(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095255
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】ヒータ
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20230629BHJP
H05B 3/86 20060101ALI20230629BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20230629BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230629BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230629BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230629BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20230629BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
H05B3/20 312
H05B3/86 ZNM
B32B27/08
B32B7/025
B32B27/36 102
B32B27/34
B32B27/38
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211038
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 惇
【テーマコード(参考)】
3K034
4F100
【Fターム(参考)】
3K034AA01
3K034AA10
3K034AA15
3K034BB08
3K034BB13
3K034CA02
3K034CA15
3K034CA22
3K034JA09
4F100AB24B
4F100AJ04B
4F100AJ06C
4F100AK45A
4F100AK46B
4F100AK51C
4F100AK53C
4F100AL01B
4F100BA03
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4F100BA10A
4F100BA10C
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4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JG01B
4F100JJ06B
4F100JN01A
4F100JN01B
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】曲面を有する3次元成形に好適なヒータを提供する。
【解決手段】ヒータ11は、複数(一対)の電極12と、透明導電フィルム積層体14と、を備える。透明導電フィルム積層体14は、透明な熱可塑性樹脂フィルムである透明基材16と、透明基材16の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む透明導電膜18と、透明導電膜18上に形成された樹脂成分を含む保護膜20と、を有する。複数(一対)の電極12は、透明導電膜18に電気的に接続されている。バインダー樹脂は、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含むN-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも1種を含み、かつ保護膜20を構成する樹脂成分の94質量%以上は熱可塑性樹脂に由来する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、透明導電フィルム積層体と、を備えるヒータであって、
前記透明導電フィルム積層体は、
透明な熱可塑性樹脂フィルムである透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む透明導電膜と、
前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、
を有し、
前記複数の電極は、前記透明導電膜に電気的に接続されており、
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含むN-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも1種を含み、かつ前記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する、
ヒータ。
【請求項2】
前記透明な熱可塑性樹脂フィルムがポリカーボネートフィルムである請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記バインダー樹脂がポリ-N-ビニルアセトアミドである請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエチルセルロースを含む熱可塑性樹脂に由来する請求項1から3のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項5】
前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来し、前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であり、前記カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対する前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が、0超、0.02以下である、請求項4に記載のヒータ。
【請求項6】
前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである請求項1から5のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項7】
前記透明導電フィルム積層体は、面方向と、厚さ方向とを有するフィルム状であり、
前記透明導電フィルム積層体の前記面方向に沿った一対の主面が、曲面を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項8】
前記曲面が三次元曲面である請求項7に記載のヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通電することによって発電するフィルム状のヒータが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材と、発熱体である透明導電層と、一対の電極と、保護層とを備えたヒータが開示されている。特許文献1のヒータは、透明導電層から基材に向かって圧子を押し込んでなされるナノインデンテーション法によって決定される透明導電層を含む部分の硬度Hが0Paを超え、かつ、0.7GPa以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のヒータは、透明導電層がスパッタリングや真空蒸着等により形成されているので、立体形状(3次元形状)を付与しようとすると、透明導電層が基材の伸びに追随できずに破断する可能性がある。また、特許文献1に開示されている保護層は、良好な衝撃性が得られるものの、成形加工性に優れるとはいえない。
【0006】
本開示は、曲面を有する3次元成形に好適なヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、延伸することによる抵抗値の上昇が小さい、熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂材料及び柔軟性に優れる銀ナノワイヤを導電部材として用いた透明導電膜と、熱可塑性樹脂を主成分として含む保護膜と、を備えた透明導電フィルム積層体が3次元成形に好適であることを見出したことに基づき、本発明を完成させた。
【0008】
本開示は以下の態様を包含する。
【0009】
[1]複数の電極と、透明導電フィルム積層体と、を備えるヒータであって、
前記透明導電フィルム積層体は、透明な熱可塑性樹脂フィルムである透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、前記複数の電極は、前記透明導電膜に電気的に接続されており、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含むN-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも1種を含み、かつ前記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する、ヒータ。
[2]前記透明な熱可塑性樹脂フィルムがポリカーボネートフィルムである[1]に記載のヒータ。
[3]前記バインダー樹脂がポリ-N-ビニルアセトアミドである[1]又は[2]に記載のヒータ。
[4]前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエチルセルロースを含む熱可塑性樹脂に由来する[1]から[3]のいずれかに記載のヒータ。
[5]前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来し、前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であり、前記カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対する前記一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下である、[4]に記載のヒータ。
[6]前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである[1]から[5]のいずれかに記載のヒータ。
[7]前記透明導電フィルム積層体は、面方向と、厚さ方向とを有するフィルム状であり、前記透明導電フィルム積層体の前記面方向に沿った一対の主面が、曲面を有する、[1]から[6]のいずれかに記載のヒータ。
[8]前記曲面が三次元曲面である[7]に記載のヒータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒータは、3次元成形後も良好な導電性、透明性を有するので、曲面を有する3次元成形に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】
図3は、実施例におけるヒータ特性の説明に供するヒータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を図面を参照して説明する。
【0013】
[ヒータ]
図1及び
図2を参照して、本開示の一実施形態に係るヒータ11について説明する。
図1に示すヒータ11は、複数の電極として一対の電極12と、後述する透明導電膜を有する透明導電フィルム積層体14とを備え、透明性を有する。一対の電極12は、透明導電膜に電気的に接続されている。透明導電フィルム積層体14は、面方向と、厚さ方向とを有するフィルム状であり、面方向に沿った一対の主面が、曲面を有する。
図1及び
図2では、説明の便宜上、透明導電フィルム積層体14は平面状のものとして示されている。フィルム状とは、一般にロール状に巻き取ることが可能な物品を指すが、枚葉で取り扱われるシート状の物品もフィルム状の定義に包含される。
図2に示すように、透明導電フィルム積層体14は、透明基材16、上述の透明導電膜18、保護膜20を順に有する。保護膜20は、透明導電膜18を覆っている。保護膜20は、後述する印刷によって形成することができる。
【0014】
一対の電極12は、保護膜20上に、所定の幅で線状に形成され、例えば直線状となるように設けられる(
図1)。一対の電極12の厚みは、2μm~5mmであることが好ましく、3μm~1mmであることがより好ましい。一対の電極12の幅は、例えば、0.5mm~50mmであることが好ましい。一対の電極12の幅は、1mm以上、10mm以上又は20mm以上でもよく、40mm以下又は35mm以下でもよい。一対の電極12の材質は、例えば、電気抵抗の低いAg、Cu又はAu等を用いることができる。一対の電極12は、例えば、導電ペーストをスクリーン印刷等によって塗布して形成することができる。一対の電極12は、直流電源を用いる場合は、一方が正極用、他方が負極用である。ヒータ11に交流電源を使用することもでき、この場合一対の電極12について正極負極の区別はない。一対の電極12のそれぞれの一端には、円形状の接続部13が設けられている。接続部13は、図示しない配線が電気的に接続され、当該配線を介して一対の電極12に電力が外部から供給される。一対の電極12に電力が供給されると、透明導電膜18に電流が流れ、透明導電膜18が発熱する。
【0015】
〈透明導電フィルム積層体〉
一実施形態の透明導電フィルム積層体14は、透明な熱可塑性樹脂フィルムである透明基材16と、透明基材16の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む透明導電膜18と、上記透明導電膜18上に形成された樹脂成分を含む保護膜20と、を有し、上記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含むN-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも1種を含み、かつ上記保護膜20を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来することを特徴とする。本開示において、「透明」とは、全光線透過率が75%以上であることを意味する。
【0016】
《透明基材》
上記透明基材16は着色していてもよいが、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。使用できる透明基材16は熱可塑性樹脂フィルムであり、熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリエチレンナフタレート[PEN]等)、ポリカーボネート、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート[PMMA]等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムは、3次元成形する上では良好な成形性を有する非晶性の熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。そのため、前記樹脂フィルムの中でも非晶性であるポリカーボネート、及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、ポリカーボネートがより好ましい。シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ARTON(登録商標、JSR株式会社製)等)、又はノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学株式会社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス株式会社製))を用いることができる。ポリカーボネートとしては、具体的には、ユーピロン(登録商標、三菱ガス化学株式会社製)、又はパンライト(登録商標、帝人株式会社製)を用いることができる。これらの中でもガラス転移温度(Tg)が90~170℃のものが配線の製造工程における加熱に耐えうるため好ましく、125~160℃のものがより好ましい。厚みは10~500μmであることが好ましく、25~250μmであることがより好ましく、40~150μmが更に好ましい。
【0017】
《透明導電膜》
透明導電膜18を構成する導電部材としては、金属ナノワイヤを使用する。金属ナノワイヤは、カーボンナノチューブより伸び性が低いが、柔軟性を有する材料であり、透明性の観点ではカーボンナノチューブより好ましい。また、特定のバインダー樹脂(後述するポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標)))と組み合わせた導電性インクを用いれば、15%の歪みを加えても断線等の不具合が発生しない配線形成が可能であることを事前に確認している。しかしながら、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))には吸湿性があり、その影響により透明導電膜18のシート抵抗値が不安定になるため、その表面を覆う保護膜20を設ける必要がある。金属ナノワイヤは、径がナノメートルオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。一実施形態では、金属ナノワイヤとともに(混合して)、又は金属ナノワイヤに代えて、ポーラス又はノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本開示において、「ワイヤ」と「チューブ」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意味し、それらの性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。本開示において、前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブの両方を包含する。狭義の金属ナノワイヤ及び狭義の金属ナノチューブは、それぞれ単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0018】
透明導電膜は、金属ナノワイヤが交差部を有するように透明基材上に形成され、金属ナノワイヤが形成されていない開口部を光が透過できる構成を有する。金属ナノワイヤが交差部を有するナノ構造ネットワークを構成することが好ましく、交差部の少なくとも一部が融着したナノ構造ネットワークを形成することがより好ましい。金属ナノワイヤの交差部が融着していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折パターンの解析から確認できる。具体的には、金属ナノワイヤ同士が交差している箇所の電子線回折パターンを解析し、結晶構造が変化していること(再結晶の発生)から確認することができる。
【0019】
金属ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば、銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤ及び金ナノワイヤの大規模な合成及び精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号と国際公開第2008/046058号に詳細に記載されている。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブが形成される(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892-3901参照)。
【0020】
金属ナノワイヤの径の平均は、1~500nmが好ましく、5~200nmがより好ましく、5~100nmが更に好ましく、10~50nmが特に好ましい。金属ナノワイヤの長軸の長さの平均は、1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、2~70μmが更に好ましく、5~50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の平均及び長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることが更に好ましく、200以上であることが特に好ましい。本開示において、アスペクト比は、金属ナノワイヤの平均径をb、長軸の平均長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定される。具体的には、b(平均径)は電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の金属ナノワイヤの寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。a(長軸の平均長さ)は、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の金属ナノワイヤの寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。
【0021】
金属ナノワイヤの材料としては、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種並びにこれらの金属を組み合わせた合金が挙げられる。低いシート抵抗かつ高い全光線透過率を有する透明導電膜18が得られることから、金属ナノワイヤは、金、銀及び銅の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いことから、所定のシート抵抗を得る際に、透明導電膜18における金属の面密度を減らすことができるため、高い全光線透過率を実現することができる。金属ナノワイヤは、金及び銀の少なくとも1種を含むことがより好ましく、銀ナノワイヤであることが最も好ましい。
【0022】
透明導電膜18は、金属ナノワイヤとバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂としては、一般に、透明性を有し、加工性に優れるものを使用することができる。ポリオール法を用いて製造された金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を使用することが好ましい。一実施態様では、バインダー樹脂は、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも1種を含む。バインダー樹脂としては、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、又はセルロース系樹脂のいずれかのみを用いてもよいし、これらの複数種を併用してもよい。セルロース系樹脂は、後述する1種のみを用いることもできるが、複数種を併用してもよい。後加工の観点からは耐熱性が高いバインダー樹脂を使用することが好ましいことを考慮すると、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))がより好ましい。
【0023】
ポリ-N-ビニルアセトアミドは、N-ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーである。N-ビニルアセトアミド共重合体として、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体を使用することができる。NVAと共重合可能なモノマーとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、及びアクリロニトリルが挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電膜18のシート抵抗が高くなり、金属ナノワイヤとの混和性、又は基板との密着性が低下する傾向があり、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるため、N-ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含まれることが好ましく、80モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることが更に好ましい。ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド共重合体の絶対分子量基準の重量平均分子量は3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることが更に好ましい。ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド共重合体の絶対分子量は以下の方法により測定される。
【0024】
《絶対分子量測定》
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置する。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
【0025】
溶液を0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて分子量の測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出する。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaH2PO4水溶液+0.1mol/L Na2HPO4水溶液
流速 :0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標)DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0026】
セルロース系樹脂は、エーテル基を含む、いわゆるグリコシド結合によって共有結合された6員エーテル環からなる線状ポリマーである。セルロース自体は水、アルコール、又はアルコールと水との混合溶媒に溶解しないが、変性したセルロース誘導体の中には水、アルコール、又はアルコールと水との混合溶媒に溶解するものがある。セルロース系樹脂としては、水、アルコール、又はアルコールと水との混合溶媒のいずれかに溶解するものであれば特に制限されないが、セルロースエーテルを使用することができる。セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルC1-4アルキルセルロース)、カルボキシアルキルセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、及びアルキル-カルボキシアルキルセルロース(例えば、メチルカルボキシメチルセルロース)が挙げられる。これらを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも上記溶媒への溶解性、耐環境性(耐湿性)の観点からメチルセルロース、又はエチルセルロースを用いることが好ましい。セルロース系樹脂の重量平均分子量は、10万~20万であることが好ましい。本開示において、セルロース系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリエチレンオキシド換算の値である。
【0027】
透明導電膜18は、金属ナノワイヤ、バインダー樹脂及び溶媒を含む導電性インクを透明基材16の少なくとも一方の主面上に印刷等により塗布し、溶媒を乾燥除去することによって形成することができる。
【0028】
溶媒は、金属ナノワイヤが良好に分散し、かつバインダー樹脂を溶解するが透明基材16を溶解しない溶媒であれば特に限定されない。ポリオール法を用いて製造された金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒を使用することが好ましい。バインダー樹脂の乾燥速度を容易に制御できることから、アルコールと水との混合溶媒を使用することがより好ましい。アルコールは、CnH2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール及びイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール」と表記する。]を少なくとも1種含むことが好ましく、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことがより好ましい。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを用いると、溶媒の乾燥が容易となるため工程上有利である。アルコールとして、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。これらのアルコールを炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用することにより、溶媒の乾燥速度を調整することができる。混合溶媒における全アルコールの含有率は、5~90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であると導電性インクをコーティングした際に縞模様(塗布斑)が発生する場合がある。
【0029】
導電性インクは、バインダー樹脂、金属ナノワイヤ及び溶媒を自転公転撹拌機等を用いて撹拌し混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される金属ナノワイヤの含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0~99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
導電性インクの印刷は、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア法、スリットコート法等により行うことができる。印刷により形成される印刷膜又はパターンの形状については特に限定はないが、透明基材16上に形成される配線又は電極のパターンの形状、あるいは透明基材16の全面又は一部の面を被覆する膜(ベタパターン)の形状が挙げられる。形成したパターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電性を有する。透明導電膜18の乾燥厚みは、使用する金属ナノワイヤの径、所望するシート抵抗値等により異なるが、好ましくは10~300nmであり、より好ましくは30~200nmである。透明導電膜18の乾燥厚みが10nm以上であれば金属ナノワイヤの交点の数が増えるため良好な導電性を得ることができる。透明導電膜18の乾燥厚みが300nm以下であれば、光が透過しやすくなり金属ナノワイヤによる反射が抑制されるため良好な光学特性を得ることができる。必要に応じて透明導電膜18に光照射を行ってもよい。
【0031】
〈保護膜〉
一般的に、透明導電膜を保護する保護膜は、透明導電膜を機械的に保護する観点からは硬化性樹脂組成物の硬化膜より形成することが好ましい。しかし、硬化膜は成形加工性に優れないため、3次元成形に用いられる保護膜としては好ましくない。そのため、一実施形態の透明導電フィルム積層体14を構成する樹脂成分を含む保護膜20は、成形加工性に優れる熱可塑性樹脂を主成分とする。換言すると、保護膜20を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する。後述するように、保護膜20は樹脂を溶媒に溶解した樹脂組成物を透明導電膜18の上に塗布することにより形成される。そのため、透明導電膜18のバインダー樹脂及び透明基材16を侵すことがなく、かつ透明導電膜18上に良好に塗布することが可能な溶媒を含み、透明導電膜18上に膜形成が可能な樹脂組成物を用いる必要がある。適用できる樹脂組成物としては、例えば、エチルセルロース又はカルボキシ基を有するポリウレタンを含む樹脂組成物が挙げられる。エチルセルロースを含む樹脂組成物としては、例えばエトセル(登録商標)STD-100(ダウ・ケミカル社製エチルセルロース、重量平均分子量:180,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.0[カタログ値])が挙げられる。カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量は、1,000~100,000であることが好ましく、3,000~85,000であることがより好ましく、5,000~70,000であることが更に好ましく、10,000~65,000が特に好ましい。本開示において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量は、GPCで測定したポリスチレン換算の値である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量が1,000未満であると、塗膜の伸度、可撓性、及び強度が損なわれる場合があり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなる場合がある。
【0032】
本開示において、特に断りのない限り、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量に関するGPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:Shodex(登録商標)カラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルループ 100μL
試料濃度:約0.1質量%
【0033】
カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~140mg-KOH/gであることが好ましく、15~130mg-KOH/gであることがより好ましい。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が10mg-KOH/g以上であると、保護膜20の耐溶剤性は良好であり、硬化成分を微量併用した際の樹脂組成物の硬化性も良好である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が140mg-KOH/g以下であると、ポリウレタンの溶媒への溶解性が良好であり、樹脂組成物の粘度を所望の粘度に調整し易い。
【0034】
本開示において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は以下の方法により測定した値である。
【0035】
100mL三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mLを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に撹拌する。得られた混合物を、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを中和の終点とする。
【0036】
下記の計算式を用いて得た値をカルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価とする。
酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(mL)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0037】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐光性及び耐候性の観点からは、(a1)、(a2)、及び(a3)はそれぞれ芳香環などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0038】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、及び脂環式ポリイソシアネートが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0039】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエーテルジイソシアネート、及びダイマー酸ジイソシアネートが挙げられる。
【0040】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0041】
(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、高温高湿時の信頼性が高く、ヒータ11に適した保護膜20を得ることができる。上記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0042】
上述のとおり耐候性及び耐光性の観点からは、(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いることが好ましい。そのため、必要に応じて芳香族ポリイソシアネート、又は芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いる場合は、これらの含有量は、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、好ましくは50mol%以下、より好ましくは30mol%以下、更に好ましくは10mol%以下である。
【0043】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(但し(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。ポリオール化合物の数平均分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0044】
(a2)ポリオール化合物としては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシロキサン、並びに植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸及びその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換して得られる炭素原子数が18~72のポリオール化合物が挙げられる。保護膜20の耐水性、絶縁信頼性、及び基材との密着性のバランスの観点からは、(a2)ポリオール化合物はポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
【0045】
ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3~18のジオールを、炭酸エステル又はホスゲンと反応させることにより得ることができ、例えば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0046】
式(1)において、R3は対応するジオール(HO-R3-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルカンジイル基であり、n3は正の整数、好ましくは2~50である。
【0047】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造することができる。
【0048】
ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルカンジイル基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールを併用することが好ましい。
【0049】
本発明の効果を損なわない範囲で、(a2)ポリオール化合物として、ポリエステル又はポリカーボネートを合成する際のジオール成分として通常用いられる、分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びジプロピレングリコールが挙げられる。
【0050】
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、又は炭素原子数が1若しくは2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する、分子量が200以下のカルボン酸又はアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、及びN,N-ビスヒドロキシエチルアラニンが挙げられ、これらの中でも、溶媒への溶解性が高いことから、2,2-ジメチロールプロピオン酸、及び2,2-ジメチロールブタン酸が好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、上記の3成分((a1)、(a2)及び(a3))のみから合成が可能である。更に(a4)モノヒドロキシ化合物及び/又は(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐光性の観点からは、(a4)モノヒドロキシ化合物及び(a5)モノイソシアネート化合物は、分子内に芳香環又は炭素-炭素二重結合を含まない化合物であることが好ましい。
【0052】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウレートのような公知のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成することができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンを無触媒で反応させることが、最終的に錫等の混入を考慮する必要がないため有利である。
【0053】
有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されない。有機溶媒は、アミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0054】
生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、及びヒータ用途においてポリウレタンを保護膜20の原料にすることを考慮すると、有機溶媒は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、又はそれらの組合せであることが好ましい。
【0055】
原料の投入順序については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に反応容器に入れ、溶媒に溶解又は分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
【0056】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量及び酸価に応じて調節される。具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)のモル比は、好ましくは0.5~1.5:1、より好ましくは0.8~1.2:1、更に好ましくは0.95~1.05:1である。(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基のモル比は、好ましくは1:0.1~30、より好ましくは1:0.3~10である。
【0057】
前述したとおり、保護膜20を構成する樹脂成分の94質量%以上は熱可塑性樹脂に由来する。保護膜20を構成する樹脂成分の6質量%以下が硬化性樹脂(化合物)に由来してもよい。樹脂組成物中の樹脂成分の硬化性樹脂(化合物)の含有量が6質量%以下の範囲であれば、3次元成形時の加工性の顕著な低下を招くことなく、保護膜20としての機能を向上させることができる。熱可塑性樹脂と併用することができる好適な硬化性樹脂(化合物)としては一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)が挙げられる。
【0058】
保護膜を形成する際に、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが互いに反応しうる場合がある。例えば、熱可塑性樹脂としてカルボキシ基を含有するポリウレタンを使用し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、ポリウレタンのカルボキシ基とエポキシ樹脂のエポキシ基とが反応し、ポリウレタン-エポキシ樹脂複合体が形成される場合がある。本開示において、「保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する」とは、保護膜の形成に使用した熱可塑性樹脂、例えばカルボキシ基を含有するポリウレタンが、保護膜の樹脂成分の94質量%以上に相当し、保護膜の形成に使用した熱硬化性樹脂、例えば一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、保護膜の樹脂成分の6質量%以下に相当することを意味する。保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来する場合、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であることを意味する。
【0059】
一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有する脂肪族エポキシ樹脂、グリシジル基を含有する脂環式エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0060】
一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をより好適に使用することができる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER(登録商標)604(三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON(登録商標)EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON(登録商標)HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、及びTEPIC(登録商標)-S(日産化学株式会社製)が挙げられる。
【0061】
一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンとの配合割合は、カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂(化合物)が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下であることが好ましい。
【0062】
エポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンと併用する場合、樹脂組成物中に硬化促進剤を更に配合することができる。硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等のホスフィン系化合物(北興化学工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、及びIrgacure(登録商標)184が挙げられる。硬化促進剤の使用量は、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部、更に好ましくは40~60質量部である。上記硬化促進剤は、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0063】
硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、例えば、多官能チオール化合物及びオキセタン化合物が挙げられる。多官能チオール化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、及びカレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)が挙げられる。オキセタン化合物としては、例えば、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亜合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBP及びOXMA(いずれも宇部興産株式会社製)が挙げられる。硬化助剤の使用量は、添加した効果が得られ、かつ硬化速度の過度の上昇を回避しハンドリング性を維持することができるため、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部である。上記硬化助剤も、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0064】
樹脂組成物は、溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことが更に好ましい。溶媒としては、透明導電膜18及び透明基材16を侵さないものを使用することができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、バインダー樹脂の溶解性又は印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後にカルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。操作の煩雑性及びエネルギーコストを考慮すると、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。樹脂組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃~300℃であることが好ましく、80℃~250℃であることがより好ましい。溶媒の沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、塗膜のムラができやすい。溶媒の沸点が300℃より高いと、乾燥及び硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するため、工業的な生産には向かなくなる。
【0065】
溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタンの合成に用いる溶媒;プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒;イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒;メチルエチルケトン(沸点80℃)等のケトン系の溶媒;又は酢酸エチル(沸点77℃)等のエステル系の溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。2種以上を混合する場合には、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮して、凝集及び沈殿が生じない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒、又はインクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。溶媒単独では透明導電膜18又は透明基材16を侵す溶媒も、他の溶媒との混合溶媒として透明導電膜18又は透明基材16を侵さない組成とすれば使用することができる。
【0066】
樹脂組成物は、カルボキシ基を含有するポリウレタンに、必要に応じてエポキシ化合物と、硬化促進剤と、硬化助剤とを配合した混合物に、樹脂組成物中の溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように溶媒を配合し、これらの成分が均一になるように撹拌して製造することができる。
【0067】
樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚及び印刷方法によっても異なるが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~10質量%の範囲であると、樹脂組成物を透明導電膜18上に塗布したときに、膜厚が過度に厚くなることがなく、透明導電膜18との電気的なコンタクトを取れる状態を保持することができ、かつ保護膜20に耐候性及び耐光性を付与することができる。
【0068】
以上に述べた樹脂組成物を使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法等の印刷により、透明導電膜18上に樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥及び除去することにより保護膜20が形成される。保護膜20の厚みは通常100nm超1μm以下である。保護膜20の厚みは、100nm超500nm以下であることが好ましく、100nm超200nm以下であることがより好ましく、100nm超150nm以下であることが更に好ましく、100nm超120nm以下であることが特に好ましい。保護膜20の厚みが1μmを超えると後工程で配線と透明導電膜18との導通が得られにくくなる。
【0069】
上述のとおり透明基材16上に透明導電膜18(例えば銀ナノワイヤ層)及び保護膜20を順次形成することにより得られる透明導電フィルム積層体14は、3次元加工性に優れる。透明導電フィルム積層体14の3次元加工方法としては、真空成形、ブロー成形、フリーブロー成形、圧空成形、真空圧空成形、熱プレス成形等、種々の公知の方法が挙げられる。いずれの方法を用いても、3次元加工した透明導電フィルム積層体14には応力がかかり歪みが発生する。この歪みに伴い透明導電フィルム積層体14は延伸される。3次元加工性が低い透明導電フィルム積層体では、低応力(低延伸倍率)で、透明導電フィルム積層体を構成する透明導電膜の破断又はシート抵抗値の顕著な増大が通常認められる。一方、3次元加工性が良好な透明導電フィルム積層体では、高応力(高延伸倍率)まで透明導電膜の破断が発生しないか、あるいはシート抵抗値の上昇が小さい。したがって、透明導電フィルム積層体14を引張試験してシート抵抗値の変化を測定することにより、透明導電フィルム積層体14の3次元加工性を評価することができる。後述の実施例に示すように、一実施形態の透明導電フィルム積層体14では、歪みを加える前のシート抵抗値(R0)に対する、10%の歪みを加えた後のシート抵抗値(R)の比(R/R0)が1以上3以下、好ましくは1以上2.5以下、より好ましくは1以上2以下である。これは、樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂である保護膜20を使用することにより、歪みを加えても保護膜20にクラックが発生し難く、保護膜20のクラックが透明導電膜18に伝搬してその導電性を損なうことを回避できるためと考えられる。3次元加工性の観点からは、保護膜20は硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤等)を含まないことが好ましい。
【0070】
本開示のヒータ11は、透明導電フィルム積層体14を備えることにより、3次元加工性に優れるので、曲面例えば、円筒面、円錐面、又は球面などの3次元曲面を有する被加熱体、例えばカメラのレンズ、カーブミラー、自動車のフロントガラス及びリアガラス等に設けることによって、被加熱体を直接加熱することができる。例えば、ヒータ11は、透明基材16の透明導電膜18が設けられている主面と反対側の主面において、図示しないが接着層を介して被加熱体の表面に取り付けてもよい。接着層は、例えば、ゴム系、アクリル系などの感圧接着剤、ホットメルト接着剤、エポキシ系などの熱硬化型接着剤等の公知の透明な接着剤で形成することができる。なお、「3次元曲面」とは平面を変形させることによって成立させることのできない曲面、すなわち、平面に展開することができない曲面を意味する。
【0071】
図1のヒータ11は、厚さ方向から見た外形形状が四角形である場合について示したが、本発明はこれに限られず、円形、楕円形、四角形以外の多角形でもよい。またヒータ11は、複数の電極として一対の電極12を一つ備える場合について説明したが、本発明はこれに限られず、それぞれが一対の電極12と同一構造の複数の対の電極12を備えてもよい。電極12の数は2つ以上であればよく、偶数であってもよく、奇数であってもよい。例えば、奇数の電極12が存在する場合、ある1つの電極は他の少なくとも2つの電極との対を形成する。
【実施例0072】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0073】
<銀ナノワイヤの作製>
銀ナノワイヤ1
ポリビニルピロリドンK-90(株式会社日本触媒製)(0.98g)、AgNO3(1.04g)及びFeCl3(0.8mg)を、エチレングリコール(250mL)に溶解し、150℃で1時間加熱して反応させた。得られた銀ナノワイヤ粗分散液を水/エタノール=20/80[質量比]混合溶媒2000mLに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m2、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施することにより不純物を除去し、銀ナノワイヤ1(平均径:26nm、長軸の平均長さ:20μm)を得た。得られた銀ナノワイヤ1の平均径は、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法(径)を測定し、得られた測定値の算術平均値として求めた。得られた銀ナノワイヤ1の長軸の平均長さは、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法(長さ)を測定し、得られた測定値の算術平均値として求めた。メタノール、エチレングリコール、AgNO3、及びFeCl3としては、富士フイルム和光純薬株式会社製の試薬を用いた。
【0074】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)の作製>
調製例1(銀ナノワイヤインク1)
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤ1の水/エタノール混合溶媒の分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.60質量%、水/エタノール=20/80[質量比])、水1.1g、メタノール6.0g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、エタノール7.2g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フイルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、グレード:GE191-053,固形分濃度5質量%、絶対分子量180万)1.3gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク1を40.6g作製した。
【0075】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)の作製>
調製例2(銀ナノワイヤインク2)
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤ1の水/エタノール混合溶媒の分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.60質量%、水/エタノール=20/80[質量比])、水1.1g、メタノール6.0g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、エタノール7.2g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フイルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、グレード:GE191-103,固形分濃度10質量%、絶対分子量90万)0.65gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク2を40.0g作製した。
【0076】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)の作製>
調製例3(銀ナノワイヤインク3)
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤ1の水/エタノール混合溶媒の分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.60質量%、水/エタノール=20/80[質量比])、水1.75g、メタノール6.0g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、エタノール6.55g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フイルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、エトセル(登録商標)STD100cps(ダウ・ケミカル(米)製エチルセルロース)溶液(固形分濃度10質量%エタノール溶液)0.65gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク3を40.0g作製した。
【0077】
<銀ナノワイヤインク塗膜の印刷>
上記調製例1で調製した銀ナノワイヤインク1を用いて、バーコート印刷機(コーテック株式会社社製AFA-Standard)により、ポリカーボネート(PC)フィルム(三菱ガス化学株式会社製ユーピロン(登録商標)FS-2000H、ガラス転移温度:130℃(カタログ値)、100μm厚)の主面上に、ウェット膜厚20μmにて塗工し、A4サイズのベタパターンとして透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。楠本化成株式会社製恒温器ETAC HS350を用い、80℃、1分の条件で溶媒乾燥を行った後、得られた透明導電膜のシート抵抗を測定した。シート抵抗は、透明導電膜(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。銀ナノワイヤインク1を用いた透明導電膜のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。シート抵抗は非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製EC-80P)を用いて測定した。透明導電膜の厚みは、光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した結果、80nmであった。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を直接測定することができる。
【0078】
<保護膜インク(樹脂組成物)の作製>
カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成例
合成例1
撹拌装置、温度計、及びコンデンサー(還流冷却器)を備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールのモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)16.7g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(湖州長盛化工有限公司社製)10.8g、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(富士フイルム和光純薬株式会社製)62.6gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0079】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下漏斗を用いて、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)23.5gを30分かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温し、100℃で15時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に100℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシ基を含有するポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は33,500、その樹脂溶液の酸価は39.4mg-KOH/gであった。
【0080】
保護膜インク1
上記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)7.1gに、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物92.9gを加え、均一になるように株式会社シンキー製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク1を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク1の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタンの量)は3質量%であった。
【0081】
保護膜インク2
上記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)1.8gに、エポキシ化合物1としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.002g、硬化促進剤としてU-CAT5003(第4級ホスホニウムブロマイド)(サンアプロ株式会社製)0.05g、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物28.0gを加え、均一になるように株式会社シンキー製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク2を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク2の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。保護膜インク2中のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は0.02である。
【0082】
保護膜インク3
上記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)1.8gに、エポキシ化合物1としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.1g、硬化促進剤としてU-CAT5003(第4級ホスホニウムブロマイド)(サンアプロ株式会社製)0.05g、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物28.0gを加え、均一になるように株式会社シンキー製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク3を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク3の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。保護膜インク3中のカルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)は1.0である。
【0083】
保護膜インク4
保護膜インク1において、配合したカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液をエトセル(登録商標)STD100cps(ダウ・ケミカル(米)製エチルセルロース)溶液(固形分濃度10質量%エタノール溶液)30.0gに変更し、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物70.0gを加えた以外は保護膜インク1と同様に調製し、保護膜インク4を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク4の不揮発分(固形分)濃度(エトセル(登録商標)の量)は3質量%であった。
【0084】
<保護膜の印刷>
実施例1
上記調製例1により得られた銀ナノワイヤインク1を用いて、PCフィルムの主面上に印刷した透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)の主面上に、前述のバーコート印刷機を用いて、ウェット膜厚約7μmにて保護膜インク1を塗工し、A4サイズのベタパターンとして保護膜つき透明導電膜(保護膜つき銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。前述の恒温器を用い、80℃、1分間の条件で溶媒乾燥を行って、実施例1の透明導電フィルム積層体を得た。得られた透明導電フィルム積層体のシート抵抗を測定した。この場合のシート抵抗は、透明導電フィルム積層体(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。保護膜インク1を用いた透明導電フィルム積層体のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。シート抵抗は前述の非接触式抵抗測定器を用いて測定した。保護膜の厚みは、前述の銀ナノワイヤ層の膜厚同様光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した結果、90nmであった。この場合、測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚とした。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)とその上に形成された保護膜の膜厚(Tp)との総膜厚(Tc+Tp)が直接測定できるので、この測定値から先に測定した銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を差し引くことにより保護膜の膜厚(Tp)が得られる。
【0085】
実施例2~4、及び比較例1~3
実施例1と同様にして、表1に示す組合せで銀ナノワイヤインク塗膜、及び保護膜を製膜して、実施例2~4の透明導電フィルム積層体を得た。比較例1は、実施例2に対し、保護膜インクが異なるヒータである。比較例2は、PET基材を厚さ100nmの酸化インジウム膜で被覆したシート(シグマアルドリッチ社製、厚み0.127mm)を用いた。比較例3は、ポリエチレンテレフタレート[PET]の基材上に、銅(Cu)のメタルメッシュのみを設け、保護膜を製膜していない2層構成のシートである。
【0086】
実施例5
光学用両面粘着シートを用いて透明導電フィルム積層体と前面板との貼合品を作製した。
(試験片の作製)
カバーフィルムとしてポリカーボネート(PC)フィルム(三菱ガス化学株式会社製ユーピロン(登録商標)FS-2000H、ガラス転移温度:130℃(カタログ値)、100μm厚、サイズ:長さ50mm×幅50mm)と実施例2の透明導電フィルム積層体とを貼り合わせた積層体(サイズ:長さ50mm×幅50mm)を作製した。
両面粘着シート(日東電工株式会社製、CS9864UAS)から、長さ50mm×幅50mmの短冊状のシート片を切り出し、一方のセパレータを剥離して、一方の粘着面を、PCフィルムの表面に、ハンドローラー(2kgローラー)を用いて、1往復の条件で貼り付けた。次に、他方のセパレータを剥離して、他方の粘着面を透明導電フィルム積層体の保護層に下記条件で貼り付けて、PCフィルム/両面粘着シート/透明導電フィルム積層体の構成を有する試験片(サイズ:長さ50mm×幅50mm)を作製した。
(貼り合わせ条件)
面圧:0.4MPa
真空度:30Pa
貼り付け時間:2秒
次に、上記試験片をオートクレーブに投入し、温度50℃、圧力0.5MPaの条件で15分間、オートクレーブ処理した。
さらに、上記試験片は、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後、下記再剥離試験に用いた。
引張試験には幅30mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。
発熱試験にはラグハトメしたPCフィルムを用いた。
引張後発熱試験は下記「引張特性後の発熱試験」に従ってフィルムに貼り合せた。
【0087】
実施例6
実施例1と同様にして、表1に示す組合せで銀ナノワイヤインク塗膜、及び保護膜を製膜して、実施例6の透明導電フィルム積層体を得た。実施例6では両面粘着シートとして積水化学株式会社製のHSV-100を使用した以外は、上記実施例5と同じ手法で透明導電フィルム積層体と前面板との貼合品を作製した。
【0088】
透明導電膜の評価
<シート抵抗値>
非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製EC-80P、プローブタイプHigh:10~1000Ω/□、S-High:1000~3000Ω/□)を用いて上記各実施例及び比較例で得られた各透明導電フィルム積層体のシート抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
<光学特性>
上記各実施例及び比較例で得られた各透明導電フィルム積層体をHaze meter NDH 2000(日本電色工業株式会社製)で測定した。結果を表1に示す。
【0090】
<引張特性>
引張試験には、上記各実施例及び比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を幅30mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。事前にチャック間に相当する部位に10mm間隔で標線を付け、10か所に区切り、それぞれのシート抵抗値を測定し、これをR0とした。その後、上記試験片を精密万能試験器(株式会社島津製作所製オートグラフAG-X)にセットした。セット時のチャック間距離は100mmであり、試験速度50mm/min、試験温度155℃で10%の引張歪みを与えた。試験後に10か所のシート抵抗値を再度測定し、これをRとした。これらの値からR/R0を算出した。結果を表1に示す。
【0091】
<発熱試験>
図3に示されるように、上記で得られたヒータの保護層の上に銀ペースト(東洋紡株式会社製DW-520H)をスクリーン印刷機で塗布し、80℃、30分間焼成させることにより一対の電極32を設け、試験用ヒータを作製した。ヒータの一辺(L1)は50mm、電極32の大きさはそれぞれ45mm(L2)であり、電極32の間隔(L3)は35mmであった。
【0092】
ヒータを、室温(25℃)、無風状態で、両面が大気に触れる状態で保持し、電極間に10Vの電圧を印加し、1分経過後の温度を測定した。温度の測定にはサーモグラフィ(チノー社製CPA-2200)を用いた。サーモグラフィは、放射率ε=0.95とし、ヒータ表面から約15cm離れた位置に固定した。
図3に示す5ヶ所の領域34A、34B、34C、34D、34Eを撮影し、得られた5ヶ所の測定温度の平均値をヒータ温度とした。結果を表1に示す。
【0093】
<引張特性後の発熱試験>
引張には、上記各実施例及び比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を幅50mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。その後、上記試験片を精密万能試験器(株式会社島津製作所製オートグラフAG-X)にセットした。セット時のチャック間距離は100mmであり、引張速度50mm/min、温度155℃で任意の歪みを与えた。引張後に真ん中部分を50mm×50mmに裁断した。上記「発熱試験」と同様の手順で試験用ヒータを作製し、ヒータ温度を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
表1中の保護膜の熱可塑性樹脂由来成分(質量%)は、各実施例及び比較例に用いた各保護膜インク組成(不揮発分(固形分)である[カルボキシ基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量]に対する[カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエトセル(登録商標)]の割合(質量%))から算出した。
【0097】
保護膜を構成する樹脂成分として硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)を含まない実施例1、2、4、5及び6質量%以下の硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)を含む実施例3で得られた透明導電フィルム積層体は、引張試験後いずれもシート抵抗を測定することができ、ヒータとして適用できることが分かる。しかし、保護膜中に配合した硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤)の量が6質量%超(熱可塑性樹脂であるカルボキシ基を含有するポリウレタンの量が94質量%未満)の比較例1では、引張試験を行うと、10%歪み(チャック間距離が110mm)となった時点でシート抵抗値が増大し、透明導電フィルム積層体が導電体としての機能を喪失していることが分かる。保護膜に硬化成分を添加した場合、保護膜の架橋が進み、引張試験の早期に保護膜のクラックが発生し、そのクラックに透明導電膜が追従して破断することで、シート抵抗が測定できなくなっていると考えられる。ITOで形成された比較例2、及びCuメタルメッシュで形成された比較例3は、いずれも、引張試験を行うとシート抵抗値が測定できなくなったことから、断線し、導電体としての機能を喪失していることが分かる。