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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095096
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】酵素制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210780
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】筒井 葉月
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直樹
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA01
4C082PA02
4C082PA03
4C082PC01
4C082PE10
4C082PJ11
4C082PJ21
4C082PL10
(57)【要約】
【課題】ほうれい線や小じわの改善効果に寄与するコラーゲン量を増加させるため、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御する。
【解決手段】皮膚を伸展しながら、波長が360~830nmの光を、皮膚表面に到達する前記光のエネルギー積算量が1.7~13.3J/cmとなるように照射して、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を伸展しながら光を照射することにより、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することを特徴とする酵素制御方法。
【請求項2】
前記光の波長が360~830nmである、請求項1に記載の酵素制御方法。
【請求項3】
皮膚表面に到達する前記光のエネルギー積算量が1.7~13.3J/cmである、請求項1又は2に記載の酵素制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素制御方法に関する。更に詳しくは、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来皮膚の美容のために、様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1では、マスクの内側に装着したパッドで、皮膚を押しあげることが提案されている。また、特許文献2では、高酸素状態の条件下で皮膚に光を照射することが提案されている。
また、非特許文献1では、皮膚におけるコラーゲン量を増加させるため、皮膚に物理的刺激を与えることにより、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することが試みられている。コラーゲンは、真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-29973号公報
【特許文献2】特開2016-220754号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本化粧品技術者会誌別刷第55巻第1号、p.10-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの方法も、効果を充分に実感できるものではなかった。そこで、本発明では、ほうれい線や小じわの改善効果に寄与するコラーゲン量を増加させるため、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]皮膚を伸展しながら光を照射することにより、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することを特徴とする酵素制御方法。
[2]前記光の波長が360~830nmである、[1]に記載の酵素制御方法。
[3]皮膚表面に到達する前記光のエネルギー積算量が1.7~13.3J/cmである、[1]又は[2]に記載の酵素制御方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酵素制御方法によれば、シワの軽減効果に寄与するコラーゲン量を増加させる酵素を活性化させると共に、コラーゲンを分解する酵素の働きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に用いる刺激具の一例を示す上面図である。
図2図1の刺激具の側面図である。
図3図1の刺激具を口内に装着した状況の説明図である。
図4図1の刺激具を口内に装着して口を閉じた状況の説明図である。
図5】本発明に用いる刺激具の他の一例を示す斜視図である。
図6図5の刺激具を顔に装着した状況の説明図である。
図7】本発明に用いる刺激具の他の一例を示す斜視図である。
図8図7の刺激具における刺激板の一例を示す上面図である。
図9図8のIII-III断面図である。
図10図7の刺激具を顔に装着するためのマスクの一例を示す平面図である。
図11図10のマスクを用いて、図7の刺激具を顔に装着した状況の説明図である。
図12図7の刺激具を顔に装着するためのマスクの他の一例を示す平面図である。
図13図12のマスクを用いて、図7の刺激具を顔に装着した状況の説明図である。
図14】実験例1の結果を示す図である。
図15】実験例2の結果を示す図である。
図16】実験例3のCOL1(I型コラーゲン合成酵素)の遺伝子発現レベルに関する結果を示す図である。
図17】実験例3のMMP1(コラーゲン分解酵素)の遺伝子発現レベルに関する結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酵素制御方法は、皮膚を伸展しながら光を照射することにより、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御する方法である。
皮膚を伸展しながら照射する光の波長は、360~830nmとすることが好ましく、600~680nmとすることがより好ましい。光の波長が好ましい範囲であれば、コラーゲン量の変化に関与する酵素の働きに充分に影響を与えることができる。
【0010】
真皮層に到達する光のエネルギーは、0.5~4J/cmであることが好ましく、1~2J/cmであることがより好ましい。本発明者等が調べたところ、効率的にコラーゲン濃度を増加させる観点でこの範囲のエネルギー量が好ましいことがわかった。
また、皮膚表面に到達した波長360~830nmの光は、その約30%が真皮層に到達すると推定される(日本画像学会誌第56巻第5号466(2017))。
【0011】
したがって、皮膚表面に到達する光のエネルギー積算量は、1.7~13.3J/cmであることが好ましく、3.3~6.7J/cmであることがより好ましい。
皮膚表面に到達する光のエネルギー積算量が1.7J/cm以上であれば、真皮層には約0.5(1.7×0.3)J/cm以上到達すると見込まれる。また、皮膚表面に到達する光のエネルギー積算量が13.3J/cm以下であれば、真皮層には約4.0(13.3×0.3)J/cm以下到達すると見込まれる。
【0012】
光のエネルギー積算量は、光の放射照度と照射時間との積として求められる。
皮膚表面に到達する光の放射照度は、10~600W/mであることが好ましく、20~100W/mであることがより好ましい。
皮膚表面に到達する光の放射照度が好ましい範囲の下限値以上であれば、迅速に、皮膚表面に到達する光のエネルギー積算量を、所望の積算量まで高めることができる。皮膚表面に到達する光の放射照度が好ましい範囲の上限値以下であれば、皮膚に過度の刺激を与えることを回避できる。
光の照射時間は、放射照度に合わせて、エネルギー積算量が所望の範囲となるように適宜設定すればよい。
【0013】
本発明の方法は、例えば、光を照射しつつ皮膚を伸展させる各種刺激具によって行うことができる。刺激具の具体例については、後述する。
皮膚の伸展方法は、皮膚の細胞を伸展させることができれば、後述の各種刺激具を用いた方法には限定されない。伸展の程度は、1.1~2倍とすることが好ましい。また、伸展後、元の状態に戻すことをくり返すことも好ましい。
【0014】
コラーゲン量の変化に関与する酵素は、コラーゲンを産生してその量を増加させる酵素と、コラーゲンを分解して、その量を減少させる酵素に大別される。
本発明の方法によれば、コラーゲンを産生してその量を増加させる酵素を活性化させることができる。一方、コラーゲンを分解して、その量を減少させる酵素の働きを抑制することができる。
コラーゲンを産生してその量を増加させる酵素としては、COL1(I型コラーゲン合成酵素)、COL3(III型コラーゲン合成酵素)等が挙げられる。コラーゲンを分解して、その量を減少させる酵素としては、MMP1(マトリックスメタロプロテアーゼ)、MMP3等が挙げられる。
【0015】
[刺激具の第1態様]
第1態様の刺激具60は、図1図2に示すように、一対の刺激具本体61と、一対の刺激具本体61の間をつなぐ紐状弾性体62とを備えている。
刺激具本体61は、内部に、光源とこの光源に電力を供給する電池が収容されている。
【0016】
刺激具本体61は、皮膚に接触させる接触面61aが球面、接触面61aと反対側の背面61bが平坦面である略半球状とされている。
接触面61aの少なくとも一部は、透光性とされ、内部の光源からの光を、接触面61aが接触する皮膚に向けて照射できるようになっている。背面61bは遮光性とされており、図示を称略する電源スイッチが設けられている。
紐状弾性体62は、例えば、エチレンプロピレンゴムで構成することができる。
【0017】
図3は、刺激具60を口63内に装着した状態を、図4は、刺激具60を口63内に装着し、口63を閉じた状態を示す。
図3、4に示すように、刺激具60は、刺激具本体61が頬64の内側に接触するように、口63内に装着される。紐状弾性体62は、歯の内側に配置され、刺激具本体61が口63内を不用意に移動することを防止する役割を担っている。
【0018】
刺激具本体61の電源を入れ、図3に示すように刺激具60を装着し、図4に示すように口63を閉じると、頬64の内側が伸展されると共に、光が照射される。
そのため、伸展の刺激と光の刺激を同時に与えることができ、頬64の内側における真皮におけるコラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することができる。
【0019】
[刺激具の第2態様]
第2態様の刺激具70は、図5に示すように、一対の刺激具本体71と、一対の刺激具本体71の間に設けられる顎当て72と、一対の刺激具本体71の各々と顎当て72とをつなぐ一対の連結部73と、一対の刺激具本体71の各々に取り付けられた一対の耳掛けゴム74とを備えている。
刺激具本体71は、内部に、光源とこの光源に電力を供給する電池が収容されている。
【0020】
刺激具本体71は、皮膚に接触させる接触面が球面、接触面と反対側の背面が平坦面である略半球状とされている。
接触面の少なくとも一部は、透光性とされ、内部の光源からの光を、接触面が接触する皮膚に向けて照射できるようになっている。背面は遮光性とされており、図示を称略する電源スイッチが設けられている。
【0021】
顎当て72の顎75に当たる部分には、クッション性の高い部材を設けることが好ましい。連結部73と耳掛けゴム74の材質に特に限定はないが、皮膚に触れても不快感のない材質、例えば、ゴム紐等が好ましい。連結部73と耳掛けゴム74の長さは、刺激具70を装着した際に、刺激具本体71が頬77の外側に接するように調整されている。
【0022】
図6は、刺激具70を装着した状態を示す。図6に示すように、刺激具70は、顎当て72を顎75に当て、耳掛けゴム74を、両方の耳76にかけることにより、刺激具本体71の球面状の接触面が頬77に接触するように装着される。
【0023】
刺激具本体71の電源を入れ、図6に示すように装着すると、頬77の外側が伸展されると共に、光が照射される。
そのため、伸展の刺激と光の刺激を同時に与えることができ、頬77の内側における真皮におけるコラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することができる。
【0024】
[刺激具の第3態様]
第3態様の刺激具10は、図7に示すように、電源部11と一対のリード線12と、一対のリード線12により電源部11に接続された一対の刺激板13とを備えている。刺激板13は、刺激具本体として機能する。刺激具10において、リード線12は、刺激板13に電源部11から電力を供給するリード線本来の役割の他、刺激板13を操作するための把持部としても機能する。
【0025】
図8図9は、刺激板13の一具体例を示す。図9は、図8のIII-III断面図である。図8図9に示す刺激板13は、基板14の一面に光照射部15が設けられ、全体がカバーシート16により覆われた構造とされている。光照射部15は、リード線12により、電源部11に接続されている。
光照射部15の光源としては、有機発光ダイオード(有機LED)、又は無機発光ダイオード(無機LED)が、刺激板の大きさを所望の範囲に抑えやすいため好ましい。
【0026】
カバーシート16は、例えばポリエチレンテレフタレート等の樹脂により構成することができる。カバーシート16を設けることにより、汗や水から刺激板を守ることができる。
なお、光照射部15とリード線12との接続部には、保護テープ17が巻かれている。保護テープ17の材質としてはポリウレタンを使用できる。
図8図9に示す刺激板13は、図9の図示下側が内側(顔側)となるようにして使用される。
【0027】
刺激板13の面積は、ほうれい線部に作用させる場合、1~65cmであることが好ましく、4~40cmであることがより好ましい。
刺激板13の厚みは、0.01~10mmであることが好ましく、0.5~5mmであることがより好ましい。
【0028】
電源部11の形状に特に限定はないが、図7ではヘッドホン型の例を示している。ヘッドホン型にすれば、使用者は頭部や首部に装着して自由に動き回ることができる。なお、電源部11は、カード型等、使用者の服のポケット等に収納可能な形状、大きさとすることも好ましい。
【0029】
使用者は、刺激板13の光照射部15を発光させつつ、刺激板13を手で顔に押し当てることによって、本発明の方法を実施することができる。しかし、刺激板13を、手で顔に押し当てる状態を継続させることは、使用者にとって負担である。
そこで、刺激板を顔に対して加圧することにより顔に固定するマスクを用いることが好ましい。
【0030】
マスクは、伸縮性を有するシート状基材を有し、シート状基材は、少なくとも、刺激板13の作用位置及びその近傍を覆って顔に固定されるものである。
マスクは伸縮性を有するシート状基材のみから構成されていてもよいし、シート状基材に加えて、シート状基材以外の部材を有していてもよい。
【0031】
マスクがシート状基材のみから構成されている場合、シート状基材は、それ自体で顔に固定できる形状であることが必要とされる。具体的には、シート状基材に耳掛け孔が形成されたものとすることが好ましい。
マスクのシート状基材がそれ自体で顔に固定できる形状とされていない場合は、例えば、耳掛けゴム、固定ベルト等を、シート状基材以外の部材として使用することができる。
【0032】
「伸縮性を有する」とは、下記の試験方法により測定される伸縮力が0.70cm以上であることをいう。伸縮力は、0.70~3.00cmが好ましく、0.90~2.22cmがより好ましく、1.10~2.22cmがさらに好ましい。
伸縮力が好ましい下限値以上であることにより、シート状基材が顔に密着しやすく、刺激板13に充分な圧力を付与して、所定の作用位置(例えば、ほうれい線部分)に固定しやすい。また、作用位置の皮膚に対して充分な圧迫刺激を付与しやすい。
伸縮力が好ましい上限値以下であることにより、装着時の顔に対する負担、特に耳掛け孔や耳掛けゴムによる耳への負担が少ない。
【0033】
伸縮力は、次のように測定できる。まず、シート状基材を縦5cm×幅2cmに切断して試験体とする。該試験体の一端に重り(300g)を吊るし、荷重を掛けて伸長させ、15分後の試験体の縦の長さ(A)を計測する。Aを計測後、試験体から重りを外し、5秒後に試験体の縦の長さ(B)を計測する。AとBとの値から、下記(1)式により伸縮力が求められる。
【0034】
伸縮力(cm)=A(cm)-B(cm) ・・・・(1)
【0035】
シート状基材としては、不織布、シリコンゴム、ウレタンシートなどが挙げられる。中でも、不織布は、適度な伸縮性を有すると共に、保水性を有し、後述する皮膚化粧料を充分量含浸できるので好ましい。
シート状基材として用いる不織布の種類は特に限定されないが、例えば、スパンボンド、メルトブロー、サーマルボンド、ケミカルボンド、スパンレース、ニードルパンチ等の公知の製造方法により得られる不織布が挙げられる。また、例えば、潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブをスパンレース法により繊維交絡処理に付し、交絡処理後の繊維ウェブを加熱により立体捲縮を発現させた不織布(以下、立体捲縮不織布という)が挙げられる。中でも、シート状基材としては、立体捲縮不織布が好ましい。立体捲縮不織布であれば、良好な伸縮性を得やすい。
【0036】
このような立体捲縮不織布としては、例えば、特開2008-285433号公報に記載されているものが挙げられ、市販品としてJP-95(ダイワボウポリテック株式会社製)等が挙げられる。なお、立体捲縮とは、スパイラル状の湾曲又はカール、及びスタッフィングボックス型クリンパー等によって付与され、捲縮の屈曲部分が変形して丸みを帯びるに至った部分を指す。
【0037】
不織布の材質は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルの単繊維又はポリエステルを含む複合繊維が挙げられる。複合繊維としては、ポリエステルと、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、レーヨン等の合成繊維、綿(コットン)、絹等の天然繊維との複合繊維が挙げられる。中でも、PETの単繊維又は複合繊維(以下、総じてPET系繊維という)が好ましい。PET系繊維であれば、良好な伸縮性と保水性を発揮し、より良好な美容効果が得られる。
このように、シート状基材を不織布、より好ましくはPET系繊維の不織布とすることで、良好な伸縮性を得やすい。
【0038】
シート状基材の目付は特に限定されないが、例えば、30~250g/mが好ましく、70~150g/mがより好ましい。
シート状基材の目付が好ましい下限値以上であることにより、充分な強度が得られ、装着時の取り扱いが良好となる。また、充分な弾力性が得られるため、良好な着け心地を得やすい。さらに、後述する皮膚化粧料を充分量含浸させやすい。
シート状基材の目付が好ましい上限値以下であることにより、厚くなりすぎず、装着する際に撚れやしわを発生させずに密着させることが容易となる。また、コストも抑制することができる。
【0039】
シート状基材の厚さは、シート状基材の材質や、使用性等を勘案して決定できる。例えば、シート状基材の厚さは、0.1~2.0mmが好ましく、0.2~1.0mmがより好ましい。上記範囲内であれば、必要な強度を維持しやすくなると共に、装着が容易である。
【0040】
(皮膚化粧料)
マスクのシート状基材には、皮膚化粧料が含浸されていてもよい。シート状基材に皮膚化粧料が含浸されていることで、角質層の保湿効果により、肌に潤いと張りを与えることができる。加えて、皮膚化粧料を含浸することで、シート状基材と肌との密着性が上がり、刺激板をより確実に所定の作用位置に固定できる。
皮膚化粧料は予めシート状基材に含浸されていてもよいし、使用時において、使用者が皮膚化粧料をシート状基材に含浸させるようにしてもよい。
【0041】
皮膚化粧料としては、例えば、美容液、化粧水(美白、紫外線防止も含む)、油性成分を含む乳化組成物(乳液)、クレンジング剤等が挙げられる。
皮膚化粧料の組成は、特に限定されないが、密着性を高める観点及び保湿効果を高める観点から、グリセリン、ジプロピレングリコール、1-3ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビット、プロピレングリコール等の多価アルコールを含むものが好ましい。
【0042】
皮膚化粧料中の多価アルコールの含有量は、皮膚化粧料に求める効果を勘案して決定することができるが、10~50質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましい。
多価アルコールの含有量が上記好ましい下限値以上であれば、充分なマスク密着性や保湿効果が得られ、使用者にほうれい線や小じわが薄くなった感覚を与えることができる。また、シート状基材と肌との密着性を高めやすい。
また、多価アルコールの含有量が上記好ましい上限値以下使用後の肌のべたつき感を抑制できる。
【0043】
皮膚化粧料は、マスクを構成するシート状基材全体に含浸されていてもよいし、シート状基材の一部に含浸されていてもよい。
シート状基材に耳掛け孔が形成されている場合、装着時の取り扱い性を良好とし、装用感の低下を防ぐ観点から、装着時に耳に触れる耳掛け孔周辺には、皮膚化粧料を含浸させない方が好ましい。
【0044】
刺激板13を作用させる所定の作用位置及びその周辺に接触する部分には、皮膚化粧料を含浸させることが好ましい。これにより、所定の作用位置及びその周辺に接触する部分のシート状基材が皮膚及び刺激板に対して密着し、刺激板を所定の作用位置により確実に固定しやすくなる。
また、所定の作用位置及びその周辺以外であっても、例えば、頬、頬骨近傍、口囲、顎先等、皮膚化粧料による保湿効果が求められる部位に接触する部分にも、皮膚化粧料を含浸させることが好ましい。
【0045】
シート状基材に含浸させる皮膚化粧料の量に特に限定はないが、皮膚化粧料が含浸される部分(以下、含浸対象部)のシート状基材の質量(C)と、含浸する皮膚化粧料の質量(D)との質量比(D/C)で表される含浸倍率が、5~13であることが好ましく、7~20であることがより好ましい。
含浸倍率が好ましい下限値以上であることにより、皮膚及び刺激板に対して密着しやすくなる。
また、含浸倍率が好ましい上限値以下であることにより、皮膚化粧料が垂れる等の不具合を回避しやすい。
具体的な質量比は、シート状基材の材質や皮膚化粧料の種類を勘案して決定できる。
【0046】
シート状基材への皮膚化粧料の含浸方法は、公知の手法を用いることができ、例えば、含浸対象部にハケで塗布して含浸する方法や、スプレー噴霧して含浸する方法が挙げられる。
【0047】
(マスクの例:マスク20)
シート状基材からなり、刺激板13を顔に固定するマスクの一例を図10に示す。図10のマスク20は、第一の引張体21と第二の引張体22からなるシート状基材で構成されている。
第一の引張体21と第二の引張体22との間には、両側端から中心に向かう切込み部が形成されている。すなわち、顔に装着した際、左側となる端部からは、中心に向かって左側切込み部20aが形成されている。また、顔に装着した際、右側となる端部からは、中心に向かって右側切込み部20bが形成されている。
【0048】
左側切込み部20aと右側切込み部20bは、マスク20の左右両端から中心に向かって形成され、かつ、装着時において第一の引張体21と第二の引張体22とが切り離されないようにされている。
左側切込み部20aと右側切込み部20bの切込みの程度は、シート状基材の材質や強度を勘案して決定できるが、第二の引張体22の側端から各切込み部の先端までの長さを80~120mmとすることが好ましい。マスク20は、各切込み部が形成されていることで、装着時の取り扱いが容易である。加えて、マスク20を口囲、頬及び下顎に、撚れやしわを生じずに密着させることができる。
【0049】
第一の引張体21の横方向の長さは、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、250~300mmが好ましく、260~280mmがより好ましい。第一の引張体21の縦方向の長さは、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、80~110mmが好ましい。
【0050】
第二の引張体22の横方向の長さは、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、250~290mmが好ましく、260~280mmがより好ましい。第二の引張体22の縦方向の長さは、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、60~80mmが好ましい。
なお、第一の引張体21の横方向の長さと第二の引張体22の横方向の長さとは同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、装着時の耳への負担を緩和する観点から、両者は同一、あるいは、第一の引張体21の横方向の長さの方が長いことが好ましい。
【0051】
第一の引張体21と第二の引張体22とは、1枚のシート状基材を打ち抜いて成形したものでもよいし、第一の引張体21と第二の引張体22とを別々に成形した後、接続してもよい。中でも、生産効率の観点からは、1枚のシート状基材を打ち抜いて成形したものが好ましい。なお、第一の引張体21と第二の引張体22とは、材質が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
第一の引張体21は、概ね楕円の下半分の形状とされており、上端側中央に鼻上部を鼻根部まで覆うための凸片29が設けられている。第一の引張体21は、顔に装着した際、口の周りを覆い、両頬を目の下まで覆うのに加えて、鼻全体を鼻根部まで覆うようになっている。
【0053】
また、第一の引張体21には、一対の第一の耳掛け孔が形成されている。すなわち、顔に装着した際、左側となる部分には左耳用第一の耳掛け孔23が、右側となる部分には右耳用第一の耳掛け孔24が各々形成されている。第一の耳掛け孔の形状に特に限定はないが、図10の例では、以下に説明する形状とされている。
【0054】
左耳用第一の耳掛け孔23は、一の頂点が右下向き(図示左下向き)とされた三角孔23aと、三角孔23aの前記一の頂点から右下(図示左下)に向かって伸びる延長切込み線23bと延長切込み線23bの終端において、延長切込み線23bと直角に設けられた終端切込み線23cとで構成されている。
【0055】
同様に、右耳用第一の耳掛け孔24は、一の頂点が左下向き(図示右下向き)とされた三角孔24aと、三角孔24aの前記一の頂点から左下(図示右下)に向かって伸びる延長切込み線24bと延長切込み線24bの終端において、延長切込み線24bと直角に設けられた終端切込み線24cとで構成されている。
第一の引張体21は、左耳用第一の耳掛け孔23と右耳用第一の耳掛け孔24を耳に掛けることにより、口角及び頬を耳に向かって引っ張るようになっている。
【0056】
第二の引張体22は、概ね8の字を横にした形状とされており、下端側に下側凹部22aが形成され、装着時に顎先が露出するようになっている。第二の引張体22は、顔に装着した際、下顎を覆うようになっている。
【0057】
また、第二の引張体22には、一対の第一の耳掛け孔が形成されている。すなわち、顔に装着した際、左側となる部分には左耳用第二の耳掛け孔25が、右側となる部分には右耳用第二の耳掛け孔26が各々形成されている。第二の耳掛け孔の形状に特に限定はないが、図10の例では、以下に説明する形状とされている。
【0058】
左耳用第二の耳掛け孔25は、一の頂点が左向き(図示右向き)とされた三角孔25aと、三角孔25aの前記一の頂点から左(図示右)に向かって伸びる延長切込み線25bと延長切込み線25bの終端において、延長切込み線25bと直角に設けられた終端切込み線25cとで構成されている。
【0059】
同様に、右耳用第二の耳掛け孔26は、一の頂点が右向き(図示左向き)とされた三角孔26aと、三角孔26aの前記一の頂点から右(図示左)に向かって伸びる延長切込み線26bと延長切込み線26bの終端において、延長切込み線26bと直角に設けられた終端切込み線26cとで構成されている。
第二の引張体22は、左耳用第二の耳掛け孔25と右耳用第二の耳掛け孔26を耳に掛けることにより、下顎を耳に向かって引っ張るようになっている。
【0060】
第一の引張体21には口露出部27が形成されている。口露出部27の形状に特に限定はないが、図10の例では、オーバル形状としている。
第一の引張体21には、また、鼻挿入孔28が形成されている。鼻挿入孔28の形状に特に限定はないが、図10の例では、外鼻の輪郭に沿った凹字型の切込み孔とされている。
装着した際に鼻の先端を鼻挿入孔28に挿入して露出させると、鼻挿入孔28の上側の部分が、鼻を覆うようになっている。
【0061】
また、第一の引張体21と第二の引張体22の境界部分であって、左側切込み部20aと右側切込み部20bに挟まれた部分には、刺激板13を挿入するための一対の挿入口が形成されている。すなわち、左側挿入口31と右側挿入口32が形成されている。
マスク20における左側挿入口31と右側挿入口32の形状に特に限定はないが、図10の例では、長方形の両端に丸みを持たせた形状の孔とされている。
【0062】
左側挿入口31は、装着時に、顔の左側において刺激板13を挿入する孔で、図示右下がりの切込みとされている。右側挿入口32は、装着時に、顔の右側において刺激板13を挿入する孔で、図示左下がりの切込みとされている。左側挿入口31と右側挿入口32の傾きは水平に対して約45゜とされているが、装着時には、ほぼ水平の方向となる。
マスク20を顔に装着した際、左側挿入口31と右側挿入口32は、各々ほうれい線部分のやや下側の位置となる。
【0063】
(マスク20を用いた酵素制御方法)
図11を用いて、図7の刺激具10と図10のマスク20を用いた酵素制御方法について説明する。図11は、ほうれい線部分に作用する酵素制御方法を示している。
なお、図11では、刺激具10の内、刺激板13とリード線12の一部のみを示し、電源部11と電源部11近傍のリード線12の図示は省略する。
【0064】
前述のように、マスク20の一部又は全部には、皮膚化粧料を含浸させておくことが好ましい。このマスク20を顔に装着する。装着は、例えば以下のように行う。
第一の引張体21を鼻挿入孔28から鼻91の先端が露出し、口露出部27から口93が露出するように口囲90及び頬92に接触させると共に、左耳用第一の耳掛け孔23及び右耳用第一の耳掛け孔24をそれぞれ両の耳95に掛ける。なお、図11は、顔の左側から見た斜視図としているので、右耳用第一の耳掛け孔24は図示していない。
【0065】
次いで、顎先96が露出するように、第二の引張体22を下顎94に接触させると共に、左耳用第二の耳掛け孔25及び右耳用第二の耳掛け孔26をそれぞれ両の耳95に掛ける。なお、右耳用第二の耳掛け孔26は図11に示していない。
こうして、マスク20を装着することで、第一の引張体21は、矢印F1のように、頬92及び口角98を耳95に向かって引張する。また、第二の引張体22は、矢印F2のように、下顎94を耳95に向かって引張する。
これにより、マスク20は、顔に対して、加圧状態で密着する。
【0066】
次に左側挿入口31と右側挿入口32の各々から、刺激板13を挿入する。図7では、左側挿入口31から刺激板13を挿入した様子を示している。
刺激板13は、例えば、左側挿入口31から押し上げるようにして、マスク20の内側に挿入することができる。
【0067】
挿入後は、リード線12の大部分が左側挿入口31の外側(マスク20の外側)に配置されるので、リード線12の左側挿入口31の外側とされた部分を把持部として、これを動かすことにより刺激板13を操作し、適宜移動させることができる。
そして、刺激板13の位置を、ほうれい線部分に調整したら、リード線12による刺激板13の操作を終了する。
右側挿入口32からの刺激板13の挿入と位置の調整も同様にして行う。
【0068】
刺激板13の位置がほうれい線部分に調整され、リード線12による刺激板13の操作を終了すると、刺激板13は、マスク20を構成するシート状基材の伸縮力により加圧され、その作用位置に固定される。
刺激板13は、マスク20による加圧を受けてほうれい線部分の皮膚に対して圧迫刺激を与える。その際、刺激板13を覆っている第一の引張体21は、矢印F1方向に引張されているので、刺激板13は、皮膚を圧迫しつつ、皮膚を引き上げながら伸展させる。
【0069】
また、刺激板13に電源部11から光照射部15に電力を供給することにより、ほうれい線部分に対して光の刺激を付与することができる。
そのため、伸展の刺激と光の刺激を同時に与えることができ、ほうれい線部分における真皮におけるコラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することができる。
【0070】
さらに、マスク20に皮膚化粧料を含浸させている場合は、皮膚化粧料の皮膚への保湿作用も期待できる。
なお、マスク20は、鼻全体を鼻根部まで覆うため、刺激板13を所望の位置に安定して固定しやすい。また、凸片29が上方に向かう光を散乱させる。そのため、光が漏れ出て眩しく感じることを防ぎやすい。
【0071】
(マスクの他の例:マスク40)
シート状基材からなり、刺激板13を顔に固定するマスクの他の例を図12に示す。図12のマスク40は、第一の引張体41と第一の引張体41の上側に配置される第二の引張体42とからなるシート状基材で構成されている。
第一の引張体41と第二の引張体42とは、口角の左側において左連結部43aにより、口角の右側において右連結部43bにより、連結されている。
【0072】
第一の引張体41の横方向の長さ(横方向において、最も長い部分の長さ)は、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、250~290mmが好ましく、260~280mmがより好ましい。第一の引張体41の縦方向の長さ(縦方向において、最も長い部分の長さ)は、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、60~80mmが好ましい。
【0073】
第二の引張体42の横方向の長さ(横方向において、最も長い部分の長さ)は、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、250~300mmが好ましく、260~280mmがより好ましい。第二の引張体42の縦方向の長さ(縦方向において、最も長い部分の長さ)は、シート状基材の材質等を勘案して決定することができるが、80~110mmが好ましい。
なお、第一の引張体41の横方向の長さと第二の引張体42の横方向の長さとは同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、装着時の耳への負担を緩和する観点から、両者は同一、あるいは、第二の引張体42の横方向の長さの方が長いことが好ましい。
【0074】
第一の引張体41と第二の引張体42とは、1枚のシート状基材を打ち抜いて成形したものでもよいし、第一の引張体41と第二の引張体42とを別々に成形した後、接続してもよい。中でも、生産効率の観点からは、1枚のシート状基材を打ち抜いて成形したものが好ましい。なお、第一の引張体41と第二の引張体42とは、材質が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0075】
第一の引張体41は、概ね楕円形状とされている。
第一の引張体41の上端の内、第二の引張体42と連結している左連結部43aの左方向外側は、左連結部43aから左方向外側に向けて下降する凸曲線とされている。
同様に、第一の引張体41の上端の内、第二の引張体42と連結している右連結部43bの右方向外側は、右連結部43bから右方向外側に向けて下降する凸曲線とされている。
第一の引張体41の下端41cは、ほぼ平坦な凸曲線とされている。
【0076】
第一の引張体41は、顔に装着した際、下顎を覆うようになっている。
また、第一の引張体41には、一対の第一の耳掛け部が設けられている。すなわち、顔に装着した際、左側となる部分には左耳用第一の耳掛け孔45が、右側となる部分には右耳用第一の耳掛け孔46が各々形成されている。第一の耳掛け孔の形状に特に限定はないが、図12の例では、以下に説明する形状とされている。
【0077】
左耳用第一の耳掛け孔45は、一の頂点が左向き(図示右向き)とされた三角孔45aと、三角孔45aの前記一の頂点から左(図示右)に向かって伸びる延長切込み線45bと延長切込み線45bの終端において、延長切込み線45bと直角に設けられた終端切込み線45cとで構成されている。
【0078】
同様に、右耳用第一の耳掛け孔46は、一の頂点が右向き(図示左向き)とされた三角孔46aと、三角孔46aの前記一の頂点から右(図示左)に向かって伸びる延長切込み線46bと延長切込み線46bの終端において、延長切込み線46bと直角に設けられた終端切込み線46cとで構成されている。
第一の引張体41は、左耳用第一の耳掛け孔45と右耳用第一の耳掛け孔46を両の耳に掛けることにより、下顎を耳に向かって引っ張るようになっている。
【0079】
第二の引張体42は、概ね下側が凸で上側が凹の円弧状とされている。
第二の引張体42の下端の内、第一の引張体41と連結している左連結部43aの左方向外側は、左連結部43aから左方向外側に向けて上昇する凸曲線とされている。
同様に、第二の引張体42の下端の内、第二の引張体42と連結している右連結部43bの右方向外側は、右連結部43bから右方向外側に向けて上昇する凸曲線とされている。
第二の引張体42の上端42cは凹状とされている。上端42cは、顔に装着した際、第二の引張体42が両頬を目の下まで覆う位置とされている。
上端42cの中央には、鼻上部を鼻根部まで覆うための凸片44が設けられている。
【0080】
第二の引張体42は、顔に装着した際、上顎とほうれい線部分を覆い、さらに、両頬を目の下まで覆うようになっている。
また、第二の引張体42には、一対の第一の耳掛け部が設けられている。すなわち、顔に装着した際、左側となる部分には左耳用第二の耳掛け孔47が、右側となる部分には右耳用第二の耳掛け孔48が各々形成されている。第二の耳掛け孔の形状に特に限定はないが、図12の例では、以下に説明する形状とされている。
【0081】
左耳用第二の耳掛け孔47は、一の頂点が左上向き(図示右上向き)とされた三角孔47aと、三角孔47aの前記一の頂点から左上(図示右上)に向かって伸びる延長切込み線47bと延長切込み線47bの終端において、延長切込み線47bと直角に設けられた終端切込み線47cとで構成されている。
【0082】
同様に、右耳用第二の耳掛け孔48は、一の頂点が右上向き(図示左上向き)とされた三角孔48aと、三角孔48aの前記一の頂点から右上(図示左上)に向かって伸びる延長切込み線48bと延長切込み線48bの終端において、延長切込み線48bと直角に設けられた終端切込み線48cとで構成されている。
第二の引張体42は、左耳用第二の耳掛け孔47と右耳用第二の耳掛け孔48を両の耳に掛けることにより、上顎を耳に向かって引っ張るようになっている。
【0083】
第二の引張体42には、また、鼻挿入部52が形成されている。鼻挿入部52の形状に特に限定はないが、図12の例では、浅いV字型に形成された鼻尖部切り込み52aと鼻尖部切り込み52aの両端から立ち上がる左鼻翼部切り込み52b及び右鼻翼部切り込み52cとで構成され、全体として外鼻の輪郭に沿った凹字型の切込み孔とされている。
【0084】
装着した際に鼻の先端を鼻挿入部52に挿入して露出させると、第二の引張体42の鼻挿入部52の上側の部分が、鼻尖部に沿って持ち上がるようになっている。
第二の引張体42の鼻挿入部52の上側は凸片44に連続し、凸片44と共に、鼻全体を鼻根部まで覆うようになっている。
【0085】
第一の引張体41と第二の引張体42、及び左連結部43aと右連結部43bとに囲まれた部分は、口露出部51となっている。口露出部51の形状に特に限定はないが、図12の例では、紡錘形とされている。
マスク40を顔に装着した際、左連結部43aと右連結部43bの両外側は、各々ほうれい線部分の下端側近傍の位置となる。
【0086】
(マスク40を用いた酵素制御方法)
図13を用いて、図7の刺激具10と図12のマスク40を用いた酵素制御方法について説明する。図13は、ほうれい線部分に作用する酵素制御方法を示している。
【0087】
なお、図13では、顔の左側から見た斜視図としているが、顔の右側への装着状態も同様である。また、図13では、刺激具10の内、刺激板13とリード線12の一部のみを示し、電源部11と電源部11近傍のリード線12の図示は省略する。
前述のように、マスク40の一部又は全部には、皮膚化粧料を含浸させておくことが好ましい。
【0088】
図13に示すように、マスク40を顔に装着した状態において、第一の引張体41は、下顎82から耳81までを覆っている。また、第二の引張体42は上顎83から耳81までを覆い、上端は目87の下まで達している。その結果、頬84全体が第一の引張体41と第二の引張体42により覆われている。口86は口露出部51において露出している。
また、凸片44の上端は、鼻根部88cまで達しており、鼻挿入部52から露出している鼻柱88a付近を除き、鼻尖部88bから鼻根部88cまでの鼻88全体が第二の引張体42と凸片44により覆われている。
【0089】
また、マスク40を顔に装着した状態においては、第一の引張体41の一部と第二の引張体42の一部との重なり部分55が生じる。重なり部分55において、第一の引張体41が第二の引張体42の内側(皮膚側)となっている。重なり部分55は、図6に示すように、両の口角86aの外側であって、両のほうれい線部分85の下端近傍から両の耳81にかけて、各々ほぼ三角形状に形成されている。
【0090】
マスク40の顔への装着は、例えば以下のように行う。
まず、第一の引張体41の左右方向中央を、口露出部51から口86が露出するように下顎82に接触させると共に、左耳用第一の耳掛け孔45、右耳用第一の耳掛け孔46(図4参照)をそれぞれ両の耳81に掛ける。
【0091】
次いで、第二の引張体42の左右方向中央を鼻挿入部52から鼻88の鼻柱88a付近が露出し、口露出部51から口86が露出するように上顎83及び鼻88に接触させると共に、左耳用第二の耳掛け孔47、右耳用第二の耳掛け孔48(図4参照)をそれぞれ両の耳81に掛ける。
【0092】
こうして、マスク40を装着することで、第一の引張体41は、下顎82を耳81に向かって引張する。また、第二の引張体42は、上顎83を耳81に向かって引張する。
これにより、マスク40は、顔に対して、加圧状態で密着する。
なお、マスク40は、予め左耳用第一の耳掛け孔45の上に左耳用第二の耳掛け孔47を、右耳用第一の耳掛け孔46の上に右耳用第二の耳掛け孔48を各々重ねておき、これらの耳掛け孔を一度に両の耳81に掛けることにより顔に装着してもよい。
【0093】
次に両側の重なり部分55の下端の各々から、第一の引張体41と第二の引張体42の間に刺激板13を挿入する。挿入後は、リード線12の大部分がマスク40の外側に配置されるので、リード線12の重なり部分55の外側とされた部分を把持部として、これを動かすことにより刺激板13を操作し、適宜移動させることができる。
そして、刺激板13の位置を、ほうれい線部分85に調整したら、リード線12による刺激板13の操作を終了する。
【0094】
刺激板13の位置がほうれい線部分85に調整され、リード線12による刺激板13の操作を終了すると、刺激板13は、マスク40を構成するシート状基材の伸縮力により加圧され、ほうれい線部分85に固定される。
刺激板13は、マスク40による加圧を受けてほうれい線部分85の皮膚に対して圧迫刺激を与える。その際、刺激板13を覆っている第二の引張体42は、耳81の方向に引張されているので、刺激板13は、皮膚を圧迫しつつ、皮膚を引き上げながら伸展させる。
【0095】
また、刺激板13に電源部11から光照射部15に電力を供給することにより、ほうれい線部分に対して光の刺激を付与することができる。
そのため、伸展の刺激と光の刺激を同時に与えることができ、ほうれい線部分における真皮におけるコラーゲン量の変化に関与する酵素の働きを制御することができる。
【0096】
さらに、マスク40に皮膚化粧料を含浸させている場合は、皮膚化粧料の皮膚への保湿作用も期待できる。
なお、マスク40は、鼻全体を鼻根部まで覆うため、刺激板13を所望の位置に安定して固定しやすい。また、凸片44が上方に向かう光を散乱させる。そのため、光が漏れ出て眩しく感じることを防ぎやすい。
【実施例0097】
<実験例1>
[培養]
ヒト成人由来真皮線維芽細胞を、Dulbecco’s Modified EagleMedium(DMEM、ナカライテスク社製)に、5体積%のFetal Bovine Serum(FBS、Thermo Fisher Scientific)、抗生物質として100μ/mLペニシリン、100μ/mLストレプトマイシンを加えた培地中のシャーレ内で37℃にて維持した。
【0098】
その後、DMEMに5体積%のFBSを加えた24Wellのプレートに、6×10cellずつ播種して24時間、温度37℃にて培養した。
その後、フェノールレッドを含まないDMEMに0.1体積%のFBSを加えた培地に交換して、常法で培養した。
【0099】
[光照射処置]
培養後、フェノールレッドを含まないDMEMに0.5体積%のFBSを加えた培地に交換して、表1に示す条件でピーク波長634nmの光を、室温にて照射した。
[コラーゲン定量]
光照射処置終了後、温度37℃にて放置し、24時間後と48時間後に上清をサンプリングし、ELISA(タカラバイオ社製、製品コードMK101)により、I型プロコラーゲン濃度を測定した。結果(n=4)を図14に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
図14に示すように、光照射を行った例は、いずれも光照射を行わなかった(放射時間ゼロ)「control」と比較して、コラーゲン濃度が増加した。特に放射照度16.7W/mの場合に最もコラーゲン濃度の増加が大きかった。
【0102】
<実験例2>
実験例1と同様にして、ヒト成人由来真皮線維芽細胞を培養した。光照射処置は、培養後、フェノールレッドを含まないDMEMに0.5体積%のFBSを加えた培地に交換して、表2に示す条件でピーク波長634nmの光を、室温にて照射することにより行った。
実験例1と同様に、光照射処置終了後、温度37℃にて放置し、24時間後と48時間後に上清をサンプリングし、ELISA(タカラバイオ社製、製品コードMK101)により、I型プロコラーゲン濃度を測定した。結果(n=4)を図15に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
図15に示すように、照射時間を5分から40分(エネルギー積算量は、0.5~4J/cm)とした例において、光照射を行わなかった(放射時間ゼロ)「control」と比較して、コラーゲン濃度が増加した。特に照射時間を10分から20分(エネルギー積算量は、1~2J/cm)とした例において、コラーゲン濃度が顕著に増加した。
【0105】
<実験例3>
[培養]
ヒト成人由来真皮線維芽細胞を、DMEMに、5体積%のFBSを加えた4cmストレッチチャンバー(メニコン)に、1cmあたり6×10cell播種して3日間、温度37℃にて培養した。
【0106】
[光照射、伸展処置]
培養後、フェノールレッドを含まないDMEMに2体積%のFBSを加えた培地に交換して、以下の条件で光照射及び伸展処置の一方又は両方を行った。
「control」:光照射及び伸展処置の何れも行わずに、温度37℃にて放置した。
「伸展」:ストレッチチャンバーを120%の伸展率になる距離まで,3秒間かけて伸展し、900秒間伸展状態を維持、3秒間かけて解放することで細胞に伸展刺激を加えた。
「LED」:ピーク波長634nm、放射照度16.7W/mの光を15分間照射した。
「LED+伸展」:上記「LED」の処置に続けて、上記「伸展」の処置を行った。
【0107】
[遺伝子発現解析]
光照射、伸展処置終了後、温度37℃にて放置し、6時間後の細胞の遺伝子発現(COL1)と14時間後の細胞の遺伝子発現(MMP1)をRT-qPCR(具体的な方法は、非特許文献2に記載の方法と同じ)により解析した。
図16にCOL1(I型コラーゲン合成酵素)の遺伝子発現レベルを、図17にMMP1(コラーゲン分解酵素)の遺伝子発現レベルを解析した結果(n=3)を、各々示す。
【0108】
図16に示すように、「伸展」と「LED」の処置を共に行うことにより、光照射及び伸展処置の何れも行わない「control」と比較して、I型コラーゲン合成酵素が顕著に活性化されることがわかった。
また、図17に示すように、「伸展」と「LED」の処置を共に行うことにより、光照射及び伸展処置の何れも行わない「control」と比較して、コラーゲン分解酵素の働きが顕著に抑制されることがわかった。
【符号の説明】
【0109】
10、60、70 刺激具
11 電源部
13 刺激板
20、40 マスク
61、71 刺激具本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17