(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095450
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】デジタル移相回路及びデジタル移相器
(51)【国際特許分類】
H01P 1/185 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
H01P1/185
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211348
(22)【出願日】2021-12-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【テーマコード(参考)】
5J012
【Fターム(参考)】
5J012HA01
(57)【要約】
【課題】従来よりも遅延量の低下を抑制しつつ高周波信号のロスの低減が可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供する。
【解決手段】所定方向に延在する信号線路と、前記信号線路の一方側及び他方側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される内側線路と、前記一方側及び前記他方側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる外側線路と、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、を備え、前記所定の距離は、10μm未満に設定されている、デジタル移相回路である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在する信号線路と、
前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、
前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、
前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、
前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、
前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、
前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、
を備え、
前記所定の距離は、10μm未満に設定されている、
デジタル移相回路。
【請求項2】
前記所定の距離は、2μm以下に設定されている、
請求項1に記載のデジタル移相回路。
【請求項3】
前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続される第3の電子スイッチを備える、
請求項1又は請求項2に記載のデジタル移相回路。
【請求項4】
前記信号線路と前記第2の接地導体との間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサに対して直列に接続される第4の電子スイッチと、
を備え、
前記コンデンサの上部の電極のサイズは、前記信号線路の幅以下である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項5】
前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記電界効果トランジスタのサイズは、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項6】
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方における前記外側線路及び前記内側線路の間は、多層構造で形成されている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項7】
前記信号線路は、第1の導電層に形成され、
前記内側線路は、絶縁層を挟んで前記第1の導電層と対向する第2の導電層に形成されている、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
複数の前記デジタル移相回路の動作モードの制御状態に応じて変化する前記信号の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
すべての前記デジタル移相回路が前記低遅延モードである場合での前記信号の振幅と、すべての前記デジタル移相回路が前記高遅延モードである場合での前記信号の振幅との間の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相回路及びデジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波、準ミリ波又はミリ波などの高周波信号を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。デジタル移相回路は、信号線路、内側線路、外側線路、第1の接地導体、第2の接地導体、第1の電子スイッチ、第2の電子スイッチ、及びコンデンサを備える。
【0003】
信号線路は、所定方向に延在して配置されている。内側線路は、信号線路の一方側及び他方側に、信号線路から10μmだけ離間して配置されている。外側線路は、信号線路の一方側及び他方側において、内側線路よりも信号線路から遠い位置に設けられている。第1の接地導体は、内側線路及び外側線路の各一端に対して電気的に接続されている。第2の接地導体は、外側線路の他端に対して電気的に接続されている。
【0004】
第1の電子スイッチは、一方側の内側線路の他端及び第2の接地導体の間に接続されている。第2の電子スイッチは、他方側の内側線路の他端及び第2の接地導体の間に接続されている。コンデンサは、信号線路及び第2の接地導体の間に接続されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、従来の構成例では信号の周波数が高くなるほど高周波信号のロスが増え、この高周波信号のロスが、コンデンサの静電容量値に起因していることを見出した。そこで、本願発明者は、より高い周波数で利用するためにコンデンサの静電容量値を可能な限り低減することで、信号のロスを低減可能であるとの着想を得た。
【0007】
ただし、デジタル移相回路による遅延量は、デジタル移相回路のインダクタンス値と静電容量値との積の平方根に比例する。そのため、コンデンサの静電容量値を小さくするとデジタル移相回路の静電容量値が小さくなり、十分な遅延量が得られない場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、遅延量の低下を抑制しつつ高周波信号のロスの低減が可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、所定方向に延在する信号線路と、前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、を備え、前記所定の距離は、10μm未満に設定されている、デジタル移相回路である。
【0010】
このような構成により、遅延量の低下を抑制しつつ高周波信号のロスの低減が可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記所定の距離が、2μm以下に設定されてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続される第3の電子スイッチを備えてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記信号線路と前記第2の接地導体との間に接続されるコンデンサと、前記信号線路と前記第2の接地導体との間において、前記コンデンサに対して直列に接続される第4の電子スイッチと、を備え、前記コンデンサの上部の電極のサイズが、前記信号線路の幅以下であってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが、電界効果トランジスタであり、前記電界効果トランジスタのサイズが、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上であってもよい。
【0015】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方における前記外側線路及び前記内側線路の間が、多層構造で形成されてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様によるデジタル移相回路は、前記信号線路が、第1の導電層に形成され、前記内側線路が、絶縁層を挟んで前記第1の導電層と対向する第2の導電層に形成されてもよい。
【0017】
また、本発明の一態様は、上述のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であってもよい。そして、前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、複数の前記デジタル移相回路の動作モードの制御状態に応じて変化する前記信号の振幅の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なってもよい。
【0018】
また、本発明の一態様は、上述のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であってもよい。そして、前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、すべての前記デジタル移相回路が前記低遅延モードである場合での前記信号の振幅と、すべての前記デジタル移相回路が前記高遅延モードである場合での前記信号の振幅との間の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、遅延量の低下を抑制しつつ高周波信号のロスの低減が可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るデジタル移相回路の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係るデジタル移相回路を+Z方向から見た概略図である。
【
図3】従来のデジタル移相回路を+Z方向から見た概略図である。
【
図4】本実施形態に係る高遅延モードを説明する図である。
【
図5】本実施形態に係る低遅延モードを説明する図である。
【
図6】本実施形態に係るデジタル移相器の概略構成図である。
【
図7】本実施形態に係るデジタル移相回路の第1の変形例を示す図である。
【
図8】本実施形態に係るデジタル移相回路の第2の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態に係るデジタル移相回路を、図面を用いて説明する。尚、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0022】
図1は、本実施形態に係るデジタル移相回路の斜視図である。
図1に示す通り、本実施形態のデジタル移相回路Aは、信号線路1、2つの内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、2つの外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、2つの接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)、コンデンサ5、複数の接続導体6、4つの電子スイッチ7(第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7d)及びスイッチ制御部8を備える。
【0023】
信号線路1は、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。すなわち、信号線路1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
図1に示す例では、信号線路1には、手前側から奥側に向かって信号Sが流れる。信号Sは、マイクロ波、 準ミリ波、又はミリ波の周波数帯域を有する高周波信号である。
【0024】
尚、
図1に示す前後方向をX軸方向とし、左右方向をY軸方向とし、上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とする。また、+X方向は、X軸方向を手前側から奥側に向かう方向であり、-X方向は+X方向とは反対方向である。+Y方向は、Y軸方向を右に進む方向であり、-Y方向は+Y方向とは反対方向である。+Z方向は、Z軸方向を上方に進む方向であり、-Z方向は+Z方向とは反対方向である。
【0025】
第1の内側線路2aは、直線状の帯状導体である。すなわち、第1の内側線路2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の内側線路2aは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第1の内側線路2aは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離Mだけ離間している。具体的には、第1の内側線路2aは、信号線路1の一方側に所定の距離Mだけ離間して配置されている。換言すれば、第1の内側線路2aは、信号線路1から+Y軸方向に所定の距離Mだけ離間して配置されている。
【0026】
第2の内側線路2bは、直線状の帯状導体である。すなわち、第2の内側線路2bは、第1の内側線路2aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の内側線路2bは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第2の内側線路2bは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離Mだけ離間している。具体的には、第2の内側線路2bは、信号線路1の他方側に所定の距離Mだけ離間して配置されている。換言すれば、第2の内側線路2bは、信号線路1から-Y軸方向に所定の距離Mだけ離間して配置されている。
【0027】
所定の距離Mは、10μm未満に設定されている。より好ましくは、所定の距離Mは、例えば2μm以下であり、信号線路1に対して内側線路2を可能な限り接近させることが望ましい。本実施形態では、信号線路1に対して内側線路2を製造限界又は製造限界近くまで接近させている。
【0028】
第1の外側線路3aは、信号線路1の一方側において、第1の内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第1の外側線路3aは、第1の内側線路2aよりも+Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1に対して第1の内側線路2aを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第1の外側線路3aは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0029】
第2の外側線路3bは、信号線路1の他方側において、第2の内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第2の外側線路3bは、第2の内側線路2bよりも-Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第2の外側線路3bは、第1の外側線路3aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の外側線路3bは、信号線路1に対して第2の内側線路2bを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第2の外側線路3bは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0030】
第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側に設けられる直線状の帯状導体である。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端に電気的に接続されている。第1の接地導体4aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0031】
第1の接地導体4aは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。すなわち、第1の接地導体4aは、Y軸方向に延在するように配置されている。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0032】
図1に示す例では、第1の接地導体4aは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。
図1に示す例では、第1の接地導体4aは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。
【0033】
第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側に設けられる直線状の帯状導体である。第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aと同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0034】
第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aに対して平行に配置されており、第1の接地導体4aと同様に、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0035】
第2の接地導体4bは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。第2の接地導体4bは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。
図1に示す例では、第2の接地導体4bは、Y軸方向における位置が第1の接地導体4aと同一である。
【0036】
コンデンサ5は、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に設けられる。例えば、コンデンサ5は、上部電極が信号線路1に対して接続され、下部電極が第4の電子スイッチ7dに対して電気的に接続されている。例えば、コンデンサ5は、MIM(Metal Insulator Metal)構造の薄膜のコンデンサである。コンデンサ5は、平行平板型のコンデンサであってもよいし、櫛歯対向型のキャパシタ(インターデジタルキャパシタ)でもよい。尚、デジタル移相回路Aの静電容量値Cは、コンデンサ5の静電容量値Caを含む。
【0037】
複数の接続導体6は、少なくとも接続導体6a~6fを含む。接続導体6aは、第1の内側線路2aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6aは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の内側線路2aの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0038】
接続導体6bは、第2の内側線路2bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6bは、接続導体6aと同様にZ軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の内側線路2bの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0039】
接続導体6cは、第1の外側線路3aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6cは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0040】
接続導体6dは、第1の外側線路3aの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6dは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0041】
接続導体6eは、第2の外側線路3bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6eは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0042】
接続導体6fは、第2の外側線路3bの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6fは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0043】
接続導体6gは、信号線路1の他端とコンデンサ5の一端とを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6gは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が信号線路1の他端における下面に接続し、他端(下端)がコンデンサ5の一端に接続する。
【0044】
第1の電子スイッチ7aは、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第1の電子スイッチ7aは、例えばMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、ドレイン端子が第1の内側線路2aの他端に電気的に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。例えば、第1の電子スイッチ7aのサイズは、第2の接地導体4bの幅以上である。
【0045】
第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。閉状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通している状態である。開状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通しておらず、電気的な接続が遮断している状態である。第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8の制御によって、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0046】
第2の電子スイッチ7bは、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第2の電子スイッチ7bは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第2の内側線路2bの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。例えば、第2の電子スイッチ7bのサイズは、第2の接地導体4bの幅以上である。
【0047】
第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8の制御によって、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0048】
第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第3の電子スイッチ7cは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路1の他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。尚、
図1に示す例では、第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端側に設けられているが、これに限定されず、信号線路1の一端側に設けられてもよい。
【0049】
第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8の制御によって、信号線路1の他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0050】
第4の電子スイッチ7dは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間において、コンデンサ5に対して直列に接続される。第4の電子スイッチ7dは、例えばMOS型FETである。
図1に示す例では、第4の電子スイッチ7dは、ドレイン端子がコンデンサ5の下部電極に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0051】
第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8の制御によって、コンデンサ5の下部電極及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0052】
スイッチ制御部8は、複数の電子スイッチ7である第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dを制御する制御回路である。例えば、スイッチ制御部8は、4つの出力ポートを備えている。スイッチ制御部8は、各出力ポートから個別のゲート信号を出力して複数の電子スイッチ7の各ゲート端子に供給することにより複数の電子スイッチ7のそれぞれを個別に開状態又は閉状態に制御する。
【0053】
図1ではデジタル移相回路Aの機械的構造が解り易いようにデジタル移相回路Aを斜視した模式図を示しているが、実際のデジタル移相回路Aは、半導体製造技術を利用することにより、多層構造物として形成される。
図2は、本実施形態のデジタル移相回路Aを+Z方向から見た図である。尚、
図2に示す例では、説明の便宜上、複数の電子スイッチ7及びスイッチ制御部8を省略している。
【0054】
一例として、デジタル移相回路Aは、信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが第1の導電層L1に形成されている。第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、絶縁層Iを挟んで第1の導電層L1と対向する第2の導電層L2に形成されている。第1の導電層L1に形成された構成要素と第2の導電層L2に形成された構成要素とは、ビアホール(via hole)によって相互に接続される。複数の接続導体6は、絶縁層I内に埋設されたビアホールに相当する。また、上記ビアホールの位置や数などは、
図2に例示するものに限定されるものではない。
【0055】
以下に、本実施形態に係るデジタル移相回路の特徴の一つについて説明する。本願発明者は、従来の構成例では信号Sの周波数が高くなるほど信号Sのロスが増え、この信号Sのロスが、信号線路及び第2の接地導体の間に接続されるコンデンサの静電容量値Caに起因していることを見出した。そこで、本願発明者は、より高い周波数で利用するためにコンデンサの静電容量値Caを可能な限り低減することで、信号Sのロスを低減し且つ小型化を実現可能であるとの着想を得た。
【0056】
ただし、デジタル移相回路による遅延量は、デジタル移相回路のインダクタンス値Lと静電容量値Cとの積の平方根に比例する。そのため、静電容量値Caを小さくするとデジタル移相回路の静電容量値Cが小さくなり、十分な遅延量が得られない場合がある。そこで、本願発明者は、静電容量値Caを小さくした分だけインダクタンス値Lを大きくすれば、十分な遅延量を確保したまま信号Sのロスを低減し且つ小型化を実現可能であるという知見を得た。
【0057】
本開示は、このような知見に基づいてなされたものであり、従来の構成よりも信号線路1に対して内側線路2を接近させることでインダクタンス値Lを増大させ、十分な遅延量を確保したまま信号Sのロスを低減し且つ小型化を実現するものである。
【0058】
図3は、従来のデジタル移相回路100を+Z方向から見た概略図である。デジタル移相回路100では、信号線路110及び内側線路120の間の距離が10μm以上に設定されている。本実施形態のデジタル移相回路Aでは、従来のデジタル移相回路100と比較して、所定の距離Mがより短く設定されている。そのため、本実施形態のコンデンサ5の静電容量値Caを、
図3に示すコンデンサ130よりも下げることができる。
【0059】
静電容量値Caを下げることは、コンデンサ5の小型化に寄与する。例えば、
図2に示すように、所定の距離Mを10μm未満に設定することで、コンデンサ5のサイズを信号線路1の幅H2以下にすることが可能になる。
【0060】
次に、本実施形態に係るデジタル移相回路Aの動作について、
図4及び
図5を参照して説明する。デジタル移相回路Aは、動作モードとして、高遅延モード及び低遅延モードを有する。デジタル移相回路Aは、高遅延モード又は低遅延モードで動作する。
【0061】
(高遅延モード)
高遅延モードでは、信号Sに第1の位相差を発生させるモードである。高遅延モードでは、
図4に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御される。
【0062】
第1の電子スイッチ7aが開状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bの電気的な接続が遮断された状態となる。第2の電子スイッチ7bが開状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bの電気的な接続が遮断された状態となる。第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御されることにより、信号線路1の他端は、コンデンサ5を介して第2の接地導体4bに接続された状態となる。
【0063】
信号線路1に入力端(他端)から出力端(一端)に向かって信号Sが伝搬すると、信号Sとは逆方向である一端から他端に向かってリターン電流R1が流れる。すなわち、リターン電流R1は、+X方向に流れる信号Sとは逆方向である-X方向に向かって流れる電流である。高遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態であるため、リターン電流R1は、主として、
図4に示すように、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを-X方向に流れる。
【0064】
高遅延モードでは、リターン電流R1が第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを流れるため、低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが高い。高遅延モードでは、低遅延モードよりも高い遅延量を得ることができる。
【0065】
(低遅延モード)
低遅延モードでは、信号Sに第1の位相差よりも小さい第2の位相差を発生させるモードである。低遅延モードでは、
図5に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが開状態に制御される。
【0066】
第1の電子スイッチ7aが閉状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとが電気的に接続された状態となる。第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとが電気的に接続された状態となる。
【0067】
低遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態であるため、リターン電流R2は、主として、
図5に示すように、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを-X方向に流れる。低遅延モードでは、リターン電流R2が第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを流れるため、高遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが低い。低遅延モードでの遅延量は、高遅延モードでの遅延量よりも低くなる。
【0068】
また、本実施形態の第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bは、従来の構成と比較して、信号線路1に接近している。そのため、本実施形態の低遅延モードでは、従来の構成による低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが高い。そのため、コンデンサ5の静電容量値Caを従来よりも下げることが可能となる。
【0069】
次に、本実施形態に係るデジタル移相器Bについて、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係るデジタル移相器Bの概略構成図である。デジタル移相器Bは、縦続接続されたn個(nは2以上の整数)のデジタル移相回路Aを備える。デジタル移相器Bは、所定の周波数帯域(以下、「使用周波数帯域」という。)の信号Sを、縦続接続されたn個のデジタル移相回路Aによって移相する。使用周波数帯域は、第1の周波数f1から第1の周波数よりも高い第2の周波数f2までの範囲である。
【0070】
デジタル移相器Bは、n個のデジタル移相回路Aのそれぞれを、低遅延モード及び高遅延モードのいずれかの動作モードで動作させることができる。したがって、デジタル移相器Bは、n個のデジタル移相回路Aのそれぞれの動作モードを低遅延モード又は高遅延モードに制御することで信号Sの遅延量を制御することができる。
【0071】
例えば、デジタル移相器Bは、縦続接続されているn個のデジタル移相回路Aのうち、1番目からi番目までのデジタル移相回路Aを低遅延モードで動作させ、i+1番目からn番目までのデジタル移相回路Aを高遅延モードで動作させる。デジタル移相器Bは、iの値を任意に変更することで、遅延制御状態を切り替えることができる。遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aの動作モードの制御状態を示し、例えば、縦続接続されているn個のデジタル移相回路Aのうち、1番目から何番目までが高遅延モード又は低遅延モードであるのかを示すものである。
【0072】
仮に、nが46である場合には、遅延制御状態は、iが0,1,…,46までの47通りが考えられる。例えば、iが0である場合での遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aがすべて高遅延モードである場合を示す。例えば、iが46である場合での遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aがすべて低遅延モードである場合を示す。
【0073】
ここで、デジタル移相器Bでは、各々の遅延制御状態での信号Sにおける信号振幅の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されてもよい。すなわち、複数のデジタル移相回路Aの動作モードの制御状態に応じて変化する信号Sの振幅の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されてもよい。
【0074】
また、n個のデジタル移相回路Aがすべて低遅延モードである場合での信号Sの振幅と、n個のデジタル移相回路Aがすべて高遅延モードである場合での信号Sの振幅との間の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されてもよい。
【0075】
以上の通り、本実施形態のデジタル移相回路Aは、信号線路1、2つの内側線路2、2つの外側線路3と、第1の接地導体4aと、第2の接地導体4bと、第1の電子スイッチ7aと、第2の電子スイッチ7bとを備える。内側線路2は、信号線路1の一方側及び他方側の両側に、信号線路1から所定の距離Mだけ離間して配置されている。そして、所定の距離Mは、10μm未満に設定されており、より好ましくは2μm以下に設定されている。
【0076】
このような構成により、コンデンサ5のサイズを小さくすることが可能となり、小型化に寄与する。例えば、本実施形態のコンデンサ5の上部の電極のサイズは、信号線路1の幅H2以下である。また、コンデンサ5の静電容量値Caを下げることができるため、信号Sのロスを低減することができる。
【0077】
尚、上述したデジタル移相回路Aは、コンデンサ5を備える構成であるが、これに限定されず、コンデンサ5を備えなくてもよい。すなわち、デジタル移相回路Aでは、信号線路1及び内側線路2を従来よりも接近させているため、
図7に例示するようなコンデンサ5及び第3の電子スイッチ7cを備えない構成を採用することができる。
【0078】
高遅延モードは、低遅延モードよりも信号Sのロスが多い。したがって、複数のデジタル移相回路Aを縦続接続したデジタル移相器Bにおいては、遅延量が大きい条件ほど、信号Sのロスが大きくなる場合が考えられる。すなわち、移相量によって信号Sのロス(信号振幅)が変わってしまう場合がある。デジタル移相回路Aでは、このような高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスを低減するために、内側線路2よりも外側の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bが多層構造で形成されてもよい。
【0079】
例えば、
図8に示すように、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bにおける外側線路3及び内側線路2の間は、多層構造で形成されてもよい。外側線路3及び内側線路2の間とは、第1の外側線路3aと第1の内側線路2aとの間と、第2の外側線路3bと第2の内側線路2bとの間とを含む。ただし、これに限定されず。第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bのいずれか一方において、外側線路3及び内側線路2の間を多層構造で形成されてもよい。
【0080】
このような構成により、外側線路3及び内側線路2の間の接地導体4の抵抗値を下げることができ、高遅延モードにおける信号Sのロスを低減することができる。したがって、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスを低減することができる。
【0081】
また、本実施形態のデジタル移相回路Aでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bのそれぞれのサイズが、第2の接地導体4bの幅と第1の接地導体4aの幅とは合わせた長さH1以上に設定されてもよい。第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの各サイズは、
図6に例示する幅H1以上に設定されてもよい。より好ましくは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの各サイズは、幅H1と同等か幅H1よりも多少はみ出る程度に設定される。ここで、例えば、低遅延モードにおける信号Sのロスは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの閉状態での抵抗成分(オン抵抗成分)が主に起因する。
【0082】
そのため、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスを低減するために、高遅延モードにおけるコンデンサ5による損失とリターン電流の電流経路による抵抗損失との和と同等の損失となる電界効果トランジスタを、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bとして用いてもよい。電界効果トランジスタの抵抗値とチャネル幅、即ち電界効果トランジスタのサイズとは相関関係がある。例えば、電界効果トランジスタのサイズが、長さH1程度になる場合に、当該電界効果トランジスタによる抵抗損失が、高遅延モードでのコンデンサ5による損失とリターン電流経路の抵抗損失との和と同程度となる。
【0083】
デジタル移相回路Aは、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に接続される第3の電子スイッチ7cを備えてもよい。例えば、低遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cが閉状態(ON状態)に設定されることにより、信号線路1の損失を意図的に増加させている。この損失付与は、低遅延モードにおいて高周波信号に与える損失を高遅延モードにおいて高周波信号に与える損失と同程度にしようとするためのものである。例えば、高遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cが開状態(OFF状態)に設定されることにより、信号線路1の損失を意図的に増加させる処置は施されない。この結果、高遅延モードにおいて高周波信号に与える損失は、低遅延モードにおいて高周波信号に与える損失と同程度となる。
【0084】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、信号線路1が第1の導電層に形成され、内側線路2は、絶縁層を挟んで第1の導電層と対向する第2の導電層に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…信号線路、2…内側線路、2a…第1の内側線路、2b…第2の内側線路、3…外側線路、3a…第1の外側線路、3b…第2の外側線路、4…接地導体,4a…第1の接地導体、4b…第2の接地導体、5…コンデンサ、6…接続導体、7…電子スイッチ,7a…第1の電子スイッチ、7b…第2の電子スイッチ、7c…第3の電子スイッチ、7d…第4の電子スイッチ、8…スイッチ制御部
【手続補正書】
【提出日】2022-06-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在する信号線路と、
前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、
前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、
前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、
前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、
前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、
前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、
前記信号線路と前記第2の接地導体との間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサに対して直列に接続される第4の電子スイッチと、
を備え、
前記所定の距離は、10μm未満に設定されており、
前記コンデンサの上部の電極のサイズは、前記信号線路の幅以下である、
デジタル移相回路。
【請求項2】
前記所定の距離は、2μm以下に設定されている、
請求項1に記載のデジタル移相回路。
【請求項3】
前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続される第3の電子スイッチを備える、
請求項1又は請求項2に記載のデジタル移相回路。
【請求項4】
前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記電界効果トランジスタのサイズは、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項5】
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方における前記外側線路及び前記内側線路の間は、多層構造で形成されている、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項6】
前記信号線路は、第1の導電層に形成され、
前記内側線路は、絶縁層を挟んで前記第1の導電層と対向する第2の導電層に形成されている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
複数の前記デジタル移相回路の動作モードの制御状態に応じて変化する前記信号の振幅の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
すべての前記デジタル移相回路が前記低遅延モードである場合での前記信号の振幅と、すべての前記デジタル移相回路が前記高遅延モードである場合での前記信号の振幅との間の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【請求項9】
所定方向に延在する信号線路と、
前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、
前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、
前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、
前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、
前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、
前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、
を備え、
前記所定の距離は、10μm未満に設定されており、
前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記電界効果トランジスタのサイズは、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上である、
デジタル移相回路。
【請求項10】
所定方向に延在する信号線路と、
前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、
前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、
前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、
前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、
前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、
前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、
を備え、
前記所定の距離は、10μm未満に設定されており、
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方における前記外側線路及び前記内側線路の間は、多層構造で形成されている、
デジタル移相回路。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
また、本実施形態の第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bは、従来の構成と比較して、信号線路1に接近している。そのため、本実施形態の低遅延モードでは、従来の構成による低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが低い。そのため、コンデンサ5の静電容量値Caを従来よりも下げることが可能となる。