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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095008
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】金属酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/218 20200101AFI20230629BHJP
   C01F 11/04 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 45/02 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 51/04 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20230629BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20230629BHJP
   C01B 13/18 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C01F17/218
C01F11/04
C01G49/02
C01G23/053
C01G45/02
C01G51/04
C01G25/02
C01G45/00
C01B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210650
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 香奈
(72)【発明者】
【氏名】細田 正和
(72)【発明者】
【氏名】高村 雅彦
【テーマコード(参考)】
4G002
4G042
4G047
4G048
4G076
【Fターム(参考)】
4G002AA01
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE01
4G002AE02
4G002AE05
4G042DA01
4G042DA02
4G042DB10
4G042DB12
4G042DB24
4G042DB29
4G042DC03
4G042DD04
4G042DE06
4G042DE12
4G047CA02
4G047CB05
4G047CC01
4G047CC03
4G047CD04
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC03
4G048AC05
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE05
4G076AA02
4G076AA10
4G076AB06
4G076AB07
4G076AC02
4G076AC04
4G076AC10
4G076BA13
4G076BA38
4G076BB03
4G076BC02
4G076BC08
4G076BC10
4G076BD02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA01
4G076DA07
4G076DA15
(57)【要約】
【課題】平均粒子径がより微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能な金属酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)金属イオンを含む水溶液と、
(B)アルカリである成分(b1)と、特定の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と、
を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程と、
前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程と、
前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする金属酸化物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属イオンを含む水溶液と、
(B)アルカリである成分(b1)と、HLB値が11~17の化合物でありかつ下記化合物(I)及び下記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と、
を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程と、
前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程と、
前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする金属酸化物の製造方法;
[化合物(I)]
下記一般式(1):
O(AO)H (1)
〔式(1)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基、モノスチレン化フェニル基、及び、ポリスチレン化フェニル基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、nはAOの平均付加モル数を示す。〕
で表される化合物;
[化合物(II)]
下記一般式(2):
N[(AO)H] (2)
〔式(2)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、pはAOの平均付加モル数を示す。〕
で表される化合物。
【請求項2】
前記成分(A)中の金属イオンの金属種がAl、Ca、Ti、Mn、Fe、Co、Zn、Y、Zr、Ba及びWからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記成分(b2)のHLB値が14~17であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物からなる無機材料は、無機顔料、磁性材料、触媒等の種々な用途で用いられてきた。そして、従来より各分野に利用する上で、金属酸化物の粒子径をより微細化させる技術(ナノ化技術等)が必須とされてきた。例えば、用途が無機顔料である場合にはインクジェットのノズル詰まり防止のために微細化が求められ、また、用途が磁性材料である場合には充填率を向上させて高い遮蔽効果を得るために微細化が求められ、更には、用途が触媒である場合には比表面積を大きくし特性を高めるために微細化が求められてきた。このように、従来より、種々の用途に応用するために金属酸化物の粒子径をより微細化させる技術の開発が求められてきた。
【0003】
このような金属酸化物の粒子径を微細化させる技術としては、各成分金属の酸化物や炭酸塩などを混合した後に焼成して粉砕する乾式法と、各成分金属の水可溶性塩を溶解し、アルカリ等にて沈殿させた前駆体を焼成する湿式法の2つに大別することができる。しかしながら、乾式法では粉砕が難しく、一次粒子がナノサイズ等の非常に小さな粒子径を有する金属酸化物を得ることは困難であるという問題があった。そのため、ナノサイズ等の非常に小さな粒子径を有する一次粒子の金属酸化物の製造には、主に湿式法を採用することが検討されており、様々な方法が研究されている。
【0004】
このような湿式法として、例えば、国際公開第2013/143456号(特許文献1)には、(1)スズイオン含有溶液を他の金属イオン含有溶液と沈殿剤で反応させ、形成したスズ含有金属酸化物前駆体粒子とイオン状態で存在する第一副生成物とを得る工程;(2)前記スズ含有金属酸化物前駆体粒子と前記イオン状態で存在する第一副生成物を分離し、イオン型不純物を基本的に含まないスズ含有金属酸化物前駆体粒子を得る工程;(3)前記イオン型不純物をほとんど含まないスズ含有金属酸化物前駆体粒子と酸化剤又は還元剤とを反応させ、スズ含有金属酸化物粒子とイオン状態で存在する第二副生成物とを得る工程;(4)前記スズ含有金属酸化物粒子と前記イオン状態で存在する第二副生成物とを分離し、イオン型不純物を基本的に含まないスズ含有金属酸化物粒子を得る工程;を含むナノスズ含有金属酸化物粒子を製造するための方法が開示されており、かかる方法において、前記工程(2)、(3)、及び(4)のうち一つ又は複数の工程において界面活性剤で前記スズ含有金属酸化物前駆体粒子又はスズ含有金属酸化物粒子をコートし、当該工程(2)、(3)、及び(4)のうち一つ又は複数の工程においてスズ含有金属酸化物前駆体粒子又はスズ含有金属酸化物粒子の重量に基づき0.01%~30%の界面活性剤を添加することが望ましい旨が開示されている。また、特開2013-133403号公報(特許文献2)には、数種の金属塩を溶解した水溶液に、沈殿剤としてアルカリ水溶液を過剰に加えて共沈物を生成させ、液相中で酸化処理して前駆体を生成させた後、焼成することにより金属酸化物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/143456号
【特許文献2】特開2013-133403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~2に記載のような湿式法を採用した従来の金属酸化物の製造方法は、得られる金属酸化物の粒子径の微細化の点では十分なものではなかった。例えば、特許文献2においては、共沈物に酸化処理を施して前駆体を生成し、その後、焼成するが、共沈物として形成される金属水酸化物は二次凝集した状態のものであり、その状態のままで酸化処理が施され、その後、焼成されることから、得られる金属酸化物の粒子径が大きいものとなってしまうといった問題がある。そのため、湿式法を利用しつつ、金属酸化物の平均粒子径をより安定的に微細化させることが可能な技術の出願が望まれている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、平均粒子径がより微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能な金属酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物の製造方法を、(A)金属イオンを含む水溶液と;(B)アルカリである成分(b1)と、HLB値が11~17の化合物でありかつ下記化合物(I)及び下記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と;を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程と、前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程と、前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程と、を含む方法とすることにより、平均粒子径がより微細化された金属酸化物を、より安定的に製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の金属酸化物の製造方法は
(A)金属イオンを含む水溶液と、
(B)アルカリである成分(b1)と、HLB値が11~17の化合物でありかつ下記化合物(I)及び下記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と、
を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程と、
前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程と、
前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。なお、ここにいう化合物(I)及び(II)は以下の化合物である。
【0010】
[化合物(I)]
下記一般式(1):
O(AO)H (1)
〔式(1)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基、モノスチレン化フェニル基、及び、ポリスチレン化フェニル基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、nはAOの平均付加モル数を示す(なお、化合物(I)は、成分(b2)として選択され得る化合物であるため、HLB値が11~17の化合物である必要があり、nの値は、そのようなHLB値の条件を満たすものとするために、Rや導入されているAOの種類等に応じて必然的に特定の範囲の数となる)。〕
で表される化合物;
[化合物(II)]
下記一般式(2):
N[(AO)H] (2)
〔式(2)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、pはAOの平均付加モル数を示す(なお、化合物(II)は、成分(b2)として選択され得る化合物であるため、HLB値が11~17の化合物である必要があり、pの値は、そのようなHLB値の条件を満たすものとするために、Rや導入されているAOの種類等に応じて必然的に特定の範囲の数となる。)。〕
で表される化合物。
【0011】
前記本発明の金属酸化物の製造方法においては、前記成分(A)中の金属イオンの金属種がAl、Ca、Ti、Mn、Fe、Co、Zn、Y、Zr、Ba及びWからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、前記本発明の金属酸化物の製造方法においては、前記成分(b2)のHLB値が14~17であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、平均粒子径がより微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能な金属酸化物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の金属酸化物の製造方法は
(A)金属イオンを含む水溶液と、
(B)アルカリである成分(b1)と、HLB値が11~17の化合物でありかつ前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と、
を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程(以下、場合により単に「第一工程」と称する)と、
前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程(以下、場合により単に「第二工程」と称する)と、
前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程(以下、場合により単に「第三工程」と称する)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、各工程を分けて説明する。
【0015】
(第一工程)
第一工程は、(A)金属イオンを含む水溶液と、(B)前記沈殿剤とを混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程である。ここで、先ず、各成分(A)及び(B)について説明する。
【0016】
〈成分(A):金属イオンを含む水溶液〉
成分(A)としての前記水溶液は、金属イオンを含むものである。このような金属イオンの金属種は特に制限されず、例えば、アルカリ土類金属、両性金属、遷移金属、希土類を挙げることができる。このような金属のイオンの金属種としては、水への溶解度がより低い水酸化物を生成でき、金属酸化物の収率がより向上するという観点から、Al、Ca、Ti、Mn、Fe、Co、Zn、Y、Zr、Ba、Wであることがより好ましい。このような金属イオンは、一種の金属のイオンを単独であるいは二種以上の金属のイオンを組み合わせて利用することができる。
【0017】
前記水溶液中の金属イオンの含有量(質量モル濃度)は0.05~2mol/kg(より好ましくは0.1~1.5mol/kg)であることが好ましい。このような金属イオンの濃度が0.05mol/kg未満では回収される金属水酸化物の量が少なくなって、金属酸化物を効率的に製造することができなくなる傾向にあり、他方、2mol/kg超では、第一工程において形成する金属水酸化物の粒子が凝集しやすくなり、最終的に得られる金属酸化物の粒子径が大きくなってしまう傾向がある。
【0018】
また、成分(A)としての水溶液の調製方法は特に制限されるものではないが、水に金属塩を溶解することにより調製する方法を適宜利用できる。このような金属塩としては、水溶液となるものであればよく、特に制限されず、例えば、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩を挙げることができる(このように、金属イオンの対塩としては、硝酸イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、塩酸イオン等を例示できる)。このように、目的に応じて選択した1種又は2種以上の金属種の金属塩を水に溶解することで、所望の金属種の金属イオンを含む水溶液を調製することができる。
【0019】
〈成分(B):沈殿剤〉
沈殿剤は、アルカリである成分(b1)と、HLB値が11~17の化合物でありかつ前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含むものである。
【0020】
このような沈殿剤に含有させる成分(b1)はアルカリである。このようなアルカリは、金属イオンの沈殿に利用することが可能なものであればよく、特に制限されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属の有機酸塩;炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;アルカリ金属のアンモニア塩;アンモニア等を好適なものとして挙げることができる。なお、このようなアルカリは、その塩基性を利用して、前記成分(A)中の金属イオンから金属水酸化物の沈殿を形成させるために利用させる成分であることから、金属イオンの金属種に応じて、その好適なものを適宜選択して利用すればよい。例えば、金属イオンの金属種によっては、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類をアルカリとして利用した場合、金属錯体が生成されて、金属水酸化物を効率よく形成できなくなる場合もあることから、錯体が生成されないように、金属イオンの金属種に応じてアルカリの種類を適宜選択することが望ましい。
【0021】
また、このようなアルカリとしては、焼成後にアルカリ金属の対塩に由来する不純物がより生じにくいという観点から、アルカリ金属の炭酸塩がより好ましい。また、このようなアルカリ金属としては、成分(A)に含ませる金属イオンの対塩をより少量で中和できるという観点から、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0022】
また、前記成分(b1)のアルカリの使用量は、混合する対象物である前記成分(A)の水溶液中に含まれる金属イオンに対して化学当量の1~1.5倍とすることが好ましい。このようなアルカリの使用量が、前記成分(A)中の前記金属イオンに対して化学当量等倍よりも少ない場合には、未反応の金属イオンが残ってしまい、金属イオンから所望の量の金属酸化物を製造することが困難となる傾向にあり、他方、成分(A)中の前記金属イオンに対して化学当量の1.5倍を超えた量のアルカリを沈殿剤中に含有させた場合には、金属種によっては析出した金属水酸化物が再度溶解して、効率よく金属酸化物を製造することができなくなる。なお、このような使用量となるように、成分(B)の沈殿剤を調製する際には、前記成分(b1)の含有量を適宜調整することが好ましい。
【0023】
また、前記沈殿剤中において、前記アルカリの含有量は0.1~20質量%(より好ましくは0.1~15質量%)であることが好ましい。前記沈殿剤中の前記アルカリの濃度を前記範囲内とすることで、効率よく金属水酸化物を生成することが可能となる。
【0024】
また、前記沈殿剤に含有させる成分(b2)は、HLB値が11~17の化合物でありかつ前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
【0025】
なお、本発明において、HLB値は、エチレンオキシ基を親水基とし、かつ、それ以外の基を全て親油基とみなして、グリフィン法により算出した数値を意味する。すなわち、化合物中のエチレンオキシ基を親水基とし、かつ、それ以外の基を全て親油基とみなして、下記計算式:
[HLB]=[(親水基の質量)/(親水基の質量+疎水基の質量)]×100/5
を計算することにより求められる値である。
【0026】
本発明において、前記沈殿剤に含有させる成分(b2)は、HLB値が11~17の化合物である。このような成分(b2)としての化合物のHLB値が、前記数値範囲外となると、金属水酸化物の粒子の凝集を十分に抑制することができなくなり、最終的に得られる金属酸化物の粒子径が大きくなってしまい、安定的に微細な粒子径の金属酸化物を製造することができなくなる。なお、より微細な粒子径の金属酸化物を更に安定的に製造することが可能となることから、成分(b2)は、HLB値が14~17の化合物であること(成分(b2)のHLB値が14~17であること)がより好ましい。
【0027】
また、前記沈殿剤に含有させる成分(b2)は、HLB値が11~17の化合物であるとともに、前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。このように、成分(b2)としては、前記一般式(1)で表されかつHLB値が11~17の化合物及び/又は前記一般式(2)で表されかつHLB値が11~17の化合物を利用する。なお、このような成分(b2)に関して、「前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種」とは、前記化合物(I)のうちの1種又は前記化合物(II)のうちの1種を単独で用いるものであってもよく、化合物(I)のうちの2種以上を組み合わせて利用するものであってもよく、化合物(II)のうちの2種以上を組み合わせて利用するものであってもよく、更には、化合物(I)のうちの1種以上と化合物(II)のうちの1種以上とを組み合わせて利用するものであってもよい。
【0028】
このような化合物(I)は、下記一般式(1):
O(AO)H (1)
〔式(1)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基、モノスチレン化フェニル基、及び、ポリスチレン化フェニル基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、nはAOの平均付加モル数を示す。〕
で表される化合物である。このような化合物(I)において、式中のRが炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基である場合には、化合物(I)はいわゆるアルコールアルキレンオキサイド付加物となり、また、式中のRがモノスチレン化フェニル基、又は、ポリスチレン化フェニル基である場合には、化合物(I)はスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物となる。
【0029】
前記一般式(1)中のRとして選択され得る、前記炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状のものであってもよく、あるいは、分岐鎖状のものであってもよい。また、前記炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であっても不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。このような一価の脂肪族炭化水素基の炭素数が前記範囲外の値となる場合(炭素数が8未満となるかあるいは24を超える場合)には、金属水酸化物の凝集を十分に抑制することができず最終的に得られる金属酸化物の粒子径が大きくなる。また、このような一価の脂肪族炭化水素基の炭素数は、得られる金属酸化物の平均粒子径を更に微細なものとすることができるといった観点からは、12~22であることがより好ましい。
【0030】
前記一般式(1)中のRとして選択され得るポリスチレン化フェニル基は特に制限されるものではないが、金属水酸化物が凝集しにくく最終的に得られる金属酸化物の粒子径がより微細化されるという観点からスチレンの付加モル数が2~5のものであることが好ましい。また、Rが、モノスチレン化フェニル基である場合、前記化合物(I)はモノスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物となり、Rが、ポリスチレン化フェニル基である場合、前記化合物(I)は、ジスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、トリスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物等のポリスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物となる。
【0031】
なお、Rがモノスチレン化フェニル基又はポリスチレン化フェニル基である場合の化合物(I)としては、得られる金属酸化物の粒子径をより細かくすることができるという観点から、中でも、モノスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、ジスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物又はトリスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0032】
また、前記一般式(1)中の複数(n個)のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示す。このようなAOの付加形態は特に制限されないが、エチレンオキサイド(EO:炭素数2のアルキレンオキシ基)の単独付加、EOとプロピレンオキサイド(PO:炭素数3のアルキレンオキシ基)とのランダム付加、EOとPOとのブロック付加のうちのいずれかの形態であることが好ましいが、pHの高い沈殿剤液中での金属水酸化物の分散性がより高くなり最終的に得られる金属酸化物の粒子径がより微細化されるという観点からは、エチレンオキサイドの単独付加であることがより好ましい。
【0033】
前記一般式(1)中のnはAOの平均付加モル数を示す。なお、化合物(I)は、成分(b2)として選択され得る化合物であるため、HLB値が11~17の化合物である必要がある。そのため、化合物(I)の式中のnの値は、そのようなHLB値の条件を満たすものとするために、導入される各AOの種類やその他の基の種類等に応じて必然的に特定の範囲の数となる。
【0034】
また、成分(b2)として利用され得る前記化合物(II)は、下記一般式(2):
N[(AO)H] (2)
〔式(2)中、Rは炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、複数のAOはそれぞれ独立に炭素数2~3のアルキレンオキシ基からなる群より選択されるいずれかの基を示し、pはAOの平均付加モル数を示す〕
で表される化合物であり、いわゆる高級アミンアルキレンオキサイド付加物である。
【0035】
前記一般式(2)中のRとして選択され得る、前記炭素数8~24の一価の脂肪族炭化水素基は、前記一般式(1)中のRにおいて説明したものと同様である(その好適な条件(炭素数の条件等)も同様である)。また、前記一般式(2)中の複数(p個)のAOは、繰り返し数がnではなくpとなる以外は、前記一般式(1)中の複数のAOとして説明したものと同様のものである(その好適な条件(付加形態の条件等)も同様である)。また、前記一般式(2)中のpはAOの平均付加モル数を示す。なお、化合物(II)も、成分(b2)として選択され得る化合物であるため、HLB値が11~17の化合物である必要がある。そのため、化合物(II)の式中のpの値は、そのようなHLB値の条件を満たすものとするために、導入される各AOの種類やその他の基の種類等に応じて必然的に特定の範囲の数となる。
【0036】
このような成分(b2)としては、例えば、HLB値が11~17のポリオキシエチレンアルキルエーテル(ただし、アルキルエーテル中のアルキル基の炭素数は8~24:例えば、HLB値が11~17のポリオキシエチレンイソデシルエーテル、HLB値が11~17のポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、HLB値が11~17のポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、HLB値が11~17のポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、HLB値が11~17のポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、HLB値が11~17のポリオキシエチレンペンタスチレン化フェニルエーテル、HLB値が11~17のポリオキシエチレンアルキルアミン(ただし、アルキルアミン中のアルキル基の炭素数は8~24:例えば、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン等)等を好適に利用できる。このような成分(b2)を製造するための方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このような成分(b2)としては、市販品(上記化合物(I)及び(II)に相当する市販の非イオン界面活性剤等)を適宜利用できる。なお、成分(b2)の代わりに、成分(b2)に該当しないような化合物として、いわゆるアニオン界面活性剤を用いた場合には、成分(A)と(B)を混合した際に液中に形成される金属水酸化物の分散が不十分となり、結果として、得られる金属酸化物粒子の粒子径が大きくなり、より微細な粒子径を有する金属酸化物を安定的に製造することができなくなる。また、成分(b2)の代わりに、成分(b2)に該当しないような化合物として、カチオン界面活性剤を用いると、沈殿剤中においてアルカリと界面活性剤との沈殿が発生してしまい、成分(A)と(B)を混合した際に液中に形成される金属水酸化物の分散が不十分となるばかりか、金属酸化物の製造自体が困難になってしまう。なお、本発明においては、成分(B)の沈殿剤が前述のような成分(b2)を含むものであるため、金属水酸化物の形成段階から成分(b2)の界面活性効果を利用でき、これに起因して金属水酸化物をより微細な状態に維持することを可能であるため、最終的に得られる金属酸化物をより微細なものとすることが可能であるものと本発明者らは推察する。
【0037】
前記沈殿剤中の前記成分(b2)の使用量は、前記成分(A)と前記成分(B)を混合して得られる金属水酸化物の理論量に対して0.1~40質量%(より好ましくは0.5~30質量%)となる量とすることが好ましい。前記成分(b2)の使用量が前記0.1質量%未満では、成分(b2)により金属水酸化物の粒子径を微細なものとする効果を十分に得ることができず、最終的に得られる金属酸化物の粒子径を微細なものとすることが困難になる傾向にある。また、前記成分(b2)の使用量が40質量%を超えると、成分(b2)の余剰分が多くなってしまい、焼成後に成分(b2)に由来する炭素残渣からなる不純物が残ってしまう場合が生じ得る。
【0038】
前記沈殿剤に含まれる成分(b2)の含有量は、0.1~30質量%(より好ましくは0.1~20質量%)とすることが好ましい。このような成分(b2)の含有量が前記下限未満では、成分(b2)により金属水酸化物の粒子径を微細なものとする効果を十分に得ることができず、最終的に得られる金属酸化物の粒子径を微細なものとすることが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成分(b2)の余剰分が多くなってしまい、焼成後に成分(b2)に由来する炭素残渣からなる不純物が残ってしまう場合が生じ得る。
【0039】
また、成分(B)の沈殿剤は、成分(A)との混合がより容易となることから、成分(b1)と、成分(b2)と、溶媒とを含む溶液であることが好ましい。このような溶媒としては、水、エタノールなどのプロトン性極性溶媒が挙げられ、中でも、成分(b1)及び成分(b2)の分散性の観点から、水が特に好ましい。このように、成分(B)の沈殿剤は、成分(b1)と、成分(b2)と、溶媒としての水とを含む水溶液(アルカリ性の水溶液)であることが特に好ましい。
【0040】
〈成分(A)及び成分(B)を混合する工程について〉
第一工程では、前記成分(A)と、前記成分(B)とを混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る。このように、前記成分(A)と、前記成分(B)とを混合することにより、それらの混合液中に金属イオンに由来した金属水酸化物が析出し、金属酸化物を含む反応液が得られることとなる。すなわち、金属イオンを含む水溶液である成分(A)は通常酸性のものであり、沈殿剤である成分(B)は含有する成分(b1)のアルカリに由来して通常アルカリ性となる。そして、これらの混合液のpHが中性又はアルカリ性となると、金属水酸化物が生成されて析出することなる。そのような金属水酸化物の生成工程に、前記第一工程では、成分(b2)を含む沈殿剤である成分(B)を利用しているため、その成分(b2)が有する界面活性効果により、液中に析出した金属水酸化物を十分に分散した状態とすること(粒子の二次凝集を十分に抑制すること)が可能となり、これにより、得られる金属水酸化物をより微細な粒子径を有するものとすることが可能である。なお、このようにして、前記成分(A)と、前記成分(B)とを混合することにより金属水酸化物を生成するため、得られる反応液は、前記金属酸化物の析出物(沈殿物)を含む液体(例えば懸濁液)となる。
【0041】
このような混合工程においては、前記成分(B)の沈殿剤(より好ましくはアルカリ性の水溶液からなる沈殿剤)に対して、前記成分(A)の水溶液を滴下しながら混合することが好ましい。このように、前記成分(B)に対して前記成分(A)を滴下して混合する場合、前記成分(A)に前記成分(B)を滴下して混合する場合と比較して、以下の理由で、反応液中に形成される金属水酸化物の更なる微細化を図ることが可能となる。すなわち、先ず、前記成分(B)に対して前記成分(A)を滴下して混合する場合には、混合初期から前記成分(B)は全量存在するため、混合液には十分な量の成分(b2)が存在することとなり、その界面活性効果により、形成された金属水酸化物をより微細な状態でより分散させることが可能となり、全量混合して得られる反応液中において、金属水酸化物の更なる微細化を図ることが可能となるものと考えられる。また、金属水酸化物が析出するpHが中性又はアルカリ性であるが、前記成分(B)に対して前記成分(A)を滴下して混合する場合には、混合初期(滴下初期)から、混合液のpHがアルカリ性にあることから、滴下初期から金属水酸化物の生成と析出をより効率よく進行せしめることが可能となり、そのようにして析出した金属水酸化物の周囲には、前述のように十分な量の成分(b2)が存在することとなるため、更に効率よく金属水酸化物の更なる微細化を図ることが可能となる。このように、前記成分(B)に対して前記成分(A)を滴下して混合する場合、前記成分(A)に前記成分(B)を滴下して混合する場合と比較して、金属水酸化物の生成と析出をより効率よく進行せしめることが可能であること、混合初期から液には十分な量の成分(b2)が存在することとなって成分(b2)の界面活性効果をより十分に利用可能なこと、等から、第一工程において得られる金属水酸化物の粒子径をより微細化することが可能となる。
【0042】
このような成分(A)及び(B)の混合時の温度条件は、金属イオンやアルカリの種類に応じて、金属水酸化物を生成することが可能となる温度域に適宜設定すればよく、特に制限されるものではないが、より効率よく微細な金属水酸化物を生成するといった観点からは10~90℃(より好ましくは20~80℃)とすることが好ましい。このような温度が前記範囲内にある場合には、前記範囲外にある場合と比較して、金属水酸化物の析出速度(沈殿速度)が適度なものとなり、形成される金属水酸化物の粒子径を更に微細化させることが可能となる傾向にある。なお、温度条件が前記上限を超えた場合には前記上限未満の場合と比較すると、沈殿速度が速くなり粒子径の制御が困難となる傾向(前記上限未満の場合よりも粒子径が大きくなる傾向にある。
【0043】
また、成分(A)及び(B)の混合に際しては、成分(A)及び(B)の混合液を10~120分間(より好ましくは30~60分間)程度、前記混合時の温度条件下のままで撹拌する熟成工程を施すことが好ましい。このような熟成工程は、例えば、前記成分(B)に対して前記成分(A)を滴下して混合する場合には、前記混合時の温度条件下において成分(A)の全量を滴下後、得られた混合液を前記混合時の温度条件を維持したままで10~120分間(より好ましくは30~60分間)撹拌する工程として行ってもよい。このような熟成工程により、成分(A)と成分(B)とを十分に反応させることが可能となり、目標とした量の金属水酸化物をより安定的に得ることが可能となる。
【0044】
このように、第一工程において、前記成分(A)と、前記成分(B)とを混合することにより、液中に金属水酸化物を析出させて、十分に微細な粒子径を有する金属水酸化物を含む反応液(例えば懸濁液)を得ることが可能となる。なお、このように反応液を得た後においては、第二工程を施す前に、得られた金属水酸化物の粒子(一次粒子)が二次的に凝集した二次粒子を破壊して、反応液中の粒子が更に分散された状態となるようにするといった観点から、二次粒子の物理的破壊工程を施してもよい。このような二次粒子の物理的破壊工程に際しては、例えば、超音波分散機、ビーズミル、サンドグラインダー等の公知の装置を利用して、二次粒子の物理的破壊を行ってもよい。
【0045】
(第二工程)
第二工程は、前記反応液に酸化剤を添加することにより金属酸化物前駆体を得る工程である。第二工程において、前記反応液に酸化剤を添加することで、前記反応液中の金属水酸化物と酸化剤とが反応して、金属水酸化物の粒子の表面を酸化することが可能となり、表面の少なくとも一部が酸化された粒子からなる金属酸化物前駆体を得ることが可能となる。そのため、金属酸化物前駆体を得る工程は、金属水酸化物の表面の酸化工程であるともいえる。
【0046】
このような酸化剤としては、特に制限されず、金属水酸化物を酸化することが可能な公知の酸化剤を適宜利用することができ、例えば、過酸化水素、酸素、塩素酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。このような酸化剤の中でも、不純物としてより残留しにくいという観点から、過酸化水素を用いることが好ましい。なお、酸化剤の添加の際には、前記酸化剤を含む水溶液(例えば、過酸化水素の水溶液)を調製して、これを前記反応液に添加することが好ましい。
【0047】
このような酸化剤の添加方法は特に制限されず、使用する酸化剤の種類や、金属水酸化物の種類、目的、等に応じて、公知の添加方法を適宜採用すればよい。例えば、前記反応液を撹拌しながら、前記酸化剤を含む水溶液を滴下することで、前記反応液に酸化剤を添加してもよい。
【0048】
また、このような酸化剤の添加量は特に制限されるものではないが、金属水酸化物の理論量(第一工程において前記成分(A)と前記成分(B)の使用量から算出される理論量)に対して1~90質量%(より好ましくは10~80質量%)となる量とすることが好ましい。このような酸化剤の添加量(使用量)が前記下限未満では、前記下限以上の場合と比較して、金属酸化物前駆体が凝集しやすくなり、得られる金属酸化物の粒子径が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えて使用しても、それ以上の効果が見られない傾向にある。
【0049】
このような酸化剤の添加時の温度条件は、特に制限されるものではないが、10~90℃(より好ましくは10~70℃)とすることが好ましい。このような温度が前記範囲内にある場合には、酸化剤の効果を十分に発揮させることが可能となり、温度が前記範囲外にある場合と比較して、金属水酸化物の表面をより効率よく酸化することが可能となる。
【0050】
また、金属酸化物前駆体を得る工程においては、酸化剤の添加後、10~90℃(より好ましくは10~70℃)の温度条件で10~120分間(より好ましくは30~60分間)撹拌する熟成工程を施すことが好ましい。このような熟成工程により、金属酸化物前駆体がより凝集しにくくなり、焼成後に得られる金属酸化物の粒子径をより微細化することが可能となる。
【0051】
このように、前記反応液に酸化剤を添加して前記金属水酸化物と前記酸化剤とを反応させることにより、粒子の表面の少なくとも一部を酸化して金属酸化物前駆体を得ることが可能となる。なお、このように反応液を得た後においては、第三工程を施す前に、金属酸化物前駆体の粒子(一次粒子)が二次的に凝集した二次粒子を破壊して、液中の粒子が更に分散された状態となるようにするといった観点から、二次粒子の物理的破壊工程を施してもよい。このような二次粒子の物理的破壊工程に際しては、例えば、超音波分散機、ビーズミル、サンドグラインダー等の公知の装置を利用して、二次粒子の物理的破壊を行ってもよい。なお、二次粒子の物理的破壊工程は、前記第一工程後のタイミング(酸化剤の添加前のタイミング)において施してもよいし、第二工程後のタイミング(酸化剤の添加後のタイミング)において施してもよいし、更には、双方のタイミングにおいて施してもよい。
【0052】
また、このような第二工程においては、反応物である金属酸化物前駆体(固体)が、反応溶媒(液体)中に形成されるため、後述の第三工程を施す前に、前記反応溶媒と金属酸化物前駆体(固体)とを分離して、反応溶媒を除去し、金属酸化物前駆体(固体)を取り出す処理(分離工程)を施すことが好ましい。このような分離工程を行う場合、濾過や遠心分離などの公知の方法を適宜採用できる。また、このような分離工程には、得られた反応物(固体)と反応溶媒(液体)とを分離することが可能な公知の分離装置(遠心分離機等)を適宜利用できる。
【0053】
また、後述の第三工程を施す前に、前述のように、前記金属酸化物前駆体(固体)を取り出す処理(分離工程)を行う場合、得られた金属酸化物前駆体(固体)に対して洗浄処理(洗浄工程)を更に施してもよい。このような洗浄工程では、分離して取り出した固体に洗浄液として所定量の水を加えて撹拌して洗浄(例えば、超音波を用いて撹拌洗浄してもよい)した後に、固体と洗浄液とを分離する工程を、分離された洗浄液のpHが中性付近(pHが6~8)になるまで繰り返すことが好ましい。このようにして洗浄する場合、最終的に、固体と洗浄液を分離することで、洗浄液を除去し、洗浄後の金属酸化物前駆体を得ることができる。また、このような洗浄を施す場合、反応物を含む液体を中和してもよい。このような中和に酸を使用する場合、使用できる酸は金属を含まない有機酸が好ましい。また、このような中和に塩基を使用する場合、使用できる塩基は金属を含まない有機塩基(例えばアンモニア等)が好ましい。
【0054】
また、前述のような分離工程及び/又は洗浄工程を施した場合には、後述の第三工程を施す前に、得られた金属酸化物前駆体(固体)を乾燥させる処理(乾燥工程)を更に施すことが好ましい。このような乾燥工程は、特に制限されないが、例えば、得られた金属酸化物前駆体(固体)を80~120℃程度の温度条件下に静置して乾燥させる方法を採用することが好ましい。また、乾燥時間は、十分に乾燥させることが可能となる時間であれば、特に制限されない。すなわち、乾燥時間は、反応物である金属酸化物前駆体の量、乾燥に利用する装置の性能、等によっても異なるものであって特定できないため、金属酸化物前駆体の種類等に応じて、十分に乾燥させることが可能となるように適宜設定すればよい。
【0055】
また、このような乾燥工程を施す場合には、乾燥工程でスプレードライ、ディスクドライヤーを用いて、乾燥しながらパウダー化させてもよく、更には、乾燥させた後にミル等の装置を利用して乾式の粉砕(解砕)を行う工程を施してもよい。
【0056】
(第三工程)
第三工程は、前記金属酸化物前駆体を焼成することにより金属酸化物を得る工程である。このような焼成には、前記第二工程において、前記分離工程を施すことにより得られる金属酸化物前駆体を利用することが好ましい。
【0057】
このような金属酸化物前駆体の焼成に際して、焼成温度は特に制限されず、前記金属酸化物前駆体から金属酸化物を製造することが可能となる温度とすればよく、目的とする金属酸化物の種類に応じて適切な温度域に適宜設定すればよい。また、このような焼成温度としては、500℃~1200℃とすることが好ましく、800℃~1200℃とすることがより好ましい。また、焼成時間は特に制限されるものではないが、1~6時間(より好ましくは1~3時間)とすることが好ましい。このような焼成温度及び焼成時間の範囲内で焼成を行うことで、更に効率よく微細な金属酸化物を製造することが可能となる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〈実施例1~12及び比較例1~16で利用した成分について〉
<成分(A):金属イオンを含む水溶液>
実施例1~12及び比較例1~16においていずれも、成分(A)の金属イオンを含む水溶液として、硝酸イットリウム(III)六水和物(分子量:383、化学式:Y(NO・6HO)1.9g(5.0×10-3mol)を蒸留水8.1gに溶解させて得られた水溶液(金属イオンの金属種:Y、総量:10g、水溶液中の金属イオンの質量モル濃度:0.62mol/kg)を利用した。
【0060】
<成分(B):沈殿剤>
実施例1~12及び比較例2~13及び16においては、沈殿剤に利用する成分(b2)又は比較用成分(b2)として、表1に記載の化合物のうちのいずれかを利用した。なお、成分(b2)及び比較用成分(b2)として用いられる化合物はいずれも、いわゆる界面活性剤として利用可能な化合物である。そして、実施例1~12及び比較例2~13及び16においては、成分(B)の沈殿剤として、成分(b1)としての炭酸ナトリウム(分子量:106、化学式:NaCO)0.8g(7.5×10-3mol)と、成分(b2)又は比較用成分(b2)としての化合物0.2gとを蒸留水9gに溶解させることにより得られた沈殿剤(アルカリ性の水溶液、総量:10g)を利用した。なお、成分(B)に関して、成分(b1)の使用量は、前記成分(A)中のYの金属イオンから金属水酸化物(Y(OH))を得る反応において、Yの金属イオンのモル量に対して1化学当量(モル当量)となる量に調整した。
【0061】
また、比較例1及び14~15においては、成分(B)の沈殿剤として、成分(b2)又は比較用成分(b2)としての化合物を利用しなかった以外は、上記方法と同様にして得られた沈殿剤(成分(b1)0.8g及び蒸留水9.2gからなるアルカリ性の水溶液、総量:10g)をそれぞれ用いた。
【0062】
【表1】
【0063】
<酸化剤の水溶液>
実施例1~12及び比較例1~15において酸化剤として過酸化水素を利用すべく、過酸化水素0.17gを蒸留水9.83gに溶解した酸化剤の水溶液を調製した。なお、比較例16においては酸化剤の水溶液を利用しなかった。
【0064】
(実施例1~12及び比較例1~13)
上述のようにして得られた成分(A)、成分(B)及び酸化剤の水溶液をそれぞれ用いて、以下の工程(1)~(3)を実施することにより、金属酸化物をそれぞれ製造した。表2~4に、各実施例等で利用した成分(A)、成分(B)及び酸化剤の水溶液の組成を示す。
【0065】
〈工程(1):金属水酸化物を含む反応液を得る工程〉
先ず、成分(A)及び(B)をいずれも50℃まで加熱した。次いで、成分(A)及び(B)を50℃に保ちつつ撹拌しながら、成分(B)の「沈殿剤(アルカリ性の水溶液)」に対して、成分(A)の「金属イオンを含む水溶液」を滴下することにより、成分(A)と成分(B)とを混合した。そして、成分(A)の全量を成分(B)に滴下し終わった後(成分(A)の添加後)に、得られた混合液を、温度:50℃、時間(熟成時間):60分間の条件で撹拌する工程(金属水酸化物の熟成工程)を施すことにより、金属水酸化物の沈殿物を含む懸濁液(金属水酸化物を含む反応液)を得た。なお、成分(B)の「沈殿剤」には、工程(1)で理論上得られる金属水酸化物の質量(理論量)の28.6質量%に相当する量の成分(b2)又は比較用成分(b2)が含まれている。
【0066】
〈工程(2):金属酸化物前駆体を得る工程〉
工程(1)で得られた懸濁液を50℃で撹拌しながら、酸化剤の水溶液10gを滴下することにより、前記懸濁液に酸化剤を添加した。このようにして、前記懸濁液に酸化剤の水溶液の全量を滴下し終わった後(酸化剤の水溶液の添加後)に、得られた懸濁液をさらに50℃の温度条件で1時間攪拌する工程(反応物の熟成工程)を施すことにより、金属酸化物前駆体(金属水酸化物の表面酸化物)を含む懸濁液を得た。
【0067】
次に、このようにして得られた懸濁液から、以下のようにして金属酸化物前駆体(固体)を分離した。すなわち、先ず、前記懸濁液に対して、遠心分離機を用いて遠心分離(9000rpm)を行い、沈殿物を固形分として回収し、上澄み液を除去した(分離工程)。次いで、遠心分離で得られた固形分に蒸留水を足し、超音波を用いて洗浄した(洗浄工程)。そして、洗浄後の混合液(蒸留水と前記固形分の混合液)に対して前記分離工程を再度施して、沈殿物を固形分として回収し、上澄み液を除去した(洗浄後の分離工程)。このような回収された固形分に対して行う前記洗浄工程と、前記洗浄後の分離工程(洗浄後の混合液から沈殿物を固形分として回収する工程)とを、洗浄後の分離工程において除去する上澄み液のpHが7以下になるまで繰り返し行い、除去する上澄み液のpHが7以下になった時点の金属酸化物前駆体(固体)を分離して得た。
【0068】
次いで、前述のようにして分離して得られた金属酸化物前駆体(固体)を80℃で1時間乾燥させた(乾燥工程)。その後、乾燥させて得られた金属酸化物前駆体(固体)をメノウ乳鉢で粉砕することにより(粉砕工程)、金属酸化物前駆体(固体)の粉体を得た。
【0069】
〈工程(3):焼成工程〉
工程(2)で得られた金属酸化物前駆体(固体)の粉体(粉砕物)を、空気雰囲気下、1000℃の焼成温度で1時間焼成することにより、金属酸化物(粒子)を得た。
【0070】
(比較例14)
工程(1)において懸濁液を得た後(比較例14では成分(b2)又は比較用成分(b2)を含まない成分(B)を利用)に、その懸濁液に対して、50℃で撹拌しながら前記表1に記載の化合物(1)を0.2g添加することにより、化合物(1)を添加した懸濁液を調製し、これを工程(1)で得られた懸濁液の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物(粒子)を得た。
【0071】
(比較例15)
工程(2)において、酸化剤の水溶液の添加後、反応物の熟成工程を施す前に、酸化剤の水溶液を添加した懸濁液に対して、50℃で撹拌しながら前記表1に記載の化合物(1)を0.2g添加し、その後、反応物の熟成工程を施した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物(粒子)を得た。なお、表4に記載しているように、比較例15では、成分(B)として、成分(b2)又は比較用成分(b2)を含まないものを利用した。
【0072】
(比較例16)
工程(2)において、金属酸化物前駆体(金属水酸化物の表面酸化物)を含む懸濁液を得る工程を施さず、金属酸化物前駆体(固体)を分離する代わりに工程(1)で得られた懸濁液(金属水酸化物を含む反応液)から金属水酸化物を分離し、金属酸化物前駆体(固体)の代わりに金属水酸化物(固体)を利用した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物(粒子)を得た。すなわち、工程(1)で得られた懸濁液から金属水酸化物を分離し、金属水酸化物(固体)に乾燥工程及び粉砕工程を施し、得られた金属水酸化物の粉体に焼成工程(工程(3))を施すことにより、金属酸化物(粒子)を得た。
【0073】
〔金属酸化物の平均粒子径の測定〕
下記の測定装置及び下記の測定方法を採用して、各実施例及び各比較例で得られた金属酸化物の体積平均粒子径Dv(50)をそれぞれ測定した。
〈測定装置〉
大塚電子株式会社製、商品名:Zeta-potential & Particle size Analyzer ELSZ-1000
〈測定方法〉
金属酸化物0.002gを測り取って容器に導入した後、その容器に1質量%活性剤水溶液1mLを添加し、超音波分散機で40kHzの超音波を30秒印加する処理を施して、測定用の試料を準備した。そして、得られた測定用の試料を用いて、上記測定装置で分析することにより、金属酸化物の体積平均粒子径Dv(50)を求めた。なお、測定用の試料を準備する際に利用した「1質量%活性剤水溶液」とは、蒸留水に対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(HLB値:14.2、日油株式会社製、商品名:ノニオンE-215)を1質量%の濃度となるように分散させることにより調製された水溶液である。得られた結果を表2~4に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表1~4に示す結果からも明らかなように、金属イオンを含む水溶液と;アルカリである成分(b1)とHLB値が11~17の化合物でありかつ前記化合物(I)及び前記化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である成分(b2)とを含む沈殿剤と;を混合することにより金属水酸化物を含む反応液を得る工程と、焼成前に酸化剤で処理して金属酸化物前駆体を得る工程とを含む金属酸化物の製造方法を採用した場合(実施例1~12)にはいずれも、得られた金属酸化物の平均粒子径が500nm以下(実際に420nm以下)となっており、平均粒子径が500nm以下となるような、より微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能であることが分かった。また、表2に示す結果から、成分(b2)の中でも、特にHLB値が14~17の化合物を利用した場合には、更なる微細化が図られていることも分かった。
【0078】
これに対して、成分(b2)のような界面活性効果を有する化合物を沈殿剤に含有させなかった場合(比較例1)、成分(b2)の代わりに、HLB値が11~17の範囲外の化合物又は前記化合物(I)及び(II)に該当しない化合物等の比較用成分(b2)を沈殿剤に利用した場合(比較例2~13)には、平均粒子径が500nmを超えた値となっており、平均粒子径が500nm以下となるような、より微細化された金属酸化物を製造することができなかった。また、沈殿剤に成分(b2)を含有させず、金属水酸化物の製造後の段階で成分(b2)を利用した場合(比較例14~15)にはいずれも、平均粒子径が5610nm以上となっており、平均粒子径が微細化された金属酸化物を製造することができなかった。また、沈殿剤に成分(b2)を利用した場合においても、金属水酸化物の製造後に酸化剤で処理して金属酸化物前駆体を得る工程を施さなかった場合(比較例16)には、平均粒子径が4600nm以上となっており、やはり平均粒子径が微細化された金属酸化物を製造することができなかった。
【0079】
(実施例13~19)
成分(A)の組成、及び、成分(B)の組成を、表5に記載のように変更した以外は、実施例1~12と同様にして金属酸化物(粒子)を得た(なお、実施例13について、表5に記載した金属塩の使用量は硫酸チタンの水溶液(30質量%水溶液)の使用量を示す。また、実施例13~19においてはいずれも、表5に記載のように、成分(b2)として表1に記載の化合物(1)を利用した)。また、実施例13~19で得られた金属酸化物の体積平均粒子径Dv(50)をそれぞれ、前述の〔金属酸化物の平均粒子径の測定〕に記載した方法と同様の方法を採用して測定した。得られた結果を表5に示す(参照のために、実施例1の結果も併せて示す)。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示す結果と表2~4に示す結果を併せ勘案すれば、成分(A)の水溶液中の金属イオンの金属種を種々変更した場合においても、本発明の金属酸化物の製造方法によれば、平均粒子径が500nm以下となるような、より微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、平均粒子径がより微細化された金属酸化物をより安定的に製造することが可能な金属酸化物の製造方法を提供することが可能となる。なお、本発明においては、実施例1~19において実証しているように、前記特許文献1~2に記載されているような従来の製造方法では安定的に製造することが困難であった平均粒子径が500nm以下となるような非常に微細な金属酸化物であっても安定的に製造することが可能である。
【0083】
したがって、本発明の金属酸化物の製造方法は、無機顔料、磁性材料、触媒等の種々な用途に用いるための金属酸化物を工業的に製造するための方法等として特に有用である。