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特開2023-95216タイヤ摩耗量推定システムおよび演算モデル運用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095216
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】タイヤ摩耗量推定システムおよび演算モデル運用方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20230629BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230629BHJP
   B60C 11/24 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
B60C11/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210971
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 壮至
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131EC24Z
3D131LA02
3D131LA05
3D131LA06
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】運用時に演算モデルを選択し、摩耗量推定データの提供を維持することができるタイヤ摩耗量推定システムおよび演算モデル運用方法を提供する。
【解決手段】タイヤ摩耗量推定システム100において、データ取得部12は、車両および車両に装着されたタイヤ7に関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得する。摩耗量算出部14は、データ取得部12により取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bを有し、タイヤ摩耗量を算出する。判定部13は、データ取得部12により取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する。摩耗量算出部14は、判定部13による判定結果に基づいて、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両および車両に装着されたタイヤに関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデルおよび欠損値非対応演算モデルを有し、タイヤ摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記データ取得部により取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する判定部と、を備え、
前記摩耗量算出部は、前記判定部による判定結果に基づいて、前記欠損値対応演算モデルおよび前記欠損値非対応演算モデルのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出することを特徴とするタイヤ摩耗量推定システム。
【請求項2】
前記判定部により未学習のカテゴリ変数が含まれていると判定した場合に、前記欠損値非対応演算モデルを学習させる学習処理部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ摩耗量推定システム。
【請求項3】
前記摩耗量算出部は、前記学習処理部による学習が所定期間を経過した後、前記欠損値非対応演算モデルによってタイヤ摩耗量を算出することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ摩耗量推定システム。
【請求項4】
前記摩耗量算出部は、前記欠損値非対応演算モデルでの推定結果が前記欠損値対応演算モデルでの推定結果よりも良好となった後、欠損値非対応演算モデルによってタイヤ摩耗量を算出することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ摩耗量推定システム。
【請求項5】
前記欠損値対応演算モデルは決定木モデルであり、前記欠損値非対応演算モデルはニューラルネットワークモデルであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗量推定システム。
【請求項6】
車両および車両に装着されたタイヤに関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップにより取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデルおよび欠損値非対応演算モデルを用いてタイヤ摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、
前記データ取得ステップにより取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する判定ステップと、を備え、
前記摩耗量算出ステップは、前記判定ステップによる判定結果に基づいて、前記欠損値対応演算モデルおよび前記欠損値非対応演算モデルのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出することを特徴とする演算モデル運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの摩耗量を推定するタイヤ摩耗量推定システムおよび演算モデル運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1にはタイヤの摩耗量を推定する従来の摩耗量推定システムが記載されている。この摩耗量推定システムは、タイヤ情報取得部、タイヤ過酷度算出部および摩耗量算出部を備える。タイヤ情報取得部は、車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得する。タイヤ過酷度算出部は、タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出する。摩耗量算出部は、タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、タイヤ過酷度を入力して演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-070341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の摩耗量推定システムは、予め学習させた演算モデルに基づいてタイヤの摩耗量を推定する。本発明者は、学習型の演算モデルの学習が実施されていない車両やタイヤに対して、演算モデルによるタイヤ摩耗量の推定を行うような場合にも、初期の段階では必ずしも良好な推定精度になるとは限らないものの、車両の走行を通じて学習を進めることは可能であり、学習型の演算モデルの運用において改善の余地があることに気づいた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運用時に演算モデルを選択し、摩耗量推定データの提供を維持することができるタイヤ摩耗量推定システムおよび演算モデル運用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のタイヤ摩耗量推定システムは、車両および車両に装着されたタイヤに関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部により取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデルおよび欠損値非対応演算モデルを有し、タイヤ摩耗量を算出する摩耗量算出部と、前記データ取得部により取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する判定部と、を備え、前記摩耗量算出部は、前記判定部による判定結果に基づいて、前記欠損値対応演算モデルおよび前記欠損値非対応演算モデルのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出する。
【0008】
本発明の別の態様は演算モデル運用方法である。演算モデル運用方法は、車両および車両に装着されたタイヤに関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップにより取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデルおよび欠損値非対応演算モデルを用いてタイヤ摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、前記データ取得ステップにより取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する判定ステップと、を備え、前記摩耗量算出ステップは、前記判定ステップによる判定結果に基づいて、前記欠損値対応演算モデルおよび前記欠損値非対応演算モデルのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運用時に演算モデルを選択し、摩耗量推定データの提供を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るタイヤ摩耗量推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】車載計測装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】欠損値非対応演算モデルの摩耗量推定および学習について説明するための模式図である。
図4】タイヤ摩耗量推定システムによる摩耗量推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図4を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るタイヤ摩耗量推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ摩耗量推定システム100は、タイヤ摩耗量計測装置60、車載計測装置70、気象情報サーバ装置80および摩耗量推定装置10を備え、タイヤ7の摩耗量を推定する。タイヤ摩耗量推定システム100は、学習型の演算モデルの学習が実施されていない車両やタイヤに対しても適用することができ、運用時に演算モデルを選択し、摩耗量推定データの提供を維持することができる。
【0013】
タイヤ摩耗量計測装置60は、車両を走行させる運用時において、例えば所定期間ごとに複数回に亘って、タイヤ7のトレッドに設けられた溝の深さを直接計測し、タイヤ7の摩耗量を取得する。所定期間は例えば数週間から数か月とするが、これに限られるものではない。タイヤ摩耗量計測装置60は、計測されたタイヤ7の摩耗量のデータを通信ネットワーク9を介して摩耗量推定装置10へ送信する。作業者が計測器具やカメラ、目視等によって各溝の深さを計測し、タイヤ摩耗量計測装置60は、作業者が入力する計測データを記憶するものであってもよい。また、タイヤ摩耗量計測装置60は、機械的あるいは光学的な方法によって溝の深さを計測して摩耗量を記憶する専用の装置であってもよい。
【0014】
具体的には、タイヤ摩耗量計測装置60は、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測する。これにより、タイヤの幅方向または周方向での偏摩耗データもタイヤ摩耗量計測装置60に記憶される。なお、タイヤ摩耗量計測装置60は、タイヤの摩耗で直径が変わるため、走行距離とタイヤの回転数・速度の情報から計算によって溝の深さを間接的に計測してもよい。加えて、溝の深さを直接計測するものに、走行距離とタイヤの回転数・速度から計算によって予測するもの、とを併用してもよい。
【0015】
図2は、車載計測装置70の機能構成を示すブロック図である。車載計測装置70は、車両計測部71、タイヤ計測部72、情報取得部73および通信部74を備える。車載計測装置70における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
車両計測部71は、車両に搭載された速度メータ71a、GPS受信機71bおよび加速度センサ71cを有する。速度メータ71aは、車両の速度を計測する。GPS受信機71bは、車両の現在の位置情報(緯度、経度および高度)を計測する。加速度センサ71cは、車両の3軸方向の加速度を計測する。
【0017】
タイヤ計測部72は、温度センサ72aおよび圧力センサ72bを有する。温度センサ72aおよび圧力センサ72bは、車両に装着されたタイヤ7のエアバルブ等に配設されていたり、あるいはベルト等でホイールに強固に巻き付け固定されており、タイヤ7の温度および空気圧を計測する。温度センサ72aは、タイヤ7のインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0018】
情報取得部73は、車両計測部71で計測された車両計測情報(速度、位置情報、加速度等)およびタイヤ計測部72で計測されたタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を取得する。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報に含まれる各計測データに対して、計測された時刻情報、または取得した時刻情報を対応付ける。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報を各計測データに対応付けられた時刻情報とともに通信部74から摩耗量推定装置10へ送信する。
【0019】
情報取得部73は、車両にデジタルタコメータ等の装置が搭載されている場合には、当該装置において収集した車両の速度、加速度および位置情報等を取得するようにしてもよい。通信部74は、例えばWiFi(登録商標)等の無線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、情報取得部73が取得した車両計測情報、タイヤ計測情報および時刻情報を通信ネットワーク9を介して摩耗量推定装置10へ送信する。
【0020】
図1に戻り、気象情報サーバ装置80は各地における気象情報を提供する。気象情報サーバ装置80が提供する気象情報は、各地における降水量、積雪量、降雪量、気温および日照時間等を含む情報である。摩耗量推定装置10は、気象情報サーバ装置80から車両が走行している場所における気象情報を取得する。
【0021】
摩耗量推定装置10は、通信部11、データ取得部12、判定部13、摩耗量算出部14、記憶部15および学習処理部16を備える。摩耗量推定装置10における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0022】
通信部11は、無線または有線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、車載計測装置70の通信部74との間で通信する。また通信部11は、通信ネットワーク9を介して気象情報サーバ装置80との間で通信する。
【0023】
データ取得部12は、車両に搭載された車載計測装置70から送信された車両計測情報(速度、位置情報、加速度等)およびタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を取得する。データ取得部12は、車両計測情報に基づいて車両の走行距離を算出して取得する。
【0024】
データ取得部12は、車両計測情報の位置情報に基づいて走行距離を算出して取得することができる。また、車両の走行距離は、車両計測情報における速度のデータと、当該データに対応付けられた時刻のデータに基づいて算出してもよい。即ち、時系列的に並んだ速度データに、次の時点までの時間差分を乗算することによって車両の走行距離を算出することができる。
【0025】
データ取得部12は、車両の走行距離に関する情報が、車両または車両管理用の外部装置等から提供されていれば、自ら走行距離を算出する必要はなく、車両または外部装置から走行距離に関する情報を取得してもよい。
【0026】
データ取得部12は、取得した走行距離を摩耗量算出部14へ出力する。データ取得部12は、取得したタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を摩耗量算出部14へ出力する。データ取得部12は、摩耗量算出部14において車両の加速度を入力要素として用いる演算モデルに基づくタイヤの摩耗量推定を行う場合、車両計測情報における加速度のデータを摩耗量算出部14へ出力する。
【0027】
またデータ取得部12は、車両仕様データ15aおよびタイヤ仕様データ15bのうちタイヤ7の摩耗量の推定に用いるデータを記憶部15から取得し、判定部13および摩耗量算出部14へ出力する。記憶部15は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置であり、予め各種の車両およびタイヤ7の仕様に関して提供されているデータを記憶している。
【0028】
車両仕様データ15aには、例えばメーカー、車種、車両名称、車両型式、車体重量、ドライブトレーン、全長、車幅、車高、最大積載荷重などの車両の性能等に関する情報が含まれる。また、タイヤ仕様データ15bには、例えばメーカー、商品名、タイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、耐摩耗性能、タイヤ強度、静的剛性、動的剛性、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤ7の性能に関する情報が含まれる。車両仕様データ15aおよびタイヤ仕様データ15bは、後述する各演算モデルに入力される説明変数におけるカテゴリ変数の部分に相当している。
【0029】
判定部13は、データ取得部12から入力された車両仕様データ15aおよびタイヤ仕様データ15b、即ちカテゴリ変数が摩耗量算出部14の欠損値非対応演算モデル14bにおいて未学習であるか否かを判定する。判定部13は、判定結果を摩耗量算出部14へ出力する。
【0030】
摩耗量算出部14は、学習型の欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bを有し、どちらかの演算モデルを選択してタイヤ7の摩耗量を算出する。欠損値対応演算モデル14aは、例えば決定木モデルであり、勾配ブースティングなどの手法により学習させる。欠損値非対応演算モデル14bは、ニューラルネットワークであり、例えばCNNなどの畳み込み演算と全結合演算を用いた多層構造を有し、学習によって各層間での結合係数等を決定する。
【0031】
欠損値対応演算モデル14aは、未学習のカテゴリ変数が入力された場合に決定木における当該カテゴリ変数の部分での演算を省略して、結果を出力する性質を有するため、欠損値があっても対応可能な演算モデルであると解される。欠損値非対応演算モデル14bは、未学習のカテゴリ変数が入力された場合にニューラルネットワークの演算過程における各種係数が当該カテゴリ変数に対して学習されていないため、出力結果が必ずしも良好な推定精度になるとは限らず、欠損値に対して非対応な演算モデルであると解される。
【0032】
摩耗量算出部14は、判定部13が学習済みのカテゴリ変数であると判定した場合、欠損値対応演算モデル14aまたは欠損値非対応演算モデル14bのうち摩耗量の推定精度の高い方の演算モデルを用いてタイヤ摩耗量を算出する。摩耗量算出部14は、判定部13が学習済みのカテゴリ変数であると判定した場合、欠損値非対応演算モデル14bのほうがタイヤ摩耗量の推定精度が高いとして、欠損値非対応演算モデル14bによってタイヤ摩耗量を算出するようにしてもよい。また摩耗量算出部14は、判定部13が学習済みのカテゴリ変数であると判定した場合、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのアンサンブルによってタイヤ摩耗量を算出するようにしてもよい。
【0033】
摩耗量算出部14は、判定部13が未学習のカテゴリ変数であると判定した場合、欠損値対応演算モデル14aによってタイヤ摩耗量を算出し、欠損値非対応演算モデル14bに対しては学習処理部16によって学習させる。この場合、摩耗量算出部14は、欠損値非対応演算モデル14bの学習が所定期間(例えば数か月)において行われた後、欠損値対応演算モデル14aから欠損値非対応演算モデル14bに切り替えてタイヤ摩耗量を算出する。
【0034】
また摩耗量算出部14は、欠損値非対応演算モデル14bの学習が進み、欠損値非対応演算モデル14bによるタイヤ摩耗量の推定結果が欠損値対応演算モデル14aによるタイヤ摩耗量の推定結果よりも良好となったときに、欠損値対応演算モデル14aから欠損値非対応演算モデル14bに切り替えてタイヤ摩耗量を算出する。
【0035】
学習処理部16は、通信部11を介してタイヤ摩耗量計測装置60からタイヤ7の摩耗量を取得する。図3は、欠損値非対応演算モデル14bの摩耗量推定および学習について説明するための模式図である。欠損値非対応演算モデル14bの学習過程では、入力データに基づいて欠損値非対応演算モデル14bによって出力データとしてのタイヤ摩耗量を推定し、教師データと比較する。教師データは、タイヤ摩耗量計測装置60によって計測されたタイヤ7の摩耗量を用いる。
【0036】
学習処理部16は、欠損値非対応演算モデル14bによって推定したタイヤ7の摩耗量と教師データとを比較し、重みづけ等の演算過程における各種係数を新たに設定し、演算モデルの更新を繰り返すことで学習を実行する。欠損値非対応演算モデル14bへの入力データは、概ね車両計測情報、タイヤ計測情報、およびその他情報の各系統に分類される。
【0037】
車両計測情報関連およびタイヤ計測情報関連の入力データは、演算モデルに入力される説明変数における数値変数の部分に相当する。車両計測情報関連の入力データは、車両の加速度および走行距離を含む。走行距離は、上述のようにデータ取得部12において取得される。タイヤ計測情報関連の入力データは、タイヤ7の温度および空気圧を含む。
【0038】
その他情報による入力データは、気象情報に基づいて推定される路面状態、車両仕様データ15aおよびタイヤ仕様データ15bなどである。上述のように、車両仕様データ15aおよびタイヤ仕様データ15bは、演算モデルに入力される説明変数におけるカテゴリ変数の部分に相当する。車両仕様データ15aのうち、車両名称、ドライブトレーンなどが演算モデルに入力されるカテゴリ変数となっている。またタイヤ仕様データ15bのうち、商品名、タイヤサイズなどが演算モデルに入力されるカテゴリ変数となっている。
【0039】
次にタイヤ摩耗量推定システム100の動作を説明する。図4は、タイヤ摩耗量推定システム100による摩耗量推定処理の手順を示すフローチャートである。摩耗量推定装置10のデータ取得部12は、車両および車両に装着されたタイヤに関する数値変数およびカテゴリ変数のデータを取得する(S1)。判定部13は、データ取得部12により取得されたカテゴリ変数のデータについて未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する(S2)。
【0040】
ステップS2において未学習のカテゴリ変数が含まれていると判定した場合(S2:YES)、摩耗量算出部14は、欠損値対応演算モデル14aを用いてタイヤ摩耗量を算出して推定結果とする(S3)。また摩耗量算出部14は、欠損値非対応演算モデル14bの学習を開始し(S4)、処理を終了する。
【0041】
ステップS2において未学習のカテゴリ変数が含まれていないと判定した場合(S2:NO)、摩耗量算出部14は、欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を算出して推定結果とし(S5)、処理を終了する。
【0042】
ステップS4によって開始された欠損値非対応演算モデル14bは、例えば設定された所定期間において学習が実施される。判定部13は、欠損値非対応演算モデル14bの学習後において、未学習であると判定していたカテゴリ変数を学習済みであると判定する。また、欠損値非対応演算モデル14bの学習は、タイヤ摩耗量の推定精度が欠損値対応演算モデル14aを用いたタイヤ摩耗量の推定精度よりも良好となった時点で学習済みであるとしてもよい。
【0043】
タイヤ摩耗量推定システム100は、判定部13によってカテゴリ変数が未学習であるか否かを判定し、判定結果に基づいて、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を推定する。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、カテゴリ変数について未学習の場合にも、運用時に演算モデルを選択し、タイヤ摩耗量の推定データをユーザに通知する機能の提供を維持することができる。タイヤ摩耗量推定システム100は、カテゴリ変数について未学習の場合にも、欠損値対応演算モデル14aを用いて、タイヤ摩耗量を推定し、例えばディスプレイなどの表示画面にタイヤの溝ごとの摩耗量を表示することで、ユーザに通知する機能の提供を維持する。
【0044】
タイヤ摩耗量推定システム100は、判定部13によって未学習のカテゴリ変数が含まれていると判定した場合に、学習処理部16によって欠損値非対応演算モデル14bを学習させる。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、欠損値非対応演算モデル14bの学習後には、欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を推定し提供することができる。
【0045】
タイヤ摩耗量推定システム100は、学習処理部16による欠損値非対応演算モデル14bの学習を所定期間(例えば数か月)で実施し、その後は、欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を推定し提供することができる。
【0046】
また、タイヤ摩耗量推定システム100は、欠損値非対応演算モデル14bの学習をタイヤ摩耗量の推定結果が欠損値対応演算モデル14aでの推定結果よりも良好となるまで実施してもよい。この場合、タイヤ摩耗量推定システム100は、推定結果の良好な欠損値非対応演算モデル14bを用いて推定精度がより高いタイヤ摩耗量の推定結果を提供することができる。尚、各演算モデルにおけるタイヤ摩耗量の推定精度は、例えば、複数回に亘って取得されるタイヤ摩耗量の計測値と推定値とのRMSE(二乗平均平方根誤差)を算出するなどして検証することができる。
【0047】
また摩耗量算出部14は、欠損値対応演算モデル14aとして例えば決定木モデルを用い、欠損値非対応演算モデル14bとしてニューラルネットワークモデルを用いる。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、公知の演算モデル構築手法に準じて容易に各演算モデルを構築することができる。
【0048】
本実施形態において説明したタイヤ摩耗量推定システム100は、例えば、或る車両名称をもつ1台の車両および当該車両に装着されたタイヤにおいて学習された欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bを用いる。このタイヤ摩耗量推定システム100を、同一仕様(商品名およびタイヤサイズなどが同じ)のタイヤを装着した同じ車両名称の他の車両に転用した場合には、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのカテゴリ変数が学習済みのものとなる。
【0049】
一方、このタイヤ摩耗量推定システム100を、同一仕様ではないタイヤを装着した同じ車両名称または異なる車両名称の他の車両に転用した場合、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのカテゴリ変数に未学習のものが含まれることになる。また同一仕様のタイヤを装着した異なる車両名称の他の車両に転用した場合にも、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのカテゴリ変数に未学習のものが含まれることになる。上述のように、タイヤ摩耗量推定システム100は、カテゴリ変数に未学習のものが含まれる場合にも、欠損値対応演算モデル14aによってタイヤ摩耗量の推定データの提供を維持することができる。
【0050】
次に実施形態および変形例に係るタイヤ摩耗量推定システム100および演算モデル運用方法の特徴について説明する。
タイヤ摩耗量推定システム100は、データ取得部12、摩耗量算出部14および判定部13を備える。データ取得部12は、車両および車両に装着されたタイヤ7に関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得する。摩耗量算出部14は、データ取得部12により取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bを有し、タイヤ摩耗量を算出する。判定部13は、データ取得部12により取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する。摩耗量算出部14は、判定部13による判定結果に基づいて、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出する。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、カテゴリ変数について未学習の場合にも、運用時に演算モデルを選択してタイヤ摩耗量の推定データの提供を維持することができる。
【0051】
また判定部13により未学習のカテゴリ変数が含まれていると判定した場合に、欠損値非対応演算モデル14bを学習させる学習処理部16を更に備える。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、欠損値非対応演算モデル14bの学習後には、欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を推定し提供することができる。
【0052】
また摩耗量算出部14は、学習処理部16による学習が所定期間を経過した後、欠損値非対応演算モデル14bによってタイヤ摩耗量を算出する。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、学習処理部16による欠損値非対応演算モデル14bの学習を所定期間(例えば数か月)で実施し、その後は、欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を推定し提供することができる。
【0053】
また摩耗量算出部14は、欠損値非対応演算モデル14bでの推定結果が欠損値対応演算モデル14aでの推定結果よりも良好となった後、欠損値非対応演算モデル14bによってタイヤ摩耗量を算出する。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、推定結果の良好な欠損値非対応演算モデル14bを用いて推定精度がより高いタイヤ摩耗量の推定結果を提供することができる。
【0054】
また欠損値対応演算モデル14aは決定木モデルであり、欠損値非対応演算モデル14bはニューラルネットワークモデルである。これにより、タイヤ摩耗量推定システム100は、公知の演算モデル構築手法に準じて容易に各演算モデルを構築することができる。
【0055】
演算モデル運用方法は、データ取得ステップ、摩耗量推定ステップおよび判定ステップを備える。データ取得ステップは、車両および車両に装着されたタイヤ7に関する数値変数およびカテゴリ変数を含む説明変数のデータを取得する。摩耗量算出ステップは、データ取得ステップにより取得されたデータを入力する欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bを用いてタイヤ摩耗量を算出する。判定ステップは、データ取得ステップにより取得されたデータに未学習のカテゴリ変数が含まれているか否かを判定する。摩耗量算出ステップは、判定ステップによる判定結果に基づいて、欠損値対応演算モデル14aおよび欠損値非対応演算モデル14bのうち一方を用いてタイヤ摩耗量を算出する。この演算モデル運用方法によれば、カテゴリ変数について未学習の場合にも、運用時に演算モデルを選択してタイヤ摩耗量の推定データの提供を維持することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0057】
7 タイヤ、 12 データ取得部、 13 判定部、 14 摩耗量算出部、
14a 欠損値対応演算モデル、 14b 欠損値非対応演算モデル、
16 学習処理部、 100 タイヤ摩耗量推定システム。
図1
図2
図3
図4