(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095424
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】プレス装置及びプレス方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/14 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
B30B15/14 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211303
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田渡 正史
【テーマコード(参考)】
4E089
【Fターム(参考)】
4E089EA10
4E089EB10
4E089EC02
4E089ED01
4E089EE03
(57)【要約】
【課題】プレス装置に既設の設備を用いてエネルギー効率の向上を図ることが可能なプレス装置及びプレス方法を提供する。
【解決手段】プレス装置10は、第2金型18を取り付け可能であり、第2金型18とともに第1金型16に対して接近し離間するように往復動作可能なスライド17と、トルク制御によりスライド17を駆動する駆動部20と、駆動部20の動力をスライドに伝達する従動部30と、駆動部20の動力の従動部30への伝達及び切断を行うクラッチ23と、クラッチ23と独立して制御され、従動部30の動作を制動するブレーキ24と、クラッチ23とブレーキ24の各動作を制御する制御部40と、を備え、制御部40は、スライド17のワークWに対する成形動作の一部を、クラッチ23により駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断した状態で行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型を取り付け可能な支持体と、
第2金型を取り付け可能であり、前記第2金型とともに前記第1金型に対して接近し離間するように往復動作可能なスライドと、
トルク制御により前記スライドを駆動する駆動部と、
前記駆動部の動力を前記スライドに伝達する従動部と、
前記駆動部の動力の前記従動部への伝達及び切断を行うクラッチと、
前記クラッチと独立して制御され、前記従動部の動作を制動するブレーキと、
前記クラッチと前記ブレーキの各動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記スライドのワークに対する成形動作の一部を、前記クラッチにより前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断した状態で行う、
プレス装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ワークの成形が開始された後、前記スライドが下死点に到達する前に、前記クラッチに前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断させる、
請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記制御部が前記クラッチに前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断させるタイミングが予め決められている、
請求項1又は請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記クラッチに前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断させるタイミングを変化させながら設定する、
請求項1又は請求項2に記載のプレス装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記スライドが下死点を通過する際又は通過した後の前記従動部が有する運動エネルギーに関する情報に基づいて、前記ブレーキによる前記従動部の動作の制動を開始させるタイミング若しくは前記ブレーキの制動力又はその両方を可変させる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項6】
前記クラッチ及び前記ブレーキは湿式である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項7】
前記駆動部の回転駆動を減速して前記従動部に伝達する遊星減速機を備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項8】
前記クラッチと前記ブレーキがプレス装置のフレームに対して同じ側の側面に設けられている、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項9】
前記駆動部は、フライホイールを備えており。前記フライホイールの回転エネルギーを動力としてトルク制御により前記スライドを駆動する、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のプレス装置の前記スライドのワークに対する成形動作の一部を、前記クラッチにより前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断した状態で行う、
プレス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置及びプレス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転させたフライホイールにクラッチを接続することでフライホイールの回転トルクを取り出してトルク制御により駆動する駆動部と、エキセン軸や偏心ギヤ等のクランク軸とコネクティングロッド、スライド等からなる従動部により回転運動を並進運動に変換してスライドを往復動作させてプレス加工を行うプレス装置が知られている。
そして、例えば特許文献1には、駆動部の回転減速時に減速分の運動エネルギーを回生し、駆動部の回転加速時にその回生エネルギーを利用して駆動部を回転駆動することで生産性やエネルギー効率の向上を図ったプレス装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなプレス装置では、回生エネルギーを蓄積する装置や回生エネルギーを使って駆動部を回転駆動させるためのポンプやモータ等をプレス装置に新たに設けなければならない等の問題があった。
【0005】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、プレス装置に既設の設備を用いてエネルギー効率の向上を図ることが可能なプレス装置及びプレス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプレス装置及びプレス方法の一観点によれば、
第1金型を取り付け可能な支持体と、
第2金型を取り付け可能であり、前記第2金型とともに前記第1金型に対して接近し離間するように往復動作可能なスライドと、
トルク制御により前記スライドを駆動する駆動部と、
前記駆動部の動力を前記スライドに伝達する従動部と、
前記駆動部の動力の前記従動部への伝達及び切断を行うクラッチと、
前記クラッチと独立して制御され、前記従動部の動作を制動するブレーキと、
前記クラッチと前記ブレーキの各動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記スライドのワークに対する成形動作の一部を、前記クラッチにより前記駆動部の動力の前記従動部への伝達を切断した状態で行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プレス装置に既設の設備を用いてエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るプレス装置の構成例を表す図である。
【
図2】本実施形態に係るプレス装置の別の構成例を表す図である。
【
図3】
図2に示したプレス装置のクラッチとブレーキの部分の拡大断面図である。
【
図4】本実施形態に係るプレス装置の別の構成例を表す図である。
【
図5】従来のプレス装置と本実施形態に係るプレス装置におけるスライド位置とフライホイールの回転速度の時間変化等を表す図である。
【
図6】ワークに加わる負荷の時間変化を表す図である。
【
図7】(a)従来の場合は成形エネルギーが全てフライホイールから供給されることを表す図であり、(b)本実施形態では成形エネルギーの一部に従動部が有する運動エネルギーが用いられることを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るプレス装置及びプレス方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下では、プレス装置がフライホイールを備え、その回転トルクを取り出してトルク制御によりスライドを往復動作させる場合について説明するが、プレス装置は必ずしもフライホイールを備えるものでなくてもよい。また、以下の説明において、後述する
図1等における上下方向及び左右方向に従って上下及び左右と言うが、本発明はプレス装置がそのように配置される場合に限定されない。
【0010】
図1は、本実施形態に係るプレス装置の構成例を表す図である。
プレス装置10は、ベッド11、アップライト12、クラウン13、支持体15、第1金型16、スライド17、第2金型18、駆動部20、従動部30、制御部40等を備えている。
【0011】
ベッド11、アップライト12及びクラウン13は、プレス装置10のフレームを構成している。
そして、ベッド11、アップライト12及びクラウン13の内部にはタイロッド14aが挿入され、タイロッドナット14bにより締め付けられることで、互いに締結されている。
【0012】
ベッド11は、その上面に支持体15を介して第1金型16を取り付けることができるようになっている。
すなわち、本実施形態では、ベッド11が、第1金型16を取り付け可能な支持体に相当する。
図1では、支持体15の上部に2個の第1金型16が取り付けられている場合が示されているが、第1金型16は単数でも複数でもよい。
【0013】
スライド17は、その下部に第2金型18を取り付けることができるようになっている。そして、スライド17は、アップライト12に設けられたスライドガイド19に沿って第2金型18とともに第1金型16に対して接近したり離間したりするように往復動作を行うことができるように支持されている。
すなわち、スライド17は上下方向に移動可能に支持されている。
【0014】
なお、
図1ではスライド17の下部に2個の第2金型18が取り付けられている場合が示されているが、第2金型18は単数でも複数でもよい。
そして、スライド17が下降することで、第1金型16と第2金型18とが近接し、これらの間でワークWが成形されるようになっている。
【0015】
また、プレス装置10は、トルク制御によりスライド17を駆動する駆動部20と、駆動部20の動力をスライド17に伝達する従動部30とを備えている。
駆動部20は、モータ21、フライホイール22、クラッチ23、ブレーキ24等を備えている。
【0016】
駆動部20のモータ21は、クラウン13などのフレームの一端側に固定されている。モータ21は、ベルト21aを介してフライホイール22に連結されており、その動力によりフライホイール22を回転させる。
フライホイール22は、フレームに回転可能に支持されており、回転エネルギーを蓄積する。
【0017】
クラッチ23及びブレーキ24は、フライホイール22の近傍に配置されている。
クラッチ23は、駆動部20の動力の従動部30への伝達及び切断を行う。また、ブレーキ24は、クラッチ23と独立して制御され、従動部30の動作を制動するようになっている。
本実施形態では、クラッチ23とブレーキ24としていわゆる湿式クラッチと湿式ブレーキが用いられており、作動油により作動されたり作動が停止されたりするようになっている。なお、クラッチ23及びブレーキ24の構成については後で説明する。
【0018】
本実施形態では、フライホイール22の内側に入力軸25が配置されており、フライホイール22と入力軸25との間にクラッチ23とブレーキ24が配置されている。駆動部20の入力軸25は、後述する従動部30の伝動軸31に接続されている。
そして、クラッチ23とブレーキ24は、入力軸25を介して駆動部20の動力の従動部30への伝達及び切断を行ったり入力軸25の回転を制動して従動部30の動作を制動したりするようになっている。
【0019】
一方、従動部30は、伝動軸31、遊星減速機32、エキセン軸33、コネクティングロッド34等を備えている。
伝動軸31は、その回転中心軸Axが駆動部20の入力軸25の回転中心軸と同軸になるように入力軸25に固定されている。
【0020】
伝動軸31は、回転中心軸Ax周りに回転して、フライホイール22の回転運動を、フレームの他端側に設けられた遊星減速機32に伝達する。
遊星減速機32は、駆動部20のフライホイール22の回転駆動すなわち伝動軸31の回転運動を減速して従動部30すなわちエキセン軸33に伝達してエキセン軸33を回転させるようになっている。
【0021】
本実施形態では、遊星減速機32の部分に、伝動軸31の回転速度を計測するためのエンコーダ等を備えたセンサ35が取り付けられており、センサ35は、計測した伝動軸31の回転速度を後述する制御部40に送信するようになっている。
なお、伝動軸31の回転速度を計測する代わりに後述するエキセン軸33の回転速度等を計測するように構成することも可能である。また、本実施形態では、制御部40で、必要に応じて、計測された伝動軸31やエキセン軸33等の回転速度をスライド17の移動速度に換算するように構成されているが、スライド17の移動速度をセンサで計測するように構成することも可能である。
【0022】
エキセン軸33は、軸受を介してクラウン13及びアップライト12等のフレームに対して伝動軸31と同軸の回転中心軸Axを中心に回転可能に支持されている。
また、エキセン軸33は、回転中心軸Axに沿って貫通する中空部を有しており、この中空部内に、エキセン軸33に対して回転自在に伝動軸31が配設されている。
【0023】
コネクティングロッド34は、エキセン軸33の偏心部に、回転中心軸Axに直交する向きに取り付けられており、下端にスライド17が取り付けられている。
そして、コネクティングロッド34は、エキセン軸33の回転運動を直線運動に変換してスライド17に伝達することで、スライド17を第1金型16に対して接近したり離間したりするように往復動作させるようになっている。
【0024】
本実施形態では、以上のようにして、駆動部20は、従動部30を介して、フライホイール22の回転エネルギーを動力としてトルク制御によりスライド17を駆動して、スライド17を往復動作させるようになっている。
【0025】
なお、
図1ではプレス装置10が伝動軸31を有している場合を示したが、駆動部20の動力を、伝動軸31を介さずに、直接、遊星減速機32やエキセン軸33に伝達するように構成することも可能である。
この場合は、
図2に示すように、遊星減速機32を、駆動部20とエキセン軸33との間に配設するように構成される。
【0026】
次に、駆動部20におけるクラッチ23とブレーキ24の構成について説明する。
以下では、プレス装置10を
図2に示したように構成した場合のクラッチ23とブレーキ24の部分の拡大断面図である
図3に基づいて説明するが、
図1に示したクラッチ23及びブレーキ24も、以下で説明するクラッチ23及びブレーキ24と同様に構成することができる。
【0027】
クラッチ23は、フライホイール22に連結されて連動回転するアウターハブ23Aと、入力軸25に固定されて連動回転するインナーハブ23Bと、アウターハブ23Aに連動するクラッチディスクとインナーハブ23Bに連動するクラッチディスクとが交互に複数枚重ねて配置されたディスク群23Cと、ピストン23Dとを備えている。
インナーハブ23Bには、入力軸25を介して、ピストン23D側とディスク群23C側とに作動油を供給する油圧経路が形成されている。
【0028】
ピストン23Dは、通常時は、バネによりディスク群23Cから離隔する方向に加圧されている。そして、インナーハブ23Bを通じてピストン23D側に作動油が供給されると、バネ圧に抗してディスク群23Cを圧縮する方向に移動する。
ディスク群23Cは、ピストン23Dによって圧縮されると各クラッチディスクが相互に摩擦接触状態となり、アウターハブ23Aとインナーハブ23Bとが連結されて、フライホイール22から入力軸25への動力伝達が可能な接続状態となる。
【0029】
また、ピストン23Dの受圧側油を解放すると、バネによりピストン23Dが押し戻されて、各クラッチディスクが相互に離隔状態となる。
そして、アウターハブ23Aとインナーハブ23Bの連結状態が解かれて、フライホイール22から入力軸25への動力伝達が切断状態となる。
【0030】
ブレーキ24は、ユニットカバー26に固定されたアウターハブ24Aと、入力軸25に固定されて連動回転するインナーハブ24Bと、アウターハブ24Aに連動するブレーキディスクとインナーハブ24Bに連動するブレーキディスクとが交互に複数枚重ねて配置されたディスク群24Cと、ピストン24Dとを備えている。
インナーハブ24Bには、入力軸25を介して、ピストン24D側に作動油を供給する油圧経路が形成されている。
【0031】
ブレーキ24のピストン24Dの動作は、クラッチ23のピストン23Dとは独立して制御される。
ピストン24Dは、通常時は、図示しないバネによりディスク群24C側に圧接する方向に加圧されている。これにより、ディスク群24Cは、ピストン24Dによって圧縮されて各クラッチディスクが相互に摩擦接触状態となり、アウターハブ24Aとインナーハブ24Bとが連結状態となって、入力軸25の制動状態となっている。
【0032】
そして、インナーハブ24Bを通じてピストン24Dに作動油が供給されると、バネ圧に抗してディスク群24Cから離隔する方向に移動する。これにより、ピストン24Dが押し戻されて、各クラッチディスクが相互に離隔状態となる。
そして、アウターハブ24Aとインナーハブ24Bの連結状態が解かれて、入力軸25は制動状態が解除される。
【0033】
ここで、
図3に示した遊星減速機32についても説明する。
遊星減速機32は、入力軸25のエキセン軸33側の端部に設けられた太陽歯車32Aと、太陽歯車32Aに噛合する遊星歯車32Bと、遊星歯車32Bに噛合する内歯歯車32Cと、遊星歯車32Bを支持して遊星歯車32Bの公転と共に回転する出力部材32Dとを備えている。なお、入力軸25とエキセン軸33とは同一軸上に配置されている。
【0034】
そして、入力軸25が回転すると、太陽歯車32Aに噛合する遊星歯車32Bが公転を行い、出力部材32Dは、遊星歯車32Bの公転と共に回転を行う。
出力部材32Dは、例えばスプライン構造によりエキセン軸33と連動可能となっており、入力軸25の回転よりも減速された回転がエキセン軸33に伝達されるようになっている。
【0035】
なお、
図1の構成においても同様であるが、入力軸25からエキセン軸33に減速回転を伝達可能な構成であれば、遊星減速機32以外の伝達機構を用いてもよい。
また、
図1~
図3では、クラッチ23とブレーキ24が湿式である場合について説明したが、いわゆる乾式であってもよい。
【0036】
また、
図1~
図3では、クラッチ23とブレーキ24がプレス装置10のフレームに対して同じ側の側面に設けられている場合について説明したが、例えば
図4に示すように、それらが互いにプレス装置10のフレームの反対側に設けられていてもよい。
なお、
図4のプレス装置10ではクラッチ23とエキセン軸33との間に遊星減速機等の減速機が設けられていないが、減速機が設けられていてもよい。
【0037】
次に、
図1に示したプレス装置10の制御部40について説明する。
制御部40は、CPU(Central Processing Unit)等を備える汎用コンピュータで構成されていてもよく、また、専用装置として構成することも可能である。そして、制御部40は、プログラムに従って、駆動部20のクラッチ23とブレーキ24の各動作を制御するように構成されている。
【0038】
以下、本実施形態に係るプレス装置10の制御部40によるクラッチ23とブレーキ24に対する動作制御について説明する。また、本実施形態に係るプレス方法についてもあわせて説明する。
なお、以下では、後述する
図5に示すように、スライド17又はスライドSが上死点から下降を開始して、下死点を通過し、上昇して上死点で停止するまでを1サイクルとして説明するが、例えば、スライド17又はスライドSが、上死点と下死点の間の所定の位置から下降を開始して、下死点を通過し、上昇して上死点を通過した後、下降して上記の所定の位置で停止するまでを1サイクルとするように構成することも可能であり、本実施形態に係るプレス装置10やプレス方法は、スライド17又はスライドSが下降を開始する際のスライド位置Sxが上死点である場合に限定されない。
【0039】
ここで、まず、
図5に基づいて、従来のプレス装置やプレス方法について説明する。なお、
図5中のτ1、τ2については後で説明する。
従来は、
図5に実線で示すように、スライドSが例えば上死点にある状態で時刻t0にクラッチを接続すると、フライホイールの回転エネルギーが従動部に運動エネルギーとして与えられるため、フライホイールの回転速度rが接続前のrpm-iから一旦rpm-1まで低下する。
【0040】
続いて、フライホイールの回転速度rが時刻t1にrpm-1まで低下した後、スライドSが下降し、第2金型がワークWに接触してワークWの成形が開始される時刻t2までの間は、モータからフライホイールにエネルギーが供給されるためフライホイールの回転速度rがrpm-2まで回復する。
そして、時刻t2にワークWの成形が開始された後は、スライドSが時刻t3に下死点に到達するまでは、主にフライホイールの回転エネルギーが成形エネルギーに変換される。そのため、フライホイールの回転速度rはrpm-3まで低下する。
【0041】
続いて、スライドSが下死点に到達した時点でクラッチの接続を切り、フライホイールから従動部へのエネルギーの供給が断たれると、モータによりフライホイールの回転速度rが徐々に上昇する。
そして、スライドSが下死点を通過した後、スライドSは主に従動部30の運動エネルギーによって上死点に向かって上昇し、上死点でスライドSが停止するように上死点に到達する手前の時刻t4でブレーキ指令が入る。
【0042】
スライドSが上死点で停止している間に、モータからフライホイールにエネルギーが供給されて、フライホイールの回転速度rがrpm-iに回復する。なお、スライドSが上死点に到達する前に、フライホイールの回転速度rがrpm-iに回復してもよい。
そして、クラッチが接続された時刻t0から所定の時間Tが経過すると、1サイクルが完了し、次のサイクルがスタートする。
従来のプレス装置やプレス方法では、クラッチとブレーキが以上のように制御される。
【0043】
一方、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法では、制御部40は、スライド17のワークWに対する成形動作の一部を、クラッチ23により駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断した状態で、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行うように構成されている。
以下、
図5に基づいて、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法について具体的に説明する。
【0044】
本実施形態においても、
図5に実線で示すように、スライド17が例えば上死点にある状態で時刻t0にクラッチ23を接続すると、フライホイール22の回転エネルギーが従動部30に運動エネルギーとして与えられるため、フライホイール22の回転速度rが接続前のrpm-iから一旦rpm-1まで低下する。
そして、フライホイール22の回転速度rが時刻t1にrpm-1まで低下した後、スライド17が下降し、第2金型18がワークWに接触してワークWの成形が開始される時刻t2までの間は、モータ21からフライホイール22にエネルギーが供給されるためフライホイール22の回転速度rがrpm-2まで回復する。
【0045】
本実施形態では、この後の制御が従来とは異なる。本実施形態では、制御部40は、ワークWの成形が開始された後、スライド17が下死点に到達する前に、クラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるようになっている。
すなわち、制御部40は、
図5に示すように、時刻t2にワークWの成形が開始された後は、スライドSが下死点に到達する前の時刻t5に、クラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達、すなわち本実施形態ではフライホイール22の動力の従動部30への伝達を切断させる。
【0046】
すると、時刻t2から時刻t5までの間は、主にフライホイールの回転エネルギーが成形エネルギーに変換される。そのため、フライホイールの回転速度rはrpm-5まで低下する。
そして、時刻t5にクラッチ23が切断されると、フライホイール22から従動部30へのエネルギーの供給が断たれるため、
図5に二点鎖線で示すように、モータ21によりフライホイール22の回転速度rが徐々に上昇し、rpm-iまで回復する。
【0047】
しかし、時刻t5の時点で、従動部30は運動エネルギーを有しているため、従動部30の運動エネルギーが成形エネルギーに変換されて、スライド17が下降を続け、ワークWの成形が継続される。
そして、スライド17が下死点に到達して通過するが、従来の場合とは異なり、本実施形態では、スライド17が下死点を通過する前に従動部30が有する運動エネルギーの一部が成形エネルギーに使われていて減っているため、スライド17が下死点を通過する時刻t3は、従来の場合よりも僅かに遅れる。
【0048】
そして、スライド17は下死点を通過した後、上昇するが、上記のようにスライド17が下死点を通過する前に従動部30が有する運動エネルギーの一部が成形エネルギーに使われていて減っているため、
図5に二点鎖線で示すように、スライド17の上昇速度が従来の場合よりも遅くなる。
そのような場合に、従来と同様に時刻t4でブレーキ24を作動させると、スライド17が上死点まで上昇する前に停止してしまう。
【0049】
そのため、制御部40は、従来の時刻t4より遅い時刻t6にブレーキ24の作動を開始させる。
すると、スライド17は従動部30の残りの運動エネルギーによって上死点に向かって上昇し、上死点に到達したところで停止する。
【0050】
クラッチ23が接続された時刻t0から所定の時間Tが経過すると、1サイクルが完了し、次のサイクルがスタートする点は従来と同様に構成することができる。
本実施形態に係るプレス装置10やプレス方法では、制御部40によりクラッチ23とブレーキ24が以上のように制御される。
【0051】
なお、
図5では、制御部40が、ワークWの成形が開始された後、スライド17が下死点に到達する前に、クラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるように構成することで、スライド17のワークWに対する成形動作の一部を、クラッチ23により駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断した状態で、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行うように構成した場合について説明した。
【0052】
しかし、この他にも、例えば、時刻2でワークWの成形が開始されるとすぐに制御部40がクラッチ23を切断し、従動部30が有する運動エネルギーを用いてスライド17のワークWに対する成形動作を行わせた後、再度クラッチ23を接続して、駆動部20の動力を従動部30に伝達してワークWの成形を継続するように構成することも可能である。
また、クラッチ23を接続して駆動部20の動力を従動部30に伝達して時刻t2からワークWの成形を行いつつ、スライド17が下死点に到達するまでの間の一期間又は複数の機関でクラッチ23を切断するように構成することも可能である。
【0053】
次に、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法の作用について説明する。
なお、以下では、
図5に示したようにクラッチ23及びブレーキ24を制御する場合について説明するが、クラッチ23の接続、切断を上記の変形例のように行う場合も同様に説明される。
【0054】
図5に示したようにしてワークWに対する成形を行った場合、ワークWに加わる負荷Fは、
図6に示すように、スライドS又はスライド17が下降して第2金型18がワークWに接触してワークWの成形が開始される時刻t2から増加し始める。
そして、負荷Fは、スライドS、17が下死点に到達する時刻t3で最大になり、スライドS、17が上昇して第2金型18が成形後のワークWから離れる時刻t7までに急激に低下する。
【0055】
そして、従来の場合には、この時刻t2から時刻t7までの負荷Fに対応する成形エネルギーEの全て、すなわち
図7(a)で斜線を付して示される部分の面積で表される成形エネルギーEが全てフライホイールから供給される。
すなわち、従来の場合は、スライドSのワークWに対する成形動作の全てが、クラッチにより駆動部と従動部とを接続された状態で、駆動部の動力により行われる。
【0056】
それに対し、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法では、
図7(b)にE1で表される成形エネルギーE1、すなわちスライド17が下降して第2金型18がワークWに接触してワークWの成形が開始される時刻t2からクラッチ23によりフライホイール22の動力の従動部30への伝達が切断される時刻t5までの成形エネルギーE1は、クラッチ23により駆動部20と従動部30とを接続された状態で、フライホイール22から供給される。
【0057】
しかし、クラッチ23によりフライホイール22の動力の従動部30への伝達が切断される時刻t5から時刻t7までの成形エネルギーE2は、フライホイール22からは供給されず、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行われる。
このように、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法では、スライド17のワークWに対する成形動作の一部、すなわち時刻t5から時刻t7の成形動作が、クラッチ23により駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断した状態で、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行われる。
【0058】
そのため、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法では、スライド17のワークWに対する成形動作を、従来のようにその全てを駆動部の動力によって行うのではなく、成形動作の一部を、駆動部20から動力を供給せずに、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行うことが可能となる。
そのため、プレス装置10におけるワークWの成形のエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法によれば、スライド17のワークWに対する成形動作の一部を、駆動部20から動力を供給せずに、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行うことが可能となるため、プレス装置10におけるワークWの成形のエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0060】
また、その際、駆動部20の動力や従動部30の運動エネルギーを回生エネルギーとして蓄積するなどの必要がないため、プレス装置10に回生エネルギーを蓄積する装置や回生エネルギーを使って駆動部を回転駆動させるためのポンプやモータ等を新たに設ける必要がない。
そのため、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法によれば、プレス装置10に既設の設備を用いてワークWの成形におけるエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0061】
ところで、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法では、上記のように、スライド17のワークWに対する成形動作の一部、すなわち時刻t5から時刻t7の成形動作が、従動部30が有する運動エネルギーを用いて行われる。
そのため、ワークWの成形動作のために従動部30が有する運動エネルギーを使い過ぎると、スライド17が下死点を通過した後で上死点等の停止位置までスライド17が上昇できなくなる事態が生じ得る。
【0062】
そのため、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法において、制御部40がクラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるタイミングを予め決めておくように構成することが可能である。
この場合、クラッチ23を切断するタイミングとして、例えば
図5に示した、サイクル開始の時刻t0からクラッチ23を切断する時刻t5までの経過時間τ1を予め設定しておくように構成することも可能であり、あるいは、例えば、クラッチ23を切断する際のスライド17のスライド位置Sx、すなわち上記の時刻t5におけるスライド位置Sxを予め設定しておくように構成することも可能である。
【0063】
また、ワークWの成形で消費されるエネルギー、すなわちワークWの成形のために必要となる従動部30の運動エネルギーは、ワークWの材質や金型の種類等によって異なる場合がある。
そのため、制御部40は、ワークWの材質や金型の種類等を種々変えて予め実験を行うなどして、上記のタイミングを、ワークWの材質や金型の種類等ごとに予め有しておくように構成することも可能である。
【0064】
このように、制御部40がクラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるタイミングを予め決めておくように構成すれば、制御部40が、例えばワークWの材質や金型の種類等に応じてクラッチ23を切断するタイミングを容易にかつ適切なタイミングに設定することが可能となる。
そして、クラッチ23を切断するタイミングを適切なタイミングに設定することができるため、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0065】
一方、上記のようにクラッチ23を切断するタイミングを予め決めておくように構成する代わりに、制御部40は、上記のサイクルを繰り返し行う中で、クラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるタイミングをサイクルごとに変化させながら最適なタイミングに設定するように構成することも可能である。
この場合も、タイミングを上記の経過時間τ1やスライド位置Sx等の形で設定することが可能である。
【0066】
そして、この場合、例えば、制御部40は、繰り返し行われるサイクルのうちの最初のサイクルでは、スライド17が、ワークWの成形後、確実に上死点等の停止位置まで上昇するようにするためにクラッチ23を切断するタイミングを遅く設定する。
すなわち、ワークWの成形で消費される従動部30の運動エネルギーを小さくするために、クラッチ23を切断するタイミングを遅く設定する。具体的には、例えば、サイクル開始からクラッチ23を切断するまでの経過時間τ1すなわち上記の時刻t5をスライド17が下死点を通過する時刻t3の直前になるように設定したり、クラッチ23を切断する際のスライド位置Sxを下死点に近い位置に設定したりする。
【0067】
その際、制御部40は、サイクルごとに、例えば、スライド17が下死点を通過して上昇を開始した時点で
図1に示したセンサ35で計測される伝動軸31の回転速度、あるいはエキセン軸33の回転速度、あるいはスライド17の上昇速度等に基づいて従動部30が有する運動エネルギーを算出する。
そして、例えば、算出した運動エネルギーと、スライド17が停止位置まで上昇するために必要なエネルギーとの差が閾値以上であれば、クラッチ23を切断するタイミングを一定量又は一定割合だけ早める。すなわち、上記の経過時間τ1を一定時間又は一定割合だけ短くしたり、上記のスライド位置Sxを一定距離又は一定割合だけ高い位置にしたりするようにして、上記のタイミングを設定し直す。
【0068】
そして、制御部40は、このようにしてクラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるタイミングをサイクルごとに変化させていきながら、最適なタイミングを見出していくように構成することが可能である。
このように構成すれば、制御部40が、クラッチ23を切断するタイミングを適切なタイミングに設定することが可能となり、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0069】
ところで、本実施形態に係るプレス装置10及びプレス方法のように、スライド17のワークWに対する成形動作の一部を従動部30が有する運動エネルギーを用いて行うように構成すると、ワークWの成形後、スライド17が上昇する際に従動部30が有する運動エネルギーがワークWの材質や金型の種類等ごとに変わってくる可能性がある。
また、特に上記のようにクラッチ23に駆動部20の動力の従動部30への伝達を切断させるタイミングをサイクルごとに変化させるように構成すると、ワークWの成形後にスライド17が上昇する際に従動部30が有する運動エネルギーがサイクルごとに変わり得る。
【0070】
そして、そのような場合に、ブレーキ24を作動させるタイミング、すなわち
図5に示した、クラッチ23が接続されてサイクルが開始された時刻t0からブレーキ24の作動を開始させる時刻t6までの経過時間τ2又はブレーキ24の作動を開始させる際のスライド位置Sx等を変えないと、スライド17がオーバーランしたりアンダーランしたりする可能性がある。
すなわち、上昇したスライド17が上死点等の所定の停止位置で停止できなくなる可能性がある。
【0071】
また、ブレーキ24の制動力を変えることで、ブレーキ24の作動が開始されてからのスライド17の移動距離を変えることができるが、ワークWの成形後にスライド17が上昇する際に従動部30が有する運動エネルギーがサイクルごとに変わる際にブレーキ24の制動力を変えないと、スライド17がオーバーランしたりアンダーランしたりする可能性がある。
【0072】
そこで、このような場合には、制御部40が、スライド17が下死点を通過する際又は下死点を通過した後の従動部30が有する運動エネルギーに関する情報に基づいて、ブレーキ24による従動部30の動作の制動を開始させるタイミングを可変させたり、ブレーキ24の制動力を可変させたり、あるいはその両方を可変させるように構成することが可能である。
【0073】
この場合、従動部30が有する運動エネルギーに関する情報とは、伝動軸31の回転速度、エキセン軸33の回転速度、スライド17の移動速度等から算出されるスライド17が有する運動エネルギー若しくはエキセン軸33の回転エネルギー又はその合計等としてもよい。又は、伝動軸31の回転速度、エキセン軸33の回転速度、スライド17の移動速度等自体であってもよい。
従動部30が有する運動エネルギーに関する情報は、それに基づいてブレーキ24による従動部30の動作の制動を開始させるタイミングを可変させたりブレーキ24の制動力を可変させたりその両方を可変させることで、ワークWの成形後に上昇したスライド17を上死点等の所定の停止位置で適切に停止させることができるものであればよい。
【0074】
このように構成すれば、ワークWの成形後にスライド17が上昇する際に従動部30が有する運動エネルギーがワークWの材質や金型の種類等ごとに変わったりサイクルごとに変わったりする場合でも、ブレーキ24を作動させるタイミング若しくはブレーキ24の制動力又はその両方を可変させて、オーバーランやアンダーランが生じることなく、スライド17を上死点等の所定の停止位置で適切に停止させることが可能となる。
【0075】
なお、本発明が上記の各実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
10 プレス装置
11 ベッド(フレーム)
12 アップライト(フレーム)
13 クラウン(フレーム)
15 支持体
16 第1金型
17 スライド
18 第2金型
20 駆動部
22 フライホイール
23 クラッチ
24 ブレーキ
30 従動部
32 遊星減速機
40 制御部
W ワーク