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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095551
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】歯科充填用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20230629BHJP
   A61K 6/884 20200101ALI20230629BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20230629BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20230629BHJP
   A61K 6/842 20200101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/884
A61K6/818
A61K6/836
A61K6/842
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211508
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】野尻 大和
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA03
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA11
4C089BA13
4C089BA14
4C089BA16
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC07
4C089BC12
4C089BD02
4C089BD03
4C089BD06
4C089BD10
4C089BE03
4C089BE08
4C089CA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好なエナメル質に対する接着耐久性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び機械的強度を示す、歯科用硬化性組成物と歯面処理材とを備える歯科充填用キットを提供すること。
【解決手段】本開示に係る歯科充填用キットは、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含む歯科用硬化性組成物(X)(ただし、フィラー(d)は以下のフィラー(k)を除く)と、pH3.5未満の水溶液からなる歯面処理材(Y)とを備え、歯科用硬化性組成物(X)が、酸性基を有する単量体(a)と、イオン交換反応、中和反応、酸形成反応、及びキレート形成反応から選ばれる少なくとも一つの反応を生じるフィラー(k)を含まず、かつ歯科用硬化性組成物(X)の総量100質量部中に対し、前記フィラー(d)の含有量が50~90質量部である、歯科充填用キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含む歯科用硬化性組成物(X)と
pH3.5未満の水溶液である歯面処理材(Y)とを備え、
歯科用硬化性組成物(X)が、酸性基を有する単量体(a)と、イオン交換反応、中和反応、酸形成反応、及びキレート形成反応から選ばれる少なくとも一つの反応を生じるフィラー(k)を含まず、フィラー(d)がフィラー(k)を含まず、かつ
フィラー(d)の含有量が、歯科用硬化性組成物(X)の総量100質量部において、50~90質量部である、歯科充填用キット。
【請求項2】
歯面処理材(Y)のpHが2.0未満である、請求項1に記載の歯科充填用キット。
【請求項3】
歯面処理材(Y)が高分子系増粘剤を含む、請求項1又は2に記載の歯科充填用キット。
【請求項4】
歯面処理材(Y)が実質的に単量体を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科充填用キット。
【請求項5】
歯面処理材(Y)が酸(f)を含み、歯面処理材(Y)の総量100質量部において、酸(f)の含有量が10質量部以上98質量部以下の範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科充填用キット。
【請求項6】
酸性基を有する単量体(a)がリン酸基を有する単量体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科充填用キット。
【請求項7】
酸性基を有する単量体(a)が炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体を含む、請求項6に記載の歯科充填用キット。
【請求項8】
歯科用硬化性組成物(X)の単量体成分100質量部に対し、重合開始剤(c)が2.5質量部未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科充填用キット。
【請求項9】
フィラー(d)が、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、及びシリカコートフッ化イッテルビウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科充填用キット。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科充填用キットを備える、歯科用小窩裂溝填塞キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科充填用キットに関する。より詳細には、本発明は、歯面処理材にて歯面を処理した後、歯科用硬化性組成物にて充填することで良好なエナメル質に対する接着耐久性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び機械的強度を示す、歯科用硬化性組成物と歯面処理材とを備える歯科充填用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙の最表層を構成している無柱エナメル質は、その内部にある、エナメル小柱、小柱間質などから構成されているエナメル小柱部とは成分及び結晶構造が異なり、耐酸性が高い。かかる無柱エナメル質を対象とした歯科治療としては、例えば、小窩裂溝部、歯面隣接部などの齲蝕予防及び歯列矯正が挙げられる。タービンなどによる歯牙の切削を必ずしも必要としないこれらの歯科治療は、一般的に、リン酸エッチング剤(リン酸水溶液)により歯牙の表面を脱灰して粗面化することから開始される。しかしながら、リン酸エッチング剤は、その高い酸性度に起因して歯牙の脱灰能が非常に大きい。その結果、無柱エナメル質層の内部にある耐酸性が低いエナメル小柱部が歯牙の表面に露出し、露出部から齲蝕菌が侵入して齲触が発生する場合がある。また、過度の脱灰に因り、歯牙の光沢が消失したり、プラーク、タンパク質、色素などが堆積して歯牙の表面が変色したりする場合もある。
【0003】
リン酸エッチング剤による過度の脱灰に起因する上記の弊害は、例えば、治療を必要としない部分に、エナメル質保護用バニッシュ等のマスキング材を予め適用した後にリン酸エッチング処理を施すことによって、ある程度防止できる。しかしながら、治療を必要としない部分をマスキング材により脱灰から完全に保護することは困難である上、マスキングの工程が加わる分だけ接着操作が煩雑になる。
【0004】
接着操作を簡便に行うことができ、しかも無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現する接着性組成物として、酸性基含有重合性単量体と水溶性溶剤と水とを含有する1液型の接着性組成物が提案されている(特許文献1)。また、歯質への直接酸エッチング処理を必要としない無柱エナメル質用の接着性組成物として、水又はpH5~9の水溶液からなる歯面処理剤(A)、及び小窩裂溝填塞材(B)とを含む小窩裂溝填塞用キットも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-226314号公報
【特許文献2】特開2006-8551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなリン酸エッチング材の容器として、ニードルを装着可能なシリンジ容器が用いられることがある。当該シリンジ型容器は、装着されたニードルの先端部からリン酸エッチング材を歯牙に直接適用でき、かつ所望の箇所にピンポイントの適用も容易であるなど、操作性に優れることから、近年リン酸エッチング材容器の主流となっている。したがって、これまでのようなマスキングのような工程は必要ではなくなりつつある。また、特許文献1の1液型の接着性組成物は水を含有しているため、エアブローによって水を揮発させる必要があり、非常に煩雑である。さらに、エアブローの際に周囲の歯質に飛散するため、着色やプラーク付着の原因になる。本発明者らが検討したところ、特許文献2の小窩裂溝填塞用キットは、エナメル質に対する接着耐久性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び曲げ弾性率を含む機械的強度に改善の余地があることがわかった。
【0007】
そこで本発明は、良好なエナメル質に対する接着耐久性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び機械的強度を示す、歯科用硬化性組成物と歯面処理材とを備える歯科充填用キットを提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定組成の歯面処理材と特定組成の歯科用硬化性組成物とを備える歯科充填用キットが上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含む歯科用硬化性組成物(X)と
pH3.5未満の水溶液である歯面処理材(Y)とを備え、
歯科用硬化性組成物(X)が、酸性基を有する単量体(a)と、イオン交換反応、中和反応、酸形成反応、及びキレート形成反応から選ばれる少なくとも一つの反応を生じるフィラー(k)を含まず、フィラー(d)がフィラー(k)を含まず、かつ
フィラー(d)の含有量が、歯科用硬化性組成物(X)の総量100質量部において、50~90質量部である、歯科充填用キット。
[2]歯面処理材(Y)のpHが2.0未満である、[1]に記載の歯科充填用キット。
[3]歯面処理材(Y)が高分子系増粘剤を含む、[1]又は[2]に記載の歯科充填用キット。
[4]歯面処理材(Y)が実質的に単量体を含まない、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科充填用キット。
[5]歯面処理材(Y)が酸(f)を含み、歯面処理材(Y)の総量100質量部において、酸(f)の含有量が10質量部以上98質量部以下の範囲である、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科充填用キット。
[6]酸性基を有する単量体(a)がリン酸基を有する単量体を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科充填用キット。
[7]酸性基を有する単量体(a)が炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体を含む、[6]に記載の歯科充填用キット。
[8]歯科用硬化性組成物(X)の単量体成分100質量部に対し、重合開始剤(c)が2.5質量部未満である、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科充填用キット。
[9]フィラー(d)が、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、及びシリカコートフッ化イッテルビウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科充填用キット。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の歯科充填用キットを備える、歯科用小窩裂溝填塞キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好なエナメル質に対する接着耐久性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び機械的強度を示す、歯科用硬化性組成物と歯面処理材とを備える歯科充填用キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の歯科充填用キットは、歯科用硬化性組成物(X)と、歯面処理材(Y)とを備える。歯科用硬化性組成物(X)は酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、酸性基を有する単量体(a)と、イオン交換反応、中和反応、酸形成反応、及びキレート形成反応から選ばれる少なくとも一つの反応を生じるフィラー(k)を含まず、歯科用硬化性組成物(X)の総量100質量部において、フィラー(d)の含有量が50~90質量部である。また、フィラー(d)はフィラー(k)を含まない。歯面処理材(Y)はpH3.5未満の水溶液である。本発明の歯科充填用キットは、適用箇所に歯面処理材(Y)を処理した後、その処理面に歯科用硬化性組成物(X)を充填して使用する。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0013】
本発明の歯科充填用キットが良好なエナメル質に対する接着性、エナメル質辺縁の封鎖性、及び機械的強度を示す理由は定かではないが、以下のように推定される。歯面処理材(Y)によって確実に粗造化された面に、高いフィラー含有率を有することから硬化後に十分な機械的強度を示す歯科用硬化性組成物(X)を充填することにより、接着界面の強度が向上し、十分なエナメル質に対する接着耐久性が得られ、エナメル質辺縁の封鎖性にも優れるためと推測される。
【0014】
以下、本発明の歯科充填用キットに用いられる各成分について、説明する。
【0015】
まず、歯科用硬化性組成物(X)に用いられる各成分について説明する。
【0016】
<酸性基を有する単量体(a)>
歯科用硬化性組成物(X)にはエナメル質への接着性及びエナメル質辺縁の封鎖性の観点から、酸性基を有する単量体(a)が必須である。歯科用硬化性組成物(X)には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。酸性基を有する単量体(a)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体)が好ましい。
【0017】
本発明に用いられる酸性基を有する単量体(a)としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する単量体が挙げられる。酸性基を有する単量体(a)は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。酸性基を有する単量体(a)の具体例を下記する。
【0018】
リン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(2-ブロモエチル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられ、炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体が好ましい。ある好適な実施形態としては、酸性基を有する単量体(a)が炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体を含む、歯科用硬化性組成物(X)を備える歯科充填用キットが挙げられる。
【0019】
ピロリン酸基を有する単量体としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0020】
チオリン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0021】
ホスホン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0022】
カルボン酸基を有する単量体としては、分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステル、分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
【0024】
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0025】
スルホン酸基を有する単量体としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
また、上述の酸性基を有する単量体(a)の中でも、歯科用硬化性組成物(X)として用いた場合に接着強さが良好である観点から、リン酸基を有する単量体又はカルボン酸基を有する単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、さらに、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが特に好ましい。
【0027】
歯科用硬化性組成物(X)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、エナメル質に対する接着性及びエナメル質辺縁の封鎖性の観点から、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部において、1~40質量部であることが好ましく、2.5~35質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
<酸性基を有しない単量体(b)>
本発明における酸性基を有しない単量体(b)としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1);25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)(以下、単に「疎水性単量体(b-2)」と称することがある);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性単量体(b-3)(以下、単に「親水性単量体(b-3)」と称することがある)が挙げられる。酸性基を有しない単量体(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、酸性基を有さず、アクリルアミド基とメタクリロイルオキシ基とを含有する化合物を非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)とし、酸性基を有さず、かつ非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に含まれない化合物を、親水性の程度に応じて、疎水性単量体(b-2)と、親水性単量体(b-3)と分ける。
【0029】
・非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)
ある好適な実施形態としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)を含む、歯科用硬化性組成物(X)が挙げられる。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、エナメル質への接着性などを向上させることから、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
【化1】
式中、Zは置換基を有していてもよいC1~C8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基又は芳香族基であって、前記脂肪族基は、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR1-、-CO-NR1-、-NR1-CO-、-CO-O-NR1-、-O-CO-NR1-及び-NR1-CO-NR1-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基によって中断されていてもよい。R1は、水素原子又は置換基を有していてもよいC1~C8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基を表す。
【0031】
Zは、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の親水性を調整する部位である。Zで表される置換基を有していてもよいC1~C8の脂肪族基は、飽和脂肪族基(アルキレン基、シクロアルキレン基(例えば、1,4-シクロへキシレン基等))、不飽和脂肪族基(アルケニレン基、アルキニレン基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキレン基)であることが好ましい。Zは、エナメル質に対する接着性と重合硬化性の観点から、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC1~C4の脂肪族基であることが好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC2~C4の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基としては、アルキレン基が好ましい。前記C1~C8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
【0032】
Zで表される置換基を有していてもよい芳香族基としては、例えばアリーレン基、芳香族性ヘテロ環基が挙げられる。前記芳香族基としては、アリーレン基が、芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環又は6員環であることが好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基が好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、及び1,3,5-トリアジン環が挙げられる。前記芳香族基のうち、フェニレン基が特に好ましい。
【0033】
1における脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキル基)、不飽和脂肪族基(アルケニル基、アルキニル基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキル基)が好ましい。R1における前記C1~C8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0034】
1としては、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のC1~C4のアルキル基がより好ましく、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のC1~C3のアルキル基がさらに好ましい。
【0035】
Zの前記脂肪族基が前記結合基によって中断されている場合、結合基の数は特に限定されないが、1~10個程度であってもよく、好ましくは1個、2個又は3個であり、より好ましくは1個又は2個である。また、前記式(1)において、Zの脂肪族基は連続する前記結合基によって中断されないものが好ましい。すなわち、前記結合基同士が隣接しないものが好ましい。結合基としては、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NH-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CO-O-NH-、-O-CO-NH-及び-NH-CO-NH-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基がさらに好ましく、-O-、-S-、-CO-、-NH-、-CO-NH-及び-NH-CO-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基が特に好ましい。
【0036】
Zにおける置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0037】
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の具体例としては、特に限定されないが、以下に示すものが挙げられる。
【0038】
【化2】
【0039】
この中でも、エナメル質に対する接着性と重合硬化性の観点から、Zが置換基を有していてもよいC2~C4の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基である非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物が好ましく、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドがより好ましく、エナメル質に対する接着性に関わる親水性の高さの観点からMAEA、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドがさらに好ましい。
【0040】
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部において、1~60質量部が好ましく、2~45質量部がより好ましく、3~30質量部がさらに好ましく、5~25質量部が特に好ましい。
【0041】
・酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)
酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)は、歯科用硬化性組成物(X)のハンドリング性、硬化物の機械的強度などを向上させる。疎水性単量体(b-2)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。疎水性単量体(b-2)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の単量体を意味する。疎水性単量体(b-2)としては、例えば、芳香族化合物系の二官能性単量体、脂肪族化合物系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体などの架橋性の単量体が挙げられる。
【0042】
芳香族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0043】
脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
【0044】
三官能性以上の単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0045】
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、機械的強度及びハンドリング性の観点で、芳香族化合物系の二官能性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性単量体が好ましく用いられる。芳香族化合物系の二官能性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、DD、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMAが好ましい。
【0046】
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、歯科用硬化性組成物(X)として用いた場合のエナメル質に対する接着性及びエナメル質辺縁の封鎖性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DDがより好ましく、Bis-GMA、D-2.6E、3Gがさらに好ましい。
【0047】
疎水性単量体(b-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。疎水性単量体(b-2)の含有量が下記上限値以下であることによって、歯科用硬化性組成物(X)のエナメル質への濡れ性が低下して接着力が低下することを抑制しやすく、同含有量が前記下限値以上であることで、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。歯科用硬化性組成物(X)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部において、20~98質量部が好ましく、40~95質量部がより好ましく、60~92質量部がさらに好ましい。
【0048】
・酸性基を有しない親水性単量体(b-3)
親水性単量体(b-3)は、歯科用硬化性組成物(X)のエナメル質への濡れ性を向上させる。親水性単量体(b-3)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(b-3)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロプレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。親水性単量体(b-3)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体などが挙げられる。
【0049】
これらの親水性単量体(b-3)の中でも、エナメル質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性単量体(b-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
歯科用硬化性組成物(X)における親水性単量体(b-3)の含有量は、単量体の総量100質量部において、0~50質量部の範囲が好ましく、0~40質量部がより好ましく、0~30質量部がさらに好ましい。親水性単量体(b-3)の含有量は単量体の総量100質量部において、0質量部であってもよい。歯科用硬化性組成物(X)に親水性単量体(b-3)の含有量が前記下限値以上であることで、十分な接着力の向上効果が得られやすく、前記上限値以下であることで、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。
【0051】
歯科用硬化性組成物(X)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、単量体の総量100質量部において、60~99質量部が好ましく、65~97.5質量部がより好ましく、70~95質量部がさらに好ましい。また、エナメル質に対する接着性の観点から、疎水性単量体(b-2)と親水性単量体(b-3)の質量比率は疎水性単量体(b-2):親水性単量体(b-3)=1:0~1:2であることが好ましく、1:0~1:1であることがより好ましく、1:0~2:1であることがさらに好ましい。
【0052】
ある好適な実施形態としては、二官能性以上の(メタ)アクリルアミド系単量体を実質的に含まない、歯科用硬化性組成物(X)が挙げられる。また、他のある好適な実施形態としては、リン酸水素ジエステル基含有単量体を実質的に含まない、歯科用硬化性組成物(X)が挙げられる。リン酸水素ジエステル基含有単量体は、(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基を有することが好ましい。本発明において、ある単量体を実質的に含まないとは、当該単量体の含有量が、歯科用硬化性組成物(X)に含まれる単量体の総量100質量部において、0.5質量部未満であり、0.1質量部未満であることが好ましく、0.01質量部未満であることがより好ましく、0質量部であってもよい。また、実質的に含まれない当該単量体の含有量は、歯科用硬化性組成物(X)の組成物全体において、0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%未満であってもよい。
【0053】
<重合開始剤(c)>
重合開始剤(c)としては光重合開始剤(c-1)、化学重合開始剤(c-2)を用いることができ、それぞれ単独で配合してもよく、併用してもよい。
【0054】
光重合開始剤(c-1)は水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)に分類される。光重合開始剤(c-1)としては、水溶性光重合開始剤(c-1a)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(c-1b)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)を併用してもよいが、併用することが好ましい。
【0055】
・水溶性光重合開始剤(c-1a)
水溶性光重合開始剤(c-1a)は、親水的な歯面界面での重合硬化性を向上させ、高い接着強さを実現できる。水溶性光重合開始剤(c-1a)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(c-1a)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
【0056】
水溶性光重合開始剤(c-1a)としては、例えば、水溶性チオキサントン類、水溶性アシルホスフィンオキシド類、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
【0057】
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0058】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(2)又は(3)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
【0059】
【化3】
【0060】
【化4】
【0061】
式(2)及び(3)中、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は互いに独立して、C1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+91011(式中、R9、R10、及びR11は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンであり、nは1又は2であり、XはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、R8は-CH(CH3)COO(C24O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
【0062】
2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものであれば特に限定されず、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。R2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Xとしては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。Xとしては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0063】
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+91011(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。R9、R10、及びR11の有機基としては、前記ピリジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7がすべてメチル基である化合物が歯科用硬化性組成物(X)の組成物中での保存安定性及び色調安定性の点から特に好ましい。また、アンモニウムイオンとしては、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられる。アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
【0065】
R8としては、接着性の観点から、pは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましい。また、pは1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、75以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましい。
【0066】
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、Mn+がリチウムイオンである一般式(2)で表される化合物、及び、R8で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された一般式(3)で表される化合物が特に好ましい。
【0067】
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。水溶性光重合開始剤(c-1a)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
水溶性光重合開始剤(c-1a)は、歯科用硬化性組成物(X)に溶解されていても歯科用硬化性組成物(X)の組成物中に粉末の形態で分散されていてもよい。
【0069】
水溶性光重合開始剤(c-1a)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるので、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって歯科用硬化性組成物(X)の組成物への分散可能な量が減少するので、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(c-1a)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0070】
各々の水溶性光重合開始剤(c-1a)の粉末の平均粒子径は、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;株式会社マウンテック製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
【0071】
水溶性光重合開始剤(c-1a)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(c-1a)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
【0072】
水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量は、得られる歯科用硬化性組成物(X)の硬化性などの観点からは、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、歯質への接着性の点から、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量が前記下限値以上であることで、接着界面での重合が十分に進行し、十分な接着強さを得られやすい。一方、水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着強さが得られやすい。
【0073】
・非水溶性光重合開始剤(c-1b)
歯科用硬化性組成物(X)は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(c-1a)に加えて25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(c-1b)(以下、非水溶性光重合開始剤(c-1b)と称することがある。)を含むことが好ましい。本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(c-1b)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。非水溶性光重合開始剤(c-1b)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0074】
非水溶性光重合開始剤(c-1b)としては、水溶性光重合開始剤(c-1a)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0075】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0076】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0077】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0078】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
【0079】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0080】
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0081】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0082】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0083】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0084】
これらの非水溶性光重合開始剤(c-1b)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用硬化性組成物(X)が得られる。
【0085】
非水溶性光重合開始剤(c-1b)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物(X)の組成物の硬化性などの観点から、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~7質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。なお、非水溶性光重合開始剤(c-1b)の含有量が前記上限値以下であることで、非水溶性光重合開始剤(c-1b)自体の重合性能が低い場合においても、十分な接着強さが得られやすく、さらには歯科用硬化性組成物(X)からの非水溶性光重合開始剤(c-1b)自体の析出を抑制できる。
【0086】
水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)とを併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)の質量比〔(c-1a):(c-1b)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、特に好ましくは3:1~1:3である。水溶性光重合開始剤(c-1a)が質量比10:1より多く含有されると、歯科用硬化性組成物(X)自体の硬化性が低下し、歯面処理材(Y)と組み合わせて使用した際にエナメル質に対する接着性等の本発明の効果を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(c-1b)が質量比1:10より多く含有されると、歯科用硬化性組成物(X)自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着強さを発現させることが困難になる場合がある。
【0087】
・化学重合開始剤(c-2)
歯科用硬化性組成物(X)は、さらに化学重合開始剤(c-2)を含有することができ、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤(c-2)に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これらの有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。化学重合開始剤(c-2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
<フィラー(d)>
歯科用硬化性組成物(X)は、ハンドリング性を調整するために、また硬化物の機械的強度(曲げ弾性率等)を高めるために、フィラー(d)を含む。このようなフィラーとして、無機フィラー、有機無機複合フィラー、有機フィラー等が挙げられる。ただし、フィラー(d)は後記するフィラー(k)を除く。フィラー(d)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムなどのケイ素原子が含まれる無機フィラー及び酸化物から構成される無機フィラーが挙げられる。これらもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、得られる歯科用硬化性組成物(X)の機械的強度、透明性が優れる点で、石英、シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムが好ましく、石英、シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、シリカコートフッ化イッテルビウムがより好ましい。得られる歯科用硬化性組成物(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。なお、本発明において、無機フィラーに、後記するように表面処理をした場合、無機フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。ある好適な実施形態としては、フィラー(d)が無機フィラーである歯科用硬化性組成物(X)が挙げられる。フィラー(d)は、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、アエロジル(登録商標)90、アエロジル(登録商標)130、アエロジル(登録商標)150、アエロジル(登録商標)200、アエロジル(登録商標)255、アエロジル(登録商標)300、アエロジル(登録商標)380、アエロジル(登録商標)OX50、アエロジル(登録商標)R972等のシリカ(以上、日本アエロジル株式会社製)、GM27884、8235(以上、SCHOTT社製)、商品コード「E-3000」(エステック社製)等のバリウムガラス等が挙げられる。
【0090】
歯科用硬化性組成物(X)は、酸性基を有する単量体(a)と、イオン交換反応、中和反応、塩形成反応、キレート形成反応から選ばれる少なくとも一つの反応を生じるフィラー(k)(以下、単に「フィラー(k)」又は「反応性フィラー(k)」と称することがある)を含まない。歯科用硬化性組成物(X)がフィラー(k)を含むことにより、歯科用硬化性組成物(X)中で酸性基を有する単量体(a)がフィラー(k)と反応し、酸性基を有する単量体(a)の含有量が実質的に低下することから、歯面処理材(Y)と組み合わせて使用した際に本発明の効果を得ることができない。そのため、歯科用硬化性組成物(X)は、酸性基を有する単量体(a)と反応する反応性フィラー(k)を含まず、非反応性のフィラーであるフィラー(d)を用いる。フィラー(k)としては、例えば、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスに加え、D.C.スミス、生体適合材料19、467-478頁(D.C.Smith, Biomaterials 19, 467-478 (1998))、DE2061513A、及び国際公開第95/22956号に記載されているフィラーなどが挙げられる。
【0091】
他のある好適な実施形態としては、歯科用硬化性組成物(X)に含まれるフィラー(d)が、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)(以下、単に「フィラー(d-ii)」と称することがある)及び/又は平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-iii)(以下、単に「フィラー(d-iii)」と称することがある)を含む、歯科充填用キットが挙げられる。歯科用硬化性組成物(X)のフィラー(d)がフィラー(d-ii)及び/又はフィラー(d-iii)を含む場合、酸性基を有する単量体(a)の所定の含有量、さらに必要に応じて他の構成と組み合わせた際に、エナメル質に対するより優れた接着性と、より優れた窩洞封鎖性(例えば、小窩裂溝封鎖性)が得られる。また、他のある好適な実施形態としては、歯科用硬化性組成物(X)のフィラー(d)がフィラー(d-ii)及び/又はフィラー(d-iii)を含み、前記フィラー(d-ii)及び/又は前記フィラー(d-iii)が、ケイ素原子が含まれる無機フィラー又は酸化物から構成される無機フィラーを含み、前記無機フィラーが表面に水酸基を有し、該水酸基が表面処理剤で表面処理されてなるものである、歯科充填用キットが挙げられる。歯科用硬化性組成物(X)が表面処理剤で表面処理された無機フィラーを含む場合、酸性基を有する単量体(a)の所定の含有量、さらに必要に応じて他の構成と組み合わせた際に、エナメル質に対するより優れた接着性と、より優れた窩洞封鎖性が得られる。
【0092】
無機フィラーの形状としては、特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができ、例えば、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。歯科用硬化性組成物(X)の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。本発明で用いられる球状フィラーとは、電子顕微鏡でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.05~5μmである。平均粒子径が前記下限値以上であることで、歯科用硬化性組成物(X)において十分な球状フィラーの充填率が得られやすく、所望の機械的強度が得られやすい。一方、平均粒子径が前記上限値以下であることで、前記球状フィラーの表面積が低下しにくく、所望の機械的強度を有する歯科用硬化性組成物(X)の硬化物が得られやすい。
【0093】
前記無機フィラーは、歯科用硬化性組成物(X)の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。例えば、表面処理剤で無機フィラーの表面に存在する水酸基を表面処理することで、該水酸基が表面処理された無機フィラーを得ることができる。表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0094】
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく撹拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50~150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤を1~10質量部用いることができる。
【0095】
有機無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機無機複合フィラーは、無機フィラーと単量体の重合体とを含むフィラーを示す。前記有機無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。有機無機複合フィラーもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。得られる歯科用硬化性組成物(X)の組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
【0096】
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる歯科用硬化性組成物(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
【0097】
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法による測定値である。
【0098】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0099】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0100】
歯科用硬化性組成物(X)は、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上のフィラーを、混合又は組み合わせて用いることが好ましい。2種以上のフィラーを組み合わせることにより、フィラーが密に充填されるとともに、フィラーと単量体、もしくはフィラー同士の相互作用点が増える。また、フィラーの種類により、せん断力の有無によるペーストの流動性をコントロール可能となる。中でも、歯科用硬化性組成物(X)のハンドリング性とペースト性状の観点から、前記フィラー(d)が、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-i)と、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)との組み合わせ(I)、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-i)と、平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-iii)との組み合わせ(II)、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-i)と、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)、平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-iii)との組み合わせ(III)、及び平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)同士の組み合わせ(IV)が好ましく、これらの組み合わせの中でも、ペースト性状、窩洞封鎖性の観点から、(I)、(II)、(III)がより好ましく、(I)、(II)がさらに好ましい。平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)同士の組み合わせ(IV)とは、平均粒子径が異なる2種の0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)を含む実施形態を意味する。なお、上記組み合わせであれば、各粒子径のフィラー(d)に異なる種類のフィラーが含まれていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
【0101】
フィラー(d)の含有量は特に限定されないが、歯面処理材(Y)と組み合わせて使用した際の硬化物の機械的強度とエナメル質に対する接着性(特に接着耐久性)の観点から、歯科用硬化性組成物(X)100質量部において、50~90質量部であることが好ましく、55~85質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
【0102】
<重合促進剤(e)>
歯科用硬化性組成物(X)は、水溶性光重合開始剤(c-1a)、非水溶性光重合開始剤(c-1b)、化学重合開始剤(c-2)、とともに重合促進剤(e)を含むことができる。本発明に用いられる重合促進剤(e)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
【0103】
重合促進剤(e)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第一級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第二級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用硬化性組成物(X)の硬化性及び保存安定性の観点から、第三級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0104】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用硬化性組成物(X)に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0105】
スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、及びチオ尿素化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
【0106】
重合促進剤(e)は、1種単独を含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。本発明に用いられる重合促進剤(e)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物(X)の硬化性などの観点からは、歯科用硬化性組成物(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましく、0.01~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。重合促進剤(e)の含有量が前記下限値以上であることで、重合が十分に進行し、十分な接着強さを得られやすく、より好適には0.05質量部以上である。一方、重合促進剤(e)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着性が得られやすく、さらには歯科用硬化性組成物(X)からの重合促進剤(e)自体の析出を抑制できるため、より好適には20質量部以下である。
【0107】
<フッ素イオン放出性物質>
歯科用硬化性組成物(X)は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる歯科用硬化性組成物(X)が得られる。かかるフッ素イオン放出性物質としては、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマー;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類などが挙げられる。上記フッ素イオン放出性物質は1種単独を含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0108】
また、歯科用硬化性組成物(X)には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒等の溶媒、増粘剤等が挙げられる。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ある実施形態では、歯科用硬化性組成物(X)における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が歯科用硬化性組成物(X)の全質量に基づいて、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
【0109】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、歯科用硬化性組成物(X)の単量体の総量100質量部に対して0.001~1.0質量部が好ましい。
【0110】
歯科用硬化性組成物(X)として好適な組成割合の一例を示す。単量体の総量を100質量部とした場合、単量体成分100質量部において、酸性基を有する単量体(a)を1~40質量部、酸性基を有しない単量体(b)を60~99質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c-1)を0.05~10質量部、フィラー(d)を100~900質量部、重合促進剤(e)0.001~30質量部を含むことが好ましく、単量体の総量100質量部において、酸性基を有する単量体(a)を2.5~35質量部、酸性基を有しない単量体(b)を65~97.5質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c-1)を0.1~5質量部、フィラー(d)を120~560質量部、重合促進剤(e)0.01~10質量部含むことがより好ましく、単量体の総量100質量部において、酸性基を有する単量体(a)を5~30質量部、酸性基を有しない単量体(b)を70~95質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c-1)を0.15~2.5質量部、フィラー(d)を150~400質量部、重合促進剤(e)を0.1~5質量部含むことがさらに好ましい。
【0111】
歯科用硬化性組成物(X)の製造方法は、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、さらに必要に応じて他の成分を含み、歯科用硬化性組成物(X)100質量部において、フィラー(d)の含有量が50~90質量部であれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
【0112】
以下、本発明の歯面処理材(Y)に用いられる各成分について、説明する。
【0113】
・歯面処理材(Y)
歯面処理材(Y)とは、歯質の表面のエナメル質を改質するために歯質などに適用する材料であり、歯面表面を脱灰し、適用面を荒らすために使用する材料である。
【0114】
歯面処理材(Y)は、歯質の表面などの改質を意図しており、歯面処理材に含まれる成分は除去されることが好ましく、よって使用方法としてはふき取りや水洗工程により、歯面処理材(Y)成分を適用面から除去する工程が必須である。上記理由から、歯面処理材(Y)そのものを硬化させる工程は含まない方が好ましい。
【0115】
歯面処理材(Y)はpHが3.5未満である必要がある。pHが上記範囲であることによって、歯面処理材(Y)は歯面表面を脱灰し、適用面を荒らすことが可能であり、エナメル質に対する接着強さと小窩裂溝封鎖性に寄与する。
【0116】
歯面処理材(Y)は、非水溶性の有機物(25℃における水に対する溶解度が5質量%未満のもの)が歯面に付着すると唾液などによっても除去されず、付着した有機物にプラーク、食物等の変色源及び着色源がさらに付着して歯牙の審美性が低下するため、これを実質的に含有しないものが好ましい。
【0117】
歯面処理材(Y)のpHは、エナメル質に対する接着性の観点から、pHは3.0未満が好ましく、2.5未満がより好ましく、2.0未満がさらに好ましく、1.5未満が最も好ましい。pHが3.5より大きい場合は脱灰が不十分で、十分なエナメル質に対する接着性が得られず、歯科用硬化性組成物(X)と組み合わせて使用した際に良好なエナメル質辺縁の封鎖性も得られない。前記pHは公知の測定装置を用いて測定できる。測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製「LAQUAtwin」が挙げられる。
【0118】
<酸(f)、及び水(g)>
本発明の歯面処理材(Y)は、酸(f)、及び水(g)を含むことが好ましい。酸(f)、及び水(g)は、酸水溶液を形成し、当該酸水溶液は、歯質の脱灰に必要な成分である。酸(f)としては、従来から歯科用酸処理材に用いられているものを使用することができ、例えば、カルボン酸化合物等の有機酸、及び、リン酸、硝酸、硫酸、フッ酸等の無機酸を使用することができる。カルボン酸化合物の例としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、シュウ酸、酒石酸、酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸等が挙げられる。これらの酸は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。酸(f)としては、リン酸、クエン酸、及び乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸及び/又はクエン酸がより好ましく、リン酸がさらに好ましい。
【0119】
水(g)としては、蒸留水、濾過水、イオン交換水等の有害な不純物を含まないものを用いることが好ましい。
【0120】
歯面処理材(Y)中の酸(f)の含有量は、特に限定されない。高いエッチング効果が得られることから、歯面処理材(Y)の総量100質量部において、10質量部以上98質量部以下の範囲であることが好ましく、15質量部以上90質量部以下の範囲であることがより好ましく、20質量部以上85質量部以下の範囲であることがさらに好ましく、25質量部以上80質量部以下の範囲であることが最も好ましい。
【0121】
ある実施形態において、酸水溶液中に無機物を用いてもよい。無機物を水に配合するのは、歯面処理材(Y)のpH及び粘度を調整するためである。無機物の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、亜リン酸ニ水素ナトリウム、亜リン酸ニ水素カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等の無機塩類が挙げられる。無機物の水に対する含有量は、歯面処理材(Y)の全重量に基づいて、0.001~15質量%の範囲が好ましく、0.005~10質量%の範囲がより好ましく、0.01~5質量%の範囲がさらに好ましい。同含有量が15質量%より多くなるとエナメル質に対する接着性が低下することがある。
【0122】
<フィラー(h)>
本発明の歯面処理材(Y)は、フィラー(h)を含んでもよい。フィラー(h)は、歯面処理材(Y)の粘度を調整し、諸特性を向上させるための成分として用いられる。フィラー(h)としては、歯科用組成物に使用される公知のフィラーが何ら制限なく使用される。フィラー(h)としては、フィラー(d)であってもよく、フィラー(k)であってもよい。フィラー(h)としては、好ましくはフィラー(d)が用いられ、より好ましくは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウムが用いられる。さらに好ましくは、火炎熱分解法で作製されるシリカ、アルミナ、チタニアの粒子が用いられ、例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジル、AEROXIDE(登録商標)AluC、AEROXIDE(登録商標)TiO2 P25、VP Zirconium Oxide 3-YSZ、VP Zirconium Oxide 3-YSZ PHが用いられる。最も好ましくは、火炎熱分解法で作製されるシリカ粒子が用いられ、例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジルが用いられる。
【0123】
フィラー(h)の平均粒子径としては、組成物中での均一分散性の観点から1~50nmが好ましく、5~40nmがより好ましい。なお、フィラー(h)の平均粒子径は、フィラー粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、無作為に選択した100個のフィラー粒子の粒子径の平均値として測定できる。なお、フィラー粒子が非球状である場合には、粒子径は、フィラー粒子の最長と最短の長さの算術平均をもって粒子径とし、凝集粒子である場合には、一次粒子の粒子径とする。
【0124】
フィラー(h)の形状としては特に制限されることなく、不定形又は球形の粒子の粉末として用いることができる。
【0125】
フィラー(h)の含有量は、歯面処理材(Y)の合計100質量%において、1~20質量%であることが好ましく、2~18質量%であることがより好ましく、4~16質量%であることがさらに好ましく、5~15質量%であることが最も好ましい。含有量が5質量%未満の場合、歯面処理材(Y)のペースト性状が広がりやすい。含有量が20質量%より多い場合、歯面処理材(Y)の洗浄時にフィラー(h)が歯面に残りやすく、接着を阻害するおそれがある。
【0126】
<高分子系増粘剤>
本発明の歯面処理材(Y)は、粘度調整、及び水分の蒸発を抑えるために高分子系増粘剤を含むことが好ましい。高分子系増粘剤とは、粘度を調節するために材料に添加され、分散性、増粘性の向上をもたらす高分子を指し、天然物質であってもよく、合成物質であってもよい。天然物質では、例えばカゼインやメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられ、合成物質では、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、ポリエチレングリコールが好ましい。高分子系増粘剤としては市販されているものを使用することができ、ポリエチレングリコール系の増粘剤であるマクロゴール4000(丸石製薬株式会社製)、マクロゴール400(丸石製薬株式会社製)、ポリビニルピロリドン(株式会社IPSコーポレーション製)が挙げられ、なかでも、マクロゴール4000(丸石製薬株式会社製)が好ましい。
【0127】
前記高分子系増粘剤の重量平均分子量は1500~15000が好ましく、2000~130000がより好ましく、2500~10000がさらに好ましい。重量平均分子量が1500未満だと組成物の粘度上昇に寄与しないおそれがあり、重量平均分子量が15000より大きいと、製造時に酸水溶液中への溶解が不完全になる、あるいは溶解に時間が掛かり、さらに、歯牙部分に塗布した後流水で洗浄する際の除去性が悪くなるおそれがある。なお、高分子系増粘剤の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求めることができる。
【0128】
前記高分子系増粘剤の含有量は、歯面処理材(Y)の合計100質量%において、5~40質量%であることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。含有量が5質量%未満の場合、組成物の粘度が不十分となり、組成物が不均一となるおそれがある。一方、含有量が40質量%より多い場合、流水で洗浄する際の除去性が悪くなるおそれがある。
【0129】
<無機顔料>
歯面処理材(Y)の視認性を向上させる目的で無機顔料を配合することが好ましい。有機顔料が酸化-還元状態の変化によってしばしば変色、退色を起こすのに対し、無機顔料は色調安定性が高い点で有利である。
【0130】
無機顔料としては工業的に用いられる無機顔料が使用でき、視認性の観点から、赤色、青色、又は緑色の無機顔料が好ましい。例えば、ウルトラマリン青、コバルト青(例、ピグメントブルー28,36,36:1,72)、バナジウムジルコニウム青、Co-Zn-Si系顔料、Co-Si系顔料、ピーコック、Al-Cr系顔料、Cr系顔料、Co-Cr系顔料、鉄顔料などが挙げられる。より好ましくは、ウルトラマリン青、コバルト青、バナジウムジルコニウム青、Co-Zn-Si系顔料、Co-Si系顔料が用いられる。
【0131】
無機顔料の含有量は、歯面処理材(Y)の合計100質量%において、0.010~5.0質量%であることが好ましい。含有量が0.010質量%未満の場合、視認性が不十分となり、5.0質量%より多い場合、組成物中に均一に分散しなくなる。
【0132】
ある実施形態において、歯面処理材(Y)の保存安定性の観点から単量体を実質的に含まないことが好ましい。歯面処理材(Y)において単量体を実質的に含まないとは具体的には歯面処理材(Y)の合計100質量%に対して、単量体の含有量が1.0%未満であり、0.5質量%未満が好ましい。
【0133】
本発明の歯面処理材(Y)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、界面活性剤、pH調整剤、イオン放出性物質、増粘剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0134】
本発明の歯面処理材(Y)は、歯科用途において酸の作用を利用する歯面処理操作に制限なく適用でき、例えば、金属やセラミックス製の補綴物の表面清掃材、殺菌材等としても使用可能であるが、好適には、歯科用エッチング材として使用される。歯科用エッチング材は、次のような方法で好適に使用できる。すなわち、研削エナメル質、象牙質又は事前に機械的に清掃した未研削エナメル質に歯科用エッチング材を直接塗布し、所定時間後すぐに水洗し、エアブローで乾燥した後、症例に適した歯牙組織の修復操作を行えばよい。
【0135】
本発明の歯面処理材(Y)の製品形態としては、ボトルタイプ、及びニードルを装着可能なシリンジ容器に収容された形態が好ましく、ニードルを装着可能なシリンジ容器に収容された形態がより好ましい。通常、当該容器にはニードルチップが付属される。
【0136】
本発明の歯科充填用キットに含まれる歯科用硬化性組成物(X)は、例えば、歯科用コンポジットレジン、小窩裂溝填塞材、などの歯科治療用材料に用いることができ、中でも、小窩裂溝填塞材として好適に用いられる。このとき、歯科用硬化性組成物(X)を2つに分けた2ペースト型として用いてもよい。したがって、本発明の歯科充填用キットは、歯科用小窩裂溝填塞キットとして好適に用いられる。
【0137】
<本発明の歯科充填用キットの構成>
本発明の歯科充填用キットの構成は、歯科用硬化性組成物(X)及び歯面処理材(Y)を構成要素とし、通常はそれぞれ独立の容器に充填されている。
【0138】
本発明の歯科充填用キットにはさらに、歯科用プライマー、歯科用ボンディング材などを組み合わせてもよい。歯質との接着強さ、及び辺縁封鎖性の観点から歯科用プライマー、及び歯科用ボンディング材を組み合わせることが好ましく、歯科用ボンディング材を組み合わせることがさらに好ましい。歯科用プライマー、及び歯科用ボンディング材は単独で重合してもしなくてもよいが、辺縁封鎖性の観点から、光、もしくは化学重合にて重合させた方が好ましい。歯科用プライマー、及び歯科用ボンディング材はそれぞれ単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。エナメル質辺縁の封鎖性(例えば、小窩裂溝封鎖性)の観点から、歯科用プライマーを適用後に歯科用ボンディング材を適用する手順が好ましい。
【0139】
<具体的な適用方法、手順>
・歯面処理材(Y)による処理
歯科用硬化性組成物(X)を適用する歯質表面を歯面処理材(Y)で処理する。処理は歯面処理材(Y)を塗布し、所定の処理時間静置後水洗する方法や歯面処理材(Y)を塗布し、所定の処理時間マイクロブラシ等の器具で擦った後水洗する方法や歯面処理材(Y)を塗布し、所定の処理時間静置後乾いた、もしくは濡れた綿球などでふき取る方法などが挙げられるが、エナメル質に対する接着性の観点から、歯面処理材(Y)を塗布し、所定の処理時間静置後水洗する方法、及び所定の処理時間静置後濡れた綿球などでふき取る方法が好ましい。歯面処理材(Y)を水洗した後、エアーや綿球などで適用した部分を乾燥させる。
【0140】
・歯科用硬化性組成物(X)の適用
歯面処理材(Y)で歯面を処理した後、歯科用硬化性組成物(X)を適用する。歯科用硬化性組成物(X)を充填し、表面を整えた後に、光重合開始剤を配合した歯科用硬化性組成物(X)の場合は、歯科用光照射器で光照射を行い、硬化させる。化学重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物(X)の場合は、硬化が完了するまで静置してもよい。その後、場合によっては表面の形態修正、及び研磨を行う。
【0141】
歯科用プライマー、歯科用ボンディング材などを組み合わせる場合、歯面処理材(Y)の適用後に使用する。
【実施例0142】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り質量部である。
【0143】
次に、実施例及び比較例の歯科充填用キットの成分を略号とともに以下に記す。
【0144】
・歯科用硬化性組成物(X)
[酸性基を有する単量体(a)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
GDMP:1,3-グリセリルジメタクリレートホスフェート
【0145】
[酸性基を有しない単量体(b)]
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
DD:1,10-デカンジオールジメタクリレート
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
【0146】
[光重合開始剤(c-1)]
・水溶性光重合開始剤(c-1a)
Li-TPO:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム
・非水溶性光重合開始剤(c-1b)
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
【0147】
[フィラー(d)]
フィラー1:日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R972」、平均粒子径:16nm(シリカ)
フィラー2:シラン処理シリカ
OX50(日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)OX50」、平均粒子径:0.04μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー2を得た。
フィラー3:シラン処理珪石粉(石英)
珪石粉(株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ)をボールミルで粉砕し、粉砕珪石粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.2μmであった。この粉砕珪石粉100質量部に対して、常法により4質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理珪石粉を得た。
フィラー4:シラン処理バリウムガラス粉(バリウムガラス)
バリウムガラス(エステック社製、商品コード「E-3000」)をボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.4μmであった。このバリウムガラス粉100質量部に対して常法により3質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理バリウムガラス粉を得た。
フィラー5:シラン処理バリウムガラス粉(バリウムガラス)
GM27884 NF180グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.18μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン13g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー5を得た。
フィラー6:シラン処理バリウムガラス粉(バリウムガラス)
8235 UF0.7グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.7μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン6g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー6を得た。
フィラー7:シラン処理球状シリカ-ジルコニア複合酸化物粉(シリカ-ジルコニア)
球状シリカ-ジルコニア複合酸化物(平均粒子径:0.3μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー7を得た。
フィラー8:アエロジル(登録商標)380:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ「AEROSIL(登録商標)380」(親水性ヒュームドシリカ、平均粒子径:7nm)
【0148】
[フィラー(k)]
フィラー9:ストロンチウムアルミニウムフルオロシリケートガラス(平均粒子径:2.5μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.4g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー9を得た。
【0149】
[重合促進剤(e)]
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
酢酸銅(II)
【0150】
[その他]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
TiO2:酸化チタン
水酸化カルシウム
NaF:フッ化ナトリウム
40PMF:下記式(4)で表されるフッ素イオン放出性物質
【化5】
【0151】
・歯面処理材(Y)
[酸(f)]
リン酸
【0152】
[水(g)]
精製水
【0153】
[無機物]
リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4
【0154】
[フィラー(h)]
Ar130:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ「AEROSIL(登録商標)130」(親水性ヒュームドシリカ、平均粒子径:16nm)
【0155】
[高分子系増粘剤]
マクロゴール4000(丸石製薬株式会社製)
【0156】
[無機顔料]
Pigment Blue 72
【0157】
[実施例1~22及び比較例1~8]
[歯科用硬化性組成物(X)の調製]
表2~4に示す原料(但し歯面処理剤Yは除く)を常温(23℃)暗所で混合、及び混練してペースト状の歯科用硬化性組成物を調製し、以下の試験例1~3の方法に従って特性を調べた。結果を表2~4に示す。
【0158】
[歯面処理材(Y)の調製]
下記表1に記載のpHとなるように各成分を常温(23℃)下において混合して歯面処理材(Y)を作製した。得られた歯面処理材(Y)は、「Kエッチャント(登録商標)シリンジ」(クラレノリタケデンタル株式会社製)の容器に充填し、概製品のニードルチップを用いて使用した。
【0159】
試験例1 エナメル質との接着強さ
ヒト臼歯の唇面を流水下にて#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させたサンプルをそれぞれ得た。15穴を有するモールド(15-hole mold、ウルトラデント社製、φ35mm×高さ25mm)の底面にテープを貼り、その上にサンプルの歯を固定した。トレーレジンII(株式会社松風製)をモールド内に充填し、約30分静置し、トレーレジンIIを硬化させて、ヒト臼歯とレジン硬化物の複合物を得た。モールドから、該複合物をサンプルとして取り出した。前記複合物は、ヒト臼歯がレジン硬化物の上部表面に出ている状態のものとした。該サンプルの上部表面を流水下にて#600のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で被着面が確保できる大きさ(φ2.38mm以上)まで研磨し、被着面を超音波で5分間水洗した。
【0160】
歯面処理材を被着面に塗布し、10秒間静置した。その後、水洗して歯面処理材を洗い流した。
【0161】
続いて、別途用意したφ2.38mmのCR充填用モールド(Bonding Mold Insert、ウルトラデント社製)を専用器具(Bonding Clamp、ウルトラデント社製)に取り付けた。次に、専用器具に取り付けられたCR充填用モールドが、前記サンプルの被着面と密着するように、CR充填用モールドを下げて、該サンプルを固定した。次に、各実施例及び比較例で作製した歯科用硬化性組成物をCR充填用モールドが有する穴に厚さが1mm以内となるように薄く充填した。その後再度、モールド内に充填し(モールドの2/3ぐらいまで、2mm厚程度)、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射することにより、歯科用硬化性組成物を硬化させた。モールドからサンプルを外し、接着試験供試サンプルとした。該接着試験供試サンプルは20個作製した。次いで、接着試験供試サンプルを容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に24時間放置した。20個のサンプルのうち10個については、初期接着強さを評価するため、24時間静置後ただちにせん断接着強さを測定した。測定結果の平均値を各表では「初期接着性」として示す。残りの10個については、接着耐久性を評価するため、さらに4℃の冷水と60℃の温水に交互に1分間浸漬する工程を1サイクルとする熱サイクルを4000サイクル行った後にせん断接着強さを測定した。熱サイクル後の測定結果の平均値を各表では「接着耐久性」として示す。
接着強さ(せん断接着強さ)の測定は、接着試験供試サンプルを専用ホルダー(Test Base Clamp、ウルトラデント社製)に取り付け、専用冶具(Crosshead Assembly、ウルトラデント社製)と万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、クロスヘッドスピードを1mm/分に設定して測定し、平均値を表に示した(n=10)。
【0162】
試験例2 辺縁封鎖性
ヒト臼歯の咬合面をブラシで清掃し、水洗し、エアブローにて乾燥させた。咬合面内の小窩裂溝に歯面処理材を塗布し、10秒間静置した。水洗、エアブロー後、歯科用硬化性組成物を用いて小窩裂溝を充填し、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)を10秒間照射した。
【0163】
照射後、供試サンプルを、容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に24時間放置した。さらに4℃の冷水と60℃の温水に交互に1分間浸漬する工程を1サイクルとする熱サイクルを500サイクル行った。次いで供試サンプルの歯髄部分等を歯質からの色素の侵入を防ぐためにクリアフィル(登録商標)ユニバーサルボンドクイックERとクリアフィル(登録商標)マジェスティ(登録商標)ESフロー Low(いずれもクラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて覆った後、供試サンプルを0.5%の塩基性フクシン溶液に浸漬した状態で37℃に設定した恒温器内に24時間放置した。次いで供試サンプルはダイヤモンドカッター(ITWジャパン株式会社 BUEHLER製、アイソメット5000)を用いて頬側舌側の向きかつ歯軸方向に厚さ2mmで切断した。得られた切片をマイクロスコープ(VHX DEGITAL MICROSCOPE、株式会社キーエンス製)を用いて観察し、辺縁からの色素浸透度によって辺縁封鎖性を判定した。辺縁封鎖性の判定基準は填塞された歯科用硬化性組成物の底部を中心として左右に分け、辺縁からの色素の浸透がないものをスコア0、色素の浸透が歯科用硬化性組成物の辺縁部から1/3以内に限局しているものをスコア1、色素の浸透が歯科用硬化性組成物の辺縁部から2/3までの範囲に及んでいるものをスコア2、色素の浸透が歯科用硬化性組成物の辺縁部から2/3を越え裂溝底部にまで及んでいるものをスコア3の4段階で評価した(n=3)。
【0164】
試験例3 曲げ物性(曲げ弾性率及び曲げ強さ)
ISO 4049:2009に準拠して曲げ試験により曲げ弾性率及び曲げ強さを評価した。具体的には以下のとおりである。作製したペースト状の歯科用硬化性組成物をSUS製の金型(縦2mm×横25mm×厚さ2mm)に充填し、ペーストの上下(2mm×25mmの面)をスライドガラスで圧接した。次いで、歯科用可視光照射器(ペンキュアー2000、株式会社モリタ製)で、スライドガラス越しに10秒間ずつ片面5箇所でペーストの裏表に光照射してペーストを硬化させた。得られた硬化物について、万能試験機(オートグラフAG-I 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minで曲げ試験を実施し、3点曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定し(n=5)、平均値を算出した。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
【表4】
【0169】
表2、及び表3の結果より、実施例の歯科充填用キットは、エナメル質に対するせん断接着強さにおいて、初期接着性が19MPa以上であり、接着耐久性が15MPa以上であり、辺縁封鎖性のスコアが2未満であり、曲げ強さが88MPa以上でありかつ曲げ弾性率が5.5GPa以上であった。一方、表4に示されるように、比較例の中で、pHが4.5以上である歯面処理材を使用した、pHの要件を具備しない歯面処理材を用いた比較例1~3はエナメル質に対する接着性(初期接着性及び接着耐久性)が低く、辺縁封鎖性のスコアが2以上であった。また、歯科用硬化性組成物(X)に酸性基を有する単量体(a)が含まれていない比較例4はエナメル質に対する接着性(初期接着性及び接着耐久性)が低く、辺縁封鎖性のスコアが2であった。フィラーの含有量が少ない比較例5~7はエナメル質への接着強さ、及び辺縁封鎖性のスコアは良好なものの、十分な曲げ弾性率を示さなかった。さらに酸性基を有する単量体(a)と反応するストロンチウムアルミニウムフルオロシリケートガラスを含む比較例8は酸性基を有する単量体がフィラーと反応することから、良好なエナメル質に対する接着性(初期接着性及び接着耐久性)を示さず、辺縁封鎖性のスコアが3であった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の歯科充填用キットは、歯科治療の小窩裂溝填塞に好適に使用することができる。