(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095483
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211405
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宗方 誠和
(72)【発明者】
【氏名】池成 達也
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730BB27
5H730BB66
5H730DD04
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD31
5H730FF09
5H730FF17
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】パルスの電圧値を正確に制御する。
【解決手段】パルス電源装置は、出力電圧を出力する絶縁型・昇圧型であるDC-DCコンバータと、基準電圧と第1電圧とが交互に切り替わる第1パルスを第1出力端子へ出力する第1パルス出力回路と、基準電圧と、第1電圧に出力電圧を加算した第2電圧とが交互に切り替わる第2パルスを第2出力端子へ出力する第2パルス出力回路と、DC-DCコンバータから出力された電力を消費する電荷吸収回路と、出力電圧の電圧値を目標電圧値に一致させるようにDC-DCコンバータを制御するための電圧制御量を算出するとともに、電圧制御量が所定値以上の場合は、電圧制御量に基づいてDC-DCコンバータを制御し、電圧制御量が所定値未満の場合は、電圧制御量に基づいて電荷吸収回路により消費される吸収電力を制御する制御部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧を出力する昇圧型であるDC-DCコンバータと、
基準電圧と第1電圧とが交互に切り替わる第1パルスを第1出力端子へ出力する第1パルス出力回路と、
前記基準電圧と、前記第1電圧に前記出力電圧を加算した第2電圧とが交互に切り替わる第2パルスを第2出力端子へ出力する第2パルス出力回路と、
前記DC-DCコンバータから出力された電力を消費する電荷吸収回路と、
前記出力電圧の電圧値を目標電圧値に一致させるように前記DC-DCコンバータを制御するための電圧制御量を算出するとともに、前記電圧制御量が所定値以上の場合は、前記電圧制御量に基づいて前記DC-DCコンバータを制御し、前記電圧制御量が前記所定値未満の場合は、前記電圧制御量に基づいて前記電荷吸収回路により消費される吸収電力を制御する制御部と、
を備えるパルス電源装置。
【請求項2】
前記基準電圧と前記第1電圧との差の絶対値は、前記出力電圧の絶対値より大きく、
前記DC-DCコンバータは、第1コンバータ出力端子と、第2コンバータ出力端子との間に、前記出力電圧を発生し、
前記第1出力端子は、前記第1コンバータ出力端子と接続され、
前記第1パルス出力回路は、
前記第1出力端子と前記基準電圧との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える第1スイッチと、
前記第1スイッチと交互にスイッチングを行い、前記第1出力端子と前記第1電圧との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える第2スイッチと、
を有し、
前記第2パルス出力回路は、
前記第1スイッチに同期したタイミングで、前記第2出力端子と前記第1コンバータ出力端子との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える第3スイッチと、
前記第2スイッチに同期したタイミングで、前記第2出力端子と前記第2コンバータ出力端子との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える第4スイッチと、
を有する
請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧制御量に基づいて前記電荷吸収回路の抵抗値を設定するための抵抗値制御信号を生成するとともに、
前記吸収電力を予め設定された閾値以下に制限するために、前記抵抗値制御信号を調整する
請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、
高圧側制御回路と、
前記高圧側制御回路から絶縁された低圧側制御回路と、
を含み、
前記高圧側制御回路は、
前記出力電圧の電圧値を検出する電圧検出回路と、
前記電荷吸収回路に流れる吸収電流の電流値を検出する電流検出回路と、
前記抵抗値制御信号に基づき、前記吸収電力を設定する設定回路と、
絶縁された通信回線を介して前記低圧側制御回路に前記電圧値および前記電流値を送信し、前記通信回線を介して前記低圧側制御回路から前記抵抗値制御信号を受信する高圧側通信回路と、
を含み、
前記低圧側制御回路は、
前記通信回線を介して前記高圧側制御回路から前記電圧値および前記電流値を受信し、前記通信回線を介して前記高圧側制御回路に前記抵抗値制御信号を送信する低圧側通信回路と、
前記出力電圧の電圧値を前記目標電圧値に一致させるように前記DC-DCコンバータを制御するための制御量を算出する電圧制御部と、
前記制御量が所定値以下となった場合、前記出力電圧の電圧値を前記目標電圧値に一致させるように、前記抵抗値制御信号を算出する抵抗値制御信号生成部と、
を含む
請求項3に記載のパルス電源装置。
【請求項5】
それぞれが、前記第1コンバータ出力端子と前記第2コンバータ出力端子との間に接続された複数の前記電荷吸収回路を備え、
前記制御部は、前記電圧制御量が所定値未満となった場合、前記出力電圧の電圧値を前記目標電圧値に一致させるように、複数の前記電荷吸収回路のそれぞれが消費する前記吸収電力を制御する
請求項3に記載のパルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置においては、パルス状の電圧(パルス電圧)を発生させるパルス電源装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。パルス電源装置は、例えば、直流電力をインバータ回路で交流電力に変換した後、変圧器により異なる電圧値の交流電力に変換し、整流・平滑し、さらにスイッチング回路等によりパルス電圧を発生させるよう構成される。
【0003】
しかし、従来のパルス電源装置において、パルス電圧の電圧値を正確に制御することは困難であった。具体的には、スイッチング回路等のスイッチング素子の導通/非導通のタイミングのずれにより、出力電圧が目標電圧とは異なる値となり、この結果、発生するパルス電圧の電圧値に誤差が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、パルスの電圧値を正確に制御することができるパルス電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るパルス電源装置は、出力電圧を出力する昇圧型であるDC-DCコンバータと、基準電圧と第1電圧とが交互に切り替わる第1パルスを第1出力端子へ出力する第1パルス出力回路と、前記基準電圧と、前記第1電圧に前記出力電圧を加算した第2電圧とが交互に切り替わる第2パルスを第2出力端子へ出力する第2パルス出力回路と、前記DC-DCコンバータから出力された電力を消費する電荷吸収回路と、前記出力電圧の電圧値を目標電圧値に一致させるように前記DC-DCコンバータを制御するための電圧制御量を算出するとともに、前記電圧制御量が所定値以上の場合は、前記電圧制御量に基づいて前記DC-DCコンバータを制御し、前記電圧制御量が前記所定値未満の場合は、前記電圧制御量に基づいて前記電荷吸収回路により消費される吸収電力を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パルスの電圧値を正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】プラズマ処理システムの構成を示す図である。
【
図3】DC-DCコンバータの構成を直流電源とともに示す図である。
【
図4】制御部の構成を、DC-DCコンバータ等とともに示す図である。
【
図5】電荷吸収回路と電流検出抵抗との直列回路の合成抵抗値(横軸)に対する吸収電力P(縦軸)の関係を示すグラフである。
【
図6】制御部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係る制御部の構成をDC-DCコンバータとともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、プラズマ処理システム10構成を示す図である。プラズマ処理システム10は、チャンバ内の半導体ウェハ等の加工対象物11をプラズマによりエッチングする。
【0010】
プラズマ処理システム10は、プラズマ処理部21と、第1高周波電源装置22と、第2高周波電源装置23と、第1整合器24と、第2整合器25と、パルス電源装置26と、上位制御装置27とを備える。
【0011】
プラズマ処理部21は、チャンバを有する。プラズマ処理部21は、チャンバ内に、第1電極31と、第1電極31に対向して配置される第2電極32とを含む。第1電極31には、第2電極32側の面に、加工対象物11が載置される。第1電極31および第2電極32には、高周波電力およびパルス電圧が印加される。
【0012】
第1高周波電源装置22および第2高周波電源装置23のそれぞれは、RF(Radio Frequency)帯域の周波数の高周波電力を出力する。第1整合器24は、第1高周波電源装置22から出力された高周波電力を、インピーダンス整合をして、第1電極31および第2電極32間に印加する。第2整合器25は、第2高周波電源装置23から出力された高周波電力を、インピーダンス整合をして第1電極31および第2電極32間に印加する。
【0013】
パルス電源装置26は、所定の周波数で電圧値が変化するパルス電圧を、処理容器内の所定の箇所に印加する。パルス電源装置26は、周波数および位相が同期し、異なる振幅の2つのパルス電圧を出力する。例えば、パルス電源装置26は、0V(基準電圧)と-10kV(第1電圧)とが交互に切り替わる第1パルスV1と、0V(基準電圧)と-11.5kV(第2電圧)とが交互に切り替わる第2パルスV2とを出力する。第2電圧は、第1電圧に、後述するDC-DCコンバータ42から出力される出力電圧VOUTを加算した電圧である。パルス電源装置26は、例えば100Hz~10MHz程度の周波数の第1パルスV1および第2パルスV2を出力する。なお、第1パルスV1および第2パルスV2は、どのような振幅、周波数または極性であってもよい。
【0014】
上位制御装置27は、パルス電源装置26から出力するパルス電圧の出力指令を行う。さらに、上位制御装置27は、第1高周波電源装置22および第2高周波電源装置23から出力する高周波電力の出力指令等を行う。
【0015】
図2は、パルス電源装置26の構成を示す図である。パルス電源装置26は、直流電源41と、DC-DCコンバータ42と、第1パルス出力回路43と、第2パルス出力回路44と、第1電圧検出抵抗45と、第2電圧検出抵抗46と、電荷吸収回路47と、電流検出抵抗48と、制御部49とを備える。直流電源41は、所定の直流入力電圧V
INを発生する電力源である。直流電源41は、例えば375Vの直流入力電圧V
INを発生する。
【0016】
DC-DCコンバータ42は、直流電源41から電力を受け取って、安定化した直流の出力電圧VOUTを出力する電力変換回路である。DC-DCコンバータ42は、第1入力端子51と第2入力端子52との間に、直流電源41から発生された直流入力電圧VINを受け取る。DC-DCコンバータ42は、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間に出力電圧VOUTを出力する。
【0017】
DC-DCコンバータ42は、昇圧型である。すなわち、DC-DCコンバータ42は、直流電源41から発生される直流入力電圧VINよりも、絶対値が大きい出力電圧VOUTを出力する。例えば、DC-DCコンバータ42は、-1.5kVの出力電圧VOUTを出力する。具体的には、第2コンバータ出力端子54の電位は、第1コンバータ出力端子53の電位よりも、-1.5kV低い。
【0018】
また、DC-DCコンバータ42は、絶縁型である。すなわち、DC-DCコンバータ42の第1入力端子51および第2入力端子52は、第1コンバータ出力端子53および第2コンバータ出力端子54と電気的に絶縁されている。
【0019】
また、DC-DCコンバータ42は、出力段に容量成分Cを有する。すなわち、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間が容量成分Cを介して接続される。これにより、DC-DCコンバータ42は、直流電源41から受け取った電力を容量成分Cに蓄積しつつ、容量成分Cに蓄積した電荷を負荷に対して供給することができるので、安定した電圧値の出力電圧VOUTを出力することができる。
【0020】
第1パルス出力回路43は、基準電圧と第1電圧とが所定の周波数で交互に切り替わる第1パルスV1を第1出力端子55へ出力する。基準電圧と第1電圧との差の絶対値は、DC-DCコンバータ42から出力される出力電圧VOUTの絶対値より大きい。基準電圧は、例えば0Vである。第1電圧は、例えば-10kVである。なお、基準電圧と第1電圧との差の絶対値がDC-DCコンバータ42から出力される出力電圧VOUTよりも大きければ、基準電圧および第1電圧は、他の電圧値であってもよい。
【0021】
本実施形態において、第1パルス出力回路43は、第1スイッチ61と、第2スイッチ62とを含む。第1スイッチ61は、第1出力端子55と基準電圧との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える。第2スイッチ62は、第1スイッチ61と交互にスイッチングを行い、第1出力端子55と第1電圧との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える。
【0022】
より具体的には、第1スイッチ61がオンで第1出力端子55と基準電圧との間が導通している期間には、第2スイッチ62をオフに切り替えて第1出力端子55と第1電圧との間を非導通にする。また、第1スイッチ61がオフで第1出力端子55と基準電圧との間が非導通の期間には、第2スイッチ62をオンに切り替えて第1出力端子55と第1電圧との間を導通させる。すなわち、第1スイッチ61および第2スイッチ62は、相補的に、一方がオンすれば他方がオフするように制御される。なお、第1スイッチ61および第2スイッチ62は、切り替わり時において、両者が同時にオフとなるデッドタイム期間があってもよい。
【0023】
第1スイッチ61および第2スイッチ62は、絶縁ゲート型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であってもよい。第1スイッチ61は、nMOSFETの場合、ドレインに基準電圧が接続され、ソースに第1出力端子55が接続され、ゲートにスイッチング制御信号が印加される。また、第2スイッチ62は、nMOSFETの場合、ドレインに第1出力端子55が接続され、ソースに第1電圧が接続され、ゲートにスイッチング制御信号が印加される。なお、第1スイッチ61および第2スイッチ62を制御するスイッチング制御信号は、図示しない制御装置から与えられる。
【0024】
第2パルス出力回路44は、基準電圧と第2電圧とが所定の周波数で交互に切り替わる第2パルスV2を第2出力端子56へ出力する。第2電圧は、第1電圧に、DC-DCコンバータ42から出力された出力電圧VOUTを加算した電圧である。第2電圧は、例えば-11.5kVである。
【0025】
本実施形態において、第2パルス出力回路44は、第3スイッチ63と、第4スイッチ64とを含む。さらに、本実施形態において、第1出力端子55は、第1コンバータ出力端子53と接続される。
【0026】
第3スイッチ63は、第1スイッチ61に同期したタイミングで、第2出力端子56と第1コンバータ出力端子53との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える。つまり、第3スイッチ63は、第1スイッチ61がオンしている期間にオンとなり、第2出力端子56と第1コンバータ出力端子53との間を導通させる。また、第3スイッチ63は、第1スイッチ61がオフの場合にオフとなり、第2出力端子56と第1コンバータ出力端子53との間を非道通にさせる。
第4スイッチ64は、第2スイッチ62に同期したタイミングで、第2出力端子56と第2コンバータ出力端子54との間を導通させるオンまたは非導通にするオフに切り替える。つまり、第4スイッチ64は、第2スイッチ62がオンしている期間にオンとなり、第2出力端子56と第2コンバータ出力端子54との間を導通させる。また、第4スイッチ64は、第2スイッチ62がオフの場合にオフとなり、第2出力端子56と第2コンバータ出力端子54との間を非道通にさせる。すなわち、第3スイッチ63および第4スイッチ64は、相補的に、一方がオンすれば他方がオフするように制御される。
なお、第3スイッチ63および第4スイッチ64は、切り替わり時において、両者が同時にオフとなるデッドタイム期間があってもよい。
【0027】
第3スイッチ63および第4スイッチ64は、絶縁ゲート型のMOSFETであってもよい。第3スイッチ63は、nMOSFETの場合、ドレインに第1出力端子55が接続され、ソースに第2出力端子56が接続され、ゲートにスイッチング制御信号が印加される。また、第4スイッチ64は、nMOSFETの場合、ドレインに第2出力端子56が接続され、ソースに第2コンバータ出力端子54が接続され、ゲートにスイッチング制御信号が印加される。なお、第3スイッチ63および第4スイッチ64を制御するスイッチング制御信号は、図示しない制御装置から与えられる。
【0028】
第1電圧検出抵抗45および第2電圧検出抵抗46は、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間に直列に接続される。第1電圧検出抵抗45および第2電圧検出抵抗46は、DC-DCコンバータ42から出力された出力電圧VOUTの電圧値を検出するために、出力電圧VOUTを分圧する。
【0029】
電荷吸収回路47および電流検出抵抗48は、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間に直列に接続される。電荷吸収回路47は、DC-DCコンバータ42から出力された電力を消費する。すなわち、電荷吸収回路47は、DC-DCコンバータ42の出力段の容量成分Cに蓄積された電荷を吸収することにより、DC-DCコンバータ42から出力される電力を吸収する。電流検出抵抗48は、電荷吸収回路47に対して直列に接続され、電荷吸収回路47に流れる吸収電流Iの電流値を検出するために、電流-電圧変換をする。
【0030】
電荷吸収回路47は、制御信号に応じて抵抗値が変化する抵抗変化機能を有するデバイスである。本実施形態において、電荷吸収回路47は、飽和領域において動作する絶縁ゲートMOSFETである。例えば、電荷吸収回路47は、ゲート電圧に応じて、抵抗値が10Ω以上、1MΩ以下程度の範囲で変化する。なお、電荷吸収回路47は、制御信号に応じて抵抗値が変化する可変抵抗器であってもよい。
【0031】
電荷吸収回路47は、例えばnMOSFETの場合、ドレインに第1コンバータ出力端子53が接続され、ソースに電流検出抵抗48の一方の端子が接続され、ゲートに制御電圧が印加される。また、この場合、電流検出抵抗48は、電荷吸収回路47に接続されていない側の端子が、第2コンバータ出力端子54に接続される。
【0032】
制御部49は、第1電圧検出抵抗45および第2電圧検出抵抗46の接続点の分圧電圧を検出して、出力電圧VOUTの電圧値を検出する。そして、制御部49は、出力電圧VOUTの電圧値を、予め設定された目標電圧値VTに一致させるように、DC-DCコンバータ42を制御する。例えば、DC-DCコンバータ42がパルス幅制御をする場合には、制御部49は、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるように、DC-DCコンバータ42に含まれるスイッチング素子のスイッチング信号のデューティ比を制御する。
【0033】
このような制御を行うために、後述する制御部49の電圧制御部143(
図4参照)は、DC-DCコンバータ42に含まれるスイッチング素子をスイッチング制御するための電圧制御量VGを算出する。また、後述する制御部49のスイッチング制御信号生成部144(
図4参照)は、電圧制御部143で算出された電圧制御量VGに基づいて、DC-DCコンバータ42に含まれる各スイッチング素子がON/OFF動作を行うための制御信号を生成する。
【0034】
なお、算出される電圧制御量VGは、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるために必要な制御量なので、計算上、負の値(0よりも小さい値)となる場合がある。しかし、電圧制御量VGが負の値であれば、DC-DCコンバータ42の出力電圧VOUTを下げようとしても、目標電圧値VTまで下げることができないことを示している。この状態は、容量成分Cが過充電になっていることが原因である。
【0035】
さらに、制御部49は、電圧制御量VGが負の値となった場合、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるように、電荷吸収回路47により消費される吸収電力Pを制御する。なお、制御部49は、電圧制御量VGが負の値ではない場合、吸収電力Pの制御を実行しない。
【0036】
次に、DC-DCコンバータ42の出力段の容量成分Cの過充電について説明する。
第1パルスV1および第2パルスV2は、基本的には完全に同期して動作する。しかし、例えば、第1パルス出力回路43および第2パルス出力回路44のスイッチングタイミングのずれまたはその他の原因により、DC-DCコンバータ42の出力段の容量成分Cへの電荷の充電量が容量成分Cからの放電量よりも大きい状態で、第1パルス出力回路43および第2パルス出力回路44のスイッチング制御が行われてしまうことがある。そのような状態が続くと、容量成分Cに蓄積される電荷が徐々に増加して過充電の状態となる。その結果、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間に、目標電圧値VTよりも大きい電圧が印加されてしまうことがある。そうなると、パルスの電圧値を正確に制御することができない。
【0037】
これに対して、本実施形態に係るパルス電源装置26は、電圧制御量VGが負の値になった場合、容量成分Cに充電された電荷を、電荷吸収回路47により吸収(消費)させて、容量成分Cの過充電の状態を解消させる。これにより、DC-DCコンバータ42の出力電圧VOUTを下げることができる。その結果、DC-DCコンバータ42の出力電圧VOUTを目標電圧値VTに一致させることがきる。そのため、出力電圧VOUTを正確に制御することができる。
【0038】
また、容量成分Cが過充電になっていると判定したときには、直ちに容量成分Cに充電された電荷を電荷吸収回路47により吸収させるので、短時間で容量成分Cの過充電の状態を解消させることができる。そのため、過充電による損失の影響を低減できる。
【0039】
なお、電荷吸収回路47はFET等により実現され、例えば仕様上において消費する電力の上限が設定される場合がある。この場合、制御部49は、電荷吸収回路47により消費される吸収電力Pを、予め定められた閾値以下に制限してもよい(後述する保護部147参照)。これにより、制御部49は、電荷吸収回路47の破壊または故障等を回避することができる。
【0040】
図3は、DC-DCコンバータ42の構成を直流電源41とともに示す図である。DC-DCコンバータ42は、インバータ回路71と、クランプ回路72と、変圧器73と、整流回路74と、平滑回路75と、制御部49とを備える。DC-DCコンバータ42は、第1入力端子51と第2入力端子52との間に、直流電源41から直流入力電圧V
INを受け取る。
【0041】
インバータ回路71は、直流入力電圧VINを一次側交流電圧に変換する。インバータ回路71は、フルブリッジ方式である。インバータ回路71は、MOSFET等の、第1変換スイッチ81と、第2変換スイッチ82と、第3変換スイッチ83と、第4変換スイッチ84とを含む。インバータ回路71は、制御部49により、第1ノードN1と第2ノードN2との間に、一次側交流電圧が発生するように、スイッチング制御される。
【0042】
クランプ回路72は、第1インダクタ86と、第2インダクタ87と、第1クランプダイオード88と、第2クランプダイオード89と、第3クランプダイオード90と、第4クランプダイオード91とを含む。第1インダクタ86は、第1ノードN1と、変圧器73の一方の入力端である第3ノードN3との間に接続される。第2インダクタ87は、第2ノードN2と、変圧器73の第3ノードN3とは逆の方の入力端である第4ノードN4との間に接続される。第1インダクタ86および第2インダクタ87は、変圧器73からインバータ回路71を見た場合の入力インピーダンスを高くする。これにより、クランプ回路72は、変圧器73の二次巻線から寄生容量を介して一次巻線に向けて流れるコモンモード電流が、インバータ回路71に流れ込むことを抑制することができる。
【0043】
第1クランプダイオード88は、カソードが第1入力端子51に接続され、アノードが第3ノードN3に接続される。第2クランプダイオード89は、カソードが第3ノードN3に接続され、アノードが第2入力端子52に接続される。第3クランプダイオード90は、カソードが第1入力端子51に接続され、アノードが第4ノードN4に接続される。第4クランプダイオード91は、カソードが第4ノードN4に接続され、アノードが第2入力端子52に接続される。これらのダイオード群は、コモンモード電流をインバータ回路71に流さずに、直流電源41または接地端子へと流すための迂回路として機能する。これによりクランプ回路72は、変圧器73の二次巻線から一次巻線に向けて入るパルス電圧がインバータ回路71へと印加されることを抑制することができる。
【0044】
変圧器73は、一次巻線と二次巻線とを含む。一次巻線は、第3ノードN3と第4ノードN4との間に接続される。二次巻線は、一次巻線に磁気的に結合され、第5ノードN5と第6ノードN6との間に、二次側交流電圧を出力する。
【0045】
整流回路74は、二次巻線から出力される二次側交流電圧を4倍全波整流した整流波電圧を出力する。整流回路74は、第1整流キャパシタ95と、第2整流キャパシタ96と、第1整流ダイオード97と、第2整流ダイオード98と、第3整流ダイオード99と、第4整流ダイオード100とを含む。
【0046】
平滑回路75は、整流回路74から出力される整流波電圧を平滑化する。平滑回路75は、第1平滑キャパシタ102と、第2平滑キャパシタ103とを含む。第1平滑キャパシタ102は、第1コンバータ出力端子53と第6ノードN6との間に接続される。第2平滑キャパシタ103は、第2コンバータ出力端子54と第6ノードN6との間に接続される。第1平滑キャパシタ102および第2平滑キャパシタ103は、DC-DCコンバータ42の出力段の容量成分Cとして機能する。このようなDC-DCコンバータ42は、制御部49によりインバータ回路71がスイッチング制御され、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間から、直流の出力電圧VOUTを出力する。
【0047】
図4は、制御部49の構成を、DC-DCコンバータ42等とともに示す図である。制御部49は、高圧側制御回路121と、低圧側制御回路122とを有する。
【0048】
高圧側制御回路121は、基準電圧から絶縁された絶縁駆動電力が供給され、絶縁駆動電力に基づき動作する。高圧側制御回路121は、電圧検出回路131と、電流検出回路132と、設定回路133と、高圧側通信回路134とを含む。
【0049】
電圧検出回路131は、DC-DCコンバータ42の出力電圧VOUTの電圧値を検出する。例えば、電圧検出回路131は、第1電圧検出抵抗45と第2電圧検出抵抗46との間の接続点の電圧を検出するA/Dコンバータを含む回路である。第1電圧検出抵抗45と第2電圧検出抵抗46との間の接続点の電圧は、出力電圧VOUTを分圧した電圧であり、出力電圧VOUTに比例する。従って、電圧検出回路131は、第1電圧検出抵抗45と第2電圧検出抵抗46との間の接続点の電圧に基づき出力電圧VOUTを検出することができる。
【0050】
電流検出回路132は、電荷吸収回路47に流れる吸収電流Iの電流値を検出する。例えば、電流検出回路132は、電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との間の接続点の電圧を検出するA/Dコンバータを含む回路である。電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との間の接続点の電圧は、電荷吸収回路47に流れる吸収電流Iに比例する。従って、電流検出回路132は、電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との間の接続点の電圧に基づき吸収電流Iの電流値を検出することができる。
【0051】
設定回路133は、低圧側制御回路122から受け取った抵抗値制御信号RG2に基づき、電荷吸収回路47により消費する吸収電力Pを設定する。例えば、設定回路133は、抵抗値制御信号RG2に基づき、電荷吸収回路47の抵抗値を設定する。例えば、電荷吸収回路47がFETである場合、設定回路133は、抵抗値制御信号RG2に応じた制御電圧を電荷吸収回路47のゲートに与えるD/Aコンバータを含む回路である。
【0052】
なお、電荷吸収回路47がFETである場合、電荷吸収回路47は飽和領域で使用される。そのため、FETのゲート電圧の大きさを大きくすることによって、FETのドレイン-ソース間の抵抗値を小さくすることができる。反対に、FETのゲート電圧の大きさを小さくすることによって、FETのドレイン-ソース間の抵抗値を大きくすることができる。例えば、電荷吸収回路47として機能するFETの抵抗値は、10Ω~1MΩの範囲で調整可能である。また、電流検出抵抗48の抵抗値は、例えば1Ωである。FETの抵抗値を変化させることにより電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との合成抵抗値が変化するので、電荷吸収回路47と電流検出抵抗48に流れる吸収電流Iの電流値が変化する。
【0053】
高圧側通信回路134は、光ファイバ等の送信側と受信側とを絶縁した通信回線を介して低圧側制御回路122と通信をする。高圧側通信回路134は、電圧検出回路131により検出された出力電圧VOUTの電圧値、および、電流検出回路132により検出された吸収電流Iの電流値を、低圧側制御回路122に送信する。また、高圧側通信回路134は、低圧側制御回路122から抵抗値制御信号RG2を受信する。
【0054】
低圧側制御回路122は、低圧側通信回路141と、偏差算出部142と、電圧制御部143と、スイッチング制御信号生成部144と、抵抗値制御信号生成部145と、乗算部146と、保護部147と、減算部148とを含む。低圧側制御回路122は、低圧側通信回路141を除く構成が、例えばCPU(Central Processing Unit)等が予め設定されたプログラムを実行することにより実現される。なお、低圧側制御回路122における低圧側通信回路141を除く構成は、ロジック回路や専用回路等によって実現されてもよい。
【0055】
低圧側通信回路141は、光ファイバ等の送信側と受信側とを絶縁した通信回線を介して高圧側制御回路121の高圧側通信回路134と通信する。低圧側通信回路141は、出力電圧VOUTの電圧値および吸収電流Iの電流値を高圧側制御回路121から受信する。低圧側通信回路141は、抵抗値制御信号RG2を高圧側制御回路121に送信する。
【0056】
偏差算出部142は、出力電圧VOUTの電圧値と予め設定された目標電圧値VTとの偏差を算出する。ここでは、偏差算出部142は、出力電圧VOUTの電圧値から目標電圧値VTを減算した値を出力する。
【0057】
電圧制御部143は、算出した偏差に基づき、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるようにDC-DCコンバータ42を制御するための電圧制御量VGを算出する。例えば、DC-DCコンバータ42がパルス幅制御をする場合、電圧制御量VGに基づいて、DC-DCコンバータ42に含まれるスイッチング素子のON/OFF動作のデューティ比が制御される。すなわち、電圧制御量VGは、デューティ比を設定するための制御量である。なお、電圧制御量VGの算出には、例えば、PI制御やPID制御等の公知の手法を用いることができる。
【0058】
スイッチング制御信号生成部144は、電圧制御部143で算出された電圧制御量VGに基づいて、DC-DCコンバータ42に含まれる各スイッチング素子がON/OFF動作を行うための制御信号を生成する。例えば、DC-DCコンバータ42がパルス幅制御をする場合、スイッチング制御信号生成部144は、電圧制御量VGに基づいて設定されるデューティ比を実現するように、DC-DCコンバータ42に含まれる各スイッチング素子に与える制御信号を生成する。
【0059】
抵抗値制御信号生成部145は、電圧制御量VGが負の値であるか否かを判断する。そして、電圧制御量VGが負の値の場合、抵抗値制御信号生成部145は、電圧制御量VGに基づき、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるように、電荷吸収回路47の抵抗値を設定するための抵抗値制御信号RG1を生成する。例えば、電荷吸収回路47がFETである場合、抵抗値制御信号生成部145は、電荷吸収回路47のゲートに与えるゲート電圧に相当する制御信号として抵抗値制御信号RG1を生成する。
【0060】
なお、抵抗値制御信号生成部145には、電圧制御量VGと抵抗値制御信号RG1との対応関係を示す関数が記憶されているか、又は、電圧制御量VGと抵抗値制御信号RG1との関係を示すテーブルが記憶されている。そのため、上記関数又はテーブルを用いることによって、電圧制御量VGに基づいて抵抗値制御信号RG1を生成することができる。
【0061】
ここで、電圧制御部143、スイッチング制御信号生成部144および抵抗値制御信号生成部145の動作について説明する。仮に、出力電圧VOUTが目標電圧値VTよりも高い状態が続いたとすると、電圧制御部143は、例えばデューティ比が小さくなるように電圧制御量VGを算出するので、出力電圧VOUTが小さくなっていく。しかし、デューティ比が0になっても出力電圧VOUTが目標電圧値VTよりも高い状態が解消できなければ、電圧制御部143は、更に電圧制御量VGを小さくするので、計算上、電圧制御量VGが負の値(0よりも小さい値)(0は所定値の一例)になってしまう。しかし、デューティ比を負の値にすることができないので、DC-DCコンバータ42の制御だけでは、それ以上、出力電圧VOUTを下げることができない。このような場合に、電荷吸収回路47によって強制的に電力を消費させることになる。
【0062】
乗算部146は、出力電圧VOUTの電圧値と、吸収電流Iの電流値とを乗算することにより、電荷吸収回路47により消費される吸収電力Pを算出する。
【0063】
保護部147は、吸収電力Pを予め設定された閾値以下に制限するために、抵抗値制御信号RG1を調整する。何故ならば、電荷吸収回路47において消費できる吸収電力Pには、電荷吸収回路47の仕様上の上限があるからである。この上限は、例えば、電荷吸収回路47の熱による破損を考慮して定められている。本実施形態においては、保護部147は、吸収電力Pを閾値以下に制限するように、抵抗値制御信号RG1から減算する保護量PRを算出する。
【0064】
すなわち、抵抗値制御信号RG1は、電荷吸収回路47において強制的に消費する電力値を定めるためのものであるが、消費する電力が大きすぎると、電荷吸収回路47が例えば破壊されたり故障したりする。このような状態を防止するために、吸収電力Pが閾値を超えた場合には、その超過分に応じて電荷吸収回路47において強制的に消費する電力値を抑制させるように保護量PRが設定される。
【0065】
なお、保護部147には、吸収電力Pと保護量PRとの対応関係を示す関数が記憶されているか、又は、吸収電力Pと保護量PRとの関係を示すテーブルが記憶されている。そのため、上記関数又はテーブルを用いることによって、吸収電力Pに基づいて保護量PRを生成することができる。
【0066】
減算部148は、抵抗値制御信号生成部145により算出された抵抗値制御信号RG1から、保護部147により算出された保護量PRを減算して、抵抗値制御信号RG2を出力する。
【0067】
そして、低圧側通信回路141は、保護量PRが減算された後の抵抗値制御信号RG2を高圧側制御回路121に送信する。このような制御部49は、高圧側制御回路121と低圧側制御回路122とを絶縁することができる。
【0068】
図5は、電荷吸収回路47の抵抗値(横軸)に対する吸収電力P(縦軸)の関係を示すグラフである。
【0069】
本実施形態に係るパルス電源装置26では、電荷吸収回路47の抵抗値を制御することによって、電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との直列回路に流れる電流値を調整することができる。そのため、DC-DCコンバータ42の出力段の容量成分Cで過充電が生じて、出力電圧VOUTを目標電圧値VTまで低下させることができない場合でも、電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との直列回路で強制的に電力を消費させることにより、容量成分Cに蓄積された電荷が減少するので、出力電圧VOUTを低下させることができる。
【0070】
この際、電荷吸収回路47の抵抗値によって電荷吸収回路47と電流検出抵抗48との直列回路で消費する吸収電力Pが異なるが、その吸収電力Pは、電荷吸収回路47の抵抗値に比例するわけではない。具体的には、出力電圧V
OUTの電力値、電荷吸収回路47の抵抗値、その他の回路の抵抗成分等の関係で、電荷吸収回路47の抵抗値に対する吸収電力Pは、
図5に示すようになる。すなわち、吸収電力Pは、電荷吸収回路47の抵抗値を変数とした場合、上側に凸となる曲線で表される。従って、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも小さい範囲においては、吸収電力Pは、電荷吸収回路47の抵抗値が大きくなるに従って大きくなる。しかし、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも大きい範囲においては、吸収電力Pは、電荷吸収回路47の抵抗値が大きくなるに従って小さくなる。そのため、
図5に示すような特性を踏まえて、電荷吸収回路47の抵抗値を制御すればよい。
【0071】
なお、吸収電力Pがピークとなる抵抗値を挟む範囲で電荷吸収回路47の抵抗値を制御すると制御が複雑になるので、通常は、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも小さい範囲、又は、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも大きい範囲のいずれかの範囲内で電荷吸収回路47の抵抗値を制御する。
【0072】
以下の説明では、抵抗値制御信号生成部145が、
図5に示す関係において、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも大きい範囲で電荷吸収回路47の抵抗値を制御する場合を例にして説明する。すなわち、吸収電力Pを大きくするためには、電荷吸収回路47の抵抗値を小さくする。
【0073】
保護部147で算出される保護量PRも
図5に示す関係を用いて設定される。すなわち、乗算部146で算出された吸収電力Pが、電荷吸収回路47の仕様上の制限を超えている場合は、その超過分以上の電力値を低下させるために、電荷吸収回路47の抵抗値を制御する必要がある。そのために、低下させるべき電力値に応じた保護量PRを設定して、減算部148において抵抗値制御信号RG1から保護量PRを減算する。
【0074】
上述したように、抵抗値制御信号生成部145が、
図5に示す関係において、吸収電力Pがピークとなる抵抗値よりも大きい範囲で電荷吸収回路47の抵抗値を制御するのであれば、保護量PRもこの範囲の特性を用いて設定される。すなわち、吸収電力Pを低下させるためには、電荷吸収回路47の抵抗値を大きくする必要がある。保護量PRは、このような関係を考慮して設定される。
【0075】
図6は、制御部49による処理の流れを示すフローチャートである。制御部49は、パルス発生中に、所定時間毎に
図6の処理を繰り返す(S10とS20と間のループ)。
【0076】
まず、制御部49は、出力電圧VOUTの電圧値を検出する(S11)。続いて、制御部49は、出力電圧VOUTの電圧値と予め設定された目標電圧値VTとの偏差を算出する(S12)。続いて、制御部49は、DC-DCコンバータ42に対する電圧制御量VGを算出する(S13)。続いて、制御部49は、算出した電圧制御量VGに基づいてDC-DCコンバータ42をスイッチング制御する(S14)。これにより、制御部49は、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるようにDC-DCコンバータ42を制御することができる。
【0077】
続いて、制御部49は、算出した電圧制御量VGが0未満であるか否かを判断する(S15)。制御部49は、電圧制御量VGが0未満ではない場合(S15のNo)、処理をS20に進め、所定時間後にS11から処理を繰り返す。
【0078】
制御部49は、電圧制御量VGが0未満である場合(S15のYes)、処理をS16に進める。S16において、制御部49は、電圧制御量VGに基づき、抵抗値制御信号RG1を算出する。
【0079】
続いて、制御部49は、保護量PRを算出する(S17)。保護量PRは、電荷吸収回路47において消費される吸収電力Pが予め設定された閾値より大きい場合に、吸収電力Pを下げる方向に抵抗値制御信号RG1を変化させるための値である。保護量PRは、電荷吸収回路47において消費される吸収電力Pが閾値以下である場合には、0となる。
【0080】
続いて、制御部49は、抵抗値制御信号RG1から保護量PRを減算する(S18)。そして、制御部49は、保護量PRを減算した抵抗値制御信号RG2を、電荷吸収回路47に設定する(S19)。例えば、電荷吸収回路47がFETである場合、制御部49は、抵抗値制御信号RG2に応じた制御電圧を電荷吸収回路47のゲートに与えて、電荷吸収回路47のドレイン-ソース間の抵抗値を抵抗値制御信号RG2に応じた値に設定する。これにより、電荷吸収回路47は、電圧制御量VGが0未満になった場合、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるように容量成分Cに蓄積された電荷を吸収することができる。制御部49は、S19の処理を終えると、所定時間後に、処理をS11に戻し、S11から処理を繰り返す(S20)。
【0081】
ここで、電圧制御部143の動作について説明する。仮に、出力電圧VOUTが目標電圧値VTよりも高い状態が続いたとすると、電圧制御部143は、例えばデューティ比が小さくなるように電圧制御量VGを算出するので、出力電圧VOUTが小さくなっていく。しかし、デューティ比が0になっても出力電圧VOUTが目標電圧値VTよりも高い状態が解消できなければ、電圧制御部143は、更に電圧制御量VGを小さくするので、計算上、電圧制御量VGが負の値(0よりも小さい値)(0は所定値の一例)になってしまう。しかし、デューティ比を負の値にすることができないので、DC-DCコンバータ42の制御だけでは、それ以上、出力電圧VOUTを下げることができない。このような場合に、電荷吸収回路47によって強制的に電力を消費させる。
【0082】
制御部49は、このような処理を実行することにより、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるように、DC-DCコンバータ42を制御することができる。さらに、制御部49は、電圧制御量VGが0未満になった場合、容量成分Cに充電された電荷を消費させるように、電荷吸収回路47の抵抗値を制御することができる。これにより、制御部49は、短時間で、出力電圧VOUTを目標電圧値VTに一致させることがきる。また、制御部49は、このような処理を実行することにより、電荷吸収回路47により消費される吸収電力Pを閾値以下に制限することができる。これにより、制御部49は、電荷吸収回路47が過剰に電力を消費して例えば破壊や故障をしないように保護することができる。
【0083】
以上のような本実施形態に係るパルス電源装置26によれば、パルス電圧を正確に制御することができる。
【0084】
図7は、変形例に係る制御部49の構成を、DC-DCコンバータ42等とともに示す図である。パルス電源装置26は、複数の電荷吸収回路47を備えてもよい。何故ならば、電荷吸収回路47において消費できる吸収電力Pには、電荷吸収回路47の仕様上の上限があるからである。
【0085】
この場合、パルス電源装置26は、複数の電荷吸収回路47に一対一で対応する複数の電流検出抵抗48を備える。それぞれの電荷吸収回路47は、対応する電流検出抵抗48と直列に接続される。直列に電荷吸収回路47および電流検出抵抗48は、第1コンバータ出力端子53と第2コンバータ出力端子54との間に接続される。このようなパルス電源装置26は、より短時間で、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させることができる。
【0086】
高圧側制御回路121は、複数の電荷吸収回路47に一対一で対応する、複数の電流検出回路132および複数の設定回路133を含む。それぞれの電流検出回路132は、対応する電荷吸収回路47に流れる吸収電流Inを検出する。それぞれの設定回路133は、対応する電荷吸収回路47に対して個別に設定される抵抗値制御信号RG2nに基づき、対応する電荷吸収回路47により消費する吸収電力Pnを設定する。高圧側通信回路134は、それぞれの吸収電流Inを低圧側制御回路122に送信する。
【0087】
低圧側制御回路122は、複数の電荷吸収回路47に一対一で対応する、複数の乗算部146および複数の減算部148を備える。抵抗値制御信号生成部145は、電圧制御量VGが0未満になった場合、出力電圧VOUTの電圧値を目標電圧値VTに一致させるようにそれぞれの電荷吸収回路47について抵抗値制御信号RG1nを算出する。それぞれの乗算部146は、出力電圧VOUTの電圧値と、対応する吸収電流Inの電流値とを乗算することにより、対応する吸収電力Pnを算出する。保護部147は、電荷吸収回路47毎に、吸収電力Pnを閾値以下に制限するように、抵抗値制御信号RG1nから減算する保護量PRnを算出する。それぞれの減算部148は、対応する抵抗値制御信号RG1nから、対応する保護量PRnを減算する。そして、低圧側通信回路141は、それぞれの電荷吸収回路47について、保護量PRnが減算された後の抵抗値制御信号RG2nを高圧側制御回路121に送信する。
【0088】
以上、本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
26 パルス電源装置、42 DC-DCコンバータ、43 第1パルス出力回路、44 第2パルス出力回路、47 電荷吸収回路、49 制御部