22A)に沿って谷折り状又は山折り状に折り曲げられることがあっても、折曲げ部位(12D)に予め形成された溝状の縫合部(S)のみが率先して変形するようになる。したがって、天板カバー部(12A)の縫合部(S)以外の箇所に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【0050】
また、縫合部(S)が、天板カバー部(12A)の支承フレーム(22A)よりもシート上方に張り出す本体部位(12B)の第1カバーピース(C1)と延出部位(12C)の第2カバーピース(C2)とが縫合されて成り、かつ、これらの縫い代(S1,S2)が折り返し状に開かれることなくヘッドレストパッド(11)にシート前方から真っ直ぐ突き当たる形に延び出す短尺な形状とされる。
【0051】
上記構成によれば、各縫い代(S1,S2)が折り返し状に開かれて設けられる構成と比べて、各縫い代(S1,S2)のラインが天板カバー部(12A)上にハイライト線として浮き上がりにくくなる。したがって、天板カバー部(12A)の縫合部(S)以外の箇所に折れ皺が生じることをより適切に抑えることができる。
【0052】
また、ヘッドレストパッド(11)が、ヘッドレストカバー(12)及びヘッドレストステー(20)と一体発泡成形される。ヘッドレスト(1)が、天板カバー部(12A)に各縫い代(S1,S2)をカバー裏側から覆うように貼着されて各縫い代(S1,S2)の間にヘッドレストパッド(11)の発泡樹脂原料が含浸するのを防止する貼着フィルム(F)を更に有する。
【0053】
上記構成によれば、ヘッドレスト(1)が一体発泡成形される構成であっても、短尺に形成される各縫い代(S1,S2)を、適切にヘッドレストパッド(11)にシート前方から真っ直ぐ突き当たらせるよう延び出させた状態に保持することができる。
【0054】
また、支承フレーム(22A)が、シート幅方向に丸棒状に延びる構成とされる。縫合部(S)が、支承フレーム(22A)の最もシート前方に突出する突出ライン(L)に沿って突出ライン(L)よりも低位置に設けられる。上記構成によれば、天板カバー部(12A)の延出部位(12C)がシート後方に押圧されて折曲げ部位(12D)が支承フレーム(22A)を支点に折り曲げられた際、縫合部(S)に曲げ応力をより適切に集中させて縫合部(S)を変形させることができる。
【0055】
また、ヘッドレスト(1)が、乗員の頭部を側面視逆L字型のクッション構造で支える鞍型構造とされる。上記構成によれば、鞍型構造のヘッドレスト(1)において、その前下側に延び出る薄型な部分がシート前後方向に曲げられても、天板カバー部(12A)に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。また、例えば、鞍型構造のヘッドレスト(1)をシートバック(2)の上部と前部とに沿わせた形に格納した状態から引き上げる際に、上記薄型な部分に下から持ち上げる力を掛けることで、薄型な部分がシート前方に曲げられることがあっても、天板カバー部(12A)に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【0056】
また、ヘッドレストステー(20)が、丸棒状部材から成るステー本体(21)と、ステー本体(21)よりも小径の丸棒状部材から成るワイヤ(22)と、を有する。ステー本体(21)は、ヘッドレストパッド(11)からシート下方に延び出る一対の脚部(21A)と、一対の脚部(21A)の上端からこれらの間を繋ぐようにヘッドレストパッド(11)内をシート前方に平面視U字状に延び出る繋ぎ部(21B)と、を有する。ワイヤ(22)は、上記繋ぎ部(21B)のU字のシート幅方向に延びる架渡部位(21C)に接合されて架渡部位(21C)からヘッドレストパッド(11)内をシート下方に延び出る。支承フレーム(22A)が、ワイヤ(22)により構成される。
【0057】
上記構成によれば、小径のワイヤ(22)が通されるようなヘッドレストパッド(11)の薄型な部分に支承フレーム(22A)が設定されて、天板カバー部(12A)の折曲げ部位(12D)が折り曲げられやすい構成であっても、天板カバー部(12A)の縫合部(S)以外の箇所に折れ皺が生じることを適切に抑えることができる。
【0058】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか、以下に示す様々な形態で実施することができるものである。
【0059】
1.本発明のヘッドレストは、自動車のフロントシートに適用される構成であっても良い。また、ヘッドレストは、自動車等の車両に搭載されるシートに適用されるものの他、航空機・船舶等の車両以外の乗物に搭載されるシートに適用されるものであっても良い。
【0060】
また、ヘッドレストは、スポーツ施設や劇場、コンサート会場、イベント会場等の各種施設に設置される観覧席やマッサージシート等の乗物以外のシートに適用されるものであっても良い。また、ヘッドレストは、鞍型以外のクッション構造から成る構成であっても良い。
【0061】
2.ヘッドレストステーの支承フレームは、ステー本体から成るものであっても良い。また、支承フレームは、角棒状等の丸棒状以外の棒状の他、板状或いは異形状の部材から成るものであっても良い。
【0062】
3.ヘッドレストパッドは、ヘッドレストカバーやヘッドレストステーと一体発泡成形されるものの他、ヘッドレストステーとのみ一体発泡成形されて、ヘッドレストカバーが後から被せられる構成であっても良い。或いは、ヘッドレストパッドは、ヘッドレストステーとも一体発泡成形されず、単独或いはヘッドレストカバーと一体発泡成形された後にヘッドレストステーに組み付けられる構成であっても良い。ヘッドレストパッドがヘッドレストカバーと一体発泡成形されるものでない場合には、発泡樹脂原料の含浸を防止する貼着フィルムは必ずしも設けられなくても良い。
【0063】
4.縫合部は、支承フレームの最もシート前方に突出する突出ラインに沿って突出ラインよりも高い位置に設けられる構成であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 ヘッドレスト
2 シートバック
10 ヘッドレスト本体
10A 本体上部
10B 本体前部
11 ヘッドレストパッド
12 ヘッドレストカバー
12A 天板カバー部
12B 本体部位
12C 延出部位
12D 折曲げ部位
20 ヘッドレストステー
21 ステー本体
21A 脚部
21B 繋ぎ部
21C 架渡部位
22 ワイヤ
22A 支承フレーム
C1 第1カバーピース
C2 第2カバーピース
S 縫合部
S1 縫い代
S2 縫い代
F 貼着フィルム
L 突出ライン