(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094979
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及び有機EL素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20230629BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230629BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230629BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20230629BHJP
C08F 228/02 20060101ALI20230629BHJP
C08F 2/46 20060101ALI20230629BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C08F230/02
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/04
C08F228/02
C08F2/46
C09K3/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210613
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】西川(鬼丸) 奈美
(72)【発明者】
【氏名】秋池 利之
【テーマコード(参考)】
3K107
4H017
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC05
3K107CC23
3K107CC45
3K107EE49
3K107FF03
3K107FF14
3K107GG08
3K107GG28
4H017AA04
4H017AB17
4H017AC08
4H017AD06
4H017AE05
4J011AA05
4J011AC04
4J011QA08
4J011QA13
4J011QA18
4J011SA84
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA01
4J100AL08R
4J100AL66R
4J100AP02Q
4J100AP07P
4J100BA03R
4J100BC43P
4J100BC43R
4J100BC83Q
4J100CA03
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA63
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA07
4J100JA46
(57)【要約】
【課題】低粘度でありながら優れた硬化性を示すとともに、高屈折率を示し、かつ素子信頼性を高くできる硬化膜を得ることができる硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】[A1]エチレン性不飽和基と、式(1)で表される基、-S(=O)-及び-S(=O)
2-よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基[F1]とを有し、基[F1]がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、[A2]エチレン性不飽和基とチオエーテル基とを有し、チオエーテル基がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、並びに、[B]ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物とする。式(1)中、X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A1]エチレン性不飽和基と、下記式(1)
【化1】
(式(1)中、X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。「*」は結合手を表す。)
で表される基、-S(=O)-及び-S(=O)
2-よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基[F1]とを有し、前記基[F1]がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、
[A2]エチレン性不飽和基とチオエーテル基とを有し、チオエーテル基がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、並びに、
[B]ラジカル重合開始剤、
を含む、硬化性組成物。
【請求項2】
前記[A1]化合物は、下記式(3-1)で表される化合物及び下記式(3-2)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【化2】
(式(3-1)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。R
2は炭素数1~20の1価の有機基である。rは1~3の整数である。rが2又は3の場合、複数のR
1は同一又は異なり、rが1の場合、複数のR
2は同一又は異なる。
式(3-2)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。Y
1は-S(=O)-又は-S(=O)
2-である。R
3は炭素数1~20のt価の有機基である。tは1~4の整数である。tが2以上の場合、複数のR
1は同一又は異なり、複数のY
1は同一又は異なる。)
【請求項3】
組成物中に含まれる前記[A1]化合物が有するエチレン性不飽和基の総数(NA)と、前記[A2]化合物が有するエチレン性不飽和基の総数(NB)とが、モル比で、(NA):(NB)=1:0.5~1:1.5である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定される粘度が、1.0~40.0mPa・sの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記[A2]化合物は、芳香環を有し、エチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接するチオエーテル基が芳香環に結合した部分構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記[A2]化合物は、下記式(7-1)で表される化合物、下記式(7-2)で表される化合物、下記式(7-3)で表される化合物、下記式(7-4)で表される化合物及び下記式(7-5)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【化3】
(式(7-1)~式(7-5)中、R
12及びR
13は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。R
14、R
15及びR
16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。a1及びa2は、それぞれ独立して0~4の整数である。a3及びa5は、それぞれ独立して0~5の整数である。a4及びa6は、それぞれ独立して0~7の整数である。ただし、a3+a5≦5を満たし、a4+a6≦7を満たす。R
12が式中に複数存在する場合、複数のR
12は同一又は異なり、R
13が式中に複数存在する場合、複数のR
13は同一又は異なり、R
15が式中に複数存在する場合、複数のR
15は同一又は異なる。)
【請求項7】
有機溶剤の含有量が0質量%以上3質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
インクジェット塗布用である、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
有機EL素子用封止剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の硬化性組成物より形成された硬化膜。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化膜により発光層が封止された有機EL素子。
【請求項12】
有機発光層が形成された基材における発光層形成面に、請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性組成物を塗布し、放射線を照射して前記硬化性組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程を含む、有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
インクジェット塗布により前記硬化性組成物を前記発光層形成面に塗布する、請求項12に記載の有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及び有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、陽極、有機発光層及び陰極を含む積層構造を有する発光素子である。有機EL素子は、表示装置や照明装置等の各種用途において広く実用化されている。
【0003】
有機EL素子が備える有機発光層は、水分や酸素との接触により劣化しやすく、例えば長期間の駆動に伴い素子に浸入した水分によって部分的に発光しないエリア(以下「ダークスポット」ともいう)が形成されたり、水分や酸素との接触によって発光特性が低下したりすることが懸念される。そこで従来、有機EL素子に封止構造を設け、封止構造により有機発光層が水分や酸素に接触しないようにすることが行われている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2には、有機材料を含む硬化性組成物により、有機発光層を被覆する有機封止層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-26515号公報
【特許文献2】国際公開第2021/010226号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機EL素子の封止構造を形成する際には、素子へのダメージを低減するために、加熱処理を行わずに硬化膜を形成可能であることが望ましい。そこで、放射線照射により硬化を行うことによって有機EL素子の封止構造を形成することが考えられる。この場合、硬化性組成物には、放射線に対する感度が高く、しかも水分や酸素の素子内部への浸入が十分に抑制された信頼性の高い素子を得ることができることが求められる。また更に、有機EL素子の光取り出し効率向上の観点から、硬化性組成物より得られる硬化膜が高屈折率を示すことも求められる。
【0006】
また、少量の硬化性組成物によって均質な塗布膜を形成しやすいこと、スループットの点で優れていること等の理由から、近年、インクジェット塗布により硬化性組成物を基材上に塗布して硬化膜を形成する試みがなされている。封止構造の形成に際しインクジェット塗布法の適用を可能にするには、硬化性組成物が低粘度であることが求められる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、低粘度でありながら優れた硬化性を示すとともに、高屈折率を示し、かつ素子信頼性を高くできる硬化膜を得ることができる硬化性組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電子供与体モノマーと電子受容体モノマーとのラジカル共重合により硬化膜を形成することに着目した。そして、特定構造を有する少なくとも2種の重合性化合物を含む硬化性組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及び有機EL素子の製造方法が提供される。
【0009】
[1] [A1]エチレン性不飽和基と、下記式(1)
【化1】
(式(1)中、X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。「*」は結合手を表す。)
で表される基、-S(=O)-及び-S(=O)
2-よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基[F1]とを有し、前記基[F1]がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、
[A2]エチレン性不飽和基とチオエーテル基とを有し、チオエーテル基がエチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造を有する化合物、並びに、
[B]ラジカル重合開始剤、を含む、硬化性組成物。
【0010】
[2] 上記[1]の硬化性組成物より形成された硬化膜。
[3] 上記[2]の硬化膜により発光層が封止された有機EL素子。
[4] 有機発光層が形成された基材における発光層形成面に、上記[1]の硬化性組成物を塗布し、放射線を照射して前記硬化性組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程を含む、有機EL素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化性組成物は、低粘度でありながら、優れた硬化性を示すことができる。また、本発明の硬化性組成物によれば、高屈折率を示し、かつ素子信頼性を高くできる硬化膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0013】
《硬化性組成物》
本開示の硬化性組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、[A1]化合物と、[A2]化合物と、[B]ラジカル重合開始剤とを含有する。本組成物に放射線が照射されることにより[A1]化合物と[A2]化合物とのラジカル共重合が進行し、硬化膜が得られる。本組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に対し薄膜封止(TFE:Thin Film Encapsulation)を行うための封止剤として有用である。以下、本組成物に含まれる各成分、及び必要に応じて配合されるその他の成分について説明する。なお、各成分については、特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ここで、本明細書において「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。なお、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有する環構造は、炭化水素構造からなる置換基を有していてもよい。「環状炭化水素基」は、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。
【0015】
<[A1]化合物>
[A1]化合物は、エチレン性不飽和基と、下記式(1)で表される基、-S(=O)-及び-S(=O)
2-よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基[F1]と、を有する光重合性化合物である。
【化2】
(式(1)中、X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。「*」は結合手を表す。)
【0016】
[A1]化合物が有するエチレン性不飽和基としては、例えば、-CH=CR-(ただし、Rは水素原子又は1価の炭化水素基)を有する基が挙げられる。[A1]化合物においては、炭素-炭素不飽和結合を構成する2個の炭素原子の少なくとも一方に基[F1]が結合している。
【0017】
[A1]化合物が1分子内に有するエチレン性不飽和基の数は特に限定されない。[A1]化合物が有するエチレン性不飽和基の数は、本組成物の感度を高める観点及び硬化膜からのアウトガスの発生を抑制する観点から、2個以上であることが好ましい。また、粘度が十分に低い硬化性組成物を得る観点から、[A1]化合物が有するエチレン性不飽和基の数は、10個以下が好ましく、6個以下がより好ましく、4個以下が更に好ましい。
【0018】
基[F1]について、式(1)中のX1は、入手容易性の観点から酸素原子又は硫黄原子が好ましい。[A1]化合物が1分子内に有する基[F1]の数についても特に限定されず、1個以上であればよい。[A1]化合物が1分子内に有する基[F1]の数は、硬化膜におけるアウトガスの発生を抑制する観点から、例えば10個以下である。基[F1]は、硬化性の観点から、式(1)で表される基又は-S(=O)-が好ましく、屈折率の高い硬化膜を得る観点から、式(1)で表される基がより好ましい。
【0019】
[A1]化合物は、基[F1]が、エチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合を構成する炭素原子に隣接した部分構造を有する。具体的には、[A1]化合物は、下記式(2-1)で表される部分構造及び下記式(2-2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有していることが好ましい。
【化3】
(式(2-1)及び式(2-2)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。X
1は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。Y
1は-S(=O)-又は-S(=O)
2-である。「*」は結合手を表す。)
【0020】
式(2-1)及び式(2-2)において、R1で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。R1で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。R1で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。本組成物の硬化性をより高める観点から、R1は、中でも、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0021】
[A1]化合物としては、下記式(3-1)で表される化合物及び下記式(3-2)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましく使用できる。
【化4】
(式(3-1)中、R
2は炭素数1~20の1価の有機基である。rは1~3の整数である。rが2又は3の場合、複数のR
1は同一又は異なり、rが1の場合、複数のR
2は同一又は異なる。R
1及びX
1は式(2-1)と同義である。
式(3-2)中、R
3は炭素数1~20のt価の有機基である。tは1~4の整数である。tが2以上の場合、複数のR
1は同一又は異なり、複数のY
1は同一又は異なる。R
1及びY
1は式(2-2)と同義である。)
【0022】
式(3-1)において、R2で表される炭素数1~20の1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の炭化水素基、式「-O-R4」で表される基、及び式「-S-R4」で表される基(ただし、R4は炭素数1~20の1価の炭化水素基)等が挙げられる。R2及びR4で表される炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、及び炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0023】
炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基がより好ましい。
【0024】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、炭素数6~20のアリール基及び炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。炭素数7~20のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等が挙げられる。
【0026】
R2及びR4で表される炭素数1~20の1価の炭化水素基は、これらのうち、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~12の1価の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基、フェニル基及びナフチル基がより好ましい。
【0027】
式(3-2)において、R3で表される炭素数1~20のt価の有機基としては、炭素数1~20のt価の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの具体例としては、R2で表される炭素数1~20の1価の炭化水素基として例示した基から(t-1)個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。なお、R3が炭素数1~20のt価の鎖状炭化水素基である場合、R3で表される鎖状炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよい。R3で表される鎖状炭化水素基が不飽和である場合の具体例としては、炭素数2~20のアルケンからt個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。
【0028】
式(3-1)中のrは1~3の整数であり、2又は3が好ましい。式(3-2)中のtは1~4の整数であり、1~3が好ましく、1又は2がより好ましい。
【0029】
なお、式(3-2)中のR3がエチレン性不飽和基を有する場合、[A1]化合物が1分子内に有するエチレン性不飽和基の数は、R3が有するエチレン性不飽和基の数とtとの合計の数となる。また同様に、式(3-1)中のR2がエチレン性不飽和基を有する場合、[A1]化合物が1分子内に有するエチレン性不飽和基の数は、R2が有するエチレン性不飽和基の数とrとの合計の数となる。ただし、R2はエチレン性不飽和基を有しないことが好ましい。
【0030】
[A1]化合物の具体例としては、式(3-1)で表される化合物として、例えば、ジメチルビニルホスホネート、ジエチルビニルホスホネート、エチルメチルビニルホスホネート、メチルフェニルビニルホスホネート、ジフェニルビニルホスホネート、メチルジビニルホスフィンオキサイド、エチルジビニルホスフィンオキサイド、フェニルジビニルホスフィンオキサイド、フェニルジビニルホスフィンスルフィド、トリビニルホスフィンオキサイド、トリビニルホスフィンスルフィド、ジフェニルビニルホスフィンスルフィド、トリビニルホスフィンセレニド、ジフェニルビニルホスフィンセレニド、フェニルジビニルホスフィンセレニド、メチルジビニルホスフィンセレニド等が挙げられる。
【0031】
式(3-2)で表される化合物としては、例えば、ビス(ビニルスルホニル)メタン、ビス(ビニルスルホニル)エタン、ビス(ビニルスルホニル)プロパン、ジビニルスルホン、ビニルフェニルスルホキシド、ジビニルスルホキシド、フェニルビニルスルホン等が挙げられる。
【0032】
[A1]化合物としては、本組成物の硬化性及び得られる硬化膜の屈折率の観点から、上記の中でも、式(3-1)で表される化合物を好ましく使用できる。
【0033】
本組成物において、[A1]化合物の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。また、[A1]化合物の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。[A1]化合物の含有量が上記範囲であると、低粘度と硬化性とのバランスに優れた硬化性組成物を得ることができる点、及び本組成物を用いて有機EL素子を構成する硬化膜を形成した場合に信頼性の高い有機EL素子とすることができる点で好適である。
【0034】
なお、「重合性化合物」は、刺激に反応して重合体を生成し得る化合物である。本明細書では、本組成物に含まれる[A1]化合物及び[A2]化合物、並びに、本組成物に任意に配合される成分であって、[A1]化合物及び[A2]化合物と共重合し得る化合物(すなわち、以下に説明する[A3]化合物)が「重合性化合物」に相当する。
【0035】
<[A2]化合物>
[A2]化合物は、エチレン性不飽和基とチオエーテル基(-S-)とを有し、チオエーテル基が、エチレン性不飽和基中の炭素-炭素不飽和結合に隣接した部分構造(以下、「特定スルフィド構造」ともいう)を有する光重合性のスルフィド化合物である。
【0036】
特定スルフィド構造に含まれるエチレン性不飽和基としては、-CH=CR-(ただし、Rは水素原子又は1価の炭化水素基)を有する基が挙げられる。特定スルフィド構造においては、炭素-炭素不飽和結合を構成する2個の炭素原子の少なくとも一方に硫黄原子が結合している。[A2]化合物が有するエチレン性不飽和基は、R11-CH=CH-(ただし、R11は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基)であることが好ましい。
【0037】
[A2]化合物が1分子内に有するエチレン性不飽和基の数は、本組成物の感度を高める観点及び硬化膜からのアウトガスの発生を抑制する観点から、2個以上であることが好ましい。また、粘度が十分に低い硬化性組成物を得る観点から、[A2]化合物が有するエチレン性不飽和基の数は、10個以下が好ましく、6個以下がより好ましく、4個以下が更に好ましい。
【0038】
[A2]化合物は、特定スルフィド構造を1分子内に1個以上有している限り、特に限定されない。本組成物を用いて形成される硬化膜の高屈折率化を図る観点から、[A2]化合物は中でも、芳香環を有し、エチレン性不飽和結合を構成する炭素原子に隣接する硫黄原子(すなわち、特定スルフィド構造中の硫黄原子)が芳香環に結合した部分構造を有することが好ましい。
【0039】
[A2]化合物が芳香環を有する場合、芳香環としては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が挙げられる。これらの具体例としては、芳香族炭化水素環として、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香族複素環としては、窒素含有芳香族複素環として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、1,3,5-トリアジン環及びイミダゾール環等を;酸素含有芳香族複素環として、フラン環及びオキサゾール環等を;硫黄含有芳香族複素環として、チオフェン環、チアゾール環及び1,3,4-チアジアゾール環等を、それぞれ挙げることができる。[A2]化合物が有する芳香環は、これらのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、1,3,5-トリアジン環及び1,3,4-チアジアゾール環が特に好ましい。
【0040】
[A2]化合物は、具体的には、下記式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式(5)中、R
11は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。Ar
1は、芳香環を有するu価の基である。ただし、R
11-CH=CH-S-を構成する硫黄原子は、Ar
1中の芳香環に結合している。uは1~10の整数である。uが2以上の場合、複数のR
11は同一又は異なる。)
【0041】
式(5)において、R11で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。R11で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。R11で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。R11は、本組成物の硬化性をより高める観点から、これらのうち、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0042】
Ar
1が有する芳香環としては、[A2]化合物が有していてもよい芳香環の上記説明において例示した芳香環が挙げられる。Ar
1は、中でも、下記式(6-1)~式(6-5)のいずれかで表される構造の環部分からu個の水素原子を取り除いた基であることが好ましい。
【化6】
(式(6-1)~式(6-3)中、R
12及びR
13は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。a1及びa2は、それぞれ独立して0~4の整数である。a3は0~5の整数である。a4は0~7の整数である。R
12が式中に複数存在する場合、複数のR
12は同一又は異なり、R
13が式中に複数存在する場合、複数のR
13は同一又は異なる。)
【0043】
式(6-1)~式(6-3)において、R12及びR13で表されるハロゲン原子及び炭素数1~6のアルキル基については、R11で表されるハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基の説明がそれぞれ適用される。R12及びR13は、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。a1及びa2は、好ましくは0~2である。
【0044】
[A2]化合物としては、中でも、下記式(7-1)で表される化合物、下記式(7-2)で表される化合物、下記式(7-3)で表される化合物、下記式(7-4)で表される化合物及び下記式(7-5)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【化7】
(式(7-1)~式(7-5)中、R
14、R
15及びR
16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。a5は0~5の整数である。a6は0~7の整数である。ただし、a3+a5≦5を満たし、a4+a6≦7を満たす。R
15が式中に複数存在する場合、複数のR
15は同一又は異なる。R
12、R
13、a1、a2、a3及びa4はそれぞれ、式(6-1)~式(6-3)と同義である。)
【0045】
[A2]化合物としては、例えば、ビス(4-ビニルチオフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ビニルチオフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ビニルチオフェニル)スルフィド、1,3-ビス(ビニルメルカプト)ベンゼン、1,5-ビス(ビニルメルカプト)ナフタレン、2,6-ビス(ビニルメルカプト)ナフタレン、2,5-ジビニルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,4,6-トリビニルメルカプト-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0046】
本組成物において、[A2]化合物の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。また、[A2]化合物の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることが更に好ましい。
【0047】
本組成物における[A1]化合物と[A2]化合物との比率は、本組成物中に含まれる[A1]化合物が有するエチレン性不飽和基の総数(NA)と、[A2]化合物が有するエチレン性不飽和基の総数(NB)とに応じて設定することが好ましい。具体的には、NAとNBとが、モル比で、(NA):(NB)=1:0.5~1:1.5となるように、本組成物中の[A1]化合物及び[A2]化合物の配合量を設定することが好ましい。NAとNBとの比率が上記範囲となるように[A1]化合物と[A2]化合物とを配合することにより、本組成物の感度を高くでき、硬化性に優れた組成物を得ることができる点、及び硬化膜のアウトガスを抑制できる点で好適である。こうした観点から、(NA):(NB)は、1:0.7~1:1.3がより好ましく、1:0.8~1:1.2が更に好ましい。
【0048】
<[B]ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤は、放射線に感応してラジカルを発生し、重合を開始できる光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。使用されるラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、O-アシルオキシム化合物、アセトフェノン化合物、ビイミダゾール化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。
【0049】
O-アシルオキシム化合物としては、例えば1,2-オクタンジオン1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、1-(9-エチル-6-ベンゾイル-9.H.-カルバゾール-3-イル)-オクタン-1-オンオキシム-O-アセテート、1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、1-〔9-n-ブチル-6-(2-エチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロピラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチル-5-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-{2-メチル-4-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。O-アシルオキシム化合物は中でも、分子中にカルバゾール骨格を有する重合開始剤(例えば、エタノン1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等)を好ましく使用できる。
【0050】
アセトフェノン化合物としては、例えばα-アミノケトン化合物、α-ヒドロキシケトン化合物等が挙げられる。これらの具体例としては、α-アミノケトン化合物として、例えば2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。α-ヒドロキシケトン化合物としては、例えば1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0051】
ビイミダゾール化合物としては、例えば2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾールまたは2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0052】
アシルフォスフィンオキサイド化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0053】
本組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、ラジカル重合開始剤の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。ラジカル重合開始剤の含有量を上記範囲とすることにより、良好な硬化性等を発揮することができる。
【0054】
<その他の成分>
本組成物は、上述した[A1]化合物、[A2]化合物及び[B]ラジカル重合開始剤に加え、[A1]化合物、[A2]化合物及び[B]ラジカル重合開始剤とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、[A3]化合物、[C]重合禁止剤及び[D]界面活性剤が挙げられる。
【0055】
・[A3]化合物
[A3]化合物は、[A1]化合物及び[A2]化合物と共重合可能な成分であり、放射線照射に伴い、[A1]化合物及び[A2]化合物と共に重合体を生成し得る化合物である。[A3]化合物は、本組成物の粘度を調整したり架橋構造を補強したりすることを目的として本組成物中に配合することができる。[A3]化合物としては、エチレン性不飽和基を有する化合物が好ましく用いられ、具体的には、ビニル基含有化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。これらの中でも、[A1]化合物及び[A2]化合物との共重合性の点や、本組成物の粘度の調整を比較的容易に行うことができる点で、(メタ)アクリロイル基含有化合物を好ましく使用できる。
【0056】
[A3]化合物は、単官能化合物及び多官能化合物のいずれであってもよい。[A3]化合物が単官能化合物である場合の具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0057】
上記化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル等が挙げられる。脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸2-メチルシクロへキシル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,5]デカン-8-イルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボロニル等が挙げられる。芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチルメチル、(メタ)アクリル酸ナフチルエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸m-フェノキシフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-フェニルフェノキシエチル等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、t-ブトキシスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0058】
[A3]化合物が多官能化合物である場合、多官能(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用できる。多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2官能(メタ)アクリル酸エステル、3官能以上の(メタ)アクリル酸エステル等を例示できる。これらの具体例としては、2官能(メタ)アクリル酸エステルとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
3官能以上の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カルボキシ基含有多塩基酸変性(メタ)アクリルオリゴマーの他、直鎖アルキレン基及び脂環式構造を有し、かつ2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、分子内に1個以上のヒドロキシ基とを有し、かつ3個、4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と反応させて得られる多官能ウレタンアクリレート系化合物等が挙げられる。
【0060】
[A3]化合物の含有量は、本組成物の硬化性を確保する観点から、本組成物中に含まれる重合性化合物(すなわち、[A1]化合物、[A2]化合物及び[A3]化合物)の合計量100質量部に対して、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。また、本組成物中に[A3]化合物を配合する場合、[A3]化合物の含有量は、[A3]化合物の配合による粘度等の改善効果を十分に得る観点から、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。
【0061】
・[C]重合禁止剤
重合禁止剤は、本組成物の保存安定性を高める成分である。重合禁止剤としては特に限定されないが、例えば、硫黄、キノン類(例えば、ベンゾキノン)、ヒドロキノン類(例えば、ヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン)、ポリオキシ化合物(例えば、p-メトキシフェノール)、アミン化合物(例えば、N,N-ジエチルヒドロキシアミン)、ニトロソアミン化合物(例えば、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム)が挙げられる。
【0062】
本組成物中に重合禁止剤を配合する場合、重合禁止剤の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、0.01~1.5質量部が好ましく、0.02~1.2質量部がより好ましく、0.02~1.0質量部が更に好ましい。
【0063】
・[D]界面活性剤
界面活性剤は、本組成物の塗布性(濡れ広がり性や塗布ムラの低減)を改良するために使用することができる。界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0064】
界面活性剤の具体例としては、フッ素系界面活性剤として、以下商品名で、メガファックF-171、同F-172、同F-173、同F-251、同F-430、F-554、F-563(DIC社製);フロラードFC430、同FC431(住友スリーエム社製);アサヒガードAG710、サーフロンS-382、同SC-101、同SC-102、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC-106、同S-611(AGCセイミケミカル社製);ポリフローNo.75、同No.95(共栄社化学社製);FTX-218(ネオス社製);エフトップEF301、同EF303、同EF352(新秋田化成社製)等が挙げられる。
【0065】
シリコーン系界面活性剤としては、以下商品名で、SH200-100cs、SH28PA、SH30PA、SH89PA、SH190、SH8400、SH193、SZ6032、SF8428、DC57、DC190、PAINTAD19、FZ-2101、FZ-77、FZ-2118、L-7001、L-7002(東レ・ダウコーニング社製);オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業社製);BYK-300、同306、同310、同330、同335、同341、同344、同370、同340、同345(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0066】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンn-オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンn-ノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート等が挙げられる。
【0067】
本組成物中に界面活性剤を配合する場合、界面活性剤の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、0.01~3質量部が好ましく、0.02~2質量部がより好ましく、0.1~1.0質量部が更に好ましい。
【0068】
その他の成分としては、上記のほか、例えば、酸化防止剤、増感剤、軟化剤、可塑剤、密着助剤、有機溶剤等が挙げられる。これらの成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各成分に応じて適宜選択される。
【0069】
ここで、本組成物に配合される各成分を溶解する等の目的で必要であれば、本組成物に有機溶剤を配合してもよいが、加熱処理を行わずに硬化膜(特に、有機EL素子の有機発光層を保護する有機封止層)を形成することを可能にする観点からすると、有機溶剤の使用を極力少なくすることが好ましい。具体的には、本組成物における有機溶剤の含有量は、0質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。ここで、本明細書において、有機溶剤を「実質的に含まない」とは、本組成物に含まれる有機溶剤の量が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。
【0070】
本組成物中に有機溶剤を配合する場合、使用される有機溶剤としては、本組成物に配合される各成分を溶解又は分散でき、かつ各成分と反応しない有機溶媒であることが好ましい。具体的には、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類、アミド類が挙げられる。
【0071】
これらの具体例としては、アルコール類として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチル-3-メトキシプロピオネート等が挙げられる。エーテル類としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。アミド類としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0072】
本組成物は、[A1]化合物、[A2]化合物及び[B]ラジカル重合開始剤、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を混合することにより調製することができる。本組成物中の重合性化合物の含有量は、感度が良好な硬化性組成物とする観点や、封止効果の高い硬化膜を形成する観点から、本組成物の全量100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0073】
本組成物は、E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定される粘度が、1.0~40.0mPa・sの範囲であることが好ましい。本組成物の粘度が40.0mPa・s以下であると、インクジェット塗布により本組成物を基材上に塗布した際に濡れ広がり性が良好であり、ハジキ等による塗布ムラを抑制することができる。また、本組成物の粘度が1.0mPa・s以上であると、本組成物を基材上に塗布した際に膜厚を十分に確保することができ、封止効果を十分に発現する有機封止層を形成することができる。したがって、このような本組成物は、インクジェット塗布用の硬化性組成物として特に好適である。
【0074】
インクジェット塗布性に優れた硬化性組成物を得る観点から、本組成物の粘度は、35.0mPa・s以下であることがより好ましく、30.0mPa・s以下であることが更に好ましく、25.0mPa・s以下であることが特に好ましい。また、膜厚を十分に確保する観点から、本組成物の粘度は、2.0mPa・s以上であることがより好ましく、5.0mPa・s以上であることが更に好ましい。なお、本明細書において、硬化性組成物の粘度は、JIS K2283に準拠して測定された値である。
【0075】
ここで、本発明を限定するものではないが、[A1]化合物と[A2]化合物とのラジカル共重合によれば、エチレン性不飽和結合における電子密度が相対的に低い[A1]化合物が電子受容性モノマーとして作用し、エチレン性不飽和結合における電子密度が相対的に高い[A2]化合物が電子供与性モノマーとして作用することにより、[A1]化合物と[A2]化合物との交互共重合が起こり、これにより、[A1]化合物単独又は[A2]化合物単独のラジカル重合と比較して硬化反応が速やかに進行したことが考えられる。その結果、[A1]化合物と[A2]化合物とを含む本開示の硬化性組成物は、低粘度化を図りながら、感度が高く優れた硬化性を示したものと考えられる。また、本組成物によれば、[A2]化合物の使用量を少なくでき、低臭気化を図ることが可能な点で好適である。
【0076】
《硬化膜及び有機EL素子》
本開示の硬化膜(以下、「本硬化膜」ともいう)は、上記のように調製された硬化性組成物により形成される。本組成物によれば、屈折率が1.55以上、更には1.60以上の高屈折率を示す硬化膜を得ることができる。このような本組成物は、例えば、有機EL素子の封止構造、マイクロレンズ、反射防止膜、AR素子の同折格子等の各種材料として用いることができる。中でも、本組成物は、有機EL素子に対し薄膜封止(TFE)を行うための封止剤、すなわち有機EL素子用封止剤としてとして特に有用である。
【0077】
本硬化膜及び本硬化膜により有機発光層が封止された有機EL素子は、本組成物を用いて、以下の工程1及び工程2を含む方法により製造することができる。
(工程1)有機発光層が形成された基材における発光層形成面に本組成物を塗布する工程
(工程2)放射線を照射して本組成物を硬化する工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0078】
[工程1:塗布工程]
本工程では、有機発光層が形成された基材における発光層形成面に対し、本組成物を塗布することにより、本組成物からなる塗布膜を発光層形成面上に形成する。本組成物を塗布する基材には、有機発光層のほか、例えば陽極層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、陰極層等の各種層を備える積層体が形成されており、この積層体により有機EL素子が構成されている。本組成物を塗布する発光層形成面は無機膜(無機封止層)により被覆されていてもよい。当該無機膜を構成する無機材料としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)や酸化ケイ素(SiOx)等が挙げられる。この場合、有機発光層上には、封止構造として有機封止層と無機封止層とを含む薄膜封止層が形成される。
【0079】
本組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、スリットダイ塗布法、バー塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。スループットと薄膜化の点から、これらのうち、インクジェット塗布法を好ましく適用することができる。特に本組成物は、低粘度でありながら優れた硬化性を示すため、インクジェット塗布に好適である。
【0080】
[工程2:硬化工程]
本工程では、上記工程1で形成した塗布膜に放射線を照射して塗布膜を硬化することにより硬化膜とする。放射線としては、例えば、紫外線、遠紫外線、可視光線、X線、電子線等の荷電粒子線が挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましく、例えば波長350~400nmの紫外線を照射光として好ましく用いることができる。放射線の露光量としては、0.05~10J/m2が好ましい。これにより、本組成物からなる有機封止層によって被覆された有機EL素子を得ることができる。硬化膜の厚みは、通常、0.5~15μmである。本組成物により形成された有機封止層は、無機膜によって更に被覆されてもよい。当該無機膜を構成する無機材料としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)や酸化ケイ素(SiOx)等が挙げられる。
【実施例0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0082】
1.化合物の合成
[合成例1]化合物(A1-1)の合成
窒素導入管及び温度計を備えた3L三口フラスコに、脱水ジエチルエーテルを1L、脱水テトラヒドロフランを1L、二塩化フェニルホスホン酸を38mL、4-メトキシフェノールを20mg仕込み、ドライアイスアセトンにて-70℃まで冷却した。次に、1.0Mビニルマグネシウム溶液536mLを、内温が-70℃を超えないように滴下した後、そのまま-70℃で3時間撹拌した。反応終了後、反応液を2.4M塩酸水2Lで分液洗浄し、水層を除去した後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水で3回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、シリカカラム(酢酸エチルで展開)により精製、減圧濃縮、真空乾燥することで、化合物(A1-1)の白色固体を23g得た(スキーム1参照)。
【化8】
【0083】
[合成例2]化合物(A1-3)の合成
合成例1において二塩化ホスホン酸38mLの代わりに塩化ホスホリル27.5gを使用した以外は合成例1と同様の手法により合成を行い、化合物(A1-3)の白色固体を17g得た(スキーム2参照)。
【化9】
【0084】
[合成例3]化合物(A2-2)の合成
窒素導入管及び温度計を備えた1000mLの三口フラスコに、ビスムチオール12.8g、1,2-ジブロモエタン320g及びテトラブチルアンモニウムブロミド0.7gを仕込み氷冷した。次に、30%水酸化カリウム水溶液34.9gを30℃を超えないように加え、30℃以下で3時間反応させた。反応終了後、水層を廃棄し、有機層を水で2回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮、乾固することで化合物(A2-2-1)の白色固体を得た。次に、上記で得られた化合物(A2-2-1)の全てを、窒素導入管及び温度計を備えた500mL三口フラスコに加えた後、ジメチルスルホキシド170gを加えて氷冷した。次に、50%水酸化カリウム水溶液27gを、内温が30℃を超えないように加えて、そのまま室温で3時間反応させた。反応終了後、酢酸エチル500mLを加えて水層を除去し、有機層を水で2回洗浄し、減圧濃縮、真空乾燥することで化合物(A2-2)の液体を7.5g得た(スキーム3参照)。
【化10】
【0085】
2.硬化性組成物の調製
硬化性組成物の調製に用いた[A1]化合物、[A2]化合物、[A3]化合物、[B]ラジカル重合開始剤、[C]重合禁止剤、及び[D]界面活性剤の種類及び略称を以下に示す。
<[A1]化合物>
(A1-1):フェニルジビニルホスフィンオキサイド(合成例1により得られた化合物)
(A1-2):ジエチルビニルホスホネート(東京化成社製)
(A1-3):トリビニルホスフィンオキサイド(合成例2により得られた化合物)
(A1-4):ビス(ビニルスルホニル)メタン(東京化成社製)
(A1-5):ビニルフェニルスルホキシド(東京化成社製)
<[A2]化合物>
(A2-1):ビス(4-ビニルチオフェニル)スルフィド(住友精化社製)
(A2-2):2,5-ジビニルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(合成例3により得られた化合物)
<[A3]化合物>
(A3-1):アクリルモノマー、商品名「ライトアクリレートPOB-A」(共栄社化学社製)
(A3-2):ネオペンチルグリコールジアクリレート、商品名「A-NPG」(新中村化学工業社製)
(A3-3):アクリルモノマー、商品名「ライトアクリレートNMT-A」(共栄社化学社製)
<[B]ラジカル重合開始剤>
(B-1):光ラジカル重合開始剤、商品名「TR-PBG-345」(TRONLY社製)
(B-2):光ラジカル重合開始剤、商品名「Omnirad TPO」
<[C]重合禁止剤>
(C-1):N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム
(C-2):2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン
<[D]界面活性剤>
(D-1):シリコーン系界面活性剤、商品名「DOWSIL TM SH8400」(東レ・ダウコーニング社製)
(D-2):シリコーン系界面活性剤、商品名「PAINTAD19」(東レ・ダウコーニング社製)
【0086】
[実施例1]
化合物(A1-1)を30質量部、化合物(A2-1)を70質量部、ラジカル重合開始剤(B-1)を3質量部、重合禁止剤(C-1)を0.5質量部、界面活性剤(D-1)を0.5質量部加え、混合撹拌した後、0.2μmのフィルターを用いてろ過を行い、硬化性組成物(T-1)を調製した。
【0087】
[実施例2~10、比較例1~4]
表1に示す種類及び配合量(質量部)の各成分を用いたこと以外は実施例1と同様の手法にて、実施例2~10及び比較例1~4の硬化性組成物を調製した。
【0088】
【0089】
3.評価
実施例1~10及び比較例1~4の硬化性組成物について、粘度を測定するとともに、インクジェット塗布(IJ塗布)による塗布ムラを評価した。また、実施例1~10及び比較例1~4の硬化性組成物を用いて硬化膜を形成し、以下に説明する手法により下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2中、「-」は評価しなかったことを表す。
【0090】
<粘度の測定>
E型粘度計(東機産業社製 RE-85L)を用いて、硬化性組成物の25℃、20rpmでの粘度(mPa・s)を測定した。
【0091】
<IJ塗布ムラの評価>
ガラス基板上にSiNxを膜厚100nmで成膜し、評価用基板を作製した。この評価用基板に対して、50μm×50μmピッチで、ピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから硬化性組成物のインクジェット吐出を行い、10cm角の塗布膜を作製した。さらに、5分後に395nm LEDランプを用いて、露光量3000mJ/cm2で紫外線照射を行い、塗布膜を硬化させた。その際、硬化膜の膜厚が8μmとなるようにインクジェットヘッドの電圧条件を変化させ、吐出されるインクドット1滴の量を調整した。得られた硬化膜を目視及び顕微鏡(100倍)にて観察し、以下の基準によりIJ塗布ムラの評価を行った。
◎ :目視及び顕微鏡にて塗布ムラが観察されない。
○ :顕微鏡にて塗布ムラが観察されたが、目視では塗布ムラが観察されない。
△ :目視にて部分的な膜厚変化による塗布ムラが観察される。
× :目視にて未塗布箇所が観察される。
【0092】
<硬化性の評価>
硬化性組成物をガラス基板上に塗布することにより塗膜を形成し、395nm LEDランプによる光照射を行い、露光量を変化させながら、タックが無くなるまでの硬化性を評価した。
◎ :1J/m2未満の光照射によりタック無し
○ :1J/m2以上3J/m2未満の光照射によりタック無し
△ :3J/m2以上5J/m2未満の光照射によりタック無し
× :タックが無くなるまでの硬化に5J/m2以上の光照射が必要
【0093】
<屈折率の測定>
硬化性組成物を4インチシリコンウェハにスピンコート法により塗布した後、タックが無くなるまで395nm LEDランプによる光照射を行い、硬化膜を得た。この硬化膜の屈折率を、Model201(Metricon社製)を使用して、プリズムカプラ法により測定波長635.8nmの条件にて測定した。
【0094】
<保存安定性の評価>
硬化性組成物10mLをスクリュー管に入れ、40℃遮光下にて7日間保存し、保存前後の粘度増加率を数式(I)により算出し、以下の基準により評価した。
粘度増加率(%)=〔保管後の粘度/保管前の粘度〕×100 …(I)
○ :100%以上105%未満
△ :105%以上110%未満
× :110%以上
【0095】
<有機EL素子の作製>
アレイ状にITO透明電極が形成されたガラス基材(日本電気硝子社製「OA-10」)と、アレイ状に形成されたITO透明電極の一部のみが露出したコンタクトホールを有する膜厚3μmの平坦化層とを有するアレイ基材を複数個用意した。
Alターゲットを用いてDCスパッタ法により、平坦化層上に膜厚100nmのAl膜を形成した。ITOターゲットを用いてDCマグネトロンリアクティブスパッタリング法により、Al膜上に膜厚20nmのITO膜を形成した。このようにして、Al膜とITO膜とからなる陽極層を形成した基材を用いた。
レジスト材料(特許第6303588号公報に記載の実施例1の組成物)を用いて陽極層上に塗膜を形成し、露光、現像、流水洗浄、風乾及び加熱処理を含む一連の処理を行い、陽極層の一部を開口領域として有する画素規定層を形成した。
陽極及び画素規定層が形成された基材を真空成膜室へ移動し、成膜室を1E-4Paまで排気した後、基材上に、所定のパターンの蒸着マスクを用いて、正孔注入性を有する酸化モリブデン(MoOx)を抵抗加熱蒸着法により成膜速度0.004~0.005nm/secの条件で成膜し、膜厚1nmの正孔注入層を形成した。
正孔注入層上に、所定のパターンの蒸着マスクを用いて、正孔輸送性を有する4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(α-NPD)を抵抗加熱蒸着法により正孔注入層と同様の排気条件で成膜し、膜厚35nmの正孔輸送層を形成した。成膜速度は、0.2~0.3nm/secの条件であった。
正孔輸送層上に、所定のパターンの蒸着マスクを用いて、緑色の発光材料としてアルキレート錯体であるトリス(8-キノリノラト)アルミニウムを抵抗加熱蒸着法により正孔輸送層と同様の成膜条件で成膜し、膜厚35nmの有機発光層を形成した。成膜速度は、0.5nm/sec以下の条件であった。
有機発光層上に、フッ化リチウムを抵抗加熱蒸着法により正孔注入層と同様の排気条件で成膜し、膜厚0.8nmの電子注入層を形成した。成膜速度は、0.004nm/sec以下の条件であった。
続いて電子注入層上に、マグネシウム(Mg)及び銀(Ag)を抵抗加熱蒸着法により正孔注入層と同様の排気条件で同時に成膜し、膜厚5nmの第1陰極層を形成した。成膜速度は、0.5nm/sec以下の条件であった。
続いて、別の成膜室(スパッタ室)に上記基材を移送し、第1陰極層上に、ITOターゲットを用いてRFスパッタリング法により、膜厚100nmの第2陰極層を形成し、評価用の有機EL素子を得た。
【0096】
<薄膜封止層の形成>
上記で得られた有機EL素子に対して、以下の手順にて薄膜封止層を形成した。成膜室(スパッタ室)に有機EL素子を移送し、陰極層上に、SiNxターゲットを用いてRFスパッタリング法により、膜厚100nmの無機封止層(SiNx膜)を形成した。続いて、有機EL素子をN2置換されたグローブボックス中に移送し、ピエゾ方式インクジェットプリンタにより、実施例1~11及び比較例1~4の各硬化性組成物を所定のパターンに吐出した。続いて、ウシオ電機社製UniJetE110ZHD 395nm LEDランプを用いて露光量3000mJ/cm2で光照射し、硬化性組成物を硬化させ、膜厚10μmの有機封止層を形成した。成膜室(スパッタ室)に有機EL素子を移送し、有機封止層上に、SiNxターゲットを用いてRFスパッタリング法により、膜厚100nmの無機封止層(SiNx膜)を形成した。
【0097】
<有機EL素子の信頼性>
薄膜封止層を形成した有機EL素子について、85℃85%湿熱条件下で100h保管した後、順方向電流を10mA/cm2で通電し、発光外観(ダークスポット)を観察した。発光外観を基に、以下の基準により有機EL素子の信頼性を評価した。
◎ :非点灯領域の面積比が0%以上5%未満
○ :非点灯領域の面積比が5%以上20%未満
△ :非点灯領域の面積比が20%以上
【0098】
【0099】
表2に示されるように、実施例1~10の硬化性組成物は、粘度が20mPa・s以下と低く、インクジェット塗布により基板に塗布した際の塗布ムラが少なかった。また、実施例1~10の硬化性組成物は、1J/m2未満の光照射によってタックが無くなり、硬化性に優れていた。さらに、実施例1~10の硬化性組成物により形成した硬化膜は、1.60以上の高い屈折率を示すとともに、高温高湿条件下で長時間保管した場合にもダークスポットの発生が抑制され、有機EL素子の信頼性も高かった。これらの中でも特に、実施例1~5、7~10で得られた硬化膜は屈折率が1.65以上であり、高い屈折率を示した。
【0100】
これに対し、比較例1~4の硬化性組成物は、実施例1~10よりも硬化性に劣っていた。特に、重合性化合物として[A2]化合物を含み、[A1]化合物及び[A3]化合物を含まない比較例1,4については硬化性「×」の評価であり、素子信頼性の評価も「×」であった。また、重合性化合物として[A2]化合物及び[A3]化合物を含み、[A1]化合物を含まない比較例2については、硬化性は「○」の評価であったものの素子信頼性が「△」の評価であり、実施例1~10よりも劣っていた。比較例3の硬化性組成物は固体状であったため、インクジェット塗布によっては硬化膜を形成できなかった。