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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095366
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】血液ポンプ及び補助人工心臓システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/829 20210101AFI20230629BHJP
   A61M 60/232 20210101ALI20230629BHJP
   A61M 60/178 20210101ALI20230629BHJP
   A61M 60/824 20210101ALI20230629BHJP
   A61M 60/416 20210101ALI20230629BHJP
【FI】
A61M60/829
A61M60/232
A61M60/178
A61M60/824
A61M60/416
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211205
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】392000796
【氏名又は名称】株式会社サンメディカル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】篠原 一人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】藤森 弘章
(72)【発明者】
【氏名】小池 希望
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直文
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD08
4C077EE01
4C077KK02
(57)【要約】
【課題】摺動部の間隙に血液成分が浸入して摺動部に血漿タンパク質が付着したとしても、血液ポンプとしての動作の安定性を維持することができ、より高い信頼性を有する血液ポンプを提供する。
【解決手段】環状の回転摺動面111を有し、回転シャフト130に取り付けられていて回転シャフト130とともに回転する回転側摺動部材110と、環状の固定摺動面211を有し、回転シャフト130に対して非接触で当該回転シャフト130の外周を囲むように設けられている固定側摺動部材210と、回転側摺動部材110と固定側摺動部材210との間に介在され、回転側摺動部材110の回転摺動面111に対向する環状の第1遊動摺動面311を有するとともに固定側摺動部材210の固定摺動面211に対向する環状の第2遊動摺動面312を有し、回転シャフト130の回転に対して遊動するように回転シャフト130に環装されている遊動摺動部材310とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液ポンプ室の内部に存在する血液に運動エネルギーを付与して当該血液を前記血液ポンプ室の外部に送出する血液ポンプであって、
環状の回転摺動面を有し、回転シャフトに取り付けられていて、当該回転シャフトとともに回転する回転側摺動部材と、
環状の固定摺動面を有し、前記回転シャフトの外周を囲むように当該回転シャフトに対して非接触で設けられている固定側摺動部材と、
前記回転側摺動部材と前記固定側摺動部材との間に介在され、前記回転側摺動部材の前記回転摺動面に対向する環状の第1遊動摺動面を有するとともに、前記固定側摺動部材の前記固定摺動面に対向する環状の第2遊動摺動面を有し、前記回転シャフトの回転に対して遊動するように前記回転シャフトに環装されている遊動摺動部材と、
を備えることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプにおいて、
前記回転側摺動部材、前記遊動摺動部材及び前記固定側摺動部材の各内周側にクールシール液を供給するクールシール液循環経路をさらに備え、
当該クールシール液は、前記クールシール液循環経路によって、前記回転側摺動部材の前記回転摺動面と前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面との間、及び、前記遊動摺動部材の前記第2遊動摺動面と前記固定側摺動部材の前記固定摺動面との間に供給されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の血液ポンプにおいて、
前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面は、それぞれが前記遊動摺動部材の外周側の縁部に沿って一周するように形成され、当該第1遊動摺動面の径方向の幅及び前記第2遊動摺動面の径方向の幅は、前記第1遊動摺動面と前記第2遊動摺動面とにおいて同じ幅を有していることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の血液ポンプにおいて、
前記回転側摺動部材の前記回転摺動面と前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面とが摺動する際の摺動面の径方向の幅と、前記固定側摺動部材の前記固定摺動面と前記遊動摺動部材の前記第2遊動摺動面とが摺動する際の摺動面の径方向の幅とは、同じ幅であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の血液ポンプにおいて、
前記遊動摺動部材には、前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面よりも径方向の内側に、前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面のそれぞれに対して段差部を有して鍔部が形成され、当該鍔部の前記回転シャフトの回転軸に沿った方向の厚みは、前記第1遊動摺動面と前記第2遊動摺動面との間の厚みよりも薄く形成されており、
当該鍔部には、当該遊動摺動部材を前記回転シャフトに環装させるための回転シャフト通し孔が形成されているとともに、クールシール液を前記鍔部の一方の面の側と他方の面の側との間で流通可能とするクールシール液流通孔が形成されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の血液ポンプにおいて、
前記回転シャフト通し孔の径をΦ1(mm)とし、前記回転シャフトの外径をΦ2(mm)としたとき、前記回転シャフト通し孔の径Φ1は、(Φ2+0.05mm)≦Φ1≦(Φ2+0.15mm)の範囲に設定されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の血液ポンプにおいて、
前記鍔部に形成されている前記クールシール液流通孔は、前記鍔部の周方向に沿った複数個所に形成されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の血液ポンプにおいて、
前記回転側摺動部材の前記回転摺動面、前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面、前記固定側摺動部材の前記固定摺動面は、それぞれが研磨された平滑面であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項9】
血液ポンプを備える補助人工心臓システムであって、
前記血液ポンプは、請求項1~8のいずれかに記載の血液ポンプであることを特徴とする補助人工心臓システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ポンプ及び補助人工心臓システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓移植までの患者の生命を維持するために、血液に運動エネルギーを与える血液ポンプ及び当該血液ポンプを用いて心臓の機能の一部を補う補助人工心臓システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の補助人工心臓システムについて図1を参照して説明する。なお、図1に示す補助人工心臓システムは、後述する本発明の実施形態に係る補助人工心臓システム10を説明するための図であるが、特許文献1に記載の補助人工心臓システムにおいても共通の構成を有している。このため、特許文献1に記載の補助人工心臓システムの説明においても図1を使用する。なお、後述する本発明の実施形態に係る補助人工心臓システム10と区別するため、特許文献1に記載の補助人工心臓システムを「特許文献1に記載の補助人工心臓システム11」として説明する。
【0004】
特許文献1に記載の補助人工心臓システム11は、図1に示すように、体内に埋め込まれる血液ポンプ(特許文献1に記載の血液ポンプ21として説明する。)と、当該血液ポンプ21と心臓の血流を接続するための人工血管30,40と、図示しない制御装置とを有する。制御装置は、補助人工心臓システム11の使用者の体外で用いるためのものであり、ケーブル50を介して血液ポンプ21と接続されている。
【0005】
続いて、特許文献1に記載の血液ポンプ21について説明する。
図6は、特許文献1に記載の血液ポンプ21を説明するために示す部分断面図である。
図7は、図6に示す血液ポンプの要部を詳細に示す図である。図7(a)は血液ポンプ21の要部としての回転部100及び固定部200を拡大して示す断面図であり、図7(b)は図7(a)に示す回転部100及び固定部200の主要部をさらに拡大して模式的に示す断面図である。なお、図6及び図7に示す特許文献1に記載の血液ポンプ21は、後述する本発明の実施形態に係る血液ポンプ20と共通の構成を有しているため、詳細な構成及び機能などについては後述するものとし、ここでは、構成及び機能の一部を簡略化して説明する。
【0006】
特許文献1に記載の血液ポンプ21は、図6及び図7に示すように、回転部100と、固定部200と、回転部100を回転駆動するためのモーターを備えた駆動部400と、クールシール液循環経路500と、血液ポンプ室600とを備える。
【0007】
回転部100は、回転側摺動部材110と、インペラ120と、駆動部400の駆動力を受けて回転する回転シャフト130とを有する。回転側摺動部材110は、回転シャフト130に取り付けられて当該回転シャフト130とともに回転し、駆動部400の側を向く面に環状の回転摺動面111(図7(b)参照。)を有している。
【0008】
一方、固定部200は、固定側摺動部材210を有している。固定側摺動部材210は、環状の固定摺動面211(図7(b)参照。)を有し、回転シャフト130に対して非接触で回転シャフト130の外周を囲むように設けられている。この固定側摺動部材210は、回転側摺動部材110の回転摺動面111の側を向く面に環状の固定摺動面211(図7(b)参照。)を有している。
【0009】
そして、回転側摺動部材110及び固定側摺動部材210は、当該回転側摺動部材110及び固定側摺動部材210のそれぞれの外周側が血液ポンプ室600の内部に存在する血液BLに晒されるように配置される。
【0010】
このように構成されている血液ポンプ21は、回転側摺動部材110の回転摺動面111と固定側摺動部材210の固定摺動面211とが対向して当接することにより、回転側摺動部材110と固定側摺動部材210とがメカニカルシールとして機能している。
【0011】
ここでは、回転側摺動部材110の回転摺動面111と固定側摺動部材210の固定摺動面211とが「当接」するとしているが、実際には、回転側摺動部材110の回転摺動面111と固定側摺動部材210の固定摺動面211との間は1μm以下のわずかな間隙Sを有している。なお、図7(a)及び図7(b)においては、回転摺動面111と固定摺動面211との間の間隙Sを誇張して図示している。以下の説明においては、回転摺動面111と固定摺動面211とを「摺動部」と表記する場合もある。また、回転摺動面111と固定摺動面211との間の間隙Sを「摺動部の間隙S」と表記する場合もある。
【0012】
クールシール液循環経路500は、血液ポンプ21内部の潤滑、冷却、シール性の維持等の機能を果たすクールシール液CS(例えば、注射用水)を循環させるための経路である。クールシール液CSは、クールシール液入口511(図6参照。)から流入し、クールシール液循環経路500を矢印方向に沿って流れて行き、回転シャフト130の中空部131を通って、回転シャフト130に設けられているクールシール液排出孔135から回転シャフト130の外部に出て、摺動部の間隙S(図7参照。)に供給される。
【0013】
回転摺動面111と固定摺動面211との間の間隙Sに供給されたクールシール液CSの一部は、血液BL中に流出する。一方、血液BL中に流出しなかったクールシール液CSは、回転シャフト130の外周面と固定部200との間に存在する空間213(図7参照。)を通って、クールシール液出口512から制御装置(図示せず。)へと送られ、再び、クールシール液入口511から血液ポンプ内に流入する。クールシール液CSはクールシール液循環経路500をこのような経路で循環する。なお、図6及び図7に示す矢印はクールシール液CSの流通方向を示している。
【0014】
クールシール液CSがこのように循環することによって、血液BLを構成する成分(以下、血液成分という。)が摺動部の間隙Sに浸入しにくくなり、摺動部に血液成分のうちの血漿タンパク質が付着しにくくなる。なお、血液成分が摺動部の間隙Sに浸入しにくくなるようにする主な理由としては、血液ポンプとしての動作が不安定になるといった不具合の発生を抑制することが挙げられる。すなわち、血液成分が摺動部の間隙Sに浸入して、摺動部に血漿タンパク質が付着した状態で回転側摺動部材110が回転を続けると、血漿タンパク質が変性して粘性が高くなり、それによって、摺動部の摺動抵抗が増大し、血液ポンプとしての動作が不安定になる場合がある。クールシール液CSを循環させることによって、このような不具合の発生を抑制できる。
【0015】
上述したように、クールシール液CSを摺動部の間隙Sに供給することにより、血液成分が摺動部の間隙Sに浸入しにくくなり、さらには、摺動部を潤滑することができるが、この効果をより高めるために、特許文献1に記載の血液ポンプ21においては、回転側摺動部材110の回転摺動面111及び固定側摺動部材210の固定摺動面211のうちの少なくとも一方の摺動面(例えば、固定側摺動部材210の固定摺動面211)に、クールシール液CSを流すための洗浄用水路215が形成されている(図8参照。)。
【0016】
図8は、特許文献1に記載の血液ポンプ21における固定側摺動部材210の固定摺動面211に形成されている洗浄用水路215を説明するために示す図である。特許文献1に記載の血液ポンプ21は、図8に示すように、固定摺動面211に、クールシール液CSを流すための洗浄用水路215が形成されている。これによって、摺動部の間隙Sにクールシール液CSを供給し易くして、血液成分が摺動部の間隙Sに浸入しにくくなり、血液成分が摺動部の間隙Sに侵入したとしても、血液成分の洗浄を促進することができる。
【0017】
このように、特許文献1に記載の血液ポンプ21によれば、固定摺動面211にクールシール液CSを流すための洗浄用水路215が形成されていることから、摺動部の間隙Sにクールシール液CSが十分に供給されるようになる。それによって、血液成分が摺動部の間隙Sに侵入しにくくなり、また、血液成分が摺動部の間隙Sに侵入したとしても、血液成分が排出され易くなる。この結果、摺動部に血漿タンパク質が付着しにくくなり、摺動抵抗が増大することを抑制して、血液ポンプとしての動作の安定性を維持できる。それにより、特許文献1に記載の血液ポンプ21は、高い信頼性を有する血液ポンプとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2014-128516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、特許文献1に記載の血液ポンプ21は、高い信頼性を有する血液ポンプであるが、より高い信頼性を有する血液ポンプが要望されている。すなわち、特許文献1に記載の血液ポンプに限らず、回転側摺動部材110の回転摺動面111と固定側摺動部材210の固定摺動面211とを当接せることによってメカニカルシールとして機能する血液ポンプにおいては、回転摺動面111と固定摺動面211との間の間隙S(摺動部の間隙S)に血漿タンパク質が付着することを完全に防ぐことは難しい。このような血液ポンプにおいては、仮に、摺動部の間隙Sに血液成分が浸入して血漿タンパク質が付着したとしても、血液ポンプとしての動作の安定性を維持できるようにすることが課題である。
【0020】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、摺動部の間隙に血液成分が浸入して摺動部に血漿タンパク質が付着したとしても、血液ポンプとしての動作の安定性を維持することができ、より高い信頼性を有する血液ポンプを提供することを目的とする。また、そのような血液ポンプを用いることによって、より高い信頼性を有する補助人工心臓システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
[1]本発明の血液ポンプは、血液ポンプ室の内部に存在する血液に運動エネルギーを付与して当該血液を前記血液ポンプ室の外部に送出する血液ポンプであって、環状の回転摺動面を有し、回転シャフトに取り付けられていて、当該回転シャフトとともに回転する回転側摺動部材と、環状の固定摺動面を有し、前記回転シャフトに対して非接触で当該回転シャフトの外周を囲むように設けられている固定側摺動部材と、前記回転側摺動部材と前記固定側摺動部材との間に介在され、前記回転側摺動部材の前記回転摺動面に対向する環状の第1遊動摺動面を有するとともに、前記固定側摺動部材の前記固定摺動面に対向する環状の第2遊動摺動面を有し、前記回転シャフトの回転に対して遊動するように前記回転シャフトに環装されている遊動摺動部材と、を備えることを特徴とする。
【0022】
[2]本発明の血液ポンプにおいては、前記回転側摺動部材、前記遊動摺動部材及び前記固定側摺動部材の各内周側にクールシール液を供給するクールシール液循環経路をさらに備え、当該クールシール液は、前記クールシール液循環経路によって、前記回転側摺動部材の回転摺動面と前記遊動摺動部材の第1遊動摺動面との間、及び、前記遊動摺動部材の第2遊動摺動面と前記固定側摺動部材の固定摺動面との間に供給されることが好ましい。
【0023】
[3]本発明の血液ポンプにおいては、前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面は、それぞれが前記遊動摺動部材の外周側の縁部に沿って一周するように形成され、当該第1遊動摺動面の径方向の幅及び前記第2遊動摺動面の径方向の幅は、前記第1遊動摺動面と前記第2遊動摺動面とにおいて同じ幅を有していることが好ましい。
【0024】
[4]本発明の血液ポンプにおいては、前記回転側摺動部材の前記回転摺動面と前記遊動摺動部材の前記第1遊動摺動面とが摺動する際の摺動面の径方向の幅と、前記固定側摺動部材の前記固定摺動面と前記遊動摺動部材の前記第2遊動摺動面とが摺動する際の摺動面の径方向の幅とは、同じ幅であることが好ましい。
【0025】
[5]本発明の血液ポンプにおいては、前記遊動摺動部材には、前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面よりも径方向の内側に、前記第1遊動摺動面及び前記第2遊動摺動面のそれぞれに対して段差部を有して鍔部が形成され、当該鍔部の前記回転シャフトの回転軸に沿った方向の厚みは、前記第1遊動摺動面と前記第2遊動摺動面との間の厚みよりも薄く形成されており、当該鍔部には、当該遊動摺動部材を前記回転シャフトに環装させるための回転シャフト通し孔が形成されているとともに、クールシール液を前記鍔部の一方の面の側と他方の面の側との間で流通可能とするクールシール液流通孔が形成されていることが好ましい。
【0026】
[6]本発明の血液ポンプにおいては、前記回転シャフト通し孔の径をΦ1(mm)とし、前記回転シャフトの外径をΦ2(mm)としたとき、前記回転シャフト通し孔の径Φ1は、(Φ2+0.05mm)≦Φ1≦(Φ2+0.15mm)の範囲に設定されていることが好ましい。
【0027】
[7]本発明の血液ポンプにおいては、前記鍔部に形成されている前記クールシール液流通孔は、前記鍔部の周方向に沿って複数個所に形成されていることが好ましい。
【0028】
[8]本発明の血液ポンプにおいては、前記回転側摺動部材の回転摺動面、前記遊動摺動部材の第1遊動摺動面及び第2遊動摺動面、前記固定側摺動部材の固定摺動面は、それぞれが研磨された平滑面であることが好ましい。
【0029】
[9]本発明の補助人工心臓システムは、前記血液ポンプは、[1]~[8]のいずれかに記載の血液ポンプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の血液ポンプは、回転側摺動部材と固定側摺動部材との間に遊動摺動部材が介在されている。ここでは、回転側摺動部材の回転摺動面及び遊動摺動部材の第1遊動摺動面を「摺動部A」とし、固定側摺動部材の固定摺動面及び遊動摺動部材の第2遊動摺動面を「摺動部B」として説明する。このように、本発明の血液ポンプは、回転側摺動部材と固定側摺動部材との間に遊動摺動部材が介在されていることから、摺動部A及び摺動部Bの2つの摺動部を有することとなり、摺動部A及び摺動部Bのうち、摺動抵抗の小さい摺動部が摺動する。例えば、摺動部Bの粘性が増大して当該摺動部Bの摺動抵抗が摺動部Aの摺動抵抗よりも大きくなった場合には、摺動部Aが摺動可能となり、逆に、摺動部Aの粘性が増大して当該摺動部Aの摺動抵抗が摺動部Bの摺動抵抗よりも大きくなった場合には、摺動部Bが摺動可能となる。これにより、回転部の回転数が大幅に低下したり変動したりするような摺動抵抗の発生を抑制できることから、血液ポンプとしての動作の安定性を維持でき、それによって、より高い信頼性を有するものとなる。
【0031】
このように本発明によれば、摺動部の間隙に血液成分が浸入して摺動部に血漿タンパク質が付着したとしても、血液ポンプとしての動作の安定性を維持することができ、それによって、より高い信頼性を有する血液ポンプを提供できる。また、そのような血液ポンプを用いることによって、より高い信頼性を有する補助人工心臓システムを提供できる。
【0032】
また、本発明によれば、血液ポンプとしての動作の安定性を維持できることから、制御装置が行う制御のうち、回転部の回転を維持させようとする制御、すなわち、回転部の回転を維持させようとして必要以上の高トルクで回転部を回転させるといった制御を抑制できる。これにより、消費電力を抑えることができることから、電源供給源としての電池の消費を抑えることができるといった効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態に係る補助人工心臓システム10を説明するための図である。
図2】実施形態に係る補助人工心臓システム10に用いられている血液ポンプ20を説明するために示す部分断面図である。
図3図2に示す血液ポンプ20の要部を詳細に示す図である。
図4】遊動摺動部材310を血液ポンプ20から取り出して示す図である。
図5】遊動摺動部材310の鍔部314に形成されるクールシール液流通孔316の他の例を説明するために示す図である。
図6】特許文献1に記載の血液ポンプ21の一部を断面として示す図である。
図7図6に示す血液ポンプの要部を詳細に示す図である。
図8】特許文献1に記載の血液ポンプ21における固定側摺動部材210の固定摺動面211に形成されている洗浄用水路215を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の血液ポンプ及び補助人工心臓システムの実施形態について説明する。本発明の血液ポンプについて説明する前に、まずは、図1を参照して実施形態に係る補助人工心臓システムについて説明する。
【0035】
実施形態に係る補助人工心臓システム10は、図1に示すように、体内に埋め込まれる血液ポンプ20と、血液ポンプ20と心臓の血流とを接続するための人工血管30,40と、図示しない制御装置と、を備える。制御装置は、補助人工心臓システム10の使用者の体外で用いるためのものであり、ケーブル50を介して血液ポンプ20と接続されており、駆動部400の制御、クールシール液の循環など種々の制御を行う。
【0036】
続いて、実施形態に係る血液ポンプ20について、主に図2及び図3を参照して説明する。図2は、実施形態に係る補助人工心臓システム10に用いられている血液ポンプ20を説明するために示す部分断面図である。また、図3は、図2に示す血液ポンプ20の要部を詳細に示す図である。なお、図3(a)は血液ポンプ20の要部としての回転部100及び固定部200を拡大して示す断面図であり、図3(b)は図3(a)に示す回転部100及び固定部200の主要部をさらに拡大して模式的に示す断面図である。
【0037】
血液ポンプ20は、図2及び図3に示すように、回転部100と、固定部200と、回転部100を回転駆動するためのモーターを備える駆動部400と、クールシール液循環経路500と、血液ポンプ室600とを備える。血液ポンプ20は、血液ポンプ室600の内部に存在する血液BLに運動エネルギーを付与して当該血液を血液ポンプ室600の外部に送出する血液ポンプであって、具体的には、心臓の左心室の機能を補助する遠心ポンプである。
【0038】
回転部100は、回転側摺動部材110と、インペラ120と、駆動部400の駆動力を受けて回転する回転シャフト130と、回転側摺動部材110とインペラ120との間に介在されているクッションリング140とを有する。なお、血液ポンプ20は、回転シャフト130を動圧軸受で支持する構造となっている。また、回転シャフト130には、マグネットなどにより、中心軸Lo方向に沿って図示の下方向(駆動部400側の方向)への荷重(スラスト荷重)が与えられている。クッションリング140はシリコーンゴムなどからなり、回転シャフト130とともに回転する。
【0039】
回転側摺動部材110は、回転シャフト130に取り付けられていて、当該回転シャフトともに回転し、駆動部400側を向く面に環状の回転摺動面111(図3(b)参照。)を有している。なお、回転側摺動部材110は回転シャフト130に対してピン132によって取り付けられている。すなわち、回転シャフト130には当該回転シャフト130を軸方向に直交して貫通するピン132が設けられており、このピン132の両端が回転側摺動部材110の内周面側に埋設されている。これにより、回転側摺動部材110は回転シャフト130とともに回転する構造となっている。
【0040】
また、回転側摺動部材110の内周面側と回転シャフト130との間にはOリング133が回転側摺動部材110の内周面の周方向に沿って設けられている。このOリング133は回転側摺動部材110の内周面及び回転シャフト130に密着しているため、クールシール液CSが血液ポンプ室600に漏れ出ることを防止できるとともに、血液ポンプ室600内の血液が当該Oリング133よりも図示の下方側(駆動部400側)に侵入することを防止できる。
【0041】
なお、特許文献1に記載の血液ポンプ21を説明する際に用いた図7においては、ピン132及びOリング133は図示が省略されているが、特許文献1に記載の血液ポンプ21においても、同様の構成とすることができる。
【0042】
一方、固定部200は、固定側摺動部材210(いわゆるシートリング)を有している。固定側摺動部材210は、ケーシングに固定された状態で設けられている。そして、固定側摺動部材210は、回転側摺動部材110の回転摺動面111の側を向く面に、環状の固定摺動面211(図3(b)参照。)を有し、回転シャフト130に対して非接触で回転シャフト130の外周を囲むように設けられている。
【0043】
また、回転側摺動部材110と固定側摺動部材210との間には、遊動摺動部材310が介在されている。この遊動摺動部材310は、回転シャフト130の回転に対して遊動するように回転シャフト130に環装されている。そして、遊動摺動部材310は、回転側摺動部材110の回転摺動面111に対向する環状の第1遊動摺動面311(図3(b)参照。)を有するとともに、固定側摺動部材210の固定摺動面211に対向する環状の第2遊動摺動面312(図3(b)参照。)を有している。この遊動摺動部材310の詳細な構成については図4を参照して後述する。
【0044】
ここで、図3(a)及び図3(b)においては、回転摺動面111と第1遊動摺動面311との間の間隙S1、及び、固定摺動面211と第2遊動摺動面312との間の間隙S2は、それぞれ誇張して図示しているが、実際には、図3(a)に示すように、ほぼ接触(当接)している。また、間隙S1,S2は同じであり、ともに1μm以下である。このように、回転摺動面111と第1遊動摺動面311との間にはわずかな間隙S1が存在するとともに、固定摺動面211と第2遊動摺動面312との間にもわずかな間隙S2が存在するが、以下の説明においては、それぞれの摺動面の関係を説明する際には、「接触」又は「当接」というように表記する場合もある。
【0045】
そして、回転側摺動部材110、遊動摺動部材310及び固定側摺動部材210は、それぞれの外周側が、血液ポンプ室600の内部に存在する血液BLに晒されるように配置されている。ここで、回転側摺動部材110、遊動摺動部材310及び固定側摺動部材210はそれぞれが同一径(外径)を有しており、回転側摺動部材110、遊動摺動部材310及び固定側摺動部材210の各外周面は凹凸がなく同一面となっている。また、回転側摺動部材110及び固定側摺動部材210は、実施形態に係る血液ポンプ20においては炭化珪素(SiC)からなり、遊動摺動部材310は炭素(C)からなる。なお、回転側摺動部材110の回転摺動面111、遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312、固定側摺動部材210の固定摺動面211は、それぞれが研磨された平滑面となっている。
【0046】
続いて、クールシール液循環経路500について説明する。クールシール液循環経路500は、血液ポンプ20内部の潤滑、冷却、シール性の維持等の機能を果たすクールシール液CS(例えば、注射用水)を循環させるものであり、回転側摺動部材110の回転摺動面111と遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311との間、及び、遊動摺動部材310の第2遊動摺動面312と固定側摺動部材210の固定摺動面211との間にクールシール液を供給するように配設されている。
【0047】
ここでは、回転側摺動部材110の回転摺動面111及び遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311を「摺動部A」と表記し、固定側摺動部材210の固定摺動面211及び遊動摺動部材310の第2遊動摺動面312を「摺動部B」と表記する場合もある。また、回転摺動面111と第1遊動摺動面311との間の間隙S1を「摺動部Aの間隙S1」と表記し、固定摺動面211と第2遊動摺動面312との間の間隙S2を「摺動部Bの間隙S2」と表記する場合もある。
【0048】
クールシール液CSは、クールシール液入口511(図2参照。)から流入し、回転シャフト130の中空部131を通って、回転シャフト130に設けられているクールシール液排出孔135から回転シャフト130の外部に出て、摺動部Aの間隙S1及び摺動部Bの間隙S2に供給される。摺動部Aの間隙S1及び摺動部Bの間隙S2に供給されたクールシール液CSの一部は血液BL中に流出する。
【0049】
一方、血液BL中に流出しなかったクールシール液は、回転シャフト130の外周面と固定部200との間に存在する空間213(図3(b)参照。)を通って、クールシール液出口512から制御装置(図示せず。)へと送られ、再び、クールシール液入口511から血液ポンプ内に流入する。クールシール液CSは、クールシール液循環経路500をこのような経路で循環する。
【0050】
クールシール液CSがこのような経路で循環することにより、摺動部Aの間隙S1及び摺動部Bの間隙S2に血液成分が浸入することを抑制する機能を有するとともに、摺動部A及び摺動部Bを潤滑する機能を有する。
【0051】
続いて、遊動摺動部材310について図4を参照して詳細に説明する。
図4は、遊動摺動部材310を血液ポンプ20から取り出して示す図である。図4(a)は遊動摺動部材310を第1遊動摺動面311側から見た平面図であり、図4(b)は図4(a)のa-a’矢視断面図であり、図4(c)は図4(a)のb-b’矢視断面図である。
【0052】
遊動摺動部材310は、図4に示すように、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312が遊動摺動部材310の一方の面及び他方の面の外周側の縁部に沿って一周するように帯状に形成されている。具体的には、第1遊動摺動面311は、遊動摺動部材310の一方の面(回転側摺動部材110の側を向く面)に、当該回転側摺動部材110の回転摺動面111に対向するように形成され、第2遊動摺動面312は、遊動摺動部材310の他方の面(固定側摺動部材210の側を向く面)に、当該固定側摺動部材210の固定摺動面211に対向するように形成されている。ここで、当該第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312のそれぞれの径方向の幅Wは、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312において同じ幅を有している。なお、第1遊動摺動面311の幅W及び第2遊動摺動面312の幅Wは一周に渡って同じ幅となっている。
【0053】
遊動摺動部材310がこのような構成となっていることから、固定側摺動部材210の固定摺動面211の径方向の幅は、遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312の幅Wと同じ幅Wとなっている(図3(b)参照。)。また、当該固定摺動面211の径方向の幅Wは、第1遊動摺動面311の幅W及び第2遊動摺動面312と同様、一周に渡って同じ幅となっている。
【0054】
一方、回転側摺動部材110においては、当該回転側摺動部材110の図示下面(遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311側を向く面)は、外周面側の縁部から回転シャフト130までの間が平坦面となっているため、回転摺動面111と第1遊動摺動面311とが摺動する際には、回転摺動面111は第1遊動摺動面311の幅Wに対応した摺動面で摺動する。
【0055】
このため、回転側摺動部材110の回転摺動面111と遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311とが摺動する際の摺動面の径方向の幅と、固定側摺動部材210の固定摺動面211と遊動摺動部材310の第2遊動摺動面312とが摺動する際の摺動面の径方向の幅とは、ともに同じ幅Wとなる。これにより、回転摺動面111と第1遊動摺動面311とが摺動する際の摺動動作と、固定摺動面211と第2遊動摺動面312とが摺動する際の摺動動作とは、殆ど同じ摺動動作となる。
【0056】
ところで、遊動摺動部材310には、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312よりも径方向の内側に、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312のそれぞれに対して段差部317を有して鍔部314が形成されている。そして、当該鍔部314の回転シャフト130の中心軸Loに沿った方向の厚みt1は、第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312との間の厚みt2よりも薄く形成されている。
【0057】
また、鍔部314には、遊動摺動部材310を回転シャフト130に環装させるための回転シャフト通し孔315が形成されているとともに、クールシール液CSを鍔部314の一方の面(第1遊動摺動面311)の側と他方の面(第2遊動摺動面312)の側との間で流通させるためのクールシール液流通孔316が等間隔に複数個所形成されている。なお、図4においては、クールシール液流通孔316は4箇所形成されている場合が例示されている。
【0058】
遊動摺動部材310は、回転シャフト130に対して「遊び」を有した状態で取り付けられている。ここで、回転シャフト通し孔315の径(Φ1とする。)は、回転シャフト130の外径(Φ2とする。)よりもわずかに大きい径を有している。具体的には、回転シャフト130の外径Φ2を5.0mmとした場合には、回転シャフト通し孔315の径Φ1は、実施形態に係る血液ポンプ20においては、5.1mmとしている。
【0059】
このように、回転シャフト通し孔315の径Φ1と回転シャフト130の外径Φ2との差を0.1mmに抑えることにより、遊動摺動部材310の中心軸L1を回転シャフト130の中心軸Loにほぼ一致させることができる。それによって、遊動摺動部材310が回転する際には、遊動摺動部材310の中心軸L1が回転シャフト130の中心軸Loにほぼ一致した状態で遊動摺動部材310を回転させることができる。
【0060】
なお、ここでは、回転シャフト通し孔315の径Φ1は5.1mmとしたが、わずかな差は許容される。この場合、回転シャフト通し孔315の径Φ1は、(Φ2+0.05mm)≦Φ1≦(Φ2+0.15mm)の範囲に設定されていることが好ましい。回転シャフト通し孔315の径Φ1をこのような範囲に設定することにより、遊動摺動部材310は回転シャフト130に対して遊動可能となり、かつ、遊動摺動部材310が回転する際には、回転側摺動部材110及び固定側摺動部材210との間の摺動動作に影響が出るほどの偏心は生じないものとなる。
【0061】
また、鍔部314に形成されているクールシール液流通孔316は、回転シャフト130の中空部131を通って回転シャフト130のクールシール液排出孔135から排出されたクールシール液を鍔部314の一方の面と他方の面との間で流通させるためのものである。
【0062】
なお、クールシール液流通孔316は、図4においては、4箇所形成されている場合が示されているが、クールシール液CSを鍔部314の一方の面と他方の面との間で円滑に流通できれば、クールシール液流通孔316の数は適宜設定することができる。また、図4においては、クールシール液流通孔316は、回転シャフト通し孔315に繋がっていて、回転シャフト通し孔315に繋がる部分が開口となっている形状のものが例示されているが、このような形状ではなく、閉ループを描く単なる貫通孔であってもよい。これについては後述する。
【0063】
また、クールシール液流通孔316の平面形状は、図4においては、円弧を描くような形状とした場合が示されているが、クールシール液CSを鍔部314の一方の面と他方の面との間で円滑に流通できれば、クールシール液流通孔316の平面形状は特に限定されるものではない。
【0064】
ところで、鍔部314は、前述したように、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312に対して段差部317を有して形成されている。そして、鍔部314の厚みt1は、第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312との間の厚みt2よりも薄く形成されている。
【0065】
このように、鍔部314が、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312に対して段差部317を有して形成されている理由は、第1遊動摺動面311及び第2遊動摺動面312の幅Wを設定するためである。すなわち、遊動摺動部材310の一方の面及び他方の面において、それぞれの外周縁部から径方向中心(遊動摺動部材310の中心軸L1)に向かって幅Wの位置に段差部317を有して鍔部314を形成することにより、同じ幅Wを有する第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312が周方向に沿って帯状に形成されることとなる。
【0066】
また、鍔部314の厚みt1が、第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312との間の厚みt2よりも薄く形成されている他の理由は、遊動摺動部材310と回転側摺動部材110との間、及び、遊動摺動部材310と固定側摺動部材210との間にクールシール液CSを溜めることができる空間(クールシール液溜り)を形成するためである。このような空間(クールシール液溜り)を形成することによって、クールシール液CSが摺動部Aの間隙S1(回転摺動面111と第1遊動摺動面311との間の間隙S1)、及び、摺動部Bの間隙S2(固定摺動面211と第2遊動摺動面312との間の間隙S2)に円滑に流通できるようになる。
【0067】
ここで、実施形態に係る血液ポンプ20における回転側摺動部材110の厚みt3(図3(b)参照。)と、遊動摺動部材310の厚みt2(第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312との間の厚みt2)とを足した厚み(t3+t2)は、従来の血液ポンプの回転側摺動部材(例えば、特許文献1に記載の血液ポンプ21における回転側摺動部材110)の厚みt5(図7(b)参照。)とほぼ同等に抑えることが可能である。さらに、クッションリング140の厚みt6を、クッションリングとしての機能を損なわない範囲で薄くすることも可能である。
【0068】
このようにすることにより、回転側摺動部材110と固定側摺動部材210との間に遊動摺動部材310を介在させたとしても、血液ポンプ20の全体のサイズに影響を及ぼすことはない。従って、血液ポンプ20のインペラ120、血液ポンプ室600の容量、駆動部400、回転シャフト130、ケーシングなどの変更は発生しない。なお、図3における回転側摺動部材110の厚みt3、遊動摺動部材130の厚みt2及びクッションリング140の厚みt6は、これら回転側摺動部材110、遊動摺動部材130及びクッションリング140の実際の厚みの比率で描かれているものではなく、例えば、クッションリング140は回転側摺動部材110及び遊動摺動部材130に比べて、厚みを薄いものとすることができる。
【0069】
次に、このように構成されている血液ポンプ20の動作について説明する。前述したように、回転側摺動部材110の回転摺動面111及び遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311を「摺動部A」(図3(b)参照。)とし、固定側摺動部材210の固定摺動面211及び遊動摺動部材310の第2遊動摺動面312を「摺動部B」(図3(b)参照。)として説明する。
【0070】
駆動部400の回転によって回転シャフト130が回転すると、回転部100を構成する回転側摺動部材110、クッションリング140及びインペラ120が回転する。このとき、摺動部A及び摺動部Bに血漿タンパク質が付着していない状態においては、回転部100は正常に回転し続ける。
【0071】
ここで、血漿タンパク質が、例えば、摺動部Bに付着した状態となり、この状態で回転部100が回転し続けると(回転側摺動部材110が回転し続けると)、摺動部Bの摺動抵抗(Rbとする。)が増大して行く。そして、当該摺動部Bの摺動抵抗Rbと摺動部Aの摺動抵抗(Raとする。)との関係が、Rb>Raとなると、摺動部Bは摺動せずに摺動部Aが摺動する。すなわち、遊動摺動部材310は固定側摺動部材210に固定されているのとほぼ同様の状態となり、回転側摺動部材110は、回転摺動面111が遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311上を摺動しながら回転し続ける。
【0072】
そして、摺動部Aが摺動し続けると、今度は、摺動部Aに侵入した血漿タンパク質の粘性が増大して行き、摺動部Aの摺動抵抗Raが増大して行く。このとき、摺動部Bは摺動していない状態、すなわち、遊動摺動部材310は固定側摺動部材210に固定されているのとほぼ同様の状態となっているため、摺動部Bは粘性の増大が治まり、さらに、クールシール液の作用なども加わることにより、摺動部Bの粘性は減少して行く。これにより、摺動部Bの摺動抵抗Rbは小さくなって行く。
【0073】
一方、摺動部Aが摺動し続けることによって摺動部Aの摺動抵抗Raが増大し、摺動部Aの摺動抵抗Raと摺動部Bの摺動抵抗Rbとの関係が、Ra>Rbとなると、今度は、摺動部Aは摺動せずに摺動部Bが摺動する。すなわち、遊動摺動部材310は、回転側摺動部材110に固定されているのとほぼ同様の状態となり、遊動摺動部材310は回転側摺動部材110の回転とともに回転し、第2遊動摺動面312が固定側摺動部材210の固定摺動面211上を摺動する。
【0074】
そして、摺動部Bが摺動し続けると、今度は、摺動部Bに侵入した血漿タンパク質の粘性が増大して行き、摺動部Bの摺動抵抗Rbが増大して行く。このとき、摺動部Aは摺動していない状態、すなわち、遊動摺動部材310は回転側摺動部材110に固定されているのとほぼ同様の状態となっているため、摺動部Aの粘性は増大が治まり、さらに、クールシール液の作用なども加わることにより、摺動部Aの粘性は減少して行く。これにより、摺動部Aの摺動抵抗Raは小さくなって行く。
【0075】
一方、摺動部Bが摺動し続けることによって摺動部Bの摺動抵抗Rbが増大し、摺動部Bの摺動抵抗Rbと摺動部Aの摺動抵抗Raとの関係が、Rb>Raとなると、今度は、摺動部Bは摺動せずに摺動部Aが摺動する。すなわち、遊動摺動部材310は、固定側摺動部材210に固定されているのとほぼ同様の状態となり、回転側摺動部材110は、回転摺動面111が遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311上を摺動しながら回転し続ける。
【0076】
以上のような動作が繰り返し行われる。このように、実施形態に係る血液ポンプ20は、回転側摺動部材110と固定側摺動部材210との間に遊動摺動部材310が介在されているため、2つの摺動部(摺動部A及び摺動部B)が形成され、摺動部A及び摺動部Bのうち、摺動抵抗の小さい摺動部が摺動することとなる。
【0077】
このため、回転部100の回転数が大幅に低下したり変動したりすることがなく、安定した回転を維持できる。例えば、摺動部Bの粘性が増大して摺動抵抗が大きくなったとしても、摺動部Aが摺動可能となり、逆に、摺動部Aの粘性が増大して摺動抵抗が大きくなったとしても、摺動部Bが摺動可能となるため、回転部100は安定した回転を維持できる。
【0078】
以上説明したように、実施形態に係る血液ポンプ20においては、摺動部A及び摺動部Bのうち、摺動抵抗の小さい摺動部が摺動するため、回転部100の回転数が大幅に低下したり変動したりするような摺動抵抗の発生を抑制できる。これにより、血液ポンプ20としての動作の安定性を維持でき、従来の血液ポンプに比べて、より高い信頼性を有するものとなる。
【0079】
また、実施形態に係る血液ポンプ20においては、回転部の回転数が大幅に低下したり変動したりするような摺動抵抗の発生を抑制できることから、制御装置が行う制御のうち、回転部100の回転を維持させようとする制御、すなわち、回転部100の回転を維持させようとして必要以上の高トルクで回転部100を回転させるといった制御を抑制できる。このため、消費電力を抑えることができるといった効果も得られる。なお、消費電力を抑えることができることにより、制御装置に備えられている電力供給源としての電池の長寿命化を図ることができる。
【0080】
また、実施形態に係る補助人工心臓システム10は、血液ポンプとして、実施形態に係る血液ポンプ20を用いることにより、当該補助人工心臓システム10は、従来の補助人工心臓システムに比べて、より高い信頼性を有するとともに省電力化を図ることができるものとなる。
【0081】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。たとえば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0082】
(1)上記実施形態においては、遊動摺動部材310の鍔部314に形成されているクールシール液流通孔316は、図4に示したように、回転シャフト通し孔315に繋がっており、回転シャフト通し孔315に繋がる部分が開口となっている形状としたが、このような形状ではなく、閉ループを描く単なる貫通孔であってもよい。
【0083】
図5は、遊動摺動部材310の鍔部314に形成されるクールシール液流通孔316の他の例を説明するために示す図である。図5図4(a)と同様に、遊動摺動部材310を第1遊動摺動面311側から見た平面図である。クールシール液流通孔316は、図5に示すように、閉ループを描くような単なる貫通孔として形成されている。
【0084】
なお、図5においては、クールシール液流通孔316としての貫通孔は円形とした場合が例示されているが円形であることに限られるものではなく、楕円形、多角形など種々の形状とすることができる。また、図5においては、クールシール液流通孔316としての貫通孔は、等間隔に8箇所形成されている場合が示されているが、8個であることに限られるものではなく、クールシール液を鍔部314の一方の面と他方の面とで円滑に流通可能であれば、貫通孔の数は適宜設定可能である。
【0085】
(2)上記実施形態においては、回転側摺動部材110の図示下面(遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311側を向く面)は、外周面側の縁部から回転シャフト130までの間が平坦面となっている場合を例示したが、遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311に対向するような帯状凸部(図示せず。)を一周に渡って形成するようにしてもよい。この場合の帯状凸部の径方向の幅は、遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311の幅Wと同じ幅とする。回転側摺動部材110をこのような構成としても上記実施形態と同様の動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0086】
10・・・補助人工心臓システム、20・・・血液ポンプ、100・・・回転部、110・・・回転側摺動部材、111・・・回転摺動面、130・・・回転シャフト、131・・・回転シャフト130の中空部、132・・・ピン、133・・・Oリング、135・・・回転シャフト130のクールシール液排出孔、200・・・固定部、210・・・固定側摺動部材、211・・・固定摺動面、213・・・固定部200と回転シャフト130の外周面との間に存在する空間、310・・・遊動摺動部材、311・・・第1遊動摺動面、312・・・第2遊動摺動面、314・・・鍔部、315・・・回転シャフト通し孔、316・・・クールシール液流通孔、317・・・段差部、400・・・駆動部、500・・・クールシール液循環経路、511・・・クールシール液入口、512・・・クールシール液出口、A・・・摺動部(回転側摺動部材110の回転摺動面111及び遊動摺動部材310の第1遊動摺動面311)、B・・・摺動部(固定側摺動部材210の固定摺動面211及び遊動摺動部材310の第2遊動摺動面312)、Lo・・・回転シャフト130の中心軸、L1・・・遊動摺動部材310の中心軸、S1・・・回転摺動面111と第1遊動摺動面311との間の間隙(摺動部Aの間隙)、S2・・・固定摺動面211と第2遊動摺動面312との間の間隙(摺動部Bの間隙)、t1・・・遊動摺動部材310の鍔部314の厚み、t2・・・遊動摺動部材310の厚み(第1遊動摺動面311と第2遊動摺動面312との間の厚み)、t3,t5・・・回転側摺動部材110の厚み、Φ1・・・回転シャフト通し孔315の径、Φ2・・・回転シャフト130の外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8