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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009491
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】陰イオン交換樹脂の調整方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/57 20170101AFI20230113BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20230113BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20230113BHJP
   B01J 49/60 20170101ALI20230113BHJP
【FI】
B01J49/57
B01J41/07
B01J41/14
B01J49/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112836
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
(57)【要約】
【解決課題】FB形弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生工程を行った後の洗浄の時間を低減することができる弱塩基性陰イオン交換樹脂の調整方法を提供すること。
【解決手段】陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させることにより、該陰イオン交換樹脂をFB形に変換する再生工程と、FB形に変換されたFB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させることにより、該FB形陰イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、を有すること、該陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂であり、該アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が、0.025~0.50Nであること、を特徴とする陰イオン交換樹脂の調整方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させることにより、該陰イオン交換樹脂をFB形に変換する再生工程と、
FB形に変換されたFB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させることにより、該FB形陰イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、
を有すること、
該陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂であり、
該アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が、0.025~0.50Nであること、
を特徴とする陰イオン交換樹脂の調整方法。
【請求項2】
前記陰イオン交換樹脂の床が充填されている陰イオン交換樹脂充填容器に、規定度が0.025~0.50Nである前記アルカリ金属水酸化物水溶液を、SV8~160h-1の通液速度で通液することにより、前記再生工程を行うことを特徴とする請求項1記載の陰イオン交換樹脂の調整方法。
【請求項3】
前記再生工程における、前記アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度Aと、前記アルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度Bの関係が、下記式(1):
A×B≦4.5 (1)
(式中、Aは、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度(N)であり、Bは、アルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度SV(h-1)である。)
を満たすことを特徴とする請求項2記載の陰イオン交換樹脂の調整方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂が、イオン交換基として、ジメチルアミノ基を有することを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の陰イオン交換樹脂の調整方法。
【請求項5】
前記陰イオン交換樹脂の基体が、スチレン-ジビニルベンゼン系共重合体であることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の陰イオン交換樹脂の調整方法。
【請求項6】
前記再生工程において、前記陰イオン交換樹脂に接触させる前記アルカリ金属水酸化物水溶液の温度が15~30℃であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の陰イオン交換樹脂の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱塩基性陰イオン交換樹脂をFB(遊離塩基)形に変換するための調整方法に関し、イオン性不純物を含有する被処理水の精製方法に用いられる陰イオン交換樹脂を、再生又は前処理するための陰イオン交換樹脂の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造時におけるシリコンの洗浄工程等においては、各陰イオン不純物の濃度が1ng/L以下の超純水が求められている。水中の塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンなどの鉱酸を主とする陰イオン不純物の濃度を低減する方法としては、弱塩基性陰イオン交換樹脂を利用する方法が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、超純水製造の一次系処理として弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた超純水製造の一例が開示されている。
【0004】
弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて、被処理水中の陰イオン不純物の除去を続けると、陰イオン不純物との結合によって、弱塩基性陰イオン交換樹脂中の塩基性のイオン交換基が使われてしまい、陰イオン不純物を吸着できるイオン交換基の量が減少していく。
【0005】
そして、弱塩基性陰イオン交換樹脂中のイオン交換基が全て使われてしまうと、陰イオン不純物の除去性能が失われるので、その前に、一旦、被処理水の処理を中断して、弱塩基性陰イオン交換樹脂を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液に接触させて、FB形に再生し、弱塩基性陰イオン交換樹脂の吸着性を回復させる必要が生じる。
【0006】
更に、弱塩基性陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水溶液を接触させてFB形に再生した後の陰イオン交換樹脂には、アルカリ金属イオンが残留しているので、再生処理後の弱塩基性陰イオン交換樹脂を、超純水等で洗浄して、弱塩基性陰イオン交換樹脂からアルカリ金属イオンを除去し、アルカリ金属イオンの溶出を抑制する必要がある。
【0007】
例えば、引用文献2には、メーカ推奨の再生方式が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】イオン交換樹脂 その技術と応用(実用編) 223頁
【特許文献2】Lanxess社製弱酸性陽イオン交換樹脂MP62 データシート
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の方法では、水酸化ナトリウム水溶液で塩基性陰イオン交換樹脂を再生した後の洗浄に長時間を要してしまうという問題があった。そして、再生後の洗浄に時間を要することは、弱塩基性陰イオン交換樹脂による超純水の精製プロセス全体の非効率化につながる。
【0010】
従って、本発明は、FB(遊離塩基)形弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生工程を行った後の洗浄の時間を低減することができるFB(遊離塩基)形弱塩基性陰イオン交換樹脂の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような技術背景のもと、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、FB(遊離塩基)形弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生工程の際に、陰イオン交換樹脂に接触させるアルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を特定の範囲にすることにより、再生工程後の洗浄時間を短くすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させることにより、該陰イオン交換樹脂をFB形に変換する再生工程と、
FB形に変換されたFB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させることにより、該FB形陰イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、
を有すること、
該陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂であり、
該アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が、0.025~0.50Nであること、
を特徴とする陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記陰イオン交換樹脂の床が充填されている陰イオン交換樹脂充填容器に、規定度が0.025~0.50Nである前記アルカリ金属水酸化物水溶液を、SV8~160h-1の通液速度で通液することにより、前記再生工程を行うことを特徴とする(1)の陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、前記再生工程における、前記アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度Aと、前記アルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度Bの関係が、下記式(1):
A×B≦4.5 (1)
(式中、Aは、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度(N)であり、Bは、アルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度SV(h-1)である。)
を満たすことを特徴とする(2)の陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記陰イオン交換樹脂が、イオン交換基として、ジメチルアミノ基を有することを特徴とする(1)~(3)いずれかの陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、前記陰イオン交換樹脂の基体が、スチレン-ジビニルベンゼン系共重合体であることを特徴とする(1)~(4)いずれかの陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、前記再生工程において、前記陰イオン交換樹脂に接触させる前記アルカリ金属水酸化物水溶液の温度が15~30℃であることを特徴とする(1)~(5)いずれかの陰イオン交換樹脂の調整方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、FB(遊離塩基)形弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生工程を行った後の洗浄の時間を低減することができる弱塩基性陰イオン交換樹脂の調整方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法は、陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させることにより、該陰イオン交換樹脂をFB形に変換する再生工程と、
FB形に変換されたFB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させることにより、該FB形陰イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、
を有すること、
該陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂であり、
該アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が、0.025~0.50Nであること、
を特徴とする陰イオン交換樹脂の調整方法である。
【0020】
本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法は、再生工程と、洗浄工程と、を有する。
【0021】
再生工程は、弱塩基性陰イオン交換樹脂に、アルカリ金属水酸化物水溶液を接触させることにより、弱塩基性陰イオン交換樹脂をFB形(遊離塩基形)に変換する工程である。
【0022】
再生工程において、アルカリ金属水酸化物水溶液に接触させる陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂である。弱塩基性陰イオン交換樹脂は、アルカリ金属水酸化物溶液で再生された遊離塩基形が最も安定な状態なので、強塩基性陰イオン交換樹脂に比べ、アルカリ金属水酸化物溶液等での再生効率に優れる。
【0023】
弱塩基性陰イオン交換樹脂に係る陰イオン交換基としては、特に制限されず、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、ピロールやピリジン類等が挙げられ、具体的には、ジメチルアミノ基、アミノ基、モノメチルアミノ基、ピリジン基等が挙げられる。これらのうち、陰イオン交換基としては、ジメチルアミノ基が好ましい。
【0024】
弱塩基性陰イオン交換樹脂は、樹脂製の基体に陰イオン交換基が導入されたイオン交換樹脂であれば、特に制限されず、粉末状、ビーズ状、膜状など種々の形態のものであってもよく、また、ゲル型イオン交換樹脂又は多孔性型イオン交換樹脂のいずれであってもよい。
【0025】
ゲル型イオン交換樹脂及び多孔性型イオン交換樹脂は、イオン交換樹脂のミクロ構造に基づく分類である。このうちゲル型イオン交換樹脂とは、スチレンとジビニルベンゼンを無溶媒で重合させたものを基体とするイオン交換樹脂で不均一に架橋したゲル状の構造を有し、最も古典的なイオン交換樹脂を意味する。また、多孔性型イオン交換樹脂は、重合の際に溶媒を使用することによって孔径20nmから100nm程度のマクロポアが形成された樹脂を基体とするイオン交換樹脂を意味し、MP型(マクロポーラス型)、MR型(マクロレティキュラー型)と呼ばれているものも含む。多孔性型イオン交換樹脂は、マクロポアが連続しておらず均一度にも欠けるためゲル型樹脂に比べてイオン交換容量は低いが、物理的強度は高く浸透圧や機械的圧力に対する耐性に優れている。
【0026】
陰イオン交換基が結合する基体としては、例えば、架橋ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等のスチレン系化合物や、フェノール類、アルデヒド類の縮合体や、架橋ポリアクリル酸等から選ばれる1種以上が好ましく、架橋ポリスチレン又はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体がより好ましい。
【0027】
弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、弱塩基性の陰イオン交換基を有し、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体を基体とするMR型又はMP型の弱塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0028】
弱塩基性陰イオン交換樹脂の形状は、特に制限されないが、例えば粒形状を有する場合、その平均粒径は、好ましくは0.2~1.0mm、より好ましくは0.4~0.8mmである。
【0029】
弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、市販品であってもあってもよく、このような弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、DuPont社製AMBERLITE IRA96SB、AMBERLITE HPR9700、三菱ケミカル社製DIAION WA30、Lanxess社製Lewatit MP62等が挙げられる。
【0030】
再生工程において、アルカリ金属水酸化物水溶液に接触させる弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、被処理水の精製に用いたことによって、再生が必要となった弱塩基性陰イオン交換樹脂、すなわち、陰イオン交換基に陰イオン不純物が吸着している弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。また、被処理水の精製に用いる前に、アルカリ金属水酸化物水溶液に接触させて、前処理を行い、FB形に変換する場合、再生工程における、アルカリ金属水酸化物水溶液に接触させる弱塩基性陰イオン交換樹脂は、一度も被処理水の精製に用いられていない弱塩基性陰イオン交換樹脂であってもよい。
【0031】
再生工程において、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させるアルカリ金属水酸化物水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液である。
【0032】
アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度は、0.025~0.50N(当量/L)、好ましくは0.025~0.20N、特に好ましくは0.025~0.10Nである。アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が上記範囲にあることにより、洗浄工程の洗浄時間を短くすることができる。一方、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が、上記範囲未満だと、弱塩基性陰イオン交換樹脂のFB形への変換が不十分となり、また、上記範囲を超えると、洗浄工程での洗浄時間が長くなる。
【0033】
再生工程において、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させるアルカリ金属水酸化物水溶液の温度は、好ましくは15~60℃、特に好ましくは20~50℃である。弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させるアルカリ金属水酸化物水溶液の温度が、上記範囲にあることにより、弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生を効率的に実施できる。一方、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させるアルカリ金属水酸化物水溶液の温度が、上記範囲未満だと、弱塩基性陰イオン交換樹脂のFB形への変換が不十分となり易く、また、上記範囲を超えると、弱塩基性陰イオン交換樹脂の官能基の劣化を招き交換容量の低下を引き起こす可能性がある。
【0034】
再生工程において、弱塩基性陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させる方法としては、弱塩基性陰イオン交換樹脂を陰イオン交換樹脂充填容器に充填して、陰イオン交換樹脂充填容器内に、陰イオン交換樹脂の樹脂床を形成させ、次いで、陰イオン交換樹脂床が充填されている陰イオン交換樹脂充填容器に、アルカリ金属水酸化物水溶液を通液し、陰イオン交換樹脂充填容器内の陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させ、陰イオン交換樹脂に接触させた後のアルカリ金属水酸化物水溶液を陰イオン交換樹脂充填容器から排出する方法が挙げられる。
【0035】
他には、再生工程において、弱塩基性陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させる方法としては、浸漬などによるバッチ法、あるいは連続的な通液を行うカラム法などの方法が挙げられる。
【0036】
陰イオン交換樹脂充填容器内に充填されている弱塩基性陰イオン交換樹脂床に、アルカリ金属水酸化物水溶液を通液することにより、弱塩基性陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させる場合、陰イオン交換樹脂床へのアルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度SVは、好ましくは8~160h-1である。
【0037】
そして、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度が0.025~0.50N、より好ましくは0.025~0.20N、特に好ましくは0.025~0.10Nであり、且つ、陰イオン交換樹脂床へのアルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度SVが8~160h-1であることが、再生工程の時間を短くすることができる点で好ましい。
【0038】
陰イオン交換樹脂充填容器内に充填されている弱塩基性陰イオン交換樹脂床に、アルカリ金属水酸化物水溶液を通液することにより、弱塩基性陰イオン交換樹脂にアルカリ金属水酸化物水溶液を接触させる場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度Aと、陰イオン交換樹脂床へのアルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度Bとの関係が、下記式(1):
A×B≦4.5 (1)
(式中、Aは、アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度(N)であり、Bは、アルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度SV(h-1)である。)
を満たすことが好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の規定度Aと、陰イオン交換樹脂床へのアルカリ金属水酸化物水溶液の通液速度Bとの関係が、上記一般式(1)を満たすことにより、再生工程の時間を短くすることができる。より好ましい範囲としては、0.01≦A×B≦4.5であり、特に好ましい範囲としては0.1≦A×B≦4.0である。A×Bの値が0.01より小さくなると、再生に必要なアルカリ金属水酸化物の総量とアルカリ金属水酸化物水溶液の規定度Aの範囲0.025~0.20に対して、通水SVが1以下となるため、再生工程の時間が非常に長くなる。一方、A×Bの値が4.5を超えると、SVが高くなるため、つまりは通水流速が速くなるため、再生に必要なアルカリ金属水酸化物水溶液とイオン交換樹脂の接触時間低下による再生不良が起こり易くなる。
【0039】
そして、再生工程を行うことにより、陰イオン交換樹脂の陰イオン交換基から、陰イオン不純物が脱離し、陰イオン交換樹脂から陰イオン不純物が除去されて、陰イオン交換樹脂の陰イオン交換基は、FB形に変換されるので、陰イオン交換樹脂がFB形陰イオン交換樹脂に変換されて、陰イオン交換樹脂が再生される。
【0040】
洗浄工程は、再生工程を行いFB形に変換された弱塩基性陰イオン交換樹脂(以下、FB形陰イオン交換樹脂とも記載する。)に、洗浄水を接触させることにより、FB形陰イオン交換樹脂を洗浄する工程である。再生工程を行った後のFB形陰イオン交換樹脂の内部及び表面並びに陰イオン交換樹脂の粒子間の隙間には、アルカリ金属イオンが残存しているので、FB形陰イオン交換樹脂を用いて被処理水の精製を行う前に、FB形陰イオン交換樹脂に残存しているアルカリ金属イオンを除去する必要がある。そこで、洗浄工程を行うことにより、FB形陰イオン交換樹脂の内部及び表面並びに陰イオン交換樹脂の粒子間の隙間に残存しているアルカリ金属イオンを除去する。
【0041】
洗浄工程において、FB形陰イオン交換樹脂に接触させる洗浄水は、不純物含有量が少ないほど好ましい。洗浄水としては、例えば、超純水等が挙げられる。
【0042】
洗浄工程において、FB形陰イオン交換樹脂に接触させる洗浄水の温度は、好ましくは15~60℃、特に好ましくは20~50℃である。FB形陰イオン交換樹脂に接触させる洗浄水の温度が、上記範囲にあることにより、適切にアルカリ金属水酸化物水溶液を排出させ易くなる。一方、FB形陰イオン交換樹脂に接触させる洗浄水の温度が、上記範囲未満だと、アルカリ金属水酸化物水溶液の拡散が悪くなって、洗浄不良となり易く、また、上記範囲を超えると、弱塩基性陰イオン交換樹脂の官能基の劣化を招き交換容量の低下を引き起こす可能性がある。
【0043】
洗浄工程において、FB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させる方法としては、FB形陰イオン交換樹脂が充填されている陰イオン交換樹脂充填容器に、洗浄水を通液し、陰イオン交換樹脂充填容器内のFB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させ、FB形陰イオン交換樹脂に接触させた後の洗浄水を陰イオン交換樹脂充填容器から排出する方法が挙げられる。
【0044】
他には、洗浄工程において、FB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させる方法としては、浸漬などによるバッチ法、あるいは連続的な通液を行うカラム法などの方法が挙げられる。
【0045】
陰イオン交換樹脂充填容器内に充填されているFB形陰イオン交換樹脂床に、洗浄水を通液することにより、FB形陰イオン交換樹脂に洗浄水を接触させる場合、FB形陰イオン交換樹脂床への洗浄水の通液速度SVは、好ましくは40~400h-1である。
【0046】
そして、洗浄工程を行うことにより、陰イオン交換樹脂は、被処理水の精製に用いられるFB形陰イオン交換樹脂に調整される。
【0047】
本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法を行った後は、再生工程及び洗浄工程が施されたFB形陰イオン交換樹脂を用いて、被処理水を精製する精製工程を行い、処理水を得る。
【0048】
精製工程において、被処理水の温度、FB形陰イオン交換樹脂への通液速度等の精製処理条件は、適宜選択される。
【0049】
そして、精製工程では、FB形陰イオン交換樹脂の陰イオン交換基に被処理水中の陰イオン不純物が吸着するので、精製を続けると、FB形陰イオン交換樹脂中の陰イオン不純物を吸着できる陰イオン交換基の量が減少していく。そのため、FB形陰イオン交換樹脂中の陰イオン不純物を吸着できる陰イオン交換基の全てが、陰イオン不純物の吸着に使用されて、陰イオン不純物除去性能が消失する前に、精製工程を中断して、再び、本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法を行う。
【0050】
本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法では、再生工程を行った後の洗浄工程において、FB形陰イオン交換樹脂に残存しているアルカリ金属イオンの量を、速やかに減少させることができるので、洗浄時間を短くすることができる。例えば、本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法では、再生工程を行った後の洗浄工程において、陰イオン交換樹脂に接触させた後の洗浄水の比抵抗値が10MΩ・cmに達するまでの時間が短くなる。また、例えば、本発明の陰イオン交換樹脂の調整方法では、再生工程を行った後の洗浄工程において、洗浄開始から1時間後の陰イオン交換樹脂に接触させた後の洗浄水の比抵抗値が、従来の陰イオン交換樹脂の再生方法に比べ高くなる。
【実施例0051】
以下では、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
弱塩基性陰イオン交換樹脂(AMBERLITE IRA96SB、DuPont社製)を、樹脂量として500mL(500mL-R)充填したカラムに対し、1.0NのHCl水溶液を、通液速度(液空間速度)SVが4hr-1となるように50分間通水して、前処理を行った。
次いで、0.50NのNaOH水溶液を、通液速度SVが8hr-1となるように60分間通水して、官能基のイオン形をFB形に変換した。
この後、FB形に変換した樹脂に対し、超純水を液空間速度SVが50hr-1となるように通水し、得られた処理水の比抵抗値(MΩ・cm)を測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
0.50NのNaOH水溶液に代えて、0.20NのNaOH水溶液を用いること及びNaOH水溶液の通液速度を表1に記載の通りとすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
0.50NのNaOH水溶液に代えて、0.10NのNaOH水溶液を用いること及びNaOH水溶液の通液速度を表1に記載の通りとすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
0.50NのNaOH水溶液に代えて、0.025NのNaOH水溶液を用いること及びNaOH水溶液の通液速度を表1に記載の通りとすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
0.20NのNaOH水溶液に代えて、1.0NのNaOH水溶液を用いること及びNaOH水溶液の通液速度を表1に記載の通りとすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、実施例1~4及び比較例1では、再生工程で通液したNaOHの規定度、通液速度及び通液時間より、十分に再生された。