(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009543
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】レーダ装置および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/282 20060101AFI20230113BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20230113BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G01S7/282 200
G01S13/28 200
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112921
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB06
5J070AD05
5J070AD10
5J070AH02
5J070AH31
5J070AH34
5J070AK06
(57)【要約】
【課題】 送信安定度を劣化させずにスペクトルマスクを制御すること。
【解決手段】 レーダ装置は、複数のサブアレイ送信器を有するアレイアンテナと、信号処理部とを具備する。サブアレイ送信器は、直列接続される第1、第2増幅器、および第1、第2分岐部を備える。第1増幅器は送信信号を増幅する。第2増幅器は第1増幅器の出力を増幅する。第1、第2分岐部は、それぞれ第1、第2増幅器の出力から第1、第2モニタ信号を分岐出力する。信号処理部は、プリディストーション処理部および送信信号生成部を備える。プリディストーション処理部は、第1増幅器に対するプリディストーション係数を第1モニタ信号に基づいて算出し、第2増幅器に対するプリディストーション係数を第2モニタ信号に基づいて算出する。送信信号生成部は、レーダ波のスペクトルマスク要件を満たすべく、源パルス波形をプリディストーション係数に基づいて整形する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブアレイ送信器を有するアレイアンテナと、
信号処理部とを具備し、
前記サブアレイ送信器は、
送信信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器に直列に接続され当該第1増幅器の出力を増幅する第2増幅器と、
少なくとも前記第2増幅器の出力に基づくレーダパルスを送信する素子アンテナと、
前記第1増幅器の出力から第1モニタ信号を分岐出力する第1分岐部と、
前記第2増幅器の出力から第2モニタ信号を分岐出力する第2分岐部とを備え、
前記信号処理部は、
源パルス波形を供給する波形ソースと、
前記第1増幅器に対するプリディストーション係数を前記第1モニタ信号に基づいて算出し、前記第2増幅器に対するプリディストーション係数を前記第2モニタ信号に基づいて算出するプリディストーション処理部と、
前記アレイアンテナから放射されるレーダ波のスペクトルマスク要件を満たすべく、前記源パルス波形を前記プリディストーション係数に基づいて整形して前記送信信号を生成する送信信号生成部とを備える、レーダ装置。
【請求項2】
前記サブアレイ送信器は、前記第1増幅器に与えられる送信信号の位相を制御する移相器をさらに備える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第1増幅器および前記第2増幅器の少なくともいずれかは、飽和領域で動作する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記レーダ波の送信タイミングに同期して、前記第1増幅器および前記第2増幅器の少なくともいずれかを駆動するゲート信号を発生出力する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記波形ソースは、チャープ変調されたレーダパルスの源パルス波形を供給する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記プリディストーション処理部は、ボルテラフィルタにより前記プリディストーション係数を算出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記サブアレイ送信器ごとに複数系統の前記素子アンテナを備える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項8】
アレイアンテナと信号処理部とを具備するレーダ装置に適用可能な信号処理方法において、
送信信号を増幅する第1増幅器に対するプリディストーション係数を、当該第1増幅器から分岐出力された第1モニタ信号に基づいて、前記信号処理部が算出する過程と、
前記第1増幅器に直列に接続され当該第1増幅器の出力を増幅する第2増幅器に対するプリディストーション係数を、当該第2増幅器から分岐出力された第2モニタ信号に基づいて、前記信号処理部が算出する過程と、
前記アレイアンテナから放射されるレーダ波のスペクトルマスク要件を満たすべく、前記信号処理部が、源パルス波形を前記プリディストーション係数に基づいて整形して前記送信信号を生成する過程とを具備する、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波の送信電力は、電波法で規制されている。法規制を満たすため、非線形増幅器にプリディストーション技術を適用して出力スペクトルを制御することがある。この技術はスペクトルマスク制御とも称され、無線通信分野においてはある程度確立されているが、これをそのままレーダ技術に応用することはできない。既存のスペクトルマスク制御は、1段の非線形増幅器に対しては有効であるが、例えばフェーズドアレイレーダの固体化送信器のように、複数段にわたって従属接続された非線形増幅器を用いる場合においては効果を望めないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3153909号公報
【特許文献2】特許第6324314号公報
【特許文献3】国際公開2010/007721号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉田 孝 監修 「改訂レーダ技術」 電子情報通信学会、平成8年10月1日(初版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトルマスクに関する制限(スペクトルマスク要件)を満たして送信信号を送信するため、既存のレーダ装置では、増幅器への電源印加のパルス立ち上がり期間、パルス立下り期間を長くとるようにしていた。このため、送信安定度が劣化し、ジッタや位相雑音に悩まされていた。加えて、レーダ装置における送信安定度の劣化はMTI(Moving Target Indicator)性能や、パルスドップラ性能にも悪影響をもたらすので、対処が望まれる。
そこで、目的は、送信安定度を劣化させずにスペクトルマスクを制御できるようにしたレーダ装置および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、レーダ装置は、複数のサブアレイ送信器を有するアレイアンテナと、信号処理部とを具備する。サブアレイ送信器は、第1増幅器、第2増幅器、素子アンテナ、第1分岐部、および第2分岐部を備える。第1増幅器は、送信信号を増幅する。第2増幅器は、第1増幅器に直列に接続され当該第1増幅器の出力を増幅する。素子アンテナは、少なくとも第2増幅器の出力に基づくレーダパルスを送信する。第1分岐部は、第1増幅器の出力から第1モニタ信号を分岐出力する。第2分岐部は、第2増幅器の出力から第2モニタ信号を分岐出力する。信号処理部は、源パルス波形を供給する波形ソースと、プリディストーション処理部および送信信号生成部を備える。プリディストーション処理部は、第1増幅器に対するプリディストーション係数を第1モニタ信号に基づいて算出し、第2増幅器に対するプリディストーション係数を第2モニタ信号に基づいて算出する。送信信号生成部は、アレイアンテナから放射されるレーダ波のスペクトルマスク要件を満たすべく、源パルス波形をプリディストーション係数に基づいて整形して送信信号を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係わるフェーズドアレイレーダ装置の一例を示す系統図である。
【
図2】
図2は、サブアレイ送信器2の一例を示す系統図である。
【
図3】
図3は、送信処理部6の一例を示す系統図である。
【
図4】
図4は、受信処理部7の一例を示す系統図である。
【
図5】
図5は、演算処理部8の一例を示す系統図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係わる制御シーケンスの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態において得られる効果について説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
フェーズドアレイレーダ装置は、フェーズドアレイの各素子アンテナごとに1系統の送信器を備える。通常規模のフェーズドアレイレーダ装置は、1台で数百~数千個の送信器を有する。さらに、送信電力を上げるために、最終段のアンプの前に利得を上げるためのプリアンプを設けることが必要になる。すなわち、各送信器において、複数個の増幅器が直列に接続される。
【0009】
近年では、出力電力を大きくできるGaN(ガリュウムナイトライド)の増幅器を用いることが増えているが、GaNはGaAs(ガリュウムヒ素)の増幅器に比べて利得は小さい。このためGaNを用いる場合、GaAsよりも多数のプリアンプを必要とする。
【0010】
GaN増幅器、GaAs増幅器はAB級アンプであり、フェーズドアレイレーダ装置においては入力信号の変動が出力に影響しないようにB級動作させる。すなわち飽和領域で動作させるので、直列接続される各々の増幅器の入出力の関係は非線形動作となる。従って、通信技術で用いられる1段の増幅器に対するプリディストーション技術を適用しても全く効果がないことになる。以下では、このような困難を解決するための技術について開示する。
【0011】
図1は、実施形態に係わるフェーズドアレイレーダ装置の一例を示す系統図である。実施形態では、複数の素子アンテナをユニット化したサブアレイ送信器を複数備える、サブアレイアンテナについて説明する。素子アンテナごとに一つの送信器を備える形式のアレイアンテナにおいても同様の議論が成り立つ。
【0012】
図1において、送信側にM系統(#1~#M)のサブアレイ送信器2が設けられ、受信側にL系統(#1~#L)のサブアレイ受信器5が設けられる。サブアレイ送信器2は、例えばK個(#1~#K)の素子アンテナを備える。素子アンテナはアレイアンテナを形成し、それぞれがレーダパルスを送信する。これにより、全体として、波面を制御されたレーダ波が空間に放射される。
【0013】
電源9により、直流(DC)電源がサブアレイ送信器2、サブアレイ受信器5に供給される。また、例えば交流(AC)電源が、送信処理部6、受信処理部7、および演算処理部8に供給される。送信処理部6、受信処理部7、および演算処理部8を含む機能単位を、信号処理部と称する。
さらに、
図1のレーダ装置は信号分配器3、および、信号合成器4を備え、必要に応じて電源9から信号分配器3、信号合成器4に電力が供給される。
【0014】
送信処理部6は、送信チャープ信号を生成する。この送信チャープ信号は信号分配器3によりM系統に分岐され、それぞれサブアレイ送信器2(#1~#M)に入力される。また送信処理部6は、素子アンテナ1に給電される送信信号の位相を移相器で制御するための移相制御信号、および、送信タイミングを制御するタイミング信号を生成し、サブアレイ送信器2(#1~#M)に入力する。
【0015】
サブアレイ送信器2(#1~#M)は、それぞれ、モニタ信号Nを時分割で時系列的に出力する。モニタ信号Nは、素子アンテナに直列接続された複数の増幅器の出力を分岐して取り出される信号であり、詳しくは
図2以降の開示において説明する。それぞれのモニタ信号Nは、M合成を行う信号合成器4を介して受信処理部7に入力される。モニタ信号Nは各サブアレイ送信器2から時分割で出力されるので、信号合成器4で加算合成されることなく、独立な信号として受信処理部7に入力される。
【0016】
受信処理部7には、サブアレイ受信器5(#1~#L)からの各受信信号#1~#Lも入力される。受信処理部7は、モニタ信号N、および受信信号#1~#Lをそれぞれアナログ/ディジタル変換(A/D変換)したのちデジタルI/Q検波して、モニタI/Q信号、およびサブアレイI/Q信号(#1~#L)を生成し、演算処理部8に出力する。
【0017】
演算処理部8は、モニタ信号NのデジタルI,Q信号(モニタI/Q信号)に基づいてプリディストーション演算を行い、プリディストーション係数を生成する。このプリディストーション係数は送信処理部6に渡され、移相制御信号、タイミング信号の生成に利用される。また、演算処理部8は、受信信号#1~#LのデジタルI,Q信号(サブアレイI/Q信号(#1~#L))に基づいて空中線制御信号を生成する。この空中線制御信号は、送信処理部6、および受信処理部7に入力される。
【0018】
図2は、サブアレイ送信器2の一例を示す系統図である。サブアレイ送信器2は、素子アンテナ#1~#Kに各々対応する、K個(#1~#K)の送信系統30を有する。
図2において、送信処理部6(
図1)からの移相制御信号は移相信号分配回路36でK系統に分配され、各送信系統30に入力される。また、送信処理部6(
図1)からの送信チャープ信号(入力RF(Radio Frequency)信号)が、K分配器21によりK個の系統に分配され、各送信系統30に入力される。
【0019】
送信系統30は、移相器22、前段増幅器23、カプラ24、中段増幅器25、カプラ26、後段増幅器27、カプラ28、および、ローパスフィルタ29を備える。移相器22は、移相制御信号に基づいて送信チャープ信号(入力RF信号)の位相を制御する。
移相制御された送信チャープ信号は、前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27によって順次、増幅される。ここで、前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の少なくともいずれかは、飽和領域で動作する。実施形態では前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の全てを飽和領域で動作させる。後段増幅器27の出力は最終的にローパスフィルタ29に入力され、2倍波、3倍波、4倍波、5倍波などの高調波を抑圧したのち素子アンテナ1に給電される。
【0020】
ここで、前段増幅器23の出力は、カプラ24により分岐出力され、K合成回路(前)31に入力される。中段増幅器25の出力は、カプラ26により分岐出力され、K合成回路(中)32に入力される。同様に、後段増幅器27の出力は、カプラ28により分岐出力され、K合成回路(後)33に入力される。
【0021】
K合成回路(前)31は、各送信系統30の前段増幅器23の分岐出力を合成し、3合成回路34に入力する。K合成回路(中)32は、各送信系統30の中段増幅器25の分岐出力を合成し、3合成回路34に入力する。K合成回路(後)33は、各送信系統30の後段増幅器27の分岐出力を合成し、3合成回路34に入力する。3合成回路34は入力された各信号を合成し、モニタ信号として出力する。
【0022】
さらに、送信処理部6(
図1)からのゲート信号、各増幅器へのオン/オフ(入/切)制御信号が、電源9(
図1)からのDC電源とともに電源回路35に入力される。送信処理部6は、レーダ波の送信タイミングに同期して、前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の少なくともいずれかを駆動するゲート信号を発生出力する。すなわち、送信処理部6からのゲート信号、各増幅器への入力のオン/オフ制御信号により、各々K個の前段増幅器23、中段増幅器25、後段増幅器27のうちの何れかを任意に選択し動作させることができる。
【0023】
図3は、送信処理部6の一例を示す系統図である。送信処理部6は、送信移相制御回路61、送信タイミング制御回路62、および、送信信号生成回路63を備える。送信移相制御回路61は、演算処理部8(
図1)からの空中線制御信号に基づいて移相制御信号を生成出力する。送信タイミング制御回路62は、空中線制御信号に基づいて、ゲート信号、および各増幅器23,25,27のオン/オフ信号を生成し、出力する。さらに、送信タイミング制御回路62は、オン/オフ信号とともに送信タイミング、およびパルス幅制御信号を送信信号生成回路63に入力する。
【0024】
送信信号生成回路63は、素子アンテナ1を配列したアレイアンテナから放射されるレーダ波のスペクトルマスク要件を満たすべく、源パルス波形をプリディストーション係数に基づいて波形整形し、送信信号を生成する。
【0025】
送信信号生成回路63は、源パルス波形を記憶する源信号メモリ64と、演算処理部8から送られた前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の各プリディストーション係数を記憶するプリディストーション係数メモリ65と、乗算器66、67、68、ディジタル/アナログ(D/A)変換器69、および、アップコンバータ70を具備する。
【0026】
源信号メモリ64は、チャープ変調されたレーダパルスの源パルス波形(チャープ波形)を供給する。一方、前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の各プリディストーション係数が、プリディストーション係数メモリ65から読み出され、乗算器66、67、68により、源信号メモリ64からのチャープ波形とディジタル乗算される。これにより波形整形されたディジタルのチャープ波形は、D/A変換器69によりアナログ信号に変換され、アップコンバータ70で周波数変換される。このようにして、波形生成された送信チャープ信号(RF信号)が生成され、出力される。
【0027】
図4は、受信処理部7の一例を示す系統図である。受信処理部7は、受信移相制御回路71、受信タイミング制御回路72、および受信回路73を具備する。受信移相制御回路71は、演算処理部8(
図1)からの空中線制御信号に基づいて、受信移相制御信号を生成出力する。受信タイミング制御回路72は、空中線制御信号に基づいて、受信オン/オフ信号を出力する。
【0028】
また、受信回路73は、L系統のサブアレイ受信器5から出力された受信信号をアナログ/ディジタル(A/D)変換回路74でデジタルに変換し、I/Q検波回路75によりビーム形成用のデジタルI、Q信号に変換する。また、受信回路73はモニタ信号Nを受け入れ、A/D変換器74、I/Q検波回路75により、プリディストーション用のデジタルI/Q信号に変換する。それぞれのデジタルI/Q信号(I/Qデータ)はデータ転送回路76から出力される。
【0029】
図5は、演算処理部8の一例を示す系統図である。演算処理部8は、ビーム形成処理部81、パルス圧縮処理部82、MTI(Moving Target Indicator)処理部83、積分処理(パルスドップラ)部84、検出処理部85、レポート作成処理部86、スケジュール生成処理部87、空中線制御処理部88、およびデジタルプリディストーション処理部89を具備する。
【0030】
ビーム形成用のI/Qデータは、受信回路73からビーム形成処理部81に入力され、次いで、パルス圧縮処理部82、MTI処理部83、積分処理部84、検出処理部85、およびレポート作成処理部86を経てターゲットレポートが生成出力される。
【0031】
スケジュール生成処理部87は、サブアレイ送信器2の各増幅器23,25,27を順次、オン/オフ制御するためのスケジュール制御信号を出力する。このスケジュール制御信号は、空中線制御処理部88に送られる。空中線制御処理部88は、PRI(パルス繰り返し)期間、パルス幅、送信周波数、チャープ種別の情報と、各増幅器23,25,27の指定指示に対応するオン/オフ制御情報を含む空中線制御情報を生成し、送信処理部6(
図1)に出力する。さらに、これらの制御により、指定した増幅器のカップリング信号が、デジタルプリディストーション処理部89に入力される。
【0032】
デジタルプリディストーション処理部89は、ボルテラフィルタ等を用いたデジタル演算により、プリディストーション係数を算出する。算出されたプリディストーション係数は、送信処理部6(
図1)に入力される。プリディストーション係数を反映された送信チャープ信号がサブアレイ送信器2に入力される。
【0033】
以上の構成により、指定された増幅器のプリディストーション制御が実現され、出力波形は再度、デジタルプリディストーション処理部89に入力される。そうして、検波波形が、送信処理部6内の源信号メモリ64に記憶された時間波形(立ち上がり期間、立下り期間)となることを確認する。次に、上記構成における作用を説明する。
【0034】
図6は、実施形態に係わる制御シーケンスの一例を示す図である。実施形態のレーダ装置は、L個のサブアレイ送信器2を備え、各サブアレイ送信器2は、K個の素子アンテナ系統を有する。それぞれの素子アンテナ系統は、いずれも非線形領域で動作する(非線形動作)前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27を備える。
図6のシーケンスは、このように系統ごとに3段の増幅器を有するレーダ装置に向けての一例であり、増幅器の数などに応じてシーケンスは変更され得る。
【0035】
図6のシーケンスにおいて、信号処理部は、任意のサブアレイ送信器2の一つを指定し(L=1)、任意の素子系統の一つを選択する(ステップS11)。次に信号処理部は、前段増幅器23のアドレス(K=1)を指定し(ステップS12)、当該前段増幅器23だけをオンする。
【0036】
次に信号処理部は、源チャープ波形を発生し(ステップS13)、このチャープ波形にプリディストーションを実施したのち(ステップS14)、前段増幅器への補正係数を記憶してから(ステップS15)、前段補正係数を転送する(ステップS16)。そうして、前段増幅器への補正チャープを発生して補正係数を源チャープ波形に反映する(ステップS21)。こののち信号処理部は、前段増幅器23の出力検波波形を確認する(ステップS22)。
次に、信号処理部は、同じサブアレイ送信器2の素子系統の中段増幅器25のアドレス(K=1)を指定し、前段増幅器23と中段増幅器25をオンする(ステップS23)。
【0037】
次に信号処理部は、中段増幅器25の出力波形にプリディストーションを実施したのち(ステップS24)、中段増幅器25への補正係数を記憶してから(ステップS25)、中段補正係数を転送する(ステップS26)。そうして、中段増幅器25への補正チャープを発生し、中段増幅器25の出力に補正係数を反映する(ステップS31)。こののち信号処理部は、中段増幅器25の出力検波波形を確認する(ステップS32)。
【0038】
さらに、信号処理部は、同じサブアレイ送信器2の素子系統の後段増幅器27のアドレス(K=1)を指定し(ステップS33)、前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27をオンする。
【0039】
次に信号処理部は、後段増幅器27の出力波形にプリディストーションを実施したのち(ステップS34)、後段増幅器27への補正係数を記憶してから(ステップS35)、後段補正係数を転送する(ステップS36)。そうして、後段増幅器27への補正チャープを発生し、後段増幅器27の出力に補正係数を反映する(ステップS41)。こののち信号処理部は、後段増幅器27の出力検波波形を確認する(ステップS42)。
【0040】
以上のシーケンスは、サブアレイ送信器2の全ての素子アンテナについて(n=K)実施され(ステップS43)、一つのサブアレイ送信器2についての補正係数が決定される(ステップS44)。さらに、以上のシーケンスが全てのサブアレイ送信器2について(n=L)実施されて処理は完了する。
ここで、ステップS22,S32,S42の検波波形確認は、検波波形のうち、パルス包絡線の立ち上がり期間に確認と、立下り期間の確認とである。
【0041】
図7は、実施形態において得られる効果について説明するための波形図である。サブアレイ送信器2へのタイミング信号は、チャープ信号、ゲート信号である。ここで、ゲート信号はDC電源を入とするタイミング信号であり、ゲート信号が例えばHiの時だけ各増幅器23,25,27への電源を入とし、チャープ信号を増幅し出力する。
図6のシーケンスにおける波形確認は、
図7(b)のチャープ信号の最終段増幅器の出力の検波波形であり、パルス立ち上がり期間と立下りが期間の傾きが妥当であるかを確認するものである。
【0042】
図7(a)に示されるように、従来方式では、ゲートに対し、チャープ信号を長くして、ゲート信号の立ち上がり期間と立下り期間の傾きを緩やかにすることでスペクトルマスクを制御していた。この方式では、チャープ信号の変動だけでなく、ゲート信号の変動及び、ゲート信号から生成される増幅器への電源入信号の変動が送信安定度に直接影響し、ジッタを生じる。つまり、送信信号に2重にジッタが生じることになる(信号ジッタおよびゲートジッタ)。これは、レーダのクラッタ抑圧性能(MTI、パルスドップラ)に悪影響を与えることになる。
【0043】
これに対し実施形態によれば、
図7(b)のように、チャープ信号の時間波形よりもゲート信号の期間を長くすることができ、従って、送信安定度は入力されるチャープ信号のみに依存することになる。つまり、ゲート信号にジッタが生じたとしても送信信号に影響が及ぶことが無い。以上から、チャープ信号の立ち上がり期間と立下り期間により、全ての増幅器出力のスペクトルマスクが制御できることになる。
【0044】
<構成および作用のまとめ>
実施形態における構成および作用を、以下にまとめる。
(1) 各増幅器23,25,27の出力にそれぞれモニタ信号を分岐出力するカプラ24,26,28を具備する。
(2) 各増幅器23,25,27は個別にオン/オフ制御可能とする。
(3) 外部からの制御信号により、増幅器23,25,27のオン/オフ制御を、入力側に近い最前段の増幅器(増幅器23)から順次行う。併せて、外部からチャープのパルス信号を入力する。
(4) オンとなっている最前段の増幅器23の出力信号を、カプラ24によるカップリング信号として受信回路73に折り返す。
(5) 折り返されたモニタ信号を、受信回路73にてI/Q信号に復調し、その信号からプリディストーションを実施する。
(6) プリディストーションによる係数を送信信号生成回路63に反映する。
(7) 再度、プリディストーションされたチャープ信号を入力し、最前段の増幅器23の出力をカプラ24により受信回路73に折り返し、I/Q検波し、波形成形が妥当かを判定する。
(8) 次に、次段の増幅器25もオンし、その出力信号をカプラ26にて受信回路73に折り返し、I/Q検波後、プリディストーションを行って送信信号生成回路63に反映する。
(9) 反映した波形成形が妥当なのかについて、再度、中段増幅器25の出力をカプラ26にて受信回路に折り返し、I/Q検波後に確認する。
(10) 以上のように、直列接続された増幅器の数だけ、順次、プリディストーションを繰り返し、最終段の増幅器27の出力が波形成形されることを確認する。
【0045】
<効果>
以上説明したように、実施形態によれば、送信系統を例えば数百~数千も有し、かつ、多段に直列接続された非線形増幅器を備えるフェーズドアレイレーダ装置において、1入力の入力RF信号に対して、プリディストーションを実施する。すなわち、直列接続された増幅器を順次、独立にプリディストーションし、送信信号生成回路に反映することで、最終出力波形を制御する。これにより、増幅器への入力信号によるスペクトルマスク制御を実施することが可能になる。
【0046】
既存の技術では、飽和領域で使用する増幅器を多段に接続して使用する場合、入力信号(パルス波形)の時間波形の立ち上がり時間、立下り時間を制御しても、増幅器の非線形性からスペクトルマスクを制御することができない。そのため、印加電源(パルス動作)の立ち上がり、立下りを変えてスペクトルマスクを制御している。しかしこの方式では、印加電源の時間ジッタがそのまま送信信号のジッタとなってしまうので、例えばレーダのクラッタ抑圧性能(MTI,パルスドップラ)に悪影響がもたらされる。また、通信で行われているプリディストーションは多段の増幅器には効果が無い。
【0047】
これに対し実施形態では、多段の増幅器に対し、独立してプリディストーション制御を行うことが可能になり、印加電源のパルス動作に依存することが無い。これにより、クラッタ抑圧性能に影響を与えることなく、スペクトルマスクを制御できる。従って実施形態によれば、送信安定度を劣化させずにスペクトルマスクを制御できるようにしたレーダ装置および信号処理方法を提供することが可能となる。
【0048】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、実施形態においては説明をわかりやすくするため、送信アンテナの系統と受信アンテナの系統とを分離した形式のフェーズドアレイレーダ装置について説明した。これに限らず、一般的なレーダ装置が採用する送受共用アンテナであっても、開示した技術は同様に成り立つ。
【0049】
また、実施形態では、送信系統30ごとに前段増幅器23、中段増幅器25、および後段増幅器27の3つの増幅器を備える形態について説明したが、増幅器の数は3個に限定されるものではなく2個、あるいは4個以上であってよい。3合成回路34の合成数は増幅器の数に応じた数とすればよい。
【0050】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1…素子アンテナ、2…サブアレイ送信器、3…信号分配器、4…信号合成器、5…サブアレイ受信器、6…送信処理部、7…受信処理部、8…演算処理部、9…電源、21…K分配器、22…移相器、23…前段増幅器、24,26,28…カプラ、25…中段増幅器、27…後段増幅器、28…カプラ、29…ローパスフィルタ、30…送信系統、31,32,33…K合成回路、34…合成回路、35…電源回路、36…移相分配回路、61…送信移相制御回路、62…送信タイミング制御回路、63…送信信号生成回路、64…源信号メモリ、65…プリディストーション係数メモリ、66,67,68…乗算器、69…D/A変換器、70…アップコンバータ、71…受信移相制御回路、72…受信タイミング制御回路、73…受信回路、74…A/D変換器、75…I/Q検波回路、76…データ転送回路、81…ビーム形成処理部、82…パルス圧縮処理部、83…MTI処理部、84…積分処理部、85…検出処理部、86…レポート作成処理部、87…スケジュール生成処理部、88…空中線制御処理部、89…デジタルプリディストーション処理部。