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特開2023-95430生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キット
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  • 特開-生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095430
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230629BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/53 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211309
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 達哉
(57)【要約】
【課題】 本発明は、養豚の現場において唾液などの生体試料中のエストロン濃度を高感度かつ迅速、簡便に測定可能なイムノクロマト測定キットを提供する。
【解決手段】 本発明は、生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されおり、前記膜担体は、抗エストロン抗体が固定化されたテストラインを備えることを特徴とする測定キットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、
前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されおり、
前記膜担体は、抗エストロン抗体が固定化されたテストラインを備えることを特徴とする測定キット。
【請求項2】
前記競合試薬は、エストロンとビオチンとの複合体であることを特徴とする請求項1に記載の測定キット。
【請求項3】
前記ランタノイドが、ユウロピウム、テルビウム、サマリウム、またはジスプロシウム、あるいはそれらの組み合わせである、請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項4】
前記生体試料は、唾液、糞、尿、全血、血漿または血清であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の測定キット。
【請求項5】
ブタの妊娠状態を判定するために用いられることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キットに関する。より詳しくは、生体試料(検体)を希釈するための検体希釈液、競合試薬およびイムノクロマトストリップからなる、生体試料中のエストロンを定量するための測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養豚経営は大型化・企業化が進みつつあり、また、人工授精もかなり普及している。このような現状において、交配または人工授精後、早期に繁殖母豚の妊娠/非妊娠を診断することの重要性が高まっている。豚においても牛や馬と同様に、血液中のホルモン濃度を測定することにより、早期妊娠診断が可能であることは以前から知られている。しかし、これらはほとんど臨床応用されていないのが現状である。その理由の一つとして、豚の場合、検査材料である血液の採取が他の家畜に比べやや困難であることがあげられる。これに対し、例えば母豚の唾液中や糞中のエストロン濃度を測定することにより、妊娠診断が可能であることが報告されている。しかし、唾液中のエストロン濃度は、血液中の濃度の1/10程度であり、通常は1ng/mL未満という極めて低い濃度であることも報告されている。(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
従来、こうしたホルモンはRIAやEIA法による測定が主であったが、操作が煩雑で結果が出るまでに長時間を要するため、豚の臨床現場では応用価値が低いと思われる。即ち、養豚の現場においては、極めて低濃度の生体試料中のホルモン濃度を、高感度かつ簡便に測定する技術が求められている。
【0004】
特許文献1、2には、尿中のエストロンをイムノクロマトストリップを用いて測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Vet.Med.Sci.59(9):759-763,1997
【非特許文献2】Theriogenology,51:829-840,1999
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平8-500670号公報
【特許文献2】特開平10-115614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために案出されたもので、唾液などの生体試料中に存在するエストロン濃度を、高感度かつ迅速に測定し、豚の妊娠の有無を容易に判定することができるエストロン測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、
前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されおり、
前記膜担体は、抗エストロン抗体が固定化されたテストラインを備えることを特徴とする測定キット。
(2) 前記競合試薬は、エストロンとビオチンとの複合体であることを特徴とする(1)に記載の測定キット。
(3) 前記ランタノイドが、ユウロピウム、テルビウム、サマリウム、またはジスプロシウム、あるいはそれらの組み合わせである、(1)または(2)に記載の測定キット。
(4) 前記生体試料は、唾液、糞、尿、全血、血漿または血清であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の測定キット。
(5) ブタの妊娠状態を判定するために用いられることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の測定キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、豚の生産現場において生体試料中のエストロン濃度を高感度かつ、迅速、簡便に測定することが可能なエストロン定量用イムノクロマト測定キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(上面図)である。
図2】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(側面図)である。
図3】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップをハウジングケースに収容した一例を示す模式図である。
図4】本発明のイムノクロマト測定キットを用いて得られたエストロンの測定結果の一例を示す図(グラフ)である。
図5】本発明のイムノクロマト測定キットおよび電気化学発光免疫測定法による測定値の関係を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、生体試料中のエストロンを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されおり、前記膜担体は、抗エストロン抗体が固定化されたテストラインを備えることを特徴とする測定キットである。
【0014】
(生体試料)
本発明において、生体試料は、特に限定されるものではないが、唾液、糞、尿、血液(全血でも血清でも血漿でもよい)等が適している。動物種も、ブタの他、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコなどの生体試料を測定対象とすることが出来る。
【0015】
(エストロン)
エストロンは、動物の雌の卵巣から分泌されるステロイドホルモンで、卵胞ホルモンの一種である。エストラジオール、エストリオールなど同じ作用をする物質を含めエストロゲンと総称される。妊娠した動物の尿中には多く含まれており、天然物から最初に単離された卵胞ホルモンである。エストロンは、成熟した卵胞や胎盤から分泌され、生殖腺の発育などを促進する。特に、脳下垂体前葉から分泌される生殖腺刺激ホルモン、黄体から分泌される黄体ホルモンと共同して働き、性周期や妊娠から出産に至る期間を調節している。
【0016】
(ランタノイド)
ランタノイド(Ln)とは、周期表で第6周期第3族に位置する15個の金属元素の総称である。これらの金属は他の分子との複合体(錯体)を形成したときに強い蛍光を発するが、その蛍光は、通常の有機化合物の蛍光に比べて、水中で約1万倍から10万倍という長い蛍光寿命を持つことが大きな特徴である。ランタノイド錯体の蛍光プローブを用いれば、励起光を照射した後に一定の時間を置いて(余分な蛍光が減衰してから)測定を開始することにより、高いS/N比で測定することが出来る。これは時間分解測定と呼ばれる。
【0017】
(ランタノイド標識)
ランタノイド錯体は、蛍光標識物質として抗体などのタンパク質に結合させることが出来る。例えば、市販の標識体作成のためのキット(QuickALLAssayTMユーロピウムキレートラベリングキット、BNpands、W1024)などを利用することが出来る。キットを利用して、例えば、ユウロピウム錯体標識した抗ビオチン抗体を作製することが出来る。
【0018】
(蛍光強度測定)
前述のように、ランタノイドは、通常の蛍光物質と比較して蛍光寿命が非常に長いという特徴がある。この特徴を利用した時間分解測定では、通常の蛍光が消光した後に測定を開始し、一定時間内の蛍光強度の測定を行う。更に、ランタノイドはストークスシフト(ユウロピウムの場合は、励起波長340nm,蛍光波長615nm)が非常に広いという特徴も持ち合わせているため、バックグラウンドの影響を最小限に抑えることができる。本発明の測定キットの蛍光強度測定には、ユウロピウムの時間分解測定に対応したイムノクロマトリーダーなどが好適に利用出来る。
【0019】
(検体希釈液)
本発明において、検体希釈液は、所定のpH範囲において充分な緩衝能力を有していれば、いかなる種類の緩衝剤を用いてもよく、例えば、トリス、リン酸、フタル酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、ホウ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、グッドバッファー(MES、ADA、PIPES、ACES、コラミン塩酸、BES、TES、HEPES、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン)等が挙げられる。
【0020】
本発明において、検体希釈液は、イムノクロマトストリップ上での生体試料の展開性を向上させ、かつ免疫反応に影響しない非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、前記界面活性剤は単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、検体希釈液中の界面活性剤の濃度は、生体試料の希釈倍率にもよるが0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.15質量%以下がさらに好ましい。濃度が低すぎると、生体試料希釈液が展開しにくくなることがあり、濃度が高すぎると、テストラインのシグナルが低くなることがある。
【0021】
また、検体希釈液は、競合反応の効率化、促進、特異性向上のために、ポリエチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。検体希釈液へのポリエチレングリコールおよび塩化ナトリウムの添加濃度は、生体試料希釈液中の終濃度がそれぞれ、1質量%以上4質量%以下、1質量%以上3質量%以下となるように添加するのが好ましい。なお、使用するポリエチレングリコールの数平均分子量は、好ましくは2000以上16000以下であり、より好ましくは5000以上10000以下である。数平均分子量が小さい場合、本発明に適した充分な抗原抗体反応の促進作用が得られないことがある。また、数平均分子量が大きい場合、同様に、抗原抗体反応の促進作用が得られないとか、検体希釈液の粘性が高くなり、イムノクロマトストリップ上の展開性が低下することがある。
【0022】
(競合試薬)
本発明において、競合試薬は、生体試料中の遊離またはタンパク質に結合した状態のエストロンと競合することが出来、かつ抗エストロン抗体に結合可能であれば特に制限はない。競合試薬としては、エストロンとビオチンとの複合体を用いるのが好ましい。複合体とすることによりエストロンが安定し、また性能の良い抗体が入手し易いことから好ましい。詳細な理由は不明だが、エストロンと低分子量であるビオチンとの複合体は、エストロンとアルブミン等の高分子量物質との複合体よりも、生体試料中のエストロンに対して競合原理が働きやすいと推測している。また、エストロンとビオチンとの複合体は、エストロンと牛血清アルブミンなどのタンパク質(高分子量物質)との複合体よりも製造コストを低く抑えられるメリットもある。
【0023】
なお、ビオチンと複合体を形成したエストロンは、不安定な化合物であり、容易に分解してしまう畏れがある。そのため、競合試薬は低温、暗所にて使用時まで保存するのが好ましい。保存温度としては4℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-80℃以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明において、検体を検体希釈液を用いて希釈する際には、生体試料1mLに対して競合試薬を1pg以上1ng以下添加するのが好ましい。生体試料中のエストロン濃度と競合試薬の添加量の差が大きすぎると競合が上手くいかず定量性が低下することがある。なお、競合試薬は凍結乾燥等されたものを用いてもよいし、溶液の状態であってもよい。また、競合試薬を予め検体希釈液に混合、低温保管したものを使用してもよい。
【0025】
(イムノクロマトストリップ)
イムノクロマトストリップの具体例としては、図1、2に示すようなイムノクロマトストリップ8が挙げられる。図1、2において、1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、4はテストライン、5はコントロールライン、6は試料添加部材、7は吸収部材を示している。膜担体3は、幅5mm、長さ25mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンからなり、同じく幅5mmの粘着シート1の中ほどに貼り付けられている。膜担体3には、クロマト展開の始点側、すなわち図1、2の左側(上流側)の末端から右側(下流側)に向かって3mm以上15mm以下の位置に、試料中エストロンまたはエストロンとビオチンの複合体を捕捉するためのテストライン4が形成(抗エストロン抗体が線状に固定)されている。さらに、膜担体3の上流側の末端から下流側に向かって8mm以上25mm以下の位置にコントロールライン5が形成(ランタノイド標識抗体を特異的に結合する抗体が線状に固定)されている。なお、テストラインはコントロールラインよりも上流側に配置され、テストラインとコントロールラインとの距離は3mm以上10mm未満とするのが好ましい。コントロールライン5は、分析対象物質であるエストロンの存否に係わらずイムノクロマト展開が行われたことを確認するためのものである。
【0026】
(試料添加部材)
本発明において、試料添加部材6は、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、あるいは、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または不織布などを用いることができる。
【0027】
(含浸部材)
本発明において、含浸部材2は、5mm×15mmの帯状のガラス繊維を用いるが、これに限定されるものではなく、例えば、濾紙、ニトロセルロース膜、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック不織布なども使用できる。含浸部材2は、ランタノイド錯体で標識された抗体またはアビジン/ストレプトアビジンを含む溶液を前記ガラス繊維等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることなどによって作製できる。
【0028】
(膜担体)
本発明において、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いるが、生体試料に含まれるエストロンをクロマト展開可能で、かつ、テストライン4を形成する抗体等の物質を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0029】
(テストライン)
本発明において、テストライン4に固定化する抗体は、抗エストロン抗体であればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0030】
(抗エストロン抗体)
エストロンは低分子化合物(分子量270)であり十分な複雑性を備えていないため、通常では免疫応答を誘発できない。このため、免疫した動物に抗体を産出させるには、卵白アルブミンなどのキャリアタンパク質にエストロンを化学結合したものを免疫原として用いる必要がある。また、アジュバントを混合して免疫原を注入すると、免疫応答強度が上がり、よい抗体を得られる可能性が高まる。ポリクローナル抗体は、ウサギやマウスなどに免疫して得られた抗血清から精製して得ることが出来る。モノクローナル抗体の産生細胞は、例えば、エストロンと卵白アルブミンの結合物を適当なアジュバントとともにマウスのような動物に免疫したのち、免疫された動物の脾細胞とミエローマ細胞とを融合し、融合細胞のみが増殖出来る選択培地で培養し、増殖した細胞を前記エストロンとの結合物などを使用して、たとえば酵素標識免疫法などを利用して選別することにより取得することができる。
【0031】
(コントロールライン)
本発明において、コントロールライン5には、標識抗体中の抗体を特異的に結合する抗体が固定化されているのが好ましい。前記抗体としては、抗IgG抗体を用いることができ、具体的には、抗ヤギIgG抗体などを捕捉すべき抗体の種類に合わせて用いる。コントロールラインは、この抗体を膜担体に固定化することによって形成することができる。コントロールラインを用いることにより、標識された抗体が膜担体の最下流部まで移動したこと、即ち、イムノクロマト展開が(正常に)行われたことを確認することができる。
【0032】
(吸収部材)
本発明において、吸収部材7は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0033】
イムノクロマトストリップは、これを保護するため、また、取り扱いがし易いように、プラスチック製のハウジングケース9などに収容されるのが好ましい(図3)。このケースは、例えば、イムノクロマトストリップの試料添加部材6の上部に試料滴下部10が開口され、テストライン4およびコントロールライン5の上部に判定部(判定窓)11が開口されていることが好ましい。
【0034】
(イムノクロマト展開)
本発明のエストロンの定量方法について説明する。まず、生体試料、競合試薬、および検体希釈液を混合して生体試料希釈液を調製する。得られた生体試料希釈液をイムノクロマトストリップの試料滴下部位に滴下して毛細管現象を利用してイムノクロマトストリップ上を展開させる。展開した生体試料希釈液は、含浸部材を通過する際に、標識された抗体(または標識されたアビジン/ストレプトアビジン)を溶出させる。生体試料希釈液中のエストロンは、展開中に競合試薬(エストロンとビオチンとの複合体)と競合的にテストラインを成す抗エストロン抗体に捕捉される。そして、標識された抗体は、抗エストロン抗体に捕捉された競合試薬(エストロンとビオチンとの複合体)に結合する。こうして得られたテストラインのシグナル(蛍光強度)を測定することにより定量することが出来る。なお、展開開始後、5~12分の間にテストラインのシグナルを測定することが望ましい。この間に測定を行えば、エストロンと、競合試薬(エストロンとビオチンの複合体)との競合反応が最も効果的に起き、エストロンの濃度変化に応じた測定値の変化がテストラインにおいて得られ、エストロン濃度の違いが測定値に的確に反映されるため好ましい。即ち、生体試料中のエストロン濃度を正確に測定することが出来る。5分未満では、抗エストロン抗体と生体試料中のエストロンまたは競合試薬(エストロンとビオチンとの複合体)との反応が充分でないため測定値が低くなるか、生体試料中のエストロン濃度の違いを正確に反映した測定値を得ることが出来ないことがある。また、12分を超えると、テストラインに固定された抗エストロン抗体に対する非特異的な反応が増加するため、生体試料中のエストロン濃度に応じた正確な測定値変化が得られなくなることがある。
【0035】
(競合法)
本発明において、生体試料中のエストロンは競合法により定量するのが好ましい。エストロンのような低分子化合物は、2種類の抗体でサンドイッチすることが難しいため、競合法をとることが好ましい。
【0036】
(イムノクロマト測定キット)
本発明のイムノクロマト測定キットは、上記のイムノクロマトストリップに加えて、検体を希釈するための検体希釈液、競合試薬を少なくとも含み、更に必要に応じて、検量線を作成するためのエストロン標準液や、生体試料希釈液を調製するための容器などを含む。また、イムノクロマト結果を測定するための測定装置(クロマトリーダー等)も含む場合がある。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0038】
(競合試薬の調製)
エストロン(シグマアルドリッチ、E9750)を、Biotin-hydrazide(同仁化学、B303)を用いて、ビオチン化することにより、競合試薬(エストロン-ビオチン複合体)を調製した。調製後、使用時まで-30℃にて保存した。
【0039】
(ランタノイド錯体標識抗ビオチン抗体の作製)
蛍光標識試薬であるユウロピウム錯体(ATBTA-Eu3+、東京化成工業、A2083)を用いた。即ち、タンパク質のアミノ基にジクロロトリアジニル基を導入し、DTBTA―Eu3+に変換することにより、抗ビオチン抗体のアミノ基をユウロピウム錯体標識して作製した。抗ビオチン抗体として、Goat Anti-Biotin antibody、シグマアルドリッチ、B3640を用いた。
【0040】
(検体希釈液の調製)
リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、ナカライテスク社、27576-21)に、TritonX-100(シグマアルドリッチ社、10789704001)、ポリエチレングリコール、およびNaClの終濃度がそれぞれ、0.1質量%、1.5質量%、1.0質量%になるように加えて溶解させ、検体希釈液を調製した。
【0041】
(抗エストロン抗体の作製)
エストロンとBSA(ウシ血清アルブミン)の結合物をマウスに免疫して得られた血清から、アフィニティクロマトグラフィーによりIgGを精製して得られたものを、抗エストロン抗体とした。
【0042】
(含浸部材の作製)
8mm×150mmの帯状のガラス繊維不織布に、上記で得られたユウロピウム錯体標識した抗ビオチン抗体液(0.5mg/mL)を0.5mL含浸させた。室温で乾燥させた後に、8mm×5mmの大きさに切断し、含浸部材とした。
【0043】
(膜担体の作製)
前記抗エストロン抗体を1mg/mLの濃度に調整した後、これを25mm×300mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μL/cmの量で線状に塗布してテストラインを作製した。
次に、抗ヤギIgG抗体(Donkey Anti-Goat IgG、アブカム、ab182021)を1mg/mLの濃度に調製した後、上記ニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μL/cmの量で線状に塗布してコントロールラインを作製した。
テストラインおよびコントロールラインを作製後、50℃で30分間乾燥させ、25mm×5mmの大きさに切断し、膜担体とした。
【0044】
(イムノクロマトストリップの作製)
粘着シート上に、調製した膜担体、含浸部材に加えて試料添加部材、吸収部材を配置し、イムノクロマトストリップを作製した。
【0045】
(エストロン標準液の調製)
エストロン(シグマアルドリッチ、E9750)をPBS(リン酸緩衝生理食塩液)に添加し、エストロン標準液を調製した。
【0046】
(測定キットを用いた定量)
上記標準液に検体希釈液を加えて表1に示す各濃度のエストロン(生体試料)希釈液を調製した。エストロン希釈液100μLあたり30pgの競合試薬を加えた後、イムノクロマトストリップの試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社製、C10066-50)を用いてテストラインの蛍光強度を測定した。結果を表1および図4に示す。本発明の測定キットを用いることにより、エストロン濃度が0pg/mL~200pg/mLの範囲において、精度よくエストロンを定量できることが確認された。
【0047】
【表1】
【0048】
(化学発光免疫測定法測定との対比実験)
12頭の雌豚から得られた唾液中のエストロン濃度を、それぞれ化学発光免疫測定法および本発明のイムノクロマト測定キットを用いて測定した。化学発光免疫測定法による測定は、臨床検査センター(株式会社近畿予防医学研究所)にて測定した。イムノクロマト法では、標準液を同時に測定して得られた標準曲線を用いて、各唾液検体中のエストロン濃度を算出し測定結果を表2および図5に示した。イムノクロマト法の測定値と化学発光免疫測定法による測定値の相関係数は0.96であり、良好な相関関係を示した。本発明の測定キットを用いることにより、精度よくエストロンを定量できることが確認された。
【0049】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によって、養豚の現場において唾液などの生体試料中のエストロン濃度を高感度、かつ迅速、簡便に測定することにより、豚の妊娠/非妊娠を把握することが出来、効率の良い豚の生産を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 粘着シート
2 含浸部材
3 膜担体
4 テストライン
5 コントロールライン
6 試料添加部材
7 吸収部材
8 イムノクロマトストリップ
9 ハウジングケース
10 試料滴下部
11 判定部(判定窓)
図1
図2
図3
図4
図5