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特開2023-9541雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009541
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   E03F 1/00 20060101AFI20230113BHJP
   E03F 5/22 20060101ALI20230113BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
E03F5/22
G01W1/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112918
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】和田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】時本 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063AA01
2D063DC06
(57)【要約】

【課題】 精度よく雨水流入量予測を行う雨水流入量予測装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による雨水流入量予測装置は、複数の地点における幹線流速と幹線流量とを算出し、複数の地点における幹線流速と、複数の地点からポンプ井14までの幹線延長とから、複数の地点からポンプ井14までの流下時間を算出し、複数の水位計およびポンプ井に設置された流入渠水位計のいずれかで測定された水位を用いて、ポンプ井14に流入する雨水流入量を算出し、幹線流量と幹線流量に対応した流下時間とを関連付けて記録するとともに、雨水流入量と幹線流量とから、幹線流量に対応する実測流下時間を算出し、幹線流量に対応する実測流下時間を用いて流下時間を補正し、幹線流量と、補正後の流下時間と、ポンプ井14に設置された雨水ポンプ制御に必要な予測時間と、を用いて、雨水流入量の予測値を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹線の複数の地点に設置された複数の水位計の各々で測定された水位を用いて、前記地点における幹線流速と幹線流量とを算出する幹線流速幹線流量算出部と、
複数の前記地点における前記幹線流速と、複数の前記地点からポンプ井までの幹線延長とから、複数の前記地点から前記ポンプ井までの流下時間を算出する流下時間算出部と、
複数の前記水位計および前記ポンプ井に設置された流入渠水位計のいずれかで測定された水位を用いて、前記ポンプ井に流入する雨水流入量を算出する雨水流入量算出部と、
前記幹線流量と前記幹線流量に対応した前記流下時間とを関連付けて記録するとともに、前記雨水流入量と前記幹線流量とから、前記幹線流量に対応する実測流下時間を算出し、前記幹線流量に対応する前記実測流下時間を用いて前記流下時間を補正する流下時間補正部と、
前記幹線流量と、補正後の前記流下時間と、前記ポンプ井に設置された雨水ポンプ制御に必要な予測時間と、を用いて、前記雨水流入量の予測値を算出する雨水流入量予測値決定部と、を備えた雨水流入量予測装置。
【請求項2】
前記流下時間補正部は、前記雨水流入量が極大値となる時刻と、前記幹線流量が極大値となる時刻との差を前記実測流下時間として算出する、請求項1記載の雨水流入量予測装置。
【請求項3】
前記流下時間補正部は、前記雨水流入量と前記幹線流量との極大値を判定するための条件を設定可能である、請求項2記載の雨水流入量予測装置。
【請求項4】
前記流下時間補正部は、前記流下時間と前記実測流下時間との平均値、又は、前記流下時間と前記実測流下時間のそれぞれに重み付をした値の和を、補正後の前記流下時間とする、請求項1記載の雨水流入量予測装置。
【請求項5】
前記雨水流入量と前記幹線流量とから前記実測流下時間を算出し、前記幹線流量と前記実測流下時間とを関連付けた、所定の蓄積期間分の分布データを生成する流下時間分布生成部を有し、
前記流下時間補正部は、前記分布データを用いて前記流下時間の分布を補正し、補正後の前記流下時間の分布を用いて補正後の前記流下時間を算出する、請求項1記載の雨水流入量予測装置。
【請求項6】
前記流下時間補正部は、外部から入力された補正方策に従って、補正後の前記流下時間の分布から補正後の前記流下時間を算出し、
前記補正方策は、前記ポンプ井の水位状態に対応させた分布の平均値、分散等の統計パラメータを用いて決定される、請求項5記載の雨水流入量予測装置。
【請求項7】
幹線の複数の地点に設置された複数の水位計の各々で測定された水位を用いて、前記地点における幹線流速と幹線流量とを算出し、
複数の前記地点における前記幹線流速と、複数の前記地点からポンプ井までの幹線延長とから、複数の前記地点から前記ポンプ井までの流下時間を算出し、
複数の前記水位計および前記ポンプ井に設置された流入渠水位計のいずれかで測定された水位を用いて、前記ポンプ井に流入する雨水流入量を算出し、
前記幹線流量と前記幹線流量に対応した前記流下時間とを関連付けて記録するとともに、前記雨水流入量と前記幹線流量とから、前記幹線流量に対応する実測流下時間を算出し、前記幹線流量に対応する前記実測流下時間を用いて前記流下時間を補正し、
前記幹線流量と、補正後の前記流下時間と、前記ポンプ井に設置された雨水ポンプ制御に必要な予測時間と、を用いて、前記雨水流入量の予測値を算出する、雨水流入量予測方法。
【請求項8】
コンピュータに、請求項7に記載の雨水流入量予測方法を実行させる、コンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨や局所的な大雨(いわゆるゲリラ豪雨)が増加しており、浸水被害を回避するための対策が求められている。この状況に対して国土交通省は、浸水対策施設の整備等のハード対策に加えて、雨量情報等の観測データの活用といったソフト対策による浸水対策事業を推進中である。このような背景のもと、ソフト対策として主に浸水リスクの低減を目的とした雨水ポンプ所への雨水流入量予測に基づく雨水ポンプダイナミック制御技術が開発されている。雨水ポンプダイナミック制御技術は、雨水ポンプ所へ流入される雨水流入量を予測し、雨水流入量予測値に応じて、雨水排水ポンプの起動水位と停止水位とを変化させる。起動水位と停止水位とを変化させることで雨水排水ポンプの起動と停止とを効率的に行い、浸水リスクや雨水排水ポンプの起動停止回数の低減を目指している。
【0003】
例えば急激な雨水の雨水ポンプ所への流入がある場合に、雨水ポンプ井の水位が起動水位に到達するまで雨水排水ポンプが起動しないため、浸水リスクが高まる可能性があった。また、例えば雨水ポンプ井の水位が低下してきたものの雨水ポンプ井への新たな雨水の流入があるため駆動中の雨水排水ポンプを停止させたくない場合に、雨水ポンプ井の水位が停止水位を下回ってしまい雨水排水ポンプが停止してしまう可能性があった。
【0004】
雨水ポンプダイナミック制御の効果を十分に発揮させるために、雨水流入量予測値を高い精度で算出することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-95711号公報(特願2019-226417)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、各地点での幹線水位から、マニング式を基に、幹線流速、幹線流量、さらに各地点からポンプ場までの流下時間を求めて、雨水ポンプダイナミック制御に必要な予測時間と同じ流下時間となる地点の幹線流量を雨水流入量予測値としている。しかし、流下時間は、幹線やポンプ場の設計情報を基に算出されるため、実測値と異なる可能性があった。また、流下時間は、管渠内の流量に応じて変化するため、設計情報に基づいて雨水流入量予測値を精度よく算出することが難しかった。
【0007】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、精度よく雨水流入量予測を行う雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による雨水流入量予測装置は、幹線の複数の地点に設置された複数の水位計の各々で測定された水位を用いて、前記地点における幹線流速と幹線流量とを算出する幹線流速幹線流量算出部と、複数の前記地点における前記幹線流速と、複数の前記地点からポンプ井までの幹線延長とから、複数の前記地点から前記ポンプ井までの流下時間を算出する流下時間算出部と、複数の前記水位計および前記ポンプ井に設置された流入渠水位計のいずれかで測定された水位を用いて、前記ポンプ井に流入する雨水流入量を算出する雨水流入量算出部と、前記幹線流量と前記幹線流量に対応した前記流下時間とを関連付けて記録するとともに、前記雨水流入量と前記幹線流量とから、前記幹線流量に対応する実測流下時間を算出し、前記幹線流量に対応する前記実測流下時間を用いて前記流下時間を補正する流下時間補正部と、前記幹線流量と、補正後の前記流下時間と、前記ポンプ井に設置された雨水ポンプ制御に必要な予測時間と、を用いて、前記雨水流入量の予測値を算出する雨水流入量予測値決定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態の雨水流入量予測装置を設置した雨水ポンプ所システムの構成を概略的に示す図である。
図2図2は、第1実施形態の雨水流入量予測装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図3図3は、マニング式で用いる変数を説明するための図である。
図4図4は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部が備えるテーブルの一例を概略的に示す図である。
図5図5は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部が備える時系列データの一例を概略的に示す図である。
図6図6は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部の動作の一例を説明するための図である。
図7図7は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部による流下時間の補正の一例について説明するための図である。
図8図8は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図9図9は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間分布生成部で生成した流下時間分布データセットの一例を説明するための図である。
図10図10は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部の動作の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムについて、図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態の雨水流入量予測装置を設置した雨水ポンプ所システムの構成を概略的に示す図である。
雨水ポンプ所システムは、幹線(例えば下水管)10に設けられた水位計G0~GNと、流入渠12と、ポンプ井14と、雨水流入量予測装置100と、を備える。
【0011】
幹線10は、流入渠12およびポンプ井14へとつながる下水管渠である。降雨に伴って雨水を含む下水は幹線10を通ってポンプ井14へと流入する。
水位計G0~GNは、幹線10の流下方向に沿って複数設置されており、幹線10の雨水の水位を取得する。本実施形態において、「雨水」は、雨水を含む下水という意味でも用いられる。
流入渠12は、幹線10からポンプ井14へとつながる排水管であり、幹線10からの雨水は流入渠12を通過してポンプ井14へと流入する。
【0012】
ポンプ井14は、雨水ポンプ所の最も下流側に設置されており、流入渠12から流入した雨水を貯留する。ポンプ井14では、図示しない複数の雨水排水ポンプによって雨水が揚水され、河川へ排出される。
【0013】
複数の雨水排水ポンプは、雨水ポンプ制御システム(図示せず)により起動と停止との制御が成される。複数の雨水排水ポンプは、例えば、ポンプ井14から河川へ雨水を排出する際に最初に起動するポンプと、流入する(又は流入が予測される)流量に応じて選択的に起動されるポンプとを含む。
【0014】
雨水流入量予測装置100は、雨水ポンプ制御システムに含まれ得る。雨水流入量予測装置100は、水位計G0~GNからの水位の信号を取得し、取得した信号に基づき、流入する雨水の量の予測値を演算して出力する。なお、雨水流入量予測装置100は、雨水ポンプ制御システムの操作者もしくは管理者が、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の操作手段を操作したこと基づく操作信号を取得し、操作信号に応じた処理を行うことも可能である。
【0015】
幹線水位計G1~Gnは、幹線10の複数の地点に設置され、設置された地点の幹線水位をそれぞれ測定する。
流入渠水位計G0は、流入渠12に設置され、設置された地点の水位を測定する。なお、流入渠12に水位計G0が設置されていない場合には、流入渠12に最も近い幹線水位計を水位計G0の代わりに用いてもよい。この場合、最も近い幹線水位計からポンプ井14までの流下時間は、例えば、後述する流下時間(初期値)を使用する。さらには、流入渠水位計G0は、ポンプ井14への雨水流入量を算出するためのセンサであればよく、上記以外の構成であっても構わない。
【0016】
図2は、第1実施形態の雨水流入量予測装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の雨水流入量予測装置100は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備え、ソフトウエアにより種々の機能を実現するように構成されてもよく、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより種々の機能を実現するように構成されてもよい。また、雨水流入量予測装置100において実行されるプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録されて提供され得る。
【0017】
なお、雨水流入量予測装置100の少なくとも一部の機能若しくは全ての機能は、幹線10、流入渠12、ポンプ井14などの設備に設けられてもよく、遠隔に設けられてもよい。雨水流入量予測装置100がポンプ井14等の遠隔に設けられる場合には、雨水流入量予測装置100は、例えば、ネットワークを介してセンサから得られる情報や操作者若しくは管理者の入力情報に基づいて雨水流入量予測値を演算してもよい。この場合、雨水流入量予測装置100で演算された雨水流入量予測値は、例えば、ネットワークを介して雨水ポンプ制御システムに供給され、ポンプ制御のために用いられる。
【0018】
本実施形態の雨水流入量予測装置100は、幹線流速幹線流量算出部101と、流下時間算出部102と、雨水流入量算出部103と、流下時間補正部104と、雨水流入量予測値決定部105と、を備える。
【0019】
幹線流速幹線流量算出部101は、幹線水位計G1~Gnで測定された幹線水位h1~hnを入力とし、下記式(1)のマニング式より、幹線水位計G1~Gnが設置された地点の幹線流速V1~Vnを算出する。
下記式(1)において、Vは流速(m/sec)、nは粗度係数(sec/m1/3)、Rは径深(m)、Iはエネルギー勾配(-)≒物理勾配(-)である。
V=1/n × R2/3 × I1/2 …(1)
【0020】
図3は、マニング式で用いる変数を説明するための図である。
Aは流積(m)、Sは潤辺(m)である。またhは水位計で測定した水位である。
図3に示すように、幹線10の形状により、水位h1~hnに基づいて流積A(m)及び潤辺S(m)を導出可能となる。
径深、流積及び潤辺の関係を示す式を、式(2)に示す。
R=A/S …(2)
上記に示す式(1)、式(2)より、幹線流速幹線流量算出部101は、水位h1~hnから幹線水位計G1~GNが設置された地点における雨水の流速V1~Vnを演算する。
【0021】
幹線流速幹線流量算出部101は、雨水の流速V1~Vnと取得された水位h1~hnとに基づいて、幹線水位計G1~Gnが設置された地点おける幹線流量Q1~Qnをそれぞれ出力する手段である。式(1)により算出された幹線水位計G1~Gnが設置された地点の流速V1~Vnと、幹線水位計G1~Gnが設置された地点の流積A1~Anとから、後述する式(3)を用いて幹線流量Q1~Qnを算出する。
Q=V×A …(3)
【0022】
流下時間算出部102は、幹線流速幹線流量算出部101で算出された幹線流速V1~Vnと、幹線延長L1~Lnとを入力とし、幹線水位計G1~Gnが設置された地点からポンプ井14までの流下時間t1~tnを、下記式(4)により算出する。流下時間算出部102は、算出した流下時間t1~tnを流下時間補正部104に出力する。
t=L/V …(4)
t:流下時間(sec) L:幹線延長(m)
【0023】
雨水流入量算出部103は、流入渠水位計G0で測定された水位h0を入力とし、幹線流速幹線流量算出部101と同様に、ポンプ井14に流入する雨水流入量Q0を算出する。また、ポンプ動作により流入渠12の雨水流入量が大きく変化する場合には、雨水流入量算出部103は、ポンプ動作のログを合わせて使用することにより雨水流入量Q0を算出しても良い。なお、流入渠水位計G0が設置されていない場合には、ポンプ井14に最も近い地点での幹線流量を代用して雨水流入量Q0を算出してもよい。また、ポンプ井14に設置されたポンプの吐出量の情報を取得可能である場合には、雨水流入量算出部103は、ポンプの動作ログと合わせて、実質的な流入量を算出してもよい。
雨水流入量Q0は、雨水流入量予測装置100に外部から入力されてもよく、この場合には、雨水流入量予測装置100の雨水流入量算出部103を省略することができる。
【0024】
流下時間補正部104は、流下時間算出部102で算出した流下時間t1~tnと、幹線流速幹線流量算出部101で算出した幹線流量Q1~Qnと、雨水流入量算出部103で算出した雨水流入量Q0とを入力とする。流下時間補正部104は、各地点での幹線流量Q1~Qnと雨水流入量Q0との時間変化から、各地点からポンプ井14までの実際の流下時間(実測流下時間)tr1~trnを算出し、実測流下時間tr1~trnを用いて流下時間t1~tnを補正し、補正後の流下時間t1~tnを雨水流入量予測値決定部105に出力する。
【0025】
雨水流入量予測値決定部105は、流下時間補正部104で算出された補正後の流下時間t1~tnと、雨水ポンプ制御に必要な予測時間とを比較して、予測時間と同等の流下時間となる幹線水位計k(1≦k≦n)が設置された地点の幹線流量Qkを、ポンプ井14へ流入する雨水流入量の予測値として採用し、雨水流入量予測値を決定する。
【0026】
なお、雨水ポンプ制御に必要な予測時間は、例えば、ポンプ井14の雨水排水ポンプ(図示せず)の起動時間である。予め操作者もしくは管理者は、操作部から予測時間(起動時間)を雨水流入量予測装置100へ入力することができる。雨水流入量予測装置100に入力された予測時間は、例えば図示しない記憶部に記録され得、記憶部に入力された起動時間を含む情報を、雨水流入量予測値決定部105が取得する。本実施形態では、ポンプ井14には複数の雨水排水ポンプが設置され、例えば、複数の雨水排水ポンプの起動時間はすべて同じであるとする。本実施形態の「予測時間」とは、例えば、雨水排水ポンプが動作を開始させてから定常動作状態になるまでの時間である。また、雨水排水ポンプの起動時間に制御周期を足し合わせた時間を、予測時間としてもよい。
【0027】
なお、雨水流入量予測値決定部105は、幹線水位計G1~Gnが設置された地点の幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとのデータセットから、機械学習等により雨水流入量予測モデルを作成し、雨水流入量予測モデルを用いて得られた値を雨水流入量予測値としても良い。
【0028】
次に、本実施形態の雨水流入量予測装置100の動作の一例について説明する。
幹線水位計G1~Gnおよび流入渠水位計G0は、周期的に、幹線水位h1~hnおよび流入渠水位h0を測定する。
続いて、幹線流速幹線流量算出部101は、幹線水位h1~hnの測定値を取得し、例えば上述のマニング式等を用いて、幹線流速V1~Vn、幹線流量Q1~Qnを算出する。
【0029】
雨水流入量算出部103は、流入渠水位h0の測定値を取得し、例えば上述のマニング式等を用いて、雨水流入量Q0を算出する。
流下時間算出部102は、幹線流量Q1~Qnと、外部から入力される幹線延長L1~Lnとを取得し、流下時間(初期値)t1~tnを算出する。
【0030】
流下時間補正部104は、幹線水位計G1~Gnが設置された地点ごとに幹線流量に対する流下時間t1~tnを格納したテーブルを備えている。
図4は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部が備えるテーブルの一例を概略的に示す図である。
【0031】
流下時間補正部104は、幹線水位計G1~Gnが設置された地点ごとに、幹線流量Q1~Qnと流下時間(初期値)t1~tnとのデータを対応させて、テーブル(図示せず)に記録する。この際、流下時間補正部104は、テーブルに記録するデータは離散化してもよく、連続値で記録してもよい。また、流下時間補正部104は、幹線水位計G1~Gnが設置された地点ごとに、幹線流量Q1~Qnと流下時間t1~tnとの関係を表す関数を同定し、テーブルに代えて関数を記録してもよい。流下時間補正部104は、テーブル又は関数を図示しない記憶部に記録することができる。
【0032】
図5は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部が備える時系列データの一例を概略的に示す図である。
流下時間補正部104は、時刻と、例えば幹線水位計G1~Gnが設置された地点それぞれの幹線流量と、雨水流入量算出部103で算出した雨水流入量等とを関連付けた時系列データとして記録する。流下時間補正部104は、時系列データのサンプリング間隔は任意の時間間隔とすることができる。
【0033】
流下時間補正部104は、時系列データを参照し、幹線水位計G1~Gnが設置された各地点の幹線流量Q1~Qnの波形と、雨水流入量Q0の波形との時間差に基づいて、実測流下時間tr1~trnを算出する。なお、実測流下時間tr1~trnは流量に依存するため、単純に波形の時間差から実測流下時間tr1~trnを求めることはできない。そこで、流下時間補正部104は、例えば、それぞれ地点における流量Q1~Qnの波形の最大値(極大値)を抽出し、雨水流入量Q0の波形の最大値(極大値)を抽出し、流量Q1~Qnが最大値となる時間と雨水流入量Q0が最大値となる時間との差を実測流下時間tr1~trnとして算出する。
【0034】
図6は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部の動作の一例を説明するための図である。
流下時間補正部104は、例えば、幹線水位計G1~Gnが設置された各地点の幹線流量Q1~Qn、および、雨水流入量Q0のそれぞれに、最大値(極大値)と判定するための変化量の閾値を設定しても良い。これは、流下時間補正部104が、時系列データの微小な変動を捉えると精度が悪化するためである。それぞれの地点での平均的な変動を考慮して、時系列データの変化量の閾値を設定することにより、流下時間補正部104は、精度よく最大値(極大値)を算出することができる。例えば、流下時間補正部104は、XRAIN(高性能レーダ雨量計ネットワーク)等で観測された降雨強度が1mm/hの時の単位時間当たりの幹線流量Q1~Qnの変化量を記録しておき、この変化量を閾値とすることにより、幹線流量Q1~Qnおよび雨水流入量Q0を計測する流量計の感度として使用することができる。
【0035】
また、流下時間補正部104は、時系列データの最大値(極大値)ではなく、各地点の幹線流量Q1~Qnと雨水流入量Q0との波形を、特徴的な波形(流下時間が既知である波形)と比較して、波形が一致する特徴的な波形に対応する流下時間を実測流下時間tr1~trnとしてもよい。流下時間補正部104は、例えば動的時間伸縮法(DTW)により波形間の距離を計算し、計算した距離と閾値との比較により、波形が一致するか否か判定できる。流下時間補正部104には、特徴的な波形に対応する流下時間が予め記録され、波形が一致すると判定されたときに、特徴的な波形に対応する流下時間を実測流下時間tr1~trnとしてもよい。
【0036】
流下時間補正部104は、実測流下時間tr1~trnを算出したときに、各地点の流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとを関連付けて、例えばテーブルに記録されている流下時間(初期値)t1~tn(若しくは既に補正された更新後の流下時間t1~tn)を実測流下時間tr1~trnで補正する。
【0037】
図7は、一実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部による流下時間の補正の一例について説明するための図である。
例えば、流下時間補正部104は、実測流下時間tr1~trnのいずれかを算出できたときに、テーブルに記録された流下時間t1~tnの対応する値を補正してテーブルを更新する。
【0038】
図7に示す例では、幹線水位計G1にて幹線流量が5(m/sec)のときの実測流下時間が4(sec)、幹線水位計Gnにて幹線流量が3(m/sec)のときの実測流下時間が2(sec)であると算出されている。
【0039】
流下時間補正部104は、テーブルに記録された値を補正する際に、補正対象の流下時間の初期値と実測流下時間との平均値を算出し、平均値を対応する幹線流量時の流下時間として補正してもよい。この場合、幹線水位計G1にて幹線流量が5(m/sec)のときの補正後の流下時間が5(sec)、幹線水位計Gnにて幹線流量が3(m/sec)のときの補正後の流下時間が3(sec)となる。
【0040】
なお、流下時間の補正値の算出方法は上記に限定されるものではなく、例えば、流下時間t1~tnと実測流下時間tr1~trnとのそれぞれに重み付をした値の和を用いてテーブルを補正してもよく、さらにロバスト性向上のために、カルマンフィルタを用いて流下時間t1~tnの補正を行ってもよい。
【0041】
また、流下時間補正部104は、該当する時刻の気温等の気象条件やXRAIN等により観測された雨量データ、該当地域のイベント情報などを変数として合わせて使用した回帰式を作成し、補正値を算出してもよい。また流下時間補正部104は、図示しない表示部において補正値をユーザに提示し、ユーザに補正の承認を求め、ユーザの承認後に補正値を採用する方式としても良い。
【0042】
流下時間補正部104は、幹線流量Q1~Qnに対する補正後の流下時間t1~tnを雨水流入量予測値決定部105へ出力する。
雨水流入量予測値決定部105は、流下時間補正部104で算出された補正後の流下時間t1~tnと、雨水ポンプ制御に必要な予測時間とを比較して、予測時間と同等の流下時間となる幹線水位計が設置された地点の幹線流量を、雨水ポンプ場へ流入する雨水流入量の予測値として採用し、雨水流入量予測値を決定する。
【0043】
なお、予測時間と同等の流下時間t1~tnとなる幹線水位計が設置された地点が存在しない場合には、雨水流入量予測値決定部105は、幹線水位計が設置された地点の幹線流量Q1~Qnと補正後の流下時間t1~tnとのデータセットから機械学習等により雨水流入量予測モデルを作成し、雨水流入量予測値としても良い。
【0044】
上記のように、本実施形態によれば、幹線水位計G1~Gnが設置された地点で計測された幹線流量Q1~Qnと、設計情報とを基に算出した各地点の流下時間t1~tnを、実測した流下時間tr1~trnを使用して補正することにより、テーブルに記録された流下時間t1~tnの精度を向上させることができる。更には、テーブルに記録された流下時間t1~tnの精度が向上することにより、雨水流入量の予測精度を向上させることが可能となる。また、実測した流下時間tr1~trnはノイズ等を含むためにロバストな値ではないが、補正処理として適用することにより、ロバストな補正後の流下時間t12~tnを得ることができる。すなわち、流下時間(初期値)t1~tnを補正する際に、メディアン値や、平均値や、回帰式や、ユーザ承認等の形式を採用することにより、補正値のロバスト性を向上させることが可能となり、雨水流入量の予測精度を向上させることが可能となる。
【0045】
すなわち、本実施形態によれば、精度よく雨水流入量予測を行う雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムを提供することができる。
【0046】
次に、第2実施形態の雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムについて図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図8は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の雨水流入量予測装置100は、流下時間分布生成部106を備え、流下時間分布および流下時間の補正方策を用いて流下時間の補正を行う点において、上述の第1実施形態と異なっている。
【0048】
流下時間分布生成部106は、幹線流速幹線流量算出部101で算出した各地点での幹線流量Q1~Qnと、雨水流入量算出部103で算出した雨水流入量Q0とを入力とし、各地点での幹線流量Q1~Qnと雨水流入量Q0との時間変化から、各地点での実際の流下時間(実測流下時間tr1~trn)を算出する。なお、実測流下時間tr1~trnの算出方法は上述の第1実施形態と同様である。
【0049】
さらに、流下時間分布生成部106は、外部より入力される蓄積期間情報を用いて、一定期間(蓄積期間)における、各地点での幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとの流下時間分布データセットを記録する。流下時間分布データセットは、幹線水位計G1~Gnが設置された地点ごとに生成され、図示しない記憶部に例えばテーブルとして記録され得る。
【0050】
蓄積期間情報は、期間を指定する情報であってもよく、期間の開始信号と期間の終了信号とでリアルタイムに蓄積期間を指定する情報であってもよい。蓄積期間情報により、例えば、豪雨予測が出ている期間を指定することにより、特定の条件下における実測流下時間tr1~trnを蓄積することができる。
【0051】
図9は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間分布生成部で生成した流下時間分布データセットの一例を説明するための図である。
ここでは、流下時間分布データセットの幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとをヒストグラムで表している。
【0052】
流下時間分布生成部106は、幹線水位計G1~Gnが設置された各地点における、各幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとの分布(流下時間分布)を、流下時間補正部104に出力する。流下時間分布生成部106は、流下時間分布の個々のデータをすべて流下時間補正部104に出力してもよいし、分布を同定し、平均、分散等の分布パラメータを流下時間補正部104に出力してもよい。なお、流下時間分布生成部106は、例えば外部から与えられた閾値を用いて、外れ値を省いた流下時間分布データセットを生成してもよい。
【0053】
流下時間補正部104は、流下時間算出部102で算出された流下時間(初期値)t1~tnと、流下時間分布生成部106で算出された幹線水位計G1~Gnが設置された各地点における幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとの流下時間分布のデータとを使用し、外部から入力される流下時間の補正方策にしたがって、幹線水位計G1~Gnが設置された各地点での流下時間t1~tnを補正し、補正後の流下時間t1~tnとして、雨水流入量予測値決定部105に出力する。
【0054】
また、流下時間補正部104は、幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとの分布データ、および、幹線流量Q1~Qnと補正後の流下時間t1~tnとの分布データを図示しない記憶部に記録してもよい。流下時間補正部104は、記憶部に記録された分布データを用いて、豪雨予測が出ている等の状況に合わせて補正後の流下時間t1~tnの特性(緊急、安全、通常等)を設定することができる。
【0055】
上述の第1実施形態では、流下時間補正部104は、実測流下時間tr1~trnが入力されるたびに、流下時間の初期値t1~tnと実測流下時間tr1~trnとの平均値等により補正後流下時間t1~tnを算出し、流下時間(初期値)t1~tnを更新したが、本実施形態では、流下時間補正部104に入力される実測流下時間tr1~trnは分布データである。
【0056】
図10は、第2実施形態の雨水流入量予測装置の流下時間補正部の動作の一例を説明するための図である。ここでは、流下時間補正部104が、幹線水位計G1~Gnが設置された各地点での各幹線流量Q1~Qnと実測流下時間tr1~trnとの分布データを用いて、流下時間(初期値)t1~tnを補正する動作の一例について説明する。
【0057】
流下時間補正部104は、流下時間算出部102で算出した流下時間(初期値)t1~tnを、例えば、正規分布の平均値とし、分散を任意の値(例えば1)として、流下時間(初期値)t1~tnの分布データとする。流下時間補正部104は、流下時間分布生成部106から入力された実測流下時間tr1~trnの分布データにより、初期値の分布データを更新(補正)する。流下時間補正部104は、分布データを更新する方法として、例えばベイズ推定法を用いることができる。
【0058】
続いて、流下時間補正部104は、更新後の分布データから、補正流下時間の補正方策に従い、補正後流下時間t1~tnを算出する。補正方策は、ポンプ井14の水位状態に対応させた分布の平均値、分散等の統計パラメータを用いて決定され得、例えば、通常であれば、平均値を補正後流下時間t1~tnとして算出し、ポンプ井の水位が危険な状態(水位が所定のしきい値を超えている状態等)であれば、平均値から1σ小さい値を補正後流下時間t1~tnとして算出する等の補正の方針情報を含む。外部から補正方策を入力することにより、気象条件や、イベント等のあらゆる条件を考慮した複雑な方策を指定することができる。
【0059】
本実施形態の雨水流入量予測装置は上記以外の構成は上述の第1実施形態と同様である。本実施形態の雨水流入量予測装置によれば、実測流下時間tr1~trnの分布データを用いて、補正後流下時間t1~tnを算出することにより、補正値のロバスト性をさらに向上させることが可能となり、雨水流入量の予測精度を向上させることが可能となる。
すなわち、本実施形態によれば、精度よく雨水流入量予測を行う雨水流入量予測装置、雨水流入量予測方法、および、コンピュータプログラムを提供することができる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10…幹線(下水管)、12…流入渠、14…ポンプ井、100…雨水流入量予測装置、101…幹線流速幹線流量算出部、102…流下時間算出部、103…雨水流入量算出部、104…流下時間補正部、105…雨水流入量予測値決定部、106…流下時間分布生成部、A1~An…流積、G0…流入渠水位計、G1~GN…幹線水位計、L1~Ln…幹線延長、Q0…雨水流入量、Q1~Qn…幹線流量、V1~Vn…幹線流速、h0…流入渠水位、h1~hn…幹線水位、t1~tn…流下時間(初期値)、補正後の流下時間、tr1~trn…実測流下時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10