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特開2023-95534発電用風車の未利用熱を熱源とした農業用ハウス加温システム
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  • 特開-発電用風車の未利用熱を熱源とした農業用ハウス加温システム 図1
  • 特開-発電用風車の未利用熱を熱源とした農業用ハウス加温システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095534
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】発電用風車の未利用熱を熱源とした農業用ハウス加温システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20230629BHJP
   F03D 9/18 20160101ALI20230629BHJP
   F03D 9/30 20160101ALI20230629BHJP
【FI】
A01G9/24 Q
F03D9/18
F03D9/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211487
(22)【出願日】2021-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 株式会社北羽新報社 刊行物名 北羽新報 令和3年10月27日付紙面
(71)【出願人】
【識別番号】501220983
【氏名又は名称】大森建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098556
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 紘造
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】石井 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】小沼 星佳
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓正
(72)【発明者】
【氏名】大森 三四郎
【テーマコード(参考)】
2B029
3H178
【Fターム(参考)】
2B029SA02
2B029SA06
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA42
3H178BB90
3H178CC25
3H178DD08Z
3H178DD12Z
3H178DD24X
3H178DD67Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】農地への風力発電の設置においては、農業の健全な発展に資する取組が求められている。本発明の目的は、発電用風車の設置が、農業の健全な発展に資するための、装置システムを提供する。
【解決手段】発電用風車のコンバータ及びインバータがタワー内に設置され、該コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を回収する、余剰熱回収手段と回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、農業用ハウス及び/又はハウス内の土に放熱する放熱手段、とからなる農業用ハウス加温システム。農地の風況が良い場合には、低コストでの熱供給が可能となり、風力発電からの熱供給を享受できる施設での高付加価値作物栽培が可能となるため、農業の健全な発展に資する、農業と調和のとれる、風力発電を実現できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)発電用風車のコンバータ及びインバータがタワー内に設置され、該コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を回収する、余剰熱回収手段と
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
【請求項2】
(1)(I)発電用風車のタワー内に設置されたコンバータ及びインバータ、(II)タワー内に設置された変圧器、(III)増速機、(IV)軸受けの摩擦、から生じる余剰熱のうち、(I)を回収し、(II)~(IV)のいずれか1又は2以上を回収する、余剰熱回収手段と
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
【請求項3】
(1-1)発電用風車のコンバータ及びインバータがタワー内に設置され、該コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を回収する、余剰熱回収手段と、
(1-2)発電用風車の基礎設置の際に掘削する穴から地中熱を回収する地中熱回収手段と、
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
【請求項4】
(1-1)(I)発電用風車のタワー内に設置されたコンバータ及びインバータ、(II)タワー内に設置された変圧器、(III)増速機、(IV)軸受けの摩擦、から生じる余剰熱のうち、(I)を回収し、(II)~(IV)のいずれか1又は2以上を回収する、余剰熱回収手段と
(1-2)発電用風車の基礎設置の際に掘削する穴から地中熱を回収する地中熱回収手段と、
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用風車から生じる未利用熱を熱源として農業用ハウスを加温する装置システムに関する。さらに詳しくは、発電用風車のコンバータ、インバータ等から生じる余剰熱、風車基礎設置の際の掘削穴から採取する地中熱、を使用した農業用ハウス加温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人が住所を有する秋田県の風力発電の導入量は、平成29年度末で、約35.5万kWであり、今後の洋上風力発電計画などにより、さらに増加する見込みとなっている。しかし、陸上においては、これまでの陸上風力発電の主たる設置場所であった海岸近傍に、風況適地の設置箇所は残り少ない状況である。そこで、今後の陸上風力は、内陸部で風況の優れる適地を求める方向へシフトすると想定されるが、適地が農地の場合は農地法の制約が障壁となって、このシフトは、全国的に進んでいない。
このような中、各地域で、再生可能エネルギーを使った発電に農地の利用を求める動きも増大してきた。
【0003】
そのような背景もあり、農山漁村において農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー発電を促進するための措置を講ずることにより、農山漁村の活性化を図るとともに、エネルギーの供給源の多様化に資することを目的として、農山漁村再生可能エネルギー法が施行された。この法律で、農地への風力発電の設置においては、農業の健全な発展に資する取組が求められている。
【0004】
一方、秋田県を含めた寒冷地の施設園芸農業において、冬季の燃料費用の負担が大きく、冬季に低コストで熱供給することが課題となっている。これに対し、地中熱利用が提案され研究開発が行われている(特許文献1)。しかし一定の温度が確保される深さからの採熱が必要なため、設備費用や熱交換器のランニングコスト費用が課題であり普及が進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-156820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、農地への風力発電の設置においては、農業の健全な発展に資する取組が求められている。本発明の目的は、発電用風車の設置が、農業の健全な発展に資するための、装置システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために種々検討の結果、発電用風車から生じるコンバータ、インバータ等の余剰熱、風車基礎設置の際の掘削穴から採取する地中熱、を利用することで、農業用ハウスに低コストで熱供給でき、風力発電の設置が農業の発展に資するための装置システムを実現できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の通りである。
1.(1)発電用風車のコンバータ及びインバータがタワー内に設置され、該コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を回収する、余剰熱回収手段と
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
2.(1)(I)発電用風車のタワー内に設置されたコンバータ及びインバータ、(II)タワー内に設置された変圧器、(III)増速機、(IV)軸受けの摩擦、から生じる余剰熱のうち、(I)を回収し、(II)~(IV)のいずれか1又は2以上を回収する、余剰熱回収手段と
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
3.(1-1)発電用風車のコンバータ及びインバータがタワー内に設置され、該コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を回収する、余剰熱回収手段と、
(1-2)発電用風車の基礎設置の際に掘削する穴から地中熱を回収する地中熱回収手段と、
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
4.(1-1)(I)発電用風車のタワー内に設置されたコンバータ及びインバータ、(II)タワー内に設置された変圧器、(III)増速機、(IV)軸受けの摩擦、から生じる余剰熱のうち、(I)を回収し、(II)~(IV)のいずれか1又は2以上を回収する、余剰熱回収手段と
(1-2)発電用風車の基礎設置の際に掘削する穴から地中熱を回収する地中熱回収手段と、
(2)回収した熱を農業用ハウスへ移動させる熱移動手段と、
(3)農業用ハウス、及び/又はハウス内の土、に放熱する放熱手段、
とからなる農業用ハウス加温システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、農地の風況が良い場合には、低コストでの熱供給が可能となり、風力発電からの熱供給を享受できる施設での高付加価値作物栽培が可能となるため、農業の健全な発展に資する、農業と調和のとれる、風力発電を実現できる。
また、結果として、農地への風力発電の導入がすすみ、地域のエネルギー産業の創造にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の農業用ハウス加温システムの装置構成を示した。
図2】プロペラ型発電用風車の基本構成を示した(A)。さらに電気設備2の中の回路図を示した(B)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0011】
1.本発明の農業用ハウス加温システムの概要
本発明の農業用ハウス加温システムのなかで、コンバータ及びインバータから生じる余剰熱と、地中熱の両方を使用する場合の1実施例を、図1に示した。プロペラ型発電用風車のタワー1内に設置された電気設備2の中にあるコンバータ及びインバータから生じる余剰熱と、風車基礎3設置の際の掘削穴から採取した地中熱を、熱媒31に回収し、農業用ハウス41へ供給する。未利用熱である余剰熱と地中熱を使用することで、低コストな熱供給を実現できる。
【0012】
2.発電用風車の余剰熱の利用
(1)本発明の風車は、発電用の風車である。発電用の風車は、プロペラ型、サボニウス型、ダリウス型の風車などどのようなものでもよい。プロペラ型の風車であれば、その基本構成は、ローターブレード11、ナセル12、タワー1、基礎3、よりなる(図2)。風の力によって、ローターブレード11が回転し、ナセル12内の歯車の増速機13で回転数が上げられ、発電機14を廻す。発電された交流は、電気設備2内のコンバータ21で直流に、インバータ22で再び交流に変換され、変圧器23を通って、系統へ接続される。一度直流に変換することで、通過する電力を自由に制御可能となる。
発電用風車の系統接続までのエネルギーロスは発電量の約2.5%程度と想定されていて、その多くはコンバータ、インバータでのエネルギーロスで、これが余剰熱となる。
本発明では、タワー外に設置されることもあるコンバータ及びインバータをタワー内に設置して外気への放熱を減少させる。さらに、コンバータ及びインバータから生じる余剰熱を放熱ファンで排熱するのではなく、農業用ハウスの熱源として利用する。
また、コンバータ及びインバータ以外に、タワー内の余剰熱の発生源は、例えば、増速機、軸受けから生じる摩擦、変圧器、があり、併せて熱源としてもよい。この場合、変圧器はタワー内に設置する。
(2)タワー内の余剰熱の回収手段は、熱媒の配管をコンバータ及びインバータなど各装置に張り巡らせて熱を回収する手段、気体/液体熱交換器を利用して排熱から熱媒に熱を回収する手段を用いてもよい。さらにこれらの手段を組み合わせてもよい。
例えば、コンバータ及びインバータの余剰熱の場合、従来の水冷の経路に熱媒を流し、熱媒に熱を回収する手段でもよい。
(3)4000kWの発電能力がある大型風車の場合、2.5%の100kWの余剰熱が発生していて、1時間で、一般家庭1月分(300kWh)の1/3にあたるが、この熱量を農業用ハウスに利用することができる。さらに、東北地方の日本海側では、冬ほど風が強く発電量も多いのでより余剰熱が発生し、冬ほど熱源を必要とする施設園芸農業を、ちょうど補完することができる。
【0013】
3.地中熱の利用
地中熱とは、地下の比較的浅部(地下100m程度まで)のどこにでもある地下熱のことである。風車基礎設置のために3~10m程度、より好ましくは5~6m程度掘削する。この基礎底面から採熱してもよい。さらに風車基礎設置の際は、基礎杭4(図1)設置のためより深い穴も掘削する。この穴から採熱してもよい。例えば、中空状の基礎杭を利用して、そこから採熱してもよい(参考資料1:「鋼管杭方式地中熱利用システムの実施例http://www.geohpaj.org/old_information/doc/nakamura.pdf」)。また、両者から採熱してもよい。
地中熱回収手段として、より具体的には、風車の基礎底面に、水平にホース状の地中熱交換機5(図1)を設置して採熱してもよいし、さらに中空状の基礎杭にホース状の地中熱交換機を垂直に設置して採熱してもよい。
風車設置の際の掘削穴を利用すれば、地中熱採取のために改めて、穴を掘削しなくてよいので、低コストな熱供給が可能となる。
【0014】
4.熱の移動
熱移動手段に特に制限はない。例えば、熱媒を使い、熱移動させてもよい。この際、より多くの採熱を行うためヒートポンプを利用してもよい。また、地中熱は10~15℃程度、変圧器の排気温度はそれより高いので、熱媒を地中熱で余熱してから、変圧器の余剰熱でさらに温めるというシステム構成にしてもよい。
さらに、タワー内の余剰熱や地中熱を、そのまま送風機で農業用ハウスに送風する装置でもよい。この場合、熱の回収手段と放熱手段は送風機が兼ね、熱移動手段は空気ということになる。
【0015】
5.農業用ハウスへの放熱
農業用ハウスはどのようなものでもよく、例えば塩化ビニル等の樹脂製でもよいし、ガラス製でもよい。また、放熱手段は、農業用ハウス内の空気をあたためてもよいが、変圧器の余剰熱や地中熱は低温熱源なので、農業用ハウス内の地中に放熱管を這わせて地面を直接温めるとより好ましい。
【0016】
以上のような風車の未利用熱を活用する考え、詳しくはインバータ、コンバータ等からの余剰熱、風車基礎からの地中熱を農業に利用する考えは、今までにない考えであって、本発明を嚆矢とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明により、農業用ハウス用の低コスト熱源が得られるので、農業にとって有用である。また、風況適地な風車設置場所の確保につながるので、風力発電業界にとっても有用である。
【符号の説明】
【0018】
1 タワー
2 電気設備
3 基礎
4 基礎杭
5 地中熱交換機
11 ローターブレード
12 ナセル
13 増速機
14 発電機
15 電力線
21 インバータ
22 コンバータ
23 変圧器
31 熱媒
41 農業用ハウス
図1
図2