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特開2023-95141金属系コート剤、表面処理金属及び表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095141
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】金属系コート剤、表面処理金属及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230629BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230629BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20230629BHJP
   C09D 7/45 20180101ALI20230629BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230629BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230629BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/02
C09D5/10
C09D7/45
C09D7/63
B32B15/01 K
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210865
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 耕大
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】伊場 美咲
(72)【発明者】
【氏名】松井 徳純
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB10A
4F100AB18A
4F100AH06A
4F100BA02
4F100CA13B
4F100CA14A
4F100CA18A
4F100EH46A
4F100EJ48A
4F100JB02
4F100YY00A
4J038HA061
4J038JC32
4J038KA05
4J038KA09
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA03
4J038PC02
4K044AA02
4K044AB05
4K044BA10
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC09
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】好ましい耐食性及び外観を金属基材に付与できる金属系コート剤を提供すること。
【解決手段】亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子(B)と、防錆顔料(C)と、シランカップリング剤(D)と、ノニオン系界面活性剤(E)と、を含む金属系コート剤であって、亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の合計に対するノニオン系界面活性剤(E)の割合である(E)/((A)+(B)+(C))が、25~90質量%である、金属系コート剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子(B)と、防錆顔料(C)と、シランカップリング剤(D)と、ノニオン系界面活性剤(E)と、を含む金属系コート剤であって、
前記亜鉛粒子(A)、前記アルミニウム粒子(B)、及び前記防錆顔料(C)の合計に対する前記ノニオン系界面活性剤(E)の割合である(E)/((A)+(B)+(C))が、25~90質量%である、金属系コート剤。
【請求項2】
前記亜鉛粒子(A)は鱗片状である、請求項1に記載の金属系コート剤。
【請求項3】
水溶性有機溶剤(F)と、水(G)と、を更に含む、請求項1又は2に記載の金属系コート剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の金属系コート剤により金属基材の表面に皮膜が形成されてなる、表面処理金属。
【請求項5】
被塗物の表面に請求項1~3のいずれかに記載の金属系コート剤を塗装する塗装工程と、焼付工程と、を有する、表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系コート剤、表面処理金属及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、犠牲防食効果を発揮する亜鉛等の金属粉末を防錆顔料として含む、金属系コート剤が知られている。金属系コート剤としては、有機溶媒を含むものが従来使用されてきたが、近年では、環境負荷低減等の観点から好ましい、水系の金属系コート剤が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-041987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された水性金属防錆塗料は、結合剤に水性樹脂エマルジョンと水溶性シランカップリング剤を併用することで、皮膜を薄くしても優れた防錆性能と皮膜強度を示す、としている。しかし、顔料成分の分散性、塗装性が未だ不十分であることから、皮膜が形成された金属基材の耐食性や外観には未だ改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、好ましい耐食性及び外観を金属基材に付与できる金属系コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子(B)と、防錆顔料(C)と、シランカップリング剤(D)と、ノニオン系界面活性剤(E)と、を含む金属系コート剤であって、前記亜鉛粒子(A)、前記アルミニウム粒子(B)、及び前記防錆顔料(C)の合計に対する前記ノニオン系界面活性剤(E)の割合である(E)/((A)+(B)+(C))が、25~90質量%である、金属系コート剤に関する。
【0007】
(2) 前記亜鉛粒子(A)は鱗片状である、(1)に記載の金属系コート剤。
【0008】
(3) 水溶性有機溶剤(F)と、水(G)と、を更に含む、(1)又は(2)に記載の金属系コート剤。
【0009】
(4) (1)~(3)のいずれかに記載の金属系コート剤により金属基材の表面に皮膜が形成されてなる、表面処理金属。
【0010】
(5) 被塗物の表面に(1)~(3)のいずれかに記載の金属系コート剤を塗装する塗装工程と、焼付工程と、を有する、表面処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、好ましい耐食性及び外観を金属基材に付与できる金属系コート剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0013】
<金属系コート剤>
本実施形態に係る金属系コート剤は、被塗物である鉄等の金属基材表面上に皮膜を形成することで、金属基材に対して好ましい耐食性を付与できる。本実施形態に係る金属系コート剤は、亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子(B)と、防錆顔料(C)と、シランカップリング剤(D)と、ノニオン系界面活性剤(E)と、を含む。また、水溶性有機溶剤(F)と、水(G)と、を更に含むことが好ましい。
【0014】
(亜鉛粒子(A))
亜鉛粒子(A)は、防錆顔料成分であり、被塗物である金属基材に対してイオン化傾向が大きいことで金属基材よりも先に酸化し、犠牲防食効果を発揮する。亜鉛粒子(A)は、亜鉛を含む粒子であり、本明細書における亜鉛粒子(A)は、亜鉛単体、亜鉛を主成分とする亜鉛合金、又は酸化亜鉛を主として含む(即ち、亜鉛単体、上記亜鉛合金、及び酸化亜鉛の総量が50質量%以上である)金属粒子を意味する。亜鉛粒子(A)の形状は鱗片状であることが好ましい。亜鉛粒子が鱗片状であることで、金属系コート剤をディップスピン塗装等の方法で被塗物に塗装した場合であっても耐食性の高い皮膜を金属基材表面に形成することができる。鱗片状の亜鉛粒子は、その平均アスペクト比(長径/厚みの比の平均値)が20以上であることが好ましく、40以上であることがさらに好ましい。上記平均アスペクト比は、SEM観察により任意に選択した10個の亜鉛粒子の長径と厚みを測定することにより算出できる。
【0015】
亜鉛粒子(A)の平均粒子径は、1μm~30μmであることが好ましい。亜鉛粒子(A)の平均粒子径が1μm未満である場合、金属系コート剤の調製時における作業性及び液安定性が低下する。また、形成される皮膜の耐食性が低下する。亜鉛粒子(A)の平均粒子径が30μmを超える場合、ディップスピン塗装による塗装性が低下する。上記の観点から、亜鉛粒子(A)の平均粒子径は、5μm~20μmであることがより好ましい。亜鉛粒子(A)としては、市販品を用いることができる。
【0016】
なお、本明細書における亜鉛粒子(A)の平均粒子径は、体積基準の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置にて測定することができる。アルミニウム粒子(B)についても同様である。
【0017】
(アルミニウム粒子(B))
アルミニウム粒子(B)は、防錆顔料成分であり、アルミニウム粒子(B)が金属系コート剤に含有されることで、亜鉛粒子(A)と同様の犠牲防食効果が得られる。また、アルミニウムが形成する酸化皮膜が、金属基材を被覆することで、金属基材に含まれる鉄等や皮膜中の亜鉛の溶出が抑制されると考えられ、亜鉛粒子(A)の犠牲防食効果と上記被覆効果が相まって、より好ましい耐食性を金属基材に付与できる。また、金属基材に対して好ましい美観を付与できる。本明細書におけるアルミニウム粒子(B)は、アルミニウムを主として含む(即ち、アルミニウムの総量が50質量%以上である)合金粒子や金属粒子を意味する。アルミニウム粒子(B)としては、市販品を用いることができる。
【0018】
アルミニウム粒子(B)の平均粒子径は、1μm~15μmであることが好ましい。上記平均粒子径が15μmを超える場合、ディップスピン塗装による塗装性が低下する。
【0019】
(防錆顔料(C))
防錆顔料(C)は、亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)以外の防錆顔料成分であり、具体的には、アルミニウム化合物粒子、マグネシウム金属粒子、マグネシウム化合物粒子、公知のシリカ系防錆顔料等を意味する。防錆顔料(C)としては、アルミニウム化合物粒子が含まれることが好ましい。アルミニウム化合物粒子が金属系コート剤に含有されることで、上記したアルミニウム粒子(B)と同様に、酸化皮膜を形成することによる被覆効果が得られる。アルミニウム化合物粒子を構成するアルミニウム化合物としては特に限定されず、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウム、ポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、縮合リン酸アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム化合物として、構造中にリン酸系化合物を含む上記リン酸アルミニウム系化合物を用いることで、リン酸系化合物と、金属基材に含まれる鉄又は皮膜に含まれる亜鉛とが不働態皮膜を形成するため、更に好ましい耐食性を金属基材に付与できる。防錆顔料(C)としては、市販品を用いることができる。上記防錆顔料(C)は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0020】
(シランカップリング剤(D))
シランカップリング剤(D)は、金属基材と防錆顔料成分、又は防錆顔料成分同士の架橋剤として機能し、金属系コート剤により形成される皮膜と金属基材との密着性を向上させる。また、シランカップリング剤(D)は、上記に加えて、金属系コート剤中に含まれる亜鉛粒子(A)を安定化させる効果を有する。従来の金属系コート剤中には、亜鉛粒子を安定化させるために、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分が含まれる場合がある。しかし、本実施形態に係る金属コート剤は、シランカップリング剤(D)により亜鉛粒子(A)を安定化できるため、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分を含まずに金属系コート剤を構成できる。シランカップリング剤(D)の種類は特に限定されないが、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N’-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、シランカップリング剤(D)としては、上記以外にアルコキシシリル基と、エポキシ基、アクリル基等の反応性官能基と、を共に有するシリコーン化合物を用いてもよい。中でも、好ましい液安定性を有することから、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0021】
シランカップリング剤(D)としては、オリゴマータイプのシランカップリング剤を用いてもよい。オリゴマータイプのシランカップリング剤とは、有機性官能基とアルコキシシリル基を併せ持つ、例えば2~20量体からなる比較的低分子の多量体である。上記オリゴマータイプのシランカップリング剤は、公知の方法により製造してもよいし、市販品として入手してもよい。市販品としては、例えば、「MP200」(商品名:モメンティブ社製)、「KR-516」、「KR-517」、(上記いずれも商品名:信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。上記シランカップリング剤(D)は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0022】
亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の質量の合計((A)+(B)+(C))は、金属系コート剤の全質量に対して、20~50質量%であることが好ましい。これにより、防錆顔料成分による犠牲防食効果を十分に発揮することができ、金属系コート剤により形成される皮膜は、被塗物である金属基材に対して好ましい耐食性や密着性を付与できる。
【0023】
亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の質量の合計((A)+(B)+(C))に対する、亜鉛粒子(A)の質量割合((A)/((A)+(B)+(C)))は、50~80質量%であることが好ましい。これにより、金属系コート剤は好ましい液安定性を有することができ、金属系コート剤により形成される皮膜は、被塗物である金属基材に対して好ましい耐食性を付与できる。
【0024】
亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の質量の合計((A)+(B)+(C))に対する、シランカップリング剤(D)の質量割合((D)/((A)+(B)+(C)))は、40~70質量%であることが好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)が上記防錆顔料成分による犠牲防食効果を阻害することなく、金属系コート剤により形成される皮膜は、被塗物である金属基材に対して好ましい耐食性や密着性を付与できる。
【0025】
(ノニオン系界面活性剤(E))
ノニオン系界面活性剤(E)は、金属系コート剤に含有されることで、防錆顔料成分である亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の分散性を向上させることができるため、被塗物である金属基材の表面に均一な皮膜を形成できる。これによって、表面に皮膜が形成された金属基材の外観や耐食性を向上させることができる。ノニオン系界面活性剤(E)としては、特に限定されるものではなく、公知のノニオン系界面活性剤を適用することができる。例えば、ポリオキシアルキレンエーテル類、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤(E)としては、市販品を用いることができる。上記ノニオン系界面活性剤(E)は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0026】
亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、及び防錆顔料(C)の合計に対するノニオン系界面活性剤(E)の割合である(E)/((A)+(B)+(C))は、25~90質量%である。上記割合が25質量%未満である場合、金属基材の表面に均一な皮膜を形成できず、金属基材の好ましい外観や耐食性が得られない。上記割合が90質量%を超える場合、金属基材の好ましい耐食性が得られない。上記の観点から、(E)/((A)+(B)+(C))は、40~70質量%であることが好ましい。
【0027】
(水溶性有機溶剤(F))
水溶性有機溶剤(F)は、本実施形態に係る金属系コート剤に含有されることで、金属系コート剤のポットライフを向上させる機能を有する。本実施形態に係る金属系コート剤を、水(G)を含有する水系の金属系コート剤とした場合に、金属系コート剤中の亜鉛粒子(A)と水(G)とが化学反応することで、細かな気泡状の水素ガスが発生する。この気泡状の水素ガスにより、ノニオン系界面活性剤(E)を含有する金属系コート剤が増粘してポットライフが低下する。しかし、金属系コート剤に水溶性有機溶剤(F)が含有されることで、発生した気泡状の水素ガスが系外に放出されやすくなり、金属系コート剤のポットライフを向上させることができる。
【0028】
水溶性有機溶剤(F)としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。水溶性有機溶剤(F)としては、アルコール類、グリコール類、エーテル類であることが好ましい。水溶性有機溶剤(F)は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0029】
水溶性有機溶剤(F)と、水(G)との合計に対する水溶性有機溶剤(F)の割合である、(F)/((F)+(G))は、20~90質量%であることが好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
ノニオン系界面活性剤(E)と、水溶性有機溶剤(F)との合計に対するノニオン系界面活性剤(E)の割合である(E)/((E)+(F))は、40~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
(その他の成分)
金属系コート剤には、必要に応じて上記以外の成分が含まれていてもよい。例えば、インヒビターとして、バナジウム化合物、ホウ素化合物、モリブデン化合物等を含んでいてもよい。インヒビターとして含有される成分は、バナジウム化合物であることが好ましい。
【0032】
上記以外に、金属系コート剤には、例えば、必要に応じて体質顔料、着色顔料、染料等の公知の塗料用添加剤を添加してもよい。なお、本実施形態に係る金属系コート剤は、液安定性を向上させるため、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分が含まれていなくてもよいが、含まれていてもよい。
【0033】
また、本実施形態に係る金属系コート剤は、高温焼き付け時の皮膜の焦げを抑制できることから、実質的に樹脂を含有しないことが好ましい。なお、実質的に樹脂を含有しない、とは、本明細書中において、水溶性樹脂、水性樹脂エマルション、セルロース系樹脂、及び多糖類からなる群より選択されるいずれかの水性樹脂の含有量が金属系コート剤の全質量に対して0.15質量%以下であることを意味する。上記水性樹脂の含有量は、0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることが更に好ましい。なお、上記セルロース系樹脂、とは、セルロースを含む樹脂であり、例えば、アルキル基含有セルロース、ヒドロキシ基含有セルロース、カルボキシ基含有セルロース、及びこれらの誘導体が挙げられる。上記セルロース系樹脂の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルエチルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル、アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステル等が挙げられる。上記多糖類とは、上記セルロース系樹脂以外の多糖類及びその誘導体を意味する。
【0034】
上記金属系コート剤の調製方法としては、特に制限されず、例えば前述の成分を配合し混合する公知の方法を用いることができる。
【0035】
金属系コート剤は、1液系の金属系コート剤であってもよいし、2液系の金属系コート剤であってもよい。液安定性の観点からは2液系の金属系コート剤とする方が好ましい。2液系の金属系コート剤とする場合、例えば、水を少なくとも含む溶液と、上記亜鉛粒子(A)、アルミニウム粒子(B)、防錆顔料(C)、シランカップリング剤(D)、及びノニオン系界面活性剤(E)、並びに任意で水溶性有機溶剤(F)を少なくとも含む溶液とを個別に準備し、塗装前に混合することで、金属系コート剤を調製できる。
【0036】
<表面処理金属>
本実施形態に係る金属系コート剤により、被塗物である金属基材の表面に皮膜が形成されることで、表面処理金属が生成される。上記金属基材の材質としては、特に限定されないが、例えば、鉄系基材が挙げられる。上記鉄系基材としては、特に限定されないが、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、軟鋼板、高張力鋼板等が挙げられる。また、上記金属基材は、複雑な形状を有する、ネジ、ボルト、ナット、ワッシャ、スプリングその他の小物部品であることが好ましい。本実施形態に係る金属系コート剤は、上記小物部品の塗装に用いられるディップスピン塗装に対して好ましく適用できるためである。また、本実施形態に係る金属系コート剤により、金属基材の耐食性を著しく向上できるため、上記小物部品は、例えば車両の部材締結用等、耐食性が要求される用途に対して好ましく適用できる。
【0037】
本実施形態に係る表面処理金属に形成される皮膜は、皮膜中における亜鉛の含有量が、亜鉛原子換算で4g/m以上であることが好ましい。これにより、被塗物である金属基材に対し、好ましい耐食性を付与できる。上記亜鉛の含有量は、7g/m以上であることがより好ましい。
【0038】
<表面処理方法>
本実施形態に係る金属系コート剤を用いて、金属基材を処理する表面処理方法は、塗装工程と、焼付工程と、を含む。
【0039】
(塗装工程)
塗装工程は、上記金属基材の表面に本実施形態に係る金属系コート剤を塗装する工程である。塗装方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、ディップスピン塗装、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー、刷毛塗り、バーコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター等の方法が挙げられる。金属基材がネジ、ボルト、ナット、ワッシャ、スプリングその他の小物部品である場合、塗装方法はディップスピン塗装であることが好ましい。ディップスピン塗装は、公知のディップスピン塗装装置により行うことができる。ディップスピン塗装装置は、被塗物を収容するバスケットを装置下部の塗料槽に入れた金属系コート剤に浸漬した後、塗料から引き揚げて高速回転させることで、被塗物の表面に付着した余分な塗料を遠心脱液する装置である。
【0040】
(焼付工程)
焼付工程は、塗装工程により金属系コート剤を金属基材の表面に塗布した後、被塗物を加熱して皮膜を形成する工程である。焼付温度(被塗物である金属基材の最高温度)は、例えば250℃~450℃とすることができる。焼付時間は、例えば、10~30分間とすることができる。
【0041】
金属基材がネジ、ボルト、ナット、ワッシャ、スプリングその他の小物部品である場合、上記塗装工程及び焼付工程は2回繰り返して行われることが好ましい。これにより、金属基材の表面を完全に皮膜で被覆することができ、かつ所望の膜厚を有する皮膜を金属基材の表面に形成できる。
【実施例0042】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0043】
(実施例1)
表1に示すように、亜鉛粒子(A)として以下に示すZN-1を用い、アルミニウム粒子(B)として以下に示すAl-1を用い、防錆顔料(C)として以下に示すPG-1を用い、シランカップリング剤(D)として以下に示すSI-1を用い、ノニオン系界面活性剤(E)として以下に示すSF-1を用いた。各成分を混合させて実施例1の金属系コート剤を調製した。配合量は表1に示す通りである。なお、表1~表3に示す各成分の配合量は質量部を意味する。
【0044】
(実施例2~44、比較例1~18)
各成分の配合量を表1~表3に示すものとし、実施例1と同様に上記実施例及び比較例の金属系コート剤を調製した。表1~表3に記号で示す各成分の種類について以下に示す。
【0045】
(亜鉛粒子(A))
ZN-1:STANDARTZinc flakeGTT(鱗片状亜鉛粒子、アスペクト比40、平均粒子径11~20μm、ECKART GmbH製)
ZN-2:MF-ZF(鱗片状亜鉛粒子、アスペクト比40~50、平均粒子径11~20μm、Metal Face社製)
ZN-3:ZN-S-D8(鱗片状亜鉛粒子、アスペクト比20、平均粒子径10μm、福田金属箔粉工業社製)
ZN-4:LS-4(球状亜鉛粒子、アスペクト比1~2、平均粒子径4μm、日本ペイント防食コーティングス株式会社製)
【0046】
(アルミニウム粒子(B))
Al-1:WL-Z465(アルミニウム粒子、平均粒子径10μm、東洋アルミニウム株式会社製)
Al-2:WL-6360(アルミニウム粒子、平均粒子径10μm、東洋アルミニウム株式会社製)
Al-3:STAPA IL Hydrolan 9160(アルミニウム粒子、平均粒子径10μm、ECKART GmbH製)
Al-4:WM-2025(アルミニウム粒子、平均粒子径30μm、東洋アルミニウム株式会社製)
【0047】
(防錆顔料(C))
PG-1:K-WHITE #105(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
PG-2:Heucophos(登録商標) ZAPP(ポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、ホイバッハジャパン株式会社製)
PG-3:LFボウセイ MZP-500(リン酸マグネシウムおよび亜リン酸亜鉛、キクチカラー社製)
PG-4:K-WHITE#82(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
PG-5:Heucophos(登録商標) CAPP(トリポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、ホイバッハジャパン株式会社製)
PG-6:K-WHITE Ca650(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
PG-7:K-WHITE ZF150W(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
【0048】
(シランカップリング剤(D))
SI-1:KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
SI-2:MP200 (エポキシシラン(オリゴマー)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0049】
(界面活性剤(E))
SF-1:XL-80(ノニオン系界面活性剤/EO8mol、第一工業製薬社製)
SF-2:XL-100(ノニオン系界面活性剤/EO10mol、第一工業製薬社製)
SF-3:カチオーゲンD2(カチオン系界面活性剤、第一工業製薬社製)
SF-4:ネオゲンAS-20(アニオン系界面活性剤、第一工業製薬社製)
【0050】
(水溶性有機溶剤(F))
SV-1:ジプロピレングリコール(AGC社製)
SV-2:イソプロピルアルコール(昭栄化学工業社製)
【0051】
<バーコーター塗装>
実施例1~24、比較例1~9の金属系コート剤を用いて、冷延鋼板を被塗物として、バーコーターで塗装を行った。その後、350℃で15分間、焼付を行い、各実施例及び比較例に係る表面処理金属の評価用サンプルを作製した。なお、表4及び表5における皮膜量(g/m)は、塗装前後の重量変化(g)/冷延鋼板の表面積(m)により算出した値であり、バーコーターの番手は表4及び表5に記載された皮膜量を目標値として決定した。
【0052】
<ディップスピン塗装>
実施例25~44、比較例10~18の金属系コート剤を用いて、鉄製のボルトを被塗物として、ディップスピン塗装装置で塗装を行った。その後、350℃で15分間、焼付を行い、上記塗装及び焼付を2回繰り返し、各実施例及び比較例に係る表面処理金属の評価用サンプルを作製した。なお、表4及び表5における皮膜量(g/m)は、塗装前後の重量変化(g)/ボルト表面積(m)により算出した値であり、ディップスピン塗装装置の回転数(rpm)は表4及び表5に記載された皮膜量を目標値として決定した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
[耐食性評価:CCT]
上記により得られた実施例1~24、比較例1~9の表面処理金属の評価用サンプルを用いて、JIS H 8502に規定される複合サイクル試験(CCT)を実施した。赤錆発生が観察されるまでのサイクル数を確認し、以下の基準により評価を行った。2以上を合格とした。結果を表4及び表5に示す。
4:250サイクル以上
3:150サイクル以上、250サイクル未満
2:50サイクル以上、150サイクル未満
1:50サイクル未満
【0057】
[耐食性評価:SST]
上記により得られた実施例25~44、比較例10~18の表面処理金属の評価用サンプルを用いて、塩水噴霧試験(SST)を実施した。赤錆発生が観察されるまでの試験時間を確認し、以下の基準により評価を行った。2以上を合格とした。結果を表4及び表5に示す。
4:1500時間以上
3:1000時間以上、1500時間未満
2:500時間以上、1000時間未満
1:500時間未満
【0058】
[外観評価]
各実施例及び比較例に係る表面処理金属の評価用サンプルを用いて、塗装・焼付後の表面処理金属の皮膜の均一性・隠蔽性を目視で観察し、以下の基準により評価を行った。2以上を合格とした。結果を表4及び表5に示す。
4:均一性・隠蔽性が非常に優れている
3:均一性・隠蔽性が優れている
2:均一性・隠蔽性を有する
1:顔料の凝集、塗装ムラ等がみられ、隠蔽性が悪い
【0059】
[ポットライフ評価]
上記により得られた実施例20~22、比較例9の金属系コート剤を用いてポットライフ評価を行った。具体的には、水以外の成分を混合して予め調製した溶液と、水とを混合して金属系コート剤を作製し、液作製直後に液温を20℃とした時の粘度を、カップ粘度計(NK-2カップ、アネスト岩田社製)を用いてカップ内の金属系コート剤が落ち切るまでの時間として測定し、初期粘度とした。液作成後、20℃で金属系コート剤を静置し、液作成後から日数が経過するたびに、同様に金属系コート剤の粘度を測定した。液作成後からの日数経過により、初期粘度に対する粘度(時間)の変化幅が30秒以内である日数を求め、以下の基準により評価を行った。3を合格とした。結果を表4及び表5に示す。
3:14日以上
2:7日以上14日未満
1:7日未満
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表4及び表5の結果から、各実施例に係る金属系コート剤は、比較例に係る金属系コート剤と比較して、金属基材に好ましい耐食性及び外観を付与できることが確認された。