(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095287
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
H01G4/30 201C
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
H01G4/30 311D
H01G4/30 311F
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 515
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211085
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】森 紘夢
(72)【発明者】
【氏名】金田 和巳
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC01
5E001AD01
5E001AH01
5E001AH09
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AB03
5E082BC32
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE15
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG22
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082PP06
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 デラミネーションを抑制することができる大容量のセラミック電子部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく45度以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、
前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、
前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく45度以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく30度以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく20度以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層の厚み方向において、前記補助電極の先端から前記表面までの距離は、前記複数の誘電体層の1つの厚みの半分以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記補助電極は、板形状を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記補助電極は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有することを特徴とする請求項5に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記補助電極は、アスペクト比が3.5~15である板形状を有することを特徴とする請求項5に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、
前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、
前記誘電体層の厚み方向において、前記補助電極の先端から前記表面までの距離は、前記複数の誘電体層の1つの厚みの1/10以上であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項9】
交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、
前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、
前記補助電極は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項10】
六方晶の結晶構造を有する窒化ホウ素をセラミック原料に添加する工程と、
前記窒化ホウ素が添加された前記セラミック原料から誘電体グリーンシートを生成する工程と、
金属導電ペーストにより前記誘電体グリーンシートの表面に内部電極パターンを印刷する工程と、
前記内部電極パターンが印刷された前記誘電体グリーンシートを積層することにより積層体を形成する工程と、
前記窒化ホウ素が空隙に変化し、前記内部電極パターンに隣接する前記空隙に前記金属導電ペーストが流れ込むように還元雰囲気下で前記積層体を焼成する工程とを有することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記窒化ホウ素の粒子は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有することを特徴とする請求項10に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記窒化ホウ素を前記セラミック原料に添加する工程において、前記セラミック原料に対する前記窒化ホウ素の濃度は、0.01~0.30(wt%)であることを特徴とする請求項10または11に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記積層体を焼成する工程において、焼成温度を600~900(℃)の範囲内において1000(℃/時間)以上のレートで昇温することを特徴とする請求項10乃至12の何れかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記積層体を焼成する工程において、焼成温度を1000~1200(℃)の範囲内において300(℃/時間)以下のレートで昇温することを特徴とする請求項10乃至13の何れかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品及びその製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
内部電極層と誘電体層とが交互に積層された積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品が知られている。セラミック電子部品に関し、例えば特許文献1には、積層型電子部品の層間のデラミネーション(剥離)を抑制するためにセラミック層間を結合する柱状のセラミック焼結体(以下、柱部材)を設け、さらにアンカー効果により層間の結合力を増加するためにセラミック層の表面に凹凸領域を形成する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、柱部材は内部電極層を厚み方向に貫通するため、内部電極層の面積が減少することにより積層型電子部品の大容量化が困難となる。また、セラミック層の凹凸領域のみを積層型電子部品に設けた場合、セラミック層を薄くするほど、アンカー効果が低下して十分に層間の結合力を得ることができないため、デラミネーションを抑制することは難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、デラミネーションを抑制することができる大容量のセラミック電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく45度以下である。
【0007】
上記のセラミック電子部品において、前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく30度以下であってもよい。
【0008】
上記のセラミック電子部品において、前記表面に対する前記補助電極の突出方向の角度は、0度より大きく20度以下であってもよい。
【0009】
上記のセラミック電子部品において、前記誘電体層の厚み方向において、前記補助電極の先端から前記表面までの距離は、前記複数の誘電体層の1つの厚みの半分以下であってもよい。
【0010】
上記のセラミック電子部品において、前記補助電極は、板形状を有してもよい。
【0011】
上記のセラミック電子部品において、前記補助電極は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有してもよい。
【0012】
上記のセラミック電子部品において、アスペクト比が3.5~15である板形状を有してもよい。
【0013】
本発明に係るセラミック電子部品は、交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、前記誘電体層の厚み方向において、前記補助電極の先端から前記表面までの距離は、前記複数の誘電体層の1つの厚みの1/10以上である。
【0014】
本発明に係るセラミック電子部品は、交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層と、前記複数の内部電極層のうち、前記複数の誘電体層の1つを挟んで対向する一対の内部電極層の少なくとも一方の表面から前記複数の誘電体層の1つの内部に突出する補助電極とを有し、前記補助電極は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有する。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、六方晶の結晶構造を有する窒化ホウ素をセラミック原料に添加する工程と、前記窒化ホウ素が添加された前記セラミック原料から誘電体グリーンシートを生成する工程と、金属導電ペーストにより前記誘電体グリーンシートの表面に内部電極パターンを印刷する工程と、前記内部電極パターンが印刷された前記誘電体グリーンシートを積層することにより積層体を形成する工程と、前記窒化ホウ素が空隙に変化し、前記内部電極パターンに隣接する前記空隙に前記金属導電ペーストが流れ込むように還元雰囲気下で前記積層体を焼成する工程とを有する方法である。
【0016】
上記のセラミック電子部品の製造方法において、前記窒化ホウ素の粒子は、アスペクト比が1.5~15である板形状を有してもよい。
【0017】
上記のセラミック電子部品の製造方法において、・前記窒化ホウ素を前記セラミック原料に添加する工程において、前記セラミック原料に対する前記窒化ホウ素の濃度は、0.01~0.30(wt%)であってもよい。
【0018】
上記のセラミック電子部品の製造方法において、焼成温度を600~900(℃)の範囲内において1000(℃/時間)以上のレートで昇温してもよい。
【0019】
上記のセラミック電子部品の製造方法において、前記積層体を焼成する工程において、焼成温度を1000~1200(℃)の範囲内において300(℃/時間)以下のレートで昇温してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セラミック電子部品の容量を増加し、デラミネーションを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】積層セラミックコンデンサの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿った積層セラミックコンデンサの断面図である。
【
図3】補助電極の一例を示す積層チップの部分断面図である。
【
図4】補助電極の突出方向の角度を示す断面図である。
【
図5】他の補助電極の例を示す積層チップの部分断面図である。
【
図6】積層セラミックコンデンサの製造工程の一例を示す図である。
【
図7】走査電子顕微鏡で撮像したhBN粒子の写真を示す図である。
【
図8】側面視における内部電極印刷工程の一例を示す断面図である。
【
図9】側面視における積層工程の一例を示す断面図である。
【
図10】焼成工程の開始前における積層体の部分断面図である。
【
図11】焼成工程の途中における積層体の部分断面図である。
【
図12】焼成工程後における積層体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態]
(積層セラミックコンデンサの構成)
図1は、積層セラミックコンデンサ1の一例を示す斜視図である。積層セラミックコンデンサ1は、略直方体形状の積層チップ2と、積層チップ2のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極3a,3bとを備える。積層セラミックコンデンサ1はセラミック電子部品の一例である。なお、以降の説明において、積層チップ2の積層方向の両端面を上面及び下面と表記し、その他の4つの端面のうち、外部電極3a,3bが設けられた2つの端面以外の両端面を側面と表記する。
【0023】
外部電極3a,3bは、積層チップ2の上面及び下面と両側面に延在している。ただし、外部電極3a,3bは互いに離間している。また、積層チップ2は、以下に述べる層構成を有する。
【0024】
図2は、
図1のA-A線に沿った積層セラミックコンデンサ1の断面図である。なお、
図2に示される積層セラミックコンデンサ1の縮尺は、便宜上、
図1の積層セラミックコンデンサ1とは異ならせている。積層チップ2は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層23と、卑金属材料を含む内部電極層22a,22bとが、交互に積層された構成を有する。
【0025】
内部電極層22aの端縁は、積層チップ2の外部電極3aが設けられた端面に露出して外部電極3aと電気的に接続されている。内部電極層22bの端縁は、積層チップ2の外部電極3bが設けられた端面に露出して外部電極3bと電気的に接続されている。内部電極層22a,22bは、積層セラミックコンデンサ1の積層方向において誘電体層23を挟んで交互に積層されている。
【0026】
積層チップ2の上面及び下面はカバー層20,21によりそれぞれ形成されている。上面側のカバー層20は積層方向の最上部の内部電極層22bに隣接し、下面側のカバー層21は積層方向の最下部の内部電極層22aに隣接する。カバー層20,21は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層20,21の材料は、誘電体層23とセラミック材料の主成分が同じである。
【0027】
外部電極3a,3bは、Ni,Cuなどを主成分とする。外部電極3a,3bの表面には、Cu,Ni,Al,Zn,Snなどの金属またはこれらの2以上の合金を主成分とする、めっき層が設けられていてもよい。
【0028】
誘電体層23は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),MgTiO3(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0029】
内部電極層22a,22bは、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層22a,22bへの添加物として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やSn(スズ)を用いてもよい。また、内部電極層22a,22bは、これらの元素を含む合金を用いてもよい。
【0030】
また、誘電体層23を挟んで対向する一対の内部電極層22a,22bの少なくとも一方には、その誘電体層23の内部に突出する補助電極が設けられている。以下に、符号Pで示される領域内の補助電極を例に挙げて説明する。
【0031】
図3は、補助電極221bの一例を示す積層チップ2の部分断面図である。
図3には、
図2に符号Pで示される領域の側面視及び外部電極3b側からの正面視の断面が示されている。
【0032】
補助電極221bは、誘電体層23を挟んで対向する一対の内部電極層22a,22bのうち、一方の内部電極層22bの表面220bから誘電体層23の内部に突出している。補助電極221bは内部電極層22bと一体的に形成されている。このため、補助電極221b及び内部電極層22bの主成分は同一である。
【0033】
内部電極層22bの表面220bに対する補助電極221bの突出方向の角度θbは、0度より大きく45度以下である。この角度θbは、後述するように、積層セラミックコンデンサ1の製造において、誘電体層23の原材料のセラミック原料に、六方晶の結晶構造を有する窒化ホウ素(hBN)を添加したときのhBN粒子の方向に依存する。
【0034】
例えば走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)で積層チップ2の積層断面を観察した場合、
図3のような模式図とは異なり、内部電極層22a,22bの表面には平坦ではなく凹凸が形成されており、補助電極221bは直線状ではなく例えばギザギザに歪んでいる。この視点において、突出方向の角度θbの規定を以下に詳述する。
【0035】
図4は、補助電極221bの突出方向の角度θbを示す断面図である。内部電極層22a,22bの表面220a,220bは、平坦な場合もあるが、平坦ではなく、凹凸が形成されている場合もある。また、補助電極221bは、直線状に形成される場合もあるが、直線状ではなくギザギザに歪んでいる場合もある。
【0036】
符号Mwは、表面220bにおける補助電極221bの根本の領域Swの拡大図である。点P1c,P2cは、表面220bにおける補助電極221bの根本の両端部である。点Pcは、両端の点P1c,P2cを結ぶ線分Lcの中点である。
【0037】
点Pcから積層チップ2の積層方向に直交する方向、つまり
図4の紙面上の左右方向にそれぞれ一定の間隔k(例えば5(μm))で、表面220b(誘電体層23との境界)上に5個の点Pkが設定されている。直線Lsは、10個の点Pkを直線近似することにより得られる。また、直線Lhは、点Pcと補助電極221bの先端221bpを結ぶことにより得られる。これらの2つの直線Ls,Lhのなす角度は、補助電極221bの突出方向の角度θbとして規定される。
【0038】
補助電極221bの突出方向の角度θbは、0度より大きく45度以下である。このように補助電極221bが内部電極層22bの表面220bに対して45度以下の浅い角度で誘電体層23の内部に突出している。このため、内部電極層22b及び誘電体層23に対して応力が積層方向に加わったとき、補助電極221bのアンカー効果によって内部電極層22bとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0039】
これに対して、例えば特許文献1のように、誘電体層23に凹凸領域を設けた場合、誘電体層23を薄くするほど、アンカー効果が低下して十分に誘電体層23及び内部電極層22bの間の結合力を得ることができないため、デラミネーションを抑制することは難しい。補助電極221bは、内部電極層22bの表面220bに対して45度以下の浅い角度で誘電体層23の内部に突出しているため、誘電体層23が薄い場合でも十分なアンカー効果が得られる。
【0040】
また、突出方向の角度θbを0度より大きく45度以下とすることにより、内部電極層22bに対向する他方の内部電極層22aとの絶縁性を確保しつつ、誘電体層23へのアンカー効果を得ることができる。好ましくは、突出方向の角度θbを0~30度とすると、対向する内部電極との絶縁性を高めることができる。さらに好ましくは、突出方向の角度θbを0~20度とすると、さらに対向する内部電極との絶縁性を高めることができる。
【0041】
また、補助電極221bによると、誘電体層23と接触する内部電極の面積を、補助電極221bが設けられていない場合により増加させることができる。このため、内部電極層22b及び誘電体層23の間の結合力がさらに増加するだけでなく、積層セラミックコンデンサ1の静電容量を増加させることができる。
【0042】
誘電体層23の厚み方向において、補助電極221bの先端221bpから内部電極層22bの表面220bまでの距離Hbは、誘電体層23の厚みDの半分以下であると好ましい。これにより、内部電極層22bに対向する他方の内部電極層22aと補助電極221bの先端221bpの距離が、誘電体層23の厚みDの半分以上となるため、補助電極221bと内部電極層22aとの絶縁性を十分に確保することができる。さらに好ましくは、距離Hbを誘電体層23の厚みDの3分の1未満、または4分の1未満として絶縁性を高めてもよい。
【0043】
また、誘電体層23の厚み方向において、補助電極221bの先端221bpから内部電極層22bの表面220bまでの距離Hbは、誘電体層23の厚みDの10分の1以上である。このため、補助電極221bは、誘電体層23が薄い場合でも誘電体層23に対して十分な深さに食い込むことができるため、内部電極層22bと誘電体層23の間の結合力を十分に高めることができる。したがって、内部電極層22b及び誘電体層23に対して応力が積層方向に加わったとき、補助電極221bのアンカー効果によって内部電極層22bとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0044】
また、補助電極221bは板形状を有する。この板形状は、後述するように、hBN粒子の形状に依存する。補助電極221bのアスペクト比は例えば1.5~15である。このようにアスペクト比を設定することで、補助電極221bは、誘電体層23が薄い場合でも誘電体層23に対して十分な範囲に食い込むことができるため、内部電極層22bと誘電体層23の間の結合力を十分に高めることができる。したがって、内部電極層22b及び誘電体層23に対して応力が積層方向に加わったとき、補助電極221bのアンカー効果によって内部電極層22bとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0045】
さらに補助電極221bは略楕円の板形状であることが好ましい。この形状によると、誘電体層23の厚み方向において、内部電極層22bの表面220bから上記の距離Hbの半分程度の位置まで補助電極221bの幅は広がっている。このため、内部電極層22bと誘電体層23の間の結合力は、補助電極221bが例えば矩形の板形状である場合よりも高められる。
【0046】
(積層セラミックコンデンサの他の例)
本例において、補助電極221bは、一方の内部電極層22bだけに設けられているが、以下に述べるように他方の内部電極層22aにも設けられてもよい。
【0047】
図5は、他の補助電極221a,221bの例を示す積層チップ2の部分断面図である。
図5において、
図3と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0048】
本例では、一方の内部電極層22bの補助電極221bに加えて、他方の内部電極層22aにも補助電極221aが設けられている。補助電極221aは、内部電極層22aの表面220aから誘電体層23の内部に突出している。補助電極221aは内部電極層22aと一体的に形成されている。このため、補助電極221a及び内部電極層22aの主成分は同一である。
【0049】
また、内部電極層22aの表面220aに対する補助電極221aの突出方向の角度θaは、他方の補助電極221bの角度θbと同様に、0度より大きく45度以下である。このため、内部電極層22a及び誘電体層23に対して応力が上下方向に加わったとき、補助電極221aのアンカー効果によって内部電極層22aとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0050】
また、補助電極221aによると、誘電体層23と接触する内部電極の面積を、補助電極221aが設けられていない場合により増加させることができる。このため、内部電極層22a及び誘電体層23の間の結合力がさらに増加するだけでなく、積層セラミックコンデンサ1の静電容量を増加させることができる。
【0051】
誘電体層23の厚み方向において、補助電極221aの先端221apから内部電極層22aの表面220aまでの距離Haは、誘電体層23の厚みDの半分以下であると好ましい。これにより、内部電極層22aに対向する他方の内部電極層22bと補助電極221aの先端221apの距離が、誘電体層23の厚みDの半分以上となるため、補助電極221aと内部電極層22bとの絶縁性を十分に確保することができる。さらに好ましくは、距離Haを誘電体層23の厚みDの3分の1以下、または4分の1以下として絶縁性を高めてもよい。
【0052】
また、誘電体層23の厚み方向において、補助電極221aの先端221apから内部電極層22aの表面220aまでの距離Haは、誘電体層23の厚みDの10分の1以上である。このため、補助電極221aは、誘電体層23が薄い場合でも誘電体層23に対して十分な深さに食い込むことができるため、内部電極層22aと誘電体層23の間の結合力を十分に高めることができる。したがって、内部電極層22a及び誘電体層23に対して応力が積層方向に加わったとき、補助電極221aのアンカー効果によって内部電極層22bとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0053】
また、補助電極221aは板形状を有する。この板形状は、後述するように、hBN粒子の形状に依存する。補助電極221aのアスペクト比は例えば1.5~15である。このようにアスペクト比を設定することで、補助電極221aは、誘電体層23が薄い場合でも誘電体層23に対して十分な範囲に食い込むことができるため、内部電極層22aと誘電体層23の間の結合力を十分に高めることができる。したがって、内部電極層22a及び誘電体層23に対して応力が積層方向に加わったとき、補助電極221aのアンカー効果によって内部電極層22bとその隣接する誘電体層23の?離が抑制される。
【0054】
さらに補助電極221aは略楕円形の板形状を有していることが好ましい。この形状によると、誘電体層23の厚み方向において、内部電極層22aの表面220aから上記の距離Hbの半分程度の位置まで補助電極221aの幅は広がっている。このため、内部電極層22aと誘電体層23の間の結合力は、補助電極221aが例えば矩形の板形状である場合よりも高められる。
【0055】
また、補助電極221aのアスペクト比は例えば3.5~15であることが好ましい。このようにアスペクト比を設定することで、内部電極層22aと誘電体層23の間の結合力をさらに高めることができ、容量値をより増加させることができる。
【0056】
(積層セラミックコンデンサの製造方法)
次に積層セラミックコンデンサ1の製造方法を述べる。上述した補助電極221a,221bは、誘電体層23の原材料であるセラミック材料に添加されたhBN粒子により生成される。
【0057】
図6は、積層セラミックコンデンサ1の製造工程の一例を示す図である。積層セラミックコンデンサ1の製造工程は、セラミック電子部品の製造方法の一例である。
【0058】
(原料粉末作製工程)
まず原料粉末作製工程St1が行われる。原料粉末作製工程St1では、誘電体層11を形成するための誘電体材料としてセラミック粉末(セラミック原料)を作製する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、及び水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0059】
(添加物配合工程)
次に添加物配合工程St2が行われる。添加物配合工程St2では、原料粉末作製工程St1で得られたセラミック粉末に各種の添加化合物を添加する。添加化合物としては、例えば後述するように、絶縁性をはじめとする信頼性を向上する元素や焼結工程における焼結性を向上する焼結助剤が挙げられる。この種の添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに焼結補助剤として、Ni,Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが用いられる。
【0060】
また、セラミック粉末には、補助電極221a,221bを形成するための添加化合物としてhBNが添加される。hBNの添加は、後述する内部電極パターンの印刷対象となる誘電体グリーンシートのセラミック粉末だけでよい。hBNは、後述する誘電体グリーンシート内にhBN粒子がランダムに分布するように添加される。
【0061】
図7は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮像したhBN粒子の写真を示す図である。
図7から理解されるようにhBN粒子は、一方向に劈開しやすい結晶構造であるため、板形状の粒子を多く含んでいる。hBN粒子の粒径は、例えば0.3~10(μm)であると好ましく、さらに好ましくは0.6~5.0(μm)である。
【0062】
また、hBNの添加において、セラミック粉末の主成分に対するhBNの濃度は、0.01~0.30(wt%)とすると好ましく、さらに好ましくは、0.05~0.10(wt%)とするとよい。hBNの濃度をこのように設定することにより、
図3及び
図5に示される断面視において、1つの内部電極層22a,22bに対して0.05~3.0(個)の補助電極221a,221bが得られ、内部電極層22a,22bと誘電体層23の間に十分な結合力が得られる。
【0063】
再び
図6を参照すると、添加物配合工程St2では、例えば、セラミック粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体層23を形成する誘電体材料が得られる。例えば、1つの容器内で、複数の積層セラミックコンデンサ1に用いられる分量の誘電体材料が同一工程で作製される。
【0064】
(グリーンシート成形工程)
次にグリーンシート成形工程St3が行われる。グリーンシート成形工程St3は、hBNが添加された誘電体材料から誘電体グリーンシートを生成する工程の一例である。
【0065】
例えば添加物配合工程St2により得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み4(μm)以上の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。基材は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0066】
(内部電極印刷工程)
次に内部電極印刷工程St4が行われる。内部電極印刷工程St4は、金属導電ペーストにより誘電体グリーンシートの表面に内部電極パターンを印刷する工程の一例である。
【0067】
図8は、側面視における内部電極印刷工程St4の一例を示す断面図である。
図5に示されるように、基材51上の誘電体グリーンシート52に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷やグラビア印刷等により印刷することで、複数の内部電極パターン53を互いに離間させて成膜する。
【0068】
金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50(nm)以下のBaTiO
3を均一に分散させてもよい。
図8の例では、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52は、以下の積層工程St5における積層単位となる。内部電極パターン53が印刷された誘電体グリーンシート52は、所定の大きさになるように打ち抜かれる。
【0069】
(積層工程)
次に積層工程St5が行われる。積層工程St5は、内部電極パターン53が印刷された誘電体グリーンシート52を積層することにより積層体を形成する工程の一例である。
【0070】
図9は、側面視における積層工程St5の一例を示す断面図である。誘電体グリーンシート52を基材51から剥がした後、内部電極層22a,22bと誘電体層23とが交互に積層され、内部電極層22a,22bの各端部が誘電体層11の長さ方向両端面に交互に露出して外部電極3a,3bに交互に引き出されるように、上記の積層単位を1層として例えば10層だけ積層する。このように積層することで得られた積層体5の上下に、カバー層20,21を形成するためのカバーシートを圧着させ、符号Wが示すラインに沿って所定チップ寸法(例えば3.2mm×1.6mm)にカットする。
【0071】
(焼成工程)
再び
図6を参照すると、積層工程St5の後に焼成工程St6が行われる。焼成工程St6は、hBNが空隙(ポア)に変化し、内部電極パターン53に隣接する空隙に金属導電ペーストが流れ込むように還元雰囲気下で積層体5を焼成する工程の一例である。
【0072】
図10は、焼成工程St6の開始前における積層体5の部分断面図である。具体的には
図10は、
図9の符号Qで示される領域の拡大図である。符号La~Ldは内部電極パターン53a,53b(53)及び誘電体グリーンシート52の境界を示す。
【0073】
内部電極パターン53a,53bには、一例としてニッケル(Ni)粒子60が含まれている。また、誘電体グリーンシート52には、一例としてチタン酸バリウム(BaTiO3)粒子61とhBN粒子62a,62bとその他の添加物の粒子などが含まれている。hBN粒子62a,62bは、上記の補助電極221a,221bと同様の板形状を有する。
【0074】
hBN粒子62aの中心軸Xaは内部電極パターン53b及び誘電体グリーンシート52の境界面(符号Lb)に対して角度θで傾斜している。hBN粒子62aの一端は内部電極パターン53bに接しているが、hBN粒子62aの他端は誘電体グリーンシート52の厚み方向の中心付近に位置して何れの内部電極パターン53a,53bにも接していない。角度θは、上記の補助電極221a,221bの角度θa,θbと同様に、0度より大きく、45度以下である。
【0075】
hBN粒子62bの中心軸Xbは内部電極パターン53b及び誘電体グリーンシート52の境界面(符号Lb)に対して平行(角度が0度)である。hBN粒子62bの両端は誘電体グリーンシート52の厚み方向の中心付近に位置して何れの内部電極パターン53a,53bにも接していない。
【0076】
焼成工程St6において焼成温度が800(℃)程度になると、hBN粒子62a,62bが酸化することにより酸化ホウ素(B2O3)及び窒素(N2)が発生する。窒素は外部に流出するが、酸化ホウ素はhBN粒子62a,62bが存在していた領域に残る。
【0077】
図11は、焼成工程St6の途中における積層体5の部分断面図である。
図11において、
図10と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。焼成工程St6において焼成温度が900(℃)程度になると、酸化ホウ素は周囲のチタン酸バリウム粒子61と化学反応する。これにより、hBN粒子62a,62bが存在していた領域が空隙(ポア)63a,63bとなる。
【0078】
焼成温度が1000(℃)以上になると、まず内部電極パターン53bのニッケル粒子60が焼結して収縮し、その後、誘電体グリーンシート52のチタン酸バリウム粒子61が焼結して収縮する。ニッケル粒子60は高温により流動して内部電極パターン53b(金属導体ペースト)から空隙63aに流れ込む。
【0079】
図12は、焼成工程St6後における積層体5の部分断面図である。
図12において、
図11と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。内部電極パターン53a,53bはそれぞれ内部電極層22a,22bになり、空隙63bに流れ込んだニッケル粒子60は補助電極221bとなる。
【0080】
また、誘電体グリーンシート52は誘電体層23になる。また、他方の空隙63bはそのまま誘電体層23に残る。
【0081】
(再酸化処理工程)
再び
図6を参照すると、焼成工程St6の後、再酸化処理工程St7が行われる。再酸化処理工程St7では、N
2ガス雰囲気中で600~1000(℃)で積層体5の再酸化処理が行われる。
【0082】
(外部電極形成工程)
次に外部電極形成工程St8が行われる。外部電極形成工程St8では、金属粉末、ガラスフリット、バインダ、および溶剤を含む金属ペーストを積層チップ2の両端面に塗布し、乾燥させる。その後、金属ペーストを焼き付ける。それにより、外部電極3a,3bが形成される。なお、バインダおよび溶剤は、焼き付けによって蒸発する。
【0083】
(めっき処理工程)
次にめっき処理工程St9が行われる。めっき処理工程St9では、外部電極3a,3b上にめっき処理によりCu,Ni,Sn等の金属コーティングが行われる。以上の工程により、上述した積層セラミックコンデンサ1が完成する。
【0084】
積層セラミックコンデンサ1の製造工程において、hBN粒子はアスペクト比が1.5~15である板形状を有すると好ましい。これにより、上述したように、補助電極221bのアスペクト比が得られる。
【0085】
また、焼成工程St6において、焼成温度が600~900(℃)の範囲内にあるとき、焼成温度を1000(℃/時間)以上のレートで昇温するのが好ましい。この焼成温度の範囲では、上述したようにhBN粒子62a,62bが酸化ホウ素に変化するが、酸化ホウ素はチタン酸バリウム粒子61に対して焼結助剤として働く。このため、高い焼結温度で長時間、焼成を行った場合、チタン酸バリウム粒子61の焼結が促進されることにより、ニッケル粒子60が流れ込む空隙63aが変形して適切な形状の補助電極221bが生成されないおそれがある。
【0086】
そこで、焼成温度を1000(℃/時間)以上のレートで迅速に昇温するように焼成炉を温度制御することで、空隙63aの形状が維持されたまま、ニッケル粒子60を速やかに空隙63aに流し込む。これにより、補助電極221bが高精度に形成される。なお、ニッケル粒子60の粒径は、空隙63bに流れ込みやすいように小さいほど好ましい。
【0087】
また、焼成工程St6において、焼成温度が1000~1200(℃)の範囲内にあるとき、焼成温度を300(℃/時間)以上のレートで昇温するのが好ましい。このように焼成温度がゆっくりと増加するように焼成炉を温度制御することにより十分な量のニッケル粒子60を空隙63bに流し込むことが可能となる。
【0088】
また、hBN粒子62a,62bが低い焼成温度から酸化ホウ素に変化することを抑制するため、焼成工程St6は焼成炉を還元雰囲気として行われる。このため、焼成炉の酸素分圧は、一例として、1000度において10-14~10-13(atm)程度とし、1200度において10-11~10-10(atm)程度とする。
【0089】
なお、本例では、誘電体層23の主成分としてチタン酸バリウムを挙げたが、これに限定されず、他の誘電体を主成分としてもよい。また、内部電極層22a,22bの主成分としてニッケルを挙げたが、これに限定されず、銅などの他の導電体を主成分としてもよい。
【実施例0090】
(積層セラミックコンデンサの静電容量の比較)
次に、本実施例の積層セラミックコンデンサ1の静電容量と、補助電極221a,221bを設けない場合の積層セラミックコンデンサ1(以下、比較例と表記)の静電容量との比較結果について述べる。実施例の積層セラミックコンデンサ1は、一方の補助電極221bのみが設けられている。
【0091】
【0092】
本比較にあたって、実施例及び比較例の積層セラミックコンデンサ1をそれぞれ50個ずつ製造した。実施例及び比較例の各積層セラミックコンデンサ1の各種パラメータの平均値を上記の表1に示す。実施例及び比較例の各積層セラミックコンデンサ1について、表面積を420(μm2)とし、内部電極層22a,22bの厚みを2(μm)とし、誘電体層23の厚みDを10(μm)とした。また、実施例の積層セラミックコンデンサ1について、補助電極221a,221bの角度θa,θbを20.7(度)とし、補助電極221a,221bの先端221ap,221bpから内部電極層22a,22bの表面220a,220bまでの距離Ha,Hbを誘電体層23の厚みDの3分の1とした。
【0093】
実施例の積層セラミックコンデンサ1の製造において、以下のような工程を行った。
【0094】
上記の原料粉末作製工程St1では、BaTiO3を含むセラミック粉末を作製した。ここでBaTiO3の誘電率は3000であった。また、上記の添加物配合工程St2では、セラミック粉末に、補助電極221a,221bを形成するための添加化合物としてhBNを添加した。このときのhBN粒子の粒径は、3~4(μm)である。また、セラミック粉末に対するhBNの濃度は0.1(wt%)とした。
【0095】
上記のグリーンシート成形工程St3は、hBNが添加された誘電体材料から誘電体グリーンシートを生成した。内部電極印刷工程St4では、金属導電ペーストとしてNiを用いて、誘電体グリーンシートの表面に内部電極パターンを印刷した。上記の積層工程St5では、内部電極パターンが印刷された誘電体グリーンシートを積層することにより積層体を形成した。
【0096】
また、上記の焼成工程St6では、焼成温度を1000(℃/時間)で800(℃)まで上昇させた後、300(℃/時間)で1180(℃)まで上昇させた。その後、上記の再酸化処理工程St7を行った。次に、上記の外部電極形成工程St8で積層体に外部電極3a,3bを形成し、上記のめっき処理工程St9では、外部電極3a,3b上にめっき処理を施した。
一方、比較例の積層セラミックコンデンサ1の製造では、上記の添加物配合工程St2において、hBN粒子を添加していないが、他の工程は実施例と共通である。
【0097】
【0098】
このようにして製造した積層セラミックコンデンサ1の外部電極3a,3bの間に5(V)の電圧を印加して静電容量を測定した。測定結果を上記の表2に示す。実施例の積層セラミックコンデンサ1の静電容量の平均値は88.1(nF)と算出され、比較例の積層セラミックコンデンサ1の静電容量の平均値は79.7(nF)と算出された。したがって、実施例の積層セラミックコンデンサ1は、補助電極221bによって比較例よりも大きな静電容量を有することが理解される。
【0099】
これは、以下の理由によると考えられる。実施例の積層セラミックコンデンサ1の製造において、上述したように、添加物配合工程St2で添加されたhBN粒子のうち、内部電極層22bの表面220aに対して0度より大きく45度以下の角度で位置するhBN粒子が、焼成工程St6によってポアとなり、さらに、そのポアに内部電極の金属導電ペーストが流れ込むことにより補助電極221bが形成された。一方、比較例の積層セラミックコンデンサ1の製造では、hBN粒子が添加されていないため、補助電極221bは形成されなかった。このため、実施例の積層セラミックコンデンサ1は、補助電極221bの表面積分だけ、比較例の積層セラミックコンデンサ1より静電容量が大きくなった。
【0100】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。