(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095018
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 515
H01G4/30 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210664
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】山根 麻衣子
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD02
5E001AE04
5E001AH01
5E001AH04
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC19
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG25
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG28
5E082PP08
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】サイドマージン部による保護効果が損なわれにくい積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】積層セラミック電子部品は、積層体と、一対のサイドマージン部と、を具備する。上記積層体は、第1軸方向に積層された複数の内部電極と、上記第1軸と直交する第2軸に垂直であり、上記複数の内部電極の上記第2軸方向の端部が上記第2軸方向に0.5μm以内に揃って位置する一対の側面と、を有する。上記一対のサイドマージン部は、セラミックスの多結晶体を主成分とし、上記多結晶体中に分散され、上記多結晶体に対する合計体積率が1%以上20%以下である複数のガラス粒子を含み、上記一対の側面を被覆する。上記複数のガラス粒子のメディアン径は、0.20μm以上0.75μm未満であり、かつ上記多結晶体を構成する複数の結晶粒子のメディアン径の90%以上である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に積層された複数の内部電極と、前記第1軸と直交する第2軸に垂直であり、前記複数の内部電極の前記第2軸方向の端部が前記第2軸方向に0.5μm以内に揃って位置する一対の側面と、を有する積層体と、
セラミックスの多結晶体を主成分とし、前記多結晶体中に分散され、前記多結晶体に対する合計体積率が1%以上20%以下である複数のガラス粒子を含み、前記一対の側面を被覆する一対のサイドマージン部と、
を具備し、
前記複数のガラス粒子のメディアン径は、0.20μm以上0.75μm未満であり、かつ前記多結晶体を構成する複数の結晶粒子のメディアン径の90%以上である
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記一対のサイドマージン部の断面では、格子状に区画された1μm2の複数の領域それぞれに観察されるガラス粒子の平均個数が1個以上2個以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記一対のサイドマージン部の前記第2軸方向の寸法が20μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記多結晶体は、バリウム及びチタンを含むペロブスカイト構造である
積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部が後付けされる積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造過程においてサイドマージン部を後付けする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、薄いサイドマージン部によっても複数の内部電極の両測端部を確実に被覆することができるため、積層セラミックコンデンサの小型化及び大容量化に有利である。
【0003】
一例として、特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法では、内部電極が印刷されたセラミックシートを積層した積層シートを切断し、内部電極が露出した切断面を側面とする複数の積層体を作製する。そして、積層体の側面でセラミックシートを打ち抜くことにより、積層体の両側面にサイドマージン部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サイドマージン部が薄く形成された積層セラミックコンデンサでは、サイドマージン部の外面から発生したクラックが積層体の側面まで進展しやすくなる。これにより、積層セラミックコンデンサでは、水分がサイドマージン部を貫通したクラックを介して積層体の側面に侵入することで絶縁不良が発生しやすくなる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、サイドマージン部による保護効果が損なわれにくい積層セラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、積層体と、一対のサイドマージン部と、を具備する。
上記積層体は、第1軸方向に積層された複数の内部電極と、上記第1軸と直交する第2軸に垂直であり、上記複数の内部電極の上記第2軸方向の端部が上記第2軸方向に0.5μm以内に揃って位置する一対の側面と、を有する。
上記一対のサイドマージン部は、セラミックスの多結晶体を主成分とし、上記多結晶体中に分散され、上記多結晶体に対する合計体積率が1%以上20%以下である複数のガラス粒子を含み、上記一対の側面を被覆する。
上記複数のガラス粒子のメディアン径は、0.20μm以上0.75μm未満であり、かつ上記多結晶体を構成する複数の結晶粒子のメディアン径の90%以上である。
【0008】
この構成では、サイドマージン部において多結晶体を構成する結晶粒子と同等以上の大きさのガラス粒子が多結晶体に分散されていることで、サイドマージン部に発生したクラックの進展がガラス粒子によって阻まれやすくなる。これにより、サイドマージン部では、大きいクラックが発生しにくくなるため、積層体の側面を保護する効果が損なわれにくい。
【0009】
上記一対のサイドマージン部の断面では、格子状に区画された1μm2の複数の領域それぞれに観察されるガラス粒子の平均個数が1個以上2個以下であってもよい。
上記一対のサイドマージン部の上記第2軸方向の寸法が20μm以下であってもよい。
上記多結晶体は、バリウム及びチタンを含むペロブスカイト構造であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明によれば、サイドマージン部による保護効果が損なわれにくい積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサのサイドマージン部の微細組織を模式的に示す部分断面図である。
【
図5】比較例に係るサイドマージン部の微細組織を模式的に示す部分断面図である。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサのサイドマージン部におけるガラス粒子の分布状態を模式的に示す部分断面図である。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサのサイドマージン部におけるガラス粒子の分布状態を模式的に示す部分断面図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図9】上記製造方法のステップS01で準備される未焼成の積層体の斜視図である。
【
図10】上記製造方法のステップS02で得られる未焼成のセラミック素体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10について説明する。なお、図面には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、積層セラミックコンデンサ10に対して固定された固定座標系を規定する。
【0013】
[積層セラミックコンデンサ10の構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0014】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、X軸と直交する一対の端面と、Y軸と直交する一対の側面と、Z軸と直交する一対の主面と、を有する6面体として構成される。外部電極14,15は、セラミック素体11の一対の端面を被覆している。
【0015】
セラミック素体11の一対の端面、一対の側面、及び一対の主面はいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0016】
外部電極14,15は、セラミック素体11を挟んで相互にX軸方向に対向している。外部電極14,15はそれぞれ、セラミック素体11の各端面から主面及び側面に延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0017】
なお、外部電極14,15の形状は、
図1に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0018】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。なお、本実施形態で主成分とは最も含有比率の高い成分を言うものとする。
【0019】
セラミック素体11は、積層体16と、一対のサイドマージン部17と、を有する。積層体16は、セラミック素体11の一対の主面及び一対の端面を構成し、Y軸に垂直な一対の側面Fを有する。一対のサイドマージン部17はそれぞれ、積層体16の一対の側面Fを被覆し、セラミック素体11の一対の側面を構成する。
【0020】
積層体16は、X-Y平面に沿って延びる平板状の複数のセラミック層がZ軸方向に積層された構成を有する。積層体16は、容量形成部18と、一対のカバー部19と、を有する。一対のカバー部19は、容量形成部18をZ軸方向上下から被覆しており、セラミック素体11の一対の主面を構成している。
【0021】
容量形成部18は、複数のセラミック層の間に配置され、X-Y平面に沿って延びるシート状の複数の第1及び第2内部電極12,13を有する。内部電極12,13は、Z軸方向に沿って交互に配置されている。つまり、容量形成部18では、内部電極12,13がセラミック層を挟んでZ軸方向に対向している。
【0022】
第1内部電極12は、第1外部電極14に覆われた端面に引き出されている。一方、第2内部電極13は第2外部電極15に覆われた端面に引き出されている。これにより、第1内部電極12は第1外部電極14のみに接続され、第2内部電極13は第2外部電極15のみに接続されている。
【0023】
内部電極12,13は、容量形成部18のY軸方向の全幅にわたって形成され、そのY軸方向の両端部が積層体16の両側面F上に位置している。これにより、セラミック素体11では、複数の内部電極12,13のY軸方向の端部の位置が積層体16の両側面F上においてY軸方向に0.5μm以内の範囲で揃っている。
【0024】
内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0025】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0026】
積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11では、容量形成部18を構成する複数のセラミック層、一対のカバー部19、及び一対のサイドマージン部17がいずれも誘電体セラミックスの多結晶体を主成分としている。セラミック素体11では、上記のいずれの部分を構成するセラミックスも同一の組成系であることが好ましい。
【0027】
セラミック素体11では、容量形成部18の各セラミック層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0028】
なお、セラミック層は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、酸化チタン(TiO2)などの組成系で構成してもよい。
【0029】
また、セラミック素体11では、サイドマージン部17が複数のガラス粒子Gを含む。ガラス粒子Gは、主に非晶質で構成された粒子であり、典型的にはシリコン(Si)を主成分として含有する。なお、セラミック素体11では、積層体16にもサイドマージン部17よりも少量のガラス粒子Gが含まれていてもよい。
【0030】
図4は、サイドマージン部17の微細組織を模式的に示す部分断面図である。
図4には、多結晶体を構成する複数の結晶粒子Cが低密度のドットパターンで示され、ガラス粒子Gが高密度のドットパターンで示されている。サイドマージン部17は、ガラス粒子Gが結晶粒子Cと比較して同等以上に大きい特徴的な微細組織を有する。
【0031】
図4には、サイドマージン部17に発生したクラックが太矢印で示す方向に進展しようとしている状態が示されている。
図4に示すクラックの進展経路には、ガラス粒子Gが存在する。したがって、
図4に示す状態では、クラックの進展の推進力となるエネルギがガラス粒子Gに対して加わる。
【0032】
粘性の高いガラス粒子Gは、クラックから加わるエネルギを吸収する作用を有する。特に、サイドマージン部17では、ガラス粒子Gが大きいため、クラックから加わるエネルギを充分に吸収することができる。このため、サイドマージン部17では、クラックがガラス粒子Gにおいて推進力を失うことでクラックの進展が止まる。
【0033】
図5は、本実施形態の比較例に係るサイドマージン部17aの微細組織を模式的に示す部分断面図である。サイドマージン部17aでは、本実施形態に係るサイドマージン部17とは異なり、結晶粒子Cに比べてガラス粒子Gが大幅に小さく、ガラス粒子Gが結晶粒子Cの結晶粒界ないし粒界三重点に存在する。
【0034】
サイドマージン部17aでは、小さいガラス粒子Gによってクラックから加わるエネルギを充分に吸収することができず、ガラス粒子Gを介してその周囲の結晶粒子C及び結晶粒界にエネルギが加わる。これにより、サイドマージン部17aでは、クラックの進展がガラス粒子Gで止まらずに、クラックがガラス粒子Gを超えて進展しやすい。
【0035】
このように、本実施形態に係るサイドマージン部17では、ガラス粒子Gが結晶粒子Cと同等以上の大きさを有する構成によって、比較例に係るサイドマージン部17aとは異なり、ガラス粒子Gによるクラックの進展を止める作用が有効に得られる。これにより、サイドマージン部17では、大きいクラックの発生を抑制することができる。
【0036】
サイドマージン部17では、ガラス粒子Gのメディアン径が0.20μm以上であり、かつ多結晶体を構成する結晶粒子Cのメディアン径の90%以上であることが必要である。これにより、サイドマージン部17では、ガラス粒子Gによってクラックの持つエネルギを吸収する作用を充分に得ることができる。
【0037】
メディアン径は、断面における所定の視野内に存在する粒子の粒径の中央値として定義され、例えば、サイドマージン部17の断面における30μm×40μmの矩形の視野において求めることができる。各粒子の粒径は、当該粒子の断面と面積が等しくなる円の直径として算出される円相当径として得ることができる。
【0038】
なお、サイドマージン部17では、ガラス粒子Gが大きすぎると、柔軟性が高くなりすぎることで製造過程において外面の平坦性が損なわれるなど正常な形状を保つことが難しくなる。このため、サイドマージン部17では、ガラス粒子Gのメディアン径を0.75μm未満に留めることが好ましい。
【0039】
更に、本実施形態に係るサイドマージン部17では、充分な量のガラス粒子Gを多結晶体中に均一に分散させることで、クラックの進展経路にガラス粒子Gが存在する確率を各段に高めることができる。これにより、サイドマージン部17に発生したクラックの進展をガラス粒子Gによってより確実に阻むことができる。
【0040】
特に、サイドマージン部17では、外面から発生したクラックがY軸方向に貫通することで積層体16の側面Fまで到達することを防止することができる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、水分がサイドマージン部17のクラックを介して積層体16の側面Fに侵入することによる絶縁不良の発生を防止することができる。
【0041】
積層セラミックコンデンサ10では、Y軸方向の寸法が小さいサイドマージン部17ほどY軸方向に貫通するクラックが発生しやすい。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17のY軸方向の寸法が20μm以下の構成において、絶縁不良の発生を防止する効果がより有効に得られる。
【0042】
具体的に、本実施形態に係るサイドマージン部17では、多結晶体の存在する部分の合計体積に対するガラス粒子Gが存在する部分の合計体積の割合(合計体積率)が1%以上であることが必要である。これにより、サイドマージン部17では、クラックの進展経路にガラス粒子Gが存在する確率を充分に高めることができる。
【0043】
サイドマージン部17における多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率は、サイドマージン部17の断面における所定の視野内に存在するガラス粒子Gの粒径から推測することができ、例えば、サイドマージン部17の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって30μm×40μmの矩形の視野を撮像した写真において求めることができる。
【0044】
具体的に、サイドマージン部17の断面写真から、最大径が0.05μm以上のガラス粒子Gそれぞれについて測定した面積を用いて各ガラス粒子Gの直径を円相当径として算出し、得られた直径から各ガラス粒子Gの球体相当の体積を算出する。これにより、ガラス粒子Gの平均体積が得られる。次に、面積が1μm2の正方形の領域中のガラス粒子Gの個数からサイドマージン部17全体におけるガラス粒子Gの個数を概算で得ることができる。これにより、ガラス粒子Gについて平均体積と個数とを積算することで合計体積が求められる。そして、ガラス粒子Gの合計体積率は、サイドマージン部17の全体積からガラス粒子Gの合計体積を引いて得られる多結晶体の体積に対するガラス粒子Gの合計体積の比率として求めることができる。
【0045】
なお、サイドマージン部17では、多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率が大きすぎると、柔軟性が高くなりすぎることで製造過程において外面の平坦性が損なわれるなど正常な形状を保つことが難しくなる。このため、サイドマージン部17では、多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積の割合は20%以下に留めることが好ましい。
【0046】
図6,7は、サイドマージン部17におけるガラス粒子Gの存在する頻度の評価方法を説明するための図である。
図6には、サイドマージン部17の断面上に格子状に区画された複数の正方形の領域Rが示されている。各領域Rの面積は1μm
2である。複数の領域Rは、例えば、4行7列に配列することができる。
【0047】
図7には、
図6と同様の視野において各領域Rで観察されるガラス粒子Gの個数が示されている。なお、各領域Rでは、ガラス粒子Gの一部のみが観察される場合にも1個としてカウントするものとする。本実施形態では、サイドマージン部17におけるガラス粒子Gの存在する頻度を複数の領域Rにおけるガラス粒子Gの平均個数で評価する。
【0048】
具体的に、本実施形態に係るサイドマージン部17では、配列されたすべての領域Rにおけるガラス粒子Gの平均個数が1μm2あたり1個以上2個以下であることが好ましい。また、サイドマージン部17では、配列されたすべての領域Rのガラス粒子Gの1μm2あたりの個数の標準偏差が0.30以下であることが好ましい。
【0049】
これにより、サイドマージン部17では、結晶粒子Cで構成される多結晶体中において、ガラス粒子Gの高い分散性が得られ、ガラス粒子Gの存在する頻度が適切な構成となる。このため、サイドマージン部17では、ガラス粒子Gによる柔軟性の上昇を抑えつつ、クラックの進展経路にガラス粒子Gが存在する確率を充分に高めることができる。
【0050】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図8は、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図9,10は積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図8に沿って、
図9,10を適宜参照しながら説明する。
【0051】
(ステップS01:積層体準備)
ステップS01では、
図9に示す未焼成の積層体16を準備する。未焼成の積層体16は、大判の複数のセラミックシートがZ軸方向に積層された積層シートを用いて作製することができる。容量形成部18に対応するセラミックシートには内部電極12,13を形成するための導電性ペーストがパターニングされる。
【0052】
未焼成の積層体16は、上記の積層シートをX-Z平面及びY-Z平面に沿って切り分けることで得られる。積層シートの切断には、例えば、押し切り刃や回転刃などを備えた切断装置を用いることができる。これにより、積層体16では、内部電極12,13のY軸方向の両端部が揃って位置する切断面として一対の側面Fが得られる。
【0053】
(ステップS02:サイドマージン部形成)
ステップS02では、ステップS01で作製した未焼成の積層体16の一対の側面Fにそれぞれ未焼成の一対のサイドマージン部17を設ける。これにより、
図6に示すように、未焼成のサイドマージン部17によって一対の側面が構成される未焼成のセラミック素体11が得られる。
【0054】
未焼成のサイドマージン部17には、ガラス粒子Gを形成するための添加剤が混合されたセラミックスラリーを用いることができる。セラミックスラリーに添加する添加剤の量によって、焼成後のサイドマージン部17における多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率を制御することができる。
【0055】
セラミックスラリーに添加する添加剤としては、例えば、ガラス粉末やガラスフリットを用いることができる。セラミックスラリーに添加する添加剤として用いるガラス粉末やガラスフリットの粒径によって、焼成後のサイドマージン部17におけるガラス粒子Gの粒径を調整することが可能である。
【0056】
サイドマージン部17は、任意の方法で形成可能である。サイドマージン部17は、例えば、セラミックスラリーをシート状に成形したセラミックシートを用いて形成することができる。この場合、セラミックシートは、例えば、積層体16の側面Fで打ち抜くことや、予め切断して積層体16の側面Fに貼り付けることができる。
【0057】
また、サイドマージン部17を形成するために、予めシート状に成形されたセラミックシートではなく、成形されていないセラミックスラリーをそのまま用いることもできる。この場合、セラミックスラリーは、例えば、積層体16の側面Fを浸漬させることで、積層体16の側面Fに塗布することができる。
【0058】
(ステップS03:焼成)
ステップS03では、ステップS02で得られたセラミック素体11を焼成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。ステップS03では、例えば焼成温度によって、焼成後のサイドマージン部17におけるガラス粒子Gの粒径やガラス粒子Gの分散性を調整することができる。
【0059】
例えば、表1には、共通の構成の未焼成のセラミック素体11について焼成温度を変化させた場合の、焼成後のサイドマージン部17における結晶粒子C及びガラス粒子Gのメディアン径、結晶粒子Cに対するガラス粒子Gのメディアン径の比率、並びに複数の領域Rにおけるガラス粒子Gの1μm2あたりの平均個数が示されている。
【0060】
【0061】
表1に示すとおり、焼成温度を変化させることによって、焼成後のサイドマージン部17における、結晶粒子C及びガラス粒子Gのメディアン径と、結晶粒子Cに対するガラス粒子Gのメディアン径の比率と、複数の領域Rにおけるガラス粒子Gの1μm2あたりの平均個数と、をそれぞれ異ならせることができることがわかる。
【0062】
(ステップS04:外部電極形成)
ステップS04では、ステップS03で焼成されたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。ステップS04における外部電極14,15の形成方法は、公知の方法から任意に選択可能である。
【0063】
以上により、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10が完成する。この製造方法では、内部電極12,13が露出した積層体16の側面Fにサイドマージン部17が形成されるため、セラミック素体11における複数の内部電極12,13のY軸方向の端部の位置が、Y軸方向に0.5μm以内の範囲で揃う。
【0064】
[実施例及び比較例]
上記実施形態の実施例及び比較例として、サイドマージン部の構成が異なる積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。実施例1~3及び比較例1~5に係るサンプルのサイズはいずれも、X軸方向の寸法が0.6mmで、Y軸方向の寸法が0.3mmで、Z軸方向の寸法が0.3mmである0603サイズとした。
【0065】
実施例1~3及び比較例1~5について作製したサンプルのサイドマージン部について、結晶粒子C及びガラス粒子Gのメディアン径と、結晶粒子Cに対するガラス粒子Gのメディアン径の比率と、多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率と、複数の領域Rにおけるガラス粒子Gの平均個数と、を求めた。表2は、この結果を示している。
【0066】
【0067】
実施例1~3はいずれも、上記実施形態の構成である。一方、比較例1,2は結晶粒子Cに対するガラス粒子Gのメディアン径の比率が90%未満であり、比較例1,3は多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率が1%未満であり、比較例4,5は多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率が20%を超える点で、それぞれ上記実施形態の構成と異なる。
【0068】
実施例1~3及び比較例1~5に係るサンプルについてそれぞれ、外観及び絶縁不良率の評価を行った。外観については、各実施例及び比較例に係るサンプルについてサイドマージン部の形状が正常であるか否かを目視にて観察し、正常であるサンプルを「A」と評価し、正常でないサンプルを「B」と評価した。
【0069】
絶縁不良率の評価では、各実施例及び比較例に係るサンプル各100個について、温度85℃、湿度85%の環境で100時間保持する耐湿試験を行った。そして、各実施例及び比較例について、100個のサンプルのうち耐湿試験後の絶縁抵抗が1MΩ未満となったサンプルの比率を絶縁不良率とした。表3は、これらの結果を示している。
【0070】
【0071】
表3に示すように、実施例1~3に係るサンプルではいずれも、外観の評価が「A」となり、正常な形状のサイドマージン部が得られた。また、実施例1~3ではいずれも、絶縁不良率が0%であり、つまり耐湿試験後に絶縁抵抗が1MΩ未満となるサンプルが1つも発生しなかった。
【0072】
これに対し、比較例1~3ではいずれも、耐湿試験後に絶縁抵抗が1MΩ未満となるサンプルが多く発生した。これは、比較例1~3では、結晶粒子Cに対するガラス粒子Gのメディアン径の比率や、多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率が小さいことで、ガラス粒子Gによる作用が充分に得られなったためと考えられる。
【0073】
また、比較例4,5ではいずれも、外観の評価が「B」となり、正常な形状のサイドマージン部が得られなかった。これは、多結晶体に対するガラス粒子Gの合計体積率が20%を超える比較例4,5に係るサンプルでは、サイドマージン部の柔軟性が高すぎることで正常な形状を保つことができなかったためと考えられる。
【0074】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0075】
例えば、上記実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ10について説明したが、本発明は積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0076】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
16…積層体
17…サイドマージン部
18…容量形成部
19…カバー部
F…積層体の側面
C…結晶粒子
G…ガラス粒子