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特開2023-94917接触熱コンダクタンス推定方法及び接触電気抵抗推定方法
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  • 特開-接触熱コンダクタンス推定方法及び接触電気抵抗推定方法 図1
  • 特開-接触熱コンダクタンス推定方法及び接触電気抵抗推定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094917
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】接触熱コンダクタンス推定方法及び接触電気抵抗推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20230629BHJP
   G01R 27/02 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
G01N25/18 L
G01N25/18 J
G01N25/18 E
G01R27/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210514
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 学
【テーマコード(参考)】
2G028
2G040
【Fターム(参考)】
2G028CG04
2G040AA01
2G040AB08
2G040AB12
2G040BA26
2G040CA01
2G040CA13
2G040ZA05
2G040ZA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法を提供する。
【解決手段】微小な凹凸を有する表面S1を具備し、母材に対して、表面S1側から順にM層(M=0、1又は2)の第1めっき層C1が施された第1物体Ω1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備し、母材に対して、表面S2側から順にN層(N=0、1又は2)の第2めっき層C2が施された第2物体Ω2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体Ω1と第2物体Ω2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、接触面積率εを表す以下の式(2)等を用いる。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体Ω1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体Ω2とが、前記表面S1及び前記表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、前記接触面Sを介して、前記第1物体Ω1と前記第2物体Ω2との間で接触熱伝達が生じる場合の、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、
前記第1物体Ω1の前記表面S1側には、第1物体Ω1の母材に対して、前記表面S1側から順にM層(M=0、1又は2)の第1めっき層C1が施され、前記第2物体Ω2の前記表面S2側には、第2物体Ω2の母材に対して、前記表面S2側から順にN層(N=0、1又は2)の第2めっき層C2が施され(ただし、M=N=0の場合を除く)、
前記第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)及びk (1)とし、前記第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とし、前記第1物体Ω1及び前記第2物体Ω2の母材の熱伝導率をそれぞれk(1)、k(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2のRMS粗さをそれぞれσ(1)、σ(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm(1)、m(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2の硬さをそれぞれHc,film (1)、Hc,film (2)とした場合に、以下の式(1)~式(17)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する、
ことを特徴とする接触熱コンダクタンス推定方法。
【数12】
なお、上記の式(3)及び式(15)において、erfc-1は相補誤差関数の逆関数であり、上記の式(5)において、erfcは相補誤差関数である。上記の式(3)及び式(15)において、πは円周率である。式(5)、式(6)及び式(11)~式(14)において、i=1又は2である。
また、上記の式(1)、式(5)、式(6)、式(9)~式(14)、式(16)、式(17)において、上付き添え字(1)は、第1物体Ω1又は第1めっき層C1に関する値であることを意味し、上付き添え字(2)は、第2物体Ω2又は第2めっき層C2に関する値であることを意味する。また、M=1の場合(すなわち、第1物体Ω1に1層の第1めっき層C1が施されている場合)、以下の式(18)が成立し、N=1の場合(すなわち、第2物体Ω2に1層の第2めっき層C2が施されている場合)、以下の式(19)が成立し、Mが0の場合(すなわち、第1物体Ω1に第1めっき層が施されていない場合)、上記の式(5)で表されるCL(1)(ε)は1であり、Nが0の場合(すなわち、第2物体Ω2に第2めっき層が施されていない場合)、上記の式(5)で表されるCL(2)(ε)は1である。
(1)=k(1)、t (1)=0 ・・・(18)
(2)=k(2)、t (2)=0 ・・・(19)
【請求項2】
前記第1物体Ω1及び前記第2物体Ω2が金属であり、
請求項1に記載の接触熱コンダクタンス推定方法で推定した前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)と、以下の式(23)とを用いて、前記接触面Sにおける接触電気抵抗R(ε)を推定する、
ことを特徴とする接触電気抵抗推定方法。
(ε)=LT/h(ε) ・・・(23)
上記の式(23)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な凹凸を有する表面を具備する第1物体と、微小な凹凸を有する表面を具備する第2物体との接触面における接触熱コンダクタンスを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法に関する。特に、本発明は、第1物体の表面及び第2物体の表面のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施され、熱間圧延、熱間鍛造、抵抗スポット溶接を行うとき等のように、互いに接触する第1物体と第2物体との接触面における接触圧力が非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスを精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、非特許文献1に、微小な凹凸を有する表面を具備する第1物体と、微小な凹凸を有する表面を具備する第2物体との接触面における接触熱コンダクタンスに関する研究が報告されている。
【0003】
非特許文献1には、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体M1と第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスhを推定するための推定式として、以下の式(eq1)が提案されている。
【数1】
上記の式(eq1)において、πは、円周率を意味する。εは、(真実接触面積/見掛け接触面積)で定義される接触面積率を意味する。非特許文献1において、接触面積率εは、表面S1及び表面S2の硬さのうち柔らかい方の硬さをHとした場合に、以下の式(eq2)で表される。
【数2】
また、上記の式(eq1)において、ψ(ε)は、熱流が表面S1及び表面S2の真実接触部で縮流される程度を表すパラメータ(以下、これを「くびれパラメータ」と称する)であり、非特許文献1において、以下の式(eq3)で表される。
【数3】
なお、上記の式(eq1)において、k、σ、mは、第1物体M1及び第2物体M2の材料特性や表面プロファイルから決定される定数である。具体的には、k、σ、mは、第1物体M1及び第2物体M2の熱伝導率をそれぞれk、kとし、表面S1及び表面S2のRMS粗さをそれぞれσ、σとし、表面S1及び表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm、mとすれば、それぞれ以下の式(eq4)~式(eq6)で表される。
また、上記の式(eq3)において、J、Jは、それぞれ0次及び1次の第一種ベッセル関数であり、δは1次の第一種ベッセル関数の零点(すなわち、J(δ)=0)である。また、nは自然数であり、πは円周率である。
【数4】
【0004】
非特許文献1に記載のように、上記の式(eq1)~式(eq6)を用いて推定される接触熱コンダクタンスhは、特定の条件において、高い推定精度を有すると考えられるものの、以下のような課題1、2を有する。
(1)課題1
上記の式(eq3)で表されるくびれパラメータψ(ε)は、εが大きい範囲(0.6以上)で推定精度が悪化すると考えられており、εの大きさに応じて、より適切なくびれパラメータψ(ε)の推定式を使う必要がある。
(2)課題2
上記の式(eq2)で表される接触面積率εは、表面S1と表面S2との接触によって押し潰される(又は平滑化される)凸部の体積変化が、接触していない表面(例えば、凸部に隣接する凹部)の形状変化に及ぼす影響が考慮されていない。
上記の課題1、2は、熱間圧延、熱間鍛造、抵抗スポット溶接を行うとき等のように、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合、例えば、接触圧力Pが第1物体M1及び第2物体M2の降伏応力を超えるほど大きい場合に、接触熱コンダクタンスhの推定精度を悪化させる大きな要因となる。
また、非特許文献1には、表面S1及び表面S2のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスhを推定する方法については提案されていない。
【0005】
なお、非特許文献3、4には、表面側にめっき層が施された第1物体と、表面側にめっき層が施された第2物体との接触面における接触熱コンダクタンスに関する研究が報告されている。
しかしながら、非特許文献3、4においても、非特許文献1と同様に、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合が考慮されていない。
【0006】
また、非特許文献5~7には、表面側にめっき層が施された物体の表面の硬さを推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. G. Cooper, B. B. Mikic, M. M. Yovanovich, "THERMAL CONTACT CONDUCTANCE", Int. J. Heat Mass Transfer, Vol.12, 1969, p.279-300
【非特許文献2】J. Pullen, J. B. P. Williamson, "On the plastic contact of rough surfaces" Proceedings of the Royal Society of London, A. Mathematical and Physical Sciences 327(1569), 1972, p.159-173
【非特許文献3】V. W. Antonetti, M. M. Yovanovich, "Enhancement of Thermal Contact Conductance by Metallic Coatings: Theory and Experiment", J. Heat Transfer, 107(3), 1985, p.513-519
【非特許文献4】Y. S. Muzychka, M. R. Sridhar, M. M. Yovanovich, V. W. Antonetti, "Thermal Spreading Resistance in Multilayered Contacts: Applications in Thermal Contact Resistance" Journal of Thermophysics and Heat Transfer, Vol.13, No.4, 1999, p.489-494
【非特許文献5】B. Jonsson, S. Hogmark, "Hardness measurements of thin films", Thin Solid Films, Volume 114, Issue 3, 1984, p.257-269
【非特許文献6】E. S. Puchi-Cabrera, M. H. Staia, A. lost, "Modeling the composite hardness of multilayer coated systems", Thin Solid Films, Volume 578, 2015, p.53-62
【非特許文献7】E. S. Puhchi-Cabrera, "COMPUTATION OF COMPOSITE HARDNESS OF COATED SYSTEMS", Surface Engineering, Vol.20, No.5, 2004, p.332-344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するべくなされたものであり、第1物体Ω1の表面及び第2物体Ω2の表面のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施され、第1物体Ω1と第2物体Ω2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者は、任意の接触圧力P、ひいては任意の接触面積率εに対して、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定できるように、非特許文献2~4に記載の考え方を取り入れつつ、非特許文献1に記載の接触熱コンダクタンスhの推定方法を改良することを鋭意検討し、本発明を完成した。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体Ω1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体Ω2とが、前記表面S1及び前記表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、前記接触面Sを介して、前記第1物体Ω1と前記第2物体Ω2との間で接触熱伝達が生じる場合の、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、前記第1物体Ω1の前記表面S1側には、第1物体Ω1の母材に対して、前記表面S1側から順にM層(M=0、1又は2)の第1めっき層C1が施され、前記第2物体Ω2の前記表面S2側には、第2物体Ω2の母材に対して、前記表面S2側から順にN層(N=0、1又は2)の第2めっき層C2が施され(ただし、M=N=0の場合を除く)、前記第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)及びk (1)とし、前記第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とし、前記第1物体Ω1及び前記第2物体Ω2の母材の熱伝導率をそれぞれk(1)、k(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2のRMS粗さをそれぞれσ(1)、σ(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm(1)、m(2)とし、前記表面S1及び前記表面S2の硬さをそれぞれHc,film (1)、Hc,film (2)とした場合に、以下の式(1)~式(17)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する、ことを特徴とする接触熱コンダクタンス推定方法を提供する。
【数5】
なお、上記の式(3)及び式(15)において、erfc-1は相補誤差関数の逆関数であり、上記の式(5)において、erfcは相補誤差関数である。上記の式(3)及び式(15)において、πは円周率である。式(5)、式(6)及び式(11)~式(14)において、i=1又は2である。
また、上記の式(1)、式(5)、式(6)、式(9)~式(14)、式(16)、式(17)において、上付き添え字(1)は、第1物体Ω1又は第1めっき層C1に関する値であることを意味し、上付き添え字(2)は、第2物体Ω2又は第2めっき層C2に関する値であることを意味する。また、M=1の場合(すなわち、第1物体Ω1に1層の第1めっき層C1が施されている場合)、以下の式(18)が成立し、N=1の場合(すなわち、第2物体Ω2に1層の第2めっき層C2が施されている場合)、以下の式(19)が成立し、Mが0の場合(すなわち、第1物体Ω1に第1めっき層が施されていない場合)、上記の式(5)で表されるCL(1)(ε)は1であり、Nが0の場合(すなわち、第2物体Ω2に第2めっき層が施されていない場合)、上記の式(5)で表されるCL(2)(ε)は1である。
(1)=k(1)、t (1)=0 ・・・(18)
(2)=k(2)、t (2)=0 ・・・(19)
【0010】
本発明において、式(3)は、前述の式(eq1)と同等の式である。式(10)、式(16)及び式(17)は、それぞれ前述の式(eq4)~式(eq6)と同等の式である。
本発明において、「M層の第1めっき層C1が施され」とは、M=1の場合、第1物体Ω1の表面S1側に、1層の第1めっき層C1が施されていることを意味し、M=2の場合、第1物体Ω1の表面S1側に、2層の第1めっき層C1、C1が施されていることを意味する。そして、「第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)及びk (1)とし」とは、M=1の場合、第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)及びk (1)とし、M=2の場合、第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)、k (1)及びH (1)とし、第1めっき層C1の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (1)及びk (1)とすることを意味する。
同様に、本発明において、「N層の第2めっき層C2が施され」とは、N=1の場合、第2物体Ω2の表面S2側に、1層の第2めっき層C2が施されていることを意味し、N=2の場合、第2物体Ω2の表面S1側に、2層の第2めっき層C2、C2が施されていることを意味する。そして、「第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とし」とは、N=1の場合、第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とし、N=2の場合、第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とし、第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率を、それぞれt (2)及びk (2)とすることを意味する。
本発明によれば、第1物体Ω1の表面及び第2物体Ω2の表面のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている場合において、後述のように、前述の課題1、2を解決できる。
【0011】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記第1物体Ω1及び前記第2物体Ω2が金属であり、前記接触熱コンダクタンス推定方法で推定した前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)と、以下の式(23)とを用いて、前記接触面Sにおける接触電気抵抗R(ε)を推定する、ことを特徴とする接触電気抵抗推定方法としても提供される。
(ε)=LT/h(ε) ・・・(23)
上記の式(23)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている第1物体Ω1と第2物体Ω2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で接触熱コンダクタンスを推定する物体を模式的に示す図である。
図2】第1物体Ω1に1層の第1めっき層C1が施されている場合について、非特許文献3に記載の接触熱コンダクタンスの推定方法及び本発明の一実施形態に係る接触熱コンダクタンスの推定方法で算出したくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で接触熱コンダクタンスを推定する物体を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体Ω1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体Ω2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体Ω1と第2物体Ω2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する方法である。
【0015】
なお、図1には、第1物体Ω1の表面S1側(図1に示す例では下側)に、第1物体Ω1の母材(図1においてハッチングを施した部分)に対して、表面S1側から順に2層(M=2)の第1めっき層C1、C1が施され、第2物体Ω2の表面S2側(図1に示す例では上側)に、第2物体Ω2の母材(図1においてハッチングを施した部分)に対して、表面S2側から順に2層(N=2)の第2めっき層C2、C2が施されている場合を例に挙げて図示している。このとき、図1に示すように、第1めっき層C1の膜厚、熱伝導率及び硬さは、それぞれt (1)、k (1)及びH (1)であり、第1めっき層C1の膜厚、熱伝導率及び硬さは、それぞれt (1)、k (1)及びH (1)である。また、第2めっき層C2の膜厚、熱伝導率及び硬さは、それぞれt (2)、k (2)及びH (2)であり、第2めっき層C2の膜厚、熱伝導率及び硬さは、それぞれt (2)、k (2)及びH (2)である。また、図1に示すように、第1物体Ω1及び第2物体Ω2の母材の熱伝導率は、それぞれk(1)、k(2)であり、第1物体Ω1及び第2物体Ω2の母材の硬さは、それぞれH(1)、H(2)である。さらに、図示を省略するが、表面S1及び表面S2のRMS粗さは、それぞれσ(1)、σ(2)であり、表面S1及び表面S2の凸部の平均傾斜は、それぞれm(1)、m(2)であり、表面S1及び表面S2の硬さは、それぞれHc,film (1)、Hc,film (2)である。なお、本明細書における硬さは、ミクロ硬さ(ビッカース硬さ又はマイクロビッカース硬さ)を意味する。
図1では、第1物体Ω1の表面S1側に2層の第1めっき層C1、C1が施され、第2物体Ω2の表面S2側に2層の第2めっき層C2、C2が施されている場合を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、第1物体Ω1の表面S1及び第2物体Ω2の表面S2のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている場合に適用可能である。
【0016】
本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、前述の式(1)~式(17)を用いて、接触熱コンダクタンスh(ε)を推定する方法である。
【0017】
第1物体Ω1の表面及び第2物体Ω2の表面のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている場合において、前述の課題1、2を解決するために、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法を導出した過程は、以下の通りである。
本発明者は、まず非特許文献3、4に記載の考え方に基づき、接触熱コンダクタンスh(ε)を式(1)で表すことにした。具体的には、接触熱コンダクタンスh(ε)を、めっき層が施されていない場合の接触熱コンダクタンスhc,bare(ε)(式(3)参照)や、めっき層が施されている場合のくびれパラメータψfilm (i)(ε)とめっき層が施されていない場合のくびれパラメータψbare(ε)との比で表されるくびれパラメータ修正係数C (i)(ε)(以下の式(eq7)参照)等を用いた式(1)で表すことにした。
【数6】
【0018】
そして、本発明者は、前述のように、εが大きい範囲で、式(eq3)で表されるくびれパラメータψ(ε)の推定精度が悪化するという課題1を解決するため、めっき層が施されていない場合のくびれパラメータψbare(ε)が、εの変化(ε:0→1)に応じて、接触面積率εが小さい場合(ε→0)のくびれパラメータψbare(ε)の理論解から、接触面積率εが大きい場合(ε→1)のくびれパラメータψbare(ε)の理論解に連続的に遷移すると考え、その変化を表すεの関数β(ε)を導入して、以下の式(eq8)で示すように、くびれパラメータψbare(ε)を上記2つの理論解の線形混合和で表すことに想到した。
【数7】
【0019】
次に、εを0から1までの範囲で種々変化させた、いずれもめっき層が施されていない接触2円柱(flux tube)の伝熱有限要素解析を行い、その解析結果から計算されるくびれパラメータψbare(ε)の値と、式(eq8)から計算されるくびれパラメータψbare(ε)の値とが略一致するように、最小二乗近似によって、式(eq9)で表されるβ(ε)を導出した。
【数8】
【0020】
また、上記めっき層が施されていない場合のくびれパラメータψbare(ε)と同様の考え方に、非特許文献3、4に記載の考え方を加味することで、めっき層が施されている場合のくびれパラメータψfilm (i)(ε)を、以下の式(eq10)で表すことにした。
【数9】
なお、上記の式(eq8)及び式(eq10)において、J、Jは、それぞれ0次及び1次の第一種ベッセル関数であり、δは1次の第一種ベッセル関数の零点(すなわち、J(δ)=0)であり、nは自然数である。上記の式(eq10)において、φ +(i)及びφ -(i)は、それぞれ以下の式(eq11)及び式(eq12)で表される値である。
【数10】
【0021】
また、本発明者は、式(eq2)で表される接触面積率εが、表面S1と表面S2との接触によって押し潰される(又は平滑化される)凸部の体積変化が、接触していない表面(例えば、凸部に隣接する凹部)の形状変化に及ぼす影響が考慮されていないという課題2を解決するため、非特許文献2に記載の考え方に基づき、接触面積率εを、式(eq2)に代えて、式(2)で表すことにした。式(2)に示すHc,filmは、式(9)に示すように、第1めっき層が施されている第1物体Ω1の表面S1の硬さHc,film (1)及び第2めっき層が施されている第2物体Ω2の表面S2の硬さHc,film (2)のうち、柔らかい方の硬さを意味する。
【0022】
以上の考えによれば、第1物体Ω1の表面及び第2物体Ω2の表面のうち、少なくとも何れか一方の表面側にめっき層が施されている場合において、前述の課題1、2を解決することができるため、接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定可能である。
しかしながら、上記の式(eq8)や式(eq10)にはn=∞の総和が含まれているため、これらの式を用いた推定は、1次の第1種ベッセル関数の零点の求解を含む膨大な数値演算が必要となり、計算負荷が過大である。
このため、本発明者は更に鋭意検討した結果、第1めっき層C1及び第2めっき層C2の膜厚及び熱伝導率が一定の範囲においては、くびれパラメータ修正係数C (i)(ε)の分布に特徴があることを見出し、前述の式(eq7)~式(eq12)によって算出されるくびれパラメータ修正係数C (i)(ε)の理論解(総和が一定の範囲内に収束するn(例えば、n=10000)で計算を打ち切って算出される解)との誤差が最小となる近似式として、式(5)を導出した。この近似式(5)を用いれば、膨大な数値演算が不要であるため、計算負荷が小さい上に、前述の課題1、2を解決することができるため、接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く且つ簡便に推定可能である。
【0023】
なお、本発明者の知見によれば、表面S1の硬さHc,film (1)及び表面S2の硬さHc,film (2)は、例えば、非特許文献5、6に記載の考え方を参考にして、以下の式(20)~式(22)で表される連立方程式の解として求めることができる。
【数11】
式(20)~式(22)において、i=1又は2である。式(21)で表されるDは、第1めっき層又は第2めっき層に対するビッカース圧子の押し込み深さを意味する。式(21)は、微小な凹凸を有する表面の変形挙動について、本発明者が鋭意検討した結果、導出された式である。式(20)~式(22)で表される連立方程式は、非線形方程式であるため、Hc,film (1)及びHc,film (2)の収束解が得られるまで、ニュートン法等の繰り返し計算を行なえばよい。
【0024】
表面S1の硬さHc,film (1)及び表面S2の硬さHc,film (2)の求め方としては、めっき層の影響を考慮できる方法である限りにおいて、上記の例に限られるものではなく、例えば、上記の式(20)及び式(22)の代わりに、非特許文献7に記載の推定式を用いて求めることも可能である。
【0025】
なお、第1物体Ω1及び第2物体Ω2が共に金属である場合、一般に、接触熱コンダクタンスh(ε)と、接触電気抵抗R(ε)との間には、以下の式(23)で表されるWiedemann-Franz則が成り立つ。
(ε)=LT/h(ε) ・・・(23)
上記の式(23)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度であり、表面S1の絶対温度と表面S2の絶対温度の平均温度を用いることができる。
したがって、第1物体Ω1及び第2物体Ω2が共に金属である場合、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh(ε)と、式(23)とを用いて、接触面Sにおける接触電気抵抗R(ε)を推定することも可能である。
【0026】
以下、非特許文献3に記載の接触熱コンダクタンスの推定方法を用いた場合と、本実施形態に係る接触熱コンダクタンスの推定方法を用いた場合とを比較した結果の一例について説明する。
非特許文献3に記載の接触熱コンダクタンスの推定方法においても、本実施形態に係る接触熱コンダクタンスの推定方法における式(1)と同様の式を用いるものの、式(1)におけるくびれパラメータ修正係数C (i)(ε)の算出方法に大きな違いがある。本実施形態に係る推定方法では、前述のように、膨大な数値演算が不要な式(5)等を用いてくびれパラメータ修正係数C (i)(ε)を算出するのに対して、非特許文献3に記載の推定方法では、くびれパラメータ修正係数C (i)(ε)を算出するために、前述の式(eq8)や式(eq10)と同様の膨大な数値演算が必要である。
【0027】
図2は、第1物体Ω1に1層の第1めっき層C1が施されている場合について、非特許文献3に記載の接触熱コンダクタンスの推定方法及び本実施形態に係る接触熱コンダクタンスの推定方法で算出したくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)の一例を示す。図2(a)は、非特許文献3に記載の推定方法で算出したくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)の例を、図2(b)は、本実施形態に係る推定方法で算出したくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)の例を示す。何れの場合も、ε=0.1とし、式(13)で表されるτ (1)と、式(11)で表されるK21 (1)とを変化させて、くびれパラメータ修正係数C (1)(ε)を算出した。
図2から分かるように、両推定方法で算出したくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)の値は同等である。このため、本実施形態に係る推定方法によれば、著しく小さな計算負荷でくびれパラメータ修正係数C (1)(ε)を精度良く算出でき、ひいては接触熱コンダクタンスh(ε)を精度良く推定可能であるといえる。
【符号の説明】
【0028】
Ω1・・・第1物体
Ω2・・・第2物体
S・・・接触面
S1、S2・・・表面
P・・・接触圧力
(ε)・・・接触熱コンダクタンス
ε・・・接触面積率
図1
図2