(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009557
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】気体流体の試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20230113BHJP
G01P 13/00 20060101ALI20230113BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G01M9/06
G01P13/00 D
C09K11/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112943
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】502404427
【氏名又は名称】セントラルテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】宮原 彰
(72)【発明者】
【氏名】宮原 基
【テーマコード(参考)】
2F034
2G023
【Fターム(参考)】
2F034AA02
2F034AB01
2G023AB24
(57)【要約】
【課題】
ハレーションを生じさせることなく気体流体の流れを可視化することができ、気体流体において、すぐに落下することなく、長時間にわたって浮遊を維持することができる霧を生成できる方法を提供すること。
【解決手段】
気体流体の試験方法であって、液状蛍光組成物を液体に混合する工程と、前記混合された液体を加圧処理して微粒子化する工程と、前記工程で得られた微粒子を気体流体に導入する工程と、前記微粒子を含む気体流体に紫外線を照射する工程とを、含むことを特徴とする気体流体の試験方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体流体の試験方法であって、
液状蛍光組成物を液体に混合する工程と、
前記混合された液体を加圧処理して微粒子化する工程と、
前記工程で得られた微粒子を気体流体に導入する工程と、
前記微粒子を含む気体流体に紫外線を照射する工程とを、
含むことを特徴とする気体流体の試験方法。
【請求項2】
前記液体がジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(DEHS)であることを特徴とする請求項1に記載の気体流体の試験方法。
【請求項3】
前記液状蛍光組成物が下記の化1で示される液状蛍光組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の体流体の試験方法。
【化1】
【請求項4】
前記液状蛍光組成物および下記の化2~化8で示される蛍光物質のいずれか1種がシクロヘキサノンに溶解された液体蛍光組成物であることを特徴とする請求項1又2に記載の気体流体の試験方法。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体流体の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風洞実験などにおいて、気体の流れは実験の対象物に力学的影響を与える。例えば実験の対象物に、揚力を生じさせたり、空気抵抗を生み出したりする。しかし、気体の流れは目に見えない。したがって、この力学的影響を解析するために気体の流れを可視化することが望まれる。気体の流れの可視化を目的として、気体流体に導入され、流体の流れを可視化するトレーサーとして機能する物質が開発されてきた。
【従来技術】
【0003】
本出願人らは、流体の動き/運動を可視化する固体の蛍光粒子と、さらに流体が存在する場において、流体の動き/運動を可視化し検査するための検査装置および、蛍光粒子を用いて流体が存在する場において、流体の動き/運動を可視化し検査する検査方法を既に提案している(特許文献1参照)。
特許文献1によれば、この蛍光粒子は流体に投入され流体に追随して動く。この蛍光粒子は、紫外線が照射されることにより可視光を放出するので、放出された可視光を観測することで、流体の流れの精細な可視化が可能である。照射光が可視光の場合、粒子以外の物体が可視光を強く反射して物体と流体の境界において画像がぼやける現象(ハレーション)が発生し観測を困難にすることが問題となる。特許文献1では、紫外線を照射することによって、ハレーションの問題を解決している。
しかし特許文献1に開示された蛍光粒子は固体であるため、流体が液体の場合、流体の流れに浮遊することはできるが、流体が気体の場合、長時間にわたって浮遊することができない。気体中では強い気流の流れが無いと浮遊できず、浮遊してもすぐに落下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、液状蛍光組成物をジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(DEHS)などの液体と混合し、混合した液体を微粒子化することにより、ハレーションを生じさせることなく気体流体の流れを可視化することができ、気体流体において、すぐに落下することなく、長時間にわたって浮遊を維持する霧を生成できる方法を完成し、この発明に至った。
本発明の目的は、ハレーションを生じさせることなく気体流体の流れを可視化することができ、気体流体において、すぐに落下することなく、長時間にわたって浮遊を維持する霧を生成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1による発明は、気体流体の試験方法であって、液状蛍光組成物を液体に混合する工程と、前記混合された液体を加圧処理して微粒子化する工程と、前記工程で得られた微粒子を気体流体に導入する工程と、前記微粒子を含む気体流体に紫外線を照射する工程とを、含むことを特徴とする気体流体の試験方法に関する。
【0007】
請求項2による発明は、前記液体がジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(DEHS)であることを特徴とする請求項1に記載の気体流体の試験方法に関する。
【0008】
請求項3による発明は、前記液状蛍光組成物が下記の化1で示される液状蛍光組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の体流体の試験方法に関する。
【0009】
【0010】
請求項4による発明は、前記液状蛍光組成物および下記の化2~化8で示される蛍光物質のいずれか1種がシクロヘキサノンに溶解された液体蛍光組成物であることを特徴とする請求項1又2に記載の気体流体の試験方法に関する。
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に係る発明によれば、気体流体の試験方法は、液状蛍光組成物を液体に混合する工程と、前記混合された液体を加圧処理して微粒子化する工程と、前記工程で得られた微粒子を気体流体に導入する工程と、前記微粒子を含む気体流体に紫外線を照射する工程とを、含んでいるので、微粒子化された粒子(微粒子)は、すぐに落下することなく長時間にわたって浮遊する霧を形成し気体流体の流れに追随することができる。この微粒子から形成された霧に紫外線を照射することにより霧は可視光を発光することができるので、発光した可視光を観察することで気体流体の流れを測定することが可能である。この霧には可視光を照射することが無いのでハレーションにより観測が困難となる現象を回避できる。
【0019】
本発明の請求項2係る発明によれば、請求項1の気体流体の試験方法において液体はジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(DEHS)であるので、濃度の濃い霧を発生させることができる。
【0020】
本発明の請求項3に係る発明によれば、請求項1又は2に記載気体流体の試験方法において、蛍光組成物は化1で示される液体であることから、この液状蛍光組成物から生成された微粒子は、気体流体においてすぐに落下することなく長時間にわたって浮遊する霧を形成することができる。この液状蛍光組成物から生成された微粒子および、この微粒子から形成された霧は、紫外線が照射されることにより可視光を発光することができる。
【0021】
本発明の請求項4に係る発明によれば、請求項1又は2に記載気体流体の試験方法において、前記液状蛍光組成物および前述の化2~化8で示される蛍光物質のいずれか1種がシクロヘキサノンに溶解された液体蛍光組成物である。化2~化8で示される蛍光物質は固体であるが、シクロヘキサノンに溶解されることで、液体の蛍光組成物が生成されるので、この液体蛍光組成物から生成された微粒子は、気体流体において長時間にわたって浮遊する霧を形成することができる。この液状蛍光組成物から生成された微粒子および、この微粒子から形成された霧は、紫外線が照射されることにより可視光を発光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る液状蛍光組成物を用いた気体流体の試験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る液状蛍光組成物を用いた気体流体の試験方法について、実施形態に基づいて以下に詳細に説明する。
【0024】
[実施の形態1]
<液状蛍光組成物を用いた気体流体の試験方法>
図1は、本発明に係る液状蛍光組成物を用いた気体流体の試験方法の説明図である。
【0025】
参照符号(1)はアトマイザー、(2)は窒素ガスボンベ、(3)は窒素ガスボンベ(2)よりアトマイザー(1)に窒素ガスを導入するチューブ、(4)はアトマイザー(1)より気体の霧を噴出するホースをそれぞれ示す。参照符号(5)は、本試験方法に用いる微粒子を生成する液体が充填されたカセット、(6)は懐中電灯型のUV-LEDライト、(7)はUV-LEDレーザー、(8)はUV-LED照射器を、それぞれ示す。参照符号(10)はアトマイザー(1)よりホース(4)を介して噴出された霧状のガスを示す。
本実施形態によれば、アトマイザー(1)で微粒子を生成する液体より発生した微粒子は、アトマイザー(1)内で窒素ガスに導入されて霧状のガス(10)を生成する。霧状のガス(10)自体は、目に見えないのであるが、この霧状のガス(10)にUV-LEDライト(6)またはUV-LED照射器(8)を用いて霧状のガス(10)に紫外線を照射するか、或いはUV-LEDレーザーを用いて、霧状のガス(10)にレーザー光を照射すると、霧状のガス(10)が例えば赤色に発光する。
【0026】
照射光が可視光の場合、粒子以外の物体が可視光を強く反射してぼやける現象(ハレーション)が発生し観測を困難にする。実施の形態1において霧状のガスは紫外線により照射される。霧状のガス(粒子)以外のものも紫外線により照射され反射光を生じさせるが、反射紫外線は不可視であるのでハレーションが発生することはない。
本実施形態によれば、UV-LEDレーザー(7)を、シート状または3次元的に霧状のガス(10)が存在する場に亘って発散させることにより、気体流体全体または調べたい局所における気体流体の流れの可視化することができる。
【0027】
アトマイザー(1)のカセット(5)には微粒子を生成する液体が入れられている。当該微粒子を生成する液体は、ジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(以下、単に「DEHS」と言う)と液状蛍光組成物の混合物であってよい。
液状蛍光組成物とDEHSは通常3:7の割合で混合されるが、微粒子からより高い蛍光発光強度を得たい場合には、DEHSに対する液状蛍光組成物の割合を高めてもよい。
【0028】
気体の流れは、撮影装置によって記録されてもよい。撮影装置を用いることで、流体の流れを可視化した動画を撮影することが可能である。撮影する動画の録画速度(1秒間あたりの撮影コマ数)を変更することで流体の流れをより精細に可視化し検査することができる。
【0029】
本実施の形態の変形例においては、それぞれ異なる色で発光する2種類の液状蛍光組成物を用い、別々のアトマイザー(1)で霧状のガスを発生させて、これら2つの霧状のガスが混合する点に紫外線を照射することで2種類の霧状のガスが混合する様子を可視化することができる。
【0030】
尚、実施の形態1で使用された液状蛍光組成物は、前記液状蛍光組成物がシクロヘキサノンに溶解された液体蛍光組成物であってよく、さらに、前述の化2のもの、前述の化3のもの、前述の化4のもの、前述の化5のもの、前述の化6のもの、前述の化7のものまたは、前述の化8のものがシクロヘキサノンに溶解された液体蛍光組成物であってもよい。
<蛍光組成物>
1,液状蛍光組成物
【0031】
人間の可視光の波長の下限値は、360nm~400nmといわれ個人差がある。したがって、可視光と紫外線の境界・定義は複数存在する。本明細書において「紫外線」とはJISB7079および、ISO20473に基づいて、波長380nm以下の光線をいい、また可視光とは380nmより長い波長を有する光線をいう。
【0032】
液状蛍光組成物は、化9で示される。
化9で示される液状蛍光組成物は、ユーロピウム錯体であり、(トリス(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオナト-O,O’-)ビス(トリオクチルホスフィンオキシド-O-)ユウロピウム)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、613nmのピークを持つ赤色の可視光を発光する。
【0033】
【化9】
2.シクロヘキサノンに蛍光物質が溶解された液体蛍光組成物
【0034】
化9で示される液状蛍光組成物は、シクロヘキサノンに溶解することにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0035】
化10で示される蛍光物質はユーロピウム錯体であり、(トリス(1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオナト-O,O’-)ビス(トリフェニルホスフィンオキシド-O-)ユウロピウム)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、613nmのピークを持つ赤色の可視光を発光する。
【0036】
化10で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0037】
【0038】
化11で示される蛍光組成物は、ユーロピウム錯体であり、(トリス(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオナト-O,O’-)ビス(トリフェニルホスフィンオキシド-O-)ユウロピウム)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、613nmのピークを持つ赤色の可視光を発光する。
化11で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0039】
【0040】
化12で示される蛍光組成物は、ユーロピウム錯体であり、(トリス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)(1,10-フェナントロリン)ユウロピウム(III))で示される化合物である。紫外線を照射することにより、613nmのピークを持つ赤色の可視光を発光する。
化12で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0041】
【0042】
化13で示される蛍光組成物は、ナフタレン化合物であり、(1,4-ビス(2-ベンゾオキサゾリル)ナフタレン)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、460nmのピークを持つ青色の可視光を発光する。
化13で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0043】
【0044】
化14で示される蛍光組成物は、テルビウム錯体であり、(トリス(1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオナト-O,O’-)ビス(トリフェニルホスフィンオキシド-O-)テルビウム)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、542nmのピークを持つ緑色の可視光を発光する。
化14で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0045】
【0046】
化15で示される蛍光組成物は、テルビウム錯体であり、([ヘキサデカキス(ヘキシルサリチレート)オクタヒドロキシル]ジオキソノナテルビウムトリエチルアミン塩)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、542nmのピークを持つ緑色の可視光を発光する。
化15で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0047】
【0048】
化16で示される蛍光組成物は、キノリン化合物であり、(2-(3-オキソイソインドリン-1-イリデン)メチルキノリン)で示される化合物である。紫外線を照射することにより、緑色の可視光を発光する。
化16で示される蛍光組成物は、固体であるが、シクロヘキサノンに溶解させることにより液体蛍光組成物を生成することができる。
【0049】
【実施例0050】
以下、本発明に係る液状蛍光組成物を用いた気体流体の試験方法の実施例を示す。しかし本発明は、下記の実施例に示される態様に限定して理解されるべきではない。
【0051】
(実施例1)
前述の実施形態1で述べたとおり、
図1の装置構成を組み、アトマイザー(1)より霧状のガスを発生させた。本実施例に使用した液状蛍光組成物はセントラルテクノ株式会社のRAMである。アトマイザー(1)として、ラ・ビジョン・ゲーエムベーハー(LAVISION GmbH)のシーディングジェネレータを使用した。UV-LEDライト(6)は、セントラルテクノ株式会社の商品名ルミシスライト製品番号YDK200を使用した。UV-LED照射器(8)は、商品名ルミシスUV-照射器(製造番号CET200805-U365)であり、UV-LEDレーザー(7)はセントラルテクノ株式会社の商品名ルミシスUVレーザー(製品番号CET190904-7375)であった。窒素ガスボンベ(2)からアトマイザー(1)へ「導入される窒素ガスの圧力は0.2~1.6MPaで調整した。
【0052】
実験の結果得られた画像を
図2~
図5に示す。
図2は霧が発生する部分の構成を示す写真であり、
図4は
図2を作図したものである。照明を点灯して機器の配置が明瞭にわかるようにした。右側に霧を噴射するホース(4)が設けられている。
図3は霧を可視化した様子を示す写真であり、
図5は
図3を作図したものである。照明を消して、霧が自発光する様子が明瞭にわかるようにした。ホースから噴射された微粒子から形成された霧が、赤色に発光している様子が見られる。霧はすぐに落下することなく、長時間(3~5分)にわたって浮遊を維持した。
可視化のために紫外線を照射しており、紫外線は不可視であるので、ハレーションの発生は見られなかった。
本発明は、液状蛍光組成物をジエチル-ヘキシル-セバシン酸エステル(DEHS)などの液体と混合し、混合した液体を微粒子化することにより、ハレーションを生じさせることなく気体流体の流れを可視化することができ、気体流体において、すぐに落下することなく、長時間にわたって浮遊を維持することができる霧を生成できる方法を提供する。