(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094965
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】医療用の長尺部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
A61M25/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210592
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩木 和男
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267BB06
4C267BB31
4C267FF01
(57)【要約】
【課題】コーティング液による支持部の汚染を低減できる医療用の長尺部材の製造方法を提供する。
【解決手段】医療用の長尺部材を支持部に配置する工程、及び溶媒が入れられた溶媒槽を、前記溶媒の液面が前記支持部よりも下側に位置するように配置した状態で、前記支持部において前記長尺部材をコーティング液によりコーティングする工程を含む医療用の長尺部材の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用の長尺部材を支持部に配置する工程、及び
溶媒が入れられた溶媒槽を、前記溶媒の液面が前記支持部よりも下側に位置するように配置した状態で、前記支持部において前記長尺部材をコーティング液によりコーティングする工程を含む医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング液を前記支持部の底部から供給する請求項1に記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項3】
前記支持部を有する支持部材の少なくとも下部を前記溶媒に浸漬させる工程を含む請求項1または2に記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項4】
前記支持部は、上側から下側に向かって凹んでいる凹部を有している請求項1~3のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒の液面を上昇または低下させることにより、前記溶媒の液面が前記支持部の最下部よりも下側であって、且つ前記支持部を有する支持部材の底面よりも上側に位置するように制御する請求項1~4のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽に溶媒を加える請求項1~5のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽に錘を入れる請求項1~6のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽の位置を上昇させる請求項1~7のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒の液面が低下しているときに、前記支持部の位置を下降させる請求項1~8のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽から前記溶媒を排出する請求項1~9のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽に予め浸漬させておいた錘を引き上げる請求項1~10のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽の位置を下降させる請求項1~11のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記支持部の位置を上昇させる請求項1~12のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒は、有機溶剤を含む請求項1~13のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた医療用の長尺部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルなどの医療用具は、生体管腔への挿入容易性、医療用具の表面保護や補強等の目的で、その表面にコーティングが施されている。
【0003】
コーティングに用いる装置の一例として、特許文献1には、コーティング塗布ユニットを備え、コーティング塗布ユニットが、流体アプリケータ、第1の回転機構及び第2の回転機構、並びに制御装置を備え、制御装置により、第1の回転機構及び第2の回転機構が、実質的に同じ速度で医療器具を回転させ、速度が、500回転/分を超える速度であるコーティング装置が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、バルーンカテーテルのバルーンの外表面にコーティング層を形成するバルーンコーティング装置であって、バルーンを当該バルーンの軸心を中心として回転させる回転機構と、バルーンに対して当該バルーンの軸心方向へ相対的に移動し、薬剤を含むコーティング液をバルーンの外表面に塗布する塗布部と、塗布部の移動方向側でバルーンの外表面に接触して当該バルーンを支持するバルーン支持部と、を有するバルーンコーティング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-504058号公報
【特許文献2】特開2015-119801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の検討により、コーティング装置の支持部にてバルーンカテーテル等の医療用の長尺部材を支持してコーティングする場合、支持部に付着したコーティング液が乾燥し、コーティング液中の添加物が析出して、支持部を汚染することが分かった。本発明は上記の様な問題に着目してなされたものであって、その目的は、コーティング液による支持部の汚染を低減できる医療用の長尺部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできた本発明の実施の形態に係る医療用の長尺部材の製造方法は、以下の通りである。
[1]医療用の長尺部材を支持部に配置する工程、及び
溶媒が入れられた溶媒槽を、前記溶媒の液面が前記支持部よりも下側に位置するように配置した状態で、前記支持部において前記長尺部材をコーティング液によりコーティングする工程を含む医療用の長尺部材の製造方法。
【0008】
上記のように、溶媒が入れられた溶媒槽を、溶媒の液面が支持部よりも下側に位置するように配置することより、溶媒槽の溶媒から生じた蒸気が支持部に接触し易くなって、コーティング液の乾燥を低減することができる。その結果、コーティング液による支持部の汚染を低減できる。実施の形態に係る医療用の長尺部材の製造方法は、以下の[2]~[14]のいずれかであることが好ましい。
[2]前記コーティング液を前記支持部の底部から供給する[1]に記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[3]前記支持部を有する支持部材の少なくとも下部を前記溶媒に浸漬させる工程を含む[1]または[2]に記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[4]前記支持部は、上側から下側に向かって凹んでいる凹部を有している[1]~[3]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[5]前記溶媒の液面を上昇または低下させることにより、前記溶媒の液面が前記支持部の最下部よりも下側であって、且つ前記支持部を有する支持部材の底面よりも上側に位置するように制御する[1]~[4]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[6]前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽に溶媒を加える[1]~[5]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[7]前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽に錘を入れる[1]~[6]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[8]前記溶媒の液面が低下しているときに、前記溶媒槽の位置を上昇させる[1]~[7]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[9]前記溶媒の液面が低下しているときに、前記支持部の位置を下降させる[1]~[8]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[10]前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽から前記溶媒を排出する[1]~[9]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[11]前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽に予め浸漬させておいた錘を引き上げる[1]~[10]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[12]前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記溶媒槽の位置を下降させる[1]~[11]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[13]前記溶媒の液面が上昇しているときに、前記支持部の位置を上昇させる[1]~[12]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
[14]前記溶媒は、有機溶剤を含む[1]~[13]のいずれかに記載の医療用の長尺部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成により、コーティング液による支持部の汚染を低減できる医療用の長尺部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、医療用の長尺部材を配置したコーティング装置の平面図である。
【
図4】
図4は、
図2のA-A断面図であって、支持部材の一部を溶媒槽の溶媒に浸漬させたときのコーティング装置の断面図である。
【
図5】
図5は、コーティング装置と医療用の長尺部材の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
本発明の実施の形態に係る医療用の長尺部材の製造方法は、医療用の長尺部材を支持部に配置する工程、及び溶媒が入れられた溶媒槽を、溶媒の液面が支持部よりも下側に位置するように配置した状態で、支持部において長尺部材をコーティング液によりコーティングする工程を含む。
【0013】
上記のように、溶媒が入れられた溶媒槽を、溶媒の液面が支持部よりも下側に位置するように配置することより、溶媒槽の溶媒から生じた蒸気が支持部に接触し易くなって、コーティング液の乾燥を低減することができる。その結果、コーティング液による支持部の汚染を低減できる。
【0014】
以下では、
図1~4を参照しながら、実施の形態に係る医療用の長尺部材の製造方法について説明する。
図1は、
図2のA-A断面図である。
図2は、医療用の長尺部材を配置したコーティング装置の平面図である。
図3は、変形例の支持部材の断面図である。
図4は、
図2のA-A断面図であって、支持部材の一部を溶媒槽の溶媒に浸漬させたときのコーティング装置の断面図である。なお、
図2については、コーティング液供給シリンジの記載を省略している。
【0015】
実施の形態に係る製造方法は、医療用の長尺部材40を支持部2に配置する工程、及び溶媒30aが入れられた溶媒槽30を、溶媒30aの液面30sが支持部2よりも下側に位置するように配置した状態で、支持部2において長尺部材40をコーティング液50によりコーティングする工程を含む。以下では、各工程について詳述する。
【0016】
図1に示す通り、医療用の長尺部材40を支持部2に配置する工程においては、少なくともコーティング装置1の支持部2における底部2aで医療用の長尺部材40を支持することが好ましい。これにより医療用の長尺部材40を鉛直方向nの下側から支えることができる。支持部2の底部2aとは、支持部2の領域のうち鉛直方向nの長さの1/2位置よりも下側の領域である。なお当該配置工程の段階では、支持部2にコーティング液50が存在していなくてもよく、存在していてもよい。また支持部2の位置を上昇させるか、および/または医療用の長尺部材40の位置を下降させることにより、医療用の長尺部材40を支持部2に配置してもよい。またコーティング装置1は、支持部2の底部2aにコーティング液50が供給されたことを検知するセンサーを有していてもよい。この場合、当該センサーは、後述する制御部35に接続されていてもよく、上記検知後に制御部35から支持部2および/または医療用の長尺部材40の高さ位置を変化させる信号を発生させてもよい。
【0017】
支持部2は、上側から下側に向かって凹んでいる凹部5を有していることが好ましい。コーティング液50の塗布中に医療用の長尺部材40が動いたとしても凹部5によってその動きを規制することができる。その結果、コーティング膜厚のばらつきが生じにくくなり、均一化されやすくなる。
【0018】
凹部5は、医療用の長尺部材40と接触して医療用の長尺部材40を支持する表面5sを有していることが好ましい。凹部5の表面5sは、平面、曲面、またはこれらの組み合わせ形状であってもよい。当該平面は水平方向mと平行であってもよく、水平方向mに対して傾斜していてもよい。当該曲面は、湾曲していてもよく、屈曲していてもよい。凹部5の表面5sは医療用の長尺部材40の外面形状に沿う形状を有していてもよい。凹部5では、医療用の長尺部材40を点で支持していてもよく、線、または面で支持してもよい。
【0019】
溶媒30aが入れられた溶媒槽30を、溶媒30aの液面30sが支持部2よりも下側に位置するように配置するに当たっては、溶媒槽30を支持部2の下側に配置してから溶媒30aを入れてもよく、溶媒槽30に溶媒30aを入れてから支持部2の下側に配置してもよい。溶媒30aの液面30sが支持部2よりも下側に位置するように配置することにより、溶媒槽30の溶媒30aから生じた蒸気が上昇して支持部2に接触し易くなって、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。当該配置はコーティング開始前に行うことが好ましい。
【0020】
当該配置を行うに当たっては、上側からの平面視である
図2に示す通り、溶媒槽30の内縁30eより内側に支持部2が位置するように溶媒槽30を配置することが好ましい。これにより、溶媒槽30の溶媒30aから生じた蒸気が一層、支持部2に接触し易くなって、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。更に、支持部2を有する支持部材6が溶媒槽30の内縁30eより内側に位置していることが好ましい。これにより、支持部材6の少なくとも一部を溶媒30aに浸漬させ易くすることができる。
【0021】
支持部2において長尺部材40をコーティング液50によりコーティングする工程では、コーティング液50を支持部2の底部2aから供給することが好ましい。これにより、支持部2へのコーティング液50の付着量を低減することができる。
【0022】
コーティング液50を支持部2の底部2aから供給する態様については、例えば
図1に示すように、支持部材6の支持部2よりも下側に位置する液槽部4をコーティング液50で満たして、コーティング液50の表面張力により底部2aにコーティング液50を供給してもよい。また、コーティング液50の液量を増加させる等してコーティング液50の液面50aを上昇させることにより、液面50aを底部2aに供給してもよい。その場合、コーティング液50は凹部5からこぼれ落ちてもよい。
【0023】
液槽部4は、コーティング液50の液面50aの液位を調節する液槽液位調節部4cを有することが好ましい。液槽液位調節部4cは、コーティング液注入器および/または錘を有することが好ましい。コーティング液注入器により、コーティング液50を液槽部4に注入することにより、液位を上昇させることができる。コーティング液注入器としてシリンジ、ポンプに接続された供給管等が挙げられる。コーティング液50を注入する場合には、0.05mL/分以上、1mL/分以下の流速で注入することが好ましい。一方、液槽液位調節部4cが錘を有する場合、コーティング液50の液面50aが低下傾向にあるときに錘を沈めていくことにより、液面50aの液位を上昇させることができる。錘の詳細については、後述する溶媒槽30に浸漬させる錘に関する記載を参照すればよい。また液槽部4は溝4gを有することが好ましい。更に、支持部材6は、溝4gの延在方向4eにおける両端部4a、4bのうち少なくとも一方の端部に液槽液位調節部4cを有することが好ましい。これによりコーティング液50の液位を調節する際の作業性が向上する。
【0024】
コーティングする工程では、
図3に示すように、支持部2の下に液槽部4を有していない支持部材6を用いてもよい。当該支持部材6は、凹部5を有し、支持部2の底部2a即ち、凹部5の底部に設けられた吐出口15と、吐出口15の下に設けられた内部流路8と、内部流路8に連通する供給管23とを有することが好ましい。供給管23、内部流路8、吐出口15を介して、支持部2の底部2aにコーティング液50を吐出するような形態で供給してもよい。なおこの場合、コーティング液50は凹部5からこぼれ落ちてもよい。
【0025】
図4に示す通り、実施の形態に係る製造方法は、支持部2を有する支持部材6の少なくとも下部6lを溶媒30aに浸漬させる工程を含むことが好ましい。これにより、溶媒槽30の溶媒30aの液面30sが支持部2に近づくため、溶媒30aから生じた蒸気が一層、支持部2に接触し易くなって、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。当該浸漬は、コーティング開始前に行うことが好ましいが、コーティング開始後に行ってもよい。また当該浸漬は、医療用の長尺部材40を支持部2に配置する前に行うことが好ましいが、当該配置後に行ってもよい。また当該浸漬は、支持部材6の位置を下降させることにより行うことが好ましいが、後記するように溶媒30aの液面30sを上昇させることにより行ってもよい。
【0026】
支持部材6のうち、少なくとも底面6sから鉛直方向nの長さの1/10の距離離れた1/10位置までの領域を溶媒30aに浸漬させることが好ましく、少なくとも底面6sから鉛直方向nの長さの1/4の距離離れた1/4位置までの領域を溶媒30aに浸漬させることがより好ましく、少なくとも底面6sから鉛直方向nの長さの1/2の距離離れた1/2位置までの領域を溶媒30aに浸漬させることが更に好ましい。また、当該浸漬に当たっては、溶媒30aの液面30sが、支持部2の最下部2mから鉛直方向nの下側に1mm以上の距離離れるように浸漬することが好ましい。溶媒30aの液面30sと支持部2の最下部2mとの鉛直方向nの距離は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは2mm以下であって、好ましくは1mm以上である。なお
図1、4において、支持部2の最下部2mは、凹部5の最下部に相当する。
【0027】
コーティングする工程において、
図1等のコーティング装置1を用いる場合、凹部5からこぼれ落ちるコーティング液50の量が多いと、下側に配置された溶媒槽30中の液体の液位が上昇する場合がある。一方、凹部5からコーティング液50がこぼれ落ちないか、又はこぼれ落ちるコーティング液50の量が少ないと、溶媒30aの蒸発により溶媒槽30の液体の液位が低下する場合がある。以下ではコーティング工程における溶媒槽30の液位の制御について詳述する。
【0028】
溶媒30aの液面30sを上昇または低下させることにより、溶媒30aの液面30sが支持部2の最下部2mよりも下側であって、且つ支持部2を有する支持部材6の底面6sよりも上側に位置するように制御することが好ましい。溶媒30aの液面30sが支持部2の最下部2mよりも下側に位置するように制御することにより、溶媒30aが、凹部5等から支持部2内に入り込むことに伴うコーティング液50の濃度の低下を防止することができる。一方、溶媒30aの液面30sが支持部2を有する支持部材6の底面6sよりも上側に位置するように制御することにより、溶媒30aから生じた蒸気が一層、支持部2に接触し易くなって、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。
【0029】
溶媒30aの液面30sが低下しているときに、溶媒槽30に溶媒30aを加えることが好ましい。これにより、溶媒30aの液面30sを上昇させることができ、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。溶媒槽30に溶媒30aを加える方法については特に限定されず、シリンジ、ポンプに接続された供給管等を用いて溶媒30aを加えてもよい。
【0030】
溶媒30aの液面30sが低下しているときに、溶媒槽30に錘を入れることが好ましい。錘を沈めることにより溶媒30aの液面30sが上昇するため、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。錘の全体を溶媒30aに沈める必要は無く、錘の一部のみ沈めてもよい。錘は、溶媒30aに沈むものであることが好ましく、樹脂および/または金属を含むことが好ましく、金属を含むことがより好ましく、金属からなることが更に好ましい。また錘は、ワイヤー等の線状体が取り付けられていてもよい。また駆動機構を用いて錘を溶媒30aに沈めてもよい。駆動機構として、電動ウインチや手動ウインチ等が挙げられ、例えばウインチを用いて錘を巻き下げることにより錘を溶媒30aに沈めることができる。
【0031】
溶媒30aの液面30sが低下しているときに、溶媒槽30の位置を上昇させることが好ましい。これにより、溶媒30aの液面30sを上昇させることができ、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。溶媒槽30を上昇させる手段として、例えば、駆動機構を用いて溶媒槽30の位置を上昇させてもよい。当該駆動機構としては、鉛直方向nに昇降運動させることが可能なスライダを有するアクチュエータが挙げられる。
【0032】
溶媒30aの液面30sが低下しているときに、支持部2の位置を下降させることが好ましい。これにより、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。支持部2を下降させる手段として、例えば、支持部材6を上述したような駆動機構を用いて支持部2を下降させてもよい。
【0033】
溶媒30aの液面30sが上昇しているときに、溶媒槽30から溶媒30aを排出することが好ましい。これにより、溶媒30aが凹部5等から支持部2内に入り込むことに伴うコーティング液50の濃度の低下を防止することができる。溶媒槽30から溶媒30aを排出する手段として、例えばポンプに接続された管の先端部を溶媒30a中に入れて溶媒30aを排出してもよく、シリンジを用いて排出してもよい。また、溶媒槽30は、底部および/または側部に形成された開閉可能な開口を有していてもよい。当該開口から溶媒30aを排出することができる。
【0034】
溶媒30aの液面30sが上昇しているときに、溶媒槽30に予め浸漬させておいた錘を引き上げることが好ましい。これにより、溶媒30aの液面30sを下げることができ、溶媒30aが凹部5等から支持部2内に入り込むことに伴うコーティング液50の濃度の低下を防止することができる。錘は、上述の通り、ワイヤー等の線状体が取り付けられていてもよい。また上述したような駆動機構を用いて錘を引き上げてもよい。
【0035】
溶媒30aの液面30sが上昇しているときに、溶媒槽30の位置を下降させることが好ましい。これにより、溶媒30aの液面30sを下げることができ、溶媒30aが凹部5等から支持部2内に入り込むことに伴うコーティング液50の濃度の低下を防止することができる。溶媒槽30を下降させる手段として、例えば、上述したような駆動機構を用いて溶媒槽30の位置を下降させてもよい。
【0036】
溶媒30aの液面30sが上昇しているときに、支持部2の位置を上昇させることが好ましい。これにより、溶媒30aの液面30sを下げることができ、溶媒30aが凹部5等から支持部2内に入り込むことに伴うコーティング液50の濃度の低下を防止することができる。支持部2を上昇させる手段として、例えば、支持部材6を上述したような駆動機構を用いて支持部2を上昇させてもよい。
【0037】
溶媒30aの液面30sの液位を制御するに当たって、液位を把握するために液位計を用いてもよい。液位計として、溶媒30aに接触しない非接触型の液位計、溶媒30aに接触する接触型の液位計が挙げられる。非接触型の液位計として、超音波式液位計、電波式液位計が挙げられる。接触型の液位計として、フロート式液位計、ガイドロープ式液位計、投げ込み式液位計である圧力式液位計、静電容量式液位計、差圧式液位計が挙げられる。その他に、溶媒槽30の内縁30eに目印を付けておいて、溶媒30aの液面30sの液位を目視で確認してもよい。また溶媒槽30は複数の側壁を有することが好ましく、複数の側壁のうち少なくとも一つの壁は外側に向かって傾斜している傾斜部を有していてもよい。このような傾斜部を設けることにより上側から液位を確認し易くすることができる。
【0038】
なお上述したシリンジ、ポンプ、駆動機構、液位計等は、後述する制御部35に接続されていてもよい。例えば液位計により測定された液位が、所定の液位を下回るかまたは上回った場合に、制御部35から液位の制御のための各信号が各部材に伝達されて、当該信号に基づいて各部材が溶媒30aの液面30sを上昇または低下させるように作動してもよい。
【0039】
溶媒槽30の溶媒30aは有機溶剤を含むことが好ましい。これにより蒸気を発生させ易くすることができる。コーティング開始前の溶媒30aは有機溶剤からなることが好ましい。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、またはこれらの混合物が好ましい。これらのうち、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、またはこれらの混合物がより好ましく、エタノール、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合物が更により好ましく、エタノールが特に好ましい。有機溶剤の沸点は、好ましくは170℃以下、より好ましくは120℃以下、更により好ましくは80℃以下である。これにより蒸発量を向上させることができる。一方、有機溶剤の沸点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、更に好ましくは60℃以上である。これにより過剰な蒸発に伴う大気汚染を低減することができる。
【0040】
コーティング開始時における溶媒槽30中の溶媒30aの質量は、液槽部4中のコーティング液50の質量よりも大きいことが好ましい。また、コーティング開始時における溶媒槽30中の溶媒30aの体積は、液槽部4中のコーティング液50の体積よりも大きいことが好ましい。これにより、溶媒槽30の溶媒30aから生じる蒸気量を向上させることができる。
【0041】
コーティング液50は、添加物と溶媒を含むことが好ましい。添加物として、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース化合物、グリコール化合物またはこれらの混合物が挙げられる。セルロース化合物として、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、セロハン、硝酸セルロース、プロピオニルセルロース、セルロース・エーテル、カルボキシメチルセルロース、またはこれらの混合物が挙げられる。グリコール化合物として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン・グリコール、またはこれらの混合物が挙げられる。またコーティング液50は、添加物として、モノマー、光反応化合物等の反応性化合物、架橋剤等を含んでいてもよい。これらの添加物は、例えば医療用の長尺部材40の摺動性等の操作性向上、医療用の長尺部材40の保護および補強、コーティング時の取り扱いの容易性等を考慮して選択することができる。
【0042】
コーティング液50の溶媒は、有機溶剤を含むことが好ましい。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、またはこれらの混合物が好ましい。これらのうち、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、またはこれらの混合物がより好ましく、テトラヒドロフランが更により好ましい。コーティング液50の有機溶剤の沸点は、溶媒槽30中の溶媒30aの有機溶剤の沸点よりも低いことが好ましい。これによりコーティング後に医療用の長尺部材40を乾燥し易くすることができる。当該沸点の差は好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。一方、当該沸点の差は好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下、更に好ましくは20℃以下である。これにより溶媒槽30から溶媒30aを蒸発させ易くすることができる。
【0043】
コーティング液50は、更に薬剤を含んでいてもよい。薬剤としては、免疫抑制剤、免疫活性剤、抗がん剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻酔剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤、栄養剤、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
支持部2は、複数の凹部5を有し、複数の凹部5は水平方向mに並んで配置されていることが好ましい。これにより、複数の医療用の長尺部材40は、ほぼ同じ高さ位置に揃えて支持され易くなる。複数の凹部5は直線状に並んで配置されていることが好ましい。
【0045】
凹部5の個数は、好ましくは1個以上、より好ましくは2個以上、更に好ましくは4個以上であって、好ましくは15個以下、より好ましくは10個以下、更に好ましくは8個以下である。なお後述するように、支持部材6が、互いに対向する第1の凹部5aと第2の凹部5bを有する場合には、一対の凹部を1個としてカウントすればよい。
【0046】
またコーティング装置1は、支持部材6を有し、支持部材6が支持部2と液槽部4とを有していることが好ましい。
【0047】
コーティング装置1を用いてコーティングを開始する際には、液槽部4のコーティング液50の液面50aを凹部5の底部5cに到達させることが好ましい。このように液槽部4のコーティング液50により複数の凹部5の各々の底部5cを浸漬させることにより、複数の医療用の長尺部材40を一気にまとめてコーティングすることができる。更にこれにより、各底部5cにおけるコーティング液50の液量を均一にし易いため、複数の医療用の長尺部材40間でのコーティング量のばらつきを低減することができる。なお当該態様では、凹部5の底部5cが支持部2の底部2aに相当する。
【0048】
液槽部4は、複数の凹部5が並ぶ方向に延在する溝4gを有することが好ましい。液槽部4が溝を有することにより、液槽部4からのコーティング液50の蒸発量を低減することができる。また、溝4gが複数の凹部5が並ぶ方向に延在することにより、効率的に各々の底部5cにコーティング液50を供給することができる。
【0049】
複数の凹部5は、それぞれ溝4gの延在方向4eに間隔を空けて配置されていることが好ましい。これにより、コーティング時における複数の医療用の長尺部材40の接触を回避し易くすることができる。
【0050】
図2に示すように、複数の凹部5は、それぞれ医療用の長尺部材40の軸方向uが溝4gの延在方向4eと垂直になるように医療用の長尺部材40を支持可能なものであることが好ましい。これにより、支持部材6を医療用の長尺部材40の軸方向uに移動させながらコーティングし易くすることができる。
【0051】
図1、2に示す通り、コーティング装置1は、長さ方向と幅方向を有する底板6aと、底板6aの幅方向の一方の端部上に形成された第1の側板6bと、底板6aの幅方向の他方の端部上に形成された側板であって第1の側板6bと対向する第2の側板6cとを有する支持部材6を備えることが好ましい。更に、第1の側板6bは上部に複数の第1の凹部5aを有し、第2の側板6cは複数の第1の凹部5aに対向する上部において複数の第2の凹部5bを有しており、複数の凹部5は、それぞれ第1の凹部5aと第2の凹部5bとを有していることが好ましい。
【0052】
支持部材6は、更に底板6aの長さ方向の一方の端部上に形成された第3の側板6dと、底板6aの長さ方向の他方の端部上に形成された側板であって第3の側板6dと対向する第4の側板6eとを有することが好ましい。
【0053】
また図示していないが、支持部材6は、第1の側板6bと第2の側板6cの上部であって、複数の凹部5以外の部分に少なくとも一つの天板を有していてもよい。これにより液槽部4からの液体の蒸発を低減できる。
【0054】
これらの各板は平板、湾曲板、または屈曲板のいずれでであってもよい。また各板は一体に形成されていてもよい。
【0055】
液槽部4は、第1の側板6bと第2の側板6cの間であって、複数の凹部5よりも下側に位置することが好ましい。これにより、液槽部4のコーティング液50により複数の凹部5の各々の底部5cを一気に浸漬させ易くすることができる。更に、液槽部4は、第3の側板6dと第4の側板6eの間に位置することが好ましい。更に液槽部4を構成する各板には、貫通孔が設けられていないことが好ましい。
【0056】
支持部材6は、樹脂および/または金属を含むことが好ましく、金属を含むことがより好ましく、金属からなることが更に好ましい。一方、溶媒槽30は、樹脂および/または金属を含むことが好ましく、金属を含むことがより好ましく、金属からなることが更に好ましい。
【0057】
医療用の長尺部材40は、医療用具を形成するための長尺の部材である。医療用の長尺部材40は、一または複数の内腔を有する筒形状であってもよい。また医療用の長尺部材40は中実形状を有していてもよい。医療用の長尺部材40は可撓性および/または弾性を有していてもよい。医療用の長尺部材40は樹脂および/または金属を含むことが好ましい。樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム、またはこれらの混合物が挙げられる。金属としては、SUS304、SUS316等のステンレス鋼、白金、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、タングステン、金、Ni-Ti合金、Co-Cr合金、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
医療用の長尺部材40として、カテーテル、ガイドワイヤ、チューブ、ステント、パイプ、ロッド等が挙げられる、カテーテルとしては、例えば、バルーンカテーテル、カニューレ、ステントデリバリーカテ-テル、マイクロカテーテル等が挙げられる。
【0059】
以下では、実施の形態に係るコーティング装置と医療用の長尺部材の模式図である
図5を参照しながら、医療用の長尺部材40と、コーティング装置1が有していてもよい各部について説明する。
【0060】
図5に示す通り、長尺部材40は、長手軸方向uに第1端41と第2端42を有していることが好ましい。長尺部材40はその長手軸方向uの全体に亘って外径が一定であってもよく、長手軸方向uの位置によって外径が異なっていてもよい。
図5のように長尺部材40は大径部43と小径部44を有していてもよい。
図5では、バルーンカテーテル形成用の長尺部材40を示しているため、大径部43は直管部431と、直管部431の両側にテーパー部432を有している。
【0061】
図5に示す通り、コーティング装置1は、長尺部材40の長手軸方向uの第1端41側を保持する第1保持部25と、長尺部材40の長手軸方向uの第2端42側を保持する第2保持部26と、をさらに有していてもよい。この構成により、コーティング中に長尺部材40が安定して保持されるため、長尺部材40の位置ずれを防ぐことができる。
【0062】
第1保持部25と第2保持部26は、長尺部材40および/または後述する芯材28の保持および解除が可能な機構を有していればよく、例えば、長尺部材40および/または芯材28を摘まむ、挟む、握る、吸引する、嵌める等の方法で保持することができる。第1保持部25または第2保持部26は、一または複数の部材から構成することができる。第1保持部25と第2保持部26はそれぞれ水平方向mまたは鉛直方向nに対向しているチャック片を有していてもよい。
図5では第1保持部25がチャック片251、252を有し、第2保持部26がチャック片261、262を有している。
【0063】
長尺部材40はその長手軸方向に延在している内腔を有し、コーティング装置1は、長尺部材40の内腔に配される長尺な芯材28を有していることが好ましい。芯材28は、その長手軸方向に第1端281と第2端282を有している。
図5の長尺部材40の内腔には芯材28が通されて、長尺部材40の第1端41から芯材28の第1端281側が延出しており、長尺部材40の第2端42から芯材28の第2端282側が延出している。そして、第1保持部25は芯材28の第1端281側の端部を保持しており、第2保持部26は芯材28の第2端282側の端部を保持している。このように芯材28を介して長尺部材40を保持することで、長尺部材40の長手軸方向u全体へのコーティングが可能となる。また長尺部材40を直接保持していないため、長尺部材40の表面に傷が付くことも抑制することができる。なお、長尺部材40の長手軸方向uの一部のみにコーティング液50が塗布されてもよく、長手軸方向uの全体にコーティング液50が塗布されてもよい。
【0064】
芯材28は、長尺な棒状の部材である。芯材28は中実状でも中空状でもよい。芯材28を構成する材料としては、長尺部材40を構成する材料の説明を参照することができる。
【0065】
第1保持部25と第2保持部26の少なくともいずれか一方が、長尺部材40を回転させる回転機構27を有していることが好ましい。この構成により、長尺部材40を回転させながらコーティングを施すことができるため、長尺部材40の周方向に均一にコーティング液50を塗布しやすくなる。なお、
図5では第2保持部26が回転機構27を有している例を示したが、第1保持部25が回転機構27を有していてもよく、第1保持部25と第2保持部26がそれぞれ回転機構27を有していてもよい。
【0066】
回転機構27は、長尺部材40をコーティング装置1の軸xの周りに公転させてもよく、長尺部材40をその長手軸の軸心を中心に自転させてもよい。なお、コーティング装置1の軸xの方向は、水平方向mに平行でもよい。軸xの方向は、長尺部材40の長手軸方向uに平行でもよい。軸xの方向は、長尺部材40を公転させる前における芯材28の長手軸方向であってもよい。回転機構27は、第1保持部25または第2保持部26を駆動するモータ等のアクチュエータを含む。アクチュエータの構成については、後述する駆動機構10の説明を参照することができる。
【0067】
支持部2は、長尺部材40の長手軸方向uの少なくとも一部を支持するように構成されていればよく、長尺部材40の長手軸方向u全体を支持する必要はない。例えば、支持部2は、長尺部材40の第1端41と第2端42の間を支持することが好ましい。支持部2は、長尺部材40の長手軸方向uの一箇所を支持してもよく、複数箇所を支持してもよい。
【0068】
支持部2は、長尺部材40の長手軸方向uに移動可能であることが好ましい。例えば支持部材6の上にレールが配されて、支持部2がレールに沿って移動してもよい。また、
図5の矢印Aのように、支持部2は、長尺部材40の第1端41側から第2端42側に向かって移動してもよく、第2端42側から第1端41側に向かって移動してもよい。また、支持部2は、長尺部材40の径方向に移動可能であってもよい。これにより、長尺部材40の形状に沿って移動させやすくなり、コーティング膜厚が均一化されやすくなる。支持部2は、水平方向mに移動可能であってもよく、鉛直方向nに移動可能であってもよい。コーティング装置1が複数の支持部材6を有している場合、複数の支持部材6は一緒に移動可能であることが好ましい。
【0069】
支持部2を移動させるために、支持部材6は駆動機構10を有していてもよい。駆動機構10は制御部35に接続されていることが好ましく、制御部35によって支持部2の移動を制御することができる。駆動機構10は支持部2を駆動する1軸以上のアクチュエータを含むことが好ましい。アクチュエータは、モータ、リニアガイド、ボールねじ、タイミングベルト・プーリ、スライダ、ラックアンドピニオン等の機械要素を含むことができる。
【0070】
コーティング装置1は、液槽部4の溝の延在方向における一端部4aに液槽液位調節部4cを有していることが好ましい。液槽液位調節部4cは、コーティング液供給部21を有していることが好ましい。コーティング液供給部21は、コーティング液50を貯留している貯留部22と、貯留部22に接続されている供給管23とを有していてもよい。貯留部22および供給管23はポンプ24に接続されていてもよい。ポンプ24は制御部35に接続されて、供給管23側に所定量のコーティング液50を供給してもよい。ポンプ24としては、シリンジポンプ、チューブポンプが挙げられる。
【0071】
図5に示す通り、液槽部4の上側から溝の一端部4aにコーティング液50を注入することが好ましい。但し、液槽部4の側部や下部からコーティング液50を注入してもよい。例えば液槽部4に連通する貫通孔等の内部流路を支持部材6に設けて、供給管23を内部流路に連結して、内部流路からコーティング液50を注入してもよい。内部流路、供給管23の内径としては、0.1mm以上、3.0mm以下が好ましい。
【0072】
コーティング装置1は、溶媒30aが入れられた溶媒槽30を備え、溶媒30aの液面30sが支持部2よりも下側に位置するように配置されている。これにより溶媒槽30の溶媒30aから生じた蒸気が上昇して支持部2に接触することにより、支持部2に付着したコーティング液50の乾燥を防止し易くすることができる。更に、溶媒槽30は凹部5からこぼれ落ちたコーティング液50の受け皿としても機能してもよい。溶媒槽30は、長手軸方向uへの支持部材6の移動に伴って移動することが好ましい。また溶媒槽30は、長尺部材40の径方向に移動可能であってもよく、水平方向mに移動可能であってもよく、鉛直方向nに移動可能であってもよい。溶媒槽30は支持部材6と連結されていてもよい。これらの場合、溶媒槽30も駆動機構10に接続されていることが好ましい。
【0073】
コーティング装置1は、コーティング装置1を構成する各部の動作を制御する制御部35を有していることが好ましい。制御部35は、コーティング液供給部21、第1保持部25、第2保持部26、回転機構27、駆動機構10、溶媒槽30、またはこれらのうち2つ以上の部分に接続されていてもよい。
【0074】
制御部35の機能は、ハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。ハードウェアとしては集積回路に形成された論理回路を挙げることができる。
【0075】
制御部35は、制御部35の機能を実現するためのソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えていてもよい。コンピュータは、プロセッサと、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えていることが好ましい。プロセッサがコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されたプログラムを実行することによって、上記機能が実現される。プロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)を用いることができる。記録媒体としては、ROM(Read Only Memory)等を用いることができる。また、記録媒体には、RAM(Random Access Memory)を含むこともできる。上記プログラムは、このプログラムを伝送可能な任意の伝送媒体を介して上記コンピュータに供給されてもよい。伝送媒体としては、通信ネットワークや通信回線等が挙げられる。
【符号の説明】
【0076】
1 コーティング装置
2 支持部
2a 支持部の底部
2m 支持部の最下部
m 水平方向
n 鉛直方向
x 軸
4 液槽部
4a、4b 両端部
4c 液槽液位調節部
4e 延在方向
4g 溝
5 凹部
5a 第1の凹部
5b 第2の凹部
5c 凹部の底部
5s 凹部の表面
6 支持部材
6a 底板
6b 第1の側板
6c 第2の側板
6d 第3の側板
6e 第4の側板
6s 支持部材の底面
6l 下部
8 内部流路
10 駆動機構
15 吐出口
21 コーティング液供給部
22 貯留部
23 供給管
24 ポンプ
25 第1保持部
251、252 チャック片
26 第2保持部
261、262 チャック片
27 回転機構
28 芯材
281 第1端
282 第2端
30 溶媒槽
30a 溶媒
30e 溶媒槽の内縁
30s 溶媒の液面
35 制御部
40 医療用の長尺部材
u 長尺部材の軸方向
41 第1端
42 第2端
43 大径部
44 小径部
431 直管部
432 テーパー部
50 コーティング液
50a コーティング液の液面