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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009501
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20230113BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20230113BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/42
H01M50/446
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112849
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 絵美
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE22
5H021HH00
5H021HH01
(57)【要約】
【課題】電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】本発明の発明者らは、多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータにおいて、(1)X線回折でアルカリ電池用セパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が0.40°以上であること、(2)FT-IRでアルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子を測定した際に、3200~3600cm-1の範囲にピークを有すること、(3)アルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上であること、の少なくとも1つに該当していると、電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータであることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、
X線回折でアルカリ電池用セパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が0.40°以上である、アルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、
FT-IRでアルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子を測定した際に、3200~3600cm-1の範囲にピークを有する、アルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、
アルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上である、アルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】
多孔質基材と酸化ジルコニウム粒子が、アクリル系樹脂を含むバインダで結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】
酸化ジルコニウム粒子における、酸化ジルコニウムの含有率が95mass%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】
酸化ジルコニウム粒子に、立方晶又は正方晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウムを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行うことができるように、セパレータが使用されている。また、電池の充放電によって電極が膨張・収縮し、電極の膨張・収縮によってセパレータに圧力が掛かり、セパレータが十分な電解液量を保持できなくなると電池が使用できなくなるため、電池の長寿命化のために電解液保持性に優れたセパレータが求められている。
【0003】
このような電解液保持性に優れたセパレータとして、例えば、特開平11-315472号公報(特許文献1)には、不織布を構成する繊維の表面に、酸化チタンや酸化ジルコニウムなどの無機酸化物の微粒子からなる多孔質層を有する不織布が開示されており、この不織布がアルカリ二次電池セパレータに用いることが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-315472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載のアルカリ電池用セパレータは、確かに電解液保持性に優れたセパレータであったが、十分なものではなかった。
【0006】
本発明は、このような状況下においてなされたものであり、電解液保持性により優れるアルカリ電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、X線回折でアルカリ電池用セパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が0.40°以上である、アルカリ電池用セパレータ。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、FT-IRでアルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子を測定した際に、3200~3600cm-1の範囲にピークを有する、アルカリ電池用セパレータ。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータであって、アルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上である、アルカリ電池用セパレータ。」である。
【0010】
本発明の請求項4にかかる発明は、「多孔質基材と酸化ジルコニウム粒子が、アクリル系樹脂を含むバインダで結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。」である。
【0011】
本発明の請求項5にかかる発明は、「酸化ジルコニウム粒子における、酸化ジルコニウムの含有率が95mass%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。」である。
【0012】
本発明の請求項6にかかる発明は、「酸化ジルコニウム粒子に、立方晶又は正方晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウムを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルカリ電池用セパレータ。」である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発明者らは、多孔質基材と、酸化ジルコニウム粒子を含むアルカリ電池用セパレータにおいて、
(1)X線回折でアルカリ電池用セパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が0.40°以上であること、
(2)FT-IRでアルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子を測定した際に、3200~3600cm-1の範囲にピークを有すること、
(3)アルカリ電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上であること、
の少なくとも1つに該当していると、電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータであることを見出した。
【0014】
(1)により電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータが実現できる理由としては、アルカリ電池用セパレータを構成する酸化ジルコニウムのX線回折ピークの半値幅が大きいため酸化ジルコニウムの結晶子サイズが小さく、酸化ジルコニウムの結晶子サイズが小さいことで酸化ジルコニウムの結晶末端が多く、これにより酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基が多く、酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基により水和水を多く含むことができるためと考えられる。
【0015】
(2)により電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータが実現できる理由としては、アルカリ電池用セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子において、FT-IRで3200~3600cm-1の範囲に現れるピークは、酸化ジルコニウムの結晶末端に有するヒドロキシ基由来のピークであり、酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基により水和水を多く含むことができるためと考えられる。
【0016】
(3)により電解液保持性に優れるアルカリ電池用セパレータが実現できる理由としては、アルカリ電池用セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上と多いということは、酸化ジルコニウムの結晶表面に多くのヒドロキシ基を有しているということであり、酸化ジルコニウムの結晶表面に多くのヒドロキシ基を有することで水和水を多く含んでいるためと考えられる。
【0017】
本発明の請求項4にかかる発明は、バインダが耐アルカリ性に優れるアクリル系樹脂から構成されていることから、アクリル系樹脂が耐電解液性に優れ酸化ジルコニウム粒子を長時間安定して固定できるため、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性を保つことができる。
【0018】
本発明の請求項5にかかる発明は、酸化ジルコニウム粒子における、酸化ジルコニウムの含有率が95mass%以上であることから、酸化ジルコニウム粒子における酸化ジルコニウムの純度が高く、電気化学的安定性及び化学的安定性に優れ、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性にもより優れている。
【0019】
本発明の請求項6にかかる発明は、酸化ジルコニウム粒子に、立方晶又は正方晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウムを含むことにより、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性がより優れている。この理由については、酸化ジルコニウムが立方晶又は正方晶の結晶構造であると、より多くの水和水を含むことができるためと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、セパレータと称することがある)は、酸化ジルコニウム粒子を含む。酸化ジルコニウム粒子は、主としてセパレータの比表面積の増大及び酸化ジルコニウムに含まれる水和水による電解液保持性、また、耐電解液性に寄与する役割を担う。なお、本発明の酸化ジルコニウム粒子は、主成分が酸化ジルコニウムである粒子を指すが、酸化ジルコニウム粒子における酸化ジルコニウムの含有率は、高ければ高いほど、セパレータの電解液保持性がより優れていると考えられることから、95mass%以上が好ましく、98mass%以上がより好ましく、99mass%以上が更に好ましい。
【0021】
本発明のセパレータは、
(1)X線回折測定でセパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が0.40°以上であること、
(2)FT-IRでセパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子を測定した際に、3200~3600cm-1の範囲にピークを有すること、
(3)セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上であること、
の少なくとも1つに該当しており、これによりセパレータの電解液保持性が優れる。
【0022】
まず、(1)に該当することで電解液保持性に優れるセパレータが実現できる理由は、X線回折でセパレータを測定した際に現れる最も高いピークが、セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子に含まれる酸化ジルコニウムの結晶由来のピークであり、シェラーの式により、X線回折ピークの半値幅が大きい場合、結晶子サイズが小さいことが知られているため酸化ジルコニウムの結晶子サイズが小さく、酸化ジルコニウムの結晶子サイズが小さいことで酸化ジルコニウムの結晶末端が多く、これにより酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基が多く、酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基により水和水を多く含むことができるためと考えられる。X線回折測定でセパレータを測定した際に現れる、最も強度が高いピークの半値幅が大きければ大きいほど、より酸化ジルコニウムの結晶子サイズが小さく、酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基がより多いと考えられることから、0.60°以上がより好ましく、0.70°以上が更に好ましい。上限としては、特に限定するものではないが、12°以下が現実的である。
【0023】
なお、本発明において、酸化ジルコニウム粒子に立方晶又は正方晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウムを含んでいると、セパレータの電解液保持性がより優れ、好ましい。この理由については完全には明らかになっていないが、酸化ジルコニウムが立方晶又は正方晶の結晶構造であると、結晶構造の違いから酸化ジルコニウムがより多くの水和水を含むことができるためと考えられる。
【0024】
更に、X線回折による測定は、JIS K 0131(1996)「X線回折分析通則」に基づき公知のX線回折装置により行うことができ、半値幅については、X線回折測定結果のピークの高さの半分におけるピークの幅から、求めることができる。
【0025】
次に、(2)に該当することで電解液保持性に優れるセパレータが実現できる理由は、セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子において、FT-IRで3200~3600cm-1の範囲に現れるピークは、酸化ジルコニウムの結晶末端に有するヒドロキシ基由来のピークであり、酸化ジルコニウムの結晶表面に有するヒドロキシ基により水和水を多く含むことができるためと考えられる。
【0026】
なお、本発明における酸化ジルコニウム粒子のFT-IRによる測定は、酸化ジルコニウム粒子を105℃で24時間真空乾燥を行って水分を取り除き、JIS K 0117(2017)「赤外分光分析通則」に基づき公知のFT-IR装置で、ATR法により測定したものである。
【0027】
次に、(3)に該当することで電解液保持性に優れるセパレータが実現できる理由は、セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が2.0%以上と多いということは、酸化ジルコニウムの結晶表面に多くのヒドロキシ基を有しているということであり、酸化ジルコニウムの結晶表面に多くのヒドロキシ基を有することで水和水を多く含んでいるためと考えられる。セパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子の水分含有率が多ければ多いほど、酸化ジルコニウムがより多くの水和水を含み、よりセパレータの電解液保持性が優れることから、2.5%以上がより好ましく、3.0%以上が更に好ましい。上限としては、特に限定するものではないが、15%以下が現実的である。
【0028】
なお、本発明における酸化ジルコニウム粒子の水分含有率の測定は、以下の方法で測定する。
(1)酸化ジルコニウム粒子を温度25℃、湿度60%下で3時間以上放置する。
(2)酸化ジルコニウム粒子の質量a(g)を測定する、
(3)酸化ジルコニウム粒子を105℃で24時間真空乾燥を行う、
(4)真空乾燥後の酸化ジルコニウム粒子の質量b(g)を測定する、
(5)以下の式により、酸化ジルコニウム粒子の水分含有率W(%)を求める。
W={(a-b)/a}×100
【0029】
本発明のセパレータを構成する酸化ジルコニウム粒子の形状は、例えば、球状(略球状や真球状)、針状、平板状、多角形立方体状、羽毛状などから適宜選択することができる。
【0030】
本発明の酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径は適宜調整するが、多孔質基材の空隙に酸化ジルコニウム粒子が均一に存在することによってセパレータにおける電解液の分布が均一になり電解液保持性が優れるように、酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径は、10μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましく、1μm以下であるのが更に好ましい。酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径の下限は、特に限定するものではないが、10nm以上が現実的である。
【0031】
なお、酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径は、酸化ジルコニウム粒子を大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)に供して、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求める。つまり、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したデータにおける酸化ジルコニウム粒子の累積値50%点の粒子径D50(以降、D50と略して称する)を、酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径とする。なお、測定に使用する分散液は温度25℃に調整し、25℃の水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0032】
また、本発明の酸化ジルコニウム粒子の粒子径分布は適宜調整するが、粒子径の大きな酸化ジルコニウム粒子が多数存在する場合には酸化ジルコニウム粒子が脱落してピンホールが形成され易くなる恐れがあり、粒子径の小さな酸化ジルコニウム粒子が多数存在する場合には多孔質基材の空隙が閉塞する恐れがある。
【0033】
そのため、酸化ジルコニウム粒子の粒子径分布は(D50/2) 以上(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、酸化ジルコニウム粒子の粒子径分布は前述した動的光散乱法で測定し、測定強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0034】
更に、本発明の酸化ジルコニウム粒子の比表面積は、高ければ高いほど、セパレータの電解液保持性が優れることから、5m/g以上が好ましく、20m/g以上がより好ましく、100m/g以上が更に好ましい。比表面積が高すぎると、酸化ジルコニウム粒子が脆くなり、セパレータから酸化ジルコニウム粒子が脱落するおそれがあることから、500m/g以下が現実的である。
【0035】
なお、本発明における「比表面積」とは、酸化ジルコニウム粒子を真空中、温度70℃で4時間処理した後、室温冷却して1×10-3Torrまで真空引きした後、試料約0.5gを精秤し、ガス吸着測定装置[日本ベル(株)製、BELSORP 28A]を用い、BET法により測定した値である。なお、吸着ガスとして、クリプトンを用いる。
【0036】
本発明のセパレータに対する酸化ジルコニウム粒子の含有率は、高ければ高いほど、セパレータの比表面積が増大して電解液保持性に優れ、また、アルカリ電池に内部短絡が発生するのを防ぐことができる一方、酸化ジルコニウム粒子の含有率が高すぎると、セパレータに含まれる多孔質基材の空隙が酸化ジルコニウム粒子によって閉塞して、電池の内部抵抗及び内圧が上昇するおそれがあることから、10~70mass%が好ましく、20~60mass%がより好ましく、35~50mass%が更に好ましい。
【0037】
本発明のセパレータは、酸化ジルコニウム粒子の他に、多孔質基材を含む。本発明のセパレータにおいて、多孔質基材は主としてセパレータの骨格をなす役割を担う。
【0038】
多孔質基材の種類は適宜選択できるが、例えば、不織布や織物あるいは編物などの繊維構造体、通気性や通液性を有する多孔性フィルムや多孔性発泡体などの素材単体や、単一種類の素材を複数積層したもの、複数種類の素材を複数積層したものを使用できる。これらの中でも、強度に優れることから繊維構造体が好ましく、繊維構造体の中でも高い空隙率を実現できる不織布がより好ましい。
【0039】
多孔質基材を構成する素材は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂など)、ポリアミド系樹脂の一種であるナイロン系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66など)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを用いて構成できる。これらの中でも、耐電解液性に優れることから、前記多孔質基材はポリオレフィン系樹脂又はナイロン系樹脂から構成されていることが好ましい。
【0040】
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機ポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。更には、多成分の有機ポリマーを混ぜ合わせたものでも良い。
【0041】
多孔質基材が繊維構造体である場合、繊維構造体の構成繊維は、例えば、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法[例えばメルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など]、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など、公知の方法により得ることができる。
【0042】
繊維構造体を構成する繊維は、一種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも、複数種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機ポリマーから構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0043】
繊維構造体は構成繊維として接着繊維を含んでいてもよい。接着繊維を含むことで、繊維構造体の強度を向上することができ好ましい。接着繊維の種類は適宜選択するが、例えば、芯鞘型接着繊維、サイドバイサイド型接着繊維、あるいは、全溶融型接着繊維を採用することができる。
【0044】
また、繊維構造体は構成繊維として横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0045】
繊維構造体を構成する繊維の平均繊維径が細いほど、セパレータが緻密な構造になりアルカリ電池の短絡が起こりにくくなると共に、空隙の大きさを均一かつ小さくして内部短絡の発生を防止できる傾向がある。そのため、繊維構造体を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましく、8μm以下であるのが最も好ましい。なお、繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm以上であるのが現実的である。
【0046】
なお、本発明でいう「平均繊維径」は、繊維構造体や繊維を含んだセパレータの断面の電子顕微鏡写真を分析し、無作為に選んだ100本の繊維の繊維直径の算術平均値であり、繊維直径は繊維の断面積と同じ面積をもつ円の直径をいう。
【0047】
また、繊維長も適宜選択するが、0.5~150mmであることができ、繊維の製造方法によっては連続繊維であることもできる。なお、平均繊維径および/または繊維長の点で異なる繊維を2種類以上含んでも良い。
【0048】
多孔質基材の、例えば、目付や厚さなどの諸構成は、十分な量の酸化ジルコニウムを含有することができ、また内部短絡を発生し難いアルカリ電池を調製可能なセパレータを得られるように適宜調整する。
【0049】
また、例えば、後述する混合液を多孔質基材に付与し易くするなどの目的のために、多孔質基材を親水化してもよい。多孔質基材を親水化する方法は適宜選択するが、例えば、プラズマ処理やスルホン化処理、フッ素ガス処理もしくはコロナ帯電処理などへ供する方法を挙げることができる。
【0050】
本発明のセパレータは、多孔質基材と酸化ジルコニウム粒子を含むが、酸化ジルコニウム粒子がセパレータから脱落しにくいように多孔質基材に酸化ジルコニウム粒子が接着しているのが好ましい。多孔質基材と酸化ジルコニウム粒子の接着は、例えば、バインダによる接着、多孔質基材の一部を融解固化または軟化により変形させることによる接着などが挙げられる。これらの中でも、多孔質基材と酸化ジルコニウム粒子が強固に接着し、セパレータから酸化ジルコニウム粒子が脱落しにくいことから、バインダによる接着が好ましい。
【0051】
使用できるバインダの種類は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルなど)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体[例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など]、ポリエチレングリコール(PEG)、セルロース誘導体[例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを用いることができる。これらの中でも、耐電解液性に優れ酸化ジルコニウム粒子を長期間安定して固定できるため、セパレータの電解液保持性を保つことができるアクリル系樹脂を用いることが好ましい。なお、これらを1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0052】
セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子の存在態様は、多孔質基材の表面のみに存在する態様や多孔質基材の表面と空隙中の両方に存在する態様があるが、酸化ジルコニウム粒子が多孔質基材の表面と空隙中の両方に存在すると、多孔質基材の表面のみに存在する場合に比べて酸化ジルコニウム粒子が多孔質基材の表面に層状に堆積し凝集した構造をとりにくく、多孔質基材内部で酸化ジルコニウム粒子が分散して存在できる傾向があり、酸化ジルコニウム粒子が凝集していないことで酸化ジルコニウム粒子の表面が露出してセパレータの比表面積の増大に寄与しやすいため好適である。また、多孔質基材の表面に酸化ジルコニウム粒子の層が存在していると、セパレータが電解液を保持した際にセパレータ内部において電解液の分布が偏り、電池の電気抵抗増大につながるおそれがあることから、多孔質基材の表面に酸化ジルコニウム粒子の層が存在していないのが好ましい。
【0053】
また、セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子に対するバインダの含有率は適宜調整するが、セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子に対するバインダの含有率が高すぎると、バインダが酸化ジルコニウム粒子を被覆して酸化ジルコニウムによる作用を阻害し、電解液保持性の向上が十分なものにならないおそれがある一方、セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子に対するバインダの含有率が低すぎると、アルカリ用電池用セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子が脱落するおそれがあり、酸化ジルコニウム粒子の脱落箇所がピンホールになって電池に内部短絡が発生するおそれがある。そのため、セパレータに含まれる酸化ジルコニウム粒子に対するバインダの含有率は、0.05~10mass%であるのが好ましく、0.1~5mass%であるのがより好ましく、0.2~4mass%であるのが更に好ましい。
【0054】
本発明のセパレータの目付は適宜調整するが、2~80g/mであることができ、5~50g/mであることができ、10~30g/mであることができる。なお、本発明でいう「目付」は、最も広い面である主面1mあたりの質量をいう。
【0055】
また、本発明のセパレータの厚さは、厚さが薄いセパレータは電池の内部抵抗が低減する傾向があるが、厚さが薄すぎると耐内部短絡性が劣る恐れがあることから、5~100μmであるのが好ましく、10~70μmであるのがより好ましく、30~60μmであるのがさらに好ましい。なお、本発明でいう「厚さ」は、JIS B 7502(2016)「マイクロメータ」の3.1に規定されている外側マイクロメータ(測定範囲:0~25mm)を用いて、無作為に選んで測定した10点の平均値をいう。
【0056】
本発明のセパレータは、例えば次のようにして製造することができる。
【0057】
まず、多孔質基材を準備する。多孔質基材が通気性や通液性を有する多孔性フィルムや多孔性発泡体である場合、調製方法は適宜選択できるが、例えば、融解した有機ポリマーを型に流し込み成型、発泡処理するなど、公知の方法で調製できる。多孔質基材が織物や編物である場合、繊維を、織るあるいは編むことで調製できる。
【0058】
多孔質基材が不織布である場合、まず、繊維から乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)や湿式法により繊維ウエブを形成する。これらの中でも繊維が均一に分散して繊維分散ムラの少ないセパレータを製造しやすい湿式法により繊維ウエブを形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。なお、二層以上を抄き合わせる場合には、一層構造のセパレータを製造できるように、同一の繊維配合からなる繊維ウエブを抄き合わせるのが好ましい。次に、繊維ウエブを構成する繊維を結合させ、不織布を調製する。繊維同士を結合する方法は適宜選択できるが、例えば、ニードルや水流によって繊維同士を絡合する方法、繊維同士をバインダで接着する方法、あるいは、接着繊維の繊維表面を融解固化して繊維同士を融着により結合する方法などを挙げることができる。なお、加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。あるいは、直接紡糸法を用いて紡糸された繊維を捕集することで、不織布を調製してもよい。
【0059】
また、後述する混合液を多孔質基材に含有しやすくするなどの目的のために、多孔質基材を上述の方法で親水化処理してもよい。
【0060】
次に、多孔質基材に酸化ジルコニウム粒子を結合する。多孔質基材に酸化ジルコニウム粒子を結合する方法としては、例えば、バインダにより接着する方法と、多孔質基材の一部を融解固化または軟化により変形させて結合する方法がある。この中でもバインダにより接着する方法は適宜選択できるが、例えば、
1.溶媒あるいは分散媒にバインダと酸化ジルコニウム粒子を混合してなる酸化ジルコニウム混合液(以降、混合液と称することがある)を用意し、多孔質基材を混合液に浸漬する、
2.多孔質基材に混合液をスプレーする、
3.グラビアロールを用いたキスコータ法などの塗工方法を用いて、多孔質基材の一方の主面あるいは両主面に混合液を塗布する、
ことを行った後、混合液を含んだ多孔質基材を乾燥して、混合液中の溶媒や分散媒を除去する方法であることができる。
【0061】
なお、混合液中にバインダが粒子状等の固体で存在している場合、上述の乾燥を行う際に固体のバインダを融解固化あるいは軟化変形させることで、バインダにより多孔質基材に酸化ジルコニウム粒子を結合するのが好ましい。このとき、混合液中に存在するバインダ粒子の形状は適宜選択するが、例えば、球状(略球状や真球状)、針状、平板状、多角形立方体状、羽毛状などから適宜選択することができる。溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択するが、例えば、水、アルコール類、エーテル類などを、単独あるいは混合して使用することができる。
【0062】
また、混合液にはバインダや酸化ジルコニウム粒子の凝集を防止し分散性を向上するため、例えば、界面活性剤(例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤など)などを添加しても良く、添加量は適宜調整する。
【0063】
混合液を含んだ多孔質基材を乾燥させる方法は、適宜選択するが、例えば、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、ハロゲンヒータなどの加熱手段へ供することにより溶媒あるいは分散媒を除去する方法、また、熱風あるいは送風などにより溶媒あるいは分散媒を除去する方法などを使用できる。また、混合液を含んだ多孔質基材を、例えば、室温(25℃)に放置する方法、減圧条件下に曝す方法、溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度以上の雰囲気下に曝す方法など、公知の方法を用いることができる。
【実施例0064】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0065】
(酸化ジルコニウム粒子及び酸化イットリウム粒子の準備)
酸化ジルコニウム粒子A~D、酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子、及び酸化イットリウム粒子を準備した。
【0066】
酸化ジルコニウムの含有率(ZrO含有率)と、これらの粒子の平均粒子径、比表面積、上述の方法によりFT-IRで測定した際の3200~3600cm-1の範囲に現れるピークの有無(IRピーク有無)、上述の方法により測定した水分含有率を、以下の表1に示す。なお、酸化イットリウム粒子は、酸化ジルコニウム粒子と同様の方法で測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
(実施例1)
(不織布の調製方法)
芯成分がホモポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンの芯鞘型複合繊維(芯成分と鞘成分の体積比率=60:40、繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)を用意した。
さらに、ポリエチレンテレフタレートからなる海成分中に、ポリプロピレンからなる島成分が61個存在する海島型複合未延伸繊維を複合紡糸法により紡糸し、延伸して製造した海島型複合延伸繊維を、アルカリ水溶液中に120分間浸漬し、海成分であるポリエチレンテレフタレートを抽出除去した後、裁断して、長さ方向における繊維径がほぼ同じポリプロピレン極細繊維(繊維径:2.0μm、繊維長3mm、融点:168℃、横断面形状:円形)を作製した。このポリプロピレン極細繊維は、フィブリル化しておらず、延伸されており、各繊維が同じ繊維径を有していた。
次いで、前記芯鞘型複合繊維を60mass%と、前記極細繊維40mass%を混合し、湿式抄造法により繊維ウエブを調製した。
その後、前記繊維ウエブを温度140℃の熱風で10秒間処理した後、40℃のカレンダーロールに供すると共に、繊維ウエブにかけるロール圧を調整して、芯鞘型複合繊維の鞘成分のみが融着した不織布(目付:13g/m、厚さ:50μm)を調製した。なお、不織布は繊維のみから構成されていた。
更に、調製した不織布をプラズマ処理に供することで、親水化処理した不織布(目付:13g/m、厚さ:50μm)を調製した。
【0069】
(混合液Aの調製)
混合液の成分として酸化ジルコニウム粒子A29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Aを調製した。なお、混合液A中で酸化ジルコニウム粒子Aは、凝集することなく均一に分散した。
【0070】
(混合液Aの不織布への付与及び乾燥)
酸化ジルコニウム粒子Aの質量が12g/mになるように、グラビアロールを用いたキスコータ法を用いて、親水化処理した不織布の一方の主面全体に混合液Aを塗布した。
その後、混合液Aが塗布された親水化処理した不織布を、遠赤外線ヒータを備えた乾燥機に供することで、親水化処理した不織布に塗布された混合液Aから水を除去して、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子Aの割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化ジルコニウム粒子Aが前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化ジルコニウム粒子Aの層は存在していなかった。
【0071】
(実施例2)
まず、実施例1と同じ親水化処理した不織布を準備した。
【0072】
(混合液Bの調製)
次に、混合液の成分として酸化ジルコニウム粒子B29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Bを調製した。なお、混合液B中で酸化ジルコニウム粒子Bは、凝集することなく均一に分散した。
【0073】
(混合液Bの不織布への付与及び乾燥)
酸化ジルコニウム粒子Bの質量が12g/mとなるように、親水化処理した不織布に混合液Bを塗布したことを除いては、実施例1と同様の方法で混合液の塗布及び乾燥を行い、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子Bの割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化ジルコニウム粒子Bが前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化ジルコニウム粒子Bの層は存在していなかった。
【0074】
(比較例1)
まず、実施例1と同じ親水化処理した不織布を準備した。
【0075】
(混合液Cの調製)
次に、混合液の成分として酸化ジルコニウム粒子C29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Cを調製した。なお、混合液C中で酸化ジルコニウム粒子Cは、凝集することなく均一に分散した。
【0076】
(混合液Cの不織布への付与及び乾燥)
酸化ジルコニウム粒子Cの質量が12g/mとなるように、親水化処理した不織布に混合液Cを塗布したことを除いては、実施例1と同様の方法で混合液の塗布及び乾燥を行い、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子Cの割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化ジルコニウム粒子Cが前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化ジルコニウム粒子Cの層は存在していなかった。
【0077】
(比較例2)
まず、実施例1と同じ親水化処理した不織布を準備した。
【0078】
(混合液Dの調製)
次に、混合液の成分として酸化ジルコニウム粒子D29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Dを調製した。なお、混合液D中で酸化ジルコニウム粒子Dは、凝集することなく均一に分散した。
【0079】
(混合液Dの不織布への付与及び乾燥)
酸化ジルコニウム粒子Dの質量が12g/mとなるように、親水化処理した不織布に混合液Dを塗布したことを除いては、実施例1と同様の方法で混合液の塗布及び乾燥を行い、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子Dの割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化ジルコニウム粒子Dが前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化ジルコニウム粒子Dの層は存在していなかった。
【0080】
(比較例3)
まず、実施例1と同じ親水化処理した不織布を準備した。
【0081】
(混合液Eの調製)
次に、混合液の成分として酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Eを調製した。なお、混合液E中で酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子は、凝集することなく均一に分散した。
【0082】
(混合液Eの不織布への付与及び乾燥)
酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子の質量が12g/mとなるように、親水化処理した不織布に混合液Eを塗布したことを除いては、実施例1と同様の方法で混合液の塗布及び乾燥を行い、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子の割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子が前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化イットリウム含有酸化ジルコニウム粒子の層は存在していなかった。
【0083】
(比較例4)
まず、実施例1と同じ親水化処理した不織布を準備した。
【0084】
(混合液Fの調製)
次に、混合液の成分として酸化イットリウム粒子29.9mass%、アクリル系樹脂0.1mass%と、水70mass%を混合して、固形分濃度30mass%の混合液Fを調製した。なお、混合液F中で酸化イットリウム粒子は、凝集することなく均一に分散した。
【0085】
(混合液Fの不織布への付与及び乾燥)
酸化イットリウム粒子の質量が12g/mとなるように、親水化処理した不織布に混合液Fを塗布したことを除いては、実施例1と同様の方法で混合液の塗布及び乾燥を行い、セパレータ(目付:25g/m、厚さ:50μm、セパレータにおける酸化イットリウム粒子の割合:48mass%)を調製した。なお、前記セパレータは、酸化イットリウム粒子が前記不織布の表面及び空隙中に存在し、前記不織布の表面に酸化イットリウム粒子の層は存在していなかった。
【0086】
表2に、実施例及び比較例のセパレータが含有する無機粒子、セパレータの目付、セパレータにおける無機粒子の含有量(無機粒子含有量)、セパレータの厚さ、セパレータにおける酸化ジルコニウム粒子または酸化イットリウム粒子の割合(無機粒子含有割合)を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
次いで、実施例及び比較例のセパレータのX線回折測定における最も強度が高いピーク位置(X線回折測定ピーク位置)及び最も強度が高いピークの半値幅(X線回折測定ピーク半値幅)を上述の方法により測定し、KOH水溶液滴下吸収時間、加圧保液率及び電気抵抗を以下の(KOH水溶液滴下吸収時間の測定)、(加圧保液率の測定)及び(電気抵抗の測定)により測定し、評価した。
【0089】
(KOH水溶液滴下吸収時間の測定)
(1)各セパレータから5cm角の試験片を5枚採取した。
(2)20℃の密度1.3g/cmの水酸化カリウム(KOH)水溶液30μlを試験片に滴下し、完全に吸収されるまでの時間を測定した。
(3)(2)の測定を試験片1枚ごとに計5回行い、その平均値をKOH水溶液滴下吸収時間とした。なお、5回の測定のうち1回でもKOH水溶液の吸収に300秒以上かかった場合、KOH水溶液滴下吸収時間は300秒以上とした。
(加圧保液率の測定)
【0090】
(1)各セパレータから5cm角の試験片を3枚採取し、それぞれ質量(a(単位:g))を測定した。
(2)各試験片を電解液(20℃の密度1.3g/cmの水酸化カリウム水溶液)に浸漬し、試験片内の空隙を電解液で満たした。
(3)試験片の両面ともに、3枚のろ紙(型番:ADVANTEC-TYPE2)で試験片を挟み、1.23MPaの圧力で圧縮し、前記ろ紙で電解液を吸い取った。
(4)電解液を吸い取った試験片の質量(b(単位:g))をそれぞれ測定し、次の式により加圧保液率R(%)を算出した。この測定を試験片1枚ごとに計3回行い、その平均値を加圧保液率とした。
R=[(b-a)/a]×100
【0091】
(電気抵抗の測定)
(1)各セパレータから5cm角の試験片を3枚採取し、それぞれ質量を測定した。
(2)20℃の密度1.3g/cmの水酸化カリウム水溶液を各試験片の質量に対し50mass%分吸収させた後、35mm角のニッケル板で各試験片を挟み、49N荷重時における電気抵抗(Ω)を測定した。この測定を試験片1枚ごとに計3回行い、その平均値を電気抵抗とした。
【0092】
以下の表3に、実施例及び比較例のセパレータの測定による評価結果を示す。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例と比較例の比較から、本発明の構成を満たすセパレータは、KOH滴下吸収時間が短く濡れやすいセパレータであり、また、加圧保液率が高く、かつ電気抵抗が低い、電解液保持性に優れたセパレータであった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電解液を用いる一次電池や、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池などのアルカリ二次電池のセパレータに好適に使用することができる。