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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095453
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】デジタル移相回路及びデジタル移相器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/185 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
H01P1/185
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211357
(22)【出願日】2021-12-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【テーマコード(参考)】
5J012
【Fターム(参考)】
5J012HA01
(57)【要約】
【課題】高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を低減可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供する。
【解決手段】所定方向に延在する信号線路と、前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、を備え、前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間は、多層構造で形成されている、デジタル移相回路である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在する信号線路と、
前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、
前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、
前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、
前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、
前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、
前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、
を備え、
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間及び前記外側線路の少なくとも一方は、多層構造で形成されている、
デジタル移相回路。
【請求項2】
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間が多層構造で形成されており、
前記内側線路と、前記外側線路と、前記多層構造の前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の最上層とが、同一のレイヤで接続されている、
請求項1に記載のデジタル移相回路。
【請求項3】
前記外側線路の幅が、前記内側線路の幅よりも広い、
請求項1又は請求項2に記載のデジタル移相回路。
【請求項4】
前記外側線路は、多層構造で形成されている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項5】
前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記電界効果トランジスタのサイズは、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項6】
前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続される第3の電子スイッチを備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項7】
前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続されるコンデンサと、
前記信号線路と前記第2の接地導体との間において、前記コンデンサに対して直列に接続される第4の電子スイッチと、
を備える、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のデジタル移相回路。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
縦続接続されている複数の前記デジタル移相回路のそれぞれを前記高遅延モード又は前記低遅延モードで動作させる複数の遅延制御状態において、各前記遅延制御状態の信号振幅の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、
すべての前記デジタル移相回路が前記低遅延モードである場合における前記信号の振幅と、すべての前記デジタル移相回路が前記高遅延モードである場合における前記信号の振幅との間の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なる、
デジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相回路及びデジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波、準ミリ波又はミリ波などの高周波信号を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。このデジタル移相回路は、信号線路、内側線路、外側線路、第1の接地導体、第2の接地導体、複数の電子スイッチを備える。
【0003】
信号線路は、所定方向に延在して配置されている。内側線路は、信号線路の一方側及び他方側に、信号線路から離間して配置されている。外側線路は、信号線路の一方側及び他方側において、内側線路よりも信号線路から遠い位置に設けられている。第1の接地導体は、内側線路及び外側線路の各一端に対して電気的に接続されている。第2の接地導体は、外側線路の他端に対して電気的に接続されている。電子スイッチは、内側線路の他端及び第2の接地導体の間などに設けられている。
【0004】
上述のデジタル移相回路は、信号線路を流れる高周波信号の移相量を制御するために、複数の電子スイッチのそれぞれを閉状態又は開状態に切り替えることにより、動作モードを低遅延モード及び高遅延モードのいずれかに切り替える。低遅延モードは、一対の内側線路にリターン電流が流れる動作モードである。高遅延モードでは、一対の外側線路にリターン電流が流れる動作モードである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高遅延モードは、低遅延モードよりも高周波信号の損失が大きい。したがって、複数のデジタル移相回路を縦続接続したデジタル移相器においては、移相量が大きい条件ほど、高周波信号の損失が大きくなる場合がある。すなわち、移相量によって高周波信号の信号振幅が変化してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を低減可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、所定方向に延在する信号線路と、前記信号線路の一方側及び他方側の両側に、前記信号線路から所定の距離だけ離間して配置される2つの内側線路と、前記一方側及び前記他方側の両側において、前記内側線路よりも前記信号線路から遠い位置に設けられる2つの外側線路と、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に対して電気的に接続される第1の接地導体と、前記外側線路の他端に対して電気的に接続される第2の接地導体と、前記一方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第1の電子スイッチと、前記他方側の前記内側線路の他端と前記第2の接地導体との間に接続される第2の電子スイッチと、を備え、前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間及び前記外側線路の少なくとも一方は、多層構造で形成されている、デジタル移相回路である。
【0009】
上記構成により、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を低減することができる。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間が多層構造で形成されており、前記内側線路と、前記外側線路と、前記多層構造の前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の最上層とが、同一のレイヤで接続されてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様は、外側線路の幅が、前記内側線路の幅よりも広くてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様は、前記外側線路が、多層構造で形成されてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、前記電界効果トランジスタのサイズは、前記第1の接地導体の幅と前記第2の接地導体の幅とを合わせた長さ以上であってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様は、前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続される第3の電子スイッチを備えてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様は、前記信号線路と前記第1の接地導体又は前記第2の接地導体との間に接続されるコンデンサと、前記信号線路と前記第2の接地導体との間において、前記コンデンサに対して直列に接続される第4の電子スイッチと、を備えてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様は、上述のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、縦続接続されている複数の前記デジタル移相回路のそれぞれを前記高遅延モード又は前記低遅延モードで動作させる複数の遅延制御状態において、各前記遅延制御状態の信号振幅の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様は、上述のデジタル移相回路が複数縦続接続され、第1の周波数から前記第1の周波数よりも高い第2の周波数までの周波数帯域の信号を、縦続接続された複数の前記デジタル移相回路によって移相するデジタル移相器であって、前記デジタル移相回路は、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードと、前記第1の電子スイッチ及び前記第2の電子スイッチが開状態に設定される高遅延モードと、のいずれかの動作モードで動作し、すべての前記デジタル移相回路が前記低遅延モードである場合での前記信号の振幅と、すべての前記デジタル移相回路が前記高遅延モードである場合での前記信号の振幅との間の大小関係は、前記信号の周波数が前記第1の周波数である場合と、前記信号の周波数が前記第2の周波数である場合とで異なってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を低減可能なデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るデジタル移相回路の斜視図である。
図2】本実施形態に係るデジタル移相回路を+Z方向から見た概略図である。
図3】本実施形態に係る高遅延モードを説明する図である。
図4】本実施形態に係る低遅延モードを説明する図である。
図5】本実施形態に係るデジタル移相器の概略構成図である。
図6】本実施形態に係る各遅延制御状態における第1の周波数での信号振幅を示す図である。
図7】本実施形態に係る各遅延制御状態における第2の周波数での信号振幅を示す図である。
図8】本実施形態に係る各遅延制御状態における使用周波数帯域の中心周波数での信号振幅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係るデジタル移相回路を、図面を用いて説明する。尚、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0021】
図1は、本実施形態に係るデジタル移相回路の斜視図である。図1に示す通り、本実施形態のデジタル移相回路Aは、信号線路1、2つの内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、2つの外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、2つの接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)、コンデンサ5、複数の接続導体6、4つの電子スイッチ7(第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7d)及びスイッチ制御部8を備える。
【0022】
信号線路1は、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。すなわち、信号線路1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。図1に示す例では、信号線路1には、手前側から奥側に向かって信号Sが流れる。信号Sは、マイクロ波、 準ミリ波、又はミリ波の周波数帯域を有する高周波信号である。
【0023】
尚、図1に示す前後方向をX軸方向とし、左右方向をY軸方向とし、上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とする。また、+X方向は、X軸方向を手前側から奥側に向かう方向であり、-X方向は+X方向とは反対方向である。+Y方向は、Y軸方向を右に進む方向であり、-Y方向は+Y方向とは反対方向である。+Z方向は、Z軸方向を上方に進む方向であり、-Z方向は+Z方向とは反対方向である。
【0024】
第1の内側線路2aは、直線状の帯状導体である。すなわち、第1の内側線路2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の内側線路2aは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第1の内側線路2aは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第1の内側線路2aは、信号線路1の一方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第1の内側線路2aは、信号線路1から+Y軸方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0025】
第2の内側線路2bは、直線状の帯状導体である。すなわち、第2の内側線路2bは、第1の内側線路2aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の内側線路2bは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第2の内側線路2bは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第2の内側線路2bは、信号線路1の他方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第2の内側線路2bは、信号線路1から-Y軸方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0026】
第1の外側線路3aは、信号線路1の一方側において、第1の内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第1の外側線路3aは、第1の内側線路2aよりも+Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1に対して第1の内側線路2aを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第1の外側線路3aは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0027】
第2の外側線路3bは、信号線路1の他方側において、第2の内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第2の外側線路3bは、第2の内側線路2bよりも-Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第2の外側線路3bは、第1の外側線路3aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の外側線路3bは、信号線路1に対して第2の内側線路2bを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第2の外側線路3bは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0028】
第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側に設けられる直線状の帯状導体である。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端に電気的に接続されている。第1の接地導体4aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0029】
第1の接地導体4aは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。すなわち、第1の接地導体4aは、Y軸方向に延在するように配置されている。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0030】
図1に示す例では、第1の接地導体4aは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。図1に示す例では、第1の接地導体4aは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。
【0031】
第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側に設けられる直線状の帯状導体である。第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aと同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0032】
第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aに対して平行に配置されており、第1の接地導体4aと同様に、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0033】
第2の接地導体4bは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。第2の接地導体4bは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。図1に示す例では、第2の接地導体4bは、Y軸方向における位置が第1の接地導体4aと同一である。
【0034】
図1に示す例では、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bにおける外側線路3と内側線路2との間は、多層構造で形成されている。外側線路3と内側線路2との間とは、第1の外側線路3aと第1の内側線路2aとの間と、第2の外側線路3bと第2の内側線路2bとの間とを含む。ただし、これに限定されず。第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bのいずれか一方において、外側線路3と内側線路2との間を多層構造で形成されてもよい。多層構造で形成された第1の接地導体4aは、複数のビアホールで互いに連結されている。同様に、多層構造で形成された第2の接地導体4bは、複数のビアホール(例えば、後述する接続導体6h,6i)で互いに連結されている。
【0035】
コンデンサ5は、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に設けられる。例えば、コンデンサ5は、上部電極が信号線路1に対して接続され、下部電極が第4の電子スイッチ7dに対して電気的に接続されている。例えば、コンデンサ5は、MIM(Metal Insulator Metal)構造の薄膜のコンデンサである。コンデンサ5は、平行平板型のコンデンサであってもよいし、櫛歯対向型のキャパシタ(インターデジタルキャパシタ)でもよい。
【0036】
複数の接続導体6は、少なくとも接続導体6a~6iを含む。接続導体6aは、第1の内側線路2aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6aは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の内側線路2aの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6aは、多層構造で形成された、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の第1の接地導体4aを連結する。
【0037】
接続導体6bは、第2の内側線路2bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6bは、接続導体6aと同様にZ軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の内側線路2bの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6bは、多層構造で形成された、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の第1の接地導体4aを連結する。
【0038】
接続導体6cは、第1の外側線路3aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6cは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6cは、多層構造で形成された、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の第1の接地導体4aを連結する。
【0039】
接続導体6dは、第1の外側線路3aの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6dは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。また、接続導体6dは、多層構造で形成された、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の第2の接地導体4bを連結する。
【0040】
接続導体6eは、第2の外側線路3bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6eは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6eは、多層構造で形成された、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の第1の接地導体4aを連結する。
【0041】
接続導体6fは、第2の外側線路3bの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6fは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。また、接続導体6fは、多層構造で形成された、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の第2の接地導体4bを連結する。
【0042】
接続導体6gは、信号線路1の他端とコンデンサ5の上部電極とを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6gは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が信号線路1の他端における下面に接続し、他端(下端)がコンデンサ5の上部電極に接続する。
【0043】
接続導体6hと接続導体6iとは、多層構造で形成された第2の接地導体4bを互いに連結する。接続導体6hは、信号線路1よりも+Y方向における多層構造の第2の接地導体4bを連結する。接続導体6iは、信号線路1よりも-Y方向における多層構造の第2の接地導体4bを連結する。
【0044】
第1の電子スイッチ7aは、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第1の電子スイッチ7aは、例えばMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、ドレイン端子が第1の内側線路2aの他端に電気的に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。図1に示す例では、第1の電子スイッチ7aのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、最上層に接続されている。ただし、これに限定されず、第1の電子スイッチ7aのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、少なくとも1つの層に接続されていればよい。
【0045】
第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。閉状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通している状態である。開状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通しておらず、電気的な接続が遮断している状態である。第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8の制御によって、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0046】
第2の電子スイッチ7bは、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第2の電子スイッチ7bは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第2の内側線路2bの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。図1に示す例では、第2の電子スイッチ7bのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、最上層に接続されている。ただし、これに限定されず、第2の電子スイッチ7bのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、少なくとも1つの層に接続されていればよい。
【0047】
第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8の制御によって、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0048】
第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第3の電子スイッチ7cは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路1の他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。尚、図1に示す例では、第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端側に設けられているが、これに限定されず、信号線路1の一端側に設けられてもよい。
【0049】
第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8の制御によって、信号線路1の他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0050】
第4の電子スイッチ7dは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間において、コンデンサ5に対して直列に接続される。第4の電子スイッチ7dは、例えばMOS型FETである。図1に示す例では、第4の電子スイッチ7dは、ドレイン端子がコンデンサ5の下部電極に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0051】
第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8の制御によって、コンデンサ5の下部電極と第2の接地導体4bとを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0052】
スイッチ制御部8は、複数の電子スイッチ7である第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dを制御する制御回路である。例えば、スイッチ制御部8は、4つの出力ポートを備えている。スイッチ制御部8は、各出力ポートから個別のゲート信号を出力して複数の電子スイッチ7の各ゲート端子に供給することにより複数の電子スイッチ7のそれぞれを個別に開状態又は閉状態に制御する。
【0053】
図1ではデジタル移相回路Aの機械的構造が解り易いようにデジタル移相回路Aを斜視した模式図を示しているが、実際のデジタル移相回路Aは、半導体製造技術を利用することにより、多層構造物として形成される。図2は、本実施形態のデジタル移相回路Aを+Z方向から見た図である。尚、図2に示す例では、説明の便宜上、複数の電子スイッチ7及びスイッチ制御部8を省略している。
【0054】
一例として、デジタル移相回路Aは、信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが第1の導電層L1に形成されている。第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、絶縁層を挟んで第1の導電層L1と対向する複数の第2の導電層L2に形成されてもよい。第1の導電層L1に形成された構成要素と複数の第2の導電層L2に形成された構成要素とは、複数のビアホール(via hole)によって相互に接続される。複数の接続導体6は、絶縁層内に埋設されたビアホールに相当する。上記ビアホールの位置や数などは、図2に例示するものに限定されるものではない。
【0055】
内側線路2と、外側線路3と、多層構造で形成された接地導体4の最上層とが同一のレイヤで接続されてもよい。例えば、第1の内側線路2aと、第1の外側線路3aと、多層構造で形成された第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの各最上層とが同一のレイヤで接続される。第2の内側線路2bと、第2の外側線路3bと、多層構造の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの各最上層とが同一のレイヤで接続される。
【0056】
次に、本実施形態に係るデジタル移相回路Aの動作について、図3及び図4を参照して説明する。デジタル移相回路Aは、動作モードとして、高遅延モード及び低遅延モードを有する。デジタル移相回路Aは、高遅延モード又は低遅延モードで動作する。
【0057】
(高遅延モード)
高遅延モードでは、信号Sに第1の位相差を発生させるモードである。高遅延モードでは、図3に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御される。
【0058】
第1の電子スイッチ7aが開状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bの電気的な接続が遮断された状態となる。第2の電子スイッチ7bが開状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端と多層構造の第2の接地導体4bとの間の接続が遮断された状態となる。第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御されることにより、信号線路1の他端は、コンデンサ5を介して第2の接地導体4bに接続された状態となる。
【0059】
信号線路1に入力端(他端)から出力端(一端)に向かって信号Sが伝搬すると、信号Sとは逆方向である一端から他端に向かってリターン電流R1が流れる。すなわち、リターン電流R1は、+X方向に流れる信号Sとは逆方向である-X方向に向かって流れる電流である。高遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態であるため、リターン電流R1は、主として、図3に示すように、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを-X方向に流れる。
【0060】
高遅延モードでは、リターン電流R1が第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを流れるため、低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが高い。また、第4の電子スイッチ7dが閉状態であるため、コンデンサ5が機能している。そのため、高遅延モードでは、低遅延モードよりも高い遅延量を得ることができる。
【0061】
(低遅延モード)
低遅延モードでは、信号Sに第1の位相差よりも小さい第2の位相差を発生させるモードである。低遅延モードでは、図4に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが開状態に制御される。
【0062】
第1の電子スイッチ7aが閉状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。
【0063】
低遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態であるため、リターン電流R2は、主として、図4に示すように、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを-X方向に流れる。低遅延モードでは、リターン電流R2が第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを流れるため、高遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが低い。また、第4の電子スイッチ7dが開状態であるため、コンデンサ5は機能していない。そのため、高遅延モードと比較して、静電容量値Cが小さい。そのため、低遅延モードでの遅延量は、高遅延モードでの遅延量よりも低くなる。
【0064】
ここで、高遅延モードは、低遅延モードよりも信号Sの損失が多い。高遅延モードでの信号Sの損失と、低遅延モードでの信号Sの損失とが異なるため、移相量によって信号Sの損失(信号振幅)が変わってしまう場合がある。したがって、図5に例示するような複数のデジタル移相回路A1~Anを縦続接続したデジタル移相器Bでは、移相量が大きい条件ほど信号Sの損失が大きくなるという事象が起こり得る。
【0065】
デジタル移相回路Aでは、信号Sの信号振幅のアンバランス、すなわち高遅延モードにおける信号Sの損失と低遅延モードにおける信号Sの損失との差を低減するために、一例として内側線路2よりも外側の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bが多層構造で形成されている。このような構成により、外側線路3と内側線路2との間の接地導体4の抵抗値を下げることができ、高遅延モードにおける信号Sの損失を低減することができる。したがって、高遅延モードと低遅延モードとにおける信号振幅のアンバランスを低減することができる。
【0066】
次に、本実施形態に係るデジタル移相器Bの電気的特性について、図6から図8を用いて説明する。デジタル移相器Bは、縦続接続されたn個(nは2以上の整数)のデジタル移相回路A1~Anを備える。デジタル移相器Bは、所定の周波数帯域(以下、「使用周波数帯域」という。)の信号Sを、縦続接続されたn個のデジタル移相回路A1~Anによって移相する。使用周波数帯域は、第1の周波数f1から第1の周波数よりも高い第2の周波数f2までの範囲である。
【0067】
デジタル移相器Bは、n個のデジタル移相回路A1~Anのそれぞれを、低遅延モード及び高遅延モードのいずれかの動作モードで動作させることができる。したがって、デジタル移相器Bは、n個のデジタル移相回路A1~Anのそれぞれの動作モードを低遅延モード又は高遅延モードに制御することで信号Sの遅延量を制御することができる。
【0068】
例えば、デジタル移相器Bは、縦続接続されているn個のデジタル移相回路Aのうち、1番目からi番目までのデジタル移相回路Aを低遅延モードで動作させ、i+1番目からn番目までのデジタル移相回路Aを高遅延モードで動作させる。デジタル移相器Bは、iの値を任意に変更することで、遅延制御状態を切り替えることができる。遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aの動作モードの制御状態を示し、例えば、縦続接続されているn個のデジタル移相回路Aのうち、1番目から何番目までが高遅延モード又は低遅延モードであるのかを示すものである。
【0069】
仮に、nが46である場合には、遅延制御状態は、iが0,1,…,46までの47通りが考えられる。例えば、iが0である場合での遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aがすべて高遅延モードである場合を示す。例えば、iが46である場合での遅延制御状態とは、n個のデジタル移相回路Aがすべて低遅延モードである場合を示す。
【0070】
図6は、各遅延制御状態における第1の周波数f1での信号振幅を示す図である。図7は、各遅延制御状態における第2の周波数f2での信号振幅を示す図である。図8は、各遅延制御状態における使用周波数帯域の中心周波数f0(=(f1+f1)/2)での信号振幅を示す図である。
【0071】
図6に示すように、遅延制御状態に応じた第1の周波数f1での信号振幅の変化は、右肩下がりの傾向を示す。一方、図7に示すように、遅延制御状態に応じた第2の周波数f2での信号振幅の変化は、右肩上がりの傾向を示す。すなわち、遅延制御状態に応じた第1の周波数f1における信号振幅の変化と遅延制御状態における第2の周波数f2での信号振幅の変化とは変化の傾きが逆になる。デジタル移相器Bが図6及び図7に示す電気的な特性を有する場合には、図8に示すように遅延制御状態に応じた中心周波数f0の信号振幅の変化は、ほぼフラットな特性を示す。
【0072】
したがって、これらの電気的特性を実現するために、デジタル移相器Bにおいて、各々の遅延制御状態での信号Sの振幅の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されてもよい。すなわち、縦続接続されている複数の前記デジタル移相回路のそれぞれを高遅延モード又は低遅延モードで動作させる複数の遅延制御状態(例えば、遅延制御状態の数が2)において、各遅延制御状態の信号Sの振幅の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されている。
【0073】
また、デジタル移相器Bにおいて、n個のデジタル移相回路Aがすべて低遅延モードである場合での信号Sの振幅と、n個のデジタル移相回路Aがすべて高遅延モードである場合での信号Sの振幅との間の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されている。例えば、図6から図8に示した電気的特性を実現するように、コンデンサ5の容量値や、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの各抵抗値が設定される。
【0074】
ここで、低遅延モードにおいて、内側線路のみに交流のリターン電流が流れる。一方、高遅延モードにおいて主に外側線路に交流のリターン電流が流れる。すなわち、高遅延モードにおけるリターン電流の経路は、低遅延モードにおけるリターン電流の電流経路よりも長くなる。電流経路が長くなることは、抵抗損失が増えることを意味し、高遅延モードにおける信号Sの損失増加の要因となる。
【0075】
本実施形態のデジタル移相回路Aでは、内側線路2の外側の接地導体4が2層以上の多層構造で形成されている。これにより、高遅延モードでのリターン電流の電流経路の抵抗値を下げることができ、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスを低減することができる。
【0076】
また、本実施形態のデジタル移相回路Aでは、外側線路3が多層構造で形成されてもよい。すなわち、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの両方又は一方において、外側線路3と内側線路2との間及び外側線路3の少なくとも一方は、多層構造で形成されている。これにより、高遅延モードでのリターン電流の電流経路の抵抗値をより下げることができ、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスをより低減することができる。
【0077】
このように、本実施形態では、高遅延モードでのリターン電流の電流経路の一部を多層構造にすることで、高遅延モードでのリターン電流の電流経路の抵抗値を下げる。このような構成により、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスをより低減することができる。
【0078】
また、本実施形態のデジタル移相回路Aでは、外側線路3の幅が、内側線路2の幅よりも広くなるように形成されてもよい。これにより、高遅延モードでのリターン電流の電流経路の抵抗値をより下げることができ、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスをより低減することができる。
【0079】
また、本実施形態のデジタル移相回路Aでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bのそれぞれのサイズが、第2の接地導体4bの幅と第1の接地導体4aの幅とは合わせた長さH以上に設定されてもよい。第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの各サイズは、図6に例示する幅H以上に設定されてもよい。より好ましくは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの各サイズは、幅Hと同等か幅H1よりも多少はみ出る程度に設定される。ここで、例えば、低遅延モードにおける信号Sのロスは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bの閉状態での抵抗成分(オン抵抗成分)が主に起因する。
【0080】
そのため、高遅延モード及び低遅延モードの間の信号振幅のアンバランスを低減するために、高遅延モードにおけるコンデンサ5による損失とリターン電流の電流経路による抵抗損失との和と同等の損失となる電界効果トランジスタを、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bとして用いてもよい。電界効果トランジスタの抵抗値とチャネル幅、即ち電界効果トランジスタのサイズとは相関関係がある。例えば、電界効果トランジスタのサイズが、長さHになる場合に、当該電界効果トランジスタによる抵抗損失が、高遅延モードでのコンデンサ5による損失とリターン電流経路の抵抗損失との和と同程度となる。
【0081】
また、本実施形態のデジタル移相器Bにおいて、複数のデジタル移相回路Aの動作モードの制御状態に応じて変化する信号Sの振幅の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されてもよい。
【0082】
また、デジタル移相器Bでは、n個のデジタル移相回路Aがすべて低遅延モードである場合での信号Sの振幅と、n個のデジタル移相回路Aがすべて高遅延モードである場合での信号Sの振幅との間の大小関係は、信号Sの周波数が第1の周波数f1である場合と、信号Sの周波数が第2の周波数f2である場合とで異なるように設定されている。
【0083】
このような構成により、信号Sの振幅変動における遅延制御状態の依存性を使用周波数帯域の中心周波数で略フラットにすることができ、振幅変動が最大となる第1の周波数f1及び第2の周波数f2での振幅変動を最小にすることができる。その結果、使用周波数帯域内での信号Sの振幅変動を抑制することができる。
【0084】
デジタル移相回路Aは、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に接続される第3の電子スイッチ7cを備えてもよい。例えば、低遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cが閉状態(ON状態)に設定されることにより、信号線路1の損失を意図的に増加させている。この損失付与は、低遅延モードにおいて高周波信号に与える損失を高遅延モードにおいて高周波信号に与える損失と同程度にしようとするためのものである。例えば、高遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cが開状態(OFF状態)に設定されることにより、信号線路1の損失を意図的に増加させる処置は施されない。この結果、高遅延モードにおいて高周波信号に与える損失は、低遅延モードにおいて高周波信号に与える損失と同程度となる。
【0085】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…信号線路、2…内側線路、2a…第1の内側線路、2b…第2の内側線路、3…外側線路、3a…第1の外側線路、3b…第2の外側線路、4…接地導体,4a…第1の接地導体、4b…第2の接地導体、5…コンデンサ、6…接続導体、7…電子スイッチ,7a…第1の電子スイッチ、7b…第2の電子スイッチ、7d…第4の電子スイッチ、8…スイッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8