(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095466
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230629BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 168
H01L31/04 170
H01L31/04 135
H01L31/04 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211381
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】中川 玲
(72)【発明者】
【氏名】高根 義晴
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151BA11
5F151CB12
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB27
5F151DA20
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151FA13
5F151FA15
5F151GA03
(57)【要約】
【課題】変換効率の高い逆構造型光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る光電変換素子1は、基板10と、基板10上に成膜された下部導電層11と、下部導電層11上に成膜された正孔輸送層12と、正孔輸送層12上に成膜され、組成式Ag
aBi
bI
cで示される光吸収層13と、光吸収層13上に成膜された電子輸送層14と、電子輸送層14上に成膜された上部電極16とを有し、組成式において、c=a+3b、及び2≦b/a≦4を満たし、下部導電層を通して入射する光を光電変換する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に成膜された下部導電層と、
前記下部導電層上に成膜された正孔輸送層と、
前記正孔輸送層上に成膜され、組成式AgaBibIcで示される光吸収層と、
前記光吸収層上に成膜された電子輸送層と、
前記電子輸送層上に成膜された上部電極と、を有し、
前記組成式において、組成比a、b及びcは、c=a+3b、及び2≦b/a≦4を満たし、
前記下部導電層を通して入射する光を光電変換する、
ことを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記正孔輸送層は、ニッケル酸化物(NiOx)層であり、xは0<x≦1である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記電子輸送層は、フラーレン及びフェニル-C61-酪酸メチルエステルを含有する、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記正孔輸送層と前記光吸収層との間に成膜され、前記正孔輸送層及び前記光吸収層のそれぞれに含有される元素の相互拡散を抑制する相互拡散抑制層を更に有する、請求項1~3の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記相互拡散抑制層は、SiO2層である、請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記組成比は、2≦b/a≦2.5を満たす、請求項1~5の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記基板が、可撓性を有する、請求項1~6の何れか一項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化鉛系ペロブスカイト結晶を光吸収層に用いた太陽電池が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1に記載される太陽電池は、色素を増感材料として使用する色素増感太陽電池において、増感材料として色素の代わりにペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(以下、「ペロブスカイト化合物」と称する)を使用した太陽電池である。ペロブスカイト化合物を使用する太陽電池は、ペロブスカイト型結晶構造を発見したLev Perovskiの名前に基づいて、ペロブスカイト型太陽電池と称される。非特許文献1に記載されるペロブスカイト型太陽電池の変換効率は、3.8%であるが、ペロブスカイト型太陽電池の研究が進み、ペロブスカイト型太陽電池の変換効率は、急速に向上し、ペロブスカイト型太陽電池の事業化に向けた開発が進められている。
【0003】
しかしながら、ペロブスカイト化合物は、有害元素である鉛を含有するため、鉛を含有するペロブスカイト化合物に代替可能な増感材料の開発が望まれ、種々の検討がなされている。例えば、非特許文献2には、AaBbXcの一般式で、A:Ag、Cu; B:Bi、Sb; X:I、Br及びc=a+3bで示される光起電性ハロゲン化合物としてAg3BiI6、Ag2BiI5、AgBiI4及びAgBi2I7等が記載されている。また、非特許文献2では、酸化物NaVO2を発見したWalter Rudorffの名前に基づいて、AaBbXcで示されるハロゲン化合物をルドルフファイト材料と称することが記載されている。Ag-Bi-ハロゲン化合物であるAgaBibIcで示される光起電性ハロゲン化合物は、ルドルフファイト材料と称され、ルドルフファイト材料を使用する太陽電池はルドルフファイト太陽電池と称される。また、ルドルフファイト材料を使用する光吸収層はルドルフファイト光吸収層と称される。
【0004】
さらに、非特許文献2には、光の入射側からFTO/c-TiO2/m-TiO2/Ag3BiI6/PTAA/Auが順次積層されたルドルフファイト太陽電池が記載される。FTOはフッ素ドープ酸化スズを示し、PTAAはポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン]を示し、cはコンパクトを示し、mはメソポーラスを示す。非特許文献2に記載されるルドルフファイト太陽電池において、FTOは下地電極であり、c-TiO2及びm-TiO2はn形半導体である電子輸送層であり、Ag3BiI6はi形半導体である光吸収層である。また、PTAAはp形半導体である正孔輸送層であり、Auは上部電極である。非特許文献2に記載されるルドルフファイト太陽電池の変換効率は、4.3%である。
【0005】
非特許文献2に記載されるルドルフファイト太陽電池のように、光の入射側である基板側から下地電極/電子輸送層/光吸収層/正孔輸送層/上部電極の順に積層されるルドルフファイト太陽電池は、順構造型ルドルフファイト太陽電池と称される。一方、非特許文献2に記載される順構造型ルドルフファイト太陽電池とは反対に、光の入射側から下地電極/正孔輸送層/光吸収層/電子輸送層/上部電極の順に積層されるルドルフファイト太陽電池は、逆構造型ルドルフファイト太陽電池と称される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells」Akihiro Kojima et al.,Journal of the American Chemical Society 131(17):6050-1, May 2009
【非特許文献2】「Photovoltaic Rudorffites: Lead-Free Silver Bismuth Halides Alternative to Hybrid Lead Halide Perovskites」Dr. Ivan Turkevych et al.,ChemSusChem Volume10, 3754-3759, October 9, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IoT向け電源装置等に応用するために、ルドルフファイト太陽電池をフレキシブル基板上に形成して、ルドルフファイト太陽電池を使用して、曲げ動作が可能な可撓性を有するフレキシブルな太陽電池を実現することが望まれている。
【0008】
非特許文献2に記載される順構造型ルドルフファイト太陽電池では、高温で熱処理されるTiO2が基板の近傍に配置されるため、高温下で変質するポリイミド樹脂等の合成樹脂により形成されるフレキシブル基板を基板として採用することは容易ではない。順構造型ルドルフファイト太陽電池は、フレキシブル基板を基板として採用することが難しいため、フレキシブルな太陽電池を形成することは容易ではない。また、光が入射する界面で光吸収層に接する電子輸送層の材料であるTiO2は、光触媒として機能するので、照射された紫外線を吸収して光吸収層の界面を酸化させるため、順構造型ルドルフファイト太陽電池は、光吸収層が劣化するおそれがある。
【0009】
一方、逆構造型ルドルフファイト太陽電池は、高温で熱処理されるTiO2が基板から離隔して配置されるので、基板を高温下に曝すことなく形成可能なため、フレキシブル基板を基板として採用することができる。また、逆構造型ルドルフファイト太陽電池では、電子輸送層の材料であるTiO2は、光吸収層の入射側とは反対側で接するので、光触媒として機能するTiO2によって光吸収層の界面が酸化されるおそれはない。しかしながら、逆構造型ルドルフファイト太陽電池の変換効率は、順構造型ルドルフファイト太陽電池の変換効率と比較して低く、変換効率が高い逆構造型ルドルフファイト太陽電池が望まれている。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するものであり、変換効率の高い逆構造型光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光電変換素子は、基板と、基板上に成膜された下部導電層と、下部導電層上に成膜された正孔輸送層と、正孔輸送層上に成膜され、組成式AgaBibIcで示される光吸収層と、光吸収層上に成膜された電子輸送層と、電子輸送層上に成膜された上部電極とを有し、組成式において、c=a+3b、及び2≦b/a≦4を満たし、下部導電層を通して入射する光を光電変換する。
【0012】
また、本発明に係る光電変換素子では、正孔輸送層はニッケル酸化物(NiOx)層であり、xは0<x≦1であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る光電変換素子では、電子輸送層は、フラーレン及びフェニル-C61-酪酸メチルエステルを含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る光電変換素子では正孔輸送層と光吸収層との間に成膜され、正孔輸送層及び光吸収層のそれぞれに含有される元素の相互拡散を抑制する相互拡散抑制層を更に有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る光電変換素子では、相互拡散抑制層は、SiO2層であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る光電変換素子では、組成比は、2≦b/a≦2.5を満たすことが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る光電変換素子では、基板が、可撓性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光電変換素子は、逆構造型において変換効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1比較例に係る光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
【
図2】第2比較例に係る光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
【
図3】実施形態に係る逆構造型光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
【
図6】
図3に示す光電変換素子の製造方法を示す図であり、(a)は下部導電層成膜工程を示し、(b)は正孔輸送層成膜工程を示し、(c)は光吸収層成膜工程を示し、(d)は電子輸送層成膜工程を示し、(e)は光吸収層除去工程を示し、(f)は電極成膜工程を示す。
【
図7】第2実施形態に係る光電変換素子の平面図である。
【
図9】
図7に示す光電変換素子の製造方法を示す図であり、(a)は下部導電層成膜工程を示し、(b)は正孔輸送層成膜工程を示し、(c)は相互拡散抑制層成膜工程を示し、(d)は光吸収層成膜工程を示す。(e)は電子輸送層成膜工程を示し、(f)は光吸収層除去工程を示し、(g)は電極成膜工程を示す。
【
図10】変形例に係る光電変換素子の平面図である。
【
図12】実施例1に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図13】実施例2に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図14】実施例3に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図15】実施例4に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図16】実施例5に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図17】比較例1に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図18】比較例2に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
【
図19】実施例1~4並びに変形例1及び2の電流-電圧特性における開放電圧V
OCに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る光電変換素子の好適な実施形態を、図面を参照して説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0021】
用語「光電変換素子」は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子を示し、屋内光及び太陽光を含む光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子、光電池素子、及び光起電素子を含む。実施形態に係る光電変換素子は、ソーラーパネルとも称される太陽電池モジュール及び携帯機器等の電源装置として使用してもよい。
【0022】
(実施形態に係る光電変換素子の概要)
本発明の発明者らは、組成式Ag
aBi
bI
cで示されるルドルフファイト光吸収層(以下、単に光吸収層と称する)を使用する逆構造型光電変換素子において、Ag、Bi及びIの組成比を所定の範囲に規定することによって変換効率を向上させることを見出した。
図1~3は、逆構造型光電変換素子において変換効率が向上するメカニズムを説明するための図である。
【0023】
図1は、高い変換効率を有する順構造型光電変換素子である第1比較例に係る光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
図2は、
図1に示す順構造型光電変換素子と同一の光吸収層を有する逆構造型光電変換素子である第2比較例に係る光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
図3は、実施形態に係る逆構造型光電変換素子のエネルギーバンドの模式図である。
図1~3において、E
fはフェルミ準位を示し、E
Cは伝導帯の下端のエネルギー準位を示し、E
Vは価電子帯の上端のエネルギー準位を示す。また、黒丸印は電子を示し、白丸印は正孔を示し、太矢印Aは光電変換素子に入射する光の入射方向を示し、細矢印は電子及び正孔すなわちキャリアの拡散方向を示す。
【0024】
第1比較例に係る光電変換素子100は、下部導電層101と、電子輸送層102と、光吸収層103と、正孔輸送層104と、電極105とを有し、下部導電層101及び電子輸送層102を通して光が入射される順構造型光電変換素子である。光電変換素子100では、光吸収層103は、組成式AgaBibIcにおいて、組成比(b/a)はb/a<2を満たす。光電変換素子100では、電子輸送層102の仕事関数と光吸収層103の仕事関数との間の差は、光吸収層103の仕事関数と正孔輸送層104の仕事関数との間の差よりも大きい。
【0025】
光電変換素子100では、電子輸送層102の仕事関数と光吸収層103の仕事関数との間の差が大きいため、電子輸送層102及び光吸収層103の間の仕事関数の差に応じて、電子輸送層102と光吸収層103との間に大きな内部電界が生じる。一方、光吸収層103の仕事関数と正孔輸送層104の仕事関数との間の差は小さいので、光吸収層103と正孔輸送層104との間に生じる内部電界は小さい。
【0026】
光電変換素子100では、下部導電層101及び電子輸送層102を通して光が入射されるため、電子輸送層102では、電子輸送層102に接する界面の近傍の領域Xにおいてより多くの光が吸収されることで、領域Xでより多くのキャリアが発生する。光電変換素子100では、電子輸送層102との間の内部電界が大きい領域Xに多くのキャリアが発生するので、発生した電子と正孔が効率よく分離されると共に、再結合が抑制され、発生したキャリアが下部導電層101及び電極105に効率良く輸送される。
【0027】
第2比較例に係る光電変換素子200は、下部導電層201と、正孔輸送層202と、光吸収層203と、電子輸送層204と、電極205とを有し、下部導電層201及び正孔輸送層202を通して光が入射される逆構造型光電変換素子である。光電変換素子200では、光吸収層203は、光吸収層103と同様に、組成式AgaBibIcにおいて、組成比(b/a)はb/a<2を満たす。光電変換素子200では、正孔輸送層202の仕事関数と光吸収層203の仕事関数との間の差は、光吸収層203の仕事関数と電子輸送層204の仕事関数との間の差よりも小さい。
【0028】
光電変換素子200では、正孔輸送層202の仕事関数と光吸収層203の仕事関数との間の差が小さいため、正孔輸送層202及び光吸収層203の間に生じる内部電界は、小さい。
【0029】
光電変換素子200では、下部導電層201及び正孔輸送層202を通して光が入射されるため、光吸収層203では、正孔輸送層202に接する界面の近傍の領域Yにおいてより多くの光が吸収されることで、領域Yでより多くのキャリアが発生する。光電変換素子200では、正孔輸送層202との間の内部電界が小さい領域Yに多くのキャリアが発生するので、電子と正孔が分離され難くなることで、再結合が発生し易くなる。光電変換素子200では、電子と正孔が分離され難くなると共に、再結合が発生し易くなるので、下部導電層201及び電極205に輸送されるキャリア量が減少して変換効率が低下する。
【0030】
実施形態に係る光電変換素子1は、下部導電層11と、正孔輸送層12と、光吸収層13と、電子輸送層14と、上部電極16とを有し、下部導電層11及び正孔輸送層12を通して光が入射される逆構造型光電変換素子である。光電変換素子1では、光吸収層13は、組成式AgaBibIcにおいて、組成比(b/a)は2≦b/a≦4を満たす。光電変換素子1では、正孔輸送層12の仕事関数と光吸収層13の仕事関数との間の差は、光吸収層13の仕事関数と電子輸送層14の仕事関数との間の差よりも大きい。
【0031】
光電変換素子1では、正孔輸送層12の仕事関数と光吸収層13の仕事関数との間の差が大きいため、正孔輸送層12及び光吸収層13の間の仕事関数の差に応じて、正孔輸送層12と光吸収層13との間に大きい内部電界が生じる。
【0032】
光電変換素子1では、下部導電層11及び正孔輸送層12を通して光が入射されるため、光吸収層13では、正孔輸送層12に接する界面の近傍の領域Zにおいてより多くの光が吸収されることで、領域Zでより多くのキャリアが発生する。光電変換素子1では、正孔輸送層12との間の内部電界が大きい領域Zに多くのキャリアが発生するので、発生した電子と正孔が効率よく分離されることにより、再結合が抑制され、発生したキャリアが下部導電層11及び上部電極16に効率良く輸送される。
【0033】
実施形態に係る光電変換素子1は、光吸収層の組成比(b/a)を2≦b/a≦4を満たすことで光電変換素子100及び200と相違したバンド構造を有するため、高い変換効率を有する逆構造型光電変換素子が実現される。
【0034】
(第1実施形態に係る光電変換素子)
図4は
図3に示す光電変換素子1の平面図であり、
図5は
図4に示すA-A‘に沿う断面図である。
【0035】
光電変換素子1は、基板10及び下部電極15を更に有し、基板10上に、下部導電層11、正孔輸送層12、光吸収層13、及び電子輸送層14が順次積層される。光電変換素子1は、基板10及び下部導電層11を通して光が入射されることに応じて、下部電極15と上部電極16との間に電圧を発生すると共に、下部電極15から電流を出力する逆構造型光電変換素子である。
【0036】
基板10は、絶縁性のガラス基板等の光電変換素子1に含まれる構成要素を支持可能であり、且つ、光電変換素子1に入射する入射光を透過する透明な材料により形成される。透明な材料は、光吸収層13で吸収される波長の光を透過する材料であり、光吸収層13で吸収される波長領域の光の透過率が80%以上の材料であることが好ましく、光吸収層13で吸収される波長領域の光の透過率が95%以上であることが更に好ましい。基板10は、導電性材料によって形成されてもよく、ポリイミド樹脂等の可撓性を有する合成樹脂によって形成されてもよい。基板10は、例えば0.1mm以上5.0mm以下の厚さを有する。基板10は、例えば平板状の形状を有してもよく、フィルム状平板状の形状を有してもよく、円筒状平板状の形状を有してもよい。
【0037】
下部導電層11は、基板10と同様に透明であり、且つ、正孔を高効率で輸送可能な低抵抗な材料により成膜され、基板10を覆うように基板10上に成膜される。下部導電層11は、例えば、高温の熱処理による抵抗率の変化が少なく、透明であり且つ導電性が高いフッ素添加酸化スズ(FTO)により形成される薄膜である。また、基板10がポリイミド樹脂等の耐熱性が低い材料により成膜されるとき、下部導電層11は、低温の熱処理で成膜可能であり、透明であり且つ導電性が高い材料により形成される。低温の熱処理で成膜可能であり、透明であり且つ導電性が高い材料は、例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、アルミ添加酸化亜鉛(AZO)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO)及びニオブ添加酸化チタン(NTO)である。下部導電層11は、0.01μm以上10.0μm以下の厚さを有することが好ましく、0.05μm以上1.0μm以下の厚さを有することが更に好ましい。
【0038】
正孔輸送層12は、光吸収層13で発生した電子をブロックすると共に、光吸収層13で発生した正孔を下部導電層11に高効率で輸送するp形半導体層であり、下部導電層11を覆うように下部導電層11上に成膜される。正孔輸送層12は、透明であり、正孔輸送特性が高い、例えばニッケル酸化物(NiOx)で形成されるか、または亜酸化銅(Cu2O)及び酸化モリブデン(MoO3)などの他の酸化物で形成される。さらに光吸収層13を成膜するときに使用される溶媒により溶解し難いPEDOT:PSS等の有機材料で形成されることが好ましい。正孔輸送層12は、例えばニッケル酸化物(NiOx)、亜酸化銅(Cu2O)及び酸化モリブデン(MoO3)によって形成される。
【0039】
ニッケル酸化物(NiOx)において、NiOx(0<x≦1)は、化学的特性が安定し、且つ、不純物を添加することなくNiの空孔がアクセプタとして機能するp形半導体であるため、正孔輸送層12の材料として使用可能である。Znが添加された酸化ニッケル(NiO:Zn)は、不純物を添加することで、NiOx(0<x≦1)よりも抵抗率が低くなり、正孔輸送特性が向上する。NiとZnとの含有割合Ni:Znは99モル%~80モル%:1モル%~20モル%であることが好ましい。Znの含有割合を20モル%よりも高くすると光電変換素子1の変換効率が低下することが確認されたため、Znの添加割合は20モル%よりも小さいことが好ましい。Znの添加割合が1モル%よりも低くするとZnを添加しても正孔輸送特性が向上しなかったため、Znの添加割合は1モル%以上が好ましい。正孔輸送層12は、10nm以上300nm以下の膜厚を有することが好ましい。正孔輸送層12の膜厚が10nmよりも薄いとき、光吸収層13が正孔輸送層12によって十分に被覆されないおそれがある。正孔輸送層12の膜厚が300nmよりも厚いとき、下部導電層11と光吸収層13との間の抵抗値が大きくなり、光電変換素子1の変換効率が低下する。
【0040】
光吸収層13は、組成式AgaBibIcで示されるルドルフファイト材料によって形成され、下部導電層11上に成膜される。組成式中AgaBibIcにおいて、a、b及びcは組成比を示し、c=a+3bを満たし、2≦b/a≦4であることが好ましく、2≦b/a≦2.5が更に好ましい。光吸収層13は、10nm以上10000nm以下の厚さを有することが好ましく、20nm以上900nm以下の厚さを有することが更に好ましい。光吸収層13は、下部導電層11及び正孔輸送層12を通して入射された光を吸収し、吸収した光により電子が励起され、電子及び正孔が内部に発生する。光吸収層13の内部に発生した正孔は正孔輸送層12及び下部導電層11を介して下部電極15に輸送され、光吸収層13の内部に発生した電子は電子輸送層14を介して上部電極16に輸送される。光吸収層13の内部に発生した正孔が下部電極15に輸送されると共に、光吸収層13の内部に発生した電子が上部電極16に輸送されることにより、光電変換素子1は、起電力を得る。
【0041】
電子輸送層14は、光吸収層13で発生した正孔をブロックすると共に、光吸収層13で発生した電子を上部電極16に高効率で輸送する輸送するn形半導体であり、光吸収層13を覆うように光吸収層13上に成膜される。電子輸送層14は、電子輸送特性が高い材料で形成されることが好ましい。電子輸送層14は、例えば酸化チタン(TiO2等)、酸化スズ(SnO2等)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化アルミニウム(Al2O3)等の金属酸化物、並びにフラーレン(C60)及びフェニル-C61-酪酸メチルエステル(PCBM)等のC系半導体により形成される。電子輸送層14は、5nm以上200nm以下の厚さを有することが好ましく、20nm以上60nm以下の厚さを有することが更に好ましい。
【0042】
下部電極15及び上部電極16は、例えばチタン(Ti)層上に金層(Au)が成膜されたTi/Au層であり、下方に配置される下部導電層11及び電子輸送層14との間の接合面における接触が、オーミック接触となる材料により形成される。下部電極15は下部導電層11上に成膜され、上部電極16は電子輸送層14上に成膜される。下部電極15及び上部電極16は、下部導電層11及び電子輸送層14とオーミック接触する材料により形成されればよく、仕事関数が比較的小さいAg、Al及びZn等の金属並びにグラファイト等の炭素系電極によって形成されてもよい。なお、下部電極15及び上部電極16は、Ti、Ag、Al及びZn等の何れかの単一の金属層として形成されてもよいが、酸化し難いAu及びPt等を更に成膜することで、大気中の酸素による酸化を防止することができる。また、下部電極15及び上部電極16は、ITO等の導電性の高い透明導電膜により形成されてもよい。下部電極15及び上部電極16は、2nm以上200nm以下の厚さを有することが好ましい。下部電極15及び上部電極16の厚さが2nmよりも薄いとき、下部電極15及び上部電極16が延伸する延伸方向の抵抗値が高くなり、電子及び正孔の収集効率が低下して、光電変換素子1の変換効率が低下する。下部電極15及び上部電極16の厚さが200nmよりも厚いとき、下部電極15及び上部電極16の膜厚方向の抵抗値が高くなり、光電変換素子1の変換効率が低下すると共に、下部電極15及び上部電極16を形成する材料に量が増加して、製造コストが高くなる。
【0043】
図6は光電変換素子1の製造方法を示す図であり、
図6(a)は下部導電層成膜工程を示し、
図6(b)は正孔輸送層成膜工程を示し、
図6(c)は光吸収層成膜工程を示す。
図6(d)は電子輸送層成膜工程を示し、
図6(e)は光吸収層除去工程を示し、
図6(f)は電極成膜工程を示す。
【0044】
まず、下部導電層成膜工程において、FTO層は、矩形の平面形状を有する基板10上に、下部導電層11として成膜される。下部導電層11は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法及びメッキ法等の成膜方法により成膜される。なお、下部導電層成膜工程が終了した後に、下部導電層11が成膜された基板10は、UVオゾン洗浄等の洗浄工程において、洗浄されることが好ましい。
【0045】
次いで、正孔輸送層成膜工程において、ZnドープNiO(NiO:Zn)層は、基板10上に成膜された下部導電層11の表面に正孔輸送層12として成膜される。NiO:Zn層は、例えば真空蒸着によって成膜される。正孔輸送層12を真空蒸着により成膜するときの蒸発源として使用される試料は、NiO粉末にZnO粉末をNi:Znが99~80:1~20になるように乳鉢で混合し、プレス成形後、焼成されたタブレット状の試料であってもよい。正孔輸送層12を真空蒸着により成膜するとき使用される蒸着装置は、例えば株式会社アルパック社製のEX-200である。
【0046】
正孔輸送層成膜工程において、まず、下部導電層成膜工程で基板10上に成膜された下部導電層11は、下部導電層11の形状に対応する矩形状の穴が成膜された金属製のマスク上に、下部導電層11の表面の一部が矩形状の穴を通して露出するように配置される。次いで、NiO:Znのタブレット状の試料を水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気する。次いで、NiO:Znの試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってNiO:Znの試料を加熱した後に、シャッターを開き、NiO:Znの試料から蒸発した蒸発粒子が下部導電層11の表面に蒸着することで正孔輸送層12が成膜される。正孔輸送層成膜工程では、蒸着時のガス圧及び基板の温度は制御されず、水晶式膜厚計等の膜厚センサによって成膜される正孔輸送層12の膜厚を測定して、正孔輸送層12の膜厚が所望の厚さになったときに蒸着処理は終了する。
【0047】
次いで、光吸収層成膜工程において、組成式AgaBibIcにおける組成比(b/a)が2≦b/a≦4を満たすように光吸収層13を成膜する。光吸収層13は、例えばスピンコート法により正孔輸送層12上に成膜される。光吸収層成膜工程では、まず、正孔輸送層成膜工程で成膜された正孔輸送層12上に、ルドルフファイト材料の前駆体及び有機溶媒を含むルドルフファイト材料前駆体含有溶液をスピンコート法により塗布した後に、仮乾燥する。次いで、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液が塗布された基板10は、70℃~130℃の間の温度で所定時間焼成されることで、光吸収層13が成膜される。焼成温度が70℃よりも低いとき、光吸収層13は成膜されない。一方、焼成温度が130℃よりも高いとき、光吸収層13からIが脱離し、光吸収層13の内部に多くの欠陥が形成される。
【0048】
ルドルフファイト材料の前駆体は、例えばAgI及びBiI3である。ルドルフファイト材料の前駆体がAgI及びBiI3であるとき、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液は、AgI及びBiI3を有機溶媒に溶解した溶液である。ルドルフファイト材料の前駆体が溶解される有機溶媒は、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、γ-ブチロラクトン(GBL)、1-N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、n-ブチルアミンである。ルドルフファイト材料前駆体含有溶液は、AgI及びBiI3が内部に載置された容器に有機溶媒を流し込むことで、調製されてもよい。また、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液は、BiI3が載置された容器に有機溶媒を流し込んだ後に、AgIを投入して、調製されてもよい。光吸収層13に含まれるルドルフファイト材料の割合すなわちモル%は、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液に含有されるAgイオン、Biイオン及びIイオンの割合と同一である。ルドルフファイト材料が所望の割合でAg、Bi及びIを含有するように、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液を調製するときに、AgI及びBiI3の投入量は、適宜設定される。1molのAgIに対してBiI3が2mol以上で4mol以下になるようにルドルフファイト材料前駆体含有溶液を調製することで、組成式AgaBibIcにおける組成比(b/a)が2≦b/a≦4を満たす光吸収層13が成膜される。
【0049】
次いで、電子輸送層成膜工程において、TiO2層は、基板10上に成膜された光吸収層13の表面に電子輸送層14として成膜される。TiO2層は、正孔輸送層12と同様に、例えば真空蒸着により成膜される。電子輸送層14を真空蒸着により成膜するときの蒸発源として使用される試料は、TiO2の粉末をプレス成形した後、焼成してタブレット状の試料であってもよい。電子輸送層14を真空蒸着により成膜するとき使用される蒸着装置は、正孔輸送層成膜工程と同様に、例えば株式会社アルパック社製のEX-200である。
【0050】
電子輸送層成膜工程において、まず、光吸収層成膜工程で基板10上に成膜された光吸収層13は、光吸収層13の形状に対応する矩形状の穴が成膜された金属製のマスク上に、光吸収層13の表面の一部が矩形状の穴を通して露出するように配置される。次いで、TiO2のタブレット状の試料を水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気する。次いで、TiO2の試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってTiO2の試料を加熱した後に、シャッターを開き、TiO2の試料から蒸発した蒸発粒子が光吸収層13の表面に蒸着することで電子輸送層14が成膜される。電子輸送層成膜工程では、蒸着時のガス圧及び基板の温度は制御されず、水晶式膜厚計等の膜厚センサによって成膜される電子輸送層14の膜厚を測定して、電子輸送層14の膜厚が所望の厚さになったときに蒸着処理は終了する。
【0051】
次いで、光吸収層除去工程において、電子輸送層14が成膜された領域を金属製のマスクによって制限し、正孔輸送層12、光吸収層13及び電子輸送層14のマスクから露出した部分をジメチルホルムアミド(DMF)によって除去する。電子輸送層14が成膜された領域以外の部分が除去されることによって、下部導電層11が露出し、下部導電層11に移動してきた正孔が流れる下部電極15を下部導電層11に接続可能にする。なお、光吸収層除去工程において、下部電極15が下部導電層11に接続可能であれば、光吸収層13のマスクから露出した部分は、全て除去されなくてもよい。
【0052】
そして、電極成膜工程において、Ti/Au層は、基板10上に成膜された下部導電層11の表面に下部電極15として成膜されると共に、電子輸送層14の表面に上部電極16として成膜される。Ti/Au層は、正孔輸送層12及び電子輸送層14と同様に、例えば真空蒸着により成膜される。電極成膜工程において、下部電極15及び上部電極16が成膜されることで、光電変換素子1が製造される。下部電極15及び上部電極16を真空蒸着により成膜するときの蒸発源として使用される試料は、1mm~2mmの径を有するTi及びAuのタブレット状の試料であってもよい。下部電極15及び上部電極16を真空蒸着により成膜するとき使用される蒸着装置は、正孔輸送層成膜工程及び電子輸送層成膜工程と同様に、例えば株式会社アルパック社製のEX-200である。
【0053】
電極成膜工程において、まず、光吸収層除去工程で一部が除去された光吸収層13は、金属製のマスク上に配置される。電極成膜工程において使用されるマスクは、下部導電層11上に成膜される下部電極15の形状に対応する矩形状の一対の穴が形成される。また、電極成膜工程において使用されるマスクは、電子輸送層14上に成膜させる上部電極16の形状に対応する矩形状の6個の穴が形成される。
【0054】
次いで、Tiのタブレット状の試料を水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気する。次いで、Tiの試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってTiの試料を加熱した後に、シャッターを開き、Tiの試料から蒸発した蒸発粒子が下部導電層11及び電子輸送層14の表面に蒸着する。次いで、Tiが載置された水冷ハースは、十分に冷却される。次いで、冷却ハースを回転機構によって切り替えることで、Tiが載置された水冷ハースに代えてAuのタブレット状の試料が載置された冷却ハースを真空チャンバ内に配置する。冷却ハースを回転機構によって切り替えることで、真空チャンバを開放することなく、真空チャンバ内に配置される水冷ハースは切り替えられる。次いで、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気し、Auの試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってAuの試料を加熱する。次いで、シャッターを開き、Auの試料から蒸発した蒸発粒子が下部導電層11及び電子輸送層14の成膜されたTi膜の表面に蒸着する。電極成膜工程では、蒸着時のガス圧及び基板の温度は制御されず、水晶式膜厚計等の膜厚センサによって成膜される下部電極15及び上部電極16の膜厚を測定して、下部電極15及び上部電極16の膜厚が所望の厚さになったときに蒸着処理は終了する。蒸着処理が終了した後、保護膜の成膜加工、所望の形状に変形するための切断加工、及び下部電極15及び上部電極16に配線を接続する接続加工等の光電変換素子1が光電変換素子として動作可能な素子とするための加工が施されてもよい。
【0055】
光電変換素子1は、組成式AgaBibIcで示されるルドルフファイト材料によって形成される光吸収層13の組成比(b/a)が2≦b/a≦4の範囲であるので、電子及び正孔が多く発生する領域に大きい内部電界が発生する。光電変換素子1は、電子及び正孔が多く発生する領域に大きい内部電界が発生するので、電子と正孔の再結合を抑制でき、高い変換効率が達成できる。
【0056】
また、光電変換素子1は、逆構造型であるので、高温で熱処理されるTiO2である電子輸送層14が基板10から離隔して配置されるので、基板10を高温下に曝すことなく形成可能なため、フレキシブル基板を基板10として採用することができる。光電変換素子1は、フレキシブル基板を基板10として採用することで、フレキシブルな光電変換素子として形成可能である。
【0057】
また、光電変換素子1は、NiOx層が正孔輸送層12として成膜されるので、正孔輸送層12は、化学的特性が高い安定性を有することができる。また、光電変換素子1は、ZnがドープされたNiOx層が正孔輸送層12として成膜されるので、正孔輸送層12は、高い正孔輸送特性を有することができる。
【0058】
(第2の実施形態に係る光電変換素子)
図7は第2実施形態に係る光電変換素子の平面図であり、
図8は
図7のB-B‘線に沿う断面図である。
【0059】
光電変換素子2は相互拡散抑制層17を有することが光電変換素子1と相違する。相互拡散抑制層17以外の光電変換素子2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された光電変換素子1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0060】
相互拡散抑制層17は、正孔輸送層12と光吸収層13との間に成膜され、正孔輸送層12及び光吸収層13のそれぞれに含有される元素の相互拡散を抑制する。相互拡散抑制層17を形成する材料は、元素の拡散に対するバリア性が高い材料が好ましく、SiO2及びAl2O3等の金属酸化物が好ましい。SiO2は、低コストで容易に成膜可能であるため、好ましい。相互拡散抑制層17は、0.1以上2nm以下の厚さを有することが好ましい。相互拡散抑制層17の厚さが0.1nmよりも薄いとき、正孔輸送層12及び光吸収層13のそれぞれに含有される元素の相互拡散が抑制されない。相互拡散抑制層17の厚さが2nmよりも厚く且つ相互拡散抑制層17がSiO2層等の絶縁性材料により形成されるとき、正孔輸送層12と光吸収層13との間の抵抗値が高くなり、光電変換素子2の変換効率が低下する。
【0061】
図9は光電変換素子2の製造方法を示す図であり、
図9(a)は下部導電層成膜工程を示し、
図9(b)は正孔輸送層成膜工程を示し、
図9(c)は相互拡散抑制層成膜工程を示し、
図9(d)は光吸収層成膜工程を示す。
図9(e)は電子輸送層成膜工程を示し、
図9(f)は光吸収層除去工程を示し、
図9(g)は電極成膜工程を示す。相互拡散抑制層成膜工程以外の工程は、
図6を参照して説明された工程のそれぞれと同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0062】
相互拡散抑制層成膜工程において、SiO2層は、正孔輸送層成膜工程の後、真空チャンバを開放せずに連続して、基板10上に成膜された正孔輸送層12の表面に相互拡散抑制層17として成膜される。相互拡散抑制層17は、正孔輸送層12と同様に、例えば真空蒸着により成膜される。相互拡散抑制層17を真空蒸着により成膜するときの蒸発源として使用される試料は、1mm~3mm程度の粒径を有する粒子状のSiO2であってもよい。相互拡散抑制層17を真空蒸着により成膜するときに使用される蒸着装置は、正孔輸送層成膜工程と同様に、例えば株式会社アルパック社製のEX-200である。
【0063】
相互拡散抑制層成膜工程において、まず、正孔輸送層成膜工程で使用されたNiO:Znのタブレットが載置された水冷ハースを十分に冷却する。次いで、冷却ハースを回転機構によって切り替えることで、NiO:Znが載置された水冷ハースに代えてSiO2の試料載置された冷却ハースを真空チャンバ内に配置する。次いで、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気し、SiO2の試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってSiO2の試料を加熱する。次いで、シャッターを開き、SiO2の試料から蒸発した蒸発粒子が正孔輸送層12の成膜されたSiO2膜の表面に蒸着する。相互拡散抑制層成膜工程では、蒸着時のガス圧及び基板の温度は制御されず、水晶式膜厚計等の膜厚センサによって成膜される相互拡散抑制層17の膜厚を測定して、相互拡散抑制層17の膜厚が所望の厚さになったときに蒸着処理は終了する。
【0064】
光電変換素子2は、相互拡散抑制層17を有することで、正孔輸送層12及び光吸収層13のそれぞれに含有される元素が、正孔輸送層12及び光吸収層13の間の相互拡散を抑制し、正孔輸送層12及び光吸収層13の界面での欠陥の発生を抑制することができる。光電変換素子2は、正孔輸送層12及び光吸収層13の界面に欠陥が発生することを抑制することで、界面に発生した欠陥を通した電子と正孔の再結合が減少し、光の入射により発生する電子及び正孔が、より効率よく導電層や電極に移動し、取り出し可能になる。
【0065】
(変形例に係る光電変換素子)
光電変換素子1及び2では、下部導電層11はFTO層であり、電子輸送層14はTiO2層であるが、本実施形態に係る光電変換素子は、下部導電層11及び電子輸送層14のそれぞれはFTO層及びTiO2層以外の層構成としてもよい。例えば、実施形態の光電変換素子では、下部導電層はITO層でもよく、電子輸送層はC60及びPCBMによって形成される層であってもよい。
【0066】
また、実施形態の光電変換素子は、正孔輸送層12の正孔輸送特性が十分に高いときに、下部導電層11の代わりに下部集電極を有してもよい。
【0067】
図10は変形例に係る光電変換素子の平面図であり、
図11は
図10に示すC-C‘に沿う断面図である。
【0068】
光電変換素子3は、複数の下部集電極18を下部導電層11の代わりに有することが光電変換素子1と相違する。複数の下部集電極18以外の光電変換素子3の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された光電変換素子1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0069】
複数の下部集電極18のそれぞれは、電子輸送層14の短手方向の延伸方向に延伸する矩形の平面形状を有し、端部が一対の下部電極15のそれぞれに接続されるように配置される。光電変換素子3は、複数の下部集電極18を下部導電層11の代わりに有することで、光吸収層13における光吸収で発生し、正孔輸送層12に移動した正孔を正孔輸送層12の全面に亘って取り出さずに、複数の下部集電極18によって部分的に取り出す。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例に係る光電変換素子を作製し、作製した光電変換素子の電流-電圧測定を行って得られた発電特性について説明する。
【0071】
(光照射下での電流-電圧特性の測定方法)
光照射下での電流-電圧特性は、以下の方法により測定した。光源は分光計器株式会社製のBLD-100が使用され、光源から光電変換素子に入射する入射光が200lxとなるように照度が調整された。光源から出射する光は遮光マスクにより2.5mm×2.5mmの領域に出射するように調整され、光源及び光電変換素子は光電変換素子の基板側から光電変換素子に入射するように配置された。電流-電圧特性は、ペクセル・テクノロジーズ株式会社製のPECK2400-Nを使用して、光電変換素子に印加する電圧をプラス側からマイナス側に順次スイープして測定された。
【0072】
(実施例1)
実施例1は、
図6に示す製造方法によって作製された。まず、25mm×25mmの平面形状を有し、基板10に下部導電層11が成膜されたFTOガラス基板を準備し、準備されたFTOガラス基板はUVオゾン洗浄した。ここで、基板10に対応するガラス基板の厚さは1mmであり、下部導電層11に対応するFTO膜の厚さは1μmである。
【0073】
次いで、正孔輸送層12に対応するNiO:Zn層は、アルパック社製のEX-200を使用する真空蒸着法によって、EB-gunで加熱することで、FTOガラス基板に成膜されたFTO膜の面上に成膜された。正孔輸送層12の成膜に使用される材料は、NiO粉末にZnO粉末をNi:Znが90:10になるように調整して乳鉢で混合し、プレス成形後、焼成してタブレット状にして作製された。下部導電層11が成膜されたFTOガラス基板を25mm×15mmの穴の開いた金属製のマスク上に設置し、タブレットのNiO:Znを水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気する。次いで、NiO:Znの試料からガス出しをすると共に、EB-gunによってNiO:Znの試料を加熱した後に、シャッターを開き、NiO:Znの試料から蒸発した蒸発粒子が下部導電層11の表面に蒸着された。
【0074】
次いで、光吸収層13に対応するAgBi2I7膜は、正孔輸送層12の面上にスピンコート法により成膜された。ルドルフファイト材料前駆体含有溶液は、容器にAgI及びBiI3を載置し、AgI及びBiI3が載置された容器にDMSOを投入して溶解することで作製された。容器に載置されたAgI及びBiI3は、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液中のAg:Bi:Iが1:2:7となるように調製された。スピンコートにおける回転数は4000rpmであり、ルドルフファイト材料前駆体含有溶液が塗布された時間は30秒だった。ルドルフファイト材料前駆体含有溶液が塗布されたFTOガラス基板は、温度90℃で5分間に亘って仮乾燥された後に、温度120℃で1時間に亘って焼成することで、ルドルフファイト材料を含む光吸収層13に対応するAgBi2I7膜は成膜された。製膜されたAgBi2I7膜の膜厚は、60nmだった。
【0075】
次いで、電子輸送層14に対応するTiO2層は、アルパック社製のEX-200を使用する真空蒸着法によって、EB-gunで加熱することで、Ag1Bi2I7膜の面上に成膜された。電子輸送層14の成膜に使用される材料は、TiO2の粉末をプレス成形後、焼成してタブレット状にして作成された。Ag1Bi2I7膜が成膜されたFTOガラス基板を載置した後にタブレットのTiO2を水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで真空チャンバの内部を排気する。次いで、TiO2の試料からガス出しをすると共に、EB-gunで加熱してからシャッターを開き、TiO2層の厚さが30nmになるようにTiO2の試料から蒸発した蒸発粒子が下部導電層11の表面に蒸着された。
【0076】
次いで、電子輸送層14が成膜された領域を金属製のマスクによって制限し、正孔輸送層12、光吸収層13及び電子輸送層14のマスクから露出した部分は、DMFによって除去される。
【0077】
そして、下部電極15及び上部電極16に対応するTi/Au層は、アルパック社製のEX-200を使用する真空蒸着法によって、EB-gunで加熱することで、FTO膜及びTiO2層の面上に成膜された。正孔を集める電極用の3.25mm×20mmの2つの穴及び電子を集める電極用の3.2mm×3.2mmの10個の穴が形成された金属製のマスク上にFTOガラス基板を配置し、Ti/Au層の面積が所望の面積になるように蒸着される領域は制限された。蒸発源として、1mm~2mmの径を有するTiを水冷ハース内に充填し、4×10-5Torr以下まで排気後、材料のガス出しを行い、EB-gunで加熱してからシャッターを開き、厚さが2nmになるように蒸着を行なった。次いで、Tiを入れた水冷ハースが十分に冷却されたら、回転機構によって、1mm~2mmの径を有するAuを充填した水冷ハースに切り替えて、4×10-5Torr以下まで排気されていることを確認する。次いで、材料のガス出しを行い、EB-gunで加熱してからシャッターを開き、70nmになるように蒸着を行なった。
【0078】
(実施例2~4並びに比較例1及び2)
実施例2~4、並びに比較例1及び2は、光吸収層13に対応するAgaBibIc層に含有されるAg、Bi及びIの組成比が実施例1と相違する。実施例2はAg:Bi:Iが2:5:17となるように調製され、実施例3はAg:Bi:Iが1:3:10となるように調製され、実施例4はAg:Bi:Iが1:4:13となるように調製された。比較例1はAg:Bi:Iが1:1:4となるように調製され、比較例2はAg:Bi:Iが1:6:19となるように調製された。実施例2~4、並びに比較例1及び2は、Ag、Bi及びIの組成比以外の構成は、実施例1と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0079】
(実施例5)
実施例5は、下部導電層11及び電子輸送層14に対応する層の層構造が実施例1と相違する。実施例5では、1μmの厚さを有するITO層が成膜されたITOガラス基板をFTOガラス基板の代わりに使用することで、ITO層がFTO層の代わりに下部導電層11に成膜される。また、実施例5において、C60及びPCBMを含有する層がTiO2層の代わりに電子輸送層14として成膜される。C60及びPCBMを含有する層は、スピンコート法により成膜された。電子輸送層前駆体及び有機溶媒を含む電子輸送層前駆体溶液をスピンコート法によって塗布し、乾燥させた。電子輸送層前駆体溶液はPCBMをクロロベンゼンに溶解させた溶液と、C60をジクロロベンゼンに溶解させた溶液を体積比で1:1になるように混合して作製した。スピンコートにおける回転数は1500rpmであり、電子輸送層前駆体溶液が塗布された時間は30秒間であった。
【0080】
表1は、実施例1~5並びに比較例1及び2の光吸収層13に対応するAgaBibIc層の組成比、並びに正孔輸送層12及び電子輸送層14の層構造を示す。
【0081】
【0082】
図12は実施例1に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図であり、
図13は実施例2に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図であり、
図14は実施例3に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
図15は実施例4に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図であり、
図16は実施例5に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
図17は比較例1に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図であり、
図18は比較例2に係る光電変換素子の光照射下での電流-電圧特性を示す図である。
図12~18において、横軸は光が照射されたときに下部電極15と上部電極16との間に発生する電圧を示し、縦軸は光が照射されたときに下部電極15から流れる電流を示す。
【0083】
AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:2:7であり、組成比(b/a)が2である実施例1の変換効率は、6.66%である。AgaBibIc膜の組成比a:b:cが2:5:17であり、組成比(b/a)が2.5である実施例2の変換効率は、5.86%である。AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:3:10であり、組成比(b/a)が3である実施例3の変換効率は、1.43%である。AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:4:13であり、組成比(b/a)が4である実施例4の変換効率は、1.56%である。AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:2:7であり、組成比(b/a)が2であり且つC60及びPCBMを含有する層が電子輸送層14として成膜される実施例5の変換効率は、4.90%である。
【0084】
実施例1~4では、
図3に示したように組成比(b/a)が2≦b/a≦4を満たす光吸収層13内の正孔輸送層12に接し且つ正孔輸送層12を通して光が入射する領域において、光吸収により励起されて電子及び正孔が多く発生する。また、電子及び正孔が多く発生する領域に大きい内部電界が印加されることより、発生した電子と正孔は分離されるため、電子と正孔との間の再結合が発生し難くなり、下部電極15及び上部電極16に輸送される電子及び正孔が多くなり変換効率が高くなる。
【0085】
実施例5は、実施例1~4と異なり、下部導電層11に対応するITO層、電子輸送層14に対応するC60及びPCBMを含有する層を有するが、実施例1~4と同様に光吸収層13の組成比が2≦b/a≦4を満たすので変換効率が高くなる。なお、C60及びPCBMを含有する層は、より低温での作製が可能であり、例えば塗布法によっても作製が可能である。
【0086】
一方、AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:1:4であり、Ag及びBiの組成比(b/a)が1である比較例1の変換効率は、0.05%である。また、AgaBibIc膜の組成比a:b:cが1:6:19であり、Ag及びBiの組成比(b/a)が6である比較例2の変換効率は、0.65%である。
【0087】
Ag及びBiの組成比(b/a)が1である比較例1は、組成比(b/a)が2≦b/a≦4を満たす光吸収層13を有する実施例1~5と比較して、変換効率が大幅に低下している。比較例1では、正孔輸送層12と光吸収層13との間の仕事関数の差が小さいため、発生する内部電界は小さく、光吸収層13内の正孔輸送層12と接する側の領域に多く発生した電子と正孔とは分離されにくい。比較例1では、電子と正孔との間の再結合が発生し易くなり、下部電極15及び上部電極16に輸送される電子及び正孔が少なくなり変換効率が低くなる。
【0088】
また、Ag及びBiの組成比(b/a)が6である比較例2は、比較例1よりも変換効率が高いが、実施例1~5よりも変換効率が低い。比較例2では、実施例1~5と同様に、電子及び正孔が多く発生する光吸収層13内の正孔輸送層12と接する領域において大きい内部電界により、発生した電子及び正孔は分離され、再結合が発生し難い。しかしながら、組成比(b/a)が4より大きくなると、正孔輸送層12に対応するNiO:Zn層の価電子帯上端と光吸収層13の価電子帯上端のエネルギーオフセットが大きいので、実施例1~5と比較すると、発生する内部電界が小さい。比較例2では、光吸収層13内の正孔輸送層12と接する領域に発生する内部電界が小さくなることで開放電圧が低下すると共に、電子及び正孔の間の再結合が増加し、下部電極15及び上部電極16に輸送される電子及び正孔が少なくなり変換効率が低下する。光電変換素子を実用化するとき、開放電圧は高いことが望まれる。具体的には、開放電圧は0.4V以上であることが好ましい。比較例2の開放電圧は0.4V未満の0.36Vであり、好ましくない。
【0089】
図19は、実施例1~4並びに変形例1及び2の電流-電圧特性における開放電圧V
OCを示す図である。
【0090】
比較例1では、正孔輸送層12の仕事関数と、光吸収層13の仕事関数との差が小さいため、光吸収層13内の正孔輸送層12と接する領域に発生する内部電界は小さく、電子及び正孔が多く発生する領域において、電子及び正孔は分離され難い。光吸収層13内の正孔輸送層12と接する領域に発生する内部電界は小さいので、電子及び正孔の再結合が発生しやすくなり、開放電圧VOCは低くなる。一方、比較例2で、正孔輸送層12に対応するNiO:Zn層の価電子帯上端と光吸収層13の価電子帯上端のエネルギーオフセットが大きくなり、開放電圧VOCは低くなり、開放電圧VOCは低くなる。実施例1~4では、開放電圧VOCは、0.4Vよりも高く。AgとBiとの組成比(b/a)が2≦b/a≦2.5である実施例1及び2において開放電圧VOCは最大となっており、光電変換素子は、AgとBiとの組成比(b/a)が2≦b/a≦2.5である光吸収層を有することが更に好ましい。