(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095160
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】歯車および切削工具
(51)【国際特許分類】
F16H 55/16 20060101AFI20230629BHJP
B23F 21/10 20060101ALI20230629BHJP
B23F 21/28 20060101ALI20230629BHJP
B24D 7/18 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
F16H55/16
B23F21/10
B23F21/28
B24D7/18 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210889
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000148324
【氏名又は名称】株式会社浅野歯車工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 雅博
【テーマコード(参考)】
3C025
3C063
3J030
【Fターム(参考)】
3C025EE01
3C025GG01
3C063AA02
3C063AB02
3C063BA02
3C063BA24
3C063EE03
3C063FF30
3J030BA01
3J030BB07
3J030BB12
3J030BC02
3J030BC10
(57)【要約】
【課題】噛合回転時に人間が騒音として知覚し難い歯車を提供する。
【解決手段】複数の歯を備える歯車であって、連続して配列される複数の歯11,11・・・がセットGを構成し、セットG内にて隣り合う歯111と歯112を比べたときの歯11の形状に意図的な差異を有し、および/または歯111ピッチと歯112のピッチに意図的な差異を有し、かかるセットGを1セットないし複数セット繰り返し有する歯車。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯を備える歯車であって、
連続して配列される複数の前記歯を1セットとし、
前記セットは、隣り合う前記歯の形状および/またはピッチに差異を有し、
前記セットを1または複数繰り返し有する歯車。
【請求項2】
前記差異は、
前記形状にあっては、歯面の歯形における歯形勾配、歯形凹凸、歯すじ形状における歯すじ傾斜、クラウニング中心位置、クラウニング量、
前記ピッチにあっては、単一ピッチ、隣接ピッチ、累積ピッチ、
の中から選択される少なくとも1つにおける差異である、請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
複数の切削歯を備える歯車形状の切削工具であって、
連続して配列される複数の前記切削歯を1セットとし、
前記セットは、隣り合う前記切削歯の形状および/またはピッチに差異を有し、
前記セットを1または複数繰り返し有する切削工具。
【請求項4】
前記差異は、
前記形状にあっては、歯面の歯形における歯形勾配、歯形凹凸、歯すじ形状における歯すじ傾斜、クラウニング中心位置、クラウニング量、
前記ピッチにあっては、単一ピッチ、隣接ピッチ、累積ピッチ、
の中から選択される少なくとも1つにおける差異である、請求項3に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車に関し、特に歯の形状および歯のピッチに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車同士が噛合する際の騒音を低減する技術として、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、歯面精度を向上させることで、静粛性を満足するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来、特許文献1の他、歯の形状に関する寸法の仕上げ精度を向上させることが、噛合時の騒音および振動を低減するために良いと考えられている。この点につき概略説明すると、
図10は、従来の歯車の噛合音(ギヤノイズ)を模式的に示すグラフであり、横軸が周波数を、縦軸が音振(振動および振動音)の大きさを表す。
図10を参照して、一定間隔の周波数で音振が大きくなることが理解される。これは各歯が順番にかみ合う時間差に均一性があるためであり、この周波数は歯車のかみ合い周波数fと呼ばれ、歯車の歯数zに依存し、次式で求められる。この周波数の整数倍の周波数の音振を整数次ノイズといい、非整数倍の周波数の音振を非整数次ノイズという。
[式1] f =N/60×z
f:歯車のかみ合い周波数[Hz] N:歯車の回転数[rpm] z:歯車の歯数[枚]
【0005】
図10に示すギヤノイズが人の耳に入力される場合において、その人がギヤノイズを不快な騒音として知覚するか否かは、環境ないし個人差等、複雑な要因があるため一概には言えないものの、少なくとも
図10に示す整数次音は、人の脳に知覚されて、騒音と認識され易いものと思われる。この理由として整数次ノイズのノイズピークと、非整数次ノイズのノイズボトムのギャップが大きいためと考えられる。
【0006】
本発明者は、人が知覚しにくいギヤノイズを目指し、整数次ノイズのノイズピークと、非整数次音のノイズボトムのギャップ(以下、ノイズギャップともいう)に着目して、ノイズギャップを小さくするために本発明をするに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明は、複数の歯を備える歯車であって、連続して配列される複数の歯を1セットとし、かかるセットは隣り合う歯の形状および/またはピッチに差異を有し、かかるセットを1または複数繰り返し有する。
【0008】
かかる本発明によれば、複数の歯が従来のように均一形状、均一ピッチではなく、セットを構成する歯同士に有意差があるので、相手歯車とかみ合わせて回転させたときに各歯が順番にかみ合う時間差に不均一性が生じる。これにより
図9に示すように非整数次ノイズが大きくなり、ノイズギャップが小さくなる。そして、本発明の歯車が相手歯車と噛み合いながら回転する際に生じる噛合音は、人間の耳に入っても従来のように騒音として知覚され難くなる。本発明の歯車に関し、セットを構成する複数の歯のパターンは特に限定されない。当該セットは歯車の周方向に繰り返される。
【0009】
セットを構成する複数の歯同士の差異は、様々な管理項目のうちの少なくとも1つである。例えば、セットを構成する複数の歯同士は、歯面の歯形の差異を有してもよいし、あるいは、歯すじ形状の差異を有してもよい。具体的には例えば、歯面の歯形における歯形勾配、歯形凹凸、あるいは他の形状のうち少なくとも1つで差異を有してもよい。あるいは例えば、歯すじ形状における歯すじ傾斜、クラウニング中心位置、クラウニング量、あるいは他の形状のうち少なくとも1つで差異を有してもよい。またセットを構成する歯と歯のピッチに差異を有してもよく、具体的には例えば、単一ピッチ、隣接ピッチ、累積ピッチのいずれかの管理項目で差異を有していてもよい。なお歯面の歯形における歯形凹凸とは、歯車の軸線方向に歯をみて、例えば丸みを帯びるように歯面を形成することをいい、歯形丸み、あるいは歯形クラウニングともいう。歯すじ形状におけるクラウニングとは、歯車の軸線方向一端から他端へ延びる歯すじにおいて、歯すじ中央領域が歯すじの両端からみて膨らみ形状にされることをいう。本発明による歯車は、1セットを構成する複数の歯が、互いに差異を有するため、1セット内で差異がパターン化され、このパターン化された差異が再現性を有する。本発明によれば、歯車の製造工程において、当該セットを繰り返すことで、セット同士が同一の規則性を持つように再現性を有することから、歯車を効率的に生産することができる。
【0010】
また本発明は、複数の切削歯を備える歯車形状の切削工具であって、連続して配列される複数の切削歯を1セットとし、かかるセットは隣り合う切削歯の形状および/またはピッチに差異を有し、かかるセットを1または複数繰り返し有する。
【0011】
切削工具におけるセットを構成する複数の切削歯の各形状や各ピッチは、上述した歯車と同様の管理項目で管理される。
【0012】
本発明の切削工具によれば、周方向に配列される歯同士が差異を有する歯車を、ホーニング加工、スカイビング加工、ギヤシェーパー加工、またはシェービング加工によって、効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、整数次ノイズのノイズピークと、非整数次ノイズのノイズボトムとのギャップが、従来よりも小さくなり、整数次ノイズのノイズピークがマスキングされて、回転する歯車対の噛合音が人間の耳に入っても騒音および振動として知覚し難くされる。またかかる本発明の切削工具により、本発明の歯車の大量生産が可能になる。本発明の歯車は、電気自動車のように静粛性能の高い乗用車に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態になる歯車を示す正面図である。
【
図2】同実施形態の歯のセットを取り出して示す拡大図である。
【
図3】同実施形態の累積ピッチ有意差を示すグラフである。
【
図4】同実施形態の歯のセットを取り出して示す拡大図である。
【
図5】実施例1および対比例1につき、音振の大きさの試験結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2実施形態に関し、歯ひとつ分の輪郭形状および管理寸法を取り出して示す拡大図である。
【
図7】実施例2および対比例2につき、音振の大きさの試験結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態になる切削工具を示す正面図である。
【
図10】従来技術の音振の大きさを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態になる歯車を示す正面図である。本発明の歯車10は外周に複数の歯11を備える、外歯歯車である。歯11の歯数は40であり、歯数の約数として8を含む。そして当該約数に対応して、連続する8個の歯が1セットを構成する。かかる1セットを、歯車10は周方向に5セット繰り返す。なお図示しない変形例として、本発明の歯車は内歯歯車であってもよい。また、セットを構成する歯数と歯車を構成するセット数は任意に変更されてもよい。
【0016】
ここで附言すると、一般的な歯車では、互いに噛合する一方の歯車の歯と他方の歯車の歯が総当たりとなるよう歯数は互いの歯車の歯数について1以外の公約数を持たないことが好ましく、歯数に素数を用いられることが多い。本発明は歯車の歯数に1セットを構成する歯数を約数としてもち、加えて、歯車を構成するセット数を歯車の歯数の約数としてもつ。
【0017】
図2は、
図1に示す歯車に含まれる歯のセットを取り出して示す拡大図である。上述したように約数である8と同じ8個分の歯が1つのセットGを構成する。1セットG中の歯のピッチは、全て均一にされるのではなく、肉眼で認識できない程度の寸法差で僅かに異なるよう、製造公差を超える意図的な差異(有意差)を含む。発明の理解を容易にするため、
図2と、後述する他の実施形態(
図4および
図6)で有意差が誇張して描かれる。なお
図2には、従来の歯車のピッチの歯を破線で描く。従来の歯車の歯のピッチは所定の公差内で全て等しくされる。
【0018】
図2に示すように、1つのセットGを構成する歯11、11・・・内で、歯11同士を比べると、全て歯11が均一ではなく、意図的な差異を有する。具体的には歯11のピッチに有意差がある。
図2を参照して、周方向に隣り合う歯111,112,113のピッチ同士を対比すると、両者には寸法上の有意差があることがわかる。本実施形態では累積ピッチで管理される。本実施形態の累積ピッチ有意差は、累積ピッチ有意差が0となる1つの歯を基準とし、累積ピッチ有意差Pa、Pb、Pc、Pz、Py、Px、Pwで表される。
図2を参照して、累積ピッチは、ピッチ測定円Csの円周上において、基準となる1つの歯11の周方向一方の歯面とピッチ測定円Csの交差点から各歯11の周方向一方の歯面とピッチ測定円Csの交差点までの円弧距離であり、累積ピッチ有意差は標準累積ピッチからどれだけ異なるかを示す数値である。標準累積ピッチとは、隣り合う歯のピッチが全て等しい場合の累積ピッチである。ピッチ測定円Csとは、歯先円よりも小径かつ歯底円よりも大径であって、歯11の配列と同軸の円である。なお破線で表される従来の歯は、標準累積ピッチで配列される。なお図示しない変形例として、累積ピッチ有意差の基準となる1歯は他の歯でもよい。
【0019】
本実施形態において累積ピッチ有意差は、意図的に調整された規則性を有する。具体的に説明すると
図3のグラフに示すように、周方向に連続して配列される歯11,11・・・の累積ピッチ有意差Pc、Pb、Pa、0、Pz、Py、Px、Pwが任意の関数に則ってパターン化される。そして歯車10の全ての歯11は、このパターンを1セットとして、複数セット(例えば5セット)を繰り返すよう配列される。本実施形態の累積ピッチ有意差は、
図3のグラフに示すように正弦波に基づく規則的なものである。パターン化の形態は自由に設定される。Pc、Pb、Pa、0、Pz、Py、Px、Pwの大小関係は最大値と最小値の間で自由に決定される。例えばPc、Pb、Pa、0、Pz、Py、Px、Pwの中の幾つかの数値は等しくてもよい。例えばPc=Pa、Pw=0、Pz=Pxであってもよい。パターン化された差異の当該パターンは、
図3に図示される正弦波に限らず、図示しない三角波、四角波、多角形波、その他の規則波、あるいは1セット内の複数のピッチ有意差が不規則でランダムな差異を有し、あるいは他のパターンであってもよい。
【0020】
本発明の歯車10は、上述した
図3に示す累積ピッチで管理されてもよい他、
図4に示す単一ピッチ、あるいは図示しない隣接ピッチで管理されてもよい。
図4は、1つのセットGを構成する歯11、11・・・の単一ピッチPe、Pf、Pg、Ph、Pi、Pj、Pk、Plを表す図であって、
図2に対応する。
図4を参照して、単一ピッチは、ピッチ測定円Csの円周上において、周方向に隣り合う歯11の周方向一方の歯面とピッチ測定円Csの交差点同士の円弧距離であり、単一ピッチ有意差は均一な標準単一ピッチPsからどれだけ異なるかを示す数値である。均一な標準単一ピッチとは、ピッチ測定円Csの全周距離を歯数で除算した数値をいう。なお破線で表される従来の歯車の歯は、均一な標準単一ピッチで配列される。
【0021】
単一ピッチPe、Pf、Pg、Ph、Pi、Pj、Pk、Plも、意図的に調整された規則性を有する。例えば
図3に示すように正弦波とされ、隣り合う単一ピッチ同士を比べると差異を有する。
図4を参照して、本実形態の歯11には従来の歯車とは異なり、均一な標準単一ピッチとは寸法上の有意差があることがわかる。
【0022】
図4に示す実施形態において、最大値と最小値の差は5~100μmの範囲に含まれる所定値である。かかる差は、歯車10の製作上許容される公差よりも大きいこと勿論である。
図2および後述する
図6に示す実施形態における最大値と最小値の差も、同様である。なお最大値と最小値の差が100μmを超える場合、摩耗等の耐久性の問題から好ましくない。また最大値と最小値の差が5μmを下回る場合、ノイズギャップが大きくなってしまう、つまり従来と略同じになってしまうので好ましくない。
【0023】
図2に実線で示す本発明の実施形態を試作した(実施例1)。また
図2に破線で示す均一なピッチの歯車を準備した(対比例1)。そして実施例1および対比例1の音振レベルの対比試験を行った。実施例1の歯の累積ピッチに関し、最大値と最小値の差は30μmである。対比例1の歯の累積ピッチに関し、全ての歯の累積ピッチは全て標準累積ピッチである。実施例1および対比例1の共通事項として、歯車の歯先円の直径は85mm、歯底円の直径は73mm、歯幅は20mm、製作上の目標値になる累積ピッチと実物の累積ピッチとの誤差量(公差)は10μm以下である。実施例1が噛み合う相手歯車と、対比例1が噛み合う相手歯車は、共通する歯車であり、従来の一般的な標準累積ピッチの歯車である。相手歯車に噛み合わせた状態で、回転数を500rpmで回転させ、噛合音振を計測した。また同時に、人間の耳で噛合音を確認した。
【0024】
図5は噛合音振の測定結果を表すグラフであり、実線が実施例1、破線が対比例1を表す。グラフ中、横軸が周波数[Hz]を、縦軸が噛合音振の大きさ[dB]を表す。実施例1(実線)では対比例1よりも非整数次ノイズが大きくなっており、ノイズギャップが小さくなっていることが理解される。人間の耳で確認したところ、実施例1よりも対比例1の方が騒々しく聞こえた。
【0025】
次に本発明の第2実施形態を説明する。
図6は第2実施形態を示す正面図であって、1セットを構成する歯を取り出して示す拡大図である。
図6中、(A)は一揃えの歯11を表し、(B)は各歯11の差異を対比して表す。第2実施形態では、歯車10を構成する複数の歯11に関し、各歯11の歯形形状に僅かなばらつき、つまりは有意差を持たせる。
【0026】
具体的な例示として、歯形形状に差異をもたせる管理項目は、歯11の歯面の歯形12の歯形勾配を互いに異ならせるものであって、理論的歯形曲線において計算される無修正の形状、または理論的歯形曲線に基づき設計者が設定する修正量が加えられた形状である基準歯形12sに対して、実物の歯形12を有意差Sb、Sc、あるいはSaだけ歯形勾配を急傾斜にしたり、有意差Sb、Sz、あるいはSyだけ歯形勾配を緩傾斜にしたりというような設計歯形形状である。そして各歯11の歯形12の差異を、1つのセットGにおいてパターン化する。
【0027】
歯面の歯形勾配の有意差は、意図的に調整された規則性を有する。
図6(A)を参照して、周方向に連続して配列される歯11,11・・・の歯面の歯形における歯形勾配の有意差Sc、Sb、Sa、0、Sz、Sy、Sx、Swが任意の関数に則ってパターン化される。そして歯車10の全ての歯11は、このパターンを1セットとして、複数セット(例えば5セット)を繰り返すよう配列される。本実施形態の歯面の歯形における歯形勾配の有意差は、
図3のグラフに示すように正弦波に基づく規則的なものであってもよい。
図3中、Pc、Pb、Pa、0、Pz、Py、Px、Pwはそれぞれ、Sc、Sb、Sa、0、Sz、Sy、Sx、Swと読替えられる。なおSc、Sb、Sa、0、Sz、Sy、Sx、Swの中の幾つかの数値は等しくてもよい。例えばSc=Sa、Sw=0、Sz=Sxであってもよい。パターン化された差異の当該パターンは
図3に図示される正弦波に限らず、図示しない三角波、四角波、多角形波、その他の規則波、あるいは1セット内の複数の歯形形状有意差がランダムな差異を有するランダム歯形形状、あるいは他のパターンであってもよい。
【0028】
管理上、有意差Sc、Sb、Sa、0、Sz、Sy、Sx、Swは、歯先円Ctおよび歯形管理円Cdの中間にある測定円Crにおける周方向寸法(直線長さあるいは円弧長)である。測定円Crは例えば、歯先円Ctと歯形管理円Cdの半径差を100%とし、歯形管理円Cdより外径側50~95%の範囲に含まれる所定値を半径とする円である。1つのセットGにおける有意差Sb,Sa,Sz,Syのパターンは、
図3に準じる。なお発明の理解を容易にするため
図6では、歯形形状の有意差が誇張して描かれ、測定円Crを100%とする。
【0029】
ここで附言すると、下限値50%を下回る場合、管理範囲が小さすぎて、本発明の課題になるノイズギャップが十分に減少しない。また上限値95%を上回る場合、管理が現物に反映されず、本発明の課題になるノイズギャップが十分に減少しない。
【0030】
有意差Sb,Sa,Sc,Sz, Sx,Syは2~40μmの範囲に含まれる所定値である。かかる差は、歯車10の製作上許容される公差よりも大きいこと勿論である。なお有意差Sb,Sa,Sz,Syが所定の範囲を上回る場合、摩耗等の耐久性の問題から好ましくなく、所定の範囲を下回る場合、ノイズギャップが大きくなってしまう、つまり従来の歯車と略同じになってしまうので好ましくない。
【0031】
なお図示しない変形例として、歯形形状に差異をもたせる管理項目は、歯11の歯形勾配や、JISB1702「歯形誤差」に分類されるその他もろもろの歯形に関する管理項目であってもよい。あるいは図示しない他の変形例として、歯11の歯すじ形状に差異をもたせてもよい。歯すじ形状に差異をもたせる管理項目は例えば、クラウニング中心位置であったり、あるいは歯すじ傾斜であったり、あるいは他のクラウニング、あるいはJISB1702「歯すじ誤差」に分類されるその他もろもろの歯すじに関する管理項目であってもよい。
【0032】
図6(A)に実線で示す本発明の実施形態を試作した(実施例2)。また
図6(A)に破線で示す均一歯形の歯車を準備した(対比例2)。そして実施例2および対比例2の音振レベルの対比試験を行った。実施例2および対比例2の共通事項として、歯車の歯先円の直径は85mm、歯底円の直径は73mm、歯幅は20mm、製作上の目標値になる歯形と実物の歯形との誤差量(公差)は10μm以下である。実施例2が噛み合う相手歯車と、対比例2が噛み合う相手歯車は、共通する歯車であり、従来の一般的な均一歯形の歯車である。相手歯車に噛み合わせた状態で、回転数を500rpmで回転させ、噛合音振を計測した。また同時に、人間の耳で噛合音を確認した。
【0033】
図7は噛合音振の測定結果を表すグラフであり、実線が実施例2、破線が対比例2を表す。グラフ中、横軸が周波数[Hz]を、縦軸が噛合音振の大きさ[dB]を表す。実施例2(実線)では対比例2よりも非整数次ノイズが大きくなっており、ノイズギャップが小さくなっていることが理解される。人間の耳で確認したところ、実施例2よりも対比例2の方が騒々しく聞こえた。
【0034】
次に、本実施形態の歯車を作成するための切削工具につき説明する。
【0035】
図8は、
図1に示す歯車10を切削する切削工具60である。切削工具60は、外歯車形状をしており、歯車の歯と同等の形状である切削歯61を有する。なお図示しない変形例として、本発明の切削工具は内歯歯車形状であってもよい。
【0036】
図8に示す切削工具60も、前述した歯車10と同様、
図2、
図4、または
図6に示すように所定個数の切削歯を1セットとし、1セットないし複数セットの歯を周方向に繰り返す。
図8に示す実施形態では、歯数は総数40であり、1セットの歯数は8であり、5セット繰り返す。歯車10の製造において、仕上げ段階の高精度の切削・研削において使用される切削工具60は、歯車10が有するセット内の歯数と同一の数量の切削歯61のセットを有し、1セットないし複数セットの切削部を周方向に繰り返す。
【0037】
切削歯61の輪郭形状は、上述した歯11に対応する。つまり互いに噛合する歯車対のように切削歯61は、切削歯61が歯車を加工する際に描く軌跡の輪郭形状が歯11と一致するように作られた歯車の歯の形状をしている。そして全ての切削歯61が、
図3に示す規則的な差異にパターン化され、隣り合う切削歯61,61同士が少しずつ異なる形状にされる。
【0038】
切削工具60は、被加工歯車に圧接されながら被加工歯車とともに回転する。かかる際に、切削工具60は被加工歯車の表面から余分な肉を除去し、具体的には仕上げ切削・研削・研磨・ドレスすることにより、セットGの歯11を成形する。切削工具60は、歯車のホーニング加工、スカイビング加工、ギヤシェーパー加工またはシェービング加工に使用されることから、ドレッサー、砥石、ピニオンカッターまたはシェービングカッターともいう。
【0039】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、機械要素において有利に利用される。
【符号の説明】
【0041】
10 歯車、 12 歯面の実際の歯形(歯形勾配)、 12s 基準歯形、 60 切削工具、 61 切削歯、 Cs 中間円、 G 歯の1セット。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯を備える歯車であって、
連続して配列される複数の前記歯を1セットとし、
前記セットは、隣り合う前記歯の形状および/またはピッチに製造公差を超える差異を有し、
前記セットを複数繰り返し有する歯車。
【請求項2】
前記差異は、
前記形状にあっては、歯面の歯形における歯形勾配、歯形凹凸、歯すじ形状における歯すじ傾斜、クラウニング中心位置、クラウニング量、
前記ピッチにあっては、単一ピッチ、隣接ピッチ、累積ピッチ、
の中から選択される少なくとも1つにおける差異である、請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
前記セット内において周方向に連続する複数の前記差異は、パターン化された規則性を有する、請求項1または2に記載の歯車。
【請求項4】
複数の切削歯を備える歯車形状の切削工具であって、
連続して配列される複数の前記切削歯を1セットとし、
前記セットは、隣り合う前記切削歯の形状および/またはピッチに差異を有し、
前記セットを1または複数繰り返し有する切削工具。
【請求項5】
前記差異は、
前記形状にあっては、歯面の歯形における歯形勾配、歯形凹凸、歯すじ形状における歯すじ傾斜、クラウニング中心位置、クラウニング量、
前記ピッチにあっては、単一ピッチ、隣接ピッチ、累積ピッチ、
の中から選択される少なくとも1つにおける差異である、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記セット内において周方向に連続する複数の前記差異は、パターン化された規則性を有する、請求項4または5に記載の切削工具。