(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094981
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】焼成芯および焼成芯の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20230629BHJP
B43K 19/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210615
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 直
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB03
4J039AD08
4J039BA03
4J039BC07
4J039DA03
4J039DA05
4J039DA06
4J039EA42
4J039GA30
(57)【要約】
【課題】曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図る。
【解決手段】黒鉛を含み、ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下であり、X線回折測定により定められる前記黒鉛のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が式(1)を満たす。2La+3Lc≦280 ・・式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含み、
ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下であり、
X線回折測定により定められる前記黒鉛のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が式(1)を満たす、
2La+3Lc≦280 ・・式(1)
焼成芯。
【請求項2】
前記黒鉛のc軸方向のサイズLcが、15nm以上40nm以下である、
請求項1に記載の焼成芯。
【請求項3】
原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことによって、焼成芯を製造する、焼成芯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成芯に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛筆やシャープペンシル等の筆記具に用いられる焼成芯は、黒鉛と樹脂などの結合材とを混合および混練した後に成形し、焼成により焼成体を形成し、焼成体に含まれる気孔中に必要に応じて油やワックス等を含浸させることにより製造される。筆記具に用いられる焼成芯に要求される特性には、曲げ強度、書き味のなめらかさ等がある。しかし、曲げ強度と書き味のなめらかさは相反する性能であり、好ましい相関関係を求めて各種の方法が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
特許文献1には、含まれる黒鉛の結晶子サイズLcを15~60nmとした焼成鉛筆芯が開示されている。特許文献2には、黒鉛の結晶子のc軸方向のサイズLc、a軸方向のサイズLa、およびこれらの比を特有の範囲内とした焼成鉛筆芯が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-127055公報
【特許文献2】特開2017-222787公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上に更なる改良の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図ることができる、焼成芯および焼成芯の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.黒鉛を含み、
ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下であり、
X線回折測定により定められる前記黒鉛のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が式(1)を満たす、
2La+3Lc≦280 ・・式(1)
焼成芯。
2.前記黒鉛のc軸方向のサイズLcが、15nm以上40nm以下である、
第1項に記載の焼成芯。
3.原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことによって、焼成芯を製造する、焼成芯の製造方法。
」とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0010】
(焼成芯)
本実施形態の焼成芯は、黒鉛を含み、ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下であり、X線回折測定により定められる黒鉛のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が下記式(1)を満たす。
【0011】
2La+3Lc≦280 ・・式(1)
【0012】
本実施形態の焼成芯は、ラマン分光法によるR値が上記特有の範囲を満たし、黒鉛のサイズLa(nm)およびサイズLc(nm)が上記特有の関係を満たす。このため、本実施形態の焼成芯は、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図ることができる。以下詳細に説明する。
【0013】
(R値)
ラマン分光法とは、JIS K 0137:2010にも定められているが、物質に光を照射したときに起こるラマン散乱光を分光して得られたラマンスペクトルから、物質の分子レベルの構造を解析する手法である。
【0014】
炭素材料をラマン測定すると、欠陥等の導入により対称性が乱れた場合に出現するDバンドのピークが1360cm-1付近に確認され、グラファイト構造に由来するGバンドのピークが1580cm-1付近に確認される。すなわち、Dバンド(1360cm-1)のピークは焼成芯に含まれる非晶質(不定形)カーボンまたはアモルファスカーボンの存在を表し、Gバンド(1580cm-1)のピークは結晶性の黒鉛の存在を表す。
【0015】
R値は、この1580cm-1付近のGバンドのピーク強度(IG)と、1360cm-1付近のDバンドのピーク強度(ID)との比(ID/IG)によって表される。R値は、ラマンR値と称される場合もある。R値はX線回折法により求められる結晶子サイズと逆比例の関係にあり、R値が小さいほど結晶性が高く、R値が大きいほど結晶性が低いことを意味する。
【0016】
本実施形態の焼成芯は、ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下である。本実施形態の焼成芯のR値は、好ましくは0.20以上0.50以下である。
【0017】
ラマン分光法の測定条件は、本実施形態の焼成芯の測定によりラマンスペクトルが得られるものであれば、特に制限されず、レーザー光源、分光器及び検出器を備えたラマン分光装置を用いることができる。例えば、レーザーラマンによるラマン分光法によるラマンシフトは以下の条件で測定することができる。なお、顕微鏡を備えた顕微レーザーラマン分光装置を使用して測定してもよい。
【0018】
例えば、顕微レーザーラマン分光装置を用いて、以下の測定条件でラマンシフトを求めることができる。
【0019】
-測定条件-
・レーザー波長:532[nm]
・レーザー出力:10[mW]
・対物レンズ:10倍
・露光時間:10秒
・積算回数:2回
・刻線数:1200[gr/mm]
・スリット幅:100[μm]・
・フィルター:未使用
・検出器:CCD(Charge-Coupled Device)半導体素子
【0020】
(黒鉛)
本実施形態の焼成芯に含まれる黒鉛は、結晶子のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が上記式(1)である2La+3Lc≦280の関係を満たす。なお、本実施形態の焼成芯に含まれる黒鉛の結晶子のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)は、下記式(2)を満たすことが更に好ましく、下記式(3)を満たすことが特に好ましい。
【0021】
100≦2La+3Lc ・・式(2)
100≦2La+3Lc≦260 ・・式(3)
【0022】
サイズLaは、黒鉛の結晶子のa軸方向の幅(nm)を表す。サイズLcは、黒鉛の結晶子のc軸方向の厚み(nm)を表す。これらのサイズLaおよびサイズLcは、いずれも体積で重みづけされた体積加重平均サイズである。
【0023】
黒鉛の結晶子のサイズLaおよびサイズLcは、以下により求めることができる。まず、X線回折装置を用いて測定されたXRDプロファイルをもとに、サイズLaに対しては(110)面に対応する回折線、サイズLcに対しては(002)面に対応する回折線の半値幅を求める。そして、これらの求めた回折線および半値幅から、以下のシェラーの式(A)により、サイズLaおよびサイズLcが求められる。
【0024】
シェラーの式:L = Kλ/βcosθ ・・式(A)
【0025】
式(A)中、L、K、λ、及びβは、各々以下を表す。
【0026】
L:結晶子サイズ[nm]
K:シェラー定数(K=1を適用)
λ:X線波長[nm]
β:半値幅(ピーク強度の50%に相当する強度における回折線幅)
θ:X線照射角度(ラジアン)
【0027】
本実施形態の焼成芯に含まれる黒鉛の結晶子のサイズLaおよびサイズLcの各々は、上記式(1)を満たす範囲であればよく、適宜調整可能である。
【0028】
具体的には、黒鉛の結晶子のサイズLcは、15nm以上40nm以下が好ましく、20nm以上35nm以下の範囲が更に好ましい。
【0029】
また、黒鉛の結晶子のサイズLaは、50nm以上75nm以下が好ましく、55nm以上70nm以下の範囲が更に好ましい。
【0030】
(気孔率および気孔径)
詳細な製法は後述するが、本実施形態の焼成芯は、焼成工程を含む製造工程を得ることで製造される。このため、本実施形態の焼成芯は、気孔を有する。気孔は、細孔と称される場合がある。
【0031】
本実施形態の焼成芯の気孔率は、10%以上30%以下が好ましく、20%以上30%以下が更に好ましい。
【0032】
気孔率とは、鉛筆芯の外形容積を1とした場合の、その中に占める気孔部分の容積の百分比である。気孔率は、例えば、JIS R1634:1998などに準じた測定や、細孔分布測定装置を用いた測定により求めることができる。
【0033】
本実施形態の焼成芯の気孔径は、0.005μm以上0.1μm以下が好ましく、0.01μm以上0.1μm以下がより好ましく、0.01μm以上0.05μm以下が特に好ましい。
【0034】
気孔径は、水銀圧入法による細孔分布測定装置を用い、初期圧7kPaとし、水銀パラメーターとして水銀接触角130degreesおよび水銀表面張力485dyns/cmとして測定を行い、モード径(最頻値)を気孔径として求めることができる。
【0035】
気孔率および気孔径は、焼成芯の強度に影響を与える要素の1つである。本実施形態の焼成芯の気孔率および気孔径の少なくとも一方を上記範囲とすることで、曲げ強度の更なる向上を図ることが出来る。また、焼成芯の気孔率および気孔径の少なくとも一方を上記範囲とすることで、焼成芯の製造時に焼成体に含浸させる油状物質が含浸しやすくなり、書き味のなめらかさを更に向上させることが出来ると考えられる。
【0036】
(筆記濃度および硬度)
本実施形態の焼成芯の硬度および筆記濃度は限定されない。
【0037】
鉛筆やシャープペンシル等の筆記具に用いられる焼成芯には、各種の硬度のものがある。筆記具用の芯に用いられる硬度は、例えば、HB等の硬度記号で表される。JIS規格には、JIS S 6006:2020又はJIS S 6005:2019に規定されている方法で測定した筆記濃度Dが0.25~0.45であるものが硬度HBとされている。本実施形態の焼成芯の筆記濃度Dおよび硬度は、筆記濃度D0.25~0.45および硬度HBに限定されない。
【0038】
本実施形態の焼成芯は、JIS規格で規定されている何れの筆記濃度Dおよび硬度であっても、R値が上記特有の範囲を満たし、含まれる黒鉛のサイズLaおよびサイズLcが上記式(1)を満たすものであればよい。
【0039】
なお、筆記濃度Dは、JIS S 6006:2020又はJIS S 6005:2019に規定されている方法で測定される。使用されるケント紙には、王子製紙株式会社製であり、坪量:126g/m2、厚さ:0.150mm、密度:0.85g/cm3、表面粗さ:81a、平滑度:81S、サイズ度:110S、白色度:99.4%、および不透明度:92.7%の比の品質特性を有するものを用いる。
【0040】
上述したように、本実施形態の焼成芯は、黒鉛を含み、ラマン分光法によるR値が0.15以上0.55以下であり、X線回折測定により定められる黒鉛のa軸方向のサイズLa(nm)およびc軸方向のサイズLc(nm)が上記式(1)を満たす。本発明者らによれば、焼成芯のR値が上記範囲を満たし、含まれる黒鉛のサイズが上記式(1)を満たすことで、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図ることが出来ることを見出した。
【0041】
上記効果が奏される理由は明らかとなっていないが、以下のように推測される。しかしながら下記推測によって本発明は限定されない。
【0042】
本実施形態の焼成芯は、R値が0.15以上0.55以下の範囲であるため、良好な書き味のなめらかさが実現できると推測される。また、本実施形態の焼成芯に含まれる黒鉛のサイズが上記式(1)を満たすため、良好な曲げ強度が実現されると推測される。更に、本実施形態の焼成芯は、R値が上記の特有の範囲であるため、含まれる黒鉛のサイズを必要以上に小さくする必要が無く、上記式(1)の範囲とすることができると推測される。このため、本実施形態の焼成芯は、曲げ強度を損なうことなく書き味のなめらかさの向上を図ることが出来ると推測される。
【0043】
ここで、書き味のなめらかさを向上させるには、潤滑性に優れた黒鉛粉末を使い、その割合を増やすことが有効であると考えられる。しかし、自己結合性を有しない黒鉛粉末は強度に寄与せず、書き味のなめらかさを向上させるために黒鉛粉末の含有量を増やすと、筆記に必要な曲げ強度が得られない。このため、従来技術では、相反する性能である曲げ強度と書き味のなめらかさの双方の向上には改良の余地があった。
【0044】
一方、本実施形態の焼成芯は、R値が上記範囲であり且つ含まれる黒鉛のサイズが上記式(1)の関係を満たすため、相反する性能である曲げ強度と書き味のなめらかさの双方の向上が図れると推測される。また、本実施形態の焼成芯は、上記効果に加えて、曲げ強度および筆記濃度を損なうことなく、書き味のなめらかさや筆記距離等、筆記具用の焼成芯に要求される各種の性能改善を図ることが出来ると推測される。
【0045】
(焼成芯の製造方法)
本実施形態の焼成芯の製造方法の一例を説明する。なお、焼成芯の製造方法は、その発明特定事項を備える全ての実施形態を広く包含するものであり、以下に説明する実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0046】
焼成芯は、黒鉛と樹脂などの結合材とを含む原料を混合および混練し、押出成形して成形体とした後に焼成により焼成体とし、焼成体に含まれる気孔中に必要に応じて油やワックス等の油状物質を含浸させることにより製造される。本実施形態の焼成芯も、このような製造方法に準じて任意の方法で製造できる。
【0047】
本実施形態の焼成芯の製造方法では、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことによって、焼成芯を製造することが好ましい。詳細には、本実施形態の焼成芯の製造方法は、一次混合混練工程と、予備焼成工程と、予備粉砕工程と、二次混合混練工程と、予備成形工程と、再粉砕工程と、押出成形工程と、焼成工程と、油浸工程と、を含む。
【0048】
(1)一次混合混練工程
一次混合混練工程では、一次混合および一次混練を行う。詳細には、まず、原料を配合し、それを混合および混練する。原料としては、黒鉛と結合材が挙げられる。
【0049】
黒鉛としては、結晶子サイズの大きいものよりも小さいものを用いることが好ましい。しかし、結晶子サイズの小さい黒鉛は入手が困難であり、また製造過程における破砕または粉砕工程によって変化するのであることから、必ずしも限定されない。
【0050】
結合材としては、従来公知のものであればいずれも用いることができる。結合材としては、代表的には各種の樹脂が挙げられる。樹脂としては水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられるが、この他にコールタール、アスファルトなどのピッチ状物質を用いることもできる。また、原料として溶剤や可塑剤などを配合することもできる。
【0051】
これらのうち黒鉛と樹脂のみを配合して配合物とした上で、一次混合および一次混練する。混合および混練には、ヘンシェルミキサー、ニーダー、3本ローラーなどを用いることができる。ニーダーには加圧ニーダー、普通ニーダー、連続式ニーダーなど任意のものを選択することができる。
【0052】
(2)予備焼成工程
予備焼成工程では、一次混合混練工程にて得られた一次混合物を予備焼成する。詳細には、予備焼成工程では、まず、一次混合混練工程にて得られた一次混合物を粉砕可能な程度に粗粉砕する。そして、粗粉砕により得られた粉砕物について、一度焼成処理を行う(予備焼成)。焼成処理の条件は真空または不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は特に限定されないが、600℃以上800℃以下の範囲で十分である。この焼成処理により、含まれる結合材が炭化した状態で黒鉛の潤滑性が損なわれることから、粉砕しやすく、微粉砕化しやすくなる。
【0053】
(3)予備粉砕工程
予備粉砕工程では、予備焼成工程によって予備焼成された一次混合物を微粉砕し(予備粉砕)、一次混合物の粉砕物を得る。
【0054】
予備粉砕後の粒子径は、得られる焼成芯の品質性能に影響を及ぼす。このため、確実に所望の粉砕粒子径とすることが重要である。予備粉砕後の粒子径は、D50で1μm以上30μm以下が好ましく、5μm以上10μm以下がより好ましい。
【0055】
なお、予備粉砕された粒子の大きさおよび分布は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定機を使用して測定することができる。本実施形態においては、予備粉砕後の粒子径には相対粒子数50%に相当する、所謂D50(体積基準で測定したメディアン径)を用いる。なお、粒度分布の測定は乾式および湿式のいずれも用いることが可能であるが、比較的小さい粒子の大きさを測定する場合には、より簡便な乾式方法で測定することが好ましい。
【0056】
粉砕には一般的な粉砕機を使用することが可能である。具体的には、(i)粗粉砕機としては、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャーなどが挙げられる。(ii)中粉砕機としては、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、スルートミル石臼型、リングミルなどが挙げられる。(iii)微粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。
【0057】
予備焼成工程で行われる粗粉砕においては粗粉砕機を使い、予備粉砕工程で行われる微粉砕においては微粉砕機を使用するが、これらは単独で利用してもよいし、複数組み合わせて利用してもよい。
【0058】
(4)二次混合混練工程
二次混合混練工程では、予備粉砕工程で得られた黒鉛粉末と黒鉛粉末以外の原料を配合し、再度、これらを混合および混練する。黒鉛粉末以外の原料としては、結合材が挙げられる。結合材としては、上記一次混合混練工程で用いた結合材と同様のものが挙げられる。
【0059】
(5)予備成形工程
予備成形工程では、二次混合混練工程で得られた混合物をさらに混合し、押出機などにより細線状に予備成形する。
【0060】
(6)再粉砕工程
再粉砕工程では、予備成形工程で得られた細線状成形体を粉砕する。粉砕後の粒子径は、特に限定されないが、D50で10μm以上500μm以下が好ましく、で50μm以上400μm以下であることがより好ましい。組織の細かい緻密構造を形成しやすくするために、粒子は小さいことが好ましい。また、粉砕後の粒子の飛散を防ぎ、取り扱いを容易にするために、また粉砕時間短縮のために、粒子はある程度大きいことが好ましい。
【0061】
再粉砕された粒子の大きさや分布は、上記と同様にレーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定機を使用して測定することができる。上記と同様に、粒子径は相対粒子数50%に相当する、所謂D50(体積基準で測定したメディアン径)である。粒度分布の測定は乾式および湿式のいずれであって可能であるが、比較的小さい粒子の大きさを測定する場合には、より簡便な乾式方法で測定することが好ましい。
【0062】
(7)押出成形工程
押出成形工程では、再粉砕工程によって再粉砕された混練物を必要に応じて加熱し、細線状に押出成形する。押出機には任意のものを用いることができる。押出成形時の混練物の押出速度は、例えば0.1m/秒以上15m/秒以下である。
【0063】
(8)焼成工程
焼成工程では、押出成形工程によって押出成形された混練物を焼成する。焼成の際の雰囲気は酸素含有率が低いことが好ましく、真空または不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は特に限定されないが、800℃以上1500℃以下が好ましく、1000℃以上1400℃以下がより好ましい。
【0064】
(9)油浸工程
焼成工程により得られた焼成体は気孔を含む。油浸工程では、この気孔に油状物質を含浸させる。油状物質には、公知の油成分を用いればよい。油浸工程によって、筆記の際の筆記感等を改良することができる。油浸方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0065】
上記工程を経ることによって、本実施形態の焼成芯が製造される。
【0066】
上述したように、本実施形態の焼成芯の製造方法は、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行う。すなわち、本実施形態の焼成芯の製造方法では、(1)一次混合混練工程、(2)予備焼成工程、(3)予備粉砕工程、(4)二次混合混練工程、(5)予備成形工程、(6)再粉砕工程、(7)押出成形工程、(8)焼成工程、および(9)油浸工程の各工程をこの順に実行することで、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ少なくとも2回行う。
【0067】
なお、本実施形態の焼成芯の製造方法では、(2)予備焼成工程の後に、(3)予備粉砕工程、(4)二次混合混練工程、(5)予備成形工程、(6)再粉砕工程、(7)押出成形工程、および(8)焼成工程、の一連の工程をN回実行した後に、上記(9)油浸工程を実行することで、焼成芯を製造してもよい。Nは、1以上の整数であり、好ましくは、1以上5以下の整数、更に好ましくは1以上3以下の整数である。
【0068】
このように、本実施形態の焼成芯の製造方法は、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことで、本実施形態の焼成芯を製造する。このため、本実施形態の焼成芯の製造方法では、R値が上記特有の範囲を満たし、且つ、黒鉛のサイズLaおよびサイズLcが上記式(1)を満たす焼成芯が製造される。このため、本実施形態の焼成芯は、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上を図ることができる。
【0069】
本実施形態の焼成芯の製造方法によって、R値が上記特有の範囲を満たし、且つ、黒鉛のサイズLaおよびサイズLcが上記式(1)を満たす焼成芯が得られ、上記効果が奏される理由は十分には解明されていないが、以下のように推測される。しかしながら下記推測によって本発明は限定されない。
【0070】
本実施形態の焼成芯の製造方法では上述したように、原料混合物の混合、成形、粉砕、および、焼成をそれぞれ2回以上行う。これらをそれぞれ2回以上行うことで、黒鉛と結合材との密着性が増し、黒鉛が結合材から遊離することが非常に少なく、結合材と黒鉛とが強固に密着した状態となって、結果的に強固で均一な組織構造を有する焼成芯が得られると考えられる。なお、以上の製造方法は一例であり、その他の方法により本実施形態の焼成芯を製造することもできる。
【0071】
ただし、単に混合、成形、粉砕、および熱処理(焼成)のそれぞれを2回以上行うだけではなく、各種の条件の調整や原料の最適化を行うことにより、より優れた特性を有する焼成芯を効率よく製造することが可能となる。
【0072】
例えば、上記(5)予備成形工程における圧力の調整により混合物中の黒鉛粒子と結合材との密着性を高めたり、細線状に予備成形する際の絞り率を調整したりすることで、焼成芯の緻密度を改善することができる。絞り率とは、押出機の材料導入部と成形体押出部の直径の比をいう。
【0073】
(筆記具)
本実施形態の焼成芯は、焼成芯を筆記用の芯として用いる各種の筆記具に適用される。例えば、本実施形態の焼成芯は、木材などの鉛筆軸部によって挟持されてなる鉛筆芯、芯の出し入れおよび取り換えが可能であり例えば芯を繰り出して用いるシャープペンシルの芯、等として用いることができる。
【0074】
本実施形態の焼成芯の適用対象の一例である筆記具の構造および形状は特に限定されない。
【実施例0075】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
以下の工程により実施例1の焼成芯を製造した。
【0077】
一次混合混練工程で用いる原料として以下の原料A1を用意した。
【0078】
-原料A1-
・天然黒鉛 60質量部
・酢酸ビニル樹脂 25質量部
・エタノール 15質量部
【0079】
上記原料A1をヘンシェルミキサーにより混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練した(一次混合混練工程)。次いで、エタノールの量を調整してハンマークラッシャーにて混練物を粗粉砕し、粉砕物を非酸化性雰囲気中において最高温度800℃で熱処理し(予備焼成工程)、更にジェットミルを用いて微粉砕し(予備粉砕工程)、黒鉛と少量の酢酸ビニル樹脂由来の炭素質からなるD50=5μmの微粉砕物を、一次混合物の粉砕物として得た。
【0080】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料B1を用意した。なお、原料B1に含まれる一次混合物の粉砕物は、原料A1を用いた上記工程によって得られた微粉砕物である。
【0081】
-原料B1-
・一次混合物の粉砕物 36質量部
・酢酸ビニル樹脂 28質量部
・石炭ピッチ 16質量部
・エタノール 20質量部
【0082】
上記原料B1を、原料A1を用いた一次混合物の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練した(二次混合混練工程)。
【0083】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化して(再粉砕工程)、D50=150μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0084】
得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中において最高温度1300℃で熱処理を実施し、冷却して実施例1の焼成体を得た(焼成工程)。
【0085】
得られた実施例1の焼成体にスピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ(油浸工程)、焼成体表面の余分な油を除去した後、直径2.00mmの鉛筆用の実施例1の焼成芯を得た。
【0086】
(実施例2)
以下の工程により実施例2の焼成芯を製造した。
【0087】
一次混合混練工程で用いる原料として以下の原料A2を用意した。
【0088】
-原料A2-
・天然黒鉛 60質量部
・酢酸ビニル樹脂 25質量部
・エタノール 15質量部
【0089】
上記原料A2をヘンシェルミキサーにより混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練した(一次混合混練工程)。次いで、エタノールの量を調整してハンマークラッシャーにて混練物を粗粉砕し、粉砕物を非酸化性雰囲気中において最高温度800℃で熱処理を実施し(予備焼成工程)、更にジェットミルを用いて微粉砕し(予備粉砕工程)、黒鉛と少量の酢酸ビニル樹脂由来の炭素質からなるD50=10μmの微粉砕物を、一次混合物の粉砕物として得た。
【0090】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料B2を用意した。なお、原料B2に含まれる一次混合物の粉砕物は、原料A2を用いた上記工程によって得られた微粉砕物である。
【0091】
-原料B2-
・一次混合物の粉砕物 42質量部
・酢酸ビニル樹脂 30質量部
・石炭ピッチ 8質量部
・エタノール 20質量部
【0092】
上記原料B2を、原料A2を用いた一次混合物の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練した(二次混合混練工程)。
【0093】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体を、ピンミルを用いて微粉化して(再粉砕工程)、D50=250μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0094】
得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中において最高温度1000℃で熱処理を実施し、冷却して実施例2の焼成体を得た(焼成工程)。
【0095】
得られた実施例2の焼成体に、スピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、焼成体表面の余分な油を除去した後、直径2.00mmの鉛筆用の実施例2の焼成芯を得た。
【0096】
(実施例3)
以下の工程により実施例3の焼成芯を製造した。
【0097】
実施例3では、実施例2で用いた原料A2を用い、実施例2と同様にして一次混合物の粉砕物を得た。
【0098】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料B3を用意した。なお、原料B3に含まれる一次混合物の粉砕物は、原料A2を用い実施例2と同様にして得られた一次混合物の粉砕物である。
【0099】
-原料B3-
・一次混合物の粉砕物 41質量部
・酢酸ビニル樹脂 27質量部
・石炭ピッチ 12質量部
・エタノール 20質量部
【0100】
上記原料B3を、原料A2を用いた一次混合物の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練した(二次混合混練工程)。
【0101】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化して(再粉砕工程)、D50=150μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0102】
得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中において最高温度1150℃で熱処理を実施し、冷却して実施例3の焼成体を得た(焼成工程)。
【0103】
得られた実施例3の焼成体にスピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、焼成体表面の余分な油を除去した後、直径2.00mmの鉛筆用の実施例3の焼成芯を得た。
【0104】
(実施例4)
以下の工程により実施例4の焼成芯を製造した。
【0105】
実施例4では、実施例1と同様に原料A1を用い、実施例1と同様にして一次混合物の粉砕物を得た。
【0106】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料B4を用意した。なお、原料B4に含まれる一次混合物の粉砕物は、原料A1を用い実施例1と同様にして得られた一次混合物の粉砕物である。
【0107】
-原料B4-
・一次混合物の粉砕物 39質量部
・酢酸ビニル樹脂 28質量部
・石炭ピッチ 13質量部
・エタノール 20質量部
【0108】
上記原料B4を、原料A1を用いた一次混合物の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練した(二次混合混練工程)。
【0109】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化し(再粉砕工程)、D50=100μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0110】
得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中において最高温度1300℃で熱処理を実施し、冷却して実施例4の焼成体を得た(焼成工程)。
【0111】
得られた実施例4の焼成体にスピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ(油浸工程)、焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.35mmのシャープペンシル用の実施例4の焼成芯を得た。
【0112】
(比較例1)
実施例1における原料A1を用いた一次混合物の粉砕物の製造を行わず、一次混合物の粉砕物に替えて黒鉛粉末を含む原料B1を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の比較焼成芯を製造した。すなわち、比較例1では、実施例1における原料A1を用いた一次混合混練工程、予備焼成工程、および予備粉砕工程を行わず、これらの工程を経ることによって得られる一次混合物の粉砕物に替えて黒鉛粉末を含む原料B1を用いた。
【0113】
(比較例2)
実施例2における原料A2を用いた一次混合物の粉砕物の製造を行い、原料B2を用いた二次混合混練工程を含む以降の工程における、予備成形工程および再粉砕工程を行わなかった点以外は、実施例2と同様にして、比較例2の比較焼成芯を製造した。
【0114】
すなわち、比較例2では、二次混合混練工程において原料B2を混合、混練したのち、予備成形工程と再粉砕工程を行うこと無く押出成形工程に付することで、比較例2の比較焼成芯を製造した。
【0115】
(比較例3)
実施例1における原料A1を用いた一次混合物の粉砕物の製造を行わず、一次混合物の粉砕物に替えて以下の比較例3用の黒鉛を含む原料B1を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の比較焼成芯を製造した。すなわち、比較例3では、実施例1における原料A1を用いた一次混合混練工程、予備焼成工程、および予備粉砕工程を行わず、これらの工程を経ることによって得られる一次混合物の粉砕物に替えて、以下の比較例3用の黒鉛を含む原料B1を用いた。
【0116】
比較例3用の黒鉛としては、天然黒鉛をジェットミルにより微粉砕したD50=5μmの微粉砕物を用いた。
【0117】
(比較例4)
比較例4では、実施例1および実施例4と同様に原料A1を用い、実施例1および実施例4と同様にして一次混合物の粉砕物を得た。
【0118】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料B14を用意した。なお、原料B14に含まれる一次混合物の粉砕物は、原料A1を用い実施例1と同様にして得られた一次混合物の粉砕物である。
【0119】
-原料B14-
・一次混合物の粉砕物 39質量部
・酢酸ビニル樹脂 28質量部
・石炭ピッチ 13質量部
・エタノール 20質量部
【0120】
原料B14を用いた二次混合混練工程を含む以降の工程における、予備成形工程および再粉砕工程を行わなかった点以外は、実施例4と同様にして、比較例4の比較焼成芯を製造した。
【0121】
すなわち、比較例4では、二次混合混練工程において原料B14を混合、混練したのち、予備成形工程と再粉砕工程を行うこと無く押出成形工程に付することで、シャープペンシル用の比較例4の比較焼成芯を製造した。
【0122】
得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中において最高温度1300℃で熱処理を実施し、冷却して比較例4の比較焼成体を得た。
【0123】
得られた比較例4の比較焼成体に、スピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、比較焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.35mmのシャープペンシル用の比較例4の比較焼成芯を得た。
【0124】
(評価)
実施例1~実施例3の焼成芯、および比較例1~比較例3の比較焼成芯について、物性および性能を評価した。得られた結果を表1に示した。評価条件は以下とした。
【0125】
-R値-
実施例1~実施例3の焼成体、および比較例1~比較例3の比較焼成体の各々についてR値を測定したところ、表1に示す値となった。
【0126】
R値の測定には、顕微レーザーラマン分光装置(株式会社 堀場製作所社製,商品名XploRA Plus)を用い、以下の測定条件で1580cm-1付近のGバンドのピーク強度(IG)と、1360cm-1付近のDバンドのピーク強度(ID)とを測定した。
【0127】
-測定条件-
・レーザー波長:532[nm]
・レーザー出力:10[mW]
・対物レンズ:10倍
・露光時間:10秒
・積算回数:2回
・刻線数:1200[gr/mm]
・スリット幅:100[μm]・
・フィルター:未使用
・検出器:CCD(Charge-Coupled Device)半導体素子
【0128】
実施例1~実施例3の焼成体の各々について、1本の焼成体に対してGバンドのピーク強度(IG)およびDバンドのピーク強度(ID)を2回測定し、これらのピーク強度の比(ID/IG)の平均値を、実施例1~実施例3の焼成体の各々のR値として求めた。求めたR値を、表1に示した。
【0129】
同様に、比較例1~比較例3の比較焼成体の各々について、1本の比較焼成体に対してGバンドのピーク強度(IG)およびDバンドのピーク強度(ID)を2回測定し、これらのピーク強度の比(ID/IG)の平均値を、比較例1~比較例3の比較焼成体の各々のR値として求めた。求めたR値を、表1に示した。
【0130】
-結晶子のサイズ“2La+3Lc”-
実施例1~実施例3の焼成体、および比較例1~比較例3の比較焼成体の各々について、含まれる黒鉛のサイズLa(nm)およびサイズLc(nm)を測定し、2La+3Lcの値を求めた。求めた値を、表1に示した。
【0131】
黒鉛の結晶子のサイズは、以下測定条件により測定した。
【0132】
X線回折装置(Bruker AXS社製、商品名:D8 ADVANCE)を用い、実施例1~実施例3の焼成体、および比較例1~比較例3の比較焼成体の各々に含まれる黒鉛の結晶子のサイズLc(002面)およびサイズLa(110面)を測定した。測定には、1回の測定につき、1本の焼成体または1本の比較焼成体を使用した。
【0133】
X線回折測定には、一般には粉砕された粉末を用いるが、形状変化を避けるため、今回の評価では粉砕を行わなかった。測定にはゲーベル・ミラーによる平行ビーム法を用いた。
【0134】
サイズLcの測定は、焼成体および比較焼成体の各々の押出軸方向に対して平行にX線を照射し、方位角2θを20°以上30°以下の範囲でスキャンした。一方、サイズLaの測定は、焼成体および比較焼成体の各々の押出軸方向に対して垂直にX線(CuKα線)を照射し、方位角2θを70°以上80°以下の範囲でスキャンした。
【0135】
得られたXRDプロファイルの(002面)又は(110面)に対応する、26.4°付近または77.5°付近の回折線に関して、バックグラウンドを除去し(5次のチェビシェフ多項式を使用)、X線吸収因子を補正し、プロファイル・フィッティング処理を行った。その後、上記式(A)で表されるシェラー式を用いて結晶子のサイズLaおよびサイズLcを算出した。フィッティング処理および結晶子のサイズの算出には、ファンダメンタル・パラメータ(FP)法を用いた。
【0136】
-曲げ強度の評価-
実施例1~実施例3の焼成芯、および比較例1~比較例3の比較焼成芯について、曲げ強度を評価した。曲げ強度の評価には、曲げ強度(MPa)の測定値および筆記濃度を用いた。
【0137】
曲げ強度(MPa)は、JIS S 6006:2020又はJIS S 6005:2019に規定されている方法で測定した。JIS S 6006:2020による場合は支点間距離40mmとし、JIS S 6005:2019による場合は支点間距離20mmとした。実施例1~実施例3の焼成芯、および比較例1~比較例3の比較焼成芯の各々について、それぞれ10本について測定した値の平均値を、各々の曲げ強度(Mpa)とした。測定結果を表1に示した。
【0138】
筆記濃度は、JIS S 6006:2020又はJIS S 6005:2019に規定されている方法で筆記した描線を濃度計(サクラ濃度計PDA65(商品名、小西六写真工業株式会社))で測定した。測定結果を表1に示した。
【0139】
そして、実施例1~実施例3の焼成芯、および比較例1~比較例3の比較焼成芯について、測定した曲げ強度(Mpa)および筆記濃度を用いて、曲げ強度を評価した。曲げ強度の評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1に示した。
【0140】
――曲げ強度の評価基準――
○:曲げ強度が高い
・筆記濃度0.21~0.23の範囲で曲げ強度(MPa)が230Mpa以上
・筆記濃度0.38~0.40の範囲で曲げ強度(MPa)が170Mpa以上
・筆記濃度0.60~0.62の範囲で曲げ強度(MPa)が100Mpa以上
・筆記濃度0.64~0.66の範囲で曲げ強度(MPa)が70Mpa以上
・筆記濃度0.74~0.76の範囲で曲げ強度(MPa)が50Mpa以上
・筆記濃度0.79~0.81の範囲で曲げ強度(MPa)が40Mpa以上
×:曲げ強度が低い
・筆記濃度0.21~0.23の範囲で曲げ強度(MPa)が230Mpa未満
・筆記濃度0.38~0.40の範囲で曲げ強度(MPa)が170Mpa未満
・筆記濃度0.60~0.62の範囲で曲げ強度(MPa)が100Mpa未満
・筆記濃度0.64~0.66の範囲で曲げ強度(MPa)が70Mpa未満
・筆記濃度0.74~0.76の範囲で曲げ強度(MPa)が50Mpa未満
・筆記濃度0.79~0.81の範囲で曲げ強度(MPa)が40Mpa未満
【0141】
-書き味のなめらかさの評価-
実施例1~実施例3の焼成芯、および比較例1~比較例3の比較焼成芯について、書き味の滑らかさを評価した。書き味のなめらかさの評価は、筆記感および運筆を評価することで行った。筆記感とは、滑らかで書きやすいかどうかを意味する。運筆とは、引っ掛かりなく滑らかに書けたかどうかを意味する。
【0142】
参照例1として、市販されている芯径2.0mmの焼成芯(三菱鉛筆株式会社製、商品名「uni2.0-210 1P」、替芯(HB)、)を用意した。
【0143】
そして、被験者30人が、実施例1~実施例3の焼成芯、比較例1~比較例3の比較焼成芯、および参照例の焼成鉛筆芯の各々について、市販のキャンパスノートA罫(コクヨ株式会社製)に下敷きを使わない状態で、5頁にわたって同一短文を繰返し筆記し、参照例1の焼成鉛筆芯との相対評価を行った。筆記感および運筆の評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1に示した。
【0144】
――筆記感および運筆の各々の評価基準――
◎:相対的に非常に良い
○:相対的に良い
△:相対的に良くない
×:相対的に最も悪い
【0145】
【0146】
表1に示すように、実施例1~実施例3の焼成芯は、比較例1~比較例3の比較焼成芯に比べて、曲げ強度および書き味のなめらかさの双方の向上が図れることが確認できた。
【0147】
また、実施例4の焼成芯および比較例4の比較焼成芯についても、曲げ強度および書き味のなめらかさを評価した。その結果、実施例4の焼成芯は、比較例4の比較焼成芯に比べて、曲げ強度および書き味のなめらかさの向上が図れていた。