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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095246
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20230629BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
F16F13/10 J
B60K5/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211025
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】増田 辰典
【テーマコード(参考)】
3D235
3J047
【Fターム(参考)】
3D235BB23
3D235EE03
3D235EE05
3D235FF22
3J047AA03
3J047AB01
3J047CA04
3J047CA06
3J047CB03
3J047CD01
3J047DA01
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】突起にスリットを設けた可動板の変形をコントロールし易くできる液封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】円板状の可動板30の第1面30a及び第2面30bからそれぞれ複数の環状の突起(第1突起31a及び第2突起31b)が突出し、その突起がスリット41~44によって周方向に分断される。径方向に隣り合う突起において、スリット41~44の位置が周方向に異なるので、可動板30がスリット41~44を起点に折れ曲がることを抑制できる。よって、突起にスリット41~44を設けた場合でも可動板30の周方向の剛性を均一化できるので、可動板30の周方向の一部が局所的に変形することを抑制するように可動板30の変形をコントロールし易くできる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材および筒状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを連結する弾性体製の防振基体と、
前記第2部材に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、
前記液室を第1液室と第2液室とに仕切る仕切体と、を備え、
前記仕切体は、第1貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第1液室に面する第1仕切板と、
第2貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第2液室に面する第2仕切板と、
前記第1仕切板側の第1面および前記第2仕切板側の第2面を有して円板状の弾性体から構成される可動板と、を備え、
前記可動板は、前記第1面および前記第2面からそれぞれ突出して前記可動板の軸心を囲む複数の環状の突起を備え、
複数の前記突起には、前記突起を周方向に分断するスリットがそれぞれ形成され、
径方向に隣り合う前記突起において、前記スリットの位置が周方向に異なることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記可動板の外周縁の外側、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔を介して前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィスを備え、
前記可動板の外周縁から径方向内側へ向かって前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の少なくとも一方の最外縁までの間に全周に亘って2以上の前記突起が配置されていることを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動板には、複数の前記突起の内周側で連通孔が板厚方向に貫通形成され、
前記連通孔、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔を介して前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィスを備え、
前記連通孔の縁から径方向外側へ向かって前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の少なくとも一方の最内縁までの間に全周に亘って2以上の前記突起が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液封入式防振装置。
【請求項4】
第1部材および筒状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを連結する弾性体製の防振基体と、
前記第2部材に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、
前記液室を第1液室と第2液室とに仕切る仕切体と、を備え、
前記仕切体は、第1貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第1液室に面する第1仕切板と、
第2貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第2液室に面する第2仕切板と、
前記第1仕切板側の第1面および前記第2仕切板側の第2面を有して円板状の弾性体から構成される可動板と、を備え、
前記可動板は、前記第1面および前記第2面からそれぞれ突出して前記可動板の軸心を囲む複数の環状の突起を備え、
複数の前記突起には、前記突起を周方向に分断するスリットがそれぞれ形成され、
径方向に隣り合う前記突起において、前記スリットの位置が周方向で同一であることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項5】
前記突起は、前記第1面から突出する複数の第1突起と、
複数の前記第1突起の間における前記第2面から突出する複数の第2突起と、を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液封入式防振装置。
【請求項6】
最近接した前記第1突起と前記第2突起とにおいて、前記スリットの位置が周方向に異なることを特徴とする請求項5記載の液封入式防振装置。
【請求項7】
前記第1突起の高さの半分の部位を前記可動板の板厚方向に投影した領域と、前記第2突起の高さの半分の部位を前記可動板の板厚方向に投影した領域とが径方向に離れていることを特徴とする請求項5又は6に記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液封入式防振装置に関し、特に突起にスリットを設けた可動板の変形をコントロールし易くできる液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の振動源を車体(支持側)に支持する防振装置として、例えば特許文献1に開示される液封入式防振装置が知られている。特許文献1に開示される液封入式防振装置は、内部に形成された液室が仕切体により第1液室と第2液室とに仕切られている。仕切体は、第1液室に面する第1仕切板と、第2液室に面する第2仕切板と、第1仕切板と第2仕切板との間に配置されて円板状の弾性体から構成される可動板と、を備えている。
【0003】
第1仕切板および第2仕切板には、板厚方向に貫通する貫通孔がそれぞれ形成されている。これにより、第1液室および第2液室の液圧が貫通孔を介して可動板に付与され、可動板が変形または変位することにより、液封入式防振装置に入力された振動エネルギーが消費される。
【0004】
更に、特許文献1では、変形または変位した可動板が第1仕切板や第2仕切板に接触したときの異音を抑制するために、可動板から環状の複数の突起を突出させている。また、特許文献1には、可動板を変形させ易くするために、環状の突起を周方向に途切れさせても良いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-56398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、環状の突起を途切れさせるためのスリットの配置について記載が無いため、突起にスリットを設けた可動板の変形をコントロールし難いという問題点がある。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、突起にスリットを設けた可動板の変形をコントロールし易くできる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明の液封入式防振装置は、第1部材および筒状の第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを連結する弾性体製の防振基体と、前記第2部材に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、前記液室を第1液室と第2液室とに仕切る仕切体と、を備え、前記仕切体は、第1貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第1液室に面する第1仕切板と、第2貫通孔が板厚方向に貫通形成されて前記第2液室に面する第2仕切板と、前記第1仕切板側の第1面および前記第2仕切板側の第2面を有して円板状の弾性体から構成される可動板と、を備え、前記可動板は、前記第1面および前記第2面からそれぞれ突出して前記可動板の軸心を囲む複数の環状の突起を備え、複数の前記突起には、前記突起を周方向に分断するスリットがそれぞれ形成される。径方向に隣り合う前記突起において、前記スリットの位置が周方向に異なる、又は、前記スリットの位置が周方向で同一である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、円板状の可動板における第1仕切板側の第1面および第2仕切板側の第2面からそれぞれ複数の環状の突起が突出し、その突起がスリットによって周方向に分断される。径方向に隣り合う突起において、スリットの位置が周方向に異なるので、可動板がスリットを起点に折れ曲がることを抑制できる。よって、突起にスリットを設けた場合でも可動板の周方向の剛性を均一化できる(均一に近づけることができる)ので、可動板の周方向の一部が局所的に変形することを抑制するように可動板の変形をコントロールし易くできる。
【0010】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、請求項1記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。液封入式防振装置は、可動板の外周縁の外側、第1仕切板の第1貫通孔および第2仕切板の第2貫通孔を介して第1液室と第2液室とを連通するオリフィスを備える。可動板の外周縁から径方向内側へ向かって第1貫通孔および第2貫通孔の少なくとも一方の最外縁までの間に全周に亘って2以上の突起が配置されている。可動板の変位により上記2以上の突起を第1仕切板または第2仕切板に押し付けてオリフィスを閉じようとしたとき、上記2以上の突起の間およびスリットによって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。但し、径方向に隣り合う上記2以上の突起のスリットの位置が周方向に異なるので、漏れ流路を長くでき、第1液室側と第2液室側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。
【0011】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、請求項1又は2に記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。可動板には、複数の突起の内周側で連通孔が板厚方向に貫通形成される。液封入式防振装置は、連通孔、第1仕切板の第1貫通孔および第2仕切板の第2貫通孔を介して第1液室と第2液室とを連通するオリフィスを備える。連通孔の縁から径方向外側へ向かって第1貫通孔および第2貫通孔の少なくとも一方の最内縁までの間に全周に亘って2以上の突起が配置されている。可動板の変位により上記2以上の突起を第1仕切板または第2仕切板に押し付けてオリフィスを閉じようとしたとき、上記2以上の突起の間およびスリットによって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。但し、径方向に隣り合う上記2以上の突起のスリットの位置が周方向に異なるので、漏れ流路を長くでき、第1液室側と第2液室側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。
【0012】
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、円板状の可動板における第1仕切板側の第1面および第2仕切板側の第2面からそれぞれ複数の環状の突起が突出し、その突起がスリットによって周方向に分断される。径方向に隣り合う突起において、スリットの位置が周方向で同一であるので、スリットを起点に折れ曲がるように可動板の変形をコントロールし易くできる。
【0013】
請求項5記載の液封入式防振装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。突起は、第1面から突出する複数の第1突起と、第2面から突出する複数の第2突起と、を備える。ここで、可動板の両面で突起(第1突起および第2突起)が同じ位置にあると、突起が有る部分に対して突起が無い部分の可動板の剛性が顕著に低くなり、突起が無い部分を起点に亀裂が生じ易くなるおそれがある。これに対し、複数の第1突起の間における第2面から複数の第2突起が突出することで、第1突起および第2突起による可動板の剛性の差を小さくできるので、可動板に亀裂を生じ難くして可動板の耐久性を向上できる。
【0014】
請求項6記載の液封入式防振装置によれば、請求項5記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。最近接した第1突起と第2突起とにおいて、スリットの位置が周方向に異なる。これにより、スリットの位置に応じて可動板の剛性が局所的に低くなることを抑制できるので、その局所的な低剛性部分を起点に亀裂を生じ難くして可動板の耐久性を向上できる。
【0015】
請求項7記載の液封入式防振装置によれば、請求項5又は6に記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。第1突起の高さの半分の部位を可動板の板厚方向に投影した領域と、第2突起の高さの半分の部位を可動板の板厚方向に投影した領域とが径方向に離れている。これらの領域の間では可動板の剛性を低くでき、可動板の一部を変形させ易くできる。例えば、可動板を径方向に波打つように変形させ易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
図2図1のII部分を拡大した液封入式防振装置の部分拡大断面図である。
図3】可動板の平面図である。
図4】可動板の底面図である。
図5】第2実施形態における液封入式防振装置の部分拡大断面図である。
図6】第3実施形態における液封入式防振装置の部分拡大断面図である。
図7】第4実施形態における液封入式防振装置の可動板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態における液封入式防振装置10の断面図である。図2図1のII部分を拡大した液封入式防振装置10の部分拡大断面図である。なお、図1には、液封入式防振装置10に振動(荷重)が入力されていない未入力時の状態を示している。特に指定が無い限り、液封入式防振装置10の各部について未入力時の状態を説明する。また、以下の説明では、図1の紙面上側を液封入式防振装置10の上側などとして説明するが、この液封入式防振装置10の上下と、液封入式防振装置10が取り付けられる車両の上下とは必ずしも一致しない。
【0018】
液封入式防振装置10は、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントである。液封入式防振装置10は、振動源であるエンジン側に取り付けられる第1部材11と、支持側の車体に取り付けられる筒状の第2部材12と、第1部材11と第2部材12とを連結する弾性体から構成される防振基体13と、を主に備える。なお、図1の液封入式防振装置10の断面図は、筒状の第2部材12の軸心Cを含む軸方向断面図である。
【0019】
第1部材11は、第2部材12の上方に位置するように軸心C上に配置されたボス金具であり、鉄鋼やアルミニウム合金などの金属により形成される。第1部材11の上端面にはボルト孔が形成されている。第1部材11は、ボルト孔に取り付けられるボルトを介してエンジン側に取り付けられる。
【0020】
第2部材12は、軸心Cを中心とした円筒状の部材であり、主に鉄鋼などの金属により形成される。第2部材12は、上端側の大径部12aと、大径部12aの下端に連なり下方へ向かって徐々に内外径が小さくなる縮径部12bと、縮径部12bの下端に連なり大径部12aよりも内外径が小さい小径部12cと、を備える。例えば、車体側に設けた筒状のブラケットに第2部材12が挿入されることで、第2部材12が車体側に取り付けられる。
【0021】
防振基体13は、略傘状に形成されるゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体製の部材である。防振基体13は、第1部材11の下部と、大径部12a及び縮径部12bの内周面とにそれぞれ加硫接着され、これらを連結する。防振基体13の下端部には、小径部12cの内周面を覆うゴム膜状の膜部14が連なる。この膜部14は第2部材12の一部である。
【0022】
第2部材12には、小径部12cの下端開口部を塞ぐようにダイヤフラム15が取付部16を介して取り付けられる。ダイヤフラム15は、ゴム等の弾性体製の膜である。取付部16は、鉄鋼などの金属製の環状部材である。取付部16の内周部に全周に亘ってダイヤフラム15の外周部が加硫接着される。
【0023】
防振基体13、第2部材12及びダイヤフラム15により区画される密閉空間によって液室が形成される。液室には、エチレングリコール等の不凍性の液体(図示せず)が封入される。液室は、仕切体20により、防振基体13が室壁の一部を構成する第1液室17と、ダイヤフラム15が室壁の一部を構成する第2液室18とに仕切られる。
【0024】
なお、ダイヤフラム15及び仕切体20を第2部材12に取り付けるには、まず、膜部14の上端から径方向内側へ段差状に張り出す防振基体13の段差13aに当たるまで、第2部材12の小径部12cに仕切体20を挿入する。次いで、ダイヤフラム15が一体化された取付部16を小径部12cに挿入した後、小径部12c(第2部材12)を絞り加工により縮径させて、仕切体20及び取付部16の外周部を膜部14で保持する。これにより、ダイヤフラム15及び仕切体20が第2部材12に取り付けられる。
【0025】
仕切体20は、膜部14の内側に保持される筒部材21と、筒部材21の内周側を上下に仕切る平板状の第1仕切板23及び第2仕切板26と、第1仕切板23と第2仕切板26との間に配置される可動板30と、を備える。第1液室17に面する第1仕切板23と、第2液室18に面する第2仕切板26とは、互いに上下に重ねられて溶着や接着、圧入により接合される。
【0026】
筒部材21は、金属や合成樹脂製の円筒状の部位である。筒部材21の外周面は、全周に亘り膜部14を介して第2部材12の小径部12cに押し付けられる。筒部材21の外周面には略2周の長さの外周溝22が形成される。この外周溝22と膜部14との間によって第1オリフィス19が形成される。
【0027】
外周溝22の一端が、段差13aよりも径方向内側で筒部材21の上端に開口することで、第1オリフィス19が第1液室17に連通する。外周溝22の他端が、ダイヤフラム15との接触位置よりも径方向内側で筒部材21の下端に開口することで、第1オリフィス19が第2液室18に連通する。
【0028】
このように、第1オリフィス19は、第1液室17と第2液室18とを連通する流路である。第1オリフィス19は、例えば車両走行時のシェイク振動を減衰するため、大振幅のシェイク振動の入力時にシェイク振動に対応した周波数帯(例えば5~15Hz程度)で減衰係数が大きくなるよう、第1オリフィス19の流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。
【0029】
第1仕切板23は、金属や合成樹脂製の部位であり、軸心Cと垂直な円板状に形成される。第1仕切板23の径方向中央から、軸心Cを中心とした円柱状の台部24が下方(第2仕切板26側)へ突出する。第1仕切板23には、台部24よりも径方向外側で複数の第1貫通孔25が板厚方向に貫通形成されている。
【0030】
第1仕切板23の外周縁から上方へ円筒部23aが延び、円筒部23aの上端縁から径方向外側へフランジ23bが延びる。フランジ23bが筒部材21の上端に接触するまで、円筒部23aを筒部材21の内周側に嵌めることで、第1仕切板23が筒部材21に取り付けられる。筒部材21の上端に接触したフランジ23bが防振基体13の段差13aに接触する。また、円筒部23a及びフランジ23bは、外周溝22の第1液室17側の開口を塞がないように、周方向の一部が省略されている。
【0031】
第2仕切板26は、筒部材21と一体成形される部位であり、軸心Cと垂直な円板状に形成される。第2仕切板26の外周縁が全周に亘って筒部材21の内周面に接続され、筒部材21に取り付けられた第1仕切板23と第2仕切板26との間に収容空間29を形成する。
【0032】
第2仕切板26の径方向中央であって台部24と対向する位置から、軸心Cを中心とした略円柱状の突出部27が上方(第1仕切板23側)へ突出する。突出部27の外周面は、軸心Cを中心とした外径が一定の円柱面27aと、円柱面27aの上端と突出部27の先端とを連結して先端(第1仕切板23側)へ向かうにつれて径方向内側へ傾斜する傾斜外面27bと、を備える。円柱面27aの外径は、台部24の外径よりも小さい。傾斜外面27bは、突出部27の先端へ向かうにつれて縮径する円錐面であり、軸心Cを含む断面が直線状である。
【0033】
第2仕切板26には、突出部27よりも径方向外側で複数の第2貫通孔28が板厚方向に貫通形成されている。第2貫通孔28は、基本的に、第1仕切板23の第1貫通孔25と対称(鏡映)に形状、寸法および位置が設定されている。
【0034】
可動板30は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体から構成される部材であり、軸心Cと垂直な円板状に形成される。可動板30は、第1仕切板23と第2仕切板26との間の収容空間29に配置される。
【0035】
第1仕切板23及び第2仕切板26にそれぞれ形成された第1貫通孔25及び第2貫通孔28を介して、第1液室17及び第2液室18の液圧が収容空間29内の可動板30に付与される。この液圧によって可動板30が変形または変位することにより、液封入式防振装置10に入力された振動エネルギーが消費され、液封入式防振装置10によって振動を減衰できる。
【0036】
可動板30は、第1仕切板23に面する第1面30aから突出する複数の第1突起31aと、第2仕切板26に面する第2面30bから突出する複数の第2突起31bと、可動板30の径方向中央を板厚方向(軸心C方向)に貫通形成する連通孔32と、複数の第1突起31aの内側で第1面30aから突出する複数の第1側凸部35と、複数の第2突起31bの内側で第2面30bから突出する複数の第2側凸部36と、を備える。
【0037】
可動板30の全体の厚さ(第1突起31aの先端から第2突起31bの先端までの軸心C方向の距離)よりも収容空間29の軸心C方向の寸法が大きい。更に、可動板30の外径よりも収容空間29の内径が大きい。そのため、収容空間29の中央に可動板30が位置する場合には、収容空間29の壁面と可動板30との隙間、第1貫通孔25及び第2貫通孔28によって、第1液室17と第2液室18とを連通する第2オリフィスが形成される。
【0038】
この第2オリフィスは、例えばアイドル時(車両停止時)のアイドル振動を低減するため、小振幅のアイドル振動の入力時にアイドル振動に対応した周波数帯(例えば15~50Hz程度)で減衰係数が大きくなるよう、第2オリフィスの流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。
【0039】
連通孔32は、平面視において軸心Cを中心とした円形状に形成される。この連通孔32によって、第2オリフィスを短絡させる短絡路が形成される。但し、この短絡路は、後述の負圧リリーフバルブによって遮断状態と連通状態とが切り換えられる。
【0040】
連通孔32の内周面は、板厚方向の中央へ向かうにつれて径方向内側へ傾斜する傾斜内面33,34を備える。傾斜内面33は、下方へ向かうにつれて縮径する円錐面であり、連通孔32の上側に位置する。傾斜内面34は、上方へ向かうにつれて縮径する円錐面であり、連通孔32の下側に位置する。
【0041】
傾斜内面34は、突出部27の傾斜外面27bと全周に亘って面接触する。この面接触が維持されている間は、連通孔32が突出部27によって塞がれ、短絡路が遮断状態となる。
【0042】
傾斜内面33,34は、互いの境界面で対称に形成されているので、可動板30の表裏を逆にした場合でも、傾斜内面33が突出部27の傾斜外面27bと全周に亘って面接触する。よって、可動板30を第1仕切板23と第2仕切板26との間に配置するとき、可動板30の表裏の確認を不要にできる。
【0043】
複数の第1側凸部35は、連通孔32の周囲の第1面30aから第1仕切板23側へ突出する部位である。複数の第2側凸部36は、連通孔32の周囲の第2面30bから第2仕切板26側へ突出する部位である。
【0044】
複数の第1側凸部35及び第2側凸部36は、連通孔32の縁に沿って周方向に間隔を空けて並ぶ。本実施形態では、第1側凸部35及び第2側凸部36は、4つずつ等間隔に並んで連通孔32の四方に配置される(図3及び図4参照)。複数の第1側凸部35及び第2側凸部36の高さは、いずれも同一であり、第1突起31a及び第2突起31bの高さよりも低い。
【0045】
複数の第1側凸部35は、連通孔32の傾斜内面34と突出部27の傾斜外面27bとが面接触した状態で第1仕切板23の台部24の先端面に接触する。この接触した状態であって振動の未入力時に、第1側凸部35が若干(例えば0.2mm程度)予圧縮される。周方向に間隔を空けて並んだ複数の第1側凸部35が台部24に接触しているので、台部24と可動板30との間が周方向の一部で離れ、連通孔32と台部24の周囲の第1貫通孔25とを容易に連通させることができる。
【0046】
また、第1側凸部35の予圧縮が解除されない程度の振動が液封入式防振装置10に入力された場合や振動が未入力の場合には、第1側凸部35によって、傾斜内面34と傾斜外面27bとの面接触が維持される。即ち、台部24と突出部27の傾斜外面27bとの間に可動板30が挟まれ、連通孔32を突出部27で塞いだ状態を維持できる。更に、第1側凸部35による面接触の維持により、突出部27に対し可動板30を軸心C方向に位置決めし易くでき、収容空間29内で可動板30を軸心C方向の中央に位置決めできる。
【0047】
また、面接触する傾斜内面34及び傾斜外面27bがいずれも軸心Cを中心とした円錐面であって互いに同様に傾斜しているので、突出部27に対し可動板30を径方向に位置決めし易くでき、収容空間29内で可動板30を径方向の中央に位置決めできる。
【0048】
これらの位置決めにより、振動源から第1部材11を介して液封入式防振装置10に入力される振動(荷重)が小さい場合には、収容空間29の壁面と可動板30との隙間、第1貫通孔25及び第2貫通孔28による第2オリフィスの連通状態を維持できる。一方、液封入式防振装置10に入力される振動が大きくなって、可動板30が第1仕切板23や第2仕切板26に接触すると、第2オリフィスが遮断状態となり、第1オリフィス19による減衰特性が主に発揮される。
【0049】
複数の第2側凸部36は、傾斜内面34と傾斜外面27bとが面接触した状態で突出部27の円柱面27aに接触する。これにより、傾斜内面34と傾斜外面27bとの面接触だけでなく、複数の第2側凸部36と突出部27との接触によっても、突出部27に対する可動板30の径方向の移動が規制され、突出部27に対し可動板30を径方向に位置決めできる。
【0050】
複数の第1側凸部35は、複数の第2側凸部36が周方向に並んだ部分の反対側に位置する。本実施形態では、各々の第1側凸部35の反対側に第2側凸部36が位置する。これにより、可動板30の表裏を逆にして、第1側凸部35を第2側凸部とし、第2側凸部36を第1側凸部としても、それぞれの凸部の機能を発揮できる。よって、可動板30を第1仕切板23と第2仕切板26との間に配置するとき、可動板30の表裏の確認を不要にできる。
【0051】
液封入式防振装置10に大荷重(大振幅の振動)が入力され、第1液室17が過度に負圧化された場合には、可動板30が第1仕切板23側へ変位し、第1突起31a及び第1側凸部35が潰れ、突出部27の傾斜外面27bと連通孔32の傾斜内面34との間が離れる。
【0052】
これにより、連通孔32は、第1貫通孔25だけでなく、突出部27の周囲の第2貫通孔28と連通する。その結果、短絡路が連通状態となり、第2液室18から第1液室17へ液体を素早く流入させることができるので、第1液室17の負圧化に伴うキャビテーションを生じ難くできる。
【0053】
なお、第1液室17の正圧時には、荷重の未入力時と同様に、傾斜内面34が傾斜外面27bに押し付けられるので、短絡路が遮断状態に維持される。また、負圧となった第1液室17の液圧が低い場合には、第1側凸部35の予圧縮量に応じて傾斜内面34が傾斜外面27bに押し付けられ、短絡路が遮断状態に維持される。言い換えれば、第1側凸部35の予圧縮量の調整によって、短絡路を連通状態とする液圧の高さを調整できる。
【0054】
このように、第1液室17の過度な負圧時に短絡路を連通状態としつつ、その他の場合は基本的に短絡路を遮断状態とする機構を負圧リリーフバルブという。本実施形態では、主に可動板30及び突出部27によって負圧リリーフバルブが形成されている。
【0055】
この突出部27に対する可動板30の径方向および軸心C方向の移動を、上述した通りに、傾斜外面27bと傾斜内面34との接触や、台部24と第1側凸部35との接触、円柱面27aと第2側凸部36との接触によって規制できる。よって、突出部27に対する可動板30の位置決めのために、可動板30の外周部を第1仕切板23と第2仕切板26との間で挟持する必要が無いので、その挟持する部分が有るものと比べて負圧リリーフバルブをコンパクト化できる。
【0056】
また、可動板30の位置決めや可動板30の表裏の確認を不要にするために、連通孔32の周囲であって短絡路の第2液室18側の入口の周囲に第2側凸部36が配置されている。しかし、この第2側凸部36は周方向に間隔を空けて並ぶので、短絡路の第2液室18側の入口を第2側凸部36で塞ぎ難くできる。よって、第2側凸部36を設けても、負圧リリーフバルブにより連通状態となる短絡路の液流動をスムーズにできるので、第1液室17の負圧を早期に解消し易くできる。
【0057】
軸心Cを含む断面において、傾斜外面27b及び傾斜内面34が直線状に形成されているので、負圧リリーフバルブが開いたとき、それらの間の短絡路を直線状にできる。これにより、負圧リリーフバルブにより連通状態となる短絡路の液流動をスムーズにできるので、第1液室17の負圧を早期に解消し易くできる。
【0058】
第1突起31a及び第2突起31bは、変形(変位)した可動板30が第1仕切板23や第2仕切板26に接触したときの異音を抑制するための部位である。複数の第1突起31a及び第2突起31bは、軸心Cを中心とした同心円上に配置された円環状の部位であり、先端までの高さ(軸心C方向の寸法)がいずれも同一に形成される。
【0059】
最も径方向内側の第1突起31a及び第2突起31bよりも径方向内側に、連通孔32、第1側凸部35、第2側凸部36が位置し、複数の第1貫通孔25及び第2貫通孔28の最内縁(台部24及び突出部27の外周面)が位置する。
【0060】
第1突起31a及び第2突起31bの高さは、第1突起31a及び第2突起31bを除いた部分の可動板30の厚さ(軸心C方向の寸法)以上であることが好ましい。これにより、第1仕切板23や第2仕切板26に接触したときの第1突起31a及び第2突起31bの変形量を確保でき、その接触時の異音を抑制し易くできる。
【0061】
更に、第1突起31a及び第2突起31bの厚さ(径方向寸法)は、第1突起31a及び第2突起31bの高さの1/2以下であることが好ましい。これにより、第1仕切板23や第2仕切板26に接触したときの第1突起31a及び第2突起31bを変形させ易くでき、その接触時の異音を抑制し易くできる。
【0062】
複数の第1突起31a及び第2突起31bは、上下両面で互い違いに配置されている。即ち、複数の第1突起31aの間における第2面30bから複数の第2突起31bが突出し、複数の第2突起31bの間における第1面30aから複数の第1突起31aが突出する。
【0063】
ここで、可動板30の上下両面で第1突起31a及び第2突起31bが同じ位置にあると、第1突起31a及び第2突起31bが有る部分に対し、第1突起31a及び第2突起31bが無い部分の可動板30の剛性が顕著に低くなる。そうすると、第1突起31a及び第2突起31bが無い部分を起点に亀裂が生じ易くなるおそれがある。
【0064】
これに対し、複数の第1突起31a及び第2突起31bが上下両面で互い違いに配置されることで、第1突起31a及び第2突起31bによる可動板30の剛性の差を小さくできる。その結果、可動板30に亀裂を生じ難くして可動板30の耐久性を向上できる。
【0065】
複数の第1突起31a及び第2突起31bは、それぞれ先端に向かうにつれて厚さが小さくなる。第1突起31aの高さの半分の部位を可動板30の板厚方向に投影した領域E1と、第2突起31bの高さの半分の部位を可動板30の板厚方向に投影した領域E2とが径方向に離れる。これにより、第1突起31a及び第2突起31bによる可動板30の剛性の差を小さくしつつも、領域E1,E2の間では可動板30の剛性を低くでき、可動板30の一部を変形させ易くできる。例えば、可動板30を径方向に波打つように変形させ易くできる。
【0066】
図3は、可動板30の平面図である。可動板30の第1突起31aには、第1突起31aを周方向に分断する複数のスリット41,42が形成されている。スリット41,42は、第1突起31aの先端から第1面30aまで形成されている。
【0067】
図4は、可動板30の底面図である。可動板30の第2突起31bには、第2突起31bを周方向に分断する複数のスリット43,44が形成されている。スリット43,44は、第2突起31bの先端から第2面30bまで形成されている。
【0068】
この図3及び図4に示すように、スリット41~44によって第1突起31a及び第2突起31bが分断された場合には、第1突起31a及び第2突起31bが全周に亘って連続している場合と比べ、可動板30を変形させ易くできる。更に、スリット41~44により第1突起31a及び第2突起31b自体も変形させ易くできる。これらの結果、可動板30の変形や、第1突起31a及び第2突起31b自体の変形による振動の減衰効果を向上できる。
【0069】
スリット41は、複数の第1突起31aのうち径方向中央から奇数番目の第1突起31aに設けられる。スリット42は、複数の第1突起31aのうち径方向中央から偶数番目の第1突起31aに設けられる。即ち、径方向に隣り合う第1突起31aにおいて、スリット41,42の位置が周方向に異なる。
【0070】
同様に、スリット43は、複数の第2突起31bのうち径方向中央から奇数番目の第2突起31bに設けられる。スリット44は、複数の第2突起31bのうち径方向中央から偶数番目の第2突起31bに設けられる。即ち、径方向に隣り合う第2突起31bにおいて、スリット43,44の位置が周方向に異なる。
【0071】
これらの結果、スリット41,42の両方やスリット43,44の両方が一直線上に並ぶ場合と比べ、可動板30がスリット41~44を起点に折れ曲がることを抑制できる。よって、第1突起31a及び第2突起31bにスリット41~44を設けた場合でも、可動板30の周方向の剛性を均一化(均一に近づけることが)できるので、可動板30の周方向の一部が局所的に変形することを抑制するように可動板30の変形をコントロールし易くできる。
【0072】
ここで、図3において、軸心Cから紙面上方へ垂直に延びる線上を0°とし、軸心Cの時計回りに角度が増加するものとする。なお、図4では、軸心Cの反時計回りに角度が増加する。
【0073】
スリット41は、0°,90°,180°,270°の位置に配置され、スリット42は、45°,135°,225°,315°の位置に配置される。スリット43は、67.5°,157.5°,247.5°,337.5°の位置に配置され、スリット44は、22.5°,112.5°,202.5°,292.5°の位置に配置される。
【0074】
このように、最近接した第1突起31aと第2突起31bとにおいて、スリット41~44の位置が周方向に異なっている。これにより、スリット41,43同士やスリット41,44同士,スリット42,43同士、スリット42,44同士が一直線上に並ぶ場合と比べ、スリット41~44の位置に応じて可動板30の剛性が局所的に低くなることを抑制できる。よって、その局所的な低剛性部分を起点に亀裂を生じ難くして可動板30の耐久性を向上できる。
【0075】
更に、スリット41~44は、それぞれの第1突起31a及び第2突起31bを周方向に等分(本実施形態では4等分)するように配置される。これにより、第1突起31a及び第2突起31bにスリット41~44を設けた可動板30の周方向の剛性をより均一化できる。
【0076】
また、隣り合うスリット41の周方向の中央にスリット42が位置し、言い換えると、隣り合うスリット42の周方向の中央にスリット41が位置する。同様に、隣り合うスリット43の周方向の中央にスリット44が位置し、言い換えると、隣り合うスリット44の周方向の中央にスリット43が位置する。このように、第1面30a及び第2面30bのそれぞれでスリット41~44が周期的に(45°周期で)並んでいるので、可動板30の周方向の剛性を更に均一化できる。
【0077】
加えて、スリット41,42の間の周方向の中央にスリット43,44が位置し、言い換えると、スリット43,44の間の周方向の中央にスリット41,42が位置する。このように、可動板30の上下両面(第1面30a及び第2面30b)で、スリット41~44が周期的に(22.5°周期で)並んでいるので、可動板30の周方向の剛性を更に均一化できる。
【0078】
図2に示すように、第1液室17と第2液室18とを連通する第2オリフィスは、第1貫通孔25、第2貫通孔28、第1仕切板23と第1面30a及び第1突起31aとの間、第2仕切板26と第2面30b及び第2突起31bとの間、可動板30の外周縁の外側によって形成されている。
【0079】
可動板30の外周縁から径方向内側へ向かって第1貫通孔25の最外縁(複数の第1貫通孔25の縁のうち最も径方向外側の縁)までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第1突起31aが配置されている。そのため、可動板30の上方への変位により上記2以上の第1突起31aを第1仕切板23に押し付けて第2オリフィスを閉じようとしたとき、上記2以上の第1突起31aの間と、その第1突起31aのスリット41,42によって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。
【0080】
但し、径方向に隣り合う上記2以上の第1突起31aのスリット41とスリット42との位置が周方向に異なるので、漏れ流路を長くでき、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。更に、周方向に隣り合うスリット41の中央にスリット42が位置するので、漏れ流路をより長くでき、漏れ流路を介した液漏れをより抑制できる。
【0081】
また、可動板30の外周縁から径方向内側へ向かって第2貫通孔28の最外縁(複数の第2貫通孔28の縁のうち最も径方向外側の縁)までの間に全周に亘って1の第2突起31bが配置されている。そのため、可動板30の下方への変位により上記1の第2突起31bを第2仕切板26に押し付けて第2オリフィスを閉じようとしたとき、上記1の第2突起31bのスリット44によって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。但し、スリット44は、第2突起31bの周方向の一部に設けられているだけなので、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。
【0082】
スリット41~44の幅(周方向寸法)は、径方向に隣り合う第1突起31aの間隔や第2突起31bの間隔よりも小さい。そのため、スリット41~44を介した漏れ流路が形成されても、漏れ流路を細くでき、漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。更に、スリット41~44の幅は、1.5~2.5mmとすることが好ましく、2mmとすることがより好ましい。これにより、漏れ流路をより細くでき、漏れ流路を介した液漏れをより一層抑制できる。
【0083】
次に図5を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、仕切体20に負圧リリーフバルブが設けられる場合について説明したが、第2実施形態では、仕切体51に負圧リリーフバルブを設けない場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0084】
図5は、第2実施形態における液封入式防振装置50の部分拡大断面図である。液封入式防振装置50の仕切体51は、筒部材21と、筒部材21の内周側を上下に仕切る平板状の第1仕切板52及び第2仕切板55と、第1仕切板52と第2仕切板55との間に配置される可動板58と、を備える。第1液室17に面する第1仕切板52と、第2液室18に面する第2仕切板55とは、互いに上下に重ねられて溶着や接着、圧入により接合される。
【0085】
第1仕切板52は、金属や合成樹脂製の部位であり、軸心Cと垂直な円板状に形成される。第1仕切板52は、円筒部23aと、フランジ23bと、径方向中央から下方へ突出する柱部53と、板厚方向に貫通形成される複数の第1貫通孔54と、を備える。
【0086】
柱部53は、軸心Cを中心とした円柱状の部位である。複数の第1貫通孔54は、柱部53よりも径方向外側に位置し、周方向に間隔を空けて並んでいる。
【0087】
第2仕切板55は、筒部材21と一体成形される部位であり、軸心Cと垂直な円板状に形成される。第2仕切板55の外周縁が全周に亘って筒部材21の内周面に接続され、筒部材21に取り付けられた第1仕切板52と第2仕切板55との間に収容空間29を形成する。
【0088】
第2仕切板55の径方向中央から上方へ柱部56が突出する。柱部56は、軸心Cを中心とした円柱状の部位である。柱部53,56同士の先端が互いに接触し、収容空間29を円環状に形成する。
【0089】
第2仕切板55には、柱部56よりも径方向外側で複数の第2貫通孔57が板厚方向に貫通形成されている。第2貫通孔57は、第1仕切板52の第1貫通孔54と対称(鏡映)に形状、寸法および位置が設定されている。
【0090】
可動板58は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体から構成される板状の部材であり、軸心Cと垂直に形成される。更に、可動板58の径方向の中央に設けた連通孔59によって、可動板58は円環板状に形成されている。
【0091】
連通孔59の内周側を柱部53,56が通って円環状の収容空間29に可動板58が配置される。可動板58には、第1貫通孔54及び第2貫通孔57を介して、第1液室17及び第2液室18の液圧が付与され、可動板58の変形や変位により、液封入式防振装置50に入力された振動エネルギーが消費される。
【0092】
可動板58は、第1仕切板52に面する第1面30aから突出する複数の第1突起31aと、第2仕切板55に面する第2面30bから突出する複数の第2突起31bと、を備える。これらの第1突起31a及び第2突起31bには、第1実施形態と同一のスリット41~44が形成されている。
【0093】
この仕切体51には、第1実施形態と同様に、第1貫通孔54、第2貫通孔57、第1仕切板52と第1面30a及び第1突起31aとの間、第2仕切板55と第2面30b及び第2突起31bとの間、可動板58の外周縁の外側によって、第1液室17と第2液室18とを連通する第2オリフィスが形成される。
【0094】
更に、本実施形態における連通孔59の内径は、柱部53,56の外径よりも大きいので、可動板58の外周縁の外側に代えて連通孔59を介しても、第1液室17と第2液室18とを連通する第2オリフィスが形成される。
【0095】
連通孔59の縁から径方向外側へ向かって第2貫通孔57の最内縁(複数の第2貫通孔57の縁のうち最も径方向内側の縁)までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第2突起31bが配置されている。そのため、可動板58の下方への変位により上記2以上の第2突起31bを第2仕切板55に押し付けて第2オリフィスを閉じようとしたとき、上記2以上の第2突起31bの間と、その第2突起31bのスリット43,44によって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。
【0096】
但し、径方向に隣り合う上記2以上の第2突起31bのスリット43とスリット44との位置が周方向に異なるので、漏れ流路を長くでき、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。
【0097】
また、連通孔59の縁から径方向外側へ向かって第1貫通孔54の最内縁(複数の第1貫通孔54の縁のうち最も径方向内側の縁)までの間に全周に亘って1の第1突起31aが配置されている。そのため、可動板58の上方への変位により上記1の第1突起31aを第1仕切板52に押し付けて第2オリフィスを閉じようとしたとき、上記1の第1突起31aのスリット41によって、閉じようとした部分に漏れ流路が形成される。但し、スリット41は、第1突起31aの周方向の一部に設けられているだけなので、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介した液漏れを抑制できる。
【0098】
可動板58の上方への変位時、第1仕切板52には、第1貫通孔54の最内縁よりも内側で1の第1突起31aが、第1貫通孔54の最外縁よりも外側で2の第1突起31aがそれぞれ全周に亘って押し付けられる。一方、可動板58の下方への変位時、第2仕切板55には、第2貫通孔57の最内縁よりも内側で2の第2突起31bが、第2貫通孔57の最外縁よりも外側で1の第2突起31bがそれぞれ全周に亘って押し付けられる。
【0099】
このように、可動板58が上下のいずれに変位しても、第1仕切板52に全周に亘って押し付けられる第1突起31aの数と、第2仕切板55に全周に亘って押し付けられる第2突起31bの数とを同一にできる。その結果、第1貫通孔54内へ引き込まれるような可動板58の変形の仕方と、第2貫通孔57内へ引き込まれるような可動板58の変形の仕方とを同様にできる。
【0100】
次に図6を参照して第3実施形態について説明する。第3実施形態では、第1貫通孔62の径方向両側で2以上の第1突起31aが第1仕切板52に押し付けられ、第2貫通孔64の径方向両側で2以上の第2突起31bが第2仕切板55に押し付けられる場合について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0101】
図6は、第3実施形態における液封入式防振装置60の部分拡大断面図である。液封入式防振装置60の仕切体61では、第1仕切板52に貫通形成される複数の第1貫通孔62と、第2仕切板55に貫通形成される複数の第2貫通孔64と、が非対称(非鏡映)に配置されている。
【0102】
第1貫通孔62の最外縁は、第2貫通孔64の最外縁よりも径方向外側に位置する。第1貫通孔62の最内縁は、第2貫通孔64の最内縁よりも径方向外側に位置する。このように、径方向外側に位置する第1貫通孔62の方が、径方向内側に位置する第2貫通孔64よりも開口面積を大きくし易い。この開口面積に違いによって、液体が第2オリフィス(第1貫通孔62及び第2貫通孔64)を第1液室17から第2液室18へ通る場合と、第2液室18から第1液室17へ通る場合とで減衰特性を変化させることができる。
【0103】
また、可動板58には、複数の第1突起31aに対し、同じ数の第2突起31bが径方向内側へずれて互い違いに配置されている。これにより、可動板58の外周縁から径方向内側へ向かって第1貫通孔62の最外縁までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第1突起31aを配置できると共に、第2貫通孔64の最外縁までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第2突起31bを配置できる。
【0104】
同様に、連通孔59の縁から径方向外側へ向かって第1貫通孔62の最内縁までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第1突起31aを配置できると共に、第2貫通孔64の最内縁までの間に全周に亘って2以上(本実施形態では2)の第2突起31bを配置できる。
【0105】
これらの結果、可動板58が上下のいずれに変位したときでも、周方向にずれたスリット41~44によって径方向両側の漏れ流路をそれぞれ形成でき、径方向両側の漏れ流路をそれぞれ長くできる。その結果、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介した液漏れをより一層抑制できる。
【0106】
なお、可動板58の表裏を逆にして、第1突起31aを第2突起とし、第2突起31bを第1突起としても良い。この場合には、可動板58が上方へ変位したときに、第1貫通孔62の径方向両側で第1突起(31b)が1ずつ第1仕切板52に押し付けられる。また、可動板58が下方へ変位したときに、第2貫通孔64の径方向両側で第2突起(31a)が1ずつ第2仕切板55に押し付けられる。これにより、可動板58の表裏を逆にする前と比べて、漏れ流路を短くでき、第1液室17側と第2液室18側とで漏れ流路を介して液流動させ易くできる。
【0107】
次に図7を参照して第4実施形態について説明する。第4実施形態では、径方向に隣り合う第1突起31aや第2突起31bにおいてスリット71,72の位置が周方向で同一である場合について説明する。なお、第1~3実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0108】
図7は、第4実施形態における液封入式防振装置の可動板70の平面図である。可動板70は、スリット71,72の位置以外は、第1実施形態の可動板30と同一に形成されている。
【0109】
可動板70の第1突起31aに形成される複数のスリット71は、0°,90°,180°,270°の位置で全ての第1突起31aを周方向に分断する。このように、径方向に隣り合う第1突起31aにおいて、スリット71の位置が周方向で同一である。即ち、スリット71が一直線上に並ぶ。そのため、スリット71を起点に折れ曲がるように可動板70の変形をコントロールし易くできる。
【0110】
また、可動板70の第2突起31b(図4参照)に形成される複数のスリット72は、45°,135°,225°,315°の位置で全ての第2突起31bを周方向に分断する。スリット71と同様に、径方向に隣り合う第2突起31bにおいて、スリット72の位置が周方向で同一であるので、スリット72を起点に折れ曲がるように可動板70の変形をコントロールし易くできる。
【0111】
但し、最近接した第1突起31aと第2突起31bとにおいて、スリット71,72の位置が周方向に異なっているので、スリット71,72での可動板70の折れ曲がりを適度に抑制できる。よって、スリット71,72の位置に応じて可動板70の剛性が局所的に低くなり過ぎることを抑制でき、スリット71,72を起点に亀裂を生じ難くして可動板70の耐久性を向上できる。
【0112】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、軸心Cから径方向へオフセットした位置に第1部材11を配置しても良い。負圧リリーフバルブの構造を適宜変更しても良い。
【0113】
また、第1オリフィス19の形成位置や長さ等を適宜変更しても良い。また、第1液室17及び第2液室18とは別の液室を仕切体20,51内などに形成しても良い。第1オリフィス19とは別のオリフィスで2液室間を連通しても良い。
【0114】
また、ダイヤフラム15の下部(第1液室17及び第2液室18とは反対側)にカップ形状のキャップ金具を設け、そのキャップ金具の内面とダイヤフラム15とによって空気室を形成しても良い。この空気室を密閉空間としてエアスプリング効果を持たせても良い。キャップ金具の一部に貫通孔を設けて空気室を大気開放し、貫通孔を通る空気による減衰効果を付加しても良い。
【0115】
上記形態では、液封入式防振装置10,50,60の適用対象として、エンジンマウントを例示したが、その適用対象は任意である。他の適用対象としては、例えばモーターマウント、メンバーマウント、デフマウントが例示される。また、エンジンなどの振動源側に第1部材11を取り付け、車体などの振動受側に第2部材12を取り付ける場合に限らず、振動源側に第2部材12を取り付けて振動受側に第1部材11を取り付けても良い。
【0116】
上記各実施形態の一部を他の実施形態の一部と置き換えても良く、上記各実施形態の一部を他の実施形態に追加しても良い。例えば、第4実施形態におけるスリット71,72の配置を第2,3実施形態に適用しても良い。
【0117】
上記形態の一部を省略しても良い。例えば、膜部14を省略して第2部材12の内周面に仕切体20,51,61及びダイヤフラム15を取り付けても良い。第1実施形態の第2側凸部36を省略しても良い。第1仕切板23の径方向中央から台部24を突出させずに、第1側凸部35を第1仕切板23の径方向中央に接触させても良い。
【0118】
また、第1側凸部35を省略しても良い。この場合、連通孔32が第1貫通孔25と連通するように、台部24の先端側の角部に溝を形成したり、スリット41,42,71が形成された第1突起31aを台部24に接触させても良く、台部24の中央に設けた第1貫通孔を連通孔32に連通させても良い。
【0119】
上記形態では、複数の第1突起31a及び第2突起31bが同心円上に配置される場合を説明したが、複数の第1突起31aの中心同士や、複数の第2突起31bの中心同士をオフセットしても良い。複数の第1突起31a及び第2突起31bは、可動板30,58,70の上下両面で互い違いに配置される場合に限らず、上下両面で同じ位置に配置しても良い。この場合には、第1突起31a及び第2突起31bが無い位置で可動板30,58,70を変形させ易くできる。
【0120】
また、第1突起31a及び第2突起31bの寸法や形状を適宜変更しても良い。例えば、第1突起31a及び第2突起31bの高さを周方向に変化させても良い。具体的に、第1突起31a及び第2突起31bの先端を波形状にしたり、それらの先端の一部から更なる突起を突出させても良い。これにより、第1突起31aや第2突起31bと第1仕切板23,52や第2仕切板26,55との接触に伴う異音を抑制できる。
【0121】
上記形態を用いて説明したスリット41~44,71,72の位置や数、幅は適宜変更しても良い。例えば、第1突起31aや第2突起31bの周方向にスリットを1~3本設けても良く、4本以上設けても良い。また、第1突起31aと第2突起31bとでスリットの数を異ならせても良く、径方向の位置でスリット数を異ならせても良い。
【0122】
第1突起31aや第2突起31bを等分しない位置に複数のスリットを設けても良い。最近接した第1突起31aと第2突起31bとにおいて、スリットの位置を周方向で同一にしても良い。
【符号の説明】
【0123】
10,50,60 液封入式防振装置
11 第1部材
12 第2部材
13 防振基体
15 ダイヤフラム
17 第1液室
18 第2液室
20,51,61 仕切体
23,52 第1仕切板
25,54,62 第1貫通孔
26,55 第2仕切板
28,57,64 第2貫通孔
30,58,70 可動板
30a 第1面
30b 第2面
31a 第1突起(突起)
31b 第2突起(突起)
41,42,43,44,71,72 スリット
59 連通孔
C 軸心

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7