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特開2023-95215タイヤ劣化推定システム、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095215
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】タイヤ劣化推定システム、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20230629BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 B
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210970
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛篤
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA02
3D131LA05
3D131LA06
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤの劣化推定の精度を向上することができるタイヤ劣化推定システム、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システムを提供する。
【解決手段】タイヤ劣化推定システム100は、センサ20および劣化推定部32を備える。センサ20は、タイヤ10に配設されており、タイヤ10の変形に関わる物理量を計測する。劣化推定部32は、センサ20により計測された物理量を学習型の演算モデル32aに入力してタイヤ10の劣化指標値を推定する。演算モデル32aは、センサ20により計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに配設されており、タイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサと、
前記センサにより計測された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定部と、を備え、
前記演算モデルは、前記センサにより計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部を有することを特徴とするタイヤ劣化推定システム。
【請求項2】
前記センサは、加速度センサ、歪ゲージおよび圧電センサの少なくともいずれか1つを有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項3】
前記特徴抽出部は、前記センサで計測された物理量の時系列的に並んだデータに対して、フィルタを移動させて演算することを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項4】
前記劣化指標値は、多段階の値であり、
前記演算モデルは、前記劣化指標値の各段階における確率を出力することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項5】
前記劣化指標値は、劣化年数であることを特徴とする請求項4に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項6】
タイヤに配設されたセンサからタイヤの変形に関わる物理量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定ステップと、を備え、
前記演算モデルは、前記取得ステップにより取得した物理量の特徴量を抽出することを特徴とするタイヤ劣化推定方法。
【請求項7】
タイヤに配設されており、タイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサと、
前記センサにより計測された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定部と、
前記劣化推定部によって推定されたタイヤの劣化指標値を蓄積する蓄積部と、
前記蓄積部により蓄積したタイヤの劣化指標値を報知する報知部と、
を備え、
前記演算モデルは、前記センサにより計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部を有することを特徴とするタイヤ劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ劣化推定システム、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、走行環境や経年に応じて劣化が進行し、タイヤが固くなって車両の制動およびコーナーリング等の運動に影響を及ぼすことが知られている。近年では、タイヤ物性の劣化進行を推定する技術の開発が行われている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ劣化の予測システムが記載されている。この予測システムは、タイヤ状態または車両走行状態を示す少なくともタイヤ内圧情報を含む特性値を計測するタイヤ状態計測手段と、タイヤ状態計測手段によって計測された特性値に基づき、ケース内の少なくとも1か所の温度履歴を推定する温度履歴推定手段と、少なくとも温度履歴推定手段によって推定された温度履歴及びタイヤ内圧情報に基づき、タイヤ内空気温度に起因して劣化し得る少なくとも1つのケース構成部材についての、少なくとも1つの現在の物性値を推測する部材物性推測手段と、部材物性推測手段により推測された現在の物性値が、予め設定された限界物性値に達するまでの、タイヤの走行可能距離を予測する残り走行可能距離予測手段と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-46879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ劣化の予測システムでは、タイヤの内圧情報および温度履歴に基づいてタイヤ物性値を推測し限界物性値に達するまでに走行可能な距離を予測する。本願発明者は、走行時のタイヤの動きに伴う伸縮などの変形によって生じる機械的な疲労によってもタイヤ劣化が進行することから、タイヤの劣化推定に改善の余地があることに気づいた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤの劣化推定の精度を向上することができるタイヤ劣化推定システム、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はタイヤ劣化推定システムである。タイヤ劣化推定システムは、タイヤに配設されており、タイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサと、前記センサにより計測された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定部と、を備え、前記演算モデルは、前記センサにより計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部を有する。
【0008】
本発明の別の態様はタイヤ劣化推定方法である。タイヤ劣化推定方法は、タイヤに配設されたセンサからタイヤの変形に関わる物理量を取得する取得ステップと、前記取得ステップにより取得された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定ステップと、を備え、前記演算モデルは、前記取得ステップにより取得した物理量の特徴量を抽出する。
【0009】
本発明の更に別の態様はタイヤ劣化診断システムである。タイヤ劣化診断システムは、タイヤに配設されており、タイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサと、前記センサにより計測された物理量を学習型の演算モデルに入力してタイヤの劣化指標値を推定する劣化推定部と、前記劣化推定部によって推定されたタイヤの劣化指標値を蓄積する蓄積部と、前記蓄積部により蓄積したタイヤの劣化指標値を報知する報知部と、を備え、前記演算モデルは、前記センサにより計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤの劣化推定の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るタイヤ劣化推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】演算モデルの構成を示す模式図である。
図3】演算モデル生成システムの機能構成を示すブロック図である。
図4】タイヤ劣化推定システムによるタイヤ劣化推定処理の手順を示すフローチャートである。
図5】タイヤ劣化推定システムによる劣化指標値推定の検証結果の例を示す図表である。
図6】変形例に係るタイヤ劣化診断システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図6を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るタイヤ劣化推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20およびタイヤ劣化推定装置30を備える。センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ10内で発生する荷重などタイヤ10の変形に関わる物理量を計測しており、計測したデータをタイヤ劣化推定装置30へ出力する。
【0014】
タイヤ劣化推定装置30は、センサ20で計測されたタイヤ10の変形に関わる物理量に基づいて、タイヤ10の劣化年数などの劣化指標値を推定する。タイヤ劣化推定装置30は、車両加速度等の情報を車両側から取得し、タイヤ10の劣化指標値を推定する演算に用いてもよい。
【0015】
センサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22および圧電センサ23等を有し、タイヤ10における物理量を計測する。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0016】
加速度センサ21、歪ゲージ22および圧電センサ23は、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、それぞれタイヤ10に生じる加速度および歪量を計測する。加速度センサ21は、例えばタイヤ10のトレッド、サイド、ビードおよびホイール等に配設されており、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。
【0017】
歪ゲージ22は、タイヤ10のトレッド、サイドおよびビード等に配設されており、配設箇所での歪を計測する。圧電センサ23は、タイヤ10のトレッド、サイドおよびビード等に配設されており、配設箇所で発生する荷重を計測し、電気信号に変換して出力する。タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。
【0018】
タイヤ劣化推定装置30は、データ取得部31および劣化推定部32を有する。タイヤ劣化推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。タイヤ劣化推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0019】
データ取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、歪およびタイヤ10内で発生する荷重の情報を取得する。劣化推定部32は、演算モデル32aを有し、データ取得部31からの情報を演算モデル32aに入力し、タイヤ10の劣化年数などの劣化指標値を推定する。
【0020】
演算モデル32aは、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。図2は、演算モデル32aの構成を示す模式図である。演算モデル32aは、CNN(Convolutional Neural Network)型であり、その原型であるいわゆるLeNetで使用された畳み込み演算およびプーリング演算を備える学習型モデルである。図2では演算モデル32aへの入力データとして3軸方向の加速度データを用い、劣化年数Y1からYnである確率を出力する例を示している。
【0021】
演算モデル32aは、入力層50、特徴抽出部51、中間層52、全結合部53および出力層54を備える。入力層50には、データ取得部31で取得した3軸方向の加速度等の時系列データが入力される。例えば加速度データはセンサ20において時系列的に計測されており、一定の時間区間のデータを窓関数によって切り出して入力データとする。入力データは、例えば各軸方向において一定の時間区間に含まれる64個の加速度データとする。入力データは、センサ20で歪および荷重が計測される場合も同様に、一定の時間区間で切り出した時系列的に並んだデータである。
【0022】
タイヤ10で計測される加速度はタイヤ10の1回転ごとに周期性がある。窓関数によって切り出す入力データの時間区間は、例えばタイヤ10の回転周期に相当する時間とし、入力データ自体に周期性を持たせるとよい。尚、窓関数は、タイヤ10の1回転分よりも短い時間区間または長い時間区間における入力データを切り出すようにしてもよく、少なくとも切り出した入力データに周期的な情報が含まれていれば演算モデル32aの学習が可能である。
【0023】
特徴抽出部51は、畳み込み演算51aおよびプーリング演算51bを用いて特徴量を抽出し、中間層52の各ノードへ伝達する。図3に示す特徴抽出部51の例では、入力されたデータについて20個のフィルタを用いて1回目の畳み込み演算を実行する。畳み込み演算51aは、加速度データなどの時系列の入力データに対してフィルタを移動させながら、畳み込み演算を実行する。畳み込み演算51aは、複数の入力データである3軸方向の加速度データのそれぞれに対して実行されるが、各軸方向ともに同じフィルタを用いて共通化することによって演算規模を低減することができる。
【0024】
畳み込み演算51aにおいて、フィルタ長は5としているが、適宜1~5程度の大きさとすればよい。尚、畳み込み演算は、時系列の入力データにおける連続するフィルタ長分のデータ(例えばA1,A2,A3)に、フィルタ内の各値(f1,f2,f3)をそれぞれ乗算し、乗算して得られた値を加算し、A1×f1+A2×f2+A3×f3とする。尚、入力データの端に「0(ゼロ)」のデータを付加するゼロパティングを行って、畳み込み演算を実行するようにしてもよい。また、畳み込み演算におけるフィルタの移動量は、通常、1入力データとされるが、演算モデル32aを小さくするために、適宜変更することが可能である。
【0025】
プーリング演算51bは、1回目の畳み込み演算後のデータに対して、1回目の最大値プーリング演算を実行する。プーリング演算51bは、例えば時系列的に並んだ2つの値のうち大きい値を選択するものとする。
【0026】
2回目の畳み込み演算51cは、プーリング演算51b後のデータに対して、例えば50個のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する。畳み込み演算51cにおけるフィルタ長は、畳み込み演算51aと同じとしてもよいし、異なる長さとしてもよい。畳み込み演算51cについても、各軸方向ともに同じフィルタを用いて共通化することによって演算規模を低減することができる。
【0027】
プーリング演算51dは、畳み込み演算51c後のデータに対して、2回目の最大値プーリング演算を実行する。プーリング演算51dは、プーリング演算51bと同様に、例えば時系列的に並んだ2つの値のうち大きい値を選択するものとする。特徴抽出部51は、畳み込み演算およびプーリング演算によって、64データを演算結果として取得して中間層52の各ノードへ出力する。
【0028】
全結合部53は、中間層52の各ノードからのデータを2階層で全結合し、劣化指標値としての劣化年数Y1からYnである確率を出力層54の各ノードへ出力する。全結合部53は、重みづけを用いた線形演算等を実行する全結合のパスによる演算を実行するが、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0029】
図3は、演算モデル生成システム110の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成システム110は、学習処理部71を有する演算モデル生成装置70を備える。演算モデル生成装置70は、タイヤ劣化推定装置30の各構成に加えて学習処理部71を有する。演算モデル生成装置70におけるタイヤ劣化推定装置30の各構成に相当する部分は、タイヤ劣化推定装置30のそれらと同等の機能を有するが、演算モデル32aは学習前または学習中のものとなる。
【0030】
学習処理部71は、学習中に用いているタイヤ10の劣化年数を教師データとして用い、演算モデル32aを学習させる。タイヤ10の劣化年数は、例えばタイヤ10のゴム材質が空気に曝されることによって劣化する劣化指標値を示している。具体的には、製造直後に空気に曝された期間が1年未満の新品タイヤ、1年以上2年未満の経時2年タイヤ、2年以上3年未満の経時3年タイヤなどを用意し、劣化年数F1、F2、・・・、Fnと対応付ける。
【0031】
学習処理部71は、例えば、新品タイヤによる学習では、劣化年数F1の確率を1、劣化年数F2からFnの確率を0とする教師データを用い、演算モデル32aによる推定結果と教師データを比較し、演算モデル32aを学習させる。また学習処理部71は、経時2年タイヤによる学習では、劣化年数F2の確率を1、その他の劣化年数の確率を0とする教師データを用いて、演算モデル32aを学習させる。同様にして、学習処理部71は、経時3年タイヤ、経時4年タイヤなどを用いて演算モデル32aを学習させることができる。
【0032】
学習処理部71は、演算モデル32aによって推定したタイヤ10の劣化指標値と教師データとを比較し、重みづけ等の演算過程における各種係数を演算モデル32aに新たに設定し、モデルの更新を繰り返すことで学習を実行する。タイヤ劣化推定システム100は、演算モデル生成システム110によって学習済みの演算モデル32aを用いてタイヤ10の劣化指標値を推定する。
【0033】
演算モデル32aは、各仕様のタイヤ10(ホイールを含む)での回転試験において演算モデル32aの学習を実行することができる。ただし、厳密にタイヤ10の仕様ごとに演算モデル32aの学習を実行する必要性はない。演算モデル32aは、推定結果の劣化指標値が一定の誤差範囲内で推定できれば良いと考えて、例えば乗用車用タイヤ、トラック用タイヤなどのタイプ別に構築してもよいし、タイヤの材質に基づいてタイプを分けて各タイプ別に構築してもよい。演算モデル32aは、複数の仕様に含まれるタイヤ10に対して1つの演算モデル32aを共用し、演算モデル数を低減してもよい。
【0034】
学習処理部71は、実際にタイヤ10を装着した車両を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0035】
次にタイヤ劣化推定システム100の動作を説明する。図4は、タイヤ劣化推定システム100によるタイヤ劣化推定処理の手順を示すフローチャートである。タイヤ劣化推定装置30のデータ取得部31は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度および歪、タイヤ10で発生する荷重などの物理量を時系列データとして取得する(S1)。
【0036】
劣化推定部32は、データ取得部31において取得されたデータから一定の時間区間の入力データを抽出する(S2)。タイヤ10の劣化指標値の推定においては、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ10で発生する荷重のうち少なくとも1つを演算モデル32aへの入力データとして用いる。また、タイヤ10の劣化指標値の推定においては、上述の加速度、歪および荷重について、1軸方向、任意の組合せによる2軸方向、または3軸方向のデータを入力データとして用いる。
【0037】
演算モデル32aの特徴抽出部51は、入力データに対する畳み込み演算およびプーリング演算によって、特徴量を抽出する処理を実行する(S3)。演算モデル32aの全結合部53は、特徴抽出部51において抽出され中間層52の各ノードへ入力された特徴量に対して全結合による演算を実行する(S4)。全結合演算において用いる重みづけ等のパラメータは、演算モデル32aの学習において決定されている。劣化推定部32は、演算モデル32aの全結合演算によって、劣化指標値である劣化年数F1からFnである各確率を算出し、最も確率の高い劣化指標値を出力し(S5)、処理を終了する。
【0038】
タイヤ劣化推定システム100の劣化推定部32は、畳み込み演算によって特徴量を抽出する特徴抽出部51を有する演算モデル32aを用いてタイヤ10の劣化指標値を推定することによって、タイヤ10の劣化推定の精度を向上することができる。例えばタイヤ10のゴム材質が経年劣化によって硬度が増した場合、タイヤ10の変形に関わる物理量のデータが硬度変化に応じて変化する。タイヤ劣化推定システム100は、特徴抽出部51によって硬度変化などの影響を特徴量として抽出することで、タイヤ10の劣化年数などの劣化指標値を推定することができると考えられる。
【0039】
タイヤ劣化推定システム100のセンサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22および圧電センサ23の少なくともいずれか1つを有する。データ取得部31は、タイヤ10で計測される加速度、歪および圧電センサ23で計測されるタイヤ10内の荷重を取得し、演算モデル32aへの入力データとする。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10の硬度変化などの劣化要因の影響を受ける加速度、歪および荷重の計測データに基づいて、タイヤ10の劣化指標値を推定することができる。
【0040】
演算モデル32aの特徴抽出部51は、センサ20で計測された加速度、歪および荷重などの物理量に関する時系列的に並んだデータに対して、フィルタを移動させて畳み込み演算を実行する。タイヤ劣化推定システム100は、時系列的に並んだデータに対してもフィルタによる演算を実行することによって、加速度、歪および荷重などの物理量に対して特徴量を抽出することができる。
【0041】
タイヤ劣化推定システム100の劣化推定部32は、演算モデル32aの出力として、多段階の値として定義される劣化指標値に対する確率を用いることによって、タイヤ10が劣化の程度のどの段階にあるかを推定することができる。劣化推定部32は、例えば、劣化指標値として劣化年数を用いることにより、新品タイヤ、経時2年のタイヤなどのユーザに分かり易い尺度で推定結果を提示することができる。
【0042】
図5はタイヤ劣化推定システム100による劣化指標値推定の検証結果の例を示す図表である。図5に示す例では、新品タイヤ、経時2年から経時5年のタイヤに対して、加速度センサ21、歪ゲージ22および圧電センサ23による計測データそれぞれを用いた場合に劣化推定部32が正答を推定した確率(以下、正答率と表記する)を示している。正答率は1のときに全て正答であったことを意味する。
【0043】
加速度センサ21によって計測された加速度データを演算モデル32aの入力とした場合、劣化推定部32の正答率は経時5年タイヤで0.9と低めであるが、高い確率でタイヤの劣化年数を推定していることが分かる。また歪ゲージ22および圧電センサ23による計測データを演算モデル32aの入力とした場合、劣化推定部32の正答率は有効桁において1.00となっており、非常に高い確率でタイヤ10の劣化年数を推定していることが分かる。
【0044】
例えば加速度センサ21によって所定期間(例えば数10分から数時間)計測された加速度データについて、窓関数によって切り出した入力データのセットを複数用意し、劣化推定部32によって、各セットに対して劣化指標値を推定する。劣化推定部32は、入力データの各セットに対して推定した劣化指標値のうち、最も頻度の高い劣化指標値を推定結果とするとよい。
【0045】
(変形例)
図6は、変形例に係るタイヤ劣化診断システム120の機能構成を示すブロック図である。タイヤ劣化診断システム120は、タイヤ劣化推定装置30に蓄積部33および報知部34を備え、推定したタイヤ10の劣化指標値を診断結果として外部へ提供する。蓄積部33は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置を有し、劣化推定部32によって推定されたタイヤ10の劣化指標値を蓄積する。
【0046】
報知部34は、液晶ディスプレイ等の表示装置やスピーカ等の音声出力装置を備え、蓄積部33に蓄積されたタイヤ10の劣化指標値の情報を表示または音声出力する。また報知部34は、例えば車両内のCAN通信を経由して車両制御装置80へ、蓄積部33に蓄積されたタイヤ10の劣化指標値を提供する。また報知部34は、無線または有線通信によって通信接続されるサーバ装置81へ、蓄積部33に蓄積されたタイヤ10の劣化指標値を提供する。
【0047】
車両制御装置80は、タイヤ劣化推定装置30から入力されたタイヤ10の劣化指標値を、例えば制動距離の推定、車両制御への適用、更には車両の安全走行に関する情報の運転者への報知などに用いる。また車両制御装置80は、地図情報や気象情報などを用いて、将来における車両の安全走行に関する情報を提供することもできる。
【0048】
サーバ装置81は、タイヤ劣化推定装置30から入力されたタイヤ10の劣化指標値を、例えば表示装置に表示し、タイヤ交換やタイヤローテーションなどの計画立案における情報をユーザに提供する。タイヤ劣化診断システム120は、推定したタイヤ10の劣化指標値を報知部34によって外部へ報知することによって、車両の制御に用いたり、ユーザによるタイヤ交換等の計画立案に有用な情報を提供することができる。
【0049】
上述の実施形態および変形例において、演算モデル32aはCNN型LeNetモデルを用いたが、いわゆるDenseNetモデル、ResNetモデル、MobileNetモデルやPeleelNetモデルなどのモデル構造を用いてもよい。また演算モデル32a中にDense Block、Residual Block、Stem Blockなどのモジュール構造を取り入れてモデルを構築してもよい。
【0050】
次に実施形態に係るタイヤ劣化推定システム100、タイヤ劣化推定方法およびタイヤ劣化診断システムの特徴について説明する。
実施形態に係るタイヤ劣化推定システム100は、センサ20および劣化推定部32を備える。センサ20は、タイヤ10に配設されており、タイヤ10の変形に関わる物理量を計測する。劣化推定部32は、センサ20により計測された物理量を学習型の演算モデル32aに入力してタイヤ10の劣化指標値を推定する。演算モデル32aは、センサ20により計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部51を有する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10の劣化推定の精度を向上することができる。
【0051】
またセンサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22および圧電センサ23の少なくともいずれか1つを有する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、加速度、歪および荷重の計測データに基づいて、タイヤ10の劣化指標値を推定することができる。
【0052】
また特徴抽出部51は、センサ20で計測された物理量の時系列的に並んだデータに対して、フィルタを移動させて演算する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、時系列的に並んだデータに対してもフィルタによる演算を実行することによって、加速度、歪および荷重などの物理量に対して特徴量を抽出することができる。
【0053】
また劣化指標値は多段階の値であり、演算モデル32aは、劣化指標値の各段階における確率を出力する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10が劣化の程度のどの段階にあるかを推定することができる。
【0054】
また劣化指標値は劣化年数である。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、ユーザに分かり易い尺度で推定結果を提示することができる。
【0055】
タイヤ劣化推定方法は、取得ステップおよび劣化推定ステップを備える。取得ステップは、タイヤ10に配設されたセンサ20からタイヤ10の変形に関わる物理量を取得する。劣化推定ステップは、取得ステップにより取得された物理量を学習型の演算モデル32aに入力してタイヤ10の劣化指標値を推定する。演算モデル32aは、取得ステップにより取得した物理量の特徴量を抽出する。このタイヤ劣化推定方法によれば、タイヤ10の劣化推定の精度を向上することができる。
【0056】
タイヤ劣化診断システム120は、センサ20、劣化推定部32、蓄積部33および報知部34を備える。センサ20は、タイヤ10に配設されており、タイヤ10の変形に関わる物理量を計測する。劣化推定部32は、センサ20により計測された物理量を学習型の演算モデル32aに入力してタイヤ10の劣化指標値を推定する。蓄積部33は、劣化推定部32によって推定されたタイヤ10の劣化指標値を蓄積する。報知部34は、蓄積部33により蓄積したタイヤ10の劣化指標値を報知する。演算モデル32aは、センサ20により計測された物理量の特徴量を抽出する特徴抽出部51を有する。これにより、タイヤ劣化診断システム120は、推定したタイヤ10の劣化指標値を報知部34によって外部へ報知することで、車両の制御に用いたり、ユーザによるタイヤ交換等の計画立案に有用な情報を提供することができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0058】
10 タイヤ、 20 センサ、 21 加速度センサ、 22 歪ゲージ、
23 圧電センサ、 32 劣化推定部、 32a 演算モデル、 33 蓄積部、
34 報知部、 51 特徴抽出部、 100 タイヤ劣化推定システム、
120 タイヤ劣化診断システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6