(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095312
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物シート
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20230629BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C08L25/04 ZAB
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211125
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
(72)【発明者】
【氏名】玉置 喬士
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002AF023
4J002BC031
4J002BC041
4J002BC071
4J002BK003
4J002BN141
4J002CH023
4J002EH046
4J002FA042
4J002FD012
4J002FD070
4J002FD313
4J002FD316
4J002GG01
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】本発明は、環境負荷を低減し、かつ耐油性、断熱性に優れ臭気・着色が少ないスチレン系樹脂組成物シートを提供することである。
【解決手段】本発明は、スチレン系樹脂(A)70.0~97.0質量%と、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)3~30質量%と、を含有し、表面における水との接触角が50°~105°の範囲であるスチレン系樹脂組成物シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)70.0~97.0質量%と、
リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)3~30質量%と、を含有し、
表面における水との接触角が50°~105°の範囲である、スチレン系樹脂組成物シート。
【請求項2】
前記セルロース系多糖類(B)中のヘミセルロース量が1質量%以上である、請求項1記載のスチレン系樹脂組成物シート。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂組成物シートの総量100質量部に対して分散剤を(C)0.5~10.0質量部さらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物シート。
【請求項4】
前記分散剤(C)が、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物である、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物シート。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂組成物シートの総量100質量部に対して相容化剤(D)を0.5~10.0質量部さらに含有する、請求項1~4に記載のスチレン系樹脂組成物シート。
【請求項6】
前記相容化剤(D)が、無水マレイン酸変性スチレン系ゴム状重合体である、請求項5に記載のスチレン系樹脂組成物シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物シートに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、透明性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。また、環境保護の観点からバイオマス材料が注目されており、樹脂材料と、天然由来の有機充填材やバイオポリマーとの複合材料が検討されている。
例えば、特許文献1及び2にはスチレン系樹脂とセルロース系材料からなるスチレン系複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3にはスチレン系樹脂と変性されたナノセルロース(以下、CNFとも称す)からなる組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-173352号公報
【特許文献2】特開平8-231795号公報
【特許文献3】特開2016-176052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、セルロース系材料が木粉、或いはパルプ等が使用されているが、シート成形体としての用途及び効果については全く検討されておらず、シート成形体にはリグニンが多く含まれるため、臭気及び着色が酷く使用することが難しい。また、上記特許文献3の技術に使用するABS樹脂はコストが高いことに加えて、成形加工温度が若干高くなり、成形加工条件又は未変性されたセルロース材料によってはセルロース系材料が一部炭化するといった課題がある。
【0005】
そこで、本開示は、環境負荷を低減し、耐油性及び断熱性に優れ、かつ臭気・着色が少ないスチレン系樹脂組成物シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、スチレン系樹脂(A)70~97質量%とリグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類類(B)3~30質量%とを含有することを特徴とするスチレン系樹脂組成物シートを用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]の通りである。
【0007】
[1]本開示は、スチレン系樹脂(A)70.0~97.0質量%と、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)3~30質量%と、を含有し、表面における水との接触角が50°~105°の範囲である、スチレン系樹脂組成物シートである。
[2]本実施形態において、前記セルロース系多糖類(B)中のヘミセルロース量が1質量%以上であることが好ましい。
[3]本実施形態において、前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量部に対して分散剤を(C)0.5~10.0質量部さらに含有することが好ましい。
[4]本実施形態において、前記分散剤(C)が、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
[5]本実施形態において、前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量部に対して相容化剤(D)を0.5~10.0質量部さらに含有することが好ましい。
[6]本実施形態において、前記相容化剤(D)が、マレイン酸変性スチレン系ゴム状重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境負荷を低減し、耐油性、断熱性に優れ、かつ臭気・着色が少ないスチレン系樹脂組成物シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートを用いた容器の一例である。
【
図2】
図2は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物シート用いた容器の製造方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[スチレン系樹脂組成物シート]
本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物シートは、スチレン系樹脂(A)70.0~97.0質量%とリグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)3~30質量%とを含有する。換言すると、当該スチレン系樹脂組成物シートは、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(B)とをそれぞれ所定量含有していればよいため、スチレン系樹脂(A)及びセルロース系多糖類(B)を含有するスチレン系樹脂組成物を主成分の原料としてもよく、あるいは当該スチレン系樹脂組成物を経由することなくスチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(B)とそれぞれ別個に配合して直接シートに成形してもよい。
また、本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物シートは、必要により、分散剤(C)、相容化剤(D)及び任意添加成分をさらに含有してもよく、より詳細には、本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物シートは、スチレン系樹脂(A)70.0~97.0質量%と、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)3~30質量%と、必要により添加される分散剤(C)0.5~10質量%と、相容化剤(D)0.5~10質量%と、任意添加成分0~5質量%と、を含有する。
なお、本明細書における「主成分」とは、シートを構成する材料おいて最も多い質量比率を占める成分であることをいい、55質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物シートの形状又は厚みは特に制限されず、目的に応じて、所望の大きさにあわせて適宜形状及び厚みを変更することができる。例えば、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物シートの平均厚さとしては、0.1~2mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~1mm、さらに好ましくは0.3~0.8mmである。平均厚みが0.1mm未満のシートであると、食品容器に成形した場合、剛性が不足し、また平均厚みが2mmより厚いと真空成形の生産性が低下する。
なお、本明細書において、スチレン系樹脂組成物シートの平均厚みは厚み計により、算出している。
【0011】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物シートの表面は、平滑性又は意匠性のため、スチレン系樹脂(A)、当該スチレン系樹脂(A)以外のスチレン系樹脂、あるいはポリオレフィン系樹脂などの樹脂膜によりで被覆されてもよい。当該樹脂膜による積層は、スチレン系樹脂組成物シートの片面、あるいは両面に実施されうる。上記スチレン系樹脂(A)は、後述するスチレン系樹脂(A)が使用可能である。また、ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどが使用され、それらは共重合物でもよい。特に、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物シートの少なくとも一方の表面に、ポリプロピレン樹脂層を積層することが耐油性の観点より好ましい。上記樹脂膜による積層方法は押出機による共押し、フィルム張り合わせなどの方法が挙げられる。本発明で使用されうるスチレン系樹脂組成物シートは、ポリオレフィン系樹脂との接着性に優れ、加熱等で剥がれることが少ない特徴がある。
【0012】
また、必要により、本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの表面を表面処理してもよい。当該表面処理としては、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理及びフレーム処理等の表面処理が挙げられる。これにより、スチレン系樹脂組成物シートの表面状態の調整できる。具体的には、前記表面処理により本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの表面における水との接触角が50°~105°の範囲に調整しやすくなる。
上脱脂処理は、表面の油脂等の汚れをアセトン、ヘキサン等の有機溶媒に溶かして除去する方法である。上記UVオゾン処理は、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線と、当該紫外線により発生するオゾン(O3)により、表面を洗浄又は改質する方法である。上記ブラスト処理は、種々の微粒子を表面に吹き付ける処理であり、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理又はサンドブラスト処理等が含まれる。また、上記研磨処理には、研磨布を用いたバフ研磨、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨又は電解研磨等が含まれる。上記プラズマ処理は、高圧電源及びロッドでプラズマビームを生成して表面に当該ビームを照射することにより、表面分子を励起させて官能化させる方法である。上記コロナ放電処理は、主に樹脂などの表面改質に供され、電極から放出された電子が樹脂表面の高分子主鎖又は側鎖を切断することにより発生したラジカルを起点とし、樹脂表面に極性基を形成させる方法である。上記レーザー処理は、レーザー照射によって表面を急速に加熱・冷却することにより、表面を粗面化する方法である。上記エッチング処理は、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法又は塩化鉄法等の化学的エッチング処理が挙げられる。上記フレーム処理は、燃焼ガス及び空気の混合ガスを燃焼して空気中の酸素をプラズマ化させた後、プラズマ化した酸素を表面に付与することにより表面を親水化する方法である。
【0013】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの表面における水との接触角が50°~105°の範囲であると、当該シートを種々のロールの最外周に巻回する材料とした場合、インキ、粘着成分、金属粉又は種々の樹脂などがロールに付着しにくくなりうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの表面における水との接触角は、好ましくは50°~105°の範囲、より好ましくは75°~100°の範囲、さらに好ましくは80°~95°の範囲である。水接触角を上記範囲とするために先述の樹脂膜による積層や表面処理を施してもよい。
【0014】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物シートの表面における水との接触角を、50°~105°の範囲に制御する方法としては、以下の(a)~(f)の6つが挙げられる。
(a)スチレン系樹脂(A)(以下、成分(A)とも称する。)と、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)(以下、成分(B)とも称する。)と、を所定量配合する。具体的には、成分(A)70.0~97.0質量%と成分(B)3~30質量%とを配合することにより、スチレン系樹脂組成物シートの疎水性-親水性材料のバランスを確保しやすい。
(b)任意成分である分散剤(C)(以下、成分(C)とも称する。)と、相容化剤(D)(以下、成分(D)とも称する。)と、を所定量配合することが好ましい。具体的には、成分(C)0.5~10質量%と成分(D)0.5~10質量%とを配合することにより、スチレン系樹脂組成物シートを構成する各成分の分散性が向上し、表面平滑性が改善する。
(c)任意添加成分として、潤滑剤をスチレン系樹脂組成物シート内に当該シートの総量に対して、0.05~5質量%程度配合させてもよい。これにより、スチレン系樹脂組成物シートを構成する各成分の分散性が向上し、表面平滑性が改善する。
上記潤滑剤としては特に制限されることは無く公知の潤滑剤を使用することができる。例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド又はこれらの混合物等が挙げられる。上記脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸又はパルミチン酸が好ましい。なお、脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で含まれていてもよい。
上記脂肪酸エステルとしては、上記各種脂肪酸のエステル、例えば、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ネオペンチルグリコールジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、オレイン酸オレイル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸ブトキシエチル等が挙げられる。
上記脂肪酸アミドとしては、各種脂肪酸のアミド、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
(d)本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの表面を表面処理することが好ましい。当該表面処理としては、上述した通りであり、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理及びフレーム処理からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
(e)スチレン系樹脂組成物シートの表面を、スチレン系樹脂(A)又はポリプロピレン樹脂層(平均厚み2~200μm)などで被覆して、積層体にすることが好ましい。これにより、スチレン系樹脂組成物シートの表面を疎水性材料でコーティングすることができるため、水との接触角を50°~105°の範囲に容易に制御することができる。ポリプロピレン樹脂層を積層する方法は、上述又は実施例に示した方法が好ましい。
(f)シート成形における(押出)成形時の加熱温度を220℃以下にすることが好ましい。これにより、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)中のセルロース成分の凝集又はセルロース成分の熱劣化の抑制・防止することができるため、疎水性-親水性材料のバランスを制御できる。
なお、本明細書における水接触角の測定方法は、後述の実施例の欄に記載の方法を用いて測定している。
【0015】
以下、本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物シートがスチレン系樹脂組成物を主成分として形成した態様について説明した後、シートの特性及び当該シートを成形した食品容器について説明する。なお、上述した通り、スチレン系樹脂組成物シートは、スチレン系樹脂組成物を用いることなく成形することができる。そして、スチレン系樹脂組成物シートがスチレン系樹脂組成物を原料としない場合、当該シートの構成成分である、スチレン系樹脂(A)及びリグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)、並びに必要により添加される分散剤(C)、相容化剤(D)及び任意添加成分の態様については、以下のスチレン系樹脂組成物の欄に説明した内容を援用する。
【0016】
(スチレン系樹脂組成物)
本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートを形成するスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)を70~97質量%と、リグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖類(B)を3~30質量%とを含有することが好ましい。実施形態におけるスチレン系樹脂組成物シートの主成分であるスチレン系樹脂組成物として、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(B)とを所定量含有することにより、環境負荷を低減し、耐油性、断熱性に優れ、かつ臭気・着色が少ないという効果を奏する。セルロース系多糖類(B)を含むことによりスチレン系樹脂(A)の課題であった耐油性、断熱性を改善することができる。成形性の観点からはスチレン系樹脂(A)を主成分とする組成物を利用する態様が望ましい。
また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、必要により、分散剤(C)、相容化剤(D)及び任意添加成分をさらに含有してもよい。
【0017】
<スチレン系樹脂(a)(以下、(A)成分とも称する。)>
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、70~97質量%である。当該含有量を70質量%以上とすることにより、成形性を高めることができる。一方、当該含有量を97質量%以下とすることにより、セルロース系多糖類(B)の合計含有量を確保することができ、耐熱性、耐油性等を向上させることができる。
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、70~97質量%であり、好ましくは80~95質量%である。
【0018】
本発明におけるスチレン系樹脂(A)のMFR(200℃、5kg)が2(g/10分)以上であることが好ましい。好ましくは5(g/10分)以上、より好ましくは8(g/10分)以上30(g/10分)以下であり、さらに好ましくは10(g/10分)上25(g/10分)以下である。セルロース系多糖類(B)の着色、ヤケを防止するため、240℃以下の溶融混合が必要となるためである。なお、本明細書おけるMFRは、ISO 1133に準拠して測定した値を算出している。
さらに、セルロース系多糖類(B)との密着性を向上させて、真空成形性を上げるために、スチレン系樹脂(A)は、不飽和カルボン酸系単量体単位を含むことが好ましい。当該不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は、好ましくはスチレン系樹脂(A)全体に対して2.0~16.0質量%、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。
使用するスチレン系樹脂(A)は、1種、または2種以上をブレンドして使用しても構わない。
【0019】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位を有する重合体であることが好ましく、スチレン系単量体単位を有する共重合体であることがより好ましい。また、スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体と、当該スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体及びゴム状重合体より選ばれる1種以上の単量体を重合して得られるスチレン系共重合樹脂であることがさらに好ましい。本発明におけるスチレン系樹脂(A)は、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、マトリクス中にゴム状重合体(a1)の粒子(以下、ゴム状重合体の粒子(a1))が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、若しくはスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
<<ポリスチレン>>
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0021】
<<ゴム変性スチレン系樹脂>>
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、ポリマーマトリクス相としてのスチレン樹脂中にゴム状重合体(a1)の粒子(ゴム状重合体粒子(a1)とも称する。)が分散したものであり、ゴム状重合体(a1)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0022】
-ポリマーマトリクス相-
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂のポリマーマトリクス相を構成するスチレン系単量体としては、上記ポリスチレンを構成するスチレン系単量体と同様であるため省略する。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂のポリマーマトリクス相は、スチレン系単量体単位を含むスチレン系重合体から構成されることが好ましい。本実施形態のスチレン系重合体を構成する単量体単位としては、スチレン系単量体単位及び/又は前記スチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体単位(i)であることが好ましい。したがって、前記スチレン系重合体は、上記ポリスチレン及び後述のスチレン系共重合樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。当該スチレン系共重合樹脂としては、後述の通り、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
なお、「構成される」とは、ポリマーマトリクス相の総量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上をスチレン系重合体により占有されることをいう。
本実施形態のスチレン系重合体を構成する単量体単位のうち、スチレン系単量体単位の含有量は、スチレン系重合体の全体に対して50~100質量%が好ましく、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、さらにより好ましくは80~100質量%、よりさらに好ましくは90~100質量%である。スチレン系重合体中のスチレン系単量体単位及び当該スチレン系単量体単位以外のスチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体単位(i)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0023】
本実施形態において、上記ビニル系単量体(i)としては、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、用語「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を含む。
【0024】
-ゴム状重合体粒子(a1)-
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体粒子(a1)は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン系重合体を内包してもよく、及び/又は、外側にスチレン系重合体がグラフトされてもよい。
【0025】
本実施形態のゴム状重合体(a1)又はゴム状重合体粒子(a1)の材料としては、例えば、ポリブタジエン、ポリスチレンを内包するポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a1)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0026】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a1)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0027】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a1)の含有量(内包されるスチレン系重合体は含まれない)は、ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%が好ましく、更に好ましくは3~8質量%である。ゴム状重合体(a1)の含有量が2質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(a1)の含有量が10質量%を超えると成形品外観が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a1)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いて算出される値である。
また、スチレン系樹脂組成物シート中に存在する全ゴム状重合体の含有量も同様に、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるいわゆるゴム成分(共役ジエン系ポリマー)の量(ゴム状重合体(a1))と、必要により添加されるエラストマー(相溶化剤(D))由来のゴム成分(ゴム状重合体(a2))の量の合計量であり、ゴム状重合体粒子(a1)内に内包されるスチレン系重合体(いわゆるポリマーマトリクス相)の量は含まれない。
【0028】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a1)の平均粒子径は、衝撃強度の観点から、0.5~2.5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~2.0μmである。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a1)の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体粒子(a1)である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri3 /ΣniDri2 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体粒子(a1)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体粒子(a1)の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0029】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0030】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a1)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a1)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a1)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0031】
<<スチレン系共重合樹脂>>
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位、さらに不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を任意に含む樹脂である。本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。当該含有量を69質量%以上とすることにより、スチレン系樹脂(a)の屈折率を向上させることができる。一方、当該含有量を98質量%以下とすることにより、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び任意成分である不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0032】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は2~16質量%であることが好ましく、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。当該含有量を2質量%以上とすることにより、セルロースの分散性を向上させ、光透過性、外観、耐熱性をより向上させることができる。一方、当該含有量を16質量%以下とすることにより、樹脂の流動性と機械的物性を向上させることができる。
【0033】
一般に、スチレン系共重合樹脂の一例である、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0034】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の光透過性と流動性を向上させることができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物の量はより少ない方が好ましい。
【0035】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0036】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び任意成分である不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明における共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位から構成されることが好ましい。
【0037】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレン系単量体としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸プロパン共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタクリル酸共重合体が好ましい。
【0041】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0042】
本実施形態のスチレン系樹脂(A)としては、上記ゴム変性スチレン系樹脂の1種又は2種以上と、スチレン系共重合樹脂の1種又は2種以上とをブレンドした混合物を使用してもよい。その場合、ゴム変性スチレン系樹脂とスチレン系共重合樹脂との混合比は使用目的に応じて適宜変更することができる。例えば、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より少ない系においては、スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を0.1~30質量%含有することが好ましい。一方、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より多い系においては、スチレン系樹脂(A)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を70~99.9質量%含有することが好ましい。
【0043】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0044】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合樹脂の重合方法の一例について説明する。
当該スチレン系共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0045】
スチレン系共重合樹脂の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0046】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。例えば、塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0047】
<セルロース系多糖類(B)(以下、(B)成分とも称する。)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物シートは、セルロース系多糖類(B)を含有する。
本実施形態におけるセルロース系多糖類(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物シートの総量(100質量%)に対して、3~30質量%である。セルロース多糖類(B)の含有量を3質量%以上とすることにより、熱型保持性や耐油性を向上させることができる。一方、当該含有量が多すぎると、流動性低下により成形性を著しく低下させる。スチレン系樹脂組成物シート又は当該シートの前駆体であるスチレン系樹脂組成物中のセルロース含有量は、スチレン系樹脂組成物シート又は前記スチレン系樹脂組成物をスチレン系樹脂(A)が溶解する溶媒に溶かし、未溶物を取出し、120℃、4時間の条件で乾燥させたものの質量を測ることで確認できる。
【0048】
本実施形態において、セルロース系多糖類(B)の短軸d1、或いは長軸d2の平均長さの少なくとも一方は、0.03~80μmであり、好ましくは0.05~60μmであり、好ましくは0.1~50μm、さらに好ましくは0.2~30μmである。短軸及び長軸の平均長さが上記範囲外であると、熱型保持性が十分に発揮されない、あるいは成形性が低下してしまうことがある。一方、短軸及び長軸の平均長さが上記範囲内であると、セルロース同士の凝集を低減でき、かつスチレン系樹脂(A)に対する分散性が良好になり耐油性や成形性が向上する。
尚、本発明において、セルロース系多糖類(B)の短軸の平均長さd1は、透過型電子顕微鏡観察(5000倍に拡大)により100個のセルロース系多糖類(B)の短軸長(最小長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。一方、セルロースの長軸の平均長さは、透過型電子顕微鏡観察(5000倍)により100個のセルロース系多糖類(B)の長軸長(最大長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。また、セルロース系多糖類(B)の短軸長(最小長さ)は、画像上の最も細い(又は短い)箇所の長さをいい、セルロース系多糖類(B)の長軸長(最大長さ)は、画像上の最も長い箇所の長さをいう。熱型保持性はセルロースの形状に影響され、ファイバーの場合は短軸、鱗片状又は粒状のものは長軸の平均径に影響を受ける。
本発明におけるセルロース系多糖類(B)の形状は特に制限されることはなく、例えば、球状、不規則形状、粉体状、鱗片状、繊維状、棒状等の形状が挙げられる。
本発明におけるセルロース系多糖類(B)のアスペクト比(d1/d2)は、1~500であることが好ましく、1.2~300であることがより好ましく、1.5~200であることがさらに好ましく、2~100であることが特に好ましい。
【0049】
本発明におけるセルロース系多糖類(B)は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類をいい、セルロース及びヘミセルロースを含む。また、セルロース系多糖類(B)は、それ構成する繊維が、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、セルロース系多糖類(B)の材質は特に制限されず、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等の天然セルロース繊維(パルプ繊維)等、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロース等)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース等);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース等);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース等);再生セルロース(レーヨン、セロファン等)等のセルロース誘導体繊維等]等が挙げられる。これらのセルロース系多糖類(B)を構成する繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0050】
上記セルロース系多糖類(B)を構成する繊維のうち、セルロース系多糖類(B)を製造したときの分散性、剛性、耐衝撃性の観点で製造効率が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹、竹等の木材パルプ等)や種子毛繊維(コットンリンターパルプ等)等のパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
本実施形態において、セルロース系多糖類(B)に対し、リグニンが10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。リグニンが10質量%より多いと、熱加工時、臭気・着色が大きくなるほか、リグニン劣化物が炭上の黒点となり製品価値が低下するほか、電子レンジ加熱時の穴あきの原因となる。
さらに、本実施形態において、ヘミセルロースがセルロース系多糖類(B)に対し、1質量%以上含まれるものが好ましい。ヘミセルロースが含まれることにより、スチレン系樹脂(A)との分散性が向上し、剛性、成形外観を向上させることができる。本発明においては、セルロースの製造工程でこれらの成分を完全に除去するのではなく、好適な範囲内の含有量で残存させることが好ましい。ヘミセルロースは、マンナンやキシランなどの糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。また、ヘミセルロースの溶解度パラメータ(SP値)は、セルロースよりも疎水性側にあることから、ヘミセルロースは、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(B)とのSP値差を緩和する効果を有すると考えられる。ヘミセルロースの量は、ヘミセルロースの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできるし、ヘミセルロースの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたヘミセルロースを添加することで所望の量に調整することができる。このときヘミセルロースの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
【0051】
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(B)とのSP値差を緩和する目的で、へミセルロースがセルロース系多糖類(B)(100質量%)に対し、1質量%以上25質量%以下含まれることがより好ましく、2質量%以上20質量以下含まれることがさらに好ましく、3質量%以上20質量以下含まれることがよりさらに好ましく、5質量%以上19.5質量以下含まれることがさらにより好ましく、7質量%以上19.3質量以下含まれることが得に好ましい。
【0052】
<分散剤(C)(以下、(C)成分とも称する。)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物シートは、必要により分散剤(C)を含有してもよい。スチレン系樹脂組成物又は当該組成物シートが分散剤(C)を含有することにより、スチレン系樹脂(A)に対してセルロース系多糖類(B)を均一に分散させることができる。その結果、スチレン系樹脂組成物シート全体として、機械的強度を低下させることなく、熱型保持性や耐油性を向上させることができる。
本実施形態において、分散剤(C)の含有量は、スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物シートの総量(100質量%)に対して、0~10質量%であり、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~3質量%である。
本実施形態における分散剤(C)としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系等を用いることができる。特に、分散剤(C)は、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0053】
上記脂肪族エステル系化合物としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0054】
上記ポリエチレングリコール系化合物としては、特に制限されることはなく、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアリールエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールグリセリンエステル、ポリプロピレングリコールグリセリンエステル類、ポリエチレンソルビトールエステル類、ポリプロピレングリコールソルビトールエステル類、ポリエチレングリコール化エチレンジアミン類、ポリプロピレングリコール化エチレンジアミン類、ポリエチレングリコール化ジエチレントリアミン類、ポリプロピレングリコール化ジエチレントリアミン類が挙げられる。
【0055】
上記テルペン系樹脂としては、通常、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体単独、或いはテルペン単量体と芳香族単量体、またはテルペン単量体とフェノール類を共重合して得られた樹脂をいうが、これらに限定されない。前記テルペン単量体としては、イソプレンなどの炭素数5のヘミテルペン類、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類などの炭素数10のモノテルペン類、カリオフィレン、ロンギフォレンなどの炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン類等が挙げられるがこれらに限定されない。これらの化合物の中で、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが特に好ましく用いられる。前記芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、得られたテルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素添加テルペン系樹脂であってもよい。例えば、好ましいテルペン系樹脂としては、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂等のテルペン系樹脂が挙げられる。テルペン系樹脂は、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン、前記ロジンの多量体である重合ロジン(典型的には二量体)、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された変性ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体樹脂としては、前記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物及びそのエステル化物等が挙げられる。ロジン系樹脂は、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。尚、本発明で使用されるロジン系樹脂またはロジン誘導体樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではない。
上記脂肪族アミドとしては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0057】
上記脂肪酸系化合物のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
上記脂肪酸系化合物のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
上記脂肪酸金属塩としては、上記脂肪酸系化合物の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0059】
<相容化剤(D)(以下、(D)成分とも称する。)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物シートは、必要により相容化剤(D)を含有してもよい。本発明の相容化剤(D)は、ゴム状重合体(a2)であれば、特に限定なく使用することができる。当該相容化剤(D)は、不飽和カルボン酸もしくはその無水物、またはそれらの誘導体により変性したゴム状重合体(a2)が望ましい。
本発明の相容化剤(D)の含有量は、スチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましく、2~4質量%であることがさらに好ましい。
本発明のスチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物に含まれるゴム成分(ゴム状重合体(a1)とゴム状重合体(a2)との合計量)の含有量は、スチレン系樹脂組成物シート又はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、3~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましく、6~11質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態のゴム状重合体(a2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸エステル、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、直鎖状低密度ポリエチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリエステル・ポリエーテルコエラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられ、中でも、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体が好ましい。
【0061】
本実施形態のゴム状重合体(a2)を変性する不飽和カルボン酸もしくは無水物、あるいはそれらの誘導体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、3,6-エンドメチレン-デルタ-4-テトラヒドロフタル酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水メチルマレイン酸、3,6-エンドメチレン-デルタ-4-テトラヒドロフタル酸無水物、2-メチル-3,6-エンドメチレン-デルタ-4-テトラヒドロフタル酸無水物、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、炭素数1~20のアルキルシアノアクリレート等の誘導体が挙げられ、中でも、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。ゴム状重合体成分を不飽和カルボン酸等で変性する方法としては、例えば、不飽和カルボン酸等をゴム状重合体(a2)にグラフト重合する方法が挙げられる。
【0062】
本発明の相容化剤(D)の具体例としては、例えば、マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、マレイン酸変性スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、マレイン酸変性エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(A)~(D)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を添加することができる。これら添加剤、加工助剤等としては、潤滑剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0064】
上記潤滑剤は、上述した通りである。また、上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tertブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-sec-ブチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-tert-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-tert-ブチル-4-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-tert-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0066】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0067】
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。当該紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’ -tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-tert-オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-tert-アミルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第3オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0069】
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0070】
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
その他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目やに防止剤)等の任意添加成分を添加してもよい。
【0071】
本実施形態において、上記任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0072】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみ、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分及び任意添加成分のみ、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分、(D)成分及び任意添加成分のみ、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の別の形態は、実質的に(A)成分及び(B)成分、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分及び(C)成分、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分及び(D)成分、あるいは実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分のみからなっていてもよい。
本明細書において、「実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分及び(B)成分であるか、又は(A)成分、(B)成分及び任意添加成分であることを意味する。
尚、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分~(D)成分及び任意添加成分の他に不純物を含んでいてもよい。
【0073】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~250℃の範囲で選択される。
以上が、本実施形態のシートを作製するスチレン系樹脂組成物の説明である。以下、本実施形態のスチレン系樹脂組成物シート及びについて説明する。
【0074】
「スチレン系樹脂組成物シートの製造方法」
本実施形態のシートは、上記スチレン系樹脂組成物を含む。そして、本実施形態のシートは、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られたスチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0075】
(押出シート)
本実施形態の好ましいスチレン系樹脂組成物シートの形態は、上述した本発明のスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる押出シートを提供する。押出シートは非発泡及び発泡のいずれでもよい。押出シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。非発泡押出シートの製造方法としては、Tダイを取り付けた短軸又は2軸押出成形機で、1軸延伸機又は2軸延伸機でシートを引き取る装置を用いる方法等を用いることができ、発泡押出シートの製造方法としては、Tダイ又はサーキュラーダイを備え付けた押出発泡成形機を用いる方法等を用いることができる。
【0076】
-発泡押出シート-
本実施形態において、発泡押出シートを形成する場合、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としてはブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0077】
本実施形態において、発泡押出シートは、厚み0.5mm~5.0mmであることが好ましく、見かけ密度50g/L~300g/Lであることが好ましく、また坪量80g/m2~300g/m2であることが好ましい。本発明の発泡押出シートは、例えばフィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類は、一般のポリスチレンに使用されるもので差し支えない。
【0078】
-非発泡押出シート-
本実施形態において、非発泡シートの厚みは、例えば、0.1~1.0mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。また、一軸シートは、通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよく、二軸延伸シートは、ロールで流れ方向(MD)に1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで垂直方向(TD)に1.3倍から7倍程度延伸することが強度の面で好ましい。また、非発泡シートは、スチレン系樹脂組成物以外のポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂と多層化して用いてもよい。更にスチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。当該スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0079】
<2軸延伸シート>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物シートの別の態様は、上述したスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる2軸延伸シートである。2軸延伸シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。2軸延伸シートは、ロールで流れ方向(MD)に延伸した後、テンターで垂直方向(TD)に延伸することで作製されるか、あるいはプレート状に成形したスチレン系樹脂組成物を、当該組成物のビカット軟化温度+10~40℃程度に加熱した状態でテンターにて逐次あるいは同時2軸延伸し作製してもよい。
【0080】
本実施形態の2軸延伸シートの延伸倍率としてはMD方向に1.3~7.0倍、TD方向に1.3~7.0倍程度延伸することが強度の点で好ましい
【0081】
本実施形態の2軸延伸シートの平均厚みは、シート及び容器の強度、特に剛性を確保するために、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上である。一方、経済性の観点から、0.7mm以下が好ましく、より好ましくは0.6mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。
【0082】
本実施形態の2軸延伸シートの縦方向及び横方向の配向緩和応力が0.4~1.3MPaの範囲であることが好ましい。配向緩和応力をこの範囲に調整することにより2軸延伸シートの成形品の強度を保つことができる。
【0083】
本実施形態の2軸延伸シートを食品包装容器として用いた時、食品から揮発する水分による曇りを防止するため、公知の防曇剤を前記二軸延伸シートの少なくとも片面に塗布してもよい。当該防曇剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。
上記防曇剤を本実施形態の2軸延伸シートに塗工する方法は特に限定されることはなく、簡便にはロールコーター、ナイフコーター、グラビアロールコーター等を用い塗工する方法が挙げられる。また、噴霧、浸漬等を採用することもできる。また塗布前にコロナ処理、オゾン処理、プライマー処理等によって表面処理をすることにより2軸延伸シート表面の濡れ性を向上した上で塗布しても良い。
【0084】
[2次成形品]
本実施形態の別の態様は、上述した押出シートを用いて形成されてなる成形品、特に食品容器を提供する。2軸延伸シート又はこれを含む多層体は、例えば、食品容器、例えば真空成形により成形して弁当の蓋材又は惣菜等を入れる容器などを作製できる。
<食品容器>
本発明の食品容器は、上記スチレン系樹脂組成物あるいはスチレン系樹脂組成物シートから形成される。以下、
図1及び
図2を用いて、本発明の食品容器の好ましい形態について説明する。
【0085】
図1は、本発明に係る食品容器1の一例を示したものであり、
図1の下側の部材は、主に麺類又はどんぶり類の食品を収容する食品容器本体2を示す斜視図であり、
図1の上側の部材は、食品容器本体2の開口部6を覆う蓋部3である。
図1では、説明の便宜上、本実施形態の食品容器1の一例として、食品容器本体2と当該食品容器本体2の開口部6と嵌合可能な蓋部3とを示しているが、本実施形態の食品容器1は、食品容器本体2だけ有していればよい。
また、
図2は、
図1の食品容器1(特に、食品容器本体2)を製造する金型9の断面を示す概略図である。
【0086】
本実施形態の食品容器1の形状及びその形成方法について
図1を用いて以下説明する。
本実施形態の食品容器本体2は、食品を収容できる凹部4を有している。
図1では凹部4の一例として、1つの凹部4を有する食品容器1を示しており、内容物の量が外部から視認できるよう、食品容器本体2の内壁に溝5が全周にわたって形成されている。そして、食品容器本体2の底面部の面積は、開口部6の面積より小さい。さらに、食品容器本体2の開口部6には、外方に突出された縁部7が設けられており、食品容器本体2の開口部6を覆う蓋部3と縁部7とが嵌合されうる。
当該凹部4の形状は、特に限定されることはなく、例えば、(略)円筒形、又は多角筒形等が挙げられる。
また、本実施形態における食品容器は、複数の凹部4を有してもよい。複数の凹部4を有する食品容器の態様としては、市販のお弁当に用いられる食品容器のように、複数の食品であるおかずが仕切り壁によって区画されている形状が挙げられる。
【0087】
本実施形態における食品容器1は、例えば
図2に記載の金型9を用いて製造することができる。本実施形態の一例として、以下、
図2を用いて、食品容器1(食品容器本体2)が、スチレン系樹脂組成物を成形してなるスチレン系樹脂組成物シート10から一体成形される態様について説明する。
例えば、スチレン系樹脂組成物を押出成形により、100~1000μmの厚さのスチレン系樹脂組成物シート10を作製する。その際、スチレン系樹脂組成物シート10の表面層を1~100μmの厚さでポリスチレン、またはポリプロピレンで共押し、又はフィルムラミをしてもよい。その後、得られたスチレン系樹脂組成物シート10を150~250℃で5~60秒間予備加熱した後、当該加熱したスチレン系樹脂組成物シート10を金型9の凹部11を覆うように設置し、所定の成形方法により賦形する。例えば、凹部11を真空にすることによって、所望の形状の食品容器本体2に賦形できる。
また、金型9の凹部11を覆うようにスチレン系樹脂組成物シート10を設置した後、加熱して所定の成形方法(例えば、熱圧成形、真空成形、圧空成形、プラグアシスト成形)により賦形してもよい。
【0088】
本実施形態の好ましい態様の一例としては、食品容器1(特に、食品容器本体2)は、当該金型9を用いて、加熱したスチレン系樹脂組成物シート10を、熱圧成形、真空成形、圧空成形又はプラグアシスト成形することによって賦形することができる。
また、深さの異なる食品容器1(特に、食品容器本体2)を製造する場合は、スペーサー12によって凹部の上面の直径(=開口部の直径)rに対する前記凹部の深さdの比率(d/r)を変えることができる。
図2では、一例として、深さdの凹部11内に、深さd2又は深さd1となるようにスペーサー12を設けた状態を示している。
【0089】
本発明で用いる食品容器1の平均厚さ(肉厚)は0.05~3mmであり、好ましくは0.1~2mmであり、さらに好ましくは0.15~1.5mmである。0.05mmより薄いと容器の剛性が不足し、3mmより厚いと容器が重くなり材料コストが高くなるほか、嵩張ってゴミとして捨てにくい。
本実施形態において、食品容器の深さ/開口部直径の比率(絞り比)は、0.1以上1.0以下であることが好ましい。当該絞り比が1.0より大きいと偏肉が発生し、容器強度が低下する。また、深さ/直径の比率が0.1未満であると、容器の形状が平板状になるため、偏肉が発生しにくく、また食品容器の底面部(特に底面部の外周部分)に油分又は油分を含む液体が残留することによる、耐油性の効果が発揮しにくい。一方、絞り比(深さ/直径の比率)が、0.1以上1.0以下であれば、比較的食品等の内容物を収容しやすくなるだけでなく、収容可能な食品のメニューに依存することなく、耐油性の効果を発揮しやすくなる。
本明細書における開口部直径とは、開口部の形状が円の場合はその直径を表し、開口部形状が楕円の場合は短径を、開口部形状が多角形の場合は対角線のうち最も短い長さを表す。
また、容器の密閉性を保つため、容器の上部は凸凹の形状を施し、嵌合性を高める設計をすることが好ましい。本発明で使用される食品容器は、熱による型保持性が良いため、嵌合性に優れる食品容器となる。
【0090】
本発明に係る食品容器の成形方法は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、熱圧成形、真空成形法、圧空成形、プラグアシスト成形及び発泡成形法等が使用され、成形方法に限定されない。本発明で使用される食品容器では、特に生産性とコストの面より、シート(フィルム)成形後に真空成形により賦形される方法が好ましい。
本発明に係る食品容器は、スチレン系樹脂組成物シートから成形されることが好ましく、前記スチレン系樹脂組成物からなるスチレン系樹脂組成物シートを成形したのち、賦形されることがより好ましい。
【0091】
本実施形態において使用されるスチレン系樹脂組成物シートは、厚さ0.1~2mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~1mmさらに好ましくは0.3~0.8mmである。0.1mmより薄いと容器にした場合、剛性が不足し、2mmより厚いと真空成形の加熱時間が長くなり生産性が低下する。
【0092】
本発明で使用されるスチレン系樹脂組成物シートの表面は平滑性や意匠性のため、スチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂で積層しても構わない。より詳細には、前記スチレン系樹脂シートは、スチレン系樹脂(A)70~97質量%及びリグニン含有量が10質量%以下であるセルロース系多糖体(B)3~30質量%を含む第1層と、前記第1層の表面にスチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂を含む表面層を有する積層体である。
本実施形態において、前記表面層の積層は、第1層に対して片面、あるいは両面に行なってもよい。表面層の厚さは、食品容器の性能が保持できる1~100μmが好ましい。
本実施形態において、食品容器を形成する材料に使用されるスチレン系樹脂は、後述するスチレン系樹脂が使用可能である。また、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどが使用され、それらは共重合物でも構わない。特にポリプロピレンが耐油性の観点より好ましい。第1層に対して表面層を積層する方法は、押出機による共押し、フィルム張り合わせなどの方法がある。本発明で使用されるスチレン系樹脂シートは、ポリオレフィンとの接着性に優れ、加熱等で剥がれることが少ない特徴がある。
【0093】
[食品容器の特性]
<熱型保持性>
本実施形態の食品容器の熱型保持性は、100~130℃のオーブン中に30分間放置し、変形しないことが好ましい。
【0094】
<耐油性>
本実施形態の食品容器の耐油性は、サラダ油等の油を入れた容器を電子レンジで加熱し、変形しないことが望ましい。
【0095】
本実施形態のシートは、真空成形性に優れており総菜や弁当容器、電子レンジ用容器、どんぶり、カップ、トレイ等に好適に用いられる。
【実施例0096】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0097】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物シート及び食品容器の評価は、次の方法に基づいて行った。
【0098】
(1)水接触角の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法でスチレン系樹脂組成物シートを作製した後、接触角計(協和界面科学株式会社製 DropMaster500)を用いて、シート表面に2μLの水滴を滴下した1分後の値を3か所測定し平均の値を用いた。
【0099】
(2)シートの外観の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法で作製したシートを以下の判断基準により目視で外観を確認した。
外観の評価の判断基準;
〇:着色なし、ブツなし、△:着色有り、ブツなし、×:着色有り、ブツ有り。
(3)シートの臭気の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法で作製したシートを100mm×100mm×0.5mm(厚み)に切断した試験片を作製した後、チャック付きのポリ袋に前記試験片を入れて密封した後、前記試験片を密封したポリ袋を23℃・24時間静置したときの臭気について、2人で以下の判断基準により官能評価を行った。
臭気の評価の判断基準;
〇:ほとんど臭気なし、△:若干臭気有り、×:臭気有りで判断した。
【0100】
(4)熱型保持性の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法で作製した食品容器を120℃のオーブンに30分間放置して、以下の判断基準により食品容器の状態を確認した。
〇:変化なし、△:容器底面に変形有り、×:容器全体に変形有り。
【0101】
(5)耐油性の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法で作製した食品容器にサラダ油(日清オイリオ株式会社製サラダ油)を5ml入れたサラダ油を充填した食品容器を、500W電子レンジで2分間加熱し、以下の判断基準により食品容器の状態を確認した。
〇:変化なし、△:サラダ油に目視で濁りあり、×:穴あき有り。
【0102】
(6)断熱性の評価
後述の実施例・比較例に記載の方法で作製した食品容器に沸騰したお湯を50ml入れたお湯を充填した食品容器を23℃で30分放置した後、当該食品容器内のお湯の温度を測定した。
【0103】
(7)スチレン系樹脂(A)中のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量の測定
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0104】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素由来のピーク、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素由来のピーク、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素由来のピーク、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素由来のピークである。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素由来のピークである。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0105】
(8)メルトフローレート(MFR)の測定
スチレン系樹脂(A)のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0106】
(9)セルロース系多糖類(B)の平均長さの測定
後述の実施例・比較例に記載の方法により作製した試験片(b)から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影した。そして、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて、100個のセルロース系多糖類(B)の最小長さ及び最大長さをそれぞれ測定し、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2とした。また、上記と同様に、セルロース系多糖類(B)単体も電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影して、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2を測定する。
【0107】
(10)リグニン量の定量
セルロース系多糖類(B)におけるリグニンの定量分析は、廃棄物資源循環学会論文誌 Vol22,N0.5,P293,2011に記載されているTGA法を参考とした。
具体的には、熱重量解析装置は(株)島津製作所製のDTG-60型を使用し、空気雰囲気下で昇温速度10℃/minの条件にて室温から900℃まで昇温した。分析する試料は、70℃で2時間乾燥したものを3~5mg精秤し、熱分解による重量変化を測定した。なお試料容器は内径が5mmで高さ2mmの円盤状白金皿を使用し、すべての実験は一定条件の下で測定を行った。
【0108】
(11)ヘミセルロース量の測定
セルロース系多糖類(B)におけるヘミセルロースの定量分析は、次の通りである。
セルロース系多糖類(B)の分散液、又はスチレン系樹脂組成物から樹脂分を溶解除去して得たセルロース系多糖類(B)の再分散液から分散媒を除去し、セルロース残渣を回収して、105℃で乾燥して得た乾燥試料の質量を、以下の方法で測定した。
乾燥したセルロース残渣を粉砕して得た粉砕試料をソックスレー抽出器でアルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)で6時間抽出した。その後、アルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)でさらに4時間抽出を行って脱脂試料を得た。当該脱脂試料2.5gに蒸留水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱処理を行い、再び亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱する操作を、試料が白く脱色するまで3~4回繰り返した。得られた試料をろ過して、水及びアセトンで洗浄し、105℃で乾燥してホロセルロース画分(α-セルロースとヘミセルロースとの合計量)を得た。このホロセルロース画分の質量を測定した。
続いて、ホロセルロース画分1.0gに17.5質量%水酸化ナトリウム水溶液25mLを加え、3分後、膨潤状態になるまでガラス棒で軽く潰した。その後、20℃で静置し、上記水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後に、蒸留水25mLを加え、正確に1分間かき混ぜて、20℃で5分静置し、ガラスフィルターでろ過してろ液が中性になるまで洗浄した。さらに10質量%酢酸40mLを吸引ろ過し、次に沸騰水1Lを吸引ろ過して洗浄した試料を105℃で質量が一定になるまで乾燥して、α-セルロース画分を得た。このα-セルロース画分の質量を測定した。
上記のように求めたホロセルロース画分とα-セルロース画分との質量から、次式によってヘミセルロースの含有率を求めた。
ホロセルロース(%)=ホロセルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
α-セルロース(%)=α-セルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
ヘミセルロース(%)=ホロセルロース(%)-(α-セルロース(%))
【0109】
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
[スチレン系樹脂(A)]
(GPPS-1)
・MFR7.8のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、HF77)を用いた。
(HIPS-1)
・MFR3.0のポリスチレン(HIPS、PSジャパン社製、HT478)を用いた。
(HIPS-2)
・MFR2.0のポリスチレン(HIPS、PSジャパン社製、475D)を用いた。
(共重合-1)
スチレン(ST)70.0質量部、メタクリル酸ブチル(BA)15.0質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、スチレン系共重合樹脂である共重合―1を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、MFRは4.6であった。
(ブレンド―1)
・上記HIPS-2(475D)にSMA共重合体(POLYSCOPE社製、XIBOND250)を5質量%配合させたものであり、MFRは3.2であった。
【0110】
[セルロース系多糖類(B)]
・セルロースファイバー-1(セライト社製、SW-10、d1:20μm、d2:700μm、リグニン量0.5質量%、ヘミセルロース量11質量%)
・セルロースファイバー-2(セライト社製、SW-30、d1:60μm、d2:700μm、リグニン量0.5質量%、ヘミセルロース量15質量%)
・CNF:セルロースナノファイバー(中越パルプ工業株式会社製、CNF-10、d1:35nm、d2:約1μm、リグニン量0質量%、ヘミセルロース量15質量%)
・木粉(株式会社那賀ウッド製、原料:杉、d1:120μm、d2:180μm、リグニン量23質量%、ヘミセルロース量18質量%)
【0111】
[分散剤(C)]
・脂肪酸エステル:グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製:S‐100)
・テルペン:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製:YSレジンTO-105)
【0112】
[相容化剤(D)]
・無水マレイン酸変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックM1913、MFR5、S/EB=30/70)
【0113】
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(BASF社製、Irganox1076)
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製株式会社、Irgafos168)
【0114】
[実施例1~12]
表1に示す組成比で各成分を添加して、スチレン系樹脂(A)及びセルロース系多糖類(B)を配合して、シートの前駆体であるスチレン系樹脂組成物を調製した。その際に、(A)成分と(B)成分100質量部に対して、酸化防止剤として、Irganox1076とIrgafos168とをそれぞれ0.2質量部ずつ添加後、また、必要により一部の実施例において、分散剤(C)を10質量部添加し予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~220℃の範囲で溶融押出を行い、混練物としてスチレン系樹脂組成物の樹脂ペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。
得られた樹脂ペレットを用いて、非発泡押出シートを作製した。非発泡押出シートについては、創研社製の25mmφ単軸シート押出機を用いて、樹脂溶融ゾーンの温度を180~200℃とし、厚み約0.5mmのスチレン系樹脂組成物シートを作製した。また、実施例10については両面にGPPS(PSジャパン株式会社製680)、また、実施例11についてはPP(プライムポリマー株式会社製E-100GV)を厚さ約0.1mmで共押出を行い積層化したシートを作成した。
得られたスチレン系樹脂組成物シートを用いて、
図1に記載の形状食品容器を作製した。食品容器については、創研社製のシート容器成形機を用いて、加熱ゾーン200℃とし、以下の式(1)で表される絞り比75%容器を作成し、真空成形を行った。これらの評価結果を表1に示す。
なお、絞り比を表す式(1)は、以下の通りである。
絞り比=食品容器の深さ÷食品容器の開口部直径(最大径)×100 式(1)
また、樹脂ペレットを、ISO規格試験片タイプ50×120mmで厚さ1mmの(b)金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(b)を作製した。得られた試験片(b)を用いて、セルロース系多糖類(B)の平均長さを測定した。
【0115】
[比較例1~9]
表2に示すように組成を変更したこと以外は実施例1と同様に比較例1~9に記載のシートの前駆体の組成物を調製した。各物性の測定及び評価の結果を表2に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
表1に示すように、実施例1~12は、耐熱性、耐油性、断熱性、成形性に優れる。
表2に示す比較例1~9のように、高温で変形したり、電子レンジで穴が開いてしまったりして、耐熱性、耐油性に劣る。比較例5のようにセルロースファイバーが多いと真空成形により製品を作ることができない。比較例7のように木粉を利用すると着色と臭気が酷く、耐油性も穴が開いてしまう。
本発明は環境負荷を低減し、かつ耐油性、断熱性に優れ臭気・着色が少ないスチレン系樹脂組成物シートを提供することである。本発明のスチレン系樹脂組成物シートから得られる成形品は、トレイ、カップ、どんぶり、ふた等の食品容器に好適に使用することができる。