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特開2023-94904腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094904
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20230629BHJP
   G21C 17/017 20060101ALI20230629BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N17/04
G21C17/017
G21D1/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210497
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】室谷 光
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】田村 明紀
(72)【発明者】
【氏名】橘 正彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
【テーマコード(参考)】
2G050
2G075
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA03
2G050CA02
2G050EB03
2G050EC01
2G075BA17
2G075CA05
2G075DA18
2G075GA18
(57)【要約】
【課題】腐食電位センサと構造部材との距離にかかわらず、構造部材のECPを従来に比べてより正確に測定することができる腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法を提供する。
【解決手段】腐食電位センサ1は、中空構造の金属筐体2と、金属筐体2の長手方向に設けられており、金属筐体2の一端から突出している基準電極5と、金属筐体2の一端に形成され、少なくとも基準電極5の一部を覆う絶縁体3と、金属筐体2と絶縁体3との接合部を覆う第1金属酸化物被膜6aと、少なくとも金属筐体2の第1金属酸化物被膜6aが形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜6bと、を備えている。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造の金属筐体と、
前記金属筐体の長手方向に設けられており、前記金属筐体の一端から突出している基準電極と、
前記金属筐体の一端に形成され、少なくとも前記基準電極の一部を覆う絶縁体と、
前記金属筐体と前記絶縁体との接合部を覆う第1金属酸化物被膜と、
少なくとも前記金属筐体の前記第1金属酸化物被膜が形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜と、を備えた
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記第2金属酸化物被膜は、前記第1金属酸化物被膜の少なくとも一部を覆っている
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記第2金属酸化物被膜は、前記金属筐体の外周のすべてを覆っている
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記絶縁体は、前記基準電極の端部を覆っている
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記基準電極は、前記絶縁体の前記金属筐体の反対側で露出している
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項6】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記第1金属酸化物被膜、および前記第2金属酸化物被膜が、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、および部分安定化ジルコニアのうち、少なくとも一つを含む
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項7】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記基準電極は、銀/塩化銀、鉄、ジルコニウムおよび白金のいずれかで構成されている
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、
前記絶縁体は、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、および酸化アルミニウムのうち、少なくとも一つを含む
ことを特徴とする腐食電位センサ。
【請求項9】
中空構造の金属筐体と、前記金属筐体の長手方向に設けられており、前記金属筐体の一端から突出している基準電極と、前記金属筐体の一端に形成され、少なくとも前記基準電極の一部を覆う絶縁体と、を有する腐食電位センサの製造方法であって、
前記金属筐体と前記絶縁体との接合部を覆う第1金属酸化物被膜を形成する工程と、
少なくとも前記金属筐体の前記第1金属酸化物被膜が形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする腐食電位センサの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の腐食電位センサの製造方法において、
前記第1金属酸化物被膜、前記第2金属酸化物被膜を、物理的気相蒸着(PVD)法、化学的気相蒸着(CVD)法、溶射法、ゾルゲル法、有機金属分解(MOD)法、および塗布法のうち、少なくとも一つの方法により形成する
ことを特徴とする腐食電位センサの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の腐食電位センサの製造方法において、
前記第1金属酸化物被膜および前記第2金属酸化物被膜を同時に形成する
ことを特徴とする腐食電位センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造部材の腐食電位をより正確に測定できる腐食電位センサの一例として、特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1の腐食電位センサは、基準電極、絶縁体、被測定電極およびセンサ胴を備える。金属ジルコニウム製の基準電極は酸化ジルコニウム製の絶縁体内に固定される。ステンレス鋼製のセンサ胴が絶縁体の1つの端部を取り囲んで絶縁体に取り付けられる。被測定電極が、絶縁体の側面および絶縁体の先端面の周辺部を覆うように、絶縁体の表面に取り付けられる。被測定電極は腐食電位測定対象物である、原子力プラントの構造部材と同じ材料で作られている。ジルコニウム電極線が、絶縁体を貫通して基準電極に接続される。センサ胴内に挿入された鉱物絶縁ケーブルの芯線がジルコニウム電極線に接続され、鉱物絶縁ケーブルの金属外筒管がセンサ胴に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-079830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力プラントでは、構造材料であるステンレス鋼およびニッケル基合金等により、構造部材である機器および配管が構成される。これらの構造材料は、特定の条件下において応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)の感受性を示す。そこで、原子力プラントの健全性を維持するために、SCC対策が原子力プラントの構造部材に適用されている。
【0005】
また、近年では、原子力プラントの設備利用率の向上および長寿命化といった経済性向上の観点からも、SCC対策が原子力プラントの構造部材に適用されている。
【0006】
SCC対策として、材料の耐食性向上、応力の改善、あるいは腐食環境の緩和を目的とした技術が適用されている。沸騰水型原子炉(BWR)において、構造部材が曝されている原子炉冷却水(炉水)の腐食環境の改善に基づくSCC対策の一つとして、水素注入が国内外で広く適用されている。
【0007】
炉水中には、原子炉圧力容器内(炉内)で水の放射線分解により生成された、腐食の原因となる酸素や過酸化水素が存在しており、これらが炉水の腐食環境を形成している。水素注入では、給水に水素を含ませることで炉水に水素を添加し、この水素が酸素や過酸化水素と反応することで酸素や過酸化水素を水に戻している。炉水の酸素および過酸化水素濃度が低下する結果、構造部材の腐食電位(ECP:Electrochemical Corrosion Potential)が低下し、SCCの発生が抑制される。
【0008】
さらに、水素注入時のECP低下を促進する技術として、例えば、白金族貴金属元素を炉水に注入し、白金族貴金属元素が有する水素の電気化学反応への触媒作用により、水素注入時に構造部材のECPが大きく低下する技術がある。
【0009】
これらの技術を適用する上で、原子力プラントの炉水と接触する構造部材のECPを精度良く知る必要がある。ECPは、使用した基準電極に対する電位として示される。標準水素電極電位が基準として広く用いられ、各温度で0Vの基準とするvs.SHE(versus Standard Hydrogen Electrode)を電位差の単位であるVの後に付ける。
【0010】
ECPの測定では、原子炉内あるいは原子炉に接続された配管に腐食電位センサを設置し、この腐食電位センサと構造部材間の電位差を測定することにより行われる。腐食電位センサは、使用条件下でECP測定の基準となる一定の電位(基準電位)を発生する。このため、腐食電位センサは基準電極、あるいは参照電極とも呼ばれている。構造部材が、炉水温度、酸素濃度、過酸化水素濃度、および炉水流速の条件下で有する電位と、腐食電位センサの有する基準電位との電位差を、エレクトロメータを用いて測定することで、構造部材のECPを知ることができる。
【0011】
BWRプラントのECPをその場測定しようとする場合には、腐食電位センサを配管や機器に直接設置し炉水に浸漬する必要がある。例えば、腐食電位センサの再循環系配管への設置では、再循環系配管に設けられた筒状の測定用座(フランジ)内に腐食電位センサを挿入して腐食電位センサの先端(検知部)が再循環系配管内を流れる炉水に接触する状態にする。なお、測定用座は再循環系配管と同じ304ステンレス鋼や316NG鋼(316L鋼の原子力グレード)から成る。
【0012】
ところが、腐食電位センサの検知部が再循環系配管の内面よりも内側に到達する状態で、腐食電位センサを測定用座に取り付けた場合、再循環系配管内の炉水の流れが腐食電位センサに当たって腐食電位センサの先端で乱されてしまう。さらには、腐食電位センサは再循環系配管内の高流速の炉水の流れに直交した状態になっているため、流動振動によって腐食電位センサが破損する恐れがある。
【0013】
そこで、腐食電位センサの先端を再循環系配管の内面の位置に揃えて配置し、腐食電位センサを測定用座に取り付けることが求められる。このように腐食電位センサを測定用座に取り付けた場合、腐食電位センサと測定用座の内面との間も、再循環系配管内を流れる炉水で満たされる。
【0014】
再循環系配管に設けられた測定用座内に挿入されて測定用座に取り付けられた腐食電位センサの先端を、再循環系配管の内面の位置に揃えて配置したときに、腐食電位センサの先端と測定用座の内面との間に形成される間隙の幅が大きいと、腐食電位センサは再循環系配管内面のECPではなく、腐食電位センサの金属筐体表面のECPを測定する。
【0015】
その理由は、ECPの測定は腐食電位センサと配管・構造材料表面の間の電位差を測定することで行われるが、配管・構造材料および腐食電位センサの信号線および腐食電位センサの筐体は、炉水中においてすべて電気的に導通した状態で設置されている。
【0016】
そのため、BWR炉水は純水であり液抵抗が高いため、腐食電位センサの先端と配管表面との間の距離が腐食電位センサ先端と腐食電位センサ筐体との間の距離よりも長くなると、腐食電位センサ筐体が腐食電位センサ先端に対して最近接の接地面となる。このため腐食電位センサは腐食電位センサ筐体の電位を測定することになる。したがって、腐食電位センサは構造部材のECPを正確に測定することができなくなる。
【0017】
このため、腐食電位センサが構造部材のECPを正確に測定するには、腐食電位センサの先端の検知部の側面と測定用座の内面との距離を、腐食電位センサの先端の検知部と腐食電位センサの金属筐体との距離より十分小さくする必要がある。
【0018】
そこで、上述の特許文献1のように、絶縁体と、この絶縁体内に配置された基準電極と、絶縁体の一端部を取り囲んで絶縁体に取り付けられた金属筐体から成る腐食電位センサにおいて、腐食電位センサの検知部の側面に、籠状又は筒状の被測定用電極を配した腐食電位センサが開発されている。なお、被測定用電極は、再循環系配管等のECP測定対象物と同じ材質で構成される。これにより、腐食電位センサの検知部と被測定用電極の間の電位差を測定することができるため、ECP測定対象物のECPをより正確に測定することができる。
【0019】
しかし、沸騰水型原子力プラントは、構造部材によって炭素鋼、ステンレス鋼、およびニッケル基合金等の種々の金属材料が用いられており、各ECP測定対象物に合わせて、腐食電位センサの被測定用電極の材質を変更する必要があるが、これは非常に困難である。
【0020】
また、炉内で構造部材と同じ材質の被測定用電極のECPを測定するが、実際の構造部材のECPを測定するわけではないことから、測定した被測定用電極のECPを、構造部材のECPとして取り扱うためには注意が必要である。
【0021】
本発明の目的は、腐食電位センサと構造部材との距離にかかわらず、構造部材のECPを従来に比べてより正確に測定することができる腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、中空構造の金属筐体と、前記金属筐体の長手方向に設けられており、前記金属筐体の一端から突出している基準電極と、前記金属筐体の一端に形成され、少なくとも前記基準電極の一部を覆う絶縁体と、前記金属筐体と前記絶縁体との接合部を覆う第1金属酸化物被膜と、少なくとも前記金属筐体の前記第1金属酸化物被膜が形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、腐食電位センサと構造部材との距離にかかわらず、構造部材のECPを従来に比べてより正確に測定することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】腐食電位センサの配管への設置状態の一例を示す説明図である。
図2】参考技術の腐食電位センサの先端の検知部およびその配管への設置状態を示す説明図である。
図3】実施例の腐食電位センサの検知部およびその配管への設置状態を示す説明図である。
図4】配管と腐食電位センサ間の距離Lと腐食電位センサが検知する電位の関係を示す特性図である。
図5】本発明の実施例の腐食電位センサの断面模式図である。
図6】本発明の実施例の変形例における腐食電位センサの断面模式図である。
図7】本発明の実施例の他の変形例における腐食電位センサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の腐食電位センサおよび腐食電位センサの製造方法の実施例について図1乃至図7を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0026】
最初に、本発明に至った経緯について説明する。
【0027】
本発明者らは、腐食電位センサを原子力プラントの構造部材に設置したとき、腐食電位センサの金属筐体表面のECPの影響を抑制でき、構造部材表面のECPを精度良く測定できる腐食電位センサの構成について検討した。
【0028】
まず、沸騰水型原子炉(BWR)における腐食電位センサの設置場所の一例について図1乃至図3を用いて説明する。図1は腐食電位センサの配管への設置状態の一例を示す説明図、図2は参考技術の腐食電位センサの先端の検知部およびその配管への設置状態を示す説明図、図3は実施例の腐食電位センサの検知部およびその配管への設置状態を示す説明図である。
【0029】
図1に示すように、腐食電位センサ101は、BWRの再循環系配管12又はボトムドレン配管12に形成された孔部に、溶接で設置された測定用座13内に挿入されることにより、腐食電位センサ101の先端の検知部が配管12内を流れる炉水に接触し、配管12のECPを測定するセンサである。
【0030】
再循環系配管12に設置される測定用座13は、フランジ型と呼ばれ、直径が約φ80~300mmである。また、ボトムドレン配管12に設置される測定用座13は、マニホールド型と呼ばれ、直径が約φ25~30mmである。
【0031】
腐食電位センサ101の寸法は、約150mm×約φ10mmであることから、測定用座13に腐食電位センサ101を設置したときの、測定用座13又は配管12と腐食電位センサ101の検知部との距離は、フランジ型では数十~数百mm、マニホールド型では数mmとなる。
【0032】
図1および図2に示す腐食電位センサ101は、センサの検知部に位置する円筒状のジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO)からなる絶縁体103が、金属筐体102にろう付け部104により接合される。絶縁体103の内部に白金黒粉末108が充填された領域をECP測定用の基準電極105とする。白金黒粉末108が充填された絶縁体103内に白金製の芯線からなる基準電極105が挿入され、基準電極105が鉱物絶縁ケーブル内の金属線107を介して外部に導出される。
【0033】
この腐食電位センサ101を、図1に示すように、配管12(例えば、再循環系配管)に溶接にて設置した測定用座13、あるいは配管12に形成された孔部内に挿入する。
【0034】
このとき、腐食電位センサ101の先端の検知部が、配管12の内面の位置に配置される。配管12のECPの測定は、基準電極105に接続され、金属筐体102内に配置された金属線107と、配管12に接続された配線15を、例えば、エレクトロメータ14に接続し、エレクトロメータ14にて基準電極105と配管12の間の電位差を測定することによって行われる。
【0035】
ここで、図2に示すように、腐食電位センサ101の検知部と配管12との距離Lが小さいとき、腐食電位センサ101は配管12のECPを検知する。一方、腐食電位センサ101の検知部と配管12との距離Lが大きく、腐食電位センサ101の検知部と金属筐体102との距離Mを上回る場合、腐食電位センサ101は金属筐体102のECPを検知する。
【0036】
そこで、本発明者らは、上記した腐食電位センサ101の検知部と配管12との距離L、および腐食電位センサ101の検知部と金属筐体102との距離Mと、腐食電位センサ101が検知するECPの関係について検討し、図3に示すように、腐食電位センサ1の金属筐体2の表面を絶縁性の金属酸化物被膜6で覆うことを着想した。
【0037】
これにより、金属筐体2のECPを金属酸化物被膜6で遮断し、腐食電位センサ1が金属筐体2のECPを検知することを抑制でき、腐食電位センサ1の検知部と配管12との距離Lが、腐食電位センサ1の検知部と金属筐体2との距離Mより大きい場合でも、腐食電位センサ1は配管12のECPを検知することが可能となる。
【0038】
図2に示した腐食電位センサ101において、腐食電位センサ101の検知部に最も近い金属部材、例えば、配管12又は腐食電位センサ101の金属筐体102のECPを検知できるのは、BWRのような、導電率の低い炉水の環境では、電位の及ぶ範囲が極めて限定されていることに起因する。
【0039】
腐食電位センサ101の検知部と配管12との距離L、および腐食電位センサ101の検知部と金属筐体102との距離Mと、腐食電位センサ101が検知する電位Eとの関係は、以下のような式(1)で表される。
【0040】
【数1】
【0041】
式(1)中、ECPは配管12のECP、ECPは腐食電位センサ1の金属筐体2のECPを示しており、ρは炉水の抵抗率を示している。
【0042】
これに対し、図3に示すように、腐食電位センサ1の金属筐体2の表面を、金属酸化物被膜6で覆った場合、腐食電位センサ1が検知する電位Eは、以下のような式(2)で表される。
【0043】
【数2】
【0044】
式(2)中、ρは金属酸化物被膜6の抵抗率、Nは金属酸化物被膜6の膜厚を示している。
【0045】
図4は配管と腐食電位センサ間の距離Lと腐食電位センサが検知する電位の関係を示す特性図である。図4に示す特性は、腐食電位センサ1の検知部と金属筐体2との距離Mが30mmとした場合の、配管12と腐食電位センサ1間の距離Lと腐食電位センサ1が検知する電位の関係を、式(1)および式(2)を基に試算した結果を示している。
【0046】
図4中、横軸は配管12と腐食電位センサ1の検知部との距離L、縦軸は腐食電位センサ1が検知する電位を示しており、縦軸の下端が配管12のECP、上端が腐食電位センサ1の金属筐体2のECPに相当する。つまり、腐食電位センサ1の検知電位が縦軸の下端に近づくほど、腐食電位センサ1は配管12のECPを精度良く測定でき、上端に近づくほど、腐食電位センサ1が検知する電位は、配管12のECPと金属筐体2のECPが混成した電位となる。
【0047】
まず、金属筐体表面に金属酸化物被膜を施していない、図2に示す参考技術の腐食電位センサについて説明する。配管12と腐食電位センサ101との間の距離Lが数mm以内であれば、腐食電位センサ101を構成する金属筐体102由来のECP混成が小さく、腐食電位センサ101は配管12のECPを精度良く測定できる。
【0048】
一方、配管12と腐食電位センサ101との間の距離Lが20mmを超えると、腐食電位センサ101を構成する金属筐体102のECPの影響が大きくなり、腐食電位センサ101の検知電位は、配管12のECPと金属筐体102のECPとが混成してしまう。
【0049】
このため、図2に示すような参考技術での腐食電位センサ101を用いて、配管12のECPを精度良く測定するには、配管12と腐食電位センサ101との間の距離Lを数mm以内とする必要があることから、配管12と腐食電位センサ101の検知部との距離が数十~数百mmであるフランジ型測定用座では、配管12のECPを正確に測定できない恐れがあるため、腐食電位センサを用いた腐食電位測定条件に限定が生じてしまう。
【0050】
一方で、図3に示すような、金属筐体2の表面に金属酸化物被膜6を施した腐食電位センサ1では、配管12と腐食電位センサ1との間の距離Lが100mmの場合でも、腐食電位センサ1を構成する金属筐体2由来のECP混成が小さく、腐食電位センサ1は配管12のECPを精度良く測定できる。
【0051】
したがって、図3に示す腐食電位センサ1を用いることで、配管12と腐食電位センサ1の検知部との距離が数十~数百mmであるフランジ型測定用座でも、配管のECPを正確に測定することが可能となる。
【0052】
以上の検討結果を反映した本発明の実施例の腐食電位センサの構成について図5乃至図7を用いて説明する。図5乃至図7は本実施例の腐食電位センサの断面模式図である。
【0053】
図5に示す本実施例の腐食電位センサ1は、金属筐体2の一端に形成され、少なくとも基準電極5の一部を覆う絶縁体3、中空構造の金属筐体2、金属筐体2の長手方向に設けられており、金属筐体2の一端から突出している基準電極5、金属線(リード線)7、金属/金属酸化物粉末8、封止栓9、鉱物絶縁ケーブル10、金属筐体2と絶縁体3との接合部を覆う第1金属酸化物被膜6a、および少なくとも金属筐体2の第1金属酸化物被膜6aが形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜6bを備えている。
【0054】
絶縁体3と金属筐体2とはろう付け部4で接合されている。
【0055】
基準電極5の一端は、絶縁体3又は金属筐体2の内部で接合部11において金属線7に接続されている。基準電極5のもう一方の端部は、検知部となる部分であり、金属/金属酸化物粉末8が充填された絶縁体3の内部に配置されており、金属/金属酸化物粉末8を介して絶縁体3により覆われている。絶縁体3内の金属/金属酸化物粉末8は、中空構造の封止栓9により、腐食電位センサ1の金属筐体2側から封止されている。
【0056】
本実施例の腐食電位センサ1では、図5に示すように、絶縁体3と金属筐体2をろう付け部4で接合した部分の外表面が、第1金属酸化物被膜6aで覆われ、金属筐体2の外表面の一部が、第2金属酸化物被膜6bで覆われている。
【0057】
更に、第2金属酸化物被膜6bは、第1金属酸化物被膜6aの少なくとも一部を覆っている。図5では、第1金属酸化物被膜6aの第2金属酸化物被膜6b側の一表面が第2金属酸化物被膜6bにより覆われている形態を示している。
【0058】
図2および図3を用いて前述したように、腐食電位センサ1の検知部(基準電極5の端部)と金属筐体2との距離Mは約30mmであるため、配管12と腐食電位センサ1との距離Lに応じて、ろう付け部4、および金属筐体2の外表面の一部に第1金属酸化物被膜6a、および第2金属酸化物被膜6bを形成する必要がある。
【0059】
例えば、配管12と腐食電位センサ1との距離Lが100mmの場合、ろう付け部4部分から、金属筐体2の長手方向に100mm以上の外周を、第1金属酸化物被膜6aおよび第2金属酸化物被膜6bで覆うことが望ましい。絶縁性の第1金属酸化物被膜6aおよび第2金属酸化物被膜6bが、ろう付け部4および金属筐体2の電位を遮断するため、ろう付け部4および金属筐体2由来のECP混成が抑制され、腐食電位センサ1が配管のECPを精度良く測定することを可能とする。
【0060】
本実施例の腐食電位センサは、図5に示す構造に限られない、以下図6および図7を用いて他の形態の一例について説明する。
【0061】
図6に示す腐食電位センサ1Aは、第2金属酸化物被膜6b1が、金属筐体2の外周のすべてを覆っている形態であり、直径が100mmを超えるフランジ型の測定用座に腐食電位センサを設置する場合に好適な形態である。図6に示した腐食電位センサ1Aでは、図6に示すように、ろう付け部4も絶縁性の第1金属酸化物被膜6aで覆われていることが望ましい。
【0062】
図7に示す腐食電位センサ1Bは、絶縁体3b、金属筐体2、基準電極5b、金属線(リード線)7、金属筐体2と絶縁体3bとの接合部を覆う第1金属酸化物被膜6a2、および少なくとも金属筐体2の第1金属酸化物被膜6aが形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜6b2とを有している。
【0063】
図7に示す腐食電位センサ1Bでは、基準電極5bは、絶縁体3bの金属筐体2の反対側で露出しており、基準電極5bが炉水に直接接する構造となっている。
【0064】
この図7に示す腐食電位センサ1Bのように基準電極5bが炉水に直接接する形態でも、図6に示すように第2金属酸化物被膜6b2が、金属筐体2の外周のすべてを覆っている形態とすることができる。また、基準電極5bと絶縁体3bとの接合部を絶縁性の第1金属酸化物被膜6a2で覆う形態とすることができる。
【0065】
図5乃至図7に示す腐食電位センサ1,1A,1Bにおける金属筐体2は、ニッケル基合金、およびステンレス鋼等のうち、少なくともいずれか一つ以上から成り、特にニッケル基合金42(42合金)、および316Lステンレス鋼(SUS316L)から成るものとすることができる。
【0066】
絶縁体3,3bは、ジルコニア、酸化イットリウム(Y、イットリア)、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、部分安定化ジルコニア(PSZ)、およびイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のうち、少なくともいずれか一つ以上から成るものとすることができる。
【0067】
基準電極5,5bは、鉄、銀/塩化銀電極、白金電極、およびジルコニウム電極等のうち、いずれか一つ以上から成るものとすることができる。
【0068】
また、第1金属酸化物被膜6a,6a2や第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2は、絶縁体3,3bと同様に、ジルコニア、イットリア、アルミナ、部分安定化ジルコニア、およびイットリア安定化ジルコニア等のうち、少なくともいずれか一つ以上から成るものとすることができる。
【0069】
次に、本実施例に係る腐食電位センサ1,1A,1Bの製造方法のうち、第1金属酸化物被膜6a,6a2を形成する方法、および金属筐体2の外表面に第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2を形成する方法について説明する。
【0070】
ろう付け部4および金属筐体2の外表面に、それぞれ第1金属酸化物被膜6a,6a2、および第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2を形成する方法としては、物理的気相蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法、化学的気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、溶射法、ゾルゲル法、有機金属分解(MOD:Metal Organic Decomposition)法、および塗布法等のうちいずれの方法を用いることができる。
【0071】
また、第1金属酸化物被膜6a,6a2および第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2は、好適には上述の形成方法によって同時に形成することが望ましい。
【0072】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0073】
上述した本実施例の腐食電位センサ1,1A,1Bは、中空構造の金属筐体2と、金属筐体2の長手方向に設けられており、金属筐体2の一端から突出している基準電極5,5bと、金属筐体2の一端に形成され、少なくとも基準電極5,5bの一部を覆う絶縁体3,3bと、金属筐体2と絶縁体3,3bとの接合部を覆う第1金属酸化物被膜6a,6a2と、少なくとも金属筐体2の第1金属酸化物被膜6a,6a2が形成された側の一端の外周の一部を覆う第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2と、を備えている。
【0074】
このように、金属筐体2の外周のうち、少なくとも基準電極5,5bに近い側を第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2で覆うことにより、金属筐体2の表面のうち基準電極5,5bに近い側が絶縁され、腐食電位センサ1,1A,1Bが自らを構成する金属筐体2表面のECPを測定することを抑制できる。このため、腐食電位センサ1,1A,1Bの検知部である基準電極5,5bの側面と測定用座の内面との距離が、腐食電位センサ1,1A,1Bの検知部と金属筐体2との距離より大きくても、腐食電位センサ1,1A,1Bは構造部材のECPを正確に測定することができ、ECP測定対象物である、プラントの構造部材のECPをより正確に測定する上で、腐食電位センサとECP測定対象物との距離の制約を緩和することができる。
【0075】
このような腐食電位センサ1,1A,1Bは、BWRプラントの他の配管(例えば、原子炉浄化系配管、原子炉の底部に接続されたドレン配管および給水配管等)に設置して該当する配管のECPの測定に用いることができる。さらに、加圧水型原子力プラントおよび火力プラントにおける配管等のECPの測定に使用することができ、特には、原子炉の冷却水が表面に接触する、炭素鋼、鉄基合金あるいはニッケル基合金から成る構造部材の腐食電位の測定、具体的には、ステンレス鋼およびニッケル基合金の応力腐食割れ(SCC)あるいは炭素鋼およびニッケル基合金の流動加速腐食(FAC:Flow Accelerated Corrosion)の水質条件の指標となる腐食電位の測定に用いるために好適な腐食電位センサといえる。
【0076】
また、第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2は、第1金属酸化物被膜6a,6a2の少なくとも一部を覆っているため、金属筐体2が露出する箇所を低減でき、より正確なECPの測定を実現することができる。
【0077】
更に、第2金属酸化物被膜6b1は、金属筐体2の外周のすべてを覆っていることで、基準電極5,5bが金属筐体2のECPを測定してしまう事態が生じる可能性を更に低減でき、測定用座の内面との距離が非常に大きくなっても、精度良くプラントの構造部材のECPを測定することができる構造とすることができる。
【0078】
また、第1金属酸化物被膜6a,6a2および第2金属酸化物被膜6b,6b1,6b2を同時に形成することにより、被膜形成に要する時間を短縮でき、腐食電位センサ1,1A,1Bの製造効率の改善を図ることができる。
【0079】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0080】
101,1,1A,1B…腐食電位センサ
102,2…金属筐体
103,3,3b…絶縁体
104,4…ろう付け部
105,5,5b…基準電極
6…金属酸化物被膜
6a,6a2…第1金属酸化物被膜
6b,6b1,6b2…第2金属酸化物被膜
107,7…金属線
108,8…金属/金属酸化物粉末
9…封止栓
10…鉱物絶縁ケーブル
11…基準電極と金属線との接合部
12…配管
13…測定用座
14…エレクトロメータ
15…配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7