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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095321
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】異常判定方法及び異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60L 5/26 20060101AFI20230629BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20230629BHJP
   B61L 25/04 20060101ALI20230629BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B60L5/26 Z
B60M1/28 R
B61L25/04
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211139
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼津 晟生
(72)【発明者】
【氏名】三津江 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】吉松 雄太
(72)【発明者】
【氏名】前田 晴義
【テーマコード(参考)】
5H105
【Fターム(参考)】
5H105AA01
5H105BA02
5H105BB01
5H105CC02
5H105CC12
5H105EE02
5H105EE03
5H105GG06
5H105GG13
5H105GG17
(57)【要約】
【課題】
集電装置の状態を監視することで、集電装置のみならず架線の異常も判定できる異常判定方法を提供する。
【解決手段】
本開示の一態様に係る異常判定方法は、複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得し、前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出し、走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定するとともに、集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得し、
前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出し、
走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定するとともに、
集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する、異常判定方法。
【請求項2】
走行区間ごとの走行区間基準離線率は、それぞれの走行区間における各集電装置の離線率に基づいて設定し、
集電装置ごとの集電装置基準離線率は、それぞれの集電装置における各走行区間の離線率に基づいて設定する、請求項1に記載の異常判定方法。
【請求項3】
前記集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に加え、判定対象の走行区間の同じ集電装置の異なる走行日時における離線率の差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する、請求項1又は2に記載の異常判定方法。
【請求項4】
コンピュータに、
複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得させ、
前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出させ、
走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定させるとともに、
集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定させる、異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、集電装置及び架線の異常を判定するための異常判定方法及び異常判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気を動力とする列車は集電装置を備えており、集電装置を介して架線から電気を得る。この集電装置の状態を監視することで、集電装置の異常を発見するシステムが考案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-220314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、集電装置に異常があるように見える場合でも、実際には集電装置に異常はなく、集電装置が接触する架線に異常がある場合もある。そこで、本開示では、集電装置の状態を監視することで、集電装置のみならず架線の異常も判定できる異常判定方法及び異常判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る異常判定方法は、複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得し、前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出し、走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定するとともに、集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する。
【0006】
また、本開示の一態様に係る異常判定プログラムは、コンピュータに、複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得させ、前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出させ、走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定させるとともに、集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定させる。
【発明の効果】
【0007】
上記の異常判定方法及び異常判定プログラムによれば、集電装置の状態を監視することで、集電装置のみならず架線の異常も判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、列車運行システムの概略図である。
図2図2は、異常判定プログラムのフロー図である。
図3図3は、離線センサの出力値の一例を示した図である。
図4図4は、離線センサの出力値を走行区間で区切った図である。
図5図5は、離線箇所の判定方法を説明する図である。
図6図6は、各集電装置の各走行日時における走行区間ごとの離線率を示した表である。
図7図7は、各集電装置の走行区間ごとの離線率を示した表である。
図8図8は、図7の表に走行区間ごとの走行区間基準離線率を加えた表である。
図9図9は、図7の表に集電装置ごとの集電装置基準離線率を加えた表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<列車運行システム>
以下、実施形態に係る異常判定方法について説明する。はじめに、異常判定方法が実施される列車運行システム100について説明する。図1は、列車運行システム100の概略図である。図1に示すように、本実施形態の列車運行システム100は、複数の列車10と、コンピュータ20と、表示装置30と、を備えている。
【0010】
各列車10は複数の車両11で編成されており、複数の車両11のうちの少なくとも1つは集電装置12と集電装置12に対応する離線センサ13とを有している。集電装置12は、架線(電線)14に接し、架線14から電気を得る。本実施形態の集電装置12は、いわゆるパンタグラフであるが、集電装置12はパンタグラフに限定されない。離線センサ13は、集電装置12と架線14の接触状態を観測するセンサである。本実施形態の離線センサ13は、集電装置12と架線14の間で発生したアークの光量を測定する光学式であるが、離線センサ13は光学式に限定されない。
【0011】
本実施形態では、各列車10は、同じ路線を走行するものとする。つまり、各列車10の集電装置12は、同じ架線14に接触するものとする。なお、本実施形態の各列車10は複数の車両11で編成されているが、各列車10は集電装置12及び離線センサ13を有する1つの車両11で編成されていてもよい。
【0012】
コンピュータ20は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、及び、I/Oインターフェース等を有している。コンピュータ20の不揮発性メモリには、後述する異常判定プログラム、及び、各種データ等が保存されており、プロセッサが各プログラムに基づき揮発性メモリを用いて演算処理を行う。コンピュータ20は、いわゆるサーバーであって、ネットワークを介して各列車10から各集電装置12の集電装置情報を含む運行情報を取得する。ただし、コンピュータ20による運行情報の取得方法は、これに限定されない。
【0013】
上記の各集電装置12の集電装置情報には、集電装置12の番号、その集電装置12に対応する離線センサ13の出力値、その集電装置12が搭載されている列車10のノッチ段数、当該列車10に搭載されている集電装置12のうち使用されている集電装置12の数、当該列車10の速度、当該列車10の走行位置、及び、時刻が含まれている。これらのうち、離線センサ13の出力値、ノッチ段数、使用されている集電装置12の数、列車10の速度、及び、列車10の走行位置は、時系列データであり、時刻に関連付けされている。
【0014】
表示装置30は、種々の情報を表示する装置である。本実施形態の表示装置30は、いわゆるディスプレイである。表示装置30は、コンピュータ20と電気的に接続されており、コンピュータ20から出力された情報を表示する。
【0015】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組合せ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組合せであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0016】
<異常判定プログラム>
次に、コンピュータ20が実行する異常判定プログラムについて説明する。図2は、異常判定プログラムのフロー図である。図2に示すように、異常判定プログラムが実行されると、コンピュータ20は、各集電装置12の集電装置情報を取得する(ステップS1)。前述のとおり、集電装置情報には離線センサ13の出力値が含まれている。離線センサ13の出力値をグラフで示すと、例えば図3のようになる。図3は、離線センサ13の出力値の一例を示した図である。図3で示すグラフの縦軸は離線センサ13の出力値であり、横軸は時間である。
【0017】
続いて、コンピュータ20は、ステップS1で取得した離線センサ13の出力値を列車10の走行区間で区切る(ステップS2)。図4は、離線センサ13の出力値を走行区間で区切った図である。ステップS2では、はじめに、図3で示す離線センサ13の出力値を示すグラフの横軸を時間から走行距離に変換する。前述のとおり、離線センサ13の出力値と列車10の走行位置は、時刻を介して関連付けされている。そのため、図3に示すグラフの横軸を時間から走行距離に変換することができる。
【0018】
そのうえで、図4で示すように、離線センサ13の出力値を走行区間で区切る。本実施形態では、列車10の走行区間を第1走行区間、第2走行区間、及び、第3走行区間の3つに仕切る。なお、各走行区間の距離は任意に設定できる。各走行区間の距離は同じであってもよく異なっていてもよい。また、各列車10が走行する線路が複線である場合は、上りと下り(往路と復路)は異なる走行区間となる。この場合、上りと下りで集電装置12が接触する架線14が異なるからである。
【0019】
続いて、コンピュータ20は、集電装置12の離線箇所を判定する(ステップS3)。離線箇所とは、集電装置12と架線14が離れたと考えられる箇所である。図5は、離線箇所の判定方法を説明する図である。図5で示すように、本実施形態では閾値を設定し、離線センサ13の出力値が閾値以上である箇所を離線箇所であると判定する。図5では、斜線部分に対応する箇所が離線箇所である。
【0020】
ここで、閾値は、ステップS1で取得したノッチ段数、及び、使用されている集電装置12の数に基づいて設定する。本実施形態では、ノッチ段数が小さい場合、及び、集電装置12の数が多い場合は、集電装置12と架線14が離れたときに発生するアークの光量が少ないため、このような場合には閾値を小さくする。これとは逆に、ノッチ段数が大きい場合、及び、集電装置12の数が少ない場合は、集電装置12と架線14が離れたときに発生するアークの光量が多いため、このような場合には閾値を大きくする。
【0021】
続いて、コンピュータ20は、各集電装置12の走行区間ごとの離線率を算出する(ステップS4)。ここで、走行区間ごとの離線率とは、その走行区間全体に対する離線箇所の割合をいう。離線率は、図5に基づいて算出することができる。なお、離線率は、その走行区間を走行している「時間」のうち集電装置12が離線している「時間」の割合であってもよく、その走行区間の「距離」のうち集電装置12が離線している「距離」の割合であってもよい。また、本実施形態では、ステップS1で取得した列車10の速度に基づいて離線率を補正する。具体的には、列車10の速度が速い場合には離線が発生しやすいため、列車10の速度が速い場合には離線率を低めに補正し、列車10の速度が遅い場合には離線率を高めに補正する。
【0022】
図6は、各集電装置12の各走行日時における走行区間ごとの離線率の一例を示した表である。図6の表中の数値は、第1集電装置、第2集電装置、第3集電装置の3つの集電装置12のそれぞれについて、3つの異なる走行時間における走行区間ごとの離線率を示している。図6に示す表において、同じ集電装置12で同じ走行区間における3つの走行日時の離線率を平均した値を離線率(平均値)とした表が図7である。図7は、各集電装置12の走行区間ごとの離線率(平均値)を示した表である。本実施形態では、図7の離線率(平均値)を用いて異常判定を行う。ただし、離線率の平均値に代えて、例えば図6に示す3つの走行日時の離線率のうちの1つを異常判定に用いてもよい。
【0023】
続いて、コンピュータ20は、各走行区間の走行区間基準離線率を設定する(ステップS5)。図8は、図7の表に走行区間ごとの走行区間基準離線率及び走行区間基準離線率との差分を加えた表である。走行区間ごとの走行区間基準離線率は、それぞれの走行区間における各集電装置12の離線率に基づいて設定する。本実施形態では、それぞれの走行区間における各集電装置12の離線率の「中央値」を走行区間基準離線率に設定する。なお、「中央値」とは、順位が中央である値を指し、データ数が偶数の場合は、中央順位2個の値の算術平均値とする。
【0024】
例えば、図8において、第1走行区間における第1集電装置、第2集電装置、及び、第3集電装置の離線率は、それぞれ6%、3%、3%であるため、これらの中央値である3%を第1走行区間の走行区間基準離線率に設定する。ただし、それぞれの走行区間における各集電装置12の離線率の「平均値」を走行区間ごとの走行区間基準離線率に設定するなどしてもよい。
【0025】
続いて、コンピュータ20は、ステップS5で設定した走行区間ごとの走行区間基準離線率とその走行区間における各集電装置12の離線率との差分を算出する(ステップS6)。図8の表中のかっこ内の数値が、各離線率と走行区間基準離線率との差分(各離線率から走行区間基準離線率を引いた値)を示している。
【0026】
続いて、コンピュータ20は、判定対象の集電装置12について、離線率が走行区間基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる走行区間が、所定数以上か否かを判定する(ステップS7)。ステップS7では、全ての集電装置12について判定を行ってもよく、一部の集電装置12について判定を行ってもよい。また、上記の閾値及び所定数は任意に設定することができる。本実施形態では、閾値を2%に設定し、所定数を2に設定する。
【0027】
例えば、第1集電装置において、離線率が走行区間基準離線率よりも大きく、その差分が2%以上である走行区間は、第1走行区間、第2走行区間、及び、第3走行区間の3つであり、所定数である2以上である。つまり、ステップS7において、第1集電装置を判定対象とすると、コンピュータ20は、離線率が走行区間基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる走行区間が、所定数以上であると判定する(ステップS7でYES)。この場合、コンピュータ20は、判定対象である集電装置12(第1集電装置)は、異常であると判定する(ステップS8)。このように判定するのは、多くの走行区間において離線率が高くなっている集電装置12は、集電装置12自体に異常があると考えられるからである。
【0028】
これに対し、第2集電装置では、離線率が走行区間基準離線率よりも大きく、その差分が2%以上である走行区間は存在しない。つまり、ステップS7において、第2集電装置を判定対象とすると、コンピュータ20は、離線率が走行区間基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる走行区間が、所定数以上でないと判定する(ステップS7でNO)。この場合、コンピュータ20は、判定対象である集電装置12(第2集電装置)は、正常であると判定する(ステップS9)。
【0029】
続いて、コンピュータ20は、各集電装置12の集電装置基準離線率を設定する(ステップS10)。図9は、図7の表に集電装置12ごとの集電装置基準離線率及び集電装置基準離線率との差分を加えた表である。集電装置12ごとの集電装置基準離線率は、それぞれの集電装置12における各走行区間の離線率に基づいて設定する。本実施形態では、それぞれの集電装置12における各走行区間の離線率の「中央値」を集電装置基準離線率に設定する。
【0030】
例えば、図9において、第1集電装置における第1走行区間、第2走行区間、及び、第3走行区間の離線率は、それぞれ6%、9%、12%であるため、これらの中央値である9%を第1集電装置の集電装置基準離線率に設定する。ただし、それぞれの集電装置12における各走行区間の離線率の「平均値」を集電装置12ごとの集電装置基準離線率に設定するなどしてもよい。
【0031】
続いて、コンピュータ20は、ステップS10で設定した集電装置12ごとの集電装置基準離線率とその集電装置12における各走行区間の離線率との差分を算出する(ステップS11)。図9の表中のかっこ内の数値が、各離線率と集電装置基準離線率との差分(各離線率から種電装置基準離線率を引いた値)を示している。
【0032】
続いて、コンピュータ20は、判定対象の走行区間について、離線率が集電装置基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる集電装置12が、所定数以上あるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12では、全ての走行区間について判定を行ってもよく、一部の走行区間について判定を行ってもよい。また、上記の閾値及び所定数は任意に設定することができる。本実施形態では、閾値を2%に設定し、所定数を2に設定する。
【0033】
例えば、第1走行区間において、離線率が集電装置基準離線率よりも大きく、その差分が2%以上である走行区間は存在しない。つまり、ステップS12において、第1走行区間を判定対象とすると、コンピュータ20は、離線率が集電装置基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる集電装置12が、所定数以上でないと判定する(ステップS12でNO)。この場合、コンピュータ20は、判定対象である走行区間(第1走行区間)の架線14は、正常であると判定する(ステップS13)。
【0034】
これに対し、第3走行区間では、離線率が集電装置基準離線率よりも大きく、その差分が2%以上である走行区間は、第1集電装置、第2集電装置、及び、第3集電装置の3つであり、所定数である2以上である。つまり、ステップS12において、第3走行区間を判定対象とすると、コンピュータ20は、離線率が集電装置基準離線率よりも大きく、かつ、その差分が閾値以上となる集電装置12が、所定数以上であると判定する(ステップS12でYES)。この場合、ステップS14へ進む。
【0035】
なお、ステップS12でYESの場合、判定対象となる走行区間は、多くの集電装置12で離線率が高くなっているため、その走行区間の架線14に異常がある可能性がある。ただし、離線率が高い原因が架線14以外にある可能性もあるため、次のステップS14で離線率が高い原因をさらに検証する。
【0036】
ステップS14では、架線14の異常が疑われる走行区間(ステップS12でYESとなる走行区間)が判定対象となる。上記の例でいえば、第3走行区間が判定対象となる。ステップS14では、この判定対象の走行区間において、異なる走行日時における離線率の差分が閾値以上となる集電装置12が所定数以上あるか否かを判定する。上記の離線率の差分の対象となる離線率、閾値、及び、所定数は、任意に設定することができる。本実施形態では、離線率の差分は最小の離線率と最大の離線率の差分とし、閾値を5%に設定し、所定数を2に設定する。
【0037】
例えば、図6で示す表を参照すると、第3走行区間において、第1集電装置、第2集電装置、及び、第3集電装置の異なる走行日時における最小の離線率と最大の離線率の差は、それぞれ10%(18%-8%)、8%(14%-6%)、9%(16%-7%)であって、いずれも閾値である5%以上である。つまり、第3走行区間では、異なる走行日時における離線率の差が閾値以上となる集電装置12は、第1集電装置、第2集電装置、第3集電装置の3つであり、所定数である2以上である。
【0038】
よって、ステップS14において、第3走行区間を判定対象とすると、コンピュータ20は、異なる走行日時における離線率の差が閾値以上となる集電装置12が所定数以上あると判定する(ステップS14でYES)。この場合、コンピュータ20は、判定対象である走行区間(第3走行区間)の架線14は正常であると判定する(ステップS15)。このように判定するのは、異なる走行日時における離線率の差が大きい場合、離線率の悪化(図6では特に1月3日の離線率の悪化)は風や積雪などの自然環境に起因する可能性が高いからである。
【0039】
一方、ステップS14において、コンピュータ20が、判定対象である走行区間において、異なる走行日時における離線率の差が閾値以上となる集電装置12が所定数以上ないと判定した場合(ステップS14でNO)、判定対象の走行区間の架線14は異常であると判定する。このように判定するのは、判定対象の走行区間で離線率が高くなる原因が自然環境ではなく、架線14にあると考えられるからである。
【0040】
続いて、コンピュータ20は、判定対象の集電装置12が異常であるか否かの判定結果(ステップS8、S9)及び判定対象の走行区間の架線14が異常であるか否かの判定結果(ステップS13、S15、S16)を、表示装置30に出力する(ステップS17)。なお、表示装置30に表示させる判定結果の表示方法は限定されない。なお、コンピュータ20は、表示装置30に加えて、又は、表示装置30に代えて記憶媒体等に判定結果を出力してもよい。
【0041】
<まとめ>
上記の実施形態に係る異常判定方法は、複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得し、前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出し、走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定するとともに、集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する。
【0042】
この方法によれば、集電装置の状態を監視することで、集電装置のみならず架線の異常も判定できる。
【0043】
また、実施形態に係る異常判定方法では、走行区間ごとの走行区間基準離線率は、それぞれの走行区間における各集電装置の離線率に基づいて設定し、集電装置ごとの集電装置基準離線率は、それぞれの集電装置における各走行区間の離線率に基づいて設定している。
【0044】
この方法によれば、走行区間基準離線率及び集電装置基準離線率を適切な値に設定することができる。
【0045】
また、実施形態に係る異常判定方法では、前記集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に加え、判定対象の走行区間の同じ集電装置の異なる走行日時における離線率の差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定する。
【0046】
この方法によれば、架線の異常判定において、自然環境の影響を排除することができる。
【0047】
また、上記の実施形態における異常判定プログラムは、コンピュータに、複数の集電装置のそれぞれに対応する各離線センサの出力値を取得させ、前記出力値に基づいて各集電装置の走行区間ごとの離線率を算出させ、走行区間ごとに予め設定した走行区間基準離線率と判定対象の集電装置の各走行区間における離線率との差分に基づいて、判定対象の集電装置に異常があるか否かを判定させるとともに、集電装置ごとに予め設定した集電装置基準離線率と判定対象の走行区間の各集電装置における離線率との差分に基づいて、判定対象の走行区間の架線に異常があるか否かを判定させる。
【0048】
このプログラムによれば、集電装置の状態を監視することで、集電装置のみならず架線の異常も判定できる。
【符号の説明】
【0049】
10 列車
11 車両
12 集電装置
13 離線センサ
14 架線
20 コンピュータ
30 表示装置
100 列車運行システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9