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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095322
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20230629BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230629BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230629BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230629BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L101/00
C08L67/00
C08L75/04
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211141
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 聖五
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久成
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BP012
4J002CF002
4J002CF161
4J002CK022
4J002GB00
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】本発明は、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大した熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、熱可塑性エラストマー100質量部および結晶融解温度が250℃以下である全芳香族液晶ポリマー0.1~40質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー100質量部および結晶融解温度が250℃以下である全芳香族液晶ポリマー0.1~40質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
式(III)および/または式(IV)は、ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーはポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーまたはポリウレタン系熱可塑性エラストマーである、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物から構成される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーと特定の液晶ポリマーを含有する、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大した熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー(以下、TPEとも称する)は、ゴム分子あるいはポリエーテルのようなソフトセグメントと、常温付近では加硫ゴムと同じく、塑性変形を防止するハードセグメントを含んで構成され、加熱すれば流動して通常の熱可塑性プラスチック同様の成形加工ができ、常温ではゴム弾性を示す。そのため、TPEは、自動車、建築、医療分野などの各種産業分野で幅広く使用されている。
【0003】
熱可塑性エラストマーの性能を改善するために、ポリマーブレンドや無機フィラーの配合等が行われている。例えば、特許文献1には、熱可塑性エラストマーとサーモトロピック液晶性高分子とからなる組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/026509号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のTPEとのブレンドに供する液晶ポリマーは、融点が約270℃であるため溶融混練時にTPEの熱分解が生じることから、得られる樹脂組成物の機械特性が低下するという問題があった。
【0006】
また、同文献には、融点が約210℃の液晶ポリマーをTPEにブレンドする例も記載されているが、この液晶ポリマーはエチレンジオキシ単位を構成成分として含む半芳香族液晶ポリマーであるため、得られる樹脂組成物の機械特性の改善は十分ではなく、使用可能温度域の改善についても検討されていない。
【0007】
本発明の目的は、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大した熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマーに特定の液晶ポリマーを所定量配合することにより、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大した熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕熱可塑性エラストマー100質量部および結晶融解温度が250℃以下である全芳香族液晶ポリマー0.1~40質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
〔2〕全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
〔3〕式(III)および/または式(IV)は、ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、〔2〕に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
〔4〕熱可塑性エラストマーはポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーまたはポリウレタン系熱可塑性エラストマーである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物から構成される成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物によると、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に使用する熱可塑性エラストマーは、未変性の熱可塑性エラストマーであり、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。本発明において、未変性の熱可塑性エラストマーは、とりわけ酸変性されていない熱可塑性エラストマーである。ここで、酸変性は例えば不飽和カルボン酸またはその誘導体による変性を意味し、不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられる。
【0012】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを含み、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテルまたはポリエステルを含むマルチブロックコポリマーである。
【0013】
ハードセグメントとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸等のジカルボン酸成分と、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等のジオール成分とからなるポリエステルが挙げられる。
【0014】
ソフトセグメントとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等の脂肪族ポリエーテルが挙げられる。
【0015】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、通常、ハードセグメントとしてスチレン系重合体ブロック(Hb)を、ソフトセグメントとして共役ジエン系重合体ブロックまたはその水添ブロック(Sb)を含む。このスチレン系熱可塑性エラストマーの構造としては、Hb-Sbで表されるジブロック構造、Hb-Sb-HbもしくはSb-Hb-Sbで表されるトリブロック構造、Hb-Sb-Hb-Sbで表されるテトラブロック構造、またはHbとSbとが計5個以上直鎖状に結合しているポリブロック構造が例示される。
【0016】
スチレン系重合体ブロック(Hb)に使用されるスチレン系モノマーとしては、スチレンおよびその誘導体等が挙げられ、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t-ブトキシスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などが挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。スチレン系モノマーは1種のみでもよく、2種以上であってもよい。
【0017】
また、共役ジエン系重合体ブロックまたはその水添ブロック(Sb)に使用される共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、ブタジエンが好ましい。共役ジエン化合物は1種のみでもよく、2種以上であってもよい。さらに、他の単量体、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンを共重合することもできる。また、共役ジエン系重合体ブロックは、部分的または完全に水素添加されている水素添加体であってもよい。
【0018】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-イソプレンジブロック共重合体(SI)、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体(SB)、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体(SB/IS)およびスチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体(SBS)並びにその水素添加体が挙げられる。これらの中でも、スチレン-イソプレンジブロック共重合体の水素添加体(SEP)、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体の水素添加体(SEB)、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEPS)、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEEPS)およびスチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEBS)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0019】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとして短鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタン、ソフトセグメントとして長鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンを含む直鎖状のマルチブロックコポリマーである。ここで、ポリウレタンとは、イソシアネート(-NCO)とアルコール(-OH)との重付加反応(ウレタン化反応)で得られるウレタン結合(-NHCOO-)を有する化合物の総称である。
【0020】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ハードセグメントとしてポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンブロックを、ソフトセグメントとしてエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のゴムブロックを含む熱可塑性エラストマー等が含まれる。なお、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ブレンド型とインプラント化型がある。
【0021】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテルまたはポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するポリアミド成分は、ナイロン6,66,610,11,12等から選択され、ナイロン6、ナイロン12が主体を占めている。ソフトセグメントの構成物質としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールの具体例としては、ジオールポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等が挙げられる。
【0022】
本発明に使用する熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーまたはポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述した熱可塑性エラストマーに加えて下記全芳香族液晶ポリマーを所定量含有することにより、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大する。
【0024】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステルアミドである。
【0025】
全芳香族液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0026】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0027】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0028】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0029】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0030】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0031】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0032】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0033】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは、2種以上の全芳香族液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0034】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は250℃以下であり、好ましくは245℃以下であり、より好ましくは235℃以下であり、さらに好ましくは225℃以下であり、よりさらに好ましくは210℃未満であり、特に好ましくは200℃以下であり、最も好ましくは195℃以下である。本発明における全芳香族液晶ポリマーは、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が、好ましくは150℃以上、より好ましくは155℃以上、さらに好ましくは160℃以上である。
【0035】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、全芳香族液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温または-100℃まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製DSC7020等を使用することができる。
【0036】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーとしては、全芳香族液晶ポリエステルが好適に使用され、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルがより好適に使用される。
【化3】
【0037】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15。]
【0038】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)は、p>qの関係を満たすことが好ましく、p/qが1.01~2.0であることがより好ましく、1.03~1.9であることがさらに好ましく、1.08~1.8であることが特に好ましい。
【0039】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、70~96モル%が好ましく、76~90モル%がより好ましい。
【0040】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pは、35~55モル%が好ましく、38~53モル%がより好ましい。また、式(II)に係る組成比qは、25~45モル%が好ましく、28~43モル%がより好ましい。
【0041】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルは、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、250℃以下である結晶融解温度を示す。
【0042】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、2~15モル%が好ましく、4~14モル%がより好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0043】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0044】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば4-ヒドロキシ安息香酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0045】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0046】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアシル化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0047】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0048】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化4】
【0049】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0050】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)、式(2)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0051】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0052】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0053】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0054】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0055】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0056】
以下、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0057】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0058】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0059】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0060】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、全芳香族液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0061】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、全芳香族液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0062】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0063】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタンなどの金属酸化物;三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(例えば酢酸カリウム、酢酸ナトリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0064】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0065】
このようにして重縮合反応されて得られた全芳香族液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、全芳香族液晶ポリマーの割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1~40質量部であり、衝撃強度および使用可能温度域の観点から0.5~28質量部が好ましく、1~27質量部がより好ましく、2~26質量部がさらに好ましく、3~25質量部が特に好ましい。
【0067】
全芳香族液晶ポリマーの含有量が0.1質量部未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の衝撃強度を改善し、使用可能温度域を拡大する効果が十分に得られず、40質量部を超えると熱可塑性エラストマー組成物のIzod衝撃強度等の特性を低下させる傾向がある。
【0068】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、使用する全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度が250℃以下であるという特徴により、マトリクス樹脂である熱可塑性エラストマー中に全芳香族液晶ポリマーが均一に分散し、かつ低温での溶融混練によるブレンドが可能となる。そのため、熱可塑性エラストマーの熱分解が抑制され、衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大した樹脂組成物となり得る。
【0069】
したがって、ブレンドに際して相溶化剤は特に必要ないが、熱可塑性エラストマーおよび全芳香族液晶ポリマーの相溶性をより向上させる目的で、相溶化剤を添加してもよい。相溶化剤を添加する場合、その添加量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、任意の成分として、無機および/または有機充填材を含有してもよいが、その種類や含有量によっては組成物の柔軟性が損なわれる場合もあるため、無機および/または有機充填材を含まないことが好ましい。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有してもよい、無機および/または有機充填材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いてよく、または2種以上を併用してもよい。
【0072】
これらの中では、タルクが、物性とコストのバランスに優れている点で好ましい。
【0073】
また、無機および/または有機充填材は、表面処理されたものであってもよい。表面処理の方法としては、例えば、充填材表面に表面処理剤を吸着させる方法、混練する際に表面処理剤を添加する方法などが挙げられる。
【0074】
表面処理剤としては、反応性カップリング剤であるシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤など、潤滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などが挙げられる。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、熱可塑性エラストマーおよび全芳香族液晶ポリマーの他に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の添加剤や樹脂成分が添加されてもよい。
【0076】
他の添加剤の具体例としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)など、離型剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、造核剤であるタルク、有機リン酸塩、ソルビトール類など、アンチブロッキング剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0077】
熱可塑性エラストマー組成物が他の添加剤を含有する場合、その含有量は、他の添加剤の合計量として、熱可塑性エラストマーおよび全芳香族液晶ポリマーの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0078】
他の添加剤の合計量が0.01質量部未満であると、これを含有する場合における添加剤の機能を実現させにくく、5質量部を超えると、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0079】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤、アンチブロッキング剤などの添加剤を使用する場合は、熱可塑性エラストマー組成物を作製する際に添加してもよいし、成形する際に熱可塑性エラストマー組成物のペレット表面に付着させてもよい。
【0080】
他の樹脂成分の具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどや、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分は単独で用いてよく、または2種以上を併用してもよい。
【0081】
他の樹脂成分を含有する場合、その含有量は、熱可塑性エラストマーおよび全芳香族液晶ポリマーの合計量100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記の熱可塑性エラストマー、全芳香族液晶ポリマー、所望により上記の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の熱可塑性エラストマー組成物とすることができる。また、熱可塑性エラストマー、全芳香族液晶ポリマーをドライブレンドし、成形機内で溶融混練することによっても、本発明の熱可塑性エラストマー組成物とすることができる。
【0083】
このようにして得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ASTM D256に準拠した23℃におけるIzod衝撃強度が、通常90J/m以上、好ましくは100~500J/m、より好ましくは110~480J/mである。
【0084】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ガラス転移温度(Tg1)と、単独の熱可塑性エラストマーのガラス転移温度(Tg2)との差ΔT(Tg2-Tg1)が、通常1.5℃以上、好ましくは2~25℃、より好ましくは2.1~20℃である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ガラス転移温度が低くなり、使用可能温度域が拡大するため、例えば寒冷地などの低温環境下において好適に使用することができる。
【0085】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「ガラス転移温度」とは、示差走査熱量計によって、昇温速度20℃/分で測定した際のDSC曲線が階段状に変化する中間点から求めたものである。より具体的には、熱可塑性エラストマー組成物の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で-100℃まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際のDSC曲線が階段状に変化する中間点を熱可塑性エラストマー組成物のガラス転移温度とする。測定用機器としては、例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製DSC7020等を使用することができる。
【0086】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、従来公知の射出成形、圧縮成形、押出成形、ブローなどの成形法によって、射出成形品、フィルム、シートおよび不織布などの成形品に加工することができる。
【0087】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0088】
実施例中の結晶融解温度、ガラス転移温度およびIzod衝撃強度は、以下に記載の方法で測定した。
【0089】
〈結晶融解温度、ガラス転移温度の測定〉
示差走査熱量測計(株式会社日立ハイテクサイエンス製 DSC7020)を用いて測定を行った。実施例および比較例の樹脂試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持した。次いで20℃/分の降温条件で-100℃まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を樹脂試料の結晶融解温度とし、DSC曲線が階段状に変化する中間点を樹脂試料のガラス転移温度とした。
【0090】
〈Izod衝撃強度〉
射出成形機射出成形機(住友重機械工業(株)製 MINIMAT M26/15)を用いて、融点+20~40℃のシリンダー温度、金型温度80℃で、長さ65mm、幅12.7mm、厚さ2.0mmの短冊状試験片を成形し、ASTM D256に準拠して測定した。
【0091】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
TPE:熱可塑性エラストマー
LCP:全芳香族液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
IPA:イソフタル酸
TPA:テレフタル酸
【0092】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーとして以下のものを使用した。
ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS):セプトン 8007L、株式会社クラレ製
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE):ハイトレル 4057N、東レ・デュポン株式会社製
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー1(TPU-1):HF-1098A、フワフォンTPU社製
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー2(TPU-2):HF-SRH8175A、フワフォンTPU社製
【0093】
(全芳香族液晶ポリマーの合成)
[合成例1(LCP-1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:386.0g(43モル%)、BON6:403.6g(33モル%)、BP:145.2g(12モル%)、NDA:126.0g(9モル%)およびIPA:32.4g(3モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0094】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、340℃まで4時間かけ昇温した後、80分かけ10mmHgにまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機によりLCPのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPペレットのDSCにより測定された結晶融解温度(Tm)は183℃であった。
【0095】
[合成例2(LCP-2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、TPA:323.9g(30モル%)、BP:169.4g(14モル%)およびHQ:114.5g(16モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0096】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により全芳香族液晶ポリマーのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であった。
【0097】
[実施例1~5および比較例1~6]
熱可塑性エラストマーおよびLCP-1を、表1に記載の含有量となるように配合し、二軸押出機((株)池貝製PCM-30)を用いて、シリンダー温度をLCPの結晶融解温度+10~+60℃となるようにして溶融混練し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た(実施例1~5および比較例1~5)。得られたペレットを用いて、上記の方法により、Izod衝撃強度およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
一方、LCP-2を用いた比較例6は、LCP-2の結晶融解温度が高く、溶融混練時に熱可塑性エラストマーが熱劣化して分解ガスを発生させ、押出ストランドの吐出が安定しなかったため、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得ることができなかった。
【0099】
表1に示すように、実施例1~5の熱可塑性エラストマー組成物はいずれも、Izod衝撃強度が120~371J/m、ガラス転移温度が-27.5~-66.5℃であり、比較例1および3~5の全芳香族液晶ポリマーを含有しないものと比較してIzod衝撃強度が改善されるとともに、使用可能温度域が拡大したものであった。
【0100】
一方、比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、実施例1~5の熱可塑性エラストマー組成物と比較して、Izod衝撃強度に劣るものであった。
【0101】
【表1】