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特開2023-94923水分散性防曇コーティング組成物の製造方法、水分散性防曇コーティング組成物及び防曇塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094923
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】水分散性防曇コーティング組成物の製造方法、水分散性防曇コーティング組成物及び防曇塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/14 20060101AFI20230629BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230629BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230629BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C09D175/14
C09D5/02
C09D133/00
C09D175/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210524
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松浪 斉
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲義
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG132
4J038DG002
4J038DG201
4J038DG261
4J038FA072
4J038FA281
4J038KA03
4J038MA10
4J038NA06
4J038PA17
4J038PA19
4J038PB05
4J038PB08
(57)【要約】
【課題】良好な水分散性防曇コーティング組成物及びその製造方法並びに防曇塗膜を提供することを目的とする。
【解決手段】(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、これに(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物等をmモル比反応させて、式(1)のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、該オリゴマーに水を添加しながら、該オリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)を準備し、該組成物(A)に、親水化剤組成物(B)を添加する水分散性防曇コーティング組成物の製造方法。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3n (1)
(式中、R1O-は脱水素残基、R2は脱イソシアネート基残基、-OR3は脱水素残基、m、n=1~50の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させて、
式(1)に記載のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、
該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)を準備し、
該水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)に、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体及び(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の親水化剤組成物(B)を添加することを特徴とする水分散性防曇コーティング組成物の製造方法。
(RO-CONH)-R-(NHCO-OR (1)
(式中、RO-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
-ORは、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
【請求項2】
前記の攪拌を、パドル翼を用いて、回転数10~100rpmにて行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記の水を、固形分濃度が50質量%以下になるまで添加し、前記水の添加終了後、所定時間緩やかに攪拌を続ける請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記の水の添加終了後、10分以上、回転数10~100rpmにて攪拌を続ける請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(A)のイソシアネート化合物が、ジイソシアネート類又はジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類である請求項1~4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(A)の片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物が、アルコキシポリアルキレングリコール類である請求項1~5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記(A)の(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物が、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものである請求項1~6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記(A)の水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類である請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の製造方法で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)と、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体及び(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の親水化剤組成物(B)を含む水分散性防曇コーティング組成物。
【請求項10】
さらに、架橋剤(C)及びは重合開始剤(D)の少なくとも1種を含む請求項9に記載の水分散性防曇コーティング組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の水分散性防曇コーティング組成物の熱硬化物である防曇塗膜。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の水分散性防曇コーティング組成物の活性エネルギー線照射による硬化防曇塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散性防曇コーティング組成物の製造方法、水分散性防曇コーティング組成物及び防曇塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、浴室・洗面台用途における透明フィルム等の透明基材及び合成樹脂成形品等においては、その表面温度が露点温度以下になると、大気中の水分が細かい水滴となって結露し、曇りが生じることで、光の透過性を低下させ、視界不良、センサー等の誤作動を引き起こすという問題がある。
また、自動車の前照灯などの照明装置は、光源の前方にガラス又はプラスチック等で形成される透明部材が配置され、光源が発する光が透明部材を介して外部に照射されるように構成されている。このような照明装置では、例えば、透明部材の内側に曇りが発生する場合に、照射光の強度が低下するとともに、照射光の美観が損なわれることがある。そのため、このような基材表面に防曇性を付与できるコーティング膜を形成する必要がある。
これに対し、曇りの発生を防止するための塗膜(防曇膜)を形成する技術が、特許文献1~6に開示されている。特許文献1~6に記載の技術では、透明基材に防曇剤組成物を塗布することにより、防曇膜を形成することができる。
しかし、特許文献1及び2に記載の技術は、防曇膜を形成するために、防曇剤組成物を溶液重合させているが、溶液重合のために有機溶剤が用いられる。よって、有機溶剤蒸気によって作業環境の悪化等の問題が生じる。
一方、特許文献3に記載の技術では、有機溶剤蒸気による問題が生じないものの、水垂れが発生すると、その水垂れ跡が目立つ。
また、特許文献4~6に記載の技術では、特許文献3と同様に有機溶剤蒸気による問題が生じないものの、塗膜表面の硬度が低く(鉛筆硬度:Hに至らず)、耐擦過性に劣るため、ウエス又はタオル等で水滴を拭取ると防曇性が低減するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-147399号
【特許文献2】特開2019-038981号
【特許文献3】特開2004-123809号
【特許文献4】WO2020-031885
【特許文献5】特開2016-079261号
【特許文献6】特開平11-140109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、初期防曇性及び耐久防曇性を両立し、基材密着性、透明性、耐水性、耐溶剤性及び/又は耐擦過性に優れ、あるいは水垂れ跡の目立たない硬化塗膜を形成することができる水分散性防曇コーティング組成物の製造方法、水分散性防曇コーティング組成物及び防曇塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は以下の発明を含む。
[1](m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させて、
式(1)に記載のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、
該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)を準備し、
該水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)に、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体及び(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の親水化剤組成物(B)を添加することを特徴とする水分散性防曇コーティング組成物の製造方法。
(RO-CONH)-R-(NHCO-OR (1)
(式中、RO-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
-ORは、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
[2]前記の攪拌を、パドル翼を用いて、回転数10~100rpmにて行う[1]に記載の製造方法。
[3]前記の水を、固形分濃度が50質量%以下になるまで添加し、前記水の添加終了後、所定時間緩やかに攪拌を続ける[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記の水の添加終了後、10分以上、回転数10~100rpmにて攪拌を続ける[3]に記載の製造方法。
[5]前記(A)のイソシアネート化合物が、ジイソシアネート類又はジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類である[1]~[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6]前記(A)の片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物が、アルコキシポリアルキレングリコール類である[1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[7]前記(A)の(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物が、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものである[1]~[6]のいずれか1つに記載の製造方法。
[8]前記(A)の水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類である[1]~[7]のいずれか1つに記載の製造方法。
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の製造方法で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)と、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体及び(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の親水化剤組成物(B)を含む水分散性防曇コーティング組成物。
[10]さらに、架橋剤(C)及び重合開始剤(D)の少なくとも1種を含む[9]に記載の水分散性防曇コーティング組成物。
[11][9]又は[10]に記載の水分散性防曇コーティング組成物の熱硬化物である防曇塗膜。
[12][9]又は[10]に記載の水分散性防曇コーティング組成物の活性エネルギー線照射による硬化防曇塗膜。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、初期防曇性及び耐久防曇性を両立し、基材密着性、透明性、耐水性、耐溶剤性及び/又は耐擦過性に優れ、あるいは水垂れ跡の目立たない硬化塗膜を形成する水分散性防曇コーティング組成物および防曇塗膜を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリル酸」とは、それぞれ「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種」及び「アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種」を意味する。
【0008】
〔水分散性防曇コーティング組成物の製造方法〕
水分散性防曇コーティング組成物の製造方法では、
(a)水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)を準備し、
(b)得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)に、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体及び(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の親水化剤組成物(B)を添加することを含む。
さらに、(a)又は(b)の後あるいは(b)の工程において、架橋剤(C)を添加することを含むことが好ましい。
【0009】
(a:水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)の準備)
水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に含まれるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、式(1)で表される。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3n (1)
(式中、
1O-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
2は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
3O-は、は水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
このウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させることによって得ることができる。
そして、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、このウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌する。これによって、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を製造することができる。
【0010】
本願における上述した水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の製造方法で得られる乳化液は、平均粒子径が極めて小さく且つ長期に亘って安定(二次凝集が起こらない)でありながら、これを含む組成物によって得られた塗膜は、耐水性、耐溶剤性及び耐擦傷性に優れたコーティング剤とすることができる。つまり、硬化前は水溶性でありながら、硬化物となると耐水性及び耐溶剤性が高いという、相反する独特の特性を有する。このような塗膜は、ハードコート性及び耐擦傷性に優れるとともに、帯電防止性を有しているため、プラスチック等の基材表面の保護、吸埃の防止、ひいては抗菌性を付与することができる。また、このような塗膜は、親水基を有するため、防曇性に優れており、プラスチック類だけでなく眼鏡、鏡等の防曇にも利用することができるとともに、水系顔料において分散性を良好なものとすることができる。さらに、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー自体は重量平均分子量が比較的小さいため、水溶性UVインクジェットインキ等、種々の用途に利用することができる。
【0011】
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート類及びジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類等が挙げられる。
ジイソシアネート類は、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、(o-、m-又はp-)キシレンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジメチレンイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。ジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化物、イソホロンジイソシアネートのヌレート化物、トリレンジイソシアネートのヌレート化物及びこれらジイソシアネートのビュレット化物等が挙げられる。なかでも、1分子中にイソシアネート基を3つ以上有する、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化物、イソホロンジイソシアネートのヌレート化物、トリレンジイソシアネートのヌレート化物がより好ましい。
なお、イソシアネート化合物としては、その中に含まれる1以上のイソシアネート基に、アルコール化合物が付加したウレタン構造、アミン化合物が付加したウレア構造を有するものであってもよい。イソシアネート基に、アルコール化合物及びアミン化合物が付加している場合には、イソシアネート化合物の1分子あたりの官能基数を増大させることができる。ここでイソシアネート基に付加し得るアルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。アミン化合物としては、例えば、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、テトラメチレンジアミン等が挙げられる。これらアルコール化合物及びアミン化合物は、硬化重合体の耐擦傷性を増大させるという観点から、官能基あたりの重量平均分子量が小さいものを用いることが好ましい。
【0012】
水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオール(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類としては、例えば、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
イソシアネート化合物に水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させる場合、反応を促進する目的で、ジブチル錫ジラウレート等の金属系触媒、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のアミン系触媒等の存在下、50~80℃の温度範囲で攪拌することが好ましく、60~70℃の温度範囲がより好ましい。
【0014】
続いて、上記で得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物反応させる。
(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物は、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸のアルキレンオキサイド付加物類は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等に代表されるアルキレンオキサイドを(メタ)アクリル酸に付加させることによって得られる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等に代表されるポリアルキレングリコールからでも合成できる。(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の重量平均分子量は任意に選択できるが、900以上であることが好ましく、900~2000であることがより好ましい。また、別の観点から、アルキレンオキサイドの付加モル数は、20以上であることが好ましく、20~35であることがより好ましい。
片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物は、アルコキシポリエチレングリコール類であることが好ましい。アルコキシポリエチレングリコール類としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、ブトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル等が挙げられる。アルコキシポリエチレングリコール類の重量平均分子量は任意に選択できるが、900以上であることが好ましく、900~2000であることがより好ましい。このような化合物を用いることにより、得られる水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物は、ノニオン性の乳化物とすることができ、これを含む組成物に、種々の添加剤を添加する場合においても、凝集、沈殿、分離等の乳化物の特性の阻害を防止することができる。
【0015】
上記で得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物反応させる場合、ジブチル錫ジラウレート等の金属系触媒の存在下、50~80℃の温度範囲で攪拌することが好ましく、60~70℃の温度範囲がより好ましい。
得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、固形分を100%とすることができる。また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、例えば、5000~100000とすることができ、好ましくは7000~20000とすることができる。このような重量平均分子量とすることで、適切な粘度の組成物を得ることができ、自己乳化を起こしやすく、かつ、これを用いて水溶性組成物を容易に調整することができるとともに、このような水溶性組成物を含む塗膜等を形成した場合に、高硬度の塗膜を得ることができる。
なお、重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量を意味し、高速液体クロマトグラフィー(昭和電工社製、「ShodexGPC system-11型」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×10、分離範囲:100~2×10、理論段数:10000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本直列を用いることにより測定することができる。
【0016】
例えば、(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を先に反応させると、ポリアルキレングリコール化合物は重量平均分子量に分布を有し、片末端水酸基のみならず両末端水酸基含有のポリアルキレングリコールが存在するため、ゲル化がしばしば起きる。ゲル化が生じると、安定した反応ができないばかりか、得られた反応物は、水に溶解しにくくなる。
一方、上述したように、(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を先に反応させ、次いで(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を反応させることにより、ポリアルキレングリコール化合物がペンダント様に結合する、ペンダント型ウレタン(メタ)アクリレート構造となるために、自己乳化が可能となる。
【0017】
続いて、式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに、水を添加して、乳化液状の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を製造する。
そのために、上記で得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに、水を徐々に添加する。この際、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、30~80℃の温度範囲に維持するとともに、添加する水の温度も、これと同等の範囲に調整することが好ましく、40~70℃又は40~60℃の温度範囲とすることがより好ましい。
添加する水は、水道水、脱イオン水、イオン交換水、蒸留水等種々の水を用いることができる。水の添加は、例えば、滴下等によって又は分割して行うことが好ましい。分割添加の場合、1回量は、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの質量の50~200質量%、好ましくは、100~200質量%とすることが好ましい。水の添加量は、固形分が50質量%以下になる量とすることが好ましく、10~45質量%がより好ましく、15~40質量%又は20~40質量%がさらに好ましい。例えば、水の添加に要する時間は、水の添加開始から終了までの時間を5分以上とすることが挙げられ、5分~2時間とすることが好ましく、10~30分又は15~30分とすることがより好ましい。
【0018】
また、水の添加と同時に、それらの界面、つまり、オリゴマーと水との界面付近又は界面よりやや水側に攪拌翼を配置して攪拌することが好ましい。ここでの攪拌は緩やかに行うことが好ましい。なお、スターラでの攪拌は、攪拌子が容器底面に沈み、オリゴマーと水の界面、つまり、W/O界面に配置することができないため、オリゴマーと水の界面付近に攪拌翼を配置することができる攪拌機を用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼としては、例えばパドル翼を用いることができる。パドル翼は、オリゴマーと水との界面付近又は界面よりやや水側に翼を配置することができ、1枚の翼を有するのみであってもよいし、2枚以上の翼を多段で有するものであってもよい。緩やかな攪拌としては、回転数100rpm以下が挙げられ、50rpm以下が好ましく、20rpm以下がより好ましく、10~50rpm又は10~20rpmが特に好ましい。
さらに、水の添加を終了した後においても、攪拌を続けることが好ましい。この場合の攪拌は、添加中の攪拌と異なってもよいが、同程度に緩やかに行うことが好ましい。水の添加終了後、例えば、10分以上攪拌し続けることが挙げられ、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。この際の回転数も上記と同様の範囲が挙げられる。
【0019】
このような乳化方法(転相乳化)によって乳化させることにより、得られた乳化物は、平均粒子径が極めて小さく、且つ保存安定性が高い。また、その乳化物を接着性組成物等として、例えば、塗工及び乾燥後、活性エネルギー線により硬化塗膜とした場合には、得られた塗膜は、レベリング性が良く、極めて高い耐水性を有し、硬化前のオリゴマーは水溶性でありながら、硬化後の塗膜は耐水性が高いという、相反する特性を併せもつ接着性組成物を得ることができる。これは、得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物におけるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの粒径を均一な微粒子とすることに起因することを確認している。例えば、乳化物粒子の粒度分布において、粒子の累積50%の粒子径が100nm以下であるもの等が挙げられる。また、50%の粒子径が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10~45nmであることがより一層好ましい。また、粒子の95%積算粒子径が150nm以下であるもの等が挙げられる。また、95%の粒子径が140nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、30~115nmであることがより一層好ましい。さらに、別の観点から、算術平均粒子径が110nm以下であるもの等が挙げられる。また、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、10~60nmであることがより一層好ましい。
これらは、堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置(LB-500)にて乳化液の粒度(粒子径)分布を測定することにより求めた値である。
【0020】
本願においては、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)は、式(1)に示すように、特定のヒドロキシアルキルアクリレートをn官能イソシアナート基に対して(1~n-1)/nモル%付加反応させ、その後、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物または片末端水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド化合物をn官能イソシアナート基に対して(1~n-1)/nモル%付加反応させて得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の乳化物が好ましい。このような乳化物は、その放射線硬化塗膜とした場合に、優れたハードコート性及び耐久性(耐水性及び耐溶剤性)を併せもつことができる。
例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの合成時に、重合性官能基を有さない片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を用い、この化合物の比率を多くすると、架橋重合させた時に硬化性が低下し、硬度も低下する傾向がある。そのため片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物のモル比を、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物のモル比以下とすることが好ましい。ポリアルキレングリコール鎖の重量平均分子量が大きいほど、架橋重合させた時に水分散効果は増大するが、硬度は低下する傾向がある。また、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の官能基の数が多いほど、架橋重合させた時に硬度が増大し、逆に少ないほど硬度は低下する。これらを調整することにより、適切な硬度の硬化重合体を得ることができる。
【0021】
(b:親水化剤組成物(B)の添加)
続いて、上記で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)に、親水化剤組成物(B)を添加する。
親水化剤組成物(B)は、(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体、(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体からなる群から選択される少なくとも1種の水分散体である。(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体、(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体の2種又は3種を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリルポリマー水分散体、ウレタンポリマー水分散体、(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体はいずれも、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
親水化剤組成物(B)は、耐水性を有するものが好ましい。ここでの耐水性とは、『常温で水に溶けないこと』を意味する。
親水化剤組成物(B)は、例えば、活性水素基としてカルボキシル基を少なくとも有すること、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上であるものが好ましい。本明細書において、「水分散体」は、エマルジョン及びディスパージョンの双方を包含する。
【0022】
(メタ)アクリルポリマー水分散体は、例えば、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂が、水中に分散されたディスパージョンまたはエマルジョンである。(メタ)アクリルポリマー水分散体としては、水分散型(メタ)アクリル樹脂エマルジョンとしては、水系(メタ)アクリル樹脂や自己架橋性水系(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。Tgが30℃以上であることにより、表面硬度、塗膜の表面摩耗性、及び耐染色性に寄与する。(メタ)アクリルポリマー水分散体のTgは、40℃以上でもよい。アクリルポリマー水分散体に含まれるアクリル樹脂は単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
(メタ)アクリルポリマー水分散体の市販品としては、AE986B、AE110、AE140等(いずれもイーテック社製)、バイヒドロール(R)A2427、A2457(いずれも住化バイエルウレタン社製)、PRIMAL(TM)TX-100(ダウケミカル社製)、SWX-349R(高松油脂社製)、モビニール(TM)7471(日本合成化学社製)等が挙げられる。
ウレタンポリマー水分散体としては、ウレタンポリマー水分散体とは、ポリウレタン樹脂が水中に分散されたディスパージョンまたはエマルジョンである。ポリウレタン水分散体に含まれるポリウレタン樹脂は単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。このような水分散型ポリウレタン樹脂エマルジョンとしては、水系ウレタン樹脂や自己架橋性水系ウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタンディスパージョンや、自己架橋型ポリウレタン水分散体等が挙げられる。ウレタンポリマー水分散体の市販品としては、例えば、スーパーフレックス(R)126(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)130(エーテル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)150(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)300(エーテル/エステル系、弱アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)420(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)460(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)(いずれも第一工業製薬社製);ネオレッツ(R)、ネオレッツ(R)R-972(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R-9637(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R-9679(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R-966(脂肪族ポリエーテル系)、ネオレッツ(R)R-967(脂肪族ポリエーテル系)、ネオレッツ(R)R-9603(脂肪族ポリカーボネート系)(いずれもDSM.N.K社製);タケラック(R)W-6010(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W-6020(エーテル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W-6061(エーテル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W-405(エステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W-605(エステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W-635(カーボネート系/ノニオンタイプ)、タケラック(R)WR-640(エーテル系/ノニオンタイプ)、タケラック(R)WR-620(ノニオンタイプ)、タケラック(R)WS-5000(ポリエステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)WS-4000(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)(いずれも三井化学社製);アデカボンタイター(R)HUX-232(エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX-320(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX-350(エーテル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX-380(エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX-386(ポリカーボネート系、アニオンタイプ)(いずれもADEKA社製)、ビームセット(R)EM-90、ビームセット(R)EM-92(いずれも荒川化学工業社製)、UCE(R)COAT 7571、UCECOAT(R)7655、UCECOAT(R)7849(いずれもダイセル・オルネクス社製)、4265V(トーヨーポリマー社製)等が挙げられる。
(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体としては、例えば、以下の方法によって得られるものが挙げられる。上述した(メタ)アクリルポリマー又は(メタ)アクリルポリマー水分散体に、ウレタンポリマー又はウレタンポリマー分散体をブレンドする方法、水系ポリウレタン樹脂存在下に(メタ)アクリルモノマーを乳化重合し、複合化する方法、架橋システムを導入する方法、さらに無溶剤化の手段として(メタ)アクリルモノマーを末端NCOのプレポリマーの溶剤として使用することにより、水分散後にプレポリマーを鎖延長し、つぎに(メタ)アクリルモノマーを重合し、複合化する方法等が挙げられる。
(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体の市販品としては、3DR-9057、3DR-1000、WEM-200U、WEM-3000,WEM-505C(いずれも大成ファインケミカル社製)、SWX-700(高松油脂社製)、NeoPac E-125(楠本化成社製)、VTW 6460/40WA、VTW 6462/36WA、VTW 6463/36WA(いずれもダイセル・オルネクス社製)等が挙げられる。
水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)100質量部に対する親水化剤組成物(B)の添加量は、(メタ)アクリルポリマー水分散体の場合、30~100質量部、ウレタンポリマー水分散体の場合、20~100質量部、(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体の場合、20~100質量部とすることができる。このような範囲に設定することにより、優れた防曇性と耐擦過性の両立を確保することができる。
別の観点から、水分散性防曇コーティング組成物の(A)/(B)の含有比(固形分比、質量部)は、100/20~100の範囲が好ましく、100/30~50がより好ましい。水分散性防曇コーティング組成物の加熱残分(又は固形分)は、0.1~50%、好ましくは1~40%、さらに好ましくは20~35%の範囲である。
なかでも、組成中に多官能(メタ)アクリルモノマーを内部架橋剤として含有し乳化重合で得られた、(B-1)水系ポリウレタン樹脂存在下に(メタ)アクリルモノマーを乳化重合し複合化した(メタ)アクリル・ウレタン複合化ポリマー水分散体を有する親水化剤組成物及び/又は(B-2)(メタ)アクリルポリマー水分散体からなる親水化剤組成物を用いる場合には、より耐水性に優れることから好ましい。
【0023】
これらの水分散体は、水のみに対する分散体であってもよいが、溶媒の全質量に対して、10質量%以下で有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、水溶性有機溶剤が挙げられる。このような有機溶媒としては、脂肪族及び脂環族のアルコール、エーテル、エステルおよびケトン化合物等が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n-ブチルセロソルブ、tert-ブチルセロソルブ、3-メチル-3-メトキシブタノール、n-ブチルセロソルブアセテート等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラハイドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、シクロデカノン等のケトン類、トルエン、キシレン、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらの水溶性有機化合物は1種又は2種以上を併用してもよい。なかでも、メタノール、n-ブチルセロソルブ、tert-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロパノール等及びそれらの水溶液が好ましい。これらの水溶性有機溶剤は200℃以下の沸点を有する有機溶媒が好ましく、60~200℃の範囲であることがより好ましく、30~200℃の沸点を有する有機溶媒がさらに好ましい。
【0024】
(c:架橋剤(C)の添加)
上述したように、架橋剤(C)を、(a)又は(b)の後、あるいは、親水化剤組成物(B)の添加と同時に又はその後に、添加してもよい。
架橋剤としては、尿素系、エポキシ系、メラミン系、イソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系等が挙げられる。具体的には、当該分野で用いられている公知のもの、例えば、特開2014-65887号公報等に記載のいずれのものであってもよい。なかでも、親水化剤組成物(B)の架橋による防曇性の持続性及び/又は耐水性の向上効果からメラミン系、オキサゾリン系、カルボジイミド系が好ましい。また、架橋反応を促進させるため、触媒等を必要に応じて使用してもよい。
水分散性防曇コーティング組成物に架橋剤を含有させることにより、塗布層中に架橋構造を形成させることができる。また、付着した水滴によって親水化剤が流される「水垂れ跡」を無くすことが可能となり、防曇性の持続性及び/又は耐水性を向上させることができる。
架橋剤の含有量としては、親水化剤組成物(B)の固形成分100質量部に対して、固形分比5~50質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。この範囲とすることにより、親水化剤組成物(B)の架橋を十分に行うことができ、親水化剤の流出を防止して、「水垂れ跡」の発生を低減させることができる。また、防曇性の持続性及び耐水性の低下を防止することができるとともに、架橋剤が可塑剤となることを回避して、「水垂れ跡」の発生を防止して、透明性を確保することができる。
別の観点から、本発明の水分散性防曇コーティング組成物の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)/〔親水化剤組成物(B)+架橋剤(C)〕の含有比(固形分比、質量部)は、100/20~100の範囲が好ましく、100/30~50がより好ましい。
さらに別の観点から、親水化剤組成物(B)/架橋剤(C)の含有比(固形分比)は、親水化剤組成物(B)100質量部に対して、架橋剤(C)5~50質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。
【0025】
〔水分散性防曇コーティング組成物〕
上述した製造方法により得られた水分散性防曇コーティング組成物は、熱又は活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。熱の場合は、例えば、80~200℃が挙げられる。活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等が挙げられる。その照射量は、特に限定されるものではなく、例えば、100~2000mJ/cmの範囲が挙げられ、500~1000mJ/cmの範囲が好ましい。
水分散性防曇コーティング組成物は、架橋剤(C)が添加されていることが好ましく、さらに、架橋剤(C)及び重合開始剤(D)等が添加されていることが好ましい。また、防曇性や耐水性等を損なわない範囲で、光重合開始助剤、エチレン性不飽和モノマー、帯電防止剤、フィラー、染顔料、油、可塑剤、ワックス類、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、乳化剤、ゲル化剤、安定剤、消泡剤、一般的な水性エマルション塗料用添加剤、例えば表面硬度及び擦過性を向上させるためナノ粒子のコロイダルシリカ等を含む表面調整剤、レベリング剤、ポリグリセリン誘導体等を含む界面活性剤、顔料、着色剤、増粘剤、チクソトロピー性付与剤、難燃剤、帯電防止剤、防腐剤、防カビ剤、防藻剤、可塑剤、充填剤、補強剤、艶消し剤等が配合されていてもよい。また、硝子との接着を目的にシランカップリング剤を添加してもよいし、塗膜の耐光性を上げるため酸化防止剤又は紫外線吸収剤等を添加してもよい。これらは、当該分野で通常用いられているもののいずれを用いてもよい。
【0026】
(重合開始剤(D))
水分散性防曇コーティング組成物に重合開始剤を添加することにより、熱、活性エネルギー線(例えば、紫外線)によって、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが、より容易に架橋及び/又は重合して硬化重合体を構成することができ、水分散性防曇コーティング組成物としての機能(防曇性、基材密着性、透明性、耐溶剤性、耐擦過性等)を発揮させることができる。
重合開始剤としては、熱又は還元性物質等によってラジカル分解してビニル単量体の付加重合を起こさせるラジカル重合開始剤が好適である。例えば、水溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等が挙げられる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t-ブチルヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ヒドロクロリド及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。なかでも、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(商品名:VA-057、富士フィルム和光純薬社製)、N,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,2’-ジメチル-2,2’-ジアゼンジイルジプロパンアミド(商品名:VA-086、富士フィルム和光純薬社製)、ビス[2-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)プロパン-2-イル]ジアゼン(商品名:VA-061、富士フィルム和光純薬社製)、アゾビスイソ酪酸アミジン塩酸塩(商品名:V-50、富士フィルム和光純薬社製)、(E)-1,2-ビス[2-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)プロパン-2-イル]ジアゼン―二塩酸塩(商品名:VA-044、富士フィルム和光純薬社製)、アゾビスシアノ吉草酸(商品名:V-501、富士フィルム和光純薬社製)等の水溶性アゾ重合開始剤、tert-ブチル=ヒドロペルオキシド(商品名:パーブチルH、日油社製)等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
重合開始剤は、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)(樹脂分濃度30質量%)の固形分100質量部に対して、0.001~10質量部が挙げられ、0.01~10質量部が好ましく、0.05~8質量部より好ましく、0.6~5質量部がさらに好ましい。
重合速度の促進及び70℃以下等の低温での重合が望まれる場合は、例えば、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩及びロンガリット等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いると有利である。
【0027】
また、水分散性防曇コーティング組成物に、光重合開始剤を添加してもよい。これにより、水分散性防曇コーティング組成物を活性エネルギー線により硬化することができる。光重合開始剤としては、水溶性又は水分散性を有する光重合開始剤を使用することが好ましい。このような光重合開始剤としては、例えば、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロポキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメトクロライド(オクテルケミカルズ社製、「Quantacure QTX」)、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア2959」)等が挙げられ、なかでも、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア2959」、IGM Resins B.V.社製「Omnirad 2959」)が挙げられる。
光重合開始剤は、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)(樹脂分濃度30質量%)の固形分100質量部に対して、0.002~10質量部が挙げられ、0.01~10質量部が好ましく、0.05~8質量部より好ましく、0.6~5質量部がさらに好ましい。
【0028】
(光重合開始助剤)
光重合開始剤とともに、光重合開始助剤を併用してもよい。光重合開始助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等が挙げられる。
光重合開始助剤は、光重合開始剤100質量部に対して、0.1~100質量部が挙げられる。
【0029】
(エチレン性不飽和モノマー)
水分散性防曇コーティング組成物は、エチレン性不飽和モノマーを含有していてもよい。
エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸化合物、ビニル基含有化合物等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸化合物としては、(メタ)アクリル酸アミド類、アルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物類、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類、ポリオールポリ(メタ)アクリレート類、アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。ビニル基含有化合物としては、酢酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルキルエーテル類、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸の塩類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0030】
アクリル酸アミド類としては、例えば、アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。アミノアルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類としては、例えば、アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート無水コハク酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートヘキサヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート無水コハク酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートヘキサヒドロ無水フタル酸付加物等が挙げられる。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、へキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオールポリ(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールへキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類としては、例えば、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートアルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ビニルアルキルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
なかでも、(メタ)アクリル酸化合物又はビニル基含有化合物は、水分散性を有する、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ビニルピロリドン、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレートの四級塩、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、ビニルスルホン酸及びビニルスルホン酸塩であることがより好ましい。
エチレン性不飽和モノマーは、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A)(樹脂分濃度20質量%)100質量部に対して、0~100質量部が挙げられ、0.02~80質量部が好ましい。
【0032】
水分散性防曇コーティング組成物は、その硬化物を種々の被塗物に形成して、防曇コーティングとして利用することができる。この場合の硬化は、熱硬化又は活性エネルギー線硬化及びそれらの組み合わせのいずれでもよい。
被塗物としては、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロペンタジエン等のポリオレフィン系樹脂、特にポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂等)、ガラス、金属、紙、木材、セメント等の基材が挙げられる。
このように、水分散性防曇コーティング組成物を被塗物に形成することにより、プライマー処理等を施すことなく、未処理の被塗物、特に、プラスチック基材に対して、良好な密着性を有するとともに、初期防曇性、耐久防曇性、透明性、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性に優れ、水垂れ跡の目立たない防曇膜とすることができる。
水分散性防曇コーティング組成物を、被塗物(例えば、易接着PETフィルム)の表面に形成する場合、例えば、その乾燥厚みを、0.01~100μm、好ましくは0.5~10μmとすることが挙げられる。また、活性エネルギー線を照射する前に、80~200℃の温度範囲、具体的には、80~200℃以下の温度範囲で、1~30分熱風乾燥兼熱処理をすることが好ましく、80℃で20分、120℃で5分、150℃で1~5分がより好ましい。これにより、水分が塗膜に残ることなく、塗膜外観が白化せずに基材との密着性が良好となる。また、塗膜による硬化物の表面のレベリング性がより良くなり、耐スチールウール性をも向上させることができる。特に、水分散性防曇コーティング組成物に架橋剤を含有させた場合、高温の熱処理下で架橋することにより基材との密着性、ハードコート塗布液溶剤に対する耐溶剤性が向上する。
水分散性防曇コーティング組成物を熱硬化する場合は、80~200℃以下の温度範囲で、1~30分熱風乾燥兼熱処理をすることが好ましく、100℃で15分、120℃で5分、150℃で1~5分がより好ましい。
このようにして得られた被塗物は、初期防曇性及び耐久防曇性を両立し、基材密着性、透明性、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性に優れ、水垂れ跡の目立たない硬化塗膜等の全ての特性を満足する物品等(例えば、防曇性ポリエステルフィルム等)を得ることができる。被塗物はプラスチック類だけでなく眼鏡、鏡等の防曇にも利用することができる。また、主としてパソコン及びモバイル、車載用ナビ等のタッチパネルフィルム、コンピューター、テレビ、液晶表示装置等のディスプレイ、キッチンボード、化粧洗面台周りの装飾材等として利用することができる。
【実施例0033】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物は以下のように製造した。
合成例1:水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A-1)
(ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の製造)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、乾燥空気吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(イソシアネート基含有量23質量%)159g(0.29モル)、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール0.6g、ジブチル錫ジラウリレート0.02gを仕込んだ。これに、70℃にて、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(0.58モル)(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物(水酸基価59.8mgKOH/g)545gとして仕込む)を約1時間で滴下し、70℃で4時間反応させた。残存イソシアネート基が1.7質量%となった時点で60℃に冷却した。
さらに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(重量平均分子量989.59、水酸基価56.7mgKOH/g)643.9g(0.30モル)を55℃にて約1時間で滴下した。反応が開始すると激しく発熱するため随時冷却した。発熱がほぼなくなったところで70℃に加熱し、3時間反応させて、オリゴマーの赤外吸収スペクトルを測定し、イソシアネート基の吸収スペクトル(2280cm-1)が消失した時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得た(固形分100質量%)。得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は12000であった。
(乳化)
上記で得られたウレタンアクリレートオリゴマー300gを60℃に保ち、室温(25℃)のイオン交換水700gを滴下または分割仕込み5回(初期400g、30分ごとに100g追加)(転相乳化法)しながら、パドル翼にて、オリゴマーとイオン交換水との界面(W/O界面)付近で撹拌した。このときの攪拌は、20~50rpmにて行った。樹脂分濃度が30質量%になった時点で滴下を終了し、乳化液を得た。その後、30分撹拌を維持し、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A-1)を得た。
得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物のpHは4~5、固形分(以下、「樹脂分濃度」ともいう)は30質量%、25℃での粘度は10mPa・sであった。
【0034】
合成例2:水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A-2)
(ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の製造)
合成例1のジペンタエリスリトールペンタアクリレート(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物)に替えて、ペンタエリスリトールトリアクリレート(0.58モル)(ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物(水酸基価125.4mgKOH/g)260gとして仕込む)を約1時間で滴下し、70℃で4時間反応させた。残存イソシアネート基が2.9%となった時点で60℃に冷却した。
さらに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(重量平均分子量989.59、水酸基価56.7mgKOH/g)296g(0.30モル)を55℃にて約1時間で滴下した。反応が開始すると激しく発熱するため随時冷却した。発熱がほぼなくなったところで70℃に加熱し、3時間反応させて、オリゴマーの赤外吸収スペクトルを測定し、イソシアネート基の吸収スペクトル(2280cm-1)が消失した時点で反応を終了し、ウレタンアクリレートオリゴマーを得た(樹脂分濃度100%)。得られたウレタンアクリレートオリゴマーの重量平均分子量は6,000であった。
(乳化)
上記で得られたウレタンアクリレートオリゴマー300gを60℃に保ち、室温(25℃)のイオン交換水700gを滴下または分割仕込み5回(初期400g、30分ごとに100g追加)(転相乳化法)しながら、パドル翼にて、オリゴマーとイオン交換水との界面(W/O界面)付近で撹拌した。このときの攪拌は、10~100rpmにて行った。樹脂分濃度が30質量%になった時点で滴下を終了し、乳化液を得た。その後、30分間撹拌を維持し、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A-2)を得た。
得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物のpHは4~5、固形分は30%、25℃での粘度は35mPa・sであった。
【0035】
合成例3:親水化剤組成物(B-1)
冷却管付き反応容器に、水408gと親水性ウレタン樹脂(アロンネオタンUE-1100(固形分35質量%))286gと反応性乳化剤(ラテムルPD-104(固形分20質量%))20gを仕込み、20分間窒素ガスを吹き込んで十分脱酸素を行った。次に重合開始剤(過硫酸カリウム)2gを添加して70~80℃に昇温し、ラジカル重合性ビニルモノマー〔メタクリル酸メチル(MMA)84g、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)10g、アクリル酸(AA)5g、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1g〕を1時間かけて滴下し、さらに同温度にて3時間熟成し、親水化剤組成物(B)(固形分25質量%)を得た。さらに水200gで希釈し、親水化剤組成物(B-1)を得た。
得られた親水化剤組成物の固形分は20%、pHは5.5、25℃での粘度は9mPa・sであった。
【0036】
合成例4:親水化剤組成物(B-2)
冷却管付き反応容器に、水200gと反応性乳化剤(ラテムルPD-104(固形分20%))20gを仕込み、20分間窒素ガスを吹き込んで十分脱酸素を行った。次に重合開始剤(過硫酸カリウム)2gを添加して70~80℃に昇温し、ラジカル重合性ビニルモノマー〔メタクリル酸メチル(MMA)65g、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)10g、アクリル酸(AA)10g、アクリル酸ブチル(BA)15g、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1g〕を1時間かけて滴下し、さらに同温度にて3時間熟成し、親水化剤組成物(B)(固形分25質量%)を得た。さらに水180gで希釈し、親水化剤組成物(B-2)を得た。
得られた親水化剤組成物の固形分は16質量%、pHは4、25℃での粘度は20mPa・sであった。
【0037】
合成例5:親水化剤組成物(B-3)~(B-5)
合成例(B-2)と同様にして、冷却管付き反応容器に表1の組成にて水、反応性乳化剤を仕込み、20分間窒素ガスを吹き込んで十分脱酸素を行った。次に重合開始剤を添加して70~80℃に昇温し、1時間をかけてラジカル重合性ビニルモノマーを滴下し、さらに同温度にて3時間熟成し、親水化剤組成物(B)(固形分25質量%)を得た。さらに水で希釈し、親水化剤組成物(B-3)~(B-5)を得た。
得られた親水化剤組成物の固形分、pH、粘度は表1の通りであった。
【表1】
表1における略称は以下の通りである。
BMA:メタクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
HEMA:メタクリル酸ヒドロキシエチル
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
BA:アクリル酸ブチル
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
DEAAm:N,N-ジエチルアクリルアミド
Aam:アクリルアミド
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
アロンネオタンUE-1100(東亜合成社製):ポリウレタンエマルション、固形分35質量%、粘度:<500mPa・s、pH:7~8、
ラテムルPD-104(花王社製):ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、固形分20質量%
アデカリアソープER-10(アデカ社製):エチレンオキサイド付加型のノニオン界面活性剤、固形分100質量%
なお、固形分(加熱残分)及び粘度は、以下の方法で測定した値である。
【0038】
(固形分)
アルミ皿(径約50mm)の重さを正確に測り(Ag)、試料約1.5gをアルミ皿に取り、すばやくガラス棒でなるべく均一に、底面一杯に広げてからその質量を正確に測定する(Bg)。アルミ皿を105~110℃の電気定温乾燥機で3時間乾燥させる。アルミ皿を乾燥機から取り出し、室温まで放冷後、その重さを正確に測定する(Cg)。
固形分(質量%)=100×{(C-A)/(B-A)}
ここで、Aはアルミ皿の質量(g)、Bは乾燥前の試料込みのアルミ皿の質量(g)、Cは乾燥後の試料込みのアルミ皿の質量(g)である。
(粘度)
試料約400mlを広口瓶に取り、蓋をして「品位規格に規定する」温度に調整してある恒温槽に入れ、4時間以上放置して試料の温度を調整する。B型回転粘度計に、予め所定の温度±0.2℃に保ってある「品位規格に規定する」ロータを気泡が付着しないようにして試料中に入れ、粘度計にロータを取り付け、標線に液面を合わせる。「品位規格に規定する」回転数にセットし、粘度計を回転させ、1分後の指針示度を読み取る。
粘度(mPa・S)=指針示度×X
ここで、Xは粘度換算乗数(B方回転粘度計に付属する換算表による)である。
【0039】
実施例1
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、乾燥空気吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(A-1)の乳化液333g(固形分30質量%:固形分量100g)に、親水化剤組成物(B-1)の乳化液160g(固形分20質量%:固形分量32g)、架橋剤としてエポクロスWS700(C-1、オキサゾリン基含有アクリル、NV.25質量%、日本触媒社製)32g(固形分量8g)、重合開始剤として1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(D-1、IGM Resins B.V.社製「Omnirad 2959」)4gを仕込み、60℃にて加温溶解して水分散性防曇コーティング組成物(固形分27質量%)を得た。
【0040】
実施例2
実施例1の架橋剤であるエポクロスWS700(C-1、オキサゾリン基含有アクリル、NV.25質量%、日本触媒製)32g(固形分量8g)に替えてカルボジライトSV-02(C-2、ポリカルボジイミド、NV.40質量%、日清紡ケミカル製)20g(固形分量8g)及び、実施例1の重合開始剤である1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(D-1、IGM Resins B.V.社製「Omnirad 2959」)4gに替えて過硫酸アンモニウム(D-2)0.3gを仕込み溶解して水分散性防曇コーティング組成物(固形分27質量%)を得た。
【0041】
実施例3~4及び比較例1~6
以下の表2に示す各成分を混合して、実施例及び比較例の水分散性防曇コーティング組成物を実施例1、2と同様に調製した。
【表2】
表2における略称は以下の通りである。
(C-1)エポクロスWS700(オキサゾリン基含有アクリル、NV.25質量%、日本触媒社製)
(C-2)カルボジライトSV-02(ポリカルボジイミド、NV.40質量%、日清紡ケミカル社製)
(D-1)光重合開始剤Ommiad 2959(IGM Resins B.V.社製)
(D-2)重合触媒 過硫酸アンモニウム
【0042】
試験例1
実施例及び比較例で得られた各水分散性防曇コーティング組成物を、基材PET(以下、易接着性ポリエステルフィルム、東洋紡製、コスモシャイン(登録商標)A-4100、厚さ125μm)に、バーコーター#14を用いて、乾燥後の膜厚が3~5μmとなるように塗工した。
水分散性防曇コーティング組成物の塗工後、
120℃で5分、乾燥兼熱処理を行い、無電極ランプHバルブを用いて、ラインスピード:5.4m/min、照射量:600mJ/cm、Peak照度:1,500mW/cmで紫外線照射を行った(重合開始剤として(D-1)を用いた場合)。
もしくは、100℃で15分、乾燥兼熱硬化を行った(重合開始剤として(D-2)を用いた場合)。
これにより、各水分散性防曇コーティング組成物を易接着性ポリエステルフィルム上にコーティング、硬化して得られた防曇塗膜付きポリエステルフィルムを用いて、以下の評価を行った。
(塗膜外観及びレベリング性)
防曇塗膜付きポリエステルフィルムの塗膜外観及びレベリング性を、塗膜の白化及びムラ(不均一性)、ハジキの有無により、目視確認した。透明性及びハジキがないものは、均一透明な塗膜であり、良好〇と評価した。
その結果を表3に示す。
(寸法安定性:硬化収縮性)
得られた防曇塗膜付きポリエステルフィルムを、10cm×10cm角に切り取り、一晩放置した。端面4点の跳ね上げ高さを測定し、平均値を算出した。その値を表3に示す。
【表3】
なお、紫外線照射による硬化物及び熱硬化物のいずれも、同様の評価結果を示した。
【0043】
試験例2
試験例1で塗工適性(外観、レベリング性)及び寸法安定性(0mm)ともに良好〇と評価された防曇塗膜付きポリエステルフィルムについて、初期防曇性試験として以下の各試験を行った。それらの結果を表4に示す。
(呼気防曇性)
塗膜の表面に常温で呼気を吹きかけ、曇りの有無を目視で評価した。
曇りが認められないものを○、
曇りが認められるものを×とした。
(スチーム防曇A)
容器に60℃の温水を温水面から1cmの高さのところまで入れ、容器に防曇塗膜を下にしたフィルムで蓋をするように設置し、2分間の塗膜の曇りの有無を目視で評価した。
曇りが認められないものを○、
約10秒間曇りが認められ、その後曇りが消えるものを△
曇りが認められるものを×とした。
(水垂れ跡)
スチーム防曇Aを終えた試験片を90°で立てかけて静置し、一晩室内で乾燥させた試験片の外観を目視で評価した。水滴が流れ落ちた垂れ跡が全く認められないものを〇、垂れ跡が輪郭線程度に認められるものを△、垂れ跡が全体的に白くブリードアウトが認められるものを×とした。
【表4】
【0044】
試験例3
試験例2にて初期防曇性が良好〇又はほぼ良好△と評価された防曇塗膜付きポリエステルフィルムについて、耐久性試験として以下の各試験を行った。それらの結果を表5に示す。
(塗膜硬度)
防曇塗膜付きポリエステルフィルムについて、JIS K5400に準じて鉛筆硬度を測定した。
(耐擦過性)
防曇塗膜付きポリエステルフィルムに対して、荷重100gの負荷をかけたスチールウール(#0000)で10往復、擦ることにより耐擦過性を評価した。傷の状態を目視観察した。
〇:サンプル表面に全く傷がない
×:サンプル表面に傷が認められる
(耐水性)
塗膜を25℃の水中に24時間浸漬後、常温乾燥し、塗膜の外観を目視で評価した。
変化がないものを〇、
ヘイズが生じているものを△、
白化及び/又は剥離が生じているものを×とした。
(耐溶剤性)
エタノール、MEK(メチルエチルケトン)を各々染み込ませたウエス(クレシアテクノワイプ C100-S(日本製紙クレシア社製)で、上記で得られた試験片の防曇膜面を10回拭いた後、25℃環境下にて1時間乾燥させた後、外観を目視で評価した。
〇:サンプル表面に傷がなく、透明性に変化無し
×:サンプル表面に傷が見られ、白化している
(スチーム防曇B)
上述した耐水性、耐溶剤性、耐擦過性を確認した後、スチーム防曇Aと同じ操作を行い、確認した。評価基準はスチーム防曇Aに従った。
(スチーム防曇C)
スチーム防曇Aと同様に、容器に60℃の温水を温水面から1cmの高さのところまで入れ、容器に防曇塗膜を下にしたフィルムで蓋をするように設置し、1時間後の塗膜の曇りの有無及び膜外観を目視で評価した。
曇りが認められず平坦な水膜が形成されているものを◎、
曇りが認められず大きな水滴が形成されているものを○、
塗膜に白化及び/又は剥離が生じているものを×とした。
(基材密着性)
各基材への密着性を評価した。JIS K5400に準じて、実施例及び比較例で得られた各水分散性防曇コーティング組成物を硬化して得られた防曇塗膜に、2mmの碁盤目を100ヶ所作り、セロハンテープにより密着試験を行った。碁盤目の剥離状態を観察し、残存したマス目の数を測定した。用いた基材は、以下の通りである。
基材PET:東洋紡社製、コスモシャイン(登録商標)A-4100、厚さ125μm
基材PC:ポリカーボネートシート:帝人社製、ピュアエース(登録商標)、厚さ100μm、
基材PMMA:アクリル樹脂シート:三菱ケミカル社製、アクリライト(商標)L、厚さ1mm。
【表5】
【0045】
試験例4
試験例3にて耐久性試験が全て良好〇で、且つPC及びPMMA基材の密着性が良好100と評価された防曇塗膜付きポリエステルフィルムについて、スチーム防曇A試験の前後の光学特性を評価した。その結果を表6に示す。
(光学特性)
防曇塗膜付きポリエステルフィルムをコニカミノルタ社製分光測色計CM-3600Aにてヘイズ及び全光線透過率を測定した。ヘイズの変化が無く、全光線透過率:88%以上を合格とした(基材A:88.4%上)。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の防曇コーティング組成物及び防曇塗膜は、初期防曇性及び耐久防曇性を両立した、自動車の前照灯などの照明装置に用いられるガラス又はプラスチックなどの透明部材、レンズ、浴室・洗面台用途における透明フィルム等の透明基材及び鏡等の反射材に適用することが可能である。また、本発明の組成物及び塗膜は、水性であるため環境への悪影響が小さい。