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▶ 秋田 知子の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095002
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】放射線治療用皮膚マーカー
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230629BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20230629BHJP
   A61B 90/00 20160101ALN20230629BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61K51/00 200
A61B90/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210640
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】521564995
【氏名又は名称】秋田 知子
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】秋田 知子
(72)【発明者】
【氏名】前畠 良康
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 正将
【テーマコード(参考)】
4C082
4C085
【Fターム(参考)】
4C082AJ02
4C082AJ20
4C082AP07
4C082AR02
4C085HH03
4C085KA40
4C085KB41
4C085KB45
(57)【要約】
【課題】患者の日常生活において退色しにくい放射線皮膚マーカーを実現する。
【解決手段】タンパク質と反応しうる物質を着色成分として含む。一態様として、着色成分が、還元糖を含む。一態様として、着色成分が、ジヒドロキシアセトンを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と反応しうる物質を着色成分として含む放射線治療用皮膚マーカー。
【請求項2】
前記着色成分が、還元糖を含む請求項1に記載の放射線治療用皮膚マーカー。
【請求項3】
前記着色成分が、ジヒドロキシアセトンを含む請求項1に記載の放射線治療用皮膚マーカー。
【請求項4】
金属の含有量が5ppm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の放射線治療用皮膚マーカー。
【請求項5】
フクシンをさらに含む請求項1~4のいずれか一項に記載の放射線治療用皮膚マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療を受ける患者の皮膚に塗布してセットアップ位置を表示する等の目的で使用される放射線治療用皮膚マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療を行う際に、放射線を照射するべき患部を表示する目的や患者位置向きを再現性良くセットアップする目的で、放射線治療用皮膚マーカーが汎用されている。すなわち、視認可能な成分(色素など)を含む放射線治療用皮膚マーカーを用いて、患者の皮膚に対して直接に目印を描画し、当該目印がある場所を参考にしてセットアップし、単回もしくは複数回の放射線照射を実施する。この目印は、放射線治療を精密に行うために非常に肝要な目印である。
【0003】
放射線治療用皮膚マーカーの一例として、たとえば特開昭55-137175号公報(特許文献1)には、着色成分として食用色素等が添加された組成物が開示されている。特許文献1の発明では、食用色素等の採用により有毒物のないスキンマーク用インキ組成物を実現している。また、特開平10-194998号公報(特許文献2)には、人体に適用可能な中間色系または寒色系の色素を含有する組成物が開示されており、色素としてメチレンブルーなどが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-137175号公報
【特許文献2】特開平10-194998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来、放射線治療用皮膚マーカーを塗布された患者が日常生活を送るうちに、放射線治療用皮膚マーカーが退色する問題が指摘されている。たとえば、患者の日常生活における衣ずれが目印の退色の原因となり、継続的な放射線治療に支障をきたす場合があった。また、患者が、放射線治療により放射線性の皮膚炎を生じる場合、皮膚炎の治療薬として塗り薬を塗布する場合があるが、従来の放射線治療用皮膚マーカーの着色成分が塗り薬の基材(ワセリンなどが代表的である。)に溶解するために、塗り薬を塗布した際に、描画された目印が失われる場合があった。そのため、患者に塗り薬の使用を許可できず、皮膚炎の治療を進めにくい場合があった。また、体表マーカーを描画される治療用CT撮影時から治療開始まで1週間程度空く場合には、目印が消えていないことの確認または目印の再描画のためだけに、患者に来院を要請する必要があった。
【0006】
そこで、患者の日常生活において退色しにくい放射線皮膚マーカーの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る放射線治療用皮膚マーカーは、タンパク質と反応しうる物質を着色成分として含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、着色成分が患者の皮膚表面のタンパク質と反応して結合を形成し、これによって着色成分が患者の皮膚に定着するため、退色しにくい放射線皮膚マーカーを実現できる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る放射線治療用皮膚マーカーは、一態様として、前記着色成分が、還元糖を含むことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、還元糖とタンパク質との着色反応を利用して、退色しにくい放射線皮膚マーカーを実現できる。かかる着色反応としては、メイラード反応が例示される。
【0012】
本発明に係る放射線治療用皮膚マーカーは、一態様として、前記着色成分が、ジヒドロキシアセトンを含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ジヒドロキシアセトンが常温でタンパク質と反応して褐色を呈するため、皮膚マーカーを患者の皮膚に塗布するだけの簡単な手法で、ジヒドロキシアセトンとタンパク質との着色反応に基づくマーキングを施すことができる。
【0014】
本発明に係る放射線治療用皮膚マーカーは、一態様として、金属の含有量が5ppm以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、放射線が患部に到達することを妨げにくい放射線治療用皮膚マーカーを実現できる。
【0016】
本発明に係る放射線治療用皮膚マーカーは、一態様として、フクシンをさらに含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、塗布直後からマーキング箇所を視認しやすく、かつマーキングの持続時間が長い放射線治療用皮膚マーカーを実現できる。
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明に係る放射線治療用皮膚マーカー(以下、単に「皮膚マーカー」と称する。)の実施形態について説明する。
【0020】
〔放射線治療用皮膚マーカーの構成〕
本発明に係る皮膚マーカーは、着色成分を含み、患者の皮膚に塗布可能な態様に処方される。皮膚マーカーは、放射線治療を受ける患者の皮膚に塗布して、放射線を照射するべき患部を視認できる態様で表示する(以下、「マーキング」という。)ために使用される。
【0021】
(着色成分)
着色成分は、少なくとも患者の皮膚に塗布された状態において視認可能な色彩を有する成分である。本実施形態に係る皮膚マーカーは、着色成分として、タンパク質と反応しうる物質を含む。タンパク質と反応しうる物質を着色成分として含むことによって、皮膚マーカーを患者の皮膚に塗布したときに、当該物質が患者の皮膚表面のタンパク質と反応して結合を形成する(以下、「着色反応」と称する。)。これによって、着色成分である当該物質が患者の皮膚に定着するので、マーキング箇所において衣ずれが生じたり、マーキング箇所に対して塗り薬を塗布したりしても、マーキングが退色しにくい。
【0022】
より詳細には、タンパク質と反応しうる物質は、還元糖であることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る皮膚マーカーは、着色成分が還元糖を含むことが好ましい。還元糖は、タンパク質のアミノ酸残基を反応して色素成分を形成する物質群として知られている。たとえば、メイラード反応は、還元糖とタンパク質との反応により色素成分を生ずる着色反応の例である。
【0023】
さらに詳細には、上記の還元糖は、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、またはこれらの混合物であってよく、ジヒドロキシアセトンを含むことが好ましい。ジヒドロキシアセトンは、サンレスタンニング剤などの用途で皮膚への適用事例が多く、皮膚に塗布する用途における実績に富む物質である。また、ジヒドロキシアセトンは常温でタンパク質と反応して褐色を呈するため、皮膚マーカーがジヒドロキシアセトンを着色成分として含む場合、皮膚マーカーを患者の皮膚に塗布するだけの簡単な手法で、ジヒドロキシアセトンとタンパク質との着色反応に基づくマーキングを施すことができる。
【0024】
なお、本実施形態に係る皮膚マーカーにおいて、放射線治療用皮膚マーカーの分野において従来使用されている着色成分が併用されうる。したがって、本実施形態に係る皮膚マーカーは、レゾルシン、フクシンなどの着色成分を含んでいてもよく、フクシンを含むことが好ましい。
【0025】
タンパク質と反応しうる物質が現にタンパク質と反応して発色するまでには、ある程度の時間を要する場合があるので、着色成分がタンパク質と反応しうる物質のみであると、塗布直後にマーキング箇所を視認しにくい場合がある。そこで、従来使用されている着色成分が併用されていると、皮膚マーカーを塗布した直後において、従来使用されている着色成分の効果によりマーキング箇所を視認できるので、着色反応の進行を待つことなく放射線を照射できる。そして、皮膚マーカーを塗布してからしばらく時間が経過した後においては、着色反応が進行しているため、着色反応に基づくマーキングを視認できる。このように、タンパク質と反応しうる物質と従来使用されている着色成分とが併用されていると、塗布直後からマーキング箇所を視認しやすく、かつマーキングの持続時間が長いため好ましい。
【0026】
それぞれの着色成分の濃度は、特に限定されず、皮膚に塗布されたときに視認できる程度の着色を皮膚に付与しうる限度で適宜選択される。
【0027】
(溶媒)
本実施形態に係る皮膚マーカーは、着色成分の分散媒としての溶媒を含みうる。かかる溶媒としては、放射線治療用皮膚マーカーの分野において従来使用されている溶媒を使用できる。皮膚マーカーは、たとえば液体フェノール、アセトン、エタノール、アルキレングリコール、水などの溶媒を含みうるが、これらに限定されない。なお、溶媒は、単一成分であっても良いし、複数成分の混合物(混合溶媒)であってもよい。溶媒として、着色成分を均一に溶解または分散しうる物質が選択されることが好ましい。
【0028】
(その他の要件)
本実施形態に係る皮膚マーカーは、金属の含有量が5ppm以下であることが好ましい。放射線治療で使用される放射線(X線、電子線、陽子線、重粒子線、α線、β線、γ線)は、金属によって散乱されるので、照射箇所に一定量以上の金属が付着していると、照射された放射線が体内の患部に十分に到達しないおそれがある。そこで、皮膚マーカーにおける金属の含有量を5ppm以下とすることによって、放射線治療に適した皮膚マーカーとしての使用を可能にしている。上記のような金属含有量は、たとえば、各原料(タンパク質と反応しうる物質、他の着色成分、溶媒など)の金属含有量を管理し、合計の金属含有量が5ppm以下となるように配合割合を設定することによって実現されうる。なお、各原料として金属含有量が少ないグレード、または金属を含まないグレードの製品を使用することが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態に係る皮膚マーカーは、上記に列挙した以外の副原料を含んでいてもよい。
【0030】
〔放射線治療用皮膚マーカーの製造方法〕
本発明に係る皮膚マーカーは、上記に列挙した各原料を、公知の方法で混合することによって得られうる。たとえば、攪拌装置を備える容器に上記に列挙した各原料を投入したのちに、攪拌装置を運転する方法が例示される。
【0031】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0032】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0033】
〔実施例1〕
着色成分としてジヒドロキシアセトンを含む皮膚マーカーを調製した。溶媒は、エタノール、ブチレングリコール(アルキレングリコールの例である。)、および水の混合溶媒とした。なお、混合溶媒を構成するいずれの溶媒も無色透明だった。
【0034】
〔比較例1〕
着色成分としてレゾルシンおよびフクシンを含む皮膚マーカーを調製した。溶媒は、液体フェノール、アセトン、エタノール、および水の混合溶媒とした。なお、混合溶媒を構成するいずれの溶媒も無色透明だった。
【0035】
〔評価方法〕
被験者の片側一方の胸部に、実施例1の皮膚マーカーを用いて、十字状のマーキングを描画した。また、当該被験者の片側他方の胸部に、比較例1の皮膚マーカーを用いて、十字状のマーキングを描画した。マーキング直後、3日後、5日後、7日後、10日後、および14日後に、実施例1および比較例1のマーキングを目視で観察し、その視認性を評価した。なお、各回の観察の間の時期における被験者の行動は特に制限せず、したがって衣服の脱着や入浴等は通常の生活を送る程度に行われた。
【0036】
視認性の評価は、下記の三段階とした。
A:被験者の胸部を露出させると、すぐにマーキングを視認できる。
B:被験者の胸部に近づいてよく観察すると、マーキングを視認できる。
C:マーキングを視認できない。
【0037】
〔結果〕
実施例1および比較例1の各皮膚マーカーについての評価結果を表1に示す。マーキング直後において、実施例1および比較例1の双方のマーキングいずれも、十分な視認性を示した。
【0038】
一方、3日後、7日後、および10日後の観察では、比較例1に比べて実施例1の方が良好な視認性を示した。比較例1では、被験者が通常の生活を送るうちに、衣ずれなどの原因でマーキングが脱落して退色したのだと考えられる。一方、実施例1では、ジヒドロキシアセトンが被験者の皮膚のタンパク質と反応して結合を形成しており、これによって退色が生じにくかったのだと考えられる。
【0039】
特に、10日後以降の観察では、比較例1ではマーキングを視認できなかったのに対し、実施例1ではマーキングを明確に視認できた。したがって、実施例1の皮膚マーカーを使用する場合、マーキングから10日以上経過した後であっても上書きを必要とせずにセットアップ位置を正確に把握できるだろう。
【0040】
表1:実施例および比較例の評価結果
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、たとえば、放射線治療を受ける患者の皮膚に塗布して、セットアップ位置等を表示する放射線治療用皮膚マーカーに利用できる。